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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1373797
異議申立番号 異議2021-700061  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-19 
確定日 2021-05-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6729695号発明「二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6729695号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6729695号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)6月21日(優先権主張 平成28年6月24日)を出願日とする国際出願であって、令和2年7月6日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年7月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年1月19日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立て(対象となる請求項:全請求項)がされたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
歪み硬化性パラメータが3未満であるポリプロピレンAと、
歪み硬化性パラメータが3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)であるポリプロピレンBと
を樹脂成分として含有することを特徴とする、二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレンBは長鎖分岐ポリプロピレンである、請求項1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記ポリプロピレンBのゲル分率は、前記ポリプロピレンBの質量を基準に1000質量ppm以下である、請求項1または2に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記ポリプロピレンBは、メタロセン触媒を用いてプロピレンを重合することにより得られたものである、請求項1?3のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
前記ポリプロピレンBの分子量分布(Mw/Mn)は1.5以上4.5以下である、請求項1?4のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
前記ポリプロピレンAとポリプロピレンBの質量比率は、ポリプロピレンA:ポリプロピレンB=50:50?99.9:0.1である、請求項1?5のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
前記ポリプロピレンAの分子量分布(Mw/Mn)は7.0以上12.0以下である、請求項1?6のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
コンデンサ用である、請求項1?7のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか1に記載のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を有する金属化フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載の金属化フィルムを含むコンデンサ。」


第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし10に係る特許に対して申立てた特許異議申立理由の要旨及び証拠方法は、次のとおりである。

申立理由1-1(進歩性) 本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由1-2(進歩性) 本件特許の請求項1、2、4、5及び8ないし10に係る発明は、甲第2号証の1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由1-3(進歩性) 本件特許の請求項1、2、4、5及び8ないし10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由1-4(進歩性) 本件特許の請求項1、2、4、5及び8ないし10に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由2(実施可能要件) 本件特許発明1ないし10の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由2の具体的理由は、おおむね次のとおりである。

「一般に化学の分野では、ポリプロピレン樹脂の性質や混合比率が変われば、得られるフィルムの特性も大きく変わることは技術常識である。
すなわち、上記の効果を実現するためには、歪み硬化性パラメータのみで区別された2種のポリプロピレン(ポリプロピレンAおよびポリプロピレンB)が、単に配合されればよいのではなく、適切な種類のポリプロピレンが、適切な比率で混合される必要があるといえる。
しかしながら、上記のとおり、本件特許発明1には、歪み硬化性パラメータのみで区別された2種のポリプロピレン(ポリプロピレンAおよびポリプロピレンB)が配合されたことしか規定されていない。
そして、本件特許明細書を参照しても、歪み硬化性パラメータのみで区別された2種のポリプロピレンを配合することのみを以って、いかにして、本件特許発明1が、課題を解決し、その効果を奏するのかについて、何ら説明がない。
すなわち、本件特許発明1は、その課題を解決するために必須の発明特定事項が何ら規定されていない。
したがって、本件特許発明1は、上記課題を解決し、その効果を奏するために、過度の試行錯誤を要することが明らかであり、実施可能要件を満たさない。」

申立理由3(サポート要件) 本件特許発明1ないし10の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。

「本件特許明細書の実施例では、特に好ましい値を示すポリプロピレンAおよびポリプロピレンBを組み合わせた一例である実施例5が開示されているに過ぎず、ポリプロピレンAやポリプロピレンBが、本件特許発明1において規定された他の歪み硬化性パラメータを採用する場合であっても同様に、本件特許発明の課題を解決できることは、何ら開示も示唆もないし、発明の詳細な説明からは、把握することができない。
さらに、一般に化学の分野では、ポリプロピレン樹脂の性質や混合比率が変われば、得られるフィルムの特性も大きく変わることは技術常識である。
すなわち、上記の効果を実現するためには、歪み硬化性パラメータのみで区別された2種のポリプロピレン(ポリプロピレンAおよびポリプロピレンB)が、単に配合されればよいのではなく、適切な種類のポリプロピレンが、適切な比率で混合される必要があるといえる。
しかしながら、実施例5では、80質量%のポリプロピレンAと、20質量%のポリプロピレンBとが配合された一例が開示されているのみであり、他の配合比率(たとえば、ポリプロピレンAが20質量%でポリプロピレンBが80質量%である場合など)にも同様に、本件特許発明の課題が適切に解決され得るかどうか、定かでない。」

(証拠方法)
甲第1号証:飛鳥一雄、「新規高溶融張力ポリプロピレン「WAYMAX^(TM)」の開発と特性」、プラスチックスエージ、2015年9月1日発行、第61巻、9月号、第65頁?第69頁、表紙
甲第2号証の1:特表2010-501712号公報
甲第2号証の2:国際公開第2008/025796号
甲第3号証:特開2016-012705号公報
甲第4号証:特開2007-246898号公報
甲第5号証:特開2007-154121号公報
なお、甲号証の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。


第4 主な甲号証の記載等

1 甲第1号証の記載事項等

(1) 甲第1号証の記載事項

甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線は合議体が付したものである。以下同様。)

「1. 開発の経緯
日本ポリプロは、これまで開発・上市したメタロセン系ランダムPPである「WINTEC^(TM)」、メタロセン系リアクターTPOである「WELNEX^(TM)」で培った独自のメタロセン触媒技術と重合技術を駆使し、世界初となるリアクターメイド(つまり変性工程なしで)のLCBタイプ高溶融張力PP「WAYMAX^(TM)」の工業化に成功した(以下TMを省略)。WAYMAXは高い立体規則性を有し、ゲル・フィッシュアイが一般PP同等以上でありながら、架橋系HMS-PP同等の業界最高レベルの溶融張力を有している。WAYMAXは各種用途に応じ、6グレードの製品ラインナップを保有している。表1に代表的な推奨用途例を示す。また、表2にグレード一覧表を記載する。」(第65頁右欄第2行ないし第66頁左欄第2行)



」(第66頁表2)

「2. WAYMAXの一次構造
WAYMAXの長鎖分岐構造は、光散乱及び粘度計を検出器として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC-MALLS-V)によって確認される。結果の一例を図1に示す。横軸の分子量は、光散乱結果で構成した絶対分子量である。
分岐構造は、サンプルの固有粘度[η]brと、リファレンスの線上分子の固有粘度の比[η]linで定義される分岐指数g'(=[η]br/[η]lin)値によって評価できる)が1より低下することで確認される。WAYMAXは分子量が高い領域でg'値が1より小さく、長鎖分岐構造を有することは明らかである。」(第66頁左欄第3行ないし同頁右欄第1行)

「3.1 溶融張力
図2に、WAYMAXのMTと流動性(MFR)のバランスを示す。ここで、MFRはJIS K7210条件M(230℃)での測定値、MTは東洋精機社製キャピログラフを用い、L/D=40/2mmのダイを使用し、温度230℃、ピストン速度20mm/minで測定した値である。MFXグレードとEXグレードではそれぞれ異なるMFR/MTバランスを有するが、双方ともに一般の直鎖PPに比較して、MFR見合いのMTが非常に高い値を示していることが分かる。
また、図3にWAYMAX及び過酸化物変性されたPPの繰り返し押出時のMT変化を示す。繰り返し押出しは単軸押出機を用い、温度設定は230℃で行った。図3より明らかな通り、WAYMAXは過酸化物変性PPに比べ、押出機パスによるMT減少が小さいことが分かる。WAYMAXの本挙動により、成形時に発生する端材のリサイクル使用が可能となるものと考えられる。」(第66頁右欄第3行ないし第67頁左欄第4行)

「3.2 伸長粘度
図4にWAYMAXの伸粘度測定結果を示す。装置はRheometorics社製ARESを用い、TAインスツルメント社製Extentional Viscosity Fixture治具を装着した。温度180℃、ひずみ速度0.1sec^(-1)で測定した。図4の通り、WAYMAXは一般PPでは実質的に観測されない高いひずみ硬化性を示している。」(第67頁左欄第5行ないし同欄第13行)

「4.1 キャスト法PPフィルム(CPP)高速成形性
CPPフィルムでは生産性向上の観点から、押出量の高吐出化、ラインスピードの高速化が進んでおり、今まで以上の押出成形安定性が求められる。ラインスピードの高速化においては、延展性向上の観点より、分子量分布が狭いPPが使用されるようになっている。また、押出機の高吐出化においては、押出機負荷の低減を目的に、溶融粘度を低下させる対応が求められ、成形温度の上昇や分子量の低下といった対応がなされる傾向にある。しかしながら、分子量分布の狭化、溶融粘度の低下は、ネックインの増大を招き、製品幅が狭くなるという問題を生じる。本稿ではWAYMAXによるフィルム成形時のネックイン抑制効果を評価した。
M_(w/)M_(n)=2.6、MFR=7の一般PPと、一般PPにWAYMAXを1?20wt%添加した材料を、230℃にて幅330mmのTダイを用い、押出成形を行った。このとき高速成形性を確認するために、押出量は約13kg/hで、引取速度は30m/minとした。図6にネックイン「(Tダイ幅-フィルム幅)/2」に及ぼすWAYMAXの添加量の影響を示す。一般PPにWAYMAXを添加することで、ネックイン幅が低減されることが確認された。WAYMAXは上述したネックイン低減効果のみでなく、ドローレゾナンスの改良にも有効なPPである。」(第67頁左欄第24行ないし同頁中欄第28行)

「おわりに
日本ポリプロの新規高溶融張力PPである「WAYMAX」は、その高い溶融張力を生かして、多様な用途において極めて良好な成形性改良効果を示す。また、WAYMAXは各種グレード構成があることから、配合、成形条件に見合う材料の選択が可能となっており、フィルム/シート押出分野におけるPPの用途拡大に大きな貢献をする材料であると考えている。本稿では紙面の都合上触れていないが、WAYMAXは押出発泡性についても非常に高いポテンシャルを有する材料である。」(第69頁左欄第4行ないし同頁右欄第1行)

(2) 甲第1号証に記載された発明

上記(1)の記載、特に、「4.1 キャスト法PPフィルム(CPP)高速成形性」の項における記載を中心に整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。

「M_(w/)M_(n)=2.6、MFR=7の一般PPと、一般PPにWAYMAXを1?20wt%添加した材料を、230℃にて幅330mmのTダイを用い、押出成形して得られたPPフィルム。」

2 甲第2号証の1の記載事項等

(1) 甲第2号証の1の記載事項

甲第2号証の1には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】
ポリプロピレンP1及び異なるポリプロピレンP2の混合物を含有する二軸延伸電気絶縁フィルムであって、ポリプロピレンP1は線状ポリプロピレンで、Mw/Mn>5及び少なくとも95%のメソペンタデンアイソタキシーを有し、ポリプロピレンP2は長鎖分岐を有している二軸延伸電気絶縁フィルム。
【請求項2】
ポリプロピレンP2の分岐指数g’が0.6?0.9の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の電気絶縁フィルム。
【請求項3】
フィルムが95?100%の前記混合物を含有することを特徴とする、請求項1及び/又は請求項2に記載の電気絶縁フィルム。
【請求項4】
混合物が、50重量%以上100重量%未満のP1及び0重量%より多く50重量%以下のP2を含有することを特徴とする、請求項1?3の1項に記載の電気絶縁フィルム。
【請求項5】
混合物が、70?99重量%のP1及び1?30重量%のP2を含有することを特徴とする、請求項4に記載の電気絶縁フィルム。
【請求項6】
ポリプロピレンP1が、95%以上、好ましくは95?99.9%のチェーンアイソタキシーインデックスを有することを特徴とする、請求項1?5の1項に記載の電気絶縁フィルム。
【請求項7】
P1及びP2の混合物が、50ppm以下の灰分及び最大10ppmの塩素分を有することを特徴とする、請求項1?6の1項に記載の電気絶縁フィルム。
【請求項8】
P1及びP2の混合物が、10?40ppmの灰分及び0?5ppmの塩素分を有することを特徴とする、請求項7に記載の電気絶縁フィルム。
【請求項9】
フィルムがその片側又は両側の表面を金属化されていることを特徴とする、請求項1?8の1項に記載の電気絶縁フィルム。
【請求項10】
フィルムが最大20μmの厚さを有することを特徴とする、請求項1?9の1項に記載の電気絶縁フィルム。
【請求項11】
コンデンサの誘電体フィルムとしての請求項1?10の1項又は数項に記載の電気絶縁フィルムの使用。
【請求項12】
請求項1?11の1項又は数項に記載の電気絶縁フィルムを含有するコンデンサ。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサの電気絶縁フィルムとして使用するための改良された性質を有するポリプロピレンフィルムに関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の任務は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造にあり、該フィルムはそれから製造されるコンデンサの使用特性の改良に貢献する。特に、絶縁破壊電圧の改良(上昇)と、それに伴うコンデンサの良好な安定性は、当該専門世界における恒久的な要求である。」

「【0009】
フィルムコンデンサを製造するには、一般的にフィルムはまず金属化され、その後巻き取られる。フィルムの金属化自体、既にフィルムが耐えなければならない温度負荷を伴う。すなわち、金属化の最中にフィルムの寸法の変化が起こってはならない。」

「【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、本発明に従って二軸延伸電気絶縁フィルムにより達成される。当該フィルムはポリプロピレンP1及び異なるポリプロピレンP2の混合物を含有する。ポリプロピレンP1は線状ポリプロピレンで、Mw/Mn>5及び少なくとも95%のメソペンタデン(mesopentadene)分率を有し、ポリプロピレンP2は長鎖分岐を有する。」

「【0015】
プロピレンホモポリマーP1は、本発明によれば、>5、好ましくは>5?12、特に5.5?10のMw/Mnを有する。Mw/Mnは、重量平均Mwの数平均Mnに対する比率として表された、プロピレンポリマーの分子量分布(GPCによって測定)に関する値である。メソペンタデンアイソタキシーは、好ましくは95?99.8%、特に96.5?99.5%になる。驚くべきことに、フィルムの絶縁破壊電圧の温度安定性は、長鎖分岐P2ポリマーを広分布ポリマーに混合することによって改良される。ただし、広分布ポリマーP1のメソペンタデンアイソタキシーは少なくとも95%の最小値を有していなければならない。ポリマーP1の分布が広いと、この温度安定性に悪影響があり、長鎖分岐ポリマーP2を添加してもこの悪影響はもはや補えないほどであると元々考えられていた。驚くべきことに、高いアイソタキシーが同時に与えられれば、前記添加で、広分布ポリプロピレンとの混合により所望の改良がもたらされる。広分布ポリマーのメソペンタデンアイソタキシーが95%未満であると、長鎖分岐ポリマーP2を添加しても絶縁破壊電圧の改良は確立されない。」

「【0024】
通常、本発明に使用されるプロピレンポリマーP2の分岐指数g’は0.6?0.9の範囲にある。本発明によるフィルムに使用されるプロピレンポリマーP2の分岐指数g’は、好ましくは0.88未満、特に好ましくは0.85未満、特に好ましくは0.80未満になる。
【0025】
g’≦0.90のプロピレンポリマーP2の製造 プロピレンポリマーP2は方法一覧に従って得ることができる。例えば線状プロピレンポリマーを熱分解されたラジカル形成剤で処理及び/又は電離放射線で処理することによる。いずれの方法も、二又は多官能性のエチレン性不飽和モノマー、例えばブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン、ジビニルベンゼン又はトリビニルベンゼンによる処理を伴うか又はその後に行ってもよい。更なる方法も、プロピレンポリマーP2がg’に関して必要な性質を有しているならば、プロピレンポリマーP2の製造に適切であり得る。長鎖分岐ポリプロピレンもメタロセン触媒の使用による重合によって得ることができる。」

「【0034】
長鎖分岐を有するプロピレンポリマーの製造に好適に使用される揮発性二官能性モノマーは、とりわけ:ジビニル化合物、例えば、ジビニルアニリン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、ジビニルペンタン及び/又はジビニルプロパン;アリル化合物、例えば、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、アリルメチルマレエート及び/又はアリルビニルエーテル;ジエン、例えば、ブタジエン、クロロプレン、シクロヘキサジエン、シクロペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、ヘプタジエン、ヘキサジエン、イソプレン及び/又は1,4-ペンタジエン;及びこれらのモノマーの混合物である。
【0035】
特に好適なのは、ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン及びジビニルベンゼンである。本発明の範囲内において、ポリマーP1は比較的広い分子量分布を有しているのに、ポリマーP2のポリマーP1への混合が電気絶縁フィルムの絶縁破壊電圧の改良に驚くほど寄与していることが分かった。本発明によるポリマー混合物から製造されたフィルムはコンデンサフィルムとして極めて適切である。従来のポリプロピレンから製造された公知コンデンサフィルムと比較すると、上記混合物から製造された本発明のフィルムは、高い絶縁破壊電圧を示す。これは高温でも非常に安定な状態を維持し、先行技術によるコンデンサフィルムにおけるより明らかに高い。」

(2) 甲第2号証の1に記載された発明

上記(1)の記載、特に請求項1の記載から見て、甲第2号証の1には次の発明(以下、「甲2の1発明」という。)が記載されているものと認める。

「ポリプロピレンP1及び異なるポリプロピレンP2の混合物を含有する二軸延伸電気絶縁フィルムであって、ポリプロピレンP1は線状ポリプロピレンで、Mw/Mn>5及び少なくとも95%のメソペンタデンアイソタキシーを有し、ポリプロピレンP2は長鎖分岐を有している二軸延伸電気絶縁フィルム。」

3 甲第3号証の記載事項等

(1) 甲第3号証の記載事項

甲第3号証には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】
ポリプロピレン樹脂を含む二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、X線回折によって測定されるα晶(040)面の面間隔値が5.25?5.30Åであるコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
X線回折によって測定されるα晶の面間隔値から算出されるa軸方向の格子定数が6.65?6.75Åであり、かつ、b軸方向の格子定数が21.00?21.20Åである請求項1に記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
ポリプロピレンフィルムの広角X線回折法により測定したα晶(040)面反射ピークの半価幅からScherrerの式を用いて算出した結晶子サイズが、13.5nm以下である、請求項1又は2に記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
ポリプロピレン樹脂が、
(1) 重量平均分子量が25万?45万、分子量分布が6?12であるポリプロピレン;並びに
(2) 長鎖分岐ポリプロピレン(2a)、
エチレン含有量が5mol%未満のエチレン-プロピレンコポリマー(2b)、及び
重量平均分子量が80万?140万、分子量分布が3?6である超高分子量ポリプロピレン(2c)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー;
を含む請求項1?3のいずれかに記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
ポリプロピレン樹脂中、ポリマー(2)を、10?40質量%含有する請求項1?4のいずれかに記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に電極を有する、コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いて得られるコンデンサ。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁破壊特性に優れたコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムに関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高温下での耐電圧性を有する、絶縁破壊特性に優れた、極薄膜化が可能なコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することを主な目的とする。さらに、上記のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いて得られるコンデンサを提供することを目的とする。」

「【0036】
本発明のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を含む。
【0037】
本発明のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムに用いるポリプロピレン樹脂の230℃におけるMFRは、延伸性の観点から7g/10分以下であることが好ましく、6g/10分以下であることがより好ましい。また、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みの精度を高める観点から1g/10分以上であることが好ましく、1.5g/10分以上であることがより好ましい。なお、前記MFRは、JIS K 7210-1999に準拠して測定することができる。
【0038】
ポリプロピレン樹脂としては、ポリプロピレン(1)と、長鎖分岐ポリプロピレン(2a)、エチレン-プロピレンコポリマー(2b)、及び超高分子量ポリプロピレン(2c)よりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー(2)とを含有することが、上記のα晶(040)面の特定の面間隔値を有するポリプロピレンフィルムを容易に得ることができる観点から好ましい。
【0039】
ポリプロピレン(1)の重量平均分子量(Mw)は、25万以上45万以下であることが好ましい。このようなポリプロピレン樹脂を用いると、二軸延伸時に適度な樹脂流動性が得られ、キャスト原反シートの厚さの制御が容易となる。例えば小型かつ高容量型のコンデンサ用に適した、極薄化された二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることが容易となるため好ましい。また、キャスト原反シート及び二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みのムラが発生し難くなるため好ましい。ポリプロピレン(1)の重量平均分子量(Mw)は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みの均一性、力学特性、熱-機械特性等の観点から、27万以上であることがより好ましく、29万以上であることがさらに好ましい。ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ポリプロピレン樹脂の流動性及び極薄化された二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得る際の延伸性の観点から、40万以下であることがより好ましい。
【0040】
ポリプロピレン(1)の、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比として算出される分子量分布(Mw/Mn)は、6以上12以下であることが好ましい。また分子量分布(Mw/Mn)は、7以上であることがより好ましく、7.5以上であることがさらに好ましい。さらに分子量分布(Mw/Mn)は、11以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。このようなポリプロピレン(1)を用いると、二軸延伸時に適度な樹脂流動性が得られ、厚みムラのない極薄化された二軸延伸プロピレンフィルムを得ることが容易となるため好ましい。また、このようなポリプロピレンは、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの耐電圧性の観点からも好ましい。」

「【0092】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、片面又は両面に電極を設けることができる。電極を設ける工程では、二軸延伸されたポリプロピレンフィルムの片面に金属蒸着膜を形成する方法が挙げられる。二軸延伸ポリプロピレンフィルムに金属蒸着膜を設ける方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法等が挙げられ、生産性や経済性等の点からは真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法によって金属蒸着膜を設ける場合には、るつぼ方式、ワイヤー方式等公知の方式から適宜選択して行われる。金属蒸着膜を構成する金属としては、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケル等の単体金属、これらの金属から選択される複数種の金属からなる混合物又は合金等を使用することができる。環境面、経済性、及びフィルムコンデンサ性能、とりわけ静電容量や絶縁抵抗の温度特性並びに周波数特性等の点からは、金属蒸着膜を構成する金属として、亜鉛及びアルミニウムから選択される単体金属、金属混合物又は合金を採用することが好ましい。
【0093】
金属蒸着膜の膜抵抗は、コンデンサの電気特性の点から、1?100Ω/□が好ましい。この範囲内でも高めであることがセルフヒーリング(自己修復)特性の点から望ましく、膜抵抗は5Ω/□以上であることがより好ましく、10Ω/□以上であることが更に好ましい。また、コンデンサ素子としての安全性の点から、膜抵抗は50Ω/□以下であることがより好ましく、30Ω/□以下であることが更に好ましい。金属蒸着膜の膜抵抗は、例えば当業者に既知の二端子法によって金属蒸着中に測定することができる。金属蒸着膜の膜抵抗は、例えば蒸発源の出力を調整して蒸発量をすることによって調節することができる。
【0094】
フィルムの片面に金属蒸着膜を形成する際、フィルムを巻回した際にコンデンサとなるよう、フィルムの片方の端部から一定幅は蒸着せずに絶縁マージンが形成される。さらに、金属化ポリプロピレンフィルムとメタリコン電極との接合を強固にするため、絶縁マージンと逆の端部に、ヘビーエッジ構造を形成することが好ましく、ヘビーエッジの膜抵抗は通常1?8Ω/□であり、1?5Ω/□であることが好ましい。
【0095】
形成する金属蒸着膜のマージンパターンには特に制限はないが、フィルムコンデンサの保安性等の点からは、フィッシュネットパターン、Tマージンパターン等のいわゆる特殊マージンを含むパターンとすることが好ましい。特殊マージンを含むパターンで金属蒸着膜を二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に形成すると、得られるフィルムコンデンサの保安性が向上し、フィルムコンデンサの破壊やショートを抑制できるため、好ましい。マージンを形成する方法としては、蒸着時にテープによりマスキングを施すテープ法、オイルの塗布によりマスキングを施すオイル法等、公知の方法を何ら制限なく使用することができる。
【0096】
電極を設けた二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、フィルムの長尺方向に沿って巻き付ける巻き付け加工を経て、金属化ポリプロピレンフィルムコンデンサに加工される。すなわち、本発明では、上記のように作製された金属化ポリプロピレンフィルムを2枚1対として、金属蒸着膜とポリプロピレンフィルムとが交互に積層されるように重ね合わせて巻回する。その後、両端面に金属溶射によって一対のメタリコン電極を形成してフィルムコンデンサ素子を作製する工程により金属化ポリプロピレンフィルムコンデンサが得られる。」

(2) 甲第3号証に記載された発明

上記(1)の記載、特に、請求項1及び4の記載を中心に整理すると、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認める。

「ポリプロピレン樹脂を含む二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、
(1) 重量平均分子量が25万?45万、分子量分布が6?12であるポリプロピレン;並びに
(2) 長鎖分岐ポリプロピレン(2a)、
エチレン含有量が5mol%未満のエチレン-プロピレンコポリマー(2b)、及び
重量平均分子量が80万?140万、分子量分布が3?6である超高分子量ポリプロピレン(2c)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー;
を含み、
X線回折によって測定されるα晶(040)面の面間隔値が5.25?5.30Åであるコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」

4 甲第4号証の記載事項等

(1) 甲第4号証の記載事項

甲第4号証には次の事項が記載されている。

「【請求項1】
プロピレンを主体とするポリプロピレン樹脂からなるポリプロピレンフィルムであって、該フィルム表面の少なくとも一方の面が梨地調の凹凸からなる基層を有し、該表面の10点平均粗さ(Rz)が0.50?1.50μm、表面光沢度が90?135%であることを特徴とする二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
該フイルム表面がクレータ状凹凸を含み、該クレータの長径が150μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
少なくとも一方のフイルム表面の中心線平均粗さ(Ra)と10点平均粗さ(Rz)との比(Rz/Ra)が16?35であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフイルム。
【請求項4】
該ポリプロピレン樹脂が、直鎖状ポリプロピレンに、230℃で測定したときの溶融張力(MS)と溶融流動指数(MFR)が、log(MS)>-0.56log(MFR)+0.74なる関係式を満たす分岐鎖状ポリプロピレン(H)が混合されたものである請求項1?3のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
該ポリプロピレン樹脂が、該分岐鎖状ポリプロピレン(H)を0.05?3重量%含有するものである請求項1?4のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
該分岐鎖状ポリプロピレン(H)の含有量が、0.1?0.9重量%である請求項5に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
該二軸配向ポリプロピレンフィルムのフィルム厚みが1?5μmであることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の該二軸配向ポリプロピレンフィルム。」

「【0001】
本発明は、包装用や工業用等に好適な二軸配向ポリプロピレンフィルムに関する。さらに詳しくはコンデンサ用誘電体として好適な加工性と高温での耐電圧性に優れた二軸配向ポリプロピレンフィルムに関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、80℃以上の高温雰囲気においても優れた耐電圧性と信頼性を発揮する二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供せんとするものである。
【0010】
かかる二軸配向ポリプロピレンフィルムとすることで、包装用、コンデンサ用等に好適な突起の均一性に優れ、粗さ密度も高い表面を持つ二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することができたものである。」

「【0021】
本発明は、前記課題、つまり80℃以上という高温雰囲気温度条件下でも優れた耐電圧性と信頼性を発揮する二軸配向ポリプロピレンフィルムについて、鋭意検討した結果、特定な分岐鎖状ポリプロピレン(H)を直鎖状ポリプロピレンに混合してみたところ、溶融押出した樹脂シートの冷却工程で生成する球晶サイズを小さく制御でき、延伸工程で生成する絶縁欠陥の生成を小さく抑えることをできることを見出した。更に、分岐鎖状ポリプロピレン(H)は、α晶核剤的な作用を有しながら、少量添加の範囲であれば結晶変態による粗面形成も可能となり、前記の球晶サイズを小さくする効果と相まって、クレータサイズを小さく、緻密に形成することができ、突起の均一性に優れ、しかもその粗さ密度のバランスにも優れた特徴的な表面粗さを有する二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することに成功したものである。すなわち、かかる特定な分岐鎖状ポリプロピレン(H)を混合することにより、表面光沢度が90?135%である特徴的な梨地調の凹凸を有する基層に10点平均粗さ(Rz)を0.50?1.50μm付与せしめ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。」

「【0043】
次に、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムに用いられる直鎖状ポリプロピレンは、通常、包装材やコンデンサ用に使用されるものであるが、好ましくは冷キシレン可溶部(以下CXS)が4%以下、かつ230℃で測定したときの溶融張力(MS)と溶融流動指数(MFR)が、log(MS)<-0.56log(MFR)+0.74なる関係式を満たすポリプロピレンであるのがよい。かかる関係式を満たさないと、製膜安定性に劣る場合があったり、二軸配向したフィルムを製造する際にフィルム中にボイドを形成する場合があり、寸法安定性および耐絶縁破壊特性の低下が大きくなる場合がある。」

「【0052】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上述した特性を与えうる原料を用い、二軸配向されることによって得られる。二軸配向の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの表面形状を制御する点においてステンター逐次二軸延伸法により製膜されたものが好ましく用いられる。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みは、1.5?50μmが好ましく、より好ましくは2.0?30μm、特に好ましくは2.5?20μmである。フィルムの厚みが薄すぎると、機械的強度や絶縁破壊強度に劣る場合がある。フィルムの厚みが厚すぎると均一な厚みのフィルムを製膜することが困難になり、またコンデンサ用の誘電体として用いた場合、体積当たりの容量が小さくなるため好ましくない。」

「【0082】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、コンデンサ用誘電体フィルムとして好ましく用いられるものであるが、コンデンサのタイプに限定されるものでは無い。具体的には電極構成からは箔巻きコンデンサ、金属蒸着膜コンデンサのいずれであっても良いし、絶縁油を含浸させた油浸タイプのコンデンサから絶縁油を全く使用しない乾式コンデンサにも好ましく用いられる。また、形状からも捲巻式であっても積層式であっても構わない。しかしながら本発フィルムの特性から特に金属蒸着膜コンデンサとして好ましく使用される。ポリプロピレンフィルムは表面エネルギー低く、金属蒸着を安定的に施すことは困難であるために、金属付着力を良好とするために、事前に表面処理を行うことが好ましい。」

(2) 甲第4号証に記載された発明

上記(1)の記載、特に、請求項1及び4の記載を中心に整理すると、甲第4号証には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているものと認める。

「プロピレンを主体とするポリプロピレン樹脂からなるポリプロピレンフィルムであって、
該ポリプロピレン樹脂が、直鎖状ポリプロピレンに、230℃で測定したときの溶融張力(MS)と溶融流動指数(MFR)が、log(MS)>-0.56log(MFR)+0.74なる関係式を満たす分岐鎖状ポリプロピレン(H)が混合されたものであって、
該フィルム表面の少なくとも一方の面が梨地調の凹凸からなる基層を有し、該表面の10点平均粗さ(Rz)が0.50?1.50μm、表面光沢度が90?135%である二軸配向ポリプロピレンフィルム。」


第5 特許異議申立理由についての判断

1 申立理由1-1(甲1発明を主引用例とする進歩性)について

(1) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「一般PP」、「WAYMAX」はそれぞれ、本件特許発明1の「歪み硬化性パラメータが3未満であるポリプロピレンA」、「歪み硬化性パラメータが3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)であるポリプロピレンB」のうち、「ポリプロピレンA」、「ポリプロピレンB」との限りにおいて相当する。
また、甲1発明の「Tダイを用い、押出成形して得られたPPフィルム」は、本件特許発明1の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」のうち、「ポリプロピレンフィルム」の限りにおいて相当する。
してみる、と両者は、
「ポリプロピレンAと、
ポリプロピレンBと
を樹脂成分として含有する、ポリプロピレンフィルム。」
との点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
歪み硬化性パラメータについて、本件特許発明1では、ポリプロピレンAは「3未満」、ポリプロピレンBは「3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

(相違点2)
ポリプロピレンフィルムに関し、本件特許発明1は、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。
まず、相違点1について検討するに、甲1発明の「一般PP」、「WAYMAX」の歪み硬化性パラメータについては、甲第1号証あるいは他の甲号証の記載を見ても明らかではない。
また、甲第1号証に加え、他の何れの甲号証においても、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレンについて、「歪み硬化性パラメータ」に着目し、歪み硬化性パラメータが「3未満」のものと「3以上20以下(ただし6.0以上の場合を除く)」ものをあわせて用いるものとすることを動機付ける記載もない。

なお、甲第1号証の「3.2 伸長粘度」の項には、「図4の通り、WAYMAXは一般PPでは実質的に観測されない高いひずみ硬化性を示している。」との記載はあるものの歪み硬化性パラメータの具体的な値は明らかではないし、WAYMAXには様々なグレードがあることも、甲第1号証の表2から明らかであるから、甲1発明で用いた「WAYMAX」の歪み硬化性パラメータが「3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)」のものであるということを導き出すことができない。

この点について、特許異議申立人は、甲第1号証の「3.2 伸長粘度」の項には、「図4の通り、WAYMAXは一般PPでは実質的に観測されない高いひずみ硬化性を示している。」との記載を根拠とし、甲1発明の「一般PP」の歪み硬化性パラメータが3未満である旨主張する(特許異議申立書第24頁ないし第27頁「(ア-1)」)が、当該記載はあくまで伸長粘度に係るWAYMAXと一般PPとの相対的な関係を示す記載にすぎないから、具体的な歪み硬化性パラメータの値として「3未満」である点まで導くことはできない。

そして、本件特許発明1は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレンについて、歪み硬化性パラメータが「3未満」のものと「3以上20以下(ただし6.0以上の場合を除く)」ものをあわせて用いるものとすることで、絶縁破壊の強さに優れたものとなるという、予期し得ない効果を奏するものである。

してみれば、相違点2については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件特許発明2ないし10について

本件特許発明2ないし10はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし10もまた、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 申立理由1-1についてのまとめ

上記(1)及び(2)のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由1-1によっては取り消すことができない。

2 申立理由1-2(甲2の1発明を主引用例とする進歩性)について

(1) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲2の1発明とを対比する。
甲2の1発明の「ポリプロピレンP1」、「ポリプロピレンP2」はそれぞれ、本件特許発明1の「歪み硬化性パラメータが3未満であるポリプロピレンA」、「歪み硬化性パラメータが3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)であるポリプロピレンB」のうち、「ポリプロピレンA」、「ポリプロピレンB」との限りにおいて相当する。
また、甲2の1発明の「二軸延伸電気絶縁フィルム」はポリプロピレンP1とポリプロピレンP2の混合物を含有するものであるから、本件特許発明1の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」に相当する。
してみる、と両者は、
「ポリプロピレンAと、
ポリプロピレンBと
を樹脂成分として含有する、二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」
との点で一致し、次の点で相違する。

(相違点3)
歪み硬化性パラメータについて、本件特許発明1では、ポリプロピレンAは「3未満」、ポリプロピレンBは「3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)」と特定されるのに対し、甲2の1発明にはそのような特定がない点。

上記相違点3について検討する。
甲第2号証の1には、「ポリプロピレンP1は線状ポリプロピレン」、「ポリプロピレンP2は長鎖分岐を有している」などの記載はあるものの、歪み硬化性パラメータについては何ら記載も示唆もされていないし、甲第2号証の1で用いているポリプロピレンP1、ポリプロピレンP2がそれぞれ、歪み硬化性パラメータとして「3未満」、「3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)」を満たすものとする根拠もない。

この点について、特許異議申立人は甲第5号証の記載及び実施例・比較例を参照しつつ、甲2の1発明の「ポリプロピレンP1」、「ポリプロピレンP2」がそれぞれ、歪み硬化性パラメータの値として、本件特許発明1の特定事項を満たすものであると主張する(特許異議申立書第28頁ないし第30頁「(ア-2)」)が、甲第5号証の実施例・比較例のものが、甲第2号証の1で具体的に用いられている「ポリプロピレンP1」、「ポリプロピレンP2」と同じものであるとする根拠はないから、当該主張は採用できない。

したがって、本件特許発明1は、甲2の1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2) 本件特許発明2ないし10について

本件特許発明2ないし10はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、本件特許発明1は、甲2の1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし10もまた、甲2の1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 申立理由1-2についてのまとめ

上記(1)及び(2)のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由1-2によっては取り消すことができない。

3 申立理由1-3(甲3発明を主引用例とする進歩性について)

(1) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「重量平均分子量が25万?45万、分子量分布が6?12であるポリプロピレン」、「長鎖分岐ポリプロピレン(2a)」はそれぞれ、本件特許発明1の「歪み硬化性パラメータが3未満であるポリプロピレンA」、「歪み硬化性パラメータが3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)であるポリプロピレンB」のうち、「ポリプロピレンA」、「ポリプロピレンB」との限りにおいて相当する。
また、甲3発明の「コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件特許発明1の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」に相当する。
してみる、と両者は、
「ポリプロピレンAと、
ポリプロピレンBと
を樹脂成分として含有する、二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」
との点で一致し、次の点で相違する。

(相違点4)
歪み硬化性パラメータについて、本件特許発明1では、ポリプロピレンAは「3未満」、ポリプロピレンBは「3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)」と特定されるのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。

上記相違点4について検討する。
甲第3号証には、歪み硬化性パラメータについては何ら記載も示唆もされていないし、甲第3号証で用いている「重量平均分子量が25万?45万、分子量分布が6?12であるポリプロピレン」、「長鎖分岐ポリプロピレン(2a)」がそれぞれ、歪み硬化性パラメータとして「3未満」、「3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)」を満たすものとする根拠もない。

この点について、特許異議申立人は甲第5号証の記載及び実施例・比較例を参照しつつ、甲3発明の「重量平均分子量が25万?45万、分子量分布が6?12であるポリプロピレン」、「長鎖分岐ポリプロピレン(2a)」がそれぞれ、歪み硬化性パラメータの値として、本件特許発明1の特定事項を満たすものであると主張する(特許異議申立書第30頁ないし第32頁「(ア-3)」)が、甲第5号証の実施例・比較例のものが、甲第3号証で具体的に用いられている「重量平均分子量が25万?45万、分子量分布が6?12であるポリプロピレン」、「長鎖分岐ポリプロピレン(2a)」と同じものであるとする根拠はないから、当該主張は採用できない。

したがって、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2) 本件特許発明2ないし10について

本件特許発明2ないし10はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし10もまた、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 申立理由1-3についてのまとめ

上記(1)及び(2)のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由1-3によっては取り消すことができない。

4 申立理由1-4(甲4発明を主引用例とする進歩性について)

(1) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「直鎖状ポリプロピレン」、「分岐鎖状ポリプロピレン」はそれぞれ、本件特許発明1の「歪み硬化性パラメータが3未満であるポリプロピレンA」、「歪み硬化性パラメータが3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)であるポリプロピレンB」のうち、「ポリプロピレンA」、「ポリプロピレンB」との限りにおいて相当する。
また、甲4発明の「二軸配向ポリプロピレンフィルム」は、二軸延伸法により得られる(段落【0052】)ものであるから、本件特許発明1の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」に相当する。
してみる、と両者は、
「ポリプロピレンAと、
ポリプロピレンBと
を樹脂成分として含有する、二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」
との点で一致し、次の点で相違する。

(相違点5)
歪み硬化性パラメータについて、本件特許発明1では、ポリプロピレンAは「3未満」、ポリプロピレンBは「3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)」と特定されるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。

上記相違点5について検討する。
甲第4号証には、歪み硬化性パラメータについては何ら記載も示唆もされていないし、甲第4号証で用いている「直鎖状ポリプロピレン」、「分岐鎖状ポリプロピレン」がそれぞれ、歪み硬化性パラメータとして「3未満」、「3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)」を満たすものとする根拠もない。

この点について、特許異議申立人は甲第5号証の記載及び実施例・比較例を参照しつつ、甲4発明の「直鎖状ポリプロピレン」、「分岐鎖状ポリプロピレン」がそれぞれ、歪み硬化性パラメータの値として、本件特許発明1の特定事項を満たすものであると主張する(特許異議申立書第32頁ないし第34頁「(ア-4)」)が、甲第5号証の実施例・比較例のものが、甲第4号証で具体的に用いられている「直鎖状ポリプロピレン」、「分岐鎖状ポリプロピレン」と同じものであるとする根拠はないから、当該主張は採用できない。

したがって、本件特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2) 本件特許発明2ないし10について

本件特許発明2ないし10はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、本件特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし10もまた、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 申立理由1-4についてのまとめ

上記(1)及び(2)のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由1-4によっては取り消すことができない。

5 申立理由2(実施可能要件)について

(1) 実施可能要件の判断規範

本件特許発明1ないし10は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。

(2) 検討

本件特許発明1は、
「歪み硬化性パラメータが3未満であるポリプロピレンAと、
歪み硬化性パラメータが3以上20以下(ただし、6.0以上の場合を除く)であるポリプロピレンBと
を樹脂成分として含有することを特徴とする、二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」
であって、本件特許の明細書には、ポリプロピレンAの製造方法(段落【0044】ないし【0057】)、ポリプロピレンBの製造方法(段落【0062】ないし【0064】)がそれぞれ記載されており、その具体的な例についても、実施例において記載されている。
してみれば、本件特許の明細書等には、本件特許発明1の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」を生産することができる具体的な記載があるといえるから、実施可能要件を満たす。
また、本件特許発明2ないし10についても同様である。

(3) 特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、「一般に化学の分野では、ポリプロピレン樹脂の性質や混合比率が変われば、得られるフィルムの特性も大きく変わることは技術常識」であり、「効果を実現するためには、歪み硬化性パラメータのみで区別された2種のポリプロピレン(ポリプロピレンAおよびポリプロピレンB)が、単に配合されればよいのではなく、適切な種類のポリプロピレンが、適切な比率で混合される必要がある」旨主張する。
しかしながら、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、歪み硬化性パラメータが所定の条件を満たす2種のポリプロピレン(ポリプロピレンAおよびポリプロピレンB)を混合すること、及びその効果について記載されているし、また、歪み硬化性パラメータが所定の条件を満たしつつも、2種のポリプロピレンの他の性質等が変わることにより、効果が発現できるように実施することができなくなるとする具体的証拠が示されているものでもない。
そして、上記(2)の検討のとおり、本件特許の明細書等には、本件特許発明1ないし10が実施できる程度に記載されているものであるといえるから、特許異議申立人の主張は採用しない。

(4) 申立理由2のまとめ

上記のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、申立理由2によって取り消すことはできない。

6 申立理由3(サポート要件)について

(1) サポート要件の判断規範

特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) 検討

本件特許発明の課題は、「絶縁破壊の強さ(ES)に優れた二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供すること」(段落【0014】)であり、そのための具体的な手段として、「歪み硬化性パラメータが3未満であるポリプロピレンAと、歪み硬化性パラメータが3以上20以下であるポリプロピレンBとを樹脂成分として含有することを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムによって、上記課題を解決することができることを見出し」たこと(段落【0015】)、「<原理> 上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、コンデンサ用として用いた場合に絶縁破壊の強さに優れるのは以下の理由による。但し、上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムが上記効果に優れる理由について、仮に下記の理由とは異なっていたとしても、本発明の範囲内であることをここで明記する。 歪み硬化性パラメータ(非線形性パラメータ)が3未満のポリプロピレンは伸長粘度の歪み硬化性がほとんどないことを意味し、シートの薄肉部といった力学的に弱い部分が局所的に変形しやすい。したがって、このような延伸フィルムは厚み均一性が低いため、フィルムに存在する薄肉部において絶縁破壊が起こりやすく、絶縁破壊の強さの低下を招きやすい。逆に、歪み硬化性パラメータが20を超えるポリプロピレンでは、隣接高分子鎖によって、分岐鎖間の分子鎖収縮運動の阻害が顕著に現われることで、(a)自由体積の増加、(b)結晶欠陥やミクロボイドの発生、を招いてしまい、絶縁破壊の強さが上がりにくくなる。また、ゲルのような高度に分岐の発達した成分は歪み硬化性パラメータ3未満のポリプロピレンとの相溶性が低く、延伸操作によりゲル周囲にボイドによる絶縁欠陥が発生しやすくなる。そこで、歪み硬化性パラメータが3未満のポリプロピレンAと歪み硬化性パラメータ3以上20以下のポリプロピレンBとを組み合わせて樹脂成分とすることにより、上記ポリプロピレンAに起因する薄肉部の発生を抑えつつ、分岐鎖間の分子鎖収縮運動が阻害されない。その結果、当該フィルムをコンデンサ用として用いた場合に、絶縁破壊の強さを向上させることができる」こと(段落【0023】)が記載され、さらに、「ポリプロピレンAの歪み硬化性パラメータは、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下である。ポリプロピレンAの歪み硬化性パラメータが上記であれば、良好な成形性が得られ、機械強度にも優れるフィルムが得られるため好ましい」こと、及び、「歪み硬化性パラメータが3以上の樹脂のみでフィルム成形を行うと、高引取り速度において分子鎖間の絡まり合いが顕著に現われ、成形中の熔融破断が発生しやすくなる」こと(段落【0025】)、「ポリプロピレンBの歪み硬化性パラメータは、好ましくは3.5以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上、特に好ましくは5.5以上である。歪み硬化性パラメータが3以上であれば、繰り返し混練による溶融張力の低下が起こりにくく、かつ伸長変形時の樹脂の歪み硬化性が維持されるため好ましい。 また、ポリプロピレンBの歪み硬化性パラメータは、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、さらに好ましくは14以下、特に好ましくは12以下である。ポリプロピレンBの歪み硬化性パラメータが20以下であれば、繰り返し混練による溶融張力の低下が起こりにくく、かつ伸長変形時の樹脂の歪み硬化性が維持されるため好ましい」こと(段落【0060】)も記載されている。
そして、歪み硬化性パラメータの条件を満たす具体的な実施例及び比較例(段落【0134】ないし【0153】)を通じて、その効果についても記載されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「歪み硬化性パラメータが3未満のポリプロピレンA」と、「歪み硬化性パラメータが3以上20以下のポリプロピレンB」をあわせて用いることで、発明の課題を解決するものであると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし10は、「歪み硬化性パラメータが3未満のポリプロピレンA」と、「歪み硬化性パラメータが3以上20以下のポリプロピレンB」をあわせて用いることを発明の特定事項として含むものであるから、本件特許発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(3) 特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、「本件特許明細書の実施例では、特に好ましい値を示すポリプロピレンAおよびポリプロピレンBを組み合わせた一例である実施例5が開示されているに過ぎず、ポリプロピレンAやポリプロピレンBが、本件特許発明1において規定された他の歪み硬化性パラメータを採用する場合であっても同様に、本件特許発明の課題を解決できることは、何ら開示も示唆もないし、発明の詳細な説明からは、把握することができない」こと、「実施例5では、80質量%のポリプロピレンAと、20質量%のポリプロピレンBとが配合された一例が開示されているのみであり、他の配合比率(たとえば、ポリプロピレンAが20質量%でポリプロピレンBが80質量%である場合など)にも同様に、本件特許発明の課題が適切に解決され得るかどうか、定かでない」ことなどをあげ、本件特許発明1ないし10は、サポート要件を満たしていない旨主張する。
しかしながら、上記(2)の検討のとおり、「歪み硬化性パラメータが3未満のポリプロピレンA」と、「歪み硬化性パラメータが3以上20以下のポリプロピレンB」をあわせて用いることで発明の課題を解決できるものと認識できるから、特許異議申立人の主張は採用しない。

(4) 申立理由3のまとめ

上記のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、申立理由3によって取り消すことはできない。


第6 結語

上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-04-26 
出願番号 特願2018-524143(P2018-524143)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 植前 充司
大畑 通隆
登録日 2020-07-06 
登録番号 特許第6729695号(P6729695)
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサ  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
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