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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G09F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G09F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G09F
管理番号 1373802
異議申立番号 異議2021-700033  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-14 
確定日 2021-05-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6722325号発明「光学フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6722325号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6722325号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、令和1年5月16日(優先権主張 平成30年9月28日)を出願日とする出願であって、令和2年6月23日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、特許掲載公報が同年7月15日に発行され、その後、その特許に対し、令和3年1月14日に特許異議申立人 瀧瀬洋輔(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし11)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし11の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件特許発明1」などといい、これらを併せて「本件特許発明」という場合がある。)。

「【請求項1】
ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含み、全光線透過率が85%以上でありヘーズが0.5%以下である光学フィルムであって、
該光学フィルム面内において製造時の機械流れ方向に平行な方向をMD方向とし、該機械流れ方向に垂直な方向をTD方向としたときに、
JIS K 7374に準拠して光学櫛の幅が0.125mmである場合に得られる、該光学フィルムの平面に対して垂直方向から該MD方向に60°傾斜した方向の第1透過写像性値C_(60)(MD)と、該垂直方向から該TD方向に60°傾斜した方向の第2透過写像性値C_(60)(TD)と、該垂直方向の第3透過写像性値C_(0)とが、
式(1):
87%≦C_(60)(MD)≦100%・・・(1)、
式(2):
87%≦C_(60)(TD)≦100%・・・(2)、及び
式(3):
0.8≦C_(60)(MD)/C_(0)≦1.0・・・(3)
を満たす、光学フィルム。
【請求項2】
前記第2透過写像性値及び前記第3透過写像性値は、式(4):
0.9≦C_(60)(TD)/C_(0)≦1.0・・・(4)
を更に満たす、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
JIS K 5600-5-1に準拠した耐屈曲性試験前後の前記ヘーズの差ΔHazeが0.3%未満である、請求項1又は請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
JIS K 5600-5-1に準拠した耐屈曲性試験前後の前記第1透過写像性値の差ΔC_(60)(MD)、前記第2透過写像性値の差ΔC_(60)(TD)、及び前記第3透過写像性値の差ΔC_(0)がそれぞれ15未満である、請求項1?3のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
厚さが10?150μmである、請求項1?4のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
80℃における引張弾性率が4,000?9,000MPaである、請求項1?5のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項7】
少なくとも一方の面にハードコート層を有する、請求項1?6のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層の厚さは、3?30μmである、請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載の光学フィルムを備えるフレキシブル表示装置。
【請求項10】
更に、タッチセンサを備える、請求項9に記載のフレキシブル表示装置。
【請求項11】
更に、偏光板を備える、請求項9又は10に記載のフレキシブル表示装置。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由は、おおむね次のとおりである。

(1) 申立理由1(甲第1号証を根拠とする新規性欠如)
本件特許発明1ないし7、9及び11は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるベきものである。

(2) 申立理由2(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし11は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3) 申立理由3(甲2を根拠とする新規性欠如)
本件特許発明1ないし7、9及び11は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるベきものである。

(4) 申立理由4(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし11は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(5) 申立理由5(甲3を根拠とする新規性欠如)
本件特許発明1ないし9及び11は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるベきものである。

(6) 申立理由6(甲3を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし11は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(7) 申立理由7(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由7の具体的理由は、おおむね次のアないしウとおりである。

ア 「本件特許明細書の具体例においては、課題を解決できない比較例として、通常光学フィルムに用いられない透過率が低く黄色度が高くヘーズが高いポリイミドフィルムを用い、視認性の評価が悪かったことを示している。そもそもヘーズが高ければ相対的に平坦性が悪いなどで視認性が悪くなることは技術常識である。前述のように、ヘーズが十分に小さい場合には、フィルムの透過写像性値は高くなることが技術常識であるところ、全光線透過率が85%以上でありヘーズが0.5%以下であり、構成要件Dを満たさない光学フィルムを用いた比較例を示しておらず、本件特許発明1の特徴とされる構成要件Dによって、課題を解決できることを示していない。」

イ 「本願の課題は、広角方向の優れた視認性であるが、本件特許明細書の具体例において視認性評価は、単に試料表面に映る蛍光灯像の歪みを目視評価しているだけで、表示画像の視認性を評価していない。さらに、垂直方向に対して30°傾けた角度からのみの評価であるため、広角方向の評価がなされていない。このように本件特許明細書の具体例において、広角方向の優れた画像視認性は評価されていない。
従って、そもそも、発明の詳細な説明において、請求項に係る発明が。 「発明の課題が解決できること」を当業者が認識できるように記載されていない。」

ウ 「一般に樹脂フィルムは、その含有成分及び含有量や樹脂の化学構造及び分子量が異なると性質や物性は異なるものである。したがって、特許明細書中で具体例として示された、特定の化学構造と分子量を有するポリイミドやポリアミドイミドにより特定の乾燥条件等の製造条件で製造された樹脂フィルムを用いた実施例1?5の光学フィルム以外の請求項1に規定された広範囲の光学フィルムが、全光線透過率が85%以上でありヘーズが0.5%以下であり、構成要件Dを満たすからといって、発明の課題が解決できるものとは、直ちには認められない。」

(8) 申立理由8(明確性要件)
本件特許の請求項3及び4に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由8の具体的理由は、おおむね次のとおりである。

「請求項3及び4において、JIS K5600-5-1に準拠した耐屈曲性試験前後」の差を特定している。該規格は円筒形マンドレルによる試験であり、マンドレルの直径は複数種類ある(甲第12号証参照)。しかしながら、請求項3及び4並びに本件特許明細書中に耐屈曲性試験に用いられるマンドレルの直径の記載が無いため、試験方法が特定されず、発明の範囲が不明確となる。また、耐屈曲性試験を行った際の屈曲部は光学フィルムの一部に限られるところ、ヘーズや透過写像性値を測定する箇所が屈曲部を含むのか、屈曲部を含む場合はどのように含むのか記載が無いため、試験方法が特定されず、発明の範囲が不明確となる。」

2 証拠方法
特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。
・甲第1号証:特開2018-119132号公報
・甲第2号証:特開2017-203984号公報
・甲第3号証:特開2018-109773号公報
・甲第4号証:特開2010-201779号公報
・甲第5号証:特開2010-238455号公報
・甲第6号証:特開2018-142535号公報
・甲第7号証:国際公開第2018/070849号
・甲第7’号証:特表2019-530011号公報(甲第7号証の訳文として)
・甲第8号証:JIS K7374:2007 プラスチック-像鮮明度の 求め方、写し
・甲第9号証:特開2016-157387号公報
・甲第10号証:国際公開第2017/014287号
・甲第11号証:特開2018-119144号公報
・甲第12号証:JIS K5600-5-1:1999(確認2004) 耐屈曲性(円筒形マンドレル法)、写し

第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、申立理由1ないし8には、いずれも理由はないと判断する。

1 申立理由1ないし6(新規性進歩性)について
(1)甲各号証の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、「ポリアミドイミド樹脂および該ポリアミドイミド樹脂を含んでなる光学部材」に関し、以下の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同様。)。

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂、および該ポリアミドイミド樹脂を含んでなる光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶表示装置や有機EL表示装置等の画像表示装置は、テレビのみならず、携帯電話やスマートウォッチといった種々の用途で広く活用されている。こうした用途の拡大に伴い、フレキシブル特性を有する画像表示装置(フレキシブルディスプレイ)が求められている。
【0003】
画像表示装置は、液晶表示素子または有機EL表示素子等の表示素子の他、偏光板や位相差板および前面板等の構成部材から構成される。フレキシブルディスプレイを達成するためには、これら全ての構成部材が柔軟性を有する必要がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フレキシブルディスプレイが屈曲する際には、全ての構成部材が屈曲する。各構成部材の柔軟性が不十分であると、他の構成部材の損傷させることがある。そのため、構成部材の1つである前面板にも高い柔軟性が求められる。同時に、前面板が屈曲した後、その表面に織り皺が残ると、ディスプレイの視認性に問題が生じるため、前面板は高い屈曲耐性を有する必要がある。
【0008】
そこで本発明は、高い柔軟性および屈曲耐性を両立する光学部材のためのポリアミドイミド樹脂、特に画像表示装置の前面板のためのポリアミドイミド樹脂、および該ポリアミドイミド樹脂を含む前面板等の光学部材を提供することを目的とする。」

・「【0066】
(光学部材)
本発明の別の実施態様においては、上記ポリアミドイミド樹脂を含んでなるポリアミドイミドフィルムである光学部材も提供される。光学部材としては、例えば光学フィルムが挙げられる。該光学部材は、柔軟性、屈曲耐性および表面硬度に優れるため、画像表示装置の前面板、特にフレキシブルディスプレイの前面板(ウィンドウフィルム)として適当である。光学部材は単層であってもよく、複層であってもよい。光学部材が複層である場合、各層は同一の組成であってよく、異なる組成であってもよい。」

・「【0094】
また、光学部材は、ハードコート層を備えてもよい。ハードコート層としては、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、ベンジルクロライド系、ビニル系などの公知のハードコートが挙げられる。なお、本発明の好適な実施態様においては、光学部材は、ハードコート層がなくとも、高い表面硬度を発現することができる。このため、該ポリアミドイミド樹脂からなる光学部材を含むハードコート層積層体は、単独で高い表面硬度を発現し得ない光学部材を含むハードコート積層体よりも高い表面硬度を発現することができる。」

・「【実施例】
【0101】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」および「部」は、特記ない限り、質量%および質量部を意味する。まず評価方法について説明する。
・・・
【0104】
<屈曲耐性の測定>
実施例において得られたポリアミドイミドフィルムの屈曲耐性を、(株)東洋精機製作所製MIT耐折疲労試験機(型式0530)を用いて測定した。厚み50μm、10mm幅のフィルムを作製し、R=1mmで135°を加重0.75kgfで速度175cpmにて測定した際に破断するまでの往復折り曲げ回数を評価した。
【0105】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
(1)前処理方法
サンプルにDMF溶離液(10mM臭化リチウム溶液)を濃度2mg/mLとなるように加え、80℃にて30分間攪拌しながら加熱し、冷却後、0.45μmメンブランフィルターろ過したものを測定溶液とした。
(2)測定条件
カラム:TSKgel SuperAWM-H×2+SuperAW2500×1(6.0mm I.D.×150mm×3本)(いずれも、東ソー(株)製)
溶離液:DMF(10mMの臭化リチウム添加)
流量:1.0mL/min.
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:100μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0106】
<全光線透過率(Tt)の測定>
実施例において得られたポリアミドイミドフィルムの全光線透過率Ttを、JIS K7105:1981に準拠して、スガ試験機(株)製の全自動直読ヘーズコンピューターHGM-2DPにより測定した。
【0107】<黄色度(YI)の測定>
実施例において得られたポリアミドイミドフィルムの黄色度(Yellow Index:YI)を、JIS K 7373:2006に準拠して、日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用いて測定した。フィルムがない状態でバックグランド測定を行った後、フィルムをサンプルホルダーにセットして、300?800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。YIを、下記の式に基づいて算出した。
YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Y
【0108】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
TA Instrument社製DMA Q800を用い、実施例において得られたポリアミドイミドフィルムを以下のような試料とし、以下の条件下で測定して、損失弾性率と保存弾性率の値の比であるtanδ曲線を得た。tanδ曲線のピークの最頂点からTgを算出した。
-試料:長さ5-15mm、幅5mm
-実験モード:DMA Multi-Frequency-Strain
-実験モード詳細条件:
(1)Clamp:Tension:Film
(2)Amplitude:5μm
(3)Frequncy:10Hz(全温度区間で変動なし)
(4)Preload Force:0.01N
(5)Force Track:125N
-温度条件:(1)昇温範囲:常温?400℃、(2)昇温速度:5℃/分
-主要収集データ:(1)保存弾性率(Storage modulus、E')、(2)損失弾性率(Loss modulus、E'')、(3)tanδ(E''/E')
【0109】
実施例1
[ポリアミドイミド樹脂(1)の調製]
窒素雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)52g(162.38mmol)およびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)734.10gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAc中に溶解させた。次に、フラスコに4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)28.90g(65.05mmol)を添加し、室温で3時間撹拌した。その後、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)(OBBC)28.80g(97.57mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌した。次いで、フラスコにピリジン7.49g(94.65mmol)と無水酢酸26.56g(260.20mmol)とを加え、室温で30分間撹拌した後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を得た。
得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物を取り出し、メタノール中に6時間浸漬後、メタノールで洗浄した。次に、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、ポリアミドイミド樹脂(1)を得た。
【0110】
[ポリアミドイミドフィルム(1)の製膜]
得られたポリアミドイミド樹脂(1)に、濃度が15質量%となるようにDMAcを加え、ポリアミドイミドワニス(1)を作製した。得られたポリアミドイミドワニス(1)をポリエステル基材(東洋紡(株)製、商品名「A4100」)の平滑面上に自立膜の膜厚が55μmとなるようにアプリケーターを用いて塗工し、50℃30分間、次いで140℃15分間で乾燥し、自立膜を得た。自立膜を金枠に固定し、さらに窒素雰囲気下で300℃30分間乾燥し、膜厚50μmのポリアミドイミドフィルム(1)を得た。上記測定方法に従ってポリアミドイミドフィルム(1)の重量平均分子量(Mw)、全光線透過率Tt、黄色度YIおよびガラス転移温度Tgを測定したところ、Mwは120,000、Ttは91%、YIは2.2、Tgは345℃であった。なお、各成分のモル比は表1の通りである。
・・・
【0113】
実施例3
[ポリアミドイミド樹脂(3)の調製]
窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、TFMB52g(162.38mmol)およびDMAc697.82gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させた。次に、フラスコに6FDA21.67g(48.79mmol)を添加し、室温で3時間撹拌した。その後、OBBC24.00g(81.31mmol)、次いでテレフタロイルクロリド(TPC)6.60g(32.52mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌した。次いで、フラスコにピリジン8.73g(110.42mmol)と無水酢酸19.92g(195.15mmol)とを加え、室温で30分間撹拌後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を得た。
得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物を取り出し、メタノールで6時間浸漬後、メタノールで洗浄した。次に、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、ポリアミドイミド樹脂(3)を得た。なお、各成分のモル比は表1の通りである。
・・・
【0117】
実施例5
[ポリアミドイミド樹脂(5)の調製]
DMAcの使用量を884.53g、6FDAの使用量を21.67g(38.79mmol)、OBBCの使用量を4.80g(16.26mmol)、TPCの使用量を19.81g(97.57mmol)、ピリジンの使用量を8.73g(110.42mmol)、無水酢酸の使用量を19.92g(195.15mmol)に変更した以外は、実施例3の[ポリアミドイミド樹脂(3)の調製]と同様にして、ポリアミドイミド樹脂(5)を得た。なお、各成分のモル比は表1の通りである。
【0118】
[ポリアミドイミドフィルム(5)の製膜]
ポリアミドイミド樹脂(1)に代えて、ポリアミドイミド樹脂(5)を用いた以外は、実施例1の[ポリアミドイミドフィルム(1)の製膜]と同様にして、膜厚50μmのポリアミドイミドフィルム(5)を得た。上記測定方法に従ってポリアミドイミドフィルム(5)の重量平均分子量(Mw)、全光線透過率Tt、黄色度YIおよびガラス転移温度Tgを測定したところ、Mwは345,000、Ttは91%、YIは2.2、Tgは377℃であった。
【0119】
実施例6
[ポリアミドイミド樹脂(6)の調製]
DMAcの使用量を849.23g、6FDAの使用量を14.45g(32.52mmol)、OBBCの使用量を4.80g(16.26mmol)、TPCの使用量を23.11g(113.84mmol)、ピリジンの使用量を9.98g(126.20mmol)、無水酢酸の使用量を13.28g(130.10mmol)に変更した以外は、実施例3の[ポリアミドイミド樹脂(3)の調製]と同様にして、ポリアミドイミド樹脂(6)を得た。なお、各成分のモル比は表1の通りである。
【0120】
[ポリアミドイミドフィルム(6)の製膜]
ポリアミドイミド樹脂(1)に代えて、ポリアミドイミド樹脂(6)を用いた以外は、実施例1の[ポリアミドイミドフィルム(1)の製膜]と同様にして、膜厚50μmのポリアミドイミドフィルム(6)を得た。上記測定方法に従ってポリアミドイミドフィルム(6)の重量平均分子量(Mw)、全光線透過率Tt、黄色度YIおよびガラス転移温度Tgを測定したところ、Mwは341,000、Ttは91%、YIは2.4、Tgは378℃であった。」

・「【0135】
上記実施例および比較例における各成分のモル比は以下の表1の通りである。
【0136】
【表1】

【0137】
得られたポリアミドフィルム(1)?(9)について、上記測定方法に従って、弾性率、表面硬度、および屈曲耐性を測定した。その結果を表2に示す。
【0138】
【表2】

【0139】
上記より、本発明に係るポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミドフィルム(光学部材)は、弾性率が低く、柔軟性に優れつつも高い屈曲耐性を有することが分かる。同時に、高い表面硬度を有することが示されており、表面の傷つきを抑制することもできる。」

イ 甲1に記載された発明
甲1には、特に実施例5、実施例6及び【表1】の記載から、以下の発明が記載されていると認める。

<甲1実施例5発明>
「窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、TFMB52g(162.38mmol)およびDMAc884.53gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させ、次に、フラスコに6FDA21.67g(38.79mmol)を添加し、室温で3時間撹拌し、その後、OBBC4.80g(16.26mmol)、次いでテレフタロイルクロリド(TPC)19.81g(97.57mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌し、次いで、フラスコにピリジン8.73g(110.42mmol)と無水酢酸19.92g(195.15mmol)とを加え、室温で30分間撹拌後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物を取り出し、メタノールで6時間浸漬後、メタノールで洗浄し、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、各成分のモル比がTFMB:6FDA:OBBC:TPC=10:3:1:6として得られたポリアミドイミド樹脂(5)に、濃度が15質量%となるようにDMAcを加え、得られたポリアミドイミドワニスをポリエステル基材(東洋紡(株)製、商品名「A4100」)の平滑面上に自立膜の膜厚が55μmとなるようにアプリケーターを用いて塗工し、50℃30分間、次いで140℃15分間で乾燥して得た自立膜を金枠に固定し、さらに窒素雰囲気下で300℃30分間乾燥して得られた膜厚50μmのポリアミドイミドフィルム(5)であって、重量平均分子量(Mw)、全光線透過率Tt、黄色度YIおよびガラス転移温度Tgは、Mwは345,000、Ttは91%、YIは2.2、Tgは377℃であるもの。」

<甲1実施例6発明>
「窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、TFMB52g(162.38mmol)およびDMAc849.23gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させ、次に、フラスコに6FDA14.45g(32.52mmol)を添加し、室温で3時間撹拌し、その後、OBBC4.80g(16.26mmol)、次いでテレフタロイルクロリド(TPC)23.11g(113.84mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌し、次いで、フラスコにピリジン9.98g(126.20mmol)と無水酢酸13.28g(130.10mmol)とを加え、室温で30分間撹拌後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物を取り出し、メタノールで6時間浸漬後、メタノールで洗浄し、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、各成分のモル比がTFMB:6FDA:OBBC:TPC=10:2:1:7として得られたポリアミドイミド樹脂(5)に、濃度が15質量%となるようにDMAcを加え、得られたポリアミドイミドワニスをポリエステル基材(東洋紡(株)製、商品名「A4100」)の平滑面上に自立膜の膜厚が55μmとなるようにアプリケーターを用いて塗工し、50℃30分間、次いで140℃15分間で乾燥して得た自立膜を金枠に固定し、さらに窒素雰囲気下で300℃30分間乾燥して得られた膜厚50μmのポリアミドイミドフィルム(6)であって、重量平均分子量(Mw)、全光線透過率Tt、黄色度YIおよびガラス転移温度Tgは、Mwは341,000、Ttは91%、YIは2.4、Tgは378℃であるもの。」

ウ 甲2の記載事項
甲2には、「光学フィルム、及びこれを用いたフレキシブルデバイス」に関し、以下の事項が記載されている。

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、及びこれを用いたフレキシブルデバイス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶及び偏光フィルムのような紫外線により劣化し易い部材を保護するために、ディスプレイなどのデバイスには、紫外線吸収剤を含有するフィルム等が保護フィルム又は前面板等の光学フィルムとして設けられる(特許文献1、2、3)。
【0003】
一方、ガラスを代替するフレキシブルデバイスの透明部材として、ポリイミドフィルムの使用が検討されている(特許文献4,5)。保護フィルムとして従来用いられてきたトリアセチルセルロースフィルムと比べ、ポリイミドフィルムは吸湿性に優れる傾向がある。また、ノルボルネン系フィルムと比べ、屈曲性及び強度に優れる傾向がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポリイミド系高分子又はポリアミド等を含有する光学フィルムに関しては、吸湿特性等の更なる改善が必要であり、また、高い透明性(Haze<1)、少ない着色(YI<5)、及び十分な紫外線吸収能の全ての点で満足できる性能を達成することが、従来困難であった。
【0006】
そこで、本発明の一側面の目的は、ポリイミド系高分子等を含む光学フィルムに関して、吸湿特性、高い透明性(Haze<1)、少ない着色(YI<5)、及び十分な紫外線吸収能の点で改善を図ることにある。」

・「【0080】
2.ポリイミドおよびポリアミドイミド(ポリイミド系高分子)
樹脂A:4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(以下、6FDAと略すことがある)および2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(以下、TFMBと略すことがある)の共重合体であるポリイミド
樹脂B:可溶性ポリイミド(河村産業(株)製「KPI-MX300F」)
樹脂C:テレフタロイルクロリド(以下、TPCと略すことがある)、6FDA、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)(以下、OBBCと略すことがある)およびTFMBの共重合体であるポリアミドイミド
【0081】
(製造例1)樹脂Aの製造
窒素雰囲気下、2.00gのイソキノリンを反応容器に投入した。次に、反応容器にγ-ブチロラクトン(以下、GBLと略すことがある。)375.00g、TFMB104.12gを投入し、撹拌してTFMBをGBLに完全に溶解させた。さらに6FDAを145.88g加えた後、撹拌しつつオイルバスで昇温を開始した。加えたTFMBと6FDAとのモル比は1.00:0.99であり、モノマー濃度が40質量%であった。内温180℃まで昇温した後、さらに4時間加熱撹拌を行った。155℃まで冷却した後、GBLを加えて、ポリイミド(樹脂A)の固形分を濃度24質量%で含むポリイミドワニスを得た。
【0082】
(製造例2)樹脂Cの製造
窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、TFMB52g(162.38mmol)およびDMAc849.23gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させた。次に、フラスコに6FDA14.45g(32.52mmol)を添加し、室温で3時間撹拌した。その後、OBBC4.80g(16.26mmol)、次いでTPC23.11g(113.84mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌した。次いで、フラスコにピリジン9.98g(126.20mmol)と無水酢酸13.28g(130.10mmol)とを加え、室温で30分間撹拌後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を得た。
得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入した。析出した沈殿物を取り出し、メタノールで6時間浸漬後、メタノールで洗浄した。次に、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、ポリアミドイミド樹脂(樹脂C)を得た。
【0083】
3.ポリイミドフィルム又はポリアミドイミドフィルム(光学フィルム)
(実施例1)
製造例1で準備したポリイミドワニスをγ-ブチロラクトンで希釈して濃度16質量%のポリイミドワニスを調整した。そこにSumisorb 340(紫外線吸収剤)のN,N-ジメチルアセトアミド溶液を混合した後、30分間攪拌した。紫外線吸収剤の量は、ポリイミドの100質量部に対して3質量部とした。
【0084】
得られたポリイミドワニスをガラス基板に塗布し、50℃で30分、140℃で10分の順で加熱することにより塗膜から溶媒を除去して、フィルムを形成した。ガラス基板から剥離したフィルムを金枠に取り付け、これを210℃で1時間加熱することで、Haze0.1%、YI2.2、厚み80μmのポリイミドフィルムを得た。
・・・
【0091】
(実施例5)
製造例2で準備したポリアミドイミドワニスをγ-ブチロラクトンで希釈して濃度16質量%のポリアミドイミドワニスを調整した。そこにSumisorb 340(紫外線吸収剤)のN,N-ジメチルアセトアミド溶液を混合した後、30分間攪拌して、ポリアミドイミドワニスを得た。紫外線吸収剤の量は、ポリアミドイミドの100質量部に対して5質量部とした。
【0092】
得られたポリアミドイミドワニスを実施例1と同様に製膜して、Haze0.3%、YI2.0、厚み50μmのポリアミドイミドフィルムを得た。
【0093】
(比較例1)
Sumisorb 340(紫外線吸収剤)のN,N-ジメチルアセトアミド溶液を混合しないことの他は実施例1と同様にして、Haze0.2%、YI2.2、厚み80μmのポリイミドフィルムを得た。
・・・
【0096】
(比較例4)
Sumisorb340(紫外線吸収剤)のN,N-ジメチルアセトアミド溶液を混合しないことの他は実施例5と同様にして、Haze0.2%、YI1.7、厚み50μmのポリアミドイミドフィルムを得た。
【0097】
(評価)
ヘイズ
光学フィルム(ポリイミドフィルム又はポリアミドイミドフィルム)を、全自動直読ヘーズコンピューター(スガ試験機(株)製、HGM-2DP)のサンプルホルダーにセットして、光学フィルムのヘイズを測定した。Haze<1を良好、Haze≧1を不良として表2中に結果を示した。
【0098】
黄色度(YI値)
光学フィルム(ポリイミドフィルム又はポリアミドイミドフィルム)の黄色度(Yellow Index:YI値)を、日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用いて測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、光学フィルムをサンプルホルダーにセットして、300nm?800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。YI値を、下記の式に基づいて算出した。YI<5を良好、YI≧5を不良と判定して表2中に結果を示した。
YI値=100×(1.2769X-1.0592Z)/Y
【0099】
光線透過率
日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用い、光学フィルムの300nm?800nmの光に対する透過率を測定した。測定結果から、380nm、390nm、及び420nmにおける光線透過率Tr(%)を読み取った。
・・・
【0101】
【表2】

【0102】
表2に示されるように、N,N-ジメチルアセトアミドに対して比較的高い溶解性を有する紫外線吸収剤(Sumisorb 340(2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール)、Sumisorb 350(2-(2-ヒドロキシ-3、5-ジ-tert-ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール)、LA46(2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイロキシ)エトキシ]フェノール)またはLA31(2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール])を、380nm及び420nmにおける光線透過率を特定の範囲となるような量で配合することにより、高い透明性(Haze<1)を維持しながら、着色が弱く(YI<5)、且つ、紫外線を十分に吸収する光学フィルムが得られることが確認された。また、フィルムの吸水率が低下することが認められ、この点からもフレキシブルデバイス部材の前面板等に用いられる光学フィルムとして適していることが確認された。」

エ 甲2に記載された発明
甲2には、比較例1及び4に係る記載から、以下の発明が記載されていると認める。

<甲2比較例1発明>
「窒素雰囲気下、2.00gのイソキノリンを反応容器に投入し、反応容器にγ-ブチロラクトン(以下、GBLと略すことがある。)375.00g、TFMB104.12gを投入し、撹拌してTFMBをGBLに完全に溶解させ、さらに6FDAを145.88g加えた後、撹拌しつつオイルバスで昇温を開始し、加えたTFMBと6FDAとのモル比は1.00:0.99であり、モノマー濃度が40質量%であり、内温180℃まで昇温した後、さらに4時間加熱撹拌を行い、155℃まで冷却した後、GBLを加えて、ポリイミド(樹脂A)の固形分を濃度24質量%で含むポリイミドワニスを得、γ-ブチロラクトンで希釈して濃度16質量%のポリイミドワニスを調整し、ガラス基板に塗布し、50℃で30分、140℃で10分の順で加熱することにより塗膜から溶媒を除去して、フィルムを形成し、ガラス基板から剥離したフィルムを金枠に取り付け、これを210℃で1時間加熱することで得られた、Haze0.2%、YI2.2、厚み80μmのポリイミドフィルム。」

<甲2比較例4発明>
「窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、TFMB52g(162.38mmol)およびDMAc849.23gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させ、次に、フラスコに6FDA14.45g(32.52mmol)を添加し、室温で3時間撹拌し、その後、OBBC4.80g(16.26mmol)、次いでTPC23.11g(113.84mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌し、次いで、フラスコにピリジン9.98g(126.20mmol)と無水酢酸13.28g(130.10mmol)とを加え、室温で30分間撹拌後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物を取り出し、メタノールで6時間浸漬後、メタノールで洗浄し、次に、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、ポリアミドイミド樹脂(樹脂C)を得、γ-ブチロラクトンで希釈して濃度16質量%のポリアミドイミドワニスを調整し、ガラス基板に塗布し、50℃で30分、140℃で10分の順で加熱することにより塗膜から溶媒を除去して、フィルムを形成し、ガラス基板から剥離したフィルムを金枠に取り付け、これを210℃で1時間加熱することで得られた、Haze0.2%、YI1.7、厚み50μmのポリアミドイミドフィルム。」

オ 甲3の記載事項
甲3には、「フレキシブルディスプレイ」に関し、以下の事項が記載されている。

・「【請求項1】
繰り返し屈曲されるフレキシブルディスプレイであって、
前記フレキシブルディスプレイは、ハードコートフィルムを備え、
前記ハードコートフィルムは、基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側に積層されたハードコート層とを備え、
前記基材フィルムがポリイミドフィルムであり、
前記ポリイミドフィルムの屈折率と前記ハードコート層の屈折率との差が、絶対値で0.04以下であり、
前記ポリイミドフィルムの厚さが、5μm以上、50μm以下であり、
前記ハードコート層の厚さが、0.5μm以上、10μm以下であり、
前記ハードコートフィルムは、JIS K5600-5-1に準拠した円筒形マンドレル法による耐屈曲性試験において、前記ハードコート層を前記基材フィルムより外側にして当該試験を実施したときの、前記ハードコート層にクラックおよび剥がれの起こらなかったマンドレルのうち直径が最小のマンドレルの直径が6mm以下である
ことを特徴とする、繰り返し屈曲されるフレキシブルディスプレイ。」

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルムとハードコート層とを備えたハードコートフィルムに関するものであり、特に、フレキシブルディスプレイへの使用に好適なハードコートフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器において、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OELD)、さらにはタッチパネル等の各種ディスプレイが広く利用されている。これら各種ディスプレイの表面には、傷付き防止のために、基材フィルムにハードコート層を設けたハードコートフィルムが設けられることが多い。
【0003】
ところで、近年、上記のようなディスプレイとして、屈曲可能なディスプレイ、いわゆるフレキシブルディスプレイが開発されている。フレキシブルディスプレイは、例えば、湾曲させて円柱状の柱に設置するような据え置き型ディスプレイ用として、あるいは折り曲げたり丸めたりして持ち運べるモバイルディスプレイ用として、幅広い用途が期待されている。フレキシブルディスプレイ用のハードコートフィルムとしては、特許文献1および2に開示されているハードコートフィルムが提案されている。
【0004】
ここで、フレキシブルディスプレイは、1回だけ曲面成形するのではなく、特許文献3に記載されているように、繰り返し屈曲させる(折り曲げる)場合がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような用途のフレキシブルディスプレイに従来のハードコートフィルムを使用すると、繰り返し屈曲させた部分に屈曲跡ができたり白化したりして、外観が低下するとともに、ディスプレイとしての視認性が低下するという問題が生じる。
【0007】
一方、ハードコートフィルムには、種々の要因により干渉縞が生じることがある。ハードコートフィルムに干渉縞が生じると、やはり外観が低下するとともに、ディスプレイとしての視認性が低下するという問題が生じる。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、繰り返しの屈曲に耐え得る耐屈曲性を有するとともに、干渉縞が生じ難いハードコートフィルムを提供することを目的とする。」

・「【実施例】
【0087】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0088】
〔製造例1〕(基材フィルムの作製1)
N,N-ジメチルアセトアミド溶媒中にて、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、および2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物を、冷却下で混合溶解し、その後、常温で10時間撹拌することにより、ポリアミド酸溶液を得た。
【0089】
得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸およびピリジンを添加し、十分に撹拌した後、ガラス板上に塗工し、常温から180℃までゆっくりと昇温した。180℃到達後、一定時間加熱し、その後、真空引きを行うことにより、揮発分を完全に除去した。最後に、真空下で常温まで冷却することにより、膜厚25μmのポリイミドフィルムAを得た。当該ポリイミドフィルムAについて測定したところ、b*は0.61、屈折率は1.62、波長550nmにおける透過率は90%であった。
【0090】
なお、ポリイミドフィルムの膜厚は、JIS K7130に準拠し、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG-02」)を用いて測定した。
上記b*については、JIS Z8722に従い、測定装置として同時測定方式分光式色差計(日本電色工業社製,製品名「SQ-2000」)、光源としてC光源2°視野(C/2)を用い、透過測定法によりL*a*b*表色系のb*を測定した。
上記波長550nmにおける透過率は、紫外線可視近赤外分光透過率計(島津製作所製,製品名「UV3600」)を用いて測定した。
・・・
【0092】
〔実施例1〕
活性エネルギー線硬化性成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100質量部(固形分換算;以下同じ)と、遷移金属酸化物微粒子としての表面修飾酸化ジルコニウム微粒子(CIKナノテック社製,製品名「ZRMIBK15WT%-F85」,平均粒径:15nm)150質量部と、光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン5質量部とを、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンを1:1の質量比で混合した混合溶媒中にて撹拌混合して、ハードコート層用組成物の塗工液を得た。
【0093】
次いで、基材フィルムとしてのポリイミドフィルムAの片面に、マイヤーバーを使用して上記ハードコート層用組成物の塗工液を塗工し、70℃で1分間加熱乾燥させて、ハードコート層用組成物の組成物層を形成した。
【0094】
その後、上記組成物層側から以下の条件で紫外線を照射して、ハードコート層用組成物の組成物層を硬化させてハードコート層(厚さ:3μm)を形成し、ハードコートフィルムを得た。
<紫外線照射条件>
・紫外線照射装置:ジーエスユアサコーポレーション社製紫外線照射装置
・光源:高圧水銀灯
・ランプ電力:1.4kW
・照度:100mW/cm^(2)
・光量:240mJ/cm^(2)
・コンベアスピード:1.2m/min
・窒素雰囲気下にて紫外線照射(酸素濃度1%以下)
【0095】
〔実施例2?8,比較例1?5〕
ハードコート層用組成物を構成する各成分の種類および配合、ハードコート層の厚さ、ならびに基材フィルムの種類および厚さを表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを製造した。
【0096】
なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
A:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
B:エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(エチレンオキシド12モル導入)
C:表面修飾酸化ジルコニウム微粒子(CIKナノテック社製,製品名「ZRMIBK15WT%-F85」,平均粒径:15nm)
D:表面修飾酸化チタン微粒子(テイカ社製,製品名「ND139」,平均粒径:10nm)
E:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
PI-25:ポリイミドフィルムA
PI-15:ポリイミドフィルムB
PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製,製品名「ダイヤホイルT-60」,厚さ:50μm)
・・・
【0108】
〔試験例7〕(ヘーズ値の評価)
実施例および比較例で製造したハードコートフィルムについて、ヘーズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH5000」)を用い、JIS K7136に準拠してヘーズ値(%)を測定した。その結果に基づき、ヘーズ値1%超を×、1%以下0.5%超を○、0.5%以下を◎と評価した。結果を表2に示す。
【0109】
〔試験例8〕(60°光沢度の評価)
実施例および比較例で製造したハードコートフィルムについて、グロスメーター(日本電色工業社製)を使用し、JIS Z8741-1997に準拠して60°光沢度(グロス値)を測定した。その結果に基づき、60°光沢度100%未満を×、100%以上140%未満を○、140%以上を◎と評価した。結果を表2に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
表2から明らかなように、実施例で得られたハードコートフィルムは、耐擦傷性および光学特性に優れるとともに、耐屈曲性に優れ、さらには干渉縞が生じ難いものであった。」

カ 甲3に記載された発明
甲3には、特に実施例1及び試験例7(ヘーズ値の評価)に係る【表2】の記載から、以下の発明が記載されていると認める。

<甲3発明>
「N,N-ジメチルアセトアミド溶媒中にて、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、および2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物を、冷却下で混合溶解し、その後、常温で10時間撹拌することにより得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸およびピリジンを添加し、十分に撹拌した後、ガラス板上に塗工し、常温から180℃までゆっくりと昇温し、180℃到達後、一定時間加熱し、その後、真空引きを行うことにより、揮発分を完全に除去し、真空下で常温まで冷却することにより、膜厚は25μm、b*は0.61、屈折率は1.62、波長550nmにおける透過率は90%のポリイミドフィルムAを得、ハードコート層用組成物の塗工液を基材フィルムとしてのポリイミドフィルムAの片面に、マイヤーバーを使用して塗工し、紫外線で硬化させてハードコート層(厚さ:3μm)が形成されたハードコートフィルムであって、ヘーズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH5000」)を用い、JIS K7136に準拠してヘーズ値(%)を測定した結果0.5%以下と評価されたもの。」

(2)申立理由1及び2(甲1を根拠とする新規性進歩性欠如)について
ア 本件特許発明1について
(ア)甲1実施例5発明を主引用発明とした場合について
a 対比
本件特許発明1と甲1実施例5発明とを対比する。
甲1実施例5発明の「ポリアミドイミドフィルム(5)」は、段落【0001】の記載から光学部材に関するものであるから、本件特許発明1の「ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含」む「光学フィルム」に相当する。
全光線透過率に関し、甲1は、段落【0106】に「JIS K7105:1981に準拠して、スガ試験機(株)製の全自動直読ヘーズコンピューターHGM-2DPにより測定した」と記載されるのに対し、本件特許明細書の段落【0158】には「光学フィルムの全光線透過率はJIS K 7361-1:1997に準拠して、・・・スガ試験機(株)製の全自動直読ヘーズコンピュータHGM-2DPを用いて測定した」と記載され、準拠するJISが相違するが、同一の装置にて計測しており、甲1実施例5発明における全光線透過率91%は、本件特許発明1の全光線透過率が85%以上でありとの要件を満足する蓋然性は高いといえる。

そうすると、本件特許発明1と甲1実施例5発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。
<一致点>
「ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含み、全光線透過率が85%以上である光学フィルム。」

<相違点1>
光学フィルムのヘーズに関し、本件特許発明1は、「0.5%以下」であるのに対し、甲1実施例5発明は、そのようには特定されない点。

<相違点2>
光学フィルムの透過写像性値に関し、本件特許発明1は、第1透過写像性値C_(60)(MD)、第2透過写像性値C_(60)(TD)及び第3透過写像性値C_(0)が、式(1)ないし式(3)を満たすのに対し、甲1実施例5発明は、そのようには特定されない点。

b 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点2から検討する。
本件特許発明1の透過写像性値を充足するためには、技術常識から「光学フィルムの組成」と「光学フィルムの製造条件」によって光学フィルムの平滑性を向上させることによって調整することができると解され、実際、本件特許明細書の段落【0020】には、以下の記載がなされている。
「透過写像性値(より具体的には、第1透過写像性値C_(60)(MD)、第2透過写像性値C_(60)(TD)、及び第3透過写像性値C_(0))は、光学フィルム表面の平滑性を向上させて、光学フィルム表面における透過光の散乱等を抑制することにより、調整することができる。更に、光学フィルム表面の平滑性は、例えば、光学フィルムの組成(より具体的には、フィラーの種類、粒子径及び含有量等)、及び光学フィルムの製造条件(より具体的には、乾燥温度、乾燥時間、乾燥系での気流、塗膜の厚さ、乾燥工程での搬送速度及びワニス中の溶媒量等)により調製することができる。」
そこで、まず「光学フィルムの組成」を検討する。
甲1実施例5発明におけるポリアミドイミド樹脂(5)の各モノマー成分比は、本件特許の製造例3及び4のポリアミドイミド樹脂に、ほぼ相当するから、これらの等比混合物によって得られる本件特許のワニス(2)を用いた実施例3において製造された本件特許明細書における、光学フィルム3と甲1実施例5発明のポリアミドイミドフィルム(5)は、ポリアミドイミドの成分比において一致する。
次に、「光学フィルムの製造条件」について検討する。
本件特許の実施例3のフィルムは、段落【0148】及び【0150】から、PETフィルム上において流涎成形により塗膜を形成し、線速は0.3m/分で、順に70℃で8分間、100℃で10分間、90℃で8分間、及び80℃で8分間から80℃で10分間、100℃で10分間、90℃で10分間、80℃で10分間加熱して塗膜を乾燥させ、PETフィルムから塗膜を剥離し、その後、乾燥機内の温度を200℃に設定し、フィルムの搬送速度1.0m/分、テンター式乾燥機の各室における風速を、1室では13.5m/秒、2室では13m/秒、3?6室では11m/秒となる条件で乾燥を行うこと、及び、塗膜形成時のポリアミドイミドの溶媒は、【表1】の記載からGBL(γ-ブチロラクトン)を使用し、固形分比が8.2%である。
一方、甲1実施例5発明におけるポリアミドイミドフィルム(5)は、ポリエステル基材上に塗工し、50℃30分間、次いで140℃15分間で乾燥して得た自立膜を金枠に固定し、さらに窒素雰囲気下で300℃30分間乾燥して得られたものであって、塗工時のポリアミドイミドの溶媒は、DMAc(N,N-ジメチルアセトアミド)を加え、濃度が15質量%となるようにしたものである。
そうすると、「光学フィルムの組成」において、本件特許の実施例3のものと甲1実施例5発明のものは一致するが、「光学フィルムの製造条件」において、その乾燥条件並びにワニス中の溶媒の種類及び濃度において、明らかに相違することから、光学フィルムとして特に透過写像性値が一致する蓋然性は高いとはいえない。
よって、相違点2は、実質的な相違点といえるから、相違点1の検討を行うまでもなく、本件特許発明1は、甲1実施例5発明ではない。

また、相違点2に係る特定事項である、光学フィルムの平面に対して垂直方向から60°傾斜した方向の透過写像性値を調整することについて、甲1には、記載も示唆もされておらず、甲1実施例5発明の課題は、甲1の段落【0008】に記載されるように「高い柔軟性および屈曲耐性を両立する」ことにあって、本件特許発明1のように「広角方向の視認性に優れる」ことを課題とするものではないから、相違点2に係る特定事項を採用する動機付けが存在しない。
そして、本件特許発明1は、相違点2に係る発明特定事項を有することによって、広角方向の視認性に優れた光学フィルムを得るという格別顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1実施例5発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲1実施例6発明を主引用発明とした場合について
a 対比
本件特許発明1と甲1実施例6発明とを対比する。
上記(ア)において本件特許発明1と甲1実施例5発明と対比したのと同様に検討すると、甲1実施例6発明におけるJIS K7105による全光線透過率91%は、本件特許発明1のJIS K7136で測定した「全光線透過率が85%以上であり」との要件を満足することは明らかである。

そうすると、本件特許発明1と甲1実施例6発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。
<一致点>
「ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含み、全光線透過率が85%以上である光学フィルム。」

<相違点3>
光学フィルムのヘーズに関し、本件特許発明1は、「0.5%以下」であるのに対し、甲1実施例6発明は、そのようには特定されない点。

<相違点4>
光学フィルムの透過写像性値に関し、本件特許発明1は、第1透過写像性値C_(60)(MD)、第2透過写像性値C_(60)(TD)及び第3透過写像性値C_(0)が、式(1)ないし式(3)を満たすのに対し、甲1実施例6発明は、そのようには特定されない点。

b 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点4から検討するに、相違点4は、上記相違点2と同じであるから、上記相違点2について検討したのと同様、本件特許発明1は、甲1実施例6発明ではないし、また、本件特許発明1は、甲1実施例6発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書第19ページにおいて、おおむね以下の主張をしている。
「甲1発明の実施例5及び6のポリアミドイミドフィルムは、本件特許明細書の実施例3の光学フィルムのポリアミドイミド樹脂と、同一のモノマーで、同一乃至同様の組成比率からなり、ほぼ同じ重量平均分子量のポリアミドイミド樹脂からなるものであって、視認性、透明性を向上しやすく、着色性を低減しやすい組成物を使用しており、全光線透過率が91%と高い透明性を有するポリアミドイミドフィルムであり、本件特許明細書の実施例と同様に延伸を行っていないから、本件特許発明1の構成要件Cのヘーズ値と、構成要件Dの第1?第3透過写像性値C_(60)、C_(0)の関係式(1)?(3)の条件を満足している蓋然性が高い。」
しかしながら、上記(ア)b及び(イ)bにおいて検討したとおり、「光学フィルムの組成」が同一であっても「光学フィルムの製造条件」において、本件特許発明1と甲1実施例5発明は相違するため、光学フィルムとして透過写像性値が一致する蓋然性は高いとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は、採用できない。

(エ)本件特許発明1についての小括
そうすると、本件特許発明1は、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件特許発明2ないし8について
本件特許発明1が、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記アのとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2ないし8についても同様に甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件特許発明9ないし11について
本件特許発明1ないし8が、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記ア及びイのとおりであるから、本件特許発明1ないし8の光学フィルムを備えたフレキシブル表示装置である本件特許発明9ないし11も同様に甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

エ 申立理由1及び2のまとめ
したがって、申立理由1及び申立理由2には理由がない。

(3)申立理由3及び4(甲2を根拠とする新規性進歩性欠如)について
ア 本件特許発明1について
(ア)甲2比較例1発明を主引用発明とした場合について
a 対比
本件特許発明1と甲2比較例1発明とを対比する。
甲2比較例1発明の「ポリイミドフィルム」は、段落【0001】の「本発明は、光学フィルム、・・・に関する。」との記載から光学フィルムとして供されるものと理解でき、本件特許発明1の「ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含」む「光学フィルム」に一致する。
甲2比較例1発明における「Haze」は、段落【0097】に「光学フィルム(ポリイミドフィルム又はポリアミドイミドフィルム)を、全自動直読ヘーズコンピューター(スガ試験機(株)製、HGM-2DP)のサンプルホルダーにセットして、光学フィルムのヘイズを測定した」旨記載され、本件特許明細書の段落【0158】には「光学フィルムの・・・ヘーズはJIS K 7136:2000に準拠して、スガ試験機(株)製の全自動直読ヘーズコンピュータHGM-2DPを用いて測定した。」と記載され、甲2において、準拠するJIS規格が不明であるが、同一の装置にて計測しており、甲2比較例1発明におけるHaze0.2%は、本件特許発明1に特定される「ヘイズが0.5%以下である」との要件を満足する蓋然性は高いといえる。

そうすると、本件特許発明1と甲2比較例1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。
<一致点>
「ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含み、ヘーズが0.5%以下である光学フィルム。」

<相違点5>
光学フィルムの全光線透過率に関し、本件特許発明1は、「85%以上」であるのに対し、甲2比較例1発明は、そのようには特定されない点。

<相違点6>
光学フィルムの透過写像性値に関し、本件特許発明1は、第1透過写像性値C_(60)(MD)、第2透過写像性値C_(60)(TD)及び第3透過写像性値C_(0)が、式(1)ないし式(3)を満たすのに対し、甲2比較例1発明は、そのようには特定されない点。

b 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点6から検討する。
上記(2)ア(ア)bのとおり、本件特許発明1の透過写像性値を充足するためには「光学フィルムの組成」及び「光学フィルムの製造条件」が調整できるものであることをふまえ、以下検討する。
「光学フィルムの組成」において、甲2比較例1発明の光学フィルムのポリイミドのTFMBと6FDAとのモル比は1.00:0.99である一方、本件特許の実施例1の光学フィルムのポリイミドのTFMBと6FDAとのモル比は、略1:1であるから、両者は、その組成において一致する。
次に、「光学フィルムの製造条件」について検討する。
甲2比較例1発明におけるポリイミドフィルムは、ガラス基板に塗布し、50℃で30分、140℃で10分の順で加熱することにより塗膜から溶媒を除去して、フィルムを形成し、ガラス基板から剥離したフィルムを金枠に取り付け、これを210℃で1時間加熱することで得られたものであって、塗工時のポリイミドの溶媒は、γ-ブチロラクトンで希釈して濃度16質量%となるようにしたものであるのに対し、本件特許発明1に含まれ、その組成が甲2比較例1発明と同一である本件特許の実施例1の光学フィルムの製造条件は、段落【0148】に、PETフィルム上において流涎成形により塗膜を形成し、線速は0.4m/分で、順に70℃で8分間、100℃で10分間、90℃で8分間、及び80℃で8分間加熱して塗膜を乾燥させ、PETフィルムから塗膜を剥離し、その後、乾燥機内の温度を200℃に設定し、フィルムの搬送速度1.0m/分、テンター式乾燥機の各室における風速を、1室では13.5m/秒、2室では13m/秒、3?6室では11m/秒となる条件で乾燥を行うこと、及び、塗膜形成時のポリアミドイミドの溶媒は、【表1】の記載からDMAcとGBL(γ-ブチロラクトン)の混合溶媒を使用し、固形分比が16.5%であることが記載されている。
そうすると、甲2の比較例1で得られたフィルムと、本件特許の実施例1で得られたフィルムは、乾燥条件並びにワニス中の溶媒の種類及び濃度において、明らかに相違することから、光学フィルムとして特に透過写像性値が一致する蓋然性は高いとはいえない。
よって、相違点6は、実質的な相違点といえるから、相違点5の検討を行うまでもなく、本件特許発明1は、甲2比較例1発明ではない。

また、相違点6に係る特定事項である、光学フィルムの平面に対して垂直方向から60°傾斜した方向の透過写像性値を調整することについて、甲2には、記載も示唆もされておらず、甲2に記載される技術上の課題は、甲2の段落【0006】に記載されるように「吸湿特性、高い透明性(Haze<1)、少ない着色(YI<5)、及び十分な紫外線吸収能の点で改善を図ること」にあって、本件特許発明1のように「広角方向の視認性に優れる」ことを課題とするものではないから、相違点6に係る特定事項を採用する動機付けが存在しない。
そして、本件特許発明1は、相違点6に係る発明特定事項を有することによって、広角方向の視認性に優れた光学フィルムを得るという格別顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点5について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2比較例1発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲2比較例4発明を主引用発明とした場合について
a 対比
本件特許発明1と甲2比較例4発明とを対比する。
上記(ア)において本件特許発明1と甲2比較例1発明と対比したのと同様に検討すると、甲2比較例4発明におけるHaze0.2%は、本件特許発明1の「ヘーズが0.5%以下である」との要件を満足することは明らかである。

そうすると、本件特許発明1と甲2比較例4発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。
<一致点>
「ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含み、ヘーズが0.5%以下である光学フィルム。」

<相違点7>
光学フィルムの全光線透過率に関し、本件特許発明1は、「85%以上」であるのに対し、甲2比較例4発明は、そのようには特定されない点。

<相違点8>
光学フィルムの透過写像性値に関し、本件特許発明1は、第1透過写像性値C_(60)(MD)、第2透過写像性値C_(60)(TD)及び第3透過写像性値C_(0)が、式(1)ないし式(3)を満たすのに対し、甲2比較例4発明は、そのようには特定されない点。

b 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点8から検討するに、相違点8は、上記相違点6と同じであるから、上記相違点6について検討したのと同様、本件特許発明1は、甲2比較例4発明ではないし、また、本件特許発明1は、甲2比較例4発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書第20ないし21ページにおいて、おおむね以下の主張をしている。
「甲2発明の実施例1及び比較例1のポリイミドフィルムは、本件特許明細書の実施例1及び2の光学フィルムのポリイミド樹脂と、同一のモノマーで、同一乃至同様の組成比率のポリイミド樹脂からなるものであって、視認性、透明性を向上しやすく、着色性を低減しやすい組成物を使用しており、ヘーズが0.1%又は0.2%と高い透明性を有するポリイミドフィルムであり、甲2発明の実施例5及び比較例4のポリアミドイミドフィルムは、本件特許明細書の実施例3及び4の光学フィルムのポリアミドイミド樹脂と、同一のモノマーで、同様の組成比率のポリアミドイミド樹脂からなるものであって、視認性、透明性を向上しやすく、着色性を低減しやすい組成物を使用しており、ヘーズが0.3%又は0.2%と高い透明性を有するポリアミドイミドフィルムであり、いずれも本件特許明細書の実施例と同様に延伸を行っていないから、本件特許発明の構成要件Bの全光線透過率と、構成要件Dの第1?第3透過写像性値C_(60)、C_(0)の関係式(1)?(3)の条件を満足している蓋然性が高い。」
しかしながら、上記(ア)b及び(イ)bにおいて検討したとおり、「光学フィルムの組成」が同一であっても「光学フィルムの製造条件」において、本件特許発明1と甲2比較例1及び4発明は相違するため、光学フィルムとして透過写像性値が一致する蓋然性は高いとはいえないし、課題が相違する甲2比較例1及び4発明から、本件特許発明1に特定される特に透過写像性値を採用する動機付けも存在しない。
よって、特許異議申立人の上記主張は、採用できない。

(エ)本件特許発明1についての小括
そうすると、本件特許発明1は、甲2に記載された発明とはいえないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件特許発明2ないし8について
本件特許発明1が、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記アのとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2ないし8も同様に甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件特許発明9ないし11について
本件特許発明1ないし8が、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記ア及びイのとおりであるから、本件特許発明1ないし8の光学フィルムを備えたフレキシブル表示装置である本件特許発明9ないし11も同様に甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

エ 申立理由3及び4のまとめ
したがって、申立理由3及び申立理由4には理由がない。

(4)申立理由5及び6(甲3を根拠とする新規性進歩性欠如)について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ポリイミドフィルムA」の片面にハードコート層が形成された「ハードコートフィルム」は、段落【0001】の「本発明は、・・・特に、フレキシブルディスプレイへの使用に好適なハードコートフィルムに関するものである。」との記載から光学フィルムとして供されるものと理解でき、本件特許発明1の「ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含」む「光学フィルム」に一致する。
また、光学フィルムのヘーズに関し、本件特許発明1及び甲3発明の双方共にJIS K7136に準拠して0.5%以下である点で一致する。

そうすると、本件特許発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。
<一致点>
「ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含み、ヘーズが0.5%以下である光学フィルム。」

<相違点9>
光学フィルムの全光線透過率に関し、本件特許発明1は、「85%以上」であるのに対し、甲3発明は、そのようには特定されない点。

<相違点10>
光学フィルムの透過写像性値に関し、本件特許発明1は、第1透過写像性値C_(60)(MD)、第2透過写像性値C_(60)(TD)及び第3透過写像性値C_(0)が、式(1)ないし式(3)を満たすのに対し、甲3発明は、そのようには特定されない点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、相違点10から検討する。
上記(2)ア(ア)bのとおり、本件特許発明1の透過写像性値を充足するためには「光学フィルムの組成」及び「光学フィルムの製造条件」が調整できるものであることをふまえ、以下検討する。
「光学フィルムの組成」において、甲3発明は、「ビフェニルテトラカルボン酸二無水物」(以下、「BPDA」という。)をモノマーとして含むポリイミドであり、本件特許におけるいずれのポリイミドを用いた実施例において、BPDAをモノマーとして用いた例がない。
次に、「光学フィルムの製造条件」について検討する。
甲3発明におけるポリイミドフィルムは、「ポリアミド酸溶液に、無水酢酸およびピリジンを添加し、十分に撹拌した後、ガラス板上に塗工し、常温から180℃までゆっくりと昇温し、180℃到達後、一定時間加熱し、その後、真空引きを行うことにより、揮発分を完全に除去し、真空下で常温まで冷却することにより」得られたものであって、ガラス板上でイミド化しつつ成膜して得られたフィルムである一方、本件特許発明の実施例は、いずれも、イミド化後ポリイミドを沈殿物として得た後に、改めて溶媒に溶解して得られたワニスをPETフィルム上において流涎成形により塗膜を形成したものであって、また、その溶媒としてGBLを主たる成分とするものである。
そうすると、甲3の実施例1で得られたフィルムと、本件特許のいずれの実施例において得られたフィルムは、ポリイミドの成分、ワニスの形成方法及び溶媒、並びにワニスの乾燥条件において、明らかに相違することから、光学フィルムとして特に透過写像性値が一致する蓋然性は高いとはいえない。
よって、相違点10は、実質的な相違点といえるから、相違点9の検討を行うまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明ではない。

また、相違点10に係る特定事項である、光学フィルムの平面に対して垂直方向から60°傾斜した方向の透過写像性値を調整することについて、甲3には、記載も示唆もされておらず、甲3発明の課題は、甲3の段落【0008】に記載されるように「繰り返しの屈曲に耐え得る耐屈曲性を有するとともに、干渉縞が生じ難いハードコートフィルムを提供すること」にあって、本件特許発明1のように「広角方向の視認性に優れる」ことを課題とするものではないから、相違点10に係る特定事項を採用する動機付けが存在しない。
そして、本件特許発明1は、相違点10に係る発明特定事項を有することによって、広角方向の視認性に優れた光学フィルムを得るという格別顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点9について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書第21ないし25ページにおいて、おおむね以下の主張をしている。
上記相違点9に関し、「甲3発明の実施例1?8のハードコートフィルムにおいて「全光線透過率が85%以上」であることは内在している事項であって、相違点1-1は実質的な相違点ではない。」、
上記相違点10に関し、「甲3発明の実施例1?8のハードコートフィルムが構成要件Dを満たすことは内在している事項であって、相違点1-2は実質的な相違点ではない。」。また、「フレキシブルディスプレイにおいて、正面からだけでなく斜め方向からも高い視認性が求められること、いずれの方向からも良好な視認性が求められるという課題は、本件特許出願時において周知」であって、「正面からだけでなく斜め方向からも高い視認性を得
るために、甲3発明に、甲第4号証記載の“入射角60°の入射光での透過像鮮明度と垂直入射光の透過像鮮明度との比を、0.80超過1.05未満のような1に近い範囲に特定することや、入射角60°の入射光での透過像鮮明度を高く特定すること”を適用することは十分に動機づけがあるし、適用を阻害する格別の事情も見当たらない。また、甲3発明に、甲第4号証記載を適用するにあたり、当業者であれば、いずれの方向からも良好な視認性が求められることを考慮して、60°傾斜した方向をMD方向とTD方向のような互いに垂直な2方向で特定することは容易に推考できる設計的事項の範囲内である。甲第4号証の光学櫛の幅は、本件特許発明1で特定された光学櫛の輻とは異なるが、ヘーズが小さく、像鮮明度が高い甲3発明の光学フィルムにおいて透過像鮮明度の光学櫛の幅を本件特許発明1のように0.125mmに設定することは技術常識であり、当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎない。」

上記主張について検討する。
「甲3発明の実施例1?8のハードコートフィルムにおいて「全光線透過率が85%以上」であることは内在している事項」とする点に関し、甲3発明における光線透過率は、「550nmにおける透過率」であるが、本件特許において、段落【0158】に「光学フィルムの全光線透過率はJIS K 7361-1:1997に準拠」とされ、該JISでは、光源として550nm単色光ではなく、分光分布を有するCIE標準のD65が採用されていること、そして、甲3では、ハードコート前の基材フィルムとしてのポリイミドフィルムに対する波長550nmにおける透過率を計測しているものの、ハードコート層の形成後については不明であることから、本件特許発明1の特定事項である「全光線透過率が85%以上」の条件に、甲3の実施例1ないし8のハードコートフィルムが常に内包されるとはいえるものではないし、特許異議申立人は、具体的にその実験結果を示すものでもない。
また、上記相違点10に係る第1ないし第3透過写像性値に関し、確かに光学フィルムにおいて、斜め方向からの良好な視認性が求められることは周知の課題ともいえるが、その評価手段として種々あるなかで、本件特許発明1に係る第1ないし第3透過写像性値による評価を採用する動機付けは、甲3にはなく、また、TD方向及びMD方向それぞれに透過写像性値を設定して評価すること及び関係式(1)ないし(3)を設定することについての記載及び示唆は、特許異議申立人が甲3記載の発明と共に進歩性欠如の根拠とした甲4をはじめ、他の甲各号証にも存在しないし、当業者にとって自明な事項でもない。
よって、特許異議申立人の上記主張は、採用できない。

(エ)本件特許発明1についての小括
そうすると、本件特許発明1は、甲3発明とはいえないし、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件特許発明2ないし8について
本件特許発明1が、甲3発明ではなく、また、甲3発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記アのとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2ないし8も同様に甲3発明ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件特許発明9ないし11について
本件特許発明1ないし8が、甲3発明ではなく、また、甲3発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記ア及びイのとおりであるから、本件特許発明1ないし8の光学フィルムを備えたフレキシブル表示装置である本件特許発明9ないし11も同様に甲3発明ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

エ 申立理由5及び6のまとめ
したがって、申立理由5及び申立理由6には理由がない。

2 申立理由7(サポート要件)について
(1)発明の詳細な説明の記載
・「【0001】
本発明は、ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む光学フィルム、及び該光学フィルムを備えるフレキシブル表示装置に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリイミドフィルムがフレキシブル表示装置の前面板などの透明部材に適用される場合には、画像表示面が屈曲した状態で映像を表示する場合があるため、非屈曲性の画像表示面に比べ広角方向の優れた視認性が要求される。しかしながら、本発明者の検討によれば従来のポリイミド系樹脂フィルムでは、この広角方向の視認性を十分に満足できない場合があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、広角方向の視認性に優れる光学フィルム、及び該光学フィルムを備えるフレキシブル表示装置を提供することである。」

・「【発明を実施するための形態】
【0010】
・・・
【0011】
<光学フィルム>
本発明の光学フィルムは、ポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含み、全光線透過率が85%以上でありヘーズが0.5%以下である光学フィルムであって、
該光学フィルム面内において製造時の機械流れ方向に平行な方向をMD方向とし、該機械流れ方向に垂直な方向をTD方向としたときに、
JIS K 7374に準拠して光学櫛の幅が0.125mmである場合に得られる、該光学フィルムの平面に対して垂直方向から該MD方向に60°傾斜した方向の第1透過写像性値C_(60)(MD)と、該垂直方向から該TD方向に60°傾斜した方向の第2透過写像性値C_(60)(TD)と、該垂直方向の第3透過写像性値C_(0)とが、
式(1): 87%≦C_(60)(MD)≦100%・・・(1)、
式(2): 87%≦C_(60)(TD)≦100%・・・(2)、及び
式(3): 0.8≦C_(60)(MD)/C_(0)≦1.0・・・(3)
を満たす。
・・・
【0014】
第1透過写像性値C_(60)(MD)が式(1)を満たすと、光学フィルムはMD方向における広角方向の視認性に優れる。光学フィルムのMD方向における広角方向の視認性を更に向上させる観点から、第1透過写像性値C_(60)(MD)は、式(1)において87%以上、好ましくは89%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上、より更に好ましくは93%以上であり、100%以下である。
・・・
【0016】
第2透過写像性値C_(60)(TD)が式(2)を満たすと、光学フィルムはTD方向における広角方向の視認性に優れる。光学フィルムのTD方向における広角方向の視認性を更に向上させる観点から、C_(60)(TD)は、式(2)において87%以上、好ましくは89%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上、より更に好ましくは93%以上であり、100%以下である。
・・・
【0018】
第1透過写像性値C_(60)(MD)及び第3透過写像性値C_(0)が式(3)を満たすと、光学フィルムは、光学フィルムの垂直方向に対するMD方向における視認性に優れる。MD方向における視認性を更に向上させる観点から、第3透過写像性値C_(0)に対する第1写像性値C_(60)(MD)の比(C_(60)(MD)/C_(0))は、0.8以上、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.93以上、更に好ましくは0.94以上であり、1.0以下である。
【0019】
第3透過写像性値C_(0)は、式(3)において好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、更に好ましくは99%以上である。第1透過写像性値C_(60)(MD)は、式(3)において好ましくは89%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上、特に好ましくは93%以上である。
【0020】
透過写像性値(より具体的には、第1透過写像性値C_(60)(MD)、第2透過写像性値C_(60)(TD)、及び第3透過写像性値C_(0))は、光学フィルム表面の平滑性を向上させて、光学フィルム表面における透過光の散乱等を抑制することにより、調整することができる。更に、光学フィルム表面の平滑性は、例えば、光学フィルムの組成(より具体的には、フィラーの種類、粒子径及び含有量等)、及び光学フィルムの製造条件(より具体的には、乾燥温度、乾燥時間、乾燥系での気流、塗膜の厚さ、乾燥工程での搬送速度及びワニス中の溶媒量等)により調製することができる。光学フィルムが更にハードコート層を含む場合は、ハードコート層表面の平滑性を向上させて、ハードコート層表面における散乱等を抑制することにより、調整することができる。ハードコート層の平滑性は、上記光学フィルムの平滑性の調製方法に加え、例えば、溶剤の種類、成分比、固形分濃度の調整及びレベリング剤の添加などにより調整することができる。
・・・
【0024】
[6.全光線透過率]
本発明の光学フィルムの全光線透過率は、85%以上であり、視認性を更に向上させる観点から、好ましくは87%以上、より好ましくは89%以上、更に好ましくは90%以上、とりわけ好ましくは91%以上、特に好ましくは92%以上であり、通常100%以下である。光学フィルムの全光線透過率は、JIS K 7136-1:1997に準拠して測定することができる。全光線透過率の測定方法は実施例にて詳細に説明する。
【0025】
[7.ヘーズ、ヘーズの差]
本発明の光学フィルムのヘーズは、0.5%以下であり、視認性を更に向上させる観点から、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.2%以下である。
・・・
光学フィルムのヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠して測定することができる。ヘーズの測定方法及びヘーズの差の算出方法は、実施例にて詳細に説明する。」

・「【実施例】
【0137】
・・・
【0138】
<1.光学フィルムの製造>
・・・
【0145】
[1-4.ワニスの調製]
(製造例8:ワニス(1)及び(2)の調製)
ワニス(1)及び(2)は、表1に示す組成にて、溶媒にポリイミド系樹脂を溶解させて、製造した。
・・・
【0146】
【表1】

・・・
【0148】
[1-5.光学フィルムの製造]
・・・
【0154】
組成物の処方及び光学フィルムの組成を表2にまとめた。・・・
【0155】
【表2】

【0156】
<2.測定方法>
実施例及び比較例で得られた光学フィルムは、保護フィルムを有する場合、下記測定及び評価は、保護フィルムを剥離した状態の光学フィルムを用いて実施した。
(2-1.光学フィルムの透過写像性値の測定)
・・・
光学櫛の平面に対して平行であり、かつ光学櫛におけるスリットが配列する方向に光学櫛(スリット幅:0.125mm)を所定の単位幅移動させて光学櫛の透過光を受光することを繰り返した。その結果、受光波形を得た。得られた受光波形から相対光量の最大値M及び最小値mを得た。得られたM及びmから式(5)に基づいて第1透過写像性値C_(60)(MD)を算出した。
【0157】
入射角を光学フィルム平面に対して垂直方向からTD方向に60°傾斜した角度、及び光学フィルム平面に対して垂直な角度(0°傾斜した角度)に変更した以外は、第1透過写像性値と同様にして、それぞれ第2透過写像性値C_(60)(TD)及び第3透過写像性値C_(0)を算出した。
【0158】
(2-2.光学フィルムの全光線透過率及びヘーズ)
光学フィルムの全光線透過率はJIS K 7361-1:1997に準拠して、ヘーズはJIS K 7136:2000に準拠して、スガ試験機(株)製の全自動直読ヘーズコンピュータHGM-2DPを用いて測定した。測定試料は、実施例及び比較例の光学フィルムを30mm×30mmの大きさにカットして作製した。
・・・
【0168】
<3.評価方法>
(3-1.視認性)
・・・
評価用試料平面の垂直方向に対して30°傾けた角度から、観察者が目視にて評価用試料表面に映る蛍光灯像を観察した。 蛍光灯の長手方向を水平から垂直に変更した以外は同様にして、もう一方の評価用試料を台に固定し、蛍光灯像を観察した。
観察結果から下記の評価基準に基づいて視認性を評価した。(視認性の評価基準)
◎:蛍光灯像の歪みがほとんど視認されない。
○:蛍光灯像の歪みが若干視認できる。
△:蛍光灯像の歪みが視認される。
×:蛍光灯像の歪みが明確に視認される。
【0169】
<4.評価結果>
実施例1?5及び比較例1の光学フィルムについて全光線透過率、ヘーズ、透過写像性値、黄色度および折曲げ回数を測定し、視認性を評価した。測定及び評価結果を表3?5にまとめた。なお、表3の欄「Tt(%)」は、光学フィルムの全光線透過率(単位:%)を示す。表3の「Haze(%)」は、光学フィルムのヘーズ(単位:%)を示す。
【0170】
【表3】

【0171】
【表4】

【0172】
【表5】

【0173】
実施例1?5の光学フィルム1?5は、いずれもポリイミド系樹脂を含み、全光線透過率が85%以上でありヘーズが0.5%以下であった。また、光学フィルム1?5は、第1透過写像性値及び第2透過写像性値がいずれも87%以上100%以下であり、比C_(60)(MD)/C_(0)が0.8以上1.0以下であった。すなわち、光学フィルム1?5は、式(1)?式(3)を満たしていた。
更に、光学フィルム1?5は、視認性の評価結果が◎、○及び△のいずれかであった。
【0174】
比較例1の光学フィルム6は、全光線透過率が85%未満でありヘーズが0.5%より大きく、第2透過写像性値が87%未満であった。
更に、光学フィルム6は、視認性の評価結果が×であった。
【0175】
実施例1?5の光学フィルムは、比較例1の光学フィルムに比べ、広角方向の視認性に優れ、かつ視認性の角度依存性が小さいことが明らかである。」

(2)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明における、特に段落【0005】によると、本件特許発明の発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「広角方向の視認性に優れる光学フィルムを提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】ないし【0025】には、本件特許発明の発明特定事項及びその根拠について具体的な記載があり、【0137】ないし【0175】には、本件特許発明の実施例が記載され、該実施例において、広角方向の視認性に優れ、かつ視認性の角度依存性が小さいことを確認している。
そうすると、これらの記載に接した当業者は、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと理解できる。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立書における特許異議申立人の主張について、以下検討する。

ア 比較例の記載について(上記第3の1(7)ア)
特許異議申立人は、本件特許発明の特定事項を満たさない場合の比較例の記載の欠如をもって、該発明特定事項が課題解決手段足り得ないことを主張するが、上記(2)で検討したとおり、実施例において発明の課題が解決することを当業者が認識できるし、また、光学フィルムの平面に対して垂直方向から60°傾斜した方向での評価は、広角方向の画像視認性の評価として充分であることは当業者にとって明らかであるから、比較例の記載の有無は、本件特許のサポート要件の判断を左右しない。

イ 広角方向の画像視認性評価について(上記第3の1(7)イ)
特許異議申立人は、実施例において評価したのは、試料表面に映る蛍光灯像の歪みであって、表示画像の視認性が評価されていないから、本件特許の発明の課題が解決することを当業者が認識できない旨を主張するが、結果として本件特許発明に特定される要件を満たす高い平滑性の光学フィルムを得ることによって発明の課題が解決することを当業者が認識でき、そのことを上記実施例にて充分に評価できることは当業者にとって明らかである。

ウ 樹脂フィルムの化学構造と分子量について(上記第3の1(7)ウ)
特許異議申立人は、実施例として示されたのは、特定の化学構造と分子量を有するもののみであるから、本件特許発明の発明特定事項の全般にわたり、発明の課題が解決できることが、当業者が認識できるように記載されているとはいえない旨主張するが、結果として高い平滑性の光学フィルムを得ることによって発明の課題が解決することを当業者が認識でき、特定の化学構造と分子量を有するもののみにいえることではないことは、当業者にとって明らかであるし、特許異議申立人は、本件特許の実施例に示された特定の化学構造と分子量を有するポリイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂以外の樹脂を用いた場合に、本件特許の課題を解決しない例を具体的に示すものでもない。

よって、特許異議申立人の主張は、いずれも採用できない。

(4)申立理由7(サポート要件)についてのまとめ
したがって、申立理由7には理由がない。

3 申立理由8(明確性要件)について
(1)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。

(2)判断
明確性要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項3及び4における「JIS K 5600-5-1に準拠した耐屈曲性試験」との記載は、不明確ではなく、かつ、本件特許明細書の記載も特許請求の範囲の請求項3及び4の記載と矛盾するものではないから、当業者の出願時における技術常識を基礎として、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明3及び4において、JIS K 5600-5-1に準拠した耐屈曲性試験に用いる円筒形マンドレルの直径が特定されていないから請求項3及び4の記載は明確でない旨主張する。
しかしながら、本件特許発明3及び4において、請求項3及び4に特定されるJIS K 5600-5-1に準拠した耐屈曲性試験で定義される複数の円筒形マンドレルの範囲内で試験を行うことは明確であるし、そもそも請求項3及び4は、請求項1の従属項であって、請求項1に特定される範囲内であることは明らかである。

(3)申立理由8(明確性要件)のまとめ
したがって、申立理由8には理由がない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-04-23 
出願番号 特願2019-93077(P2019-93077)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G09F)
P 1 651・ 113- Y (G09F)
P 1 651・ 537- Y (G09F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福井 弘子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 植前 充司
大畑 通隆
登録日 2020-06-23 
登録番号 特許第6722325号(P6722325)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 光学フィルム  
代理人 森住 憲一  
代理人 松谷 道子  
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