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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B02C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B02C
管理番号 1373807
異議申立番号 異議2021-700202  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-25 
確定日 2021-05-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6747213号発明「石炭粉砕方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6747213号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6747213号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成28年 9月26日に出願され、令和 2年 8月11日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月26日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 3年 2月25日付けで、特許異議申立人 吉田 敦子(以下、「申立人」という。)により甲第1?10号証を証拠方法として特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ケーシング内を回転するハンマの打撃と摩砕板の反撥衝撃により前記ハンマと前記摩砕板の間で石炭を粉砕する石炭粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器を設置し、
前記ハンマを回転させるモータの電流値をパラメータとして、粉砕前の石炭粒度と粉砕後の石炭粒度との相関関係を、前記石炭粉砕機の入側及び出側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果を用いて予め求めておき、
前記石炭粉砕機の入側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果を前記相関関係に適用して、粉砕後の石炭粒度が目標粒度となる際の前記モータの目標電流値I0(A)を決定し、前記モータに流す電流値I1(A)を前記目標電流値I0(A)に設定して石炭を粉砕した後、前記石炭粉砕機の出側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果と前記目標粒度との偏差に応じて前記電流値I1(A)を補正することを特徴とする石炭粉砕方法。
【請求項2】
請求項1記載の石炭粉砕方法において、粉砕する石炭に含まれる水分は、内数で7?15質量%であることを特徴とする石炭粉砕方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の石炭粉砕方法において、粉砕する石炭は、ホッパに貯蔵され、フィーダにより切り出されたものであることを特徴とする石炭粉砕方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 各甲号証
甲第1号証:特開2016-159196号公報
甲第2号証:特開平6-80976号公報
甲第3号証:特開2014-173789号公報
甲第4号証:特開2013-185035号公報
甲第5号証:特開2004-82046号公報
甲第6号証:特開平11-244725号公報
甲第7号証:粉体工学会編,「粉体工学便覧」,初版1刷,昭和61年 2月28日,日刊工業新聞社,p.7-11
甲第8号証:特開2016-168590号公報
甲第9号証:本件特許の審査において提出された意見書
甲第10号証:特許第6747213号公報(本件特許公報)

2 特許法第29条第2項について
本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件発明1?3は、石炭を特定の粒度分布に粉砕する石炭粉砕方法ではないのに対して、本件特許明細書においては、石炭の目標粒度が3mmアンダーを基準としたもののみが記載されており、3mmアンダーを基準としたもの以外については説明されていない。
そして、石炭の目標粒度が3mmアンダーを基準としたもの以外について、本件発明1?3の石炭粉砕方法を適用した場合、本件発明の課題を解決できるか否かが明らかでないので、本件発明1?3は本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えているから、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
なお、特許異議申立書の3.3-1.の「申立ての理由の要約」には「特許法第36条第6項第2号(請求項1?3)」の記載があるが、特許異議申立書には特許法第36条第6項第2号について具体的な理由が記載されていないので、特許法第36条第6項第2号を理由とする特許異議の申立てはされていないものと認める。

第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第2項について
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には以下(1a)?(1d)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動式の粉砕機を用いて石炭を粉砕する方法であって、
或る銘柄またはハードグローブ指数値の石炭について、予め複数の異なる水分量の石炭を粉砕機で粉砕し、その粉砕条件および粉砕結果に基づき、下記(1)式を用いてパラメーターC/e,nを算出し、石炭の水分量とパラメーターC/e,nとの関係を求めておき、
前記或る銘柄またはハードグローブ指数値の石炭を粉砕機で粉砕するに当たり、粉砕前の石炭の粒度(g_(0))と水分量(w)を測定し、予め求められている石炭の水分量とパラメーターC/e,nとの関係に基づき、水分量(w)に対応するパラメーターC/e,nを求め、このパラメーターC/e,nと、粉砕前の石炭の粒度(g_(0))に基づき、下記(1)式を用いて、目標とする粉砕後の石炭の粒度(g)が得られる粉砕機の負荷電流値を求め、該負荷電流値に基づき粉砕機の電流を調整することを特徴とする石炭の粉砕方法。
(A-A_(0))*V/Q={(C/e)/(n-1)}*{D^((1-n))Γ((1+m-n)/m)-D_(0)^((1-n))Γ((1+m_(0)-n)/m_(0))} …(1)
ただし A:粉砕機の負荷電流値であって、粉砕量一定時の5分間平均電流値(A)
A_(0):無負荷時の粉砕機の負荷電流値(A)
C:粉砕特性パラメーター(kg/m・s)
D:粉砕後のロージンラムラー粒度特性数(m)
D_(0):粉砕前のロージンラムラー粒度特性数(m)
V:電圧(V)
Q:粉砕機への原料投入速度(kg/s)
e:粉砕効率(-)
m:粉砕後のロージンラムラー均等数(-)
m_(0):粉砕前のロージンラムラー均等数(-)
n:ルイス式のべき数
Γ:ガンマ関数」

(1b)「【0001】
本発明は、石炭の粉砕方法に関するもので、粉砕前の石炭の粒度に関わりなく、粉砕条件を簡便な方法で変更して、石炭を目標の粒度に粉砕できるようにした粉砕方法に関するものである。

【0003】
そこで、石炭を目標の粒度に粉砕するための管理方法として、粉砕後の石炭を採取・乾燥し、乾燥後試料を篩い分けし、目標粒度に粉砕されているかどうかの確認が行われている。しかし、乾燥と篩い分けには数時間を要するため、目標の粉砕粒度から外れた場合の操業アクションが大きく遅れることになる。このような問題を解決するため、例えば、特許文献4?7には以下のような方法が提案されている。
(1)乾燥と篩い分けに長時間必要であるため、より短時間で測定可能なX線CTを用いて粒度測定を行う方法(特許文献4)
(2)高炉微粉炭吹き込み用として微粉に粉砕された石炭を採取し、レーザ回折式粒度分布測定器により粒度を測定する方法(特許文献5)
(3)搬送装置によって搬送される粉粒体の粒度を、搬送される粉粒体表面の変位から測定する方法(特許文献6)
(4)搬送装置によって搬送される粉粒体を写真撮影し、画像処理より粒度を測定する方法(特許文献7)

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献4?7の方法には、(i)高価な測定機器を用いる必要がある、(ii)粗大粒子への微粉のまぶりつきの影響や微粉どうしの凝集の影響などにより、得られる粒度分布結果に誤差を伴う、などの問題がある。また、特許文献4,5の方法は、粉砕後の試料を採取して粒度測定するという煩雑な作業が必要である。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、粉砕前の石炭の粒度に関わりなく、簡便な手法で石炭を目標粒度に粉砕することができる石炭の粉砕方法を提供することにある。」

(1c)「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、石炭の粉砕エネルギーと粉砕前後の粒度分布の関係を表す式を用い、粉砕前の石炭の粒度に応じて粉砕機の電流値を調整することにより、粉砕前の石炭の粒度に関わりなく、石炭を目標とする粒度に安定的に粉砕することができる。このため、粉砕後の試料を採取して直接粒度測定したり、高価な測定機器を用いて粒度測定したりすることなく、簡便かつ低コストに目標粉砕粒度となるような粒度調整が可能となる。」

(1d)「【0015】
石炭の粉砕特性はハードグローブ指数(粉砕のし易さの指標として用いられる指数。以下「HGI」という)に依存するが、さらに石炭水分にも依存するので、パラメーターC/e,nに及ぼす石炭水分の影響も評価する必要がある。…

【0025】
[実施例2]
上記(1)式を用いる本発明法の有効性を確認するため、実操業にて2日間の粉砕試験を行った。粉砕機は衝撃式のケージミル(ケージ直径830mm、電動機出力最大37kW、粉砕能力最大10t/h)を用いた。ドライベースで5t/hとなるように、秤量ベルトフィーダーの切出し調整を行い、粉砕機への原料投入速度を制御した。石炭にはHGIが75の石炭銘柄を用いた。試験は以下のようにして行った。なお、図1(ア)、(イ)に示す石炭のHGI値および水分量とパラメーターC/e,nとの関係は予め求められている。
(1)粉砕対象の石炭の粉砕前粒度および水分量を測定する。
(2)図1の関係から、パラメーターC/e,nを決定する。
(3)目標の石炭粉砕粒度、石炭の粉砕前粒度、パラメーターC/e,nを上記(1)式に代入し、目標の石炭粉砕粒度とするための粉砕機主軸の負荷電流値A(目標値)を算出する。
(4)負荷電流値Aが目標値となるように粉砕回転数を設定する。
(5)4時間おきに石炭の粉砕前粒度および水分量を測定して、上記(1)?(4)を繰り返し、パラメーターC/e,nと負荷電流値A(目標値)の見直しと、これに基づく粉砕回転数の設定を行う。
【0026】
上記(1)?(5)を行う本発明例に対して、粉砕回転数の決定後は回転数を固定して粉砕するケースを比較例とした。本発明の効果を確認するために、本発明例と比較例において、4時間おきに粉砕炭を採取し、粒度測定を実施した。本発明例と比較例について、粉砕開始からの粉砕炭粒度(平均粒度)の推移を図2に示す。これによれば、本発明例および比較例は、粉砕開始直後はいずれも粉砕炭の平均粒度は0.64mmであり、粉砕開始から4時間まではほぼその粉砕粒度のまま推移した。しかし、その後は、比較例の場合は平均粒径のバラツキが目立ち始めた。一方、本発明例では、4時間おきに原料粒度および原料水分の測定を行い、パラメーターC/e,nと負荷電流値A(目標値)の見直しを行い、目標とする負荷電流値Aを満たすための回転数制御を行ったため、平均粒径バラツキは効果的に抑制された。これにより本発明の有効性を確認できた。」

イ 前記ア(1a)及び(1d)の実施例2に注目すると、甲第1号証には、
「電動式の粉砕機を用いて石炭を粉砕する方法であって、
或る銘柄またはハードグローブ指数値(HGI値)の石炭について、予め複数の異なる水分量の石炭を粉砕機で粉砕し、その粉砕条件および粉砕結果に基づき、下記(1)式を用いてパラメーターC/e,nを算出し、石炭の水分量とパラメーターC/e,nとの関係を求めておき、
前記或る銘柄またはハードグローブ指数値の石炭を粉砕機で粉砕するに当たり、粉砕前の石炭の粒度(g_(0))と水分量(w)を測定し、予め求められている石炭の水分量とパラメーターC/e,nとの関係に基づき、水分量(w)に対応するパラメーターC/e,nを求め、このパラメーターC/e,nと、粉砕前の石炭の粒度(g_(0))に基づき、下記(1)式を用いて、目標とする粉砕後の石炭の粒度(g)が得られる粉砕機の負荷電流値を求め、該負荷電流値に基づき粉砕機の電流を調整する、石炭の粉砕方法であって、
(A-A_(0))*V/Q={(C/e)/(n-1)}*{D^((1-n))Γ((1+m-n)/m)-D_(0)^((1-n))Γ((1+m_(0)-n)/m_(0))} …(1)
ただし A:粉砕機の負荷電流値であって、粉砕量一定時の5分間平均電流値(A)
A_(0):無負荷時の粉砕機の負荷電流値(A)
C:粉砕特性パラメーター(kg/m・s)
D:粉砕後のロージンラムラー粒度特性数(m)
D_(0):粉砕前のロージンラムラー粒度特性数(m)
V:電圧(V)
Q:粉砕機への原料投入速度(kg/s)
e:粉砕効率(-)
m:粉砕後のロージンラムラー均等数(-)
m_(0):粉砕前のロージンラムラー均等数(-)
n:ルイス式のべき数
Γ:ガンマ関数
粉砕機は衝撃式のケージミル(ケージ直径830mm、電動機出力最大37kW、粉砕能力最大10t/h)を用い、ドライベースで5t/hとなるように、秤量ベルトフィーダーの切出し調整を行い、粉砕機への原料投入速度を制御し、石炭にはHGIが75の石炭銘柄を用い、
(1)粉砕対象の石炭の粉砕前粒度および水分量を測定する。
(2)パラメーターC/e,nを決定する。
(3)目標の石炭粉砕粒度、石炭の粉砕前粒度、パラメーターC/e,nを上記(1)式に代入し、目標の石炭粉砕粒度とするための粉砕機主軸の負荷電流値A(目標値)を算出する。
(4)負荷電流値Aが目標値となるように粉砕回転数を設定する。
(5)4時間おきに石炭の粉砕前粒度および水分量を測定して、上記(1)?(4)を繰り返し、パラメーターC/e,nと負荷電流値A(目標値)の見直しと、これに基づく粉砕回転数の設定を行い、4時間おきに粉砕炭を採取し、粒度測定を実施した、石炭の粉砕方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明は、「粉砕対象の石炭の粉砕前粒度および水分量を測定」し、「4時間おきに粉砕炭を採取し、粒度測定を実施」するものであるが、そのための「石炭粒度測定器」の設置位置は明らかでない。
また、甲1発明は、「(1)?(4)を繰り返し、パラメーターC/e,nと負荷電流値A(目標値)の見直しと、これに基づく粉砕回転数の設定を行い、4時間おきに粉砕炭を採取し、粒度測定を実施した」ものであるが、「4時間おきに粉砕炭を採取し、粒度測定を実施」した後、「測定結果と目標粒度との偏差に応じてモータに流す電流値を補正する」ものともいえない。

(イ)申立人は、前記(1)ア(1d)によれば、甲1発明においては、粉砕前の石炭を粒度測定した後、粉砕機主軸の負荷電流等の見直しのために、粉砕された(すなわち粉砕後の)石炭の粒度を測定していることから、粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器が設置されているといえる旨、甲1発明では、目標の石炭粉砕粒度とするための粉砕機主軸の負荷電流等の見直しのために、粉砕された石炭の粒度を測定しているから、甲1発明は、粉砕機のモータに流す電流値を目標電流値に設定して石炭を粉砕した後、前記石炭粉砕機の出側に設置した石炭粒度測定器の測定結果と前記目標粒度との偏差に応じて前記電流値を補正しているといえる旨を主張する(特許異議申立書27頁下から4行目?28頁2行、28頁17行?21行)。

(ウ)ところが、前記(1d)には、粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器が設置されていることは記載も示唆もされていないし、甲第1号証の記載から、粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器が設置されていることが自明の事項であるとも認められない。
また、前記(1d)には、4時間おきに原料粒度および原料水分の測定を行い、パラメーターC/e,nと負荷電流値A(目標値)の見直しを行い、目標とする負荷電流値Aを満たすための回転数制御を行ったため、平均粒径バラツキが効果的に抑制され、これにより甲1発明の有効性を確認できたことが記載されているに過ぎない。
そして、甲1発明において4時間おきに粉砕炭を採取し、粒度測定を実施するのは、甲1発明の有効性を確認するためであって、負荷電流値A(目標値)の見直しのためではなく、また、負荷電流値A(目標値)の見直しは、石炭の粉砕前粒度および水分量の測定により行われるものであるから、仮に、甲1発明において、粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器が設置され、粉砕された石炭の粒度が測定されているとしても、粉砕機主軸の負荷電流等の見直しのために粉砕された(すなわち粉砕後の)石炭の粒度を測定しているとも、粉砕機のモータに流す電流値を目標電流値に設定して石炭を粉砕した後、前記石炭粉砕機の出側に設置した石炭粒度測定器の測定結果と前記目標粒度との偏差に応じて前記電流値を補正しているとも、認められない。
したがって、申立人の前記(イ)の主張はいずれも採用できない。

(エ)前記(ア)?(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点:本件発明1は、「石炭粉砕方法」が、「石炭粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器を設置し」、「前記石炭粉砕機の出側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果と目標粒度との偏差に応じてモータに流す電流値I1(A)を補正する」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有しない点。

イ 判断
(ア)以下、前記ア(エ)の相違点について検討すると、前記(1)ア(1b)、(1c)によれば、甲1発明は、石炭の粉砕方法に関し、石炭を目標の粒度に粉砕するための管理方法である、(1)乾燥と篩い分けに長時間必要であるため、より短時間で測定可能なX線CTを用いて粒度測定を行う方法、(2)高炉微粉炭吹き込み用として微粉に粉砕された石炭を採取し、レーザ回折式粒度分布測定器により粒度を測定する方法、(3)搬送装置によって搬送される粉粒体の粒度を、搬送される粉粒体表面の変位から測定する方法、(4)搬送装置によって搬送される粉粒体を写真撮影し、画像処理より粒度を測定する方法といった従来の方法における、高価な測定機器を用いる必要があるという課題、粗大粒子への微粉のまぶりつきの影響や微粉どうしの凝集の影響などにより、得られる粒度分布結果に誤差を伴うという課題、粉砕後の試料を採取して粒度測定するという煩雑な作業が必要であるという課題(以下、「甲1課題」という。)を解決するものである。
そして、甲1発明は、石炭の粉砕エネルギーと粉砕前後の粒度分布の関係を表す(1)式を用い、粉砕前の石炭の粒度に応じて粉砕機の電流値を調整することにより、粉砕前の石炭の粒度に関わりなく、石炭を目標とする粒度に安定的に粉砕することができるものであり、粉砕後の試料を採取して直接粒度測定したり、高価な測定機器を用いて粒度測定したりすることなく、簡便かつ低コストに目標粉砕粒度となるような粒度調整が可能となることで、甲1課題を解決するものである。

(イ)ところが、甲1発明において「石炭粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器を設置し」、「前記石炭粉砕機の出側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果と目標粒度との偏差に応じて前記電流値I1(A)を補正する」ことは、粉砕機による粉砕後の試料を直接粒度測定したり、高価な測定機器を用いて粒度測定を行うことにほかならず、前記(ア)に照らして、粉砕後の試料を採取して直接粒度測定したり、高価な測定機器を用いて粒度測定したりすることなく、簡便かつ低コストに目標粉砕粒度となるような粒度調整が可能となることで、甲1課題を解決する、という甲1発明の特長を損なうものとなるのであって、このことは、甲第2?7号証の記載事項に左右されるものでもない。

(ウ)前記(イ)によれば、甲1発明において、「石炭粉砕方法」を、「石炭粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器を設置し」、「前記石炭粉砕機の出側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果と目標粒度との偏差に応じて前記電流値I1(A)を補正する」、との前記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得るものではなく、このことは、甲第2?7号証の記載事項に左右されないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1発明及び甲第2?7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-2)本件発明2、3について
本件発明2及び3は、いずれも直接的又は間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2及び3と甲1発明と対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(2-1)ア(エ)の相違点において相違する。
そして、甲1発明において、前記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得るものではなく、このことは、甲第2?7号証の記載事項に左右されないことは、前記(2-1)イ(ウ)に記載したとおりであって、更にこのことは、甲第8号証の記載事項に左右されるものでもない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を甲1発明及び甲第2?7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないし、本件発明3を甲1発明及び甲第2?8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
よって、本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、前記第3の2の特許異議申立理由は理由がない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるので、以下、この観点に基づいて検討する。

イ 本件特許明細書には、以下(a)?(b)の記載がある。
(a)「【0001】
本発明は、コークスの製造に使用される石炭を粉砕機で粉砕する方法に関する。
【0002】
高炉製鉄法に使用されるコークスは、炉内の通気性を確保するため高強度のものが要求される。そのため、高強度コークスの製造では、石炭が軟化溶融した際に石炭粒子間に強固な接着が生じるように、コークス炉に装入する石炭の嵩密度を上げて、隣接する石炭粒子同士の接触状態を改善することが行われている。
【0003】
石炭装入時の嵩密度を向上させる方法としては、石炭の粒度分布を制御して理想粒度分布(ファーナス分布)に近づける方法が知られている。理想粒度分布を実現するためには、粒径の大きな石炭粒子も使用することが好ましいが、大粒径の石炭粒子、特に劣質な非粘結炭の大粒径粒子が存在すると、加熱処理時に、隣接する石炭粒子間の収縮率差により接触界面に割れが発生し、コークス強度が低下する。
【0004】
従って、コークス用石炭の粉砕処理では、粉砕後の石炭粒度を、目標とする粒度範囲に調整することにより、石炭装入時の嵩密度の向上と加熱処理時における大粒径粒子に起因した割れ抑制とを両立することが求められる。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の方法は、粉砕後の石炭粒度によって石炭の粉砕条件を変更するものであり、粉砕前の石炭粒度のバラツキを考慮していない。しかし、本発明者らは、例えば、粉砕前の石炭粒度が大きくなると、粉砕後の石炭粒度が目標粒度よりも一般に大きくなるという知見を得ている。粉砕前の石炭粒度が大きく変動した場合、粉砕後の石炭粒度に基づいて石炭の粉砕条件を変更したとしても、目標粒度よりも大きな粒度を有する粉砕石炭が多く製造されてしまう。
【0008】
粉砕前の石炭粒度は石炭貯蔵の都合によって時々刻々変動するため、特許文献1、2記載の方法を用いた場合、粉砕後の石炭粒度が変動する。そのため、特許文献1、2記載の方法は、粉砕後の石炭粒度の安定性の観点で課題を有している。
粉砕後の石炭粒度にバラツキが発生すると、コークス品質の一つであるコークス強度が変動する原因となり、低強度コークスを含むコークスが製造されることになる。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、粉砕後の石炭粒度のバラツキを従来に比べて抑制することが可能な石炭粉砕方法を提供することを目的とする。」

(b)「【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る石炭粉砕方法は、
ケーシング内を回転するハンマの打撃と摩砕板の反撥衝撃により前記ハンマと前記摩砕板の間で石炭を粉砕する石炭粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器を設置し、
前記ハンマを回転させるモータの電流値をパラメータとして、粉砕前の石炭粒度と粉砕後の石炭粒度との相関関係を、前記石炭粉砕機の入側及び出側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果を用いて予め求めておき、
前記石炭粉砕機の入側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果を前記相関関係に適用して、粉砕後の石炭粒度が目標粒度となる際の前記モータの目標電流値I0(A)を決定し、前記モータに流す電流値I1(A)を前記目標電流値I0(A)に設定して石炭を粉砕した後、前記石炭粉砕機の出側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果と前記目標粒度との偏差に応じて前記電流値I1(A)を補正することを特徴としている。
【0011】
石炭粉砕機の粉砕動力(モータ電流値)は石炭粉砕負荷に依存する。石炭粉砕負荷は、ハンマの回転数(単位時間当たりの回転回数)や、ハンマと摩砕板の間隔などによって決定される。また、石炭粉砕負荷は、石炭粉砕機への単位時間当たりの石炭供給量によっても変動する。従って、モータ電流値は、ハンマの回転数や、ハンマと摩砕板の間隔、石炭粉砕機への石炭供給量などの粒度変動要因を反映した物理量であると見做すことができる。
【0012】
本発明では、石炭粉砕機の入側に設置した石炭粒度測定器の測定結果を、粉砕前後の石炭粒度の相関関係に適用して、粉砕後の石炭粒度が目標粒度となる際のモータの目標電流値を決定することにより、粉砕前の石炭粒度のバラツキを考慮すると共に、石炭強度や石炭の含水量などによって粉砕後の石炭粒度が変動するため、出側に設置した石炭粒度測定器の測定結果と目標粒度との偏差に応じて当該モータ電流値を補正するようにしている。

【0017】
本発明に係る石炭粉砕方法では、石炭粉砕機の入側に設置した石炭粒度測定器の測定結果を、粉砕前後の石炭粒度の相関関係に適用して、粉砕後の石炭粒度が目標粒度となる際のモータの目標電流値を決定し、さらに出側に設置した石炭粒度測定器の測定結果と目標粒度との偏差に応じて当該モータ電流値を補正することにより、粉砕前の石炭粒度のバラツキその他の粒度変動要因を吸収する。その結果、従来に比べて、粉砕後の石炭粒度のバラツキを抑制することができる。」

ウ 前記イ(a)によれば、本件発明は、コークスの製造に使用される石炭を粉砕機で粉砕する方法に関するものであって、高炉製鉄法に使用されるコークスは、炉内の通気性を確保するため高強度のものが要求され、そのため、高強度コークスの製造では、石炭が軟化溶融した際に石炭粒子間に強固な接着が生じるように、コークス炉に装入する石炭の嵩密度を上げて、隣接する石炭粒子同士の接触状態を改善することが行われており、石炭装入時の嵩密度を向上させる方法としては、石炭の粒度分布を制御して理想粒度分布(ファーナス分布)に近づける方法が知られており、このため、コークス用石炭の粉砕処理では、粉砕後の石炭粒度を、目標とする粒度範囲に調整することにより、石炭装入時の嵩密度の向上と加熱処理時における大粒径粒子に起因した割れ抑制とを両立することが求められるものである。
ところが、従来の方法は、粉砕後の石炭粒度によって石炭の粉砕条件を変更するものであり、粉砕前の石炭粒度のバラツキを考慮しておらず、粉砕前の石炭粒度が大きく変動した場合、粉砕後の石炭粒度に基づいて石炭の粉砕条件を変更したとしても、目標粒度よりも大きな粒度を有する粉砕石炭が多く製造されてしまい、粉砕後の石炭粒度にバラツキが発生すると、コークス品質の一つであるコークス強度が変動する原因となり、低強度コークスを含むコークスが製造されることになる、という課題(以下、「本件課題」という。)を有するものであり、本件発明は、粉砕後の石炭粒度のバラツキを従来に比べて抑制することが可能な石炭粉砕方法を提供することを目的とするものである。

エ そして、前記イ(b)によれば、本件発明に係る「石炭粉砕方法」は、ケーシング内を回転するハンマの打撃と摩砕板の反撥衝撃により前記ハンマと前記摩砕板の間で石炭を粉砕する石炭粉砕機の入側と出側にそれぞれ石炭粒度測定器を設置し、前記ハンマを回転させるモータの電流値をパラメータとして、粉砕前の石炭粒度と粉砕後の石炭粒度との相関関係を、前記石炭粉砕機の入側及び出側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果を用いて予め求めておき、前記石炭粉砕機の入側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果を前記相関関係に適用して、粉砕後の石炭粒度が目標粒度となる際の前記モータの目標電流値I0(A)を決定し、前記モータに流す電流値I1(A)を前記目標電流値I0(A)に設定して石炭を粉砕した後、前記石炭粉砕機の出側に設置した前記石炭粒度測定器の測定結果と前記目標粒度との偏差に応じて前記電流値I1(A)を補正するものである。

オ すなわち、石炭粉砕機の粉砕動力(モータ電流値)は石炭粉砕負荷に依存し、石炭粉砕負荷は、ハンマの回転数(単位時間当たりの回転回数)や、ハンマと摩砕板の間隔などによって決定され、また、石炭粉砕負荷は、石炭粉砕機への単位時間当たりの石炭供給量によっても変動するので、モータ電流値は、ハンマの回転数や、ハンマと摩砕板の間隔、石炭粉砕機への石炭供給量などの粒度変動要因を反映した物理量であると見做すことができるものであり、本件発明では、石炭粉砕機の入側に設置した石炭粒度測定器の測定結果を、粉砕前後の石炭粒度の相関関係に適用して、粉砕後の石炭粒度が目標粒度となる際のモータの目標電流値を決定し、さらに出側に設置した石炭粒度測定器の測定結果と目標粒度との偏差に応じて当該モータ電流値を補正することにより、粉砕前の石炭粒度のバラツキその他の粒度変動要因を吸収するので、従来に比べて、粉砕後の石炭粒度のバラツキを抑制することができ、本件課題を解決できるものである。
そして、石炭粒度測定器は、3mmアンダーを基準とした特定の目標粒度しか測定できないものではなく、粉砕前後の石炭粒度の相関関係も、3mmアンダーを基準とした特定の目標粒度についてしか求められないものでもないので、石炭粉砕機の入側に設置した石炭粒度測定器の測定結果を、粉砕前後の石炭粒度の相関関係に適用して、粉砕後の石炭粒度が目標粒度となる際のモータの目標電流値を決定し、さらに出側に設置した石炭粒度測定器の測定結果と目標粒度との偏差に応じて当該モータ電流値を補正することを、3mmアンダーを基準としたもの以外の、そのほかの石炭の目標粒度についても実行できることは明らかである。
すると、前記エの石炭粉砕方法により、3mmアンダーを基準としたもの以外のそのほかの石炭の目標粒度についても、粉砕前の石炭粒度のバラツキや、石炭強度や石炭の含水量などのその他の粒度変動要因を吸収して、粉砕後の石炭粒度のバラツキを抑制することにより、本件課題を解決できることも明らかである。

カ 前記オによれば、本件発明は、前記エの石炭粉砕方法により、3mmアンダーを基準としたもの以外のそのほかの石炭の目標粒度についても本件課題を解決できるものであって、更に前記エの石炭粉砕方法は本件発明1に係る石炭粉砕方法にほかならないから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件特許明細書に、石炭の目標粒度が3mmアンダーを基準としたもののみが記載されており、3mmアンダーを基準としたもの以外については説明されていないとしても、そのほかの石炭の目標粒度について、本件発明1により本件課題を解決できることを理解する。
更に、本件発明2?3は本件発明1を引用するものであるから、同様の理由により、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明2?3により本件課題を解決できることを理解する。

キ 前記カによれば、本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、このことと前記アによれば、本件発明1?3は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するというべきである。
したがって、前記第3の3の特許異議申立理由は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-11 
出願番号 特願2016-186790(P2016-186790)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B02C)
P 1 651・ 537- Y (B02C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀧 恭子  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 末松 佳記
金 公彦
登録日 2020-08-11 
登録番号 特許第6747213号(P6747213)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 石炭粉砕方法  
代理人 中前 富士男  
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