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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 特29条の2  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1374113
審判番号 無効2018-800135  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-11-30 
確定日 2021-03-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第6126983号発明「真核細胞におけるエキソンスキッピングの誘導」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6126983号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、5、6、7について訂正することを認める。 特許第6126983号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 【第1】手続の経緯

1.特許第6126983号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成13年9月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年9月21日 欧州特許庁)を国際出願日とする特願2002-529499号(以下、「第1出願」ということがある)の一部を平成23年4月27日に新たな特許出願である特願2011-98952号とし、さらにその一部を平成25年12月18日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月14日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、平成29年11月9日に特許異議申立人 古藤弘一郎により特許異議の申立てがなされ、平成30年3月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月14日付けで訂正請求書及び意見書の提出がなされ、当時の特許庁合議体(以下、「前合議体」ということがある)は同年9月10日付けで
「 特許第6126983号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5、6、7について訂正することを認める。
特許第6126983号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。」
と結論する異議の決定(以下、単に「異議決定」ということがある)をした。

2.その後の、本件の特許無効審判の請求以後の手続等の経緯は、次のとおりである。
・平成30年11月30日 審判請求書の提出
・平成31年 2月 6日付け 審判請求書の手続補正書の提出
・令和 1年 5月16日付け 審判事件答弁書(以下、「答弁書」と
いうことがある)の提出
・ 同 年 8月 6日付け 審理事項通知書
・ 同 年 9月26日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)(以下、
「[請]陳述要領書」ということがある)
の提出
・ 同 年10月10日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)(以
下、「[被請]陳述要領書」という
ことがある)の提出
・ 同 年10月29日付け 物件提出書(被請求人)(乙第10号
証の原本を添付したもの。以下「[被
請]物件提出書」ということがある)
の提出
・令和 2年 3月26日付け 審決の予告
・ 同 年 6月29日付け 訂正請求書及び上申書(以下、後者を
[被請]上申書」ということがある)
の提出


【第2】訂正請求について

1.訂正の内容
【第1】2.の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」ということがある)は、異議決定において訂正が認められた、【第1】1.の特許異議申立事件の係属時に平成30年6月14日付けで提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載されたとおりの、次の請求項1?7:
「 【請求項1】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?40個のヌクレオチドを含有し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)を包含することを特徴とする医薬。
【請求項2】
スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴とする、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であることを特徴とする、請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
該変異ジストロフィンタンパク質が、ベッカー型筋ジストロフィー患者のジストロフィンタンパク質と同等であることを特徴とする、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部に対して相補的であり、14?40個のヌクレオチドを含有し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする核酸運搬体(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)。
【請求項6】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部に対して相補的であり、14?40個のヌクレオチドを含有し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)。
【請求項7】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体の使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部に相補的であり、14?40個のヌクレオチドを含有し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)。 」
(以下、これらの請求項1?7の特許に係る発明を、その請求項に付された番号順に「訂正前の請求項1?7に係る発明」又は「本件発明1」?「本件発明7」等ということがある。また、これらをまとめて「本件発明」ということがある)
に対する、次の(1)?(7)のとおりの訂正である。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?40個のヌクレオチドを含有し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)を包含することを特徴とする医薬。」
とあるのを
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2に
「スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴とする、請求項1に記載の医薬。」
とあるのを
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のエキソン認識配列(ERS)に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬であって、スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴とする、医薬。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3に
「該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であることを特徴とする、請求項2に記載の医薬。」
とあるのを
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬であって、スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴とし、該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であることを特徴とする、医薬。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4に
「該変異ジストロフィンタンパク質が、ベッカー型筋ジストロフィー患者のジストロフィンタンパク質と同等であることを特徴とする、請求項3に記載の医薬。」
とあるのを
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のプリン塩基に富んだエキソンのスプライシング制御に係る機能を有する配列に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬であって、スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていること、該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であること、および該変異ジストロフィンタンパク質が、ベッカー型筋ジストロフィー患者のジストロフィンタンパク質と同等であることを特徴とする、医薬。」
と訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項5に
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部に対して相補的であり、14?40個のヌクレオチドを含有し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする核酸運搬体(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)。」
とあるのを
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に対して相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする核酸運搬体。」
と訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項6に
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部に対して相補的であり、14?40個のヌクレオチドを含有し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)。」
とあるのを
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に対して相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用。」
と訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項7に
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体の使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部に相補的であり、14?40個のヌクレオチドを含有し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)。」
とあるのを
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体の使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用。」
と訂正する。

なお、訂正前の請求項1?4は、請求項1を直接又は間接的に引用する一群の請求項であり、本件訂正は、当該一群の請求項1?4、並びに、請求項5、請求項6及び請求項7について請求されている。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、
(ア)「細胞」を「ヒト」由来のものに限定し;
且つ、
(イ)「アンチセンスオリゴヌクレオチド」について、
「該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?40個のヌクレオチドを含有」し「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」ものであるのを、
「該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害」するものに限定すると共に、ヌクレオチドの個数(ヌクレオチド長)を「14?25個」に限定したことに伴い冗長となった「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」(ここでいう「配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるもの」は、ヌクレオチド長が26個、即ち25個超であって、元々「14?25個」の範囲外である)との記載を削除する;
ものであるから、これら(ア)及び(イ)はいずれも、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
ア(ア)については、願書に添付した明細書中の例えば「・・・。細胞は・・・、典型的な生物の例にはヒトやマウスが含まれる。」(特許明細書【0006】)と記載されており;
ア(イ)については、願書に添付した明細書中の「・・・本発明・・・は・・・好ましい態様においては、製造が容易であり、細胞による取り込みがより効果的に行われることから、14?25個のヌクレオチドからなる分子を使用する。」(特許明細書【0014】)との記載、及び実施例の「hAON#8」(特許明細書【0026】、「hAON#29」(特許明細書【0034】)等のヌクレオチド長が20個のアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)に関する記載、並びに、「・・・本発明はRNAスプライシング反応系のmRNA前駆体を、該mRNA前駆体に含まれる少なくとも1つのエキソンが有するエキソン封入シグナル(exon inclusion signal)(EIS)を特異的に阻害することが可能な試薬と接触させ、そして該mRNA前駆体のスプライシングを行わせしめることを包含する、RNAスプライシング反応系においてmRNA前駆体のスプライシングを制御するための方法を提供する。・・・。スキップされるエキソン内の配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを与えることによって、エキソン封入シグナルと干渉して、エキソンをスプライシング機構から効果的に遮蔽することができる。」(特許明細書【0006】。下線は当合議体による。以下同様)、及び「本発明の好ましい態様において、エキソン封入シグナルはエキソン認識配列(exon recognition sequence)(ERS)に特異的なアンチセンス核酸による干渉を受ける。このような配列は比較的プリン塩基に富み、スキップされるエキソンの配列情報を精査することで特定することが可能である(Tanakaら、1994, Mol. Cell Biol. 14: p.1347-1354)。」(特許明細書【0010】)との記載にみられるとおりである;
ことから、いずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらをまとめて「当初明細書等」ということがある)に記載した事項の範囲内のものである。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、
(ア)訂正前の請求項2が引用していた請求項1の「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、」の規定を直接記載すると共に;
(イ)「細胞」を「ヒト」由来のものに限定し;
(ウ)同請求項1の「アンチセンスオリゴヌクレオチド」が
「該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?40個のヌクレオチドを含有」し「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」ものであるのを、
「該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のエキソン認識配列(ERS)に相補的な20?25個のヌクレオチドからな」るものに限定すると共に、ヌクレオチドの個数(ヌクレオチド長)を「20?25個」に限定したことに伴い冗長となった「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」との記載を削除する;
ものである。
上のア(ア)は、請求項2の記載が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立請求項へ改めるものであって、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、また、ア(イ)及びア(ウ)は、(1)のア(ア)及びア(イ)と同様に、特許法第134条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項追加の有無
ア(ア)については、訂正前の請求項1に記載されており、また、ア(イ)及びア(ウ)については、(1)のア(ア)及びア(イ)の訂正について(1)イで述べたのと同様であるから、いずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
訂正事項2は、上記アのとおり、請求項間の引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、
(ア)訂正前の請求項3が間接的に引用していた請求項1の「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、」の規定、及び同請求項3が引用していた請求項2の「スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴と」することの規定を直接記載すると共に;
(イ)「細胞」を「ヒト」由来のものに限定し;
(ウ)同請求項1の「アンチセンスオリゴヌクレオチド」が
「該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?40個のヌクレオチドを含有」し「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」ものであるのを、
「該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害」するものに限定すると共に、ヌクレオチドの個数(ヌクレオチド長)を「20?25個」に限定したことに伴い冗長となった「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」との記載を削除する;
ものである。
上のア(ア)は、請求項3載が直接又は間接的に請求項1及び2の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立請求項へ改めるものであって、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、また、ア(イ)及びア(ウ)は、(1)のア(ア)及びア(イ)と同様に、特許法第134条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項追加の有無
ア(ア)については、訂正前の請求項1及び2に記載されており、また、ア(イ)及びア(ウ)については、(1)のア(ア)及びア(イ)の訂正について(1)イで述べたのと同様であるから、いずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
訂正事項3は、上記アのとおり、請求項間の引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、
(ア)訂正前の請求項4が間接的に引用していた請求項1の「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、」の規定、及び同請求項4が引用していた請求項3の「スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴と」することの規定、及び同請求項4が引用していた請求項3の「スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていること、該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であること」の規定を直接記載すると共に;
(イ)「細胞」を「ヒト」由来のものに限定し;
(ウ)同請求項1の「アンチセンスオリゴヌクレオチド」が
「該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?40個のヌクレオチドを含有」し「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」ものであるのを、
「該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のプリン塩基に富んだエキソンのスプライシング制御に係る機能を有する配列に相補的な20?25個のヌクレオチドからな」るものに限定すると共に、ヌクレオチドの個数(ヌクレオチド長)を「20?25個」に限定したことに伴い冗長となった「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」との記載を削除する;
ものである。
上のア(ア)は、請求項4が直接又は間接的に請求項1?3の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立請求項へ改めるものであって、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、また、ア(イ)及びア(ウ)は、(1)のア(ア)及びア(イ)と同様に、特許法第134条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項追加の有無
ア(ア)については、訂正前の請求項1?3に記載されている。
ア(イ)については、(1)のア(ア)の訂正について(1)イで述べたのと同様に、当初明細書等中に例えば「・・・。細胞は・・・、典型的な生物の例にはヒトやマウスが含まれる。」(特許明細書【0006】)と記載されている。
ア(ウ)については、当初明細書等中の「・・・本発明・・・は・・・好ましい態様においては、製造が容易であり、細胞による取り込みがより効果的に行われることから、14?25個のヌクレオチドからなる分子を使用する。」(特許明細書【0014】)や「hAON#8」(特許明細書【0026】。20塩基からなる)、「hAON#29」(特許明細書【0034】。20塩基からなる)等のアンチセンスオリゴヌクレオチド例の記載、並びに、「・・・本発明はRNAスプライシング反応系のmRNA前駆体を、該mRNA前駆体に含まれる少なくとも1つのエキソンが有するエキソン封入シグナル(exon inclusion signal)(EIS)を特異的に阻害することが可能な試薬と接触させ、そして該mRNA前駆体のスプライシングを行わせしめることを包含する、RNAスプライシング反応系においてmRNA前駆体のスプライシングを制御するための方法を提供する。」(特許明細書【0006】)、「本発明の好ましい態様において、エキソン封入シグナルはエキソン認識配列(exon recognition sequence)(ERS)に特異的なアンチセンス核酸による干渉を受ける。このような配列は比較的プリン塩基に富み、スキップされるエキソンの配列情報を精査することで特定することが可能である(Tanakaら、1994, Mol. Cell Biol. 14: p.1347-1354)。」(特許明細書【0010】)、及び「 エキソン46の内部領域に対する・・・ヒト特異的AON系列(・・・hAON)を設計した(図2)。使用したエキソン46の内部領域は、プリン塩基に富んだ配列を有し、エキソン46のスプライシング制御に係る推定上の機能を有すると考えられる。」(特許明細書【0023】)との記載にみられるとおりである。
したがって、これらア(ア)?ア(ウ)は、当初明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
訂正事項4は、上記アのとおり、請求項間の引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(5)訂正事項5?7について
ア 訂正の目的
訂正事項5?7は、訂正前の請求項5?7において、
(ア)各「細胞」をそれぞれ「ヒト」由来のものに限定し;
(イ)各「アンチセンスオリゴヌクレオチド」について、
「該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部に」対して「相補的であり、14?40個のヌクレオチドを含有」し「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」ものであるのを
「該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に」対して「相補的な14?25個のヌクレオチドからな」るものに限定すると共に、ヌクレオチドの個数(ヌクレオチド長)を「14?25個」に限定したことに伴い冗長となった「(ただし、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、DNAまたはホスホロチオエートDNAであってその塩基配列が、特開2002-10790において配列番号4で表されるGACCTGCTCAGCTTCTTCCTTAGCTTCCAGCであるものを除く)」との記載を削除する;
ものであるから、これら(ア)及び(イ)はいずれも、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
ア(ア)及びア(イ)については、(1)のア(ア)及びア(イ)の訂正について(1)のイで述べたのと同様であるから、いずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
訂正事項5?7は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(6)独立特許要件について
全請求項に対して特許無効審判が請求されているので、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件に関する規定は適用されない。

3.小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第4号に掲げるいずれかの事項を目的とするものであり、しかも同条第9項において準用する同法第126条第5項乃至第7項の規定に違反するものでもないから、本件訂正を認める。


【第3】訂正後の本件発明
前記【第2】のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の請求項1?7に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。
( 以下、当該訂正後の請求項1?7を単に「請求項1?7」ということがある。また、これらの請求項に係る発明を順に「訂正発明1」?「訂正発明7」ということがあり、これらの発明をまとめて「訂正発明」ということがある。)

「 【請求項1】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬。
【請求項2】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のエキソン認識配列(ERS)に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬であって、スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴とする、医薬。
【請求項3】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬であって、スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴とし、該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であることを特徴とする、医薬。
【請求項4】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のプリン塩基に富んだエキソンのスプライシング制御に係る機能を有する配列に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬であって、スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていること、該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であること、および該変異ジストロフィンタンパク質が、ベッカー型筋ジストロフィー患者のジストロフィンタンパク質と同等であることを特徴とする、医薬。
【請求項5】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に対して相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする核酸運搬体。
【請求項6】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に対して相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用。
【請求項7】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体の使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用。 」


【第4】当事者の主張、及び、提出した証拠方法

【4-1】請求人の主張する無効理由、及び、提出した証拠方法

1.請求人は、特許第6126983号の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、審判請求書及び[請]陳述要領書により、本件特許には概要以下の無効理由1?8が存在する旨を主張し、証拠方法として甲第1?44号証、甲第8-2、9-2、10-2、18-2、および40-2号証を提出(全て原本に代えて写しを提出)している(以下、例えば、甲第1号証を「甲1」などということがある)。

(1)無効理由1:実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号)
本件発明に係る医薬は、特定の機能を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を含む医薬に関するが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、この医薬が製造することができるように明細書に明確かつ十分に記載されていないし、かつ、その活性成分としてのAONに係る実施例が一切記載されていない、薬理活性のデータの記載がないなど、当業者が使用できるように明確かつ十分に記載されていない。よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

(2)無効理由2:サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その活性成分としてのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)に係る実施例が一切記載されていない、薬理活性のデータの記載がないなど、本件発明に係る医薬は、当業者が本件特許明細書の発明の詳細な説明から特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないし、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

(3)無効理由3:明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)
本件発明においては、「エキソン53の内部領域」という用語の技術的意味を理解することができないため、本件特許請求の範囲に記載された発明の外延を明確に把握することができない。よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

(4)無効理由4:拡大された先願の地位に係る無効理由(特許法第29条の2)
本件発明は、エクソン53のSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を含むDMD治療薬を包含するものであるが、その出願前に出願され、出願後に公開された先の特許出願の明細書(甲13)には、訂正後の請求項から除かれた「配列番号4のAON」に限定されることなく、エクソン53のSESに対するAONを含むDMD治療薬が明確に記載されているから、特許法第29条の2の規定に基づいて特許を受けることができないものである。したがって、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

(5)無効理由5:進歩性欠如その1(特許法第29条第2項)
本件発明は、その優先日に頒布された刊行物である甲11に記載された発明に、公知技術又は周知技術(例えば、甲1?12、15?17、30および34)、特に甲8、9、15、30、34などに記載された技術的事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
具体的には、甲11には、エクソン19のSESに対するAONを用いてDMD症例の筋細胞においてエクソン19のスキッピングを確認しており、エクソン19に対するAONを用いるDMDの治療方法及び治療薬が記載されている。甲30には、「エクソン53のSESを同定したこと、エクソン53スキッピングにより、ジストロフィン蛋白の発現を誘導し得ること、このSESに対するAONがDMDの治療戦略に使用し得ること」が開示されている。したがって、甲11に記載のエクソン19に対するAONを含むDMD治療薬発明において、エクソン19に対するAONをエクソン53に対するAONに置換する程度のことは当業者が容易に想到し得たことに過ぎない。
したがって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

(6)無効理由6:新規性欠如、又は、進歩性欠如その2(特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項)
本件特許明細書では、本件特許の基礎出願である欧州特許出願EP00203283.7号出願書面(基礎出願)(甲31)に記載していない技術的事項を追加記載し、請求項もそのように拡張記載している。したがって、本件特許は基礎出願(甲31)の優先権の利益を享受することはできず、その有効な出願日は、2001年9月21日(国際出願日)となる。
そうすると、本件発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲18に記載された発明であるか、又は、甲18に記載された発明に公知技術又は周知技術(例えば、甲1?12、15?17、30および34)、特に甲8、9、15、30、34などに記載された技術的事項を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない発明であるか、又は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

(7)無効理由7:進歩性欠如その3(特許法第29条第2項)
本件発明は、その優先日前に頒布された刊行物である甲30に記載された発明に、公知技術又は周知技術(例えば、甲1?12、15?17、30および34)、特に甲8、甲9,甲11、甲34などに記載された技術的事項を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。具体的には、甲30には、「エクソン53のSESを同定したこと、エクソン53スキッピングにより、ジストロフィン蛋白の発現を誘導し得ること、このSESに対するAONがDMDの治療戦略に使用し得ること」が開示されている。また、甲11には、「エクソン19のSESに対するAONをDMD症例の筋細胞に導入し、エクソン19スキッピング及びジストロフィン蛋白の発現を確認したこと、このAONによるエクソン19スキッピングはDMDの有効な治療法となり得ること」が記載されている。したがって、 甲30に記載のエクソン53に対するAONを、甲11に記載のように、DMD症例の筋細胞に導入し、エクソン53のスキッピング及びジストロフィン蛋白の発現を確認し、エクソン53のSESに対するAONをDMDの治療剤として用いることは、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。
ゆえに、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

(8)無効理由8:進歩性欠如その4(特許法第29条第2項)
本件発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲9に記載された発明に、公知技術又は周知技術(例えば、甲1?12、15?17、30および34)、特に甲11などに記載された技術的事項を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
具体的には、甲9には、エクソン19に対するAONでリンパ芽球細胞においてエクソン19をスキッピングしたことが報告され、甲30には、エクソン53のSESに対するAONをDMD治療に使用し得ることが記載されている。また、甲11には、エクソン19に対するAONを用いてDMD症例の筋細胞でエクソン19をスキッピングしたことが報告されている。したがって、標的エクソンをエクソン19からエクソン53に代え、そのスキッピング効果をDMD症例の筋細胞で確認し、DMD治療として用いることは当業者には容易に想到し得たことである。
したがって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証:BIOCHEM.BIOPHYS.RES.COMMUN.,(1990) 170(2) P.963-967
・甲第2号証:松尾雅文「Duchenne型筋ジストロフィーの治療法開発に向けての分子生物学的研究 研究課題番号:06557047 平成9年3月」(文部省科学研究費補助金研究成果報告書) 表紙、P.1,5-13
・甲第3号証:J.NEUROL.,(1991) 238 P.6-8
・甲第4号証:J.CLIN.INVEST.,(1991) 87(6) P.2127-2131
・甲第5号証:J.CLIN.INVEST.,(1993) 91(5) P.1862-1867
・甲第6号証:PROC.ASSOC.AM.PHYSICIANS,(1996) 108(4) P.308-314
・甲第7号証:MOL.CELL.BIOL.,(1994) 14(2) P.1347-1354
・甲第8号証:J. CLIN. INVEST.,(1995) 95(2) P.515-520
・甲第8-2号証:J.CLIN.INVEST.,(1995) 95(2) P.515-520
・甲第9号証:BIOCHEM.BIOPHYS.RES.COMMUN.,(1996) 226(2) P.445-449
・甲第9-2号証:BIOCHEM.BIOPHYS.RES.COMMUN.,(1996) 226(2) P.445-449
・甲第10号証:J.CLIN.INVEST.,(1997) 100(9) P.2204-2210
・甲第10-2号証:J.CLIN.INVEST.,(1997) 100(9) P.2204-2210
・甲第11号証:日本人類遺伝学会第44回大会プログラム・抄録集,(1999) P.83 WC9
・甲第12号証:日本先天代謝異常学会雑誌,(1999) 15(2) P.233
・甲第13号証:特願2000-125448号 出願時書面
・甲第14号証:欧州特許出願公開第1160318号明細書
・甲第15号証:HUM.GENET.,(1990) 86 P.45-48
・甲第16号証:松尾雅文「Duchenne型筋ジストロフィーの新しい治療法の確立 課題番号:10557076 平成12年3月」(文部省科学研究費補助金研究成果報告書) 表紙、P.1,5-11
・甲第17号証:GENES & DEVELOPMENT,(1993) 7 P.407-418
・甲第18号証:HUM.MOL.GENET.,(2001) 10(15) P.1547-1554
・甲第18-2号証:HUM.MOL.GENET.,(2001) 10(15)の目次
(https://academic.oup.com/hmg/issue/10/15)
・甲第19号証:欧州特許出願番号12198517.0出願(公開番号:2602322)のEPO(欧州特許庁)審査係属時において2014年10月21日付けで出願人がEPOに対し提出した意見書
・甲第20号証:知財高裁平成27年(行ケ)第10021号判決
・甲第21号証:知財高裁平成27年(行ケ)第10052号判決
・甲第22号証:知財高裁平成23年(行ケ)第10179号判決
・甲第23号証:知財高裁平成24年(行ケ)第10071号判決
・甲第24号証:知財高裁平成21年(行ケ)第10170号判決
・甲第25号証:HUMAN GENE THERAPY,(2007) 18 P.798-810
・甲第26号証:知財高裁平成17年(行ケ)第10042号判決
・甲第27号証:知財高裁平成24年(行ケ)第10299号判決
・甲第28号証:知財高裁平成18年(行ケ)第10509号判決
・甲第29号証:特開2002-10790号公報
・甲第30号証:日本先天代謝異常学会雑誌,(1999) 15(2) P.232 100
・甲第31号証:欧州特許出願番号203283.7 出願時書面
・甲第32号証:米国特許商標庁(USPTO)が録取したJUDITH VAN DEUTEKOM,Ph.D.による証言(2015年3月11日)の記録 P.1-7,87-115,14 8-150
・甲第33号証:JUDITH VAN DEUTEKOMによる実験成績証明書(2017年5月16日付け)
・甲第34号証:MOLECULAR BIOTECHNOLOGY, (1999) 12 P.1-11
・甲第35号証:本件特許出願:特願2013-260728号の審査係属時における平成27年4月13日付け意見書
・甲第36号証:本件特許に係る異議2017-701044号事件の異議の決定
・甲第37号証:特願2011-98952号の審査係属時における平成25年8月21日付け拒絶査定
・甲第38号証:CELL,(1988) 53 P.219-228
・甲第39号証:GENOMICS,(1993) 16 P.536-538
・甲第40号証:HUMAN MOLECULAR GENETICS,(2000) 9(2) P.259-265
・甲第40-2号証:HUMAN MOLECULAR GENETICS,(2000) 9(2) のウェブページ(https://academic.oup.com/hmg/issue/9/2),2019年9月25日(出力日)
・甲第41号証:「スピンラザ^((R))髄注12mg」の添付文書,2019年1月改訂(第3版)(承認番号22900AMX00587000)
・甲第42号証:科学研究費助成事業 2002年度実験報告書「ジストロフィン遺伝子エクソン内のスプライシング促進配列に関する研究」,2019年6月24日(出力日),研究課題/領域番号13670802
・甲第43号証:GENOMICS,(1988) 2 P.90-95
・甲第44号証:BRAIN & DEVELOPMENT,(1996) 18 P.167-172

2.ただし、[請]陳述要領書における、甲第40、40-2、41及び42号証に基づく、23頁19行「また、ミニジーン試験系の有用性は、・・」?24頁20行「 ゆえに、被請求人の主張は失当である。」の主張に関し、口頭審理において審判長は
「審判請求書に添付されていない新たな証拠に基づいて、進歩性否定の無効理由についての新たな主張を追加するものであるから、請求の理由の要旨を変更する補正というべきものであり、特許法第131条の2第2項の規定により、許可しない」
との決定を下した。

※当合議体注:
・注1.無効理由1の関連適用条文について、請求人は上記1.(1)のとおり、審判請求書及び[請]陳述要領書において「特許法第36条第4項第1号」(下線は当合議体による。以下同様)としているが、本件特許出願は適法な分割に係るものであってその出願日は第1出願の国際出願日:平成13年9月21日へ遡及すること、及び、当該国際出願日当時の適用条文を踏まえると、請求人が審判請求書及び[請]陳述要領書にいう「特許法第36条第4項第1号」は、「特許法第36条第4項」を意図するものと解される。
また、実際、請求人自身、審判請求書中の例えば47頁3?5行では、無効理由1に関し「・・・。よって、本件特許は、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対しなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し・・・」等と述べている。
よって、以下、請求人が主張する無効理由1について、審判請求書及び[請]陳述要領書中の各「特許法第36条第4項第1号」は、「特許法第36条第4項」と読みかえることとして、以下に判断を示す。
・注2.無効理由6に関し、審判請求書の目次及び「第2 無効審判請求の要点」(10頁24行?11頁13行)中では、甲第18号証を主引用例とする進歩性否定の理由(適用条文:特許法第29条第2項)のみ示されているが、後段では甲第18号証に基づく新規性否定(適用条文:特許法第29条第1項第3号)の主張もされていることから(例えば79頁「3.まとめ」)、上記1.(6)のとおり、無効理由6としては、進歩性否定に係る無効理由の他、上記新規性否定に係る無効理由も併せて主張されているものと認める。
・注3.甲第8-2号証、甲第9-2号証及び甲第10-2号証は、いずれも[請]陳述要領書に添付して提出されたものであるところ、これらは審判請求時に提出された甲第8号証、甲第9号証、及び甲第10号証のそれぞれに請求人により下線及び抄訳が付されたものであって、甲第8-2号証は甲第8号証と、甲第9-2号証は甲第9号証と、甲第10-2号証は甲第10号証と、各々同一の証拠である。
以下、これら甲第8-2号証、甲第9-2号証及び甲第10-2号証は、この順に、先の甲第8号証、甲第9号証及び甲10号証とそれぞれ併せ、まとめて甲第8号証、甲第9号証及び甲第10号証として扱う。


【4-2】被請求人の主張、及び、提出した証拠方法

被請求人は、答弁書、[被請]陳述要領書、[被請]物件提出書及び[被請]上申書により、本件訂正後の請求項1?7に係る特許には、上述の無効理由1?8はいずれも存在しない旨を主張し、証拠方法として乙第1?21号証を提出(乙第10号証は原本を提出、乙第1?9、11?21号証は原本に代えて写しを提出)している(以下、例えば、乙第1号証を「乙1」などということがある)。

[証拠方法]
・乙第1号証:日本先天代謝異常学会雑誌,(1999) 15(2) p.233,表紙,奥付
・乙第2号証:日本先天代謝異常学会雑誌,(1999) 15(2) p.232,表紙,奥付
・乙第3号証:国際公開第2012/029986号
・乙第4号証:知財高裁平成29年(行ケ)第10226号判決
・乙第5号証:特開2002-10790号公報
・乙第6号証:特願2000-348957号の審査係属時における平成22年6月21日付け拒絶理由通知書
・乙第7号証:特願2000-348957号の審査係属時における平成22年8月14日付け手続補正書
・乙第8号証:特願2000-348957号の審査係属時における平成22年8月14日付け意見書
・乙第9号証:特許第4590033号公報
・乙第10号証:VAN DEUTEKOM博士の宣誓書,2019年10月10日作成
・乙第11号証:HUMAN MOLECULAR GENETICS,(2001) 10(15) P.1547-1554
・乙第12号証:CLIN.EXP.PHARMACOL.PHYSIOL.,(2006) 33 P.533-540
・乙第13号証:NEUROMUSCUL.DISORD.,(2002) 12 SUPPL.1 P.S71-S77
・乙第14号証:国際公開第99/053101号
・乙第15号証:NUCLEIC ACIDS RESEARCH,(2000) 28(6) P.1340-1347
・乙第16号証:NUCLEIC ACIDS RESEARCH,(1994) 22(22) P.4591-4598
・乙第17号証:NAT.MED.,(1996) 2(6) P.668-675
・乙第18号証:BIOL.CHEM.,HOPPE-SEYLER, (1995 MAR.) 376 P.195-198
・乙第19号証:欧州特許第2602322号についての異議申立手続における欧州特許庁による異議決定の理由,2019年7月15日
・乙第20号証:スピンラザ(登録商標)の特許及び排他性を示す米国食品医薬品局(FDA)のORANGE BOOKのウェブページ,2019年10月7日(出力日)
・乙第21号証:米国特許第7838657号明細書

※当合議体注:
・注1.当合議体による乙第10号証の原本確認は、口頭審理の終了後に提出された[被請]物件提出書に添付された同原本により行われた。


【第5】当合議体の判断

当合議体は、訂正発明1?7に係る特許は、請求人が主張する無効理由1?8中の無効理由1、2、5及び7によって、無効にされるべきものと判断する。

以下、事案に鑑み、
関連甲号証の記載事項を【5-1】で摘記した後、
無効理由3について【5-2】で判断を示し、
無効理由1及び2について【5-3】及び【5-4】で判断を示し、
その後
無効理由4について【5-5】で判断を示し、
無効理由7について【5-6】で判断を示し、
無効理由5について【5-7】で判断を示し、
無効理由8について【5-8】で判断を示し、
最後に
無効理由6について【5-9】で判断を示す
こととする。

※当合議体注(【5-1】?【5-9】全体について)
・注1.「エキソン」/「エクソン」について、本件発明並びに本件特許明細書では「エキソン」と表記されている一方、審判請求書や引用甲号証(甲11、甲30等)では「エクソン」との表記がみられるが、両者はいずれも同一語:「exon」の片仮名表記であって、同義の物である。
以下の判断では、提出書類中の記載振りや引用証拠中の記載振り等に応じて「エキソン」/「エクソン」の両表記を用いているが、両者は同義であることを前提とする。
・注2.「アンチセンスオリゴヌクレオチド」を、「AON」又は「AS-oligo」等と略記することがある。


【5-1】関連甲号証の記載事項

【5-2】?【5-9】で引用する甲号証には、以下のような記載がある。

※当合議体注:
・注1.原文が英語のものは、当事者が提出した訳文を参考にしつつ当合議体で作成した日本語文にて記す。
・注2.下線は当合議体による。

1.甲7:MOL.CELL.BIOL.,(1994) 14(2) P.1347-1354

・甲7.1(標題)
「 下流エクソン内のポリプリン配列はスプライシングエンハンサーとして機能する 」

・甲7.2(要約)
「 我々は以前に、マウスイムノグロブリンμ遺伝子のエクソンM2内に位置するプリンリッチな配列が、その離れた上流のイントロンのスプライシングを刺激する能力によって判断されるとおり、スプライシングエンハンサーとして機能することを示した。この配列エレメントはこれまでにERS(エクソン認識配列(exon recognition sequence))と命名された。本研究では、HeLa細胞核抽出物を用いたインビトロのスプライシング系により、種々のERS様配列が有する刺激作用を試験した。本稿では、スプライシングに必要であると以前から報告されて来たいくつかの天然エクソンのプリンリッチ配列が、イムノグロブリンμ遺伝子のERSの様にスプライシングエンハンサーとして機能することを示す。さらに、合成のポリプリン配列であっても上流のスプライシングを刺激する作用を有していた。天然及び合成の両方のプリンリッチ配列の解析から得られたデータの評価は、(i)プリン配列を入れ替えてもスプライシングを刺激できる一方、ポリ(A)又はポリ (G)配列ではスプライシングを刺激できないこと、及び、(ii)ポリプリン配列中にU残基が存在すると刺激レベルが著しく低下すること、を明らかにする。競合試験が強く示唆するのは、種々のプリンリッチ配列の刺激作用は同じトランス作用因子により媒介されている、ということである。これらの結果からの結論は、本研究で試験したプリンリッチ配列もまたERSの新たな代表例である、ということである。したがって、ERSは種々のエクソンに存在する一般的なスプライシングエレメントであって、スプライス部位の選択に重要な役割を果たしていると考えられる。 」

・甲7.3(1347頁左欄1行?1348頁左欄13行)
「 真核生物遺伝子における最も特有な特徴の1つは、コード領域を中断するイントロン配列の存在である。したがって、mRNA前駆体からのイントロンの除去は、真核生物における遺伝子発現のための必須の工程である。・・・エクソン及びイントロンを区別するのに必要な数種の保存配列領域・・・。最もよく保存された領域はエクソン-イントロンの境界、即ち5’及び3’スプライス部位に存在し・・・。
これらの領域は重要ではあるが、エクソン-イントロンの識別の正確さを説明するには十分ではないように思われる。・・・。さらに、これまでに、スプライス部位の選択はその配列のみに依存するのではなく、当該配列が存在する前後にも依存することが示されてきた(29)。・・・。この点に関し、エクソンの長さ・・・及びスプライス部位の周囲の領域の2次構造・・・がスプライス部位の選択に影響を及ぼすことが示された。加えて、スプライシングにおける特異的エクソン配列の役割を示唆する多数の報告がある・・・。
我々は以前、マウスイムノグロブリンμ(IgM)遺伝子の最終エクソンM2内に位置するプリンリッチな配列が同遺伝子のスプライシングに必須の役割を果たしていることを示して来た(47、48)。我々は、この配列がスプライシング促進剤として機能することを見出した:それは、上流領域に存在する遠位のイントロンのスプライシングを刺激した。この刺激作用は、異なる遺伝子由来のイントロンについても観察された(48)。我々はまた、この配列が早期のスプライシング複合体の形成を促進することも見出した(48)。これらの結果は、IgMのエクソンM2内で我々が同定した配列がスプライス部位の選択に関与する新規なエレメントであることを示す。我々はこの配列エレメントをERS(エクソン認識配列)と名付けた。
さらに、我々はこれまでに、その変異又は欠失がスプライス部位の選択に影響を及ぼす数種のエクソン配列が、IgMのエクソンM2(IgM-ERS)のERSと類似するプリンリッチな配列を含むことを見出してきた(参照文献48の表1参照)。その例には、・・・(ASLV)遺伝子・・・(cTNT)遺伝子・・・(hprt)遺伝子・・・(BGH)遺伝子・・・ラットβ-トロポミオシン遺伝子・・・フィブロネクチン遺伝子・・・(NCAM)遺伝子が含まれる。・・・
本研究において、我々は、天然及び合成によるプリンリッチな配列のDrosophila melanogaster doublesex遺伝子由来の異種イントロンのスプライシングに及ぼす刺激作用を広範囲に試験した。我々は、当該スプライシング反応の動態へのそれらプリンリッチ配列の刺激作用を直接試験し得る、HeLa細胞核抽出物を用いたin vitroスプライシング系を利用した。我々が見出したのは、(i)交互のプリン配列がスプライシング促進剤として機能し得る一方、ポリ(A)又はポリ(G)配列は機能し得ず、そして(ii)ポリプリン配列内のU残基の存在は刺激レベルを著しく減少させる、ということである。」

・甲7.4(1348頁左欄19?49行)
「 材料及び方法
プラスミド構築。 全ての構築は、標準的なクローニング手順(36)を用いることによってなされ、配列決定によって確認された。
キメラdsx mRNA前駆体の鋳型プラスミドを構築するため、pdsx-Sa(48)がXbaI及びHindIIIで切断され、アニーリングされたオリゴヌクレオチドがこれらの部位に挿入された。競合RNAの鋳型プラスミドは、出発プラスミドとしてpSP72ベクター(Promega)が用いられたこと以外は、同様に作製された。ここで用いられたオリゴヌクレオチドは、5’-CTAGAXnA-3’及び5’-AGCTTXRnであり、XnとXRnは種々の相補的配列を表す。(図1及び6並びに表1及び2に示された各配列の記述を参照のこと。)
mRNA前駆体の調製とin vitroスプライシング。 キャップアナログ(m^(7)Gp_(3)G)及び[α-^(32)P]GTPの存在下でT7RNAポリメラーゼを用いてin vitroでの転写が行われた。競合RNAの調製には、キャップアナログと放射線ラベルヌクレオチドの使用は省略された。HeLa細胞核抽出物が先の報告(8)のように調製された。スプライシング反応は、先の報告に記載される反応混合物10μlを用いて定量した(35)。反応産物は電気泳動されBA100A Bio-imageアナライザー(FUJIX)を用いて定量された。
競合実験は次のとおりに行った。最初にHeLa細胞核抽出物を競合RNAと共に氷上で10分間インキュベートした。次に放射線ラベルされたmRNA前駆体及び10×SP溶液(200mMのクレアチンリン酸塩、5mMのATP、20mMのMgCl_(2))が添加されて標準スプライシング条件(35)が供された。さらに30℃で40分間インキュベーションが行われ、反応産物が解析された。」

・甲7.5(1348頁左欄50行?右欄25行)
「 結果
種々の遺伝子由来のエクソン配列によるスプライシング刺激。 プリンリッチな配列の数種の例が図1Bに示されている。・・・これらのプリンリッチエクソン配列の刺激作用を調べるため、我々はDrosophila doublesex(dsx)遺伝子由来の単一イントロン基質の変異体を用いてHeLa細胞核抽出物と共にin vitroスプライシングを実行した。本研究で用いられた基本的な構築物は、dsx遺伝子の全長第3エクソン、第3イントロン、及び20ヌクレオチド(nt)の第4エクソン5’末端部分をpSP72ベクター由来の短いリーダー及びトレーラー配列と共に含んでいる(図1A)。この第3イントロンのポリピリミジン区域は最適以下であることが以前に示された・・・。したがって、この基質については、HeLa細胞核抽出物内では何らかの追加のエクソン配列が当該構築物の3’末端になければスプライシングは生じない・・・。しかしながら、下流エクソンの3’側にIgMのエクソンM2のERSが導入されると、スプライシングは強力に刺激された・・・。この系を用いて、我々は他種の遺伝子、例えばASLV、TNT、hprt、及びBGH遺伝子(図1B)由来のプリンリッチ配列の刺激作用を試験した。これらの配列の全てがスプライシングを刺激し得るが、その程度は異なることを見出した・・・。・・・。このケースでは、このような刺激作用間の差異は下流のエクソンのサイズによるのではなく、むしろ配列の内容によるものである、なぜなら、hprt-m配列はIgM配列とほぼ同じサイズであるがスプライシングに対しほとんど刺激作用を有さないからである。したがって、他種の遺伝子における天然エクソンのプリンリッチ配列は、IgM遺伝子におけるそれのように、スプライシング促進剤として機能し得る。 」

・甲7.6(1349頁左欄14行?右欄34行)
「 合成ポリプリン配列によるスプライシング刺激。 ポリプリン配列の重要性を確認しスプライシング刺激のための同配列の要件をより詳細に調べるために、我々は様々な合成ポリプリン配列をdsxmRNA前駆体に結合させてスプライシングに対するその刺激作用を試験した。この実験において、24ntの種々のポリプリン配列が用いられた(表1)。ポリ(A)又はポリ(G)配列が結合された場合、スプライシングは全く刺激されなかった・・・。これに対し、8個のAAG連続繰り返しは上流のスプライシングに対し強力な刺激作用を有していた・・・。その刺激の程度はIgM配列によるそれとおおよそ同じであった・・・。他の配列(例えばGGA、AG、及びAAGGの繰り返し)もまたスプライシングを刺激したが、その効率はより低かった・・・。これらの配列による刺激レベルは、それぞれAAG繰り返しより4.5倍、3倍及び3.5倍低かった・・・A_(3)G_(3)の繰り返しやA_(6)G_(6)の繰り返しはスプライシングを刺激し得なかった・・・。これらの結果は、交互のプリン配列が、当該配列中にピリミジン残基を有さなくとも、上流イントロンのスプライシングを刺激し得ることを実証するものである。
さらに、我々の結果は、刺激作用は与えられたポリプリン配列によって変化することを示している。
次に、我々はポリプリンの長さがスプライシングの刺激効率に影響を及ぼすか否かを試験した。8個のAAG繰り返しを含むdsxmRNA前駆体(dsx-AAG_(8))に加えて、4個(dsx-AAG_(4))及び2個(dsx-AAG_(2))のAAG繰り返しを含む基質を構築した(表1)。結合部位に隣接したプリン残基の存在のため、これらのmRNA前駆体は30、18及び12ntの連続ポリプリン範囲を包含していた。・・・8個のAAG繰り返しを伴うmRNA前駆体はたいへん効率的にスプライスされた。4個のAAG繰り返しを伴うmRNA前駆体は、ややより低い効率でスプライスされた・・・。2個のAAG繰り返しを伴うmRNA前駆体は、スプライスされたが、より低い、8個のAAG繰り返しを伴うmRNA前駆体の約1/5の効率であった・・・。この結果は、ポリプリン配列の刺激作用はその範囲の長さに依存することを示す。 」

・甲7.7(1349頁右欄35行?1350頁右欄14行)
「 ピリミジンのスプライシング刺激への影響。 我々が試験した天然のエクソン配列はプリンリッチな領域中に数個のピリミジン残基を含んでいる(図1B)。ピリミジン残基のスプライシング刺激への影響を試験するため、我々はdsx-AAG_(8)mRNA前駆体における8個のプリン残基をピリミジン残基に置き換えてこのmRNA前駆体のポリプリン区域を3つの異なる方法で分割した(表2)。・・・dsx-Py-1mRNA前駆体はほぼdsx-AAG_(8)と同じ効率でスプライスされた・・・。これに対し、dsx-Py-2mRNA前駆体及びdsx-Py-3mRNA前駆体のスプライシングはほとんど検出できなかった・・・。これらの結果が示唆するのは、連続したプリン残基の長さがスプライシング刺激において重要な意味を持つということである。
さらに、・・・多数のポリプリン区間はピリミジン残基により分割されている場合でもスプライシングに対し累積的な作用を及ぼすことが示唆される。
次に、我々は、C及びU残基がスプライシング刺激に対し異なる作用を有するのか否かを問うた。・・・スプライシングを強力に刺激するIgM配列はポリプリン区域内に4個のCを含んでいる一方、スプライシング刺激の弱いhprt配列は4個のT(U)残基を含んでいる。・・・。IgM配列中のCがT(U)に変化すると、IgM配列の刺激作用は完全に失われた・・・これに対し、hprt配列中のT(U)がCに変化すると、hprtの刺激作用は約10倍に増強された・・・。これらの結果は、ポリプリン区域内のU残基の存在は当該ポリプリン配列によるスプライシング刺激を大きく減少させるのに対し、C残基は中立性であることを実証するものである。 」

・甲7.8(図1)


図1.(A)Drosophila doublesex(dsx)キメラmRNA前駆体の模式図。エクソン配列(ボックス)とイントロン配列(線)が示されている。pSP72ベクター由来の3’エクソンのリンカー配列(ボックス4と陰付きボックスとの間の小ボックス)及び試験配列(陰付きボックス)の挿入部位が示されている。エクソン及びイントロンの長さ(ヌクレオチド長)が構築物の各領域の下に示されている。3’側エクソンはdsx第4エクソンの30nt及びpSO72からの14ntのリンカー配列を含む。 (B)スプライシングに対する刺激作用の試験に採用された天然エクソン配列。これらの配列の欠失又は置換は、上流イントロンのスプライシングに影響を与える(IgM[47、48]、ASLV[12、21]、cTNT[4、49]およびBGH[15])か、又はエキソンスキッピングを生じること(cTNT[4、5、49]およびhprt[41])が示されている。これらの配列におけるプリン残基は陰付きで示されている。配列上の数字は本来のエクソン内の位置を示す。hprt-mの配列は、示された位置における1個の塩基の置換(A→T)を除いて、hprtの配列と全く同一である。env、はエンベロープ遺伝子。 」

・甲7.9(表1)
「 表1.スプライシング刺激について試験された合成ポリプリン配列



・甲7.10(表2)
「 表2.ピリミジン中断を含む合成ポリプリン配列



・甲7.11(1354頁右欄 参照文献48)
「 48.Wakatabe,a., K.Tanaka,・・・1993.・・・Genes Dev. 7: 407-418 」

※当合議体注:
参照文献48は、甲17と同一の文献と認められる。

2.甲8:J.CLIN.INVEST.,(1995) 95(2) P.515-520

・甲8.1(標題)
「 ジストロフィン神戸においてジストロフィン遺伝子から欠失されているエクソン内の配列を修飾することによる、上流イントロンのin vitroスプライシングの調節 」

・甲8.2(要約)
「 ジストロフィン神戸の分子生物学的解析により、エクソン19の5’及び3’側スプライシング部位の既知のコンセンサス配列は保持されるが、52bpの欠失を有するジストロフィン遺伝子のエクソン19はスプライシング時にスキッピングされることがわかった(Matsuo,M.,・・・1991. J. Clin.Invest. 87 2127-2131)。これらのデータはエクソン19で欠失した配列が上流及び下流のイントロンの正確なスプライシングのためのシス作用型因子として機能し得ることを示唆している。エクソン19の上記機能の可能性について調べるため、人工のジストロフィンmRNA(mRNA前駆体)を用いたインビトロのスプライシング系を確立した。エクソン18、切断型イントロン18及びエクソン19を含むmRNA前駆体はインビトロで正確にスプライシングされた。一方で、野生型エクソン19をジストロフィン神戸のエクソン19と入れ替えた場合、イントロン18のスプライシングはほぼ完全に抑制された。ジストロフィン神戸のエクソン19の欠失部位に別の配列を挿入してその長さをほぼ正常のものに修復してもイントロン19のスプライシングが完全に再活性化されることはなかった。これは、ジストロフィン神戸で失われているエクソン19の配列の存在が、エクソン19配列の長さそのものよりもイントロン18のスプライシングに不可欠であることを示唆するものである。特徴的なのはこのイントロンのスプライシングの効率が、下流のエクソン19内にあるポリプリンの連続の存在と関連しているように思われることである。さらにジストロフィン神戸のエクソン19の欠失配列の5’側半分の配列に相補的な31merのアンチセンス2’-O-メチルリボヌクレオチドは用量依存的かつ時間依存的に野生型mRNA前駆体のスプライシングを阻害した。アンチセンスオリゴヌクレオチドによりジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを調節できるというこの世界初のインビトロでの証拠は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する新たな治療方法の可能性を提示するものである。 」

・甲8.3(515頁右欄24?39行)
「 mRNA前駆体のスプライシングに関与すると考えられてきたシス作用因子は、5’および3’スプライスサイト配列、ブランチポイント配列およびその位置であった(14)。これらの配列は核内低分子リボ核タンパク質や他の複数の補助的なタンパク質を含むトランス作用因子の相互作用のターゲットである。スプライシングの効率は、その下流のエクソンの長さに依存することが示されている(15)。より最近になって、いくつかのエクソンにはエクソン認識配列(ERS)と呼ばれるプリンリッチな領域が含まれ、この領域が上流イントロンのスプライシングに必要であることが示されている(16)。ERSはエクソン配列を同定し成熟mRNAにおけるエクソン配列の封入を促進するスプライシング因子の標的であると思われる。mRNA前駆体のスプライシングには正確なスプライスサイトの選択を伴うが、最近のインビトロでの研究は、エクソン配列を変化させるか(16-18)又は外来の核内リボ核タンパク質のエクソン配列への結合を変化させること(19、20)によってスプライシングが調節され得ることを示した。」

・甲8.4(515頁右欄下から3行?516頁左欄9行)
「 Dominski及びKole(22)は近年、サラセミア変異によって誘導された異常なスプライシングがアンチセンス2’-O-メチルリボポリヌクレオチド(2’-O-MeRNA)によって修正された、洗練された実験を報告した。この報告により、我々は、DMD患者の異常なスプライシング反応をアンチセンスRNAで修正するという治療用途の可能性を評価する第一歩として、ジストロフィンのmRNA前駆体のスプライシングもアンチセンスRNAによって調節できるのかを調べることを動機付けられた。

本稿では、ジストロフィン遺伝子のイントロン18のスプライシングはエクソン19の配列に依存すること、そして、エクソン19配列に相補的なアンチセンス2’-O-Meオリゴヌクレオチドがその上流のイントロンのスプライシングを抑制できることを報告する。 」

・甲8.5(516頁右欄下から18?12行)
「 アンチセンスオリゴヌクレオチド。 ジストロフィン神戸のエクソン19の欠失領域の最初の31ヌクレオチドに相補的なアンチセンス2’-O-MeRNA(GCCUG AGCUG AUCUGCUGGC AUCUU GCAGUU)を合成した(Oligs Etc., Wilengville, OR)。本in vitroスプライシング実験にこの31ヌクレオチドの配列を選択した理由は、これらの配列がエクソンヘアピン構造を形成すると予測されるからである(26)。 」

・甲8.6(517頁左欄3行?右欄23行)
「本稿において、我々はシス作用性エレメントに焦点を当て、エクソン19の内部領域が全く異なる5個の人工のテンプレートを用いてそのインビトロでのイントロン18のスプライシングを試験した、というのは、これまでに幾つかのエクソン配列がin vivo及びin vitroの双方で先行するイントロンのスプライシングにシス作用性エレメントとして機能とすることが示されて来たからである(17、18、27)。最初に、エクソン18、切断型イントロン18、及び野生型エクソン19を含む本質的に野生型のmRNA前駆体をミニジーンAから合成し(図1A)、HeLa細胞核抽出物とのin vitroスプライシングのための基質として使用した。図2に示されるように、このmRNA前駆体は効率的にスプライシングされ、エクソン18及び19が一緒に連結されたmRNAを産生した(レーン1?3)。スプライシング産物の量は、長期インキュベーション中に増加した。この産物の配列分析は、エクソン18がエクソン19に正確に連結されたことを示した(データは示していない)。これらの結果は、切断型イントロン18のスプライシングが、このin vitro系において効率的に起こったことを示した。
これに対し、2時間のインキュベーション後であっても、ジストロフィン神戸において同定されたのと同じエクソン19内の52ヌクレオチドの欠失を有するミニジーンBからは、mRNA前駆体からのスプライシング産物に対応するバンドを検出することはできなかった・・・。この結果は、ジストロフィン神戸におけるエクソン19がin vivoでスキップされているという知見(9)と一致しており、エクソン19の一部がジストロフィンmRNA前駆体の適切なスプライシングに必要であることが示された。
・・・。濃度定量は、ミニジーンCmRNA前駆体からのスプライスされた産物の量が野生型ミニジーンAmRNA前駆体からのスプライス産物量の?20%であることを示した。しかしながら、ミニジーンCmRNA前駆体のスプライシング効率はミニジーンBmRNA前駆体のそれより明らかに良好であった・・・。ミニジーンD及びEでは、・・・これらのmRNA前駆体のスプライシング効率は、野生型mRNA前駆体のそれに比して非常に低かった(ミニジーンD:9%・・・、ミニジーンE:3%・・・)。これらの結果は、エクソン19の配列の前後関係がイントロン18のスプライシングに非常に重要であることを示した。 」

・甲8.7(517頁右欄24行?518頁左欄13行)
「 スプライシングにおけるエクソン19配列の役割をさらに調べるため、我々は野生型ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングへのアンチセンス2’-O-メチルRNAの影響を試験した・・・。上記ジストロフィン神戸における欠失した52ヌクレオチドの最初の31ヌクレオチドに相補的なアンチセンスRNAを加えたところ、ミニジーンAにおける野生型mRNA前駆体のスプライシングは用量依存的に劇的に阻害された・・・。
アンチセンスRNAがmRNA前駆体のスプライシングを非特異的に阻害する可能性を排除するために、我々はエクソン19、切断型イントロン19、及びエクソン20で構成されるミニジーンF(図1参照)から合成される別のmRNA前駆体に対する影響を試験した。アンチセンスRNA添加濃度を100μMとしても、ミニジーンA由来のmRNA前駆体のスプライシングは劇的に減少するが、ミニジーンF由来のmRNA前駆体のスプライシングに影響を及ぼすことはできなかった・・・。 」

・甲8.8(518頁右欄下から6行?519頁左欄2行)
「したがって、ジストロフィン遺伝子のイントロン18のスプライシングは、エキソン19におけるポリプリンストレッチによるシス活性化を必要とする可能性が高い。 さらに、イントロン18のインビトロスプライシングを阻害したアンチセンスRNAは、これら3つのポリプリン区域のうちの2つを含むエキソン19の領域に相補的であり、これによって同アンチセンスRNAはERS機能を阻害していることが示唆される。我々は、アンチセンスRNAによるスプライシング阻害の正確なメカニズムが、さらなる調査を必要とすることを理解する。 」

・甲8.9(519頁左欄17?27行)
「 しかしながら、Dominski及びKoleにより報告される方法(22)は、スプライシングの一般的なコンセンサス配列に相補的なRNAを使用するのでin vivoでは個々のmRNA前駆体を非特異的にスプライシング阻害してしまうものであり、この理由から治療用途に適していないであろう。本報告はアンチセンス2’-O-MeRNAによるスプライシングの操作を試みた2度目の成功例である。特異的なエクソン配列を標的とする我々の戦略は、Dominski及びKoleによる報告(22)とは大きく異なるものである。この方法は、非特異的なスプライシングの阻害という問題を回避し、もしかすると治療ツールとして開発されるかもしれない。 」

・甲8.10(図1)


図1.ミニジーン構築物の模式図。白ボックス、黒ボックス及び線はエクソン、ベクター、及びイントロンを表す。ミニジーンAでは、2つのエクソンは完全に正常であるが、イントロン18のサイズは一般のコンセンサス配列を変更することなく158bpに減少されている・・・。陰が付された部分はジストロフィン神戸で欠失されていた部分を示す。ミニジーンBでは、エクソン19はジストロフィン神戸遺伝子のそれに置き換えられている。ジストロフィン神戸の当該欠失された領域は、ミニジーンCで逆方向に再挿入されており、ミニジーンD及びEでは、ミニジーンB内の当該欠失部位にβ-グロビン遺伝子の一部及びアンピシリン耐性遺伝子の一部が挿入されている。・・・。ミニジーンFはエクソン19、切断されたイントロン19、及びエクソン20で構成されている。 」

・甲8.11(519頁右欄 参照文献16、17)
「 16.Tanaka,K., ・・1994.・・.Mol. Cell.Biol. 14:1347-1354.
17.Watakabe,A., ・・1993.・・.Genes &Dev. 7:407-418. 」

※当合議体注:
参照文献16は、甲7と同一の文献と認められる。
参照文献17は、甲17と同一の文献と認められる。

3.甲9:BIOCHEM.BIOPHYS.RES.COMMUN.,(1996) 226(2) P.445-449

・甲9.1(標題)
「 エクソン認識配列に相補的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドの遺伝子導入によるリンパ芽球様細胞内でのジストロフィン転写物のエキソンスキッピングの誘導 」

・甲9.2(要約)
「 本稿において、我々は初めて、エクソン認識配列(ERS)に相補的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)により生細胞内でジストロフィン遺伝子転写物のエクソンスキッピングが誘導され得たことを報告する。ジストロフィンのエクソン19のプリンリッチな領域に対するアンチセンスODNの共存下でのリンパ芽球様細胞のインキュベーションは、ジストロフィン転写物からの当該エクソンのスキッピングをもたらした。エクソン19のスキッピングはインキュベーション開始から6時間後に生じ始め、インキュベーション開始から24時間後には完全なスキッピングが観察された。その他の78個のジストロフィンのエクソンはいずれもスキッピングされておらず、また、センスODN又は別のERSに対するアンチセンスODNではエクソン19のスキッピングは誘導され得なかった。これらの結果が示したのは、ERSに対するアンチセンスODNは生細胞においてもエクソンスキッピングを誘導することができ、そして、ERSはジストロフィンmRNA前駆体における適切なスプライシングのために必要不可欠なシスエレメントとして機能している、ということである。 」

・甲9.3(446頁1?8行)
「 以前の報告で、我々はエクソン19の認識配列に相補的なアンチセンス2’-O-メチルRNAがHeLa細胞核抽出物内のミニ遺伝子転写産物からのイントロン18のスプライシングを阻害することを示した(7)。しかしながら、生細胞内の天然のジストロフィン転写物を用いたアンチセンスオリゴヌクレオチドによるスプライシングの制御はこれまでに試験されていない。本稿で我々は、カチオン性脂質仲介性の遺伝子デリバリー技術を用いて、ジストロフィンエクソン19のERSに対するアンチセンスODNをヒト培養リンパ芽球様細胞内に導入する。我々は、アンチセンスODNが生細胞内でエクソンスキッピングを誘導し得ることを示す。 」

・甲9.4(446頁9?18行)
「 方法
Epstein-Barrウイルス(EBV)で形質転換したリンパ芽球様細胞株は先の報告(9)に記載されるとおりに正常な男性から樹立された(9)。アンチセンスODN(5'-GCCTG AGCTG ATCTG CTGGCATCTT GCAGT T-3')はジストロフィン神戸のエクソン19の欠失領域の最初の31ヌクレオチドに相補的であった(図1)。この31ヌクレオチドの配列を選んだ理由は、この配列が以前インビトロでのイントロン18のスプライシングをブロックすることが示されたからである(7)。当該ODNのセンス相補鎖に相当するオリゴヌクレオチド、及びその他エクソン23のERSに対し相補的な31merのアンチセンスODNが、対照として合成された。
ヒトリンパ芽球様細胞内へのODNの遺伝子導入のため、それぞれ2μgのアンチセンスODN及び12μgのリポフェクタミン(Life Technologies,Inc.,Grand Island,NY)が、血清及び抗生物質を含まない150μlのopti MEM培地(Life Technologies, Inc.)で希釈された。・・・」

・甲9.5(446頁下から2行?447頁12行)
「 エクソン19のERSに対する31merのアンチセンスODN(図1)は前以てカチオン性脂質と混合された。アンチセンスODNのトランスフェクションのため、ODN-リポソーム複合体がリンパ芽球様細胞の培養培地に最終的な濃度が200nMとなるように添加された。転写のためのインキュベーションの0時間後又は3時間後に、ジストロフィンmRNAのエクソン18?20を包含する領域を逆転写(RT)ネステッドPCRにより分析した(図1)。ジストロフィン転写物と一致する単一の384bp産物が得られた(図2・・・)。6時間のインキュベーション後、追加のより小さい産物も検出された(図2・・・)。この新規なPCR産物のヌクレオチド配列解析は、エクソン18の3’末端が直接エクソン20の5’末端に結合され、エクソン19が正確かつ完全に消失したことを示した(データは示していない)。エクソン19を欠く同じ産物は9、12、24及び48時間のインキュベーション後にもみられた(図2・・・)。正常なサイズの産物の小サイズ産物に対する割合はインキュベーションに伴って減少し、24時間後には小サイズの産物のみが検出された。このことは、完全なエクソン19のスキッピングが達成されたことを示した。・・・ 」

・甲9.6(448頁27?38行)
「 本研究では31mer長のアンチセンスODNが用いられたが、エクソン19のスキッピングを示すジストロフィン神戸のジストロフィン遺伝子のエクソン19からは52bpが欠失していた(11)。当該52ntの最初の31merはエクソン内ヘアピン構造の最初の半分を構成している、ジストロフィンエクソンの構成エレメントであって(16)、ERSを構成していると考えられる2つのポリプリン区域を含んでいる(図1)(7)。ERSはスプライシング因子の結合部位であることが報告されている(17、18)。したがって、アンチセンスODNは、エクソン内ヘアピン構造を破壊し且つERSに対するトランス作用性因子の結合を阻害することにより、スプライシングへの強力な修飾作用を発揮すると考えられた。実際、完全かつ完璧なエクソン19のスキッピングが幾つかの実験条件下で誘導された(図2)。将来、もしかすると、エクソン19のスキッピングを誘導するより短いODNを設計することができるかもしれない。しかしながら、これらのより短いODNは、特異性がより低く、またそれ故に他の非特異的な反応を誘導するかもしれない、というのは、それらはヒトゲノムの他の部分にもハイブリダイズするからである(19)。 」

・甲9.7(448頁39行?449頁2行)
「 我々の成果は、DMDの遺伝子治療のゴールに向けた大きな一歩を示すものである。例えば、当該アンチセンスODNは、エクソン20(242nt長)に1個の欠失を有するDMD症例を治療するのに使えるかもしれない。もしエクソン19(88nt長)のスキッピングが誘導され得るとすると、翻訳上のリーディングフレームは修復されるであろう。転写物は110個のコドンを欠失しているであろうが、ジストロフィンの機能に及ぼす影響はおそらくごく限られたものとなろう。
ジストロフィン遺伝子は3000kb超である一方、その転写物は79個のエクソンで構成され、わずか14kbである。たまにイントロンのサイズは200kbを超えることもある。さらに、これまでにジストロフィン遺伝子中の8個の異なるプロモーター及び多数の代替スプライス部位が報告されている(20)。したがって、ジストロフィン転写物のスプライシングの制御は非常に複雑と考えられる。そして、エクソン-イントロン接合部のコンセンサス配列に加え、ジストロフィンのエクソン内のERSは、適切なスプライシングのために必要である、ということが想像できる。我々の成果が示したのは、ジストロフィンmRNA前駆体内のERSが適切なスプライシングのために必要不可欠である、ということである。 」

・甲9.8(図1)


図1.アンチセンスオリゴヌクレオチド及びネステッドPCR用プライマーの位置。ジストロフィン神戸遺伝子の欠失領域(52bp)(陰付き)がエクソン19の35ntから伸張している(88nt)。アンチセンスオリゴヌクレオチドは太いバーで示された当該欠失領域の最初の31ntに対し相補的となるよう設計された。センス鎖のヌクレオチド配列がバーの下に示されており、エクソン認識配列は太文字で示されている。卵円中の数字はエクソンを示し、矢印はプライマーの位置及び方向を示す。矢印の起点の数値はジストロフィンcDNA配列のヌクレオチド番号を示す。 」

・甲9.9(449頁 参照文献6、7、18)
「 6.Tanaka,K.,・・(1994) Mol.Cell.Biol.14,1347-1354.
7.Takeshima,Y.,・・(1995) J.Clin.Invest.95, 515-520.
・・・
18.Watakabe, A.,・・(1993) Genes Dev.7,407-418. 」

※当合議体注:
参照文献6は、甲7と同一の文献と認められる。
参照文献7は、甲8と同一の文献と認められる。
参照文献18は、甲17と同一の文献と認められる。

4.甲10:J.CLIN.INVEST.,(1997) 100(9) P.2204-2210

・甲10.1(2204頁左欄下から4行?右欄6行)
「 序
mRNA前駆体のスプライシングは顕著な精度を要求する。スプライシングに関与するシスエレメントは、5’及び3’のスプライス部位の配列、枝分かれ部位の配列、及びそれらの位置である(1)。重要なことには、これらのエレメントはイントロンの除去に必要ではあるが十分ではない。エクソン配列内のプリンリッチ領域、スプライシング・エンハンサー配列(SES)^(1)、又はエクソン認識配列(原文:「exon recognition sequence])は、上流イントロンのスプライシングを促進するシスエレメントとして機能することを、いくつかの証拠が示している(2-4)。」

・甲10.2(2209頁右欄下から19?1行)
「 本稿は、DMDではなくむしろBMDの原因であったジストロフィン遺伝子のナンセンス変異の第4の報告である(40)。・・・。ジストロフィン遺伝子の79個のエクソンのうち、限られた数のもののみがエクソン認識配列であるかもしれないプリンリッチな領域を有している。したがって、エクソンスキッピングによってナンセンス突然変異を救済することは、ジストロフィン異常症においてはごく稀にしか生じないであろう。それでも、我々の知見は、アンチセンス戦略を用いて変更されたスプライシングを介して人工的にリーディングフレームの変化を誘導することによる、提案されたDMDからBMDへの治療的変換のための、非常に重要な臨床的意義を有するものである(25)。 」

・甲10.3(2210頁左欄 参照文献2、3)
「 2.Watakabe,A.,・・1993.・・Genes Dev. 7:407-418
3.Tanaka,K.,・・1994.・・Mol.Cell.Biol. 14:1347-1354 」

・甲10.4(2210頁右欄 参照文献25)
「 25.Pramono,Z.A.D.,・・1996.・・BIochem.Biophys.Res.Commun. 226:445-449 」

※当合議体注:
参照文献2は、甲17と同一の文献と認められる。
参照文献3は、甲7と同一の文献と認められる。
参照文献25は、甲9と同一の文献と認められる。

5.甲11:日本人類遺伝学会第44回大会プログラム・抄録集,(1999) P.83 WC9

・甲11.1(標題)
「 アンチセンスオリゴヌクレオチドDNAによるエクソンスキッピングの誘導を用いたDuchenne型筋ジストロフィー培養筋細胞におけるジストロフィン蛋白の発現」

・甲11.2(本文1?14行【はじめに】)
「【はじめに】Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)においてみられる遺伝子異常の多くはジストロフィン遺伝子の欠失であり、欠失によりアミノ酸読み取り枠にずれが生じるためジストロフィン蛋白の発現がみられない。我々はジストロフィン遺伝子エクソン19内にスプライシング部位決定に重要な配列であるスプライシング促進配列(splicing enhancer sequence:SES)が存在すること、さらにSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AS-oligo)により培養細胞系においてエクソン19のスキッピングを誘導し得ることを明らかにしてきた。これらの結果はAS-oligoによりエクソンのスキッピングを誘導し、DMDでみられるアミノ酸読み取り枠のずれを修復することによりDMDを治療することが可能であることを示している。今回、DMD症例の培養筋細胞にAS-oligoを導入し、ジストロフィン蛋白の発現をもたらすことに成功したので報告する。」

・甲11.3(本文15?21行【方法】?【結果】)
「【方法】エクソン20に欠失を有するDMD症例の筋芽細胞培養系において分化誘導開始4日後、リポフェクチン法によりエクソン19のSESに対するAS-oligoを導入した。さらに培養した後mRNAをRT-PCR法によって、ジストロフィン蛋白を免疫組織法によって検討した。【結果】導入1日後より筋細胞核内にFITCにて標識されたAS-oligoを検出した。導入3日後よりmRNAの解析においてエクソン19のスキッピングが確認でき、さらにジストロフィン蛋白の発現が認められた。」

・甲11.4(本文22?28行【考察】)
「【考察】242塩基からなるエクソン20の欠失はout-of-frameであるが、88塩基のエクソン19のスキッピングを誘導することによりmRNAにおける欠失が330塩基(242塩基+88塩基)となり、アミノ酸読み取り枠のずれが修正される。今回の結果はこうしたmRNAの産生がジストロフィン蛋白の発現を誘導したことを示している。本症例に対しAS-oligoを投与しエクソン19のスキッピングを誘導することは、有効な治療法となり得ることが明らかとなった。」

6.甲12:日本先天代謝異常学会雑誌,(1999) 15(2) P.233

・甲12.1(標題)
「 アンチセンスオリゴDNAによるエクソンスキッピングの誘導を用いたDuchenne型筋ジストロフィーの治療の基礎研究:マウスへの生体内投与の効果 」

・甲12.2(本文左欄1?24行【はじめに】)
「 【はじめに】Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)はジストロフィン遺伝子の異常によって発症する進行性の筋疾患であり有効な治療法はない。本症においてみられる異常の多くはジストロフィン遺伝子の欠失であり、欠失によりアミノ酸読み取り枠にずれが生じるためジストロフィン蛋白の発現がみられない。
我々はジストロフィン遺伝子エクソン19内にスプライシング部位決定に重要な配列であるスプライシング促進配列(splicing enancer sequence:SES)が存在することをin vitro スプライシング系における解析によって明らかにし^(1))、さらにSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによりエクソン19のスキッピングを誘導し得ることを培養細胞系を用いて明らかにした^(2))。現在、アンチセンスオリゴヌクレオチドによりエクソンのスキッピングを誘導し、DMDでみられるアミノ酸読み取り枠のずれを修復することによるDMDの治療を検討している。
今回、マウスに投与したアンチセンスオリゴヌクレオチドにより、生体内においてジストロフィンmRNAのエクソンスキッピングを誘導し得ることを確認したので報告する。 」

・甲12.3(本文左欄25?38行【方法】)
「 【方法】DMDのモデルマウスであるオスmdxマウスに対し、ジストロフィン遺伝子エクソン19内のSESに対する31塩基のアンチセンスオリゴDNA(AS-oligo)を経静脈的あるいは腹腔内投与した。AS-oligoはS化し、さらに投与したAS-oligoの局在を検討する実験ではFITCによって標識したしたAS-oligoを用いた。
投与2日後エーテル麻酔下に筋組織を摘出し、蛍光顕微鏡によってAS-oligoが有効に導入されているか否かを検討した。さらに筋組織よりRNAを抽出し、スプライシングをうけたmRNAをRT-PCR法で解析し、その増幅産物の塩基配列を決定した。 」

・甲12.4(本文左欄39行?右欄4行【結果】)
「 【結果】FITCによって標識したAS-oligoを投与した2日後に筋組織を摘出し、蛍光顕微鏡にて検討したところ、筋細胞の核内にAS-oligoが導入されていることが確認された。
20mg/kgのAS-oligoを投与した後、筋組織よりRNAを抽出しRT-PCR法によってジストロフィン遺伝子mRNAを解析したところ、エクソン19がスキッピングしエクソン18がエクソン20に結合したmRNAが検出された。 」

・甲12.5(本文右欄5?38行【考察】)
「 【考察】今回、マウス生体内に投与したAS-oligoが筋細胞の核内に到達し、エクソンスキッピングを誘導し得ることを明らかにした。
スプライシング部位の決定にはエクソン-イントロン境界部に存在するコンセンサス配列のみではなく、エクソン内に存在する特定の配列であるSESが重要な役割を果たしていることが報告されている。我々はジストロフィン遺伝子エクソン19内に存在するSESに対するAS-oligoがエクソン19のスキッピングを誘導し得ることを以前に培養細胞系において明らかにしたが、生体内においても有効にエクソンスキッピングを誘導し得ることが明らかとなった。
今回の実験では、正常筋組織に比べて筋細胞の壊死・再生が活発である筋ジストロフィーマウスの筋組織の方がAS-oligoを細胞内に取り込みやすいと考え、mdxマウスを用いた。mdxマウスにおける遺伝子異常はジストロフィン遺伝子エクソン23内のナンセンス変異であるため、残念ながらエクソン19のスキッピングを誘導することによりジストロフィン蛋白の発現を期待することはできない。しかしmRNAレベルにおけるAS-oligoの効果は明らかである。エクソン20の欠失しているDMD症例(242塩基の欠失でout-of-frame)に対しAS-oligoを投与しエクソン19のスキッピングを誘導すると、mRNAではエクソン19と20が消失し330塩基(88塩基+242塩基)の欠失となるためアミノ酸読み取り枠のずれが修正されジストロフィン蛋白の発現がみられることになる。
今回の結果はAS-oligoによるDMDの治療の可能性を強く示唆するものである。 」

・甲12.6(右欄【文献】)
「 【文献】
1)Takeshima Y et al, 1995. J.Clin.Invest. 95: 515-520
2)Pramono ZAD et al, 1996. Biochem.Biophys. Res. Commun.226: 445-449 」

※当合議体注:
文献1は、甲8と同一の文献と認められる。
文献2は、甲9と同一の文献と認められる。

7.甲13:特願2000-125448号 出願時書面
甲29:特開2002-10790号公報

甲13は、平成12年(2000年)4月26日を出願日とする特願2000-125448号(以下、「甲13出願」ということがある)の出願時の書面に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び要約書である((以下、これらをまとめて「甲13明細書等」、又は単に「先願明細書等」ということがある)。
また、平成12年(2000年)11月16日に出願され、平成14年(2002年)1月15日に甲29として出願公開された、特願2000-348957号(以下、「甲29出願」ということがある)は、甲13出願を基礎とする優先権主張に基づく出願であって、特許法第41条第2項の規定により、当該優先権主張の日(即ち、甲13出願の出願日である平成12年(2000年)4月26日)の出願とみなされるものである。

(本件特許出願及び甲29出願の出願人及び発明者について)
本件特許出願の出願人は
アカデミシュ ジーケンハウス ライデン ハー.オー.デー.エン.
ルムク
であり、発明者は
ファン オメン,ハリトーヤン,バイデヴェイン、
ファン デーテコム,ユディス,クリスティーナ,テオドラ、
及び
デン ドゥネン,ヨハン,テオドルス
である。
一方、甲13出願を優先権主張の基礎とする甲29出願の出願人は
松尾雅文、
及び
JCRファーマ株式会社
であり、発明者は
竹島泰弘、
及び
松尾雅文
である。
これら本件特許出願と甲29出願の出願人及び発明者の照合から明らかなように、両特許出願の出願人及び発明者は、いずれも同一ではない。

(1)甲13:先願明細書等の記載事項

・甲13.1([特許請求の範囲])
「 【特許請求の範囲】
【請求項1】配列表において配列番号1・・・オリゴヌクレオチド。
【請求項2】配列表において配列番号2で示された塩基配列を有するRNA及び該塩基配列に対する相補的塩基配列に対して相補的である塩基配列を有するDNAよりなる群より選ばれるオリゴヌクレオチド。
【請求項3】配列表において配列番号1・・・アンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項4】配列表において配列番号2で示された塩基配列に対して相補的な塩基配列を含んでなるアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項5】・・・請求項3のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項6】配列表において配列番号4で示された塩基配列を有するDNA及びこれと同一の塩基配列を有するホスホロチオエートDNAよりなる群より選ばれるものである、請求項4のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項7】・・・請求項3又は5のアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用。
【請求項8】ヒトジストロフィンmRNAにおけるエクソン53に隣接するエクソンを構成する塩基配列において正常な塩基配列からの塩基の欠失による塩基数の変化に起因するデュシェンヌ型筋ジストロフィーであって、該塩基数の正味の変化が(3×N+1)個(Nはゼロ又は自然数)の塩基の減少として表されるものであるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤の製造のための、請求項4又は6のアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用。
【請求項9】・・・請求項3又は5のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有することを特徴とする・・・デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤。
【請求項10】薬剤学的に許容し得る注射可能な媒質中に、請求項4又は6のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有することを特徴とする、ヒトジストロフィンmRNAにおけるエクソン53に隣接するエクソンを構成する塩基配列において正常な塩基配列からの塩基の欠失による塩基数の変化に起因するデュシェンヌ型筋ジストロフィーであって、該塩基数の正味の変化が(3×N+1)個(Nはゼロ又は自然数)の塩基の減少として表されるものであるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤。
・・・ 」

・甲13.2(【0001】)
「 【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ジストロフィン遺伝子に生じた異常に起因する、アミノ酸読みとり枠(リーディングフレーム)のずれた前駆体mRNAに対して、所定のエクソンスキッピングを誘導してリーディングフレームのずれを解消するための、デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー治療薬に関する。更に具体的には、本発明は、特定のタイプのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤の製造のために用いることのできる、ジストロフィン遺伝子のスプライシング促進配列(SES)、並びに、該スプライシング促進配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド及びこれを含んだ治療剤に関する。 」

・甲13.3(【0002】?【0003】、【0007】)
「【0002】
【従来の技術】今日、前駆体mRNA分子の異常スプライシングによる遺伝子疾患が診断可能となり、特に、難病である筋ジストロフィーが注目されている。筋ジストロフィーはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD: Duchenne Muscular Dystrophy)とベッカー型筋ジストロフィー(BMD:Becker Muscular Dystrophy)とに大別される。DMDは、最も頻度の高い遺伝子性筋疾患であり・・・。現在、DMDに対する有効な治療薬はなく、全世界の患者から治療薬の開発が強く求められている。・・・。BMDでは、その発症年齢は成人期と比較的遅く、発症後に軽度の筋力低下は見られるものの、ほぼ正常な生存が可能である。
【0003】ジストロフィン遺伝子はX染色体短腕21領域に存在し、その遺伝子サイズは3.0 メガ塩基であり、ヒトの最大の既知遺伝子である。このように大きなサイズであるが、ジストロフィン遺伝子中でジストロフィンタンパク質をコードしている領域はわずか14kbに過ぎず、しかもそのコード領域は79ものエクソンに分かれて遺伝子内に分散して存在している[Roberts, RG., et al., Genomics,16:536-538(1993)]。ジストロフィン遺伝子の転写物であるmRNA前駆体は、スプライシングを受けて14kbの成熟mRNAとなる。更に、この遺伝子には8種の異なるプロモーター領域が遺伝子内にやはり分散して存在し、それぞれが異なったmRNAを産生している[Nishio,H.,et al.,J.Clin.Invest.,94:1073-1042(1994), Ann, AH. and Kunkel,LM.,Nature Genet.,3:283-291(1993), D'Souza,VN. et al., Hum. Mol. Genet., 4: 837-842 (1995)]。これらのことから、ジストロフィン遺伝子及びその転写物は、非常に複雑な構成になっている。
・・・
【0005】DMDの動物モデルとしては、mdx(X chromosome-linked muscular dystrophy)マウスがある[Bulfield, G. et al., Proc.Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81:1189-1192 (1984)]。
【0006】マウスのジストロフィン遺伝子のエクソン23内のナンセンス変異により、mdxマウスのこの遺伝子が不活性化され、結果としてエクソン23内で翻訳が終止することとなる。mdxマウスでは、如何なる機能的なジストロフィンも発現されないが、免疫化学的にはジストロフィン陽性筋繊維が微量に検出される。
【0007】ジストロフィン遺伝子という同一遺伝子の、しかも同じ様な遺伝子異常から発症する2種の疾病であるDMDとBMDの臨床的な病態における大きな相違は謎とされていたが、いわゆるフレームシフト説[Monaco, AP.,et al.,Genomics,2:90-95(1988)]で説明されるようになっている。すなわち、「DMDでは、遺伝子内の部分的な欠失によりジストロフィンmRNAにコードされるアミノ酸読みとり枠(リーディングフレーム)にずれが生じ(アウトフレーム:out-of-frame)、結果的にストップコドンが出現しジストロフィンの合成が途中で停止してしまう。これに対し、BMDでは、遺伝子に部分欠失が存在してもリーディングフレームが維持され(インフレーム:in-frame)て、本来のジストロフィンとはサイズが異なるものの、ジストロフィンタンパク質が生成できる」とするものである。実際、患者の筋肉中のジストロフィンを調べると、DMDではジストロフィンが消失しているのに対して、BMDでは染色性を正常とは異にしたジストロフィンが存在している。またDMD/BMD患者でジストロフィン遺伝子異常から計算されたリーディングフレームの型と患者の表現型とを比較すると、90%以上の 患者でこのフレームシフト説が当てはまっている。」

※当合議体注:
【0003】中で引用されている「Genomics,16: 536-538(1993)」は、甲39と同一の文献と認められる。
【0007】中で引用されている「Genomics,2: 90-95 (1988)」は、甲43と同一の文献と認められる。

・甲13.4(【0010】?【0012】)
「 【0010】遺伝子から転写された遺伝情報は、スプライシングによりイントロン配列が除去される等の修飾を受け、エクソン配列のみからなる成熟mRNAとなる。更に、この成熟mRNAがそのリーディングフレームに従って翻訳され、遺伝子にコードされた遺伝情報に忠実に従ったタンパク質の合成が可能となる。mRNA前駆体のスプライシング時には、mRNA前駆体の塩基配列のうちでイントロン配列とエクソン配列を正確に決定する機構がある。そのためにイントロン・エクソン境界部の配列は一定のルールで全ての遺伝子で保存されており、コンセンサス配列として知られている。
【0011】このコンセンサス配列として、イントロンの5’末端のスプライスドナーサイトと呼ばれるエクソンからイントロンへまたがる部位、イントロンの3’末端のスプライスアクセプターサイトと呼ばれる部位、そして、ブランチングポイントと呼ばれる部位の、3カ所の配列が知られている。
【0012】これらのコンセンサス配列の中で、わずか1塩基の置換でも発生すると、スプライシングの異常を起こすことが各種の疾病で報告されているように[Sakuraba,H.et al.,Genomics,12:643-650(1992)]、コンセンサス配列は、スプライシングを進行させる鍵となっている。 」

・甲13.5(【0013】?【0023】)
「 【0013】先に、本発明者等は、DMD/BMD患者を対象としたジストロフィン遺伝子異常の診断を日本で初めてPCR法を用いて実施した。
そして、ジストロフィン遺伝子の異常型が欧米人と日本人とで大きな差がないこと、すなわち大きな人種差のないことを明らかにした。こうした遺伝子診断で見出された遺伝子異常は、塩基数において数kbから数百kbの巨大なものばかりであったが、更に詳細な分析を重ねることにより、あるジストロフィン遺伝子の欠失部位の塩基配列を決定することに世界で初めて成功し、「ジストロフィン神戸」と命名して報告した[ Matsuo,M,et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 170:963-967 (1990) ]。
【0014】「ジストロフィン神戸」と命名した遺伝子異常を有する症例は、DMDであり、重複PCR分析の結果によれば、エクソン19に相当するゲノムDNAの増幅産物のバンドが、本来存在すべき位置に認められず、一見、エクソン19の欠失と考えられた。しかしながら、ゲノムDNAについてエクソン19領域の単独増幅を試みたところ、エクソン19が正常より小さいサイズの増幅産物として検出され、ジストロフィン遺伝子によく見られる単純なエクソン欠失ではないことが判明した。この患者の家系の構成員のジストロフィンのエクソン19領域をPCR法で増幅することにより、母親と妹のDNAから正常な増幅産物と共に患者と同じサイズの増幅産物が得られ、両者がこの遺伝子異常の保因者であることが判明した。
【0015】次いで、患者から得られた異常な増幅産物の塩基配列を決定すると、88塩基からなるエクソン19の配列のうち52塩基が欠失していることが判明した。この52塩基の欠失がエクソン配列内に存在することは、この患者のジストロフィンmRNAではリーディングフレームにずれを生じて(アウトフレーム)、エクソン20内でストップコドンが出現することになる。この遺伝子診断の結果は、DMDという臨床診断と一致するものであった。
【0016】ジストロフィン神戸で発見されたエクソン19の欠失部分がスプライシングに及ぼす影響を調べるために、患者のジストロフィンmRNAを分析した[Matsuo,M.,et al., J.Clin.Invest., 87: 2127-2131 (1991)]。
【0017】まず、患者白血球のmRNAを逆転写酵素によりcDNAに変換し、これを入れ子型PCR(nested-PCR)法を用いて増幅した。エクソン18から20にわたる領域を増幅したところ、ゲノムで発見された異常を基に計算されたサイズより更に短くなった増幅断片が得られた。これはmRNAにゲノムDNAの異常とは異なった異常が存在する可能性あるいは白血球と筋肉でmRNAが異なる可能性を示唆した。そこで、このmRNA異常が疾病と関連する筋肉のmRNAにも存在することを確認するため、筋肉のmRNAから合成したcDNAを鋳型としてPCR法でエクソン18からエクソン20の領域を増幅した。その結果得られた増幅産のサイズは、白血球のエクソン18から20の増幅産物と全く同じであった。
【0018】次に、得られた小さな異常増幅産物の塩基配列決定により、ジストロフィン神戸の患者のジストロフィンcDNAではエクソン18の配列が直接エクソン20の配列につながっており、エクソン19の配列が完全に消失していることが判明した。この結果は、ゲノムでは、エクソン19内の52塩基のみが欠失し36塩基がエクソンとして残存していたことと矛盾している。これらのことから、ジストロフィン神戸では、前駆体mRNAの成熟過程で36塩基のエクソン19がスプライスアウトされ、エクソンのスキッピングが起こったことが示された。
【0019】遺伝子の異常からエクソンのスキッピングが生ずる例は少なからず報告されている。既に、本発明者等はジストロフィン遺伝子の点突然変異例でエクソンのスキッピングが生じることを世界で初めて発見している[Hagiwara, Y., Am. J. Hum. Genet., 54: 53-61 (1994)]。これらのエクソンのスキッピングを生じる生じる遺伝子変異は、いずれも、先に述べたスプライシング部位を決定するコンセンサス配列内に生じた異常に起因している。
【0020】これに対し、ジストロフィン神戸では、エクソン「内」に52塩基の欠失を認めたのみで、コンセンサス配列には異常がなく、この例でエクソンのスキッピングが生じる原因は不明であった。
【0021】ジストロフィン神戸に見られたエクソンのスキッピングの原因がDNA及びmRNA前駆体の一次構造の異常には求められないことから、mRNA前駆体の2次構造にエクソンスキッピングの原因が存在するものと推察され、その2次構造を解析した。解析は、2次構造でエネルギー的に最も安定した塩基結合を算出するZuker等のアルゴリズムを用い、コンピュータを用いて行った[Matsuo,M.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,182:495-500 (1992)]。野生型のジストロフィンのエクソン19及びその両側のイントロンの塩基配列を含む617塩基を対象にした解析結果では、mRNA前駆体は比較的単純なステムループ構造を呈した。特徴的な構造として、エクソン19の配列それ自体が塩基対をなすイントラエクソンヘアピン構造が確認された。これに対し、52塩基のエクソン内欠失を有するジストロフィン神戸のエクソンとその近傍のイントロンの塩基配列からmRNA前駆体の2次構造を演繹すると、野生型と大きく異なっており、ジストロフィン神戸における最大の特徴は、エクソンの配列がイントロンの配列のみと塩基対をなす単純なステム構造を形成することであった。この結果は野生株で見られたイントラエクソンヘアピン構造が、ジストロフィン遺伝子のエクソン構造を特徴づける要素である可能性を示唆した。
【0022】そこで、ジストロフィン遺伝子の79個のエクソンのうちから、近傍のイントロンの塩基配列の明らかにされている22個のエクソンを選び、そのmRNA前駆体の2次構造を解析した。解析した全てのエクソンは、イントラエクソンヘアピン構造を形成する結果となり、このイントラエクソンヘアピン構造が、エクソンの機能の必須な要素と考えられた。これらのことは、ジストロフィン神戸に見出されたエクソンのスキッピングがmRNA前駆体のイントラエクソンヘアピン構造の消失により発生したことを強く示唆した。これはまた、エクソン自体の配列がスプライシング時のエクソン認識に重要な役割を果たしていることをも示唆した。
【0023】最近、コンセンサス配列以外に、エクソン内の配列の異常によってもエクソンのスキッピングが生じ得ることが報告され[Dietz,HC.,et al.,Science,259:680-683(1993)]、コンセンサス配列に加えてエクソンの配列もスプライシング部位決定要因として機能しているとして注目を集めている。これらのことは、従来の分子生物学のスプライシングに関する概念を崩すものとなっている。 」

・甲13.6(【0024】?【0027】)
「 【0024】エクソン19内の配列がスプライス部位の決定に重要なことが示唆されたので、in vitro のスプライシング反応系を構築し、このことを実験的に明らかにする試みを行った[Takeshima,Y.,et al.,J.Clin.Invest.,95:515-520(1995)] [特願平11-140930号]。まず、ジストロフィン遺伝子のエクソン18と19並びにイントロン18からなるミニジーンを作成し、このミニジーンからラジオアイソトープでラベルしたmRNA前駆体を合成した。得られたmRNA前駆体をHeLa細胞の核抽出液と混合しスプライシング反応を試験管内で進行させ、産生された成熟mRNAを電気泳動により分離した。この反応系で正常のエクソン19塩基配列を有するmRNA前駆体を用いるとスプライシングは正常に進行し、エクソン18と19が連続した成熟mRNAを得ることができた。しかしエクソン19の塩基配列をジストロフィンのそれと置換すると、成熟mRNAは産生されなくなった。これは、ジストロフィン神戸でエクソン19から欠失した52塩基がスプライシングに重要な役割を果たしていることを示すものであった。
【0025】しかしこのスプライシング異常が、エクソン19の「サイズ」が36塩基と短くなった結果による可能性もあるため、ジストロフィン神戸のエクソン19の欠失部を補うものとして、欠失した遺伝子を逆方向に挿入し、同様の実験を行った。このmRNA前駆体では、スプライシングは進行するものの、その効率は低かった。この結果は、たとえエクソンが正常な長さを有しても、エクソン内の塩基配列が異なるとスプライシング効率は低下することを示し、エクソンの(サイズでなく)エクソン内の塩基配列自体が重要であることを示すものであった。
【0026】 そこで、エクソン内の塩基配列自体のスプライシングへの影響を更に解析するため、52塩基の欠失配列に代わって、2種の異なる配列を挿入したmRNA前駆体を作成し、そのスプライシング効率を調べた。β-グロビン遺伝子の一部あるいはアンピシリン耐性遺伝子の一部をそれぞれ挿入した2種のmRNA前駆体において、いずれもスプライシングは進行したが、ともに極めて低い効率であった。しかし、β-グロビン遺伝子を挿入した方が、アンピシリン耐性遺伝子を挿入した方よりも相対的に高いスプライシング効率を示した。前者の塩基配列には多くのプリン基が含まれており、エクソン内のプリン配列がエクソン認識に関与していると考えられている[Watanabe,A.,et al.,Genes Dev.,7:407-418(1993)]。
【0027】これらの実験結果は、スプライシングには、コンセンサス配列のみならずその下流のエクソンの配列が関与していることを実験的に明らかにしたもので、遺伝情報処理プロセスに新しい概念を導入するものであった。 」

※当合議体注:
【0024】の「J.Clin.Invest.,95:515-520(1995)」は、甲8と同一の文献と認められる。
【0026】の「Genes Dev.,7:407-418(1993)」は、甲17と同一の文献と認められる。

・甲13.7(【0028】?【0029】)
「 【0028】<アンチセンスオリゴヌクレオチドによるスプライシング制御>ジストロフィン遺伝子のエクソン19内の配列がスプライシングの進行に極めて重要であるという上記発見から、この配列を破壊することによりスプライシングの異常が人為的に誘導できるのではないかという可能性に着目し、本発明者等は続けて検討を行った。すなわち、ジストロフィン神戸で欠失した52塩基のうち配列表の配列番号5に示した塩基配列部分を含んだ配列表の配列番号6に示した31塩基に対し、これに相補的な2’-O-メチルオリゴRNAを合成し、これが、エクソン18-イントロン18-エクソン19よりなるmRNA前駆体のスプライシングに及ぼす影響を、前述の試験管内スプライシング反応系で調べた。その結果、スプライシング反応はアンチセンスオリゴヌクレオチドの添加量に、またその反応時間に依存して阻害された。これは、アンチセンスオリゴヌクレオチドによりジストロフィンのイントロンのスプライシングが阻止できることを実験的に初めて証明したものであった。そして、このことは、核内でおこるスプライシング反応が人為的な手段により制御できる可能性を示した[Takeshima,Y.et al.,J.Clin.Invest.,95: 515-520 (1995)]。
【0029】<細胞核内でのスプライシング制御>生きた細胞の核内でもアンチセンスオリゴヌクレオチドによりジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングが制御できることを明らかにするため、本発明者等は、正常なヒトリンパ芽球細胞を用い、配列表の配列番号5に示した塩基配列部分を含んだ配列表の配列番号6に示された塩基配列に対し、これに相補的な塩基配列を有するアンチセンスオリゴDNAの導入を行って、その存在下に産生されるジストロフィン成熟mRNAについて解析を行った[Zacharias A.DP.et al.,B.B.R.C.,226:445-449(1996) ]。すなわち、アンチセンスオリゴDNAの核内への導入は、リポフェクタミンと混合後、これをリンパ芽球培養液に加えることにより行った。その結果、先に試験管内スプライシング反応系で得られた結果とは異なって、ジストロフィンのエクソン19の塩基配列に対するアンチセンスオリゴDNAはヒトリンパ芽球細胞においてエクソン19のスキッピングを誘導し、mRNAにおいてエクソン18がエクソン20に直接つながったものが得られることが確認された。また培養時間を延長することにより、このエクソンスキッピング誘導効果は完全なものとなり、全てのmRNAがエクソン19を欠失したものとして認められるようになった。
更に、用いたアンチセンスオリゴDNAは、他のエクソンのスプライシングには問題を起こさなかったことも確認された。 」

※当合議体注:
【0028】の「J. Clin.Invest.,95:515-520(1995)」は、甲8と同一の文献と認められる。
【0029】の「B.B.R.C.,226:445-449(1996)」は、甲9と同一の文献と認められる。

・甲13.8(【0031】?【0035】)
「 【0031】<人為的エクソンスキッピングの治療への応用>先述のように、DMDでは、ジストロフィンmRNAのリーディングフレームがずれてアウトフレームとなるような遺伝子異常を有している。もしこのリーディングフレームの異常をインフレームに転換できるとすれば、それによりDMDはBMDとなり、症状の改善が期待できる筈である。例えば、仮に、エクソン20のみが単独で欠失している患者を想定すると、エクソン20は242塩基からなっており、当然ながらその単独欠失はフレームシフトを起こして翻訳途中で停止コドンが出現してジストロフィン合成が途中で停止し、その結果DMDの表現型となる。しかしながら、この症例に対し、前記の実験で用いたようなエクソン19に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与してエクソン19のスキッピングを人為的に誘発できたとすると、エクソン20の242塩基に加えエクソン19の88塩基が前駆体mRNAから欠失することとなり、合計330塩基の欠失となって、リーディングフレームは一転してインフレームとなる可能性が、すなわちアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用によりDMDの表現型をBMDに転換できる可能性が、理論上はある。
【0032】しかしながら、ジストロフィン遺伝子は前述の通り非常に複雑な構造をしており、そのmRNA前駆体も、スプライスアウトされるべき多数の長いイントロンを含んだ複雑な2次構造をなしておりそれがスプライシングの正常な進行を制御している。従って、正常なヒトのリンパ球芽細胞でなく、エクソン20の単独欠失を有する患者の筋芽細胞においても、エクソン19に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによって期待通りエクソン19のスキッピングを起こすことができるか否か、またエクソン19のスキッピングにうまく成功したとしても、元々エクソン20のスプライスアウトを引き起こす異常を有するmRNA前駆体において、エクソン20のスプライスアウトや他の部位のスプライシングに対して影響を及ぼすことなくmRNAのリーディングフレームをアウトフレームからインフレームへと転換することができるか否か、そして更には、インフレームへと転換できたとしてもそのmRNAがジストロフィンに近似のタンパク質を有効に産生できるか否か、という現実の可能性は不明であった。
【0033】このような背景のもと、本発明者の一人は、ジストロフィン成熟mRNAにおいてエクソン20の完全欠失を有するDMD患者の細胞で、エクソン19に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてそのスプライスアウトを誘導できること、そしてそれによりジストロフィン成熟mRNAのリーディングフレームのずれを修正でき、ジストロフィン陰性細胞を陽性細胞に転換できることを明らかにし、その結果に基づきDMDに対する治療薬を先に開示した(特開平11-140930号)。
【0034】すなわち、ジストロフィンのエクソン19に対するアンチセンスオリゴリボヌクレオチドをエクソン20の単独欠失を有するDMD患者の筋芽細胞の培養液中に投与することにより、これが筋芽細胞内へ、次いで核内へと取り込まれ、その結果、エクソン19とエクソン20とを完全欠失はするもののアミノ酸読み取り枠はアウトフレームからインフレームになるよう回復されて、エクソン19とエクソン20がコードする部分以外は完全長のジストロフィンを産生できるようになることが確認された。このことは、エクソン20の単独欠失に基づくDMD患者に対して、エクソン19に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与することにより、極めて重篤な疾患であるDMDを比較的軽い疾患であるBMDへと転換させ得るという可能性を強く支持している。
【0035】このように、ゲノムより転写されたmRNA前駆体がスプライシングを受けて成熟mRNAとなるときに、スプライシングの部位決定に、従来より知られているエクソン・イントロン境界部に存在するコンセンサス配列に加えて、エクソン内に存在するスプライシング促進配列(Splicing Enhancer Sequence:SES)が重要な役割を果たしている。また本発明の一人は、上記の通り、ジストロフィン遺伝子エクソン19内にSESが存在することを示し、更にそのSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによりエクソン19のスキッピングを導入し得ることを明らかにした。」

※当合議体注:
【0033】中の「特開平11-140930号」は、「特願平11-140930号」(【0024】)の誤記と解される。

・甲13.9(【0036】)
「 【0036】
【発明が解決しようとする課題】DMDに対して、ジストロフィンの前駆体mRNAのスプライシングに際しエクソンスキッピングを誘導することによりリーディングフレームのずれを修復すると、部分的に機能回復したジストロフィンタンパク質が産生されることになり、それによりDMDをBMDへと変化させることが可能である。しかしながら、DMDにおけるジストロフィン遺伝子の変異部位は多種存在すると考えられている。従って、そのような種々の変異部位に対して治療の可能性を考える上において、エクソン19のみでは不十分であり、ジストロフィン遺伝子の欠失好発部位の周辺に存在するSESを同定することが重要である。すなわち、本発明は、ジストロフィンエキソン内の新規のSESを発見しそれに基づき新規のDMDの治療剤を提供することを目的とする。 」

・甲13.10(【0037】?【0042】、【0045】?【0046】)
「 【0037】
【課題を解決するための手段】上記背景の下で、本発明者らは、in vitroのスプライシング系を用いて、ジストロフィン遺伝子のエキソン43及び53内に新たなSESをそれぞれ同定することに成功し、それに基づきデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する新たな治療手段を創り出した。
【0038】すなわち本発明は、配列表において配列番号1又は2で示された塩基配列を有するRNA及び該塩基配列に対する相補的塩基配列に対して相補的である塩基配列を有するDNAよりなる群より選ばれるオリゴヌクレオチドを提供する。
【0039】これらのオリゴヌクレオチドのうちのRNAは、ヒトジストロフィンのmRNA前駆体のエクソン43内のSES部分(配列表において配列番号1で示す)又はエクソン53内のSES部分(配列表において配列番号2で示す)である。これらのRNA及びDNAは、後述のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤としてのアンチセンスの製造のための鋳型として使用される。
【0040】また本発明は、配列表において配列番号1又は2で示された塩基配列に対して相補的な塩基配列を含んでなるアンチセンスオリゴヌクレオチドをも提供する。
【0041】該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、それぞれヒトジストロフィンmRNAエクソン43内のSES(配列表において配列番号1で、同等のDNA配列として示した)及びエクソン53内のSES(配列表において配列番号2で、同等のDNA配列として示した)と相補的であるため、それらの投与により、ヒトジストロフィンmRNAのスプライシングに際してそれぞれエクソン43及びエクソン53のスキッピングを誘導することができる。このため、これらアンチセンスオリゴヌクレオチドは、特定のデュシェンヌ型筋ジストロフィーにおいて、リーディングフレームのずれを修復することに基づく治療剤として用いることができる。
【0042】上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列表においてそれぞれ配列番号3又は4で示された塩基配列を有するDNA及びこれらと同一の塩基配列を有するホスホロチオエートDNAよりなる群より選ばれるものであってよい。これらの配列は、それぞれ、エクソン43又は53のSES及びそれらの両端の隣接塩基配列をも含んだ配列に対して相補的な配列であり、従って、これらの配列を有するDNAは、それぞれmRNA前駆体のエクソン43又は53のSESに、一層強力にハイブリダイズしてその機能をブロックできる。
・・・
【0045】更に本発明は、ヒトジストロフィンmRNAにおけるエクソン53に隣接するエクソンを構成する塩基配列において正常な塩基配列からの塩基の欠失による塩基数の変化に起因するデュシェンヌ型筋ジストロフィーであって、該塩基数の正味の変化が(3×N+1)個(Nはゼロ又は自然数)の塩基の減少として表されるものであるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤の製造のための、配列表において配列番号2で示された塩基配列に対して相補的である塩基配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用をも提供する。ここにおいて、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列表において配列番号4で示された塩基配列を有するDNA及びこれと同一の塩基配列を有するホスホロチオエートDNAよりなる群より選ばれるものであってよい。
【0046】更に本発明は、薬剤学的に許容し得る注射可能な媒質中に、エクソン53のSESに対するこれらのアンチセンスオリゴヌクレオチドの何れかを含有することを特徴とする、ヒトジストロフィンmRNAにおけるエクソン53に隣接するエクソンを構成する塩基配列において正常な塩基配列からの塩基の欠失よる塩基数の変化に起因するデュシェンヌ型筋ジストロフィーであって、該塩基数の正味の変化が(3×N+1)個(Nはゼロ又は自然数)の塩基の減少として表されるものであるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤をも提供する。 」

・甲13.11(【0047】)
「 【0047】本発明において、「オリゴヌクレオチド」は、オリゴDNA、オリゴRNAのみならず、ホスホロチオエートオリゴDNA等のホスホロチオエート類似体をも包含する。ホスホロチオエートDNAは、リン酸基の酸素原子がイオウ原子で置換されたヌクレオチドであり、各種の核酸分解酵素に対して耐性があること等から、部位特異的な遺伝子の置換その他で遺伝子工学の分野において汎用されているヌクレオチド類似体であり、その製法及び性質、及び種々の用途は当業者に周知である。ホスホロチオエートDNAは、通常のDNAと同様に塩基対を形成するが、各種分解酵素に対して抵抗性が大きく本発明において用いるのに特に有利である。ここに、「ホスホロチオエート類似体」は、通常のDNAのヌクレオチド間のホスホロジエステル基の1個以上がホスホロチオエート基に置き換えられている構造のものである。 」

・甲13.12(【0055】?【0062】)
「 【0055】1. 患者由来のリンパ芽球細胞におけるエクソンスキッピングの誘導
前述の通り、正常のジストロフィン遺伝子構造を持つ遺伝子から転写されたmRNA前駆体のスプライシング反応において、本発明者等のデザインしたアンチセンスオリゴヌクレオチドがエクソン19のスキッピングを有効に誘導することが確認された。一方、エクソン20を欠失したDMD患者では、正常とは遺伝子構造を異にするため、ジストロフィンのmRNA前駆体の2次構造あるいは3次構造が正常とは異なると予想される。そのようなエクソン20を欠失したDMD患者でも、前記31塩基のアンチセンスオリゴヌクレオチドが有効か否かを検討した。すなわち、以下に詳述するように、ジストロフィンのエクソン20を欠失したDMD患者2名からEBウイルスでトランスフォームしたリンパ芽球細胞株を樹立し、これを用いてアンチセンスオリゴヌクレオチドによりエクソンスキッピングを誘導できること確認した。
【0056】(a)DMD患者由来リンパ球芽細胞株の樹立
ジストロフィンのエクソン20を欠失したDMD患者2名から、EBウイルスで形質転換したリンパ芽球細胞株を次のようにして樹立した。すなわち、患者より採取した2mlの全血を2mlのRPMI1640培地(10%FBSを補充)と混和し、3mlのFicoll Paque(Pharmacia社)上に重層し、濃度勾配遠心した。その後、リンパ球層のみを回収し、RPMI1640培地(10%FBSを補充)にて2回洗浄し、最後に0.5mlのRPMI1640培地(10%FBSを補充)に浮遊させ、リンパ浮遊液とした。この液と、予め用意しておいたEBウイルス液0.5mlを混和し、混和液を37℃にて1週間培養した。1週間後にEBウイルスを除くためRPMI1640培地(10%FBSを補充)にて洗浄し、その後同じ培養液を使用して培養を継続した。こうして、EBウイルスが患者リンパ球に感染し、形態的に大きな、リンパ芽球となった細胞を得た。
【0057】(b)アンチセンスオリゴDNAの導入
上記により得られたリンパ芽球細胞株の細胞培養液を遠心し、細胞成分のみに分離した。そして、配列表において配列番号2で示した塩基配列に相補的な配列よりなる31塩基のアンチセンスオリゴDNAを約200nM(200pmoles/ml)と2%胎仔牛血清(FBS)を含む維持培地で、この細胞を36℃にて5時間培養した。次いで血清培地に交換した後に、引き続き12時間培養した。培養終了後に、常法により細胞を集めて全RNAを抽出した。
【0058】(c)ジストロフィンcDNAの解析
得られた全RNAを基質とし、ヘキサオリゴヌクレオチドからなるランダムオリゴヌクレオチドをプライマーとして、常法に従い逆転写酵素の作用によりcDNAを合成した。合成したcDNAよりジストロフィンのエクソン18から21にわたる領域をnested PCR法を用いて増幅した。まず、プライマーをエクソン18と21にデザインしたもので1回増幅した。この増幅産物をテンプレートとして、1回目に用いたプライマーの内側に位置する領域にマッチするプライマーをデザインして2回目のPCR増幅を行った。この増幅は、アニーリング温度を60℃に設定して行った。
【0059】(d)エクソン19のスキッピングの確認
こうして、ジストロフィンcDNAのエクソン18?21の領域を増幅したところ、アンチセンスの無添加では384塩基対のきれいなバンドが得られた。この増幅産物の塩基配列を常法により決定したところ、これがエクソン18、19、21からなることが示された。これは患者の遺伝子解析結果とよく一致していた。
【0060】一方、アンチセンスオリゴDNA添加細胞のcDNAでは、アンチセンスオリゴDNAを導入しない細胞から得られた産物と同じサイズの増幅産物が得られたのみならず、培養4日目から小さなサイズの、リーディングフレームの維持された産物が得られた。また、症例2より確立したリンパ芽球細胞でも、同様の処理により2種類のバンドが得られた。これらのうち小さなサイズの増幅産物の塩基配列を決定したところ、エクソン18の配列が直接エクソン21の配列につながっており、エクソン19と20とは欠失していることが判明した。このことは、アンチセンス処理によりエクソン19がスキッピングしたことを示している。一方、正常者から確立したリンパ芽球細胞では、この条件で小さなサイズの転写物、すなわちエクソン19のスキッピングを有するもののみが得られた。また、ジストロフィンcDNAの全領域を10抗体に分けて増幅して調べたが、スプライシングの異常を示す断片は得られなかった。
【0061】(e)考察
このアンチセンスオリゴヌクレオチドのエクソンスキッピング誘導効果が正常とDMD患者で異なっている原因は、エクソン19近辺のmRNA前駆体の2次構造あるいは3次構造の差に由来するものと考えられた。アンチセンスオリゴヌクレオチドの濃度を変えることにより、更にDMD患者におけるエクソンスキッピング誘導効率を調べた。しかし、正常患者由来細胞で見られたような、全ての転写産物がエクソンスキッピングを示すような条件は得られなかった。なお、このアンチセンス誘導は、センスオリゴヌクレオチドでも、また他の領域に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドでも、見られなかった。
【0062】これらの結果は、ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御することによりエクソンのスキッピングを誘導し、その結果リーディングフレームの修正ができることを示している。しかし、筋細胞においてもこうしたmRNAの修正でアミノ酸読み取り枠が維持できるようになったmRNAが有効にタンパク質を合成できるか否かは依然として不明であった。

※当合議体注:
【0057】中では「配列番号2」が引用されているところ、当該「配列番号2」はエキソン53中の配列領域(SES部分)である(例えば、甲13.10の【0039】や【0041】)ことから、同【0057】及びその前後(【0055】?【0056】、【0058】?【0061】)のエキソン19に相補的なアンチセンスオリゴDNAに関する記載内容と、整合していないが、配列表に記載されている配列番号1?6のうち、エキソン19内の配列領域を表したものとして記載されているのは、「配列番号5」(16mer)及び当該「配列番号5」を含む「配列番号6」(31mer)のみであること(【0028】?【0029】(甲13.7))を考慮すると、ここでいう「配列番号2」は少なくとも「配列番号5」又は「配列番号6」のいずれかの誤記と解される。
( なお、【0057】では「・・・配列番号2で示した塩基配列に相補的な配列よりなる31塩基のアンチセンスオリゴDNA・・・」とされていることをも併せ考慮すると、ここでいう「配列番号2」は、塩基長からみて上記「配列番号5」、「配列番号6」のうち後者であると解するのが自然である。 )

・甲13.13(【0063】?【0074】)
「 【0063】2.DMD患者由来筋細胞におけるジストロフィン近似タンパク質の発現
そこで、次に、エクソン20の欠失したDMD患者の筋芽細胞を用いて、ジストロフィン近似のタンパク質が発現するか否かにつき検討した。
【0064】(a)DMD患者由来筋細胞株の樹立
ジストロフィン遺伝子のエクソン20を欠失した患者より、無菌的に筋組織を取り出し、細切した後、トリプシンにて遊離細胞を得た。これを洗浄した後、生育培地(Growth medium: 20% FCS、0.5% chicken胚抽出物を補充したHam-F10)中にて培養した。継代に際し細胞培養用のシャーレの中にカバーグラスをおき、その上で筋細胞の培養を行った。筋芽細胞の割合が80%程度になるまで増殖したとき、培養液をFusion培地(2%HSを補充したDMEM)に交換して分化を誘導し、筋細胞とした。
【0065】(b)アンチセンスオリゴDNAの導入
分化誘導して4日目に、アンチセンスオリゴDNA(200 pmol)をリポフェクタミン(6μl)によって細胞内に導入し、更に3、7、及び10日間培養した。
【0066】(c)ジストロフィン免疫染色
上記培養後のそれぞれの細胞につき、ジストロフィンのC末端に対する抗体を用いたジストロフィン免疫染色を行った。その結果、当初全くジストロフィンの染色のなかった細胞で、ジストロフィンが染色されるようになった。何れにおいても、ジストロフィン陽性細胞が確認された。また、ジストロフィンのN末端領域を認識する抗体を用いてもC末端領域の染色と同様な染色結果が得られ、この産生されたジストロフィンがN末端からC末端に及ぶものであることが確認された。
【0067】このように、アンチセンスオリゴDNAを添加した筋芽細胞には、ジストロフィンの染色が認められたのに対し、同様の方法でアンチセンスオリゴDNA無添加の筋芽細胞を検討したところでは、ジストロフィンの染色は全く認められていない。
【0068】(d)ジストロフィンcDNAの解析
続いて、上記アンチセンスオリゴDNA添加培養筋芽細胞から、常法によりRNAを抽出した。得られたRNAよりcDNAを合成し、リンパ芽球細胞からのRNAについて上記したのと同様にして、ジストロフィンのエクソン18?21の領域を増幅した。
【0069】得られた増幅産物につき、常法により塩基配列決定した。その結果、培養4日目から、エクソン18の塩基配列がエクソン21の塩基配列に直接つながってアミノ酸読み取り枠がインフレームとなった増幅産物が得られた。
【0070】次いで、アンチセンスオリゴDNA添加培養筋芽細胞から作成したcDNAにつき、その全領域を10個の部分に分けてPCR法により増幅し、増幅産物として得られた各断片のサイズを常法により電気泳動して検討した。その結果、エクソン19及び20のスキッピング以外、スプライシングの異常を示唆するような断片は認めらなかった。これらの結果は、得られたジストロフィン成熟mRNAが、エクソン19とエクソン20とを完全欠失していること以外は、リーディングフレームの維持された完全長のmRNAであることを示すものである。
【0071】3.アンチセンスオリゴDNAの核内への移行
次いで、アンチセンスオリゴDNAが実際に核内に移行して作用していることの裏付けを得るために、蛍光標識したアンチセンスオリゴDNAを用いて、その核内への移行の様子を観察した。
【0072】上で用いたアンチセンスオリゴDNAを常法によりFITC(フルオレセインイソチオシアネート)標識して、アンチセンスオリゴDNAの核内への移行について検討した。すなわち、DMD患者から採取した筋細胞を生育培地(Growth medium:20% FCS、0.5% chicken胚抽出物を補充したHam-F10)中にて培養した。培養は、細胞培養用のシャーレ内においたカバーグラス上で行い、細胞がセミコンフルエントになったときFusion培地(2%HSを補充したDMEM)に置換して分化を誘導し、筋細胞とした。分化誘導して4日目にFITC標識したアンチセンスオリゴDNA(200 pmol)をリポフェクタン(6μl)によって細胞内に導入し、1、2、3、7及び10日後に蛍光顕微鏡にてFITCの局在を確認した。
【0073】その結果、核に一致して蛍光シグナルが検出された。このことは、アンチセンスオリゴDNAが実際に核内に移行してエクソン19のスプライシングをスキップさせたことを裏付けるものである。
【0074】以上の試験結果が示すように、DMD患者の筋芽細胞において、アミノ酸読み取り枠をインフレームへと転換させることによって、ジストロフィンに対応するタンパク質を合成させることができる。これは、従来極めて重篤な不治の疾患であったDMDにおいて、特にエクソン20の単独欠失を有する患者を、比較的穏やかなBMDへと転換させる可能性を示すものである。 」

※当合議体注:
【0072】の「リポフェクタン」は、【0029】(甲13.7)や【0063】(甲13.13)中の「リポフェクタミン」の誤記と解される。

・甲13.14(【0075】、【0076】、【0077】?【0078】)
(1)「 【0075】4.他のエクソン内のSES配列の検索
上記の結果を基に、更に本発明等は、ジストロフィン遺伝子における欠失好発部位であるエクソン45?55周辺の、リーディングフレームに関して端数の塩基よりなるエクソン(即ち、その欠失が起こると、アミノ酸読み取りに関しアウトフレームとなる)内より、SESを転写物として与える配列の存在につき調べた。上記のように、in vitroの系における解析よって、SESはプリン残基(特にaagの繰り返し配列)に富んでいる。これに基づき、本発明者等は、ヒトジストロフィン遺伝子のエキソン内にある、比較的プリン残基に富んだ転写物を与える鋳型となりうる(1) エクソン43内の26塩基よりなる塩基配列(配列表の配列番号1に示した塩基配列に相補的な塩基配列)、(2) エクソン46内の28塩基よりなる塩基配列(配列表の配列番号2に示した塩基配列に相補的な塩基配列)、及び(3) エクソン53内の26塩基、の3箇所を候補として選択し、それらの配列がSES活性を有する転写物を与えるか否かを検討した。」

※当合議体注:
【0075】中には「・・・(1) エクソン43内の・・・、(2) エクソン46内の28塩基よりなる塩基配列(配列表の配列番号2に示した塩基配列に相補的な塩基配列)、及び(3) エクソン53内の26塩基、・・・」との記載がみられるところ、甲13.12の注でも述べたとおり、「配列番号2」はエキソン53中の配列領域(SES部分)であり、しかもその塩基長は26merであって、上の「(2)エクソン46内の28塩基よりなる塩基配列」との記載と整合していない。
よって、ここでいう「(2)エクソン46内の28塩基・・・(・・・配列番号2・・・)」の部分は、何らかの誤記を含んでいるものと解される。
また、エキソン53内の配列については、(2)の直後に「(3) エクソン53内の26塩基」との記載があり、「配列番号2」(26mer)はこの「(3)」の塩基配列として用いられたものと解される。

(2)「 【0076】 すなわち、ショウジョウバエのdoublesex (dsx)遺伝子のエクソン3・イントロン3・エクソン4を組み込んだプラスミドの3側にこれらSES候補の鋳型となる配列を有するDNAを組み込みミニジーンを作成した。これは、dsx遺伝子の転写物において、エクソン4の下流にSESが存在しないとイントロン3のスプライシングが見られてないが、SESが付加されているとスプライシングが見られるようになる系である。この系を用いてSES活性の検討を行った。すなわち、これらのプラスミドを鋳型として、常法によりRNAポリメラーゼによりラジオアイソトープによって認識されたmRNA前駆体を合成した。このmRNA前駆体を前述の方法と同様にしてHeLa細胞核抽出液と1時間反応させ、スプライシング反応を進行させた後、常法によりゲル電気泳動で解析した。 」

(3)「 【0077】その結果、エクソン43及び53のSES候補を組み込んだmRNA前駆体を用いたスプライシング反応では、何れもイントロン3のスプライシングを受けたmRNAの生成が明らかに認められた。このことは、これら2種の候補配列がSES活性を有することを示している。また両者の対比では、SES活性は、エクソン43の方が上回っていた。一方、エクソン46のSES候補を組み込んだmRNA前駆体を用いたスプライシング反応では、スプライシング反応を受けたmRNAは認められるものの、活性は非常に弱かった。
【0078】こうして、本発明者等は、ヒトジストロフィンmRNAのエクソン43及び53内にSESが存在することを見出した。mRNA中におけるそれらのSESは、それぞれ、配列表の配列番号1及び2に示したリボヌクレオチド配列である。 」

・甲13.15(【0079】、【0081】?【0082】)
「 【0079】既に本発明者等は、ジストロフィン遺伝子の転写物である前駆体mRNAのエクソン19内にSESが存在し、更にそのSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによりエクソン19のスキッピングを誘導でき、それによりリーディングフレームの回復が可能となることを見出している。上記で更に同定したエクソン43及びエクソン53内にそれぞれ存在するSESについても、それらに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることにより、それぞれエクソン43(173塩基、即ち3×57+2塩基)及び53(212塩基、即ち3×70+2塩基)のスキッピングを誘導できる筈である。
・・・
【0081】同様に例えば、DMD患者のジストロフィンの前駆体mRNAのエクソン53に隣接するエクソン内の塩基配列の欠失により塩基数が(3×N+1)個(Nはゼロ又は自然数)減少しているタイプのDMD症例に対しては、エクソン53のSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与により、スプライシングに際したエクソン53のスキッピングの誘導が行われる。該当する例としては、エクソン52(118塩基、即ち3×39+1塩基)を欠失、又はエクソン50・エクソン51・エクソン52を欠失(109+233+118=460塩基、即ち3×153+1塩基)を欠失したDMD症例が挙げられる。これらに対し、エクソン53のSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入してスプライシングに際したエクソン53のスキッピングを誘導することにより、スプライシング後におけるmRNA中の欠失の長さをそれぞれ330塩基及び672塩基とすることが可能である。そうすることにより、スプライシング後のmRNA中の欠失塩基の個数が3の倍数となるため、元の欠失により起こっていたリーディングフレームのずれが正常に復帰する。
【0082】適合するDMD患者への本発明の何れかのアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与は、例えば次の通りに行うことができる。すなわち、症例に応じ配列表において配列番号1又は2に示された塩基配列に対して相補的な塩基配列を含んでなる、例えば配列表においてそれぞれ配列番号3又は4に示されたアンチセンスオリゴDNA又は同じ塩基配列のアンチセンスホスホロチオエートオリゴDNAを当業者に周知の方法で製造し、これを常法により滅菌処理し、例えば1200μg/mlの注射用溶液を調製する。この溶液を、患者静脈内にアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与量が体重1kg当たり例えば20mgとなるように、例えば輸液の形で点滴投与する。投与は、例えば2週間の間隔で4回繰り返し、その後も、筋生検組織におけるジストロフィンタンパク質の発現、血清クレアチンキナーゼ値、臨床症状を指標とした治療効果の確認をしながら、適宜この治療を繰り返す。治療効果があり明らかな副作用が見られない限り、治療を継続し、原則として生涯投与が行われる。 」

・甲13.16(【0086】)
「 【0086】<製剤実施例2>
下記の処方に従って必要量の基剤成分を混合して溶解し、これにアンチセンスオリゴヌクレオチドを溶解させ、所定液量とし、ポアサイズ15nmのフィルター(PLANOVE 15:旭化成)により濾過して、静脈内投与用製剤とする。
アンチセンスオリゴヌクレオチド(注2)・・・100mg
塩化ナトリウム・・・・・・・・・・・・・・・8.3g
塩化カリウム・・・・・・・・・・・・・・・・0.3g
塩化カルシウム・・・・・・・・・・・・・・・0.33g
リン酸水素ナトリウム・12水塩・・・・・・・・1.8g
1N塩酸・・・・・・・・・・・・・適量(pH7.4)
注射用蒸留水・・・・・・・・・・・・・全量1000ml
注2:配列表の配列番号4に示された塩基配列よりなるホスホロチオエートオリゴDNA 」

・甲13.17(配列表)
「 【0088】
【配列表】
Sequence Listing
<110> JCR Pharmaceuticals Co., Ltd.
<120> Pharmaceutical Composition for Treatment of Duchenne MuscularDystrophy
<130> P88-00
<160> 6

<210> 1
<211> 26
<212> RNA
<213> Homo sapience
<400> 1
agcaagaagacagcagcauu gcaaag 26

<210> 2
<211> 26
<212> RNA
<213> Homo sapience
<400> 2
ggaagcuaag gaagaagcug agcagg 26

<210> 3
<211> 31
<212> DNA
<213> Homo sapience
<400> 3
gcactttgcaatgctgctgt cttcttgcta t 31

<210> 4
<211> 31
<212> DNA
<213> Homo sapience
<400> 4
gacctgctca gcttcttcct tagcttccag c 31

<210> 5
<211> 16
<212> DNA
<213> Homo sapience
<400> 5
gcaagatgccagcaga 16

<210> 6
<211> 31
<212> DNA
<213> Homo sapience
<400> 6
aactgcaagatgccagcaga tcagctcagg c 31 」

(2)甲29:特開2002-10790号公報

7.の冒頭で述べたとおり、甲29は、甲13出願を優先権主張の基礎とする 特願2000-348957号 の公開公報である。
そして、甲29には、甲13について上掲した甲13.1?甲13.17と同一の内容の記載がなされているものと認められる。

( なお、先願明細書等中では、【0076】の記載は、上掲の7(1)中の甲13.14(2)から、次の記載のように変更されている。
「 【0076】SES活性評価のためのmRNA前駆体の作製及び評価には、ショウジョウバエのdoublesex (dsx)遺伝子のエクソン3、イントロン3、及びエクソン4の5'末端部分を含んだ、Watakabe,A.,et al.,Genes & Development,7:407-418(1993)に記載のプラスミドを基本プラスミドとして用いた。このプラスミドは、ショウジョウバエのdoublesex (dsx)遺伝子のエクソン3から雌性特異的アクセプター部位(female-specific acceptorsite)の1128塩基下流までを含んだdsxのゲノム断片をpSP73(Promega)にサブクローンして得られるプラスミドであるpSPdsxE34f〔Inoue et al., Proc. Natl.Acad. Sci. USA, 89:8092-8096(1992)〕のBglII-HincII断片を、プラスミドpSP72のBglII-SmaI部位に挿入することにより得られたものである。このBglII-HincII断片は、その転写物において、雌性特異的エクソンであるエクソン4の5末端部分のすぐ下流にSESが付加されないとイントロン3を挟むエクソン間のスプライシングが見られないが、当該部分にSESが付加されるとスプライシングが見られるようになる系を提供する。他方、解析対象である塩基配列については、正逆両方向の一本鎖DNAを各々合成した。このとき、正方向のDNAの5末端には制限酵素BamHI切断部位を付加し、逆方向のDNAの5末端には制限酵素XhoI切断部位を付加した。合成した正逆両一本鎖DNAを混合し、熱処理(94℃、2分間)後、室温に戻して両鎖をアニールさせて二本鎖とした。この二本鎖DNAを、前記試験用の基本プラスミド中のdsxエクソン4の5末端部分のすぐ下流にあるBamHI-Xhol部位に挿入した。こうして、dsxのエクソン3からエクソン4の5末端部分までの塩基配列とその下流に挿入された解析対象塩基配列とからなるミニジーンを含んだプラスミドが得られた。これらのプラスミドを鋳型として、常法によりRNAポリメラーゼによりラジオアイソトープによって標識されたmRNA前駆体を合成した。このmRNA前駆体を前述の方法と同様にしてHeLa細胞核抽出液と1時間反応させ、スプライシング反応を進行させた後、常法によりゲル電気泳動で解析した。 」

しかしながら、当該変更に係る主な追記部分は、先願明細書等中でSES活性の検討に用いたとされるスプライシング系が「Watakabe,A.,et al.,Genes & Development,7:407-418(1993)」(先願明細書等中の【0026】中でも引用されている、甲17と同一の文献である)に記載された既知の技術に基づき作製されてなるものであることを、甲17の記載に基づきより具体的に説明したものであるから、上記追記部分に係る記載は先願明細書等に実質的に記載されていた範囲内の事項といえる。
よって、甲29における【0076】の記載は、先願明細書等の他の記載と共に、甲13出願を優先権主張の基礎とする特願2000-348957号の願書に最初に添付した明細書及び/又は特許請求の範囲に記載された事項であって、出願公開時に公開された範囲(即ち、甲29に記載された範囲)の内容である、といえる。 )

8.甲17:GENES &DEVELOPMENT, (1993) 7 P.407-418

・甲17.1(標題)
「 スプライス部位におけるエクソン配列の役割 」

・甲17.2(要約)
「 我々は、マウスイムノグロブリンμ(IgM)mRNA前駆体をin vitroスプライシングのモデル基質として用い、スプライシングにおけるエクソン配列の役割を調査した。我々は、IgM遺伝子のエクソンM2の5’部分の欠失がその直上流イントロンのスプライシングを消失させることを見出した。欠失された領域内部のプリンリッチな配列が欠失構築物中に再挿入されるとスプライシングは修復された。このM2エクソン配列は最適以下の3’スプライス部位配列を含むDrosophila doublesex mRNA前駆体の異種イントロンのスプライシングを刺激する能力を有していた。これらの結果は、IgMのM2配列がスプライシングエンハンサーとして機能することを示すものである。我々は、早期スプライシング複合体のアセンブリがM2エクソン配列により刺激されることを見出した。in vitro競合試験が示すのは、この刺激作用があるトランス作用因子の相互作用により仲介されるということである。我々の結果は、U1snRNPがそのような因子の1つであることを示唆する。我々が提唱するのは、スプライシング機構の構成要素によるエンハンサーエクソン配列の認識が、IgMmRNA前駆体のみならず他のmRNA前駆体のスプライス部位の選択においても、重要な役割を演じているということである。我々は、そのような配列をエクソン認識配列(ERS)と名付ける。 」

・甲17.3(図3)


図3.dsx-IgMキメラmRNA前駆体のin vitroスプライシ ング。 (A)Drosophiladsx-IgMキメラmRNA前駆体の模式図。・・・pSP72ベクター由来の3’エクソン中のリンカー配列は小ボックスで示されている。5’エクソンはpSP72由来の短いリーダー配列を含んでいる。・・・ (B)dsxmRNA前駆体のin vitroスプライシング。・・・ 」

・甲17.4(表1)
「 表1.スプライシングに影響を及ぼすエクソン配列の比較



・甲17.5(416頁右欄35?40行)
「 mRNA前駆体の調製及びin vitroスプライシング
in vitro転写はSP6又はT7RNAポリメラーゼのいずれかにより行われた。HeLa細胞核抽出物は以前に示したように調製された(Dignamら、1983)。スプライシング反応は以前に示された(Sakamotoら、1987)反応混合物10μ中で行われた。 」

9.(9-1)甲18:HUM. MOL. GENET., (2001) 10(15) P.1547-1554

甲18は、本件特許出願の出願日とみなされる第1出願の優先日:平成12年(2000年9月21日)より後であって、第1出願の国際出願日:平成13年(2001年)9月21日(本件特許出願は適法な分割に係るものであることから、同日は本件特許の出願日とみなされる。以下、この日を「本件特許出願日」ということがある)より前の、2001年7月15日(以下の「(9-2)甲第18-2号証」の項参照)に頒布されたものと認められる、本件特許出願の発明者であるファン デーテコム,ユディス,クリスティーナ,テオドラらを著者とする文献である。
そして、甲18には、主な記載事項として、本件特許明細書の【0022】?【0031】及び図1?6で示されている、エキソン46の内部領域を標的とするmAON及びhAONの作製及びその使用に関する試験結果の一部と重複する内容が記載されている。例えば、
・甲18の表1に記載された「mAON4」、「mAON6」、「mAON8」、「mAON9」、「mAON11」、及び「hAON4」、「hAON6」、「hAON8」。「hAON9」、「hAON11」は、この順 に、本件特許明細書【0024】?【0026】中に記載された「mAON#4」、「mAON#6」、「mAON#8」、「mAON#9」、「mAON#11」、及び「hAON#4」、「hAON#6」、「hAON#8」、「hAON#9」、「hAON#11」のそれぞれにおいて「TをUに置き換え」(【0024】)たものと同一の塩基配列のAON;
であり、
・甲18の図18A,図18B、図2A、図2Bは、この順に本件の図1、図2、図3、図4Aと略同一;
であり;
・甲18の表2は、本件特許明細書の【0042】【表1】と略同一;
である。

また、特に、甲18には、次のような記載がある。

・甲18.1(1547頁右欄下から6行?1548頁左欄18行)
「・・。エキソン23の3’又は5’スプライス部位に対するAONによるトランスフェクションにより、このエキソンの転写物からのスキッピングが誘導され・・・た(22-24)。しかし、これらの研究はまた、アンチセンスによる3’又は5’スプライス部位の標的化は、予期されるほどの追加的な隣接エキソンのスキッピングをもたらさない可能性がある。それ故、本研究で我々は、より特異的な、ポリプリンリッチなエキソン認識配列(ERS)又はエキソンスプライシングエンハンサー(ESE)(25、26)のような上流イントロンのスプライシングに関与する内部のエキソン配列を標的とした。・・・
・・・(図1A)。本稿において、我々は、エキソン46内の推定上のERSと相補的なAONを用いた、転写物からのエキソン46の高効率なスキッピングを報告する。・・・」

・甲18.2(1548頁左欄53?57行)
「・・・。ゲルモビリティーシフトアッセイにおける見かけ上の結合親和性にもかかわらず、mAON8は筋管におけるエクソン46のスキッピングを再現性良く誘導しなかった。これは不定の結合カイネティクスが原因であったのかもしれない。・・・ 」

・甲18.3(1551頁 表2)
「 表2.AON-治療のための有望な標的エキソンの概要

これらのエキソンのスキッピングは、様々な1又はそれ以上のエキソンの欠失により影響を受けている一連の患者におけるリーディングフレームを修復するだろう。DMD-Leidenデータベース(http://dmd.nl)における総頻度が示されている。 」

(9-2)甲第18-2号証:HUM. MOL. GENET., (2001) 10(15)の目次(https://academic.oup.com/hmg/issue/10/15)のプリントアウト物 1/6-6/6頁

・1/6頁中段
「 10巻、15号
2001年7月15日 」

10.甲30:日本先天代謝異常学会雑誌,(1999) 15(2) P.232 100

・甲30.1(標題)
「ジストロフィン遺伝子のエクソン配列内のスプライシング促進配列の同定」

・甲30.2(本文左欄1?25行)
「 【はじめに】ゲノムより転写されたmRNA前駆体はスプライシングなどの修飾を受け成熟mRNAとなるが、スプライシングの部位決定には、従来より知られているエクソン・イントロン境界部に存在するコンセンサス配列のみではなく、エクソン内に存在するスプライシング促進配列(splicing enhancer sequence:SES)が重要な役割を果たしていることが報告されている。我々もジストロフィン遺伝子エクソン19内にSESが存在することを明らかにし、さらにそのSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AS-oligo)によりエクソン19のスキッピングを誘導し得ることを明らかにしてきた。
一方、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)はジストロフィン遺伝子の異常によって発症する進行性筋疾患であるが、欠失によりアミノ酸読み取り枠にずれが生じているためジストロフィン蛋白の発現がみられない。このような症例に対して、AS-oligoを導入することによりエクソンスキッピングを誘導し、アミノ酸読み取り枠のずれを修復すると、ジストロフィン蛋白が発現すると考えられる。
この様な治療の可能性を考える上において、遺伝子欠失好発部位周辺のエクソンでSESを同定する必要がある。今回in vitroスプライシング系を用いて新たなSESを同定したので報告する。」

・甲30.3(本文左欄26行?右欄3行)
「 【方法】ジストロフィン遺伝子の欠失好発部位であるエクソン45-55周辺のout-of-frameのエクソン内より、SESの候補として比較的プリン残基に富んだ(丸数字1)エクソン43内の26塩基(丸数字2)エクソン46内の28塩基(丸数字3)エクソン53内の26塩基の3ケ所を選択した。ショウジョウバエのdoublesex(dsx)遺伝子のエクソン3・イントロン3・エクソン4を組み込んだプラスミドの3’側にこれらのSES候補を組み込みミニジーンを作成した。dsx遣伝子のエクソン4の下流にSESが存在しないとイントロン3のスプライシングがみられないが、SESが付加されるとスプライシングが進行するようになる系であり、この系を用いてSES活性の検討を行なった。これらのプラスミドを鋳型としてRNAポリメラーゼによりラジオアイソトープによって標識されたmRNA前駆体を合成した。mRNA前駆体をHeLa細胞核抽出液と1時間反応させ、スプライシング反応を進行させた後、ゲル電気泳動によってその産物を解析した。」

・甲30.4(本文右欄4?11行)
「 【結果】エクソン43および53のSES候補を組み込んだmRNA前駆体からは、イントロン3のスプライシングを受けた成熟mRNAが産生された。産生物の量からみると、SES活性はエクソン43の配列の方がエクソン53のそれを上回っていた。しかし、エクソン46のSES候補を組み込んだmRNA前駆体ではスプライシングをうけたmRNAは認められるものの活性は非常に弱かった。」

・甲30.5(本文右欄12?21行)
「【考案】今回、ジストロフィン遺伝子の欠失好発部位周辺のエクソンを解析し、エクソン43及び53内に新たなSESを同定した。
in vitroの系における解析より、SESはプリン残基(特にAAGの繰り返し配列)に富んでおり、さらにウラシル基による分断が少ない程スプライシングを促進することが報告されている。今回我々はこの観点よりSESの候補を選定し、スプライシングを促進するか否かを検討することによりSESを同定することが可能であった。

・甲30.6(本文右欄22?40行)
「 以前より我々はエクソン19内にSESが存在し、さらにそのSESに対するAS-oligoによりエクソン19のスキッピングを誘導し得ることを報告してきた。同様のことが今回同定したSESにおいても可能であるとすると、例えばエクソン52の欠失(118塩基)あるいは50-52の欠失(460塩基)のDMDの症例(out-of-frameの欠失)に対し、エクソン53のSESに対するAS-oligoを導入しエクソン53のスキッピングを誘導することにより、mRNAにおける欠失の長さをそれぞれ330塩基、672塩基(いずれもin-frame)とすることが可能である。即ちDMD症例で欠失によって生じたアミノ酸読み取り枠のずれをAS-oligoにより修正し、ジストロフィン蛋白の発現を誘導し得ることになる。
今回の結果はジストロフィン遺伝子の欠失好発部位においてもSESが存在することを示しており、SESに対するAS-oligoによる治療戦略が、より多くの症例において適応となり得る可能性を示唆している。」

11.甲31:欧州特許出願番号203283.7 出願時書面

甲31は、第1出願(本件特許出願の原出願:特願2011-98952号の原出願である特願2002-529499号)の優先権主張の基礎である欧州特許出願番号203283.7(以下、「基礎出願」等ということがある)の願書に最初に添付された明細書、請求の範囲及び図面(以下、これらをまとめて「基礎出願明細書等」等ということがある)であって、本件特許出願に係る出願の分割が適法になされたものと認められることから、当該基礎出願は、本件特許出願の優先権主張の基礎となるものである。
そして、基礎出願明細書等には、次のような記載がある。

・甲31.1(請求の範囲)
「 1. 異常型タンパク質をコードするエキソンを含むmRNA前駆体を有する細胞に対して、該エキソンの少なくとも1つが有するエキソン封入シグナルを特異的に阻害することが可能な試薬を細胞に与え、そして該mRNA前駆体のスプライシングによって生じるmRNAの翻訳を行わせしめることを包含する、
細胞による異常型タンパク質の産生を少なくとも部分的に減少させるための方法。
2. 該エキソン封入シグナルがエキソン認識配列を包含することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
・・・
10. 目的エキソンの一部に対して相補的な核酸またはそれと同等の機能を有する分子が、該エキソンの有するエキソン封入シグナルを特異的に阻害することが可能であることを確認するための方法であって、目的のエキソンを含むmRNA前駆体を有する細胞に被験核酸を与え、該細胞を培養して該mRNA前駆体からmRNAを生成せしめ、そして生成した該mRNAに該エキソンが存在しないことを確認することを包含する方法。
・・・ 」

・甲31.2(2頁33行?3頁7行)
「 上記及びその他の諸問題を克服するために、本発明は細胞内で異常タンパク質の生成を少なくとも部分的に低下させるための方法を提供し、前記細胞は前記タンパク質をコードするエキソンを含むmRNA前駆体を含み、前記方法は、前記細胞に、前記エキソンの少なくとも1つのエキソンのエキソン封入シグナル(exon inclusion signal)を特異的に阻害することが可能な試薬を提供することを含み、前記方法はさらに該mRNA前駆体のスプライシングから生成されるmRNAの翻訳を可能にすることを含む。エキソン封入シグナル(EIS)に干渉することの利点は、シグナルを提供するこのような因子がエキソン内に存在するということである。スキップされるエキソン内の配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを与えることによって、エキソン封入シグナルと干渉して、エキソンをスプライシング機構から効果的に遮蔽することができる。スプライシング機構がスキップすべきエキソンを認識しないことによって、最終的なmRNAからエキソンが排除され る。本発明は、スプライシング機構の酵素反応(エキソンの結合)に干渉するものではない。このことによって本発明は、確実且つ信頼性の高い方法であり得る。 」

・甲31.3(3頁28行?4頁4行)
「 本発明の好ましい態様において、エキソン封入シグナルはエキソン認識配列(exon recognition sequence)(ERS)に特異的なアンチセンス核酸による干渉を受ける。このような配列は比較的プリン塩基に富み、スキップされるエキソンの配列情報を精査することで特定することが可能である。エキソン認識配列は、いわゆる弱いエキソンのmRNAへの封入を補助すると考えられる。このような弱いエキソンは、例えば、スプライシング機構による認識効率が低い5’及び/または3’スプライス部位を包含する。本発明においては、エキソンスキッピングはいわゆる強いエキソン、すなわち細胞のスプライシング機構によって通常効率よく認識されるエキソン、においても誘導することができることを見出した。 」

・甲31.4(12頁17行17?22行)
「 mAONs及びhAONsの設計
エキソン46の内部に向けられた一連のマウス-及びヒト特異的AON(mAON及びhAON)が設計された、このエキソン46の内部はプリン塩基に富んだ配列を有し、エキソン46のスプライシング制御に係る推定上の機能を有すると考えられる(図2)。・・・」

・甲31.5(16頁31?36行)
「 ジストロフィンのエキソン51内に存在するプリン塩基に富んだ種々の領域に対する一連のヒト特異的AON10種(hAON#21?30、下記参照)を設計した。このようなプリン塩基に富んだ領域は、エキソンのスプライシング反応の制御を担うと推定される因子、すなわちスプライシング反応の際にエキソンの除去を誘導するために遮蔽を試みた領域の存在を示唆した。・・・ 」

12.甲33:JUDITH VAN DEUTEKOMによる実験成績証明書(2017年5月16日付け) 1?4頁

※当合議体注:
甲33には頁番号が付されていないが、標題「A Comparative studyon・・・」が記載された最初の頁を1頁とし、次頁以降を順に2?4頁とする。

・甲33.1(1頁 標題)
「 ジストロフィンmRNA前駆体におけるエクソン53を標的とした種々のアンチセンスオリゴヌクレオチドのエクソンスキッピング活性についての比較研究 」

・甲33.2(1頁 「目的」の項)
「 目的
本研究は、健康なヒトの筋管培養物における選択されたアンチセンスオリゴヌクレオチド(AONs)のエクソン53スキッピング活性を評価するために企画された。AON配列の全体像、並びに、エクソン53中のプリンリッチ配列区間及び推定上のエクソン認識(ERS)様配列(Tanakaら、1994の指針による)と関連するそれらの位置が図1に示されている。これらのAONsは以前に1つの実験内で直接比較されることはなかった。 」

・甲33.3(1頁 図1)


図1.ジストロフィンエクソン53内のプリンリッチ及び/又はERS様配列区間と関連するAONs(PS524、PS2644?PS2646)の位置 」

・甲33.4(2頁8?16行「AONs」の項(表1含む))
「 材料及び方法
AONs
全てのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AONs)(表1)は2’-O-メチル置換を伴うホスホロチオエート骨格を構成していた。・・・
・・・
表1

A=アデノシン、G=グアノシン、U=ウラシル、及びC=5-メチルシトシン。全てのAONは2’-O-メチル置換及びホスホロチオエート骨格の連結鎖を構成していた。 」

・甲33.5(3頁 「結果」の項)
「 結果
AON PS524は最も高効率で明瞭にバックグラウンドを超えるエクソン53のスキッピングを誘導する(・・・)(図2)。このAONがエクソン53内で標的とするプリンリッチ及び/又は推定上のERS様配列は、したがってこのエクソンの正確なスプライシングに最も関与しているものと考えられる。PS2644は部分的にPS524と重複しており同じプリンリッチ及び/又は推定上のERS様配列を標的としているが、著しくより低効率である(バックグラウンドレベルに近い)。これはPS524の7ヌクレオチド長の差異によるものと思われる。PS2645及びPS2646はプリンリッチ及び/又は推定上のERS様配列を標的としておらず、そして、予想どおり、バックグラウンドレベルを超えてエクソン53のスキッピングを誘導する能力を有していない(図2)。」

・甲33.6(4頁 図2)


図2.低(800nM)又は高(4μM)濃度下での各AONによる健康なヒト筋管培養物におけるエクソン53スキッピングのレベル。RT-ddPCRにより評価された。NT:未処理細胞。 」

・甲33.7(4頁「結論」の項)
「 結論
本比較研究が実証するのは、EP12198517.0号におけるAON設計のための指針に従いプリンリッチ及び/又は推定ERS様配列を標的化するPS524のようなAONは、エクソンスキッピングを誘導する能力を有するであろうことが予期される、ということである。注意すべきは、エクソン中の全てのプリンリッチ及び/又は推定ERS様配列が真にスプライシング機構により認識されそして明らかにスプライシングに関与しているというわけではない、ということである。これらの配列を標的とするAONsにより誘導されるエクソンスキッピングの効率は、(PS2645及びPS2646のような)プリンリッチ及び/又は推定ERS様配列を標的としないAONsのそれと同様である可能性がある。 」

・甲33.8(4頁「参照文献」の項)
「 参照文献
Tanaka et al.,1994-Mol Cell Biol,14(2): 1347-1354
Verheul et al.,2016- PloS One Sep 9;11(9):e0162467
Aartsma-Rus et al.,2002- Neuromusc Disorders,12,S71-S77 」

※当合議体注:
「Tanaka et al.,1994-Mol Cell Biol,14(2):1347-1354」は、甲7と同一 の文献と認められる。

13.甲34:MOLECULAR BIOTECHNOLOGY, (1999) 12 P.1-11


・甲34.1(標題)
「 アンチセンスオリゴヌクレオチドの前臨床及び臨床薬理学」

・甲34.2(要約欄第1文)
「 要約
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、化学合成で製造され化学修飾されたDNA又はRNAの短い(典型的には長さ15-20塩基)断片である。」

・甲34.3(2頁右欄下から15?9行)
「・・・。一般的に、アンチセンス医薬は長さが15-20塩基である。この長さは、その相補的なmRNAに対し十分な親和性、選択性及び特異性を提供する。実際、大きく密接に関連したアイソザイムファミリー中の単一のアイソザイムを特異的に阻害するアンチセンンス医薬の数多くの例がこれまでに存在する(18,21-23)。・・・」

14.甲38:CELL, (1988) 53 P.219-228

・甲38.1(219頁右欄26?27行)
「 ヒトDMDのcDNAの全配列が図1に示されている。・・・ 」

・甲38.2(221頁 図1(部分)及びその説明文)


図1.DMD転写物のヌクレオチド配列及びコードされたタンパク質の推定一次構造
DNA配列は実験手順に記載されたように決定され、タンパク質配列を予測するために使用された。エクソンの境界は、既知の場合は黒い矢印で示され、予測される反復配列の境界は明るい矢印で示されている。ヌクレオチド5000超の3個のエクソンの境界は、異常cDNAの配列から決定された(結果参照)。エクソンは当該エクソンの中央に(エクソン#)、反復配列は当該反復配列の始まりと終わりに(R#)番号が付されている。転写物の末端に見出されるポリアデニル化コンセンサス配列(Proudfoot and Brownlee, 1976)に下線が引かれている。この配列のGenBank受入番号はM18533である。 」

15.甲39:GENOMICS, (1993) 16 P.536-538

甲39は、甲35の6頁における「ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の塩基配列は、本願の優先日には公知であり、GenBankなどから入手可能でした」との被請求人の主張の根拠として、同頁で「添付書類3」として引用されている文献と同一のものであり、次の甲39.1?甲39.5の事項が記載されている。
また、甲39中の「参照文献10」は、甲38と同一の文献である(甲39.2、甲39.3、甲39.5)。

・甲39.1(標題)
「 短報
ヒトジストロフィン遺伝子のエクソンの構造 」

・甲39.2(536頁右欄7?16行)
「 我々は以前、当該遺伝子の3’部分のエクソン構造(エクソン60-79)の解明のためのvectorette PCRの利用について述べた(19)。・・・。簡単にいうと、我々はcDNA配列(10)から作製されたプライマーを・・・用いた。・・・」

・甲39.3(536?537頁 表1、及び脚注^(b))



^(a) ・・・
^(b) エクソンの大部分の5’末端塩基のヌクレオチド番号(参照文献10によるナンバリング)。
・・・ 」

・甲39.4(538頁左欄17?20行)
「 以前の研究と組み合わされた本稿の作業の成果により、表1に集約されるとおりの、ジストロフィン遺伝子の完全なエクソン構造の決定が可能となる。 」

・甲39.5(538頁右欄 参照文献10)
「 10.Koening, M., ・・・(1988)・・・Cell 53: 219-228 」

16.甲43:GENOMICS, (1988) 2 P.90-95

・甲43.1(標題)
「 DMD遺伝子座位において部分欠失を有する患者間での表現型の差異についての説明 」

・甲43.2(要約)
「 Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)、及び比較的軽度のBecker型筋ジストロフィー(BMD)において生じる欠失は、ヒトX染色体短腕上の同じ大遺伝子内で発生する。我々は、当該同じ遺伝子座位に部分欠失を有するDMD患者-BMD患者間の重篤度における臨床上の差異を説明するための分子機序を提示する。本モデルは、遺伝子内の欠失、及びそのトリプレットコドンのタンパク質産物のアミノ酸への翻訳に及ぼす影響のブレイクポイントに基づくものである。3人のDMD患者において明らかにされた欠失は、アミノ酸をコードするトリプレットコドンのオープンリーディングフレーム(ORF)を変化させることが明らかにされ、各欠失はその結果として切断型の異常なタンパク質産物をもたらすものと予測される。3人のBMD患者において同定された欠失はアミノ酸配列の翻訳上のORFを維持しており、より短鎖で低分子量のタンパク質が予測されることが示されている。当該より小さなタンパク質産物は、半機能的であり、その結果としてより軽度の臨床表現型をもたらすものと推定される。同様のORFの機序は、潜在的5’及び3’イントロンスプライス変異、並びにそのタンパク質産生及び臨床表現型への影響にも当てはまる。 」


【5-2】無効理由3(明確性要件違反)について

1.無効理由3における請求人の主張の概要
無効理由3に係る請求人の主張の概要は、
「 本件発明においては、「エキソン53の内部領域」という用語の技術的意味を理解することができないため、本件特許請求の範囲に記載された発明の外延を明確に把握することができない」
というものであるところ、ここでいう「エキソン53の内部領域」なる文言がみられるのは、請求項1?7のうち請求項1?4においてのみである。
そして、請求人による上記主張のより具体的な根拠は、要するに、
「 請求項1には、「エキソン53の内部領域」という用語が用いられている。しかし、「エキソン53の内部領域」が、エクソン53の212個のヌクレオチドからなる配列のどこからどこまでの配列を示すのかが不明であり、訂正発明1の外延を把握することができない。例えば、「内部領域」が、212個のヌクレオチドからなる配列の両端(5’末端及び3’末端)を除いた領域を示すのかが不明である。」[審判請求書48頁5?11行]
というものである。

2.請求人の主張に対する当合議体の判断

(1) そこで検討するに、訂正発明1?4については、次のア、イのように理解される。
ア 訂正発明1?4における、「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分」に含まれる「エキソン53」とは、甲39の表1(甲39.3)において示されているジストロフィン遺伝子の79個のエキソンのうち、5’末端から数えて53番目の「Exon53」の行に記載されたエキソンであって、同表1中で引用されている「参照文献10」(甲39.3、甲39.5)、即ち甲38、中に図1として示されたcDNA配列(甲38.2)中の、7869番目の塩基を5’末端とし8080番目の塩基を3’末端とする、ヌクレオチド長が212個(212mer)の次の塩基配列:
TTGAAAGAAT TCAGAATCAG TGGGATGAAG TACAAGAACA CCTTCAGAAC CGGAGGCAAC 60
AGTTGAATGA AATGTTAAAG GATTCAACAC AATGGCTGGA AGCTAAGGAA GAAGCTGAGC120
AGGTCTTAGG ACAGGCCAGA GCCAAGCTTG AGTCATGGAA GGAGGGTCCC TATACAGTAG180
ATGCAATCCA AAAGAAAATC ACAGAAACCA AG 212
のRNA形態(TはUに置き換えられる)、即ち
UUGAAAGAAU UCAGAAUCAG UGGGAUGAAG UACAAGAACA CCUUCAGAAC CGGAGGCAAC 60
AGUUGAAUGA AAUGUUAAAG GAUUCAACAC AAUGGCUGGA AGCUAAGGAA GAAGCUGAGC120
AGGUCUUAGG ACAGGCCAGA GCCAAGCUUG AGUCAUGGAA GGAGGGUCCC UAUACAGUAG180
AUGCAAUCCA AAAGAAAAUC ACAGAAACCA AG 212
で表されるエキソンである。

イ 請求項1?4中では、当該エキソン53におけるその「内部領域」が、上記ヌクレオチド配列(塩基配列)中の何処の領域であるのかを具体的に特定する記載はないことから、訂正発明1?4における当該「エキソン53」の「内部領域」とは、文字通りその「内」部、即ち、上記212ヌクレオチド長の領域を超えない任意の一部(なお、これは、請求項5?7に規定される「エキソン53の一部」とも実質的に同等の範囲である)及び全部(全長)から選択される、任意の領域を包含するものと解される。
また、請求項1?4中、並びに本件特許明細書中では、当該「内部領域」が上記212塩基長の「エキソン53」の両端(5’末端及び3’末端)を除いた領域を示すのか否か、について特段明確に定義付ける記載は認められないものの、上記212塩基のエキソン53の範囲を超える領域を含まない限り、当該「内部領域」としては上記5’末端及び3’末端のいずれかを含む領域の態様を特に除外するものではない、と解するのが自然である。

(2) そして、かかる解釈によれば、ある提示されたヌクレオチド配列が、請求項1?4にいう「エキソン53の内部領域」に該当するのか否か、は、上述の212ヌクレオチド長の配列と対比することにより、当業者であれば明確に判別することができる。
そうすると、単に当該「内部領域」に該当する具体的な部位(塩基長及び塩基配列)が請求項1中で特定されていないからといって、そのことのみを以て、当該「内部領域」の包含する範囲の外延を明確に把握することができない、とまではいえない。

(3) 以上のとおりであるから、請求項1?4にいう各「エキソン53の内部領域」という用語の技術的意味を理解することができない、とはいえず、請求項1?4に記載された発明の外延を明確に把握することができない、ともいえない。
したがって、訂正発明1?4に係る特許は、いずれも、特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たさない発明に対しなされたものとはいえず、請求人の主張する無効理由3は理由がない。


【5-3】無効理由1(実施可能要件違反)について

1.訂正発明1について

(1)(訂正発明1における実施可能要件について)

ア 【5-2】2.(1)で述べたとおり、訂正発明1における「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分」に含まれる「エキソン53」とは、ヌクレオチド長(Length)212個(212mer)の次の塩基配列:
UUGAAAGAAU UCAGAAUCAG UGGGAUGAAG UACAAGAACA CCUUCAGAAC CGGAGGCAAC 60
AGUUGAAUGA AAUGUUAAAG GAUUCAACAC AAUGGCUGGA AGCUAAGGAA GAAGCUGAGC120
AGGUCUUAGG ACAGGCCAGA GCCAAGCUUG AGUCAUGGAA GGAGGGUCCC UAUACAGUAG180
AUGCAAUCCA AAAGAAAAUC ACAGAAACCA AG 212
で表されるエキソンである。

ただし、訂正発明1では、そのようなエキソン53の「内部領域」に該当する上記212mer中の具体的な配列領域は特定されておらず、訂正発明1に係る医薬の有効成分(薬効成分)である「アンチセンスオリゴヌクレオチド」(AON)については、次の要件(ア)及び(イ):
(ア)化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害」し、且つ
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進」する機能を有し;
(イ)「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらす;
を共に満たすものであることが規定されているのみである。

イ ここで、訂正発明1は医薬の発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう物の発明である。
また、物の発明における実施には、その物の使用をする行為が含まれるところ、訂正発明1におけるその物の使用とは、有効成分であるAONを以て上述の「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらしめることに他ならない。

そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるためには、発明の詳細な説明の記載から、次の(ア)及び(イ):
(ア) 化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害」し、且つ
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進」する機能を有する
AONを、作ることができること;
(イ) 当該AONを、
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」
という薬理作用をもたらすために、使用することができること;
を、当業者が認識できる必要がある。

ウ ところで、イ(ア)及びイ(イ)の要件を満たすAONのような、エキソンのスキッピングに用い得る「試薬」、当該「試薬」が標的とするエキソンの内部領域、並びに、当該内部領域に対するAONのイ(ア)の要件に係る機能と関連したスキッピング作用等に関し、本件特許明細書中には、以下のような記載がある(下線は当合議体による。以下同様)。

(i)(【0001】)
「 【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチドに関する。より詳細には、ジストロフィンmRNA前駆体に含まれるエキソン53の一部に対して相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、14?40個のヌクレオチドを含有し、エキソン53のスプライシング機構からの遮蔽およびエキソン53のmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチド、および上記アンチセンスオリゴヌクレオチドを包含する医薬を提供する。 」

(ii)(【0005】)
「 【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明においては、いわゆるエキソンスキッピングを細胞に誘導することによってこれらの問題に対処する。エキソンスキッピングは、スキップされたエキソンを有さない成熟mRNAを生じるので、スキップされたエキソンがアミノ酸をコードしている場合、このスキッピングは変化した産物の発現につながる。現在、エキソンスキッピングに関する技術はいわゆる「アンチセンスオリゴヌクレオチド (Anti-sense Oligonucleotide)」(AON)を使用するものであり、その研究のほとんどは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy)(DMD)のモデルであるmdxマウスを利用して行われている。ジストロフィン遺伝子のエキソン23にナンセンス突然変異を有するmdxマウスは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー の動物モデルとして利用されている。・・・。ジストロフィンmRNA前駆体のイントロン22及び23のそれぞれの3’及び5’スプライス部位に特異的なAONはイントロン23の除去に通常関与する因子と干渉し、エキソン23もmRNAから除去することが示された(Wilton, 1999)。同様の研究において、Dunckleyら(1998)は、3’及び5’スプライス部位に特異的 なAONを使ったエキソンスキッピングが思いがけない結果をもたらしうることを示した。彼らは、エキソン23のみならず、エキソン24?29のスキッピングを観察し、その結果、エキソン22とエキソン30の結合体を有するmRNAが生成された。思いがけない22-30スプライシングバリアントの出現の根底にあるメカニズムは不明である。このようなバリアントの出現は、スプライス部位がコンセンサス配列を含んでおり、その結果、エキソンスキッピングを導くために使用したオリゴヌクレオチドによる非特異的なハイブリダイゼーションが生じたからと考えられる。オリゴヌクレオチドをスキップされるエキソン部位以外のスプライス部位にハイブリダイズさせることによって、当然のことながら、スプライシング反応の精度に容易に干渉することができる。一方、スプライシング反応が精度に欠ける理由としては、(5’及び3’スプライス部位のそれぞれのための)2個のオリゴヌクレオチドの使用が必要であるためと考えられる。1個のオリゴヌクレオチドを有するが、他のオリゴヌクレオチドを有しないmRNA前駆体は、思いがけないスプライシングバリアントとなる傾向がある。 」

(iii)(【0006】)
「 【0006】
上記及びその他の諸問題を克服するために、本発明はRNAスプライシング反応系のmRNA前駆体を、該mRNA前駆体に含まれる少なくとも1つのエキソンが有するエキソン封入シグナル(exon inclusion signal)(EIS)を特異的に阻害することが可能な試薬と接触させ、そして該mRNA前駆体のスプライシングを行わせしめることを包含する、RNAスプライシング反応系においてmRNA前駆体のスプライシングを制御するための方法を提供する。エキソン封入シグナルに干渉することの利点は、このような因子がエキソン内に存在するということである。スキップされるエキソン内の配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを与えることによって、エキソン封入シグナルと干渉して、エキソンをスプライシング機構から効果的に遮蔽することができる。スプライシング機構がスキップすべきエキソンを認識しないことによって、最終的なmRNAからエキソンが排除される。本発明は、スプライシング機構の酵素反応(エキソンの結合)に直接干渉するものではない。このことによって本発明は、確実且つ信頼性の高い方法であると考えられる。EISはエキソンに特異的な構造であり、スプライス受容部位及びスプライス供与部位に特定の立体配置を付与するものと考えられる。このような概念においては、特定の立体配置によってスプライシング機構がエキソンを認識すると考えられている。しかしながら、本発明はこのモデルに限定されるものではない。本発明者らは、エキソンに結合可能な試薬がEISを阻害することを見出した。このような試薬は、エキソンのいかなる部位にも特異的に接触することができるにもかかわらず、EISを特異的に阻害することができる。・・・。2つのドメインの間に存在するアミノ酸の一次構造の一部をコードするエキソンのスキッピングによって、少なくとも部分的には同等の機能を発揮する、より短いタンパク質の産生につながる。従って、中間領域における不利益な突然変異(例えばフレームシフト突然変異や停止変異)はエキソンスキッピングを誘導することで少なくとも部分的に 修復することが可能であり、(部分的な)機能を有する短いタンパク質を合成することができる。・・・。細胞は試験管内(in vitro)で培養されるか、または生体内(in vivo)で増殖したものであることが好ましく、これらに限定されるわけではないが、典型的な生物の例にはヒトやマウスが包含される。 」

(iv)【0008】?【0010】
「 【発明を実施するための形態】
【0008】
好ましい態様において、本発明は異常型タンパク質をコードするエキソンを含むmRNA前駆体を有する細胞に対して、該エキソンの少なくとも1つが有するエキソン封入シグナルを特異的に阻害することが可能な試薬を細胞に与え、そして該mRNA前駆体のスプライシングによって生じるmRNAの翻訳を行わせしめることを包含する、細胞による異常型タンパク質の産生を少なくとも部分的に減少させるための方法を提供する。
【0009】
エキソン封入シグナルを特異的に阻害することが可能ないかなる試薬も本発明に用いることができる。該試薬は、核酸またはそれと同等の機能を有する分子を含有することが好ましいが、該核酸は必ずしも一本鎖でなくてもよい。ペプチド核酸及び同程度の核酸結合特性を有する他の分子も用いることができるが、その結合特性は必ずしも結合量が同等でなくてもよい。核酸またはそれと同等の機能を有する分子は付加的な機能性を発揮するために修飾されていてもよい。例えば、2’-O-メチルオリゴリボヌクレオチドを使用することができる。このようなリボヌクレオチドは従来のオリゴヌクレオチドよりもRNase活性に対する抵抗性が高い。
【0010】
本発明の好ましい態様において、エキソン封入シグナルはエキソン認識配列(exon recognition sequence)(ERS)に特異的なアンチセンス核酸による干渉を受ける。このような配列は比較的プリン塩基に富み、スキップされるエキソンの配列情報を精査することで特定することが可能である(Tanakaら、1994, Mol. Cell Biol. 14: p.1347-1354)。エキソン認識配列は、いわゆる弱いエキソンのmRNAへの封入を補助すると考えられる(Achselら、1996, J. Biochem.120: p.53-60)。このような弱いエキソンは、例えば、スプライシング機構による認識効率が低い5’及び/または3’スプライス部位を包含する。本発明においては、エキソンスキッピングはいわゆる強いエキソン、すなわち細胞のスプライシング機構によって通常効率よく認識されるエキソン、においても誘導することができることを見出した。与えられたいかなる配列からも、その配列がエキソンと推定される領域を包含するかどうかを予測し、そのエキソンが強いか弱いかを確認することが(ほとんどの場合)可能である。エキソンの強度を確認するためのいくつかの手法が存在する。有用な手法としてNetgene2スプライス部位予測サーバー(NetGene2 splice site prediction server)(Brunakら、1991, J. M ol. Biol.220: p.49-65)で検索することができる。本発明の方法によるエキソンスキッピングは(ほとんど)すべてのエキソンに誘導することが可能であり、エキソンが弱いエキソンであるか強いエキソンであるか、ならびにエキソンがERSを包含するかどうかにも依存することはない。好ましい態様において、スキッピングのターゲットとなるエキソンは強いエキソンである。他の1つの好ましい態様において、スキッピングの対象となるエキソンはERSを包含しない。 」

これら本件特許明細書中の(i)?(iv)の摘記事項を踏まえると、訂正発明1における「エキソン53の内部領域」の機能、並びに、当該「エキソン53の内部領域」に対するAONの機能、及びその機能に関連したAONの薬理作用について、次のような事項が前提とされているものと理解することができる。

・訂正発明におけるAONのような試薬は、非特異的なスプライシングをもたらし得るエキソン-イントロン間の3’及び5’スプライス部位を標的とするものではなく、エキソンの内部に存在する領域を標的とするものであって、当該領域は、いわば「エキソン封入シグナル(exon inclusion signal)(EIS)」領域、即ち、ジストロフィンmRNA前駆体からのジストロフィン成熟mRNAの生成の際のイントロンスプライシング機構、及び当該領域を内包するエキソンのジストロフィン成熟mRNAへの封入を補助する機能(以下、これらの機能を「(エキソンの)封入機能」又は「EIS機能」等ということがある)を有する、特異的な配列領域であること((ii)、(iii))
・訂正発明におけるAONは、「エキソンの内部領域」であって上記特異的な配列領域に対し相補的なAONであることで、当該特異的な配列領域が有する上述の「封入機能」(「EIS機能」)を阻害することで当該特異的な配列領域によるジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御する機能(これは、訂正発明1の「エキソン53のスプライシング機構からの遮蔽およびエキソン53のmRNA前駆体からの排除を促進する」機能に他ならない)を発揮し得、当該機能の発揮を以て、エキソン53の「スキッピング」を誘導する(ジストロフィン成熟mRNAの読み枠を再構築する)ことを通じて、「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらしめ得るものであること((i)、(iii))
・当該EIS領域の好ましい例として、「比較的プリン塩基に富」んだ「エキソン認識配列(ERS)」領域が挙げられること((iv))

いいかえれば、訂正発明1においては、上述の「EIS機能」を幽する「比較的プリン塩基に富」んだ「エキソン認識配列(ERS)」がエキソン53の内部領域中に存在することを前提とし、AONは当該領域を標的とするものであることが規定されているものと解される。

エ そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上述のイ(ア)及び(イ)の事項を認識できるに足る記載がなされている、といえるためには、少なくとも、当業者が次の2つの事項:
・本件特許明細書の発明の詳細な記載に基づいて、エキソン53の内部領域中に、エキソン53の「封入機能」(「EIS機能」)を有する特異的な配列領域である、「比較的プリン塩基に富」むERS領域が、現実に存在すると認識、又は合理的に推測し得ること
・当該特異的な配列領域を、許容される程度を超える試行錯誤等を伴うことなく特定し得ること
を発明の詳細な説明の記載から理解し得る必要がある、ともいえる。

(2)本件特許明細書及び図面の記載について
そこで、上述の(1)での検討を踏まえつつ、詳細に本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、発明の詳細な説明には、ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞又は被験体に対し、ジストロフィン遺伝子のエキソンスキッピングに用いるAONが標的とするジストロフィンエキソン内部領域、並びに、当該エキソンの内部領域に相補的な配列を含むAONを投与して当該エキソンのスキッピングを行うことについて、上の(1)で摘記した(i)?(iv)に加え、次の(v)?(xi)の記載がある。

(v)(【0013】?【0015】)
「 【0013】
上述した本発明の態様は、特に欠失した遺伝子の発現を復帰させるのに適している。これはターゲットとなるエキソンの特異的なスキッピングを行い、有害な変異(典型的なものとしては停止変異またはフレームシフト点突然変異、あるいは翻訳停止をもたらす1つ以上のエキソンの欠失または挿入)を回避するか修正することによって達成される。
【0014】
遺伝子導入法に比べて、本発明の新規なスプライスシング制御型遺伝子治療(splice-modulation gene therapy)は、より小さな治療薬、これに限定されるわけではないが、典型的な例としては14?40個のヌクレオチドからなる治療薬の投与を必要とする。好ましい態様においては、製造が容易であり、細胞による取り込みがより効果的に行われることから、14?25個のヌクレオチドからなる分子を使用する。本発明の方法は、治療薬に付随する、効果的で安全な投与システムの設計をより柔軟に行うことを可能とする。本発明のこのような態様の重要な更なる利点は、大部分またはすべての遺伝子調節回路を未だ保持する内因性遺伝子活性の(少なくとも一部)を復帰させることで、組織特異的なアイソフォームの適切な発現レベルと合成を保障することである。
【0015】
上述の本発明の態様は、原則として、いかなる遺伝病や遺伝的疾病素質にも適用することができ、配列内部においてわずかに短いタンパク質の翻訳が完全にまたは部分的に機能している場合に限り、特定のエキソンを標的とするスキッピングによって、元々変異によって破壊された翻訳読み枠を復帰させることができる。・・・。例えば、・・・デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)が挙げられる。DMDは、フレームシフトによって生じるX連鎖性ジストロフィン遺伝子の欠失、重複及び停止突然変異が重度の進行性筋力低下をもたらす疾患である。・・・その一方で、同じ遺伝子座にフレームシフト以外の方法で欠失または重複突然変異が生じて発症したベッカー型筋ジストロフィーは軽症であり・・・。DMDに適用する本発明の態様においては、・・・読み枠を復帰させ、配列内部においてわずかに短くなっているが機能性のタンパク質を産生するのに必要な数の近接したエキソンのスキッピングによって・・・同等の変異を有するBMD患者の臨床的症状が軽いことに基づき、AON療法を受けたDMD患者の症状は軽減されると考えられる。 」

(vi)(【0016】)
「 【0016】
ジストロフィン遺伝子に生じる種々の変異が機能不全性タンパク質につながる。(総合目録としてhttp://www.dmd.nl、即ち、DMD及び関連疾患の国際的に承認されたデータベース、を参照)。機能性ジストロフィンタンパク質を産生させるために実際にスキップすべきエキソンは突然変異によって変化する。表1はスキップすることのできるエキソンの一覧であるが、本願はこれらに制限されることはない。この表においては、上述のエキソンに対して、ヒトで観察された高頻度で発生するジストロフィン遺伝子変異であって、本発明の方法で治療することができるものも示した。表に示したエキソンのスキッピングは、少なくともベッカー型筋ジスロトフィータンパク質の機能を有する変化したジストロフィンタンパク質の産生をもたらす。このように、本発明の1つの態様において、エキソン封入シグナルがヒトジストロフィン遺伝子のエキソン2、8、43、44、45、46、50、51、52または53に存在することを特徴とする方法が提供される。ある欠失/挿入変異の発生は、他の変異より高頻度で発生する。本発明の方法でエキソン46のスキッピングを誘導すると、DMDの欠失を保有する患者の約7%で治療に成功し、ジストロフィン陽性筋肉繊維がジストロフィン患者に検出されることが明らかとなった。また、本発明の方法でエキソン51のスキッピングを誘導することによって、DMDの欠失を保有する患者の約15%を治療することに成功した。この治療方法によって、該患者は少なくとも少量のジストロフィン陽性筋肉繊維を有するようになった。本発明の方法を使用したエキソン46または51のスキッピングによって、ジストロフィン遺伝子の欠失を保有する患者の約22%を治療することができる。従って、本発明の好ましい態様においては、エキソン封入シグナルはエキソン46またはエキソン51に存在する。特に好ましい態様においては、使用する試薬は以下の核酸配列を包含する:hAON#4、hAON#6、hAON#8、hAON#9、hAON#11及び/またはhAON#21?30からなる群から選ばれる少なくとも1つの核酸配列;或いは上記hAON#の機能性領域、誘導体及び/または類似体。機能性領域、誘導体及び/または類似体は、上記hAON#と同等のエキソンスキッピング活性を有するが、本発明の方法においては、該活性量が必ずしも同等でなくてもよい。 」

(vii)(【0020】)
「 【0020】
細胞に試薬を導入するための種々の方法が当業界では知られている。特に核酸の導入方法は広範にわたって開発されている。当業者はある導入方法が本発明を実施するのに適しているかどうかを十分確認することができる。このような方法の一例は、本発明の試薬をリポソームに封入し、該リポソームを目的mRNA前駆体を有する細胞に与えることを包含するが、本発明はこの例に限定されるものではない。リポソームは核酸を細胞に導入するための運搬体として特に適している。エキソンスキッピングを誘導することのできるアンチセンス分子は、アンチセンスRNAを生成するための転写単位を包含する核酸を導入し、細胞に生成させることが可能である。適切な転写単位としては核内低分子RNAまたはtRNA転写単位が挙げられるが、これらに限定されるものではない。従って、本発明は、エキソン封入シグナルを阻害することが可能な本発明の核酸またはそれと同等の機能を有する分子を包含する核酸運搬体を更に提供する。・・・ 」

(viii)(【実施例】(【0022】?【0039】))
(viii-1)
a(【0022】?【0030】)
「 【0022】
エキソン45はDMDにおいて最も高頻度で欠失が起こるエキソンなので、本発明者らははじめにエキソン46の特異的なスキッピングの誘導を試みた(図1)。この誘導によってエキソン45及び46の欠失を保有するBMD患者に見られる、短いがより機能的なジストロフィンタンパク質を産生する。マウスジストロフィン遺伝子のジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御するための実験系を初めに構成した。その後、エキソン45の欠失を保有するDMD患者由来の筋肉細胞において翻訳読み枠とジストロフィン合成を復帰させることを目的として、ヒトジストロフィン遺伝子にねらいを定めた。
【0023】
mAONs及びhAONsの設計
エキソン46の内部領域に対するマウス特異的AON系列及びヒト特異的AON系列(mAON及びhAON)を設計した(図2)。使用したエキソン46の内部領域は、プリン塩基に富んだ配列を有し、エキソン46のスプライシング制御に係る推定上の機能を有すると考えられる。ゲルシフトアッセイによるAONの初期スクリーニング(下記参照)のために未修飾のDNAオリゴヌクレオチド(ベルギー国、EuroGentec社に合成を依頼)を使用した。筋肉細胞のトランスフェクション実験を実際に行う際には、2’-O-メチルホスホロチオエ-トアンチセンスオリゴリボヌクレオチド(ベルギー国、EuroGentec社に合成を依頼)を使用した。このような修飾されたRNAオリゴヌクレオチドはエンドヌクレアーゼ及びRNase Hに対する抵抗性を有し、高い親和性でRNAに結合することが知られている。最終的に有効であると認められ、in vitroで筋肉細胞に与えたAONの配列を下記に示す。対応するマウス特異的AONとヒト特異的AONは高い相同性があるが完全に同一ではない。
【0024】
以下に使用したAONのデオキシ体を示すが、最終的に使用した2’-O-メチルリボヌクレオチドにおいては、TをUに置き換える。
【0025】
mAON#2: 5' GCAATGTTAT CTGCTT
mAON#3: 5' GTTATCTGCT TCTTCC
mAON#4: 5' CTGCTTCTTC CAGCC
mAON#5: 5' TCTGCTTCTT CCAGC
mAON#6: 5' GTTATCTGCT TCTTCCAGCC
mAON#7: 5' CTTTTAGCTG CTGCTC
mAON#8: 5' GTTGTTCTTT TAGCTGCTGC
mAON#9: 5' TTAGCTGCTG CTCAT
mAON#10: 5' TTTAGCTGCT GCTCATCTCC
mAON#11: 5' CTGCTGCTCA TCTCC

【0026】
hAON#4: 5' CTGCTTCCTC CAACC
hAON#6: 5' GTTATCTGCT TCCTCCAACC
hAON#8: 5' GCTTTTCTTT TAGTTGCTGC
hAON#9: 5' TTAGTTGCTG CTCTT
hAON#11: 5' TTGCTGCTCT TTTCC

【0027】
ゲルシフトアッセイ
AONの有効性は、ターゲット配列に対する結合親和性に基づいて決定した。RNAフォールディングを予測するためのコンピュータシミュレーションプログラムの近年の発展にもかかわらず、設計したAONのどれが高い親和性でターゲット配列に結合するかを推測することは難しい。従って、ゲルシフトアッセイを(Bruiceら、1997に記載のプロトコールに従って)行った。エキソン46ターゲットRNA断片を、(マウスまたはヒト筋肉mRNAから、T7プロモーター配列を有するセンスプライマ-を利用して増幅した)PCR断片から32P-CTPの存在下の in vitroT7転写法で生成した。ターゲットである転写断片に対する個々のAON(0.5pmol)の結合親和性は、37℃で30分間ハイブリダイゼーションを行い、次いでポリアクリルアミド(8%)ゲル電気泳動を行うことで測定した。これらの分析をマウス特異的AON及びヒト特異的AONをスクリーニングするために行った(図3)。少なくとも5個の異なるマウス特異的AON(mAON#4、6、8、9及び11)及びそれらに対応する4個のヒト特異的AON(hAON#4、6、8及び9)において移動度の変化が観察され、ターゲットRNAに対して結合親和性を有することを示した。
【0028】
培養筋肉細胞のトランスフェクション
AONによる in vitro の筋肉細胞におけるスキッピング誘導効率を分析するために、ゲルシフトアッセイを用いてターゲットエキソンに対して最も高い結合親和性を示したエキソン46特異的AONを選択した。すべてのトランスフェクション実験において、非特異的AONをエキソン46の特異的スキッピングの負の対照として用いた。前述したように、はじめにマウス筋肉細胞の実験系を構築した。マウス筋肉細胞系であるC2C12細胞由来の(ジストロフィン発現レベルの高い)培養増殖筋芽細胞及び培養分裂後筋管の両方を使用した。後に行ったヒト由来培養筋肉細胞の実験には、罹患していない1人の筋肉生検材料及びエキソン45の欠失を保有する、血縁ではない2人のDMD患者の筋肉生検材料のそれぞれから単離した培養一次筋肉細胞を使用した。これらの異種培養物はおよそ20?40%の筋原細胞を含んでいた。異なるAON(濃度:1μM)に対して3当量比のカチオンポリマーPEI(MBI Fermentas社製)を用い、細胞にAONをトランスフェクトした。これらの実験でトランスフェクトしたAONは5’フルオレセイン基を有し、そのため蛍光性の核を数えることでトランスフェクション効率を測定することができる。概して、60%以上の細胞が核に特異的にAONの取り込みを示した。RT-PCR分析を促進するために、トランスフェクトの24時間後にRNAzolB(オランダ国、CamPro Scientific社製)を使ってRNAを単離した。
【0029】
RT-PCR及び配列の決定
RNAの逆転写をC. therm. ポリメラーゼ(Roche社製)及びエキソン48特異的逆転写プライマーを使って行った。ジストロフィン遺伝子のエキソン46のスキッピングを検出するために、PCRを2サイクル行ってcDNAを増幅した。PCRは、エキソン44及び47に含まれるプライマー(ヒト実験系)またはエキソン45及び47に含まれるプライマー(マウス実験系)を使用したプライマーシフト増幅(nested amplification)を包含する。培養マウス筋芽細胞及び培養マウス筋管細胞では、エキソン45がエキソン47に直接スプライシングされた産物に相当する大きさの部分産物を検出した(図4)。続いて行った配列の決定によって、マウスジストロフィン転写産物におけるエキソン46の特異的なスキッピングを確認した。エキソンスキッピングの効率は個々のAONで異なり、mAON#4及び#11が最も高い効率を示した。これらの好ましい結果に基づき、培養ヒト筋肉細胞においても、ジストロフィンのスプライシングを同様に制御することに着目した実験を行った。その結果、エキソン45がエキソン47にスプライシングされた産物に相当する部分産物を対照となる筋肉細胞で検出した。興味深いことに、患者由来筋肉細胞では、エキソン44がエキソン47にスプライシングされてなる短い断片が検出された。エキソン46の特異的なスキッピングをヒトジストロフィン転写産物の配列データによって確認した。マウスとヒトの両方のジストロフィン転写産物に見られたこのようなスプライシングの制御は、トランスフェクトされていない培養細胞や非特異的AONでトランスフェクトされた培養細胞には見られなかった。
【0030】
免疫組織化学分析
ジストロフィンタンパク質の翻訳および合成を復帰させるために、エキソン45の欠失を保有する患者由来の筋肉細胞においてエキソン46のスキッピングの誘導を試みた。hAON#8でトランスフェクトした際のジストロフィン産物を検出するために、ジストロフィンタンパク質のターゲット領域に隣接するドメインと遠位のドメインのそれぞれに対して作成した2種のジストロフィンモノクローナル抗体(Mandys-1及びDys-2)を使用して、2種の患者由来培養筋肉細胞を免疫細胞化学分析に付した。蛍光分析によって、いずれの患者由来培養細胞においてもジストロフィン合成が復帰していることが明らかになった(図5)。処理したサンプルにおいては、約80%以上の筋繊維がジストロフィンに対して陽性に染色された。 」

※合議体注:
上の摘記a.中の【0030】における「(図5)」は、その前後の記載、及び次の摘記b.の記載内容を勘案すると、「(図6)」の誤記と解される。

b(図1?図5、及び【0007】中の図5?図6の説明文(図6自体は摘記省略))
「 図1

図2

図3

図4

図5

【図5】患者DL279.1(図4の“P1”に対応する)から得られたRT-PCR産物の配列データであり、このデータによって患者のエキソン45が欠失しており(上のパネル)、hAON#8のトランスフェクションによって更にエキソン46のスキッピングが起こる(下のパネル)ことを確認した。エキソン46のスキッピングは特異的であり、エキソン44はエキソン47に正確にスプライシングされ、翻訳読み枠を再構築する。
【図6】hAON#8でトランスフェクトした患者DL279.1由来の培養筋肉細胞の免疫組織化学分析。タンパク質の異なる領域に対して作成した2種のジストロフィン抗体と細胞を接触させた。使用した抗体は、ターゲットであるエキソン46に近接する領域に対する抗体(ManDys-1、ex. -31-32)及びエキソン46から離れた領域に対する抗体(Dys-2、ex. -77-79)である。下のパネルは筋管中にジストロフィンタンパク質が存在しないことを示すのに対し、いずれの抗体でもジストロフィンタンパク質が検出されることから、エキソン46のhAON#8誘導性スキッピングは明らかにジストロフィンタンパク質の合成を復帰させた(上のパネル)。 」

(viii-2)
a(【0032】?【0034】)
「 【0032】
エキソン51のターゲットスキッピング
ジストロフィンエキソンの同時スキッピング
エキソン51のターゲットスキッピング。本発明者らは、 in vitroのマウス及びヒト筋肉細胞におけるジストロフィンのエキソン46のAONによる制御の可能性について明示した。これらの知見はAONをDMDの治療用の試薬として評価する更なる研究の根拠を示した。DMDを誘発する欠失の大部分は遺伝子内の突然変異が起こりやすい2つの部位で集中的に発生し、ある1つの特定エキソンのターゲットスキッピングによって種々の突然変異を有する一連の患者の読み枠を復帰することができる(表1を参照)。エキソン51は興味深いターゲットエキソンである。このエキソンのスキッピングは、エキソン50、エキソン45?50、エキソン48?50、エキソン49?50、エキソン52、又はエキソン52?63にわたる領域の欠失を保有する患者の治療に用いることが可能であり、このような患者の合計は本発明者らのライデンデータベース(Leiden database)に登録されている総患者数の15%に達する。
【0033】
ジストロフィンのエキソン51内に存在するプリン塩基に富んだ種々の領域に対するヒト特異的AON10種(hAON#21?30、下記参照)を設計した。このようなプリン塩基に富んだ領域は、エキソンのスプライシング反応の制御を担うと推定される因子、すなわちスプライシング反応の際にエキソンの除去を誘導するために遮蔽を試みた領域の存在を示唆した。すべての実験をエキソン46のスキッピングに用いたプロトコール(上記参照)に従って行った。ターゲットRNAに高い結合親和性を有するhAONを確認するために、ゲルシフトアッセイを行った。最も高い親和性を示す5種のhAONを選択した。エキソン51のスキッピングの可能性を in vitroで分析するために、これらのhAONを対照となるヒト筋肉細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後にRNAを単離し、エキソン53または65に特異的な逆転写用プライマーを使ってcDNAを作製した。ターゲット領域のPCRによる増幅は、エキソン51に隣接する種々のプライマーを組み合わせて行った。RT-PCR及び配列の決定によって、エキソン51の特異的なスキッピングが誘導されていたことがヒトジストロフィン転写産物から明らかとなった。続いて、エキソンのスキッピングを誘導することが示されている2種のhAON(#23及び#29)を、上記の突然変異の1つを有するDMD患者由来の6種の培養筋肉細胞にトランスフェクトした。これらの培養細胞におけるエキソン51のスキッピングをRT-PCR及び配列の決定によって確認した(図7)。更に重要なことに、ジストロフィンタンパク質の異なる部分に対して作成した複数の抗体を用いた 免疫組織化学分析によると、すべての分析結果がエキソン51のスキッピングによってジストロフィンタンパク質の合成が復帰したことを示していた。
【0034】
hAON#21: 5' CCACAGGTTG TGTCACCAG
hAON#22: 5' TTTCCTTAGT AACCACAGGT T
hAON#23: 5' TGGCATTTCT AGTTTGG
hAON#24: 5' CCAGAGCAGG TACCTCCAAC ATC
hAON#25: 5' GGTAAGTTCT GTCCAAGCCC
hAON#26: 5' TCACCCTCTG TGATTTTAT
hAON#27: 5' CCCTCTGTGA TTTT
hAON#28: 5' TCACCCACCA TCACCCT
hAON#29: 5' TGATATCCTC AAGGTCACCC
hAON#30: 5' CTGCTTGATG ATCATCTCGT T 」

b(図7)




(viii-3)
「 【0035】
複数のジストロフィンエキソンの同時スキッピング。
欠失変異に加えて1つのエキソン、例えばエキソン46またはエキソン51、のスキッピングを行うことで、多種にわたるDMD突然変異の読み枠を復帰させることができる。この方法が適用可能な突然変異の範囲は、1つ以上のエキソンを同時にスキッピングすることによって拡大することができる。例えば、エキソン46からエキソン50の欠失を有するDMD患者において、欠失領域に隣接したエキソン45及び51の両方のスキッピングを行うだけで翻訳読み枠の再構成を可能にした。 」

(viii-4)
a(【0036】?【0038】)
「 【0036】
ERS非依存性のエキソンスキッピング。
2人のベッカー型筋ジストロフィー患者に見られるエキソン29の突然変異はエキソン29のスキッピングを生じた(Ginjaarら、2000, EJHG, vol.8:p.793-796)。AONを用いた突然変異部位ターゲッティングによってエキソン29のスキッピングを誘導する可能性について検討した。突然変異はERS活性と関連しうるプリン塩基に富んだ領域に位置している。ERSであると考えられる領域の内側(h29AON#1?h29AON#6)及び外側(h29AON#7?h29AON#11)に対するAON系列を設計した(下記参照)。ターゲットRNAに対して高い親和性を示すAONを同定するために、ゲルシフトアッセイを(前述のように)行った(図8)。続いて、h29AON#1、#2、#4、#6、#9、#10及び#11を対照である培養ヒト筋管にPEIトランスフェクション試薬を用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後にRNAを単離し、エキソン31に特異的な逆転写プライマーを使ってcDNAの逆転写を行った。ターゲット領域のPCRによる増幅はエキソン29に隣接する種々のプライマーを組み合わせて行った。このRT-PCR及びそれに続く配列の決定(図8BとC)によって、ヒトジストロフィン転写産物においてエキソン29のスキッピングが誘導されたことが明らかになった。しかしながら、エキソン29のスキッピングを促進するこれらのAONは、AONが結合すると考えられるERSの内側と外側の両方の配列に基づいて設計されたものだった(h29AON#1、#2、#4、#6、#9及び#11)。これらの結果から、エキソン29のスキッピングはエキソン29がERSを含むか含まない かには依存せず、従ってAONのエキソン29に対する結合はERSよりもエキソン封入シグナルを不活性化すると考えられる。ここに証明したERS非依存性エキソンスキッピングは、本発明の治療方法の適応範囲全体をERSを含まないエキソンにまで広げる可能性がある。
【0037】
h29AON#1: 5' TATCCTCTGA ATGTCGCATC
h29AON#2: 5' GGTTATCCTC TGAATGTCGC
h29AON#3: 5' TCTGTTAGGG TCTGTGCC
h29AON#4: 5' CCATCTGTTA GGGTCTGTG
h29AON#5: 5' GTCTGTGCCA ATATGCG
h29AON#6: 5' TCTGTGCCAA TATGCGAATC

【0038】
h29AON#7: 5' TGTCTCAAGT TCCTC
h29AON#8: 5' GAATTAAATG TCTCAAGTTC
h29AON#9: 5' TTAAATGTCT CAAGTTCC
h29AON#10: 5' GTAGTTCCCT CCAACG
h29AON#11: 5' CATGTAGTTC CCTCC 」

b(図8)




(viii-5)
a(【0039】)
「 【0039】
マウス筋肉組織におけるin vivo のAON誘導性エキソン46スキッピング。
培養筋肉細胞を用いた実験で見込みのある結果が得られたので、次に in vivo で種々のマウスジストロフィンエキソン46に特異的なAONを試験した。試験はポリエチレンイミン(PEI)に結合させたマウスジストロフィンエキソン46に特異的AONを対照となるマウスの腓腹筋に筋肉注射することで行った。In vitro のマウス筋肉細胞における有効性が既に明らかとなっているmAON#4、#6及び#11は、RT-PCR及び配列の決定によって in vivo の筋肉組織でエキソン46のスキッピングを誘導することが判明した(図9)。In vivo のエキソン46のスキッピングは投与量に依存しており、20μg/筋肉/日の2日間にわたる注射で最も高い効率(最大10%)を示した。 」

b(図9)




(ix)(【0040】)
「 【先行技術文献】
【非特許文献】
【0040】
【非特許文献1】Achsel et al., 1996, J. Biochem. 120: p.53-60.
【非特許文献2】Bruice T.W. and Lima, W.F. (1997) Biochemistry 36(16): p.5004-5019.
【非特許文献3】Brunak et al., 1991, J. Mol. Biol.220: p.49-65.
【非特許文献4】Dunckley, MG et al, (1998) Human molecular genetics7: p.1083-1090.
【非特許文献5】Ginjaar et al., 2000, EJHG,vol.8, p.793-796.
【非特許文献6】Mann et al., 2001, PNAS vol.98, p.42-47.
【非特許文献7】Tanaka et al., 1994,Mol. Cell. Biol.14: p.1347-1354.
【非特許文献8】Wilton SD et al., (1999) Neuromusculardisorders 9: p.330-338. 」

(x)(【0041】?【0042】)
「 【0041】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー及び関連疾患の詳細及び背景はウェブサイトhttp://www.dmd.nlで検索することができる。
【0042】
【表1】



(xi)(【0043】)
「 【0043】
配列番号1: マウス特異的AONであるmAON#2
・・・
配列番号38: hAON#8で処理した細胞に見られる、エキソン44がエキソン47にスプライシングしたものに相当するサイズの短縮産物
配列番号39: hAON#23で処理した細胞に見られる、エキソン50がエキソン52にスプライシングしたものに相当するサイズの短縮産物
配列番号40: h29AON#1で処理した細胞に見られる、エキソン28がエキソン30にスプライシングしたものに相当するサイズの短縮産物
配列番号41: mAON#4で処理したマウスに見られる、エキソン45がエキソン47にスプライシングしたものに相当するサイズの短縮産物
配列番号42: mAON#6で処理したマウスに見られる、エキソン45がエキソン47にスプライシングしたものに相当するサイズの短縮産物 」

(3)本件特許明細書及び図面の記載事項の検討

ア 上の(1)?(2)で摘記した(i)?(xi)によれば、本件特許明細書及び図面中で、現実にジストロフィンmRNA前駆体中のエキソン部位に対するAONとして製造され、当該エキソンのスキッピング試験に供されたことが、具体的な現実の試験結果と共に記載されているのは、概要次の(ア)?(ウ)のとおりの、エキソン46、51及び29についてのみである。

(ア)エキソン46について、
(ア-1) その内部領域であって、「プリン塩基に富んだ配列を有し、エキソン46のスプライシング制御に係る推定上の機能を有すると考えられる」((viii)(viii-1)【0023】)領域、を標的とするmAON(mAON#2?11及びhAON#4、6、8、9、11)を作製したこと((viii)(viii-1)a【0022】?【0026】、(viii)(viii-1)b図1?2);
(ア-2) それらmAON及びhAONをそれぞれゲルシフトアッセイに供したところ、mAON#4、6、8、9及び11、並びにhAON#4、6、8及び9)がエキソン46ターゲットRNAに対し結合親和性を有することが示されたこと((viii)(viii-1)a【0027】、同(viii)(viii-1)b図3);
(ア-3) それらmAON又はhAONを用いたRT-PCR試験において、
・mAON#4、6、9及び11をそれぞれマウスC12C12細胞由来の(ジスと路銀発現レベルの高い)培養増殖筋芽細胞又は培養分裂後筋管に(カチオンポリマ-PEIと共に)導入したところ、概して60%以上の細胞が核特異的なAONの取り込みを示し、エキソン46のスキッピング効率は個々のAONで異なっていたがmAON#4及び#11が最も高い効 率を示し、エキソン45がエキソン47に直接スプライシングされた産物に相当する転写部分産物が検出され、エキソン46の特異的スキッピングが転写産物の配列データにより確認されたこと((viii)(viii-1)a【0028】?【0029】、(viii)(viii-1)b図4);
・hAON#4及び8をそれぞれ、対照ヒト筋肉細胞又はエキソン45の欠失を保有するDMD患者由来の筋肉細胞に、同様に導入したところ、対照筋肉細胞でエキソン45がエキソン47にスプライシングされた産物に相当する転写部分産物が検出され、患者由来筋肉細胞ではエキソン44がエキソン47にスプライシングされてなる短い断片が検出され、エキソン46の特異的なスキッピングが転写産物の配列データにより確認されたこと((viii)(viii-1)a【0028】?【0029】、(viii)(viii-1)b図5);
・hAON#8を2種のエキソン45の欠失を保有する患者由来の筋肉細胞に投与したところ、いずれの細胞においてもジストロフィンタンパク質合成が復帰していることが、免疫組織化学分析により示されたこと((viii)(viii-1)a【0030】);
・mAON#4、6、及び11をそれぞれマウス腓腹筋に筋肉注射により投与したところ、いずれも筋肉組織でエキソン46のスキッピングが誘導されることが、RT-PCR及び配列の決定により判明したこと((viii)(viii-5))

(イ)エキソン51について、
(イ-1) 「エキソン51内に存在するプリン塩基に富んだ種々の領域」(【0032】)を標的とするヒト特異的AON10種(hAON#21?30)を作製したこと((viii)(viii-2)a);
(イ-2) それらhAONをゲルシフトアッセイに供し、(エキソン51ターゲットRNAに対し)最も高い親和性を示す5種のhAON(hAON#23、24、27、28、29)が選択されたこと((viii)(viii-2)a);
(イ-3) 当該選択されたhAONを用いたRT-PCR試験において、
・それらhAONを対照ヒト筋肉細胞に導入したところ、エキソン51の特異的スキッピングが誘導されることが、RT-PCR及び配列の決定により明らかとなったこと;
・それらhAONのうちhAON#23及び29を、(表1に例示される種々の突然変異の1つを有する)DMD患者由来の6種の培養筋肉細胞に導入し、それらの培養細胞におけるエキソン51のスキッピングをRT-PCR及び配列の決定により確認したこと((viii)(viii-2)a【0033】、同(viii)(viii-2)b);
(イ-4) 「ジストロフィンタンパク質の異なる部分に対して作成した複数の抗体を用いた免疫組織化学分析によると、すべての分析結果がエキソン51のスキッピングによってジストロフィンタンパク質の合成が復帰したことを示していた」こと((viii)(viii-2)a【0033】、(viii)(viii-2)b)

(ウ) エキソン29について、
(ウ-1) エキソン29中の「ERS活性と関連しうるプリン塩基に富んだ領域」であって「ERSであると考えられる領域」(【0036】)の内側を標的とするhAON(h29AON#1?6)、及び同「領域」の外側を標的とするhAON(h29AON#7?11)を作製したこと((viii)(viii-4)a);
(ウ-2) ターゲットRNAに対して高い親和性を示すAONを同定するために、それらhAONをゲルシフトアッセイに供したこと((v)(viii-4)a);
(ウ-3) それらAONのうちh29AON#1、2、4、6、9、10、11を対照培養ヒト筋管に導入したところ、PT-PCR及びそれに続く配列決定によって、ヒトジストロフィン転写産物においてエキソン29のスキッピングが誘導されたことが明らかにされたこと((viii)(viii-4)a、(viii)(viii-4)b)

イ(ア) 一方、エキソン53については、本件特許明細書及び図面中では、
・訂正発明1に規定される化学構造及び機能を有する、エキソン53を標的とするAON; 並びに
・当該AONが、訂正発明1に規定されるエキソン53のスキッピングに係る薬理作用をもたらしめるために使用することができることを裏付ける、現実の薬理試験結果、若しくはそのような薬理試験結果と同視し得るような十分理論的な説明;
について、何ら具体的な記載がなされていない。

そもそも、本件特許明細書及び図面中には、「エキソン53」の記載自体、(i)【0001】、(vi)【0016】、(viii)(viii-2)【0033】及び(x)【0042】表1中にみられるのみである。
そして、これらの箇所のいずれの記載も、訂正発明1に規定されるAONの標的となる、「エキソン53の内部領域」であって(iii)?(iv)にいう「EIS」としての機能を有する特異的な配列領域である「比較的プリン塩基に富」む「ERS」領域が、
・そもそもエキソン53内に現実に存在するのか;
・存在するとしても、それがエキソン53内の何処に存在する如何なる塩基配列の領域部分であるのか;
といった点について、何ら具体的かつ明確に説明するものですらない。

この点について、例えば、本件特許明細書の(iv)【0016】中には、
「・・・。表1はスキップすることのできるエキソンの一覧であるが、本願はこれらに制限されることはない。この表においては、上述のエキソンに対して、ヒトで観察された高頻度で発生するジストロフィン遺伝子変異であって、本発明の方法で治療することができるものも示した。表に示したエキソンのスキッピングは、少なくともベッカー型筋ジスロトフィータンパク質の機能を有する変化したジストロフィンタンパク質の産生をもたらす。このように、本発明の1つの態様において、エキソン封入シグナルがヒトジストロフィン遺伝子のエキソン2、8、43、44、45、46、50、51、52または53に存在することを特徴とする方法が提供される。」
との記載が認められ、また、ここで引用されている表1中には、上記「ヒトジストロフィン遺伝子のエキソン2、8、43、44、45、46、50、51、52または53」について、各エキソンを「スキップするエキソン」 とした場合に「治療されるDMDの欠失(エキソン)」がそれぞれ列記されてもいる((x))。
しかしながら、これらの記載は、それら各エキソンの内部領域を標的とするAON、及び当該AONが各標的エキソンをスキッピングできることを実証したことを示すものとは認められない。むしろ、上述の「スキップすることのできる」や「治療されるDMDの欠失(エキソン)」なる記載は、例えば本件特許明細書のエキソン「46」、「51」についてと同様に、それら各エキソンにおいて「EIS」としての機能を有する特異的な配列領域を標的とするAONを得ることができ、当該AONを用いれば、当該特異的な配列領域を有するエキソンがスキッピングされてジストロフィンmRNAのフレームが修復されることによりDMDの治療ができるであろう、といった、仮定に基づく理論上の可能性を示しているに過ぎないものと理解される。
( なお、この点については、表1と同内容の表と認められる、甲18の表2(甲18.3)では、その標題が「 表2.AON-治療のための有望な標的エキソンの概要」とされており、その脚注においても
「 これらのエキソンのスキッピングは、様々な1又はそれ以上のエキソンの欠失により影響を受けている一連の患者におけるリーディングフレームを修復するだろう。・・・」
とされているとおりである。 )
即ち、これら(iv)【0016】や(x)表1の記載は、少なくとも訂正発明におけるエキソン53に関し、(1)エで挙げた2つの事項のいずれをも、当業者に何ら認識させ得るものではない。

(イ) また、本件特許明細書中の(iv)【0010】には、(iii)等にいう「EIS」が、好ましくは
・「エキソン認識配列(exon recognition sequence)(ERS)に特異的なアンチセンス核酸による干渉を受ける」
配列領域であり、また、このようなERSは
・「比較的プリン塩基に富み、スキップされるエキソンの配列情報を精査することで特定することが可能である」
ことが、(ix)中の「【非特許文献7】」:「Tanaka et al., 1994, Mol. Cell. Biol.14: p.1347-1354.」(甲7と同一文献)を引用しつつ記載されており、実施例の項でも、
・エキソン46を標的とするAONの作製に際し、エキソン46内の「プリン塩基に富んだ配列を有し、エキソン46のスプライシング制御に係る推定上の機能を有すると考えられる」((viii)(viiiー1)a【0022】)領域を標的候補として検討したこと;
・エキソン51を標的とするAONの作製に際し、エキソン51内の「プリン塩基に富んだ種々の領域」((viii)(viiiー2)a【0033】)を標的候補として検討したこと;
・エキソン29を標的とするAONの作製に際し、エキソン29内の「ERSと考えられる領域の内側」(明細書等(viii)(viiiー4)a【0036】)を(同領域の「外側」と共に)標的候補として検討したこと;
が記載されている。
しかしながら、訂正発明1におけるエキソン53、即ち、次の塩基配列:
UUGAAAGAAU UCAGAAUCAG UGGGAUGAAG UACAAGAACA CCUUCAGAAC CGGAGGCAAC 60
AGUUGAAUGA AAUGUUAAAG GAUUCAACAC AAUGGCUGGA AGCUAAGGAA GAAGCUGAGC120
AGGUCUUAGG ACAGGCCAGA GCCAAGCUUG AGUCAUGGAA GGAGGGUCCC UAUACAGUAG180
AUGCAAUCCA AAAGAAAAUC ACAGAAACCA AG 212
において、どの部位の配列領域が「EIS機能」を幽する「比較的プリン塩基に富」んだERS領域、即ち、エキソン53内のスプライシング制御に係る推定上の機能を有すると考えられる領域、であるといえるのか、について、本件特許明細書又は図面中では、示唆すらされていない。

そして、例えば、実施例の項で実際に作製され、筋細胞内でエキソン46、51又は29に対するスキッピング機能を有することが現実の試験を以て確認されている、各AONの塩基配列((viii)(viii-1)a【0025】?【0026】、(viii)(viii-2)a【0034】、(viii)(viii-4)a【0037】)をみても、それら各AONの塩基配列と相補的な各エキソン内の各対応内部領域が、ある「比較的プリン塩基に富」んだERSに相当する共通の特異的な塩基配列を有しており、かつ、エキソン53の内部領域にもそのような特定の共通の塩基配列領域が明らかに見出される、といったことが、本件特許明細書又は図面において十分具体的かつ合理的に説明されているわけでもない。、

(ウ) なお、「エキソン53の内部領域」中の「EIS機能」を有する特異的な配列領域であって、(iv)【0010】中で言及されている、ERS領域(若しくは、「プリン塩基に富」んでいることからERSと推測される領域)以外の配列領域についてもまた、
・エキソン53の内部領域中に、そのような特異的な配列領域が現実に存在すること;
を合理的に推測させる記載が、本件特許明細書及び図面中に見出せるわけでもなく、
・仮に、そのようなERS(と推測される領域)以外の「EIS」に相当する配列領域が存在するとしても、それはエキソン53内の如何なる塩基長にわたる何処の領域であるのか;
といった点について、本件特許明細書又は図面中に何ら明確かつ十分な記載を見出すことはできない。

ウ 加えて、訂正発明1のAONがヌクレオチド長「14?25」merであることの技術的意義については、(v)【0014】において、「より小さな治療薬」として「これに限定されるわけではないが、典型的な例としては14?40個のヌクレオチドからなる治療薬の投与を必要とする」ことが記載されているだけである。
そして、これまでのア?イでの検討のとおり、本件特許明細書及び図面中では、
・エキソン53の内部領域中に、上述の「EIS」に該当する、エキソン53の「封入機能」(エキソン53に対する「EIS機能」)を有する特異的な配列領域であるERS領域が現実に存在することを合理的に推測するに足る記載すらなく;
・仮に、そのような領域が存在するとしても、当該ERS領域が具体的にエキソン53内中の、如何なるヌクレオチド長にわたる何処の領域であるのか、について、何ら明らかにされていない;
以上、仮に、エキソン53の内部領域中にERS領域が存在するとしたとしても、ヌクレオチド長において「14?25」merのものであれば、ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞内で当該ERSを特異的に阻害し、且つ「エキソン53のスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する」機能を発揮し、以て「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用を有意にもたらしめるのに必要にして十分である、といえることの根拠についてもまた、本件特許明細書及び図面中で十分合理的に説明されているとはいえない。

エ 以上のア?ウでの検討を併せ踏まえると、訂正発明1のAONが標的とし、その機能及び薬理作用と密接に関連する「エキソン53の内部領域」中の「EIS」領域であるERS領域に関し、当業者といえども、本件特許明細書及び図面の記載からでは次の(ア)及び(イ)のように理解せざるを得ない。

(ア) そもそも、本件特許明細書及び図面の記載からでは、そのようなERSとしての機能を有する特異的な配列領域がエキソン53中に存在することについて、客観的に認識又は合理的に推測することはできない。
(イ) 仮に、例えば表1の記載に基づいて、エキソン53の中に「EIS」機能を有する特異的な配列領域が存在すると仮定しても、そのようなエキソン53の配列領域(及びそれを標的とするAON)を見出すためには、例えば、本件特許明細書の実施例で、エキソン46、51及び29のいずれかの各「内部領域」を標的とし、筋細胞内で対応するエキソンのスキッピング及びジストロフィンタンパク質の発現をもたらしめ得ることが確認されたAONを見出すのに要したのと同様の、次の作業工程a?c:
a 14?25merの候補AONを、エクソン53の212merの塩基配列中から、14?25merの任意の配列長の配列領域をほぼ無作為に選択して、それと相補的な配列とすることにより作製し;
b それら候補AONの中から、ゲルシフトアッセイで、標的エキソンに対し結合親和性を有するAON候補を更に選択し;
c 当該更に選択した候補AONを適切な近接エキソンの欠失を有するDMD患者由来の筋細胞に適用することで、標的エキソンのスキッピングが生じ、アミノ酸の読み枠が修復されてジストロフィンタンパク質が有意に誘導されるための、当該候補AONの適切な用法・用量等の投与条件を検討し、当該適切な投与条件を見出してジストロフィンタンパク質の発現を確認すること;
が必要になるものと考えられる。
そして、
・上のbの作業を経て得られる、比較的標的RNAに結合親和性の高いものであれば、その任意のものがAONとしての所望の機能を有するとは限らないこと(なお、このことは、例えば、本件特許明細書の実施例におけるエクソン46を標的とする候補AONの中のmAON#8((viii)(viii-1)a【0025】)が、高い結合親和性を示すにもかかわらず、実際にはエキソン46のスキッピングを再現性良く誘導し得ないことを示す、甲18.2の記載から明らかである);
・訂正発明のエキソン53のAON(並びに、それ(ら)が標的とするエキソン53内の「EIS」領域)の塩基配列と、本件特許明細書の実施例中でエキソン46、51の各スキッピング及びそれに伴うジストロフィンタンパク質の誘導を実現し得ているAON(並びに、それらAONが標的とする対応エキソン内の「EIS」相当領域)の塩基配列との間の、コンセンサス配列の有無等の化学構造上の関連性については不明であり; それ故に、それら実施例で得られているエキソンスキッピング機能を有することが確認されているAONの用法・用量等の投与条件が、訂正発明のエキソン53を標的とするAONにも適用できるとは限らず; また、そうであれば、仮に、上のbの作業工程を経た候補AONの中にジストロフィンタンパク質の誘導を実現し得るものが存在するとしても、同cの作業工程においてそのための適切な用法・用量等の条件を検討し見出すことは、決して容易に実施できるとはいえないこと;
をも併せ考慮すれば、上記a?cを実行することを通じ、DMD患者の筋細胞中でのエキソン53の適切なスキッピングをもたらし得る訂正発明のAON(並びに、その標的となるエキソン53内の「EIS」領域である「比較的プリン塩基に富」んだ「ERS」領域)、及びその適切な用法・用量等の投与条件を得るには、許容される程度を超える試行錯誤等が課されることになるものと予想される。

(4)本件特許出願前後の技術事情について

ア 本件特許出願時において、ジストロフィンmRNA前駆体に含まれ得る79個のエキソン中、少なくともエキソン53がその内部領域中に上記「EIS」機能を有する特異的な配列領域である「比較的プリン塩基に富」んだ「ERS」領域を現実に有している、ということ自体、当業者にとり技術常識として認識されていたものとは認められない。
この点に関し、例えば、本件特許出願時において、(vi)【0016】や(x)【0041】で引用されているサイト:http://www.dmd.nl、において、エキソン53の内部領域中に、上述の「EIS」に該当する、エキソン53の封入機能(「EIS機能」)を有する特異的な配列領域が現実に存在することを当業者に合理的に推測させるに足る、実証データ又はそれと同視し得るような十分理論的な説明がなされていたものとは認められないし、当該「EIS機能」を有する特異的な配列領域が、具体的にエキソン53内中の、如何なる塩基長にわたる何処の領域であるのか、といった点についても、当業者が具体的かつ合理的に理解し得るような説明がなされていたものとも認められない。

なお、後の【5-6】以降で詳細に検討する甲30には、エクソン53の内部領域中のSES(スプライシング促進配列。訂正発明1にいうERSと同義の配列と認められる(甲10.1))に該当する特異的な配列領域を実際の試験により同定し得たこと等が記載されているが、このような甲30の記載事項は、何ら本件特許明細書及び図面中で裏付けられていた事項ではなく、本件特許出願時において当業者にとり技術常識として知られていた事項であったとも認められない。

イ そして、上の(3)で検討したエキソン53を含むジストロフィンmRNA内のERS領域については、請求人が提出した証拠からみて、本件特許出願の前後で次の(ア)?(ウ)の技術事情が存在していたことも把握することができる。

(ア) 本件特許出願前に頒布された甲10では、ジストロフィン遺伝子中のエキソン認識配列(ERS)に関し、
「ジストロフィン遺伝子の79個のエクソンのうち、限られた数のもののみがエクソン認識配列であるかもしれないプリンリッチな領域を有している。(したがって、エクソンスキッピングによってナンセンス突然変異を救済することは、ジストロフィン異常症においてはごく稀にしか生じないであろう。)」(甲10.2)
とされている。また、同甲10には、当該「限られた数の」エキソンの中にエキソン53が含まれていることの記載乃至示唆もない。
かかる甲10の記載によれば、本件特許明細書中で「EIS機能」を有する好ましい態様として挙げられている「比較的プリン塩基に富」むERS領域は、上記79エキソン中の各エキソン全てに存在することが本件特許出願時の技術常識であったとは認められず、また、少なくとも、そのようなERS領域がエキソン53の内部領域中に現実に存在することが、本件特許出願時、当業者にとり技術常識として認識されていたことであるともいえない。

(イ) 本件特許明細書の(iii)【0010】中でも引用されている甲7には、dsxミニジーン系を用いたアッセイによりERS機能を有することが確認された様々な天然又は合成のエキソン内部領域相当の配列が「プリン塩基に富」んでいる点で共通することが記載されている(甲7.2、甲7.3等)。
しかしながら、当該甲7には、プリン塩基に富んだ配列であればその全てのものがERS活性を有するのではなく(例えば、ポリA配列やポリG配列はERS機能を有さない)、そのERS活性の有無及び/又は程度は配列により様々に異なることも、併せて記載されている(甲7.2、甲7.5?甲7.7)。
そうすると、単に「比較的プリン塩基に富」むことを以てERSと推測される旨の示唆があるのみで、それ以外のERSの候補となるエキソン53の内部領域について何ら具体的かつ明確な説明のない、本件特許明細書及び図面の記載に基づくことによっては、例え引用されている甲7の記載を併せ踏まえたとしても、
・エキソン53の内部領域中に、そのようなERS機能を有する特異的な配列領域が現実に存在すること;
を直ちに認識又は合理的に推測することは到底できないし、
・仮に存在するとしても、そのような「プリン塩基が豊富」なERS機能を有する特異的な配列領域が、具体的にエキソン53内中の、如何なる塩基長にわたる何処の領域であるのか;といった点について、当業者が理解し得たとは、到底いえない。

(ウ) 本件特許出願の発明者の一人であるJUDITH VAN DEUTEKOM氏により著された甲33によれば、同発明者自身、本件特許出願日より後の2017年5月16日(甲33の作成日)の時点においてなお、甲7の示唆に基づき選択したエキソン53中の「プリンリッチ及び/又は推定上のERS領域」に対するAONを用いた場合であっても、AONによっては
「著しくより低効率である(バックグラウンドレベルに近い)」スキッピング効果しか示さず、以て「エキソン中の全てのプリンリッチ及び/又は推定ERS様配列が真にスプライシング機構により認識されそして明らかにスプライシングに関与しているというわけではない」と結論している(甲33.5?甲33.7)。
( なお、甲33には、併せて「プリンリッチ及び/又は推定上のERS様配列を標的として」いないAONは「予想どおり、バックグラウンドレベルを超えてエクソン53のスキッピングを誘導する能力を有していない」ことも記載されている(甲33.5)。)

ウ そうすると、少なくとも、本件特許出願当時の時点で、
・本件特許出願の発明者自身、(本件特許明細書中で引用されている甲7で示唆されるような)プリンリッチなERS機能を有する特異的な配列領域が、エキソン53の内部領域中に現実に存在する、ということを、そのことを示す現実の薬理試験結果又はそれと同視し得る十分合理的な根拠に基づいて認識し得ていた;
とは推測できないし、
・仮に、エキソン53の内部領域中にそのようなERS機能を有する特異的な配列領域が存在するとしたところで、そのような「ERS」機能を有する特異的な配列領域が、具体的にエキソン53内中の如何なる塩基長にわたる何処の領域であるのか;
といった点について、同発明者自身、理解し得ていたとは推測できない。

(5) (1)?(4)のまとめ
以上の(1)?(4)での検討結果を併せ踏まえると、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、当業者が(1)のエで挙げた次の2つの事項:
・本件特許明細書の発明の詳細な記載に基づいて、エキソン53の内部領域中に、エキソン53の「封入機能」(「EIS機能」)を有する特異的な配列領域である、「比較的プリン塩基に富」むERS領域が、現実に存在すると認識、又は合理的に推測し得ること
・当該特異的な配列領域を、許容される程度を超える試行錯誤等を伴うことなく特定し得ること
のいずれも、発明の詳細な説明の記載から理解し得るとはいえない。

そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、以下に再掲する(1)のイ(ア)及び(イ)の要件:
(ア) 化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害」し、且つ
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進」する機能を有する、
AONを、作ることができること;
(イ) 当該AONを、
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」
という薬理作用をもたらすために、使用することができること;
のいずれについても、当業者が認識できるとはいえない。

したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

2.訂正発明2?4について

(1) 訂正発明2?4では、各医薬の有効成分(薬効成分)であるAONについて、化学構造上及び機能上の要件(訂正発明1のAONに係る、上述の1.(1)アの要件(ア)に相当)に関しては、以下の(ア(2))?(ア(4)):
(ア(2))(訂正発明2)
化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のエキソン認識配列(ERS)に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する」機能を有する;
という要件を満たす物であること
(ア(3))(訂正発明3)
化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し」、且つ
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する」機能を有する;
という要件を満たす物であること
(ア(4))(訂正発明4)
化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のプリン塩基に富んだエキソンのスプライシング制御に係る機能を有する配列に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する」機能を有する;
という要件を満たす物であること
のとおり、訂正発明1のAONに係る1.(1)アの要件(ア)とはやや異なる規定がなされているものの、
・上記(ア)並びに(ア(2))?(ア(4))の規定に関する、1.(2)ウで検討した本件特許明細書の(iii)【0006】及び(iv)【0010】の記載;
及び、
・上記(ア)並びに(ア(2))?(ア(4))以外の薬理作用上の要件、即ち、訂正発明1のAONに係る上述の1.(1)ア(イ)「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらす点において、訂正発明1と共通していること;
を踏まえると、これら訂正発明2?4におけるAONもまた、訂正発明1におけるAONと同様に、エキソン53の内部領域の「EIS機能」を有する特異的な塩基配列である「比較的プリン塩基に富」んだERSに相当する配列領域を標的とするものであることが実質的に規定されていると解することができる。

いいかえれば、訂正発明2?4における各AONについての(ア(2))?(ア(4))の各規定はいずれも、訂正発明1におけるAONについての1.(1)ア(ア)の規定に加え、当該AONのヌクレオチド長を「14?25個」からなるものから「20?25個」からなるものに更に限定したものと把握することができる。

(2) そして、それらヌクレオチド長が「20?25個」からなる訂正発明2?4のAONについてもまた、訂正発明1について1.(3)?(5)で検討し説示したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細の説明の記載からでは、当業者といえども、次の2つの要件:
・化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域の(「エキソン認識配列(ERS)」又は「プリン塩基に富んだエキソンのスプライシング領域に係る機能を有する配列」に相当する)「EIS機能」を有する特異的な配列領域に相補的な「20?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
(「エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し」、且つ)
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進」する機能を有する、
AONを、作ることができること;
・当該AONを
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」
という薬理作用をもたらすために、使用することができること;
のいずれをも、認識することができるとはいえない。
訂正発明2?4における、各「「機能性」ジストロフィンタンパク質」に係る限定事項を併せ考慮しても、同様である。

(3) したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、訂正発明2?4の各発明についてもまた、訂正発明1についてと同様に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

3.訂正発明5?7について

(1) 訂正発明6の使用に係る「アンチセンスオリゴヌクレオチド」、並びに、訂正発明5の核酸運搬体、及び訂正発明7の核酸運搬体の使用に係る各「アンチセンスオリゴヌクレオチド」については、請求項6、並びに請求項5及び7において、それぞれ
・化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に」対して「相補的な14?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する」機能を有する;
任意のAONであり、
・「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらしめるものである;
ことが、規定されている。

ここで、【5-2】1.(1)イで述べたとおり、請求項5?7に規定される「エキソン53の一部」が包含する範囲は、訂正発明1?4に規定される「エキソン53の内部領域」が包含する範囲とほぼ同等(212merのエキソン53全体(全長)が含まれ得ない点においてのみ異なる)と解される。
この点を併せ踏まえると、1.?2.で訂正発明1?4のAONについて検討し説示したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、当業者といえども、
・化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に」対して「相補的な14?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する」機能を有する;
任意のAONを、作ることができること;
・そのようなAONを「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらしめるために、使用することができること;
のいずれも、認識し得るとはいえない。

(2) したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、訂正発明5?7についても、当業者が実施することができる程度の明確かつ十分な記載がなされているとはいえない。

4.被請求人の主張について

(1)被請求人の主張の概要
被請求人は、答弁書、[被請]陳述要領書及び[被請]上申書において、実施可能要件について、概要次のような主張をしている。

ア 製造可能性について
(ア) 本件特許明細書は、
(1) 配列情報に基づいたAON候補の選択、
(2) ゲルシフトアッセイによる、標的となるRNAに対して結合親和性を有するAON候補の更なる選択、
(3) 患者由来筋肉細胞におけるエキソンスキッピングの確認、
といった手順を踏むことで、訂正発明に係る医薬に用いるAONを取得することができることを開示しており、当業者であれば明細書全体の記載を参酌して、過度の試行錯誤を要することなくエキソン53のスキッピングを誘導するAONを取得することができる。
(イ) 請求人は、エキソン53のスキッピングを誘導するAON(の標的となる「エキソン53の内部領域」)を同定するためには、エキソン53の塩基長(212mer)及び「14?25個のヌクレオチドを有する」ことを踏まえると、膨大な数の候補AON(審判請求書32?33頁にいう5022個)について実験が必要であり、これは当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することを主張しているが、実際には、当業者はそのような全ての候補配列領域を試験することはなく、互いにある程度離れた少数の候補配列領域について試験を行う、乙3や乙12?18に示された「ロングウォーク」手法を採用することで、算術的に計算される数字より大幅に少ない数の候補領域を試験するのみで目的の候補領域を特定することができる。

イ 使用可能性について
本件特許明細書には、訂正発明のAONを細胞に導入するための各種運搬体や、当該AONを医薬の調製に用いてDMDの治療に使用することが記載されており(【0020】?【0021】)、当該医薬を製造する際の製剤化方法、用法・用量、投与ルート等は、当業者が技術常識に基づいて適宜決定し得るものである。

ウ なお、本件特許異議申立事件においても、前合議体により同様の結論が導かれている(甲36)。

(2)主張に対する判断

(主張ア及びイについて)
1.?3.で検討し説示したとおり、本件特許明細書及び図面の記載に基づくことによっては、当業者といえども、
・各訂正発明に規定される化学構造及び機能を具備する任意のAONを作ることができること;
・当該AONを「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」ために使用することができること;
のいずれをも、認識することができるとはいえない。
即ち、訂正発明のAONの標的であり当該AONの機能及び薬理作用と密接に関連する、エキソン53の内部領域(又は一部)であって「EIS機能」を有する特異的な配列領域である、比較的「プリン塩基に富」むERS領域に関し、本件特許明細書及び図面の記載に基づくことによっては、当業者といえども、次の2つの事項:
・エキソン53の内部領域(又は一部)中に、そのような比較的「プリン塩基に富」むERS領域が、現実に存在すると認識又は合理的に推測し得ること;
・当該比較的「プリン塩基に富」むERS領域を、許容される程度を超える試行錯誤等を伴うことなく特定し得ること;
のいずれも、理解することができるとはいえない。
「ロングウォーク」手法が本件特許出願時当業者にとり適宜採用可能であったとしても同様である。

(主張ウについて)
1.?3.で検討し説示したとおりであることから、前合議体による異議決定(甲36)の結論がもはや維持できないことも明らかである。

よって、被請求人による上記ア?ウの主張は、いずれも採用できない。

5.小括
以上、1.?4.での検討のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正後の請求項1?7の発明について特許法第36条第4項の規定に適合しておらず、これら請求項1?7の発明に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
よって、請求人の主張する無効理由1には、理由がある。


【5-4】無効理由2(サポート要件違反)について

1.当合議体の判断

(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件の存在は、本件特許出願人、即ち被請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。

ここで、訂正発明1?7における(1)の課題とは、請求項1?7の規定からみて、
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらしめること;
であると解される。
そして、かかる課題の解決手段として、各請求項において規定されるAONを作り、当該各AONを上記薬理作用をもたらしめるために使用することが、それぞれの請求項において規定されているものである。

(2) しかしながら、【5-3】1.?5.における本件特許明細書及び図面の記載の検討結果によれば、本件特許明細書の発明の詳細な記載からでは、当業者といえども、
・各請求項の化学構造上及び機能上の要件を併せ満たす任意のAONを、作ることができること;
・当該任意のAONを以て「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらしめること;
のいずれも認識することができないのであるから、発明の詳細な説明には、上述の課題の解決手段が裏付けられているとはいえない。
また、
・上述の解決手段に係る、各請求項に規定される任意のAONを当業者がつくることができること;
・当該任意のAONを以て「ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらしめること;
が、いずれも本件特許出願時の技術常識に属する事項であった、というような、格別の事情も見出せない。

(3) そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が訂正発明1?7の課題を解決できると認識できる範囲や、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許出願時の技術常識に照らし訂正発明1?7の課題を解決できると認識できる範囲は存在しないものとするほかはないが、それにもかかわらず、特許請求の範囲には訂正発明1が記載されているから、訂正発明1?7の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。

2.被請求人の主張について

(1)被請求人の主張の概要
被請求人は、答弁書、[被請]陳述要領書、及び[被請]上申書において、
・本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、訂正発明について実施可能要件を満たしており、本件特許明細書の記載に接した当業者であれば、本件発明に係るエキソン53スキッピングを誘導するAONが、ジストロフィンタンパク質を「該細胞」内で産生するための医薬として使用し得ることを認識し得ること;
・訂正発明が無効理由2を有しないことについては、本件異議申立事件において、前合議体も同様の結論を導いていること(甲36);
を述べ、無効理由2がないことを主張している。

(2)主張に対する判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明が、訂正発明1?7のいずれについても当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、実施可能要件に違反していることは、【5-3】で説示したとおりであり、また、そのような本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を以ては、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、上述の1.(1)の訂正発明に係る課題の解決手段が提示されておらず、当該課題を解決することができるとはいえないことも、1.で述べたとおりである。
そして、そうであれば、前合議体による異議決定(甲36)の結論がもはや維持できないことも明らかである。
よって、被請求人による(1)の主張は採用できない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件の特許請求の範囲における本件訂正後の請求項1?7の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しておらず、これら請求項1?7の発明に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
よって、請求人の主張する無効理由2には、理由がある。


【5-5】無効理由4(拡大された先願の地位に係る無効理由)について

1.先願明細書等に記載された発明

(1) 先願明細書等の請求項8及び10(甲13.1)において引用されている、同請求項4のアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)、即ち
「配列番号2で示された塩基配列に対して相補的な塩基配列を含んでなるアンチセンスオリゴヌクレオチド」
に関し、ここでいう「配列番号2」とは、26merの次の塩基配列:
GGAAGCUAAG GAAGAAGCUG AGCAGG
(甲13.17)で表されるものであって、エクソン53内に存在するSES(スプライシング促進配列)である(甲13.10【0039】?【0041】、甲13.14【0078】。SESについては例えば甲13.2を参照のこと)。
なお、SESはエキソン認識配列(ERS)と同義であって(甲10.1)、当該ERSが訂正発明1のAONの標的となる「エキソン53の内部領域」中に存在するスプライシング機能を有する「エキソン封入シグナル」(EIS)の好ましい態様とされているのは、本件特許明細書の【0010】で説明されているとおりである。

そして、当該「配列番号2」に対して相補的な塩基配列を含んでなるAONについては、先願明細書等の記載や本件特許出願の優先日前の周知慣用手段に基づき、概要次のア?ウの事項を把握することができる。

ア AONの塩基長について
次の(ア)及び(イ):
(ア) AONは、上の「配列番号2」に対し相補的な塩基配列「を含ん」でなるもの(甲13.1の請求項4)であるから、最短でも上記26merの全長に対し相補的なヌクレオチド配列(26mer)からなるものであれば、これに該当するものと理解されること;
(イ) 当該AONの例として甲13.1の請求項6で挙げられている、次の「配列番号4」:
GACCTGCTCA GCTTCTTCCT TAGCTTCCAG C
(甲13.17。なお、下線部は「配列番号2」に相補的な26merの配列部分を示す)は、塩基長が31merであるところ、当該「配列番号4」のAONは、エクソン53のSES及びそれらの「両端の隣接塩基配列をも含んだ」配列に対して相補的な配列であり、エクソン53のSESに「一層強力に」ハイブリダイズしてその機能をブロックできるものである(甲13.10【0042】)が、かかる【0042】の記載は、「配列番号4」があくまでAONの好ましい一例として挙げられることを述べているものであって、当該「配列番号4」自体以外であって「隣接塩基配列領域」に対して相補的な部分を含まないもの(例えば、26mer以上であるが31mer未満のもの)もまた、ここでいうAONの要件を充足するものと把握されること;
を併せ踏まえると、先願明細書等の記載から、ここでいうAONとしては、上記「配列番号2」に対し相補的な配列のヌクレオチド配列(26mer。上掲の「配列番号4」中の下線部)からなる、若しくは当該配列を部分配列として含む、ヌクレオチド長において27?31merの範囲内の任意のものが、具体的に含まれるものと解される。

イ AONの分子形態について
次の(ア)及び(イ):
(ア) ここでいうAONとしては、DNA形態のもののみならず、RNA形態のもの(例えば、上の「配列番号4」のRNA形態である、次の塩基配列:
GACCUGCUCA GCUUCUUCCU UAGCUUCCAG C
からなるAON)も挙げられることは明らかであること(甲13.11【0047】); また、例えば、甲13.7【0028】で引用されている甲8中の、RNA形態のAONの作製及び使用例の記載(甲8.4)にみられるとおり、AONとしてはDNA形態のもののみならずRNA形態のものも使用されることは、本件特許出願の優先日前から当業者にとり周知慣用の技術事項であったとも認められること;
(イ) 核酸分解酵素に対する耐性を高めるためのヌクレオチドへの修飾法として、ホスホロチオエート化修飾(例えば、甲13.1請求項6、甲13.11【0047】等)のみならず、2’-O-メチル化といった化学修飾もまた、甲13.7【0028】で引用されている甲8中の2’-O-メチル化AONの作製・使用例(甲8.4)にみられるとおり、これまた本件特許出願の優先日前から当業者にとり周知慣用手段であったこと;
を踏まえると、ここでいうAONとしては、DNA又はホスホロチオエート形態のもののみならず、例えばRNA若しくはそのホスホロチオエート及び/又は2’-O-メチル化修飾物もまた、具体的に含まれるものである。

ウ AONの投与形態について
AONは、リポフェクタミンと混合して筋細胞(細胞核)内に導入することができる(例えば、甲13.13【0065】、【0072】)。
また、AONの細胞内への導入時にリポフェクタミンのようなカチオン性リポソームを用いること自体、甲13.7【0029】で引用されている甲9中のAONのリンパ芽球細胞への導入時の使用例(甲9.4等)にみられるとおり、これまた本件特許出願の優先日前から当業者にとり慣用手段であったとも認められる。

(2) なお、先願明細書等では、(1)のAONを実際にDMD患者の筋細胞へ投与することにより、同筋細胞においてジストロフィンmRNA前駆体からのエクソン53の排除を促進せしめることでエクソン53をスキッピングさせ、同筋細胞においてアウトフレーム状態にあったジストロフィン成熟mRNAをインフレーム化し、当該インフレーム化した成熟mRNAの翻訳によりBMD患者相当のジストロフィンタンパク質を産生せしめることが、現実の薬理試験結果を以て示されているわけではない。
しかしながら、次のア及びイ:
ア 甲13明細書等では、AONの標的である、エクソン53内部の26merの配列領域である「配列番号2」が、実際にSESとしての機能を有することを、dsx遺伝子のエクソン3・イントロン3・エクソン4を組み込んだプラスミド及びHeLa細胞核抽出物で構成される、例えば甲17に記載された当業者にとり既知のin vitroミニジーンアッセイ系を用いた現実の試験により確認している(甲13.14))ことから、当該「配列番号2」領域に対し相補的なAONを投与すれば、それに応じて当該「配列番号2」のSES機能が相応の阻害を現実に受ける蓋然性が高いといえること;
イ エクソン53と同様の、ジストロフィンエクソンの1種であるエクソン19のスキッピングに関し、
・「配列番号5」を含む「配列番号6」で表されるエクソン19の内部領域部分が実際にSES機能を有することが、上のアのアッセイ系と類似のin vitroミニジーンアッセイ系を用いた現実の試験により確認されており(甲13.8); また、
・エクソン20に欠失を有するDMD患者由来の筋細胞に対し、上記エクソン19のSES領域に相補的なAONをリポフェクタミンと共に投与することで、当該SES領域のスプライシング促進機能が抑制されて成熟mRNAからエクソン19が排除され(エクソン19がスキッピングされ)、ジストロフィン成熟mRNAがインフレーム化され、当該インフレーム化された成熟mRNAからBMD型ジストロフィンタンパク質の産生がもたらされたことも、現実の薬理試験結果の記載と共に裏付けられていること(甲13.13);
を併せ踏まえると、エクソン53に隣接するエクソンにおける(3×N+1)個(Nはゼロ又は自然数)の塩基の減少を伴う、例えばエクソン52又はエクソン50?52が欠失していてリーディングフレームにずれが生じているDMD患者(甲13.15【0081】)由来の筋細胞に対し、エクソン53の内部領域中のSES機能を有する領域であることが予め同定されている「配列番号2」に相補的なAON(例えば「配列番号4」、又はその他の(1)ア?イで述べた任意のAON)を(1)ウの投与形態で同様に投与することにより、上述のエクソン19のスキッピングに係る試験結果と同様に、エクソン53内の「配列番号2」領域のSES機能が当該AONにより相応の阻害を現実に受ける蓋然性が高く、また、そうであれば、同阻害に伴い有意なエクソン53のスキッピングが生じることで、ジストロフィン成熟mRNAにおいてリーディングフレームのずれが正常化されて相応のジストロフィンタンパク質の有意な産生が得られるものと、合理的に推認することができる。

(3) 以上の(1)及び(2)の点を踏まえると、先願明細書等には、請求項10及び8(甲13.1)に係る各発明のより具体的な態様として、次の[先願発明1]及び[先願発明2]が記載されているものと認められる。
[先願発明1]
「 薬剤学的に許容し得る注射可能な媒質中にアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を含有することを特徴とする、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療剤であって、ここで、上記DMDは、ヒトジストロフィンmRNAにおいてエクソン52又はエクソン50?52の欠失を伴った、正常な塩基配列からの(3×N+1)個(Nはゼロ又は自然数)の塩基の減少によりジストロフィンのリーディングフレームにずれを生じているDMDであり;
上記AONは、
・ジストロフィンmRNA前駆体中のエクソン53内に存在する 次の配列番号2で表されるスプライシング促進配列(SES)領域:
GGAAGCUAAG GAAGAAGCUG AGCAGG
に相補的な塩基配列を含む、塩基長26?31merのものであり;
・DNA又はRNAの形態、若しくは、ホスホロチオエート化及び/又はO-メチル化修飾されてなるDNA又はRNAの形態のものであり;
・リポフェクタミンと混合して上記DMDの患者の筋細胞に投与され; かつ
・上記DMD患者の筋細胞における上記エクソン53内の配列番号2の領域のSES機能を阻害し、エクソン53のスキッピングを促進する;
ものであって、当該エクソン53のスキッピングの促進によりジストロフィンmRNAのリーディングフレームのずれを正常化し、当該正常化されたmRNAの翻訳による相応のジストロフィンタンパク質の産生をもたらす;
治療剤 」

[先願発明2]
「 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療剤の製造のための、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の使用であって、ここで、
上記DMDは、ヒトジストロフィンmRNAにおいてエクソン52又はエクソン50?52の欠失を伴った、正常な塩基配列からの(3×N+1)個(Nはゼロ又は自然数)の塩基の減少によりジストロフィンのリーディングフレームにずれを生じているDMDであり;
上記AONは、
・ジストロフィンmRNA前駆体中のエクソン53内に存在する 次の配列番号2で表されるスプライシング促進配列(SES)領域:
GGAAGCUAAG GAAGAAGCUG AGCAGG
に相補的な塩基配列を含む、塩基長26?31merのものであり;
・DNA又はRNAの形態、若しくは、ホスホロチオエート化及び/又はO-メチル化修飾されてなるDNA又はRNAの形態のものであり;
・リポフェクタミンと混合して上記DMDの患者の筋細胞に投与され;
かつ
・上記DMD患者の筋細胞における上記エクソン53内の配列番号2の領域のSES機能を阻害し、エクソン53のスキッピングを促進する;
ものであって、当該エクソン53のスキッピングの促進によりジストロフィンmRNAのリーディングフレームのずれを正常化し、当該正常化されたmRNAの翻訳による相応のジストロフィンタンパク質の産生をもたらす;
使用 」

2.対比・判断

(1)訂正発明1について
訂正発明1と先願発明1とを対比する。

先願発明1の「DMD患者の筋細胞」は、訂正発明1の「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」に相当する。
先願発明1におけるAONによる「ジストロフィンmRNAのリーディングフレームのずれを正常化し、当該正常化されたmRNAの翻訳による相応のジストロフィンタンパク質の産生をもたらす」薬理作用は、本件発明1におけるAONによる「ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」薬理作用に相当する。
また、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」(AON)に関し
・先願発明1における「ジストロフィンmRNA前駆体中のエクソン53内に存在する」「配列番号2」の領域は、訂正発明1における「エキソン53の内部領域」に相当し、先願発明1の「スプライシング促進配列(SES)領域」は、訂正発明1における「エキソン認識配列(ERS)」領域に相当する(甲10.1)。そして、
・先願発明1のAONは、「26?31mer」のAONであり; DNA又はRNAの形態、若しくは、ホスホロチオエート化及び/又はO-メチル化修飾されてなるDNA又はRNAの形態のもの」は、訂正発明1のAONの「14?25個のヌクレオチドからな」るものに相当する。
・さらに、先願発明1におけるAONの「上記DMD患者の筋細胞における(上記エクソン53内の)配列番号2の領域のSES機能を阻害し、エクソン53のスキッピングを促進する」機能は、訂正発明1におけるAONの「(ジストロフィンmRNA前駆体を保有する)細胞内で該エキソン(エキソン53)のスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する」機能に相当する。

以上の点を踏まえつつ対比すると、両者は、
「 ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的なヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬 」
の点で一致するが、次の点:
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」のヌクレオチド長が、訂正発明1では「「14?25」個のヌクレオチドからな」るのに対し、先願発明1では「26?31」個のヌクレオチドである点
において、相違する。

また、13.1?13.17を含む先願明細書等の記載の全体をみても、先願発明1におけるAONのヌクレオチド長を26?31merより短い14?25merとすることの記載は見出せない。

そうすると、訂正発明1は、先願明細書等に記載された発明ではない。

(2)訂正発明2?4について
訂正発明2?4の各発明と先願発明1とを対比するに、少なくとも
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」のヌクレオチド長が、訂正発明2?4では「「20?25」個のヌクレオチドからな」るのに対し、先願発明1では「26?31」個のヌクレオチドである点
において、両者は相違する。

また、13.1?13.17を含む先願明細書等の記載の何処をみても、先願発明2?4におけるAONのヌクレオチド長を26?31merより短い20?25merとすることの記載は見出せない。

そうすると、上述の点以外の一致点/相違点について検討するまでもなく、訂正発明2?4もまた、先願明細書等に記載された発明とはいえない。

(3)訂正発明5?7について
訂正発明5と先願発明1、並びに、訂正発明6、7の各発明と先願発明2とを対比するに、少なくとも
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」のヌクレオチド長が、訂正発明5?7では「「14?25」個のヌクレオチドからな」るのに対し、先願発明1、2では「26?31」個のヌクレオチドである点
において、それぞれ両者は相違する。

また、13.1?13.17を含む先願明細書等の記載の何処をみても、先願発明1及び2における各AONのヌクレオチド長を26?31merより短い14?25merとすることの記載は見出せない。

そうすると、上述の点以外の一致点/相違点について検討するまでもなく、訂正発明5?7もまた、先願明細書等に記載された発明とはいえない。

3.請求人の主張について

請求人は、審判請求書及び[請]陳述要領書において、先願明細書等の段落【0033】?【0036】、【0037】、【0041】、【0045】?【0046】、【0055】?【0078】、【0079】、【0081】、【0082】等の記載によれば、先願明細書等には、AONのヌクレオチド長について数値限定のない次の「先願発明1」及び「先願発明2」である次の[先願発明]が記載されているとし、これに基づく無効理由4を主張している。

[先願発明]
「(A)ヒトジストロフィンの前駆体mRNAのエクソン53に隣接するエクソンを構成する塩基配列において正常な塩基配列からの塩基の欠失による塩基数の変化に起因するDMDであって、該塩基数の正味の変化が(3×N+1)個(Nはゼロ又は自然数)の塩基の減少として表されるものであるDMDの治療剤であって、
(B-1)エクソン53のSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(先願発明1)、又は
(B-2)配列番号2で示された塩基配列に相補的な塩基配列を含む、アンチセンスオリゴヌクレオチド(先願発明2)
を含有する上記治療剤。」

しかしながら、先願明細書等の記載から把握し得る「先願発明1」及び「先願発明2」は、上の1.で認定した一定範囲内のヌクレオチド長のAONに係る範囲内のものであって、また、それに基づく特許法29条の2違反の有無に係る判断についても、上の2.で述べたとおりである。
よって、無効理由4に係る請求人の上述の主張は採用できない。

4.小括
以上1.?3.での検討のとおりであるから、訂正発明1?7は、いずれも、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるということはできず、訂正発明1?7に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とはいえない。
よって、請求人の主張する無効理由4には、理由がない。


【5-6】無効理由7(甲30を主引例とする進歩性欠如)について

1.甲30に記載された発明

(1) 甲30では、ジストロフィンmRNA前駆体のエクソン53内に存在するSES(スプライシング促進配列)を「同定」したことが記載されており(甲30.2、甲30.5)、当該同定されたSES領域が、
・「26塩基」長であって(甲30.3)、
・「プリン残基(特にAAGの繰り返し配列)に富んでおり、さらにウラシル基による分断が少ない」(甲30.5)という観点を指標としてSES候補として選択されたものであり、当該SESの候補領域が、dsx遺伝子のエクソン3・イントロン3・エクソン4を含むプラスミドを含むミニジーン系を用いて、現実にSES機能を有するものとして「同定」されてなるものであることが記載されている(甲30.3?甲30.4)。

なお、甲30.3のミニジーン系は、種々のエクソン内部領域相当の塩基配列を上記エクソン4の下流に結合させてHeLa細胞核抽出物内で転写させることにより、それら塩基配列における上流イントロン(イントロン3)のスプライシング促進機能(即ちSES機能)の有無及びその程度を測定するためのin vitroアッセイ系として、本件特許出願の優先日前から当業者にとり相当程度知られた周知の系であったものと認められる(例えば、甲7や甲17参照)。

そして、上述のとおり、ここでいうAS-oligoは、(i)のようにして「同定」され、エクソン53内に存在することが明らかにされているSESに相補的な塩基配列のものであるのだから、その化学構造(塩基配列)も、当該「同定」されたSESの塩基配列に応じて特定され、かつ製造・取得されるものであることは、甲30の記載から自明な事項として把握できることである。

(2) そうすると、甲30には、次の発明:
「 ジストロフィンmRNA前駆体中のエクソン53内のスプライシング促進配列(SES)を標的とするAS-oligoを取得する方法であって、
次の工程1及び2:
[工程1]
エクソン53内から、SESの候補となる配列領域を、次の2つの観点:
・塩基長26である
・プリン残基、特にAAGの繰り返し配列、に富み、かつウラシル基による分断が少ない
を指標として選択し、
当該選択された候補となる配列領域のヌクレオチドフラグメントに対し、ショウジョウバエのdsx遺伝子のエクソン3・イントロン3・エクソン4を組み込んでなるプラスミドを含むミニジーン系を用いて、当該配列がSESであることを同定する工程;
[工程2] 当該同定されたSESに相補的な塩基配列を有するAS-oligoを、製造し取得する工程;
からなる、方法 」
(以下、単に「甲30発明」ということがある)が記載されているものと認められる。

2.対比・判断

(1)訂正発明1について

ア 対比
訂正発明1と甲30発明とを対比する。
甲30発明の「エクソン53内のスプライシング促進配列(SES)」は、訂正発明1の「エキソン53の内部領域」に相当し、また、ここでいう「スプライシング促進配列(SES)」は訂正発明1の「エキソン認識配列(ERS)」と同義である(甲10.1)。また、当該SESを標的とする甲30発明のAS-Oligoは、当該SESに相補的な塩基配列を有することから、当該SESの機能を阻害し得るものであり、訂正発明1の「アンチセンスオリゴヌクレオチド」に相当する。
これらのことを踏まえると、両者は、
「ジストロフィンmRNA前駆体中のエキソン53の内部領域に相補的なヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害」する、アンチセンスオリゴヌクレオチド
に関するものである点で一致する一方、次の相違点1及び2において相違する。
[相違点1]
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」が、訂正発明1では
化学構造上
「14?25個のヌクレオチドからな」り、
機能上
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進」する
のに対し、
甲30発明では、AS-oligoについてそのような化学構造及び機能を併せ有することの限定はない点
[相違点2]
訂正発明1は
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」により「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらしめるための「医薬」である
のに対し、
甲30発明は、AS-oligoを取得する方法に係る発明であって、当該AS-oligoをしてそのような薬理作用をもたらしめるための医薬に係るものではない点

イ 判断
以下、上記相違点について検討する。

(ア)相違点1について
a 甲30発明におけるSES領域、及びそれに相補的なAS-oligoの化学構造について
甲30では、「同定」したとされる甲30発明のエクソン53中のSESの塩基配列が特定されているわけではないが、当該SESが、次の2つの観点:
・塩基長26である
・プリン残基、特にAAGの繰り返し配列、に富み、かつウラシル基による分断が少ない
を指標として選択された配列領域であることを踏まえれば、ジストロフィンmRNA前駆体中の次の塩基配列で表される212merのエクソン53:
UUGAAAGAAU UCAGAAUCAG UGGGAUGAAG UACAAGAACACCUUCAGAAC CGGAGGCAAC 60
AGUUGAAUGA AAUGUUAAAG GAUUCAACACAAUGGCUGGA AGCUAAGGAA GAAGCUGAGC120
AGGUCUUAGG ACAGGCCAGA GCCAAGCUUGAGUCAUGGAA GGAGGGUCCC UAUACAGUAG180
AUGCAAUCCA AAAGAAAAUC ACAGAAACCA AG 212
(【5-2】2.(1)ア参照)
の中から、最もAAG(上の各下線部)の繰り返しを有しており、かつU(ウラシル)による分断が少ない領域とみられる26merの領域、例えば、上記配列中の98-123塩基の領域を見出し、当該領域をSES機能を有する配列として同定することは、甲30に実質的に記載された範囲であるか、少なくとも甲30の記載から当業者が容易になし得たことといえる。

また、そうであれば、当該26merのSES領域に相補的な配列を含むAS-oligoを慣用の方法で製造し取得することも、甲30に実質的に記載された範囲であるか、少なくとも甲30の記載から当業者が容易になし得たことといえる。
そして、その際、
・例えば、SES領域のより効率的な阻害を企図して、当該26merのSES領域の中でもSES機能の発揮において重要な領域部分を更に調査し、当該部分に対し相補的な(即ち25merかそれ未満のヌクレオチド長の)AS-oligoを得ることは、当業者が必要に応じ検討しかつ行い得た範囲の事項といえること; 及び
・甲30発明のAS-Oligoのようなアンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、典型的には15?20mer程度のものが採用され得ることもまた、本件特許出願の優先日前、当業者にとり周知であったこと(甲34.1?甲34.3);
を踏まえれば、甲30発明のAS-Oligoとして、ヌクレオチド長が26mer未満の、例えば15?20merか15?25mer程度のものを製造し取得することは、当業者にとり容易になし得たことである。

なお、AS-oligoをRNA形態のものとしたり、ヌクレアーゼ耐性を高めるために周知の2’-O-メチル化修飾を行ったりすることも、例えば甲8(甲8.4)に記載されたAONの例に基づいて、当業者が併せて適宜検討しかつ採用し得た設計事項の範囲内である。

b 甲30発明のAS-oligoの機能について
(ア)aで述べたようにして製造・取得されるAS-oligoは、エクソン53内のSES機能(即ち、スプライシング促進機能)を現実に有することが「同定」された配列領域を標的とするものであって、現実に「同定」された当該SES領域を阻害する機能を有するものである。
そして、当該SESは、ERS(エキソン認識配列)と同義の配列領域である(甲10.1)から、上述のエクソン53内の配列領域が有するSES機能とは、本件特許明細書の【0006】にいう「EIS」の好ましい態様であるERS(本件特許明細書【0010】)が有する機能、即ち、イントロンのスプライシング機構を補助しエキソン53のジストロフィン成熟mRNAへの封入を補助する機能に他ならない。
そうすると、甲30発明のAS-oligoは、エクソン53内のSES(ERS)機能を阻害する機能を有していることから、上記スプライシング機構に対する遮蔽機能、及び、エクソン53のジストロフィンmRNA前駆体から成熟mRNAへの封入の排除機能を有しているものと推認される。

(イ)相違点2について
a 甲30では、甲30発明の方法により取得されたAS-oligoを、エクソン52(118塩基)又はエクソン50?52(460塩基)の欠失によりアミノ酸読み取り枠のずれを生じているジストロフィンmRNA前駆体を有するヒトのDMD症例の細胞において、エクソン53のスキッピングにより上記読み取り枠のずれを修復してジストロフィンタンパク質を誘導する治療戦略のために使用し得ることが予期される旨、併せて示唆されている(甲30.6)。
してみれば、かかる示唆に基づいて、甲30発明のAS-oligoを医薬として製剤化し、DMD症例の細胞に導入することで、(ア)bのスプライシング機構に対する遮蔽機能及びエクソン53のジストロフィンmRNA前駆体から成熟mRNAへの封入の排除能を発揮せしめることにより、当該細胞におけるジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御してアミノ酸読み取り枠を修復し、ジストロフィンタンパク質を誘導するために用いてみることもまた、当業者にとり容易に想到し得たことである。

b なお、甲30では、甲30発明の方法で取得されたAS-oligoを、実際に甲30.6で例示されるDMD患者の筋細胞へ投与することにより、同筋細胞においてジストロフィンmRNA前駆体からのエクソン53の排除を促進せしめることでエクソン53をスキッピングさせ、同筋細胞においてアウトフレーム状態にあったジストロフィン成熟mRNAをインフレーム化し、当該インフレーム化した成熟mRNAの翻訳によりBMD患者相当のジストロフィンタンパク質を産生せしめることが、現実の薬理試験結果を以て示されているわけではない。

しかしながら、甲30では、甲30発明のAS-oligoの標的であるエキソン53内に、
・26merであって
・プリン残基、特にAAGの繰り返し配列、に富み、かつウラシル基による分断が少ない
領域が現実にSESとしての機能を有する配列領域として存在することを、dsx遺伝子のエクソン3・イントロン3・エクソン4を組み込んだプラスミを含むミニジーンアッセイ系を用いた現実の試験により「同定」し得ている(甲30.3?甲30.5)のだから、当該SES機能を有する領域として実存することが明らかにされた配列領域を標的とするAS-oligoを投与すれば、それに応じて当該SES領域のSES機能が相応の阻害を現実に受ける蓋然性が高いといえる。

また、甲30の背景である、エクソン53と同じジストロフィンエクソンの1個であるエクソン19のスキッピング(甲30.2、甲30.6)に関しては、本件特許出願の優先日前、次の(a)及び(b)の技術開発の経緯が知られていたものと認められる。
(a) DMD症例の一種であるジストロフィン神戸の遺伝子解析を契機として見出された、エクソン19内の31merの領域が、現実にERS(即ちSES)としての機能を有することが、甲30.3、甲7や甲17に記載されたものと類似のHeLa細胞核抽出物内でのミニジーンアッセイ系を用いて確認され(甲8.5)、また、当該ERSにを標的とするAONが当該ERS領域のスプライシング機能をin vitroで阻害したことが確認された(甲8.6)。
(b) 当該エクソン19内のERSを標的とするAONを、
・ヒトリンパ芽球細胞(甲9)、
・mdxマウス(DMDのモデルマウス)(甲12)、
・エクソン20に欠失を有するDMD症例の培養筋細胞(甲11)
のそれぞれに導入したところ、いずれもエクソン19のスキッピングが確認された。
特に、甲11では、エクソン20に欠失を有するDMD症例の筋細胞へのAONの導入により、エクソン19のスキッピングに伴って、現実のジストロフィンタンパク質の発現が認められたことが示された(甲11.3)。
そして、甲30では、甲11のDMD症例の筋細胞中でのエクソン19のスキッピングの成功例により集約される、上述の各エキソン19のスキッピングに関する技術開発を踏まえた上で、エクソン53内のSESを標的とするAS-oligoを同様に用いれば、上述のエクソン19内のERSを標的とするAONを導入した場合と同様に、DMD症例の筋細胞のジストロフィンmRNA前駆体においてエクソン53のスキッピング、及びそれに伴うジストロフィンタンパク質の発現が見込まれることを述べているものである(甲30.2、甲30.6)。

これら(a)及び(b)の事情を併せ考慮すれば、例えば甲30.6に例示されるDMD患者由来の筋細胞に対し、エクソン53の内部領域中のSES機能を有する領域であることが予め同定されている配列領域に相補的なAS-oligoを同様に投与することにより、上述のエクソン19のスキッピングに係る試験結果と同様に、エクソン53内のSES領域が当該AONにより相応の阻害を現実に受ける蓋然性が高く、また、そうであれば、同阻害による有意なエクソン53のスキッピングが生じることに伴って、ジストロフィン成熟mRNAにおいてリーディングフレームのずれが正常化されて相応のジストロフィンタンパク質の有意な産生が得られることも、当業者であれば無理なく予期し得たことといえる。

(ウ)訂正発明の効果について
【5-3】?【5-4】で述べたとおり、本件特許明細書及び図面中には、訂正発明に規定される「エキソン53の内部領域」の、EIS機能を有するERSやその他の「プリン塩基に富」む特異的な配列領域、当該特異的な配列領域を標的とするAON、並びに、当該AONをジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御しジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するという薬理作用に使用すること等についての、具体的な開示及び裏付けは一切認められない。
即ち、本件特許明細書又は図面中では、訂正発明1のAONが標的とする「エキソン53の内部領域」として、本件特許明細書の【0006】等で挙げられている「EIS機能」において上述の甲30や甲7?12、17、34のいずれかに記載乃至示唆される範囲を超えた、予想外の特異的な配列領域が示されているものとも認められない。また、そもそも、本件特許明細書又は図面においては、エキソン53の内部領域中に、甲30で同定されているSES(=ERS)領域のような上記EIS機能を有する特異的な配列領域が現実に存在することすら、実証もされていなければ理論的に証明されてもいない。
してみれば、このような本件特許明細書及び図面の記載に基づくことにより、訂正発明1に係る医薬が甲30や甲7?12、17、34のいずれかに記載乃至示唆される範囲を超えて予想外の効果をもたらすものである、と判断することはできない。

(エ) したがって、訂正発明1は、甲30に記載された発明及び甲30、甲11の記載に基づいて、若しくは、甲30に記載された発明並びに甲30、甲11の記載、及び甲7?10、12、17、34のいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 訂正発明2について

ア 対比
(1)アで述べた点を踏まえつつ、訂正発明2と甲30発明とを対比するに、両者は
「ジストロフィンmRNA前駆体中のエキソン53の内部領域のエキソン認識配列(ERS)を相補的な」アンチセンスオリゴヌクレオチド
に関するものである点で一致する一方、
次の相違点1’、相違点2’及び相違点3において相違する。
[相違点1’]
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」が、訂正発明2では
化学構造上
「20?25個のヌクレオチドからな」り、
機能上
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進」する
のに対し、
甲30発明では、AS-oligoについてそのような化学構造及び機能を併せ有することの限定はない点
[相違点2’]
訂正発明1は
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」により「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」という薬理作用をもたらしめるための「医薬」である
のに対し、
甲30発明は、AS-oligoを取得する方法に係る発明であって、当該AS-oligoをしてそのような薬理作用をもたらしめるための医薬に係るものではない点
[相違点3]
訂正発明2では、「スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしている」のに対し、
甲30発明では、そのような限定はない点

イ 判断
相違点1’については、(1)のイ(ア)で相違点1について述べたのと同様の理由により、また、相違点2’については、(1)のイ(イ)で相違点2について述べたのと同様の理由により、いずれも甲30に記載された発明及び甲30、甲11の記載に基づいて、若しくは、甲30に記載された発明並びに甲30、甲11の記載、及び甲7?10、12、17、34のいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易になし得たことである。
また、相違点3に関し、(1)のイ(イ)aで述べたように、甲30.6の示唆に従って甲30発明のAS-oligoを「エクソン52の欠失(118塩基)あるいは50-52の欠失(460塩基)のDMDの症例」の各筋細胞へ導入することにより、当該各筋細胞内でin-frame化されたmRNAから翻訳産生されてなるジストロフィンタンパク質は、正常なジストロフィンタンパク質より短いベッカー型筋ジストロフィー(BMD)患者が有する変異ジストロフィンタンパク質と同等のものであって、半機能的である(甲43.2)と推認されるものである。よって、相違点3は実質的な相違点ではないか、例えそうでなくとも、そのようなmRNA及びジストロフィンタンパク質とすることは、甲43の記載をも併せ踏まえつつ当業者が容易になし得たことである。

したがって、訂正発明2は、甲30に記載された発明及び甲30、甲11の記載に基づいて、若しくは、甲30に記載された発明並びに甲30、甲11の記載、及び甲7?10、12、17、34、43のいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)訂正発明3について
(1)ア及び(2)アで述べた点を踏まえつつ、訂正発明3と甲30発明とを対比するに、両者は
「ジストロフィンmRNA前駆体中のエキソン53の内部領域に相補的なヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害」する、アンチセンスオリゴヌクレオチド
に関するものである点で一致する一方、
(2)アの相違点1’、相違点2’、及び、次の相違点3’において相違する。
[相違点3’]
訂正発明3では、「スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴とし、該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質である」
のに対し、
甲30発明では、そのような限定はない点

しかしながら、相違点1’及び相違点2’については(2)イで述べたとおりであるし、相違点3’についてもまた、(2)イで相違点3について述べたのと同様の理由により、実質的な相違点ではないか、例えそうでなくとも、そのようなmRNA及びジストロフィンタンパク質とすることは、甲43の記載をも併せ踏まえつつ当業者が容易になし得たことである。

したがって、訂正発明3もまた、甲30に記載された発明及び甲30、甲11の記載に基づいて、若しくは、甲30に記載された発明並びに甲30、甲11の記載、及び甲7?10、12、17、34、43のいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)訂正発明4について
訂正発明4と甲30発明とを対比するに、(1)ア及び(2)ア、並びに、甲30発明のSESはプリン残基に富んだ(甲30.3、甲30.5)スプライシング促進作用を有する配列領域であって、訂正発明4の「プリン塩基に富んだエキソンのスプライシング制御に係る機能を有する配列」に相当することを踏まえると、両者は
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のプリン塩基に富んだエキソンのスプライシング制御に係る機能を有する配列に相補的な」アンチセンスオリゴヌクレオチド
に関するものである点で一致する一方、
(2)アの相違点1’、相違点2’及び次の相違点3”において相違する。
[相違点3”]
訂正発明4では、「スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていること、該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であること、および該変異ジストロフィンタンパク質が、ベッカー型筋ジストロフィー患者のジストロフィンタンパク質と同等であること」が規定されている
のに対し、
甲30発明では、そのような限定はない点

しかしながら、相違点1’及び相違点2’については(2)イで述べたとおりであるし、相違点3”についてもまた、(2)イで相違点3について述べたのと同様の理由により、実質的な相違点ではないか、例えそうでなくとも、そのようなmRNA及びジストロフィンタンパク質とすることは、甲43の記載をも併せ踏まえつつ当業者が容易になし得たことである。

したがって、訂正発明4もまた、甲30に記載された発明及び甲30、甲11の記載に基づいて、若しくは、甲30に記載された発明並びに甲30、甲11の記載、及び甲7?10、12、17、34、43のいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)訂正発明5について
訂正発明5は、AONを放出することが可能な「核酸運搬体」に係る発明であるところ、ここでいうAONは、その化学構造、機能及び薬理作用において、訂正発明1又は2のAONと同様のものと認められる。
そして、例えば「リポフェクタミン」や「リポフェクチン」といった、遺伝子の細胞内導入に用いられる運搬体は、当業者にとり周知のものである(例えば甲9.4、甲11.3、甲12.3)ことから、甲30発明のAS-oligoを使用する際、例えばそれら「リポフェクタミン」又は「リポフェクチン」にAS-oligoを放出することが可能に担持又は内包させて投与することもまた、当業者にとり容易になし得たことである。
その余の点については、訂正発明1?4のAONに係る相違点について(1)?(4)で述べたのと同様である。

したがって、訂正発明5もまた、甲30に記載された発明及び甲30、甲11の記載に基づいて、若しくは、甲30に記載された発明並びに甲30、甲11の記載、及び甲7?10、12、17、34、43のうちいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである

(6)訂正発明6、7について
訂正発明6は、訂正発明5に係る医薬の製造におけるAONの使用に係る発明であって、当該AONは、その化学構造、機能及び薬理作用において、訂正発明5のAONと同様のものと認められる。
また、訂正発明7は、訂正発明1に係る医薬と同じ医薬用途の医薬の製造における、ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞内でAONを放出することが可能な核酸運搬体の使用に係る発明であって、当該AONは、その化学構造、機能及び薬理作用において、訂正発明5のAONと同等のものであり、当該核酸運搬体もまた訂正発明5のそれと同様のものと認められる。

そうすると、訂正発明5について(5)で述べたのとで述べたのと同様の理由により、訂正発明6、7のいずれもまた、甲30に記載された発明及び甲30、甲11の記載に基づいて、若しくは、甲30に記載された発明及び甲30、甲11の記載、及び甲7?10、12、17、34、43のうちいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.被請求人の主張について

(1)被請求人の主張の概要
被請求人は、無効理由7に関し、答弁書、[被請]陳述要領書及び[被請]上申書において、概要次のア及びイの主張をし、無効理由7がないことを主張している。

ア 甲30について
次の事項:
・甲30(=乙2)は、エクソン53内のSES候補配列をdsx遺伝子のミニジーン系を用いて試験したことが記載されているだけで、当該SES候補配列を標的とするAONを用いてエキソンスキッピングを行った結果について開示するものではなく; また、「以前より我々はエクソン19内にSESが存在し、さらにそのSESに対するAS-oligoによりエクソン19のスキッピングを誘導し得ることを報告してきた。同様のことが今回同定したSESにおいても可能であるとすると、例えば」とされているとおり、甲30におけるエキソン53のスキッピングに関する記載は不確定な前提に基づくものであること;
・甲30は学会抄録(乙2)であって、SES候補の具体的な配列やdsxミニジーン系におけるイントロンのスプライシング促進効果の程度等の実験の詳細について十分に開示するものではないこと;
・甲10や甲40には、甲30で使用されたミニジーン系がインビボでの現象を忠実に再現するものではないことが記載されていること、また、筋細胞以外の細胞を用いたAONによるエキソンスキッピングの実験結果は、当該AONを用いてDMD患者の筋細胞においてジストロフィンタンパク質を有効に合成し得ることや、当該AONをDMDの治療薬として用い得ることを裏付けるものではないこと;
を考慮すると、甲30は、ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬;や、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53のSESに相補的なヌクレオチドを含有し、且つ、筋肉細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する、AON;を、何ら具体的に開示するものではない。
なお、本件特許と関連する欧州特許EP2602392の異議申立手続においても、欧州特許庁により同様の判断がなされている(乙19)。

イ 訂正発明の効果について
訂正発明は、エキソン19以外のエキソンをスキップすることでDMD型筋ジストロフィーを治療するための医薬を提供できるという、甲30の記載から当業者が予測し得る範囲を超えた効果を有するものである。

(2)主張に対する判断

(主張アについて)
2.(1)イ(ア)で述べたとおり、甲30発明におけるエクソン53内のSES領域は、甲30の記載から実質的に特定されているか、少なくとも甲30の記載に基づいて当業者が容易に特定し得たものである。また、当該SES機能を有することが現実に同定された領域の塩基配列に基づき製造・取得される、当該SES領域を標的とするAS-oligoであれば、当該領域によるスプライシング促進機能、及びエクソン53のジストロフィンmRNA前駆体から成熟mRNAへの封入機能に対して、有意な阻害機能を有するものと推認されること; また、そのようなAS-oligoを、近接エクソンに欠失を有するDMD症例の筋細胞に対して投与してみることもまた、甲30.6の示唆に基づき、当業者であれば容易に想到し得たであろうと考えられる。
そしてその際、
・甲30発明の方法により製造・取得されるAONが具備しているものと推認される化学構造、機能及び予期される薬理作用についての検討及び説示事項(2.(1)イ(ア)?イ(イ)a?b(a));
・甲11に集約される、エクソン19のSES領域を標的とするAONによるDMD患者筋細胞内でのエクソン19のスキッピングの成功に至る、甲11及び甲7?10、12、17に記載された技術事情が存在すること、及び、甲30の甲30.6の示唆はそれらの技術事情を踏まえたものと理解できること((1)イ(イ)b(b));
を併せ考慮すれば、例えば甲30.6に例示されるDMD患者由来の筋細胞に対し、エクソン53の内部領域中のSES機能を有する実存する領域として予め同定された甲30のSES配列領域を標的とするAS-oligoを同様に投与することで、上述の甲11に集約されるエクソン19のスキッピングに係る試験結果と同様に、エクソン53内の上記実存するSES領域におけるSESとしての機能が相応の阻害を現実に受ける蓋然性が高く、また、そうであれば、同阻害による有意なエクソン53のスキッピングが生じて相応のジストロフィンタンパク質の有意な産生が得られることも、当業者であれば予期し得たことといえる。
なお、訂正発明についての甲30を引用したEPOにおける判断(乙19)の内容は、上述の本項1.?2.の判断、及び、本審決中のその他の項における当合議体の判断を、何ら拘束するものではない。

(主張イについて)
(1)イ(ウ)で【5-3】?【5-4】を引用しつつ述べたとおり、本件特許明細書及び図面中には、訂正発明に規定される「エキソン53の内部領域」の、「EIS機能」を有するERS又はそれに相当する「プリン塩基に富」む特異的な配列領域、当該特異的な配列領域を標的とするAON、並びに、当該AONをジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御しジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するという薬理作用に使用すること等についての、具体的な開示及び裏付けは一切認められない。
即ち、本件特許明細書又は図面中では、訂正発明1のAONが標的とする「エキソン53の内部領域」として、本件特許明細書の【0006】で挙げられている「EIS機能」において上述の甲30や甲7?12、17、34、43のいずれかに記載乃至示唆される範囲を超えた、予想外の特異的な配列領域が示されているものとも認められないし、そもそも、本件特許明細書又は図面においては、エキソン53の内部領域中に、甲30で同定されているSES(=ERS)領域のような上記EIS機能を有する特異的な配列領域が現実に存在することすら、実証もされていなければ理論的に証明されてもいない。
してみれば、このような本件特許明細書及び図面の記載に基づくことにより、訂正発明1に係る医薬が甲30や甲7?12、17、34、43のいずれかに記載乃至示唆される範囲を超えて予想外の効果をもたらすものである、と判断することはできない。

そうすると、被請求人の主張イは何ら本件特許明細書の記載に基づくものではなく、失当であることは明らかである。
よって、被請求人による上述の主張ア及びイは、いずれも採用できるものではない。

4.小括
以上1.?3.での検討のとおりであるから、訂正発明1?7は、いずれも、特許法第29条の2の規定に基づいて特許を受けることができないものであり、訂正発明1?7に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、請求人の主張する無効理由7には、理由がある。


【5-7】無効理由5(甲11を主引例とする進歩性欠如)について

1.甲11に記載された発明

甲11.3?甲11.4によれば、エクソン19のSES(=ERS。甲10.1)を標的とするAS-oligoを用いて、DMD症例からの筋細胞内でのエクソン19のスキッピング及びそれに伴う該細胞内でのジストロフィンタンパク質の誘導が現実にもたらされたこと、及び、該AS-oligoがエクソン19のスキッピング及びそれに伴うジストロフィンタンパク質の誘導のための治療法において有効であることを、把握することができる。
そうすると、甲11には、次の発明:
「 エクソン19のスプライシング促進配列(SES)に対するAS-oligoを含む、エクソン20に欠失を有するDMD症例の筋細胞においてジストロフィンタンパク質の発現をもたらす治療法に用いるための治療剤であって、
AS-oligoをリポフェクチン法により上記筋細胞内に導入することにより、エクソン19のスキッピングを誘導してジストロフィン遺伝子のアミノ酸読み取り枠のずれを修復し、ジストロフィンタンパク質の発現をもたらしめる、治療剤 」
(以下、単に「甲11発明」ということがある)が記載されているものと認められる。

2.対比・判断

(1)訂正発明1について

ア 対比
訂正発明1と甲11発明とを対比する。
甲11発明の「エクソン19のスプライシング促進配列(SES)」は、訂正発明1の「エキソン53の内部領域」に相当し、また、ここでいう「スプライシング促進配列(SES)」は訂正発明1の「エキソン認識配列(ERS)」と同義である(甲10.1)。また、当該SESを標的とする甲11発明のAS-Oligoは、当該SESに相補的な塩基配列を有することから、当該SESの機能を阻害し得るものであり、訂正発明1の「アンチセンスオリゴヌクレオチド」に相当する。
また、甲11発明における「エクソン19のスキッピングを誘導してジストロフィン遺伝子のアミノ酸読み取り枠のずれを修復し、ジストロフィンタンパク質の発現をもたらしめる」ことは、訂正発明1の「アンチセンスオリゴヌクレオチド」の「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する」機能を以て「ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生する」ことに相当する。

以上の点を踏まえると、両者の一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。

[一致点]
「 ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソンの内部領域に相補的なヌクレオチドからなり、エキソンのエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬 」

[相違点]
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」が、訂正発明1では
化学構造上
「エキソン53の内部領域に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し」、且つ「エキソン53のスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する」機能を有する
ものである
のに対し、甲11発明では、
化学構造上
「エキソン19」のERSに相補的なヌクレオチドを有し、
機能上
「エキソン19」のERSを特異的に阻害し
「エキソン19」のスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進する機能を有する
ものである点

即ち、両者は、AONの標的に関し、
訂正発明1では、「エキソン53(の内部領域)」を標的としているのに対し、
甲11発明では、「エキソン19(の内部領域)」を標的としている、
という点において相違している、ともいえる。

イ 判断

(ア)(相違点について)
a 甲11には、同号証記載のエクソン19のSESを標的とするAS-oligoを用いたエクソン19のスキッピングに関する技術を、エクソン53のSESを標的としたエクソン53のスキッピングに応用することを具体的に記載乃至示唆する記載はない。
しかしながら、【5-6】2.(1)イ(イ)b(b)等で説示したとおり、甲30では、甲11や甲8、9、12等に示されるエクソン19内のSES領域を標的とするエクソンスキッピングの技術開発の踏まえた上で、エクソン53内のSESを標的とするAS-oligoを同様に用いれば、上述のエクソン19内のERSを標的とするAONを導入した場合と同様に、ヒトDMD症例の筋細胞のジストロフィンmRNA前駆体においてエクソン53のスキッピング、及びそれに伴うジストロフィンタンパク質の発現が見込まれることを述べているものと解される(甲30.2、甲30.6)。
そして、甲30では、エクソン53のスキッピングを行う際のAS-oligoの標的となる、エクソン53内のSES領域が現実に存在することを見出し、当該SES領域を「同定」し得ているのである(甲30.3?甲30.5)。
してみると、要すれば、甲8、9及び12や、甲30及び甲8で採用されているのと同様のミニジーン系を用いたSES領域測定のためのアッセイ法を教示する甲7、17の記載を踏まえつつ、これら甲11及び甲30の記載を併せみた当業者であれば、甲11発明に係るエクソン19のSESを標的としたエクソン19のスキッピングに関する技術を、エクソン53のSESを標的としたエクソン53のスキッピングのために応用してみることは、容易に想到し得たことといえる。また、そうすることで、甲11のエクソン19のスキッピング結果と同様の結果が見込まれることは、当業者であれば無理なく予期し得たことである。

b そして、その際、甲30記載のAS-Oligoとして、ヌクレオチド長が26mer未満の、例えば15?20merか15?25mer程度のものを製造し取得することが、要すれば甲34や甲8に例示される周知の事項を勘案しつつ当業者にとり容易になし得た範囲の事項であることは、【5-6】2.(1)イ(ア)aで述べたとおりである。

(イ)(訂正発明の効果について)
そして、【5-6】2.(1)イ(ウ)等で述べたとおり、本件特許明細書及び図面の記載からでは、訂正発明1に係る医薬が、上述の甲11、甲30や甲7?10、12、17、34のいずれかに記載乃至示唆される範囲を超えて予想外の効果をもたらすものである、と判断することはできない。

ウ まとめ
したがって、訂正発明1は、甲11に記載された発明及び甲11、甲30の記載に基づいて、若しくは、甲11に記載された発明並びに甲11、甲30の記載、及び甲7?10、12、17、34のうちいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 訂正発明2?4について
訂正発明2?4では、AONについて、その標的がエキソン53の内部領域の「ERS」(訂正発明2、3)又は「プリン塩基に富んだエキソンのスプライシング制御に係る機能を有する配列」(訂正発明4)である点において、訂正発明1のAONと共通している。
そうすると、訂正発明2?4と甲11発明を対比するに、両者は、訂正発明1について(1)アで述べたのと同様の相違点、即ち、
訂正発明2?4では、エキソン53の内部領域を標的としているのに対し、
甲11発明では、エキソン19の内部領域を標的としている、
という点において、主に相違する。

そして、この相違点については、訂正発明1の甲11発明との相違点((1)ア)について(1)イ(ア)aで述べたのと同様に、要すれば甲8、9及び12や、甲30で採用されているのと同様のミニジーン系を用いたSES領域測定のためのアッセイ法を教示する甲7、17の記載を踏まえつつ、甲11発明に係るエクソン19のSESを標的としたエクソン19のスキッピングに関する技術を、甲30の記載に基づきエクソン53のSESを標的としたエクソン53のスキッピングのために応用してみることは、容易に想到し得たことといえ、また、そうすることで、甲11のエクソン19のスキッピング結果と同様の結果が見込まれることは、当業者であれば無理なく予期し得たことである。そしてその際、エクソン53のSES(ERS)領域を標的とするAONのヌクレオチド長を20?25mer程度としたり化学修飾を施したりすることもまた、訂正発明1について(1)イ(ア)bで述べたのと同様に、要すれば甲34や甲8に例示される周知の事項を勘案しつつ、当業者にとり容易になし得た範囲の事項である。

さらに、そのようにして得られるエクソン53のSES(ERS)領域を標的とするAONを、甲30.6の示唆に従って「エクソン52の欠失(118塩基)あるいは50-52の欠失(460塩基)のDMDの症例」の各筋細胞へ導入することにより当該各筋細胞内で産生されてなるジストロフィンタンパク質が、正常なジストロフィンタンパク質より短いベッカー型筋ジストロフィー(BMD)患者が有する変異ジストロフィンタンパク質と同等のものであって半機能的である(甲43.2)と推認されるものであるか、そのようなジストロフィンタンパク質とすることが甲43の記載を勘案することにより当業者にとり容易になし得ることもまた、【5-6】2.(2)イ等で述べたとおりである。

したがって、訂正発明2?4のいずれもまた、甲11に記載された発明及び甲11、甲30の記載に基づいて、若しくは、甲11に記載された発明並びに甲11、甲30の記載、及び甲7?10、12、17、34、43のうちいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)訂正発明5について
訂正発明5は、AONを放出することが可能な「核酸運搬体」に係る発明であるところ、ここでいうAONは、その化学構造、機能及び薬理作用において、訂正発明1又は2のAONと同様のものと認められる。
そして、「リポフェクタミン」又は「リポフェクチン」といった、遺伝子の細胞内導入に用いられる運搬体は、甲11に記載されている(甲11.3)他、例えば甲9.4や甲12.3の記載にもみられるとおり、当業者にとり周知のものであることから、例えば(1)イ(ア)a等で述べたようにして取得されるエキソン53の内部領域を標的とするAS-oligoを使用する際、例えばそれら「リポフェクタミン」又は「リポフェクチン」にAS-oligoを放出することが可能に担持又は内包させて投与することもまた、当業者にとり容易になし得たことである。
その余の点については、訂正発明1?4について上記(1)?(2)で述べたのと同様である。
したがって、訂正発明5もまた、、甲11に記載された発明及び甲11、甲30の記載に基づいて、若しくは、甲11に記載された発明並びに甲11、甲30の記載、及び甲7?10、12、17、34、43のうちいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)訂正発明6、7について
訂正発明6は、訂正発明5に係る医薬の製造におけるAONの使用に係る発明であって、当該AONは、その化学構造、機能及び薬理作用において、訂正発明5のAONと同様のものと認められる。
また、訂正発明7は、訂正発明1に係る医薬と同じ医薬用途の医薬の製造における、ジストロフィンmRNA前駆体を保有する細胞内でAONを放出することが可能な核酸運搬体の使用に係る発明であって、当該AONは、その化学構造、機能及び薬理作用において、訂正発明5のAONと同等のものであり、当該核酸運搬体もまた訂正発明5のそれと同様のものと認められる。
そうすると、訂正発明5について(3)で述べたのとで述べたのと同様の理由により、訂正発明6、7のいずれもまた、甲11に記載された発明及び甲11、甲30の記載に基づいて、若しくは、甲11に記載された発明及び甲11、甲30の記載、及び甲7?10、12、17、34、43のうちいずれか1又は2以上の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.被請求人の主張について

(1)被請求人の主張の概要
被請求人は、無効理由5に関し、答弁書、[被請]陳述要領書及び[被請]上申書において、
ア 甲30について、【5-6】3.と同様の主張を行った上で;
概要次のイ及びウ:
イ 甲11には、同号証の知見をエクソン19以外のエクソンにまで一般化させる示唆はないこと;
ウ エクソン19以外のエクソンをスキップすることでDMD型筋ジストロフィーを治療するための医薬を提供できるという効果は、甲11の記載から当業者が予想し得る範囲を超えたものであること;
を述べることにより、無効理由5は理由がないことを主張している。

(2)主張に対する判断
・主張アについては、【5-6】3.で述べたとおりであること;
・主張イについては、甲11発明と甲11及び甲30の記載、並びに、要すれば甲7?10、12、17、34、43のうちいずれか1又は2以上の記載を組み合わせることに特段の困難性がないことは、本項の2.(1)イ(ア)a等で説示したとおりであること;
・主張ウについては、本項の2.(1)イ(ウ)や【5-6】3.等で述べたとおり、本件特許明細書の記載を以て「エクソン19以外のエクソン」である訂正発明に係る「エキソン53」を「スキップすることでDMD型筋ジストロフィーを治療するための医薬を提供でき」ているとはいえず、当該主張ウは何ら本件特許明細書の記載に裏付けられた事項ではないこと;
から、無効理由5に関する被請求人の上述の主張は、いずれも採用の限りではない。

4.小括
以上の検討のとおりであるから、訂正発明1?7は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができないものであり、本件発明1?7に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、請求人の主張する無効理由5には、理由がある。


【5-8】無効理由8(甲9を主引例とする進歩性欠如)について

1.甲9に記載された発明

摘記甲9.4?甲9.6によれば、甲9には、次の発明:
「EBVにより形質転換された、正常男性から樹立された、ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒトリンパ芽球細胞において、ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御するための組成物であって、ジストロフィンmRNA前駆体に含まれるエキソン19内のERS領域に相補的な31個のヌクレオチドを含有し、塩基配列はGCCTGAGCTGATCTGCTGGCATCTTGCAGTTであるアンチセンスオリゴヌクレオチオドを包含する組成物」
(以下、「甲9発明」ということがある)が記載されているものと認められる。

2.対比・判断

(1)訂正発明1について

ア 対比
訂正発明1と甲9発明とを対比する。
甲9発明の「エクソン19内のERS領域」が訂正発明1の「エキソン53の内部領域」に相当することを踏まえると、両者の一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。

[一致点]
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソンの内部領域に相補的な、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする組成物」

[相違点]
[相違点1]
訂正発明1が
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」を以て「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための」医薬用途に係るものである;
のに対し、甲9発明は
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」を以て「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒトリンパ芽球細胞において、ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御するための」ものであって、「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための」医薬用途に係るものであるジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための」医薬用途に係るものではない点
[相違点2]
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」が、訂正発明1では
化学構造上
「ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり」、
機能上
「エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害」し、且つ
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞」内で「該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進」する機能を有する
物であるのに対し、甲9発明では
「ジストロフィンmRNA前駆体に含まれるエキソン19内のERS領域に相補的な31個のヌクレオチドを含有し、塩基配列はGCCTGAGCTGATCTGCTGGCATCTTGCAGTTである」
物である点

イ 判断
上記相違点1について、まず検討する。
(ア) そもそも甲9は、エクソン19のERS(=SES。甲10.1)を標的とするAONを用いた、ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン19のスキッピングに関する学術論文であり、DMDの遺伝子治療を最終目的としたものであることが記載されてはいるものの(甲9.7)、正常男性由来のヒトリンパ芽球細胞において、アンチセンスオリゴヌクレオチドによるエキソン19のスキッピングが生じた旨の研究結果を開示するに留まり(甲9.4?甲9.5)、実際にDMD症例の筋細胞における実験結果は何ら記載されていない。
リンパ芽球細胞におけるエキソンスキッピングではDMD型筋ジストロフィーを治療することができるものではないから、甲9の記載からは、エクソン19を標的とするAONをDMD患者を治療するための医薬として実際に投与できることが記載されているとまではいえない。

(イ) してみると、エクソン19のSES(=ERS)を標的とするAS-oligoを用いた、例えば、DMD症例からの筋細胞内でのエクソン19のスキッピング、及びそれに伴うジストロフィンタンパク質の誘導を現実にもたらしめる医薬用途に係る発明が記載されているといえる、甲11を主引例とするのであればともかく、そのような医薬用途に係るものではない甲9発明が記載されているに留まる甲9を主引例とすることを以ては、例え甲30中に、エクソン53のSESに対するAS-oligoの取得に係る記載、並びに、当該AS-oligoを用いたDMD症例におけるエクソン53のスキッピング及びそれに伴うジストロフィンタンパク質の誘導のための医薬用途に係る示唆(甲30.6)がなされていても、かかる甲30の記載乃至示唆を併せ考慮することで、上記エクソン53を標的とするAS-oligoをそのようなエクソン53のスキッピング及びジストロフィンタンパク質の誘導に係る医薬用途に用いることが期待できる、とまでは、当業者といえども容易に想起し得たことであるとはいえない。この点、請求人が引用する甲11やその他の甲号証を副引例として併せ参酌しても、同様である。

ウ したがって、相違点2について詳細に検討するまでもなく、訂正発明1は、甲9に記載された発明と甲1?12、15?17、30及び34等の記載とを組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(2)訂正発明2?7について
訂正発明2?4は、訂正発明1と同様の、
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」を以て「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための」
医薬用途に係るものである。
また、訂正発明5に係る核酸運搬体、訂正発明6に係るAONの使用、及び訂正発明7に係る核酸運搬体の使用に係る各発明においても、エクソン53の一部のERSを標的とする14?25個のヌクレオチドからなるAONが規定されていると共に、当該AONを以て
「ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための」
医薬用途をもたらすものであることが規定されている。
してみると、他の一致点/相違点について検討するまでもなく、(1)で「相違点1」について述べたのと同様の理由により、これら訂正発明2?7のいずれもまた、甲9に記載された発明と甲1?12、15?17、30及び34等の記載とを組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

3.小括
以上のとおりであるから、訂正発明1?7において、請求人の主張する無効理由8は、理由がない。


【5-9】無効理由6(優先権主張の利益を享受できないことを前提とする、甲18に基づく新規性及び進歩性欠如)について

1.請求人の主張の概要
無効理由6は、本件特許については優先権主張の利益を享受できない旨の請求人の主張を前提とするものであるところ、かかる主張の概要は、甲31(基礎出願明細書等)には、本件発明のAONの標的となる「エキソン53の内部領域」である「エキソン封入シグナル(exon inclusion signal)」(EIS)領域として「エキソン認識配列(exon recognition sequence)」(ERS)領域の開示がみられる一方、「非」ERS領域についての記載はないが、本件特許明細書には、「非」ERS領域をAONの標的とすることが含まれるように追加記載がなされており、それにより、本件発明のAONの標的となる「エキソン53の内部領域」中に当該「非」ERS領域が実質的に含まれることとなっている、というものである。

2.当合議体の判断

(1) 【第3】の本件訂正後の請求項1?7では、その記載からみて、各AONが標的とする「エキソン53の内部領域」(請求項1?4)又は「エキソン53の一部」(請求項5?7)については、いずれもエキソン53内の次のア、イいずれか:
ア 「エキソン認識配列(ERS)」(請求項1?3、5?7)
又は
イ 「プリン塩基に富んだエキソンのスプライシング制御に係る機能を有する配列」(請求項4)
に更に限定されているものと把握できる。

(2) 一方、【5-3】1.(1)ウでも検討したとおり、本件特許明細書中には、上のア及びイの事項に関連した、次の記載が認められる。
「 【0006】
上記及びその他の諸問題を克服するために、本発明はRNAスプライシング反応系のmRNA前駆体を、該mRNA前駆体に含まれる少なくとも1つのエキソンが有するエキソン封入シグナル(exon inclusion signal)(EIS)を特異的に阻害することが可能な試薬と接触させ、そして該mRNA前駆体のスプライシングを行わせしめることを包含する、RNAスプライシング反応系においてmRNA前駆体のスプライシングを制御するための方法を提供する。エキソン封入シグナルに干渉することの利点は、このような因子がエキソン内に存在するということである。スキップされるエキソン内の配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを与えることによって、エキソン封入シグナルと干渉して、エキソンをスプライシング機構から効果的に遮蔽することができる。スプライシング機構がスキップすべきエキソンを認識しないことによって、最終的なmRNAからエキソンが排除される。本発明は、スプライシング機構の酵素反応(エキソンの結合)に直接干渉するものではない。このことによって本発明は、確実且つ信頼性の高い方法であると考えられる。EISはエキソンに特異的な構造であり、スプライス受容部位及びスプライス供与部位に特定の立体配置を付与するものと考えられる。このような概念においては、特定の立体配置によってスプライシング機構がエキソンを認識すると考えられている。しかしながら、本発明はこのモデルに限定されるものではない。本発明者らは、エキソンに結合可能な試薬がEISを阻害することを見出した。このような試薬は、エキソンのいかなる部位にも特異的に接触することができるにもかかわらず、EISを特異的に阻害することができる。・・・。2つのドメインの間に存在するアミノ酸の一次構造の一部をコードするエキソンのスキッピングによって、少なくとも部分的には同等の機能を発揮する、より短いタンパク質の産生につながる。従って、中間領域における不利益な突然変異(例えばフレームシフト突然変異や停止変異)はエキソンスキッピングを誘導することで少なくとも部分的に 修復することが可能であり、(部分的な)機能を有する短いタンパク質を合成することができる。・・・。細胞は試験管内(in vitro)で培養されるか、または生体内(in vivo)で増殖したものであることが好ましく、これらに限定されるわけではないが、典型的な生物の例にはヒトやマウスが包含される。 」

「 【0010】
本発明の好ましい態様において、エキソン封入シグナルはエキソン認識配列(exon recognition sequence)(ERS)に特異的なアンチセンス核酸による干渉を受ける。このような配列は比較的プリン塩基に富み、スキップされるエキソンの配列情報を精査することで特定することが可能である(Tanakaら、1994, Mol. Cell Biol. 14: p.1347-1354)。エキソン認識配列は、いわゆる弱いエキソンのmRNAへの封入を補助すると考えられる(Achselら、1996, J. Biochem.120: p.53-60)。このような弱いエキソンは、例えば、スプライシング機構による認識効率が低い5’及び/または3’スプライス部位を包含する。本発明においては、エキソンスキッピングはいわゆる強いエキソン、すなわち細胞のスプライシング機構によって通常効率よく認識されるエキソン、においても誘導することができることを見出した。与えられたいかなる配列からも、その配列がエキソンと推定される領域を包含するかどうかを予測し、そのエキソンが強いか弱いかを確認することが(ほとんどの場合)可能である。エキソンの強度を確認するためのいくつかの手法が存在する。有用な手法としてNetgene2スプライス部位予測サーバー(NetGene2 splice site prediction server)(Brunakら、1991, J. M ol. Biol.220: p.49-65)で検索することができる。本発明の方法によるエキソンスキッピングは(ほとんど)すべてのエキソンに誘導することが可能であり、エキソンが弱いエキソンであるか強いエキソンであるか、ならびにエキソンがERSを包含するかどうかにも依存することはない。好ましい態様において、スキッピングのターゲットとなるエキソンは強いエキソンである。他の1つの好ましい態様において、スキッピングの対象となるエキソンはERSを包含しない。 」

これらの本件特許明細書の記載によれば、(1)ア、イのいずれも、【0006】や【0010】中で、エキソンのスプライシング制御に係る機能を有する特異的な配列領域である「エキソン封入シグナル(exon inclusion signal)(EIS)」の好ましい例として説明がなされているものと認められる。

(3) そして、本件特許出願の基礎出願明細書等(甲31)には、甲31.1?甲31.3として摘記したとおりの、次の記載がみられる。

・甲31.1(請求の範囲)
「 1. 異常型タンパク質をコードするエキソンを含むmRNA前駆体を有する細胞に対して、該エキソンの少なくとも1つが有するエキソン封入シグナルを特異的に阻害することが可能な試薬を細胞に与え、そして該mRNA前駆体のスプライシングによって生じるmRNAの翻訳を行わせしめることを包含する、
細胞による異常型タンパク質の産生を少なくとも部分的に減少させるための方法。
2. 該エキソン封入シグナルがエキソン認識配列を包含することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
・・・
10. 目的エキソンの一部に対して相補的な核酸またはそれと同等の機能を有する分子が、該エキソンの有するエキソン封入シグナルを特異的に阻害することが可能であることを確認するための方法であって、目的のエキソンを含むmRNA前駆体を有する細胞に被験核酸を与え、該細胞を培養して該mRNA前駆体からmRNAを生成せしめ、そして生成した該mRNAに該エキソンが存在しないことを確認することを包含する方法。
・・・ 」

・甲31.2(2頁33行?3頁7行)
「 上記及びその他の諸問題を克服するために、本発明は細胞内で異常タンパク質の生成を少なくとも部分的に低下させるための方法を提供し、前記細胞は前記タンパク質をコードするエキソンを含むmRNA前駆体を含み、前記方法は、前記細胞に、前記エキソンの少なくとも1つのエキソンのエキソン封入シグナル(exon inclusion signal)を特異的に阻害することが可能な試薬を提供することを含み、前記方法はさらに該mRNA前駆体のスプライシングから生成されるmRNAの翻訳を可能にすることを含む。エキソン封入シグナル(EIS)に干渉することの利点は、シグナルを提供するこのような因子がエキソン内に存在するということである。スキップされるエキソン内の配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを与えることによって、エキソン封入シグナルと干渉して、エキソンをスプライシング機構から効果的に遮蔽することができる。スプライシング機構がスキップすべきエキソンを認識しないことによって、最終的なmRNAからエキソンが排除され る。本発明は、スプライシング機構の酵素反応(エキソンの結合)に干渉するものではない。このことによって本発明は、確実且つ信頼性の高い方法であり得る。 」

・甲31.3(3頁28行?4頁4行)
「 本発明の好ましい態様において、エキソン封入シグナルはエキソン認識配列(exon recognition sequence)(ERS)に特異的なアンチセンス核酸による干渉を受ける。このような配列は比較的プリン塩基に富み、スキップされるエキソンの配列情報を精査することで特定することが可能である。エキソン認識配列は、いわゆる弱いエキソンのmRNAへの封入を補助すると考えられる。このような弱いエキソンは、例えば、スプライシング機構による認識効率が低い5’及び/または3’スプライス部位を包含する。本発明においては、エキソンスキッピングはいわゆる強いエキソン、すなわち細胞のスプライシング機構によって通常効率よく認識されるエキソン、においても誘導することができることを見出した。 」

(4) これら甲31.1?甲31.3によれば、(2)ア、イの事項について記載された本件特許明細書のEIS領域に係る説明事項は、いずれも本件特許出願の基礎出願明細書等の記載により裏付けられていたものと認められる。

(5) そうすると、上記(1)ア又はイの発明特定事項を含む、本件訂正後の請求項1?7は、いずれも本件特許出願の基礎出願明細書等に記載されたものであって、そのいずれも優先権主張の利益を享受することができ、その特許法29条第1項及び第2項の判断の基準日は、本件特許出願の優先日:2000年9月21日である。

したがって、上記優先日より後に頒布された刊行物である甲18を引用することにより、本件訂正後の請求項1?7に係る発明の新規性及び進歩性を否定することはできない。

3.小括
以上のとおりであるから、請求人のいう無効理由6は、理由がない。


【第6】むすび

以上のとおり、訂正発明1?7について、請求人の主張する無効理由1、2、5及び7には理由があり、訂正発明1?7に係る特許はいずれも、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項、及び特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであるから、訂正発明1?7に係る特許は、同法第123条第1項第2号及び同法同条同項第4号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬。
【請求項2】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のエキソン認識配列(ERS)に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬であって、スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴とする、医薬。
【請求項3】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、エキソン53のエキソン認識配列(ERS)を特異的に阻害し、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬であって、スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていることを特徴とし、該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であることを特徴とする、医薬。
【請求項4】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬であって、該ジストロフィンmRNA前駆体またはその一部分に含まれるエキソン53の内部領域のプリン塩基に富んだエキソンのスプライシング制御に係る機能を有する配列に相補的な20?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドを包含することを特徴とする医薬であって、スプライシングによって得られるmRNAが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードしていること、該機能性ジストロフィンタンパク質が、変異ジストロフィンタンパク質または正常ジストロフィンタンパク質であること、および該変異ジストロフィンタンパク質が、ベッカー型筋ジストロフィー患者のジストロフィンタンパク質と同等であることを特徴とする、医薬。
【請求項5】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に対して相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする核酸運搬体。
【請求項6】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に対して相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用。
【請求項7】
ジストロフィンmRNA前駆体を保有するヒト細胞において、該ジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングを制御し、ジストロフィンタンパク質を該細胞内で産生するための医薬の製造における、アンチセンスオリゴヌクレオチドを放出することが可能な核酸運搬体の使用であって、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、該ジストロフィンmRNA前駆体のエキソン53の一部のエキソン認識配列(ERS)に相補的な14?25個のヌクレオチドからなり、且つ該細胞内で該エキソンのスプライシング機構からの遮蔽および該エキソンのmRNA前駆体からの排除を促進することを特徴とする使用。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-09-30 
結審通知日 2020-10-05 
審決日 2020-11-12 
出願番号 特願2013-260728(P2013-260728)
審決分類 P 1 113・ 537- ZAA (A61K)
P 1 113・ 113- ZAA (A61K)
P 1 113・ 121- ZAA (A61K)
P 1 113・ 16- ZAA (A61K)
P 1 113・ 536- ZAA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 明子  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 大久保 元浩
冨永 みどり
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6126983号(P6126983)
発明の名称 真核細胞におけるエキソンスキッピングの誘導  
代理人 城山 康文  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 小林 浩  
代理人 宮崎 綾  
代理人 西澤 恵美子  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 小野 誠  
代理人 城山 康文  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 日野 真美  
代理人 北原 潤一  
代理人 小野 誠  
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