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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1374122
審判番号 不服2020-17464  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-21 
確定日 2021-05-10 
事件の表示 特願2020- 51943「情報伝達装置及び情報伝達システム」拒絶査定不服審判事件〔、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和2年3月24日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 3月24日 手続補正書の提出
令和 2年 6月10日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 6月30日 意見書の提出
令和 2年 9月 9日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 9月30日 意見書、手続補正書の提出
令和 2年11月27日付け 拒絶査定
令和 2年12月21日 審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 2月16日付け 拒絶理由通知書
令和 3年 3月19日 意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年11月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.この出願の請求項1ないし3及び6並びに9ないし11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.この出願の請求項1ないし12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2018/092595号
2.特開2018-163419号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1及び3ないし9並びに11及び12係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
A 特表2000-501033号公報
B 国際公開第2018/092595号(拒絶査定時の引用文献1)
C 特開2009-276996号公報

第4 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、令和3年3月19日付の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりである。

「【請求項1】
ユーザに装着され、受信された情報を前記ユーザへ伝達する装置であって、
前記ユーザが有する指の背側に配置された複数の振動子と、
前記情報を受信すると共に、受信された前記情報に応じて、いずれの前記振動子が起振したかを前記ユーザへ認知させるよう前記複数の振動子を選択的に振動させる受信部を備え、
前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指と小指を構成する末節骨及び基節骨と、示指、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の直上に配置された情報伝達装置。」

なお、本願発明2ないし10の概要は以下のとおりである。

本願発明2ないし7は本願発明1を減縮した発明である。
本願発明8は、本願発明1の「情報伝達装置」に対応する「情報伝達システム」の発明ある。
本願発明9及び10は、本願発明8を減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由及び当審の拒絶の理由(令和3年2月16日付け)に引用された引用文献1(国際公開第2018/092595号)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。以下同じ。)

「[0001] 本開示は、振動提示装置および振動提示方法、並びにプログラムに関し、特に、より良好な触覚刺激を行うことができるようにした振動提示装置および振動提示方法、並びにプログラムに関する。」

「[0016] <振動アクチュエータの基本構造>
[0017] 図1は、振動アクチュエータの構成例を示す図である。
[0018] 図1に示すように、振動アクチュエータ11は、誘電層12、電極13および14、電源15、並びにスイッチ16を備えて構成される。また、振動アクチュエータ11は、電極13に導線17が接続されており、導線17がスイッチ16を介して電源15に接続されるとともに、電極14に導線18が接続されており、導線18が電源15に接続される接続構成となっている。
[0019] 誘電層12は、電圧を印加することにより伸縮する柔軟な素材により形成される。また、誘電層12の両面には電極13および14が電気的に接続されており、電極13および14により誘電層12に対して電圧が印加される。そして、誘電層12を形成する素材は、例えば、特開2016-69511号公報に開示されているように、水酸基を有する金属酸化物粒子と、エポキシ基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーと、両末端にエポキシ基を有するビスフェノール型エポキシ樹脂と、架橋剤とを含む組成物から製造される。
[0020] 電極13および14は、導電性を備えた柔軟な材質により形成され、誘電層12を挟み込むような積層構造を構成する。また、電極13および14は、誘電層12を挟み込む内側に対して反対側となる外側の表面に対して絶縁性のコーティングが施されており、例えば、人体との接触があっても人体側に電流が流れることがないように構成される。
[0021] 電源15は、例えば、電力を蓄積するバッテリにより構成され、振動アクチュエータ11による振動を発生させるため電圧を電極13および14に印加する。
[0022] スイッチ16は、電極13および14に印加される電圧のオン/オフを切り替え、振動アクチュエータ11による振動を適切に発生させる。
[0023] このように構成される振動アクチュエータ11は、電源15の電圧が電極13および14により誘電層12に印加されることで、誘電層12が上下左右に伸縮することにより振動が発生する。そして、振動アクチュエータ11に発生する振動が、電極13および14の表面を通じて人体の触覚を刺激する。例えば、誘電層12並びに電極13および14は、エラストマーなどの柔軟かつ軽量であって薄い素材により構成され、振動を提示する対象となる箇所に対して面接触することができる。これにより、振動アクチュエータ11は、広範囲の振動を提示することができ、従来よりも良好な触覚刺激を行うことができる。
[0024] さらに、誘電層12並びに電極13および14は、素材の柔軟性から、屈曲させるような形状の変形を容易に行うことができ、例えば、人体に対する密着度を高くすることができる。
[0025] 例えば、振動アクチュエータ11は、図2に示すように、内側が空洞となる筒型の形状に形成することができる。
[0026] 図2に示す振動アクチュエータ11は、図1と同様に、電極13および14が誘電層12を挟み込むような積層構造となっており、誘電層12の外周面に電極13が電気的に接続され、誘電層12の内周面に電極14が電気的に接続されている。また、電極13および14に電源15を接続する接続構造も、図1と同様に構成されている。
[0027] このように、筒型の形状の振動アクチュエータ11は、指や手首などへの巻きつけによる装着、または、指にはめ込むような装着を行うことで、指や手首全体に振動を提示することが可能となる。
[0028] なお、筒型の形状の振動アクチュエータ11は、例えば、その全面が振動面となるように構成することができる。その他、筒型の形状の振動アクチュエータ11は、例えば、シリコンなどで筒型や帯状に成形した筐体に対して、指の腹の部分のみや、手首の裏の部分にのみなど、必要な部分にのみが振動面となるように構成してもよい。
[0029] 以下の実施の形態では、図2に示すような筒型の形状の振動アクチュエータ11が用いられる振動提示デバイスについて説明する。
[0030] <振動提示デバイスの第1の構成例>
[0031] 図3は、本技術を適用した振動提示デバイスの第1の実施の形態の構成例を示す図である。
[0032] 図3には、ユーザの手に装着するタイプの振動提示デバイス21が示されている。振動提示デバイス21は、6個の振動アクチュエータ22-1乃至22-6、導線23-1および23-2、並びに、制御ユニット24を備えて構成される。
[0033] 振動アクチュエータ22-1乃至22-6は、図1および図2を参照して上述した振動アクチュエータ11と同様に、電極13および14が誘電層12を挟み込むような積層構造となっている。即ち、振動アクチュエータ22-1乃至22-6は、電極13および14に電圧を印加することにより誘電層12が振動することで、振動が発生するように構成される。また、振動アクチュエータ22-1乃至22-6は、誘電層12並びに電極13および14が備える柔軟性により、それぞれ装着する箇所に応じた形状に形成することができる。
[0034] 例えば、振動アクチュエータ22-1は、人差し指の指先から第一関節までの部分を覆うような筒型の形状に形成される。また、振動アクチュエータ22-2は、人差し指の第一関節から第二関節までの部分を覆うような筒型の形状に形成され、振動アクチュエータ22-3は、人差し指の第二関節から指の付け根までの部分を覆うような筒型の形状に形成される。同様に、振動アクチュエータ22-4は、親指の指先から第一関節までの部分を覆うような筒型の形状に形成され、振動アクチュエータ22-5は、親指の第一関節から第二関節までの部分を覆うような筒型の形状に形成される。また、振動アクチュエータ22-6は、手首に巻きつけるような帯状の形状に形成される。
[0035] 導線23-1は、振動アクチュエータ22-1、振動アクチュエータ22-2、および振動アクチュエータ22-3と制御ユニット24とを接続する。また、導線23-2は、振動アクチュエータ22-4、および振動アクチュエータ22-5と制御ユニット24とを接続する。
[0036] 制御ユニット24は、ユーザの手首に巻きつけるようなリストバンド型の形状をしており、図1および図2に示したような電源15やスイッチ16などの他、例えば、振動データ受信部や、振動信号制御部、振動信号増幅部などを格納する。そして、制御ユニット24は、導線23-1を介して、振動アクチュエータ22-1、振動アクチュエータ22-2、および振動アクチュエータ22-3の振動を制御し、導線23-2を介して、振動アクチュエータ22-4、および振動アクチュエータ22-5の振動を制御する。
[0037] 例えば、制御ユニット24は、振動アクチュエータ22-1乃至22-6それぞれに発生させる振動を独立して制御することができる。そして、制御ユニット24は、それらの振動のタイミングや、周波数、強度などを適切に制御することで、例えば、指先から手首へ振動が移動しているような触覚刺激を与えることができる。なお、制御ユニット24の詳細な構成については、図4を参照して後述する。
[0038] このように、振動提示デバイス21は、ユーザの手の複数個所に接触して振動アクチュエータ22-1乃至22-6が装着可能となるように構成される。そして、振動提示デバイス21は、例えば、VR(Virtual Reality)での触覚フィードバックを実現するための振動提示システムに利用することができる。具体的には、VR内で銃を撃った際の衝撃、物を触った際の触感、物体を把持した際の力覚などを、指や手首に対する振動によって疑似触覚としてユーザに体感させる。これにより、振動提示デバイス21は、VRの臨場感を向上させることができる。
[0039] <振動提示システムの構成例>
[0040] 図4を参照して、図3の振動提示デバイス21を利用した振動提示システムの構成例について説明する。
[0041] 図4に示すように、振動提示システム31は、振動提示デバイス21およびコンテンツ実行処理装置41により構成され、振動提示デバイス21は、図3に示したように、振動アクチュエータ22-1乃至22-6および制御ユニット24を備えている。
[0042] コンテンツ実行処理装置41は、例えば、上述したようなVRを再現するコンテンツや、遠隔地のロボットを操作するコンテンツなどを実行する処理を行い、ホストコンピュータ42および振動データ送信部43を備えて構成される。
[0043] ホストコンピュータ42は、コンテンツの実行に従ってユーザの触覚を刺激させるための振動データを送信するサーバとしての役割を備える。例えば、ホストコンピュータ42は、VRを再現するコンテンツを実行する場合、コンテンツ製作者により予め用意された振動信号を符号化してファイル化したものを保持しておき、触覚フィードバックが必要なタイミングに応じて、振動信号を読み出して符号化した振動データを送信することができる。また、ホストコンピュータ42は、遠隔地のロボットを操作するコンテンツを実行する場合、センサで取得した振動情報をリアルタイムに符号化した振動データを送信することができる。なお、このように符号化した振動データを用いる他、通信路が広帯域であれば、振動信号そのものを振動データとして用いてもよい。
[0044] 振動データ送信部43は、ホストコンピュータ42から供給される振動データを無線で送信するための符号化器、パケット分割部、バッファ制御部、および、送信用RF(Radio Frequency)アンテナモジュールを有して構成される。
[0045] 制御ユニット24は、振動データ受信部51、振動信号制御部52、および、振動信号増幅部53-1乃至53-6を備えて構成される。なお、制御ユニット24は、図1に示した電源15およびスイッチ16も備えている。
[0046] 振動データ受信部51は、例えば、受信用RFアンテナモジュール、パケット受信部、および、バッファ制御部を有して構成され、振動データ送信部43から無線で送信されてくる振動データを受信して振動信号制御部52に供給する。
[0047] 振動信号制御部52は、符号化された振動データを振動信号に復号する復号器を有して構成され、例えば、図3に示したような部位(指の各部および手首)ごとに触覚刺激するための振動信号を生成する。そして、振動信号制御部52は、生成した振動信号により振動させる振動アクチュエータ22-1乃至22-6に従って、それぞれ対応する振動信号増幅部53-1乃至53-6を選択して振動信号を供給する。
[0048] 振動信号増幅部53-1乃至53-6は、それぞれ振動信号を増幅するパワーアンプ回路を有して構成され、増幅した振動信号を振動アクチュエータ22-1乃至22-6に送信する。
[0049] このように構成される振動提示デバイス21は、振動データ受信部51が受信した振動データを復号した振動信号に従って振動アクチュエータ22-1乃至22-6ごとに振動を制御することで、所望の振動刺激を指と手首に与えることができる。
[0050] これにより、振動提示デバイス21は、指の関節ごとに独立して装着される振動アクチュエータ22-1乃至22-6により、例えば、指の付け根から指先に向かって徐々に振動を伝搬させることが可能となる。従って、振動提示デバイス21は、移動感や伝搬感を表現することができ、より良好な触覚刺激を行うことができる。
[0051] また、振動提示システム31は、双方向の遠隔操作による作業時の触覚フィードバックに利用する際に、例えば、遠隔地のロボットを操縦してロボットが触れた物の触感を確かめるような触覚刺激を行うことができる。
[0052] 即ち、遠隔地のロボットハンドは、振動アクチュエータ22-1乃至22-6の配置と同様の配置で、アクチュエータの代わりに3軸加速度センサや圧力センサなどを装着させた構成とすることができる。そして、遠隔地のロボットハンドで対象物に触れた際に、それらのセンサで読み取った信号を、振動信号としてネットワークを介して振動提示デバイス21に送信した後、振動アクチュエータ22-1乃至22-6により振動が再現される。これにより、振動提示システム31は、例えば、人間が現場に赴けない場合に、対象物の触感を確かめるような用途に用いることができる。
[0053] なお、図3では、人差指、親指、および手首に振動アクチュエータ22を装着した構成例の振動提示デバイス21が示されているが、必要に応じて、その他の指や手の甲などに振動アクチュエータ22を装着した構成としてもよい。または、グローブ型のデバイスの内部に、振動提示デバイス21を組み込んで使用することができる。
[0054] 図5は、振動提示デバイス21による振動提示方法を説明するフローチャートである。
[0055] 例えば、図4の振動データ送信部43から振動データが送信されてくると処理が開始され、ステップS11において、振動データ受信部51は、その振動データを受信して振動信号制御部52に供給する。
[0056] ステップS12において、振動信号制御部52は、ステップS11で振動データ受信部51から供給された振動データを復号し、適宜、図3に示したような部位ごとの振動信号を生成して振動信号増幅部53-1乃至53-6に供給する。
[0057] ステップS13において、ステップS12で振動信号制御部52から振動信号が供給された振動信号増幅部53-1乃至53-6は、振動信号を増幅して振動アクチュエータ22-1乃至22-6に供給する。これにより、振動アクチュエータ22-1乃至22-6ごとに振動が制御される。
[0058] その後、処理はステップS11に戻り、次の振動データが振動データ送信部43から送信されてくるまで待機し、以下、コンテンツ実行処理装置41において実行されるコンテンツが終了するまで、同様の処理が繰り返して行われる。
[0059] 以上のように、振動提示デバイス21は、振動アクチュエータ22-1乃至22-6ごとに振動を制御することができ、例えば、指先から手首に移動するような振動刺激をユーザに提示することができる。」


上記記載から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ユーザの手に装着するタイプの振動提示デバイス21であって、
振動提示デバイス21は、6個の振動アクチュエータ22-1乃至22-6と、制御ユニット24を備えて構成され、
各振動アクチュエータ22-1乃至22-6は、内側が空洞となる筒型の形状の振動アクチュエータであって、
各振動アクチュエータを、人差し指の指先から第一関節までの部分(22-1)、人差し指の第一関節から第二関節までの部分(22-2)、人差し指の第二関節から指の付け根までの部分(22-3)、親指の指先から第一関節までの部分(22-4)、親指の第一関節から第二関節までの部分(22-5)をそれぞれ覆うように形成されるとともに、手首に巻きつけるような帯状の形状に形成され(22-6)、
制御ユニット24は、振動データ受信部51、振動信号制御部52、および、振動信号増幅部53-1乃至53-6を備えて構成され、
振動データ受信部51は、振動データを受信して振動信号制御部52に供給し、
振動信号制御部52は、振動データを振動信号に復号する復号器を有して構成され、部位(指の各部および手首)ごとに触覚刺激するための振動信号を生成し、
振動提示デバイス21は、振動データ受信部51が受信した振動データを復号した振動信号に従って振動アクチュエータ22-1乃至22-6ごとに振動を制御することで、所望の振動刺激を指と手首に与え、移動感や伝搬感を表現することができる、
振動提示デバイス21。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2018-163419号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、触感提供装置、及び、触感提供システムに関する。」

「【0030】
図6は、グローブ型の触感提供装置100Aを示す図である。触感提供装置100Aは、グローブ10の内側に、図1乃至図5に示す触感提供装置100を11個配置したものである。グローブ10は、布製又はゴム製等であり、手の五指を自在に動かすことができるものであればよい。
【0031】
11個の触感提供装置100のうちの3個は、親指の第1関節、第2関節、及び第3関節の部分に設けられている。また、残りの8個は、人差し指、中指、薬指、及び小指の第2関節と第3関節の部分に設けられている。
【0032】
各触感提供装置100の取り付け部110、120は、C字型ではなく、各指を挿通する内径を有する環状であればよい。また、親指の第1関節の触感提供装置100の取り付け部120と、第2関節の触感提供装置100の取り付け部110とは取り付け部120Aとして一体化されている。これは、人差し指、中指、薬指、及び小指の第2関節と第3関節についても同様である。
【0033】
また、親指の第2関節の触感提供装置100の取り付け部120と、第3関節の触感提供装置100の取り付け部110と、人差し指、中指、薬指、及び小指の第2関節の触感提供装置100の取り付け部120と、第3関節の触感提供装置100の取り付け部110とは、取り付け部120Bとして一体化されている。
【0034】
このようなグローブ型の触感提供装置100Aは、11個の触感提供装置100のパイプ150に設けられたアクチュエータ160を駆動することにより、手の各関節の動きに伴って、触感を提供することができる。」

「【0091】
図12は、実施の形態の変形例による触感提供装置100Bを示す図である。触感提供装置100Bは、図6に示す触感提供装置100Aからグローブ10を取り除いた構成を有する。このような触感提供装置100Bでも、触感提供装置100Aと同様に良好な触感を提供することができる。
【0092】
図13は、実施の形態の変形例による触感提供装置100Cを示す図である。触感提供装置100Cは、図6に示す触感提供装置100Aのグローブ10の手のひら側の指先の部分(指の腹に対応する部分)と、手のひらの部分とに、振動素子210A?210Fを取り付けた構成を有する。振動素子210A?210Eは、それぞれ、親指、人差し指、中指、薬指、及び小指の腹に対応する部分において、グローブ10の内側に取り付けられている。また、振動素子210Fは、手のひらに対応する部分において、グローブ10の内側に取り付けられている。」

【図6】

【図12】

【図13】

3 引用文献Aについて
当審の拒絶の理由(令和3年2月16日付け)に引用された引用文献A(特表2000-501033号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「〔技術分野〕
本発明は人間-機械インターフェースに関し、特に、使用者に対して触感を提供するインターフェースに関する。」(第6頁24行ないし26行)

「図2aおよび図2bは、それぞれ、ケースの中にマス運動アクチュエータ(202)およびマス(201)を収容した一例を示す断面図および斜視図である。ここでも、偏心マス(201)は電気モータのシャフト(204)に取り付けられている。ケースは、運動するマスが使用者によって破壊されるのを防止し、また使用者が該マスに打撃されるのを防止する。このケーシングは剛性の如何なる材料で作製してもよく、アルミニウム、鋼、プラスチック、ガラス、ガラス繊維複合体等のような種々の材料で作製することができる。典型的には、当該装置ができるだけ限り邪魔にならないように、小さく且つ軽量のマス運動アクチュエータ、マス、収容手段および固定手段を有するのが望ましい。本発明のこの実施例は、以下、後続の多くの図面で用いられる振動触覚ユニットのサンプルとしての役割を有することになる。」(第19頁25行ないし第20頁7行)

「図4は、振動触覚ユニット(400)を、固定手段(401)を用いて指に装着する別の方法を示している。この場合、当該ユニットは、特有の触感または振動刺激を与えるために、指先の背面側の指爪(検知する身体部分)の上に直接配置される。このユニットは爪、その下の肉および骨を十分な振幅で振動させるので、その感覚は、皮膚で局部的に感じられるのではなく、指全体で感じることができる。」(第20頁18行ないし22行)

「図18aおよび図18bは、本発明の好ましい実施例を示している。アメリカ合衆国カリホルニア州パロアルト所在のバーチャルテクノロジー社によって製造あれたサイバーグラブTMのような機器を備えた手袋(1820)は、その上に、手(測定される身体部分)の関節角度を測定するセンサ類(1807?1819)を有している。同図において、使用者が手袋を使用していても物理的物体を手で扱えるように、手袋の指先は開放されている。これによって、使用者は現実の物体の触感を感じることが可能になる。振動触覚ユニット(1801?1806)は円筒状のハウジング内に収容されて、夫々の指(1801?1804)、親指(1805)および手掌(1806)に固定されている。ケーシングは円筒状プラスチックでできており、マスの運動を使用者から保護し、且つ使用者を回転するマスから保護する。
図19aは、手の形態、並びに手の空間的配置を測定できる検知手袋(1900)を着用した使用者を示している。この検知手袋は、手の指および甲に固定された振動触覚ユニット(1901)を有している。使用者は、コンピュータモニター(1904)上の彼の手の画像表示を通して、視覚的フィードバックを受け取る。コンピュータ(1904)は、手袋に装着されたセンサから、手袋センサインターフェース(1902)を介して状態信号(使用者の手の空間的配置に関する情報)を受け取る。視覚画像の手(1906)がモニター上の仮想物体(1905)に接触(1908)すると、コンピュータは制御信号を振動触覚ユニットドライバ(1903)に送信し、次いで該ドライバは駆動信号を振動触覚ユニット(1901)に送信する。
同様の設定において、図19bは同じ手袋(1900)と、画像ディスプレイの代わりに、ロボット腕(1911)を遠隔制御するコンピュータインターフェースとを示している。ロボットはその把持器上に、ロボットが物理的物体(1913)に触れた時点を検出する接触センサを有している。使用者は、指(測定される身体部分)の位置読み取りを生じる手袋上のセンサを介してロボット腕を制御するが、その際、この位置の読みは手袋インターフェース装置(1902)に送信され、次いでコンピュータ(1904)に出力され、更にコンピュータは適切な命令をロボットに送信する。ロボットの位置情報および接触情報(1910)は、次いで状態信号としてコンピュータにフィードバックされる。コンピュータはこの信号および装置を解釈し、如何なる種類の振動フィードバックを、振動触覚ユニットドライバ(1903)を介して使用者の振動触覚ユニット(1901)(他の振動触覚ユニットは図示せず)に送信すべきかを決定する。力または圧力センサを、接触センサの代わりに把持器に装着してもよい。次いで、使用者は、物体に対する力または圧力に応じた変化するレベルの振動フィードバックを受け取る。これによって、特に一定の把持力で破壊されるような繊細な物体の取扱いにおいて、より正確且つ安全に仕事を行うための遠隔操作が可能になる。使用者は、接触フィードバックを使用するために、必ずしもロボットまたは接触対象を制御する必要はない。振動触覚装置は、単純に動作して、使用者の動作の結果としての物体との接触の有無を使用者に知らせることができる。」(第26頁8行ないし27頁17行)

【図2】

【図4】

【図18】

【図18A】

【図19】

【図19】

4 引用文献Cについて
当審の拒絶の理由(令和3年2月16日付け)に引用された引用文献C(特開2009-276996号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、現実空間と仮想空間とを合成した空間を観察するユーザに対して与える刺激の制御技術に関するものである。
【背景技術】」

「【0027】
振動モータ11は、モータの回転軸に取り付けられた偏心重量が回転することで振動を発生する。振動モータ11には、一般的にシリンダー型(円筒型)とコイン型(扁平型)があり、どちらを用いても良いが、図2ではコイン型の振動モータ11を示している。振動モータ11は、小型でも強い刺激を発生することができるため、本実施形態のように、人体の複数箇所に刺激を与える場合に好適である。ただし、皮膚感覚に刺激を与えるものであれば、振動モータ11の代わりに如何なるものを用いても良い。皮膚感覚に刺激を与える方法としては例えば、機械刺激、電気刺激、温度刺激があり、刺激を与えるための構成には様々な構成が考えられる。例えば機械的な振動刺激を発生するボイスコイル型のデバイスを振動モータ11の代わりに用いても良いし、圧電素子や高分子アクチュエータ等のアクチュエータにより人体に接触したピンを動作させて刺激を与える機構を振動モータ11の代わりに用いても良い。また、空気圧力により皮膚表面を圧迫する機構を振動モータ11の代わりに用いても良い。また、電気刺激として、微小電極アレイを用いて刺激を与えるものなどがあり、温度刺激では、熱電素子を用いるものなどがある。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「振動提示デバイス21」は、振動データ受信部51で振動データを受信して、部位(指の各部および手首)ごとに触覚刺激するための振動信号を生成し、振動信号に従って振動アクチュエータ22-1乃至22-6ごとに振動を制御することで、所望の振動刺激を指と手首に与え、移動感や伝搬感を表現することができるものであり、この移動間や伝搬感は、振動データから生成された、ユーザに伝達された情報ということができるから、引用発明の「振動データ」は、本願発明1の「受信された情報」に相当する。
そして、引用発明の「振動提示デバイス21」は、ユーザの手に装着するタイプであって、上記「受信された情報」により生成された、所望の振動刺激を指と手首に与えるものであるから、本願発明1の「ユーザに装着され、受信された情報を前記ユーザへ伝達する装置」に対応する。

イ 引用発明は、6個の振動アクチュエータ22-1乃至22-6を備えており、この振動アクチュエータのうち手首に巻きつける振動アクチュエータを除いて、それぞれユーザの指に装着されていると認められるから、このユーザの指に装着された振動アクチュエータ22-1乃至22-5と、本願発明1の「前記ユーザが有する指の背側に配置された複数の振動子」とは、前記ユーザが有する指に配置された複数の振動子である点で共通する。

ウ 引用発明は、振動データ受信部51は、振動データを受信して、振動信号制御部52に供給し、振動信号制御部52は、部位(指の各部および手首)ごとに触覚刺激するための振動信号を生成し、振動信号に従って振動アクチュエータ22-1乃至22-6ごとに振動を制御するものであるから、この「振動データ受信部51」及び「振動信号制御部52」は、本願発明1の「前記情報を受信すると共に、受信された前記情報に応じて、いずれの前記振動子が起振したかを前記ユーザへ認知させるよう前記複数の振動子を選択的に振動させる受信部」に相当する。

エ 引用発明の「振動アクチュエータ」は、人差し指の指先から第一関節までの部分(22-1)、人差し指の第一関節から第二関節までの部分(22-2)、人差し指の第二関節から指の付け根までの部分(22-3)、親指の指先から第一関節までの部分(22-4)、親指の第一関節から第二関節までの部分(22-5)をそれぞれ覆うように形成されているから、このことと、本願発明1の「前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指と小指を構成する末節骨及び基節骨と、示指、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の直上に配置さ」ることと、前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指を構成する末節骨及び基節骨と、示指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の上に配置されている点で共通する。

オ そうすると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「ユーザに装着され、受信された情報を前記ユーザへ伝達する装置であって、
前記ユーザが有する指に配置された複数の振動子と、
前記情報を受信すると共に、受信された前記情報に応じて、いずれの前記振動子が起振したかを前記ユーザへ認知させるよう前記複数の振動子を選択的に振動させる受信部を備え、
前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指を構成する末節骨及び基節骨と、示指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の上に配置された情報伝達装置。」

[相違点1]
「前記ユーザが有する指に配置された複数の振動子」について、本願発明1は「前記ユーザが有する指の背側に配置された複数の振動子」であるのに対して、引用発明の振動アクチュエータ22-1乃至22-5は、内側が空洞となる筒型の形状であり、指の背側に配置されていない点。

[相違点2]
本件発明1の「振動子」は、骨の直上に配置されているのに対して、引用発明の「振動アクチュエータ」は、内側が空洞となる筒型の形状であるために、骨の直上に配置されているとはいえない点。

[相違点3]
本願発明1の「前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指と小指を構成する末節骨及び基節骨と、示指、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の直上に配置され」ているのに対して、引用発明は、小指を構成する末節骨及び基節骨や、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨上に配置されていない点。

(2)相違点についての当審の判断
事案に鑑み、相違点3について先に判断すると、相違点3に係る、振動子を、少なくとも前記ユーザの片手において、親指と小指を構成する末節骨及び基節骨と、示指、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の直上に配置することは、引用文献2、A及びCには記載されておらず、本願出願前にて周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明並びに引用文献2、A及びCに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし7について
本願発明2ないし7も、本願発明1の「前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指と小指を構成する末節骨及び基節骨と、示指、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の直上に配置され」るとの技術的事項を有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明並びに引用文献2、A及びCに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明8について
本願発明8は、本願発明1の「情報伝達装置」に対応する「情報伝達システム」の発明であり、本願発明1の「前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指と小指を構成する末節骨及び基節骨と、示指、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の直上に配置され」ることに対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明並びに引用文献2、A及びCに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明9及び10について
本願発明9及び10は、本願発明8の「前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指と小指を構成する末節骨及び基節骨と、示指、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の直上に配置され」ることと同一の構成を備えるものであるから、本願発明8と同じ理由により、当業者であっても、引用発明並びに引用文献2、A及びCに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1ないし3及び6並びに9ないし11に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないというものであり、また、請求項1ないし12に係る発明は、引用文献1に記載された発明および引用文献2に示す周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、令和3年3月19日付けの補正により補正された請求項1及び8は、それぞれ「前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指と小指を構成する末節骨及び基節骨と、示指、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の直上に配置され」るという技術的事項を有するものとなった。
そのため、上記のとおり、本願発明1ないし10は、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、また、本願発明1ないし10は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由について
当審では、請求項1及び3ないし9並びに11及び12係る発明は、引用文献Aに記載された発明並びに引用文献B及びCに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの拒絶の理由を通知しているが、令和3年3月19日付けの補正により補正された請求項1及び8は、それぞれ「前記複数の振動子はそれぞれ、少なくとも前記ユーザの片手において、親指と小指を構成する末節骨及び基節骨と、示指、中指、及び環指を構成する末節骨と中節骨及び基節骨の直上に配置され」るという技術的事項を有するものとなったから、上記のとおり、本願発明1ないし10は、引用文献Aに記載された発明並びに引用文献B及びCに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、この拒絶の理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、請求項1ないし10に係る発明は、引用文献1に記載された発明でなく、また、本願発明1ないし10は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-04-20 
出願番号 特願2020-51943(P2020-51943)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田川 泰宏  
特許庁審判長 角田 慎治
特許庁審判官 小田 浩
富澤 哲生
登録日 2021-05-27 
登録番号 特許第6890355号(P6890355)
発明の名称 情報伝達装置及び情報伝達システム  
代理人 池田 輝行  

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