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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01F
管理番号 1374176
審判番号 不服2020-2792  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-02 
確定日 2021-05-13 
事件の表示 特願2014-225706「熱式空気流量計」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月23日出願公開、特開2016- 90413〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)11月6日の特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 7月11日付け:拒絶理由通知書
平成30年 9月13日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月25日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月25日 :意見書の提出
令和 元年11月29日付け:拒絶査定
(令和 元年12月 3日 :査定の謄本の送達)
令和 2年 3月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年11月12日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 1月15日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、令和3年1月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

「【請求項1】
被計測流体の一部を取り込む副通路と、
前記副通路に配置され前記被計測流体の流量を計測するセンサチップと、
前記センサチップにより検出した流体流量を電気信号に変換し内部に抵抗体を有する電子部品と、
前記センサチップ及び前記電子部品を搭載する基板と、を有し、
前記基板は、前記電子部品が搭載された側の面が前記基板と同程度の厚みの充填材により覆われており、
前記基板と前記充填材のヤング率及び線膨張係数が、前記基板に対する前記充填材のヤング率の比と、線膨張係数の比とで決まり、前記基板に対する前記充填材のヤング率の比をY、前記基板に対する前記充填材の線膨張係数の比をXとすると、Y<0.4X^(-0.9)なる関係があることを特徴とする熱式空気流量計。」


第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が令和2年11月12日付けで通知した拒絶の理由のうち理由1、2及び4の概要は、以下のとおりである。

理由1(サポート要件)
本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
理由2(委任省令要件)
本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
理由4(進歩性)
本願の請求項1?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?8に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:国際公開第02/10694号
引用文献2:特開2014-173960号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2012-15222号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2001-244376号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開平11-163002号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2001-15649号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2012-32320号公報(周知技術を示す文献)
引用文献8:特開2011-174910号公報(周知技術を示す文献)


第4 理由1(サポート要件)についての当審の判断
1 発明の課題を解決できると当業者が認識できるか否かについて
(1)本願の請求項1?11に記載された発明が解決しようとする課題は、計測精度の高い熱式空気流量計を提供することであって(明細書の【0008】を参照。以下、段落番号のみを示す。)、その課題解決手段は、請求項1に記載された「前記基板は、前記電子部品が搭載された側の面が前記基板と同程度の厚みの充填材により覆われており、前記基板に対する前記充填材のヤング率の比をY、前記基板に対する前記充填材の線膨張係数の比をXとすると、Y<0.4X^(-0.9)なる関係がある」ということであると認められる。
そして、【0018】?【0019】及び図5?6には、熱式空気流量計に温度変化を与えると基板と充填材の線膨張係数差に起因して曲げ変形が発生し、電子部品内の抵抗体に応力が発生してピエゾ効果により電子部品の出力特性が変化し、空気流量の測定精度に影響が及ぶところ、応力解析の結果、「前記基板に対する前記充填材のヤング率の比をY、前記基板に対する前記充填材の線膨張係数の比をXとすると、Y<0.4X^(-0.9)なる関係」が成り立つようにすることで、流量特性変動を±1%以内に抑えることができた、という旨の課題解決原理が一応示されている。

(2)しかしながら、次のア?イに示すとおり、本願の請求項1?11に記載された発明は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものではない。

ア 基板上に内部に抵抗体を有する電子部品を搭載し、さらに充填材で覆ったセンサアセンブリに温度変化を与えた場合に抵抗体に発生する応力は、電子部品が搭載された側の面が基板と同程度の厚みの充填材により覆われていることを前提条件としても、基板と充填材の線膨張係数及びヤング率だけによって決まるものではなく、例えば、基板と充填材の厚さの大きさ(基板及び充填材の曲げ変形に影響する。前記前提条件は、厚さの比しか限定していない。)、電子部品の材料と基板と電子部品の位置関係(電子部品の材料の結晶方位がピエゾ効果に影響する。)、筐体に対するセンサアセンブリの固定態様(基板及び充填材の曲げ変形が電子部品に与える歪みに影響する。)、温度の変動範囲(前記事項の全般に影響する。)など様々な前提条件に左右されると考えるのが技術常識である。そして、その影響が基板と充填材の線膨張係数及びヤング率による影響と比較して無視できる程度のものである条件設定や事情はうかがうことができない。また、その他の前提条件も、抵抗体に発生する応力に対する影響が無視できる程度である条件設定や事情はうかがうことができない。
令和3年1月15日付け手続補正書により、請求項1には、充填材が「前記基板と同程度の厚み」であることを限定する記載が追加された。しかしながら、基板の厚みと充填材の厚みが同程度であったとしても、基板が非常に薄いセンサアセンブリには曲げ変形が発生しやすく、基板が十分に厚いセンサアセンブリには曲げ変形が発生しにくいことに変わりはないから、上記限定により、「Y<0.4X^(-0.9)」なる関係が成り立つようにするだけで流量特性変動を±1%以内に抑えることができ、計測精度を高くすることができるといえる前提条件が特定されたとはいえない。
したがって、【0018】?【0019】には、応力解析のモデルとしてどのような前提条件を設定したかについて一切記載されておらず、本願の請求項1?11にも前提条件を特定する記載はないから、前提条件が捨象された本願の請求項1?11に記載された発明において、「電子部品が搭載された側の面が基板と同程度の厚みの充填材により覆われていること」を前提条件とし、「Y<0.4X^(-0.9)」なる関係が成り立つようにするだけで流量特性変動を±1%以内に抑えることができ、計測精度を高くすることができると当業者が認識することはできない。

イ 流量特性変動の原因である抵抗体に発生する応力は、基板と充填材の線膨張係数差に起因する曲げ変形により発生するものが主たる要因であるとすると、基板と充填材の線膨張係数が等しいとき(X=1であるとき)に流量特性変動は最も小さく、基板と充填材の線膨張係数差が大きくなればなるほど(Xが1より大または小になればなるほど)流量特性変動は大きくなると理解することが技術常識であると思慮する。
しかしながら、図6に示された「Y=0.4X^(-0.9)」という式で表される曲線は、Xの全範囲に対して単調減少であり、Xが1より小になればなるほど、流量特性変動を±1%以内に抑えることができるYの範囲が広くなっているから、前記技術常識に基づく理解に反するものである。
また、さらには、そもそも、応力解析の結果のプロットは、X>1の領域における3点のみであって、X<1を含む全範囲に対して単調減少である「Y=aX^(-b)(a、bは正の定数)」という曲線でフィッティングを行うことを妥当とする根拠が不明である。
よって、本願の請求項1?11に記載された発明において、「Y<0.4X^(-0.9)」なる関係が成り立つ全ての範囲で流量特性変動を±1%以内に抑えることができ、計測精度を高くすることができると当業者が認識することはできない。

2 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、令和3年1月15日付け意見書において、次のとおり主張している。
「請求項1のご指摘は、補正(a1)の通り、基板と充填材の厚さの前提条件を加えると共に、補正(a2)(B)の通り、基板と充填材のヤング率及び線膨張係数の比と流量特性変動の関係を補正して、発明の詳細な説明に記載したものとなりました。
尚、段落0018に記載した通り、ヤング率及び線膨張係数の比と流量特性変動の関係は、累乗近似により求めることができます。
請求項2のご指摘は、補正(B)により解消されています。
このため、理由1は解消されています。」

(2)しかしながら、前記1(2)アについて、基板の厚みと充填材の厚みが同程度であったとしても、基板が非常に薄いセンサアセンブリには曲げ変形が発生しやすく、基板が十分に厚いセンサアセンブリには曲げ変形が発生しにくいことに変わりはないから、「基板と充填材の厚さの前提条件を加える」ことで理由1が解消するとはいえない。そして、抵抗体に発生する応力に対して無視できない影響を及ぼすものとして当審が挙げた、電子部品の材料と基板と電子部品の位置関係、筐体に対するセンサアセンブリの固定態様、温度の変動範囲など様々な前提条件は、請求項1において何ら限定されていない。
また、前記1(2)イについて、「段落0018に記載した通り、ヤング率及び線膨張係数の比と流量特性変動の関係は、累乗近似により求めることができます。」との主張のみでは、X<1の領域における流量特性変動について、当審が示した技術常識に基づく理解に対して十分根拠を示して反論したことにはならないから、基板の厚みと充填材の厚みが同程度であることを前提として、「Y<0.4X^(-0.9)」なる関係が成り立つ全ての範囲で流量特性変動を±1%以内に抑えることができ、計測精度を高くすることができることについて実質的な根拠を示したことにならない。
よって、審判請求人の主張は採用することができない。

3 理由1(サポート要件)についてのまとめ
以上検討のとおり、本願の請求項1?11に記載された発明は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。


第5 理由2(委任省令要件)についての当審の判断
1 発明の技術上の意義について
前記第4の1(2)ア?イで示したとおり、発明の詳細な説明は、流量特性変動を±1%以内に抑えて計測精度の高い熱式空気流量計を提供するという課題が、「電子部品が搭載された側の面が基板と同程度の厚みの充填材により覆われていること」を前提条件とし、「前記基板と前記充填材のヤング率の比をY、前記基板と前記充填材の線膨張係数の比をXとすると、Y<0.4X^(-0.9)なる関係」が成り立つようにすることで、いかにして解決されるかについて、当業者が理解できるように記載されていないから、発明の技術上の意義が不明である。

2 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、令和3年1月15日付け意見書において、次のとおり主張している。
「発明の詳細な説明は、基板と充填材の厚さの前提条件と、基板と充填材のヤング率及び線膨張係数の比と流量特性変動の関係から、当業者が発明の課題を解決できると認識できるように記載されています。したがって、発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものです。
このため、理由2は解消されています。」

(2)しかしながら、基板の厚みと充填材の厚みが同程度であるというだけでは、課題解決のための前提条件が十分に特定されたとはいえず、「Y<0.4X^(-0.9)」なる関係が成り立つ全ての範囲で課題が解決されることの実質的な根拠が示されているともいえないことは、前記第4において説示したとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用することができない。

3 理由2(委任省令要件)についてのまとめ
以上検討のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号で委任する特許法施行規則24条の2に規定する要件を満たしていない。


第6 理由4(進歩性)についての当審の判断
1 引用発明
(1)引用文献1には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

ア 明細書1ページ4?6行
「本発明は、発熱抵抗体を用いて空気流量を計測する熱式空気流量計に係り、例えば、内燃機関の吸入空気流量を測定するのに好適な空気流量計に関する。」

イ 明細書7ページ6?19行
「第1図に示すように、本例における空気流量計100は、空気流量測定素子20のほかに吸気温度センサとして機能する吸気温度検知素子1を備えるものであり、この吸気温度検知素子1と空気流量測定素子20とが一つのガラスセラミック製の支持体10に実装されて、吸気通路(吸気管)42a内の副通路41に位置している。
副通路41は、通路壁の一部(壁体)41aがホルダー40と一体に形成され、残りの通路壁(壁体)41bが通路壁41aと合わさることで副通路41が構成されている。
支持体10は、吸気管壁42に取り付けたホルダー(流量計ハウジング)40により片持ちされ、吸気温度検知素子1は、支持体10における片持ちされる側と反対側の一端で且つ空気流量測定素子20よりもホルダー40から遠ざかる位置に配置されている。また、吸気温度検知素子1は、第3図に示すように空気流量測定素子20よりも空気の流れ方向に対して上流側に配置されている。」

ウ 明細書9ページ5?8行
「空気流量測定素子20は、半導体微細加工技術により作成され、単結晶シリコン基板28上に電気絶縁層21を形成し、その上に少なくとも1つの発熱抵抗体22及び感温抵抗体23がパターン形成されている。」

エ 明細書9ページ15行?10ページ9行
「上記空気流量測定素子20の製造プロセスについて説明する。・・・(中略)・・・その後、異方性エッチングを行い、空洞部26を形成し、ダイシングによりチップに分割する。分割された空気流量測定素子20は、例えば長辺が6mm、短辺が2.5mm、厚さが0.3mm程度である。」

オ 明細書12ページ3?9行
「支持体10のうちホルダー40に片持ちされる側の一面に、空気流量計測に関する電子回路部19が形成されている。この電子回路部19は、ICチップ18、抵抗17などの部品により構成され、この電子回路部19がホルダー40内に封止されている。
支持体10は、その裏面が接着剤47を介してホルダー40の内面に固定され、電子回路部19側はシリコーンゲルなどにより樹脂封止されている。」

カ 第1図




(2)引用文献1の前記(1)の記載をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「吸気通路42a内の副通路41と(イ)、
前記副通路41に位置する空気流量測定素子20と(イ)、
空気流量計測に関する電子回路部19であって、抵抗17を含む電子回路部19と(オ)、
前記空気流量測定素子20及び前記電子回路部19が実装されたガラスセラミック製の支持体10と(イ、オ及びカ)、を有し、
前記支持体10の電子回路部19側がシリコーンゲルにより樹脂封止されており(オ)、
前記空気流量測定素子20は半導体微細加工技術により作成され、チップに分割されたものである(ウ及びエ)、
熱式空気流量計(ア)。」

2 周知技術及び技術常識
(1)周知技術
ア 引用文献2には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。

「【0013】
〔実施例1〕
本発明の熱式空気流量計の一実施例である第1実施例について説明する。図1に示すように、センサアセンブリ10はリードフレーム1、ガラスプレート2、LSI3、センサチップ4を備えており、これらが第1樹脂7で覆われている。リードフレーム1にガラスプレート2を樹脂フィルム5を用いて接着し、このガラスプレート2にLSI3とセンサチップ4を樹脂フィルム6を用いて接着する。LSI3とセンサチップ4との間、LSI3とリードフレーム1との間は、金線8、9によってワイヤボンデングにより結線することで電気的に接続される。これらを熱硬化性の第1樹脂7によりモールドし、センサアセンブリ10を製作する。なお、LSI3は、流量検出部となるセンサチップ4からのアナログ信号をデジタル信号に変換し、制御、出力する。」

「【0015】
図4は上記LSI3内の拡散抵抗体15の配置方向を示す概略図である。上記LSI3はSi単結晶により形成され、上記LSI3内の拡散抵抗体15はSi結晶軸の<100>方向16と拡散抵抗体15の長手方向とが平行になるよう配置されている。」

「【図4】



イ 引用文献2に記載された、次の技術は周知技術である。

<周知技術>
「熱式空気流量計の電子回路として内部に拡散抵抗体を有するLSIを使用する技術。」

(2)技術常識1
ア 引用文献3には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。

「【0037】
表1に、本発明の実施形態に係るパワー半導体装置100で使用したポリアミドイミド系樹脂(第2樹脂、第1樹脂)17a、17b、17c、エポキシ系樹脂(第3樹脂)18、シリコーンゲル系樹脂(第4樹脂)19の物性値を示す。
【表1】



「【0040】
シリコーンゲル系樹脂(第4樹脂)19は、エポキシ系樹脂(第3樹脂)18との界面における歪を小さくするため、線膨張係数は300ppm/℃、ヤング率は0.004MPaに設定している。そして、本実施形態と同様の効果を得るためには、線膨張係数を200?400ppm/℃の範囲に、ヤング率を1MPa以下の範囲に設定すればよい。また、シリコーンゲル系樹脂19の絶縁耐量としては、高電界の発生する部位を直接被覆することがないため、15kV/mm程度に設定している。そして、本実施形態と同様の効果を得るためには、その絶縁耐量を10?30kV/mmの範囲に設定すればよい。」

イ 引用文献3に記載された、次の事項は技術常識である(以下「技術常識1」という。)。

<技術常識1>
「シリコーンゲルのヤング率は0.004MPa、線膨張係数は300ppm/℃程度であること。」

(3)技術常識2
ア 引用文献4?6には、それぞれ以下の記載がある。下線は、当審が付した。

(引用文献4)
「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の内容を実施例に基いて説明する。ただし、本発明は下記の実施例によって何ら限定されることはなく、本発明の主旨を変更しない範囲で適宜変更が可能である。
(実施例1)図1に本実施例の半導体装置12(寸法:10.5mm(縦)×4mm(横)×1.2mm(高さ))の断面図を示す。セラミックス基板1(絶縁性基板)として、熱膨張率:6.2ppm/℃,熱伝導率:2.5W/m・K,曲げ強度:0.25GPa,ヤング率:110GPa,誘電率:5.6(1MHz)の性能を有するガラスセラミック材(寸法:10.5mm(縦)×4mm(横)×0.5mm(高さ))を用いた。(以下略)」

(引用文献5)
「【0033】
【実施例】表1に示す各種セラミック材料について、5×4×40mmの形状の焼結体を作製した後、各焼結体について40?400℃における熱膨張係数およびヤング率を測定し表1に示した。」

「【0040】
【表1】



(引用文献6)
「【0032】
【実施例】表1に示すとおり3種類のセラミックス(絶縁基板材A、B、C)を用意し、各々のセラミックス材料でもって5×4×40mmの形状の焼結体を作製した。
【0033】
【表1】


【0034】ついで、各焼結体についてヤング率および40?400℃における熱膨張係数を測定したところ、表2に示すような結果が得られた。
【0035】
【表2】



イ 引用文献4?6に記載された、次の事項は技術常識である(以下「技術常識2」という。)。

<技術常識2>
「ガラスセラミックのヤング率は100GPa、線膨張係数は10ppm/℃程度であること。」

3 対比、一致点及び相違点の認定
(1)対比
本願発明と引用発明を対比する。

ア 本願発明と引用発明は、ともに「熱式空気流量計」に関するものである。そして、引用発明の「吸気通路42a内の副通路41」は、吸気通路42a内を流れる被計測流体である空気の一部を取り込むようになっているから、本願発明と引用発明は、「被計測流体の一部を取り込む副通路」を有する「熱式空気流量計」である点で一致する。

イ 引用発明の「空気流量測定素子20」は、半導体微細加工技術により作成され、チップに分割されたものであるから、本願発明の「センサチップ」に相当する。そして、引用発明の「空気流量測定素子20」は、「副通路41」に位置しており、その名のとおり空気の流量を測定するものである。よって、本願発明と引用発明は、「前記副通路に配置され前記被計測流体の流量を計測するセンサチップ」を有する点で一致する。

ウ 引用発明の「電子回路部19」と本願発明の「電子部品」は、「電子回路の構成体」の点で共通する。また、引用発明の「電子回路部19」は、空気流量計測に関するものであるから、「空気流量測定素子20」の出力を電気信号に変換する機能を有しており、さらに「抵抗17」を含むものである。よって、本願発明と引用発明は、「前記センサチップにより検出した流体流量を電気信号に変換し抵抗体を含む電子回路の構成体」を有する点で一致する。

エ 引用発明の「ガラスセラミック製の支持体10」は本願発明の「基板」に相当する。また、引用発明の「ガラスセラミック製の支持体10」には「空気流量測定素子20」及び「電子回路部19」が実装されている。よって、本願発明と引用発明は、「前記センサチップ及び前記電子部品を搭載する基板」を有する点で一致する。

オ 引用発明の「シリコーンゲル」は本願発明の「充填材」に相当する。また、引用発明の「シリコーンゲル」は、「支持体10」の「電子回路部19」側を覆って樹脂封止するものである。よって、本願発明と引用発明は、「前記基板は、前記電子部品が搭載された側の面が充填材により覆われて」いる点で一致する。

(2)一致点及び相違点
上記(1)の対比の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点
「被計測流体の一部を取り込む副通路と、
前記副通路に配置され前記被計測流体の流量を計測するセンサチップと、
前記センサチップにより検出した流体流量を電気信号に変換し抵抗体を含む電子回路の構成体と、
前記センサチップ及び前記電子部品を搭載する基板と、を有し、
前記基板は、前記電子部品が搭載された側の面が充填材により覆われている、
熱式空気流量計。」

イ 相違点
(ア)相違点1
本願発明の電子回路の構成体は、「内部に抵抗体を有する電子部品」であるのに対して、引用発明の電子回路の構成体である「電子回路部19」は、「抵抗17」を含むものの、「内部に抵抗体を有する電子部品」ではない点。

(イ)相違点2
本願発明の充填材は、「前記基板と同程度の厚み」であるのに対して、引用発明は、「ガラスセラミック製の支持体10」の厚みと「シリコーンゲル」の厚みについて、そのような特定がされていない点。

(ウ)相違点3
本願発明は「前記基板と前記充填材のヤング率及び線膨張係数が、前記基板に対する前記充填材のヤング率の比と、線膨張係数の比とで決まり、前記基板に対する前記充填材のヤング率の比をY、前記基板に対する前記充填材の線膨張係数の比をXとすると、Y<0.4X^(-0.9)なる関係がある」のに対して、引用発明はそのような特定がされていない点。

4 判断
(1)相違点について
ア 相違点1について
「熱式空気流量計の電子回路として内部に拡散抵抗体を有するLSIを使用する技術」は周知技術である(前記2(1)イ)。
そして、引用発明において、「電子回路部19」の集積度を上げて小型化や省電力化を図ることは当業者が当然に考慮すべき事項である。
よって、引用発明に対して周知技術を採用し、「電子回路部19」を内部に抵抗体を有する電子部品とすることで、引用発明が相違点1に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
充填材が「前記基板と同程度の厚み」であるという限定事項は、本願の明細書に明示されたものではなく、図4及び図5のみに図示された内容が上記限定事項と矛盾しないという程度のものである。よって、上記限定事項によって得られる効果は本願の明細書に説明されておらず、基板の厚みと充填材の厚みの差がどの程度であれば「同程度」といえるのか、その範囲についても本願の明細書には説明されていない。
一方、引用文献1の第1図(前記1(1)カ)には、支持体10がシリコーンゲルにより樹脂封止された状態が図示されているところ、支持体10の厚みは、どれだけ大きく見積もってもシリコーンゲルの厚みの2倍を超えないことが見てとれるから、両者の厚みはその意味で同程度ということができる。
なお、引用文献1の第1図の各部材の厚さ方向の縮尺の正確性について検討すると、空気流量測定素子20は厚さが0.3mmであり(10ページ9行)、吸気温度検知素子1は、0.8mm又は0.5mmが例示されている(11ページ10?14行)。そして、支持体10は、厚さ0.1?0.3mm程度のグリーンシート状態のガラスセラミック板を所望の枚数だけ密着して重ね、加圧して積層させることが記載されており(10ページ10?13行)、第1図から6層程度積層しているから、0.6?1.8mm程度の厚さとなる。積層基板の製造時に厚さが3/4程度に収縮すると考えると、0.45?1.35mm程度となる。これらの点を検討すると、引用文献1の第1図の各部材の厚さ方向の縮尺は相当程度実体に近いことが理解でき、支持体10の厚みがシリコーンゲルの厚みの2倍を超えないとの見積もりは正当である。
また、仮に、引用文献1の第1図の各部材の厚さ方向の縮尺が正確でないとしても、上記の各部材の厚みの数値に鑑みれば、基板の厚さとICチップの実装時の高さの比が10倍も異なることは考えにくいことであり、支持体10の厚みとシリコーンゲルの厚みは、少なくともオーダーが同じであるといえるから、両者の厚みはその意味で同程度ということができる。
以上の検討を踏まえると、本願発明において基板の厚みと充填材の厚みが「同程度」であると特定したことにより引用発明との間に明確な差異を認めることはできないから、相違点2は実質的な相違点ではない。

ウ 相違点3について
引用発明は、ガラスセラミック製の支持体10がシリコーンゲルにより樹脂封止されたものである。
ここで、シリコーンゲルは柔らかい樹脂であり、技術常識1(前記2(2)イ)によると、そのヤング率は0.004MPa、線膨張係数は300ppm/℃程度である。また、ガラスセラミックは、シリコーンゲルと比べると硬い物質であり、技術常識2(前記2(3)イ)によると、そのヤング率は100GPa、線膨張係数は10ppm/℃程度である。
以上の数値に基づいて概算すると、Y=0.004MPa/100GPa=4×10^(-8)であり、0.4X^(-0.9)=0.4×(300/10)^(-0.9)=2×10^(-2)であるから、相違点3に係る不等式の左辺の値は右辺の値より大幅に小さく、当該不等式が成立することは自明である。
よって、相違点3は実質的な相違点ではない。

(2)作用効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術から予測されるものを超える格別顕著なものであるとは認めることができない。

(3)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は令和3年1月15日付け意見書において、「第一に、引用文献1には、「内部に抵抗体を有する電子部品を有する」ことの開示や示唆は全くありません。引用文献1の電子回路部19は、ICチップ18、抵抗17などの部品により構成されているからです。」と主張している。
しかしながら、前記4(1)アで示したとおり、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明に周知技術を採用することにより当業者が容易に想到し得たものであるから、審判請求人の主張は採用することができない。

イ 審判請求人は同意見書において、「第二に、引用文献1には、「基板は、電子部品が搭載された側の面が基板と同程度の厚みの充填材により覆われており、基板と充填材のヤング率及び線膨張係数が、基板に対する充填材のヤング率の比と、線膨張係数の比とで決まり、基板に対する充填材のヤング率の比をY、基板に対する充填材の線膨張係数の比をXとすると、Y<0.4X^(-0.9)なる関係がある」ことの開示や示唆も全くありません。引用文献1の支持体10は、その裏面が接着剤47を介してホルダー40の内面に固定され、電子回路部19側は支持体10よりも薄いシリコーンゲルにより覆われているからです。しかも、引用文献1の支持体10は、電子回路部19側の面とホルダー40の内面との間が支持体10の厚みよりも狭いので、電子回路部19側の面を支持体10と同程度の厚みのシリコーンで覆うことができません。尚、単層基板60(図24)を使用した実施例には、抵抗17との関係も、シリコーンゲルの厚みの関係も記載されていません。」と主張している。
しかしながら、前記4(1)イで示したとおり、相違点2は実質的な相違点ではないから、審判請求人の主張は採用することができない。

ウ 審判請求人は同意見書において、「第三に、引用文献1は、吸気温度センサと空気流量計との一体化を可能にすることで、センサの部品点数やコスト削減、取付作業や取付スペースの合理化を図り、しかも吸気温度センサの精度を良好に保持することを目的としているので、温度変化時に基板と充填材に発生する曲げ変形に伴う抵抗体の抵抗値の変化を抑制し、流量特性変動を抑え、その結果、流量検出精度の更なる高精度化を可能とするという思想に至ることは困難です。
引用文献2?6にも「基板は、内部に抵抗体を有する電子部品が搭載された側の面が基板よりも厚い充填材により覆われており、基板と充填材のヤング率及び線膨張係数が、基板に対する充填材のヤング率の比と、線膨張係数の比とで決まり、基板に対する充填材のヤング率の比をY、基板に対する充填材の線膨張係数の比をXとすると、Y<0.4X^(-0.9)なる関係がある」ことの開示や示唆はありません。」と主張している。
しかしながら、前記4(1)ウで示したとおり、相違点3は実質的な相違点ではないから、審判請求人の主張は採用することができない。

(4)判断のまとめ
上記(1)?(3)で示したとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。
また、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。
さらに、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2021-03-05 
結審通知日 2021-03-09 
審決日 2021-03-25 
出願番号 特願2014-225706(P2014-225706)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G01F)
P 1 8・ 537- WZ (G01F)
P 1 8・ 121- WZ (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 羽飼 知佳  
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 中塚 直樹
岸 智史
発明の名称 熱式空気流量計  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  
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