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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1374187
審判番号 不服2020-8814  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-25 
確定日 2021-05-13 
事件の表示 特願2017-522236「光学フィルム,偏光板および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月8日国際公開,WO2016/194999〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由
第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017-522236号(以下「本件出願」という。)は,2016年6月2日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年6月3日及び同年9月30日)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成30年10月19日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月27日付け:意見書
平成31年 2月27日付け:手続補正書
令和 元年 7月 3日付け:拒絶理由通知書
令和 元年10月16日付け:意見書
令和 2年 3月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 6月25日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項12に係る発明は,平成31年2月27日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項12に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明は,次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 少なくとも光学異方性層を有する光学フィルムであって,
前記光学異方性層が,下記式(1)で表される液晶性化合物と重合開始剤とを含有する重合性液晶組成物を重合して得られる層であり,
前記光学異方性層の補外ガラス転移開始温度が,70℃以上である,光学フィルム。
【化1】

ここで,前記式(1)中,
Ar^(1)は,下記一般式(II-1)または(II-2)で表される2価の芳香族基を表し,
L^(1)は,単結合,-COO-,または,-OCO-を表し,
Aは,炭素数6以上の芳香環,または,炭素数6以上のシクロアルキレン環を表し,
Spは,単結合,炭素数1?12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基,または,炭素数1?12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を構成する-CH_(2)-の1個以上が-O-,-S-,-NH-,-N(Q)-,もしくは,-CO-に置換された2価の連結基を表し,
Qは,重合性基を表し,
mは,0?2の整数を表し,nは,2を表す。
ただし,mまたはnの数によって複数となるL,A,SpおよびQは,いずれも,互いに同一であっても異なっていてもよい。
【化2】

ここで,前記一般式(II-1)および(II-2)中,
Q_(1)は,-S-,-O-,または-NR^(11)-を表し,R^(11)は,水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表す。
Y_(1)は,置換基を有していてもよい炭素数6?12の芳香族炭化水素基,または,置換基を有していてもよい炭素数3?12の芳香族複素環基を表す。
Z_(1)およびZ_(2)は,それぞれ独立に,水素原子または炭素数1?20の脂肪族炭化水素基,炭素数3?20の脂環式炭化水素基,1価の炭素数6?20の芳香族炭化水素基,ハロゲン原子,シアノ基,ニトロ基,-NR^(12)R^(13)または-SR^(12)を表し,R^(12)およびR^(13)は,それぞれ独立に,水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表し,Z_(1)およびZ_(2)は,互いに結合して芳香環または芳香族複素環を形成してもよい。
A_(1)およびA_(2)は,それぞれ独立に,-O-,-NR^(21)-,-S-および-CO-からなる群から選ばれる基を表し,R^(21)は,水素原子または置換基を表す。
Xは,水素原子または置換基が結合していてもよい第14族?第16族の非金属原子を表す。」

3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,先の出願(最先のもの,以下同じ)前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知技術に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献5:国際公開第2014/132978号
引用文献6:国際公開第2008/072652号
引用文献9:特開2002-363266号公報
引用文献10:特開2003-193053号公報
引用文献11:特開2008-250237号公報
引用文献12:特開平8-136731号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献5であり,他の文献は,周知技術を例示する文献である。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献5(国際公開第2014/132978号)は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,位相差板,これを用いた反射防止板,画像表示装置,および位相差板の製造方法に関する。
…省略…
発明が解決しようとする課題
[0005] ここで,特許文献2のように,ポリマーフィルムを用いてなるλ/4板用途の位相差板において,光学異方性層に逆波長分散層を用いると,画像表示装置に組み込んだ時に,正面での表示性能は,向上することが分かったが,かかる位相差板では視野角特性が悪くなる場合があることも分かった。
…省略…
[0006] 本発明は,上述した問題を解決するためになされたものであり,画像表示装置に組み込んだ時に,正面での表示性能に優れ,さらに,視野角特性にも優れた位相差板であって,偏光膜との密着性を改善した位相差板を提供することを目的とする。さらに,かかる位相差板を用いた反射防止板,画像表示装置,および位相差板の製造方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者らは,鋭意検討した結果,位相差板を構成する各層の厚み方向のレターデーション(Rth)を調整すると,画像表示装置に組み込んだ時に,正面での表示性能に優れ,さらに,視野角特性にも優れた位相差板を提供できることを見出した。
…省略…
[0008] 前記課題を解決するための手段は,下記<1>の手段であり,好ましくは,下記<2>
?<17>の手段である。
<1>透明支持体と,液晶化合物を含む光学異方性層とを有し,
透明支持体が,式(A),式(B),および式(I)を満たすセルロースアシレートフィルムであり,
光学異方性層が,下記式(1)?(4)を満たす,位相差板;
式(A):-10nm≦Re(550)≦10nm
式(B):-100nm≦Rth(550)≦-20nm
式(1):120nm≦Re(550)≦150nm
式(2):Re(450)/Re(550)<1
式(3):Re(650)/Re(550)>1
式(4):20nm≦Rth(550)≦100nm
上記式中,Re(λ)は波長λnmにおける面内レターデーションを表し,Rth(λ)は波長λnmにおける厚み方向のレターデーションを表す;
式(I):1.3<DS<2.8
式(I)中,DSは,アシル基の総置換度を表す。
…省略…
発明の効果
[0009] 本発明によれば,画像表示装置に組み込んだ時に,正面の表示性能に優れ,かつ,視野角特性にも優れた位相差板,これを用いた反射防止板,画像表示装置,および位相差板の製造方法を提供することができる。」


イ 「発明を実施するための形態
[0011] 以下において,本発明の内容について詳細に説明する。
…省略…
[0019]<位相差板>
…省略…
[0021] 図1は,本発明の位相差板の一例の概略断面図である。位相差板10は,透明支持体11と,λ/4板として機能する光学異方性層12とを有し,光学異方性層12は,液晶化合物を含む組成物から形成されている。透明支持体11と光学異方性層12との間には必要に応じて配向膜(図示せず)を有していてもよい。これらの部材の詳細については後述する。
…省略…
[0028]<<透明支持体>>
本発明の位相差板は,光学異方性層を支持する透明支持体を有し,透明支持体は,セルロースアシレートフィルムである。
…省略…
[0059] 透明支持体の膜厚は,20?60μmが好ましく,20?50μmがより好ましく,25?40μmがさらに好ましい。膜厚が60μmを超えると,本発明の位相差板の膜厚が厚くなりすぎ,20μm未満であると,ハンドリング中にシワが発生しやすい。
[0060]<<光学異方性層>>
本発明の位相差板に用いる光学異方性層は,光学特性が前記式(1)?(4)の関係を満たし,好ましくは逆波長分散性の液晶化合物を有する。光学異方性層に用いる液晶化合物としては,逆波長分散性の液晶化合物であれば特に限定はされないが,好ましい一例は,下記一般式(1)で表される化合物である。
[化3]

…省略…
[0063] R^(2)が表す二価の連結基としては,特に限定されるものではないが,好ましくは下記の例が挙げられる。複数のR^(2)は,互いに同一でも,異なっていてもよい。点線はL^(1)またはL^(2)と結合することを表す。
[化5]

…省略…
[0128] 光学異方性層には,液晶化合物の他に空気界面配向制御剤,ハジキ防止剤,重合開始剤,カイラル剤,塗布溶剤などの添加剤を含有していてもよい。これらは特開2010-84032号公報の段落0095?0102の記載を参酌でき,これらに記載された空気界面配向制御剤,ハジキ防止剤,重合開始剤,カイラル剤,塗布溶剤などの添加剤を好ましく用いることができる。
[0129] 光学異方性層には,非液晶性の重合性モノマーを含有していることが好ましい。重合性モノマーとしては,液晶化合物と相溶性を有し,液晶化合物の傾斜角変化や配向阻害を著しく引き起こさない限り,特に限定はない。
[0130] 非液晶性の重合性モノマーとしては,例えば,2個?5個の反応性官能基数を有するモノマー等が挙げられる。
…省略…
[0135] これらの中で,アルキレンオキサイド変性のモノマーが好ましく,これ等を添加する事により,配向温度を適度に低くし,かつ,膜の強度を維持し,液晶の配向性を維持する事ができる。例えば変性トリメチロールプロパンアクリレート,エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレート,プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレート,が好ましく用いられ,エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレートがより好ましい。
[0136] 光学異方性層の膜厚は,3.0μm以上が好ましく,4.5μm以上がより好ましく,4.7μm以上がさらに好ましく,4.9μm以上が特に好ましい。また,5.5μm以下が好ましく,5.3μm以下がより好ましく,5.1μm以下がさらに好ましい。膜厚が上記範囲内であることにより,λ/4板の機能を有するようになり好ましい。
…省略…
[0137]<<配向膜>>
本発明の位相差板は,透明支持体と光学異方性層との間に配向膜を配置し,配向膜の表面に液晶組成物を塗布して,液晶化合物の分子を配向させてもよい。
…省略…
[0141]<位相差板の形成方法>
本発明の位相差板の製造方法は特に制限されないが,以下の工程(1)?(3)の手順を実施することが好ましい。
工程(1):透明支持体上に配向膜を設ける。
工程(2):配向膜上に,液晶化合物を含有する組成物を塗布して,必要により加熱処理を行い,液晶化合物を配向させる工程工程(3):液晶化合物に対して硬化処理を施し,光学異方性層を形成する工程
…省略…
[0144] 工程(3)は,配向状態にある液晶化合物に対して,硬化処理を施し,光学異方性層を形成する工程である。
硬化処理は,重合性基間で反応が進行すればその方法は特に制限されず,例えば,加熱処理または光照射処理(好ましくは,紫外線照射処理)が挙げられる。
[0145] なお,配向状態が固定化された状態とは,その配向が保持された状態が最も典型的,且つ好ましい態様ではあるが,それだけには限定されず,具体的には,通常0?50℃,より過酷な条件下では-30?70℃の温度範囲において,前記固定化された組成物に流動性が無く,また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく,固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を指すものである。
[0146]<反射防止板>
本発明の反射防止板は,本発明の位相差板と,偏光膜とを有する。より具体的には,図2に一例を示すように,反射防止板100は,位相差板10と,偏光膜20とを有する。なお,図2において,透明支持体11は偏光膜20側に設けられているがこの態様には限定されず,光学異方性層11が偏光膜20側に設けられていてもよい。
…省略…
[0148]<<偏光膜>>
偏光膜(偏光子層)は,自然光を特定の直線偏光に変換する機能を有する部材であればよく,吸収型偏光子を利用することができる。
…省略…
[0151]<有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置>
本発明の位相差板または反射防止板は,画像表示装置に使用することが可能である。画像表示装置としては,有機EL表示装置,液晶表示装置などが挙げられるが,有機EL表示装置が好ましい。」

ウ 「実施例
[0154] 以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料,使用量,割合,処理内容,処理手順等は,本発明の趣旨を逸脱しない限り,適宜,変更することができる。従って,本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。なお,添加量を示す「部」は「重量部」を示す。
[0155]<実施例1>
1.セルロースアシレートの合成
…省略…
[0156]2.セルロースアシレートフィルムの製造
(2-1)セルロースアシレート溶液の調製
…省略…
[0158]3.位相差板の作製
(3-1)アルカリ鹸化処理
作製したセルロースアシレートフィルムを,温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ,フィルム表面温度を40℃に昇温した後に,フィルムのバンド面に下記に示す組成のアルカリ溶液を,バーコーターを用いて塗布量14ml/m^(2)で塗布し,110℃に加熱した(株)ノリタケカンパニーリミテド製のスチーム式遠赤外ヒーターの下に,10秒間搬送した。続いて,同じくバーコーターを用いて,純水を3ml/m^(2)塗布した。次いで,
ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に,70℃の乾燥ゾーンに10秒間搬送して乾燥し,アルカリ鹸化処理したセルロースアシレートフィルム(透明支持体)をそれぞれ作製した。
[0159]───────────────────────────────
アルカリ溶液組成
──────────────────────────────────
水酸化カリウム 4.7質量部
水 15.8質量部
イソプロパノール 63.7質量部
界面活性剤SF-1:C_(14)H_(29)O(CH_(2)CH_(2)O)_(20)H
1.0質量部
プロピレングリコール 14.8質量部
──────────────────────────────────
[0160](3-2)ラビング配向膜付透明支持体の作製
上記作製した透明支持体の鹸化処理を施した面に,下記の組成の配向膜形成用塗布液を#8のワイヤーバーで連続的に塗布した。60℃の温風で60秒,さらに100℃の温風で120秒乾燥し,配向膜を形成した。
──────────────────────────────────
配向膜形成用塗布液の組成
──────────────────────────────────
配向膜用ポリマー材料 4.0質量部
(PVA103,クラレ(株)製ポリビニルアルコール)
メタノール 36質量部
水 60質量部
──────────────────────────────────
[0161](3-3)光学異方性層の作製
上記作製した配向膜表面に,透明支持体の長手方向に対し左手45°の方向に連続的にラビング処理を施した。ラビング処理面上に下記の光学異方性層用塗布液を,バーコーターを用いて塗布した。次いで,膜面温度140℃で加熱熟成した後,100℃まで冷却し空気下にて20mW/cm^(2)の空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて紫外線を照射量200mJ/cm^(2)となるよう照射して,その配向状態を固定化することにより光学異方性層を形成した。形成された光学異方性層は,ラビング方向に対し遅相軸方向が平行に下記液晶化合物1が水平配向していた。光学異方性層の波長450nm,550nmおよび650nmのレタデーション値は,上述した方法により測定し,以下の通りであった。なお,光学異方性層の厚みは5.0μmであった。なお,光学異方性用塗布液として変性トリメチロールプロパンアクリレートを添加しないものを塗布したものは,配向を安定化させるための加熱熟成に180℃を要し,支持体フィルムの変形起因のムラが発生したため,サンプルとしなかった。
Re(450):85nm
Re(550):137nm
Re(650):148nm
──────────────────────────────────
光学異方性層用塗布液の組成
──────────────────────────────────
液晶化合物1 100質量部
変性トリメチロールプロパントリアクリレート 10質量部
光重合開始剤 3.0質量部
(イルガキュア819,チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
クロロホルム 700質量部
──────────────────────────────────
[0162]
[化14]

[0163]4.反射防止板の作製
(4-1)反射防止板の作製
偏光板は片面だけがトリアセチルセルロース(厚さ40μm)で保護された厚さ20μmの偏光子を有する偏光板を用いて,前記偏光板の保護されていない面(延伸したポリビニルアルコールよりなる偏光膜)と上記作製した光学異方性層とを光学的に等方性の接着剤によって貼り合わせ,反射防止板(円偏光板)を作製した。このとき,偏光膜の透過軸と光学異方性層の遅相軸とのなす角は45°であった。
…省略…
[0169]<実施例17>
実施例1において,液晶化合物1を下記液晶化合物11に変更した以外は実施例1と同様の手順に従って,反射防止板を作製した。なお,光学異方性層の厚みは3.0μmであった。
[化16]

…省略…
[0171]<実施例19>
実施例1において,液晶化合物1を下記液晶化合物13に変更した以外は実施例1と同様の手順に従って,反射防止板を作製した。なお,光学異方性層の厚みは3.0μmであった。
[化18]

…省略…
[0179]5.有機EL素子への実装及び表示性能の評価
<表示装置への実装>
有機ELパネル搭載のSAMSUNG社製GALAXY SIIを分解し,円偏光板を剥離して,実施例1?20,および比較例1?12の反射防止板を貼合し,表示装置を作製した。
…省略…
[0182][表1]

[0183] 上記表から,本発明の位相差板は,正面および極角からの反射率が低く,正面および極角からの色味変化が小さく,さらに,偏光板との密着性が改善されていることがわかる。」

エ 図1及び図2




(2) 引用発明
ア 引用発明A
引用文献5の[0155]?[0163]には,実施例1として「反射防止板」の製造方法が記載されているところ,その過程である[0158]?[0161]では,「位相差板」が作製されている。
そうしてみると,引用文献5には,次の「位相差板」の発明が記載されている(以下「引用発明A」という。)。
なお,「透明支持体」は「セルロースアシレートフィルム」に,「鹸化処理」は「アルカリ鹸化処理」に用語を統一した。

「 アルカリ鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを作製し,
作製したセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化処理を施した面に,配向膜を形成し,
作製した配向膜表面に,セルロースアシレートフィルムの長手方向に対し左手45°の方向に連続的にラビング処理を施し,ラビング処理面上に,光学異方性層用塗布液をバーコーターを用いて塗布し,
ここで,光学異方性層用塗布液の組成は,下記液晶化合物1が100質量部,変性トリメチロールプロパントリアクリレートが10質量部,光重合開始剤が3.0質量部,クロロホルムが700質量部であり,
液晶化合物1:

次いで,膜面温度140℃で加熱熟成した後,100℃まで冷却し空気下にて20mW/cm^(2)の空冷メタルハライドランプを用いて紫外線を照射量200mJ/cm^(2)となるよう照射して,その配向状態を固定化することにより光学異方性層を形成し,
形成された光学異方性層は,ラビング方向に対し遅相軸方向が平行に液晶化合物1が水平配向し,波長550nmのレタデーション値が137nm,厚みは5.0μmである,
位相差板。」

イ 引用発明B
引用文献5の[0169]には,実施例17について,「実施例1において,液晶化合物1を下記液晶化合物11に変更した以外は実施例1と同様の手順に従って,反射防止板を作製した。なお,光学異方性層の厚みは3.0μmであった。」と記載されている。
そうしてみると,引用文献5には,次の「位相差板」の発明が記載されている(以下「引用発明B」という。)。なお,光学特性は,[0182][表1]を参照した。
「 引用発明Aにおいて,液晶化合物1を下記液晶化合物11に変更した以外は同様の手順に従って作製した位相差板であって,
液晶化合物11:

形成された光学異方性層は,ラビング方向に対し遅相軸方向が平行に液晶化合物11が水平配向し,波長550nmのレタデーション値が137nm,厚みは3.0μmである,
位相差板。」

ウ 引用発明C
引用文献5の[0171]には,実施例19について,「実施例1において,液晶化合物1を下記液晶化合物13に変更した以外は実施例1と同様の手順に従って,反射防止板を作製した。なお,光学異方性層の厚みは3.0μmであった。」と記載されている。
そうしてみると,引用文献5には,次の「位相差板」の発明が記載されている(以下「引用発明C」という。)。なお,光学特性は,[0182][表1]を参照した。

「 引用発明Aにおいて,液晶化合物1を下記液晶化合物13に変更した以外は同様の手順に従って作製した位相差板であって,
液晶化合物13:

形成された光学異方性層は,ラビング方向に対し遅相軸方向が平行に液晶化合物13が水平配向し,波長550nmのレタデーション値が137nm,厚みは3.0μmである,
位相差板。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明Cを対比する。
ア 光学フィルム
引用発明Cの「位相差板」は,「引用発明Aにおいて,液晶化合物1を」「液晶化合物13に変更した以外は同様の手順に従って作製した」ものである。また,引用発明Cの「光学異方性層」は,「波長550nmのレタデーション値が137nm,厚みは3.0μmである」。
ここで,引用発明Aは,前記1(2)アで述べたとおりであるから,引用発明Cの「位相差板」は,「セルロースアシレートフィルム」,「配向膜」及び「光学異方性層」を有するフィルム状の光学部材といえる。また,上記構成からみて,引用発明Cの「光学異方性層」は,「波長550nmのレタデーション値が137nm」である光学異方性を具備する,「3.0μm」の層である。
そうしてみると,引用発明Cの「光学異方性層」及び「位相差板」は,それぞれ本願発明の「光学異方性層」及び「光学フィルム」に相当する。また,引用発明Cの「位相差板」は,本願発明の「光学フィルム」における,「少なくとも光学異方性層を有する」という要件を満たす。

イ 光学異方性層
引用発明Cの「位相差板」は,「引用発明Aにおいて,液晶化合物1を液晶化合物13に変更した以外は同様の手順に従って作製した」ものである。また,引用発明Aは,前記1(2)アで述べたとおりである。
上記構成からみて,引用発明Cの「光学異方性層」は,「液晶化合物13」と「光重合開始剤」を含有する「光学異方性層用塗布液」を光重合して得られた層といえる。また,引用発明Cの「液晶化合物13」は,その化学構造からみて,本願発明の「式(1)」において,
[A]「Ar^(1)」が「一般式(II-1)」「で表される2価の芳香族基」,
[B]「L^(1)」が(シクロヘキサン側からみて)「-COO-」,
[C]「A」が「炭素数6以上の芳香環」(炭素数6の芳香環),
[D]「Sp」が「炭素数1?12の直鎖状」(炭素数7の直鎖状)「のアルキレン基を構成する-CH_(2)-の1個」(「A」に結合する「-CH_(2)-」)「が」「-O-に置換された2価の連結基」であって,
[E]「Q」が「重合性基」(アクリロイルオキシ基),
[F]「m」が「0?2の整数」(1),
[G]「Q_(1)」が「-S-」,
[H]「Y_(1)」が「置換基を有していてもよい炭素数3?12の芳香族複素環基」(4,6-ジメチル-1-ベンゾフラン-2-イル基),
[I]「Z_(1)」と「Z_(2)」が「水素原子」
である化合物に該当する。
(当合議体注:棒状液晶化合物として望まれる形状を考慮すると,引用発明Cの「液晶化合物13」の1,4-シクロヘキサンジイル基は,1,4-trans-シクロヘキサンジイル基と理解するのが自然であり,引用文献5の[0063]にも,これが好ましい例として示されている。)

そうしてみると,引用発明Cの「光学異方性層」は,本願発明の「光学異方性層」における,「式(1)で表される液晶性化合物と重合開始剤とを含有する重合性液晶組成物を重合して得られる層であり」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明Cは,次の構成で一致する。
「 少なくとも光学異方性層を有する光学フィルムであって,
前記光学異方性層が,式(1)で表される液晶性化合物と重合開始剤とを含有する重合性液晶組成物を重合して得られる層である,
光学フィルム。」
(当合議体注:「式(1)」は,前記「第1」2に記載のとおりである。)

イ 相違点
本願発明と引用発明Cは,次の点で相違する。
(相違点1)
「光学異方性層」が,本願発明は「補外ガラス転移開始温度が,70℃以上であり」という要件を満たすのに対して,引用発明Cは,これが明らかではない点。

(3) 判断
引用文献5の[0163]及び[0179]の記載からみて,引用発明Cの「位相差板」は,表示装置に使用される部材であるところ,「表示装置に使用される部材に,過酷な条件に耐えうるだけの耐熱性が必要であること。」は当業者に周知である。
(当合議体注:この点は,原査定の拒絶の理由において引用された引用文献6(国際公開第2008/072652号)の[0004]に「上記各方法により得られる重合体(フィルム)は,偏光板や位相差板用のフィルム等として,モニタやテレビなどの表示装置だけでなく,自動車内などのような高温環境で使用される表示装置に搭載される。このため,高温環境下において,透明性を維持することは表示装置用材料として非常に重要である。」及び「しかし,重合性液晶化合物から得られたフィルムは,そのガラス転移温度(以下,Tgと称す。)が使用環境の温度以下の場合,特に高温環境下では,分子の微視的な揺らぎが発生するため配向が乱れ,光学異方性が著しく低下する場合がある。」という記載等からも確認できる事項である。)
そして,引用文献5の[0135]には,「アルキレンオキサイド変性のモノマーが好ましく,これ等を添加する事により,配向温度を適度に低くし,かつ,膜の強度を維持し,液晶の配向性を維持する事ができる。」と記載されている。また引用文献5の[0145]には「配向状態が固定化された状態とは,その配向が保持された状態が最も典型的,且つ好ましい態様ではあるが,それだけには限定されず,具体的には,通常0?50℃,より過酷な条件下では-30?70℃の温度範囲において,前記固定化された組成物に流動性が無く,また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく,固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を指すものである。」と記載されている。さらに,引用文献5の[0128]において引用された特開2010-84032号公報の【0100】には,「液晶化合物の重合のための光照射は,紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは,10?50J/cm^(2)であることが好ましく,50?800mJ/cm^(2)であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため,加熱条件下で光照射を実施してもよい。」及び「雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため,空気中で所望の重合度に達しない場合には,窒素置換等の方法により酸素濃度を低下させることが好ましい。好ましい酸素濃度としては,10%以下が好ましく,7%以下がさらに好ましく,3%以下が最も好ましい。」と記載されている。
そうしてみると,表示装置に使用される部材を想定して,引用発明Cの「位相差板」を具体化するに際して十分な耐熱性が確保されるよう,「液晶化合物1を液晶化合物13に変更した以外は同様」とされた事項(特に,重合に関係する材料や条件)を見直すことにより,相違点1に係る本願発明の要件を満たすものとすることは,周知技術を心得た当業者が,引用文献5の上記記載に基づいて容易に想到し得たものである。


(4) 発明の効果について
本願発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0009】には,「本発明によれば,耐久性に優れた光学異方性層を有する光学フィルムならびにそれを用いた偏光板および画像表示装置を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら,このような効果は,引用文献5の[0163]及び[0179]の記載に接した当業者が期待する効果を超えないものである。

(5) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,概略,[A]引用文献6の段落[0004]には,高温環境下についての言及があるものの,高温高湿環境下については言及がない,[B]補外ガラス転移開始温度を70℃以上とすることが容易であるという判断は,その根拠が不明であり,妥当性に欠けると主張している。
しかしながら,[A]引用文献5の[0179]に例示されるような表示装置に使用される部材が,耐熱性と併せて耐湿熱性も求められることは明らかであるし,耐熱性を課題とする当業者が相違点1に係る本願発明の構成に到ることは,前記(3)で述べたとおりである。また,[B]引用文献5の[0179]に例示されるような表示装置に使用される部材に求められる耐熱温度として,70℃という値は,特段のものではなく,[0145]においても言及された実現可能な値である。

(6) その他
引用発明Cに替えて,引用発明Bに基づいて検討しても,同様である。

第3 まとめ
本願発明は,引用文献5に記載された発明及び周知技術に基づいて,先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-03 
結審通知日 2021-03-09 
審決日 2021-03-25 
出願番号 特願2017-522236(P2017-522236)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 慎平小西 隆菅原 奈津子  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 光学フィルム、偏光板および画像表示装置  
代理人 三橋 史生  
代理人 伊東 秀明  
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