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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B44C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B44C
管理番号 1374197
審判番号 不服2020-11555  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-19 
確定日 2021-06-04 
事件の表示 特願2017-37926「三次元成形用転写シート及び加飾樹脂成形品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月20日出願公開,特開2018-144235,請求項の数(9)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017-37926号は,平成29年3月1日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
令和2年 2月 4日付け:拒絶理由通知書
令和2年 4月10日付け:意見書
令和2年 4月10日付け:手続補正書
令和2年 5月13日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 8月19日付け:審判請求書
令和2年 8月19日付け:手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は,令和2年8月19日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項9に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1の記載は,以下のとおりである。
「 第1主面及び前記第1主面の反対側に位置する第2主面を有する転写基材層と,前記転写基材層の前記第1主面に設けられた盛上部と,前記転写基材層の前記第2主面に設けられた転写層とを備える三次元成形用転写シートであって,
前記盛上部のマルテンス硬度が50N/mm^(2)以上150N/mm^(2)以下である,前記三次元成形用転写シート。」

なお,請求項2?請求項6には,請求項1に記載された「三次元成形用転写シート」の発明に対して,さらに他の発明特定事項を付加した「三次元成形用転写シート」の発明が記載されている。また,請求項7には,請求項1?請求項6のいずれか一項に記載の「三次元成形用転写シート」を用いた「加飾樹脂成形品の製造方法」の発明が記載されている。さらに,請求項8及び請求項9には,請求項1?請求項6のいずれか一項に記載の「三次元成形用転写シート」を備える,「加飾樹脂成形品を製造するための中間体」の発明が記載されている。

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,[A](理由1:新規性)本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は,本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[B](理由2:進歩性)本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は,本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開2015-77713号公報
引用文献2:国際公開第2015/046549号
引用文献3:特開2016-190333号公報
(理由1の引用例は,引用文献1である。理由2の主引用例は,引用文献1又は引用文献3であり,引用文献2は副引用例である。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献1を主引用例とした場合についての判断
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特開2015-77713号公報)は,本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,インモールド転写箔に関し,さらに詳しくは,工業製品の加飾に適したインモールド転写箔に関する。
【背景技術】
【0002】
インモールド転写箔を用いた成形品は,日用品や生活用品などの機器本体,食品や各種物品の容器類,電子機器や事務用品などの筐体類などに用いられる。
…省略…
【0007】
ところで,工業製品は長期にわたる使用や,過酷な環境での使用が予想されるため,工業製品の加飾に用いるインモールド転写箔としては転写後の成形品の表面強度が高いことが求められる。そこで,離型層の上にハードコート層を形成し,さらにその上に印刷層,接着層などを形成したインモールド転写箔を,工業製品の加飾に用いることが望ましい。しかし,インモールド転写箔で用いられるハードコート層の多くは紫外線硬化性樹脂から形成されており,ベースフィルムの離型層とは反対の面に凹凸形成層を設ける際に,該凹凸形成層の樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いてしまうと,凹凸形成層を硬化させるために加飾成形前にインモールド転写箔に紫外線を照射しなければならなくなる。その際,紫外線硬化性樹脂からなるハードコート層自体も硬化させてしまうため,インモールド転写箔の成形性が損なわれ,クラックなどの不良品が発生しやすいといった問題が生じる。
…省略…
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は,このような状況を鑑みてなされたものであって,その課題とするところは,成形品表面に凹凸を形成しつつ,且つ,高い表面強度を有する成形品を提供することのできるインモールド転写箔,およびこれを用いた成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,上述の課題を達成するために,以下の様な手段を講じる。
第1の発明は,ベースフィルムの一方の面に,離型層と,紫外線硬化性樹脂を含むハードコート層と,接着層とをこの順序で備え,前記ベースフィルムのもう一方の面に,凹凸形成層が設けられているインモールド転写箔において,前記凹凸形成層が紫外線硬化性樹脂からなり,前記ハードコート層と前記凹凸形成層との間に紫外線遮断層があることを特徴とするインモールド転写箔である。
第2の発明は、前記ベースフィルムが紫外線遮断層であることを特徴とする請求項1に記載のインモールド転写箔である。
…省略…
【発明の効果】
【0011】
本発明の転写箔によれば,紫外線硬化性樹脂からなる凹凸形成層を形成する際に照射する紫外線が,紫外線遮断層によって遮断されるため,ハードコート層の架橋硬化を進行させることがない。従って,優れた成形性(耐クラック性など)を保持することができるとともに,転写時において,凹凸形成層を構成する樹脂の厚みにより,その凹凸パターンに従った凹凸形状を成形品の表面に形成することができる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0013】
…省略…
【0014】
…省略…
図1に示した第一形態は,請求項2に代表される形態であり,紫外線遮断能を有するベースフィルム2と,該ベースフィルム2の一方の面に離型層3と,紫外線硬化性樹脂を含むハードコート層4と,接着層6とを設け,該ベースフィルム2のもう一方の面に紫外線硬化性樹脂からなる凹凸形成層1を備える構成である。なお,ハードコート層4と接着層6の間には,アンカー層や色インキによる加飾層,金属蒸着層などが形成されていても良く,図1には印刷層5が形成されている場合を図示してある。
【0015】
紫外線遮断能を有するベースフィルム2としては,紫外線遮断能を有し,製造および成形工程で必要な耐熱性,機械的強度,耐溶剤性などがあれば,用途に応じて種々の材料が適用でき,紫外線遮断能を有する材料と種々のポリマーとの混合又は合成した材料によって,紫外線遮断能を有するベースフィルム2が作製可能である。
…省略…
【0016】
離型層3の材料としては,必要な離型性を備えた樹脂であれば特に限定されないが,本発明のインモールド用転写箔では,オレフィン変成したアクリルメラミン樹脂やアクリルウレタン樹脂を用いることが好ましい。
…省略…
【0017】
ハードコート層4は,転写後にベースフィルム2を剥離した際に,成形品の最表面層となる層である。ハードコート層4の材料としては,紫外線で硬化する紫外線硬化性樹脂を用いることができ,例えばアクリロイル基またはメタクリロイル基を少なくとも含有する樹脂などが挙げられる。このような紫外線硬化性のハードコート層であれば,紫外線照射によって直ちに成形品表面を硬化させることができ,成形品の生産効率を向上させることができる。また,本発明の転写箔によれば,ハードコート層4が未硬化の状態で成形し,成形後に完全硬化させる工程を踏むため,成形性向上と表面物性向上の両立が可能である。ハードコート層4の形成方法としては,周知の印刷法や塗工法を用いることが出来る。
【0018】
印刷層5の材料としては,適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いる。
…省略…
【0019】
接着層6は,成形品の表面に上述の各層を接着するものである。接着層6の材料としては,成形樹脂7に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。
…省略…
【0020】
ベースフィルム2の離型層形成面とは反対側に設けられる凹凸形成層1は,UV厚盛インキによるスクリーン印刷法やUVインクジェット法,あるいは,離型性凹凸フィルムとベースフィルムとで液状紫外線硬化性樹脂を挟み,離型性凹凸フィルム側からUV照射することで該液状紫外線硬化性樹脂を硬化させ,その後離型性凹凸フィルムを剥離することによってベースフィルム上に凹凸形成層を設ける方法,といった各種形成方法により形成可能である。また,凹凸形成層1の材料としてはハードコート層4と同様の紫外線硬化性樹脂を用いることができ,例えばアクリロイル基またはメタクリロイル基を少なくとも含有する樹脂などを使用できる。
これらの紫外線硬化性樹脂を使用した凹凸形成方法によれば、熱硬化性樹脂を使用した場合と比較して凹凸形状再現性が良好となり、また製造時間の短縮が可能となる。
…省略…
【0038】
次に,インモールド射出成形の工程について,第一形態のインモールド転写箔を用いた例で説明する。
インモールド射出成形は,該インモールド転写箔を射出成形用金型8内へ挿入し,該インモールド転写箔の印刷層5側から該射出成形用金型8のキャビティ内へ成形樹脂7を射出成形することで,該成形樹脂7の表面にインモールド転写箔の転写層を転写し,冷却後,射出成形用金型8を開放し,インモールド転写箔のベースフィルム2及び離型層3を剥離して成形品を取り出すという公知の順序で行なうことが出来る。
射出成形用金型8のキャビティ内へ成形樹脂7を射出した際,金型内に挿入されたインモールド転写箔に圧力がかかることで,該インモールド転写箔に設けられた凹凸形成層1の形状に対応した変形がベースフィルムおよび転写層に生じる(図4参照)。その結果,金型を開放して成形品を取り出した際に,成形品の加飾層側表面に凹凸形成層1のパターンに対応した凹凸形状が付与されることになる(図5参照)。」

ウ 「【実施例】
【0039】
以下,実施例に基づいて本発明について詳細に説明するが,本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
紫外線遮断能を有するベースフィルムとして,紫外線吸収性を有するポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(帝人デュポンフィルム製HB)を用い,ベースフィルムの上にメラミン樹脂系離型層,紫外線硬化性のアクリル樹脂系ハードコート層を形成した後,印刷層としてウレタン系インキ,接着層としてアクリル系樹脂を用いてグラビア印刷法にて各層を形成した。
次に,ベースフィルムの離型層形成面とは反対側に,凹凸形成層として,帝国インキ製紫外線硬化性樹脂(UVFIXスクリーンインキ)を使用して,スクリーン印刷により凹凸を形成した。その後,凹凸形成層を形成した面側から紫外線を照射(高圧水銀灯 積算光量800mJ/cm^(2))して凹凸形成層を架橋硬化し,本発明のインモールド転写箔を得た。
このインモールド転写箔を射出成形用金型内に挿入し,型締めしてPC(ポリカーボネート)/ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂を用いて射出成形した。冷却後,射出成形用金型を開放し,該インモールド転写箔のベースフィルムを離型層とともに成形品から剥離した後,成形品表面に対して,高圧水銀灯を用いて積算光量1000mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,ハードコート層を架橋硬化させた。これにより,成形品表面に凹凸を形成しつつ,高い表面強度を有する成形品を得た。
…省略…
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るインモールド転写箔は,家電製品,住宅機器,事務機器,自動車部品などに利用されるパネル部材等の表面保護とその加飾に用いることが可能である。」
(当合議体注:【0040】の「mJ/cm2」は、「mJ/cm^(2)」の誤記である。)

エ 「【図1】



オ 「【図4】



カ 「【図5】



(2) 引用発明1
引用文献1の【0040】には,実施例1として,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「 紫外線遮断能を有するベースフィルムとして,紫外線吸収性を有するポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用い,ベースフィルムの上にメラミン樹脂系離型層,紫外線硬化性のアクリル樹脂系ハードコート層を形成した後,印刷層としてウレタン系インキ,接着層としてアクリル系樹脂を用いてグラビア印刷法にて各層を形成し,
次に,ベースフィルムの離型層形成面とは反対側に,凹凸形成層として,帝国インキ製紫外線硬化性樹脂(UVFIXスクリーンインキ)を使用して,スクリーン印刷により凹凸を形成し,
その後,凹凸形成層を形成した面側から紫外線を照射(高圧水銀灯 積算光量800mJ/cm^(2))して凹凸形成層を架橋硬化して得たインモールド転写箔であって,
インモールド転写箔を射出成形用金型内に挿入し,型締めしてポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂を用いて射出成形し,冷却後,射出成形用金型を開放し,インモールド転写箔のベースフィルムを離型層とともに成形品から剥離した後,成形品表面に対して,高圧水銀灯を用いて積算光量1000mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,ハードコート層を架橋硬化させることにより,成形品表面に凹凸を形成しつつ,高い表面強度を有する成形品を得ることができる,
インモールド転写箔。」

(3) 対比
ア 引用発明1の「インモールド転写箔」は,「紫外線遮断能を有するベースフィルムとして,紫外線吸収性を有するポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用い,ベースフィルムの上にメラミン樹脂系離型層,紫外線硬化性のアクリル樹脂系ハードコート層を形成した後,印刷層としてウレタン系インキ,接着層としてアクリル系樹脂を用いてグラビア印刷法にて各層を形成し」,「次に,ベースフィルムの離型層形成面とは反対側に,凹凸形成層として,帝国インキ製紫外線硬化性樹脂(UVFIXスクリーンインキ)を使用して,スクリーン印刷により凹凸を形成し」,「その後,凹凸形成層を形成した面側から紫外線を照射(高圧水銀灯 積算光量800mJ/cm^(2))して凹凸形成層を架橋硬化して得た」ものである。
上記の製造工程からみて,引用発明1の「インモールド転写箔」は,「ベースフィルム」の一方の面に「凹凸形成層」が形成され,他方の面に「メラミン樹脂系離型層」,「ハードコート層」,「印刷層」及び「接着層」がこの順に形成されたものである。

イ 引用発明1の「インモールド転写箔」は,「射出成形用金型内に挿入し,型締めしてポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂を用いて射出成形し,冷却後,射出成形用金型を開放し,インモールド転写箔のベースフィルムを離型層とともに成形品から剥離した後,成形品表面に対して,高圧水銀灯を用いて積算光量1000mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,ハードコート層を架橋硬化させることにより,成形品表面に凹凸を形成しつつ,高い表面強度を有する成形品を得ることができる」ものである。

ウ 前記アで述べた「インモールド転写箔」の積層順及び前記イで述べた「成形品」の製造工程からみて,引用発明1の「インモールド転写箔」の各層のうち,「ハードコート層」,「印刷層」及び「接着層」からなる3つの層(以下「印刷層を含む3層」という。)は,「インモールド転写箔」から転写されて「成形品」に残る層と理解される。また,引用発明1の「インモールド転写箔」の各層のうち,「ベースフィルム」及び「メラミン樹脂系離型層」からなる2つの層(以下「ベースフィルムを含む2層」という。)は,「印刷層を含む3層」を転写するための基材層して機能すると理解される。さらに,引用発明1の「凹凸形成層」の「凹凸」のうち,「凸」の部分(以下「凸部」という。)は,上記「ベースフィルムを含む2層」の片方の面に設けられ,盛り上がった形状のものと理解される。加えて,上記「印刷層を含む3層」は,「ベースフィルムを含む2層」の片方の面の反対側に位置する他方の面に設けられたものと理解される。
そして,前記イで述べた「成形品」の製造工程からみて,引用発明1の「インモールド転写箔」は,三次元成形に適したものであり,また,上記「ベースフィルムを含む2層」と,「凸部」と,「印刷層を含む3層」とを備える転写シートと理解される。

エ 以上勘案すると,引用発明1の,前記ウで述べた「片方の面」,「他方の面」,「ベースフィルムを含む2層」,「凸部」,「印刷層を含む3層」及び「インモールド転写箔」は,それぞれ本願発明1の「第1主面」,「第2主面」,「転写基材層」,「盛上部」,「転写層」及び「三次元成形用転写シート」に相当する。また,引用発明1の「ベースフィルムを含む2層」は,本願発明1の「転写基材層」における「第1主面及び前記第1主面の反対側に位置する第2主面を有する」という要件を満たす。さらに,引用発明1の「凸部」は,本願発明1の「盛上部」における「前記転写基材層の前記第1主面に設けられた」という要件を満たし,引用発明1の「印刷層を含む3層」は,本願発明1の「転写層」における「前記転写基材層の前記第2主面に設けられた」という要件を満たす。加えて,引用発明1の「インモールド転写箔」は,本願発明1の「三次元成形用転写シート」における「転写基材層と」,「盛上部と」,「転写層とを備える」という要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明1は,次の構成で一致する。
「 第1主面及び前記第1主面の反対側に位置する第2主面を有する転写基材層と,前記転写基材層の前記第1主面に設けられた盛上部と,前記転写基材層の前記第2主面に設けられた転写層とを備える三次元成形用転写シート。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明1は,次の点で相違する。
(相違点1)
「盛上部」が,本願発明1は,「マルテンス硬度が50N/mm^(2)以上150N/mm^(2)以下である」という要件を満たすのに対して,引用発明1は、この要件を満たすか不明である(「凸部」(盛上部)を形成する「帝国インキ製紫外線硬化性樹脂(UVFIXスクリーンインキ)」の組成が明らかではない)点。

(5) 新規性についての判断
本願発明1と引用発明1は,相違点1において相違するから,両者は,同一であるということができない。

なお,引用発明1の「凹凸形成層」の材料は,「帝国インキ製紫外線硬化性樹脂(UVFIXスクリーンインキ)」とされている。しかしながら,「帝国インキ製」の「UVFIX」とされる型番の「スクリーンインキ」の組成は,不明である(当合議体注:そもそも,本件出願前に「UVFIX」とされる型番の「スクリーンインキ」が販売されていたことを示す証拠が見当たらない。)。
念のため,引用文献1の【0040】における「UVFIX」が,他の型番の誤記と仮定すると,以下のとおりである。
すなわち,帝国インキ製造株式会社からは,「UV FIL」や「UV FLX」といった,「UVFIX」と1文字違いの型番の,UV硬化型のスクリーンインキが市販されている(「UV型インキセレクター」,[online],帝国インキ製造株式会社,[令和3年4月3日検索],インターネット<URL:http://www.teikokuink.com/product/selector_uv.html>を参照。)。しかしながら,「UV FIL」は「極めて柔軟」で鉛筆硬度「6B以下」,「UV FLX」は「優れた柔軟性」で鉛筆硬度「HB?F」とされ(上記URLのリンク先を参照。),その組成は不明である。
したがって,仮に,引用文献1の【0040】における「UVFIX」が,他の型番の誤記と仮定してみても,引用発明1の「凹凸形成層」の「凸部」のマルテンス硬度が50N/mm^(2)以上である蓋然性が高いとまでは,いうことができない。

(6) 進歩性についての判断
ア 引用発明1の「凹凸形成層」の材料に関して,引用文献1の【0020】には,「凹凸形成層1の材料としてはハードコート層4と同様の紫外線硬化性樹脂を用いることができ,例えばアクリロイル基またはメタクリロイル基を少なくとも含有する樹脂などを使用できる。」と記載されている(以下「材料の記載」という。)。しかしながら,引用文献1の【0020】には,上記の材料の記載に続いて,「これらの紫外線硬化性樹脂を使用した凹凸形成方法によれば,熱硬化性樹脂を使用した場合と比較して凹凸形状再現性が良好となり,また製造時間の短縮が可能となる。」と記載されている。
したがって,たとえ上記の材料の記載に接した当業者といえども,「凹凸形成層1の材料として」,ハードコート層4と同程度の硬さとなる紫外線硬化性樹脂を用いるべきと理解するとはいえず,単に,ハードコート層4と同様の,紫外線により短時間で硬化する紫外線硬化型樹脂が好ましいと理解するにとどまると考えられる。

イ ところで,原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(国際公開第2015/046549号)の[請求項1]には,「基材シートの上に,電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成された盛上部を有し」,「前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物は,温度25℃及び相対湿度50%下におけるマルテンス硬度が10?120N/mm^(2)の範囲にある,加飾シート。」が記載されている。そして,引用文献2に記載された上記マルテンス硬度は,測定条件に若干の違いはあるとしても,50?120N/mm^(2)の範囲では,本願発明1のマルテンス硬度の範囲と重なるものである。
しかしながら,引用文献2の[0020]及び[0093]には,それぞれ「本発明の加飾シートにおいて,盛上部2は,基材シート1の上に形成されており,盛上部2により形成された凹凸形状によって,加飾シートに意匠性を付与している。」及び「本発明の加飾樹脂成形品は,本発明の加飾シートに成形樹脂層8を一体化させることにより成形されてなるものである。」と記載されている。これら記載から理解されるとおり,引用文献2に記載された「盛上部」と引用発明1の「凸部」とは,機能が異なるものである。すなわち,引用発明1の「凸部」は,「成形品表面」の「ハードコート層」に「凹凸を形成」した後,「成形品から剥離」されるものであるのに対し,引用文献2に記載された「盛上部」は,それ自体が「加飾樹脂成形品」の表面に残り,「凹凸形状」をなすものである。
したがって,当業者が引用発明1の「凹凸形成層」を具体化するに際し,機能が異なる引用文献2に記載された「盛上部」のマルテンス硬度の構成を参考にする動機付けがあるとはいえない。

ウ さらにすすんで,当業者が引用発明1の「凹凸形成層」を具体化するに際し,引用文献2に記載された「盛上部」のマルテンス硬度に関する構成を参考にすると仮定しても,以下のとおりである。
すなわち,引用文献2の[0011]には,「本発明の加飾シートは,盛上部が上記特定範囲のマルテンス硬度を有する電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物に形成されているため,盛上部が適度な柔軟性を有しており,成形時における当該盛上部の割れが効果的に抑制されている。さらに,当該マルテンス硬度を有する盛上部は,適度な弾性も有しているため,成形時に加熱・加圧が加えられた際にも,盛上部の形状が好適に保持され,成形後における盛上部の凹凸形状による意匠性にも優れている。さらに,当該マルテンス硬度を有する盛上部は,電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成されているため,耐傷付き性にも優れている。」と記載されている。ここで,引用発明1の「インモールド転写箔」の「凸部」は,「成形品表面」の「ハードコート層」に「凹凸を形成」した後「成形品から剥離」されるものであるから,「耐傷付き性」に対する要求は低いと考えられる。他方,引用発明1の「インモールド転写箔」は,「射出成形用金型内に挿入し,型締めしてポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂を用いて射出成形」されるものであるから,その「凸部」には,引用文献2に記載された「盛上部」と同様の柔軟性や弾性が求められると考えられる。そうしてみると,引用文献2に記載された「盛上部」の構成を参考にする当業者ならば,引用文献2に記載されたマルテンス硬度の特定範囲のうち,上限値(120N/mm^(2))よりも下限値(10N/mm^(2))の方(上記特定範囲のうち比較的硬度が低い範囲)に着目すると考えられる。
そうしてみると,当業者が引用発明1の「凹凸形成層」を具体化するに際し,引用文献2に記載された「盛上部」の構成を参考にすると仮定しても,本願発明1の「50N/mm^(2)以上150N/mm^(2)以下」というマルテンス硬度の「凸部」に到るとはいえない。

エ 念のため,マルテンス硬度の下限値の技術的意義についても確認すると,以下のとおりである。
すなわち,マルテンス硬度の下限値について,本件出願の明細書の【0039】には,「盛上部3のマルテンス硬度が50N/mm^(2)以上であると,転写シート1を使用したインモールド成形により加飾樹脂成形品を製造する際,盛上部3が射出成形用金型に対して押圧されることにより生じ得る盛上部3の射出成形用金型への貼り付きを防止することができる。」と記載されている。
しかしながら,このような課題解決手段が,本件出願前の当業者に知られていたものであるとする証拠は見当たらない。
したがって,仮に,射出成形用金型への貼り付きを防止することを考慮した当業者といえども,引用発明の「凸部」の硬度に着目し、そのマルテンス硬度を「50N/mm^(2)以上」にするとはいえない。
さらに進んで検討すると,原査定の拒絶の理由において引用された引用文献3(特開2016-190333号公報)の【0076】には,「凹凸形成樹脂層1は,フィラーを含んでいてもよい。凹凸形成樹脂層1がフィラーを含むことにより,成形後に加飾樹脂成形品を取り出す際に,凹凸形成樹脂層1が金型側に付着し,表面保護層4から剥離することを抑制することができる。」と記載されている。
そうしてみると、射出成形用金型への貼り付きを防止しようとする当業者ならば,引用発明1において、このような手段を採用することを動機づけられるとはいえても,「凸部」の硬度にまで目を向けるとはいえない。また,フィラーを含ませたからといって,マルテンス硬度が「50N/mm^(2)以上」になるともいえない(引用文献2の実施例及び比較例([0109]?[0114]及び[0122][表1]参照。)。

(7) 小括
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用文献1に記載された発明であるということができない。また,本願発明1は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(8) 他の請求項に係る発明について
本件出願の請求項2?請求項6に係る発明は,いずれも,相違点1に係る本願発明1の構成を具備する「三次元成形用転写シート」の発明である。また,請求項7に係る発明は,相違点1に係る本願発明1の構成を具備する「三次元成形用転写シート」を用いた「加飾樹脂成形品の製造方法」の発明である。さらに,請求項8及び請求項9に係る発明は,相違点1に係る本願発明1の構成を具備する「三次元成形用転写シート」を備える,「加飾樹脂成形品を製造するための中間体」の発明である。
そうしてみると,本件出願の請求項2?請求項9に係る発明は,引用文献1に記載された発明であるということができない。また,本件出願の請求項2?請求項9に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

2 引用文献3を主引用例とした場合についての判断
(1) 引用発明3
引用文献3の請求項1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明3」という。)。
「 第1の面及び第2の面を有する転写基材と,
前記転写基材の前記第1の面側に積層された表面保護層と,
前記転写基材の前記第2の面側に積層されており,エンボス凹凸形状が前記転写基材とは反対側の表面に形成されている凹凸形成樹脂層と,
を備える転写シート。」

(2) 相違点
引用発明3と本願発明1を対比すると,両者は,少なくとも次の点で相違する。
(相違点A)
本願発明1は,「盛上部」が,「マルテンス硬度が50N/mm^(2)以上150N/mm^(2)以下である」という要件を満たすものであるのに対して,引用発明3の「エンボス凹凸形状」の「凸部」は,これが明らかではない点。

(3) 判断
相違点Aについての判断は,前記1(6)イ?エで述べたのと同様である。

(4) 小括
本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は,引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

第3 むすび
以上のとおり,本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は,引用文献1に記載された発明であるということができない。また,本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は,引用文献1又は引用文献3に記載された発明,及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
そして,他に本件出願を拒絶すべき理由も発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-05-18 
出願番号 特願2017-37926(P2017-37926)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (B44C)
P 1 8・ 121- WY (B44C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 三次元成形用転写シート及び加飾樹脂成形品の製造方法  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  
代理人 浅野 真理  
代理人 鈴木 啓靖  
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