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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1374314
審判番号 不服2020-5137  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-15 
確定日 2021-05-21 
事件の表示 特願2018- 99258「パワーオーバーレイ構造およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月27日出願公開、特開2018-152591〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月12日(パリ条約による優先権主張 2013年3月14日、米国、2013年5月20日、米国)の出願である特願2014-48290号の一部を平成30年5月24日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年 2月25日付け:拒絶理由通知
令和 1年 5月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年12月19日付け:拒絶査定
令和 2年 4月15日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和2年4月15日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年4月15日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
本件補正は、本件補正前における特許請求の範囲の請求項1、10及び請求項15について、
「【請求項1】
誘電層(48)と、
前記誘電層の表面に適用された接着層(50)と、
前記接着層によって前記誘電層に結合された第1の表面(39)を有する半導体デバイス(44)であって、前記第1の表面が、その上に配置された少なくとも1つのコンタクトパッド(58)を備える、前記半導体デバイスと、
前記接着層によって前記誘電層に結合された第1の表面(41)を有する導電性シム(45)であって、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シムと、
前記半導体デバイスの第2の表面(47)と前記導電性シムの第2の表面(49)とに結合された第1の表面を有する、熱伝導性で導電性の材料からなる導電性ヒートスプレッダ(60)と、
前記半導体デバイスの前記第1の表面と前記導電性シムの前記第1の表面とに結合されており、前記誘電層を通って延び、前記導電性シムと前記ヒートスプレッダとによって前記半導体デバイスの前記少なくとも1つのコンタクトパッド(58)に電気的に接続されているメタライゼーション層(54)と
を備える、半導体デバイスパッケージ。」
「【請求項10】
半導体デバイスパッケージを形成する方法であって、
誘電層(48)を用意するステップと、
前記誘電層の表面に接着層(50)を適用するステップと、
前記接着層により半導体デバイス(44)の第1の表面(39)を誘電層の第1の表面に結合させるステップと、
前記接着層により導電性シム(45)の第1の表面(41)を前記誘電層の前記第1の表面に結合させるステップであって、ここで前記導電性シムがアルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなるものである、ステップと、
前記半導体デバイス(44)の第2の表面(47)と前記導電性シム(45)の第2の表面(49)との上に、前記半導体デバイスと前記導電性シムとを電気的に結合させる、熱伝導性で導電性の材料からなるヒートスプレッダ(60)を配置するステップと、
前記誘電層の第2の表面上に、前記誘電層に形成されたバイア(56)を通って延び前記半導体デバイス(44)の前記第1の表面(39)と前記導電性シム(45)の前記第1の表面(41)とを接触させる金属配線構造(54)を、前記誘電層の第1の表面と反対側の第2の表面上に形成するステップと、
を含む、方法。」
「【請求項15】
絶縁基板と、
接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられたパワーデバイスと、
前記接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられ、前記絶縁基板上で前記パワーデバイスの隣に配置された導電性シムであって、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シムと、
前記パワーデバイスと前記導電性シムに結合された導電性で熱伝導性のスラブと、
前記絶縁基板を通って延び、前記パワーデバイスの表面上のコンタクト位置に電気的に結合されているメタライゼーション層と、
を備えている、パワーオーバーレイ(POL)構造。」
とあったところを、

「【請求項1】
誘電層(48)と、
前記誘電層の表面に適用された接着層(50)と、
前記接着層によって前記誘電層に結合された第1の表面(39)を有する半導体デバイス(44)であって、前記第1の表面が、その上に配置された少なくとも1つのコンタクトパッド(58)を備える、前記半導体デバイスと、
前記接着層によって前記誘電層に結合された第1の表面(41)を有する導電性シム(45)であって、銅、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シムと、
前記半導体デバイスの第2の表面(47)と前記導電性シムの第2の表面(49)とに結合された第1の表面を有し、熱伝導性で導電性の材料からなる、ダイレクトボンドカッパー(DBC)基板ではない導電性ヒートスプレッダ(60)と、
前記半導体デバイスの前記第1の表面と前記導電性シムの前記第1の表面とに結合されており、前記誘電層を通って延び、前記導電性シムと前記ヒートスプレッダとによって前記半導体デバイスの前記少なくとも1つのコンタクトパッド(58)に電気的に接続されているメタライゼーション層(54)と
を備える、半導体デバイスパッケージ。」
「【請求項10】
半導体デバイスパッケージを形成する方法であって、
誘電層(48)を用意するステップと、
前記誘電層の表面に接着層(50)を適用するステップと、
前記接着層により半導体デバイス(44)の第1の表面(39)を誘電層の第1の表面に結合させるステップと、
前記接着層により導電性シム(45)の第1の表面(41)を前記誘電層の前記第1の表面に結合させるステップであって、ここで前記導電性シムが銅、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなるものである、ステップと、
前記半導体デバイス(44)の第2の表面(47)と前記導電性シム(45)の第2の表面(49)との上に、前記半導体デバイスと前記導電性シムとを電気的に結合させる、熱伝導性で導電性の材料からなり、ダイレクトボンドカッパー(DBC)基板ではないヒートスプレッダ(60)を配置するステップと、
前記誘電層の第2の表面上に、前記誘電層に形成されたバイア(56)を通って延び前記半導体デバイス(44)の前記第1の表面(39)と前記導電性シム(45)の前記第1の表面(41)とを接触させる金属配線構造(54)を、前記誘電層の第1の表面と反対側の第2の表面上に形成するステップと、
を含む、方法。」
「【請求項15】
絶縁基板と、
接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられたパワーデバイスと、
前記接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられ、前記絶縁基板上で前記パワーデバイスの隣に配置された導電性シムであって、銅、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シムと、
前記パワーデバイスと前記導電性シムに結合された導電性で熱伝導性の、ダイレクトボンドカッパー(DBC)基板ではないスラブと、
前記絶縁基板を通って延び、前記パワーデバイスの表面上のコンタクト位置に電気的に結合されているメタライゼーション層と、
を備えている、パワーオーバーレイ(POL)構造。」
とすることを含むものである(下線は補正箇所を示す。)。

2 補正の適否
(1)請求項1に係る補正について
請求項1についての本件補正は、
ア 本件補正前の請求項1に記載した「アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シム」について、「銅、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シム」と補正し、
イ 本件補正前の請求項1に記載した「導電性ヒートスプレッダ(60)」について、「ダイレクトボンドカッパー(DBC)基板ではない導電性ヒートスプレッダ(60)」と補正するものである。
ここで、上記アに係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「導電性シム」について「選択される金属または合金材料」に「銅」を追加するものであるので、「導電性シム」のとりうる材料を拡張するものであって限定するものでない。そして、上記アに係る補正は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とする補正でもない。
そうすると、上記アに係る補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれを目的とするものでない。

(2)請求項10に係る補正について
請求項10についての本件補正は、
ア 本件補正前の請求項10に記載した「前記導電性シムがアルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなるものである」について、「前記導電性シムが銅、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなるものである」と補正し、
イ 本件補正前の請求項10に記載した「ヒートスプレッダ(60)」について、「ダイレクトボンドカッパー(DBC)基板ではないヒートスプレッダ(60)」と補正するものである。
ここで、上記アに係る補正は、補正前の請求項10に記載した発明を特定するために必要な事項である「導電性シム」について「選択される金属または合金材料」に「銅」を追加するものであるので、「導電性シム」のとりうる材料を拡張するものであって限定するものでない。そして、上記アに係る補正は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とする補正でもない。
そうすると、上記アに係る補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれを目的とするものでない。

(3)請求項15に係る補正について
請求項15についての本件補正は、
ア 本件補正前の請求項15に記載した「アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シム」について、「銅、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シム」と補正し、
イ 本件補正前の請求項15に記載した「スラブ」について、「ダイレクトボンドカッパー(DBC)基板ではないスラブ」と補正するものである。
ここで、上記アに係る補正は、補正前の請求項15に記載した発明を特定するために必要な事項である「導電性シム」について「選択される金属または合金材料」に「銅」を追加するものであるので、「導電性シム」のとりうる材料を拡張するものであって限定するものでない。そして、上記アに係る補正は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とする補正でもない。
そうすると、上記アに係る補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれを目的とするものでない。

(4)以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 独立特許要件について(予備的見解)
仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものであるとして、本件補正後の請求項15に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)引用例及びその記載事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2013-42135号公報(平成25年2月28日公開、以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様)。
「【0015】
図1を参照すると、本発明の一実施形態によるパワーオーバレイ(POL)実装および相互接続構造10が示されている。POL構造10は、様々な実施形態によれば、ダイ、ダイオード、または他のパワー電子デバイスの形でよい、1つまたは複数の半導体デバイス12を含む。図1に示されているように、2つの半導体デバイス12がPOL構造10において提供されるが、より大きいまたはより小さい数の半導体デバイス12がPOL構造10に含まれてもよいことが理解される。半導体デバイス(1つまたは複数)12は、以下でさらに詳細に説明されるように、パワー半導体デバイス(1つまたは複数)12への直接金属接続を形成するPOLサブモジュール14の中に実装され、この接続は、例えば、パワー半導体デバイス(1つまたは複数)12への、およびそれからの入力/出力(I/O)システムの形成を提供する低プロファイル、プレーナ相互接続構造の形である。本発明の一実施形態によれば、抵抗、キャパシタ、またはインダクタなどの受動デバイス/部品16も、POL構造10に含まれる。
【0016】
図1に示されているように、POL構造10はまた、POLサブモジュール14および受動デバイス16が取り付けられる直接接合銅(DBC)基板18または他の同様の基板を含む。DBC構造18は、銅のシート22、24が高温接合工程によって両面に接合されているセラミックタイル(例えば、アルミナ)20から成る。本発明の諸実施形態によれば、例えば、基板18がアルミナまたは窒化アルミニウムおよび窒化ケイ素などから成るかどうかに基づいて様々なろう付けおよび直接接合技術が利用されてよい。次いで、DBC18の両面が、通常、ファイアリング後にエッチングされる。DBC基板18の裏面上の最下銅層24は、POL構造10からの効率のよい熱移動を提供するために十分にまたは部分的に露出されたままにされる。「DBC基板」と上記および以下で呼ばれるが、金属層として銅の代わりにアルミニウムが使用されることが可能であり、したがって、そのような実施形態は本発明の範囲内にあるとみなされることが理解される。したがって、以下での用語「DBC基板」の使用は、任意の適切な金属材料22、24(銅またはアルミニウムなど)のシートが両面に接合されたセラミックタイル(例えば、アルミナ)20を含む基板18を包含するものとする。」

「【0019】
次に、図2?12を参照すると、本発明の一実施形態による、図1のPOL構造10を製造する技法のための工程段階の詳細な図が提供されている。最初に図2?9に示されているように、POLサブモジュール14を構築するための工程段階が提供される。図2を参照すると、POLサブモジュール14の構築工程は、誘電体層30をフレーム構造32上に配置し取り付けることから始まる。誘電体層30は、薄層またはフィルムの形状であり、POLサブモジュール14の構築工程中に安定性を提供するためにフレーム構造32上に配置される。本発明の諸実施形態によれば、誘電体層30は、Kapton(登録商標)、Ultem(登録商標)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、Upilex(登録商標)、ポリスルフォン材料(例えば、Udel(登録商標)、Radel(登録商標))、または液晶ポリマー(LCP)もしくはポリイミド材料などの他のポリマーフィルムなどの複数の誘電体材料のうちの1つから形成されてよい。
【0020】
図3に示されているように、誘電体層30をフレーム構造32に固着するとすぐ、接着層34が誘電体層30上に析出される。次いで、図4に示されているように、接着層34および誘電体薄層30を通って複数のビア36が形成される。本発明の諸実施形態によれば、ビア36は、レーザアブレーションもしくはレーザドリリング工程、プラズマエッチング、フォトデフィニション、または機械穿孔工程によって形成されてよい。技法の次のステップでは、図5に例示されているように、1つまたは複数の半導体デバイス12が接着層34によって誘電体層30に固着される。半導体デバイス12を誘電体層30に固着するために、半導体デバイス12が接着層34上に配置され、次いで、接着層34は硬化されて半導体デバイス12を誘電体層30上に固着する。」

「【0022】
次に、図6および7を参照すると、半導体デバイス12を誘電体層30上に固着し、ビア36を形成した後にすぐ、ビア36は、(反応性イオンエッチング(RIE)デスート(desoot)工程などによって)洗浄され、それに続いて金属化され、相互接続38を形成する。金属相互接続38は、通常、スパッタリングおよび電気めっきの利用の組合せによって形成されるが、金属析出の他の無電解法が使用されてもよいことが理解される。例えば、チタン接着層および銅シード層が、最初にスパッタリング工程によって付着され、その後に所望の層に銅の厚さを増大させる電気めっき工程によって付着されてもよい。次いで、それに続いて、付着された金属材料が、所望の形状を有し、誘電体層30および接着層34を通して形成された垂直フィードスルーとしての機能する金属相互接続38(すなわち、第1レベル相互接続)にパターン化される。図6に示されているように、一実施形態によれば、金属相互接続38は、半導体デバイス12上の回路/接続パッドへの直接金属および電気接続を形成し、2つの半導体デバイス12を電気的に接続する。金属相互接続38は、ビア/穴36を通って半導体デバイス12の回路および/または接続パッドから延在し、誘電体層30の上面全体にわたって延在する。図8に示されているように、はんだマスク層40が、その銅シムのための保護コーティングを提供するためにパターン化された金属相互接続38に付着される。しかし、本発明の他の実施形態によれば、はんだマスク層40は、付着される必要がないことが理解される。すなわち、はんだマスク層40は、POLサブモジュール14のその表面を引き続いてはんだ付けするまたは開いたままにしておくプランがある場合に必要なだけである。さらに、層40は、次いで封入されてもよいNiもしくはNi/Auまたは裸銅など、はんだ以外の何らかの材料から成ってもよい。
【0023】
POLサブモジュール14の構築を完了すると、図9に例示されているように、POLサブモジュール14は単一化され、フレーム構造32から除去される。このようにして、半導体デバイス12と、金属垂直フィードスルーおよび上面相互接続として機能する金属相互接続38とを含む完成されたPOLサブモジュール14が提供される。POLサブモジュール14は、部品またはマルチチップモジュールとして扱われる。一実施形態によれば、銅シムはまたPOLサブモジュール14内に提供され、電気ショートとして使用されてもよい。銅シムは、半導体ダイ12のように使用されるが、銅または同様の材料で作成される。アルミナまたは窒化アルミニウムのようなセラミックはまた、機械サポートを提供する、または熱導管として機能するために使用されてもよい。
【0024】
次に、図10を参照すると、POL構造10を製造する技法は、続いて、本発明の一実施形態によって、POLサブモジュール14および半導体デバイス12を直接接合銅(DBC)基板18に取り付ける。図10に示されているように、POLサブモジュール14は、はんだ材料42によってDBC基板18に取り付けられ、その結果、POLサブモジュール14をDBC基板18に相互に固着する。一実施形態によれば、抵抗、キャパシタ、またはインダクタなどの受動デバイス/部品16も、DBC基板18にはんだ付けされる。」


図9より、POLサブモジュール14は、誘電体層30と、複数のパワー半導体デバイス12と、金属相互接続38を含むことが見て取れる。

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、複数のパワー半導体デバイス12を用いたPOL構造10(【0015】)について、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用例1の記載箇所を示す。)。
「薄層またはフィルムの形状である誘電体層30と(【0019】)、
接着層34によって誘電体層30に固着された複数のパワー半導体デバイス12と(【0020】)、
誘電体層30および接着層34を通して形成され、複数のパワー半導体デバイス12上の回路/接続パッドへの電気接続を形成する金属相互接続38と(【0022】)
を含むPOLサブモジュール14と(【0023】、図9)、
複数のパワー半導体デバイス12に取り付けられた直接接合銅(DBC)基板18とからなる、
POL構造10(【0024】)。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である米国特許第6306680号明細書(2001年10月23日公開、以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「The configuration of FIG. 36 wherein power semiconductor devices 402, 404, 406 and 408 are mounted onto electrically and thermally conductive spacers 410, 412 and 414, is, for example, accomplished as illustrated in FIG. 35 by first attaching devices 402, 404, 406 and 408 to a plate 430 of electrically and thermally conductive material, such as a copper plate 430. Electrically and thermally conductive bonds 432 are formed between lower terminals 428 of devices 402, 404, 406 and 408 and an upper surface 434 of plate 430.」(第12欄第41-50行)
(当審訳:パワー半導体デバイス402、404、406、408が電気的および熱的に伝導性を有するスペーサ410、412、414上に実装される図36の構成は、例えば、図35に示されるように、デバイス402、404、406、408を最初に電気的および熱的に伝導性を有する材料の板430、例えば銅板430に取り付けることによって達成される。電気的および熱的に伝導性を有する接合432は、デバイス402、404、406、408の下部端子428と板430の上部表面434との間に形成される。)

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「薄層またはフィルムの形状である誘電体層30」は、絶縁体であり、半導体デバイスが配置されるものであるから、本願補正発明の「絶縁基板」に相当する。

イ 引用発明の「接着層34によって誘電体層30に固着された複数のパワー半導体デバイス12」は、本願補正発明の「接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられたパワーデバイス」に相当する。
但し、本願補正発明は、「前記接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられ、前記絶縁基板上で前記パワーデバイスの隣に配置された導電性シムであって、銅、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シム」を備えているのに対して、引用発明は、そのような特定がない。

ウ 引用例1の段落【0016】に「DBC基板18の裏面上の最下銅層24は、POL構造10からの効率のよい熱移動を提供するために十分にまたは部分的に露出されたままにされる。」との記載から、引用発明の「複数のパワー半導体デバイス12に取り付けられた直接接合銅(DBC)基板18」は、パワー半導体デバイス12で発生した熱を伝導して放熱していることが明らかであるから、引用発明の「直接接合銅(DBC)基板18」は熱伝導性のものといえる。
また、直接接合銅(DBC)基板はアルミナなどのセラミックの両面に直接銅を接合した基板であるから、引用発明の「直接接合銅(DBC)基板18」は導電性のものである。
よって、引用発明の「複数のパワー半導体デバイス12に取り付けられた直接接合銅(DBC)基板18」と、本願補正発明は、「前記パワーデバイスに結合された導電性で熱伝導性のスラブ」である点で共通する。
但し、スラブについて、本願補正発明は、「ダイレクトボンドカッパー(DBC)基板ではないスラブ」であるのに対して、引用発明は、「直接接合銅(DBC)基板18」である点で相違する。
また、スラブが、本願補正発明は、「パワーデバイス」と「導電性シム」に結合されているのに対して、引用発明は、「複数のパワー半導体デバイス12」に結合されている点で相違する。

エ 引用発明の「誘電体層30および接着層34を通して形成され、半導体デバイス12上の回路/接続パッドへの電気接続を形成する金属相互接続38」は、本願補正発明の「前記絶縁基板を通って延び、前記パワーデバイスの表面上のコンタクト位置に電気的に結合されているメタライゼーション層」に相当する。

オ 引用発明の「POL構造10」は、本願補正発明の「パワーオーバーレイ(POL)構造」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「絶縁基板と、
接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられたパワーデバイスと、
前記パワーデバイスに結合された導電性で熱伝導性のスラブと、
前記絶縁基板を通って延び、前記パワーデバイスの表面上のコンタクト位置に電気的に結合されているメタライゼーション層と、
を備えている、パワーオーバーレイ(POL)構造。」

(相違点1)
本願補正発明は、「前記接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられ、前記絶縁基板上で前記パワーデバイスの隣に配置された導電性シムであって、銅、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シム」を備えているのに対して、引用発明は、そのような特定がない点。
(相違点2)
スラブが、本願補正発明は、「ダイレクトボンドカッパー(DBC)基板ではないスラブ」であるのに対して、引用発明は、「直接接合銅(DBC)基板18」である点。
(相違点3)
スラブが、本願補正発明は、「パワーデバイス」と「導電性シム」に結合されているのに対して、引用発明は、「複数のパワー半導体デバイス12」に結合されている点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用例1には「銅シムはまたPOLサブモジュール14内に提供され、電気ショートとして使用されてもよい。銅シムは、半導体ダイ12のように使用される」と記載されている(段落【0023】)。この記載自体は具体的ではないが、例えば、図9に示されたPOLサブモジュール14において、右側の半導体ダイ12が搭載される場所に銅シムを配置して、金属相互接続38どうしを電気ショートするような、銅シムの使用例を示したものであると解される。
そうすると、引用発明において、「誘電体層30に固着された複数のパワー半導体デバイス12」の何れかを銅シムに換えることは、POL構造10の用途に合わせて適宜変更すれば良いことである。
したがって、引用発明に基づいて、上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
引用例2には、パワー半導体デバイスに、電気的および熱的に伝導性を有する銅板430を取り付ける技術が記載されている(上記「(1) イ」)。
引用発明において、複数のパワー半導体デバイス12に取り付けられた「直接接合銅(DBC)基板18」は導電性および熱伝導性を有するものであるから(上記「(2) ウ」)、引用発明において、「直接接合銅(DBC)基板18」に換えて銅板を用い、上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
上記相違点1で検討したように、引用発明において、「複数のパワー半導体デバイス12」の何れかを銅シムに換えることは適宜なし得ることである。
そうすると、引用発明において、スラブが結合されている「複数のパワー半導体デバイス12」の何れかを銅シムにして、上記相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用例2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

よって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 本件補正についてのまとめ
本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

仮に、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものであるとしても、本件補正後の請求項15に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものできないもので、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和1年5月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項15に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由] 1 本件補正」の本件補正前の「請求項15」として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略次のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1ないし19、21
・引用文献等 2

・請求項 1ないし21
・引用文献等 2、3

引用文献2.特開2013-042135号公報(本審決における引用例1)
引用文献3.米国特許第6306680号明細書(本審決における引用例2)

3 引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(引用例1)の記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由] 3(1)引用例及びその記載事項 ア」に記載したとおりである。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「薄層またはフィルムの形状である誘電体層30」は、絶縁体であり、半導体デバイスが配置されるものであるから、本願発明の「絶縁基板」に相当する。

(2)引用発明の「接着層34によって誘電体層30に固着された複数のパワー半導体デバイス12」は、本願発明の「接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられたパワーデバイス」に相当する。
但し、本願発明は、「前記接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられ、前記絶縁基板上で前記パワーデバイスの隣に配置された導電性シムであって、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シム」を備えているのに対して、引用発明は、そのような特定がない。

(3)引用文献2の段落【0016】に「DBC基板18の裏面上の最下銅層24は、POL構造10からの効率のよい熱移動を提供するために十分にまたは部分的に露出されたままにされる。」との記載から、引用発明の「複数のパワー半導体デバイス12に取り付けられた直接接合銅(DBC)基板18」は、パワー半導体デバイス12で発生した熱を伝導して放熱していることが明らかであるから、引用発明の「直接接合銅(DBC)基板18」は熱伝導性のものといえる。
また、直接接合銅(DBC)基板はアルミナなどのセラミックの両面に直接銅を接合した基板であるから、引用発明の「直接接合銅(DBC)基板18」は導電性のものである。
よって、引用発明の「複数のパワー半導体デバイス12に取り付けられた直接接合銅(DBC)基板18」と、本願発明は、「前記パワーデバイスに結合された導電性で熱伝導性のスラブ」である点で共通する。
但し、スラブが、本願発明は、「パワーデバイス」と「導電性シム」に結合されているのに対して、引用発明は、「複数のパワー半導体デバイス12」に結合されている点で相違する。

(4)引用発明の「誘電体層30および接着層34を通して形成され、半導体デバイス12上の回路/接続パッドへの電気接続を形成する金属相互接続38」は、本願発明の「前記絶縁基板を通って延び、前記パワーデバイスの表面上のコンタクト位置に電気的に結合されているメタライゼーション層」に相当する。

(5)引用発明の「POL構造10」は、本願発明の「パワーオーバーレイ(POL)構造」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「絶縁基板と、
接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられたパワーデバイスと、
前記パワーデバイスに結合された導電性で熱伝導性のスラブと、
前記絶縁基板を通って延び、前記パワーデバイスの表面上のコンタクト位置に電気的に結合されているメタライゼーション層と、
を備えている、パワーオーバーレイ(POL)構造。」

(相違点1)
本願発明は、「前記接着層を経由して前記絶縁基板に取り付けられ、前記絶縁基板上で前記パワーデバイスの隣に配置された導電性シムであって、アルミニウム、モリブデン、銅ーモリブデン、銅ータングステンまたはこれらの組み合わせ、アルミニウムーシリコン、アルミニウムーシリコンカーバイド、アルミニウムーグラファイト、銅ーグラファイトなどから選択される金属または合金材料からなる導電性シム」を備えているのに対して、引用発明は、そのような特定がない点。
(相違点2)
スラブが、本願発明は、「パワーデバイス」と「導電性シム」に結合されているのに対して、引用発明は、「複数のパワー半導体デバイス12」に結合されている点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献2には「銅シムはまたPOLサブモジュール14内に提供され、電気ショートとして使用されてもよい。銅シムは、半導体ダイ12のように使用されるが、銅または同様の材料で作成される。」と記載されている(段落【0023】)。この記載自体は具体的ではないが、例えば、図9に示されたPOLサブモジュール14において、右側の半導体ダイ12が搭載される場所に銅または同様の材料で作成されたシムを配置して、金属相互接続38どうしを電気ショートするような、銅または同様の材料で作成されたシムの使用例を示したものであると解される。
そうすると、引用発明において、「誘電体層30に固着された複数のパワー半導体デバイス12」の何れかを、電気ショートするシムに換えることは、POL構造10の用途に合わせて適宜変更すれば良いことである。
そして、導電性シムの材料として、アルミニウムを用いることは周知であり(例えば、米国特許第8654541号明細書の「The optional first electrically conductive shim 105 may be made of aluminum or copper」(第7欄第1-3行)の記載参照。)、引用発明において、「複数のパワー半導体デバイス12」の何れかを電気ショートするシムに換えた際に、アルミニウムシムを用いて上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
上記相違点1で検討したように、引用発明において、「複数のパワー半導体デバイス12」の何れかを電気ショートするシムに換えることは適宜なし得ることである。
そうすると、引用発明において、スラブが結合されている「複数のパワー半導体デバイス12」の何れかを電気ショートするシムにして、上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(3)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項15に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-12-22 
結審通知日 2020-12-28 
審決日 2021-01-08 
出願番号 特願2018-99258(P2018-99258)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 雅博殿川 雅也  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 畑中 博幸
須原 宏光
発明の名称 パワーオーバーレイ構造およびその製造方法  
代理人 関口 一哉  

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