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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1374323
審判番号 不服2020-5773  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-28 
確定日 2021-06-08 
事件の表示 特願2016- 8952「差動伝送用ケーブル及び多対差動伝送用ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月27日出願公開、特開2017-130350、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年1月20日の出願であって,令和1年7月29日付けで拒絶理由通知がされ,令和1年10月3日付けで手続補正がされ,令和1年10月17日付けで拒絶理由通知(最後)がされ,令和1年11月1日付けで手続補正がされ,令和2年1月22日付けで令和1年11月1日付けの手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年4月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和2年11月18日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,令和3年1月21日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年1月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1.(新規事項)令和1年10月3日付け手続補正書でした補正は,請求項1-3,6が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2.(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が,当業者が請求項4-6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
1.(進歩性)本願請求項1-3に係る発明は,以下の引用文献1及び2に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-56080号公報(当審において新たに引用した文献)
2.実願平1-91945号(実開平3-32321号)のマイクロフィルム(当審において新たに引用した文献)

第4 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は,令和3年1月21日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1-3は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
一対の信号線と,
前記一対の信号線を被覆する絶縁体と,
前記絶縁体の周囲に螺旋巻きで巻き付けられたシールドテープとを備え,
前記シールドテープは,一方の表面に絶縁体層としての酸化膜が形成された金属箔であり,
前記酸化膜の厚さが10nm以上1μm未満であり,
100MHz以上20GHz以下の使用周波数帯域において,差動損失にはサックアウトが発生せず,同相損失にはサックアウトが発生する,
差動伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記シールドテープは,前記酸化膜の厚さが10nm以上200nm未満である,
請求項1に記載の差動伝送用ケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の差動信号伝送用ケーブルを複数備え,
前記複数の前記差動信号伝送用ケーブルを一括してシールドしてなる,
多芯差動信号伝送用ケーブル。」

第5 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
(1)令和2年11月18日付けの拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,デジタルデータ等を伝送するために用いられる差動伝送ケーブル及びそれを含む複合ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルデータ等を伝送する差動伝送ケーブルとして,2本の差動伝送信号線と,ドレイン線と,これらを覆うシールド被覆とからなるケーブルがある(例えば,特許文献1参照)。」

「【0014】
図1及び図2に示すように,差動伝送ケーブル1は,一対の信号線2と,信号線2に沿って配設されたドレイン線3と,信号線2及びドレイン線3を覆う外部導体4とを備えている。
【0015】
信号線2は,中心導体11を有し,この中心導体11が誘電体層(絶縁層)12で被覆され,さらに,その外周にスキン層13が設けられて構成されている。そして,この信号線2が互いに接触するように並列に2本並べて配置されている。
これら信号線2の接触箇所における一側部に形成される谷部Aには,ドレイン線3が長手方向に沿うように並べられている。
【0016】
そして,この配置構造を保持しつつ,信号線2及びドレイン線3の外周に金属箔テープからなる外部導体4が巻き付けられ,さらに,その外側がジャケット層14で被覆されている。
【0017】
なお,差動伝送ケーブル1は,信号線2同士が平行に直線的に配列されていても良いが,互いに撚り合わされているツイストタイプであっても良い。差動伝送ケーブル1がツイストタイプの場合は,ドレイン線3は信号線2とともに撚り合わされる。ドレイン線3が信号線2とともに撚り合わされる場合は,信号線2が平行に配列されている場合に比べて,ドレイン線3が信号線2に押しつけられて信号線2の絶縁層が損傷するおそれがさらに大きい。
信号線2はスキン層13がない場合もある。
【0018】
信号線2を構成する中心導体11は,例えば,7本の素線を撚った撚り線または単線を使用することができる。中心導体11は外径が0.16mm(AWG32番相当)ないし0.58mm(AWG24番相当)のものが用いられる。中心導体11には軟銅線や銅合金を使用することができ,錫や銀などでメッキされた物を使用することができる。誘電体層12は,中心導体11の外周にポリオレフィン,ポリエステル,ポリ塩化ビニル,フッ素樹脂などを被覆して形成される。誘電体層12は,発泡ポリオレフィンでも良い。スキン層13は,誘電体層12に使用される樹脂で形成され,誘電体層12の外面を覆っている。スキン層13と誘電体層12とは同一の樹脂であってもよい。誘電体層12およびスキン層13の厚さは要求される静電容量により決定されるが,両者を合わせて0.1mmないし0.5mm程度である。
【0019】
外部導体4は,金属テープ等を螺旋状に巻き付けて形成されている。なお,金属テープ等を縦添えで巻き付けて外部導体4を形成しても良い。金属テープはPETなどの樹脂テープに金属箔を貼り合わせたテープであり,金属箔は銅箔やアルミ箔を使用することができる。金属テープの厚さは0.01mmないし0.1mm程度とすることができる。
ジャケット層14は,機械的強度を高めて外部導体4およびその内部を保護する。用途によってはジャケット層14がなくてもよい。ジャケット層14はポリオレフィン,ポリエステル,ポリ塩化ビニル,フッ素樹脂などから形成され,厚さは0.1mmないし1mmとすることができる。例えば,0.25mmの厚さとすることができる。ケーブル1に難燃性が要求される用途では難燃性の樹脂を使用する。環境への負荷を少なくする点でハロゲンを含まないポリオレフィン系樹脂やポリウレタン系樹脂,EVAやEEAの共重合体などを使用することが好ましい。」

「【0026】
図4に示す複合ケーブル21は,複数本の差動伝送ケーブル1と,他のケーブル22とを有している。これら差動伝送ケーブル1及びケーブル22は,ヤーン23とともに束ねられ,その外周が,編組シールド24を介してシース25によって被覆されている。」

「【図1】



「【図4】



(2)上記記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「一対の中心導体11と,
一対の中心導体11をそれぞれ被覆する誘電体層12と,
誘電体層12の周囲に螺旋状に巻き付けられる外部導体4とを備え,
外部導体4はPETなどの樹脂テープに金属箔を貼り合わせた金属テープからなり,金属箔は銅箔やアルミ箔を使用することができ,金属テープの厚さは0.01mmないし0.1mm程度である,
差動伝送ケーブル1。」

2.引用文献2について
(1)令和2年11月18日付けの拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「「産業上の利用分野」
本考案はシールド付きテープ電線に係り,特に,導体に平行に並べられたドレン線とこれらの外表面を覆っているシールドテープとが接触状態とされるテープ電線に関する。」(第2ページ第1行?第5行)

「この場合,シールドテープ4は,第6図に示すように,銅やアルミニウム等の導電材からなるシールド層5とポリエチレンテレフタレート樹脂(いわゆるPET)等からなる絶縁層6とを接着剤7を介して積層した構成とされている。」(第2ページ第16行?第3ページ第1行)

「したがって,この段差hにより形成される溝9の奥にシールドテープ4が押し込まれた状態でドレン線2に接着されることになるが,該シールドテープ4は,シールド層5自体は例えば数十μmであるとしても,絶縁層6が比較的厚肉であるため,全体として百数十μm程度の厚さになり,その分反発力も大きくなる。」(第3ページ第13行?第19行)

「「作用」
本考案のシールド付きテープ電線においては,そのシールドテープは金属箔の表面層のみが絶縁性酸化皮膜となっているものであるから,該絶縁性酸化皮膜の形成による厚さの増大がなく,素材である金属箔自体の厚さとなる。したがって,シールドテープを例えば数十μm程度の薄肉とし得るとともに,塑性変形容易な金属のみで形成し得て,折り曲げに対する反発力を小さくすることができる。また,絶縁性酸化皮膜も極めて薄肉とし得るから,シールドテープを絶縁体に接着する場合でも,絶縁性酸化皮膜の表面を経由して接着剤に速やかに熱を伝えることができる。」(第5ページ第4行?第16行)

「第1図及び第2図は一実施例を示しており,このシールド付きテープ電線におけるシールドテープ11は,金蔵泊11aの片面に絶縁性酸化皮膜11bが形成されてなるもので,金属箔11aとしてはアルミニウム箔,絶縁性酸化皮膜11bとしては陽極酸化処理による酸化アルミニウム皮膜,いわゆるアルマイト皮膜が有効である。」(第5ページ第20行?第6ページ第6行)

「このようにして形成したシールドテープ11は,絶縁性酸化皮膜11bが金属箔11aの片側の表面層のみに形成されて,該絶縁性酸化皮膜11bによる厚さの増大が生じないから,全体の厚さを素材となる金属箔自体の厚さ(例えば5μm?50μmの厚さ)とすることができる。しかも,従来例のような樹脂による絶縁層がなく,塑性変形容易な金属のみによって形成されているから,折り曲げ等に対する反発力を小さくすることができる。また,絶縁性皮膜11bは,例えば50オングストローム程度の極めて薄肉に形成されるから,該絶縁性酸化皮膜11bを経由する熱伝達も良好となる。」(第7ページ第2行?第14行)

「さらに,金属箔としては,電気伝導の良好な金属で絶縁性酸化皮膜が形成されるものであれば,アルミニウム箔の他の金属箔も適用可能である。」(第9ページ第16行?第19行)

(2)上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 金属箔11aの片側表面に絶縁性酸化皮膜11bが形成されたシールドテープ11であって,金属箔自体の厚さは,例えば5μm?50μmであり,絶縁性皮膜11bの厚さは,例えば50オングストローム程度である,シールドテープ11

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明の「一対の中心導体11」は,本願発明1の「一対の信号線」に相当する。

イ 引用発明の「一対の中心導体11をそれぞれ被覆する誘電体層12」は,本願発明1の「前記一対の信号線を被覆する絶縁体」に相当する。

ウ 引用発明の「誘電体層12の周囲に螺旋状に巻き付けられる外部導体4」は,本願発明1の「前記絶縁体の周囲に螺旋巻きで巻き付けられたシールドテープ」に相当する。

エ 引用発明の「外部導体4はPETなどの樹脂テープに金属箔を貼り合わせた金属テープからなり,金属箔は銅箔やアルミ箔を使用することができ」る点と本願発明1の「前記シールドテープは,一方の表面に絶縁体層としての酸化膜が形成された金属箔であ」る点は,後記の点で相違するものの,「シールドテープは,絶縁体層と金属層を有する」点で一致する。

オ 引用発明の「差動伝送ケーブル1」は,本願発明1の「差動伝送用ケーブル」に対応する。

カ 以上のことから,本願請求項1に係る発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「一対の信号線と,
前記一対の信号線を被覆する絶縁体と,
前記絶縁体の周囲に螺旋巻きで巻き付けられたシールドテープとを備え,
前記シールドテープは,一方の表面に絶縁体層が形成された金属箔である,
差動伝送用ケーブル。」

(相違点)
(相違点1)
シールドテープの絶縁体層が,本願発明1においては「厚さが10nm以上1μm未満の金属箔に形成された酸化膜」であるのに対し,引用発明においては,「金属箔が貼り合わされるPETなどの樹脂」であり,厚みについて特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1は「100MHz以上20GHz以下の使用周波数帯域において,差動損失にはサックアウトが発生せず,同相損失にはサックアウトが発生する」ものであるのに対し,引用発明はそのような特定はなされていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点2について先に検討すると,相違点2に係る本願発明1の「100MHz以上20GHz以下の使用周波数帯域において,差動損失にはサックアウトが発生せず,同相損失にはサックアウトが発生する」との構成は,上記引用文献1-2には記載されておらず,本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2,3について
本願発明2,3も,本願発明1の「100MHz以上20GHz以下の使用周波数帯域において,差動損失にはサックアウトが発生せず,同相損失にはサックアウトが発生する」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
1.新規事項について
令和3年1月21日付けの補正により,補正後の請求項1は,「前記シールドテープは,一方の表面に絶縁体層としての酸化膜が形成された金属箔であり」と特定されている。出願時の明細書の段落【0028】には,「図3は,シールドテープ13の断面図である。シールドテープ13は,帯状の導体13aと,酸化膜13bとを有している。このシールドテープ13は,例えば,銅箔,アルミ箔等の導電性を有する帯状の金属箔を用いて,その一方の面を酸化させることにより酸化膜13bが形成される。金属箔のうち酸化されなかった部分は導体13aとなる。」と記載されており,シールドテープ13が金属箔と酸化膜13bとを含むことが記載されているから,令和3年1月21日付けの補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

2.実施可能要件について
令和3年1月21日付けの補正により,請求項4-6は削除されているため,この拒絶の理由は解消した。

3.小括
したがって,令和3年1月21日付けの補正により,拒絶の理由1及び2は解消されているため,原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-05-18 
出願番号 特願2016-8952(P2016-8952)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 井上 和俊
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 差動伝送用ケーブル及び多対差動伝送用ケーブル  
代理人 特許業務法人平田国際特許事務所  

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