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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1374457
審判番号 不服2019-17161  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-19 
確定日 2021-05-27 
事件の表示 特願2017-564287「距離測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月 3日国際公開、WO2017/130996〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)1月25日(優先権主張 2016年1月29日)を国際出願日とする特許出願であって、その出願後の手続の経緯の概略は、次のとおりである。

平成31年 1月25日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 5月27日 :手続補正書、意見書の提出
令和 元年10月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(原査定の謄本の送達日:令和元年10月23日)
令和 元年12月19日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年10月15日付け:審尋
令和 2年12月 9日 :回答書の提出

第2 令和元年12月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年12月19日付けの手続補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和元年12月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正を含むものである。本件補正により、本件補正前(令和元年5月27日付けの手続補正後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。

(1)本件補正前
「 【請求項1】
測定対象物に向けてパルス光を発光するパルス光発光部と、
前記測定対象物で反射した前記パルス光の反射光を受光する光センサ部と、
前記パルス光発光部から発光する前記パルス光の発光タイミングを制御し、かつ、前記光センサ部で検知した前記反射光の受光タイミングから前記測定対象物までの距離を判定する制御部とを備え、
前記制御部は、
K周期(K:2以上の自然数)の符号長を有する擬似ランダム符号を生成し、
前記擬似ランダム符号に基づいて、前記K周期からN個の周期(N:K未満の自然数)をランダムに選択し、
前記発光タイミングを、前記ランダムに選択されたN個の周期の各周期内において、前記各周期の開始時からランダムな第1の時間遅延させたタイミングに設定する
距離測定装置。」

(2)本件補正後
「 【請求項1】
測定対象物に向けてパルス光を発光するパルス光発光部と、
前記測定対象物で反射した前記パルス光の反射光を受光する1つまたは複数の光センサ部と、
前記パルス光発光部から発光する前記パルス光の発光タイミングを制御し、かつ、前記光センサ部で検知した前記反射光の受光タイミングから前記測定対象物までの距離を判定する制御部とを備え、
前記制御部は、
K周期(K:2以上の自然数)の符号長を有する擬似ランダム符号を生成し、
前記擬似ランダム符号に基づいて、前記K周期からN個の周期(N:K未満の自然数)をランダムに選択し、
前記発光タイミングを、前記ランダムに選択されたN個の周期の各周期内において、前記各周期の開始時からランダムな第1の時間遅延させたタイミングに設定し、
前記1つの光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する複数回の露光を行い、または、前記複数の光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する異なるタイミングで露光を行う
距離測定装置。」

2 本件補正の適否
(1)本件補正の目的
本件補正における特許請求の範囲についての補正のうち、請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した事項である「光センサ部」について「1つ又は複数」であることを明示しつつ、「前記1つの光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する複数回の露光を行い、または、前記複数の光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する異なるタイミングで露光を行う」ことを限定するものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正のうち、特許請求の範囲についての補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討を行う。

(2)独立特許要件について
ア 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

イ 審尋
当審は、令和2年10月15日付けで次の内容の審尋を行った。

「 この審判事件について、下記の点に対する回答書を、この審尋の発送の日から60日以内に提出してください。



1.請求項1には、「前記1つの光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する複数回の露光を行い、または、前記複数の光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する異なるタイミングで露光を行う」という技術事項が記載されているところ、本願の明細書の説明及び審判請求書の請求の理由を参酌しても、上記技術事項が何を言っているのか理解することができません。
当該技術事項について、詳細な説明をお願い申し上げます。なお、明細書の記載を引用するだけでなく、より具体的にかつ明確に、説明をお願い申し上げます。
(審判請求の理由(「3.本願発明が特許されるべき理由」の「(b)補正の根拠の明示」)において、「請求項1の「前記1つの光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する複数回の露光を行い、または、前記複数の光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する異なるタイミングで露光を行う」の補正事項は、出願時の明細書の段落0082?0090および図7の記載等に基づいています。」と主張しています。
しかしながら、段落0082?0090及び図7のいずれにも、「1つの光センサ部」が「N個の各周期内において異なる距離に対応する複数回の露光を行う」ことに関する記載はございません。
また、段落0082、0087には、第1の光センサ部140と第2の光センサ部131で露光のタイミングを異ならせることについては記載されておりますが、当該記載を「複数の光センサ部」が「N個の各周期内において異なる距離に対応する異なるタイミングで露光を行う」ことを意味するものと理解することはできません。
段落0088には、「任意の距離測定範囲dxにおいて第1の光センサ部130が物体を検知したとする。第2の光センサ部131が、異なる露光タイミングで、同じ距離測定範囲dxについて、測距動作を行った際に、物体を検知した場合、判定部47は、測定対象物10が存在すると判定する。」と記載されており、当該記載を、「同じ距離に対応する露光を複数の光センサ部がそれぞれ行い、かつ、同じ距離に対応する露光を複数の光センサ部が行うタイミングは互いに異なること」と理解することはできるかもしれませんが、「複数の光センサ部」が「N個の各周期内において異なる距離に対応する異なるタイミングで露光を行うこと」が記載されているとは理解できません。)

2.上記の「1」の技術的特徴を備えることにより、どうして、審判請求書の請求の理由で主張する「誤検知を抑制して信頼性を向上させる」という効果を奏するのか、具体的にかつ明確に、詳細な説明をお願いいたします。

3.上記「1」及び「2」の事項について説明した内容を、本願の明細書の記載からどうして当業者が理解することができるといえるのかについて、必要な立証を行いつつ、明確な説明をお願い申し上げます。」

ウ 請求人による回答書
上記イの当審による審尋に対して、請求人は、令和2年12月9日付けで次の内容の回答書を提出した。

「 この審判事件に係る令和2年10月15日起案の審尋に対して、以下の通り、回答いたします。
審尋において、『請求項1には、「前記1つの光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する複数回の露光を行い、または、前記複数の光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する異なるタイミングで露光を行う」という技術事項が記載されているところ、本願の明細書の説明及び審判請求書の請求の理由を参酌しても、上記技術事項が何を言っているのか理解することができません。』とご指摘頂きましたが、本内容について検証しました結果、令和1年12月19日付け手続補正書による補正内容に誤りがございました。
正確な内容に書き改め再度審理頂きたいと思いますので、何卒拒絶理由通知書を発行して下さいますようお願い申し上げます。」

エ 独立特許要件についての検討
請求項1の記載において、「前記1つの光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する複数回の露光を行い、または、前記複数の光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する異なるタイミングで露光を行う」という技術事項が記載されているところ、前記イに示すように、本願の明細書の説明及び審判請求書の請求の理由を参酌しても、上記技術事項が何を意味しているのか理解することができない。
これに対し請求人は、補正内容に誤りがあることは認めつつも、どのような記載であれば正しかったのかなどの説明はしておらず、軽微な記載不備であったとは認められない。
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、不明確であり、本願は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとは認められない。
また、本件補正後の請求項1に係る発明は、明細書に記載された発明であるとは認められず、本願は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとは認められない。
さらに、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められず、本願は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとは認められない。

(3)独立特許要件についての判断のまとめ
上記(2)において検討したとおり、本願は、特許法36条6項1号及び2号並びに同法同条4項1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
上記2において検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本件発明について
1 本件発明の認定
本件補正は、却下したので、本願の請求項1?7に係る発明は、本件補正前の、令和元年5月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものである。そのうち、請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由のうち、本件発明に対する拒絶の理由は、本件発明は、次の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。
1.特開平7-325152号公報
2.特開2005-106603号公報

3 引用文献に記載された発明の認定等
(1)引用文献1について
ア 引用文献1に記載された技術事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は、当審が付した。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 目標物にパルス信号を送信する送信手段と、
前記目標物からの反射パルス信号を受信する受信手段と、
前記送信手段のパルス信号が送信されてから前記受信手段で反射パルス信号が受信されるまでの伝播時間を測定し、前記伝播時間に基づいて前記目標物までの距離を算出する距離検出手段とを備えた距離測定装置において、
所定周期の送信タイミング信号を発生する送信タイミング信号発生手段と、
ランダムな長さの遅延時間を生成し、前記送信タイミング信号の発生毎に前記遅延時間分遅れて送信開始信号を発生する送信開始信号発生手段とを備え、
前記送信手段は、前記送信開始信号に基づいて前記目標物に向かってパルス信号を送信することを特徴とする距離測定装置。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は距離測定装置に関し、特に、パルス信号の走行時間から距離を測定する装置に関する。」


「【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述の従来の距離測定装置を車の車間距離センサに適用するような使用環境を考えた場合に、同種の装置の数が増加することが予想される。その結果、従来の装置構成では、パルス信号が干渉して目標物を誤認し、誤った測定値を表示する可能性がある。例えば、対向車が同一の車間距離センサを搭載していて且つ双方の車間距離センサが同じタイミングで送信パルスを出力したような場合において先行車と対向車とがすれ違った状態では、自車の送信パルスに対する先行車からのエコーを受信する前に対向車の送信パルスを受信してしまう。このように、従来の距離測定装置では、先行車との実際の車間距離より短い車間距離を検出してしまうことがあるという不都合があった。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために、本発明においては、目標物にパルス信号を送信する送信手段と、前記目標物からの反射パルス信号を受信する受信手段と、前記送信手段のパルス信号が送信されてから前記受信手段で反射パルス信号が受信されるまでの伝播時間を測定し、前記伝播時間に基づいて前記目標物までの距離を算出する距離検出手段とを備えた距離測定装置において、所定周期の送信タイミング信号を発生する送信タイミング信号発生手段と、ランダムな長さの遅延時間を生成し、前記送信タイミング信号の発生毎に前記遅延時間分遅れて送信開始信号を発生する送信開始信号発生手段とを備え、前記送信手段は、前記送信開始信号に基づいて前記目標物に向かってパルス信号を送信することを特徴とする距離測定装置を提供する。」

「【0010】
【作用】本発明の距離測定装置では、パルス信号の送信開始信号を所定周期とランダムな周期とを合わせ持った周期で生成する。すなわち、所定周期の送信タイミング信号からランダムな長さの遅延時間だけ遅らせて送信開始信号を生成するので、パルス信号の送信を一定周期ではなくランダムにすることができる。したがって、送信開始がランダムなパルス信号送信毎の複数回の受信波形
を平均化することによって、外部から規則的に入るパルス信号をランダムな雑音と同様に低減することができるため、上述した干渉による誤測距を確実に防止することができる。
【0011】また、同じ距離測定装置からの送信パルス信号に対しても、パルス信号の送信がランダムなので2つの同じ距離測定装置間においてパルス信号の送信タイミングが同一になることが実質的にないため、干渉確率が低く抑えられ装置の信頼性は著しく向上する。さらに、上述の複数回の受信波形の平均化により、雑音レベルを低下することが可能であり、その結果S/N比が向上し測距可能範囲を拡大することができる。」

「【0013】
【実施例】以下、本発明の実施例を、添付図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施例にかかる距離測定装置の構成を示すブロック図である。図1において、マイクロコンピュータ部10は、本実施例の距離測定装置の制御部を構成しており、たとえばCPU、ROM、RAMおよび入出力ポートから構成されている。なお、装置全体を小型化する場合には、マイクロコンピュータ部10を1チップマイクロコンピュータで構成することも可能である。基準発振器11は、パルス走行時間を計測する時間基準となる第1のクロックパルス102を発生する第1のクロックパルス発生手段であり、たとえば周波数安定度の高い水晶発振器で構成されている。
【0014】PLL発振器12は、基準発振器11からの第1のクロックパルス102に基づいて同じ周波数を有するが位相の異なる第2のクロックパルス103を発生する第2のクロックパルス発生手段である。PLL発振器12は、制御電圧により出力周波数を制御することのできるVCO(ボルテージコントロールオシレータ)と、第1のクロックパルス102と第2のクロックパルス103との位相差を検出する位相差検出器と、位相差検出器の出力を制御電圧に変換するアクティブLPF(ローパスフィルタ)とから構成されている。第1のクロックパルス102と第2のクロックパルス103との位相差を変化させるためのオフセット電圧(位相差設定信号100)が、マイクロコンピュータ部10からPLL発振器12のアクティブLPFに入力することができるようになっている。
【0015】疑似ランダム信号発生部13はたとえばM系列信号発生器からなり、パルス信号の送信毎に送信タイミングを変化させるための疑似ランダムデータ104を更新して出力する。カウンタ部14はたとえばカウンタ回路からなり、パルス信号の送信毎に疑似ランダム信号発生部13からロードされた疑似ランダムデータ104を、PLL発振器12からの第2のクロックパルス103でカウントして、サンプリング開始信号および送信開始信号106を出力する。
【0016】送信部15はパルス発光レーザダイオードとレーザダイオードドライブ回路とから構成され、カウンタ部14からの送信開始信号106に基づいて所定の目標物に向かってパルス信号107を送信する。受信部16は、光電変換素子(本実施例ではアバランシェフォトダイオード)とトランスインピーダンスアンプとから構成され、送信部15から送信された光パルス信号107に対する目標物からのエコー、すなわち受信パルス108を受信して電気信号109に変換して出力する。
【0017】アンプ部17は、電気信号に変換された受信信号109を後述するA/D変換部19に必要な電圧レベルに増幅する高帯域アンプ(本実施例ではビデオアンプ)で構成されている。サンプリング制御部18は、カウンタ部14からのサンプリング開始信号105を受け基準発振器11からの第1のクロックパルス102に同期させて、サンプリング信号111をA/D変換部19に、アドレス信号112をメモリ制御部20に出力するゲート回路と、サンプリング信号111のクロック毎に受信信号レベルをメモリに記憶させるためのメモリアドレスを設定するカウンタ回路で構成されている。A/D変換部19は、増幅された受信信号110をサンプリング信号111のクロック毎にデジタル値に変換する高速サンプリングタイプのA/D変換器で構成されている。
【0018】メモリ制御部20は、サンプリング制御部18からのアドレス信号112に基づいて後述するメモリ部21のアクセスを制御する回路であり、たとえば3ステートバッファとゲート回路とから構成されている。メモリ部21は、距離測定範囲に相当するパルス走行時間Tおよび距離測定分解能に相当するサンプリング時間δtに基づいて、「T/δt」以上のメモリ容量で受信信号のレベルデータを記憶することのできる、高速動作可能なスタティックRAMで構成されている。表示部22は、たとえば7セグメントLEDとゲート回路とからなる表示ドライバで構成され、マイクロコンピュータ部10で演算された結果である測定値を表示する。
【0019】以上のように構成される第1実施例の距離測定装置の動作について説明する。1回の測距動作は、複数回(本実施例では160回)のパルス信号を送信し、対応する複数個の測距データを取り込んで演算処理し、演算処理結果である測定値(測距値)を表示部22に出力する。この測距動作を繰り返することにより、表示部22に連続的に測距値を表示することも可能である。以下、1回の測距動作に着目して動作説明を行う。
【0020】1回の測距動作で例えば160回のパルス信号107を送信する場合、160回の送信タイミング信号101を出力する間に、第1のクロックパルス102と第2のクロックパルス103との位相差を例えば8種類変更する。換言すれば、第1の位相差で20回のパルス信号送信を行い、第8の位相差まで同じ動作を繰り返す。このように第1のクロックパルス102に対して位相差が変化する第2のクロックパルス103に応じて生成された送信開始信号106に基づいて送信パルス信号107を出力し、対応する受信パルス信号108をサンプリング開始信号105から第1のクロックパルス102に同期してメモリ部21に記憶する。
【0021】送信パルス信号107の出力タイミングは、後述するように疑似ランダムデータ104により1回の送信毎に変化する。ただし、サンプリング開始信号105と送信開始信号106とが同期(第2のクロックパルス103に基づいて)しているため、装置内部では受信パルス信号108を他のノイズ(たとえば、他の装置からの送信パルス信号)と見誤ることはない。上述したように、160回の送信中に第1のクロックパルス102と第2のクロックパルス103との位相差を8種類変更していることから、時間順にサンプリングされた160個の受信データのうち、20(160/8)個が送信とサンプリングとのタイミングが同一の受信データ(第1のクロックパルス102と第2のクロックパルス103との位相差が同じであり、その結果記憶されるアドレスが同じ)として取り込まれる。
【0022】マイクロコンピュータ部10は、送信とサンプリングとのタイミングが同一な受信データを受信信号レベルとして平均処理し、第1のクロックパルス102と第2のクロックパルス103との位相差に応じてサンプリング開始信号105からパルス走行時間順に平均した受信データを並べる。マイクロコンピュータ部10は、受信信号データとして時間順に記憶された平均メモリ内容から目標物を認識し、認識したメモリアドレスからパルス走行時間を演算で求める。次いで、パルス走行時間に基づいて目標物までの距離を求め、求めた距離データ118を表示部22に出力する。表示部22は、測距値として距離データ118を表示することにより1回の測距動作を終了する。
【0023】図3は、各信号のタイミングを示すタイミングチャートである。図3のタイミングチャートを参照しながら、各部の詳細な動作に着目して動作説明を行う。マイクロコンピュータ部10は、内部クロックの時間制御を使用して1回の測距データ取り込みに必要な時間(疑似ランダムデータの最大値と第2のクロックパルスの1周期時間との積+距離測定範囲に相当するパルス信号の往復時間+平均処理する時間)以上の一定周期で送信タイミング信号101を連続して出力する。送信タイミング信号101は、疑似ランダムデータの最大値と第2のクロックパルスの1周期時間との積と距離測定範囲に相当するパルス信号往復時間との和で決まる時間をHighレベルとし、平均処理する時間をLowレベルとしている。
・・・(中略)・・・
【0030】疑似ランダム信号発生部13は、例えば8個のシフトレジスタを直列に接続して最終段の出力とその1つ前の出力をエクスクルーシブオア回路でその排他的理論和をシフトレジスタの初段に帰還する構成のM系列信号発生器からなる。そして、マイクロコンピュータ10からの送信タイミング信号101がHighレベルからLowレベルに変化する立ち下がりエッジで8個のシフトレジスタを同時に動作させることにより、疑似ランダムデータ104を更新する。疑似ランダムデータ104は、8個のシフトレジスタの各々の出力からなり、1から255(28 -1)の間でランダムに変化する8ビットの信号である。
【0031】このように、疑似ランダム信号発生部13ではマイクロコンピュータ10からの送信タイミング信号101の立ち上がりエッジに基づいて前回の疑似ランダムデータをカウンタ部14に出力した後、送信タイミング信号101の立ち下がりエッジで次回の送信タイミングを遅らせるための疑似ランダムデータ104の生成を行う。
【0032】一方、カウンタ部14では、マイクロコンピュータ10から一定周期で入力される送信タイミング信号101のLowレベルからHighレベルに変化する立ち上がりエッジで疑似ランダム信号発生部13からロードされた疑似ランダムデータ104を、第2のクロックパルス103でダウンカウントしてカウント値が0になった時点で、サンプリング開始信号105をサンプリング制御部18に、送信開始信号106を送信部15に出力する。
【0033】なお、送信部15からのパルス信号107の送信と同時に受信信号108のサンプリングを開始する場合、カウンタ部14のカウント値が0でサンプリング開始信号105を出力し、カウンタ部14のカウント値が-1で送信開始信号106を出力するようにして、パルス信号107の送信時間をサンプリング開始時間より遅らせるようにしてもよい。上述の一連の動作によりマイクロコンピュータ10から一定周期で出力される送信タイミング信号101を疑似ランダムデータ104と第2クロックパルス周期との積の時間分だけ遅らせることができ、送信開始信号106の出力周期を疑似ランダムに変更することができる。
【0034】送信部15では、カウンタ部14から送信開始信号106を受けると同時にレーザダイオードドライブ回路を駆動して、送信パルス信号107を目標物に向かって出力する。本実施例では、目に対する安全性及びパルス発光レーザダイオードの寿命等を考慮して、送信パルス信号107の点灯パルス幅を10nsecとしている。
【0035】受信部16では、送信部15からの送信パルス信号107に対する目標物からのエコーを受信し、受信パルス信号108を後段で処理し易い電気信号に変換する。送信パルス信号107および受信パルス信号108のパルス幅が10nsecと狭いため、高周波領域に対応することができるAPD(アバランシェフォトダイオード)で受信パルス信号108を光電変換している。
・・・(中略)・・・
【0041】1つのパルス信号送信に対する受信データの取り込みが終了したことを知らせるメモリ制御信号117をメモリ制御部20から受信したマイクロコンピュータ部10は、平均処理を行うためメモリ制御部20を通してメモリ部21の内容を読み込む。そして、送信とサンプリングとのタイミングが同一の受信信号レベルをマイクロコンピュータ部10の内部メモリ(距離データを取り込むためのメモリ)に加算(すなわち平均化処理)して記憶する。加算するデータは、送信とサンプリングとのタイミングが同一の(位相差が同一の)受信信号レベルデータである。加算回数は本実施例では20回であり、1回の測距動作(測距データ取り込みから表示までの動作)をする前に、マイクロコンピュータ部10の内部メモリは予めクリアされる。
【0042】1つのパルス信号送信に対する受信信号デ
ータを20回平均してマイクロコンピュータ部10に記憶した後、位相差設定信号100を変更して次の20個の送信パルス信号に対し同様の動作を繰り返す。位相差設定信号100の変更により第2のクロックパルス103に同期して出力される送信パルス信号107と、第1のクロックパルス102に同期するサンプリング信号111との時間が位相差分だけずれる。こうして、サンプリング周波数が低くても送信タイミングをサンプリングタイミングからわずかにずらしデータの取り込み回数を増やすことにより、8倍の周波数でサンプリングした場合と同じ効果を得ることができる。
・・・(中略)・・・
【0044】以上の動作により、マイクロコンピュータ部10の内部メモリにおいて、送信パルス信号107を160回送信した結果である測距データを取り込むことができる。この内部メモリに記憶した測距データから目標物までのパルス走行時間を検出し、検出したパルス走行時間に基づいて目標物までの距離を演算する。演算された目標物までの距離は、距離データとして表示部22に出力され表示される。なお、すでに述べたように、上述の測距動作を繰り返すことにより、表示部22に連続的に測距値を表示することも可能である。」

「【0047】
【効果】以上説明したように、本発明の距離測定装置では、パルス信号の送信開始信号を所定周期以上のランダムな周期で生成するので、干渉による誤測距を確実に防止することができる。また、送信タイミングとサンプリングタイミングとの位相差を順次変化させながら測距することにより、送信パルス幅を狭くして目に対して安全な距離測定装置を提供することが可能になるとともに、汎用の素子でも高速のサンプリングタイミングが可能になる。その結果、安価で高精度な距離測定装置を実現することができる。」

「【図1】



引用発明の認定
上記アの記載事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「目標物にパルス信号を送信する送信手段と、
前記目標物からの反射パルス信号を受信する受信手段と、
前記送信手段のパルス信号が送信されてから前記受信手段で反射パルス信号が受信されるまでの伝播時間を測定し、前記伝播時間に基づいて前記目標物までの距離を算出する距離検出手段とを備えた距離測定装置において、
所定周期の送信タイミング信号を発生する送信タイミング信号発生手段と、
ランダムな長さの遅延時間を生成し、前記送信タイミング信号の発生毎に前記遅延時間分遅れて送信開始信号を発生する送信開始信号発生手段とを備え、
前記送信手段は、前記送信開始信号に基づいて前記目標物に向かってパルス信号を送信することを特徴とする距離測定装置であって(【請求項1】)、
送信手段である送信部15はパルス発光レーザダイオードとレーザダイオードドライブ回路とから構成され(【0016】)、
受信手段である、受信部16は、光電変換素子とトランスインピーダンスアンプとから構成され(【0016】)、
マイクロコンピュータ部10は、距離測定装置の制御部を構成しており(【0013】)、
マイクロコンピュータ部10は、内部クロックの時間制御を使用して1回の測距データ取り込みに必要な時間以上の一定周期で送信タイミング信号101を連続して出力し(【0023】)、
疑似ランダム信号発生部13はM系列信号発生器からなり、パルス信号の送信毎に送信タイミングを変化させるための疑似ランダムデータ104を更新して出力し(【0015】)、
疑似ランダム信号発生部13ではマイクロコンピュータ10からの送信タイミング信号101の立ち上がりエッジに基づいて前回の疑似ランダムデータをカウンタ部14に出力した後、送信タイミング信号101の立ち下がりエッジで次回の送信タイミングを遅らせるための疑似ランダムデータ104の生成を行い(【0031】)、
カウンタ部14は、パルス信号の送信毎に疑似ランダム信号発生部13からロードされた疑似ランダムデータ104を、PLL発振器12からの第2のクロックパルス103でカウントして、サンプリング開始信号および送信開始信号106を出力し(【0015】)、
送信部15では、カウンタ部14から送信開始信号106を受けると同時にレーザダイオードドライブ回路を駆動して、送信パルス信号107を目標物に向かって出力し(【0034】)、
マイクロコンピュータ部10は、受信信号データとして時間順に記憶された平均メモリ内容から目標物を認識し、認識したメモリアドレスからパルス走行時間を演算で求め、次いで、パルス走行時間に基づいて目標物までの距離を求める(【0022】)、
距離測定装置。」

(2)引用文献2について
本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は、当審が付した。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス波を使用するレーダー装置に関する。特に、他のレーダー装置からのパルス波を誤って測定することを防止する車載用のレーダー装置に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のレーダー装置では、自己の送信したパルス符号と他のレーダー装置の送信したパルス符号との区別がつかないため、他のレーダー装置の送信したパルス符号は妨害となる。そこで、このような課題を解決するために、本願発明は、自己の送信したパルス符号と他のレーダー装置の送信したパルス符号とを区別して目標物までの距離を正確に測定できるようなパルス波レーダー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本願発明は、擬似ランダム符号列を発生する擬似ランダム符号発生回路と、該擬似ランダム符号発生回路からの擬似ランダム符号列の符号を所定のパルス幅のReturn-to-Zero符号(以下、「Return-to-Zero」を「RZ」と略記)にRZ変換するRZ符号変換回路と、該RZ符号変換回路からのRZ変換された擬似ランダム符号列を局部発振周波数で強度変調して送信する送信回路と、目標物からの反射波を受信してRZ変換された擬似ランダム符号列を該局部発振周波数で強度復調する受信回路と、該RZ変換された擬似ランダム符号列の符号の送信から受信までの遅れ時間を検出して目標物までの距離を算出する距離測定回路と、を備えるパルス波レーダー装置である。
本願発明は、擬似ランダム符号列を送信することによって、他のレーダー装置が送信するパルス符号と区別して目標物までの距離を測定することができる。」
「【0020】
(実施の形態1)
本実施の形態は、擬似ランダム符号列を送信するパルス波レーダー装置である。具体的には、擬似ランダム符号列を送信し、自己の送信した擬似ランダム符号列を識別することによって目標物までの距離を正確に測定するパルス波レーダー装置である。
【0021】
図3、図4、図5を用いて本実施の形態のパルス波レーダー装置を説明する。図3は、本実施の形態のパルス波レーダー装置の概略構成を説明するブロック図であって、11は擬似ランダム符号発生回路、12はRZ符号変換回路、13は送信回路、14は局部発振回路、15は受信回路、16は距離測定回路、21は送信アンテナ、22は受信アンテナである。擬似ランダム符号発生回路11の発生する擬似ランダム符号としては、M 系列符号(Maximum length linear shift resister sequence code) やゴールド符号がある。
【0022】
従来のレーダー装置は、一定周期で常に1つのパルス符号を送信するのに対し、本実施の形態のパルス波レーダー装置は、一定周期で1つのパルス符号を送信するか否かによって自己の送信するパルス符号を識別する。つまり、擬似ランダム符号列の1つの符号を一定周期でのパルス符号の有無に相当させることによって識別する。
・・・(中略)・・・
・・・(中略)・・・
【0029】
図5は、本実施の形態のパルス波レーダー装置の動作を説明するタイミングチャート図である。図5(a)は擬似ランダム符号発生回路が発生する擬似ランダム符号列である。ここでは、11010100で始まる一連の符号列を例として示している。擬似ランダム符号列としてM 系列符号を利用するには、シフトレジスタを縦続接続し、適当なシフトレジスタの出力を帰還させる構成でM 系列符号を発生させることができる。M系列符号では、n段のシフトレジスタによって、
M=2^(n)-1 (2)
の符号長の擬似ランダム符号列を発生させることができる。
【0030】
図5(b)は図5(a)に示す擬似ランダム符号列の符号がRZ符号変換回路でRZ変換された符号列の符号である。図5(c)は、図5(b)の一部を拡大した図である。Tpは擬似ランダム符号列のクロック周期、Trは擬似ランダム符号列の符号のパルス幅である。このように、RZ符号変換回路はクロック周期Tpで、パルス幅Trの擬似ランダム符号列を出力する。
【0031】
擬似ランダム符号列のクロック周期Tpは10MHz以下が望ましい。パルス波レーダー装置の最大検知距離を16mとすると、1のパルス符号が送信されて距離16mのところにある目標物で反射されて戻ってくるまでに、次の符号が送信されると最大検知距離での目標物を検知できなくなる。最大検知距離16mに目標物が存在すると、目標物までのパルス符号の往復時間が106nsecとなる。106nsecを1周期とするクロック周波数は、9.4MHzである。従って、擬似ランダム符号列のクロック周期が10MHz以下であれば、最大検知距離は16m以上を確保することができる。
【0032】
擬似ランダム符号列の符号のパルス幅Trは2nsec以下が望ましい。パルス波レーダー装置の最小検知距離を30cmとすると、1のパルス符号が送信されて距離30cmのところにある目標物で反射されて戻ってくるまでに、1のパルス符号の送信が完了しないと最小検知距離での目標物を検知できなくなる。最小検知距離30cmでは、パルス符号の往復時間が2nsecとなる。従って、擬似ランダム符号列の符号のパルス幅が2nsec以下であれば、最小検知距離は30cm以下を確保することができる。
【0033】
図5(d)は、受信回路が強度復調した擬似ランダム符号列である。図5(c)のパルス符号と図5(d)のパルス符号の間には遅延時間差Tdが生じている。これは、遅延時間差Tdに相当する距離に目標物が存在することを示す。目標物までの距離は(1)式から算出することができる。
【0034】
この実施の形態によれば、自己の送信した擬似ランダム符号列と照合してパルス符号の往復時間を検出すれば、自己の送信したパルス符号による反射パルスと他のレーダー装置が送信したパルス符号又はそのパルス符号による反射パルスと区別することができる。例えば、図5(c)に示す自己の送信した1101で始まる一連の擬似ランダム符号列に対して図5 (d)に示す受信回路が強度復調した符号列では、1101から始まる一連の擬似ランダム符号列となっているため、自己の送信した擬似ランダム符号列であると識別することができる。
【0035】
このようなパルス波レーダー装置では、距離測定回路16の出力結果を演算して、目標物までの距離として運転席に表示することができる。また、車間距離が一定値以下になると、運転者に警報を表示したり、警報音を鳴らしたりすることもできる。さらに、ブレーキ制御回路と連動して、ブレーキを動作させたり、また、オートクルーズ制御回路と連動して、車間距離を一定に維持して走行させたりすることも可能である。以下の実施の形態でも同様である。」
「【図5】



4 対比・判断
(1)本件発明と引用発明の対比
本件発明と引用発明を対比する。
ア 本件発明と引用発明は、距離測定装置に係る発明の点で一致する。

イ 引用発明における、「パルス発光レーザダイオードとレーザダイオードドライブ回路とから構成され」た「送信部15」からなり、「目標物にパルス信号を送信する送信手段」は、本件発明における「測定対象物に向けてパルス光を発光するパルス光発光部」に相当する。

ウ 引用発明における、「光電変換素子とトランスインピーダンスアンプとから構成された」「受信部16」からなり、「前記目標物からの反射パルス信号を受信する受信手段」は、本件発明における「前記測定対象物で反射した前記パルス光の反射光を受光する光センサ部」に相当する。

エ 引用発明の「距離測定装置の制御部を構成」する「マイクロコンピュータ部10」は、「内部クロックの時間制御を使用して1回の測距データ取り込みに必要な時間以上の一定周期で送信タイミング信号101を連続して出力し」、「疑似ランダム信号発生部13ではマイクロコンピュータ10からの送信タイミング信号101の立ち上がりエッジに基づいて前回の疑似ランダムデータをカウンタ部14に出力し」、「カウンタ部14は、パルス信号の送信毎に疑似ランダム信号発生部13からロードされた疑似ランダムデータ104を、PLL発振器12からの第2のクロックパルス103でカウントして、サンプリング開始信号および送信開始信号106を出力し」、「送信部15では、カウンタ部14から送信開始信号106を受けると同時にレーザダイオードドライブ回路を駆動して、送信パルス信号107を目標物に向かって出力」するから、引用発明の「マイクロコンピュータ部10」は、「送信部15」から発光する「パルス信号」の出力タイミングを制御しているということができる。
したがって、前記イの点も踏まえると、本件発明と引用発明は、「前記パルス光発光部から発光する前記パルス光の発光タイミングを制御」する「制御部」を有する点で共通する。

オ 引用発明は、「前記送信手段のパルス信号が送信されてから前記受信手段で反射パルス信号が受信されるまでの伝播時間を測定し、前記伝播時間に基づいて前記目標物までの距離を算出する距離検出手段」を備えるところ、「マイクロコンピュータ部10」が、「受信信号データとして時間順に記憶された平均メモリ内容から目標物を認識し、認識したメモリアドレスからパルス走行時間を演算で求め、次いで、パルス走行時間に基づいて目標物までの距離を求める」ものであるから、前記ウの点も踏まえると、引用発明の「マイクロコンピュータ部10」は、「受信部16」で受信した「反射パルス信号」の受信タイミングから「前記目標物」までの距離を求めるものであるということができる。
したがって、前記イの点も踏まえると、本件発明と引用発明は、「前記パルス光発光部から発光する前記パルス光の発光タイミングを制御し、かつ、前記光センサ部で検知した前記反射光の受光タイミングから前記測定対象物までの距離を判定する制御部」を有する点で共通する。


カ 引用発明の「距離測定装置の制御部」を構成する「マイクロコンピュータ部10」は、内部クロックの時間制御を使用して1回の測距データ取り込みに必要な時間以上の一定周期で送信タイミング信号101を連続して出力し」、「疑似ランダム信号発生部13ではマイクロコンピュータ10からの送信タイミング信号101の立ち上がりエッジに基づいて前回の疑似ランダムデータをカウンタ部14に出力した後、送信タイミング信号101の立ち下がりエッジで次回の送信タイミングを遅らせるための疑似ランダムデータ104の生成を行い」、「疑似ランダム信号発生部13はM系列信号発生器からなり、パルス信号の送信毎に送信タイミングを変化させるための疑似ランダムデータ104を更新して出力し」、「カウンタ部14は、パルス信号の送信毎に疑似ランダム信号発生部13からロードされた疑似ランダムデータ104を、PLL発振器12からの第2のクロックパルス103でカウントして、サンプリング開始信号および送信開始信号106を出力し」、「送信部15では、カウンタ部14から送信開始信号106を受けると同時にレーザダイオードドライブ回路を駆動して、送信パルス信号107を目標物に向かって出力」するものであるから、引用発明の「距離測定装置の制御部」を構成する「マイクロコンピュータ部10」は、「送信パルス信号」をランダムな時間遅延させたタイミングに設定するものであるということができる。また、遅延時間が次のパルス信号と干渉してはいけないことは自明であるから、遅延時間がパルス信号の各周期内であるべきことは自明である。
したがって、本件発明と引用発明は、「前記制御部は、前記発光タイミングを、各周期内において、前記各周期の開始時からランダムな第1の時間遅延させたタイミングに設定する」「制御部」を備える点で共通する。

(2)本件発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
上記(1)の本件発明と引用発明の対比の結果を総合すると、本件発明と引用発明は、次の「一致点」の点で一致し、「相違点」の点において相違する。
<一致点>
測定対象物に向けてパルス光を発光するパルス光発光部と、
前記測定対象物で反射した前記パルス光の反射光を受光する光センサ部と、
前記パルス光発光部から発光する前記パルス光の発光タイミングを制御し、かつ、前記光センサ部で検知した前記反射光の受光タイミングから前記測定対象物までの距離を判定する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記発光タイミングを、各周期内において、前記各周期の開始時からランダムな第1の時間遅延させたタイミングに設定する
距離測定装置。」

<相違点>
本件発明においては、前記制御部は、「K周期(K:2以上の自然数)の符号長を有する擬似ランダム符号を生成し、前記擬似ランダム符号に基づいて、前記K周期からN個の周期(N:K未満の自然数)をランダムに選択し、前記ランダムに選択されたN個の周期」について発光タイミングをランダムな第1の時間遅延させたタイミングに設定するのに対して、引用発明においては、制御部は、このような設定を行わない点。

(2)判断
ア 相違点の想到容易性について
相違点の前記制御部は、「K周期(K:2以上の自然数)の符号長を有する擬似ランダム符号を生成し、前記擬似ランダム符号に基づいて、前記K周期からN個の周期(N:K未満の自然数)をランダムに選択し、前記ランダムに選択されたN個の周期」について発光タイミングをランダムな第1の時間遅延させたタイミングに設定する点について、本願の明細書の段落【0042】?【0045】及び【0024】及び【図2】を参酌すると、次のように記載されている。

「 【0042】
擬似ランダム符号は、例えばM系列符号、ゴールド系列符号など任意の符号を用いてもよい。擬似ランダム符号は、距離測定装置1ごとに固有の符号を割り当てることが望ましいが、フレームごと、あるいは測定距離ごとにランダムに割り当ててもよい。なお、フレームとは、1回の距離測定が完了する期間をいう。すなわち、分割した全ての測定距離の測定が完了する期間をいう。また、擬似ランダム符号は、パルス光の、距離ごとに必要なパルス数に合わせて、符号長を変化させてもよい。例えば、生成したPN符号の0及び1で構成されるビット列を、基準タイミングごとのパルス光の有無に割り当て、0ではパルスを発光せず、1ではパルスを発光する構成とすると、擬似ランダム符号をパルス光の発光パターンによって表現することができる。なお、0でパルスを発光し、1でパルスを発光しないパターンによって表現してもよい。
【0043】
ランダム遅延発生部45は、基準タイミングごとの擬似ランダム符号発光パターンについて、基準タイミングごとのパルス光それぞれに対してランダムな遅延を発生させる。図2の(b)に示す擬似ランダム符号発光パターンについて、基準タイミング区間ごとにランダムな遅延時間Trを発生させ、最終的なパルス光発光タイミングを決定する。遅延時間Trは、あらかじめ設定した最大値Tr_maxを超えない範囲(Tr≦Tr_max)で発生する。
【0044】
以上により、パルス光発光部20からのパルス光の発光タイミングは、連続するK周期のうちランダムに選択されたN個の周期の各周期内において、各周期の開始時からランダムな遅延時間Trだけ遅延させたタイミングに設定される。なお、遅延時間Trは、本開示における第1の時間に相当する。
【0045】
パルス光発光部20は、上記のプロセスで設定されたパルス光発光タイミングに基づいて、パルス光の発光を行う。」

「【0024】
【図1】図1は、実施の形態1に係る距離測定装置のブロック図である。
【図2】図2は、実施の形態1に係る距離測定装置における信号タイミングを示すタイミングチャートであり、(a)は本開示の擬似ランダム符号のタイミングチャートの一例、(b)は擬似ランダム符号に基づいたパルス列のタイミングチャートの一例、(c)は遅延Trが付加されたパルス列のタイミングチャートの一例である。」

「【図2】



上記の記載を参酌すると、K周期のうち、ランダムに選択されたN個は、全て発光パターンで、非選択のものは非発光パターンであることが理解される。
ここで、引用文献2には、擬似ランダム符号列を送信し、自己の送信した擬似ランダム符号列を識別し、自己の送信したパルス符号と他のレーダー装置の送信したパルス符号とを区別して目標物までの距離を正確に測定できるようなパルス波レーダー装置を提供するため、M=2^(n)-1の符号長の擬似ランダム符号列を発生させることが記載されている。
引用発明と引用文献2に記載の技術は、パルス波を使用した距離の測定技術の点で共通し、かつ、自他の距離測定装置の発信したパルス光を識別するという課題を共通するものであるから、当該課題の解決をより確実なものとするため、両技術を併せ用いるようにすることは、当業者にとっては自明のことである。
すなわち、引用発明における、一定周期で発信されるパルス信号について、他の距離測定装置によって発信されたパルス信号と識別をするために、引用文献2に記載された、M=2^(n)-1の符号長の擬似ランダム符号列を発生させること、すなわち、M(K:2以上の自然数)の符号長を有する擬似ランダム符号を生成し、前記擬似ランダム符号に基づいて、前記M周期からN個の周期(N:M未満の自然数)をランダムに選択し、前記ランダムに選択されたN個」のパルス信号のみを発信するようにすることは、当業者には自明である。
そして、この制御を行うのは、本件発明の「制御部」に相当する「マイクロコンピュータ部10」であり、遅延されたタイミングに設定されるのは、当該N個のパルス信号であることは自明である。
そうすると、引用発明において、前記制御部は、「K周期(K:2以上の自然数)の符号長を有する擬似ランダム符号を生成し、前記擬似ランダム符号に基づいて、前記K周期からN個の周期(N:K未満の自然数)をランダムに選択し、前記ランダムに選択されたN個の周期」について発光タイミングをランダムな第1の時間遅延させたタイミングに設定する、とすることは、当業者が引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に想到し得たものである。

イ 請求人の主張について
(ア)請求人は、審判請求書において、次の2つの主張をしている。
<主張1>
引用文献1及び引用文献2はいずれも耐干渉性を向上させる目的を有するが、疑似ランダム符号の符号ビット長が長大になれば測定時間がかかるという課題を認識していないことから、引用文献1及び引用文献2を組み合わせる動機付けが弱いと考えられる。言い換えれば、本願請求項1における「測定時間の増加を抑制する効果」は、引用文献1及び引用文献2から容易に予想できないと考えられる。
<主張2>
本願請求項1の「前記1つの光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する複数回の露光を行い、または、前記複数の光センサ部は、前記N個の各周期内において異なる距離に対応する異なるタイミングで露光を行う」については、引用文献1にも引用文献2にも示唆するものがない。また、これによる「誤検知を抑制して信頼性を向上させる効果」は、引用文献1からも引用文献2からも予想できないと考える。

(イ)上記請求人の主張1について検討すると、同じ目的を達成するために技術手段を併せ用いることは、当業者にとっては自明のことであり、本件発明の想到容易性を否定するほどに動機付けが弱いとは認められない。
また、「測定時間の増加を抑制する効果」については、同じ符号長での識別性が向上することは自明であるから、逆に識別性を同じ程度にする場合に符号長が短くなることは、当業者には自明である。請求人の主張する効果は、当該効果を言い換えただけのものにすぎないから、当該構成のものとして当業者が予測できない効果であるとは認められない。したがって、請求人の主張1は採用できない。

(ウ)請求人の主張2は、却下される前の請求項の記載に基づく主張であるから、採用することはできない。

ウ 判断の小括
以上検討のとおり、上記相違点は、引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。また、本件発明の効果としては、当業者が予測困難な格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

第4 むすび
以上検討のとおり、本件発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-25 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-12 
出願番号 特願2017-564287(P2017-564287)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S)
P 1 8・ 536- Z (G01S)
P 1 8・ 537- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼場 正光  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱本 禎広
岡田 吉美
発明の名称 距離測定装置  
代理人 新居 広守  
代理人 道坂 伸一  
代理人 寺谷 英作  
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