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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G
管理番号 1374666
審判番号 不服2019-16324  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-03 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2018- 43685「コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月26日出願公開、特開2018-117142〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月26日(優先権主張 平成26年3月31日)に出願した特願2014-171793号の一部を平成30年3月12日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成31年 2月22日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 8月27日付け:拒絶査定
令和 1年12月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 9月 7日付け:補正却下の決定、拒絶理由通知書
令和 2年10月29日 :意見書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成31年4月26日の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりである(以下「本願発明」という)。

「少なくとも1種のポリプロピレン樹脂および少なくとも1種の有機系造核剤を含むポリプロピレン樹脂組成物からなり、
前記ポリプロピレン樹脂組成物は、メソペンタッド分率が、94.0%以上98.0%未満であるポリプロピレン樹脂を含有し、
前記有機系造核剤がノニトール系造核剤、キシリトール系造核剤、及びアミド系造核剤からなる群から選択される少なくとも1種の造核剤である、コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」

第3 当審拒絶理由の概要
令和2年9月7日付け拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知書」という。)で通知した拒絶理由のうち、請求項1に係る拒絶の理由は、次のとおりである。

本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2012-209541号公報
引用文献2:特開2007-246898号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特表2013-538258号公報
引用文献4:中国特許出願公開第101434607号明細書

第4 引用文献
1 引用文献1
(1)引用文献1には、「コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム」に関して、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0001】
本発明は、包装用や工業用等に好適なコンデンサ用二軸配向ポリプロピレンフィルムに関するものであり、さらに詳しくはコンデンサ用誘電体として常温から高温にかけて安定した耐電圧特性を有するコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムに関するものである。」

「【0038】
結晶構造を均一とするための方法としては、原料およびキャスト時の冷却条件を共に適性化することが望ましい。以下、順に好ましい原料組成等を述べつつ、製法について説明する。
【0039】
まず、原料であるポリプロピレン樹脂としては、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)が2?5であることが好ましく、更に好ましくは2?4.5であることが好ましい。Mw/Mnはポリプロピレン樹脂の分子量分布を示すパラメータで、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって得られる。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が小さいことを意味するが、Mw/Mnが小さいと、溶融ポリマーをシート状に成形する際のシート厚みの均一性が低下したり、2軸延伸性が低下することがある。しかしながら、Mw/Mnが小さいと、ポリプロピレン樹脂の分子量が揃っているために、製膜において、結晶サイズを均一化することが可能であるため好ましい。Mw/Mnが5を超えた場合は結晶サイズが不均一となるおそれがある。Mw/Mnの下限としては理論上その値は1となるが、これは単一分子量の樹脂を意味し、現在の触媒技術では工業的に得ることが困難であり、実用上はMw/Mnは2以上である。
-(中略)-
【0043】
なお、Mw/Mnが5を超える樹脂を使用する場合には、結晶核剤を添加することによって、数多くの核からほぼ同時に結晶化が始まり、結晶成長の拡がりが全体的に抑制されるために、結晶サイズを均一化することができる。核剤の種類としては、α晶核剤(ジベンジリデンソルビトール類、安息香酸ナトリウム等)を添加することが好ましい。但し、これらの結晶核剤を添加すると結晶化度が上がりやすくなるために、常温における耐電圧性が高くなりやすく、本願にて目的としている25℃と100℃における耐電圧の差を少なくすることが難しくなる場合があるため、極力使用しないことが好ましい。
【0044】
また、ポリプロピレン樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有せしめることができる。」

「【0097】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。
【0098】
(実施例1)
メタロセン化合物として、ジメチルシリレンビス-(2-メチル-4-イソプロピル-インデニル)ジルコニウムジクロライド、助触媒としてメチルアルミノキサン(東ソー・アクゾ社製)を用いて重合したポリプロピレンのメソペンタッド分率が0.95で、Mw/Mnが3であるポリプロピレン樹脂を用いて、温度260℃の押出機に供給し、樹脂温度255℃でT型スリットダイよりシート状に溶融押出し、該溶融シートを2つの冷却ドラムを用いて冷却固化させた。この際の1つ目の冷却ドラムを冷却ドラム1、2つ目の冷却ドラムを冷却ドラム2とする。具体的には、60℃に保持された冷却ドラム1に接触させた後に30℃に保持された冷却ドラム2に接触させて冷却固化させた。この際、110?135℃の保持時間は放射温度計の測定の結果1.5秒であった。
【0099】
次いで該シートを130℃保たれたロール上で30秒保持し、その後115℃に保たれた周速差を設けたロール間に通して長手方向に4.7倍に延伸した。引き続き該フィルムをテンターに導き、150℃の温度で幅方向に10倍延伸し、次いで幅方向に6%の弛緩を与えながら140℃で熱処理を行ない、フィルム厚みが4.0μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。さらに該フィルムの冷却ドラム1と接する面に20W・min/m^(2)の処理強度で大気中でコロナ放電処理を行った。こうして得られた二軸延伸ポリプロピレンフィルムの特性は表1に示す通りであった。
-(中略)-
【0103】
(実施例5)
チーグラーナッタ触媒を用いて重合したポリプロピレンのメソペンタッド分率が0.95で、Mw/Mnが8であるポリプロピレン樹脂(大韓油脂化社製 5014L)を用いて、さらに樹脂中に結晶核剤として分岐鎖状ポリプロピレン樹脂(Basell社製高溶融張力ポリプロピレン Profax PF-814)を0.5質量%ブレンドした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが4.0μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0104】
(実施例6)
チーグラーナッタ触媒を用いて重合したポリプロピレンのメソペンタッド分率が0.95で、Mw/Mnが8であるポリプロピレン樹脂(大韓油脂化社製 5014L)を用いて、さらに樹脂中に結晶核剤として分岐鎖状ポリプロピレン樹脂(Basell社製高溶融張力ポリプロピレン Profax PF-814)を2.0質量%ブレンドした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚みが3.0μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。」

(2)上記記載から、引用文献1には以下の事項が記載されている。
・上記【0001】によれば、引用文献1記載の発明は、コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムに関するものである。
・上記【0039】及び【0044】によれば、原料であるポリプロピレン樹脂には、種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有せしめることができる。
・上記【0039】及び【0043】によれば、ポリプロピレン樹脂は、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)が5を超えた場合は結晶サイズが不均一となるおそれがあり、Mw/Mnが5を超える樹脂を使用する場合には、α晶核剤を添加することによって、数多くの核からほぼ同時に結晶化が始まり、結晶成長の拡がりが全体的に抑制されるために、結晶サイズを均一化することができるものである。
・上記【0103】及び【0104】によれば、コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、メソペンタッド分率が0.95であり、Mw/Mnが8であるポリプロピレン樹脂を用いて、さらに樹脂中に結晶核剤として分岐鎖状ポリプロピレン樹脂をブレンドして得たものである。
・上記【0103】、【0104】、【0098】及び【0099】によれば、分岐鎖状ポリプロピレン樹脂がブレンドされたポリプロピレン樹脂を、押出機に供給してシート状に溶融押出し、冷却ドラムを用いて冷却固化し、次いで該シートを長手方向に延伸し、幅方向に延伸して二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ている。

(3)したがって、上記摘記事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、
原料であるポリプロピレン樹脂には、種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有せしめることができ、
ポリプロピレン樹脂は、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)が5を超えた場合は結晶サイズが不均一となるおそれがあり、Mw/Mnが5を超える樹脂を使用する場合には、α晶核剤を添加することによって、数多くの核からほぼ同時に結晶化が始まり、結晶成長の拡がりが全体的に抑制されるために、結晶サイズを均一化することができるものであり、
メソペンタッド分率が0.95であり、Mw/Mnが8であるポリプロピレン樹脂を用いて、さらに樹脂中に結晶核剤として分岐鎖状ポリプロピレン樹脂をブレンドし、該ブレンドされたポリプロピレン樹脂を、押出機に供給してシート状に溶融押出し、冷却ドラムを用いて冷却固化し、次いで該シートを長手方向に延伸し、幅方向に延伸して得た、
コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」

2 引用文献2
引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

「【0001】
本発明は、包装用や工業用等に好適な二軸配向ポリプロピレンフィルムに関する。さらに詳しくはコンデンサ用誘電体として好適な加工性と高温での耐電圧性に優れた二軸配向ポリプロピレンフィルムに関する。」

「【0021】
本発明は、前記課題、つまり80℃以上という高温雰囲気温度条件下でも優れた耐電圧性と信頼性を発揮する二軸配向ポリプロピレンフィルムについて、鋭意検討した結果、特定な分岐鎖状ポリプロピレン(H)を直鎖状ポリプロピレンに混合してみたところ、溶融押出した樹脂シートの冷却工程で生成する球晶サイズを小さく制御でき、延伸工程で生成する絶縁欠陥の生成を小さく抑えることをできることを見出した。更に、分岐鎖状ポリプロピレン(H)は、α晶核剤的な作用を有しながら、少量添加の範囲であれば結晶変態による粗面形成も可能となり、前記の球晶サイズを小さくする効果と相まって、クレータサイズを小さく、緻密に形成することができ、突起の均一性に優れ、しかもその粗さ密度のバランスにも優れた特徴的な表面粗さを有する二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することに成功したものである。すなわち、かかる特定な分岐鎖状ポリプロピレン(H)を混合することにより、表面光沢度が90?135%である特徴的な梨地調の凹凸を有する基層に10点平均粗さ(Rz)を0.50?1.50μm付与せしめ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。」

「【0050】
本発明においては、本発明の目的に反しない範囲で、結晶核剤を添加することができる。既述の通り、分岐鎖状ポリプロピレン樹脂は既にそれ自身でα晶結晶核剤効果を有するものであるが、別種のα晶核剤(ジベンジリデンソルビトール類、安息香酸ナトリウム等)、β晶核剤(1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム、N,N’-ジシクロヘキシルー2,6-ナフタレンジカルボキサミド等のアミド系化合物、キナナクリドン系化合物等)等が例示される。
【0051】
但し、本発明ではこれらの結晶核剤を添加することにより、目的とする表面粗さが得難くなったり、高温での体積固有抵抗の低下等電気特性にも悪影響を与える可能性があり、添加量としては、0.1重量%未満とするのが好ましく、さらに好ましくは実質的に添加されていないことが好ましい。
【0052】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上述した特性を与えうる原料を用い、二軸配向されることによって得られる。二軸配向の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの表面形状を制御する点においてステンター逐次二軸延伸法により製膜されたものが好ましく用いられる。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みは、1.5?50μmが好ましく、より好ましくは2.0?30μm、特に好ましくは2.5?20μmである。フィルムの厚みが薄すぎると、機械的強度や絶縁破壊強度に劣る場合がある。フィルムの厚みが厚すぎると均一な厚みのフィルムを製膜することが困難になり、またコンデンサ用の誘電体として用いた場合、体積当たりの容量が小さくなるため好ましくない。」

上記記載によれば、引用文献2には、以下の技術が記載されている。
「二軸延伸を行うポリプロピレン樹脂組成物において、α晶核剤として分岐鎖状ポリプロピレン樹脂や別種のα晶核剤を添加して、粗面を形成すること」

3 引用文献3
引用文献3には、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

「【0001】
本発明は、新規なポリプロピレン組成物と、該ポリプロピレン組成物から作られる二軸配向ポリプロピレンフィルム及びキャパシタフィルムに関する。」

「【0035】
さらなる成分として、α核形成剤(N)を、上記ポリプロピレン組成物(PP-C)に含有させることができる。好ましいα核形成剤(N)は、ポリプロピレン(PP)に可溶なものである。可溶性のα核形成剤は、一連の加熱溶解及び冷却再結晶化を示し、分散度を改善することによって特徴付けられる。上記溶解及び再結晶化を測定する方法は、例えば、Kristiansenらにより、Macromolecules 38(2005)、10461?10465頁に、そしてBalzanoらにより、Macromolecules 41(2008)、5350?5355頁に記述されている。詳しくは、溶解及び再結晶化は、ISO6271-10:1999によって定義されているように、動的モードでの溶融レオロジーを用いることによってモニターすることができる。
【0036】
したがって、α核形成剤(N)は、ソルビトール誘導体、ノニトール誘導体、以下に定義する通りの式N-Iのベンゼン誘導体(例えば、ベンゼントリスアミド)、及びそれらの混合物からなる群から選択される。」

「【0055】
キャパシタフィルムにおける1つの重要な側面は、灰含有量が低いことであり、さもなければ誘電特性が悪影響を受ける。したがって、たとえ本発明のポリプロピレン組成物(PP-C)がα核形成剤(N)の存在を必要としても、灰含有量が少ない、すなわちISO3451-1(1997)に基づいて測定された灰含有量が60ppm以下、より好ましくは50ppm以下、例えば20?55ppm未満の範囲内であることが好ましい。
【0056】
通常通り、1ppmの添加物は、1kgのポリプロピレン組成物(PP-C)中の1mgの添加物に相当する。
【0057】
とりわけ良好な結果が達成可能であるのは、ポリプロピレン組成物(PP-C)が
(a)少なくとも70wt%、より好ましくは、少なくとも85wt%、よりいっそう好ましくは、少なくとも90wt%、さらにいっそう好ましくは、少なくとも95wt%のポリプロピレン(PP)と、
(b)0.005?1.5wt%、より好ましくは0.005?0.5wt%、よりいっそう好ましくは0.005?0.1wt%、さらにいっそう好ましくは0.05?0.005wt%のα核形成剤(N)、
とを含む場合である。
【0058】
上記したように、ポリプロピレン(PP)は、好ましくは、ポリプロピレン組成物(PP-C)内の唯一のポリマー成分である。
【0059】
さらに、本発明は、二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムにも関し、この二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムには、本発明において定義するポリプロピレン組成物(PP-C)が少なくとも80wt%含まれ、より好ましくは少なくとも80wt%含まれるもので、よりいっそう好ましくは上記ポリプロピレン組成物(PP-C)からなる。好ましくは、二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムは、機械方向に少なくとも4倍、好ましくは少なくとも5倍の延伸率を有し、かつ横方向に少なくとも4倍、好ましくは少なくとも5倍の延伸率を有するものであり、より好ましくは機械方向に少なくとも9倍の延伸率を有し、かつ横方向に少なくとも5倍の延伸率を有する。」

「【0190】
NA2は、Millikenから市販されているα核形成剤NX8000である。
【0191】
NA3は、Cibaから市販されているα核形成剤Irgaclear XT 386である。」

上記記載によれば、引用文献3には、以下の技術が記載されている。
「コンデンサ用の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、α核形成剤NX8000やIrgaclear XT 386を用いること」


第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明のポリプロピレン樹脂中に結晶核剤としてブレンドされる「分岐鎖状ポリプロピレン樹脂」は、本願発明の「有機系造核剤」に相当する。

2 引用発明の「分岐鎖状ポリプロピレン樹脂」をブレンドした「ポリプロピレン樹脂」は、本願発明の「少なくとも1種のポリプロピレン樹脂および少なくとも1種の有機系造核剤を含むポリプロピレン樹脂組成物」に相当する。
ただし、有機系造核剤に関して、本願発明は「前記有機系造核剤がノニトール系造核剤、キシリトール系造核剤、及びアミド系造核剤からなる群から選択される少なくとも1種の造核剤である」のに対し、引用発明は結晶核剤として分岐鎖状ポリプロピレン樹脂を用いる点で相違する。

3 引用発明の「メソペンタッド分率が0.95」である「ポリプロピレン樹脂」を用いることは、本願発明の「前記ポリプロピレン樹脂組成物は、メソペンタッド分率が、94.0%以上98.0%未満であるポリプロピレン樹脂を含有し」ていることに含まれる。

4 引用発明の「コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、メソペンタッド分率が0.95であるポリプロピレン樹脂中に分岐鎖状ポリプロピレン樹脂をブレンドして得ており、本願発明の「コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム」に相当する。

上記1ないし4から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
少なくとも1種のポリプロピレン樹脂および少なくとも1種の有機系造核剤を含むポリプロピレン樹脂組成物からなり、
前記ポリプロピレン樹脂組成物は、メソペンタッド分率が、94.0%以上98.0%未満であるポリプロピレン樹脂を含有する、コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。

<相違点>
有機系造核剤に関して、本願発明は「前記有機系造核剤がノニトール系造核剤、キシリトール系造核剤、及びアミド系造核剤からなる群から選択される少なくとも1種の造核剤である」のに対し、引用発明は結晶核剤として分岐鎖状ポリプロピレン樹脂を用いる点。

第6 判断
1 相違点について
引用文献3には、コンデンサ用の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、α核形成剤NX8000やIrgaclear XT 386を用いることが記載されている(上記「第4 3」参照)。
ここで、引用文献3の「NX8000」及び「Irgaclear XT 386」は、本願明細書の【0131】【表2】に記載された「NA-S1」「ノニトール系溶解型造核剤(ミリケン・アンド・カンパニー社製、NX-8000)」及び「NA-S5」「アミド系溶解型造核剤(BASF製、IRGACLEAR(登録商標)XT386)」と同じ造核剤であり、「NX8000」はノニトール系、「Irgaclear XT 386」はアミド系であると認められる。
そして、引用文献2に記載があるように、二軸延伸を行うポリプロピレン樹脂組成物において、α晶核剤として分岐鎖状ポリプロピレン樹脂や別種のα晶核剤を添加して、粗面を形成することは周知の技術事項であるところ(上記「第4 2」参照)、引用発明と引用文献3とは、どちらもコンデンサ用の二軸延伸ポリプロピレンフィルムという同じ技術分野に属し、フィルムに形成される結晶に着目したものであるから、引用発明のポリプロピレン樹脂にブレンドするα晶核剤として、引用文献3記載のノニトール系の「NX8000」やアミド系の「Irgaclear XT 386」を選択して、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

2 請求人の主張について
(1)請求人は、令和2年10月29日の意見書において、常温と高温における耐電圧特性差を低減したコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することを課題とする引用文献1記載の発明において、引用文献1の実施例5,6の結晶核剤としての分岐鎖状型ポリプロピレン樹脂を、別種のα核剤であって、しかも引用文献1には記載もされていない結晶核剤に置換又は併用して、高温における耐電圧性が低下するような設計変更を行う動機付けは、当業者にはない旨を主張している。
しかしながら、上記相違点についてで検討したとおり、二軸延伸を行うポリプロピレン樹脂組成物において、α晶核剤として分岐鎖状ポリプロピレン樹脂や別種のα晶核剤を添加して、粗面を形成することは周知の技術事項であるところ、引用発明と引用文献3とは、どちらもコンデンサ用の二軸延伸ポリプロピレンフィルムという同じ技術分野に属し、フィルムに形成される結晶に着目したものであるから、引用発明のポリプロピレン樹脂にブレンドするα晶核剤として、引用文献3記載のノニトール系の「NX8000」やアミド系の「Irgaclear XT 386」を選択する動機付けはあるといえる。

(2)また、請求人は、上記意見書において、ジベンジリデンソルビトール類、安息香酸ナトリウム等のα晶核剤は、結晶化度が上がりやすくなるために、常温における耐電圧性が高くなりやすく、引用文献1の実施例5,6において、添加を避けることが望ましい旨も主張している。
しかしながら、本願の請求項1の記載は「前記有機系造核剤がノニトール系造核剤、キシリトール系造核剤、及びアミド系造核剤からなる群から選択される少なくとも1種の造核剤」という選択的な記載である。
これらの選択的に記載された造核剤のうち、「ノニトール系造核剤」及び「アミド系造核剤」については、上記「1」で判断したとおりであるから、他に選択的に記載されている「キシリトール系造核剤」や、請求人が主張するソルビトール系等の造核剤について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明、引用文献3記載の技術事項、及び周知の技術事項から当業者が容易になし得たことである。

よって、請求人の主張を採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-30 
結審通知日 2021-04-06 
審決日 2021-04-23 
出願番号 特願2018-43685(P2018-43685)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多田 幸司  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 五十嵐 努
赤穂 嘉紀
発明の名称 コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム  
代理人 水谷 馨也  
代理人 田中 順也  

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