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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01M
管理番号 1374691
審判番号 不服2020-6299  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-08 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2016-568960「方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日国際公開、WO2015/177316、平成29年6月22日国内公表、特表2017-516941〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)5月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年5月21日(GB)英国)を国際出願日とする出願であって、平成31年3月6日付け(発送日:同年3月8日)で拒絶の理由が通知され、令和元年9月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和元年12月26日付け(発送日:令和2年1月8日)で拒絶査定がされ、これに対し、令和2年5月8日に拒絶査定不服審判が請求されたと同時に、特許請求の範囲の請求項1ないし32及び40ないし44の記載についての手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし44に係る発明は、令和2年5月8日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし44に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項33に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項33に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

[本願発明]
「内燃エンジンのクランクケースから燃焼室内への潤滑剤の進入を抑制または減少させる方法であって、該クランクケースにおける圧力が該燃焼室における圧力よりも低く維持されるように、吸引制御デバイスを使用して該燃焼室と該クランクケースとの間の圧力勾配を維持することを含む方法。」

第3 拒絶査定の概要
令和元年12月26日付けの拒絶査定の理由3の概要は次のとおりである。
理由3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

備考
・請求項33-35
・引用文献1

<引用文献等一覧>
1.特開2009-191790号公報

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2009-191790号公報(以下「引用文献1」という。)には、「エンジンのオイル消費量低減装置」に関して、図面(特に、【図1】及び【図2】を参照。)とともに次の記載がある。

ア 「【0010】
この本発明の一形態によれば、クランク室内圧力制御手段によって、筒内圧力検出手段及びクランク室内圧力検出手段によりそれぞれ検出された筒内圧力及びクランク室内圧力に基づいて、筒内圧力よりもクランク室内圧力が等しく又は低くなるように流量制御弁が制御される。すなわち、クランク室内とスロットル弁より上流側の吸気通路とを連通し、流量制御弁が介装された新気導入通路からクランク室内圧力が筒内圧力と等しく又は低くなるように制御された流量の新気が導入される。これにより、クランク室内圧力が筒内圧力と等しく又は低くなるので、オイルが燃焼室内に吸い込まれることがなく、オイル消費量の増大が抑制される。」

イ 「【0019】
図1を参照すると、本実施の形態におけるエンジン本体100は、シリンダブロック110の下部にクランクケース120が一体に設けられ、シリンダブロック110の上部にシリンダヘッド130及びヘッドカバー140が順次結合されて構成されている。そして、クランクケース120の下面には、底面がほぼ平坦で浅底のオイルパン部材150が不図示のボルトなどで取り付けられ、オイル受け部を形成している。」

ウ 「【0027】
電子制御ユニット(ECU)300は、CPU(中央演算装置)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリメモリ)、不揮発性メモリ、入出力ポート等を双方向バスで接続した公知の形式のデジタルコンピュータからなり、エンジンに設けられた各種センサと信号をやり取りして燃料噴射量、点火時期制御等の機関の基本制御を行う他、以下で述べるように、クランク室内の圧力制御も行う。上述した筒内圧力センサ200及びクランク室内圧力センサ202の他に、燃料噴射量、点火時期制御等を行うのに必要なセンサとして、吸入空気量を計測するためのエアフローメータ、機関回転数を得るためのクランク角センサ204、スロットル弁163の開度を得るためのスロットルポジションセンサ206や冷却水温センサなどがECU300に接続されており、これらの出力信号はECU300に供給される。なお、本実施形態では、車両の速度が車速センサ208から入力されている。」

エ 「【0032】
まず、エンジンが始動され制御がスタートされると、ステップS201において、筒内圧力センサ200からの検出入力信号に基づいて筒内圧力P(4気筒エンジンの#1ないし#4気筒の筒内圧力をそれぞれP1、P2、P3、P4とする)を取得する。次に、ステップS202に進み、クランク室内圧力センサ202からの検出入力信号に基づいてクランク室内圧力CPを取得する。
【0033】
そして、以降のステップS203ないしステップS206においては、例えば、エンジン100の点火順序(#1、#3、#4、#2)に従って、各気筒の筒内圧力P1、P3、P4及びP2とクランク室内圧力CPとがそれぞれ順に比較される。ここで、これらのステップS203ないしステップS206において、クランク室内圧力CPがいずれの筒内圧力P(P1、P3、P4及びP2)よりも低いとき、換言すると、「Yes」のときはステップS207に進む。そして、このステップS207においては流量制御弁196が閉じられているか否かが判定され、閉じられていないとき、換言すると、開で「No」のときは、この制御ルーチンは一旦終了される。すなわち、流量制御弁196の開状態がそのまま維持される。一方、閉じられているとき、換言すると、「Yes」のときはステップS208に進み流量制御弁196が開かれる。この流量制御弁196が開かれている状態では、第1新気導入通路194及び第2新気導入通路198を介してスロットル弁163より上流側の吸気通路162からクランク室内に新気が導入される結果、スカベンジポンプ182の吸引にもかかわらず、クランク室内圧力が筒内圧力と等しく又は低く維持され、オイルの燃焼室内への吸い込みが抑制される。
【0034】
また、上述のステップS203ないしステップS206のいずれかにおいて、クランク室内圧力CPがいずれかの筒内圧力P(P1、P3、P4及びP2)よりも高いとき、換言すると、「No」のときはステップS209に進み、流量制御弁196が閉じられる。この流量制御弁196が閉じられると、第1新気導入通路194及び第2新気導入通路198を介しての新気の導入が停止される結果、スカベンジポンプ182の吸引により、クランク室内圧力CPが低下され、オイルの燃焼室内への吸い込みが抑制される。
【0035】
ここで、上に説明した流量制御弁196が「開かれる」又は「閉じられる」とは、その「全開」又は「全閉」状態にされる場合に限られず、上述のステップS203ないしステップS206での判定の時点における流量制御弁196の開度位置から、例えば、所定の単位開度だけ「開かれる」又は「閉じられる」場合を含んでいる。
【0036】
また、上に説明した実施形態では、エンジン100の運転中に燃焼の有無に関係なく、常時、クランク室内圧力CPと筒内圧力Pとを検出して、筒内圧力Pよりもクランク室内圧力CPが等しく又は低くなるように流量制御弁196を制御するようにしたが、これは筒内圧力Pがクランク室内圧力CPよりも低くなり得るときのみ、筒内圧力Pよりもクランク室内圧力CPが等しく又は低くなるように流量制御弁196を制御するようにしてもよい。すなわち、エンジン100において、筒内圧力Pがクランク室内圧力CPよりも低くなり得るのは、図3に示すように、その吸入行程初期や膨張行程終期であるので、その期間に筒内圧力Pよりもクランク室内圧力CPが等しく又は低くなるように流量制御弁196を制御するのである。図3においては、縦軸に圧力、横軸にクランクアングル(CA°)を取って、吸入、圧縮、膨張行程に亘る筒内圧力Pの変化の様子を曲線aで、ピストン111の上下動に起因して変化するクランク室内圧力CPの様子を曲線bで表している。そこで、斜線を付した領域が筒内圧力Pがクランク室内圧力CPよりも低くなり得るクランクアングルの期間である。なお、かかるクランクアングルの期間は事前に実験等によって求めてマップにしておき、このマップに基づいて流量制御弁196を制御する期間が設定される。」

オ 上記ア及びエ(特に段落【0033】参照。)の記載事項は、オイル消費量の増大を抑制するため、オイルが燃焼室内に吸い込まれることがないように、クランク室内圧力制御手段により、クランク室内圧力が筒内圧力と等しく又は低く維持するというものである。

カ 上記ウ、エの記載並びに【図1】及び【図2】の図示内容から、オイル消費量低減のために行われるクランク室内の圧力制御において、流量制御弁196及びスカベンジポンプ182が用いられていることから、流量制御弁196を制御する電子制御ユニット(ECU)300及びスカベンジポンプ182を使用してクランク室内の圧力制御を行っているといえる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

[引用発明]
「エンジン100のクランク室内から燃焼室内へのオイルの浸入を抑制する方法であって、該クランク室内圧力が筒内圧力と等しく又は低く維持されるように、電子制御ユニット(ECU)300及びスカベンジポンプ182を使用してクランク室内の圧力制御を行うことを含む方法。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「エンジン100」はその機能、構成及び技術的意義からみて本願発明の「内燃エンジン」に相当し、以下同様に、「クランク室内」は「クランクケース」に、「燃焼室内」は「燃焼室内」に、「オイル」は「潤滑剤」に、「電子制御ユニット(ECU)300及びスカベンジポンプ182」は「吸引制御デバイス」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「燃焼室内へのオイルの浸入を抑制する方法」における「抑制」は、オイルの浸入を減少させることを含むことは自明であるため、本願発明の「燃焼室内への潤滑剤の進入を抑制または減少させる方法」に相当する。
そして、引用発明の「該クランク室内圧力が筒内圧力と等しく又は低く維持されるように、電子制御ユニット(ECU)300及びスカベンジポンプ182を使用してクランク室内の圧力制御を行う」と本願発明の「該クランクケースにおける圧力が該燃焼室における圧力よりも低く維持されるように、吸引制御デバイスを使用して該燃焼室と該クランクケースとの間の圧力勾配を維持する」とは、「クランクケースにおける圧力を調整するように、吸引制御デバイスを使用して該クランクケースの圧力を制御する」点に限り一致する。

したがって、両者は、
「内燃エンジンのクランクケースから燃焼室内への潤滑剤の進入を抑制または減少させる方法であって、該クランクケースにおける圧力を調整するように、吸引制御デバイスを使用して該クランクケースの圧力を制御することを含む方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
「クランクケースにおける圧力を調整するように、吸引制御デバイスを使用して該クランクケースの圧力を制御する」に関し、本願発明は「該クランクケースにおける圧力が該燃焼室における圧力よりも低く維持されるように、吸引制御デバイスを使用して該燃焼室と該クランクケースとの間の圧力勾配を維持する」のに対し、引用発明は「該クランク室内圧力が筒内圧力と等しく又は低く維持されるように、電子制御ユニット(ECU)300及びスカベンジポンプ182を使用してクランク室内の圧力制御を行う」点。(下線部は当審によるもの。)

第6 判断
相違点について検討すると、引用文献1の段落【0010】には、クランク室内圧力制御手段によって、「筒内圧力よりもクランク室内圧力が等しく又は低くなるように流量制御弁が制御され」、「これにより、クランク室内圧力が筒内圧力と等しく又は低くなるので、オイルが燃焼室内に吸い込まれることがなく、オイル消費量の増大が抑制される」と記載されている。つまり、オイルの吸い込みをなくすために、クランク室内圧力を筒内圧力と等しく又は低く維持することで圧力勾配を維持することが示されている。
ここで、クランク室内圧力を筒内圧力と等しく又は低く維持するかを考慮するにあたり、オイルの燃焼室への吸い込みの抑制を確実にするために、クランク室内圧力を低く維持する、すなわち、圧力勾配を維持することは当業者が適宜なし得ることである。
そうすると、引用発明により、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、本願発明は、全体としてみても、引用発明から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和元年9月9日提出の意見書(3)において、
「引用文献1(特開2009-191790号公報)は、内燃機関における空燃比の悪化を伴わず、オイル消費量を削減することに関するものであります。
これは、クランクケース内の圧力を感知するため、また、シリンダ内の空気圧を高めるための流量制御弁を使用するために、圧力センサを使用することによって行われています。図2のフローチャート及び段落0032-0035の記載によれば、クランクケース内よりもシリンダ内における圧力が低いとき、流量制御弁196は閉じられ、もはや、きれいな空気はクランクケース内に導入されず、クランクケース内の圧力が低下し、結局は、シリンダ内の圧力よりも低くなります。
これは、請求項33-35における使用と同じではありません。請求項33-35では、吸引装置がクランクケース内の圧力を積極的・能動的に減少させるのであり、引用文献1のように消極的・受動的ではありません。」と主張する。
しかしながら、本願発明は、クランクケースから燃焼室内へ潤滑が侵入しないよう圧力勾配を維持すること(請求項33)を発明特定事項とする潤滑剤の侵入を抑制または減少させる方法であり、一方、引用発明も同様に、クランク室内のオイルが燃焼室内に吸い込まれることがないよう圧力制御を行うものである(引用文献1段落【0010】)。
また、積極的・能動的に圧力を減少させているか否かについて、引用発明においても、スカベンジポンプ182、及び流量制御弁196を制御する電子制御ユニット(ECU)300を備え、これらの制御装置によってクランクケース内の圧力を積極的・能動的に制御しているということができ、請求人の上記主張は当を得ない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-01-04 
結審通知日 2021-01-06 
審決日 2021-01-25 
出願番号 特願2016-568960(P2016-568960)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 篠原 将之齊藤 彬  
特許庁審判長 谷治 和文
特許庁審判官 鈴木 充
北村 英隆
発明の名称 方法及び装置  
代理人 浜田 治雄  

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