• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F25D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F25D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F25D
管理番号 1374707
審判番号 不服2020-10307  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-22 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2018-221208「冷蔵庫」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月28日出願公開、特開2019- 49409〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月27日に出願した特願2012-144145号の一部を平成29年4月4日に新たな特許出願とした特願2017-74406号について、さらにその一部を平成30年11月27日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 1年 9月10日付け 拒絶理由の通知
令和 1年11月14日 手続補正書、意見書の提出
令和 1年12月 4日付け 拒絶理由(最後)の通知
令和 2年 1月29日 手続補正書、意見書の提出
令和 2年 4月14日付け 補正却下、拒絶査定(4月28日送達)
令和 2年 7月22日 審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 1月15日付け 当審による拒絶理由の通知
令和 3年 3月 8日 手続補正書、意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和3年3月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
左側板、右側板および背板を有する外箱と、この外箱内に配置され、前記外箱の左側板、右側板および背板に対応する左側板、右側板および背板を有する内箱と、この内箱と前記外箱との間に配置されて各部の断熱壁を構成する真空断熱パネルとを備え、内部に貯蔵室を有する断熱箱体を具備し、
前記真空断熱パネルは、前記内箱の左側板と前記外箱の左側板との間、前記内箱の右側板と前記外箱の右側板との間、前記内箱の背板と前記外箱の背板との間、にそれぞれ備えられており、
前記内箱の左側板および右側板と背板とがなすコーナ部と前記外箱の左側板および右側板と背板とがなすコーナ部との間に、前記真空断熱パネルとは異なる発泡断熱材が充填されており、
前記発泡断熱材は、さらに前記コーナ部から前記内箱の背板と前記外箱の背板との間の前記真空断熱パネルの前方にわたって充填されており、且つ、当該真空断熱パネルの左右方向の中央部の前方には充填されておらず、且つ、当該真空断熱パネルの前方における前記発泡断熱材の厚さは、前記断熱箱体の左右方向における端部側よりも中央側の方が薄くなっており、且つ、前記内箱に設けられている孔が、当該真空断熱パネルの前方における前記発泡断熱材のうち左右方向における中央側に対向していることを特徴とする冷蔵庫。」

第3 令和3年1月15日付けで通知した拒絶の理由
当審において、令和3年1月15日付けで通知した拒絶の理由における理由2は、以下の内容を含む。
<理由2(進歩性)>
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1.特開2004-340194号公報

第4 理由2に関する当審の判断
1.引用文献1
(1) 当審の拒絶の理由において通知した引用文献1には、次の事項が記載されている。ただし、「・・・」は省略を意味する。また、下線は参考のため当審で付与したものである。以下、同様。
「【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る真空断熱材(1)を図示したものである。この真空断熱材(1)は、上記したエアロゲルと繊維構造物との複合体(11)をコア材として、これを外装体(12)内に収容した後、外装体(12)の周縁部に設けられた不図示の排気用開口部から外装体(12)内の空気を真空排気し、次いで該開口部を溶着その他の手段で封止することにより得られる矩形状の真空断熱パネルである。この真空断熱材(1)は、コア材としてエアロゲルと繊維構造物との複合体(11)を用いたものであるため、上記したように優れた断熱性能を有する。また、この複合体(11)はフレキシブルで取り扱いやすいものであるため、外装体(12)に収容する際の取り扱い性に優れ、真空断熱材の製造作業性に優れる。更に複合体(11)は軽量であるため、真空断熱材としても軽量なものが得られる。
・・・
【0025】
図2は、上記真空断熱材(1)を、冷蔵庫本体(2)と扉(3)の空隙内の厚み方向における外側寄り部分に配して、残りの空隙部分にポリウレタンフォーム(4)を発泡充填した例を図示したものである。
【0026】この構造は、冷蔵庫本体(2)を構成する外箱(21)の内側面に、真空断熱材(1)を貼り付けておき、この外箱(21)を内箱(22)と組み合わせるとともに、両者の間の空隙(23)にポリウレタンフォーム(4)の発泡原液を注入して発泡充填させることにより、形成することができる。扉(3)についても同様に、扉外側材(31)の背面に真空断熱材(1)を貼り付けておき、この扉外側材(31)を扉内側材(32)と組み合わせるとともに、両者の間の空隙(33)にポリウレタンフォーム(4)の発泡原液を注入して発泡充填させることにより、製造することができる。なお、真空断熱材(1)は、ポリウレタンフォーム(4)によって空隙(23)(33)内に固定一体化されるため、上記の貼り付けは仮止め程度でもよい。
・・・
【0030】
図4は、冷蔵庫本体(2)や扉(3)の空隙(23)(33)に部分的に厚みが薄い部分(24)(34)がある場合に、その薄い部分(24)(34)に上記真空断熱材(1)を配置した例を図示したものである。このように冷蔵庫の構造上、断熱層の厚みが他の部分よりも薄くなってしまう部分(24)(34)に、断熱性の高い上記真空断熱材(1)を配置することにより、このような薄い部分でも他の部分と同様の断熱性を確保することができる。
【0031】
なお、この例において、真空断熱材(1)の配置方法としては、冷蔵庫本体(2)の場合、上記薄い部分(24)における外箱(21)の内側面又は内箱(22)の外側面に真空断熱材(1)を貼り付けておき、両者を組み合わせてからポリウレタンフォーム(4)の発泡原液を注入すればよい。扉(3)の場合も同様に、上記薄い部分(34)における扉外側材(31)又は扉内側材(32)に真空断熱材(1)を貼り付けておけばよい。この場合、これら薄い部分(24)(34)において、上記図2や図3のように、真空断熱材(1)とポリウレタンフォーム(4)との2層構造としてもよい。また、図4の例では、薄い部分(24)を除くその他の部分では、合成樹脂発泡断熱材、即ちポリウレタンフォーム(4)単独を発泡充填しているが、この部分においても上記真空断熱材(1)を設置しても構わない。
・・・
【図面の簡単な説明】
・・・
【図2】(a)は本発明の一実施形態に係る冷蔵庫の縦断面図、(b)はその水平断面図である。
・・・
【図4】本発明の更に他の実施形態に係る冷蔵庫の水平断面図である。」
「【図2】


「【図4】



(2) 上記(1)の記載された事項から分かること
第4図から、次のア?カが明らかである。
ア 外箱(21)が、“左側板、右側板および背板を有”し、内箱(22)が、“外箱内に配置され、外箱の左側板、右側板および背板に対応する左側板、右側板および背板を有”し、真空断熱材(1)が、“内箱と外箱との間に配置されて各部の断熱壁を構成する”こと。
イ 冷蔵庫本体(2)が、“内部に貯蔵室を有する”こと。
ウ 真空断熱材(1)が、“内箱の背板と外箱の背板との間に備えられている”こと。
エ ポリウレタンフォーム(4)が、“内箱の左側板および右側板と背板とがなすコーナ部と外箱の左側板および右側板と背板とがなすコーナ部との間に、充填されている”こと。
オ ポリウレタンフォーム(4)が、“コーナ部から内箱の背板と外箱の背板との間の真空断熱材(1)の前方にわたって充填されており、且つ、当該真空断熱材(1)の左右方向の中央部の前方には充填されておらず、且つ、当該真空断熱材(1)の前方におけるポリウレタンフォーム(4)の厚さは、冷蔵庫本体(2)の左右方向における端部側よりも中央側の方が薄い”こと。
カ 内箱(22)が、“真空断熱材(1)の前方におけるポリウレタンフォーム(4)のうち左右方向における中央側に対向する部分を有している”こと。

また、「図4の例では、薄い部分(24)を除くその他の部分では、合成樹脂発泡断熱材、即ちポリウレタンフォーム(4)単独を発泡充填しているが、この部分においても上記真空断熱材(1)を設置しても構わない。」(【0031】)、第2図及び第4図から、真空断熱材(1)が、“内箱の左側板と外箱の左側板との間、内箱の右側板と外箱の右側板との間にも、それぞれ備えられている”ことが記載されているといえる。

(3) 引用文献1に記載された発明
上記(1)及び(2)の事項を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「左側板、右側板および背板を有する外箱(21)と、この外箱内に配置され、前記外箱の左側板、右側板および背板に対応する左側板、右側板および背板を有する内箱(22)と、この内箱と前記外箱との間に配置されて各部の断熱壁を構成する真空断熱パネルである真空断熱材(1)とを備え、内部に貯蔵室を有する冷蔵庫本体(2)を具備し、
前記真空断熱材(1)は、前記内箱の左側板と前記外箱の左側板との間、前記内箱の右側板と前記外箱の右側板との間、前記内箱の背板と前記外箱の背板との間、にそれぞれ備えられており、
前記内箱の左側板および右側板と背板とがなすコーナ部と前記外箱の左側板および右側板と背板とがなすコーナ部との間に、前記真空断熱材(1)とは異なるポリウレタンフォーム(4)が充填されており、
前記ポリウレタンフォーム(4)は、さらに前記コーナ部から前記内箱の背板と前記外箱の背板との間の前記真空断熱材(1)の前方にわたって充填されており、且つ、当該真空断熱材(1)の左右方向の中央部の前方には充填されておらず、且つ、当該真空断熱材(1)の前方における前記ポリウレタンフォーム(4)の厚さは、前記冷蔵庫本体(2)の左右方向における端部側よりも中央側の方が薄くなっており、
前記内箱(22)が、前記真空断熱材(1)の前方における前記ポリウレタンフォーム(4)のうち左右方向における中央側に対向する部分を有している、冷蔵庫。」

2.周知例1
(1) 本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった実願昭58-32748号(実開昭59-139888号)のマイクロフィルム(以下、「周知例1」という。)には、次の事項が記載されている。
「[従来技術]
従来の冷蔵庫に於いては、真空断熱材を背面に配設していないので外箱の一部である背面板の下部中心長手方向に複数のガス抜き穴を設け、ウレタンフォームを完全に充填させるための構造にしている。
しかし、背面板と真空断熱材を一体に組合せ外箱に結合させているので、従来のガス抜き穴をそのまゝ応用することは不都合が生じる。
・・・
また、真空断熱材と背面の内箱との間隙が非常に狭いため、ウレタンフォームの原液を注入する。その原液は液状で流動性を有しており、冷蔵庫の内外箱の間隙の下面に流れその全周に至る。それが発泡フォームとなり前記間隙内を上昇し、接着程度を目的としたウレタンフォームが真空断熱材と背面内箱の狭い間隙部を流れるが、ガス抜き穴がないためガス溜り現象が生じフォームが完全充填することなく空洞が生じる部分が発生する問題があった。
[考案の目的]
本考案は、上記欠陥や問題を改良するためになされたもので、ウレタンフォームが最終に充填する部分にガス抜き穴を、又、穴部の断熱材側に通気可撓性断熱材を配設することによって未充填による空洞が生じることなく、接着を目的とした断熱層を生成する様にしたものである。
[考案の概要]
即ち、平面部を有する真空断熱材を外箱と内箱との空間部に配設させ、その周囲を接着を目的としたウレタンフォームを注入する注入発泡時に於いて、真空断熱材と内箱の空隙部に注入発泡されたフォームより発生するガスを排出するための排出穴がないため、真空断熱材と内箱との空間部が未充填となり空洞が生じ、冷蔵庫の性能や箱体の強度的に問題や欠陥があった。
従来の冷蔵庫においては、真空断熱材を用いていないので、外箱と内箱との空間部はウレタンフォーム流動上何ら障害になるものがなかったので、ウレタンフォーム原液の流動性もスムーズに流れ背面板よりのガス抜き穴を介してフォームが完全充填されていたものである。
そこで上記の空間部にウレタンフォームが完全に充填できる手段として、ウレタンフォームの最終充填部になる内箱背面下部近傍の中心の箱体の長手方向にガス排出用のガス抜き穴を設け、又、穴部の断熱材側に通気可撓性断熱材を介してガスの排出を行い、ウレタンフォームの完全充填を計る構造にしたことにより、上記欠陥や問題を大巾に改良するものである。
[考案の実施例]
本考案の一実施例を第1図、第2図、第3図に示す冷蔵庫に於いて説明すると、1は、冷蔵庫の外箱、2は、冷蔵室を構成する内箱、3は、ガス抜き穴で、フォーム生成過程中真空断熱材と内箱の間隙内で発生するガスを排出する穴である。このガス抜き穴3はフォームの発泡最終充填部の位置と一致するよう配設されている。4は、平面上の構造体の真空断熱材で内部は空隙部を有するスペーサ(図示せず)を設け、この空隙部を高真空としたものである。5は、通気可撓性断熱材でこの断熱材を介して内箱のガス抜き穴より排出する。6は、冷蔵庫の外箱の一部の背面板、7は、ウレタンフォーム断熱材で、外箱1と内箱2との間隙に注入発泡生成されたものである。
掛る部品で冷蔵庫を構成するには、真空断熱材4を背面の背面板6に隣接させ部材にて固定させ背面板6と真空断熱材4を一体に組合わせた後に、外箱1に結合させた上で両箱間の空隙部に接着を目的とした程度のウレタンフォーム7を現場発泡にて充填するようにした構造である。
なお、発泡前に予じめ通気可撓性断熱材5を真空断熱材4と内箱2の間隙内に配設されている。通気可撓性断熱材5はグラスウール又はモルトプレン等の通気可撓性であり間隙内のガスはこゝを介して内箱2側に排出される。
上記の如く、ウレタンフォームの最終充填部内箱2背面下部にガス抜き穴3を設け、ウレタンフォーム原液を注入発泡するようにしたので、ガス抜きは完全に行われフォームの未充填による空洞もなく、冷蔵庫の箱体強度的な問題も解消され変形のない冷蔵庫を製作できるものである。
・・・
図面の簡単な説明
第1図は本考案の実施例を示すもので、内箱の背面側にガス抜き穴を、又、穴部の断熱材側に通気可撓性断熱材を介してガスを排出する構造とした正面図、第2図は第1図のA-A線における切断側面図、第3図は第1図のB-B線における切断平面図である。」
「第1図


「第2図


「第3図



(2) 周知例1に記載された技術
上記(1)の事項を総合すると、周知例1には、以下の技術が記載されていると認められる。
「背面板6と真空断熱材4を一体に組合わせた後に、外箱1に結合させた上で両箱間の空隙部に接着を目的とした程度のウレタンフォーム7を現場発泡にて充填する冷蔵庫において、
フォームの発泡最終充填部の位置と一致するように、内箱2背面下部にガス抜き穴3を設け、ウレタンフォーム原液を注入発泡することで、ガス抜きは完全に行われフォームの未充填による空洞がない冷蔵庫。」

3.周知例2
(1) 本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2003-42652号公報(以下、「周知例2」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0025】(実施の形態1)図1は、本発明の実施の形態1による断熱箱体の側面断面図、図2は、同実施の形態の断熱箱体の背面パネルの正面図、図3は、同実施の形態の断熱箱体の内箱の正面図、図4は、同実施の形態の断熱箱体のガス抜き穴の要部拡大図、図5は、同実施の形態の断熱箱体を用いた冷蔵庫の側面断面図である。
【0026】図において、1は断熱箱体で、合成樹脂からなる内箱2と金属からなる外箱3とから形成される空間4に硬質ウレタンフォーム5と真空断熱材6が複層構造で配設されている。断熱箱体1の製造にあたっては、真空断熱材6をあらかじめ外箱3に接着固定し、硬質ウレタンフォーム5の原料を注入して一体発泡を行う。
・・・
【0031】そして、外箱3を形成する背面パネル7の両端部にウレタン注入口9に近接して、ガス抜き穴8を設けている。また、冷蔵庫内箱2にもガス抜き穴10を設けている。
・・・
【0047】また、ガス抜き穴9(当審注「ガス抜き穴10」の誤記)は、合成樹脂からなる内箱2の中央部分に設けたので、真空断熱材適用により、箱体の背面パネル中央にガス抜き穴を設けることが出来ない場合においても、硬質ウレタン発泡時の発泡剤のガスや発泡前から存在する空気等のガスが、すみやかに放出されるため、硬質ウレタンフォームの未充填部分が生じない。その結果、きわめて剛性の高い、また断熱性能が高い断熱箱体が得られ、真空断熱材を多量に使用しても断熱箱体の品質として問題なく、優れた断熱性能によって省エネルギー化を実現できる。」
「【図1】


「【図3】



(2) 周知例2に記載された技術
上記(1)の事項を総合すると、周知例2には、以下の技術が記載されていると認められる。
「内箱2と外箱3とから形成される背面側の空間4に硬質ウレタンフォーム5と真空断熱材6が配設されている断熱箱体1を用い、
断熱箱体1の製造にあたっては、真空断熱材6をあらかじめ外箱3に接着固定し、硬質ウレタンフォーム5の原料を注入して一体発泡を行う冷蔵庫において、
内箱2の中央部分にガス抜き穴10を設け、硬質ウレタン発泡時の発泡剤のガスや発泡前から存在する空気等のガスが、すみやかに放出されるため、硬質ウレタンフォームの未充填部分が生じない冷蔵庫。」

4.周知例3
(1) 本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平10-253246号公報(以下、「周知例3」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで、係る冷蔵庫の断熱箱体を製造する場合、先ず、真空断熱材が予め貼り付けられた外箱内に内箱を組み込んだ後、前面開口を下にして発泡内治具に被せると共に、外側からは発泡外治具を宛う。その状態で、外箱の背板の例えば上下方向の中央部左右に形成された注入口からポリウレタン原液を注入し、両箱間に反応成長(発泡)・固化させて充填するものであるが、この際の成長の過程で両箱間の空気を両箱外に逃がさなければならない。
【0008】このための空気抜き孔は、従来一般的には発泡の最終段階となる外箱の背板適所に穿設されるものであったが、冷凍室の背方に当たる外箱背板内面に真空断熱材を取り付けてしまうと、発泡断熱材の充填時に空気抜きができなくなり、この部分に未充填部分や低密度で強度不足となる箇所が発生してしまう問題が生じていた。
・・・
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の断熱箱体は、外箱と、内箱と、外箱の内箱側の面に取り付けられた真空断熱材とを備え、両箱間に発泡断熱材を現場発泡方式にて充填して成るものであって、内箱には発泡断熱材充填用の空気抜き孔を形成したものである。
【0011】本発明によれば、外箱と、内箱と、外箱の内箱側の面に取り付けられた真空断熱材とを備え、両箱間に発泡断熱材を現場発泡方式にて充填して成る断熱箱体において、前記内箱に発泡断熱材充填用の空気抜き孔を形成したので、外箱の内箱側の面に真空断熱材が取り付けられているにも拘わらず、内箱側の空気抜き孔から発泡断熱材の反応成長時の空気抜きを行うことができるようになり、発泡断熱材の未充填部や低密度箇所の発生を効果的に解消し、均一な密度の発泡充填を実現することができるようになるものである。
・・・
【0014】
【発明の実施の形態】次に、図面に基づき本発明の実施形態を詳述する。図1は本発明を適用した実施例としての冷蔵庫1の正面図、図2は扉を除く冷蔵庫1の正面図、図3は冷蔵庫1の縦断側面図、図4は冷蔵庫1の背面図、図5は冷蔵庫1のもう一つの縦断側面図、図6は図5のA-A線断面図、図7は図6のB-B線断面図、図8は図6のC-C線断面図、図9は冷蔵庫1の透視分解斜視図である。
・・・
【0044】次に、上述の如き冷蔵庫1の断熱箱体6の組立手順を説明する。先ず、外箱2の内面の上記各位置に各真空断熱材71、71、72、73をそれぞれ貼り付けると共に、各高温冷媒配管61、62もこの時点で外箱2の内面に取り付ける。
【0045】このとき、外箱2の背板2Cの上下方向の略中央部左右(真空断熱材71の側方に位置する箇所)には、図4、図10に示す如くウレタン注入口75、75が形成されており、更に、真空断熱材73を避けた位置には複数の空気抜き孔76・・・が穿設されている。尚、これら空気抜き孔76・・・は内側から空気が流通可能な不織布テープなどで塞がれる。そして、前記高温冷媒配管61はこれら注入口75、75、空気抜き孔76・・を避けて取り付けられる。
【0046】また、内箱3の冷却器38後側に対応する位置、即ち、真空断熱材73の前方に対応することになる位置には、図10に示す如く複数の空気抜き孔77・・が穿設されており、この空気抜き孔77・・の外面(外箱2側の面)も前述同様に空気が流通可能な不織布テープなどで塞がれる。
・・・
【0049】係る状態のものを図11に矢印で示す如く開口を下側として発泡内治具78に被せ、外箱2の外側から図示しない発泡外治具を宛う。この状態で、前記ウレタン注入口75、75からポリウレタン原液を注入し、両箱2、3間に充填すると、原液は両箱2、3間の下端部に一旦流下した後、或いは、流下しながら反応を開始し、両箱2、3間を上方に向けて成長して行く。
【0050】この成長により追い立てられた両箱2、3間の空気は外箱2の空気抜き孔76・・から図示しない発泡外治具を経て排気されると共に、真空断熱材73の下方(治具にセットされた状態で下方)に位置する部分においては、内箱3に形成された空気抜き孔77・・から発泡内治具78側に出て、前記空気抜き溝79-空気抜き孔81の経路で外部に排気される。
【0051】このように本発明では、内箱3に空気抜き孔77・・を形成しているので、外箱2の内面に真空断熱材73が取り付けられているにも拘わらず、内箱3側の空気抜き孔77・・から発泡断熱材4の反応成長時の空気抜きを行うことができるようになり、発泡断熱材4の未充填部や低密度箇所の発生を効果的に解消し、均一な密度の発泡充填を実現することができるようになる。」
「【図10】


「【図11】



(2) 周知例3に記載された技術
上記(1)の事項を総合すると、周知例3には、以下の技術が記載されていると認められる。
「断熱箱体が、外箱と、内箱と、外箱背板内面に取り付けられた真空断熱材73とを備え、両箱間に発泡断熱材を現場発泡方式にて充填して成る冷蔵庫において、
内箱3の真空断熱材73の前方に対応することになる位置に、複数の空気抜き孔77が穿設されており、発泡断熱材4の反応成長時の空気抜きを行うことができるようになり、発泡断熱材4の未充填部の発生を効果的に解消できる冷蔵庫。」

5.対比・判断
(1) 引用発明と本願発明とを対比する。
引用発明1の「外箱(21)」、「内箱(22)」、「真空断熱パネルである真空断熱材(1)」、「冷蔵庫本体(2)」、「ポリウレタンフォーム(4)」及び「冷蔵庫」は、本願発明の「外箱」、「内箱」、「真空断熱パネル」、「断熱箱体」、「発泡断熱材」及び「冷蔵庫」にそれぞれ相当する。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「左側板、右側板および背板を有する外箱と、この外箱内に配置され、前記外箱の左側板、右側板および背板に対応する左側板、右側板および背板を有する内箱と、この内箱と前記外箱との間に配置されて各部の断熱壁を構成する真空断熱パネルとを備え、内部に貯蔵室を有する断熱箱体を具備し、
前記真空断熱パネルは、前記内箱の左側板と前記外箱の左側板との間、前記内箱の右側板と前記外箱の右側板との間、前記内箱の背板と前記外箱の背板との間、にそれぞれ備えられており、
前記内箱の左側板および右側板と背板とがなすコーナ部と前記外箱の左側板および右側板と背板とがなすコーナ部との間に、前記真空断熱パネルとは異なる発泡断熱材が充填されており、
前記発泡断熱材は、さらに前記コーナ部から前記内箱の背板と前記外箱の背板との間の前記真空断熱パネルの前方にわたって充填されており、且つ、当該真空断熱パネルの左右方向の中央部の前方には充填されておらず、且つ、当該真空断熱パネルの前方における前記発泡断熱材の厚さは、前記断熱箱体の左右方向における端部側よりも中央側の方が薄くなっている冷蔵庫。」

[相違点]
本願発明は、「前記内箱に設けられている孔が、当該真空断熱パネルの前方における前記発泡断熱材のうち左右方向における中央側に対向している」のに対して、引用発明は、「前記内箱(22)が、前記真空断熱材(1)の前方における前記ポリウレタンフォーム(4)のうち左右方向における中央側に対向する部分を有している」ものの、その部分に孔が設けられているか不明な点。

(2) 相違点に関する判断
内箱の背板と外箱の背板との間に、真空断熱材を備え、かつ、発泡断熱材を充填する冷蔵庫において、内箱の背板にガス抜き孔を設けて、発泡断熱材の未充填部の発生を防止することは、周知例1?3に見られるように、本願の出願前の周知技術(以下、「周知技術」という。)である。
冷蔵庫において、発泡断熱材の充填発泡は、断熱箱体の開口(前面)側を下に向けて、背板側を上に向けた状態で載置して、上(背板側)から注入された発泡原液が側板部を下に流れ、側板部において下(開口)側から上(背板)側に発泡されつつ充填され、その後に背板部において、側板(周辺)側から、中央側に発泡されつつ充填されることが技術常識である(要すれば、周知例3の【0049】?【0050】、【図11】を参照。)。
したがって、引用発明において、内箱(22)の「前記真空断熱材(1)の前方における前記ポリウレタンフォーム(4)のうち左右方向における中央側に対向する部分」は、内箱の背板において、ウレタンフォーム(4)が最後に発泡充填される部分であり、未充填部が発生しやすいことは、当業者が当然に認識し得ることである。
そうすると、引用発明に周知技術を適用して、ウレタンフォーム(4)の未充填部の発生を防止するために、内箱(22)の「前記真空断熱材(1)の前方における前記ポリウレタンフォーム(4)のうち左右方向における中央側に対向する部分」にガス抜き孔を設けて、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3) 本願発明の作用効果
本願発明の作用効果は、引用発明及び周知技術から、当業者が予測し得る範囲を超えるものではない。

(4) 請求人の主張について
請求人は、令和3年3月8日に提出した意見書において、以下のとおり主張している(ただし、下線は当審で付した。)。
「本願発明によれば、断熱箱体のコーナ部から真空断熱パネルの前方に充填される発泡断熱材の充填方向(発泡断熱材の進行方向)の先に孔が存在する構成となっています。
このように構成される本願発明によれば、発泡断熱材の発泡に伴い発生するガスを、その発泡断熱材の充填方向(発泡断熱材の進行方向)に沿って効率良く孔から排出することができ、発泡断熱材の充填を一層良好に行うことができます。
以上の通り、本願発明は、発泡断熱材の発泡に伴い発生するガスを排出させる孔を単に設ける発明にとどまるものではなく、その孔の位置に創意工夫を施すことによって、効率良くガスを排出することができる構成を実現した発明となっています。
これに対して、引用文献1は、発泡断熱材の発泡に伴い発生するガスを排出させるような孔を内箱に設けることについて、何ら開示も示唆もしていません。まして、この引用文献1は、発泡断熱材の発泡に伴い発生するガスを排出させるような孔を、真空断熱材1の前方におけるポリウレタンフォーム4のうち左右方向における中央側に対向する位置に設けることについて、何ら開示も示唆もしていません。
以上の通り、引用文献1は、本願発明の構成について何ら開示も示唆もしていません。従いまして、この引用文献1は、本願発明とは明らかに相違するものです。また、この引用文献1から出発して本願発明に容易に到達し得たとする論理付けを成立させることはできません。」(3-1.理由1,2(新規性,進歩性)について)

しかしながら、上記(1)?(2)のとおり、本願発明は、引用発明に周知技術を適用して当業者が容易に想到し得たものである。
また、「発泡断熱材の充填方向(発泡断熱材の進行方向)の先に孔が存在する構成」による「発泡断熱材の発泡に伴い発生するガスを、その発泡断熱材の充填方向(発泡断熱材の進行方向)に沿って効率良く孔から排出することができ、発泡断熱材の充填を一層良好に行うことができます。」という効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得るものである。
よって、請求人の主張は採用できない。

6.小括
上記1ないし5の検討によれば、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-26 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-15 
出願番号 特願2018-221208(P2018-221208)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F25D)
P 1 8・ 113- WZ (F25D)
P 1 8・ 537- WZ (F25D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯星 潤耶  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 山崎 勝司
山田 裕介
発明の名称 冷蔵庫  
代理人 特許業務法人 サトー国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ