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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1374724
審判番号 不服2020-14654  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-21 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2016-84672号「光通信モジュール及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月26日出願公開、特開2017-194565号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)4月20日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年12月12日付け:拒絶理由通知書
令和2年 2月12日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 7月10日付け:拒絶査定
令和2年10月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年 2月12日 :上申書の提出

第2 令和2年10月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年10月21日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
一端が外側面に位置するようにして光導波路が形成された光回路基板と、
前記光導波路の前記一端に達するよう光を出射し、又は前記光導波路の前記一端からの光を受光するよう、前記光回路基板上に搭載されたレンズ機能を有する半導体光素子と、を含み、
前記光導波路の前記一端は、前記光回路基板の表面に対して斜交するミラー面として構成され、
前記半導体光素子は、前記光導波路の前記一端に対して光を出射することにより前記光導波路に光を入力し、又は前記光導波路の前記一端により反射した光を受光し、
前記半導体光素子は、前記光導波路の外側部に、前記半導体光素子と前記光導波路の前記外側部の間に介在する半田又は透明樹脂によって、固定して取り付けられる、
光通信モジュール。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年2月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
一端が外側面に位置するようにして光導波路が形成された光回路基板と、
前記光導波路の前記一端に達するよう光を出射し、又は前記光導波路の前記一端からの光を受光するよう、前記光回路基板上に搭載されたレンズ機能を有する半導体光素子と、を含み、
前記光導波路の前記一端は、前記光回路基板の表面に対して斜交するミラー面として構成され、
前記半導体光素子は、前記光導波路の前記一端に対して光を出射することにより前記光導波路に光を入力し、又は前記光導波路の前記一端により反射した光を受光し、
前記半導体光素子は、前記光導波路の外側部に固定して取り付けられる、
光通信モジュール。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「半導体光素子」が、「光導波路の外側部に固定して取り付けられる」構成について、「前記半導体光素子と前記光導波路の前記外側部の間に介在する半田又は透明樹脂によって」固定して取り付けられるとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1」「(1)」に記載したとおりの以下のものである(AないしFは、当審が分説のために付した。以下、それぞれ「構成A」ないし「構成F」という。)。
「【請求項1】
A 一端が外側面に位置するようにして光導波路が形成された光回路基板と、
B 前記光導波路の前記一端に達するよう光を出射し、又は前記光導波路の前記一端からの光を受光するよう、前記光回路基板上に搭載されたレンズ機能を有する半導体光素子と、を含み、
C 前記光導波路の前記一端は、前記光回路基板の表面に対して斜交するミラー面として構成され、
D 前記半導体光素子は、前記光導波路の前記一端に対して光を出射することにより前記光導波路に光を入力し、又は前記光導波路の前記一端により反射した光を受光し、
E 前記半導体光素子は、前記光導波路の外側部に、前記半導体光素子と前記光導波路の前記外側部の間に介在する半田又は透明樹脂によって、固定して取り付けられる、
F 光通信モジュール。」

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2003-215371号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
a 「【請求項1】 発光部若しくは受光部と面型光素子側パッドとが同じ側の面に設けられた面型光素子を実装するための基板側パッドが予め形成された基板と、
この基板上に形成され、端面に傾斜ミラーを備えた光導波路と、
前記発光部若しくは受光部と前記光導波路とが前記傾斜ミラーを介して光学的に結合するよう位置合わせされた上で前記光導波路の上面に実装され、前記基板側パッドと面型光素子側パッドとがハンダバンプによって接続された面型光素子とを有することを特徴とする光モジュール。」(特許請求の範囲)

b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、面型光素子と平面光導波路と半導体装置とを実装する光モジュール及び光モジュールの実装方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】情報処理機器内における信号伝送路の高速化のためにはCPUやメモリモジュール等のLSI間を光信号によって接続する、チップ間光接続が有効である。チップ間光接続では光導波路を備えた回路基板にLSIを実装し、一方のLSIの入出力信号をVCSELを用いて光信号に変換して光導波路を伝播させ、その先でPDを用いて光信号を電気信号に戻してもう一方のLSIに接続する構造が有利である。このような構造では、垂直共振器型面発光レーザ(Vertical cavitysurface-emitting Laser、以下、VCSELとする)、フォトダイオード(Photo diode 、以下、PDとする)等の面型光素子と光導波路とを光路を直角に変換しての光結合構造が課題である。」

c 「【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、以上のような従来の光モジュールでは、光素子と光導波路との間のギャップを高精度に制御することが難しいという問題点があった。光素子と光導波路との間のギャップを高精度に制御できない場合、このギャップが光出力や受光感度などの特性に大きく影響するときに問題が生じる。
【0011】光素子と光導波路との間のギャップが光出力や受光感度などの特性に大きく影響するのは、例えば面発光素子の出射角度が大きく、光素子と光導波路との距離を遠ざけると急速に光結合効率が低下する場合や、PINフォトダイオードで高速応答性を重視したものように受光面が小さいものを用いる場合、あるいは光導波路と光素子との間にレンズを介する場合などである。
【0012】このような場合には、光素子のチップ厚さ、光素子をLSIチップに接合するバンプの高さ、LSIチップの実装高さをかさ上げするモールド樹脂の厚さ、そしてLSIチップを光電気回路基板に実装するバンプの高さの4つを少なくとも10μm以下程度の精度で制御する必要が生じうる。これらを合計した高さは、場合によっては200μmを超えるものとなる可能性があり、10μm以下程度の精度で制御するのは困難である。
・・・
【0016】本発明の目的は、以上に示した課題を解決し、面型光素子と平面光導波路との光結合構造において、面型光素子と光導波路とのギャップを簡素な構造でなおかつ高精度に制御できる光モジュール及び光モジュールの実装方法を提供することにある。」

d 「【0023】
【発明の実施の形態】[第1の実施の形態]以下、本発明の目的、特徴および利点を明確にすべく、添付した図面を参照しながら、本発明の実施の形態を以下に詳述する。図1は本発明の第1の実施の形態となる光モジュールの構造を示す断面図である。本実施の形態は、発光するレーザ光の波長が650nm、850nm、1300nm、1550nm等の垂直共振器型面発光レーザ(Vertical cavity surface-emitting Laser、以下、VCSELとする)を光導波路基板上に実装する例である。
【0024】材質が有機樹脂、セラミック、ガラスあるいはシリコン等からなる基板1上に光導波路3を形成し、また面型光素子であるVCSEL5を実装するための第1の基板側電極パッド13と、半導体装置であるLSI8を実装するための第2の基板側電極パッド(不図示)と、パッド13,14間を電気的に接続する電気配線(不図示)とを基板1上に金属パターンで形成する。
【0025】光導波路3は、図1に示すように、下側の第1のクラッド層7-1の上に光導波路コア7-2の層を形成し、光導波路コア7-2を上側の第2のクラッド層7-3で被覆する構造である。光導波路3は、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シロキサンポリマーなどの有機樹脂、あるいはガラス等から構成される。この光導波路3の一端を45度斜め端とし、45度傾斜ミラー4として機能させる。
【0026】45度傾斜ミラー4の形成方法としては、別途作製した、45度端面加工されたフィルム状光導波路を貼り付ける方法や、基板1上に垂直端面の光導波路3を積層形成した後に基板1を45度傾斜させてRIE(反応性イオンエッチング)等により光導波路3の端面を45度の角度になるようにエッチングする方法がある。45度傾斜ミラー4の反射率を向上させるため、ミラー4にはアルミニウム、金、銀、銅あるいはチタンなどの金属を蒸着することが望ましい。
・・・
【0028】次に、基板1上の第1の基板側電極パッド13にスズ鉛合金はんだ、銀スズはんだ、金スズはんだあるいは銀スズはんだ等からなるハンダバンプ2-1を光導波路3の高さ以上の高さに形成する。また、第2の基板側電極パッド(不図示)に同様の材料のハンダバンプ2-2を形成する。
【0029】VCSEL5には電極パッド14と発光部15とが同じ側の面に設けられている。VCSEL5の電極パッド14と発光部15とを下に向け、光導波路3の上面を基準面として光導波路3の上面にVCSEL5を当接させて実装する。本実施形態では、発光部15が突起状になっているVCSEL5を実装する場合を例示している。したがって、VCSEL5の発光部15を実装時に破損させないため、発光部15の高さより厚いスペーサ6をVCSEL5と光導波路3との間に配置する。スペーサ6の厚さは、発光部15の高さが例えば10μmの場合、15?20μm程度である。
【0030】スペーサ6の材料については、面型光素子の実装時の処理温度に対する耐熱性の高いポリイミド等が好適である。スペーサ6を作製する場合、ポリイミド等をウェハ上にスピン塗布した後硬化させ、剥離して、フィルム状とすることで高精度な厚さの物が得られる。そして、作製したスペーサ6を接着剤で光導波路3上に接着する。
【0031】次に、VCSEL5を実装するためにハンダバンプ2-1を溶融させ、VCSEL5の電極パッド14をハンダバンプ2-1に当接させることで、溶融されたハンダバンプ2-1が表面張力で電極パッド14に融着する。そして、VCSEL5をスペーサ6に当接するまで降下させ、その後にハンダバンプ2-1を冷却硬化させることで、VCSEL5の下面をスペーサ6の上面に当接させ、かつハンダバンプ2-1の高さがスペーサ6の上面の高さと同じ高さに合うように実装する。
【0032】VCSEL5の発光部15から出射したレーザ光は、光導波路3上面より入射し、45度傾斜ミラー4で反射して、光導波路コア7-2に入射し、光コネクタ9へ伝送される。こうして、45度傾斜ミラー4で略90度の光路変換が行われることにより、VCSEL5と光導波路3とが光学的に結合される。
【0033】前述のとおり、VCSEL5と基板1との電気的な接続はハンダバンプ2-1によるフリップチップ接続によって行われる。同様に、LSI8は、ハンダバンプ2-2を溶融させ、LSI8の電極パッド(不図示)をハンダバンプ2-2に当接させることで、基板1上に実装される。
・・・
【0036】本実施の形態では、埋め込み型光導波路3の第2のクラッド層7-3の上にスペーサ6を設ける構造を例示したが、光導波路3として上部の第2のクラッド層7-3を持たない光導波路コア7-2が露出したリッジ型導波路を採用してもよい。光導波路コア7-2を露出させた上にスペーサ6を設置し、その上に面型光素子を実装することにより、面型光素子と光導波路コア7-2との間の間隙が小さくなるので、面型光素子からの光束の発散を少なくすることができる。
【0037】以上のように、本実施の形態では、面型光素子だけを光導波路3上に実装し、面型光素子及び半導体装置と基板1とをフリップチップ接続して、面型光素子と半導体装置間を基板1上の電気配線で接続するようにしたことにより、面型光素子と光導波路との光学的結合及び面型光素子と半導体装置との電気的接続を簡素な構造で実現することができ、かつ面型光素子と光導波路とのギャップを高精度に制御することができる。」

e 「【0038】[第2の実施の形態]図2は本発明の第2の実施の形態となる光モジュールの構造を示す断面図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。第1の実施の形態では、VCSEL5の発光部15の突起を保護するためにスペーサ6を介してVCSEL5を光導波路3上に実装したが、図2に示すように、光導波路3a上面の発光部15に対応する位置に、発光部15の高さより深い切り欠き若しくは窪みからなる逃げ部10を形成してもよい。
【0039】逃げ部10は、フォトリソグラフィおよびアルカリ薬液によるウエットエッチングや、RIE(反応性イオンエッチング)等のドライエッチングによって形成することができる。本実施の形態では、VCSEL5を実装する際に、溶融させたハンダバンプ2-1にVCSEL5の電極パッド14を当接させて、VCSEL5の下面が光導波路3aの上面に当接するまでVCSEL5を降下させ、その後にハンダバンプ2-1を冷却硬化させることにより、VCSEL5の下面を光導波路3aの上面に当接させ、かつハンダバンプ2-1の高さが光導波路3aの上面の高さと同じ高さに合うように実装する。
【0040】スペーサ6を用いる第1の実施の形態ではスペーサ6を光導波路3上に接着する接着剤の種類やVCSEL実装時の処理温度に対するスペーサ6の耐熱性などに留意する必要があるが、本実施の形態ではその必要がないという利点がある。」

f 図1及び2は次のものである。
【図1】

【図2】



g 段落【0025】及び【0026】(上記d)の記載を踏まえて、上記fの図1及び2を見ると、「光導波路3」の「傾斜ミラーを備えた」「端面」は露出していることが見てとれる。

(イ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(aないしfは、当審が分説のために付した。以下、それぞれ「構成a」ないし「構成f」という。なお、引用発明を認定するために用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある。)。
「a 発光部若しくは受光部と面型光素子側パッドとが同じ側の面に設けられた面型光素子を実装するための基板側パッドが予め形成された基板と(【請求項1】)、
b 前記基板上に形成され、端面に傾斜ミラーを備えた光導波路と(【請求項1】)、
c 前記発光部若しくは受光部と前記光導波路とが前記傾斜ミラーを介して光学的に結合するよう位置合わせされた上で前記光導波路の上面に実装され、前記基板側パッドと面型光素子側パッドとがハンダバンプによって接続された面型光素子とを有し(【請求項1】)、
d 前記面型光素子は、垂直共振器型面発光レーザ、フォトダイオードであり(【0002】、
e 前記光導波路の傾斜ミラーを備えた端面は露出している(「(ア)」「g」)、
f 情報処理機器内における信号伝送路に用いる光モジュール(【請求項1】、【0002】)。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2005-266657号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、コアとクラッドとの接合体からなり、光源モジュール、光インターコネクション、光通信等に好適な光導波路、光導波路装置及びディスプレイ等の光情報処理装置に関するものである。」

b 「【0135】
第10の実施の形態
本実施の形態では、図28(A)の平面図及び図28(B)の断面図に示すように、各LED上に集光レンズ18が設けられること以外は、上述の第4の実施の形態と同様である。
【0136】
本実施の形態においては、光導波路40jにおいて、各LED3R、3G及び3Bの発光面である上面に凸形状の集光レンズ18を配置することにより、各LED3R、3G及び3Bの発光光を集光して第1コア5A、5B及び5Cの傾斜面14にそれぞれ入射することができるために、この部分の結合損失を低減できると共に、効率良く発光光を第1コア5A、5B及び5C内に入射することができる。」

c 図28は次のものである。
【図28】


(イ)LEDは半導体発光素子であるといえるから、上記記載から、引用文献2には、次の技術(以下「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。
「光導波路において、半導体発光素子の発光面に凸形状の集光レンズを配置することにより、半導体発光素子の発光光を集光してコアの傾斜面に入射することができるために、この部分の結合損失を低減できると共に、効率良く発光光をコア内に入射することができること。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)本件補正発明の構成Aについて
a 引用発明の「光導波路」は、本件補正発明の「光導波路」に相当する。

b 引用発明の「基板」、及び、「基板上に」形成された「光導波路」からなる全体(以下「基板・光導波路全体」という。)は、本件補正発明の「光回路基板」に相当する。

c 引用発明の「端面に傾斜ミラーを備えた光導波路」の「端面」は、本件補正発明の「光導波路」の「一端」に相当する。
また、引用発明の「光導波路」の「端面」は「露出している」から、引用発明では、「光導波路」の「端面」が「基板・光導波路全体」(本件補正発明の「光回路基板」に相当。)の外側面に位置しているといえる。
そうすると、引用発明は、本件補正発明の「光導波路の一端が光回路基板の外側面に位置する」との構成を備えるといえる。

(イ)本件補正発明の構成Bについて
a 構成Bのうちの「前記光導波路の前記一端に達するよう光を出射し、又は前記光導波路の前記一端からの光を受光する」「半導体光素子」について
(a)引用発明の「光導波路」は「端面に傾斜ミラーを備え」ており、「面型光素子」は「発光部若しくは受光部と前記光導波路とが前記傾斜ミラーを介して光学的に結合するよう位置合わせされた上で前記光導波路の上面に実装され」ているから、引用発明の「面型光素子」の「発光部」は、「光導波路」の「端面に」達するように向けて光を出射するものであり、引用発明の「面型光素子」の「受光部」は、「光導波路」の「端面」からの光を受光するものであるといえる。

(b)引用発明の「垂直共振器型面発光レーザ、フォトダイオードである面型光素子」は、本件補正発明の「半導体光素子」に相当する。

(c)以上(a)及び(b)によれば、引用発明は、本件補正発明の「前記光導波路の前記一端に達するよう光を出射し、又は前記光導波路の前記一端からの光を受光する」「半導体光素子」の構成を備えるといえる。

b 構成Bのうちの「前記光回路基板上に搭載されたレンズ機能を有する」「半導体光素子」について
(a)引用発明の「面型光素子」は「前記発光部若しくは受光部と前記光導波路とが前記傾斜ミラーを介して光学的に結合するよう位置合わせされた上で前記光導波路の上面に実装され」ているから、引用発明では、「面型光素子」(本件補正発明の「半導体光素子」に相当。)が「基板・光導波路全体」(本件補正発明の「光回路基板」に相当。)上に搭載されているといえる。

(b)よって、引用発明は、本件補正発明の「前記光回路基板上に搭載されたレンズ機能を有する」「半導体光素子」の構成のうち、「前記光回路基板上に搭載された」「半導体光素子」の構成を備えるといえる。

c 以上a及びbによれば、引用発明は、本件補正発明の「前記光導波路の前記一端に達するよう光を出射し、又は前記光導波路の前記一端からの光を受光するよう、前記光回路基板上に搭載されたレンズ機能を有する半導体光素子」(構成B)の構成のうち、「前記光導波路の前記一端に達するよう光を出射し、又は前記光導波路の前記一端からの光を受光するよう、前記光回路基板上に搭載された半導体光素子」(以下「構成B´」という。)の構成を備える。

(ウ)本件補正発明の構成Cについて
a 構成Cのうちの「前記光導波路の前記一端は」「ミラー面として構成され」ることについて
引用発明の「光導波路」は「端面に傾斜ミラーを備え」ていることは、本件補正発明の「光導波路の前記一端は」「ミラー面として構成され」ることに相当する。

b 構成Cのうちの「光回路基板の表面に対して斜交するミラー面」であることについて
引用発明の「傾斜ミラー」は、「基板上に形成され」る「光導波路」の「端面に」「備え」られるから、「光導波路」の表面に対して傾斜するミラーであるとともに、「基板・光導波路全体」の表面に対しても傾斜するミラーであるといえる。
そして、「基板・光導波路全体」の表面に対して傾斜するミラーの面は、本件補正発明の「光回路基板の表面に対して斜交するミラー面」に相当するといえる。

c 以上a及びbによれば、引用発明は、本件補正発明の「前記光導波路の前記一端は、前記光回路基板の表面に対して斜交するミラー面として構成され」(構成C)る点を備えるといえる。

(エ)本件補正発明の構成Dについて
a 上記「(イ)」「a」「(a)」で検討したとおり、引用発明の「面型光素子」の「発光部」は、「光導波路」の「端面に」向けて光を出射するものであり、引用発明の「面型光素子」の「受光部」は、「光導波路」の「端面」からの光を受光するものであり、また、上記「(イ)」「a」「(b)」で検討したとおり、引用発明の「面型光素子」は本件補正発明の「半導体光素子」に相当するものである。

b 引用発明では、「面型光素子」の「発光部若しくは受光部」と「光導波路」とが「前記傾斜ミラーを介して光学的に結合するよう位置合わせされ」ているから、引用発明の「発光部若しくは受光部」が設けられた「面型光素子」は、「発光部」が設けられた場合には、「光導波路」の「端面に」達するように向けて光を出射することにより「光導波路」に光を入力するものであり、また、「受光部」が設けられた場合には、「光導波路」の「傾斜ミラーを備えた」「端面」により反射した光を受光するものであるといえる。
したがって、引用発明は、本件補正発明の「前記半導体光素子は、前記光導波路の前記一端に対して光を出射することにより前記光導波路に光を入力し、又は前記光導波路の前記一端により反射した光を受光」(構成D)するとの構成を備える。

(オ)本件補正発明の構成Eについて
引用発明では、「発光部若しくは受光部」が設けられた「面型光素子」が、「前記発光部若しくは受光部と前記光導波路とが前記傾斜ミラーを介して光学的に結合するよう位置合わせされた上で前記光導波路の上面に実装され」ているから、「発光部若しくは受光部」が設けられた「面型光素子」は、「光導波路」外側部に載置されているといえる。
したがって、引用発明の「発光部若しくは受光部」が設けられた「面型光素子」が、「前記発光部若しくは受光部と前記光導波路とが前記傾斜ミラーを介して光学的に結合するよう位置合わせされた上で前記光導波路の上面に実装され」ることは、本件補正発明の「前記半導体光素子は、前記光導波路の外側部に、前記半導体光素子と前記光導波路の前記外側部の間に介在する半田又は透明樹脂によって、固定して取り付けられる」(構成E)こととは、「前記半導体光素子は、前記光導波路の外側部に、載置される」(以下「構成E´」という。)点で一致する。

(カ)本件補正発明の構成Fについて
引用発明の「情報処理機器内における信号伝送路に用いる光モジュール」は、本件補正発明の「光通信モジュール」(構成F)に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「A 一端が外側面に位置するようにして光導波路が形成された光回路基板と、
B´ 前記光導波路の前記一端に達するよう光を出射し、又は前記光導波路の前記一端からの光を受光するよう、前記光回路基板上に搭載された半導体光素子と、を含み、
C 前記光導波路の前記一端は、前記光回路基板の表面に対して斜交するミラー面として構成され、
D 前記半導体光素子は、前記光導波路の前記一端に対して光を出射することにより前記光導波路に光を入力し、又は前記光導波路の前記一端により反射した光を受光し、
E´ 半導体光素子は、前記光導波路の外側部に、載置される、
F 光通信モジュール。」

【相違点】
(相違点1)
「半導体光素子」が、本件補正発明は「レンズ機能を有する」のに対して、引用発明は、そうではない点。

(相違点2)
半導体光素子が光導波路の外側部へ載置されることについて、本件補正発明は、「前記半導体光素子と前記光導波路の前記外側部の間に介在する半田又は透明樹脂によって、固定して取り付け」られるのに対して、引用発明は、「面型素子」の「前記発光部若しくは受光部と前記光導波路とが前記傾斜ミラーを介して光学的に結合するよう位置合わせされた上で前記光導波路の上面に実装され、前記基板側パッドと面型光素子側パッドとがハンダバンプによって接続され」ている点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献1には、「発明が解決しようとする課題」として、「従来の光モジュールでは、光素子と光導波路との間のギャップを高精度に制御することが難しいという問題点があ」り、「光素子と光導波路との間のギャップを高精度に制御できない場合、このギャップが光出力や受光感度などの特性に大きく影響するときに問題が生じる」(【0010】)として、「光素子と光導波路との間のギャップが光出力や受光感度などの特性に大きく影響するのは、例えば」「光導波路と光素子との間にレンズを介する場合などであ」(【0011】)って、「このような場合には、光素子のチップ厚さ、光素子をLSIチップに接合するバンプの高さ、LSIチップの実装高さをかさ上げするモールド樹脂の厚さ、そしてLSIチップを光電気回路基板に実装するバンプの高さの4つを少なくとも10μm以下程度の精度で制御する必要が生じうる」が、「これらを合計した高さは、場合によっては200μmを超えるものとなる可能性があり、10μm以下程度の精度で制御するのは困難である」(【0012】)から、「本発明の目的は、以上に示した課題を解決し、面型光素子と平面光導波路との光結合構造において、面型光素子と光導波路とのギャップを簡素な構造でなおかつ高精度に制御できる光モジュール及び光モジュールの実装方法を提供することにある」(【0016】)と記載されている。そうすると、引用文献1には「光導波路と光素子との間にレンズを介する」ように構成することが示唆されているといえる。
このように、引用発明は「面型光素子」と「光導波路」の間にレンズを介することが示唆されているといえるところ、引用文献2には「光導波路において、半導体発光素子の発光面に凸形状の集光レンズを配置することにより、半導体発光素子の発光光を集光してコアの傾斜面に入射することができるために、この部分の結合損失を低減できると共に、効率良く発光光をコア内に入射することができること。」(引用文献2に記載された技術)が記載されており、発光素子と光導波路の間のレンズの配置のさせ方として、半導体発光素子の発光面に凸形状の集光レンズを配置する構成が記載されているといえるから、引用発明の「面型光素子」に引用文献2に記載された技術を適用して、上記相違点1に係る本件補正発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明の「面型光素子」は「前記光導波路の上面に実装され、前記基板側パッドと面型光素子側パッドとがハンダバンプによって接続され」ているところ、引用文献1の、図1(上記「(2)」「ア」「(ア)」「f」)からも見てとれるように、当該「面型光素子」は、ハンダバンプ側で固定され、光導波路の上面ではその結果として固定されている状態であるといえる。
このような「面型光素子」は固定状態の安定性に劣ることが明らかであるから、引用発明の「面型光素子」を「光導波路の上面」に「実装」するに際して、基板側パッドと面型光素子側パッドとをハンダバンプによって接続することに加えて、「面型光素子」を周知のアクリル樹脂等透明樹脂で「光導波路の上面」に接着し固定することは当業者が容易に想到し得たことである。そして、引用発明において、「面型光素子」と「光導波路の上面」の間を上記の透明樹脂で接着したものは、上記相違点2に係る本件補正発明の構成を満たすものであることは明らかである。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 請求人の主張
請求人は、審判請求書の【請求の理由】「3.本願発明が特許されるべき理由」「(3-2)特許性」において、概略、
「本願の図2(b)では、半導体光素子18が光導波路11の上面に、半田20によって取り付けられています。本願の図5(b)では、半導体光素子18は、 透明樹脂41を用いて、光導波路11に接着されています。」(以下「主張A-1」という。)
「これに対して、引用文献1では、ハンダバンプ2-1は、光導波路3aの外側部分に設けるものではないので、その高さを、第2のクラッド層7-3の高さに合わせて構成しなければならず、あるいは、ハンダバンプ2-1と光導波路3aとの高低差を調整するためにスペーサ6を追加したりする必要があります。
引用文献1では、図1に示すように、ハンダバンプ2-1によって、VCSEL5が基板1に接合され、第2のクラッド層7-3上にVCSEL5が固定されています。ハンダバンプ2-1は、VCSEL5と基板1との間にあります。
VCSEL5が第2のクラッド層7-3に対して移動することが妨げられていることから、VCSEL5が導波管7-3に固定されているとしても、ハンダバンプ2-1は、『前記半導体光素子と前記光導波路の前記外側部の間に介在する』ものではありません。」(以下「主張A-2」という。)
と主張する。

そこで検討すると、本件補正発明では、「半導体光素子が透明樹脂を用いて光導波路に接着されている」(主張A-1)のに対して、引用発明では、「ハンダバンプ2-1は、光導波路3aの外側部分に設けるものではないので、その高さを、第2のクラッド層7-3の高さに合わせて構成しなければなら」ない、「あるいは、ハンダバンプ2-1と光導波路3aとの高低差を調整するためにスペーサ6を追加したりする必要があ」るものであって、「ハンダバンプ2-1は、『前記半導体光素子と前記光導波路の前記外側部の間に介在する』ものでは」ない(主張A-2)点については、上記「イ」で検討したとおりであって、引用発明において、「ハンダバンプ2-1によって、VCSEL5が基板1に接合され」ているからといって、引用発明において、「面型光素子」と「光導波路の上面」の間を透明樹脂で接着したものが、「面型光素子を光導波路の外側部へ、面型光素子と光導波路の外側部の間に介在する透明樹脂によって固定して取り付け」られるものであることに変わりはない。
そうすると、引用発明が「ハンダバンプ2-1によって、VCSEL5が基板1に接合され」ていることは、上記の相違点2における判断を左右しない。
よって、請求人の主張は採用できない。
なお、請求人は、令和3年2月12日付け上申書を提出して補正案(本件補正発明の「前記半導体光素子と前記光導波路の前記外側部の間に介在する半田又は透明樹脂」における「半田又は」を削除するものである。)を示しているが、本件補正発明が、当該補正案のとおりに補正したものであるとしても、上記「イ」で検討した理由と同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年10月21日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年2月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2」[理由]「1」「(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし6に係る発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2003-215371号公報
引用文献2:特開2005-266657号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、上記「第2」の[理由]「2」「(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記「第2」の[理由]「2」で検討した本件補正発明から、「前記半導体光素子と前記光導波路の前記外側部の間に介在する半田又は透明樹脂によって」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2」の[理由]「2」「(3)」及び「(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-04-12 
結審通知日 2021-04-13 
審決日 2021-04-26 
出願番号 特願2016-84672(P2016-84672)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 智史竹村 真一郎  
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 瀬川 勝久
松川 直樹
発明の名称 光通信モジュール及びその製造方法  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  

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