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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B44C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B44C
管理番号 1374742
審判番号 不服2020-8593  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-22 
確定日 2021-06-07 
事件の表示 特願2015-172119「加飾シート、加飾成形品、および加飾成形品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日出願公開、特開2017- 47594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-172119号(以下、「本件出願」という。)は、平成27年9月1日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和元年 5月28日付け:拒絶理由通知書
令和元年10月 1日 :意見書
令和元年10月 1日 :手続補正書
令和2年 3月16日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和2年 6月22日 :審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和元年10月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである。
「 少なくとも、基材層、凹凸層、および保護層が順に積層された加飾シートであって、
前記凹凸層と前記保護層との間に、離型層をさらに備え、
前記保護層が電離放射線硬化性樹脂から構成され、
JIS B0601:2001に基づいて、カットオフ値を0.8mmとして、前記加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面を測定したときの凹凸の平均間隔Smが、前記転写層の表面の少なくとも一部の領域において、0.06mm以上0.18mm以下であり、
JIS B0601:2001に基づいて、カットオフ値を0.8mmとして、前記加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面を測定したときの粗さ曲線のスキューネスRskが、前記転写層の表面の少なくとも一部の領域において、-0.82以上-0.02以下である、加飾シート。」

3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、[A](新規性)本件出願の請求項1,4,8及び9に係る発明は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、[B](進歩性)本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2015-66747号公報
引用文献2:特開平8-142597号公報
引用文献3:特開平6-255299号公報
引用文献4:特開2014-237238号公報
引用文献5:特開2009-90647号公報
引用文献8:特開2011-865号公報
引用文献9:特開平4-226386号公報
引用文献10:特開2005-288780号公報
引用文献11:特開2010-156893号公報
引用文献12:特開2005-195726号公報
引用文献13:特開2000-301894号公報
引用文献14:特開2010-234610号公報
(当合議体注:新規性の引用例は、引用文献4である。進歩性の主引用例は、引用文献1?引用文献4又は引用文献13である。)

第2 当合議体の判断
引用文献4を主引用例とした場合について検討する。
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由において引用された特開2014-237238号公報(以下、「引用文献4」という。)は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある(当合議体注:下線は当合議体が付した。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離安定性と耐熱性に優れる離型フィルムに関するものであり、更に詳しくは、成型加工後も良好で安定した剥離性を示す離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートに代表されるポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れるため、従来から各種用途に使用されている。しかし、用途が多様化するにつれて、フィルムの加工条件や使用条件が多様化する傾向にある。一例として、成形同時転写箔用離型フィルムが挙げられる。当該離型フィルムを用いた転写箔の構成は一般的に、基材フィルムであるポリエステルフィルムの片面に離型層を設け、該離型層上に順次、図柄印刷層および接着層などの転写層を積層した構成からなる。目的に応じて、転写層にハードコート層や金属蒸着層等が積層される。さらには、これら離型層や転写層に帯電防止剤や抗菌剤等の機能性剤を加え、転写箔としての機能が付与される。
【0003】
上述の離型フィルムを用いた転写箔の転写方法は、転写箔を射出成形用の金型内にセットし、樹脂成形品を成形するのと同時にその表面に転写箔シートを一体化して接着し樹脂成形品に図柄を転写し装飾を施す成形同時転写法が広く一般的に知られている。
【0004】
このような転写方式は、基材フィルムであるポリエステルフィルムの表面上に接着層を含む複数の積層構成された転写箔を用い、接着層を介して被転写物に転写する方法であり、携帯電話機、電気製品、自動車部品、化粧容器、玩具類など多岐にわたる樹脂成形品の表面に装飾や表面保護等の表面加工を施す目的で広範囲の用途に使用されている。
…中略…
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
…中略…
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を背景になされたものであり、剥離安定性と耐熱性に優れ、かつ成型延伸後に安定した剥離性を示す薄膜の離型フィルムを提供することにある。
…中略…
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐熱性と剥離安定性に優れ、成型加工後も良好で安定した剥離性を示す薄膜離型フィルムを得ることができる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の離型フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に離型層を有する積層フィルムである。本発明者らは、離型フィルムを構成する基材フィルム、離型層について鋭意検討した結果、本発明を見出した。
【0015】
(I)基材フィルム
本発明に用いられる基材フィルムを構成する樹脂としては、ポリエステル、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリウレタンおよび環状オレフィン系樹脂等が使用できる。本発明において、基材フィルムは、ポリエステルを主成分とする樹脂から構成されることが、耐熱性、強度、生産性の点から好ましい。本発明において、ポリエステルを主成分とするとは、基材フィルムを構成する樹脂のうち、50質量%以上がポリエステルであることを示す。中でも、耐熱性、強度、生産性の点で二軸配向ポリエステルフィルムが最も好ましい。
…中略…
【0021】
また、本発明の基材フィルムを構成する樹脂中には、重合反応時に添加する触媒の残渣などによって析出するいわゆる内部粒子や、無機粒子および/または有機粒子などの外部粒子の中から任意に選定される粒子を含有させることができる。基材フィルムを構成する樹脂中に粒子を含有させると、フィルムのすべり性を向上させることが可能となり、製造時の取り扱い性が良好となる。また、フィルム表面に低光沢感が求められる用途においては、基材フィルム中に粒子を含有せしめることにより、粒子がフィルム表面の平滑度を低下させ、光沢度を目的とする値に調整することが可能となる。基材フィルムを構成する樹脂に含有させる粒子の平均粒子径は、0.01?10μmが好ましく、より好ましくは、0.5?8μm、さらに好ましくは、1?5μmである。ここで10μmを超える平均粒子径を有する粒子を含有すると、基材フィルムに欠陥が生じる場合があるため好ましくない。粒子としては、例えば湿式および/または乾式シリカ、コロイダルシリカ、珪酸アルミ、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、カオリン、クレー、ヒドロキシアパタイト等の無機粒子、スチレン、シリコーン、アクリル酸、メタクリル酸、エステル、ジビニルベンゼン等を重合したものを構成成分とする有機粒子等を使用することができる。なかでも、湿式および/または乾式シリカ、アルミナ等の無機粒子、スチレン、シリコーン、アクリル酸、メタクリル酸、エステル、ジビニルベンゼン等を重合したものを構成成分とする有機粒子等が好ましく使用される。粒子として、内部粒子、無機粒子、有機粒子をそれぞれ二種以上、または、内部粒子、無機粒子、有機粒子を組み合せて二種類以上併用してもよい。また、粒子の含有量は、基材フィルムを構成する樹脂組成物全体に対して、0.01?5質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.03?3質量%である。0.01質量%未満の場合、フィルム巻き取りが難しくなる可能性があり、5質量%を越えると粗大突起による光沢度の低下、透明性および製膜性の悪化などを引き起こす可能性が生じる。また、ここで言う平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。
…中略…
【0027】
本発明の基材フィルムは、単層フィルムでもよく、2層以上の積層フィルムでもよい。3層構成とする場合は、生産性の観点から、両表層の組成を同じにすることが好ましい。さらに、生産性を向上させるために、両表層の積層厚みは等しくすることが好ましい。
【0028】
(II)離型層
本発明の離型層は、離型層を構成する樹脂全体に対して、メラミン樹脂が50質量%以上含有することが好ましい。メラミン樹脂を50質量%以上含むことにより、加熱時にメラミン樹脂の自己縮合が進行し、耐熱性が大幅に向上する。メラミン樹脂の濃度が50質量%未満の場合には、架橋反応が不十分となり、十分な耐熱性を示さなかったり、離型層の表面構造を特定の範囲にすることが困難となる場合がある。好ましくは、70質量%以上90質量%以下である。
…中略…
【0039】
本発明では、メラミン化合物(A)を含有する樹脂組成物を基材フィルムの少なくとも片面の上に設け、その後に加熱し、基材フィルム上に離型層を形成させることが好ましい。特に加熱温度を200℃以上240℃以下の範囲で、温度の異なる2段以上の工程とすることにより、特定の表面形状を有する離型層を効率よく形成させることができるため好ましい。これによって、離型性、離型安定性、耐熱性に優れる離型フィルムを得ることができる。
…中略…
【0049】
本発明の離型フィルムの製造方法について、基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する)フィルムを用いた例を挙げて説明する。まず、必要に応じて顔料、染料、有機又は無機の粒子を添加したPETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルムを作製する。このフィルムを80?120℃に加熱したロールで長手方向に3?4.2倍延伸して一軸配向PETフィルムを得る。このフィルムの片面に所定の濃度に調製した、メラミン化合物を含む樹脂組成物を有する塗液を塗布する。この時、塗布前にPETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、PETフィルム上への樹脂組成物の塗布性が向上するため、濡れ性を向上させ、樹脂組成物のはじきを防止し、均一な塗布厚みを達成することができる。
【0050】
塗布後、PETフィルムの端部をクリップで把持して80?130℃の予熱ゾーンへ導き、塗液の溶媒を乾燥させる。乾燥後100℃?160℃の温度にて、幅方向に3?4.2倍延伸する。引き続き200?240℃の熱処理ゾーンへ導き1?30秒間の1段階目の熱処理を行い、その後、1段階目の熱処理温度よりも高い温度かつ200?240℃の範囲で2段階目の熱処理を1?30秒間行い、結晶配向を完了させるとともに、離型層の形成を完了させる。この加熱工程(熱処理工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3?15%の弛緩処理を施してもよい。
【0051】
本発明においては、離型層表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以上80μm以下であることが必要である。ここでいうRSmは、JIS B 0601(2001年)に従って求められるものであり、基準長さにおける粗さ曲線要素間の長さの平均をあらわす。すなわち、図1における基準長さ(Lr)において、粗さ曲線のピーク数がm、各ピーク間の距離がW_(1)、W_(2)、W_(3)・・・W_(m)とするとき、下記式(1)に示すようにW_(1)?W_(m)の長さの総和を粗さ曲線のピーク数mで除算することにより、RSmを求めることができる。RSmを上述の10μm以上80μm以下とすると、離型性、離型安定性を飛躍的に良好とすることができる。この効果について、本発明者らは、下記のように推定している。RSmは、離型層表面の凸凹の間隔をあらわすものであり、値が大きいほど凸凹間の距離が大きくなるため、表面の平均傾斜が緩やかとなる。一方、値が小さくなると、表面の凸凹のピッチが小さくなり、表面の平均傾斜が急となり、また、単位面積当たりの溝の数が増加する。RSmが80μmより大きいと、離型層表面の傾斜が過度に緩やかになり、離型層に積層した層と離型層表面の密着が不十分となる。一方、RSmを10μm未満とすると、表面の平均傾斜が急となり、また、単位面積当たりの溝の数が増加するため、安定した離型性を得ることが困難となる。RSmを10μm以上80μm以下とすることにより、離型層の表面に適度な間隔で凸凹が配列され、離型性、離型安定性の観点から最適な高さ勾配を形成するものと考えている。RSmは、好ましくは20μm以上75μm以下であり、30μm以上70μm以内であると最も好ましい。
【0052】
【数1】

【0053】
離型フィルムの特性を上記範囲とするための方法としては、下記のような条件で形成することが挙げられる。
・離型層を構成する樹脂組成物全体に対してメラミン樹脂を50質量%以上含有する樹脂組成物の塗液を、基材フィルムの少なくとも片面に塗布した後、乾燥工程にて溶媒を蒸発させ、その後、熱処理工程にて離型層を形成させる方法において、(i)?(iii)を満たすようにすること。
(i)上記熱処理工程の温度を200?240℃とすること。
(ii)上記乾燥工程から熱処理工程の間において、工程同士あるいは工程間の温度差が80℃以内となるようにすること。
(iii)離型層の厚みを0.02μm以上0.1μm未満となるようにすること。
【0054】
本発明の離型層を構成する樹脂組成物中のメラミン樹脂の含有量を上記の範囲とすることによって、(i)を満たす高温にて熱処理をした場合にも離型層表面が過度に荒れることなくRSmを適切な範囲に調整することが可能である。メラミン樹脂の含有量が50質量%未満の場合、200℃以上の高温での熱処理を行うと離型層表面の平滑性が低下しRSmが80μmを超えるとともに、離型層表面の耐熱性が低下する場合がある。離型層を構成する樹脂組成物中のメラミン樹脂の含有量は、好ましくは60質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以上85質量%以下である。
【0055】
上記、熱処理温度を200℃以上240℃以下という高い温度で行うことにより、メラミン樹脂同士の自己縮合反応、あるいは、メラミン樹脂とバインダーの架橋反応が進行し、離型層の耐熱性を高めることができる。好ましくは225℃?240℃である。また、メラミン樹脂同士の自己縮合反応、あるいは、メラミン樹脂とバインダー樹脂の架橋反応が進行することにより、離型層の延伸追従性が向上するため、コーティング後の延伸工程において離型層表面に断裂が生じにくくなり、RSmを好ましい範囲とすることができる。
【0056】
離型層を形成せしめる工程の中で、乾燥工程から熱処理工程の間において、工程同士あるいは工程間の温度差が80℃以内となるようにすることで、離型層中の樹脂の緩和、再分散が生じ、架橋反応および自己縮合反応が高度に進行することで、緻密な塗膜表面を形成し、離型層表面の耐熱性が高まる。さらに、平滑性の高いメラミン樹脂添加系においても、工程同士あるいは工程間の温度差が80℃以内とすることでバインダー樹脂が表面を被覆した状態となり表面の平滑度が上がりすぎることなく、RSmを好ましい範囲とすることが可能である。特に、離型層を構成する樹脂組成物中のメラミン樹脂の含有量が多い場合には、メラミン樹脂同士の自己縮合が進みすぎると表面が平滑になりすぎRSmが低くなる場合がある。例えば、離型層を形成せしめる工程において、延伸工程を120℃で実施した後、熱処理が200℃を超える温度で実施すると、高濃度に添加したメラミン樹脂の表面濃縮と自己縮合が起こり、表面が過度に平滑化し、RSmが目的の範囲とすることが困難となる場合がある。工程同士あるいは工程間の温度差を80℃以内とすることで、メラミン樹脂とバインダー樹脂との架橋反応とメラミン樹脂同士の自己縮合反応を適切に進行させることができ、RSmを目的の範囲とすることが可能となる。
【0057】
また、離型層の厚みが0.1μm以上の場合には、成型時の延伸追従性が低下し離型層にクラックが生じやすくなるため、離型層表面においてRSmが大きくなる場合があり、剥離が不安定になる場合がある。また、離型層の厚みが0.02μm未満では、均一なRSmを有する塗膜を得るのが難しく、剥離が不安定化する場合がある。離型層の厚みは、好ましくは、0.025μm以上0.08μmであり、最も好ましくは0.03μm以上0.6μmである。離型層の厚みは、離型フィルムの断面を走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、光学顕微鏡などで500倍以上10000倍以下の倍率で観察することによって、厚みを測定することができる。
【0058】
上記三要件を簡便かつ経済的に満たす離型フィルムの製造方法として、フィルム製造工程内で離型層を設けるインラインコート法が挙げられる。ここでいうインラインコート法とは、少なくとも一軸延伸を行ったフィルム上に離型層組成物を水に分散させたものをメタリングバーやグラビアロールなどを用いて均一に塗布し、延伸を施しながら塗剤を乾燥させる方法である。この工程の中で、フィルムの熱処理温度を200℃以上240℃以下とし、その前工程である延伸工程の最高温度を熱処理温度から80℃以内の温度とすることにより、必要とする乾燥工程の温度条件を達成することができる。また、離型層組成物塗布後に延伸処理を行うことにより、離型層の薄膜化が達成できる。このとき、離型層のメラミン樹脂による架橋反応を促進する観点から、熱処理時間は5秒以上25秒未満であることが好ましい。熱処理時間が5秒未満では離型層の架橋反応が十分進行せず、目的とする耐熱性を発現しない。また、熱処理時間が25秒より大きいと、基材フィルムの熱結晶化が進行し脆化するため、トリミング時にノッチが入るなど取り扱い上の問題が生じる。上記製造上の温度要件について具体的に示すと、例えば横延伸温度を150℃とし、熱処理温度を230℃とすることにより、工程間の温度変化を80℃とし、かつ高温での熱処理が実現される。
【0059】
本発明の離型層は、離型層表面のスキューネスRSkが0.9以上4.0以下であることが好ましい。ここでいうスキューネスRSkはJIS B 0601(2001年)にしたがって求められるものであり、表面の凹凸部の形状をあらわすものである。RSkが正に大きい場合には、尖った鋭角の凸部と丸みを帯びた凹部から構成された表面形状であることをあらわす。一方、RSkが負に大きい場合には、丸みを帯びた凸部と尖った鋭角の凹部から構成される表面形状であることをあらわす。RSkが0.9未満の場合、離型層表面の凹部が過度に鋭角となるため、被剥離層に対するアンカー効果が強くなりすぎることから、被離型層の重剥離化が顕著となる。一方で、RSkを0.9以上4.0以下とすることにより、適切な程度のアンカー効果を示す表面構造が得られるとともに、離型フィルムを延伸した際の表面構造の保持性も良好となる。また、RSkが4.0より大きい場合には、離型層が軽剥離化するとともに、耐擦過性が低下し、フィルム表面にキズがつきやすくなる場合がある。好ましくは、1.0以上2.5以下である。
【0060】
上記特性範囲については、例えば先述の3要件を満たすことによって成される。
【0061】
本発明の離型フィルムは、成型同時転写用途や熱プレス成形用途などに用いられる。中でも、深い形状の型に成形同時転写用途に用いられる場合、成形同時転写された後、すなわち離型フィルムは伸長された状態で離型性を有することが求められる。しかしながら、離型フィルムの離型層が伸長に追従できない場合は、離型層の表面に微小な亀裂が生じる場合があり、RSkは低下してしまう。そのため、本発明の離型フィルムは、長手方向に2倍伸長した後の離型層表面のスキューネスRSkと、幅方向に2倍伸長した後の離型層表面のスキューネスRSkの平均が0.9以上4.0以下であると、深い形状の型に成形した後においても、離型性に優れ、また離型安定性に優れるため好ましい。長手方向に2倍伸長した後の離型層表面のスキューネスRSkと、幅方向に2倍伸長した後の離型層表面のスキューネスRSkの平均は、好ましくは、1.0以上2.5以下である。長手方向に2倍伸長した後の離型層表面のスキューネスRSkと、幅方向に2倍伸長した後の離型層表面のスキューネスRSkの平均が0.9未満の場合は、成型時の延伸等で離型層の表面に微細な亀裂が入っている場合があり、剥離安定性に劣ったり、剥離の際に被剥離層に離型層が転写する場合がある。
【0062】
RSkは具体的には、以下の方法により求められる。図1における基準長さ(Lr)において、粗さ曲線の高さをzとしてz=Z(x)で表したとき、下記式(2)で示すように、Z(x)の三乗をx=0?Lrまで積分して得た値をRqの三乗で除算することによる求められる。ここでRqはJIS B 0601(2001年)にしたがって求められる表面粗さのパラメータであり、Z(x)の二乗の平均値として求められる値である。すなわち、x=0?Lrまでの範囲を測定したときには、下記式(3)で示すように、Z(x)の二乗をx=0?Lrまで積分して得た値をLrで除算した値の平方根としてRqを得る。
【0063】
【数2】

【0064】
【数3】

【0065】
本発明の離型フィルムにおいて、離型層表面のRSkを上記の好ましい範囲にする方法としては、例えば離型層を形成させる方法において、(1)?(3)を満たす条件とし、かつ離型層を構成する樹脂組成物中のメラミン樹脂の含有量を、離型層を構成する樹脂組成物全体に対して80質量%以下とすることが挙げられる。メラミン樹脂の濃度が80質量%より大きい場合には、離型層表面の延伸追従性が低下し、伸長時に表面へ亀裂が入ることでRSkが低下する場合がある。
【0066】
また、本発明の離型フィルムにおいて、任意の方向に2倍伸長した後の離型層表面のRSkを上記の好ましい範囲とする方法としては、バインダー樹脂としてアクリルモノマー共重合樹脂を用い、未伸長時のRSkを0.9以上とすることにより達成される。アクリルモノマー共重合樹脂の含有量としては、離型層中のメラミン樹脂以外の構成成分中に対して70質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは80質量%以上である。バインダー樹脂としてアクリルモノマー供重合樹脂を用いることにより、離型層の延伸追従性が向上し、フィルムを伸長した場合にも表面への亀裂の発生が抑制される。
【0067】
本発明の離型フィルムは、成型同時転写用途や熱プレス成形用途などに用いられるが、例えば成形同時転写用途に用いられる場合、成形される樹脂が離型フィルム表面上をスムーズに流動することが求められる。射出された樹脂の流動性が悪いと、インキ流れが悪化し、転写性を悪化させ、また離型性を悪化させる要因となる。特に深い形状の型を用いて成形同時転写を行う場合は、この問題が発生しやすい。そのため、本発明の離型フィルムは、離型層表面の静摩擦係数が1.2以下であることが好ましい。離型フィルムの離型層表面の静摩擦係数を1.2以下とすることにより、樹脂の流動性を良好にし、深い形状の型を用いても良好な転写性、離型性を得ることができる。好ましくは0.8以下であり、0.6以下であると最も好ましい。離型層表面の静摩擦係数を1.2以下とする方法としては、離型層を上述した構成にすることに加えて、基材フィルムの表層を構成する樹脂に粒子を0.001質量%以上0.5質量%以下添加する方法などが挙げられる。添加量が0.001質量%未満では効果が不十分であり、0.5質量%より大きい場合には、フィルム表面が低光沢化することにより転写後の外観に影響を与える可能性がある。
【0068】
本発明の離型層は、基材フィルムの片面、もしくは両面に積層することができる。片面に積層した場合には、離型層とは反対側の面に帯電防止層を積層してもよい。帯電防止層には、例えば、カーボンブラック、酸化スズ、酸化スズアンチモンドープ、ポリチオフェンおよびポリアニリンなどの帯電防止剤を含有させることができる。透明性を考慮すると、酸化スズ系の帯電防止剤が好ましい。」

ウ 「【実施例】
【0072】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお諸特性は以下の方法により測定、評価した。
…中略…
【0076】
3.RSm、RSk、2倍伸長時のRSk
菱化システム社製、非接触表面・層断面形状計測システム、VertScan2.0を用いて測定した。測定条件は下記のとおり。5サンプルについて測定を実施し、その平均値をRSm、RSkとする。
測定長さ(Lr:基準長さ):1252μm
レンズ:10倍
2倍伸長時のRSkについては、引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUCT-100)を用いて、長手方向および幅方向に切り出した幅10mmのサンプルフィルムをチャック間長さ50mm(初期試料長)となるようにセットし、温度150℃、湿度65%RHの条件に設定した恒温層中で60秒間の予熱後、引張速度300mm/分で引張し、2倍に伸張したサンプルを未延伸サンプルのRSkの測定方法と同様にして測定を行った。長手方向に切り出したサンプルフィルムを2倍に伸長したサンプル、幅方向に切り出したサンプルフィルムを2倍に伸長したサンプルについて、それぞれ5サンプルについてRSkの測定を実施し、10サンプルの平均値を2倍伸長時のRSkとした。
【0077】
4.成形性、離型性、耐熱性
離型層に、順にトップコート層、インキ層、接着層をコーティングし、転写箔を作成した。トップコート層として、紫外線硬化型アクリル系樹脂(BASFジャパン(株)製“LAROMER”(登録商標) LR8983)(厚み60μm)、インキ層として、ポリウレタン系樹脂グラビアインキ(大日精化工業(株)製“ハイラミック”、主要溶剤:トルエン/メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール、インキ:723B黄/701R白)(厚み70μm)を形成し、さらに、接着層として、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合樹脂フィルム(オカモト(株)製ABSフィルム“ハイフレックス”、厚み100μm)を塗布した。インキ層を硬化させるために40℃で72時間エージングを行った。次に、直径50mm、絞り比(深さ/底面直径)が0.2の円筒型の金型にセットして120℃で減圧成形を行い、ABS樹脂(東レ(株)製、ABS樹脂“トヨラック”(登録商標) 930)を用い、射出成形して、円筒型成形物を作成した。
【0078】
(1)成形性
S:円筒型成形物底側のコーナーがシャープに成形されている。
A:円筒型成形物底側のコーナーが丸みを帯びているが、成形されている。
B:成形されているが、白化している部分がある。
C:成形できていない。
A以上を合格とした。
【0079】
(2)離型性
さらに、転写箔を貼り付けたままトップコート層を紫外線硬化させるため波長365nmの紫外線を2000mJ/cm^(2)照射した後、外表面の成形転写用積層フィルムを剥離し、外表面からインキ層が見えるABS樹脂製箱型成形物を作成した。これを各水準につき10個作成し、評価に用いた。
S:10個全て問題なく剥離できた。
A:やや抵抗はあったが、10個全て剥離できた。
B:紫外線硬化前に剥がれてしまものがあった。
C:剥がれないものがあった。
A以上を合格とした。
【0080】
(3)耐熱性
S:転写箔、成形体ともに樹脂流れの跡が見られない。
A:転写箔にわずかに樹脂うち込み跡が見られるが、成形体には見られない。
B:成形体にわずかな樹脂流れの跡が見られる。
C:成形体に明らかな樹脂流れの跡が見られる。
A以上を合格とした。
…中略…
【0082】
6.フィルム厚み
打点式フィルム厚み計(Anritsu、K402B)を用い、フィルム幅方向の任意の場所50箇所、フィルム幅の中心付近の長手方向で任意の場所50箇所について厚みを測定し、全100箇所の数平均値をフィルム厚みとした。
【0083】
7.離型層厚み
離型層の厚みは、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、電子顕微鏡観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡HU-12型((株)日立製作所製)を用い、フィルムの断面を3000?200000倍に拡大観察し、断面写真を撮影し、当該断面写真より離型層の厚みを測定した。なお、層構成を明確にするためにRuO4染色法にて染色を行い、異なる樹脂層同士の染め分けを行った。なお、本発明のフィルムについては、フィルム表面の1平米当たりの塗布体積A(cm^(3)/m^(2))を樹脂の比重を1g/cm^(3)として塗剤の固形分濃度から算出し、このAを塗布厚み(μm)とした。
【0084】
(ポリエステルチップα)
テレフタル酸ジメチル100質量部、およびエチレングリコール70質量部の混合物に、0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加して、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行った。ついで、該エステル交換反応生成物に、0.020質量部のリン酸85質量%水溶液を添加した後、重縮合反応釜に移行した。重合釜内で加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で重縮合反応を行い、固有粘度0.65,副生したジエチレングリコール成分が、樹脂中のグリコール成分に対して、2モル%共重合されたポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。
【0085】
(ポリエステルチップβ)
1,4-シクロヘキサンジメタノール成分が、ポリエチレンテレフタレートのグリコール成分に対して、33モル%共重合された共重合ポリエステルを使用した。
【0086】
(粒子マスターM)
上記ポリエステルチップαを製造する際、エステル交換反応後に平均粒子径2.2μmの凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加してから重縮合反応を行い、ポリマー中の粒子濃度2質量%の粒子マスターを作製した。
【0087】
(離型層形成用溶液)
以下に示す、架橋剤:バインダー樹脂:離型剤:粒子をそれぞれ表に記載の質量比で混合し、固形分が1%の質量比となるように純水で希釈して調整した。
・架橋剤I:メチル化メラミン/尿素共重合の架橋製樹脂((株)三和ケミカル製“ニカラック”(登録商標)「MW12LF」)
・架橋剤II:ブチル化メラミン/尿素共重合の架橋製樹脂(大日本インキ化学工業製“ベッカミン”(登録商標):「J101」)
・バインダー樹脂I:アクリルモノマー共重合体(日本カーバイド製)
・バインダー樹脂II:テレフタル酸25モル%、イソフタル酸24モル%、5-Naスルホイソフタル酸1モル%、エチレングリコール25モル%、ネオペンチルグリコール25モル%の混合重合物を25質量%に水で希釈した分散体。
・離型剤I:4つ口フラスコにキシレン200部、オクタデシルイソシアネート600部を加え、攪拌下に加熱した。キシレンが還流し始めた時点から、平均重合度500、ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100部を少量ずつ10分間隔で約2時間にわたって加えた。ポリビニルアルコールを加え終わってから、さらに2時間還流を行い、反応を終了した。反応混合物を約80℃まで冷却してから、メタノール中に加えたところ、反応生成物が白色沈殿として析出したので、この沈殿を濾別し、キシレン140部を加え、加熱して完全に溶解させた後、再びメタノールを加えて沈殿させるという操作を数回繰り返した後、沈殿をメタノールで洗浄し、乾燥粉砕して得た粉末を8.6質量%となるように水で希釈した分散体。
・離型剤II:攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.5Lの乳化設備に融点105℃、酸価16mgKOH/g、密度0.93g/mL、平均分子量5000の酸化ポリエチレンワックス300g、イオン交換水650gとデカグリセリンモノオレエート界面活性剤を50g、48%水酸化カリウム水溶液10gを加え窒素で置換後、密封し150℃で1時間高速攪拌した後130℃に冷却し、高圧ホモジナイザーを400気圧下で通過させ40℃に冷却し得られたワックスエマルション。
・離型剤III: ガラス製反応容器中に、パーフルオロアルキル基含有アクリレートであるCF_(3)(CF_(2))_(n)CH_(2)CH_(2)OCOCH=CH_(2)(n=5?11、nの平均=9)80.0g、アセトアセトキシエチルメタクリレート20.0g、ドデシルメルカプタン0.8g、脱酸素した純水354.7g、アセトン40.0g、C_(16)H_(33)N(CH_(3))_(3)Cl1.0gおよびC_(8)H_(17)C_(6)H_(4)O(CH_(2)CH_(2)O)_(n)H(n=8)3.0gを入れ、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩0.5gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しつつ60℃で10時間共重合反応させて得られた共重合体エマルション。
・粒子:数平均粒子径170nmのシリカ粒子(日産化学工業(株)製“スノーテックス”(登録商標)MP2040)を固形分濃度が40重量%となるように純水で希釈して得られた水分散体。
【0088】
(実施例1)
基材フィルムは3層積層フィルム(B層/A層/B層)とした。
ポリエステルチップα、ポリエステルチップβと粒子マスターMを真空乾燥機にてそれぞれ180℃4時間乾燥し水分を十分に除去した。その後、A層がポリエステルチップα:ポリエステルチップβ=60:40の質量比になるように、B層がポリエステルチップα:ポリエステルチップβ:粒子マスターM=88:10:2の質量比で原料をブレンドした。それぞれ別の単軸押出機に供給し、275℃で溶融し、別々の経路でフィルター、ギヤポンプを通し、異物の除去、押出量の均整化を行った。その後、Tダイの上部に設置したフィードブロック内にてB層/A層/B層の厚み比が1/8/1になるように積層し、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸フィルムを得た。次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、予熱温度を90℃、延伸温度を95℃で長手方向に3.3倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却した。その後、コロナ放電処理を施し、表に示した組成の離型層形成用溶液(水分散体)をメタリングバーを用いてウェット厚みが13.5μmとなるように塗布した。次いでテンター式横延伸機にて予熱前半温度(横延伸予熱温度1)100℃、予熱後半温度(横延伸予熱温度2)130℃、延伸温度150℃で幅方向に3.5倍延伸し、そのままテンター内にて幅方向に4%のリラックスを掛けながら温度230℃で8間の熱処理を行い、フィルム厚み50μmの離型フィルムを得た。
(当合議体注:「8間」は「8秒間」の誤記である。【0050】及び【0058】の記載からも確認できる。)
【0089】
この離型フィルムは、離型層表面のRSmが67μmであり、高い剥離安定性と耐熱性を示すとともに、成形性に優れることから、特に成形同時転写用途に好適な特性を有していた。
…中略…
【0094】
(実施例4)
製膜条件を表1のとおりにした以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0095】
この離型フィルムは、離型層表面のRSmが50μmであり、熱処理温度を低くしたことに起因した耐熱性の低下、およびRSkの低下が見られたが、離型フィルムとしては十分な特性を示した。また、該離型フィルムは成形性にも優れることから、特に成形同時転写用途に好適な特性を有していた。
…中略…
【0100】
(実施例7)
離型層の厚みを表1のとおりにした以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
(当合議体注:離型層形成用溶液中の固形分組成も変更されている。)
…中略…
【0112】
(実施例13)
基材フィルムと離型層形成用溶液中の固形分の組成を表2のとおりにした以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0113】
この離型フィルムは、離型層表面のRSmが66μmであり、耐熱性と離型性に優れ、離型フィルムとして好適な特性を有していた。しかしながら、離型層への粒子添加に起因したRSk、および2倍伸長時のRSkの低下により、成形延伸後の離型性がやや低下したが離型フィルムとして有用なフィルムであった。
…中略…
【0146】
【表1】

【0147】
【表2】

…中略…
【0149】
表中の略称は下記のとおり。
α:ポリエステルチップα
β:ポリエステルチップβ
M:粒子マスターM
バインダーI:バインダー樹脂I
バインダーII:バインダー樹脂II
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の離型フィルムは、離型層の耐熱性が高いため、成型同時転写用途や熱プレス工程のような高温の加工が必要となる用途に適している。また、離型フィルムを延伸した後も、安定した剥離力と耐熱性を示すことから、成型同時転写用途に用いた場合、より深い形状の成型同時転写が可能となる。」

(2)引用文献4に記載された発明
引用文献4には、引用文献4の【0011】?【0068】(前記(1)イ)に開示された離型フィルムの具体的な実施例として、実施例1(【0088】?【0089】)、実施例4(【0094】?【0095】)及び実施例7(【0100】?【0101】)が開示されている。
また、引用文献4の【0146】の【表1】、【0051】及び【0059】の記載から、各実施例の「離型層の厚み」、「粗さ曲線要素間の長さの平均RSm」、「スキューネスRSk」及び「2倍伸長後のスキューネスRSk」を把握することができる。さらに、【0084】には「ポリエステルチップα」、【0085】には「ポリエステルチップβ」、【0086】には「粒子マスターM」、【0087】及び【0146】の【表1】には「離型層形成用溶液」について、開示されている。
加えて、引用文献1では、これら実施例の離型フィルムの離型層に、「順にトップコート層、インキ層、接着層をコーティングし、転写箔を作成し」て、成形性、離型性、耐熱性の評価が行われている(【0077】)。
そうしてみると、引用文献4には、実施例1、実施例4及び実施例7の離型フィルムを用いてなる、以下の「転写箔」の発明が記載されている(以下、「実施例1発明」、「実施例4発明」及び「実施例7発明」という。)。なお、「延伸温度」を区別するため、「縦延伸温度」及び「横延伸温度」に書き分けた。

ア 実施例1発明
A層がポリエステルチップα:ポリエステルチップβ=60:40の質量比になるように、B層がポリエステルチップα:ポリエステルチップβ:粒子マスターM=88:10:2の質量比で原料をブレンドし、フィードブロック内にてB層/A層/B層の厚み比が1/8/1になるように積層し、Tダイより冷却ドラム上にシート状に吐出し冷却ドラムに密着させ未延伸フィルムを得、
次いで、予熱温度を90℃、縦延伸温度を95℃で長手方向に3.3倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却し、その後、コロナ放電処理を施し、離型層形成用溶液をウェット厚みが13.5μmとなるように塗布し、
次いで、横延伸予熱温度1を100℃、横延伸予熱温度2を130℃、横延伸温度を150℃で幅方向に3.5倍延伸し、そのままテンター内にて幅方向に4%のリラックスを掛けながら温度230℃で8秒間の熱処理を行い、フィルム厚み50μmの離型フィルムを得、さらに、
離型層に、順にトップコート層、インキ層、接着層をコーティングして作成した転写箔であって、
離型層の厚みが0.038μm、JIS B 0601(2001年)に従って求められる基準長さにおける粗さ曲線要素間の長さの平均RSmが67μm、JIS B 0601(2001年)に従って求められる表面の凹凸部の形状をあらわすスキューネスRSkが1.92、2倍伸長後のスキューネスRSkが1.3であり、
ここで、ポリエステルチップα、ポリエステルチップβ、粒子マスターM、離型層形成用溶液、トップコート層、インキ層及び接着層は、以下のとおりである、
転写箔。
(ポリエステルチップα)
テレフタル酸ジメチル100質量部及びエチレングリコール70質量部の混合物に、0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加してエステル交換反応を行い、次いで、エステル交換反応生成物に、0.020質量部のリン酸85質量%水溶液を添加した後、重縮合反応を行って得た、固有粘度0.65、副生したジエチレングリコール成分が、樹脂中のグリコール成分に対して、2モル%共重合されたポリエチレンテレフタレート樹脂。
(ポリエステルチップβ)
1,4-シクロヘキサンジメタノール成分が、ポリエチレンテレフタレートのグリコール成分に対して、33モル%共重合された共重合ポリエステル。
(粒子マスターM)
ポリエステルチップαを製造する際、エステル交換反応後に平均粒子径2.2μmの凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加してから重縮合反応を行い作製した、ポリマー中の粒子濃度2質量%の粒子マスター。
(離型層形成用溶液)
架橋剤Iとしてのメチル化メラミン/尿素共重合の架橋製樹脂52質量%、バインダー樹脂Iとしてのアクリルモノマー共重合体48質量%を混合し、固形分が1%の質量比となるように純水で希釈して調整した。
(トップコート層)
紫外線硬化型アクリル系樹脂(厚み60μm)。
(インキ層)
ポリウレタン系樹脂グラビアインキ(厚み70μm)。
(接着層)
アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合樹脂フィルム(厚み100μm)。

イ 実施例4発明
製膜条件において、架橋剤Iを75質量%、バインダーIを25質量%に変更し、横延伸余熱温度1を90℃、横延伸余熱温度2を120℃、横延伸温度を150℃、熱処理温度を205℃に変更した以外は、実施例1発明と同様にして得た転写箔であって、
RSmが50μm、RSkが0.78、2倍伸長後のRSkが0.65である、
転写箔。

ウ 実施例7発明
離型層の厚みを0.088μmに変更し、製膜条件において、架橋剤Iを75質量%に、バインダーIを25質量%に変更した以外は、実施例1発明と同様にして得た転写箔であって、
RSmが77μm、RSkが0.98、2倍伸長後のRSkが0.45である、
転写箔。

2 対比及び判断
(1)対比
事案に鑑みて、本願発明と実施例7発明を対比する。
実施例7発明は、「離型層の厚みを0.088μmに変更し、製膜条件において、架橋剤Iを75質量%に、バインダーIを25質量%に変更した以外は、実施例1発明と同様にして得た転写箔であ」る。また、実施例1発明は、前記1(2)アに記載のとおりである。
そうしてみると、実施例7発明の「転写箔」は、「B層/A層/B層」、「離型層」、「トップコート層」、「インキ層」、「接着層」がこの順に積層されたものである。また、「A層」及び「B層」の「厚み比」並びに「B層」の材料に「粒子マスターM」が含まれることからみて、実施例7発明の「A層」は基材として機能する層であり、「離型層」側の「B層」は凹凸を形成するための層といえる。さらに、「転写箔」に関する技術常識を勘案すると、実施例7発明の「転写箔」は、「インキ層」の図柄により樹脂成形品等の表面に装飾を施すシートであり、加えて、実施例7発明の「トップコート層」は、その材質及び積層順からみて、紫外線硬化性樹脂から構成された「インキ層」を保護する層と理解される(当合議体注:引用文献4の【0002】?【0004】及び【0077】?【0079】の記載からも確認できる事項である。)。
そうしてみると、実施例7発明の「A層」、「離型層」側の「B層」、「トップコート層」及び「転写箔」は、それぞれ本願発明の「基材層」、「凹凸層」、「保護層」及び「加飾シート」に相当する。また、実施例7発明の「転写箔」は、本願発明の「少なくとも、基材層、凹凸層、および保護層が順に積層された加飾シートであって」、「前記凹凸層と前記保護層との間に、離型層をさらに備え」という要件を満たす。さらに、実施例7発明の「トップコート層」は、本願発明の「保護層」における「電離放射線硬化性樹脂から構成され」という要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と実施例7発明は、以下の構成において一致する。
「 少なくとも、基材層、凹凸層、および保護層が順に積層された加飾シートであって、
前記凹凸層と前記保護層との間に、離型層をさらに備え、
前記保護層が電離放射線硬化性樹脂から構成された、
加飾シート。」

イ 相違点
本願発明と実施例7発明は,以下の点で相違又は一応相違する。
(相違点1)
本願発明は、「JIS B0601:2001に基づいて、カットオフ値を0.8mmとして、前記加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面を測定したときの凹凸の平均間隔Smが、前記転写層の表面の少なくとも一部の領域において、0.06mm以上0.18mm以下であ」るのに対し、実施例7発明は、一応、このような特定がなされていない点。

(相違点2)
本願発明は、「JIS B0601:2001に基づいて、カットオフ値を0.8mmとして、前記加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面を測定したときの粗さ曲線のスキューネスRskが、前記転写層の表面の少なくとも一部の領域において、-0.82以上-0.02以下である」のに対し、実施例7発明は、一応、このような特定がなされていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
実施例7発明の「離型層」は、「JIS B 0601(2001年)に従って求められる基準長さにおける粗さ曲線要素間の長さの平均RSm」が「77μm」である。また、「離型層」に「トップコート層として、紫外線硬化型アクリル系樹脂」をコーティングした構成において、「離型層」と「トップコート層」は、共通の界面を有するから、当該界面において、両者の「平均RSm」は同等の値となる。
ここで、引用文献4の【0061】の記載によれば、「離型フィルムは、成型同時転写用途や熱プレス成形用途などに用いられる」ものであり、「深い形状の型に成形同時転写用途に用いられる場合」、「離型フィルムは伸長された状態で離型性を有することが求められる」ことから、転写時の伸長を想定して、「2倍伸長した後の離型層表面のスキューネスRSk」を評価している。すなわち、引用文献4の離型フィルムは、転写時に2倍伸長する前提であることが把握される。
こうした前提に基づいて、実施例7発明の「離型フィルム」を2倍伸長して転写すると、そのRSmは、0.154mm(77μm×2倍=154μm)程度ということになるから、実施例7発明は、本願発明の「JIS B0601:2001に基づいて、カットオフ値を0.8mmとして、前記加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面を測定したときの凹凸の平均間隔Smが、前記転写層の表面の少なくとも一部の領域において、0.06mm以上0.18mm以下であり」という要件を満足する。
(当合議体注:実施例7発明のカットオフ値は、0.8mmではなく0.25mmかもしれない。しかし、仮にカットオフ値が相違するとしても、カットオフ値を0.08値として求めた、2倍伸長後のRSm値が0.06mmを下回ったり、0.18mmを上回ったりするとは考えがたい。)
そうしてみると、相違点1は実質的な相違点ではない。
仮に相違するとしても、当業者ならば、引用文献4の【0051】の記載が示唆する範囲内でRSmを変更することができる。

イ 相違点2について
実施例7発明の「離型層」は、「JIS B 0601(2001年)に従って求められる表面の凹凸部の形状をあらわすスキューネスRSk」が「0.98」、「2倍伸長後のスキューネスRSk」が「0.45」である。
ここで、上記イで述べたとおり、引用文献4の【0061】の記載から、引用文献4は、転写時に2倍伸長する前提である。また、引用文献4の【0063】に【数2】として記載される、スキューネスRSkの定義から、実施例7発明の「離型層」のスキューネスRskと、「離型層」上にコーティングされ「離型層」の表面形状を反映した「トップコート層」のスキューネスRskは、正負が反転した値となる。
したがって、実施例7発明(「転写箔」)が被転写体へ転写された場合、「トップコート層」(転写層の表面)のスキューネスRskが「-0.45」程度となり、この値は、本願発明の「粗さ曲線のスキューネスRsk」が「-0.82以上-0.02以下」であるとの要件を満足する。また、カットオフ値については、上記イで述べたとおりである。
そうしてみると、相違点2は実質的な相違点ではない。

(4)実施例4発明を引用発明とした場合
実施例7発明に替えて、実施例4発明を引用発明としても同様である。

(5)発明の効果について
本件特許明細書には、【発明の効果】として、「加飾成形品の表面に高意匠性等の所望の表面特性を付与することができる。」(【0020】)と記載されている。
しかしながら、「加飾成形品の表面に高意匠性等の所望の表面特性を付与」できるとの効果は、実施例7発明も奏するものである。具体的には、実施例7発明は、「基材フィルムを構成する樹脂中に粒子を含有させると、フィルムのすべり性を向上させることが可能となり、製造時の取り扱い性が良好となる。また、フィルム表面に低光沢感が求められる用途においては、基材フィルム中に粒子を含有せしめることにより、粒子がフィルム表面の平滑度を低下させ、光沢度を目的とする値に調整することが可能となる。」(引用文献4の【0021】)ものである。
あるいは、本願発明の効果は、引用文献4の記載から当業者が予期し得る程度のものである。
なお、Smの「0.06mm以上0.18mm以下」という数値範囲、及びRskの「-0.82以上-0.02以下」という数値範囲に臨界的意義がないことは明らかである。すなわち、本件出願の明細書には、臨界的意義を確認できるような実施例/比較例は開示されておらず、実施例4?実施例6については、光学特性や表面形状の評価も行われていない。また、Rskの数値範囲については、実施例1?実施例3において、3回ずつ測定して得られた値の下限値及び上限値を寄せ集めたものであり、その測定値のばらつきからしてみても、本願発明の進歩性を肯定する要因として認めることはできない。

(6)審判請求書について
請求人は、審判請求書の「3-3-1.本願発明1について」において、「(1)本願発明1の加飾シートは、JIS B0601:2001に基づいて、カットオフ値を0.8mmとして、加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面を測定したときの凹凸の平均間隔Smが、転写層の表面の少なくとも一部の領域において、0.06mm以上0.18mm以下であるという要件(要件(D))、およびJIS B0601:2001に基づいて、カットオフ値を0.8mmとして、加飾シートが被転写体へ転写された場合の転写層の表面を測定したときの粗さ曲線のスキューネスRskが、転写層の表面の少なくとも一部の領域において、-0.82以上-0.02以下であるという要件(要件(E))の両要件を備えるものです。
その一方で、引用発明4は、要件(D)および要件(E)の両要件を備えるものではありません。事実、引用文献4の実施例では、要件(D)および要件(E)の両要件を満たすものは1つも存在しません。」と主張している。
請求人の主張は、転写箔が成形時に伸長しないとの前提のものと理解されるところ、確かに、本願発明では【0116】に記載のとおり(加飾シートが伸長しないと思われる条件下で)表面形状が評価されている。
しかしながら、実施例7発明の(伸長前の)RSmは77μmであるから、本願発明の数値範囲内にある。また、RSkについては0.98と本願発明のRskの上限値を僅かに上回っているが、測定誤差を考慮すると、物として相違するとまではいいがたい。実施例4発明についてみても同様である。
してみると、請求人の審判請求書の主張を採用することはできない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2021-03-29 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-15 
出願番号 特願2015-172119(P2015-172119)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B44C)
P 1 8・ 113- Z (B44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
福村 拓
発明の名称 加飾シート、加飾成形品、および加飾成形品の製造方法  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 浅野 真理  
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