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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1374767
審判番号 不服2020-8447  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-17 
確定日 2021-06-29 
事件の表示 特願2019-523132「ポリビニルアルコールフィルム、及び偏光フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月 3日国際公開、WO2019/189695、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2019-523132号(以下「本件出願」という。)は,2019年(平成31年)3月28日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年3月30日)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は以下のとおりである。
令和元年11月21日付け:拒絶理由通知書
令和2年 1月27日付け:意見書
令和2年 1月27日付け:手続補正書
令和2年 3月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 6月17日付け:審判請求書
令和2年 6月17日付け:手続補正書
令和3年 1月28日付け:拒絶理由通知書
令和3年 3月 8日付け:意見書
令和3年 3月 8日付け:手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項8に係る発明は,令和3年3月8日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項8に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりのものである。
「 未変性ポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコールフィルムであって,
該ポリビニルアルコールフィルムを23℃,50%RHの恒温室で48時間養生した後,パルスNMRを用いて80℃でSolid Echo法で測定して得られた1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を,以下の式:
Y=A1*exp(-1/w1*(t/T2A)^w1)+B1*exp(-1/w2*(t/T2B)^w2)+C1*exp(-1/w3*(t/T2C)^w3)
(式中,
w1?w3はワイブル係数,w1は2,w2及びw3は1の値,
A1はA成分の,B1はB成分の,C1はC成分のそれぞれ成分比,
T2AはA成分の,T2BはB成分の,T2CはC成分のそれぞれ緩和時間,
tは時間を表す)
を用いてフィッティングを行い,緩和時間の短い順にA成分,B成分,及びC成分の3成分に由来する3つの曲線に波形分離して得た,A成分の緩和時間が0.0083ミリ秒以上0.0093ミリ秒以下であり,A成分の成分比が15%以上35%以下であるポリビニルアルコールフィルム。」

なお,請求項2?請求項5に係る発明は,請求項1に係る「ポリビニルアルコールフィルム」の発明に対して,さらに他の発明特定事項を付加した「ポリビニルアルコールフィルム」の発明である。また,請求項6?請求項8に係る発明は,請求項1?5のいずれか1項に記載の「ポリビニルアルコールフィルム」を用いた「偏光フィルムの製造方法」の発明である。

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,[理由A](進歩性)本件出願の請求項1?請求項8に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用文献1に記載された発明)に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,[理由B](サポート要件)本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない,というものである。
引用文献1:国際公開第2015/020046号

4 当合議体が通知した拒絶の理由
令和3年1月28日付け拒絶理由通知書により当合議体が通知した拒絶の理由は,(明確性要件)本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるということができないから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない,というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2015/020046号(以下「引用文献1」という。)は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,光学フィルムを製造するための原反フィルムとして有用なビニルアルコール系重合体フィルムと,それを用いた偏光フィルム等の光学フィルムの製造方法に関する。
背景技術
[0002] 光の透過及び遮蔽機能を有する偏光板は,光の偏光状態を変化させる液晶と共に液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。多くの偏光板は偏光フィルムの表面に三酢酸セルロース(TAC)フィルムなどの保護膜が貼り合わされた構造を有しており,偏光フィルムとしてはビニルアルコール系重合体フィルム(以下,「ビニルアルコール系重合体」を「PVA」と称することがある)を一軸延伸してなるマトリックスにヨウ素系色素(I_(3)^(-)やI_(5)^(-)等)や二色性有機染料といった二色性色素が吸着しているものが主流となっている。
…省略…
発明が解決しようとする課題
[0006] しかしながら,従来公知のPVAフィルムを用いた場合には,光学特性,色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを得るという点でさらなる改良の余地があった。
[0007] そこで本発明は,光学特性,色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造することのできるPVAフィルムと,それを用いた光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らが上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果,PVAフィルムにおける結晶成分量および拘束非晶成分量の合計の割合を特定の範囲とすれば上記課題が解決されることを見出し,当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。」

イ 「発明を実施するための形態
[0021] 本発明のPVAフィルムは,60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:^(1)H)することによって得られるスピン-スピン緩和時間T_(2)から結晶成分量(a_(1)),拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めた際に,結晶成分量(a_(1)),拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合が10?32%の範囲内にある。
[0022] パルスNMRは,有機化合物の構造決定などにおいて汎用されるような高分解能NMRとは異なり,系内の分子運動性と関連した^(1)H核の各緩和時間を測定することができるとともに,その高い定量性を利用して,系内における各運動成分の存在割合を求めることができる分析法である。本発明においては,PVAフィルムにおける結晶成分量(a_(1)),拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めるにあたり,^(1)Hのスピン-スピン緩和時間T_(2)を用いる。具体的には,^(1)Hのスピン-スピン緩和時間T_(2)の測定において得られる自由誘導減衰(FID)信号が下記式(4)に近似的にあてはまるように,いずれも正の値であるa_(1),a_(2),a_(3),a_(4),c_(1),c_(2)およびc_(3)を求める。当該あてはめ(フィッティング)は線形最小二乗法を用いて行うことが好ましい。得られた各値のうち,a_(1)が上記結晶成分量(a_(1))に該当し,a_(2)が上記拘束非晶成分量(a_(2))に該当し,a_(3)が上記非晶成分量(a_(3))に該当する。パルスNMR測定する際の具体的な各条件としては,実施例において後述する各条件をそれぞれ採用することができる。
[0023]
[数1]

…省略…
[0027] PVAフィルムに含まれるPVAの種類に特に制限はないが,結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムが容易に得られることから,PVAフィルムに含まれるPVAは,下記式(1)で示される構造単位(1),下記式(2)で示される構造単位(2)および下記式(3)で示される構造単位(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位を含み,構造単位(1)?(3)の含有率をそれぞれn_(1)?n_(3)モル%とし,ビニルエステル単位の含有率をn_(4)モル%とした際に,0.6≦n_(1)+n_(2)+2×n_(3)+n_(4)≦1.4を満たすことが好ましい。
[0028]
[化5]


[0029][式中,R^(1)は,水素原子,メチル基またはエチル基を示す。]
[0030]
[化6]

[0031][式中,R^(2)は,水素原子,メチル基またはエチル基を示し,X^(2)は,1個以上の水酸基を有する炭素数2以上のヒドロキシアルキル基を示す。]
[0032]
[化7]

[0033][式中,X^(3)およびX^(4)は,それぞれ独立して,1個以上の水酸基を有する炭素数1以上のヒドロキシアルキル基を示す。]
…省略…
[0040] また上記例示のPVAは,ビニルエステル単位を含んでいても含んでいなくてもどちらでもよいが,製造の容易さなどを考慮すると,ビニルエステル単位を含んでいることが好ましい。当該ビニルエステル単位としては,典型的には後述するような,PVAの製造に用いられるビニルエステル系単量体に由来する構造単位が挙げられる。
…省略…
[0061] ビニルエステル系単量体と,それと共重合可能でありかつ構造単位(1)?(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換可能な不飽和単量体との共重合により得られるビニルエステル系共重合体をけん化することにより,上記例示のPVAを得ることができる。
…省略…
[0067]…省略…本明細書におけるPVAの重合度は,JIS K6726-1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
[0068]…省略…本明細書におけるPVAの分子量分布とは,質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)により算出される値である。
…省略…
[0086] 本発明のPVAフィルムの用途に特に制限はないが,本発明のPVAフィルムによれば,光学特性,色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造することができることから,光学フィルムを製造するための原反フィルムとして使用するのが好ましい。このような光学フィルムとしては,例えば,偏光フィルムや位相差フィルムなどが挙げられ,偏光フィルムであることが好ましい。
…省略…
[0095] 以上のようにして得られた偏光フィルムは,通常,その両面または片面に,光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用される。
…省略…
[0096] 上記のようにして得られた偏光板は,アクリル系等の粘着剤をコートした後,ガラス基板に貼り合わせてLCDの部品として使用することができる。同時に位相差フィルムや視野角向上フィルム,輝度向上フィルム等と貼り合わせてもよい。」

ウ 「実施例
[0097]
…省略…
[0100]PVAフィルムにおける結晶成分量(a_(1))と拘束非晶成分量(a_(2))
以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムから得たサンプル(100mg)を5mm×5mm程度の大きさに細断した後に重水1mLと共にNMRチューブに投入した。このNMRチューブを60℃の恒温槽中に1時間浸漬した。その後,20℃で24時間保管し,測定試料とした。この測定試料を,パルスNMR(ブルカー・バイオスピン株式会社製「minispec mq20 WVT」)を用いて^(1)Hのスピン-スピン緩和時間T_(2)を測定した。測定条件は以下の通りである。
・パルス系列:Solid-Echo法(90x-τ-90y)
・RFパルス幅(Pw1):2.1μs
・パルス間隔(Pi1):1μs
・パルス繰り返し時間:1s
・測定温度:30℃
上記測定で得られた自由誘導減衰(FID)信号を線形最小二乗法によって上記式(4)にフィッティングし,いずれも正の値である結晶成分量(a_(1)),拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求め,これら3成分の量の合計に対する各成分の割合を算出した。
…省略…
[0105]偏光フィルムの色相(平行b値)
上記の「偏光フィルムの光学特性(二色性比)」において,二色性色素の吸着量の異なる4枚の偏光フィルムの偏光度Vを求める際に,透過率T?(%)及び透過率T⊥(%)測定時にLab色空間を測定し,透過率T?(%)の測定時のb値を平行b値とし,透過率T⊥(%)の測定時のb値を直交b値とした。各実施例及び比較例毎に,平行b値を横軸,直交b値を縦軸として,各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの平行b値及び直交b値に基づく1点も含めた合計5点をグラフにプロットして近似曲線を求め,当該近似曲線から,直交b値が-4であるときの平行b値を求めた。なお,平行b値が0に近いほど偏光フィルムの色相は良好であり,平行b値が2.2未満の場合を「○」(良好)と判定し,2.2以上の場合を「×」(不良)と判定した。
…省略…
[0107][実施例1?6および比較例1?5]
(1)酢酸ビニルと,酢酸2-メチル-2-プロペニル,3,4-ジアセトキシ-1-ブテン,7-アセトキシ-1-ヘプテンまたは1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンとの共重合体(比較例1では酢酸ビニルの単独重合体)をけん化することにより得られた表1に示すPVA100質量部,可塑剤としてグリセリン10質量部,及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含み,PVAの含有率が10質量%である水溶液を製膜原液として用いて,これを80℃の金属ロール上で乾燥し,得られたフィルムを熱風乾燥機中で所定の温度で1分間熱処理をすることにより膨潤度を200%に調整して,厚みが30μmのPVAフィルムを製造した。
得られたPVAフィルムを用いて,上記した方法により結晶成分量(a_(1))と拘束非晶成分量(a_(2))の割合を求めるとともに延伸性を評価した。結果を表1に示した。
[0108](2)上記(1)で得られたPVAフィルムの幅方向中央部から,幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ8cmのサンプルをカットした。このサンプルを30℃の純水に浸漬しつつ1.5倍に長さ方向に一軸延伸した。続いてヨウ素を0.03質量%及びヨウ化カリウムを3.0質量%の割合で含有する水溶液(染色浴)(温度30℃)に60秒間浸漬しつつ1.6倍(全体で2.4倍)に長さ方向に一軸延伸してヨウ素を吸着させた。次いで,ホウ酸を3質量%及びヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(架橋浴)(温度30℃)に浸漬しつつ1.1倍(全体で2.6倍)に長さ方向に一軸延伸した。さらにホウ酸を4質量%及びヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液(延伸浴)(上記「PVAフィルムの延伸性」で求めた限界延伸倍率が最も高くなる温度)に浸漬しつつ,限界延伸倍率よりも0.2倍低い倍率まで長さ方向に一軸延伸した。その後,ヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(洗浄浴)(温度30℃)に5秒間浸漬し,最後に60℃で4分間乾燥して偏光フィルムを製造した。
得られた偏光フィルムを用いて,上記した方法により偏光フィルムの光学特性(二色性比),色相(平行b値)および耐久性を評価した。結果を表1に示した。
[0109]
[表1]

[0110] 以上の結果から明らかなように,本発明の規程を満たす実施例1?6のPVAフィルムによれば,光学特性,色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造できることが分かる。」

(2) 引用発明及び比較例1発明
ア 引用発明
引用文献1の[0107]及び[0109][表1]の記載からみて,引用文献1には,実施例2として,次の「ビニルアルコール系重合体フィルム」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお,[0002]の記載に基づいて,「PVA」を「ビニルアルコール系重合体」と表記した。また,重合度の定義は[0067],分子量分布の定義は[0068],結晶成分量及び拘束非晶成分量の定義は[0022]?[0024]及び[0100]に記載のとおりであるが,ここではその記載を省略する。
「 酢酸ビニルと酢酸2-メチル-2-プロペニルの共重合体をけん化することにより得られたビニルアルコール系重合体100質量部,可塑剤としてグリセリン10質量部,及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含み,ビニルアルコール系重合体の含有率が10質量%である水溶液を製膜原液として用いて,これを80℃の金属ロール上で乾燥し,得られたフィルムを熱風乾燥機中で所定の温度で1分間熱処理をすることにより膨潤度を200%に調整して製造した厚みが30μmのビニルアルコール系重合体フィルムであって,
ビニルアルコール系重合体は,酢酸2-メチル-2-プロペニルに由来し,けん化された構造単位が0.5モル%,ビニルエステル単位が0.2モル%,重合度が2400,分子量分布が2.8であり,
ビニルアルコール系重合体フィルムは,結晶成分量の割合が12%,拘束非晶成分量の割合が14%である,
ビニルアルコール系重合体フィルム。」

イ 比較例1発明
同様に,引用文献1には,比較例1として,次の「ビニルアルコール系重合体フィルム」の発明(以下「比較例1発明」という。)も記載されている。
「 酢酸ビニルの重合体をけん化することにより得られたビニルアルコール系重合体100質量部,可塑剤としてグリセリン10質量部,及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含み,ビニルアルコール系重合体の含有率が10質量%である水溶液を製膜原液として用いて,これを80℃の金属ロール上で乾燥し,得られたフィルムを熱風乾燥機中で所定の温度で1分間熱処理をすることにより膨潤度を200%に調整して製造した厚みが30μmのビニルアルコール系重合体フィルムであって,
ビニルアルコール系重合体は,ビニルエステル単位が0.2モル%であり,重合度が2400,分子量分布が2.8であり,
ビニルアルコール系重合体フィルムは,結晶成分量の割合が17%,拘束非晶成分量の割合が21%であり,
偏光フィルムとしたときの色相の判定結果が「不良」である,
ビニルアルコール系重合体フィルム。」

2 対比及び判断
以下,本件出願の請求項1?請求項8に係る発明を,それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。
(1) 対比
引用発明の「ビニルアルコール系重合体フィルム」は,「酢酸ビニルと酢酸2-メチル-2-プロペニルの共重合体をけん化することにより得られたビニルアルコール系重合体100質量部,可塑剤としてグリセリン10質量部,及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含み,ビニルアルコール系重合体の含有率が10質量%である水溶液を製膜原液として用いて,これを80℃の金属ロール上で乾燥し,得られたフィルムを熱風乾燥機中で所定の温度で1分間熱処理をすることにより膨潤度を200%に調整して製造した厚みが30μmの」ものである。
上記の製造工程からみて,引用発明の「ビニルアルコール系重合体フィルム」は,「酢酸ビニルと酢酸2-メチル-2-プロペニルの共重合体をけん化することにより得られたビニルアルコール系重合体」を「フィルム」化してなるものである。また,上記「ビニルアルコール系重合体」は,技術的にみて,ポリビニルアルコールに分類される。
そうしてみると,引用発明の「ビニルアルコール系重合体フィルム」は,本願発明1の「ポリビニルアルコールフィルム」に相当するとともに,両者は,「ポリビニルアルコールを含む」点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。
「 ポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコールフィルム。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「ポリビニルアルコール」が,本願発明1は「未変性」のものであるのに対して,引用発明は,変性したものである(「酢酸2-メチル-2-プロペニルに由来し,けん化された構造単位」を「0.5モル%」含む)点。

(相違点2)
「ポリビニルアルコールフィルム」が,本願発明1は,「23℃,50%RHの恒温室で48時間養生した後,パルスNMRを用いて80℃でSolid Echo法で測定して得られた1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を,以下の式:
Y=A1*exp(-1/w1*(t/T2A)^w1)+B1*exp(-1/w2*(t/T2B)^w2)+C1*exp(-1/w3*(t/T2C)^w3)
(式中,
w1?w3はワイブル係数,w1は2,w2及びw3は1の値,
A1はA成分の,B1はB成分の,C1はC成分のそれぞれ成分比,
T2AはA成分の,T2BはB成分の,T2CはC成分のそれぞれ緩和時間,
tは時間を表す)
を用いてフィッティングを行い,緩和時間の短い順にA成分,B成分,及びC成分の3成分に由来する3つの曲線に波形分離して得た,A成分の緩和時間が0.0083ミリ秒以上0.0093ミリ秒以下であり,A成分の成分比が15%以上35%以下である」のに対して,引用発明は,これが不明である(A成分の緩和時間は測定されておらず,また,A成分の成分比については,測定条件が異なるため比較できない)点。

(3) 判断
事案に鑑みて,相違点1について判断する。
引用文献1の[0027]?[0033]の記載からみて,引用発明の「ビニルアルコール系重合体」が「酢酸2-メチル-2-プロペニルに由来し,けん化された構造単位」([0028][化5]の式(1)に該当する構造単位)を「0.5モル%」含むのは,「結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムが容易に得られる」ようにするためといえる。また,引用文献1には,比較例1発明,すなわち,「ビニルアルコール系重合体」として未変性の(「酢酸ビニルの重合体をけん化することにより得られた」)ものを採用した発明も開示されているところ,この比較例1発明は,「偏光フィルムとしたときの色相の判定結果が「不良」である」。
そうしてみると,当業者が,引用発明の「ビニルアルコール系重合体」を未変性のものとすること(「酢酸ビニルと酢酸2-メチル-2-プロペニルの共重合体」ではなく「「酢酸ビニルの重合体」を採用すること)には,阻害要因があるといえる。
したがって,相違点2について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。

(4) 本願発明2?本願発明8
ア 本願発明2?本願発明5について
本願発明2?本願発明5は,本願発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明である。
そうしてみると,前記(1)?(3)で述べたのと同じ理由により,本願発明2?本願発明5は,当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。

イ 本願発明6?本願発明8について
本願発明6?本願発明8は,本願発明1?本願発明5のいずれかの「ポリビニルアルコールフィルム」を用いた「偏光フィルムの製造方法」の発明である。
ここで,本願発明1?本願発明5が,当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができないことは,前記(1)?(3)及びアで述べたとおりである。
そうしてみると,本願発明6?本願発明8についても,当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。

第3 原査定の拒絶の理由について
1 理由A(進歩性)について
前記「第2」で述べたとおりであるから,本願発明1?本願発明8は,当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということができない。

2 理由B(サポート要件)について
本件出願の明細書の【0005】の記載からみて,本願発明1?本願発明5の発明の課題は,「偏光性能を良好にしつつ,偏光フィルムの製造時に皺及び合着が生じ難いPVAフィルム」「を提供すること」にある。また,本願発明6?本願発明8の発明の課題は,「偏光性能を良好にしつつ,偏光フィルムの製造時に皺及び合着が生じ難いPVAフィルムを用いた偏光フィルムの製造方法を提供すること」にある。
ここで,本件出願の【0010】及び【0011】には,A成分の緩和時間及び成分比を,本願発明1?本願発明5の範囲内とすることにより,PVAフィルムから製造される偏光フィルムの偏光性能を良好にしつつ,偏光フィルム製造時にフィルムに皺及び合着が生じることを防止することができることが,その理由とともに,記載されている。
また,本件出願の明細書の【0017】,【0018】,【0019】?【0022】,【0027】,【0029】,【0030】及び【0032】には,A成分の緩和時間及び成分比を,本願発明1?本願発明5の範囲内に調整しやすくするための,PVA系重合体の重合度の範囲,PVAフィルムにおけるPVA系重合体の含有量の範囲,PVAフィルムにおける可塑剤の含有量の範囲,PVA溶液におけるPVA系重合体の濃度の範囲,PVA溶液を加熱環境下で一定時間保持する際の加熱温度の範囲と一定時間の範囲,PVA溶液の降温速度の範囲,及び,塗布後のPVA溶液を加熱乾燥する温度範囲と乾燥時間の範囲についてそれぞれ記載されている。
さらに,【0044】?【0062】には,これに整合する実施例1?7及び比較例1,2が記載されている。そして,これら事項を疑わせるような特段の事情があるということもできない。
そうしてみると,本願発明1?本願発明5は,発明の詳細な説明に記載したものである。また,本願発明6?本願発明8についても同様である。
したがって,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に適合するものである。

第4 当合議体が通知した拒絶の理由について
令和3年3月8日にした手続補正により,当合議体が通知した拒絶の理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の拒絶の理由及び当合議体が通知した拒絶の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-06-10 
出願番号 特願2019-523132(P2019-523132)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 慎平菅原 奈津子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
関根 洋之
発明の名称 ポリビニルアルコールフィルム、及び偏光フィルムの製造方法  
代理人 田口 昌浩  
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