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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G02C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02C
管理番号 1374796
審判番号 不服2020-7908  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-09 
確定日 2021-06-29 
事件の表示 特願2015-161868「近視の進行を予防及び/又は遅延するための高プラス処置ゾーンレンズ設計及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 4日出願公開、特開2016- 45495、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-161868号(以下「本件出願」という。)は、平成27年8月19日(パリ条約による優先権主張 2014年8月20日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成31年 2月 7日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月24日提出:意見書
令和31年 4月24日提出:手続補正書
令和 元年 7月30日付け:拒絶理由通知書
令和 元年12月20日提出:意見書
令和 元年12月20日提出:手続補正書
令和 2年 1月30日付け:補正の却下の決定
令和 2年 1月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 6月 9日提出:審判請求書
令和 2年 6月 9日提出:手続補正書
令和 2年12月25日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 4月 2日提出:意見書
令和 3年 4月 2日提出:手続補正書


第2 本件発明
本件出願の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、令和3年4月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。

「 近視の進行を遅延、抑制又は予防することのうちの少なくともいずれか1つ、及びハロー効果を最小限に抑えることを目的とするコンタクトレンズの設計方法であって、
近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び
前記中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの処置ゾーン、を含み、前記少なくとも1つの処置ゾーンが、半径2.15mmに対応する前記中心ゾーンの外縁部における前記負のパワーから、前記コンタクトレンズの中心から3.0mm?4.5mmの距離で前記少なくとも1つの処置ゾーン内における5.0Dより大きい正のパワーへ徐々に及び連続的に増加し、視覚ゾーンの周縁まで一定のままであるパワー特性を有し、前記パワー特性は、患者の瞳孔径に対して調整されていることを特徴とする、コンタクトレンズの設計方法。」

なお、本件発明2?3は、本件発明1の「コンタクトレンズの設計方法」に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。


第3 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
令和2年1月30日付け補正の却下の決定において引用された、特表2013-501963号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の近視または遠視の進行を遅鈍させる方法であって、
第1組のコンタクトレンズ群と第2組のコンタクトレンズ群を含んでいるコンタクトレンズ群について、患者の眼のパラメータ、第1組のコンタクトレンズ群のうちの或るコンタクトレンズに対する患者の反応、眼用レンズを利用した眼の測定値、または、これらの各種組合せに基づいて、第2組のコンタクトレンズ群から別なコンタクトレンズを専門家が選択することで、第1組のコンタクトレンズ群により供与される患者の視認性能と比較してより向上した視認性能を第2組から選択されたコンタクトレンズを装着している患者にもたらすことができるようにして、コンタクトレンズ群を供与する工程を含んでおり、
第1組のコンタクトレンズ群は少なくとも2個のコンタクトレンズを含んでおり、2個のコンタクトレンズは各々が第1屈折力および第2屈折力を有しており、患者の眼にコンタクトレンズが設置されている場合、第2屈折力は遠近両方の視距離で患者に焦点ボケした網膜像をもたらし、
第2組のコンタクトレンズ群は少なくとも2個のコンタクトレンズを含んでおり、2個のコンタクトレンズは各々が第1屈折力および第2屈折力を有しており、患者の眼にコンタクトレンズが設置されて患者の近視または遠視の進行を遅鈍させる実効性を示している場合、第2屈折力は遠近両方の視距離で患者に焦点ボケした網膜像をもたらし、第2組のコンタクトレンズ群は第1組のコンタクトレンズ群とは異なる光学設計を有していることを特徴とする、方法。」

(2)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
・・・省略・・・
【0002】
本発明はコンタクトレンズおよびその方法に関するものである。より詳細には、近視または遠視の進行を阻止または遅鈍する方法は、相互に異なる光学設計の2組以上のコンタクトレンズを使用することを含んでおり、各組のコンタクトレンズは患者に焦点ボケした網膜像を供与することで、近視または遠視の進行を阻止または遅鈍するものである。
【背景技術】
【0003】
近視すなわち近眼には、相当な比率の世界人口が罹患しており、とりわけアジア諸国の一部においては顕著である。通例、近視は人の眼球軸が異常に長く伸びていることに付随して起こる。軸伸長した眼球では、網膜が「正常な」焦平面から外れた位置にきてしまい、遠距離物体の結像点が網膜面上に位置せずに網膜より前方に置かれてしまうことになる。軸伸長した眼球も更に程度が酷い近視に関与しているものは、網膜剥離、緑内障性の障害、および、変性近視性の網膜障害などを伴うことがある。
【0004】
近視の進行を緩和するための努力がなされてきたが、その具体例として、多焦点眼鏡または多焦点コンタクトレンズの使用、光収差に作用するレンズの使用、角膜整形の施術、薬理剤の使用などがある。近視の進行を緩和するための眼科レンズが既に幾つも開示されており、かかるレンズには遠近両方の視距離でくっきり見える視力をもたらす視力矯正領域と遠近両方の視距離でピンボケ像をもたらす近視焦点ボケ領域とが設けられている。既に提案されている試みの或るものについて、近視の進行を緩和するという目的に付随する難点の具体例として、医薬品の副作用、不快感、妥協の産物でしかない視力回復、または、これら難点の各種組合せが挙げられる。
【0005】
遠近いずれを見ている時でもピントの合った網膜像をもたらし、これと同時に、遠近いずれを見ている時でもコンタクトレンズ装着者の眼(片方または両方)に近視焦点ボケ網膜像をもたらすという、両方の像をもたらすコンタクトレンズが近視の進行を阻止または遅鈍するという目的のもとに既に開示されており、例えば、「近眼進行を阻止するコンタクトレンズおよびその方法(Contact Lenses and Methods for Prevention of Myopia Progression)」という発明名称の米国特許出願公開第US 20080062380号や「コンタクトレンズおよび方法(contact Lenses and Method)」という発明名称の米国特許出願公開第US 20080218687号に開示されているが、これら出願公開の各々はその全体が、ここに引例に挙げることにより本件の一部を構成しているものとする。このようなレンズは、数多くのコンタクトレンズ装着者の近視を矯正するとともに近眼進行を遅鈍するのに有効であって、尚且つ、遠視の症例を矯正するとともに遠視進行を遅鈍することもできることが分かっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
患者の近視または遠視の進行を遅鈍する方法は、コンタクトレンズを供与する工程を含んでいる。コンタクトレンズは、コンタクトレンズ製造業者からコンタクトレンズ配給業者に供与され、そのいずれかからコンタクトレンズ小売業者に提供され、これらのいずれかからアイケアの従事者に供与され、アイケアの従事者から患者に用意され、または、これらのいずれであれ各種組合せで供与される。コンタクトレンズは各々が2種類以上の屈折力を有している。第1の屈折力は患者の眼にはっきり見える視力をもたらし、第2の屈折力は患者の眼に焦点ボケした網膜像を供与する。焦点ボケした網膜像は、近視焦点ボケ網膜像か遠視焦点ボケ網膜像のいずれであってもよい。かかる方法は第1組のコンタクトレンズおよび第2組のコンタクトレンズを供与することを含んでおり、第2組のコンタクトレンズは第1組のコンタクトレンズとは異なる光学設計を有している。本発明の方法を利用すれば、アイケアの従事者は、患者の1つ以上の光学パラメータ、第1組のコンタクトレンズに対する患者の1つ以上の反応、または、そのような光学パラメータと反応の両方に基づいて第2組のコンタクトレンズから1つ以上のコンタクトレンズを選択することで、第1組のコンタクトレンズによってもたらされる利益と比べてより向上した臨床上の利益を患者にもたらすことができる。本件で使用されているような「より向上した臨床上の利益」とは、統制条件下の臨床効果と比べて試験条件下でより良好であると患者またはアイケアの従事者が認知した臨床効果を意味している。
【0007】
US 200080218687に記載されているコンタクトレンズは幾多のコンタクトレンズ装着者については近視の進行を遅鈍するのに有効であるが、相当数のコンタクトレンズ装着者がこのようなコンタクトレンズによって提供される治療に満足のゆく反応を示してはいないことが露見している。例えば、このようなコンタクトレンズ装着者群については、コンタクトレンズが近眼進行を効果的に緩和している他のコンタクトレンズ装着者群と比較して、コンタクトレンズが近視を矯正したとか近視の進行を遅鈍したという同レベルの実効性をもたらしていない。本件で記載されているように、本発明の方法および本発明の何組かのコンタクトレンズは、US 20080218687に記載されているコンタクトレンズによってもたらされる各種効果には満足のゆく反応を示していないコンタクトレンズ装着者について、近視を緩和または除去する効果をもたらすことができる。本発明の方法および本発明の何組かのコンタクトレンズは、遠視の進行を緩和するように図ったコンタクトレンズによってもたらされる各種効果に満足のゆく反応を示していないコンタクトレンズ装着者について、遠視の進行を緩和または除去する効果をもたらすことができる。
【0008】
US 20080218687に記載されているコンタクトレンズは、遠近両方の視距離でくっきりした網膜像を供与する効果のある視力矯正領域と、眼調節を行うことのできる患者について遠近両方の視距離で同時に近視焦点ボケ像を供与するのに効果がある近視焦点ボケ領域とを含んでいる。このようなコンタクトレンズは、本件では至便性のために、「近視焦点ボケコンタクトレンズ」と呼称することがある。特に、本件記載の近視焦点ボケコンタクトレンズは、中央の円形域と、かかる中央の円形域を包囲している1つ以上の同心リングとから構成されている。視力矯正領域と近視焦点ボケ領域とは、本件記載のとおり、中央の円形域と1つ以上の同心リングとを多様に組合わせることにより境界が画定されている。
【0009】
従って、近視の進行を阻止または遅鈍する近視焦点ボケコンタクトレンズについては、かかるコンタクトレンズがコンタクトレンズ装着者に近視焦点ボケ網膜像とピントの合った網膜像とを同時に供与するのであるが、コンタクトレンズに供与される治療に対するコンタクトレンズ装着者の反応に多数の要因が影響を及ぼす恐れがあることが露見している。このような要因の具体例としては、コンタクトレンズ装着者の瞳寸法、コンタクトレンズの中央の円形域の直径、コンタクトレンズの近視焦点ボケ領域の面積の視力矯正域の面積に対する比率、または、これらの各種組合せが挙げられる。これらパラメータと治療結果との間の関係を見つければ、コンタクトレンズのパラメータを変動させることにより、多様なコンタクトレンズパラメータを有している1組のレンズからレンズを選択することにより、または、その両方の方法により、治療成果を変える手段が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明を実施するにあたり、複数組のコンタクトレンズが供与される。少なくとも1組と2組が供与される。2組を超える組数のコンタクトレンズが供与されてもよい。各組のコンタクトレンズは1組ごとに2個以上のコンタクトレンズを含んでいる。換言すると、1組のコンタクトレンズは第1コンタクトレンズおよび第2コンタクトレンズを含んでいる。本件で使用されているような「1組」という句は、2個を超える数のコンタクトレンズ、例えば、3個のコンタクトレンズ群、4個のコンタクトレンズ群、5個のコンタクトレンズ群などを意味範囲とする。1組のコンタクトレンズと2組のコンタクトレンズは相互に異なるレンズ設計を有しているか、相互に異なる設計寸法を有しているか、または、相互に異なるレンズ設計と設計寸法とを有している。従って、治療を必要とするコンタクトレンズ装着者が1組目のうちの1個のコンタクトレンズによって供与された治療に対して満足のゆく反応をしない場合は、2組目のうちの1個のコンタクトレンズが供与されてより実効性のある治療を得られるようにする。例えば、近視の進行を緩和することを目的とした或るレンズ設計では、近眼進行の緩和に顕著な効果が皆無であるレンズ装着者すなわち患者の比率は約25%である。効果と瞳寸法との間には相関関係があるかもしれないことが分っている。代替例として、治療を必要としているコンタクトレンズ装着者が1組目のコンタクトレンズによって供与されている治療の水準が高すぎることに気付いた場合は、低下した水準でも依然として実効性のある治療を得るために、2組目のコンタクトレンズが供与される。更には、2組目からコンタクトレンズを1個選択することで低下した水準の治療を供与することにより、視力向上すなわち視認性能の向上をもたらすことでレンズ装着者が引き続きコンタクトレンズを装着することができるようにしながら、同時に、何らかの治療の利益を受けることができるようになる。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0019】
一般に、本発明の一局面は各種方法に関連している。より詳細には、本発明の本局面は、コンタクトレンズ製造業者、コンタクトレンズ供給業者、コンタクトレンズ配給業者、または、これらの各種組合せによって採用される方法に関するものである。かかる方法は、アイケアの従事者によって実施される。例えば、本発明の一方法は、コンタクトレンズ製造業者、コンタクトレンズ供給業者、または、コンタクトレンズ配給業者によってアイケアの従事者にコンタクトレンズを供与する工程を含んでいる。かかる方法は、例えば、レンズ装着者の眼にコンタクトレンズを設置することに関与している場合には、コンタクトレンズ装着者によって実施される。
【0020】
本件に記載されているように、本発明の方法は、患者の近視または遠視の進行を遅鈍することに関するものである。これも本件記載のとおりであるが、患者の近視または遠視の進行を遅鈍する方法はコンタクトレンズを供与する工程を含んでいる。かかる方法は、本件記載のような供与する工程に加えて、更にもう1またはそれ以上の別な工程を含んでいることもある。
【0021】
本発明の方法で供与されるコンタクトレンズは、1組のコンタクトレンズおよび2組のコンタクトレンズから構成されている。コンタクトレンズは、アイケアの従事者(ECP)が患者の眼のパラメータ、1組目のコンタクトレンズ群のうちの1個のコンタクトレンズに対する患者の反応、眼用レンズによる眼の測定、または、これらの各種組合せに基づいて2組目のコンタクトレンズ群からコンタクトレンズを選択することができるように供与される。例えば、2組目のコンタクトレンズ群のコンタクトレンズは、コンタクトレンズ装着者の角膜曲率、角膜直径、瞳寸法、眼調節ラグ、コントラストの喪失、文字判読能力試験時の悪い出来(例えば、ミネソタ研究所方式文字読取り視力検査表)、コンタクトレンズ径、多重像の度合、周辺屈折、または、これらの何らかの組合せに基づいて選択されるとよい。2組目のコンタクトレンズ群からコンタクトレンズが選択される目的として、1組目のコンタクトレンズ群によって供与される患者の視認能力と比較して向上した視認能力を、2組目のコンタクトレンズ群のコンタクトレンズを装着している患者に供与することが挙げられる。
【0022】
前述の方法において、1組目のコンタクトレンズ群は少なくとも2個のコンタクトレンズを含んでいる。例えば、1組目のコンタクトレンズ群は、2個、3個、4個、5個、6個、12個、30個、90個、または、2個以上のどのような個数のコンタクトレンズを備えていてもよいし、必須要素として含んでいてもよいし、構成要素の一部として含んでいてもよい。1組目のコンタクトレンズ群のうちのコンタクトレンズは各々が第1屈折力と第2屈折力を有している。第2屈折力は第1屈折力とは異なっている。例えばコンタクトレンズ装着者が自身の眼にコンタクトレンズを装着することにより、コンタクトレンズが患者の眼に設置されると、第2屈折力は遠近両方の視距離で患者に焦点ボケした網膜像を供与する。1組目のコンタクトレンズ群のコンタクトレンズの第1屈折力は、-0.25から-20.00ジオプターなどの負値の場合もあり、0.00ジオプターのようにフラット値の場合もあり、或いは、+0.25から+20.00ジオプターなどのように正値の場合もある。コンタクトレンズは、乱視を矯正するための既存のトーリックコンタクトレンズに付与されているように、円柱屈折力を有しているようにしてもよい。
【0023】
更に、前述の方法においては、2組目のコンタクトレンズ群は少なくとも2個のコンタクトレンズを含んでいる。2組目のコンタクトレンズ群は少なくとも2個の同じコンタクトレンズを含んでいる。例えば、2組目のコンタクトレンズ群は、2個、3個、4個、5個、6個、12個、30個、90個、または、2個以上のどのような個数のコンタクトレンズを備えていてもよいし、必須要素として含んでいてもよいし、構成要素の一部として含んでいてもよい。2組目のコンタクトレンズ群のコンタクトレンズは各々が、第1の屈折力および第2の屈折力を有している。第2の屈折力は第1の屈折力とは異なっている。例えばコンタクトレンズの装着者が自身の眼にレンズを装着することにより、コンタクトレンズが患者の眼に設置されると、第2屈折力は遠近両方の視距離で患者に焦点ボケした網膜像を供与する。近視焦点ボケ網膜像(すなわち、レンズ装着者の眼の網膜より前側に位置する焦平面)などのような焦点ボケした網膜像、または、遠視焦点ボケ網膜像(すなわち、レンズ装着者の眼の網膜より後側に位置する焦平面)は、患者の近視または遠視の進行を遅鈍するのに有効である。例えば、第2の屈折力が近視焦点ボケ像を供与するレンズを利用した場合、レンズは患者の近視の進行を遅鈍するのに有効である。同様に、第2の屈折力が遠視焦点ボケ像を供与するレンズを利用した場合、レンズは患者の遠視の進行を遅鈍するのに有効である。2組目のコンタクトレンズ群のコンタクトレンズは、1組目のコンタクトレンズ群のものとは異なる光学設計を有している。2組目のコンタクトレンズ群の第1屈折力は1組目のコンタクトレンズ群の第1屈折力と、2組目のコンタクトレンズ群の第2屈折力は1組目のコンタクトレンズ群の第2屈折力と、それぞれに、同じである場合もあれば異なっている場合もある。
・・・省略・・・
【0031】
前述の方法のいずれについても、2組目のコンタクトレンズ群からコンタクトレンズを選択するにあたっては患者の遠方屈折誤差の度合、患者の瞳寸法、患者の視力、患者の眼調節ラグ、患者の固視ずれ、患者の斜位、患者の眼球波面収差プロファイル、患者の周辺屈折、患者の眼軸長測定値、または、これらの各種組合せに基づいて行うとよい。上述の各種測定値は眼科学の臨床分野、すなわち、検眼ではアイケア従事者のよく知るところであり、従来の器具類と方法を使って測定される。従って、アイケア従事者は処方の変更、患者の眼球の軸長の変動、周辺屈折の変化、眼調節ラグの変動、視覚反応の変化、瞳寸法の変化、または、これらの各種組合せを判定することができる。
【0032】
臨床的に容認できる規範はいずれも、2組目のコンタクトレンズ群から1個または複数個のコンタクトレンズが選択されるべきか否かについて判断する目的で、1組目のコンタクトレンズの装着状況から得られた結果に基づいてアイケア従事者によって選択される。例えば視力測定値の測定は、具体的には、高コントラスト高輝度視力、多重像(遠視標距離、中間視標距離、近視標距離のいずれであれ)、立体視、または、これらの各種組合せがアイケア従事者によって測定される。
・・・省略・・・
【0044】
上述の方法においては、向上した目視能の具体例としては、多重像の緩和、コントラスト目視能の増大、または、これらの何らかの組合せが挙げられる。遠視標距離、中間視標距離、または、近視標距離における多重像の緩和は、100点尺度を利用した場合の基準点から10点を超える変動と定義される(基準点は単視力眼鏡レンズまたは単視力コンタクトレンズを装着している患者に基づいている)。コントラスト目視能の増大は、高コントラスト高輝度、低コントラスト高輝度、または、その両方を利用して判定されるとよい。コントラスト目視能の増大は基準から0.5ライン(0.05logMAR)を超える変動と定義されるが、この場合、基準は、患者が単視力眼鏡レンズまたは単視力コンタクトレンズを装着している時に決定される。
・・・省略・・・
【0051】
前述の方法のいずれについても、1組目のコンタクトレンズ群のコンタクトレンズと2組目のコンタクトレンズ群のコンタクトレンズの各々が光学軸線を有している。光学軸線は、概ね、コンタクトレンズの幾何学的中心に一致している。コンタクトレンズは各々が、(i)光学軸線が通っており、個々のコンタクトレンズに第1屈折力を供与しており、中央域直径を呈している中央域と、(ii)中央域に隣接しているとともに中央域を包囲しており、コンタクトレンズに第2屈折力を供与している環状域とを備えている。2組目のコンタクトレンズ群のコンタクトレンズの中央域径は、1組目のコンタクトレンズ群のコンタクトレンズの中央域径よりも短い。
・・・省略・・・
【0058】
第1屈折力と第2屈折力は、もし付与されているのであればそれら以外の屈折力も同様に、コンタクトレンズの光学域に存在している。本件で使用されているような「光学域」という句は、眼の瞳を被覆しているコンタクトレンズの一部に言及したものである。通例は、光学域は円形であり、直径は9mm未満である。コンタクトレンズが乱視を矯正するためのトーリック光学域を含んでいる場合は、トーリック光学域の主軸線は通例は11mm未満となる。光学域の直径は約3mmから11mmである。コンタクトレンズの光学域は周辺域によって包囲されている。光学域と周辺域の間の境界は、裸眼で、拡大器具を使って、または、ゾノメーターなどのようなレンズ検査装置を利用して視覚的に同定され、または、フィゾー干渉計などのような屈折力プロファイル作成干渉計を利用して測定することができる。従って、本発明の説明の文脈では、はっきり見える目視能と焦点ボケは、コンタクトレンズの光学域によってもたらされる第1屈折力および第2屈折力によって供与される。1か所または複数個所の遷移領域または遷移面が光学域と周辺域との境界に設けられ、すなわち、第1屈折力を示す領域と第2屈折力を示す領域との間に設けられているのが分かる。遷移領域の表面曲率はそれらの隣接域の曲率とは異ならせることができ、かかる遷移領域は異なる領域間の非連続性を緩和する効果を有している。コンタクトレンズの遷移領域の寸法と屈折力プロファイルの相違は、相互に異なる複数組のコンタクトレンズ群などのような多様なコンタクトレンズを規定するには十分である。これに加えて、コンタクトレンズには、焦点ボケを供与する1つ以上のまた別な領域などのような別個の分離した領域が設けられている。
・・・省略・・・
【0060】
コンタクトレンズの第1屈折力は0ジオプターまたは負値のジオプターである。レンズ装着者が近視者である場合、第1屈折力は患者の眼の遠方目視能を矯正するように選択され、この領域は、眼調節を行うことができる患者の能力を考慮して、近方視力について利用される。従って、コンタクトレンズの第1屈折力とは遠方光屈折力、遠屈折力、または、遠方視屈折力であると理解してもよい(英語で'distance optical power'、'distance power'、または、'distance vision power'に対応)。第1の屈折力は0.00ジオプターから-10.00ジオプターである。本発明のレンズの第1屈折力はコンタクトレンズの1つ以上の領域で供与され、すなわち、第1屈折力を示す領域(単数または複数)の構成(寸法、形状、または、寸法と形状の両方)は、遠近両方の視距離で患者にはっきり見える視力を供与するように設定される。コンタクトレンズの第1屈折力は球面レンズ曲率、非球面レンズ曲率、またはこれらの各種組合せによってもたらされる。本件で使用されているように、第1の屈折力は実効単屈折力であることが分かる。すなわち、コンタクトレンズの第1屈折力は、コンタクトレンズ製造環境で使用されているとおりに頂点計または焦点距離計によって測定されると、単屈折力であるのが明らかとなる。しかしながら、第1屈折力はコンタクトレンズに2種類以上の屈折力を供与する球面(1つまたは複数)によっても供与されることがあり、但しその場合でも、コンタクトレンズは依然として実効単屈折力を呈している。
・・・省略・・・
【0063】
近視焦点ボケまたは遠視焦点ボケのいずれかを供与する第2屈折力は、視力矯正領域の屈折力とは異なっている屈折力を示す。コンタクトレンズによって供与される第2屈折力は焦点ボケ像を供与するのに有効であるが、同時に、遠近両方の視距離で患者は第1屈折力によりはっきり見える目視能が供与される。上述のように、「近視焦点ボケ」とは、コンタクトレンズが患者の眼に装備された際に、コンタクトレンズによって一部または全部が網膜より前の位置に形成される焦点ボケ像のことを意味している。近視焦点ボケは、コンタクトレンズの作用時にコンタクトレンズによって生成される焦点ボケ像が眼の網膜の前側に置かれるという点で正であることが分かる。
【0064】
近視焦点ボケが第2屈折力によって供与されると、第2屈折力はコンタクトレンズの第1屈折力よりもマイナス寄りの程度が少ない。コンタクトレンズの第2屈折力は負値のジオプター、0ジオプター、または、正値のジオプターとなる。例えば、視力矯正領域のくっせる直は-10.0ジオプターであり、近視焦点ボケ領域の屈折力は約-9.0ジオプター、約-8.0ジオプター、約-7.0ジオプター、約-6.0ジオプター、約-5.0ジオプター、約-4.0ジオプター、約-3.0ジオプター、約-2.0ジオプター、約-1.0ジオプター、または、約0ジオプターとなる場合があり、むしろ、約+1.0ジオプターまたは約+2.0ジオプターになることすらある。第1屈折力は約0ジオプターから約-10.0ジオプターの間となり、第2屈折力は約2.0ジオプターで、第1屈折力よりもマイナス寄りの程度が少ない。一例として、コンタクトレンズは+1.00ジオプターの第1屈折力と-1.00ジオプターの第2屈折力を有しているようにしてもよい。
【0065】
重要なのは、本発明のコンタクトレンズ(1個または複数個)を装備している患者は第1屈折力を利用して遠近両方の距離ではっきり見るせいで(患者の眼の調節のおかげで)、近視標距離ではっきり見えるようにするのに患者は第2屈折力を使用せず(市場で入手できる二焦点コンタクトレンズの近視域と比べて)、その代わりに、第2屈折力は遠近両方の距離でくっきりした像を患者に供与するのと同時に焦点ボケ像を患者に供与するのに有効である。
【0066】
第1屈折力、第2屈折力、または、その両方の屈折力は、各々が本件記載されているような単領域を備えており、必須要件として含んでおり、または、構成要素の一部としている。これに代わる例として、第1屈折力、第2屈折力、または、その両方の屈折力は、本件記載のような複数の二次領域を備えており、必須要件として含んでおり、または、構成要素の一部としているようにしてもよい。
【0067】
例示を目的として、図1は本発明の方法で供与されるコンタクトレンズの一例を図示している。レンズ10には視力矯正領域12と焦点ボケ領域14が設けられている。視力矯正領域12は第1屈折力を示し、近視焦点ボケ領域14は第2の屈折力を示し、これはここで説明してきたとおりである。視力矯正領域12および近視焦点ボケ領域14は、本件で説明されているように、コンタクトレンズ10の光学域16の境界を画定している。光学域16は非光学周辺域18によって包囲されており、かかる非光学周辺域18はレンズ10の光学域16の外側外辺部16から周端縁域20まで延びている。
【0068】
図1に例示されているコンタクトレンズにおいては、視力矯正領域12には中央域22が設けられている。本件に記載されているように、中央域22は遠距離屈折力を呈している。中央域22はレンズ10の光学軸線24の周囲で中央に配置されている。中央域22は円形または略円形であるように例示されている。コンタクトレンズの中央域の直径は2.0mmよりも大きい。中央域22の直径は、コンタクトレンズの2次元正面平面図において光学軸線24を通って中央域22の互いに対向し合う外辺境界部までの直線距離を測定することにより判定される。コンタクトレンズはその中央域22が遠距離屈折力を呈しているとともに直径が少なくとも2.3mmである場合がある。コンタクトレンズは中央域22が遠距離屈折力を呈しているとともに直径が少なくとも2.5mmである場合もある。コンタクトレンズはその中央域22が遠距離屈折力を呈しているとともに直径が少なくとも3.3mmであるようにしてもよい。コンタクトレンズはその中央域22が遠距離屈折力を呈しているとともに直径が4.0mmを超えることもある。
【0069】
図1に例示されているコンタクトレンズ10は、中央の円形域22を包囲している環状リング域26を備えているものと解釈されてもよい。環状域26は単一屈折力の領域であり、その結果、光学機器で視認されると単一リングに見えるようにしてもよいし、或いは、多数の屈折力を呈する単一領域であり、環状領域26が複数の二次リングを有しているように見えるようにしてもよい。図1に例示されている実施形態では、環状領域26は複数の同心状に配置された二次リング26a、26b、26cを備えており、必須要件として含んでおり、または、構成要素の一部として含んでいる。従って、本発明の方法で供与されるコンタクトレンズにおいては、コンタクトレンズには近視焦点ボケ領域が設けられており、かかる近視焦点ボケ領域が円形の中央域22に隣接しているとともにこれを包囲している第1環状域を備えており、必須要件として含んでおり、または、構成要素の一部として含んでいることが分かる。これに代わる例として、または、これに加えて、図1に例示されているようなコンタクトレンズは、円形の中央域22を包囲している環状域26を備えており、かかる環状域26は同心状に配置された複数の環状の二次リング26a、26b、26cを含んでおり、これら二次リングのうちの少なくとも1つ、例えば二次リング26aは近視焦点ボケ領域14の一部となっており、また、二次リングのうちの少なくとも1つ、例えば二次リング26bは視力矯正領域12の一部となっている。本件の開示を目的として、二時リングの屈折力が視力矯正領域12の屈折力に近似している、または、同一である場合には二次リングは視力矯正領域12の一部であり、二次リングの屈折力が近視焦点ボケ領域14の屈折力に近似している、または、同一である場合には二次リングは近視焦点ボケ領域14の一部である。本件で使用されているような「近似」という語は一致している、または、似通っていることを意味し、例えば、プラス/マイナスいずれかで10%の偏差であるとか、0.25ジオプターの範囲内であるとかいったようなわずかな差異を除けば、同一であると解釈してもよい。図1の例示の実施形態においては、コンタクトレンズ10は二次リング26cを備えており、かかる二次リングは近視焦点ボケ領域14の一部である。」

(4) 「【図1】



2 引用発明
上記1の記載(特に、【0020】?【0021】、【0023】、【0051】、【0060】、【0064】等)によれば、引用文献1には、患者の近視の進行を遅鈍する方法において供与される、異なる光学設計を有する、1組目のコンタクトレンズ群及び2組目のコンタクトレンズ群が記載されている。そして、同文献の【0023】には、後者のコンタクトレンズ群に含まれる、次のコンタクトレンズの発明が記載されていると認められる。
また、上記コンタクトレンズが光学設計を有している以上、引用文献1の【0010】に記載されているように、そのコンタクトレンズを設計する方法が存在することは自明である。

以上によれば、引用文献1には、次の「コンタクトレンズを設計する方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(当合議体注:「第2の屈折力」及び「第2屈折力」は、用語を後者に、「近視焦点ボケ」及び「近視焦点ボケ像」は、用語を「近視焦点ボケ網膜像」に統一した。)

「 (i)光学軸線が通っており、個々のコンタクトレンズに第1屈折力を供与しており、中央域直径を呈している中央域と、(ii)中央域に隣接しているとともに中央域を包囲しており、コンタクトレンズに第2屈折力を供与している環状域とを備えており、
レンズ装着者が近視者である場合、第1屈折力は患者の眼の遠方目視能を矯正するように選択され、コンタクトレンズの第1屈折力は負値のジオプターであり、
近視焦点ボケ網膜像が第2屈折力によって供与され、第2屈折力はコンタクトレンズの第1屈折力よりもマイナス寄りの程度が少なく、コンタクトレンズの第2屈折力は負値のジオプター、0ジオプター、または、正値のジオプターとなる、第2屈折力が近視焦点ボケ網膜像を供与するレンズを利用した場合、レンズは患者の近視の進行を遅鈍するのに有効である、コンタクトレンズを設計する方法。」

3 引用文献4の記載事項
令和2年1月30日付け補正の却下の決定において引用された、国際公開第2014/089612号(以下、「引用文献4」という。)は、本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものあるところ、そこには、以下の記載がある。なお、訳は当合議体にて行った。また、下線は当合議体が付与したものである。

(1)「 The ophthalmic lens or ophthalmic system may be one or more of the following: a contact lens, an intraocular lens which may be an anterior chamber intraocular lens or a posterior chamber intraocular lens, a corneal onlay and a corneal inlay.
In certain embodiments, the optical power of the primary area is selected for myopia correction and has a distance power. In one or more embodiments, the secondary areas are arranged and their powers selected with the objective of controlling the progression of myopia. Myopia progresses through steady growth of the eye along the optical axis, causing the focal point to be in front of the retina.
In one or more embodiments, the optical power of the primary area is selected to provide distance, intermediate, or near correction for the eye, and the secondary areas have more positive powers than the primary area.
In some embodiments, said progressive transitioning of the optical power is continuous, at least to the extent of not having discontinuities in magnitude, but also to avoid discontinuities in the rate of change of power with respect to distance across the lens (i.e. a first derivative). In some embodiments, the progressive transitioning of the optical power is continuous or substantially continuous. By suitable or improved vision performance or visual performance herein is meant one or more of clarity of vision, degree of doubling, degree of ghosting, contrast, contrast sensitivity, visual acuity and overall quality of vision.」(第6頁第10?27行)

当合議体訳:「 眼科用レンズ又は眼科用システムは、以下:コンタクトレンズ、前房眼内レンズ又は後房眼内レンズでもよい眼内レンズ、角膜オンレー及び角膜インレーの内の1つ又は複数でもよい。
特定の実施形態では、一次領域の光学度数は、近視の矯正を目的として選択され、遠見度数を有する。1つ又は複数の実施形態では、近視の進行を制御する目的で、二次領域が配置され、それらの度数が選択される。近視は、光軸に沿った目の持続的な成長によって進行し、その結果、焦点が網膜の前に位置する。
1つ又は複数の実施形態では、一次領域の光学度数は、遠見、中間部、又は近見の矯正を目に提供するために選択され、二次領域は、一次領域と比べてより正の度数を有する。
一部の実施形態では、光学度数の前記漸進的遷移は、少なくとも大きさに不連続点を持たないというだけでなく、レンズの幅方向の距離に対する度数の変化率(すなわち一次導関数)における不連続点も回避する点で連続的である。一部の実施形態では、光学度数の漸進的遷移は、連続的又は実質的に連続的である。本明細書において、適切な又は改善した視覚機能又は視機能とは、視覚の明瞭さ、複視の程度、ゴースティングの程度、コントラスト、コントラスト感度、視力、及び視覚の全体的な質の内の1つ又は複数を意味する。」

(2)「 Figures 1 to 4 are half-chord diagrams depicting the optical power radially of the optical zone (radius 4 mm) of contact lenses according to some of the disclosed embodiments. In the embodiments of Figures 1 and 2, the primary area 12 of the contact lens is located centrally and has a myopia correction power of -3 D, according to the prescription of an individual for whom the contact lens is intended. The primary area thus has a diameter of about 2.1 to 2.2 mm.
Peripherally of this central area is a secondary area 14 in which the optical power transitions to a power more positive than that of the central area resulting in an absolute power of -1.5 D for the Figure 1 embodiment, and -0.8 D for the Figure 2 embodiment. The power transitions continuously (that is without discontinuities in magnitude or rate of change), with a number of steps in which the magnitude of the rate of change of the power decreases and then increases.」(第9頁第22?32行)

当合議体訳:「 図1?4は、開示された実施形態の幾つかによるコンタクトレンズのオプティカルゾーン(半径4mm)の半径方向に光学度数を描いた半弦図である。図1及び2の実施形態では、コンタクトレンズの一次領域12は、中心に位置し、このコンタクトレンズが対象とする個人の処方に従って、-3Dの近視矯正度数を有する。従って、一次領域は、約2.1?2.2mmの直径を有する。
この中心領域の周囲は、中心領域の度数と比べてより正の度数へと光学度数が遷移することにより、図1の実施形態の場合-1.5D、図2の実施形態の場合-0.8Dの絶対度数となる二次領域14である。度数は、連続的に(すなわち、大きさ又は変化率に不連続点がない)遷移し、度数の変化率の大きさが減少したのち増加する幾つかのステップを有する。」

(3) 「


(合議体注:便宜のため、「Figure 1」を90度回転し、倍率を変更した。)

(4) 「


(合議体注:便宜のため、「Figure 2」を90度回転し、倍率を変更した。)


第4 当合議体の判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

ア 中心ゾーン
引用発明の「コンタクトレンズ」における「中央域」は、「光学軸線が通っており、個々のコンタクトレンズに第1屈折力を供与しており、中央域直径を呈している」ものである。上記構成から理解される、コンタクトレンズにおける「中央域」の位置からみて、引用発明の「中央域」は、本件発明1の「コンタクトレンズ」における「中心ゾーン」に相当する。
また、引用発明の「第1屈折力」は、「レンズ装着者が近視者である場合、」「患者の眼の遠方目視能を矯正するように選択され、コンタクトレンズの第1屈折力は負値のジオプターであ」る。そうしてみると、引用発明の「患者の眼の遠方目視能を矯正する」は、近視を矯正することと同義といえる。
以上によれば、引用発明の「中央域」は、本件発明1の「中心ゾーン」における、「近視の矯正のための負のパワーを有する」という要件を満たす。

イ 処置ゾーン
引用発明の「環状域」は、「中央域に隣接しているとともに中央域を包囲しており、コンタクトレンズに第2屈折力を供与している」。また、引用発明では、当該「第2屈折力」によって、「近視焦点ボケ網膜像が」「供与され、」「レンズは患者の近視の進行を遅鈍するのに有効」になる。
ここで、引用発明の「患者の近視の進行を遅鈍する」ことは、近視の患者に対する、医療上の「処置」とみることができる。
上記構成及び処置機能からみて、引用発明の「環状域」は、本件発明1において、「中心ゾーンを取り囲む」とされる、「処置ゾーン」に相当する。

ウ コンタクトレンズ、コンタクトレンズの設計方法
引用発明の「コンタクトレンズ」は、その文言のとおり、本件発明1の「コンタクトレンズ」に相当する。また、引用発明の「コンタクトレンズを設計する方法」は、その文言のとおり、本件発明1の「コンタクトレンズの設計方法」に相当する。
また、上記イの構成からみて、引用発明の「コンタクトレンズの設計方法」は、本件発明1の「近視の進行を遅延、抑制又は予防することのうちの少なくともいずれか1つ」「を目的とする」ものであるといえる。
さらに、引用発明の「コンタクトレンズ」は、「中央域と」「環状域とを備えて」いる。
以上の点並びに上記ア及びイの対比結果を総合すると、引用発明の「コンタクトレンズを設計する方法」は、本件発明1の「コンタクトレンズの設計方法」における、「近視の進行を遅延、抑制又は予防することのうちの少なくともいずれか1つ」「を目的とする」及び「近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び前記中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの処置ゾーン、を含み」との要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
上記(1)より、本件発明1と引用発明とは、
「 近視の進行を遅延、抑制又は予防することのうちの少なくともいずれか1つを目的とするコンタクトレンズの設計方法であって、
近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び
前記中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの処置ゾーン、を含む、コンタクトレンズの設計方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「少なくとも1つの処置ゾーン」が、本件発明1は、「半径2.15mmに対応する前記中心ゾーンの外縁部における前記負のパワーから、前記コンタクトレンズの中心から3.0mm?4.5mmの距離で前記少なくとも1つの処置ゾーン内における5.0Dより大きい正のパワーへ徐々に及び連続的に増加し、視覚ゾーンの周縁まで一定のままであるパワー特性を有し、前記パワー特性は、患者の瞳孔径に対して調整されている」のに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(相違点2)
「コンタクトレンズの設計方法」が、本件発明1は、「ハロー効果を最小限に抑えることを目的とする」ものであるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(3)判断
相違点1について検討する。
引用文献1の【0064】には、引用発明の「環状域」(処置ゾーン)の「第2屈折力」に関して、「近視焦点ボケが第2屈折力によって供与されると、第2屈折力はコンタクトレンズの第1屈折力よりもマイナス寄りの程度が少ない。コンタクトレンズの第2屈折力は負値のジオプター、0ジオプター、または、正値のジオプターとなる。例えば、視力矯正領域のくっせる直は-10.0ジオプターであり、近視焦点ボケ領域の屈折力は約-9.0ジオプター、約-8.0ジオプター、約-7.0ジオプター、約-6.0ジオプター、約-5.0ジオプター、約-4.0ジオプター、約-3.0ジオプター、約-2.0ジオプター、約-1.0ジオプター、または、約0ジオプターとなる場合があり、むしろ、約+1.0ジオプターまたは約+2.0ジオプターになることすらある(合議体注:「くっせる直」は、「屈折力」の誤記である。)。第1屈折力は約0ジオプターから約-10.0ジオプターの間となり、第2屈折力は約2.0ジオプターで、第1屈折力よりもマイナス寄りの程度が少ない。一例として、コンタクトレンズは+1.00ジオプターの第1屈折力と-1.00ジオプターの第2屈折力を有しているようにしてもよい。」と記載されている。
上記記載によれば、第2屈折力は、第1屈折力との関係で、マイナス寄りの程度が少ないか、仮に正であっても、たかだか約+2.0ジオプター程度の値までしか想定されていないと理解される。
また、引用文献4にも、近視焦点ボケ領域の屈折力を、5.0Dより大きい正のパワーとすることは、記載も示唆もない。令和2年1月30日付け補正の却下の決定において引用された特表2013-511072号公報(引用文献3)についても同様である。
以上によれば、相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない

(4)小括
以上のとおりであるから、上記相違点1について判断するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1及び4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2?3について
本件発明2?3は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?3も、本件発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1及び4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
1 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、理由1(新規事項):平成31年4月24日付け手続補正書でした本件出願の請求項1?9の補正のうち、「半径2mmに対応する前記中心ゾーンの外縁部」とする補正は、外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない、というものである。

2 原査定についての判断
令和2年6月9日に提出された手続補正書により、特許請求の範囲の請求項1の「半径2mmに対応する前記中心ゾーンの外縁部」との記載が、「半径2.15mmに対応する前記中心ゾーンの外縁部」に補正されたため、原査定の拒絶の理由は解消した。
したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当合議体が通知した拒絶の理由について
令和3年4月2日に提出された手続補正書による補正により、当合議体が通知した拒絶の理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-06-11 
出願番号 特願2015-161868(P2015-161868)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02C)
P 1 8・ 55- WY (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
井亀 諭
発明の名称 近視の進行を予防及び/又は遅延するための高プラス処置ゾーンレンズ設計及び方法  
代理人 加藤 公延  
代理人 大島 孝文  

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