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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1374842
審判番号 不服2020-8448  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-17 
確定日 2021-06-29 
事件の表示 特願2019-523133「ポリビニルアルコールフィルム、及び偏光フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月 3日国際公開、WO2019/189697、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2019-523133号(以下「本件出願」という。)は,2019年(平成31年)3月28日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年3月30日)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は以下のとおりである。
令和元年11月21日付け:拒絶理由通知書
令和2年 1月27日付け:意見書
令和2年 3月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 6月17日付け:審判請求書
令和2年 6月17日付け:手続補正書
令和3年 1月28日付け:拒絶理由通知書
令和3年 3月 8日付け:意見書
令和3年 3月 8日付け:手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項8に係る発明は,令和3年3月8日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項8に記載した事項によって特定されるとおりであるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりのものである。
「 ビニルアルコール系重合体を含むポリビニルアルコールフィルムであって,
該ポリビニルアルコールフィルムを23℃,50%RHの恒温室で48時間養生した後,パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定して得られた1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を,以下の式:
Y=A1*exp(-1/w1*(t/T2A)^w1)+B1*exp(-1/w2*(t/T2B)^w2)+C1*exp(-1/w3*(t/T2C)^w3)
(式中,
w1?w3はワイブル係数,w1は2,w2及びw3は1の値,
A1はA成分の,B1はB成分の,C1はC成分のそれぞれ成分比,
T2AはA成分の,T2BはB成分の,T2CはC成分のそれぞれ緩和時間,
tは時間を表す)
を用いてフィッティングを行い,緩和時間の短い順にA成分,B成分,及びC成分の3成分に由来する3つの曲線に波形分離して得た,B成分の緩和時間が0.031ミリ秒以上0.048ミリ秒以下であり,かつ成分比が30.5%以上48.5%以下であるポリビニルアルコールフィルム。」

なお,請求項2?請求項5に係る発明は,請求項1に係る「ポリビニルアルコールフィルム」の発明に対して,さらに他の発明特定事項を付加した「ポリビニルアルコールフィルム」の発明である。また,請求項6?請求項8に係る発明は,請求項1?5のいずれか1項に記載の「ポリビニルアルコールフィルム」を用いた「偏光フィルムの製造方法」の発明である。

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,[理由A](新規性)本件出願の請求項1,請求項3?請求項8に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(引用文献1)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[理由B](進歩性)本件出願の請求項1?請求項8に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(引用文献1)に記載された発明に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,[理由C](サポート要件)本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない,というものである。
引用文献1:特開2004-125817号公報

4 当合議体が通知した拒絶の理由
令和3年1月28日付け拒絶理由通知書により当合議体が通知した拒絶の理由は,(明確性要件)本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるということができないから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない,というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された特開2004-125817号公報(以下「引用文献1」という。)は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,フラットパネルディスプレイ等に用いられる偏光フィルム,偏光板に関する。また本発明は,それらを用いた表示装置に関する。さらには,液晶もしくはエレクトロルミネッセンス表示装置のインハウス製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に偏光フィルムは,ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素染色を行った後,架橋剤を用いて架橋を行い,一軸延伸することにより製膜されている。ポリビニルアルコールフィルム中へのヨウ素の含浸は,ポリビニルアルコールフィルムを水中にて膨潤させた後に行っており,フィルムを膨潤させることでポリビニルアルコールの分子構造をヨウ素染色されやすい状態にしている。
…省略…
【0005】
偏光フィルムを製造する方法としては,ポリビニルアルコール(PVA)に可塑剤を15重量%以上混合した溶液から製膜したPVAフィルムを,ヨウ素染色及び一軸延伸することにより,偏光度99%以上の偏光フィルムを製造する方法が開示されている(例えば,特許文献1参照。)。」

イ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,染色ムラとポリビニルアルコールフィルムの初期物性との相関を調査した結果,フィルム中の可塑剤含有量の面内バラツキ,特にTD方向における含有量のバラツキが染色ムラの要因の一つとしてあがってきた。これは,ポリビニルアルコールフィルムに含まれる可塑剤が,染色前のフィルム膨潤工程にて膨潤によりフィルムから溶出し,可塑剤の溶出量や溶出速度がフィルム面内で異なるため,染色され易い部分とされ難い部分とが発生することが原因と考えられる。
…省略…
【0012】
そこで,本発明は,染色ムラがなく,高輝度の液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置に用いた際にも,表示ムラがなく優れた表示品位を実現可能な偏光フィルム,それを用いた偏光板,ならびに表示装置を提供することを目的とする。さらに本発明は,前記の偏光板を用いた液晶もしくはエレクトロルミネッセンス表示装置のインハウス製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記課題を解決するため鋭意検討した結果,ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素染色を施す前に,ポリビニルアルコールフィルムを染色されやすい最適な状態,すなわちフィルムの物性値が出来る限り均一な状態にすることが重要との知見を得,本発明に到った。
【0014】
すなわち,本発明は,二色性物質を含有する親水性高分子の延伸フィルムからなる偏光フィルムであって,前記親水性高分子フィルムの面内における70mm×70mmの領域間の可塑剤含有量の最大値と最小値の差が,3.0質量%以下であることを特徴とする偏光フィルムを提供するものである。ポリビニルアルコールフィルムの可塑剤含有量のバラツキを減少させ,面内の近傍間における可塑剤含有量を出来る限り均一にすることにより,膨潤による可塑剤の溶出速度や量に差がなくなり,フィルム面内の物性値のバラツキがある程度存在したとしても,局所的な染色性の違いが減少することによって,染色ムラが改善され視覚的には均一性が向上する。
…省略…
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の偏光フィルムは,二色性物質を含有する親水性高分子の延伸フィルムからなる偏光フィルムであって,前記親水性高分子フィルムの面内における70mm×70mmの領域間の可塑剤含有量の最大値と最小値の差が,3.0質量%以下のものである。
…省略…
【0023】
前記の親水性高分子フィルムとしては,例えばポリビニルアルコールや部分ホルマール化ポリビニルアルコールなどがあげられ,酢酸ビニルを重合した後にケン化したものや,酢酸ビニルに少量の不飽和カルボン酸,不飽和スルホン酸,カチオン性モノマー等の共重合可能なモノマーを共重合したもの等であってもよい。ヨウ素による染色性が良好である点から,ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく用いられる。ポリビニルアルコール系フィルムは,ポリビニルアルコール系樹脂を,水又は有機溶媒もしくは混合溶液に溶解した原液を流延成膜する流延法,キャスト法,押出法等,任意の方法で成膜されたものを適宜使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は,特に制限されず任意のものを使用することができるが,フィルムの水への溶解度の点から,平均重合度100?5000が好ましく,より好ましくは1000?4000である。ケン化度は75モル%以上が好ましく,より好ましくは98?100モル%である。
【0024】
また,ポリビニルアルコール系フィルムの膜厚は,一般に,110μm以下であり,好ましくは38?76μmである。110μmを越える場合は,液晶表示装置に実装した場合に表示パネルの色変化が大きくなり,一方,膜厚が薄すぎる場合は延伸が困難となるからである。ポリビニルアルコール系フィルムの面内における70mm×70mmの領域間のフィルム厚の最大値と最小値の差は,1.5μm以下であることが好ましい。1.5μmより大きい場合は,フィルム延伸時に生ずる位相差値ムラを制御することが困難となり,染色ムラが視覚的に認識されるようになるからである。前記の最大値と最小値の差は,0.8μm以下であることが好ましい。
【0025】
前記の親水性高分子フィルムにおいて,含まれる可塑剤量は特に限定されないが,染色ムラを極力減少させるためには,通常フィルム全体に対して5.0?20.0質量%であるのがよい。可塑剤含有量は,より好ましくは9.0?15.0質量%であり,特に10.5?13.5質量%の範囲が好ましい。可塑剤含有量が,少なすぎる場合は親水性高分子フィルムの膨潤が不十分となるため染色ムラが発生し,一方,多すぎる場合はフィルムからの可塑剤溶出量にバラツキが生じるため染色ムラが発生する。
【0026】ここで,可塑剤としては,親水性高分子フィルムを可塑化しうるものであれば特に限定されず,従来公知のものを使用することができるが,本発明の目的を達成するためには,水溶性可塑剤が好ましく用いられる。具体的には,例えば,エチレングリコール,ジエチレングリコール,プロピレングリコール,低分子量のポリエチレングリコール(Mw:200?400)等のグリコール類,グリセリン,ジグリセリンやトリグリセリン等のグリセリン誘導体等があげられる。中でも,PVAとの相互作用が強く相溶性が大きい点よりグリセリン誘導体が好ましく,特にグリセリンが好ましい。
【0027】
上記の親水性高分子フィルムに,常法により,膨潤処理を施した後,二色性物質による染色処理及び延伸処理を施し,必要に応じて,ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬して架橋処理を施し,水洗,乾燥することにより,本発明の偏光フィルムが作製される。なお,染色処理と延伸処理は,同時でも逐次でもよく,その順番も限定されない。
…省略…
【0081】
【実施例】
以下,実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが,本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。各例中特に言及する場合を除き,「質量%」は「%」と略記する。
【0082】
(実施例1)
重合度2400,厚さ60μm,グリセリン含有量12.0%のPVAフィルムを使用した。なお,フィルム(100cm×100cm)の可塑剤量の最大値と最小値の差は1.3%であった。また,フィルムの厚みバラツキ,すなわち最大値と最小値の差は0.5μmであった。
【0083】
上記のフィルムを,28℃温水中に60秒間浸漬し膨潤させた。次に,ヨウ素/ヨウ化カリウム(重量比0.5:8)水溶液に浸漬して,3.3倍まで延伸させながらPVAフィルムを染色した。その後,65℃のホウ酸エステル水溶液中で,トータル延伸倍率が6.0倍となるように延伸を行った。延伸後,40℃のオーブンにて4分間乾燥を行い,厚さ23μmの偏光フィルムを作製した。
…省略…
【0092】
実施例,比較例で作製した偏光フィルムの染色ムラを,以下の評価基準にて目視で評価した。その結果を表1に示す。

【0093】
(PVA中のグリセリン量の測定方法)
約1cm角程度の大きさに裁断したPVAフィルム約0.12gをサンプリングし,これに熱水約15mlを加え,90℃の湯浴で1時間湯煎して完全に溶解させた。試料溶液の温度を室温に戻し,蒸留水で25mlにメスアップし,これをガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した。

【0094】

【0095】
表1の結果より,可塑剤含有量のバラツキが3.0%以下であれば染色ムラが視認できない程度となり,また,PVAフィルムの厚みバラツキが少なくなるほど染色ムラがなくなることがわかる。
【0096】
(実施例4)
各実施例で作製した偏光フィルムの両面に,7%ポリビニルアルコール水溶液からなる接着剤を塗布し,接着面を苛性ソーダ水溶液でケン化処理した厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(厚み方向位相差値40nm)を貼りあわせ,70℃加熱下で乾燥処理を行うことで総厚185μmの偏光板を得た。偏光板の片側にはセルと貼りあわせる為に,厚み25μmの粘着剤を塗布した。
【0097】
得られた偏光板の光学特性(単体透過率,偏光度)を,以下の方法にて測定した。その結果を表2にまとめて示す。
…省略…
【0099】
(クロスニコル偏光度)
2枚の同じ偏光板を偏光軸が平行になるように重ね合わせた場合の透過率(H_(0))と,直交に重ね合わせた場合の透過率(H_(90))とを,上記の透過率の測定方法に準じて測定し,以下の式から偏光度を求めた。なお,平行の透過率(H_(0))と直交の透過率(H_(90))は,視感度補正したY値である。
【0100】
【数1】

【0101】

【0102】
【発明の効果】
以上説明したとおり,本発明によれば,染色ムラのない偏光フィルムが作製される。そのため,高コントラストの表示装置に用いた際にも表示ムラが視認されることなく,高透過率かつ高偏光度の偏光板が得られる。」

(2) 引用発明
引用文献1の【0082】に記載された,実施例1の「ポリビニルアルコールフィルム」は,【0083】に記載の方法で偏光フィルムとしたときの染色ムラが,「ムラが無い」(【0092】及び【0094】(表1))と評価され,さらに【0096】記載の方法で偏光板としたときの偏光度が「99.96%」(【0101】(表2))であるものである。
また,実施例1の「ポリビニルアルコールフィルム」の組成からみて,実施例1の「ポリビニルアルコールフィルム」における「可塑剤」は,「グリセリン」であると理解できる(【0094】(表1)にも「可塑剤(グリセリン)量(%)」との記載がある。)。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお,【0005】の記載に基づいて,「PVA」を「ポリビニルアルコール」と表記した。
「 重合度2400,厚さ60μm,グリセリン含有量12.0%のポリビニルアルコールフィルムであって,
100cm×100cmの可塑剤(グリセリン)量の最大値と最小値の差は1.3%であり,
厚みバラツキ,すなわち最大値と最小値の差は0.5μmであり,
28℃温水中に60秒間浸漬し膨潤させ,ヨウ素/ヨウ化カリウム(重量比0.5:8)水溶液に浸漬して,3.3倍まで延伸させながら染色し,65℃のホウ酸エステル水溶液中で,トータル延伸倍率が6.0倍となるように延伸を行い,40℃のオーブンにて4分間乾燥を行い,厚さ23μmの偏光フィルムを作製したときの染色ムラが,「ムラが無い」と評価され,
偏光フィルムの両面に,7%ポリビニルアルコール水溶液からなる接着剤を塗布し,接着面を苛性ソーダ水溶液でケン化処理した厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(厚み方向位相差値40nm)を貼りあわせ,70℃加熱下で乾燥処理を行うことで総厚185μmの偏光板を得たときの偏光度が,99.96%である,
ポリビニルアルコールフィルム。」

2 対比及び判断
以下,本件出願の請求項1?請求項8に係る発明を,それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。
(1) 対比
引用発明は,「重合度2400,厚さ60μm,グリセリン含有量12.0%のポリビニルアルコールフィルム」である。
ここで,「ポリビニルアルコール」が,酢酸ビニルを重合した後にケン化して製造され,構造上は,ビニルアルコールを重合させた繰り返し構造であることは技術常識である。また,引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」は,その文言のとおり「フィルム」状のものである。
そうしてみると,引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」は,本願発明1の「ポリビニルアルコールフィルム」に相当する。また,引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」は,本願発明1の「ポリビニルアルコールフィルム」における,「ビニルアルコール系重合体を含む」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。
「 ビニルアルコール系重合体を含むポリビニルアルコールフィルム。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点)
「ポリビニルアルコールフィルム」が,本願発明1は,「23℃,50%RHの恒温室で48時間養生した後,パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定して得られた1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を,以下の式:
Y=A1*exp(-1/w1*(t/T2A)^w1)+B1*exp(-1/w2*(t/T2B)^w2)+C1*exp(-1/w3*(t/T2C)^w3)
(式中,
w1?w3はワイブル係数,w1は2,w2及びw3は1の値,
A1はA成分の,B1はB成分の,C1はC成分のそれぞれ成分比,
T2AはA成分の,T2BはB成分の,T2CはC成分のそれぞれ緩和時間,
tは時間を表す)
を用いてフィッティングを行い,緩和時間の短い順にA成分,B成分,及びC成分の3成分に由来する3つの曲線に波形分離して得た,B成分の緩和時間が0.031ミリ秒以上0.048ミリ秒以下であり,かつ成分比が30.5%以上48.5%以下である」のに対して,引用発明は,パルスNMRを用いた測定を行ったときの結果が不明である点(以下,上記の下線を付した手順で得られたB成分のことを,「自由誘導減衰曲線のB成分」という。)。

(3) 判断
事案に鑑みて,国際公開第2015/020046号(以下「参考文献1」という。)の記載を参照する。
参考文献1の記載を考慮すると,「ポリビニルアルコールフィルム」の「自由誘導減衰曲線のB成分」は,少なくとも,[A]原料となるモノマーの種類(参考文献の[0027]?[0039]及び[0060]?[0066]),[B]ケン化度([0040]?[0062]),[C]重合度([0067]),[D]分子量分布([0068]),[E]膨潤度ないし熱処理条件([0073])に影響されることが理解される。
また,「自由誘導減衰曲線のB成分」が「ポリビニルアルコールフィルム」の拘束非晶部成分に関するものであり,拘束非晶部成分は,結晶部成分,非晶成分と相互に関連するものであることを考慮すると,[F]成膜工程に影響されることも,技術的にみて明らかである。例えば,特開2018-28662号公報(以下「参考文献2」という。)の【0035】?【0036】には,PVAの結晶は,ポリマー鎖が幾重にも折り返されて形成される折り畳み構造(ラメラ型結晶)であるところ,ラメラ型結晶の結晶サイズは,ポリビニルアルコール系樹脂の製膜乾燥時に印加する熱量,すなわち,温度や時間を調整したり,延伸温度を調整したりするなどのポリビニルアルコール系樹脂の熱履歴によって調整できること,【0068】?【0081】には,ポリビニルアルコール系樹脂を含有する水溶液からなる塗工層の乾燥時の,塗工層の含水率が30質量%であるときの水の除去速度,または含水率が30質量%の近傍における水の平均除去速度や最終的な含水率により,結晶部(A成分),拘束非晶部(B成分)および非晶部(C成分)の合計に対する拘束非晶部(B成分)の割合を制御できることが記載されている。

イ しかしながら,引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」は,上記[C]に関して,「重合度2400」であることは明らかであるとしても,その余の[A],[B],[D]?[F]については,不明である。
また,上記[A]に関して,引用文献1の【0023】には,「酢酸ビニルを重合した後にケン化したものや,酢酸ビニルに少量の不飽和カルボン酸,不飽和スルホン酸,カチオン性モノマー等の共重合可能なモノマーを共重合したもの等であってもよい。」と記載されている。また,上記[B]に関して,引用文献1の【0023】には,「ケン化度は75モル%以上が好ましく,より好ましくは98?100モル%である。」と記載されている。さらに,上記[D]に関して,引用文献1には,記載がない。加えて,上記[E]に関して,引用文献1には,膨潤処理については「常法により,膨潤処理を施し」(【0027】)と記載されるにとどまり,熱処理に関する記載はない。そして,上記[F]についても,引用文献1の【0023】に,「ポリビニルアルコール系フィルムは,ポリビニルアルコール系樹脂を,水又は有機溶媒もしくは混合溶液に溶解した原液を流延成膜する流延法,キャスト法,押出法等,任意の方法で成膜されたものを適宜使用することができる。」と記載されるにとどまり,乾燥温度,乾燥時間,乾燥速度等の熱履歴や含水量は不明である。

ウ 以上勘案すると,引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」の「自由誘導減衰曲線のB成分」が,上記相違点に係る本願発明1の,「緩和時間が0.031ミリ秒以上0.048ミリ秒以下であり,かつ成分比が30.5%以上48.5%以下である」という要件を満たすか否かは,不明である。
なお,引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」は,「偏光フィルムを作製したときの染色ムラが,「ムラが無い」と評価され」,「偏光板を得たときの偏光度が,99.96%である」ものであるから,本願発明1の「偏光性能を良好にしつつ,染色工程において染色ムラが生じることなく偏光フィルムを製造できる,PVAフィルムを提供する」(【0005】)という発明の課題を解決するものである。しかしながら,引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」が本願発明1の発明の課題を解決できるものであるからといって,引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」が,上記相違点に係る本願発明1の構成を具備するとは限らない。

エ そして,引用文献1には,引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」の「自由誘導減衰曲線のB成分」の緩和時間及びB成分の成分比を所定の範囲に調整・制御することは記載も示唆もされていない。
さらに,「ビニルアルコール系重合体を含むポリビニルアルコールフィルム」の「自由誘導減衰曲線のB成分」の緩和時間を0.031ミリ秒以上0.048ミリ秒以下とするとともに,B成分の成分比を30.5%以上48.5%以下とすることが,周知技術であるとも,技術常識であるともいえない(当合議体注::参考文献1には,結晶部(A成分),拘束非晶部(B成分)及び非晶部(C成分)の合計に対する結晶部(A成分)及び拘束非晶部(B成分)の割合を10?32%とすること([請求項1]),拘束非晶部(B成分)の割合を5%以上とすること([0026])は記載されているものの,拘束非晶部(B成分)の緩和時間を所定の範囲とすることは記載も示唆もされていない。また,参考文献2には,拘束非晶部(B成分)の割合を40?95%とすることが記載されている(請求項2)ものの,拘束非晶部(B成分)の緩和時間を所定の範囲とすることは記載も示唆もされていない。)。
してみると,本願発明1は,当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。

(4) 本願発明2?本願発明8
ア 本願発明2?本願発明5について
本願発明2?本願発明5は,本願発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明である。
そうしてみると,前記(1)?(3)で述べたのと同じ理由により,本願発明2?本願発明5は,当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。

イ 本願発明6?本願発明8について
本願発明6?本願発明8は,本願発明1?本願発明5のいずれかの「ポリビニルアルコールフィルム」を用いた「偏光フィルムの製造方法」の発明である。
ここで,本願発明1?本願発明5が,当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができないことは,前記(1)?(3)及びアで述べたとおりである。
そうしてみると,本願発明6?本願発明8についても,当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。

第3 原査定の拒絶の理由について
1 理由A(新規性)及び理由B(進歩性)について
本願発明1?本願発明8と引用発明を対比すると,少なくとも前記「第2」2(2)イで述べた相違点が見いだされるから,本願発明1?本願発明8と,引用発明は同一であるということができない。
また,前記「第2」で述べたとおりであるから,本願発明1?本願発明8は,当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということができない。

2 理由C(サポート要件)について
本件出願の明細書の【0005】の記載からみて,本願発明1?本願発明5の発明の課題は,「偏光性能を良好にしつつ,染色工程において染色ムラが生じることなく偏光フィルムを製造できる,PVAフィルムを提供すること」にある。
ここで,本件出願の【0011】及び【0012】には,B成分の緩和時間及び成分比を,本願発明1?本願発明5の範囲内とすることにより,偏光性能を良好にしつつ,染色工程において染色ムラが生じることなく偏光フィルムを製造できる,PVAフィルムを提供することができることが,その理由とともに,記載されている。
また,本件出願の明細書の【0017】,【0018】,【0019】?【0022】,【0027】,【0029】,【0030】及び【0032】には,B成分の緩和時間及び成分比を,本願発明1?本願発明5の範囲内に調整しやすくするための,PVA系重合体の重合度の範囲,PVAフィルムにおけるPVA系重合体の含有量の範囲,PVAフィルムにおける可塑剤の含有量の範囲,PVA溶液におけるPVA系重合体の濃度の範囲,PVA溶液を加熱環境下で一定時間保持する際の加熱温度の範囲と一定時間の範囲,PVA溶液の降温速度の範囲,及び,塗布後のPVA溶液を加熱乾燥する温度範囲と乾燥時間の範囲についてそれぞれ記載されている。
さらに,【0044】?【0062】には,これに整合する実施例1?7及び比較例1,2が記載されている。そして,これら事項を疑わせるような特段の事情があるということもできない。
そうしてみると,本願発明1?本願発明5は,発明の詳細な説明に記載したものである。また,本願発明6?本願発明8についても同様である。
したがって,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に適合するものである。

第4 当合議体が通知した拒絶の理由について
令和3年3月8日にした手続補正により,当合議体が通知した拒絶の理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の拒絶の理由及び当合議体が通知した拒絶の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-10 
出願番号 特願2019-523133(P2019-523133)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 113- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 菅原 奈津子後藤 慎平  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
河原 正
発明の名称 ポリビニルアルコールフィルム、及び偏光フィルムの製造方法  
代理人 田口 昌浩  
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