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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01F
管理番号 1374887
異議申立番号 異議2020-700214  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-26 
確定日 2021-04-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6585594号発明「球状アルミナ粉末及びそれを用いた樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6585594号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6585594号の請求項2?5に係る特許を維持する。 特許第6585594号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6585594号の請求項1?5に係る特許についての出願は、2
015年(平成27年)7月28日(優先権主張 平成26年7月28日(
JP)日本国)を国際出願日として出願され、令和1年9月13日にその特
許権の設定登録がされ、令和1年10月2日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1?5に係る特許について、特許異議申立人本多眞治(
以下、「申立人1」という。)及び特許異議申立人椎名一男(以下、「申立
人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされたものであり、
その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 2年 3月26日 申立人1による特許異議の申立て
令和 2年 4月 2日 申立人2による特許異議の申立て
令和 2年 9月24日付け 取消理由通知
令和 2年11月25日 訂正の請求、意見書の提出

なお、令和2年11月25日付けの訂正の請求に対して、各申立人に期間
を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に意見書は提出さ
れなかった。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年11月25日に特許権者より請求された訂正(以下、「本件訂正
」という。)の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件明細書の段落【0014】において、
「例えば、化学式(1)のうち炭素数10(n=9)でXがメトキシ基のデ
シルトリメトキシシランの場合、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2
)}は0.2であり、これに対して、デシルトリメトキシシランに対して化
学式(2)のXがメトキシ基のトリメチルメトキシシランを添加した系のピ
ーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}は、トリメトキシシランの添加
によりCH3のピーク強度が増す。このため、例えばデシルトリメトキシシ
ランに対して、トリメチルメトキシシランが等モル量、表面に存在する場合
は、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}は0.4と大きくなる。

と記載されているのを削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に、
「平均粒子径が0.1?100μm、平均球形度が0.85以上であること
を特徴とする請求項1に記載の球状アルミナ粉末。」
と記載されているのを、
「シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末であ
って、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン
化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5c
m^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm^(-1))の強度
比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満であり、
平均粒子径が0.1?100μm、平均球形度が0.85以上であり、
前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化
合物の両者に由来することを特徴とする球状アルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数

(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基」
に訂正する(下線部は、訂正箇所を示す。以下、同じである。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化
合物の両者に由来することを特徴とする請求項1又は2に記載の球状アルミ
ナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数

(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基」
と記載されているのを、
「シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末であ
って、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン
化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5c
m^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm^(-1))の強度
比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満であり、
前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化
合物の両者に由来することを特徴とする球状アルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数

(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に、
「全炭素量が0.05?0.9質量%である請求項1?3のいずれか一項に
記載の球状アルミナ粉末。」
と記載されているのを、
「全炭素量が0.05?0.9質量%である請求項2又は3に記載の球状ア
ルミナ粉末。」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項1?4のいずれか一項に記載の球状アルミナ粉末を含有してなるこ
とを特徴とする樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「請求項2?4のいずれか一項に記載の球状アルミナ粉末を含有してなるこ
とを特徴とする樹脂組成物。」
に訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正前の本件明細書の段落【0014】の「例えば、化学式(1)のうち
炭素数10(n=9)でXがメトキシ基のデシルトリメトキシシランの場合
、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}は0.2であり、これに対
して、デシルトリメトキシシランに対して化学式(2)のXがメトキシ基の
トリメチルメトキシシランを添加した系のピーク強度比{I(CH3)/I
(CH2)}は、トリメトキシシランの添加によりCH3のピーク強度が増
す。このため、例えばデシルトリメトキシシランに対して、トリメチルメト
キシシランが等モル量、表面に存在する場合は、ピーク強度比{I(CH3
)/I(CH2)}は0.4と大きくなる。」という記載は、誤記が含まれ
ており、実施例の表4(段落【0032】)の実測値の値と整合していない
ため、不明瞭となっていた。そこで、訂正事項1は、訂正前の本件明細書段
落【0014】の当該不明瞭な記載を削除するものであるから、「明瞭でな
い記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、上記のとおり、単に明細書中の不明瞭な記載を削
除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載さ
れた事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を
拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の
減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、請求項1を削除するものであるから、願書に添付
した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてしたもの
であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない


(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であっ
たところ、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないことで独立
形式請求項へ改める訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項
の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする
ものである。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項3に記載されていた事項を加入する
ことで、球状アルミナ粉末が表面に有するアルキル基の由来となるシラン化
合物をより具体的に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を
目的とするものである。
そして、訂正事項3は、訂正前の請求項1及び請求項3の記載に基づくも
のであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項
の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、
又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項3において請求項1又は2の記載を引用す
る記載であったところ、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関
係を解消して、独立形式請求項へ改める訂正であるから、「特許請求の範囲
の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項
の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、訂正事項4は、訂正前の請求項1の記載に基づくものであるから
、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内にお
いてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する
ものではない。

(5)訂正事項5、6について
訂正前の請求項4が請求項1?3のいずれか一項を引用する記載であり、
訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか一項を引用する記載であったと
ころ、訂正事項5、6は、各請求項において請求項1を引用しないものとす
るための訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであ
る。
そして、訂正事項5、6は、訂正前の請求項4、5において、単に請求項
1を引用しないものとする訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許
請求の範囲に記載された事項の範囲内においてしたものであり、また、実質
上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)一群の請求項について
訂正前の請求項2?5は、訂正前の請求項1を引用し、これら請求項1?
5は一群の請求項を構成するところ、訂正事項2?6の特許請求の範囲の訂
正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1?5
を訂正の単位として請求されたものである。
また、訂正事項1の明細書の訂正は、特許法第120条の5第9項で準用
する同法第126条第4号の規定に従い、この一群の請求項の全てを訂正の
単位として請求されたものである。

(7)独立特許要件について
本件特許の請求項1?5の全ての請求項について特許異議の申立てがされ
たものであるから、本件訂正において、訂正後の請求項1?5に係る発明に
ついて、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条
第7項の独立特許要件についての規定は適用されない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし
書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、
同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合す
るので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。


第3 特許異議申立について
1 本件発明
本件訂正後の請求項2?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2?5
」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の
範囲の請求項2?5に記載された事項により特定される次のとおりのもので
あると認める(なお、請求項1は、本件訂正により削除された。)。

「【請求項2】
シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末であ
って、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン
化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5c
m^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm^(-1))の強度
比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満であり、
平均粒子径が0.1?100μm、平均球形度が0.85以上であり、
前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化
合物の両者に由来することを特徴とする球状アルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数

(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基
【請求項3】
シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末であ
って、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン
化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5c
m^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm^(-1))の強度
比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満であり、
前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化
合物の両者に由来することを特徴とする球状アルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数

(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基
【請求項4】
全炭素量が0.05?0.9質量%である請求項2又は3に記載の球状ア
ルミナ粉末。
【請求項5】
請求項2?4のいずれか一項に記載の球状アルミナ粉末を含有してなるこ
とを特徴とする樹脂組成物。」


2 取消理由及び特許異議申立理由の概要
(1)取消理由の概要について
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、令和2年9月24日付けで特
許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

ア 取消理由1(引用例1を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性欠如)
訂正前の請求項1、5に係る発明は、引用例2、5の記載を踏まえると、
引用例1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し
、あるいは、引用例1に記載された発明及び引用例2、5に記載された技術
事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本
件特許の請求項1、5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規
定に違反してされたものである。

イ 取消理由2(引用例3を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性欠如)
訂正前の請求項1、2、4、5に係る発明は、引用例4の記載を踏まえる
と、引用例3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該
当し、あるいは、引用例3に記載された発明及び引用例4に記載された技術
事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本
件特許の請求項1、2、4、5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第
2項の規定に違反してされたものである。

(引用文献)
引用例1:国際公開第2013/057945号
引用例2:CIKナノテック株式会社、製品紹介、NanoTek、
[online ]、
( https://cik-nanotek.co.jp/product/nanotek_nanoxide)
引用例3:国際公開第2009/136508号
引用例4:株式会社アドマテックス、製品紹介、製品一覧/アルミナ AO
-502、[online ]、
(https://www.admatechs.co.jp/product-admafine-alumina.html)
引用例5:インターネット講座 -分子の世界を覗いてみよう-
[online ]、
(http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/?bunshi06/4/4-2.html)
(なお、引用例1、2は、申立人1、2がそれぞれ提出した甲第1、2号証
、引用例3、4は、申立人1が提出した甲第3、4号証、引用例5は、申立
人2が提出した甲第4号証である。)

ウ 取消理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第3
6条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた
ものである。

訂正前の請求項1、2、4、5
本件明細書の記載によると、「球状アルミナ粉末と樹脂との親和性を高め
ることにより、樹脂に高充填した際、低粘度であり、かつ、表面処理後の球
状アルミナ粉末の経時に伴う、樹脂組成物の粘度上昇が少ない球状アルミナ
粉末を提供する」(段落【0006】)ことを発明が解決しようとする課題
とするものと認められる。
これに対して、発明の詳細な説明の実施例の記載からみて、本件発明の課
題が解決できることを当業者が認識できるのは、アルキルトリアルコキシシ
ラン及びトリメチルメトキシシランを用いて、強度比I(CH3)/I(C
H2)を調整した球状アルミナ粉末について、強度比I(CH3)/I(C
H2)が0.2?2.0の範囲である場合のみである。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、単にアルキル基を有する「シ
ラン化合物」全般が特定された訂正前の請求項1、2、4、5に係る発明は
、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

エ 取消理由4(実施可能要件違反)
本件特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていな
い特許出願についてされたものである。

本件明細書の段落【0014】で例示された値「0.2」は、同一のシラ
ン化合物を用いる「比較例2」のピーク強度比と整合していない。
また、段落【0014】では、デシルトリメトキシシランに対して、トリ
メトキシシランが等モル量、アルミナ粉末の表面に存在する場合には、ピー
ク強度比{I(CH3)/I(CH2)}は0.4となることが記載されて
いるのに対して、実施例1では、加水分解液中にデシルトリメトキシシラン
とトリメチルメトキシシランをそれぞれ30重量%となるように等重量で混
合した場合に、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.4とな
っている。
そうすると、これらの記載が整合していないから、訂正前の発明1?5で
特定するIR強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未
満に調整することができるのか発明の詳細な説明の記載から理解することが
できない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は次のとお
りである。

ア 申立人1による申立理由
(ア)申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩
性欠如)
訂正前の請求項2?4に係る発明は、甲第2号証の記載を踏まえると、甲
第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当す
るか、又は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をす
ることができたものであるか、あるいは、訂正前の請求項4に係る発明は、
甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの特許は、
特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。

(イ)申立理由1-2(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
訂正前の請求項4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1
号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた
ものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされ
たものである。

(ウ)申立理由1-3(実施可能要件違反、明確性要件違反)
訂正前の請求項3?5に係る発明において、球状アルミナ粉末の表面のア
ルキル基は、化学式(1)及び(2)のシラン化合物の両者に由来すること
を特定しているが、球状アルミナ粉末の表面の1つのアルキル基が両者のシ
ラン化合物から由来することはありえないから、当該発明は不明確であり、
また、当業者がその実施をすることができず、その技術的意味を理解するこ
ともできない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規
定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:国際公開第2013/057945号(引用例1)
甲第2号証:CIKナノテック株式会社、製品紹介、NanoTek
(引用例2)
甲第3号証:国際公開第2009/136508号(引用例3)
甲第4号証:株式会社アドマテックス、製品紹介、製品一覧/アルミナ A
O-502、[online ]、
(https://www.admatechs.co.jp/product-admafine-alumina.html)
(引用例4)

イ 申立人2による申立理由
申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性
如)
訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第2?4号証の記載を踏まえると
、甲第1号証に記載された発明であり、訂正前の請求項3?5に係る発明は
、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して
されたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:国際公開第2013/057945号(引用例1)
甲第2号証:CIKナノテック株式会社、製品紹介、NanoTek
(引用例2)
甲第3号証:泉美治ら、「機器分析のてびき(データ集)」増補改訂版
第4刷、1988年、表紙、4頁、奥付
甲第4号証:インターネット講座 -分子の世界を覗いてみよう-
[online ]、
(http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/?bunshi06/4/4-2.html)
(引用例5)

3 引用例の記載事項
(1)引用例1の記載事項
1a「[0001]本発明は、フィラー等として有用な表面被覆処理した無機粉
体に関する。特に、有機ケイ素化合物由来の単分子膜により表面被覆処理し
た無機粉体に関する。」

1b「[0008]すなわち本発明は、
式(I)
[0009][化1]

[0010](式中、R^(1)は置換基を有していてもよい炭素数1?30のアル
キル基を表し、X^(1)及びX^(2)は、それぞれ独立して、水酸基、OR^(2)又はO
-Si結合のいずれかを表し、・は無機粉体側の原子との結合位置を示す。
)で表される少なくとも一種の構成単位により形成された単分子膜で被覆さ
れた無機粉体であって、該単分子膜の少なくとも一部が結晶性を有する無機
粉体、及び
(2)R^(1)がオクタデシル基であることを特徴とする上記(1)に記載の
無機粉体に関する。
[0011]また、本発明は、
(3)(A)式(II)
R^(1)Si(OH)_(n)X^(3)_(3-n) (II)
(式中、R^(1)は置換基を有していてもよい炭素数1?30のアルキル基を
表し、X^(3)は加水分解性基を表し、nは1?3のいずれかの整数を表す。
)で表される少なくとも一種の化合物
(B)10ppm?飽和濃度の水、及び
(C)有機溶媒
を含有する有機薄膜形成溶液に、無機粉体を接触させることを特徴とする、
少なくとも一部が結晶性の単分子膜で被覆された無機粉体の製造方法、
・・・ 」

1c「[0070](4)有機薄膜形成用溶液の調製方法
本発明の有機薄膜形成用溶液は、例えば以下の方法で作製することができる

1)製法1
製法1は、有機溶媒中で、式(IV)
R^(2)SiX^(8)_(3) (IV)
(式中、R^(2)は上記式(II)におけるR^(1)と同じ置換基を表し、X^(8)は
水酸基又は加水分解性基を表す)で表される有機ケイ素化合物とシラノール
縮合触媒とを混合して得られた有機薄膜形成用溶液を基板と接触させること
により、前記基板表面に有機薄膜を形成する有機薄膜形成方法である。
・・・
[0071]式(IV)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、以下の
ものが挙げられる。
(R^(2)が無置換アルキル基、かつ、X^(8)が加水分解性基である化合物の例)
CH_(3)Si(OCH_(3))_(3)、
・・・
CH_(3)(CH_(2))_(5)Si(OCH_(3))_(3)、
CH_(3)(CH_(2))_(7)Si(OCH_(3))_(3)、
CH_(3)(CH_(2))_(9)Si(OCH_(3))_(3)、
CH_(3)(CH_(2))_(11)Si(OCH_(3))_(3)、
CH_(3)(CH_(2))_(13)Si(OCH_(3))_(3)、
CH_(3)(CH_(2))_(15)Si(OCH_(3))_(3)、
CH_(3)(CH_(2))_(17)Si(OCH_(3))_(3)、
CH_(3)(CH_(2))_(19)Si(OCH_(3))_(3)、
CH_(3)(CH_(2))_(21)Si(OCH_(3))_(3)、
CH_(3)(CH_(2))_(9)Si(OCH_(2)CH_(3))_(3)
・・・ 」

1d「[0108](1)有機薄膜形成用溶液の調製
1)有機薄膜形成用溶液(1)の調製
200mlの四つ口フラスコに、室温でオクタデシルトリメトキシシラン
(Gelest社製:純度95%)16.1g(43.0mmol)を仕込み、テ
トライソプロポキシチタン(日本曹達製)4.6g(16.4mmol)を
加え、トルエン77.6gを加えた。
この溶液に蒸留水1.7gを加え、室温で24時間反応させ、溶液Aを得
た。
次いで、1000mlの四つ口フラスコに、室温でオクタデシルトリメト
キシシラン(以下、ODSとも言う)78.9g(200mmol)を仕込
み、前記溶液Aを0.16g加え、トルエンを419g加えて希釈した。
この溶液に蒸留水3.7gを加え、室温で10日間反応させて溶液Bを得
た。この溶液BをGPC分析した結果、単量体:58.6%、2量体:3.
7%、3量体:3.3%、4量体:34.4%(相対面積比)であった。
その後、1000mLの四つ口フラスコに、室温で前記溶液Bを20g仕
込み、トルエン480g加えて希釈し、有機薄膜形成溶液(1)を得た。H
PLC分析した結果、単量体の加水分解物(式(II)に相当)は、有機薄
膜形成溶液中0.07%であった。」

1e「[0115]2-4)2000mLの四つ口フラスコに、前記有機薄膜形
成用溶液(1)1000gを仕込み、平均粒径31nmのアルミナ(CIK
ナノテック社製、NanoTek Al_(2)O_(3)、比表面積51.9(m^(2)
/g))を10g加えて、24時間撹拌した。
その後、遠心分離機で固形分を分離し、分離した固形分をトルエンで再分
散して洗浄、遠心分離での固形分分離を行った。この洗浄操作を数回行った

洗浄して分離した固形分は、50-100℃、真空ポンプ減圧下(1kP
a以下)、約7時間で減圧乾燥し、表面被覆処理粉体E-8を得た。」

1f「[0129]2) (2)で得られた表面被覆処理粉体E-8?E10に
ついて、以下の測定を行った。
2-1)熱分析測定
熱重量測定・示差熱分析計(リガク社 TG8120 測定重量:約10
mg)を使用した。
使用容器:アルミナ容器、流量:Air500ml/分、
測定条件:観察温度範囲RT?1000℃、昇温速:10℃/分
スペクトル処理:示差熱分析によって検出されるODS由来の分解ピーク
の発生開始温度からピークが消滅する温度までの重量減少率を、熱重量測定
計で測定した。その結果を表2に示した。
[0130][表2]



1g「[0133]3)表面被覆処理粉体のIR測定
(2)で得られた表面被覆処理粉体のうち、E-7(平均粒径1000nm
)、E-8(平均粒径31nm)、E-9(平均粒径109nm)について
下記の条件で、IRスペクトルの測定を行った。未処理品との差スペクトル
を図3に示した。
フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)
測定手法:拡散反射法
測定装置:Thermo Fisher Scientific社製Magna 550型FT-IR
アタッチメント:Harrick社製The Seagull
試料前処理:各粉末を試料カップに入れ,表面を平らにならした状態に調
整した。
測定条件:非偏光、入射角60度
スペクトル処理:得られたデータを、規定に従いKM変換を実施した。
どのスペクトルにおいても、2918cm^(-1)、2850cm^(-1)に、
CH_(2)のオールトランスでジグザグ構造を示す、非対称伸縮振動と対称伸
縮振動のピークがあり、ODSのアルキル基が非常に規則的に配列しており
、結晶性であることが示されている。1468cm^(-1)のピークも、単分
子膜が結晶性であることを示している。
また、2960cm^(-1)にODSのアルキル基の末端のCH_(3)基の伸縮
振動が観察されているので、本発明で無機粒子表面に形成された膜は、最表
面にCH_(3)基が規則的に並んだ単分子膜であることが推察される。」

1h「[0134]・・・・・
本発明の表面被覆処理無機粉体は、切削・裁断加工用品、陶器・磁器、医
療・医薬品、顔料・化粧品、車両部品、電気・電子素子部品、光学・光学素
子部品、建材、樹脂製品、繊維、摺動・潤滑剤、火薬、水質や土壌の浄化・
改質助剤、触媒、吸着剤などの分野で有用である。特に、ディスプレイ用電
極材用ペースト、積層セラミックコンデンサー用電極材用ペースト、半導体
用封止剤用無機フィラー、アンダーフィル用無機フィラー、実装基板用放熱
剤用無機フィラー、放熱用充填剤用無機フィラー、放熱材料用フィラー、蛍
光体粉末、太陽電池用インク用無機粉末、トナー用微粒子、各種添加剤用フ
ィラー、クロマトグラム用粉体などのペーストやインク、粉体として有用で
ある。」

1i「



(2)引用例2の記載事項
2a「


2b「



(3)引用例3の記載事項
3a「[0001] 本発明は、電子部品等の熱伝導部品等に使用される熱伝導
性樹脂組成物に関するものである。詳しくは、高い熱伝導性を有するポリマ
ーベースのゴム,ゲル,パテ等の放熱材料組成物を提供し、またそれら放熱
材料の製造に有用な組成物に関する。」

3b「[0011] 小粒径熱伝導性無機粉体はR(CH_(3))_(a)Si(OR’
)_(3-a)(Rは炭素数6?20の非置換または置換有機基、R’は炭素数
1?4のアルキル基、aは0もしくは1)のシラン、もしくはその部分加水
分解物で表面処理される。R(CH_(3))_(a)Si(OR’)_(3-a)(Rは炭
素数6?20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1?4のアルキル基
、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物(以下単に「シラン」という
。)は、一例としてヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラ
ン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリ
メトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン
,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサドデシルトリメトキシシラン,ヘキ
サドデシルトリエトキシシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オク
タデシルトリエトキシシシラン等がある。前記シラン化合物は、一種又は二
種以上混合して使用することができる。
[0012] 前記成分の小粒径熱伝導性無機粉体は、R(CH_(3))_(a)Si(
OR’)_(3-a)(Rは炭素数6?20の非置換または置換有機基、R’は
炭素数1?4のアルキル基、aは0もしくは1)のシランは一種又は二種以
上の混合物で表面処理する。ここでいう表面処理とは共有結合のほか吸着な
ども含む。」

3c「[0036]
・・・・・
(5)シラン
シランとしてヘキシルトリエトキシシランKBE3063(製品名、信越
化学工業株式会社製)を使用した。KBE3063の必要量=熱伝導性無機
粉体の量(g)×熱伝導性無機粉体の比表面積(m^(2)/g)/シランの最小
被覆面積(m^(2)/g)で算出した。KBE3063の最小被覆面積は31
5m^(2)/gであることから1000g×3.2m^(2)/g/315m^(2)/g
=10.2gとした。
(6)無機粉体のシラン処理1
小粒径熱伝導性無機粉体は以下の処理をおこなった。
・・・・・
(乾式法2)
ブレンダーにAL43Lを1kg投入し撹拌しながらKBE3063、1
0.2g、イソプロパノール20g、水1gの割合で混合した薬剤を少しず
つ添加し、15分撹拌し、1日放置後、100℃で2時間乾燥した。
・・・・・ 」

3d「[0110] (実施例43?44、比較例50?52)
次にシリコーン成分としてミラブル型シリコーンゴムを用いて検討した。
[0111] ミラブル型シリコーンゴムとしてはTSE201(製品名、モメ
ンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)及びSH8311CVU(
製品名、東レ・ダウコーニング社製)を使用した。
[0112] 小粒径熱伝導性無機粉体としてアルミナA0502(製品名、株
式会社アドマファイン社製、比表面積7.5m^(2)/g)、大粒径熱伝導性
無機粉体としてアルミナAS20(製品名、昭和電工株式会社製、比表面積
0.8m^(2)/g)、シランとしてヘキシルトリメトキシシラン、KBE3
063(製品名、信越化学工業株式会社製)をおのおのの処理に使用した。
[0113] 小粒径熱伝導性無機粉体を処理するのに必要な量は、「“KBE
3063”の必要量=熱伝導性無機粉体の量(g)×熱伝導性無機粉体の比
表面積(m^(2)/g)/シランの最小被覆面積(m^(2)/g)」で算出した。
“KBE3063”の最小被覆面積は315m^(2)/gであることから、1
000g×7.5m^(2)/g/315m^(2)/g=23.8gとした。
[0114] 小粒径熱伝導性無機粉体AL43Lは、実施例の冒頭部分の材料
成分(6)の処理をおこなった。
[0115] 大粒径熱伝導性無機粉体AS20(比表面積:0.8m^(2)/g
)も用意した。この場合KBE3063の必要量は2.5gである。大粒径
熱伝導性無機粉体は以下の処理をおこなった。
白金触媒はTC-25A(製品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリ
アルズ社製)を使用した。
架橋剤はTC-25B(製品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリア
ルズ社製)を使用した。
[0116] AS20の場合:ブレンダーにAS20を1kg投入し撹拌しな
がら、KBE3063、2.5g、イソプロパノール10g、水0.5gの
割合で混合し薬剤を少しずつ添加し15分撹拌し1日放置後、100℃で2
時間乾燥した。
(シート成形方法)
フッ素離型処理をしたポリエステルフィルムに厚さ2mmの金枠を置きコ
ンパウンドを流し込みもう一枚のフッ素離型処理をしたポリエステルフィル
ムを載せた。これを5MPaの圧力で170℃、10分硬化した。さらに2
00℃、4時間オーブンで熱処理をした。
[0117] 表14に実施例43?44、比較例50?52の条件と結果を示
す。
[0118][表14]



(4)引用例4の記載事項
4a「
AO-502



(5)引用例5の記載事項
5a「赤外吸収スペクトル(IR spectrum)
分子の振動や回転は電子レンジでお馴染みの赤外領域の電磁波を吸収する
ことによって励起されます。官能基はそれぞれ特徴的な吸収し、この吸収は
官能基ないで局所的に起こり、他の部分に及ぶことはないので、赤外吸収ス
ペクトルでは、特定の官能基の検出に用いられます。
赤外吸収スペクトルの利用
赤外吸収スペクトルは、いろいろな分子の官能基を、吸収位置と吸収の強
度、形で判断します。化合物データベースにはこれらの情報が収録されてい
るので、それらを参考に化合物の特性吸収帯から化合物内に含まれる官能基
と構造を特定していきます。以下にその一部を表に示します。」

5b「



4 判断
(1)引用例1を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性欠如について
引用例1は、申立人1及び2がそれぞれ提出した甲第1号証であるから、
取消理由1、申立理由1-1、及び、申立理由2-1を纏めて検討する。


ア 引用例1に記載された発明
記載事項1a?1eによると、引用例1には、オクタデシルトリメトキシ
シランを用いて調製した有機薄膜形成溶液(1)によりアルミナを処理して
表面被覆処理粉体E-8を得ることが記載されている。
また、記載事項1g、1iによると、上記表面被覆処理粉体E-8は、I
Rスペクトルの測定により、2960cm^(-1)にアルキル基の末端のCH
_(3)基の伸縮振動のピークが、2919cm^(-1)にCH_(2)基の伸縮振動のピ
ークがそれぞれ観察される。
これらの記載事項を、本件発明2の記載に即して整理すると、引用例1に
は、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認めら
れる。

「オクタデシルトリメトキシシランに由来するアルキル基を表面に有するア
ルミナ粉体であって、IRスペクトルの測定によって得られたデータのオク
タデシルトリメトキシシランのアルキル基の末端のCH_(3)の伸縮振動のピ
ーク(2960cm^(-1))とCH_(2)基の伸縮振動のピーク(2919cm
^(-1))を有するアルミナ粉体。」

イ 本件発明2について
本件発明2と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「オクタデシルトリメトキシシラン」、「IRスペクトルの
測定によって得られたデータ」、「アルミナ粉体」は、本件発明2の「CH
_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1) X=メトキシ基またはエトキシ基、n
=5?15の整数」の「シラン化合物」、「赤外分光分析測定によって得ら
れた同一スペクトルデータ内」、「アルミナ粉末」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「アルキル基の末端のCH_(3)の伸縮振動のピーク(
2960cm^(-1))」は、本件発明2の「アルキル基中のCH3の非対称
振動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))」に、引用発明1の「CH2
基の伸縮振動のピーク」は、本件発明2の「CH2の非対称振動に伴うピー
ク」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明2と引用発明1とは、
「シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有するアルミナ粉末であって
、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン化合
物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm
^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピークとを有し、
前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物に由来するアルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本件発明2は、アルミナ粉末が球状であって、平均粒子径が0.
1?100μm、平均球形度が0.85以上であることが特定されているの
に対して、引用発明1のアルミナ粉体は球状であることは規定されていない
点。

相違点2:本件発明2は、シラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振
動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピ
ーク(2925±5cm^(-1))の強度比{I(CH3)/I(CH2)}
が0.2以上2.0未満であることが特定されているのに対して、引用発明
1は、オクタデシルトリメトキシシランのアルキル基の末端のCH3の伸縮
振動のピークとCH2基の伸縮振動のピークとの比は規定されておらず、ま
た、前記CH2の伸縮振動のピークは、2919cm^(-1)にある点。

相違点3:シラン化合物に由来するアルキル基について、本件発明2では、
さらに、「(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2) X=メトキシ基またはエト
キシ基」のシラン化合物に由来するアルキル基を有しているのに対して、引
用発明1では、その点が明らかでない点。

事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
引用発明1は、記載事項1b?1eによると、オクタデシルトリメトキシ
シラン(CH_(3)(CH_(2))_(17)Si(OCH_(3))_(3))に替えて、炭素数1
?30のアルキル基R^(2)を含む「R^(2)SiX^(8)_(3) (IV)」で表せられ
るシラン化合物を用いてもよいことが記載されているものの、当該シラン化
合物に加えて、本件発明2の「(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2) X=メ
トキシ基またはエトキシ基」のシラン化合物を用いることは何ら記載されて
いないし、このようなことが自明な事項ともいえないため、相違点3は、本
件発明2と引用発明1との実質的な相違点であるといえる。
次に、相違点3に係る本件発明2の構成の容易想到性を検討すると、引用
例2は、甲1の記載事項1eのCIKナノテック社製の「アルミナ」につい
て、引用例5は、赤外吸収スペクトルにおけるメチレン基などのバンド(特
性吸収)(cm^(-1))について、それぞれ記載されているにすぎない。
そうすると、引用例1、2、5によっては、本件発明2のように、化学式
(1)のシラン化合物に加えて、化学式(2)のシラン化合物に由来するア
ルキル基をアルミナ粉末の表面に有するように構成することは、何ら導出で
きるものではない。
加えて、引用例3は、記載事項3bによると、アルミナ粉体をR(CH
_(3))_(a)Si(OR’)_(3-a)(Rは炭素数6?20の非置換または置換有
機基、R’は炭素数1?4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシ
ラン化合物で処理することが記載されているにすぎず、本件発明2の化学式
(2)のシラン化合物を用いることは想定していない。また、引用例4は、
「アルミナAO-502」について記載されているにすぎない。さらに、取
消理由通知で引用してない、申立人2が提出した甲第3号証(以下、「甲第
3号証」という。)は、引用例5と同様に、2925±5cm^(-1)のメチ
レン基に対するメチル基のピーク強度比を示すものにすぎない。そのため、
本件発明2のように、化学式(1)のシラン化合物、及び、化学式(2)の
シラン化合物の両者に由来するアルキル基をアルミナ粉末の表面に設けるこ
とが公知技術であるといえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用例
1に記載された発明とはいえず、また、引用例1に記載された発明、並びに
、引用例2?5及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易
に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明3について
本件発明3と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「オクタデシルトリメトキシシラン」、「IRスペクトルの
測定によって得られたデータ」、「アルミナ粉体」は、本件発明3の「CH
_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1) X=メトキシ基またはエトキシ基、n
=5?15の整数」の「シラン化合物」、「赤外分光分析測定によって得ら
れた同一スペクトルデータ内」、「アルミナ粉末」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「アルキル基の末端のCH_(3)の伸縮振動のピーク(
2960cm^(-1))」は、本件発明2の「アルキル基中のCH3の非対称
振動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))」に、引用発明1の「CH2
基の伸縮振動のピーク」は、本件発明2の「CH2の非対称振動に伴うピー
ク」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明3と引用発明1とは、
「シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有するアルミナ粉末であって
、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン化合
物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm
^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピークとを有し、
前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物に由来するアルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点4:本件発明3は、シラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振
動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピ
ーク(2925±5cm^(-1))の強度比{I(CH3)/I(CH2)}
が0.2以上2.0未満であることが特定されているのに対して、引用発明
1は、オクタデシルトリメトキシシランのアルキル基の末端のCH3の伸縮
振動のピークとCH2基の伸縮振動のピークとの比は規定されておらず、ま
た、前記CH2の伸縮振動のピークは、2919cm^(-1)にある点。

相違点5:シラン化合物に由来するアルキル基について、本件発明3では、
さらに、「(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2) X=メトキシ基またはエト
キシ基」のシラン化合物に由来するアルキル基を有しているのに対して、引
用発明1では、その点が明らかでない点。

事案に鑑み、上記相違点5について検討すると、相違点5は、上記イにお
いて検討した相違点3と同じ事項であるから、当該相違点3と同様に、相違
点5は、本件発明3と引用発明1との実質的な相違点であるといえるし、ま
た、相違点5に係る本件発明3の構成は、容易想到なことであるといえない


よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、引用例
1に記載された発明とはいえず、また、引用例1に記載された発明、並びに
引用例2?5及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に
発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明2又は3の特定事項をさらに減縮したもので
あるから、上記イ又はウと同様の理由により、引用例1に記載された発明と
はいえず、また、引用例1に記載された発明、並びに、引用例2?5及び甲
第3号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるとはいえない。

オ 小括
以上のとおりであるから、取消理由1、申立理由1-1、及び、申立理由
2-1は、いずれも理由がない。

(2)引用例3を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性欠如について
引用例3は、申立人1が提出した甲第3号証であるから、取消理由2、及
び、申立理由1-2を纏めて検討する。

ア 引用例3に記載された発明
記載事項3c、3dによると、小粒径熱伝導性無機粉体としてアルミナA
0502(比表面積7.5m^(2)/g)を、ヘキシルトリエトキシシランK
BE3063により表面処理して得られたアルミナ粉体が記載されていると
いえる(なお、記載事項3cの[0112]に記載の「シランとしてヘキシ
ルトリメトキシシラン、KBE3063」は、「シランとしてヘキシルトリ
エトキシシラン、KBE3063」の誤記と認められる)。
このことから、本件発明2の記載に即して整理すると、引用例3には、次
の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「ヘキシルトリエトキシシランにより表面処理されたアルミナ粉体。」

イ 本件発明2について
本件発明2と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「ヘキシルトリエトキシシラン」、「アルミナ粉体」は、本
件発明2の「CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1) X=メトキシ基また
はエトキシ基、n=5?15の整数」の「シラン化合物」、「アルミナ粉末
」に相当する。また、引用発明3において、アルミナ粉体をヘキシルトリエ
トキシシランにより表面処理することにより、アルミナ粉体の表面にヘキシ
ルトリエトキシシラン由来のアルキル基がアルミナ粉末の表面に結合するこ
とは、引用例3の記載及び技術常識からして明らかである。

そうすると、本件発明2と引用発明3とは、
「シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有するアルミナ粉末であって、
前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物に由来するアルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点6:本件発明2は、アルミナ粉末が球状であって、平均粒子径が0.
1?100μm、平均球形度が0.85以上であることが特定されているの
に対して、引用発明3のアルミナ粉体は球状であることは規定されていない
点。

相違点7:本件発明2は、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクト
ルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピー
ク(2960±5cm^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925
±5cm^(-1))の強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.
0未満であることが特定されているのに対して、引用発明3は、このような
規定がされていない点。

相違点8:シラン化合物に由来するアルキル基について、本件発明2では、
さらに、「(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2) X=メトキシ基またはエト
キシ基」のシラン化合物に由来するアルキル基を有しているのに対して、引
用発明3は、その点が明らかでない。

事案に鑑み、相違点8について検討する。
引用例3の記載事項3bによると、引用例3には、引用発明3のヘキシル
トリエトキシシランを含むR(CH_(3))_(a)Si(OR’)_(3-a)(Rは炭
素数6?20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1?4のアルキル基
、aは0もしくは1)により、アルミナ粉体を処理することが記載されてい
るものの、当該シラン化合物に加えて、本件発明2で特定した「(CH_(3))
_(3)SiX 化学式(2) X=メトキシ基またはエトキシ基」のシラン化合
物を用いて表面処理することは何ら記載されていないし、このようなことが
自明な事項ともいえないため、相違点8は、本件発明2と引用発明3との実
質的な相違点であるといえる。
次に、相違点8に係る本件発明2の構成の容易想到性を検討すると、上記
(1)イで検討したとおり、引用例1、2、4、5、及び、甲第3号証の
いずれにも、本件発明2のように、化学式(1)のシラン化合物、及び、化
学式(2)のシラン化合物の両者に由来するアルキル基をアルミナ粉末の表
面に設けることは記載も示唆もされてない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用例
3に記載された発明とはいえず、また、引用例3に記載された発明、並びに
、引用例1、2、4、5及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて当業
者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明3について
本件発明3と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「ヘキシルトリエトキシシラン」、「アルミナ粉体」は、本
件発明3の「CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1) X=メトキシ基また
はエトキシ基、n=5?15の整数」の「シラン化合物」、「アルミナ粉末
」に相当する。また、引用発明3において、アルミナ粉体をヘキシルトリエ
トキシシランにより表面処理することにより、アルミナ粉体の表面にヘキシ
ルトリエトキシシラン由来のアルキル基がアルミナ粉末の表面に結合するこ
とは、引用例3の記載及び技術常識からして明らかである。

そうすると、本件発明3と引用発明3とは、
「シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有するアルミナ粉末であって

前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物に由来するアルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点9:本件発明3は、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクト
ルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピー
ク(2960±5cm^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925
±5cm^(-1))の強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.
0未満であることが特定されているのに対して、引用発明3は、このような
規定がされていない点。

相違点10:シラン化合物に由来するアルキル基について、本件発明3では
、さらに、「(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2) X=メトキシ基またはエ
トキシ基」のシラン化合物に由来するアルキル基を有しているのに対して、
引用発明3はその点が明らかでない点。

事案に鑑み、上記相違点10について検討すると、相違点10は、上記イ
において検討した相違点8と同じ事項であるから、当該相違点8と同様に、
相違点10は、本件発明3と引用発明3との実質的な相違点であるといえる
し、また、相違点10に係る本件発明3の構成は、容易想到なことであると
いえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、引用例
3に記載された発明とはいえず、また、引用例3に記載された発明、並びに
引用例1、2、4、5及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて当業者
が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明2又は3の特定事項をさらに減縮したもので
あるから、上記イ又はウと同様の理由により、引用例3に記載された発明と
はいえず、また、引用例3に記載された発明、並びに、引用例1、2、4
、5及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をす
ることができたものであるとはいえない。

オ 小括
以上のとおりであるから、取消理由2、及び、申立理由1-2は、いずれ
も理由がない。

(3)取消理由3(サポート要件違反)について
取消理由3は、上記2(1)ウに記載したように、本件発明の課題は、ア
ルキルトリアルコキシシラン及びトリメチルメトキシシランのシラン化合物
を用いて強度比I(CH3)/I(CH2)を0.2?2.0の範囲にした
ことにより解決できると認められることを指摘したところ、本件訂正により
、本件発明において、球状アルミナ粉末の表面のアルキル基は、「CH_(3)(
CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1) X=メトキシ基またはエトキシ基、n=
5?15の整数」のシラン化合物と「(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基」のシラン化合物の両者に由来することが
特定された。
したがって、本件発明は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲
のものとなった。

よって、取消理由3は、理由がない。

(4)取消理由4(実施可能要件違反)について
取消理由4は、上記2(1)エに記載したように、明細書の段落【001
4】の記載が、実施例の記載と整合しない不明瞭な記載であることを指摘し
たところ、当該記載は、本件訂正により削除された。これにより、本件明細
書の記載は明瞭なものとなり、実施例を含む本件明細書の発明の詳細な説明
は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載
したものであるといえる。

よって、取消理由4は、理由がない。

(5)申立理由1-3(実施可能要件違反、明確性要件違反)について
申立人1は、訂正前の請求項1で特定する「シラン化合物に由来するアル
キル基」が、化学式(1)及び(2)の両者に由来することは不明確である
ことを主張している。
しかし、化学式(1)及び(2)のシラン化合物によりアルミナ粉末を処
理した場合、それぞれのシラン化合物に由来する多数のアルキル基がアルミ
ナ粉末の表面を覆うことは技術常識からして明らかであり、本件発明におい
て「アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化合
物の両者に由来する」との記載は、不明確であるといえないから、申立人1
の主張は採用できるものでない。

よって、申立理由1-3は、理由がない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議
申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項2?5に係る
特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項2?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しな
い。
また、請求項1は、本件訂正により削除されたため、本件請求項1に係る
特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない
ものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条
の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
球状アルミナ粉末及びそれを用いた樹脂組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状アルミナ粉末及びそれを用いた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICやMPU等の発熱性電子部品の小薄型化・高機能化の進展に伴い、電子部品が搭載された電子機器の発熱量が増大し、効率のよい放熱方法の開発が依然として期待されている。電子機器の放熱は、発熱性電子部品の搭載された基板にヒートシンクを取り付けるか、ヒートシンクを取り付けるスペースを確保することができないときは、直接、電子機器の金属製シャーシに基板を取り付けることなどが行われている。このとき、電気絶縁性と熱伝導性の良好な無機質粉末、例えば窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末、アルミナ粉末等の無機質粉末をシリコーンゴムに充填させて成形したシートや、アスカC硬度が25以下の柔軟性シート、などの放熱部材を介してヒートシンクが取り付けられている(特許文献1)。
【0003】
成形加工後の樹脂組成物における放熱特性の良否は、成形加工後の樹脂組成物の熱伝導性と被着物への密着性(形状追従性)に大きく左右され、また、樹脂組成物に含まれるボイド(空気層)の有無によっても影響される。熱伝導性は無機粉末を高充填することにより確保されるが、無機粉末を樹脂などに高充填した際、成形加工前の樹脂組成物の流動性が非常に低下するため成形加工性が損なわれ、密着性が著しく悪くなる。一方、成形加工前の樹脂組成物の粘度上昇に伴い、内包したボイドが除去しづらくなることから熱伝導性も低下する。そこで、無機粉末の充填率をある程度保持して、成形加工前の樹脂組成物の流動性と高熱伝導性を両立し、成形加工性と密着性を大きく損なわせない手法として、球状アルミナ粉末とアルコキシシラン化合物の使用が提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、無機粉末の高充填化は、成形加工前の樹脂組成物の流動性を損なうだけでなく、成形加工後の樹脂組成物において、圧縮永久歪みの増大や引張強度の低下など成形加工後の樹脂組成物における機械的物性の耐熱信頼性を著しく低下させる。機械的物性の耐熱信頼性を向上させる方法として、長鎖アルキル基を有するアルコキシシラン化合物で無機粉末の表面を処理することが提案されている(特許文献3)。
3個の官能基を有するトリアルコキシシラン化合物を使用した球状アルミナ粉末の表面処理においては、トリアルコキシシラン化合物の3個の官能基のうち全ての官能基が無機粉末表面と反応する訳ではなく、一部の未反応の官能基は残留する。残留した未反応の官能基は、温度や湿度の影響により、時間の経過と共に無秩序にトリアルコキシシラン化合物同士の重合が進行すると考えられる。トリアルコキシシラン同士の反応による重合が制御できない場合は、重合したシラン化合物や球状アルミナの影響により、未処理の無機粉末に比べて、成形加工前の樹脂組成物の粘度が上昇して流動性が損なわれるという問題あった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開平9-296114号公報
【特許文献2】 特開2000-1616号公報
【特許文献3】 特開平11-209618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、球状アルミナ粉末と樹脂との親和性を高めることにより、樹脂に高充填した際、低粘度であり、かつ、表面処理後の球状アルミナ粉末の経時に伴う、樹脂組成物の粘度上昇が少ない球状アルミナ粉末を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するために、以下の手法を採用する。
(1)シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末であって、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm^(-1))の強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満であることを特徴とする球状アルミナ粉末。
(2)平均粒子径が0.1?100μm、平均球形度が0.85以上であることを特徴とする前記(1)に記載の球状アルミナ粉末。
(3)前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化合物の両者に由来することを特徴とする(1)又は(2)に記載の球状アルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数
(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基
(4)全炭素量が0.05?0.9質量%である前記(1)?(3)のいずれか一項に記載の球状アルミナ粉末。
(5)前記(1)?(4)のいずれか一項に記載の球状アルミナ粉末を含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂に高充填した場合に低粘度であり、かつ表面処理後の球状アルミナ粉末の経時に伴う、樹脂組成物の粘度上昇が少ない球状アルミナ粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、更に詳しく本発明について説明する。
本発明において、球状アルミナ粉末とは平均球形度が0.8以上のアルミナ粉末を指し、平均球形度が0.85以上のアルミナ粉末を用いることが好ましい。平均球形度が0.85以上のアルミナ粉末は、アルミナ粉末を出発原料とする溶射技術(例えば「製綱窯炉に対する溶射補集技術について」製鉄研究1982第310号」)によって容易に製造することができる。この方法において、平均球形度が0.85以上のアルミナ粉末を製造するには、溶射条件を例えばLPG等で形成した火炎の高温域(約2000℃以上)をできる限り大きく形成させ、分散したアルミナ粉末を投入すればよい。平均球形度が0.85よりも著しく小さいと、形状に起因した理由で金型摩耗による金属異物混入のリスクが高くなる他、成形加工前組成物の粘度が高くなるので樹脂組成物中のアルミナ粉末の含有量を高めることができなくなる。
一方、球状アルミナ粉末を高充填する際は、最密充填理論に基づき平均粒子径の異なる粒子を組み合わせて配合する。この場合、平均粒子径が100μmより大きくなると沈降の問題や先に記した金型摩耗に起因する問題が発生しやすくなる。また、平均粒子径が0.1μmより小さくなると凝集しやすく、また、表面処理の効果より比表面積の増大に伴う粘度上昇の方が大きくなり、成形加工性を著しく低下させる。従って、球状アルミナの粒度配合に適した平均粒子径の範囲は0.1?100μmが好ましく、0.3?70μmがより好ましく、0.6?50μmが更により好ましい。本発明に好適に使用できる球状アルミナ粉末としては、電気化学工業社製品(ASFP-20、DAW-05、DAW-10,DAW-45、DAS-45、DAW-70等)を挙げることができる。
【0010】
(1)平均球形度
平均球形度は、シスメックス社製商品名「FPIA-3000」のフロー式粒子像分析装置を用い、以下のようにして測定した。粒子像から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/Bとして表示できる。そこで試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定するとPM=2πr、B=πr^(2)であるから、B=π×(PM/2π)^(2)となり、個々の粒子の球形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)^(2)として算出できる。これを任意に選ばれた100個以上の粒子について測定し、その平均値を2乗したものを平均球形度とした。測定溶液はサンプル0.1gに蒸留水20mlとプロピレングリコール10mlを加え、3分間超音波分散処理を行い調製した。
【0011】
(2)平均粒子径
アルミナ粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法(ベックマン・コールター社製商品名「モデルLS-230」)によって測定した。本発明において、平均粒子径とは体積基準によるメジアン径(d50)を指す。この装置は、0.04?2000μmの粒径範囲を116分割(log(μm)=0.04の幅)して粒度分布を測定する機器である。詳細は、「レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置 LSシリーズ」(ベックマン・コールター株式会社)、豊田 真弓著「粒度分布を測定する」(ベックマン・コールター株式会社粒子物性本部 学術チーム)、に記載されている。測定溶液は純水にサンプルを加えホモジナイザーで1分間分散処理を行い、装置の濃度調整ウインドウの表示が45?55%になるように調製した。
【0012】
(3)シラン化合物
アルキル基を有するシラン化合物によって球状アルミナ粉末を表面処理することにより、シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末を得ることができる。アルキル基を有するシラン化合物としては、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}を所定の範囲に調節することができれば特に制限はないが、例えば化学式(1)と(2)で示されるアルキル系シラン化合物を併用することにより上記ピーク強度比を制御することが可能である。化学式(1)で示されるシラン化合物は、炭素数6?16(式中のnが5?15の整数)の長鎖アルキル基を有する3官能のシラン化合物である。化学式(2)で示されるシラン化合物はトリメチルメトキシシラン又はトリメチルエトキシシランである。
化学式(1)のシラン化合物は、例えば、球状アルミナ粉末に対して、外割で0.2?2質量%、化学式(2)のシランカップリング剤は球状アルミナ粉末に対して、外割で0.1?6質量%使用することができる。炭素数が6未満のアルキル基の場合、成形加工前の樹脂組成物の粘度を低下させる効果がなくなり、逆に粘度が上昇する恐れがある。また、炭素数が16を超えるアルキル基の場合、液状樹脂成分との相溶性が悪くなり本来の表面処理効果が低下する。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) ・・・化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数
(CH_(3))_(3)SiX ・・・化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基
【0013】
シラン化合物による球状アルミナ粉末の表面処理方法としては、流体ノズルを用いた噴霧方式、せん断力のある攪拌方式、ボールミル、ミキサー等の乾式法や水系又は有機溶剤系等の湿式法を採用することができる。乾式法の場合、球状アルミナ粉末表面との反応を容易にするため、シラン化合物は水または有機溶媒中で化学式(1)と化学式(2)のシラン化合物を加水分解した状態で使用した方が好ましい。また、攪拌混合方式は、球状アルミナ粉末の破壊が起こらない程度にして行うことが肝要である。乾式法における系内温度又は処理後の乾燥温度は、表面処理剤の種類に応じ熱分解しない領域で適宜決定されるが、100?150℃で行うのが望ましい。また、乾燥処理後の表面処理された球状アルミナの全炭素量は0.05?0.9質量%が好ましく、0.1?0.6質量%がより好ましい。
【0014】
シラン化合物によって表面処理された球状アルミナ粉末に対して赤外吸収スペクトル測定を行うことで、同一IRスペクトルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))(I(CH3)と呼ぶ。)とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm^(-1))(I(CH2)と呼ぶ。)の強度比{I(CH3)/I(CH2)}を求めることができる。当該ピーク強度比は、表面処理された球状アルミナ粉末の表面におけるシラン化合物に由来するCH2及びCH3の存在比率と相関がある。
【0015】
(4)IR測定
IR測定は、フーリエ変換赤外分光光度測定装置(パーキンエルマー社 製品名「Spectrum One」を用いて測定した。分解能4cm^(-1)、積算回数10回の測定条件で、2500?3500cm^(-1)の範囲を拡散反射法で測定した。なお、IRスペクトルデータはクベルカームンク変換したデータを使用した。
【0016】
(5)IRスペクトルのピーク強度比の算出
IRスペクトルのピーク強度比は、IR測定により得られたスペクトルデータにおいてCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±cm^(-1))の頂点からベースラインまでの距離をピーク強度とし、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}を算出した。ベースラインは連続したピーク群の両端で平坦となった2700と3100cm^(-1)の点を結んだ線である。
本発明に係る球状アルミニウム粉末の一実施形態おいては、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm^(-1))の強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満である。I(CH3)/I(CH2)が当該範囲であることにより、樹脂に高充填した場合に低粘度の樹脂組成物が得られ、また、粘度の経時的な上昇を効果的に抑制できる。I(CH3)/I(CH2)は好ましくは0.3以上1.8以下であり、より好ましくは0.4以上1.5以下であり、更により好ましくは0.5以上1.0以下である。
【0017】
(6)全炭素量
表面処理された球状アルミナ粉末における全炭素量は、炭素/硫黄同時分析計(LECO社製商品名「CS-444LS型」)で炭素量を測定し、検量線法にて定量した。
即ち、炭素含有量が既知の炭素鋼を標準物質として検量線を求めた後、表面処理された球状アルミナ粉末を鉄粉や助燃材であるタングステン粉末と共に、酸素雰囲気下で、表面処理剤が完全に分解し、全炭素がCO_(2)に変換されるまで酸化燃焼し、生成したCO_(2)量を赤外検出器で測定して全炭素量を求めた。
【0018】
(7)熱伝導率
ビニル基含有ポリメチルシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製品YE5822A液)に対して、球状アルミナ粉末、遅延剤、及び架橋剤等(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製品YE5822B液)の順に投入と攪拌を繰り返し行った後、脱泡処理をした。得られたスラリー状試料を、直径28mm、厚さ3mmのくぼみの設けられた金型に流し込み、脱気後、150℃×20分で加熱成形し、室温における熱伝導率を温度傾斜法で測定した。熱伝導率測定装置としてアグネ社製商品名「ARC-TC-1型」を用いて測定した。なお、球状アルミナ粉末を加熱成形可能な最大充填量で充填したときの熱伝導率の値を測定値とする。この際の、ビニル基含有ポリメチルシロキサン、遅延剤、及び架橋剤等の配合比は後掲する表3に例示するように、シリコーンゴムA液10体積部にシリコーンゴムB液1体積部の割合で混合して作製したシリコーンゴム混合液100質量部に対して0.01質量部の遅延剤を加えた液体にアルミナ粉末を加熱成形可能な最大充填量を加え、熱伝導率測定試料とする。加熱成形可能な最大充填量というのは、加熱成形後のシートにボイドが発生しない最大充填量を指す。
【0019】
(8)粘度
球状アルミナ粉末65vol%(88.1wt%)をビニル基含有ポリメチルシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 製品YE5822A液)に投入後、撹拌と脱泡処理を行い粘度測定用の試料を調整した。B型粘度計(東機産業社製商品名「TVB-10」)を用い、温度30℃で測定した。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、前述した本発明の球状アルミナ粉末が充填されてなるものである。充填量は、用途によって異なるが、60?80vol%が好ましい。
【0021】
本発明の樹脂組成物には、シリコーン系、アクリル系、ウレタン系などの樹脂、ゴム、又はゲル状物質を用いることができ特に限定されるものではないが、メチル基、フェニル基などの有機基を有する一液型またはニ液型付加反応型液状シリコーンから得られるゴムまたはゲルを用いることが好ましい。例えばモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「YE5822A/B」や東レ・ダウコーニング社製の「SE1885A/B」などを挙げることができる。
【0022】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度の、硬化剤、硬化促進剤、反応遅延剤、難燃助剤、難燃剤や着色剤、粘着付与剤などの添加剤を配合することができる。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、前述した各材料の所定量を撹拌、混合、分散させることにより製造することができる。これらの混合物の混合、撹拌、分散等の装置としては、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。またこれらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの混合物を加熱することにより硬化させる場合、例えば棚乾燥式タイプが用いられ、乾燥条件としては、例えば、70?120℃の温度範囲で1?10時間行われる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例と比較例をあげて更に具体的に本発明を説明する。
実施例1
化学式(1)で示されるシラン化合物として表2のシラン化合物の試薬B:デシルトリメトキシラン(東京化成社製試薬)を30質量%、メタノールを25質量%、化学式(2)で示されるシラン化合物としてシラン化合物試薬E:トリメチルメトキシシラン(東京化成社製試薬)を30質量%、及び加水分解用の水15質量%をこの順に混合し、室温で1日攪拌して加水分解液を調整した。次いで、表1の球状アルミナ粉末粗粉A2(平均粒子径:50μm、平均球形度:0.92)と球状アルミナ粉末微粉A4(平均粒子径:5μm、平均球形度:0.91)を質量割合で60:40で混合した球状アルミナ粉体100質量部に対して1.0質量部の加水分解液を添加後、混合機(日本アイリッヒ社製商品名「EL-1」)で約5分間混合攪拌し、室温で1日放置後、130℃で1時間加熱処理を行って実施例1の球状アルミナ粉末試料とした。すなわち、表面処理後の球状アルミナ粉末におけるシラン化合物、メタノール及び水の添加量は、球状アルミナ粉末の質量に対する外割の質量%で示すと、シラン化合物の試薬Bが0.3質量%、メタノールが0.25質量%、水が0.15質量%である。
実施例1の球状アルミナ粉末の全炭素量、IRピーク強度比および樹脂組成物の粘度と熱伝導率は、前に記述した方法により測定した。なお、アルミナ粉末の平均粒子径及び平均球形度は表面処理前後で実質的な変化はない。
【0025】
実施例2、3、4
実施例2では、シラン化合物試薬E:トリメチルメトキシシランの添加量を増加し(球状アルミナ粉末に対して外割で0.50質量%)、メタノールを外割で0.05質量%にした。実施例3では、シラン化合物の試薬B:デシルトリメトキシランの代わりに試薬A:ヘキシルトリメトキシシラン(東京化成社製試薬)を用いた。実施例4では、シラン化合物の試薬B:デシルトリメトキシランの代わりに試薬C:ヘキサデシルトリメトキシシラン(東京化成社製試薬)を用いた。それ以外については、実施例1と同様にして、球状アルミナ粉末の調製及び球状アルミナ粉末の表面処理を行い、樹脂組成物を作製して、評価した。
【0026】
実施例5、6、7、8
実施例5では、球状アルミナ粉末微粉A4の代わりに球状アルミナ粉末微粉A3(平均粒子径:10μm、平均球形度:0.90)を用い、粗粉と微粉の配合を質量割合でA2:A3=55:45とした。実施例6では、超微粉A5(平均粒子径:0.3μm、平均球形度:0.92)を実施例1に対して内割で10質量%添加した。実施例7では、超微粉A6(平均粒子径:0.6μm、平均球形度:0.85)を実施例1に対して内割で10質量%添加した。実施例8では、粗粉A1(平均粒子径:70μm、平均球形度:0.95)と超微粉A5(平均粒子径:0.3μm、平均球形度:0.92)の配合を質量割合でA1:A5=90:10として混合して球状アルミナ粉体を調製した。これ以外については、実施例1と同様にして、球状アルミナ粉末の調製及び球状アルミナ粉末の表面処理を行い、樹脂組成物を作製して、評価した。
【0027】
実施例9、10
実施例9は実施例2の球状アルミナ粗粉A2および微粉A4の代わりに平均球形度が0.85より小さいアルミナ粉末粗粉A7(平均粒子径:50μm、平均球形度:0.75)とアルミナ微粉A8(平均粒子径:10μm、平均球形度:0.70)をそれぞれ用いた。実施例10では、平均粒子径が0.1μm未満の超微粉A9(平均粒子径:0.06μm、平均球形度:0.90)を実施例2に対して内割で10質量%添加した。これ以外については、実施例1と同様にして、球状アルミナ粉末の調製及び球状アルミナ粉末の表面処理を行い、樹脂組成物を作製して、評価した。
【0028】
比較例1、2、3
比較例1は、実施例1の球状アルミナ粉末に対してシラン化合物による表面処理を行わない場合である。比較例2は実施例1のうちシラン化合物試薬Eを用いない場合である。比較例3は実施例1のシラン化合物の試薬B:デシルトリメトキシランの代わりに、化学式2のnが5未満の試薬D(n=2):プロピルトリメトキシシラン(東京化成社製試薬)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、球状アルミナ粉末の調製及び球状アルミナ粉末の表面処理を行い、樹脂組成物を作製して、評価した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
表4のスラリー粘度のうち、処理1日後の粘度は球状アルミナ粉末を先述した加熱処理してから1日後に測定した粘度であり、処理2週間後の粘度は先述した加熱処理後の球状アルミナ粉末を85℃×80%Rhの雰囲気下に2週間保存した後に測定した粘度である。シラン化合物試薬Eを併用した実施例1では処理1日後の粘度と処理2週間後の粘度の差が小さいのに対して、試薬Eを併用していない比較例2では、処理1日後の粘度と処理2週間後の粘度の差が大きく、処理2週間後の粘度が大幅に上昇している。シラン化合物試薬Eを併用したことによるIRピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}の適正化が、球状アルミナ粉末の表面処理後の経時による、樹脂組成物の粘度上昇に対して、顕著に有効であることがわかる。
【0034】
表4の実施例と比較例から明らかなように、本発明の球状アルミナ粉末は、樹脂に高充填して使用した場合、成形加工前の樹脂組成物を低粘度化することができる。また、球状アルミナ粉末を表面処理後の日数が経過した状態で使用しても、樹脂組成物の初期の低粘度効果を維持することができるものである。さらに、成形加工後の樹脂組成物が高熱伝導性を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の球状アルミナ粉末は、熱伝導性樹脂組成物の充填材として好適に使用される。また、本発明の樹脂組成物は、パソコン、自動車、携帯電子機器、家庭用電化製品等の熱対策用の放熱部材として使用される。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末であって、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm^(-1))の強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満であり、
平均粒子径が0.1?100μm、平均球形度が0.85以上であり、
前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化合物の両者に由来することを特徴とする球状アルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数
(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基
【請求項3】
シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末であって、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm^(-1))とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm^(-1))の強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満であり、
前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化合物の両者に由来することを特徴とする球状アルミナ粉末。
CH_(3)(CH_(2))nSiX_(3) 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5?15の整数
(CH_(3))_(3)SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基
【請求項4】
全炭素量が0.05?0.9質量%である請求項2又は3に記載の球状アルミナ粉末。
【請求項5】
請求項2?4のいずれか一項に記載の球状アルミナ粉末を含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-23 
出願番号 特願2016-538364(P2016-538364)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C01F)
P 1 651・ 537- YAA (C01F)
P 1 651・ 857- YAA (C01F)
P 1 651・ 121- YAA (C01F)
P 1 651・ 851- YAA (C01F)
P 1 651・ 536- YAA (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森坂 英昭  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 村岡 一磨
後藤 政博
登録日 2019-09-13 
登録番号 特許第6585594号(P6585594)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 球状アルミナ粉末及びそれを用いた樹脂組成物  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
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