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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1374925
異議申立番号 異議2020-700389  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-04 
確定日 2021-04-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6619487号発明「液晶ポリエステルフィルム、液晶ポリエステル液状組成物及び液晶ポリエステルフィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6619487号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3-5〕について訂正することを認める。 特許第6619487号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第6619487号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年8月10日を出願日とする出願であって、令和1年11月22日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年12月11日に特許掲載公報が発行され、その後、令和2年6月4日に特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「特許異議申立人A」という。)により全請求項を対象として及び同年同月11日に特許異議申立人 森田弘潤(以下、「特許異議申立人B」という。)により全請求項を対象として特許異議の申立てがされたものである。
その後、令和2年9月4日付けで取消理由が通知され、同年11月5日に特許権者 住友化学株式会社から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年11月18日付けで特許異議申立人A及びBに対して特許法第120条の5第5項に基づく通知がされたが、特許異議申立人A及びB双方から何ら応答がなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年11月5日になされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1ないし4のとおりである(下線は、訂正箇所について当審が付したものである。)。

(1) 訂正事項1
訂正前の請求項3の、
「前記液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、液晶ポリエステル液状組成物。」との記載を、
「前記液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、フィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物。」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項4及び5も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
訂正前の請求項3の、
「(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)」との記載を、
「(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項4及び5も同様に訂正する。

(3) 訂正事項3
訂正前の請求項4の、
「さらに、式(8)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、請求項3に記載の液晶ポリエステル液状組成物。
(8)130≦A<180」との記載を、
「さらに、式(8)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、請求項3に記載のフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物。
(8)130≦A<180」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。

(4) 訂正事項4
訂正前の請求項5の、
「請求項3又は4に記載される液晶ポリエステル液状組成物を支持体上に流延して塗膜を形成し、
前記塗膜から前記溶媒を除去し、
前記溶媒が除去された前記塗膜を加熱し、
加熱された前記塗膜と前記支持体とを分離する、ことを含む液晶ポリエステルフィルムの製造方法。」との記載を、
「請求項3又は4に記載されるフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物を支持体上に流延して塗膜を形成し、
前記塗膜から前記溶媒を除去し、
前記溶媒が除去された前記塗膜を加熱し、
加熱された前記塗膜と前記支持体とを分離する、ことを含む液晶ポリエステルフィルムの製造方法。」に訂正する。

(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項3ないし5は、一群の請求項であり、本件訂正の請求は、それらに対してされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等
(1) 請求項3の訂正について
訂正事項1に係る訂正は、請求項3に係る「液晶ポリエステル液状組成物」の用途に関し、本件特許明細書の段落【0009】に「本発明によれば、低い線膨張率及び高い機械的強度を有する液晶ポリエステルフィルム、この液晶ポリエステルフィルムを製造することができる液晶ポリエステル液状組成物・・・を提供することができる。」と記載される「フィルム製造用」に訂正前の請求項3を、更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2に係る訂正は、訂正前の「Ar」の右肩の数字として2を追記して「Ar^(2)」とするものであるが、このことは、本件特許明細書の段落【0008】や【0014】等の記載から、「2」と記載すべきもの欠落していたことは明らかであって、誤記の訂正であると認められる。
そして、請求項1に係る本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、上記訂正に伴う、請求項3の従属請求項である請求項4及び5に対する訂正も同様である。

(2) 請求項4の訂正について
訂正事項3に係る請求項4の訂正は、訂正事項1同様、請求項4に係る「液晶ポリエステル液状組成物」の用途を「フィルム製造用」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。
また、上記訂正に伴う、請求項4の従属請求項である請求項5に対する訂正も同様である。

(3) 請求項5の訂正について
訂正事項4に係る請求項5の訂正は、訂正事項1及び3同様、請求項5に係る「液晶ポリエステル液状組成物」の用途を「フィルム製造用」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

(4) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3-5〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、令和2年11月5日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステルフィルムであって、
第1の配向度を、前記液晶ポリエステルフィルムの主面に平行な第1の方向に対する配向度とし、第2の配向度を、前記主面に平行であり、かつ前記第1の方向と直交する第2の方向に対する配向度としたとき、前記第1の配向度と前記第2の配向度との比である第1の配向度/第2の配向度が0.95以上1.04以下であり、
前記主面に平行な方向において広角X線散乱法により測定される前記液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上であり、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下である、液晶ポリエステルフィルム。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項2】
前記第3の配向度が、60.0%以上80.0%以下である請求項1に記載の液晶ポリエステルフィルム。
【請求項3】
液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物であって、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記液晶ポリエステル液状組成物の23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下であり、
前記液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、フィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
(5)120≦A<200
(6)3≦B
(7)19≦(0.1A+B)<30
【請求項4】
さらに、式(8)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、請求項3に記載のフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物。
(8)130≦A<180
【請求項5】
請求項3又は4に記載されるフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物を支持体上に流延して塗膜を形成し、
前記塗膜から前記溶媒を除去し、
前記溶媒が除去された前記塗膜を加熱し、
加熱された前記塗膜と前記支持体とを分離する、ことを含む液晶ポリエステルフィルムの製造方法。」

第4 特許異議申立書に記載した申立理由の概要
1 特許異議申立人Aによる申立理由の概要
令和2年6月4日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立理由の概要は次のとおりである。

(1) 申立理由A1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

本件特許発明1及び3の特定事項である式(3)で表される繰返し単位に関し、「XおよびYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。」とされているが、本件特許明細書において具体的に実施例として効果が確認されているのは、「4-ヒドロキシアセトアミノフェン」を含む原料で製造されたもの、すなわち、式(3)のXが酸素原子、Yがイミノ基を表すもののみであり、X、Yがともに酸素原子、またはX、Yがともにイミノ基の場合を含むものまで、本件特許発明1及び3の特定事項まで拡張ないし一般化できるものとは当業者が認識できない。
また、本件特許発明1及び3を引用する本件特許発明2、4及び5も同様である。

(2) 申立理由A2(甲第1号証を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3) 申立理由A3(甲第2号証を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4) 申立理由A4(甲第3号証を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(7) 証拠方法
特許異議申立人Aは、証拠方法として以下の甲各号証を提出する。
・甲第1号証: 特開2010-210768号公報
・甲第2号証: 特開2005-290100号公報
・甲第3号証: 特開2004-277731号公報
なお、特許異議申立人Aが提出した甲第1号証ないし甲第3号証を、それぞれ「甲A1」ないし「甲A3」などという。

2 特許異議申立人Bによる申立理由の概要
令和2年6月11日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立理由の概要は次のとおりである。

(1) 申立理由B1(明確性要件)
本件特許の請求項3及び4についての特許は、下記の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

本件特許の請求項3の記載は、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているところ、本件特許明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえないから、物の発明の特定事項として不明確である。
また、本件特許の請求項3を引用する請求項4に係る発明も同様である。

(2) 申立理由B2(実施可能要件)
本件特許の請求項1及び2についての特許は、下記の理由で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

ア 本件特許発明1及び2の液晶ポリエステルフィルムには、溶融成形法と溶液キャスト法の両方で製造されるものが含まれるところ、溶融成形法によるフィルムに関して当業者が過度な試行錯誤無く、本件特許発明1及び2を実施することができない。

イ 第3の配向度に関し、65.0%を超える範囲に関して当業者が過度な試行錯誤無く、本件特許発明1及び2を実施することができない。

ウ 式(3)の「X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す」ことに関し、X及びYが共に酸素原子である場合には当業者が過度な試行錯誤無く、本件特許発明1及び2を実施することができない。

(3) 申立理由B3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5についての特許は、下記の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

ア 本件特許発明1及び2における第1ないし第3の配向度に関するパラメータの技術的意義が効果との関係において不明であるから、当業者が課題解決できる効果を認識できない。

イ 本件特許発明1及び2の液晶ポリエステルフィルムには、溶融成形法と溶液キャスト法の両方で製造されるものが含まれるところ、溶融成形法によるフィルムに関する作用効果につき、本件特許明細書に裏付けが存在しない。

ウ 本件特許発明1及び2の液晶ポリエステルフィルムに関し、第1ないし第3の配向度のパラメータさえ充足すれば、本件特許発明3と異なる製造方法を採用した場合であっても、課題解決できる効果が得られると当業者が認識しない。

エ 本件特許発明1及び2における液晶ポリエステルの組成や重量平均分子量について、これらはフィルムの線膨張率及び機械的強度に影響するところ、実施例で用いられている一例から、その効果を本件特許発明1及び2に特定される液晶ポリエステル全般にまで一般化・抽象化できない。

オ 上記ウ及びエの理由同様に、本件特許発明3ないし5に係る請求項3ないし5の記載は、いわゆるサポート要件を充足しない。

(4) 申立理由B4(甲第1号証を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(5) 申立理由B5(甲第2号証を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(6) 申立理由B6(甲第3号証を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(5) 証拠方法
特許異議申立人Bは、証拠方法として以下の甲各号証を提出する。
・ 甲第1号証: 特開2004-277731号公報
・ 甲第2号証: 特開2005-290100号公報
・ 甲第3号証: 特開平8-90570号公報
・ 甲第4号証: 特開2012-97138号公報
・ 甲第5号証: 粘度一覧表 テムコファイン株式会社
https://temcofine.co.jp/images/TechnicalData/nendo.pdf
・ 甲第6号証: 粘度換算表 アネスト岩田株式会社
・ 甲第7号証: JISZ8803:2011 液体の粘度測定方法
・ 甲第8号証: B型粘度計カタログ 株式会社トキメック
https://catalog.orixrentec.jp/pdf/80904000.pdf?k=fcf8cc769f7b77ed2e43dbdc6e84c447d5781793
なお、特許異議申立人Bが提出した甲第1号証ないし甲第8号証を、それぞれ「甲B1」ないし「甲B8」などという。

第5 令和2年9月4日付け取消理由通知の概要
本件特許の請求項3及び4に係る特許に対して、当審が令和2年9月4日付けで特許権者に通知した取消理由は、おおむね次のとおりである。

取消理由1(明確性)
本件特許の請求項3及び4に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

物の発明に係る請求項3は、その物の製造方法で特定されるところ、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するとはいえないから、物の発明を特定する記載として明確ではない。
請求項3を引用し、さらに加熱撹拌条件を特定する請求項4の記載も同様である。

取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項3及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

引用文献等
・ 甲A1
・ 甲A2(甲B2と同一。)
・ 甲A3(甲B1と同一。)

第6 当審の判断
当審は、以下に述べるように、本件特許は、上記取消理由1、取消理由2及び各特許異議申立書に記載したいずれの申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。

1 取消理由1(明確性)について
本件特許発明3におけるフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物が、「液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる」という製造方法により特定されている点について検討する。
特許権者が令和2年11月5日に提出した意見書の主張を考慮すると、本件特許発明3のフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物によって得られるフィルムは、式(5)ないし(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる「高分子鎖が糸まり状から引き延ばされた状態」でフィルムが形成されたものであるから、その状態を構造又は特性により直接特定することが不可能なものであるという事情が存在するといえる。
したがって、本件特許発明3は明確ではないとはいえないし、また、請求項3を引用する請求項4における加熱撹拌条件に係る記載も同様であって、本件特許発明4が明確ではないとはいえないから、取消理由1には理由がない。

2 取消理由2(進歩性)について
(1) 甲A1の記載事項等
ア 甲A1の記載事項
甲A1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与した。以下同様。)
(ア) 「【請求項1】
流動開始温度が250℃以上で、かつ溶媒可溶性の液晶ポリエステルから形成される液晶ポリエステルフィルムを有することを特徴とする耐熱ラベル。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位が30?80モル%、式(2)で示される構造単位が35?10モル%、式(3)で示される構造単位が35?10モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の耐熱ラベル。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式中、Ar^(1)は、フェニレンまたはナフチレンを表し、Ar^(2)は、フェニレン、ナフチレンまたは下記式(4)で表される基を表し、Ar^(3)はフェニレンまたは下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar^(1)、Ar^(2)およびAr^(3)の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(11)-Z-Ar^(12)-
(式中、Ar^(11)、Ar^(12)は、それぞれ独立に、フェニレンまたはナフチレンを表し、Zは、O、COまたはSO_(2)を表す。)」

(イ) 「【0001】
本発明は、耐熱性に優れたラベル、すなわち耐熱ラベルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械、電気・電子部品、食品などの産業分野においては、主に製造時における工程管理を目的として、バーコードが印刷されたラベルを生産物またはその包装材に貼り付けて用いることがある。
・・・
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案されている耐熱ラベルにおいては、生産物の高温処理に対して十分な耐熱性を有するものの、耐熱ラベルが部分的に剥がれたり、曲面状に反ったりすることがあった。このように剥がれや反りが発生した耐熱ラベルでは、バーコードに盛り込まれた情報を正確に読み取れなくなる恐れがある。したがって、かかる点に改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、高温処理時の剥がれや曲面状の反りの発生に起因する情報の誤読を回避することが可能な耐熱ラベルを提供することを目的とする。」

(ウ) 「【0016】
本発明によれば、液晶ポリエステルフィルムが、熱収縮率の小さい液晶ポリエステルから形成されているため、耐熱ラベルの高温処理時の剥がれを防止することができる。これに加えて、液晶ポリエステルフィルムを溶媒キャスト法によって形成することにより、液晶ポリエステル自身の配向異方性を低減することが可能となるため、耐熱ラベルの曲面状の反りに起因する情報の誤読を回避することができる。」

(エ) 「【0054】
液晶ポリエステルの溶媒可溶性をより一層良好にして、溶液組成物が得られやすくするためには、例示した溶媒の中でも、双極子モーメントが3以上5以下の非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。中でも、アミド系溶媒、ラクトン系溶媒が好ましく、N,N'-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N'-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が一層好ましい。さらに、前記溶媒が、1気圧における沸点が180℃以下の揮発性の高い溶媒であると、後述する成形体の製造が一層容易になるので好ましく、このような点からは、DMF、DMAcを用いることが特に好ましい。」

(オ) 「[参考例2]
【0091】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸941g(5.0モル)、4、4'-ジヒドロキシビフェニル466g(2.5モル)、イソフタル酸415g(2.5モル)および無水酢酸1123g(11.0モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
【0092】
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。取り出した内容物を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕して、粉末を得た。この粉末の流動開始温度は229℃であった。この粉末を窒素雰囲気において264℃で3時間加熱処理し、固相重合を行い、液晶ポリエステル(LCP2)を得た。このLCP2の流動開始温度は303℃であった。
【0093】
かくして得られたLCP2を27g、p-クロロフェノール(PCP)273gに加え、120℃で8時間加熱して溶液組成物2を得た。この溶液組成物2の溶液粘度は7000cPであった。なお、この溶融粘度は、B型粘度計(東機産業製、「TVL-20型」、ローターNo.23(回転速度:10rpm))を用いて、測定温度50℃で測定した値である。
【0094】
得られた溶液組成物2を銅箔(三井金属社製3EC‐VLP(厚さ18μm))上にバーコート法で塗工した後、100℃で1時間、さらに320℃で3時間熱処理して、この銅箔上に液晶ポリエステルフィルムを形成させた。次いで、塩化第二鉄溶液(木田株式会社製 40°ボーメ)で全ての銅箔を溶解除去して、液晶ポリエステルフィルム(フィルム2)を得た。得られたフィルム2の厚さは、20μmであった。」

イ 甲A1発明
甲A1の、特に参考例2に関連する記載から、以下の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認める。

「2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸941g(5.0モル)、4、4'-ジヒドロキシビフェニル466g(2.5モル)、イソフタル酸415g(2.5モル)および無水酢酸1123g(11.0モル)を仕込み、固相重合を行い、得られた液晶ポリエステル(LCP2)27gを、p-クロロフェノール(PCP)273gに加え、120℃で8時間加熱して得られた、B型粘度計(東機産業製、「TVL-20型」、ローターNo.23(回転速度:10rpm))を用いて、測定温度50℃で測定した値である溶液粘度が7000cPである溶液組成物であって、液晶ポリエステルフィルムを形成するもの。」

(2) 甲A2の記載事項等
ア 甲A2の記載事項
甲A2には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「【請求項1】
下記溶媒100重量部に対して、液晶ポリエステル0.5?100重量部を、酸素濃度5%以下の雰囲気下で140℃以上200℃以下の温度で溶解させて得られる液晶ポリエステル溶液。
溶媒:下記一般式(I)で示されるハロゲン置換フェノール化合物を含有する溶媒。

(式中、Aはハロゲン原子またはトリハロゲン化メチル基を表わし、iはAの個数であって1?5の整数を表わし、iが2以上の場合に複数あるAは互いに同一でも異なっていてもよい。)
・・・
【請求項4】
請求項1または2記載の液晶ポリエステル溶液より得られる液晶ポリエステルフィルム。」

(イ) 「【0002】
液晶ポリエステルは、優れた低吸湿性、高周波特性、耐熱性、機械的強度を示すことから、射出成形により得られるコネクターなどの精密電子部品を中心に広く用いられている。近年、液晶ポリエステルをTダイ成形やインフレーション成形などの押出成形によりフィルム化して、多層プリント基板やフレキシブルプリント基板の絶縁膜に使用することが検討されている。
しかしながら、押出成形により得られる従来の液晶ポリエステルフィルムは、成形時の異方性が大きく、成形時の流動方向に垂直な方向の引張強度が非常に弱く、フィルムの取り扱い中に破損が起こるという問題があった。
この問題を解決する方法として、液晶ポリエステルとハロゲン置換フェノールを含有する溶媒とを含有してなる溶液を流延した後、溶媒を除去して得られる液晶ポリエステルフィルムが知られている(特許文献1)。」

(ウ) 「【0040】
このようにして得られた液晶ポリエステルフィルムは、成形時の流動方向に垂直な方向の引裂強度に優れ、液晶ポリエステルの持つ低吸湿性、高周波特性などの優れた特性を有し、高強度であることから、近年注目されているビルドアップ工法などにより得られる半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板、フレキシブルプリント配線板、テープオートメーテッドボンディング用フィルム、その他8ミリビデオテープの基材、業務用デジタルビデオテープの基材、透明導電性(ITO)フィルムの基材、偏光フィルムの基材、各種調理食品用、電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム、抗菌性フィルム、気体分離用フィルムなどに好適に使用することができる。」

(エ) 「【0042】
実施例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸 141g(1.02モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)および無水酢酸 191g(1.87モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で3時間保持し、固層で重合反応を進め、芳香族液晶ポリエステル粉末を得た。得られた粉末は350℃で偏向顕微鏡により液晶相に特有のシュリーレン模様が観察された。
【0043】
得られた芳香族液晶ポリエステル粉末 0.4gを、100kg荷重下、250℃で10分間、島津製作所(株)製フローテスタCFT-500を用いて圧縮成形し、厚さ3mmの円盤状の試験片を得た。この試験片を用いて、東洋製作所製の恒温恒湿機ADVANTEC AGX型により85℃/85%RH・168時間における吸水率を測定した結果、吸水率は0.1%以下であることを確認した。また、ヒューレット・パッカ-ド製HPインピーダンスアナライザーを用いて誘電正接を測定したところ、0.004(1GHz)であった。
【0044】
上記工程により得られた芳香族液晶ポリエステル粉末 1.0gをp-クロロフェノール 9.0gに加え、酸素濃度1.2%の窒素雰囲気下、160℃の条件において溶解させた結果、3時間後には完全に溶解し透明な溶液が得られた。更に、溶液粘度をトキメック製のB型粘度計を用いて測定したところ、溶液粘度は350ポイズ(25℃)であった。表1には溶解温度と溶液粘度および引張り強度の関係を示す。この溶液をガラス板上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃、1時間の条件で溶媒を蒸発させ、更に熱風式乾燥機により250℃、1時間熱処理を行った結果、厚み25μmの芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。尚、溶液をガラス板上に流延させた際、溶液の流延性に優れ製膜性は良好であった。また、得られた芳香族液晶ポリエステルフィルムについて、王子測定機器製MOA-5012簡易分子配向計により配向パターンを測定した結果、縦方向と横方向の比が1であり異方性がないことを確認した。
・・・
【0047】
【表1】



イ 甲A2発明
甲A2の、特に実施例1に関連する記載から、以下の発明(以下「甲A2発明」という。)が記載されていると認める。
なお、甲A2の段落【0044】の溶液粘度の記載は、「350ポイズ」であって、段落【0047】の【表1】の溶液粘度の記載の、「340(P)」と不一致であるが、段落【0044】記載の「350ポイズ」を採用し、甲A2発明を認定した。

「p-ヒドロキシ安息香酸 141g(1.02モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)および無水酢酸 191g(1.87モル)を仕込み、固層で重合反応を進め、得られた芳香族液晶ポリエステル粉末1.0gをp-クロロフェノール 9.0gに加え、酸素濃度1.2%の窒素雰囲気下、160℃の条件において3時間で溶解させて得られた、トキメック製のB型粘度計を用いて測定した溶液粘度350ポイズ(25℃)である透明な溶液であって、芳香族液晶ポリエステルフィルムを形成するもの。」

(3) 甲A3の記載事項等
甲A3には、以下の事項が記載されている。

ア 甲A3の記載事項
(ア) 「【請求項1】
下記溶媒100重量部に対して、芳香族液晶ポリエステル0.5?100重量部を、120℃より高く160℃未満の温度で溶解させて得られる芳香族液晶ポリエステル溶液組成物。
溶媒:下記一般式(I)で示されるハロゲン置換フェノール化合物を含有する溶媒。

(式中、Aはハロゲン原子またはトリハロゲン化メチル基を表わし、iはAの個数であって1?5の整数を表わし、iが2以上の場合に複数あるAは互いに同一でも異なっていてもよい。)」

(イ) 「【0002】
芳香族液晶ポリエステルは、優れた低吸湿性、高周波特性、耐熱性、機械的強度を示すことから、射出成形により得られるコネクターなどの精密電子部品を中心に広く用いられている。近年、芳香族液晶ポリエステルをTダイ成形やインフレーション成形などの押出成形によりフィルム化して、多層プリント基板やフレキシブルプリント基板の絶縁膜に使用することが検討されている。
しかしながら、押出成形により得られる従前の芳香族液晶ポリエステルフィルムは、成形時の異方性が大きく、成形時の流動方向に垂直な方向の引裂強度が非常に弱く、フィルムの取り扱い中に破損が起こるという問題があった。
この問題を解決する方法として、芳香族液晶ポリエステルとハロゲン置換フェノールを含有する溶媒とを含有してなる溶液を流延した後、溶媒を除去して得られる芳香族液晶ポリエステルフィルムが知られている(特許文献1)。」

(ウ) 「【0037】
本発明の芳香族液晶ポリエステル溶液組成物から芳香族液晶ポリエステルフィルムを得る方法としては、該芳香族液晶ポリエステル溶液組成物をガラスや金属等の表面平滑な基板上に流延し、溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0038】
溶媒除去の方法は、特に限定されないが、溶媒の蒸発により行うことが好ましい。溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられる。
【0039】
得られた芳香族液晶ポリエステルフィルムには、必要に応じて、更に熱処理を行ってもよい。
【0040】
このようにして得られた芳香族液晶ポリエステルフィルムは、成形時の流動方向に垂直な方向の引裂強度に優れ、芳香族液晶ポリエステルの持つ低吸湿性、高周波特性などの優れた特性を有し、表面状態も良好であることから、近年注目されているビルドアップ工法などにより得られる半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板、フレキシブルプリント配線板、テープオートメーテッドボンディング用フィルム、その他8ミリビデオテープの基材、業務用デジタルビデオテープの基材、透明導電性(ITO)フィルムの基材、偏光フィルムの基材、各種調理食品用、電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム、抗菌性フィルム、気体分離用フィルムなどに好適に使用することができる。」

(エ) 「【0042】
実施例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p?ヒドロキシ安息香酸 141g(1.02モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)および無水酢酸 191g(1.87モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で3時間保持し、固層で重合反応を進め、芳香族液晶ポリエステル粉末を得た。得られた粉末は350℃で偏向顕微鏡により液晶相に特有のシュリーレン模様が観察された。
【0043】
得られた芳香族液晶ポリエステル粉末 0.4gを、100kg荷重下、250℃で10分間、島津製作所(株)製フローテスタCFT-500を用いて圧縮成形し、厚さ3mmの円盤状の試験片を得た。この試験片を用いて、東洋製作所製の恒温恒湿機ADVANTEC AGX型により85℃/85%RH・168時間における吸水率を測定した結果、吸水率は0.1%以下であることを確認した。また、ヒューレット・パッカ-ド製HPインピーダンスアナライザーを用いて誘電正接を測定したところ、0.004(1GHz)であった。
【0044】
上記工程により得られた芳香族液晶ポリエステル粉末 1.0gをハロゲン置換フェノール化合物(p-クロロフェノール)9.0gに加え、140℃、8時間の条件において溶解させた結果、完全に溶解し透明な溶液が得られることを確認した。更に、溶液粘度をトキメック製のB型粘度計を用いて測定したところ、溶液粘度は170ポイズ(25℃)であった。表1には溶解温度と溶液粘度および製膜性の関係を示す。この溶液をガラス板上に流延し、ホットプレートにより設定温度100℃、1時間の条件で溶媒を蒸発させ、更に熱風式乾燥機により250℃、1時間熱処理を行った結果、厚み25μmの芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。尚、溶液をガラス板上に流延させた際、溶液の流延性に優れ製膜性は良好であった。また、得られた芳香族液晶ポリエステルフィルムについて、王子測定機器製MOA-5012簡易分子配向計により配向パターンを測定した結果、縦方向と横方向の比が1であり異方性がないことを確認した。
・・・
【0049】
【表1】

芳香族液晶ポリエステル溶解量=10重量%
製膜性: ○:良好、 ×:悪い
表面状態: ○:良好、 ×:厚み斑や凹凸が見られる」

イ 甲A3発明
甲A3の、特に実施例1に関連する記載から、以下の発明(以下「甲A3発明」という。)が記載されていると認める。

「p?ヒドロキシ安息香酸 141g(1.02モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)および無水酢酸 191g(1.87モル)を仕込み、固層で重合反応を進め、得られた芳香族液晶ポリエステル粉末1.0gをハロゲン置換フェノール化合物(p-クロロフェノール)9.0gに加え、140℃、8時間の条件において溶解させた結果、完全に溶解して得られた、トキメック製のB型粘度計を用いて測定した溶液粘度が170ポイズ(25℃)である透明な溶液であって、芳香族液晶ポリエステルフィルムを形成するもの。」

(4) 甲A1発明との対比・判断
ア 本件特許発明3について
(ア) 対比
甲A1発明の「2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸」「4、4'-ジヒドロキシビフェニル」及び「イソフタル酸」は、それぞれ本件特許発明3の、式(1)、式(3)及び式(2)で表される繰返し単位となるものに相当し、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する式(1)、式(2)及び式(3)で表される繰返し単位のモル比は、1.02:0.34:0.34、すなわち60%:20%:20%であるから、本件特許発明3に特定される、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する式(1)ないし式(3)で表される繰返し単位の含有量を充足する。
また、甲A1発明は、液晶ポリエステルをp-クロロフェノールに加え、120℃(本件特許発明3の「A」に相当する。)で8時間(本件特許発明3の「B」に相当する。)加熱して得られたものであるから、本件特許発明3の式(5)120≦A<200及び式(6)3≦Bの関係を充足し、そして、式(7)19≦(0.1A+B)<30についても、中辺の値が20(=0.1×120+8)であるから充足する。
そして、甲A1発明の「溶液組成物」は、「液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物」であることは明らかである。

そうすると、本件特許発明3と甲A1発明とは、
「液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物であって、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、フィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
(5)120≦A<200
(6)3≦B
(7)19≦(0.1A+B)<30」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
フィルム製造用の液晶ポリエステル液状組成物の粘度に関し、本件特許発明3は、「23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下」と特定するのに対し、甲A1発明は、B型粘度計(東機産業製、「TVL-20型」、ローターNo.23(回転速度:10rpm))を用いて、測定温度50℃で測定した値である溶液粘度が7000cP、すなわち7Pa・sである点。

(イ) 相違点1についての検討
本件特許発明3は、フィルム製造用の液晶ポリエステル液状組成物に係る発明であって、低い線膨張率及び高い機械的強度を有することを課題にするものであるところ、甲A1発明におけるフィルム用途は、「耐熱ラベル」(上記(1)ア(ア)及び(イ)参照)であって、段落【0007】に記載されるように「高温処理時の剥がれや曲面状の反りの発生に起因する情報の誤読を回避することが可能な耐熱ラベルを提供することを目的とする。」ものである。
そして、甲A1及び各甲号証には、液晶ポリエステル液状組成物を「23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下」にすることについて記載はなく、技術常識でもない。
本件特許発明3は、高い機械的強度に加え、「低い線膨張率」を有することを課題にするものであるから、甲A1発明において、液晶ポリエステル液状組成物を上記範囲の粘度にする動機はない。
また、本件特許発明3は、相違点1に係る本件特許発明3の特定事項によって、低線膨張率及び高機械的強度における格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明3は、甲A1発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許の請求項3を引用する発明であって、本件特許発明3の特定事項をすべて含み、更に限定するものであるから、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) 甲A2発明との対比・判断
ア 本件特許発明3について
(ア) 対比
甲A2発明の「p-ヒドロキシ安息香酸」「4、4'-ジヒドロキシビフェニル」及び「イソフタル酸」は、それぞれ本件特許発明3の、式(1)、式(3)及び式(2)で表される繰返し単位となるものに相当し、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する式(1)、式(2)及び式(3)で表される繰返し単位のモル比は、1.02:0.34:0.34、すなわち60%:20%:20%であるから、本件特許発明3に特定される、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する式(1)ないし式(3)で表される繰返し単位の含有量を充足する。
また、甲A2発明は、液晶ポリエステルをp-クロロフェノールに加え、160℃(本件特許発明3の「A」に相当する。)で3時間(本件特許発明3の「B」に相当する。)加熱して得られたものであるから、本件特許発明3の式(5)120≦A<200及び式(6)3≦Bの関係を充足し、そして、式(7)19≦(0.1A+B)<30についても、中辺の値が19(=0.1×160+3)であるから充足する。
そして、甲A2発明の「透明な溶液」は、「液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物」であることは明らかである。

そうすると、本件特許発明3と甲A2発明とは、
「液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物であって、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、フィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
(5)120≦A<200
(6)3≦B
(7)19≦(0.1A+B)<30」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
液晶ポリエステル液状組成物の粘度に関し、本件特許発明3は、「23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下」と特定するのに対し、甲A2発明は、トキメック製のB型粘度計を用いて測定して、溶液粘度350ポイズ(25℃)、すなわち35Pa・sである点。

(イ) 相違点2についての検討
甲A2発明におけるフィルムは、「成形時の流動方向に垂直な方向の引裂強度に優れ、液晶ポリエステルの持つ低吸湿性、高周波特性などの優れた特性を有し、高強度であることから、近年注目されているビルドアップ工法などにより得られる半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板、フレキシブルプリント配線板、テープオートメーテッドボンディング用フィルム、その他8ミリビデオテープの基材、業務用デジタルビデオテープの基材、透明導電性(ITO)フィルムの基材、偏光フィルムの基材、各種調理食品用、電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム、抗菌性フィルム、気体分離用フィルムなどに好適に使用することができる」ものである(上記(2)ア(ウ)参照)。
そして、甲A2及び各甲号証には、液晶ポリエステル液状組成物を「23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下」にすることについて記載はなく、技術常識でもない。
本件特許発明3は、上記(4)ア(イ)で検討したとおり、高い機械的強度に加え、「低い線膨張率」を有することを課題にするものであって、甲A2発明において、液晶ポリエステル液状組成物を上記範囲の粘度にする動機はない。
また、本件特許発明3は、相違点2に係る本件特許発明3の特定事項によって、低線膨張率及び高機械的強度における格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明3は、甲A2発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許の請求項3を引用する発明であって、本件特許発明3の特定事項をすべて含み、更に限定するものであるから、甲A2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6) 甲A3発明との対比・判断
ア 本件特許発明3について
(ア) 対比
甲A3発明の「p-ヒドロキシ安息香酸」「4、4'-ジヒドロキシビフェニル」及び「イソフタル酸」は、それぞれ本件特許発明3の、式(1)、式(3)及び式(2)で表される繰返し単位となるものに相当し、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する式(1)、式(2)及び式(3)で表される繰返し単位のモル比は、1.02:0.34:0.34、すなわち60%:20%:20%であるから、本件特許発明3に特定される、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する式(1)ないし式(3)で表される繰返し単位の含有量を充足する。
また、甲A3発明は、液晶ポリエステルをp-クロロフェノールに加え、140℃(本件特許発明3の「A」に相当する。)で8時間(本件特許発明3の「B」に相当する。)加熱して得られたものであるから、本件特許発明3の式(5)120≦A<200及び式(6)3≦Bの関係を充足し、そして、式(7)19≦(0.1A+B)<30についても、中辺の値が22(=0.1×140+8)であるから充足する。
そして、甲A3発明の「透明な溶液」は、「液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物」であることは明らかである。

そうすると、本件特許発明3と甲A3発明とは、
「液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物であって、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、フィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
(5)120≦A<200
(6)3≦B
(7)19≦(0.1A+B)<30」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
液晶ポリエステル液状組成物の粘度に関し、本件特許発明3は、「23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下」と特定するのに対し、甲A3発明は、トキメック製のB型粘度計を用いて測定して、溶液粘度170ポイズ(25℃)、すなわち17Pa・sである点。

(イ) 相違点3についての検討
甲A3発明におけるフィルムは、「成形時の流動方向に垂直な方向の引裂強度に優れ、芳香族液晶ポリエステルの持つ低吸湿性、高周波特性などの優れた特性を有し、表面状態も良好であることから、近年注目されているビルドアップ工法などにより得られる半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板、フレキシブルプリント配線板、テープオートメーテッドボンディング用フィルム、その他8ミリビデオテープの基材、業務用デジタルビデオテープの基材、透明導電性(ITO)フィルムの基材、偏光フィルムの基材、各種調理食品用、電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム、抗菌性フィルム、気体分離用フィルムなどに好適に使用することができる」ものである(上記(3)ア(ウ)参照)。
そして、甲A3及び各甲号証には、液晶ポリエステル液状組成物を「23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下」にすることについて記載はなく、技術常識でもない。
本件特許発明3は、上記(4)ア(イ)で検討したとおり、高い機械的強度に加え、「低い線膨張率」を有することを課題にするものであって、甲A3発明において、液晶ポリエステル液状組成物を上記範囲の粘度にする動機はない。
また、本件特許発明3は、相違点3に係る本件特許発明3の特定事項によって、低線膨張率及び高機械的強度における格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明3は、甲A3発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許の請求項3を引用する発明であって、本件特許発明3の特定事項をすべて含み、更に限定するものであるから、甲A3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7) 取消理由2(進歩性)についてのまとめ
したがって、本件特許発明3及び4は、甲A1ないし甲A3のいずれかに記載された発明をそれぞれ主たる引用発明としても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、取消理由2には理由がない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由1は、申立理由B1に相当し、取消理由2は、申立理由A2、A3、A4、B4及びB5のうち請求項3及び4に係るものに相当する。
そうすると、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由は、申立理由A1、申立理由A2、A3、A4、B4及びB5のうち請求項1、2及び5に対するもの並びに申立理由B2、B3及びB6である。
これらについて以下検討する。

(1) 申立理由A1及びB3(サポート要件)について
ア 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルフィルム、液晶ポリエステル液状組成物及び液晶ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される方法によれば、等方性の液晶ポリエステルフィルムを製造することが可能であるが、溶融成形法により製造された液晶ポリエステルフィルムと比較して線膨張率が高い傾向にある。これに対し、特許文献2に記載される方法では溶媒除去後に350℃以上400℃以下の加熱処理を行うことにより、液晶ポリエステルフィルムの線膨張率を低下させているが、機械的強度については更なる改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、低い線膨張率及び高い機械的強度を有する液晶ポリエステルフィルム、この液晶ポリエステルフィルムを製造することができる液晶ポリエステル液状組成物、及び液晶ポリエステルフィルムの製造方法を提供することを課題とする。」

(イ) 「【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様における液晶ポリエステルフィルムは、少なくとも液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステルフィルムであって、第1の配向度を、前記液晶ポリエステルフィルムの主面に平行な第1の方向に対する配向度とし、第2の配向度を、前記主面に平行であり、かつ前記第1の方向と直交する第2の方向に対する配向度としたとき、前記第1の配向度と前記第2の配向度との比である第1の配向度/第2の配向度が0.95以上1.04以下であり、前記主面に平行な方向において広角X線散乱法により測定される前記液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上である。
【0012】
図1は、本実施形態における液晶ポリエステルフィルムの模式斜視図である。図1中、第1の方向xは、液晶ポリエステルフィルム1の主面2と平行である。第2の方向yは、第1の方向xに対して垂直であり、かつ液晶ポリエステルフィルム1の主面2と平行である。第3の方向zは、第1の方向x及び第2の方向yに対して垂直である。
【0013】
本明細書においては、第1の方向xに対する液晶ポリエステルの配向度を、第1の配向度と定義する。同様に、第2の方向に対する液晶ポリエステルの配向度を、第2の配向度と定義する。xy平面、すなわち、主面2に対する液晶ポリエステルの配向度を、第3の配向度と定義する。第1?第3の配向度の測定方法については後述する。
【0014】
このような液晶ポリエステルフィルムは、本発明の一態様における液晶ポリエステル液状組成物を用いて製造することができる。本発明の一態様における液晶ポリエステル液状組成物は、液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物であって、前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、前記液晶ポリエステル液状組成物の23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下であり、前記液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
(5)120≦A<200
(6)3≦B
(7)19≦(0.1A+B)<30
【0015】
なお本明細書において、温度Aを溶解温度、保持時間Bを溶解保持時間ということがある。
【0016】
液晶ポリエステルフィルムの製造方法は、前記液晶ポリエステル液状組成物を支持体上に流延して塗膜を形成し、前記塗膜から前記溶媒を除去し、前記溶媒が除去された前記塗膜を加熱し、加熱された前記塗膜と前記支持体とを分離する、ことを含む。
以下本発明の一実施形態について順に説明する。
【0017】
(液晶ポリエステル)
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
・・・
【0020】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0021】
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
【0022】
(Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(-NH-)を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0023】
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
【0024】
(Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
・・・
【0030】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30?80モル%、より好ましくは30?60モル%、さらに好ましくは30?40モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10?35モル%、より好ましくは20?35モル%、さらに好ましくは30?35モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10?35モル%、より好ましくは20?35モル%、さらに好ましくは30?35モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性、強度及び剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
・・・
【0033】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
・・・
【0044】
(液晶ポリエステル液状組成物)
本発明の一態様における液晶ポリエステル液状組成物は、液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物であって、前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の総モル量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の割合が、30モル%以上80モル%以下であり、前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の総モル量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の割合が、10モル%以上35モル%以下であり、前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の総モル量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の割合が、10モル%以上35モル%以下であり、前記液晶ポリエステル液状組成物の23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下であり、前記液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、液晶ポリエステル液状組成物である。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
(5)120≦A<200
(6)3≦B
(7)19≦(0.1A+B)<30
【0045】
液晶ポリエステル液状組成物に含まれる液晶ポリエステルの割合は、液晶ポリエステル及び溶媒の合計量に対して、通常5?60質量%、好ましくは5?50質量%、より好ましくは5?45質量%である。
【0046】
液状組成物は、液晶ポリエステル、有機溶媒、及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することができる。他の成分として充填材を用いる場合は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させて、液晶ポリエステル溶液を得、この液晶ポリエステル溶液に充填材を分散させることにより調製することが好ましい。
【0047】
液状組成物は、液晶ポリエステル、有機溶媒、及び必要に応じて用いられる他の成分を含む混合物は、温度A[℃]及び温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌されることにより得られる。
(5)120≦A<200
(6)3≦B
(7)19≦(0.1A+B)<30
【0048】
温度A[℃]は、さらに(8)式を満たすことが好ましい。
(8)130≦A<180
温度A[℃]は、130≦A≦170であることが特に好ましい。
【0049】
温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]は、3≦B及び19≦(0.1A+B)<30を満たすよう決定される。
【0050】
式(5)?(7)を満たす条件下で液晶ポリエステル液状組成物と溶媒とを含む混合物を加熱撹拌することにより、23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下である液晶ポリエステル液状組成物が得られる。
【0051】
液晶ポリエステル液状組成物の粘度は、B型粘度計(例えば東機産業社製、「TVL-20型」、ローターNo.21、回転速度5rpm)を用い、23℃において測定された値とする。
【0052】
式(5)?(7)を満たす条件下で液晶ポリエステルと溶媒とを含む混合物を加熱撹拌することにより得られる液晶ポリエステル液状組成物を用いて製造した液晶ポリエステルフィルムは、低い線膨張率と高い機械強度を有する。この液晶ポリエステルフィルムの詳細については後述する。
・・・
【0057】
(液晶ポリエステルフィルムの製造方法)
液晶ポリエステルフィルムは、上述の液晶ポリエステル液状組成物を用いて製造することができる。まず、液晶ポリエステル液状組成物を支持体上に流延する。液晶ポリエステル液状組成物の支持体上への流延は、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、及びスクリーン印刷法等の方法により行うことができ、支持体上に表面平滑かつ均一に流延できる方法が適宜選択される。なお、液晶ポリエステル液状組成物は、流延前に必要に応じてろ過し、液状組成物中に含まれる異物を除去してもよい。
・・・
【0062】
こうして得られる支持体と液晶ポリエステルフィルム前駆体とを有する積層体(以下、積層体(a)と呼ぶことがある)を、溶媒の沸点の-50℃から280℃まで5分間以内に昇温した後、230℃以上320℃以下で熱処理して、支持体と液晶ポリエステルフィルム(液晶ポリエステルフィルム前駆体が熱処理されてなるフィルム)とを有する積層体(以下、積層体(b)と呼ぶことがある)を得る。熱処理の温度範囲は、250℃以上320℃以下がより好ましく、270℃以上300℃以下がさらに好ましい。このように、所定の温度から所定の温度まで短時間で昇温した後、所定の温度で熱処理することにより、液晶ポリエステルの分子鎖が液晶配向したドメインを形成し、熱伝導性、特に厚さ方向の熱伝導性に優れ、外観及び曲げ加工性にも優れる液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。なお、ここでいう溶媒の沸点とは、昇温時の圧力における沸点をいう。また、積層体(a)の加熱を、溶媒の沸点の-50℃未満から開始する場合は、溶媒の沸点の-50℃に達してから230℃に達するまでの時間を5分間以内とすればよい。溶媒の沸点-50℃に達するまでの時間は、任意である。また、230℃に達した後の時間を熱処理時間として考えればよい。
【0063】
熱処理は、溶媒の除去同様、連続式で行ってもよいし、枚葉式で行ってもよいが、生産性や操作性の点から、連続式で行うことが好ましく、溶媒の除去に続けて連続式で行うことがより好ましい。
【0064】
こうして得られる支持体と液晶ポリエステルフィルムとを有する積層体(b)から、液晶ポリエステルフィルムを分離することにより、液晶ポリエステルフィルムを単層フィルムとして得ることができる。積層体(b)からの液晶ポリエステルフィルムの分離は、支持体としてガラス板を用いた場合は、積層体(b)から液晶ポリエステルフィルムを剥離することにより行うのがよい。支持体として樹脂フィルムを用いた場合は、積層体(b)から樹脂フィルム又は液晶ポリエステルフィルムを剥離することにより行うのがよい。支持体として金属箔を用いた場合は、金属箔をエッチングして除去することにより積層体(b)から分離するのがよい。支持体として樹脂フィルム、特にポリイミドフィルムを用いると、積層体(b)からポリイミドフィルム又は液晶ポリエステルフィルムが剥離され易く、外観が良好な液晶ポリエステルフィルムが得られるので、好ましい。支持体として金属箔を用いた場合、積層体(b)から液晶ポリエステルフィルムを分離することなく、積層体(b)をプリント配線板用の金属張積層板として用いてもよい。
【0065】
(液晶ポリエステルフィルム)
本発明の一態様における液晶ポリエステルは、上述の液晶ポリエステルフィルムの製造方法により製造することができる。
本発明の一態様における液晶ポリエステルフィルムは、少なくとも液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステルフィルムであって、第1の配向度を、前記液晶ポリエステルフィルムの主面に平行な第1の方向に対する配向度とし、第2の配向度を、前記主面に平行であり、かつ前記第1の方向と直交する第2の方向に対する配向度としたとき、前記第1の配向度と前記第2の配向度との比である第1の配向度/第2の配向度が0.95以上1.04以下であり、前記主面に平行な方向において広角X線散乱法により測定される前記液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上である。
【0066】
上述のように、図1に示すように本発明の一態様における液晶ポリエステルフィルム1において、第1の方向xは、液晶ポリエステルフィルム1の主面2と平行である。第2の方向yは、第1の方向xに対して垂直であり、かつ液晶ポリエステルフィルム1の主面2と平行である。第3の方向zは、第1の方向x及び第2の方向yに対して垂直である。なお、第1の方向は、液晶ポリエステルフィルム1を製造する際の液晶ポリエステル液状組成物の流延方向と平行であってもよい。
【0067】
第1の配向度及び第2の配向度は、マイクロ波分子配向計(例えば王子計測機器株式会社製、MOA-5012A)により測定される。マイクロ波分子配向計は、分子の配向によって、配向方向と直角方向とでマイクロ波の透過強度が異なることを利用した装置である。具体的には、試料を回転させながら、一定の周波数(一般的には4GHz又は12GHzが用いられる)を有するマイクロ波を照射し、分子の配向によって変化する透過マイクロ波の強度を測定する。一定の周波数を有するマイクロ波電界と、分子を構成する双極子との相互作用は、両者のベクトルの内積に関係する。試料の誘電率の異方性により、試料が配置される角度によってマイクロ波の強度が変化するため、配向度を知ることが可能である。
【0068】
上述の測定結果を用いて、第1の配向度と第2の配向度との比、すなわち、第1の配向度/第2の配向度の値が算出される。第1の配向度/第2の配向度の値は、0.95以上1.04以下であることが好ましく、0.98以上1.02以下であることがより好ましい。第1の配向度/第2の配向度の値が0.95以上1.04以下であると、液晶ポリエステルフィルムの第1の方向における機械的強度と第2の方向における機械的強度の差が小さい。すなわち、液晶ポリエステルフィルムとしての機械的強度が高い。なお、第1の配向度/第2の配向度の値が1より大きい場合、液晶ポリエステルフィルムは第1の方向、すなわち液晶ポリエステル液状組成物の流延方向に配向していることを意味する。
【0069】
第3の配向度は、液晶ポリエステルフィルム1の主面2に平行な方向において、広角X線散乱法により測定される。広角X線散乱法による測定は、例えば以下のように行われる。X線小角散乱装置(例えば、ブルカー・エイケックスエス株式会社製、NanoSTAR)にイメージングプレートを設置して行う。X線は、Cuターゲットの回転対陰極X線発生器を用い、出力50kV、100mAで発生させ、液晶ポリエステルフィルム1の主面2に平行となるよう液晶ポリエステルフィルムに照射される。X線は、クロスカップルド・ゲーベルミラーと3つのピンホールスリット(スリットの孔径は、X線発生器側からそれぞれ500μmφ、150μmφ、及び500μmφである)からなるX線の光学系を介して液晶ポリエステルフィルムに照射される。液晶ポリエステルフィルムで散乱されたX線は、イメージングプレート(IP)を用いて検出される。試料からIPまでのカメラ長は、15cmである。測定時のX線小角散乱装置内の真空度は、40Pa以下である。
【0070】
液晶ポリマーの分子鎖配向度(%)(つまり第3の配向度)は、広角X線散乱法による測定により得られたデバイ間の回折ピーク(回折角2θ=19.8°付近に現れる回折ピーク)において、方位各方向の0°?180°までの強度プロファイルから得られたピーク強度の半値幅x°(ピークの高さの半分におけるピークの幅)によって、式(I)を用いて算出される。
第3の配向度(%)={(180-x)/180}×100・・・(I)
【0071】
本実施形態において、主面2に平行な方向において、広角X線散乱法により測定される液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上であることが好ましい。第3の配向度の上限値は特に限定されず、80.0%であることが好ましく、75.0%であることがより好ましい。第3の配向度の上限値と下限値は、任意に組み合わせることが可能である。例えば、第3の配向度は、60.0%以上80.0%以下であることが好ましく、60.0%以上75.0%以下であることがより好ましい。第3の配向度が60.0%以上である液晶ポリエステルフィルムは、低い線膨張率と高い機械強度を有する。第3の配向度が80%以下であると、第1の配向度/第2の配向度の値及び最大点応力を適切な範囲に維持することができる。
【0072】
本明細書における第3の配向度は、上述のように、主面2に平行な方向において、広角X線散乱法により測定される配向度を示す。全液晶ポリエステルに対し、z軸方向に対し所定の方位角を有する液晶ポリエステルの割合を示すものである。この所定の方位角は、z軸方向に対し90°(つまりxy平面に平行)であってもよいし、それ以外であってもよい。
【0073】
上述の第1?第3の配向度を有する液晶ポリエステルフィルムの線膨張率は、35ppm/K以下であり、好ましくは34ppm/K以下である。液晶ポリエステルフィルムの線膨張率の下限値は特に限定されないが、例えば0ppm/K以上である。つまり、液晶ポリエステルフィルムの線膨張率は、0ppm/K以上35ppm/K以下であり、好ましくは5ppm/K以上34ppm/K以下である。つまり、第1?第3の配向度を有する液晶ポリエステルフィルムは、低い線膨張率を有し、寸法安定性が高い。
【0074】
液晶ポリエステルフィルムの線膨張率は、以下のように測定される。熱機械分析装置(例えば、理学電機株式会社製、TMA)を用いて、窒素気流下、熱機械分析装置内を5℃/分で昇温し、50?100℃における液晶ポリエステルフィルムの線膨張率を測定する。
【0075】
上述の第1?第3の配向度を有する液晶ポリエステルフィルムの最大点応力は、125MPa以上であり、好ましくは130MPa以上である。液晶ポリエステルフィルムの最大点応力の上限値は特に限定されないが、例えば1000MPa以下である。つまり、液晶ポリエステルフィルムの最大点応力は、125MPa以上800MPa以下であり、好ましくは130MPa以上600MPa以下である。このように、第1?第3の配向度を有する液晶ポリエステルフィルムは、高い機械的強度を有する。」

(ウ)「【0087】
<液晶ポリエステル液状組成物の製造>
[液晶ポリエステルの製造]
(製造例1)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸940.9g(5.0モル)、4-ヒドロキシアセトアミノフェン377.9g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸867.8g(8.4モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下において撹拌しながら、室温から143℃まで60分かけて昇温し、143℃で1時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで5時間かけて昇温し、300℃で30分保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステル(1)を得た。この液晶ポリエステル(1)の流動開始温度は、191℃であった。
液晶ポリエステル(1)を、窒素雰囲気下、室温から160℃まで2時間20分かけて昇温し、次いで160℃から180℃まで3時間20分かけて昇温し、180℃で5時間保持することにより、固相重合させた後、冷却し、次いで、粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステル(2)を得た。この液晶ポリエステル(2)の流動開始温度は、220℃であった。
・・・
【0092】
[液晶ポリエステル液状組成物の製造]
(実施例1)
製造例1で得られた液晶ポリエステル(32g)を、N-メチルピロリドン(368g)に加え、溶解温度である140℃まで撹拌しながら加熱し、140℃到達後、140℃に保持したまま7時間加熱攪拌することで、液晶ポリエステル液状組成物を得た。
【0093】
(実施例2?6、比較例1?6)
液晶ポリエステル、溶解温度及び溶解保持時間を表1及び表2に示すように変更し、実施例1に記載される方法により、実施例2?6及び比較例1?6の液晶ポリエステル液状組成物を得た。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
[液晶ポリエステルフィルムの製造]
実施例1の液晶ポリエステル液状組成物を、銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC-VLP(厚さ:18μm))上にマイクロメーター付フィルムアプリケーター(SHEEN社製、SA204)及び自動塗工装置(テスター産業株式会社製、I型)用いて流延した後、60℃、常圧(1気圧)にて、4時間乾燥することにより、塗膜から溶媒を部分的に除去し、その後2回目の流延及び乾燥を1回目の流延と同じで順で行った。これにより、液晶ポリエステルフィルム前駆体を形成した。窒素雰囲気下熱風オーブン中で室温から270℃まで4時間かけて昇温し、270℃で2時間保持する熱処理を行った。これにより得られた液晶ポリエステルフィルムと銅箔との積層体から、第二塩化鉄溶液を使用したエッチングにより銅箔を除去し、単層の液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0097】
実施例2?6及び比較例1?6の液晶ポリエステル液状組成物を、液晶ポリエステルフィルムの厚さが表3又は表4に示す値となるよう流延した以外は、実施例1の液晶ポリエステル液状組成物を用いた液晶ポリエステルフィルムの製造方法と同じ手順により液晶ポリエステルフィルムを製造した。
【0098】
実施例1?6及び比較例1?6の液晶ポリエステル液状組成物を用いた液晶ポリエステルフィルムの第1の配向度と第2の配向度との比の測定、第3の配向度の測定、線膨張率測定及び最大点応力測定の結果を表3及び表4に示す。なお、表4の「測定不可」とは、液晶ポリエステル液状組成物の粘度が低すぎるためにフィルムとして形成することができず、各評価項目の測定ができなかったことを示す。
【0099】
また、溶融成形により製造された液晶ポリエステルフィルムの評価結果を比較例8として表4に示す。具体的には、製造例4で得られたペレットを単軸押出し機(山口製作所株式会社製)で加熱混練し、ダイ径30mm、スリット間隔0.25mmの環状インフレーションダイ(山口製作所株式会社製)の入口に、ろ過装置(日本精線社製、リーフディスク型フィルタ)を接続し、340℃に加熱された環状インフレーションダイから押出し、引き取り方向の延伸倍率に対して引き取り方向に直角な方向の延伸倍率を4.1倍とする条件下で液晶ポリエステルフィルムを得た。得られた液晶ポリエステルフィルムの膜厚を複数箇所で測定したところ、いずれも25μmであった。前記ろ過装置には、ナスロンフィルタLF4-0 NF2M-05D2(日本精線社製、ろ過精度5.0μm、リーフディスク型)を16枚積層して用いた。
【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
実施例1?6の液晶ポリエステル液状組成物を用いた液晶ポリエステルフィルムは、最大点応力が130MPa以上140MPa以下の範囲であり、比較例1?5と比較して大きい値となった。また、実施例1?6の液晶ポリエステル液状組成物を用いた液晶ポリエステルフィルムは、線膨張率が32ppm/K以上34ppm/K以下の範囲であり、比較例1?6と比較して小さい値となった。実施例1?6の液晶ポリエステル液状組成物を用いた液晶ポリエステルフィルムは、第1の配向度と第2との配向度の比を1.00前後に保ちつつ、液晶ポリエステルフィルムの第3の配向度が61.9?65.0%と比較例1?5及び8より大きい値となった。
【0103】
実施例1?6の液晶ポリエステル液状組成物を用いた液晶ポリエステルフィルムにおいてこのような結果が得られた理由として、液晶ポリエステル液状組成物を製造する際の液晶ポリエステルの溶解温度と溶解保持時間の双方を制御することが効果的であったと考えられる。具体的には、液晶ポリエステル液状組成物の製造において、液晶ポリエステル及び有機溶媒を含む混合物を加熱撹拌する際、温度A[℃](すなわち溶解温度)と、温度A[℃]到達後の保持時間B[hr](すなわち溶解保持時間)が式(5)?(7)を満たし、且つ、23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下となるよう設定する。
【0104】
(5)120≦A<200
(6)3≦B
(7)19≦(0.1A+B)<30
【0105】
実施例1?6に示されるよう、式(5)?(7)を満たす条件で液晶ポリエステル液状組成物を製造することにより、液晶ポリエステル液状組成物中の液晶ポリエステル分子同士の絡まりが解け、個々の液晶ポリエステル分子に分離されやすくなると考えられる。その結果、液晶ポリエステルフィルム前駆体の熱処理において第3の配向度が上昇しやすくなると考えられる。
【0106】
温度Aが低い又は保持時間Bが短いことで(5)?(7)式を満たさない場合、又は23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下でない場合には、液晶ポリエステル液状組成物中の液晶ポリエステル分子同士の絡まりが十分に解けず、液晶ポリエステルフィルム前駆体の熱処理において第3の配向度が上昇し難いと考えられる。
【0107】
例えば、実施例4と比較例1とを比較すると、実施例4では温度Aが160℃であり、第3の配向度が61.9%であるが、比較例1では溶解保持時間Bは実施例4と同じであるにも拘らず、温度Aが120℃であるため、第3の配向度は58.4%となっている。また、実施例2と比較例3?5を比較すると、実施例2では溶解保持時間Bが15時間であり、第3の配向度が62.8%であるが、比較例3?5では溶解保持時間Bが0?4時間であるため、第3の配向度は58.8?59.2%となっている。
【0108】
温度Aが高い又は保持時間Bが長いことで(5)?(7)式を満たせない場合、液晶ポリエステル液状組成物の溶液粘度が低下し過ぎてしまい、フィルムとして形成することができなくなってしまう。
【0109】
例えば、実施例1と比較例7とを比較すると、実施例1では温度Aが140℃であるためフィルムとして形成することが可能であったが、比較例7では溶解保持時間が3時間と実施例1より短いにも拘らず、温度Aが180℃であるため溶液粘度が低下し過ぎてしまい、フィルムとして形成することができなかった。また、実施例3と比較例6とを比較すると、実施例3では溶解保持時間Bが3時間であるためフィルムとして形成することが可能であったが、比較例6では溶解保持時間Bが15時間であったため、溶液粘度が低下し過ぎてしまいフィルムとして形成することができなかった。
【0110】
液晶ポリエステル及び有機溶媒を含む混合物を加熱撹拌する際の温度A[℃]と、温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)?(7)を満たし、且つ、23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下となる条件において製造される液晶ポリエステル液状組成物を用いて液晶ポリエステルフィルムを製造することにより、線膨張率が低く、且つ機械強度の高い液晶ポリエステルフィルムを達成することが可能である。
【0111】
なお、溶融成形により製造された比較例8の液晶ポリエステルフィルムは、最大点応力及び線膨張率において実施例1?6と同様に優れているが、第1の配向度と第2の配向度との比が2以上であり、異方性が強い。よって、液晶ポリエステルフィルムの第1の方向の機械的強度に対する第2の方向の機械的強度が小さく、液晶ポリエステルフィルム全体としての機械的強度の安定性に乏しい。」

イ 本件特許発明1及び2に係るサポート要件について
(ア) 上記ア(ア)の記載、特に段落【0007】の記載から、本件特許発明の課題は、「低い線膨張率及び高い機械的強度を有する液晶ポリエステルフィルム、この液晶ポリエステルフィルムを製造することができる液晶ポリエステル液状組成物、及び液晶ポリエステルフィルムの製造方法を提供すること」にあると認められる。

(イ) 発明の詳細な説明の段落【0011】ないし【0014】及び【0065】ないし【0075】には、本件特許発明1の液晶ポリエステルフィルムに関し、フィルムの第1ないし3の配向度が所定の範囲にあって、該フィルムを製造するための液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を所定のモル%比で含むという課題解決手段を採ることで、液晶ポリエステルフィルムの線膨張率と最大点応力で表される機械的強度において課題を解決できることが記載されており、具体例として、【表3】及び【表4】における、実施例と比較例との対比において、上記課題解決手段を採用しない比較例に比して上記課題解決手段を採用した実施例が、線膨張率が低く、最大点応力が高い液晶ポリエステルフィルムが得られたとする結果が示されている。
そうすると、上記課題解決手段を特定事項に含む本件特許発明1は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2も同様である。

ウ 本件特許発明3及び4に係るサポート要件について
発明の詳細な説明の段落【0014】及び【0044】ないし【0052】には、本件特許発明3の、フィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物に関し、該組成物中の液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を所定のモル%比で含み、液晶ポリエステル及び有機溶媒等の混合物が所定の粘度を有し、温度A[℃]及び温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌するという課題解決手段を採ることで、液晶ポリエステルフィルムの線膨張率と最大点応力で表される機械的強度において課題を解決できることが記載されており、具体例として、【表1】及び【表2】に記載される溶解温度、溶液保持時間及び溶液粘度が第1ないし3の配向度を左右し、【表3】及び【表4】における、実施例と比較例との対比において、上記課題解決手段を採用しない比較例に比して上記課題解決手段を採用した実施例が、線膨張率が低く、最大点応力が高い液晶ポリエステルフィルムが得られたとする結果が示されている。
そうすると、上記課題解決手段を特定事項に含む本件特許発明3は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
本件特許発明3を引用する本件特許発明4も同様である。

エ 本件特許発明5に係るサポート要件について
発明の詳細な説明の段落【0014】ないし【0016】及び【0044】ないし【0064】には、本件特許発明5の、液晶ポリエステルフィルムの製造方法に関し、該組成物中の液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を所定のモル%比で含み、液晶ポリエステル及び有機溶媒等の混合物は、温度A[℃]及び温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌されて得られ、該組成物を支持体上に流延して塗膜を形成し、塗膜から溶媒を除去、塗膜の加熱、そして塗膜と前記支持体とを分離するという課題解決手段を採ることで、液晶ポリエステルフィルムの線膨張率と最大点応力で表される機械的強度において課題を解決できることが記載されており、その具体例も上記ウで示したように段落【0087】ないし【0111】に開示されている。
そうすると、上記課題解決手段を特定事項に含む本件特許発明5は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。

オ 特許異議申立人の主張等について
特許異議申立人A及びBは、それぞれ特許異議申立書において、申立理由A1及びB3(上記第4の1(1)及び第4の2(3)参照)として本件特許発明が、いわゆるサポート要件を充足しない旨を主張している。

(ア) 申立理由A1について
本件特許発明1又は3の式(3)で表される繰返し単位に関し、本件特許発明1に特定される配向度又は本件特許発明3に特定される所定の粘度を満たすX及びYのみが選択されるものであって、係る特定事項によって、本件特許発明1又は3の課題がそれぞれ解決すると当業者が認識できるものであるから、申立理由A1は採用できるものではない。

(イ) 申立理由B3について
申立理由A1同様、特定の配向度を満たすフィルムや特定の粘度を満たす液晶ポリエステル組成物が本件特許発明の課題を解決することを当業者が認識できるものである。

a 上記第4の2(3)ア及びウの主張について
第1ないし第3の配向度に関するパラメータは、その違いが【表3】や【表4】に示されるように、最大点応力及び線膨張率と相関があることから技術的意義が不明とはいえない。

b 上記第4の2(3)イの主張について
比較例8として示された溶融成形法で得られたフィルムは、そもそも第1ないし3の配向度の値が本件特許発明を充足しないものであって、この結果をもって直ちに溶融成形法によっては、本件特許発明1及び2の作用効果が得られないとはいえない。

c 上記第4の2(3)エの主張について
本件特許明細書の段落【0017】ないし【0038】には、本件特許発明1及び2において用いる液晶ポリエステルの組成や重量平均分子量について説明されており、当業者であれば、本件特許明細書の実施例も参酌し、本件特許発明1及び2に特定されるポリエステルが所期の課題を解決するものと認識できる。

d 上記第4の2(3)オの主張について
上記a及びcで検討したとおりであり、本件特許発明3及び4のフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物及び本件特許発明5の液晶ポリエステルフィルムの製造方法は、いずれもサポート要件を充足する。

e 申立理由B3のまとめ
よって、申立理由B3は、いずれも採用できるものではない。


カ 申立理由A1及びB3(サポート要件)についてのまとめ
したがって、申立理由A1及びB3には理由がない。

(2) 申立理由B2(実施可能要件)について
ア 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記(1)アのとおり。

イ 判断
本件特許の発明の詳細な説明の【発明を実施するための形態】欄の記載(上記(1)ア(イ))には、本件特許発明1ないし5の各発明特定事項について具体的かつ矛盾なく記載されており、当業者であれば、本件特許発明1ないし5に係る液晶ポリエステルフィルム、フィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物及び液晶ポリエステルフィルムの製造方法の発明をどのように実施するのか理解できる。
また、実施例として、その具体的な実施の形態の記載(上記(1)ア(ウ)参照)もあることからすれば、当業者において、発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に基づき、そのフィルム、組成物及びフィルムの製造方法を使用し、また、該製造方法により生産したフィルムを使用することができる程度の記載があるということができ、使用のために当業者に試行錯誤を要するものともいえない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、いわゆる実施可能要件に適合するものといえる。

ウ 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人Bは、特許異議申立書において、申立理由B2(上記第4の2(2)参照)として本件特許発明1及び2が、いわゆる実施可能要件を充足しない旨を主張している。
溶融成形法によるフィルムの場合や、本件特許発明1の式(3)で表される繰返し単位において、特定のX及びYが選択される場合に本件特許発明1に特定される配向度を満たさない旨の主張(上記第4の2(2)ア及びウ)は、本件特許発明1及び2の範囲外の発明について述べるものであり、採用することができない。
また、65.0%を超える第3の配向度に係る実施不可能性についての主張(上記第4の2(2)イ)について、少なくとも本件特許の実施例1として、65.0%のものが具体例として示されていることから、65.0%周辺であって65.0%を越える範囲において、当業者が過度な試行錯誤無く、本件特許発明1及び2を実施できることは明らかである。

エ 申立理由B2(実施可能要件)のまとめ
したがって、申立理由B2には、理由がない。

(3)申立理由A2、A3、A4、B4及びB5(新規性進歩性)について
申立理由A2、A3、A4、B4及びB5のうち、取消理由としなかった請求項1、2及び5に係る理由を以下検討する。

ア 申立理由A2(甲A1を主引用文献とする新規性進歩性)について
(ア) 本件特許発明1について
a 甲A1の記載事項
上記2(1)アのとおり。

b 甲A1フィルム発明
甲A1の、特に参考例2に関連する記載から、以下の発明(以下「甲A1フィルム発明」という。)が記載されていると認める。

「2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸941g(5.0モル)、4、4'-ジヒドロキシビフェニル466g(2.5モル)、イソフタル酸415g(2.5モル)および無水酢酸1123g(11.0モル)を仕込み、固相重合を行い、得られた液晶ポリエステル(LCP2)27gを、p-クロロフェノール(PCP)273gに加え、120℃で8時間加熱して得られた、B型粘度計(東機産業製、「TVL-20型」、ローターNo.23(回転速度:10rpm))を用いて、測定温度50℃で測定した値である溶液粘度が7000cPである溶液組成物から得られた液晶ポリエステルフィルム。」

c 対比
本件特許発明3と甲A1発明との対比について上記2(4)ア(ア)で述べたのと同様に、本件特許発明1と甲A1フィルム発明とを対比すると、両者は、

「少なくとも液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステルフィルムであって、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下である、液晶ポリエステルフィルム。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4>
液晶ポリエステルフィルムの配向度に関し、本件特許発明1は「第1の配向度を、前記液晶ポリエステルフィルムの主面に平行な第1の方向に対する配向度とし、第2の配向度を、前記主面に平行であり、かつ前記第1の方向と直交する第2の方向に対する配向度としたとき、前記第1の配向度と前記第2の配向度との比である第1の配向度/第2の配向度が0.95以上1.04以下であり、
前記主面に平行な方向において広角X線散乱法により測定される前記液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上」であるのに対し、甲A1フィルム発明は、配向度について特定しない点。

d 相違点4についての検討
甲A1には、液晶ポリエステルフィルムの配向度についての記載はない。
また、甲A1に記載される液晶ポリエステルフィルムの製造方法は、本件特許の液晶ポリエステルフィルムの製造方法と異なるものであるから、甲A1フィルム発明が、相違点4に係る第1ないし3の配向度を有する蓋然性が高いとはいえない。
よって、相違点4は、実質的な相違点であって、本件特許発明1は、甲A1フィルム発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1に特定される第1ないし3の配向度について、甲A1及び他の甲各号証には記載も示唆もされておらず、技術常識であるともいえない。
してみると、本件特許発明1と相違する課題を有する甲A1フィルム発明に相違点4にかかる特定事項を採用する動機があるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、かかる発明特定事項を採ることによって、高機械的強度に加え、低線膨張率においても格別顕著な効果を奏するものである。

e 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人Aは、おおむね特許異議申立書において、甲A1の参考例2には、第1ないし3の配向度についての要件については明示の記載はないが、本件特許の段落【0014】の記載(本件特許発明3の要件を満たす液晶ポリエステル液状組成物を用いることで、本件特許発明1に記載されているような液晶ポリエステルフィルムを製造することができるとの記載)から、甲A1の参考例2の溶液組成物2(本件特許発明3における液晶ポリエステル液状組成物に相当)を用いて製造された甲A1の参考例2における液晶ポリエステルフィルム(フィルム2)は、本件特許発明1における実質的に全ての要件を満たす液晶ポリエステルフィルムである旨主張する。
しかしながら、上記2(4)アで述べたように、本件特許発明3のフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物は、甲A1の参考例2の溶液組成物(甲A1発明)と相違するものであるから、特許異議申立人Aの上記主張は、その前提において採用することはできない。

f 小括
したがって、本件特許発明1は、甲A1フィルム発明とはいえず、また、当業者が甲A1フィルム発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許の請求項1を引用する発明であって、本件特許発明1の特定事項をすべて含み、更に限定するものであるから、甲A1フィルム発明とはいえず、また、甲A1フィルム発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ) 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明3又は4に特定される液晶ポリエステル液状組成物を用いた液晶ポリエステルフィルムの製造方法に係るものであって、本件特許発明3及び4は、取消理由2について上記2で述べたように甲A1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許発明5は、甲A1に記載された発明とはいえず、また、甲A1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ) 申立理由A2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1、2及び5に係る特許に対する申立理由A2には理由がない。

イ 申立理由A3及びA5(甲A2(甲B2)を主引用文献とする新規性進歩性)について

特許異議申立人Aが提出した甲A2は、特許異議申立人Bが提出した甲B2と同一であるから、ここで甲B2は、甲A2としてまとめて検討する。
(ア) 本件特許発明1について
a 甲A2の記載事項
上記2(2)アのとおり。

b 甲A2フィルム発明
甲A2の、特に実施例1に関連する記載から、上記2(2)イにおいて認定した甲A2発明同様に、以下の発明(以下「甲A2フィルム発明」という。)が記載されていると認める。

「p-ヒドロキシ安息香酸 141g(1.02モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)および無水酢酸 191g(1.87モル)を仕込み、固層で重合反応を進め、得られた芳香族液晶ポリエステル粉末1.0gをp-クロロフェノール 9.0gに加え、酸素濃度1.2%の窒素雰囲気下、160℃の条件において3時間で溶解させて得られた、トキメック製のB型粘度計を用いて測定した溶液粘度350ポイズ(25℃)である透明な溶液から得られた、芳香族液晶ポリエステルフィルム。」

c 対比
本件特許発明3と甲A2発明との対比について上記2(5)ア(ア)で述べたのと同様に、本件特許発明1と甲A2フィルム発明とを対比すると、両者は、

「少なくとも液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステルフィルムであって、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下である、液晶ポリエステルフィルム。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5>
液晶ポリエステルフィルムの配向度に関し、本件特許発明1は「第1の配向度を、前記液晶ポリエステルフィルムの主面に平行な第1の方向に対する配向度とし、第2の配向度を、前記主面に平行であり、かつ前記第1の方向と直交する第2の方向に対する配向度としたとき、前記第1の配向度と前記第2の配向度との比である第1の配向度/第2の配向度が0.95以上1.04以下であり、
前記主面に平行な方向において広角X線散乱法により測定される前記液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上」であるのに対し、甲A2フィルム発明は、配向度について特定しない点。

d 相違点5についての検討
甲A2には、液晶ポリエステルフィルムの第1ないし3の配向度すべてについての記載はない。
また、甲A2に記載される液晶ポリエステルフィルムの製造方法は、本件特許の液晶ポリエステルフィルムの製造方法と異なるものであるから、甲A2フィルム発明が、相違点5に係る第1ないし3の配向度を有する蓋然性が高いとはいえない。
よって、相違点5は、実質的な相違点であって、本件特許発明1は、甲A2フィルム発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1に特定される第1ないし3の配向度について、甲A2及び他の甲各号証には記載も示唆もされておらず、技術常識であるともいえない。
してみると、本件特許発明1と相違する課題を有する甲A2フィルム発明に相違点5にかかる特定事項を採用する動機があるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、かかる発明特定事項を採ることによって、高機械的強度に加え、低線膨張率においても格別顕著な効果を奏するものである。

e 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人A及びBは、おおむね特許異議申立書において、甲A2の実施例1には、第3の配向度についての要件については明示の記載はないが、甲A2の実施例1で得られた溶液が、本件特許発明3における液晶ポリエステル液状組成物に相当するから、該組成物を用いて製造された甲A2の実施例1における芳香族液晶ポリエステルフィルムは、本件特許発明1における実質的に全ての要件を満たす液晶ポリエステルフィルムである旨主張する。
しかしながら、上記2(5)アで述べたように、本件特許発明3のフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物は、甲A2の実施例1の溶液組成物(甲A2発明)と相違するものであるから、特許異議申立人A及びBの上記主張は、その前提において採用することはできない。

f 小括
したがって、本件特許発明1は、甲A2フィルム発明とはいえず、また、当業者が甲A2フィルム発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許の請求項1を引用する発明であって、本件特許発明1の特定事項をすべて含み、更に限定するものであるから、甲A2フィルム発明とはいえず、また、甲A2フィルム発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ) 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明3又は4に特定される液晶ポリエステル液状組成物を用いた液晶ポリエステルフィルムの製造方法に係るものであって、本件特許発明3及び4は、取消理由2について上記2で述べたように甲A2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許発明5は、甲A2に記載された発明とはいえず、また、甲A2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ) 申立理由A3及びB5についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1、2及び5に係る特許に対する申立理由A3及びB5には理由がない。

ウ 申立理由A4及びB4(甲A3(甲B1)を主引用文献とする新規性進歩性)について

特許異議申立人Aが提出した甲A3は、特許異議申立人Bが提出した甲B1と同一であるから、ここで甲B1は、甲A3としてまとめて検討する。
(ア) 本件特許発明1について
a 甲A3の記載事項
上記2(3)アのとおり。

b 甲A3フィルム発明
甲A3の、特に実施例1に関連する記載から、上記2(3)イにおいて認定した甲A3発明同様に、以下の発明(以下「甲A3フィルム発明」という。)が記載されていると認める。

「p?ヒドロキシ安息香酸 141g(1.02モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)および無水酢酸 191g(1.87モル)を仕込み、固層で重合反応を進め、得られた芳香族液晶ポリエステル粉末1.0gをハロゲン置換フェノール化合物(p-クロロフェノール)9.0gに加え、140℃、8時間の条件において溶解させた結果、完全に溶解して得られた、トキメック製のB型粘度計を用いて測定した溶液粘度が170ポイズ(25℃)である透明な溶液から得られた、芳香族液晶ポリエステルフィルム。」

c 対比
本件特許発明3と甲A3発明との対比について上記2(6)ア(ア)で述べたのと同様に、本件特許発明1と甲A3フィルム発明とを対比すると、両者は、

「少なくとも液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステルフィルムであって、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下である、液晶ポリエステルフィルム。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6>
液晶ポリエステルフィルムの配向度に関し、本件特許発明1は「第1の配向度を、前記液晶ポリエステルフィルムの主面に平行な第1の方向に対する配向度とし、第2の配向度を、前記主面に平行であり、かつ前記第1の方向と直交する第2の方向に対する配向度としたとき、前記第1の配向度と前記第2の配向度との比である第1の配向度/第2の配向度が0.95以上1.04以下であり、
前記主面に平行な方向において広角X線散乱法により測定される前記液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上」であるのに対し、甲A3フィルム発明は、配向度について特定しない点。

d 相違点6についての検討
甲A3には、液晶ポリエステルフィルムの第1ないし3の配向度すべてについての記載はない。
また、甲A3に記載される液晶ポリエステルフィルムの製造方法は、本件特許の液晶ポリエステルフィルムの製造方法と異なるものであるから、甲A3フィルム発明が、相違点6に係る第1ないし3の配向度を有する蓋然性が高いとはいえない。
よって、相違点6は、実質的な相違点であって、本件特許発明1は、甲A3フィルム発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1に特定される第1ないし3の配向度について、甲A3及び他の甲各号証には記載も示唆もされておらず、技術常識であるともいえない。
してみると、本件特許発明1と相違する課題を有する甲A3フィルム発明に相違点6にかかる特定事項を採用する動機があるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、かかる発明特定事項を採ることによって、高機械的強度に加え、低線膨張率においても格別顕著な効果を奏するものである。

e 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人A及びBは、おおむね特許異議申立書において、甲A3の実施例1には、第3の配向度についての要件については明示の記載はないが、甲A3の実施例1で得られた溶液が、本件特許発明3における液晶ポリエステル液状組成物に相当するから、該組成物を用いて製造された甲A3の実施例1における液晶ポリエステルフィルムは、本件特許発明1における実質的に全ての要件を満たす液晶ポリエステルフィルムである旨主張する。
しかしながら、上記2(6)アで述べたように、本件特許発明3のフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物は、甲A3の実施例1の溶液組成物(甲A3発明)と相違するものであるから、特許異議申立人A及びBの上記主張は、その前提において採用することはできない。

f 小括
したがって、本件特許発明1は、甲A3フィルム発明とはいえず、また、当業者が甲A3フィルム発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許の請求項1を引用する発明であって、本件特許発明1の特定事項をすべて含み、更に限定するものであるから、甲A3フィルム発明とはいえず、また、甲A3フィルム発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ) 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明3又は4に特定される液晶ポリエステル液状組成物を用いた液晶ポリエステルフィルムの製造方法に係るものであって、本件特許発明3及び4は、取消理由2について上記2で述べたように甲A3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許発明5は、甲A3に記載された発明とはいえず、また、甲A3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ) 申立理由A4及びB4についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1、2及び5に係る特許に対する申立理由A4及びB4には理由がない。

(4)申立理由B6(甲B3を主引用文献とする新規性進歩性)について
ア 甲B3の記載事項
甲B3には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「【請求項1】光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを押出成形して製造されるフィルムの処理方法であって、
該フィルムの少なくとも一方の面を支持体と接触させた状態で、該ポリマーを溶融するのに十分な温度で該フィルムを加熱する工程、
溶融ポリマーを冷却して、固化したポリマー層を形成する工程、及び該固化したポリマー層を該支持体から分離する工程を含んでなる該方法。」

(イ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーよりなるフィルムの処理方法に関する。
【0002】本発明の方法により処理されるフィルムは、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーに由来する優れた耐熱性、耐薬品性及び電気的性質を有するのみならず、加熱寸法変化率が少なく、層内剥離性が抑制され、耐屈曲性に優れ、また適度な熱膨張率及び高い強伸度を有することから、絶縁テープ;包装用フィルム;フレキシブルプリント配線板、多層薄膜配線板、減衰材料等の積層板用の素材などとして有用である。」

(ウ) 「【0016】本発明の目的は、優れた耐層内剥離性と高い引張り強伸度を両立させ、さらに耐摩耗性、加熱寸法安定性及び耐折り曲げ性にも優れた液晶ポリマーフィルムを簡便に得る方法を提供することにある。
【0017】また本発明の他の目的は、本発明の方法によって得られる上記諸性質に優れた液晶ポリマーフィルムを提供することにある。」

(エ) 「【0048】本発明の方法によれば、耐摩耗性、耐層内剥離性、加熱寸法安定性及び耐折り曲げ性に優れ、かつ高い引張り強伸度を有する液晶ポリマーフィルムを得ることができる。本発明の方法によって得られた液晶ポリマーからなるフィルムは、多くの場合、以下のとおりの特徴的な物性を有する。
・・・
【0051】(iii)マイクロ波透過法によりフィルム面に垂直にマイクロ波を照射した場合に測定される透過マイクロ波強度の最大値と最小値との比の値が2以下であること。
【0052】(iv)X線回折法により測定される面配向度及び厚さ配向度が、それぞれ50?70%及び50?80%であること。
・・・
【0060】上記(iii)におけるマイクロ波透過法は、高分子フィルムにおける分子配向の測定法として公知の方法である[例えば、Mol、第26巻、第1号、第92?100頁(1988年);コンバーテック、第15巻、第6号、第15?21頁(1987年);コンバーテック、第16巻、第3号、第23?28頁等参照]。この方法は、マイクロ波による局所的分子運動の配向分極に基づく誘電緩和を観察するものである。この方法によれば、誘電的異方性から分子鎖軸配向の状態を知ることができる。具体的には、該方法はマイクロ波をフィルム面に対して垂直方向に照射し、マイクロ波とフィルムを構成する極性分子との相互作用を反映する透過マイクロ波強度を角度を変化させて測定し、その強度の最大値と最小値の比[すなわち、(透過マイクロ波の強度の最大値)/(透過マイクロ波の強度の最小値)]の値を算出するものである。該比の値が2以下のフィルムは、フィルム面内における分子鎖軸配向の異方性が極めて少ないことになる。
【0061】上記(iv)において、面配向度はフィルム面内の結晶領域における分子鎖軸配向方向の規則性を示し、フィルム面内の結晶領域における分子鎖軸配向方向が完全にランダムな場合0%となり、完全に一方向の場合100%となる。一方、本明細書において、厚さ配向度はフィルム面に垂直な平面の面内の結晶領域における分子鎖軸配向方向の規則性を示し、フィルム面に垂直な平面の面内の結晶領域における分子鎖軸配向方向が完全にランダムな場合0%となり、完全に一方向の場合100%となる。X線回折法により測定される面配向度及び厚さ配向度が、それぞれ50?70%及び50?80%である場合には、フィルムの耐摩耗性、耐層内剥離性、耐折れ性及び引張り強度が良好である。なお本明細書において、面配向度は、広角X線回折装置を用いて、X線を、フィルム面に垂直な方向からフィルム面に照射し、得られた(006)面の回折強度曲線における半値幅φ1(度)から、下記数式により算出される。
【0062】面配向度(%)=[(180-φ1)/180]×100
また厚さ配向度は、広角X線回折装置を用いて、X線を、フィルム面に平行な方向からフィルムに照射し、得られた(006)面の回折強度曲線における半値幅φ2(度)から、下記数式により算出される。
【0063】厚さ配向度(%)=[(180-φ2)/180]×100」
・・・
【0086】(8)配向比
マイクロ波分子配向計(KSシステムズ製 MOA-2001A)を用いて、10cm×10cmの試験片について、約4GHzのマイクロ波透過率の角度依存性から、最大透過率/最小透過率の比を測定することで試験片の配向比を求めた。
【0087】(9)面配向度及び厚さ配向度
広角X線回折装置(理学電機社製)を用いて、供試フィルムにX線をフィルム面に垂直方向に照射した。最強ピーク(006面)の配向分布曲線の半値幅から配向度を求めた。また、厚さ方向の配向度は、フィルムの横断面に垂直にX線照射すること以外は同様にして求めた。」

(オ) 「【0105】参考例4
p-ヒドロキシ安息香酸単位60モル%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位8モル%、4,4′-ビフェノール単位16モル%及びテレフタル酸単位16モル%からなるサーモトロピック液晶ポリエステルを単軸押出機を用いて330?350℃で加熱混練し、直径40mm、スリット間隔0.6mmの円形ダイより溶融押出し、厚み30μmのフィルムを得た。得られたフィルムの融点(Tm)は331℃であり、熱変形温度は260℃であった。この液晶ポリマーフィルムをDとする。
【0106】実施例7?10
参考例1で得られた液晶ポリマーフィルムAを支持体としての厚さ18μmの銅箔(電解法による1/2オンス銅箔)と、260℃で加熱圧着して積層体を得た。このようにして得た積層体を熱風加熱炉を使用して、表9に示すように、285?340℃の温度範囲、2?4分の処理時間で、フィルムが上層、銅箔が下層になるように水平に保持して加熱溶融処理し、冷却速度20℃/分で100℃まで冷却した。次に表10に示すように、塩化第二鉄液を用いて、処理した積層体から銅箔をエッチング除去することにより、透明感の増した液晶ポリマーフィルムを得た。このようにして得たフィルムの評価結果を表11及び12に示す。得られたフィルムを、別々に170℃で1分間加熱処理し、次に冷却速度20℃/分で100℃まで徐冷した。次にこれらの2回加熱処理したフィルムについて、熱膨張率を試験した。これらの結果を表12に示す。
・・・
【0116】実施例22
参考例4で得たフィルムDを使用しそして表9に示す加熱処理条件を採用した以外は実施例7を繰り返し、銅箔との積層、加熱溶融処理そして銅箔の除去を行った。このようにして得たフィルムの評価結果を表11及び12に示す。
・・・
【0123】
【表11】

【0124】
【表12】



イ 甲B3に記載された発明
甲B3の、特に参考例4に関連する記載から、以下の発明(以下「甲B3フィルム発明」という。)が記載されていると認める。

「p-ヒドロキシ安息香酸単位60モル%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位8モル%、4,4′-ビフェノール単位16モル%及びテレフタル酸単位16モル%からなるサーモトロピック液晶ポリエステルを単軸押出機を用いて330?350℃で加熱混練し、直径40mm、スリット間隔0.6mmの円形ダイより溶融押出し、得られた厚み30μmのフィルム。」

ウ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
a 対比
甲B3フィルム発明におけるフィルムは、「サーモトロピック液晶ポリエステルを単軸押出機を用いて330?350℃で加熱混練し」、押出されたものであるから、「液晶ポリエステルフィルム」であると認められる。
甲B3フィルム発明の「p-ヒドロキシ安息香酸単位」及び「6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位」は、本件特許発明1における式(1)で表される繰返し単位に相当し、その総量は68モル%であり、本件特許発明1に特定される30モル%以上80モル%以下の範囲内である。
また、甲B3フィルム発明の「4,4′-ビフェノール単位」は、本件特許発明1における式(3)で表される繰返し単位に相当し、その量は16モル%であり、本件特許発明1に特定される10モル%以上30モル%以下の範囲内である。
そして、甲B3フィルム発明の「テレフタル酸単位」は、本件特許発明1における式(2)で表される繰返し単位に相当し、その量は16モル%であり、本件特許発明1に特定される10モル%以上30モル%以下の範囲内である。

そうすると、本件特許発明1と甲B3フィルム発明とを対比すると、両者は、

「少なくとも液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステルフィルムであって、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下である、液晶ポリエステルフィルム。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点7>
液晶ポリエステルフィルムの配向度に関し、本件特許発明1は「第1の配向度を、前記液晶ポリエステルフィルムの主面に平行な第1の方向に対する配向度とし、第2の配向度を、前記主面に平行であり、かつ前記第1の方向と直交する第2の方向に対する配向度としたとき、前記第1の配向度と前記第2の配向度との比である第1の配向度/第2の配向度が0.95以上1.04以下であり、
前記主面に平行な方向において広角X線散乱法により測定される前記液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上」であるのに対し、甲B3フィルム発明は、配向度について特定しない点。

b 相違点7についての検討
甲B3には、液晶ポリエステルフィルムの第1ないし3の配向度すべてについての記載はない。
また、甲B3に記載される液晶ポリエステルフィルムの製造方法は、本件特許の液晶ポリエステルフィルムの製造方法と異なるものであるから、甲B3フィルム発明が、相違点7に係る第1ないし3の配向度を有する蓋然性が高いとはいえない。
よって、相違点7は、実質的な相違点であって、本件特許発明1は、甲B3フィルム発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1に特定される第1ないし3の配向度について、甲B3及び他の甲各号証には記載も示唆もされておらず、技術常識であるともいえない。
してみると、本件特許発明1と相違する課題を有する甲B3フィルム発明に相違点7にかかる特定事項を採用する動機があるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、かかる発明特定事項を採ることによって、高機械的強度に加え、低線膨張率においても格別顕著な効果を奏するものである。

c 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人Bは、特許異議申立書において、甲B3に記載された発明の液晶ポリエステルフィルムと配向度の定義は同一ではないものの、ほぼ同じものを指しており、本件特許発明1において特定される数値範囲に重複する旨主張する。
しかしながら、特許異議申立人Bの上記主張は、甲B3の段落【0048】の「本発明の方法によって得られた液晶ポリマーからなるフィルムは、多くの場合、以下のとおりの特徴的な物性を有する。」との記載に続いて例示される配向度測定手段とその数値範囲に根拠をおくものである。
そうすると、甲B3の参考例4で得られた液晶ポリエステルフィルム(甲B3フィルム発明)が、当該物性を有するか否かは不明であって、上記根拠に基づく主張は、その前提において採用できるものではないから、本件特許発明1は、甲B3に記載された発明とはいえない。
また、溶融押出による製法である甲B3フィルム発明に、他の甲号証に記載される溶液の流延によるフィルム製造技術を適用することは、異方性発現のメカニズムも異なり、当業者が容易になし得たこととはいえない。
そして、塗膜の本件特許発明1は、配向度として特定の基準を採用し、かつ、その数値範囲を特定することによって、所期の低い線膨張率及び高い機械的強度を有する液晶ポリエステルフィルムを提供できるという効果を奏するものである。

f 小括
したがって、本件特許発明1は、甲B3フィルム発明とはいえず、また、当業者が甲B3フィルム発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許の請求項1を引用する発明であって、本件特許発明1の特定事項をすべて含み、更に限定するものであるから、甲B3フィルム発明とはいえず、また、甲B3フィルム発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 申立理由B6についてのまとめ
したがって、申立理由B6には理由がない。

第7 結語
以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由及び特許異議申立人A及びBが主張するいずれの申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステルフィルムであって、
第1の配向度を、前記液晶ポリエステルフィルムの主面に平行な第1の方向に対する配向度とし、第2の配向度を、前記主面に平行であり、かつ前記第1の方向と直交する第2の方向に対する配向度としたとき、前記第1の配向度と前記第2の配向度との比である第1の配向度/第2の配向度が0.95以上1.04以下であり、
前記主面に平行な方向において広角X線散乱法により測定される前記液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上であり、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下である、液晶ポリエステルフィルム。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項2】
前記第3の配向度が、60.0%以上80.0%以下である請求項1に記載の液晶ポリエステルフィルム。
【請求項3】
液晶ポリエステルと、溶媒とを含む液晶ポリエステル液状組成物であって、
前記液晶ポリエステルが、式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を含み、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(1)で表される繰返し単位の含有量が、30モル%以上80モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(2)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位の合計量に対する前記式(3)で表される繰返し単位の含有量が、10モル%以上35モル%以下であり、
前記液晶ポリエステル液状組成物の23℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下であり、
前記液晶ポリエステル液状組成物は、前記液晶ポリエステルと前記溶媒とを含む混合物を、温度A[℃]及び前記温度A[℃]到達後の保持時間B[hr]が式(5)、(6)及び(7)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、フィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物。
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(式(1)?(3)中、Ar^(1)は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar^(2)及びAr^(3)は、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar^(1)、Ar^(2)及びAr^(3)で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
(式(4)中、Ar^(4)及びAr^(5)は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
(5)120≦A<200
(6)3≦B
(7)19≦(0.1A+B)<30
【請求項4】
さらに、式(8)を満たす条件下で加熱撹拌することにより得られる、請求項3に記載のフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物。
(8)130≦A<180
【請求項5】
請求項3又は4に記載されるフィルム製造用液晶ポリエステル液状組成物を支持体上に流延して塗膜を形成し、
前記塗膜から前記溶媒を除去し、
前記溶媒が除去された前記塗膜を加熱し、
加熱された前記塗膜と前記支持体とを分離する、ことを含む液晶ポリエステルフィルムの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-26 
出願番号 特願2018-151543(P2018-151543)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福井 弘子  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 植前 充司
大畑 通隆
登録日 2019-11-22 
登録番号 特許第6619487号(P6619487)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 液晶ポリエステルフィルム、液晶ポリエステル液状組成物及び液晶ポリエステルフィルムの製造方法  
代理人 加藤 広之  
代理人 伴 俊光  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 細田 浩一  
代理人 加藤 広之  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 棚井 澄雄  
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