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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23K
管理番号 1374931
異議申立番号 異議2020-700440  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-24 
確定日 2021-04-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6625982号発明「ドライペットフードの嗜好性を向上させるための組成物及び方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6625982号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-9〕、10、〔11-14〕について訂正することを認める。 特許第6625982号の請求項1、3ないし6及び8ないし14に係る特許を維持する。 特許第6625982号の請求項2及び7に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許6625982号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、2014年(平成26年)12月16日(優先権主張 2013年(平成25年)12月19日)を国際出願日とする特許出願であって、令和1年12月6日にその特許権の設定登録がされ、同月25日に特許公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。

令和2年 6月24日 特許異議申立人神谷 高伸(以下「申立人」
という。)による請求項1ないし14に係る 発明の特許に対する特許異議の申立て
令和2年 9月25日付け 取消理由通知
令和2年12月23日 特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正
請求による訂正を「本件訂正」という。)

なお、令和2年12月23日にされた訂正の請求について、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである(下線は当審で付した。以下同様。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「水分活性が0.65未満である、ドライペットフード製品」とあるのを、
「水分活性が0.65未満であり、前記製品中の前記ソルビン酸塩の総量が前記製品の0.4重量%?1.0重量%である、ドライペットフード製品」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に
「前記粒状物を乾燥して前記ドライペットフードを形成するステップ、を含む、方法」とあるのを、
「前記粒状物を乾燥して前記ドライペットフードを形成するステップ、を含み、前記ソルビン酸塩が前記材料の0.4重量%?1.0重量%である、方法」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10に
「ソルビン酸塩を、前記ドライペットフードの本体の中に混合するステップを含む、方法」とあるのを、
「ソルビン酸塩を、前記ドライペットフードの本体の中に混合するステップを含み、前記ソルビン酸塩が、前記ドライペットフードの0.4重量%?1.0重量%となる量で混合される、方法」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項11に
「水分活性が0.65未満である、方法」とあるのを、
「水分活性が0.65未満であり、前記ソルビン酸塩が前記ドライペットフード製品の0.4重量%?1.0重量%である、方法」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的について
上記訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1において「ソルビン酸塩を含み」と特定されていた「ドライペットフード製品」における「ソルビン酸塩」について、総量の比率の数値範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ.新規事項の追加について
上記訂正事項1に関して、本件特許明細書の段落【0046】には「したがって本開示は、ドライペットフード粒状物のようなドライペットフードの嗜好性を向上させるための組成物及び方法を提供する。その組成物は、ソルビン酸又はその塩の少なくとも1つを含む。適切なソルビン酸塩の非限定的な例は、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム及びソルビン酸ナトリウムを含み、それらの各々はソルビン酸として等量で互いに可換である。1つの実施形態では、組成物は総量として組成物の0.3%?1.0%、好ましくは0.4%?1%、より好ましくは0.5%?1.0%のソルビン酸及び/又はその塩を含む、粒状物のようなドライペットフードである。」と記載されている。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は上記段落【0046】の記載等に基づくものであり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。

ウ.特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び4について
上記訂正事項2に係る請求項2についての訂正、および、上記訂正事項4に係る請求項7についての訂正は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
ア.訂正の目的について
上記訂正事項3に係る請求項6についての訂正は、訂正前の請求項6において「ソルビン酸塩を含む材料を粉砕するステップ」を含むと特定されていた「ステップ」における「ソルビン酸塩」について、比率の数値範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ.新規事項の追加について
上記訂正事項3に関して、本件特許明細書の段落【0058】には「ソルビン酸又はその塩の少なくとも1つがドライペットフードに、例えば乾燥本体組成物の成分及び/又はコーティング組成に添加される。ソルビン酸又はその塩の少なくとも1つが、乾燥本体組成物の成分に添加される場合、添加は粉砕の前が好ましい。」と記載され、段落【0059】には「1つの実施形態では、ソルビン酸及び/又はその塩の総量は、好ましくは組成物の0.4?1.0%での間、より好ましくは0.5%?1.0%の間であり、ドライペットフードはキャットフードである。他の実施形態では、ソルビン酸及び/又はその塩の総量は、好ましくは組成物の0.4%??1.0%の間、より好ましくは0.5%?1.0%の間であり、ドライペットフードはドッグフードである。」と記載されている。
そうすると、訂正事項3に係る訂正は上記段落【0058】及び【0059】の記載等に基づくものであり、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。

ウ.特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(4)訂正事項5について
ア.訂正の目的について
上記訂正事項5に係る請求項10についての訂正は、訂正前の請求項10において「ソルビン酸塩を、前記ドライペットフードの本体の中に混合するステップ」を含むと特定されていた「ステップ」における「ソルビン酸塩」について、量の比率の数値範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ.新規事項の追加について
上記訂正事項5に関して、本件特許明細書の段落【0046】には上記「(1)イ.」で摘記した事項が記載されている。
そうすると、訂正事項5に係る訂正は上記段落【0046】の記載等に基づくものであり、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。

ウ.特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記訂正事項5に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(5)訂正事項6について
ア.訂正の目的について
上記訂正事項6に係る請求項11についての訂正は、訂正前の請求項11において「ソルビン酸塩を含むドライフード製品」と特定されていた「ドライフード製品」における「ソルビン酸塩」について、比率の数値範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ.新規事項の追加について
上記訂正事項6に関して、本件特許明細書の段落【0046】には上記「(1)イ.」で摘記した事項が記載されている。
そうすると、訂正事項6に係る訂正は上記段落【0046】の記載等に基づくものであり、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。

ウ.特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記訂正事項6に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(5)一群の請求項について
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1ないし5は、請求項2ないし5が請求項1の記載を引用するものであるから、一群の請求項である。
訂正事項3及び4に係る訂正前の請求項6ないし9は、請求項7ないし9が請求項6の記載を引用するものであるから、一群の請求項である。
訂正事項6に係る訂正前の請求項11ないし14は、請求項12ないし14が請求項11の記載を引用するものであるから、一群の請求項である。
そうすると、訂正事項1ないし4及び6に係る訂正は、それぞれ一群の請求項に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲zのとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-9〕、10、〔11-14〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件特許発明

本件訂正請求により訂正された請求項1ないし14に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正特許発明1」ないし「本件訂正特許発明14」といい、合わせて「本件訂正特許発明」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ソルビン酸塩を含み、脂質、タンパク質、炭水化物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される追加成分を更に含む、ドライペットフード製品であって、
前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在する本体を含み、水分活性が0.65未満であり、
前記製品中の前記ソルビン酸塩の総量が前記製品の0.4重量%?1.0重量%である、ドライペットフード製品。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記製品中の前記ソルビン酸塩の総量が前記製品の0.5重量%?1.0重量%である、請求項1に記載のドライペットフード製品。
【請求項4】
前記ソルビン酸塩が、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、ソルビン酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のドライペットフード製品。
【請求項5】
前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在するコーティングを含む、請求項1に記載のドライペットフード製品。
【請求項6】
水分活性が0.65未満であるドライペットフードの製造方法であって、
ソルビン酸塩を含む材料を粉砕するステップ、
前記粉砕された材料を押し出して押出成形物を形成するステップ、
前記押出成形物から粒状物を形成するステップ、及び
前記粒状物を乾燥して前記ドライペットフードを形成するステップ、を含み、
前記ソルビン酸塩が前記材料の0.4重量%?1.0重量%である、方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記ソルビン酸塩が前記材料の0.5重量%?1.0重量%である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ソルビン酸塩が、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、ソルビン酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
水分活性が0.65未満であるドライペットフードの嗜好性を向上させる方法であって、
嗜好性を向上させる量の、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、ソルビン酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるソルビン酸塩を、前記ドライペットフードの本体の中に混合するステップを含み、
前記ソルビン酸塩が、前記ドライペットフードの0.4重量%?1.0重量%となる量で混合される、方法。
【請求項11】
嗜好性を向上させる量のソルビン酸塩を含むドライフード製品をペットに与えるステップを含み、
前記ドライフード製品が、前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在する本体を含み、
前記ドライフード製品の水分活性が0.65未満であり、
前記ソルビン酸塩が前記ドライペットフード製品の0.4重量%?1.0重量%である、方法。
【請求項12】
前記ペットがネコであり、前記ソルビン酸塩が前記ドライフード製品の0.4重量%?1.0重量%である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ペットがイヌであり、前記ソルビン酸塩が前記ドライフード製品の0.5重量%?1.0重量%である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ドライフード製品が、前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在するコーティングを含む、請求項11に記載の方法。」

第4 特許異議申立理由の概要及び証拠

申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の「1.」に示す申立理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の「2.」に示す各甲号証(以下、各甲号証を「甲1」等、各甲号証に係る発明を「甲1発明」等ということがある。以下同様。)を提出している。

1.特許異議申立理由の概要
(1)本件発明1、本件発明4、本件発明6、本件発明9、本件発明10及び本件発明11は、甲第1号証記載の発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。よって、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(異議申立書第2?4ページ(ア)、第30ページ(5)ア等)。

(2)本件発明1、本件発明4、本件発明6、本件発明9、本件発明10及び本件発明11は、甲第1号証記載の発明から当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(甲第2号証?甲第9号証参照)。よって、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(第2?4ページ(ア)、異議申立書第30ページ(5)ア等)。

(3)本件発明2、本件発明3、本件発明5、本件発明7、本件発明8、本件発明12、本件発明13は、甲第1号証記載の発明、甲第10号証記載の発明及び本件特許出願時における技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり(甲第2号証?甲第9号証参照)、本件発明5及び本件発明14は、甲第1号証記載の発明、甲第11号証記載の発明及び本件特許出願時における技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(異議申立書第4?5ページ(イ)、第30ページ(5)イ等)。

2.申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証 米国特許第4020187号明細書
甲第2号証 R.A.TIMMONS、「Water activity as a tool for predicting
and controlling the stability of pet foods」、2007年7月23
日、Engormix、<URL:https://en.engormix.com/feed-machinery/article
s/water-activity-controlling-stability-of-pet-foods-t33837.htm>
甲第3号証 一般社団法人日本ペット栄養学会編集、「ペット栄養管理学
テキストブック「ペットフードの添加物」」、2014年1月31日、
株式会社アドスリー、第272?280ページ
甲第4号証 特開2013-17470号公報
甲第5号証 特表2014-534819号公報
甲第6号証 ユニ・チャーム株式会社、「愛犬元気 ベストバランス ヨー
クシャー・テリア用」、Internet Archive Wayback Machineの保存日:
2012年9月30日、<URL:https://web.archive.org/web/2012093005 1743/http://pet.unicharm.co.jp/dog/detail/dog_4/>
甲第7号証 MARS japan、「ペディグリー」、Internet Archive Wayback
Machineの保存日:2011年12月7日、<URL:https://web.archive. org/web/20111207025619/http:/www.pedigree.jp/products/dry/index.
aspx#anc02>
甲第8号証 ROYAL CANIN JAPON、「ブリード ヘルス ニュートリション
」、Internet Archive Wayback Machineの保存日:2011年10月31
日、<URL:https://web.archive.org/web/20111031231210/http://www.
royalcanin.co.jp/pb/dogs/breed/chiwawa_seiken>
甲第9号証 MARS japan、「シーザー ドライタイプ」、Internet Archive
Wayback Machineの保存日:2012年3月26日、<URL:https://web. archive.org/web/20120326051111/https:/www.cesar-club.com/jp/
products/dry/index.html>
甲第10号証 米国特許出願公開第2009/0246320号明細書
甲第11号証 特表2006-506997号公報

第5 取消理由通知に記載した取消理由について

1.取消理由の概要
当審が令和2年9月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

(1)本件特許の請求項1、4、6及び9ないし11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)本件特許の請求項1ないし4、及び、6ないし13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、また、本件特許の請求項5及び14に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証及び甲第11号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。

2.証拠について
(1)甲第1号証
ア.甲第1号証の記載
甲第1号証には次の記載がある(括弧内は当審で作成した仮訳であり、原文における下線や罫線を省略している部分がある。以下同様。)。
(ア)「METHOD OF PRODUCING DRY PET FOOD」(第1欄第1行)
(ドライペットフードの製造方法)

(イ)「The dry facinaceous(当審注:「facinaceous」は「farinaceous」の誤記と認める、) ingredients are first ground to obtain a final size of at least 30 mesh, and then the dry material is added to the heated homogenized meat mixture. The preferred proportions of the resultant mix range from at least 25% of the meat mixture to 50%, depending on the desired finished product, but more importantly, insuring that the minimum fat content of the final product will be at least 7^(1)/_(2) %.
After metering the wet and dry ingredients to obtain the aforementioned proportions, mixing is accomplished in a high-speed blender. The blended mixture is then pumped through a conventional extruder-cooker, where the product is subjected to temperatures of from 225° to 325°F and a pressure of at least 50 p.s.i. The mixture is rapidly cooked and passes through an extruder die to the atmosphere in the form of a rope. At this point, the hot product is at a temperature of at least 250°F and an instantaneous flashing of the water contained in the extruded product occurs due to the substantial change in temperature and pressure. The flashing of the water into steam produces an expansion of the extruded rope of material and at a point where the extruded rope is cooled to a level below 200°F. It is cut into small, chunklike pieces by a rotating knife. The product at this point is therefore in sterile chunks generally containing from 15% to 25% moisture. The product is then immediately passes through a conventional dryer, and the water content is removed to obtain a final moisture content of from 7% to 15%.
Due to the low moisture content of the final product and to anti-mold agents, such as potassium sorbate, incorporated in the dry mix, the product is micro-biologically stable. More importantly, our tests have shown that the resulting product has surprising appetite appeal to pets.」(第1欄第59行?第2欄第25行)
(乾燥したデンプン質成分を最初に粉砕して、少なくとも30メッシュの最終サイズを取得し、その後、乾燥材料を加熱された均質化肉混合物に加える。得られる混合物の好ましい割合は、所望の最終製品に応じて、肉混合物の少なくとも25%から50%の範囲であるが、さらに重要なことに、最終製品の最小脂肪含有量が少なくとも7^(1)/_(2)%になることを保証される。
湿った成分と乾いた成分を計量して前述の比率を得た後、高速ブレンダーで混合を行う。次に、ブレンドされた混合物は、従来の押出機-調理器を通してポンプで送られ、そこで、生成物は、華氏225度から325度の温度および少なくとも50p.s.i.の圧力下にて混合物は急速に調理され、押出機のダイを通過してロープの形で大気に送られる。この時点で、高温の製品は少なくとも華氏250度の温度にあり、温度と圧力の大幅な変化により、押し出された製品に含まれる水の瞬間的なフラッシングが発生する。水を蒸気にフラッシュさせると、押し出されたロープの材料が膨張し、押し出されたロープが華氏200度未満のレベルに冷却された時点で、ナイフが回転し、小さな塊の断片に切断される。したがって、この時点での製品は、一般に15%から25%の水分を含む無菌の塊になっている。次に、生成物を直ちに従来の乾燥機に通し、水分を除去して、最終的な水分量が7%から15%のものを得る。
最終製品の水分含有量が低いこと、及び、乾燥混合物に組み込まれているソルビン酸カリウムのような防カビ剤により、製品は微生物学的に安定している。さらに重要なことに、我々の試験は、結果として得られる製品がペットに驚くほどの食欲をそそることを示した。)

(ウ)「

」(第2欄 EXAMPLE 1)
(例1
乾燥混合物
トウモロコシ粉 24ポンド
小麦粉 13ポンド
大豆粉 12ポンド
肉ミール 10ポンド
酵母、醸造物 3ポンド
無脂肪粉乳 2ポンド
ビタミン及びミネラル ^(1)/_(2)ポンド
ソルビン酸カリウム ^(1)/_(4)ポンド
その他 ^(1)/_(4)ポンド
65ポンド
肉混合物
肉と肉の副産物
(鶏肉、肝腎臓、肺、
胃、舌、牛唇、等) 31ポンド
獣脂 4ポンド
35ポンド)

(エ)上記「(イ)」における「乾燥材料」が上記「(ウ)」における「乾燥混合物」を指すことは明らかであるから、上記「(イ)及び(ウ)」からは、乾燥混合物を肉混合物に加えることが理解できる。
(オ)上記「(ウ)」の「例1」のものは、「乾燥混合物」と「肉混合物」との合計100ポンドに対して、「^(1)/_(4)ポンド」の「ソルビン酸カリウム」を含むから、ソルビン酸カリウムが乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%であるといえる。

イ.上記ア.の記載を総合すると、甲第1号証には次の甲1発明及び甲1方法発明1が記載されている。

(甲1発明)
「トウモロコシ粉、小麦粉、大豆粉、肉ミール、無脂肪粉乳及びソルビン酸カリウムを含む乾燥混合物を、
肉と肉の副産物及び獣脂を含む肉混合物に加えたものであり、
最終的な水分量が7%から15%であり、
ソルビン酸カリウムが乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%である
ドライペットフード。」

(甲1方法発明1)
「乾燥したデンプン質成分を粉砕して、乾燥材料を肉混合物に加え、
混合物は押出機のダイを通過して大気に送られ、
小さな塊の断片に切断され、
従来の乾燥機に通し、水分を除去する
甲1発明のドライペットフードの製造方法。」

(2)甲第11号証
ア.甲第11号証の記載
甲第11号証には次の記載がある。
(ア)「【0009】
本発明のある態様によれば、蒸発により濃縮された商業的な水産加工作業からの調理水を含む、ほ乳類のペット向けの小包ペットフード用の噴霧可能な風味向上剤が提供される。意外なことに、この材料は、ほ乳類のペットにとって非常に美味しく、市販の小包のペットフードの全体の美味しさを著しく高めることが分かった。」

(イ)「【0024】
実施例2-ネコ用の市販の小包ペットフード
上述したマグロ調理水を再度混合して、表4の配合によるスプレーを調製した。
【表4】

【0025】
次いで、この液体スプレーを、7重量%の比率で市販のドライタイプのキャットフード・キブルに塗布した。(後略)」

(ウ)上記「(イ)」の【表4】から液体スプレーはソルビン酸カリウムを0.28%配合したものであることが読み取れる。

イ.上記ア.の記載を総合すると、甲第11号証には次の発明(以下「甲11発明」という。)が記載されている。

「ソルビン酸カリウムを0.28%配合した液体スプレーを塗布した
ドライタイプのキャットフード・キブル。」

(3)甲第2号証(引用例1)
ア.甲第2号証(引用例1)の記載
当審が取消理由通知に引用例1として引用した甲第2号証には次の記載がある。
(ア)「Water activities of many common ingredients and categories of pet foods are shown in Table 2. Dry pet food and hard treats typically are in the 0.40-0.45 Aw range.」(MICROBIOLOGICAL CONTROLの項、第2段落)
(多くのペットフードの一般的な成分及びカテゴリーの水分活性を表2に示す。ドライペットフード及びハードトリートは、通常0.40-0.45のAwの範囲にある。)

(イ)「


(Table 2. Water activities of some common foods and ingredients.)
(仮訳は省略)

3.当審の判断
(1)本件訂正特許発明1
ア.対比
本件訂正特許発明1と、甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「ソルビン酸カリウム」は、本件訂正特許発明1の「ソルビン酸塩」に相当する。

(イ)甲1発明の「トウモロコシ粉、小麦粉、大豆粉、肉ミール」及び「肉及び肉の副産物」は、脂質、タンパク質及び炭水化物を含むことが自明であるから、本件訂正特許発明1の「脂質、タンパク質、炭水化物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される追加成分」に相当する。

(ウ)甲1発明は「トウモロコシ粉、小麦粉、大豆粉、肉ミール、無脂肪粉乳及びソルビン酸カリウムを含む乾燥混合物を、肉と肉の副産物及び獣脂を含む肉混合物に加えたもの」であるから、「ソルビン酸カリウム」を含むものであるといえ、甲1発明のこの点は、本件訂正特許発明1の「前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在する本体を含み」に相当する。

(エ)甲1発明の「ドライペットフード」は、本件訂正特許発明1の「ドライペットフード製品」に相当する。

(オ)そうすると本件訂正特許発明1と甲1発明とは、
「ソルビン酸塩を含み、脂質、タンパク質、炭水化物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される追加成分を更に含む、ドライペットフード製品であって、
前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在する本体を含む、ドライペットフード製品。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
「水分活性」が、本件訂正特許発明1においては「0.65未満である」のに対して、甲1発明においては不明である点。

(相違点2)
本件訂正特許発明1においては「製品中のソルビン酸塩の総量が製品の0.4重量%?1.0重量%である」のに対して、甲1発明においては「ソルビン酸カリウムが乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%である」点。

イ.検討
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。

(ア)本件訂正特許発明1は、「セミモイストペットフードにおいて通常は抗真菌性化合物として用いられるソルビン酸カリウム又はソルビン酸が、ドライキャットフード及びドライドッグフード両者の嗜好性を向上させることを見出し」(明細書段落【0046】)、「ドライペットフード製品」において相違点2に係る「製品中のソルビン酸塩の総量が製品の0.4重量%?1.0重量%である」との発明特定事項を備えることにより、「ドライペットフード粒状物のようなドライペットフードの嗜好性を向上させる」(同上)という明細書記載の効果を奏するものである。

(イ)一方、甲第1号証には「最終製品の水分含有量が低いこと、及び、乾燥混合物に組み込まれているソルビン酸カリウムのような防カビ剤により、製品は微生物学的に安定している。」(上記「2.(1)ア.(イ)」)と記載されているところ、甲1発明において「乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%」とされた「ソルビン酸カリウム」の量は「ドライペットフード」を「微生物学的に安定し」たものとするために好適な量であると認められるし、甲第1号証にはドライペットフードの嗜好性を向上させるためソルビン酸カリウムを配合することについては何ら記載されていないから、甲1発明について嗜好性を向上させるためにソルビン酸カリウムの量を変更する動機があるとはいえない。
そうすると、甲1発明において「ソルビン酸カリウム」の量を本件訂正特許発明1の相違点2に係る発明特定事項の範囲とすることが、当業者が適宜なし得る設計的事項であるということはできない。

ウ.小括
以上のとおりであって、相違点2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
また、本件訂正特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

(2)本件訂正特許発明2ないし4
本件訂正特許発明3及び4は、本件訂正特許発明1を引用し、さらに限定した発明であり、本件訂正特許発明1については上記「(1)」において検討したとおりである。
そうすると、本件訂正特許発明4は、甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
また、本件訂正特許発明3及び4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
なお、請求項2は本件訂正により削除された。

(3)本件訂正特許発明5
ア.本件訂正特許発明5は、本件訂正特許発明1を引用し、さらに限定した発明であり、本件訂正特許発明1については上記「(1)」において検討したとおりである。

イ.甲11発明の「キャットフード・キブル」は「ソルビン酸カリウムを0.28%配合した液体スプレーを塗布した」ものであるから、「キャットフード・キブル」における「ソルビン酸カリウム」の量が「0.28%未満」であることは明らかである。
そうすると、甲11発明も、相違点2に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項を、開示又は示唆するものではないから、甲11発明を考慮しても、上記「(1)」における判断に変わりはない。
よって、本件訂正特許発明5は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(4)本件訂正特許発明6
ア.対比
(ア)本件訂正特許発明6と、甲1方法発明1とを対比すると、上記「2.(1)」での対比と同様のことがいえ、さらに、甲1方法発明1の「乾燥したデンプン質成分を粉砕」する工程、「混合物は押出機のダイを通過して大気に送られ」る工程、「小さな塊の断片に切断され」る工程及び「従来の乾燥機に通し、水分を除去する」工程は、本件訂正特許発明6の「ソルビン酸塩を含む材料を粉砕するステップ」、「前記粉砕された材料を押し出して押出成形物を形成するステップ」、「前記押出成形物から粒状物を形成するステップ」及び「前記粒状物を乾燥して前記ドライペットフードを形成するステップ」にそれぞれ相当する。

(イ)そうすると本件訂正特許発明6と甲1方法発明1とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点A)
「水分活性」が、本件訂正特許発明6においては「0.65未満である」のに対して、甲1方法発明1においては不明である点。

(相違点B)
本件訂正特許発明6においては「ソルビン酸塩が材料の0.4重量%?1.0重量%である」のに対して、甲1方法発明1においては「ソルビン酸カリウムが乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%である」点。

イ.検討
事案に鑑み、まず相違点Bについて検討する。

(ア)本件訂正特許発明6は、「セミモイストペットフードにおいて通常は抗真菌性化合物として用いられるソルビン酸カリウム又はソルビン酸が、ドライキャットフード及びドライドッグフード両者の嗜好性を向上させることを見出し」(明細書段落【0046】)、相違点Bに係る「ソルビン酸塩が材料の0.4重量%?1.0重量%である」との発明特定事項を備えることにより、「ドライペットフード粒状物のようなドライペットフードの嗜好性を向上させる」(同上)という明細書記載の効果を奏するものである。

(イ)一方、甲第1号証には「最終製品の水分含有量が低いこと、及び、乾燥混合物に組み込まれているソルビン酸カリウムのような防カビ剤により、製品は微生物学的に安定している。」(上記「2.(1)ア.(イ)」)と記載されているところ、甲1発明において「乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%」とされた「ソルビン酸カリウム」の量は「ドライペットフード」を「微生物学的に安定し」たものとするために好適な量であると認められるし、甲第1号証にはドライペットフードの嗜好性を向上させるためソルビン酸カリウムを配合することについては何ら記載されていないから、甲1発明について嗜好性を向上させるためにソルビン酸カリウムの量を変更する動機があるとはいえない。
そうすると、甲1発明において「ソルビン酸カリウム」の量を本件訂正特許発明6の相違点Bに係る発明特定事項の範囲とすることが、当業者が適宜なし得る設計的事項であるということはできない。

ウ.小括
以上のとおりであって、相違点Bは実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正特許発明6は、甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
また、本件訂正特許発明6は、甲1方法発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

(5)本件訂正特許発明7ないし9
本件訂正特許発明8及び9は、本件訂正特許発明6を引用し、さらに限定した発明であり、本件訂正特許発明6については上記「(4)」において検討したとおりである。
そうすると、本件訂正特許発明9は、甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
また、本件訂正特許発明8及び9は、甲1方法発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
なお、請求項7は本件訂正により削除された。

(6)本件訂正特許発明10
ア.対比
(ア)本件訂正特許発明10と、甲1方法発明1とを対比すると、上記「2.(1)」での対比と同様のことがいえる。

(イ)また、甲1方法発明1の「ドライペットフード」は「トウモロコシ粉、小麦粉、大豆粉、肉ミール、無脂肪粉乳及びソルビン酸カリウムを含む乾燥混合物を、肉と肉の副産物及び獣脂を含む肉混合物に加えたもの」であるから、「ソルビン酸カリウム」を「ドライペットフード」に混合したものといえ、甲1方法発明1が当該「ソルビン酸カリウム」を「ドライペットフード」に混合するステップを有することは明らかである。

(ウ)甲第1号証には「さらに重要なことに、我々の試験は、結果として得られる製品がペットに驚くほどの食欲をそそることを示した」(上記「2.(1)ア.(イ)」)と記載されているから、そのような製品を製造する甲1方法発明1に係る製造方法は「食欲をそそる」「ドライペットフードの製造方法」といいうるものであって、本件訂正特許発明10の「ドライペットフードの嗜好性を向上させる方法」に相当する。

(エ)そうすると、本件訂正特許発明10と甲1方法発明1とは次の点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点a)
「水分活性」が、本件訂正特許発明10においては「0.65未満である」のに対して、甲1方法発明1においては不明である点。

(相違点b)
本件訂正特許発明10においては「ソルビン酸塩」が「嗜好性を向上させる量」であって、「ドライペットフードの0.4重量%?1.0重量%となる量」で混合されるのに対して、甲1方法発明1においては「ソルビン酸カリウムが乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%である」点。

イ.検討
事案に鑑み、まず相違点bについて検討する。

(ア)本件訂正特許発明10は、「セミモイストペットフードにおいて通常は抗真菌性化合物として用いられるソルビン酸カリウム又はソルビン酸が、ドライキャットフード及びドライドッグフード両者の嗜好性を向上させることを見出し」(明細書段落【0046】)、相違点bに係る「ソルビン酸カリウムが乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%である」との発明特定事項を備えることにより、「ドライペットフード粒状物のようなドライペットフードの嗜好性を向上させる」(同上)という明細書記載の効果を奏するものである。

(イ)一方、甲第1号証には「最終製品の水分含有量が低いこと、及び、乾燥混合物に組み込まれているソルビン酸カリウムのような防カビ剤により、製品は微生物学的に安定している。」(上記「2.(1)ア.(イ)」)と記載されているところ、甲1方法発明1において「乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%」とされた「ソルビン酸カリウム」の量は「ドライペットフード」を「微生物学的に安定し」たものとするために好適な量であると認められるし、甲第1号証にはドライペットフードの嗜好性を向上させるためソルビン酸カリウムを配合することについては何ら記載されていないから、甲1方法発明1について嗜好性を向上させるためにソルビン酸カリウムの量を変更する動機があるとはいえない。
そうすると、甲1方法発明1において「ソルビン酸カリウム」の量を本件訂正特許発明10の相違点bに係る発明特定事項の範囲とすることが、当業者が適宜なし得る設計的事項であるということはできない。

ウ.小括
以上のとおりであって、相違点bは実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正特許発明10は、甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
また、本件訂正特許発明10は、甲1方法発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

(7)本件訂正特許発明11
ア.対比
(ア)甲第1号証には、甲1発明の「ドライペットフード」が記載されているところ、当該「ドライペットフード」がペットに与えるためのものであることは明らかであるから、甲第1号証には甲1発明の「ドライペットフード」をペットに与える方法の発明(以下「甲1方法発明2」という。)が実質的に記載されているといえる。

(イ)本件訂正特許発明11と甲1方法発明2とを対比すると、上記「2.(1)」での対比と同様のことがいえ、さらに、甲1方法発明2の「ドライペットフード」は、本件訂正特許発明11の「ドライフード製品」及び「ドライペットフード製品」に相当する。

(ウ)甲1方法発明2は「「ドライペットフード」をペットに与える方法」であるから、「「ドライペットフード」をペットに与える」ステップを有することは明らかであって、甲1方法発明2の当該ステップは、本件訂正特許発明11の「ドライフード製品をペットに与えるステップ」に相当する。

(エ)そうすると、本件訂正特許発明11と甲1方法発明2とは次の点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点α)
「水分活性」が、本件訂正特許発明11においては「0.65未満である」のに対して、甲1方法発明2においては不明である点。

(相違点β)
本件訂正特許発明11においては「ソルビン酸塩」が「嗜好性を向上させる量」であって、「ドライペットフード製品の0.4重量%?1.0重量%」であるのに対して、甲1方法発明2においては「ソルビン酸カリウムが乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%である」点。

イ.検討
事案に鑑み、まず相違点βについて検討する。

(ア)本件訂正特許発明11は、「セミモイストペットフードにおいて通常は抗真菌性化合物として用いられるソルビン酸カリウム又はソルビン酸が、ドライキャットフード及びドライドッグフード両者の嗜好性を向上させることを見出し」(明細書段落【0046】)、相違点βに係る「ソルビン酸カリウムが乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%である」との発明特定事項を備えることにより、「ドライペットフード粒状物のようなドライペットフードの嗜好性を向上させる」(同上)という明細書記載の効果を奏するものである。

(イ)一方、甲第1号証には「最終製品の水分含有量が低いこと、及び、乾燥混合物に組み込まれているソルビン酸カリウムのような防カビ剤により、製品は微生物学的に安定している。」(上記「2.(1)ア.(イ)」)と記載されているところ、甲1方法発明2において「乾燥混合物及び肉混合物の0.25重量%」とされた「ソルビン酸カリウム」の量は「ドライペットフード」を「微生物学的に安定し」たものとするために好適な量であると認められるし、甲第1号証にはドライペットフードの嗜好性を向上させるためソルビン酸カリウムを配合することについては何ら記載されていないから、甲1方法発明2について嗜好性を向上させるためにソルビン酸カリウムの量を変更する動機があるとはいえない。
そうすると、甲1方法発明2において「ソルビン酸カリウム」の量を本件訂正特許発明11の相違点βに係る発明特定事項の範囲とすることが、当業者が適宜なし得る設計的事項であるということはできない。

ウ.小括
以上のとおりであって、相違点βは実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正特許発明11は、甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
また、本件訂正特許発明11は、甲1方法発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

(8)本件訂正特許発明12及び13
本件訂正特許発明12及び13は、本件訂正特許発明11を引用し、さらに限定した発明であり、本件訂正特許発明11については上記「(7)」において検討したとおりである。
そうすると、本件訂正特許発明12及び13は、甲1方法発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(9)本件訂正特許発明14
ア.本件訂正特許発明14は、本件訂正特許発明11を引用し、さらに限定した発明であるから、本件訂正特許発明14と甲1方法発明2とは少なくとも相違点βにおいて相違する。

イ.相違点βについては、上記「(7)イ.」と同様のことがいえる。

ウ.さらに甲11発明について検討すると、甲11発明の「キャットフード・キブル」は「ソルビン酸カリウムを0.28%配合した液体スプレーを塗布した」ものであるから、「キャットフード・キブル」における「ソルビン酸カリウム」の量が「0.28%未満」であることは明らかである。
そうすると、甲11発明も、相違点βに係る本件訂正特許発明14の発明特定事項を開示又は示唆するものではないから、甲11発明を考慮しても、上記「(7)」における判断に変わりはない。
よって、本件訂正特許発明14は、甲1方法発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

第6 取消理由通知において通知しなかった特許異議申立理由について

1.「第4 1.(2)」の特許異議申立理由(甲1発明及び技術常識に基づく本件訂正特許発明1、4、6及び9ないし11の進歩性)について
上記「第4 1.(2)」の特許異議申立理由は、上記「第5 3.」で検討した取消理由に加えて、甲第2号証ないし甲第9号証に係る技術常識を参酌したものである。
しかしながら、甲第2号証ないし甲第5号証には、ペットフードの水分活性についての記載があるものの、ソルビン酸塩については何ら記載されていない。
また、甲第6号証ないし甲第9号証は、ペットフード製品のウェブページであって、ペットフード製品がソルビン酸塩を含むことが記載されているものの、ソルビン酸塩の量については何ら記載されていない。
そうすると、甲第2号証ないし甲第9号証を参酌しても、甲第1号証に記載された発明において、相違点2、B、b又はβに係る本件訂正特許発明1、4、6及び9ないし10の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件訂正特許発明1、4、6及び9ないし10は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第9号証に示された技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

2.「第4 1.(3)」の特許異議申立理由について
(1)甲1発明、甲10発明及び技術常識に基づく本件訂正特許発明2、3、5、7、8、12及び13の進歩性について
ア.甲第10号証
(ア)甲第10号証の記載
甲第10号証には次の記載がある(括弧内に当審で作成した仮訳を付した。)。

a.「[0077] A preferred semi-moist pet food product formulation, suitable for processing via the proposed technology is presented in Table 1」
([0077] 提案する技術を用いて処理するのに適した、好ましいセミモイストペットフード製品の処方を表1に示す。)

b.


(表1
典型的なペットフード製品の処方
成分 含有レベル(%w/w)
機能的タンパク質(バイタル小麦グルテン、脱脂大豆 25-55
小麦粉、大豆タンパク質濃縮物、大豆タンパク質分離物
コーン・グルテン・ミール、緑豆または酵母副産物由来)
穀粉(小麦、トウモロコシまたは米由来) 10-25
肉/家禽/魚の副産物ミール 15-25
砂糖 5-10
グリセロール 4-8
植物油 3-6
ソルビン酸カリウム 0.5-1.5
ダイジェスト(嗜好性向上剤) 2-4)
(第8頁右欄 TABLE 1)

以上を総合すると、甲第10号証には次の発明(以下「甲10発明」という。)が記載されている。

「ソルビン酸カリウム0.5-1.5%w/wを成分とする
セミモイストペットフード製品。」

イ.検討
(ア)本件訂正特許発明3及び5と甲1発明とは、上記「第5 3.(1)ないし(3)」のとおり、それぞれ少なくとも相違点2で相違し、本件訂正特許発明7と甲1方法発明1とは、上記「第5 3.(4)及び(5)」のとおり、少なくとも相違点Bで相違し、本件訂正特許発明12及び13と甲1方法発明2とは、上記「第5 3.(7)及び(8)」のとおり、それぞれ少なくとも相違点βで相違するところ、相違点2、B及びβはいずれもドライペットフードにおけるソルビン酸塩の数値範囲に係る相違点である。

(イ)一方、甲10発明には「セミモイストペットフード製品」において「ソルビン酸カリウム」を「0.5-1.5%w/w」含むことが開示されており、その「ソルビン酸カリウム」の数値範囲は、相違点2が材料に対する比に係ることを措くとすれば、相違点2、B及びβに係る「ソルビン酸塩」の数値範囲を包含する。

(ウ)しかしながら、例えば、甲第1号証に「最終製品の水分含有量が低いこと、及び、乾燥混合物に組み込まれているソルビン酸カリウムのような防カビ剤により、製品は微生物学的に安定している」(上記「2.(1)ア.(イ)」)と記載されているように、製品の水分含有量が低いと微生物学的に安定することや、ソルビン酸塩が防カビ剤として用いられることは、ペットフードにおける技術常識であるから、甲10発明の「セミモイストペットフード製品」における「ソルビン酸カリウム」の数値範囲を、水分含有量が異なり、それに伴って防カビについて求められる性能も異なることが明らかである「ドライペットフード」に係る甲第1号証に記載された発明の「ソルビン酸塩」にそのまま適用する動機付けはない。

(エ)また、甲第2号証ないし甲第9号証については、上記「1.」で検討したとおりであるから、本件訂正特許発明3、5、8、12及び13は、甲第1号証に記載された発明及び甲10発明並びに甲第2号証ないし甲第9号証に示された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
なお、請求項2及び7は本件訂正により削除された。

(2)甲1発明、甲11発明及び技術常識に基づく本件訂正特許発明5及び14の進歩性について
ア.本件訂正特許発明5と甲1発明とは、上記「第5 3.(1)及び(3)」のとおり、少なくとも相違点2で相違し、本件訂正特許発明14と甲1方法発明2とは、上記「第5 3.(7)及び(9)」のとおり、少なくとも相違点βで相違する。

イ.一方、甲11発明の「キャットフード・キブル」は、上記「第5 3.(3)及び(9)」で検討したとおり、「ソルビン酸カリウムを0.28%配合した液体スプレーを塗布した」ものであるから、「キャットフード・キブル」における「ソルビン酸カリウム」の量が「0.28%未満」であることは明らかであって、甲11発明は、相違点2に係る本件訂正特許発明5の発明特定事項や、相違点βに係る本件訂正特許発明14の発明特定事項を、開示又は示唆するものではない。

ウ.そうすると、甲1発明に甲11発明を適用しても、相違点2に係る本件訂正特許発明5の発明特定事項とすることはできず、甲1方法発明2に甲11発明を適用しても、相違点βに係る本件訂正特許発明14の発明特定事項とすることはできない。

エ.また、甲第2号証ないし甲第9号証については、上記「1.」で検討したとおりである。

オ.以上のとおりであるから、本件訂正特許発明5及び14は、甲第1号証に記載された発明及び甲11発明並びに甲第2号証ないし甲第9号証に示された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

第7 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件訂正特許発明1、3ないし6及び8ないし14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正特許発明1、3ないし6及び8ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正特許発明2及び7に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議申立てについて、請求項2及び7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビン酸塩を含み、脂質、タンパク質、炭水化物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される追加成分を更に含む、ドライペットフード製品であって、
前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在する本体を含み、水分活性が0.65未満であり、
前記製品中の前記ソルビン酸塩の総量が前記製品の0.4重量%?1.0重量%である、ドライペットフード製品。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記製品中の前記ソルビン酸塩の総量が前記製品の0.5重量%?1.0重量%である、請求項1に記載のドライペットフード製品。
【請求項4】
前記ソルビン酸塩が、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、ソルビン酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のドライペットフード製品。
【請求項5】
前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在するコーティングを含む、請求項1に記載のドライペットフード製品。
【請求項6】
水分活性が0.65未満であるドライペットフードの製造方法であって、
ソルビン酸塩を含む材料を粉砕するステップ、
前記粉砕された材料を押し出して押出成形物を形成するステップ、
前記押出成形物から粒状物を形成するステップ、及び
前記粒状物を乾燥して前記ドライペットフードを形成するステップ、を含み、
前記ソルビン酸塩が前記材料の0.4重量%?1.0重量%である、方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記ソルビン酸塩が前記材料の0.5重量%?1.0重量%である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ソルビン酸塩が、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、ソルビン酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
水分活性が0.65未満であるドライペットフードの嗜好性を向上させる方法であって、
嗜好性を向上させる量の、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、ソルビン酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるソルビン酸塩を、前記ドライペットフードの本体の中に混合するステップを含み、
前記ソルビン酸塩が、前記ドライペットフードの0.4重量%?1.0重量%となる量で混合される、方法。
【請求項11】
嗜好性を向上させる量のソルビン酸塩を含むドライフード製品をペットに与えるステップを含み、
前記ドライフード製品が、前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在する本体を含み、
前記ドライフード製品の水分活性が0.65未満であり、
前記ソルビン酸塩が前記ドライフード製品の0.4重量%?1.0重量%である、方法。
【請求項12】
前記ペットがネコであり、前記ソルビン酸塩が前記ドライフード製品の0.4重量%?1.0重量%である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ペットがイヌであり、前記ソルビン酸塩が前記ドライフード製品の0.5重量%?1.0重量%である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ドライフード製品が、前記ソルビン酸塩の少なくとも一部が存在するコーティングを含む、請求項11に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-04-01 
出願番号 特願2016-541374(P2016-541374)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23K)
P 1 651・ 113- YAA (A23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 森次 顕
袴田 知弘
登録日 2019-12-06 
登録番号 特許第6625982号(P6625982)
権利者 ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
発明の名称 ドライペットフードの嗜好性を向上させるための組成物及び方法  
代理人 池田 成人  
代理人 戸津 洋介  
代理人 池田 成人  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 戸津 洋介  
代理人 酒巻 順一郎  

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