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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  E02D
審判 全部申し立て 2項進歩性  E02D
管理番号 1374935
異議申立番号 異議2021-700154  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-12 
確定日 2021-05-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第6740276号発明「基礎杭、該基礎杭を用いた基礎の構築方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6740276号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6740276号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成30年4月11日に出願され、令和2年7月28日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月12日に特許掲載公報が発行された。その後、令和3年2月12日受付で、特許異議申立人 特許業務法人藤央特許事務所(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし3に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6740276号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、本件発明1ないし3をまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
施工区画に設けられた複数の基礎杭によって構成される大型上部構造物の基礎であって、前記複数の基礎杭は、それぞれ掘削機により削孔された杭孔に既製杭が挿入され、前記杭孔の内壁と前記既製杭との間に根固め液及び杭周固定液が充填されてなる基礎杭であって、前記杭孔は、根固め部に拡径部を有さず、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径を有するストレートな杭孔であり、周囲を前記根固め液で充たされた前記既製杭の先端部における杭径D_(1)は300?1200mmであり、かつ前記杭径D_(1)と前記杭孔径D_(2)との比D_(2)/D_(1)が1.3?2.5であり、前記複数の基礎杭のうち、前記基礎における設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、同一の杭径D_(1)を有する既製杭が用いられ、個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力に応じて、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径とした前記ストレートな杭孔の杭孔径D_(2)が、D_(2)/D_(1)=1.3?2.5となる範囲で基礎杭ごとに設定されていることを特徴とする大型上部構造物の基礎。

【請求項2】
請求項1記載の基礎において、前記既製杭は、コンクリート杭、鋼管とコンクリートとからなる複合杭、前記コンクリート杭と前記複合杭とを組み合わせてなる杭のいずれかであることを特徴とする基礎。

【請求項3】
請求項1または2に記載の基礎において、前記既製杭は、その全長に亘って同一径のストレート形状の杭、もしくは、その杭底部及び/又は杭頭部に拡径部を有する杭であることを特徴とする基礎。」


第3 申立理由の概要
申立人が申立書において主張する申立理由の要旨は、次のとおりである。

1(進歩性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第5号証に示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第9号証に示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、
これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(申立書第11頁下から8行-第20頁最終行、及び第23頁第5行-第27頁2行)。

2(拡大先願)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に公開がされた特願2016-201539号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、これらの発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(申立書第11頁下から8行-第13頁下から8行、第21頁1行-第23頁4行、及び第27頁3行-第30頁7行)。


第4 証拠について
1 証拠一覧
申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。

甲1: 特開2010-209678号公報
(平成22年9月24日公開)
甲2: 特開平10-237866号公報
(平成10年9月8日公開)
甲3: 特開2009-121098号公報
(平成21年6月4日公開)
甲4: 特開2004-332262号公報
(平成16年11月25日公開)
甲5: 特許第6065155号公報
(平成29年1月25日発行)
甲6: 特開2006-45778号公報
(平成18年2月16日公開)
甲7: 特開2013-2109号公報
(平成25年1月7日公開)
甲8: 意匠登録第1267453号公報
(平成18年4月10日発行)
甲9: 意匠登録第1267454号公報
(平成18年4月10日発行)
甲10: 特開2018-62787号公報
(特願2016-201539号(平成28年10月13日
出願)の公開公報、平成30年4月19日公開)

2 各証拠の記載
(1)甲1
ア 記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、杭穴を掘削しつつ既製杭を埋設する中掘工法に関する。とりわけ、地盤途中に比較的軟弱な地盤の層を含み、その層では十分な支持力が得られない場合に特に有効である。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0025】
前記課題を解決するために、この発明では、杭穴軸部も含めて、従来に比べて掘削径の大きい(既製杭の杭径に対して)杭穴を掘削し、更に当該杭穴の掘削中に、少なくとも設計上望ましい深度範囲の適宜区間に固化混合層を形成しつつ杭穴を掘削する構成とした。」

(ウ)「【発明の効果】
【0040】
(1) 所定の区間で固化混合層を形成し、更に、掘削土を排出せず既製杭の外周壁で、地盤を押圧するので、同径の既製杭を使用した従来の中掘工法に比して、約2倍の支持力を発揮することが可能である。
【0041】
また、N値の大小に関わらず、適宜区間を大径で杭穴掘削をしてセメントミルク類を注入して固化混合層を形成する場合には、更に杭周摩擦力を復元及び補強できるので確実に支持力の増強が見込まれる。
【0042】
(2) 従来の中掘工法は、掘削土の排出が多いのが難点であったが、本発明では既製杭の外径より大径(例えば、既製杭の外径の約1.4倍以上の大径)の杭穴をほぐして形成することにより、特に掘削ロッドに排土機構を設けることなく既製杭を沈設することもできるので、排土量を、セメントミルク等の杭穴内へ注入した注入物量程度にまで低減できる。また、比較的軟弱で支持力の期待できない地層(良くない地層)を含む深度区間のみに、掘削土にセメントミルク類を注入して撹拌混合して固化混合層を形成することもできる。更に、大径の杭穴を既製杭の外径の約1.4倍以上の径で掘削する場合には、高支持力が得られる根固め部が形成されるので、より高耐力を有する基礎杭も同時に構築できる。
【0043】
・・・・(中略)・・・・
【0044】
(4) 固化混合層の外径と杭穴の根固め部の径とを略同一とすることにより、杭穴掘削工事が単純になり、制御プロセスが簡素化され、かつ掘削ヘッドの信頼性も向上する。また、固化混合層の外径を、基礎杭の外径の1.5倍以上にできる掘削ヘッドも容易に実現できる。」

(エ)「【0071】
(7) 本工法では、土質によっては、掘削径の大小を調節して(既製杭1の外径に対して、掘削ヘッド18の掘削径の比率を増減することで調節する)、既製杭1を速く沈設することができ、既製杭1の沈設速度を制御できるが、地盤の掘削及び粉砕性をより向上させるためには、大径掘削に適した掘削ヘッドが必要である。
【0072】
例えば、筒状のヘッド本体19に外筒41を昇降可能に取り付け、ヘッド本体19の上端部に上部腕42の上端、外筒41の下端部に下部腕43の下端を夫々ピンで連結し、上部腕42の下端と下部腕43の上端とをピンで連結して、掘削ヘッド18を構成することもできる(図5)。この場合、上部腕42、下部腕43から掘削腕21を構成し、外筒41の下端に掘削刃20、20、上部腕43の下面側に掘削刃22、22が形成してある。
【0073】
この掘削ヘッドでは、外筒41とヘッド本体19とを相対的に上下動させ、掘削腕21の上部腕42と下部腕43とが重なるように(水平に近付くように)掘削径を拡大でき、駆動範囲が長く取れるので、通常の掘削ヘッドに比べて、縮径時(掘削腕21の上部腕42と下部腕43とが縦方向に配置された状態)即ち既製杭の外径に比べた比率が大きい掘削が可能であり、掘削刃も多段に形成できるので、粉砕性能も制御できる。従って、この掘削ヘッド18では、既製杭との杭径比で2倍以上の大径掘削・撹拌も可能となり、更に大きな支持力を発揮することが可能となる。」

(オ)「【0080】
また、従来の中掘工法のように、掘削ロッドにスパイラル形状のような掘削土排出機構が不要となり、総排土量を低減できる。即ち、掘削径を従来より大幅に大径(例えば、既製杭の杭径に対して1.4倍以上)で地盤をほぐし緩めながら掘削し、既製杭を沈設すると、既製杭の外側面(外周面)で、ほぐした掘削土を略放射状に周辺の地盤に押し圧をかけながら既製杭を沈設し、基礎杭を構築するので、従来のように、掘削ロッドに排土機構を設けなくても既製杭の沈設ができる。
【0081】
(9) 先掘工法により拡底根固め部35を有する杭穴を掘削し、地盤強度より高い固化強度のソイルセメントを充填した拡底根固め部35内に、下部軸部36を細径にし、下部軸部36を含む下端部に環状突起37、37を形成した既製杭1を埋設して、基礎杭構造38を形成した場合、その環状突起37、37の表面からせん断力が充分に伝搬できるように築造すれば(図6)、従来の円筒状の既製杭で発揮する支持力に比較して、約2倍の支持力が得られることが確認されている。本発明の基礎杭構造33では、先端金具13を固着させた既製杭1又は環状突起37を形成した既製杭1を上記のような手順で埋設するので(図2(a)(b)、図3)、従来の先掘工法によるこの基礎杭構造38と同等の高い支持力を発現させることが可能である(図6)。
【0082】
従って、本発明では、中掘工法で、掘削径を既製杭の外径より大径(例えば、既製杭の外径の1.4倍以上)にすることにより、全体とし排土量を軽減できると共に、高い支持力が実現できる。」

(カ)「【実施例1】
【0083】
次ぎに、この発明の具体的な実施形態を実施例に基づいて説明する。
【0084】
[1]既製杭1
【0085】
既製杭1として、下記形状・大きさの円筒形コンクリート杭を採用する。尚、必要耐力が大きい場合には、鋼管被覆コンクリート杭(SC杭)等を選択することもできる(図1(a)、図2(b))。
杭外径 D_(01)=800mm
杭肉厚 t_(01)=110mm
杭内径 D_(02)=580mm
杭長 L_(01)=19m
【0086】
[2]先端金具13
【0087】
外径D_(11)、内径D_(12)、全長L_(11)の鋼管本体(厚さt_(11))6の上端部に、外径D_(13)の大径部7を形成し、大径部7を既製杭1との連結部とする。大径部7は、上面8を水平平面状とし、下面9を徐々に小径とした部分円錐状の傾斜斜面を形成してある。連結部の外径、即ち、大径部7の外径D_(13)は、接続するべき既製杭1の外径(D_(01)下端部の外径)と略同一としてある。大径部7の幅(高さ)はL_(13)で形成されている。
【0088】
鋼管本体6の下端部外側面に、外径D_(13)の円盤状(ドーナツ状)の環状突起10を突設する。環状突起10の上面11は、水平面状に形成し、下面12は部分円錐状の傾斜斜面を形成し、傾斜斜面の下端は鋼管本体6の下端に至っている。環状突起10の幅(高さ)はL_(13)で形成されている(図2(b))。
【0089】
以上のようにして、先端金具13を構成する(図2(b)、図1(a))。また大径部7と環状突起10との間隔はL_(12)で形成され、突起部長さL_(14)(=(D_(13)-D_(11))÷2)とすると、支持面よりのせん断力の伝搬が障害なく作用するために、少なくとも
L_(12)>L_(14)×tanθ≒L_(14)×tan30°=L_(14)×√3
を満たすように形成されている。
【0090】
尚、寸法は、下記のように形成する。
・鋼管本体1 外径D_(11)=610mm
・鋼管本体1 内径D_(12)=572mm
・鋼管本体1 長さL_(11)=749mm
・大径部7の幅L_(13)=119mm
・大径部7と環状突起10との間隔L_(12)=430mm
【0091】
また、前記実施例では、鋼管本体6の内径D_(12)は上部に連結する既製杭1の内径D_(02)と同一とし、鋼管本体6の厚さt_(11)を15?40mm程度としているので、環状突起10の鋼材の節形状の外径D_(13)を上部の既製杭1の外径D_(01)以上に設定でき、突起面積(ソイルセメントとの付着面積)が大きく取れる。従って、形成する環状突起10の数を1個増加するだけで、既製杭1を外径で1ランク上の既製杭1で発揮する支持力と同等の支持力を得られる。
【0092】
[3]掘削ロッド15
【0093】
・・・・(中略)・・・・
【0097】
この掘削ヘッド18では、作動態様は、杭穴28の掘削時(杭穴軸部掘削時、固化混合層を形成する掘削・撹拌時、根固め部掘削・撹拌時)及び既製杭1の中空部2を通過する時の2通りのステップ方式に簡素化してある。掘削腕21を揺動させて、既製杭1の外径の1.5倍(1200mm)程度の外径で、掘削ロッド15に排土機構が無くても、確実かつ安定な掘削・撹拌を実現した。
【0098】
[4]中掘工法の説明
【0099】
(1) 既製杭1を埋設予定の地盤(主要部分は砂質土)は、地上25から、6.5m?7.5mの厚さ1m分、13.5m?14.5mの厚さ1m分、に設計上指定された2箇所の(例えば比較的弱いN値5程度)地層26A、26Bが存在している(図1(b)、図3)。
【0100】
(2) 先端金具13の大径部7の上面8を、既製杭1の先端3(下端板の下面)に当て、大径部7と下端板とをボルトや溶接等で一体に固定して、先端金具13付きの既製杭1を構成する(図2(b)、図1(a))。
【0101】
(3) 所定の掘削位置で、掘削ロッド15を、先端金具12付きの既製杭1の中空部2、先端金具13の中空部6aを挿通して、先端金具13の先端14から掘削ヘッド18を突出させる。
この状態で、既製杭1及び掘削ロッド15を鉛直に支持して、掘削ロッド15を回転させれば、掘削腕21がストッパー23で規制されるまで揺動し、その揺動角度を保ったまま、掘削腕の掘削刃22、22、ヘッド本体19の掘削刃20、20で、杭穴28を掘削できる。先端金具13の先端14から突出した掘削ヘッド18で、既製杭1の外径より大径の杭穴28の軸部を掘削する。掘削しながら掘削ロッド15を下降すると共に引き続き、既製杭1を下降させる(図3(a))。
【0102】
(4) 地上から6.0m程度掘削した所で、掘削土中に、ヘッド本体18からセメントミルク(固化強度20N/mm^(2)程度)を注入し、掘削土と撹拌混合しながら約2mの間、掘削土とセメントミルクとを撹拌混合しながら掘削し、押し固めて、既製杭1の周囲にソイルセメント層29Aを形成する。ソイルセメント層(固化混合層)の形成は、設計上で指定された位置で行い、その地層26Aを含む上下高さを形成の対象とする。セメントミルクを注入するする際に、掘削ヘッド18を上下に昇降させれば、良く撹拌され、均質なソイルセメント層ができる。尚、ソイルセメント層(固化混合層)29Aは、固化強度0.5N/mm^(2)程度とする。
【0103】
・・・・(中略)・・・・
【0106】
(7) 支持地盤(N値30)である所定深さ(約21m)まで、杭穴掘削したならば、杭穴底31から高さ2m程度の間で、セメントミルク(固化強度20N/mm^(2)程度)を注入しながら掘削ヘッド18を回転し昇降して、掘削土とセメントミルクとを撹拌混合しながら根固め層30を形成する(図3(d)(e))。必要により、根固め部の底よりセメントミルクを吐出して掘削土を押し上げ、掘削土をセメントミルクに置換することもできる。
【0107】
(8) 周辺の地盤強度より高い固化強度20N/mm^(2)程度の根固め層30を形成したならば、掘削ロッド15を逆転して掘削腕21、21を閉じて、掘削ロッド15の回転を一旦止めて掘削腕21、21をヘッド本体19に沿って垂れた状態にする(この状態で、掘削ヘッド18の最大外径は既製杭1の内径D02以下になっている)。続いて、掘削腕21、21が振れないように、掘削ロッド15をゆっくり回転して、根固め層30を撹拌しながら、掘削ヘッド18を掘削ロッド15と共に、先端金具13の中空部6a及び既製杭1の中空部2を挿通して(図3(f))、地上に引き上げる。
【0108】
・・・・(中略)・・・・
【0109】
(9) 続いて、あるいは掘削ロッド15の引き上げと並行して、既製杭1を下降して(図3(f))、先端金具13を根固め層30内に位置させ、先端金具13の先端(下端)14と杭穴底31とが既製杭1の軸部外径D_(01)程度の距離L_(20)(ここでは、約1mとした。図2(b))を空けた位置で、先端金具13付きの既製杭1を杭穴28内に保持する。
【0110】
ソイルセメント層29A、29B、根固め層30が固化発現後に、ソイルセメント層29A、29B及び根固め層30と既製杭1とが定着して一体に形成された基礎杭構造33を構築する(図1(b)、図2(b))。」
(当審注;段落【0101】の「(3)」における「先端金具12付きの既製杭1」は、「先端金具13付きの既製杭1」の誤記と認める。)

(キ)図1には、次の図示がある。




(ク)図3には、次の図示がある。



段落【0109】-【0110】の記載を踏まえると、図3(f)(及び図1(b))より、先端金具13付きの既製杭1を杭孔28内に保持して根固め層30を固化させる際には、先端金具13及び既製杭1の下端を根固め層30内に位置させていることが、看取される。

(ケ)図5には、次の図示がある。



図5に示される掘削ヘッド18の構造が、図1及び図3に示される掘削ヘッド18とは異なっていること、及び、掘削・攪拌を行う外径と既製杭の外径との杭径比について、図5に関して段落【0071】-【0073】に記載される「2倍以上」と、実施例1に関して段落【0097】に記載される「1.5倍」とでは、杭径比が異なっていることから、【図5】及び段落【0071】-【0073】に記載される掘削ヘッドを用いることは、実施例1とは別の選択肢であることが、理解できる。

イ 甲1に記載された発明
上記アより、実施例1に着目しつつ、段落【0071】-【0073】及び【図5】に示される掘削ヘッドを用いる選択肢、及び段落【0091】に示される杭の支持力を増す選択肢を含めて整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「中堀工法で、掘削径を従来より大径(例えば、既製杭の外径の1.4培以上)で地盤をほぐし緩めながら掘削し、既製杭を沈設すると、既製杭の外側面で、ほぐした掘削土を略放射状に周辺の地盤に押し圧をかけながら既製杭を沈設し、基礎杭を構築するので、掘削ロッドに排土機構を設けなくても既製杭の沈設ができ、全体として排土量を軽減できると共に、高い支持力が実現できる、基礎杭構造であって、
既製杭1として、杭外径D_(01)=800mmの円筒形コンクリート杭を採用し、
先端金具13は、鋼管本体6の上端部の大径部7を既製杭1との連結部とし、大径部7の外径D_(13)は、接続するべき既製杭1の外径(D_(01)下端部の外径)と略同一とし、鋼管本体6の下端部外側面に、外径D_(13)の円盤状(ドーナツ状)の環状突起10を突設し、鋼管本体6の外径D_(11)=610mmであり、
掘削ヘッド18の作動態様は、杭穴28の掘削時(杭穴軸部掘削時、固化混合層を形成する掘削・撹拌時、根固め部掘削・撹拌時)及び既製杭1の中空部2を通過する時の2通りのステップ方式に簡素化し、掘削腕21を揺動させて、既製杭1の外径の1.5倍(1200mm)程度の外径で、掘削ロッド15に排土機構が無くても、確実かつ安定な掘削・撹拌を実現し、
先端金具13を既製杭1の先端3に一体に固定して、先端金具13付きの既製杭1を構成し、掘削ロッド15を、先端金具13付きの既製杭1の中空部2、先端金具13の中空部6aを挿通して、先端金具13の先端14から掘削ヘッド18を突出させ、先端金具13の先端14から突出した掘削ヘッド18で、既製杭1の外径より大径の杭穴28の軸部を掘削し、掘削しながら掘削ロッド15を下降すると共に引き続き、既製杭1を下降させ、
掘削土中に、ヘッド本体18からセメントミルクを注入し、掘削土とセメントミルクとを撹拌混合しながら掘削し、押し固めて、既製杭1の周囲にソイルセメント層(固化混合層)の形成を、設計上で指定された上下高さで行い、
支持地盤である所定深さまで、杭穴掘削したならば、杭穴底31から高さ2m程度の間で、セメントミルクを注入しながら掘削ヘッド18を回転し昇降して、根固め層30を形成し、
根固め層30を形成したならば、掘削腕21を閉じて、掘削ヘッド18を掘削ロッド15と共に、先端金具13の中空部6a及び既製杭1の中空部2を挿通して地上に引き上げ、
続いて、既製杭1を下降して、先端金具13及び既製杭1の下端を根固め層30内に位置させて、先端金具13付きの既製杭1を杭穴28内に保持し、
ソイルセメント層及び根固め層30が固化後に、ソイルセメント層及び根固め層30と既製杭1とが定着して一体に形成された基礎杭構造33を構築し、
先端金具13に形成する環状突起10の数を1個増加するだけで、既製杭1を外径で1ランク上の既製杭1で発揮する支持力と同等の支持力を得られ、
土質によって掘削径の大小を調節して既製杭1を速く沈設するために、大径掘削に適した掘削ヘッドが必要である場合には、掘削腕21の駆動範囲が長く取れる掘削ヘッド18を用いれば、既製杭との杭径比で2倍以上の大径掘削・撹拌も可能となる、
基礎杭構造33。」

(2)甲2
甲2には、次の事項が記載されている。

ア 「【0027】ところで、地盤30の状態は、コンクリート杭35を沈設する場所により異なるため、沈設されたコンクリート杭35の地盤30による支持力もそれぞれ異なる。また、建造物の構造上、コンクリート杭35を均等に沈設できずに建造物からの荷重が各コンクリート杭35に均等に掛からない状態となる。
【0028】このため、掘削孔31を掘削形成する際に、コンクリート杭35の支持力および建造物からの荷重に対応して、ビット9の拡翼掘削刃23,23の拡径量を可変して形成される球根部33の径寸法を適宜可変する。すなわち、コンクリート杭35の支持力が他に比べて大きかったり、建造物からの荷重が他に比べて大きい場合には、図11に示すように、ビット9の拡翼掘削刃23,23の拡径量を大きくしてより径大の球根部33を形成する。」

イ 「【0033】上述したように、掘削する位置により異なる荷重に対応して所定の径寸法にビット9を拡径させて球根部33を形成するため、同一のコンクリート杭35を用いて長期許容支持力を可変することができ、長期許容支持力を対応させるために掘削する位置により適宜径寸法が異なるコンクリート杭35を沈設する必要がなく、1種類のコンクリート杭35で対応可能な荷重範囲が増大し、使用するコンクリート杭35の種類を低減でき、施工性を向上できる。」

ウ 図1には、次の図示がある。




エ 図10には、次の図示がある。




(3)甲3
甲3には、次の事項が記載されている。

ア 「【0062】
図5(a)には杭種テーブル31の一例を示した。この杭種テーブル31には、市販されている鋼管杭7,・・・の管径と単位長さの組み合わせが記録されている。また、この図で例示した杭種テーブル31には、各鋼管杭7,・・・の単価も記録されており、杭コストテーブル32の役割の一部も果たしている。また、ここでは図示していないが、鋼管杭7,・・・の周面の加工の有無に関するデータをこの杭種テーブル31に加えることもできる。
【0063】
一方、杭径を変えると算出される杭長は異なってくるので、複数の杭径で計算をおこなえば杭反力を満たす杭径と杭長の組み合わせのパターンが複数、抽出される(ステップS13,S16)。
【0064】
例えば、一つの現場で施工する杭径が杭位置毎に変わると、最大径に合わせた重機を用意しなければならなかったり、施工が煩雑になったりするので、杭径を一つのサイズに固定したパターンで計算をおこなう。このように杭径を一つに固定しても、各杭位置によって支配面積及び上載荷重が異なるので、杭長は様々になり、複数の杭種が抽出されることになる。
【0065】
また、別のパターンとして杭径を別の値に変えて固定すると、上記とは杭径が異なっているので、支配面積及び上載荷重が同じでも杭長が変わることになり、ここでも様々な杭長の杭種が抽出される。
・・・・(中略)・・・・
【0071】
このように、荷重条件を満たすような基礎構造のパターンは、杭径と杭長の組み合わせ、地盤改良の有無、杭周面の表面加工の有無など多数の組み合わせによるものが存在し、その費用も使用材料の積算値の大きさなどだけでは単純に決められるものではないので、このように各パターンI-IIIの総費用がそれぞれ出力されると、最も経済的な基礎構造を選定することが容易にできる。」

イ 図2には、次の図示がある。




(4)甲4
甲4には、次の事項が記載されている。

ア 「【0038】
【発明の効果】
本願発明は以上説明した通りであり、特に既製杭の先端以深の支持層内に形成されたソイルセメント柱が、その周面摩擦力を前記既製杭の支持力とみなせるように形成されているので、既製杭の長さが一定であっても実際の杭長以上に杭の支持力を大きくとることができる。
【0039】
また、ソイルセメント柱の径と長さ(余掘り部の深さ)を調節することにより、杭の先端支持力を自由に設定することができる。」

イ 図1には、次の図示がある。




(5)甲5
甲5には、次の事項が記載されている。

ア 「【0042】
このため、本実施形態では、以下で説明する施工システム100(図2参照)による基礎杭の施工方法を実施して、実際の施工現場における実測値を踏まえて、より効率良く確実に拡大比ωの最適値を求めて、オーバースペックを低減させている。また、既製杭10を地盤GNに建て込む際におけるオーバースペックや高止まりを抑制して、当該既製杭10からなる杭基礎1を施工する際のコストを低減し、かつ施工作業の効率を向上させるようにしている。
【0043】
また、本実施形態では、根固め部14の拡大比ω、すなわち拡大掘削部5の拡大比ωは、拡大掘削部5の内径をDe、既製杭10の凸部12の外径Donに所望のクリアランス値xを加算して求めた外径設計値Ds(Ds=Don+x)を用いて、下記の式(1)により定義される。
ω=De/Ds ・・・・・(1)
【0044】
本実施形態において、拡大比ωは、例えば1.0?2.0の範囲で設定されているが、拡大比ωの上限値は、2.0に限定されるものではない。また、本実施形態では、既製杭10や杭孔3、拡大掘削部5の設計誤差等を考慮した上でより好適な拡大掘削部5の拡大比ωを求めるために、上記式(1)の分母には、既製杭10の先端部10aの外径Donの値でなく、当該外径Donに調整値となる所望のクリアランス値xを加算して求めた外径設計値Dsを用いている。すなわち、本実施形態では、拡大比ωの算出に使用する既製杭10の先端部10aの所定位置における外径設計値Dsとして、既製杭10の先端部10aに設けられる凸部12の外径Donに所望のクリアランス値xを加算して求めた値を用いる。
【0045】
クリアランス値xは、既製杭10が施工される地盤強度を示すN値や過去の施工データ、土質データ等の施工に係る所定のデータに基づいて適宜決定される。例えば、既製杭10の先端部10aの外径Donが1.0mの場合に、クリアランス値xは、0.05m?0.1mのものが使用される。なお、クリアランス値xは、N値等によっては、0となることもある。また、クリアランス値xは、最大で0.2mである。さらに、本実施形態では、図1に示すように、既製杭10として節杭が使用されているので、既製杭10の外径Donとして、凸部12の外径が使用されているが、既製杭10がストレート杭の場合には、当該ストレート杭の軸部の外径が使用される。」

イ 図1には、次の図示がある。




(6)甲6ないし甲9
甲6ないし甲9には、摘記は省略するが、拡頭部及び/又は拡底部を有する杭に関する記載若しくは図示がされている。

(7)甲10
甲10は、本件特許の出願の日前に出願された特願2016-201539号(以下、「先願」という。)の公開公報である。

ア 先願明細書等の記載事項
甲10より、上記先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、次の記載がある。

(ア)「【0001】
本開示は節杭及び継ぎ杭に関する。
【背景技術】
【0002】
杭基礎に適用される既製杭には、大別すると、支持杭と摩擦杭とがある。支持杭の先端(底面)は支持層まで到達させられ、支持杭は、先端に作用する上向きの力によって上部
構造を支持する。摩擦杭では、摩擦杭の周面に作用する摩擦力によって上部構造を支持する。
摩擦杭として、従来から節杭が用いられている。節杭は、本体部(軸部)と、本体部から径方向外方に突出する複数の環状の節部とを有している(例えば特許文献1参照)。節杭の使用方法としては、複数の節杭を連結して継ぎ杭として用いる方法がある。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
節杭を囲むソイルセメント(根固め部又は杭周部)と杭孔の周面との間に生ずる杭周面摩擦支持力は、ソイルセメントを介して節杭に作用し、節杭の節部にせん断力が発生する。杭周面摩擦支持力は、砂質地盤における基礎杭の周面摩擦係数によっても変化するが、節部のせん断耐力は、短期時に生ずる杭周面摩擦支持力の最大値(短期最大杭周面摩擦支持力)よりも大きいことが望ましい。
一方、節杭において、水平耐力の向上のために、本体部の外径を大きくすることが考えられる。ただしこの場合、節部の形状を変更せずに、従来の節部の根元部分を囲むように本体部の外径を大きくすると、本体部と節部の接触面積(節部根元面積)が小さくなる。そしてこの結果として、節部のせん断耐力が低下してしまう。このように節部のせん断耐力が低下した場合、節部のせん断耐力が短期最大杭周面摩擦支持力よりも小さくなってしまう。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、節杭に短期最大杭周面摩擦支持力が作用したときでも、節部に作用するせん断力よりも節部のせん断耐力が大きい節杭及び継ぎ杭を提供することにある。」

(ウ)「【0022】
図1に示したように、2本の節杭2a,2b及びストレート杭4は直列に連結されて1本の継ぎ杭10を構成している。継ぎ杭10は、図示しない上部構造を支持可能である。
【0023】
より詳しくは、継ぎ杭10は、地盤6に予め掘削された杭孔11の内部に沈設されている。杭孔11の底部には、根固め液が注入され、根固め液が硬化することによって、継ぎ杭10の下端部を囲む根固め部12が形成されている。また、杭孔11の底部よりも上方には、杭周液が注入され、杭周液が硬化することによって、継ぎ杭10を囲む杭周部14が形成される。継ぎ杭10は、根固め部12及び杭周部14を介して地盤6によって支持されている。根固め液及び杭周液は、それぞれセメント成分を含んでおり、セメント成分が地盤6の掘削によって発生した土砂と混合されてから硬化することによって根固め部12及び杭周部14がそれぞれ形成される。節杭2a,2b、ストレート杭4、根固め部12及び杭周部14は1つの基礎杭15を構成する。」

(エ)「【0028】
図5及び図6に示したように、節杭2bは、本体部(軸部)16bと、本体部16bと一体に成形された少なくとも1つの節部18bとを有する。本体部16b及び節部18bは、コンクリートによって構成されている。本体部16bは、円筒形状を有している。本体部16bの各上下端面には環状の端板20bが固定されていてもよく、端板20b同士の間に本体部16bを貫通してPC鋼棒22bが架け渡されていてもよい。また、本体部16bの両端部の外周面は金属製の円筒形状のカバー24bによって覆われていてもよく、本体部16bの内部には、図示しないけれども螺旋形状若しくは直線形状の補強筋が埋設されていてもよい。
【0029】
第2節部18bは、第2本体部16bの円筒形状の外周面26bから第2本体部16bの径方向に突出している。第2節部18bは、第2本体部16bの外周面26bの一部を囲むように環形状を有する。第2節部18bは、例えば円筒形状の外周面28bを有し、第2本体部16bの外周面26bと第2節部18bの外周面28bは同心上に配置されている。また、第2節部18bは、第2本体部16bの軸線方向にて両側に、テーパ形状の段差面30bを有し、第2本体部16bの外周面26bと第2節部18bの外周面28bは、段差面30bを介して連なっている。例えば、第2本体部16bの外周面26bと段差面30bとがなす角度θbは30°?60°であり、好ましくは45°である。
【0030】
節杭2bでは、本体部16bの軸線方向における、本体部16b側の節部18bの根元の長さをLrとし、本体部16bの軸線方向における、本体部16bとは反対側の節部18bの頭部の長さをLtとし、本体部16bの外径をDpとし、本体部16bの径方向における本体部16bからの節部18bの突出高さをLhとし、コンクリートの短期せん断許容応力度をτとしたとき、以下の2つの式:
Lr>380×(Dp+2×Lh)/(τ×Dp)
Lr-2×(3^0.5)×Lh≦Lt≦Lr-2/(3^0.5)×Lh
で示される関係がそれぞれ満たされている。
また、節部18bの外径をDnとすると、突出高さLhは次式:Lh=(Dn-Dp)/2にて表される。」

(オ)「【0034】
ここで、図8は、基礎杭15に短期時に作用する杭周面摩擦支持力(短期杭周面摩擦支持力)R1と節部18に作用するせん断力を説明するための図である。図8に示すように、短期杭周面摩擦支持力R1は、杭周部14を介して節部18に伝達され、節部18にせん断力が発生する。このため、節部18のせん断耐力F1は、想定される短期杭周面摩擦支持力R1の最大値(短期最大杭周面摩擦支持力Rmax)より大きいことが望ましい(F1>Rmax)。
【0035】
以下、上記所望の条件(F1>Rmax)について検討する。
短期杭周面摩擦支持力R1は、次式:
R1=2/3×Nave×β×Ls×φ ・・・(1)
にて表される。
上記式(1)中、Naveは、節杭2の周囲の地盤6における、標準貫入試験により得られるN値の平均値である。ただし、Nave>30の場合、Nave=30とする。
βは、砂質・礫質地盤中の杭周面摩擦力係数であり、杭周液が膨張型の場合、β=9.5ωで表される。
ωは、次式:ω=De/Dsにて表され、1.0?2.0である。
Deは杭孔11の掘削径(拡大掘削径)である。
Dsは、節部18の外径をDnとしたとき、次式:Ds=Dn+0.05にて表される。
Lsは、地盤6に接する長さである。
φは、節部18の周長であり、次式:
φ=π×Dn・・・(2)
にて表される。
節部18のピッチLpが1mの場合、1m当たりの短期最大杭周面摩擦支持力Rmaxは、式(1)にNave=30、β=9.5×2.0、及びLs=1を代入することにより、次式:
Rmax=2/3×30×9.5×2×1.0×φ ・・・(3)
にて表される。」

(カ)「【0039】
上記構成の節杭2(2a,2b)では、節部18の根元の長さLr、本体部16の外径Dp、節部18の突出高さLh、及び、コンクリートの短期せん断許容応力度τが、上記式(8)で表される所定の関係を満たしている。このため、本体部16と節部18との接触面積(節部根元面積)が十分に確保され、節部18のせん断耐力F1が十分に確保される。この結果として、節杭2に短期最大杭周面摩擦支持力Rmaxが作用したときでも、節部18に作用するせん断力よりも節部のせん断耐力F1が大きい。
また、上記構成の節杭2(2a,2b)では、節部18の頭部の長さLt、節部18の根元の長さLr、及び、節部18の突出高さLhが、上記式(9)で表される所定の関係を満たしており、節部18の頭部の長さLtが十分に確保される。このため、節部18の外径に基づいて短期杭周面摩擦支持力R1を設定することができ、所望の大きさの短期杭周面摩擦支持力R1を実現することができる。」

(キ)「【0042】
幾つかの実施形態では、本体部16の外径Dpは600mm以上1400mm以下である。
・・・(中略)・・・
【0043】
幾つかの実施形態では、節部18の突出高さLhは、40mm以上100mm以下であり、好ましくは40mm以上60mm以下であり、より好ましくは50mmである。
幾つかの実施形態では、節杭2は、中空既製杭であり、高強度プレストレストコンクリート杭(PHC杭)であるが、鉄筋コンクリート杭(RC杭)、又は、高強度プレストレスト鉄筋コンクリート杭(PRC杭)であってもよい。」

(ク)図1には、次の図示がある。



上記図1より、節杭2bの下方の本体部及び節部は根固め部12内に位置すること、及び、杭孔11は根固め部12及び杭周部14が同一径であることが、看取される。

(ケ)図8には、次の図示がある。




イ 先願明細書等に記載された発明
上記アより、先願明細書等には、次の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されている。

「節杭2a,2b及びストレート杭4は直列に連結されて1本の継ぎ杭10を構成し、上部構造を支持可能とするよう、
継ぎ杭10は、地盤6に予め掘削された杭孔11の内部に沈設され、
杭孔11の底部には、根固め液が注入され、根固め液が硬化することによって、継ぎ杭10の下端部を囲む根固め部12が形成され、
杭孔11の底部よりも上方には、杭周液が注入され、杭周液が硬化することによって、継ぎ杭10を囲む杭周部14が形成され、
継ぎ杭10は、根固め部12及び杭周部14を介して地盤6によって支持され、
節杭2a,2b、ストレート杭4、根固め部12及び杭周部14は1つの基礎杭15を構成する、基礎杭15であって、
節杭2bは、本体部16bと、本体部16bと一体に成形された節部18bとを有し、節杭2bでは、本体部16bの外径をDpとし、本体部16bの径方向における本体部16bからの節部18bの突出高さをLhとし、節部18bの外径をDnとし、
基礎杭15に短期時に作用する杭周面摩擦支持力(短期杭周面摩擦支持力)R1は、次式:
R1=2/3×Nave×β×Ls×φ ・・・(1)
にて表され、
式(1)中、Naveは、節杭2の周囲の地盤6における、標準貫入試験により得られるN値の平均値であり、
βは、砂質・礫質地盤中の杭周面摩擦力係数であり、杭周液が膨張型の場合、β=9.5ωで表され、
ωは、次式:ω=De/Dsにて表され、
Deは杭孔11の掘削径であり、
Dsは、節部18の外径をDnとしたとき、次式:Ds=Dn+0.05にて表され、
Lsは、地盤6に接する長さであり、
φは、節部18の周長であり、次式:
φ=π×Dn・・・(2)
にて表されるところ、
想定される短期杭周面摩擦支持力R1の最大値(短期最大杭周面摩擦支持力Rmax)が作用したときでも、節部18に作用するせん断力よりも節部のせん断耐力F1が大きく、
本体部16の外径Dpは600mm以上1400mm以下であり、
節部18の突出高さLhは、40mm以上100mm以下であり、
節杭2bの下方の本体部及び節部は根固め部12内に位置し、
杭孔11は根固め部12及び杭周部14が同一径である、
基礎杭15。」


第5 判断
1 進歩性について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「杭穴28」は、「掘削ヘッド18」により「掘削・攪拌」されるものであることを踏まえると、本件発明1における「掘削機により削孔された杭孔」に相当する。
甲1発明における「先端金具13を既製杭1の先端3に一体に固定」した「先端金具13付きの既製杭1」は、本件発明1における「既製杭」に相当する。
甲1発明において、「掘削ロッド15を、先端金具13付きの既製杭1の中空部2、先端金具13の中空部6aを挿通して、先端金具13の先端14から掘削ヘッド18を突出させ、先端金具13の先端14から突出した掘削ヘッド18で、既製杭1の外径より大径の杭穴28の軸部を掘削し、掘削しながら掘削ロッド15を下降すると共に引き続き、既製杭1を下降させ」る構成は、掘削ヘッド18により掘削された杭穴28内に、掘削ロッド15の下降に引き続き、先端金具13付きの既製杭1を下降させているから、本件発明1において、「削孔された杭孔に既製杭が挿入され」る構成に相当する。
甲1発明において、「掘削土中に、ヘッド本体18からセメントミルクを注入し、掘削土とセメントミルクとを撹拌混合しながら掘削し、押し固めて、既製杭1の周囲にソイルセメント層(固化混合層)の形成を、設計上で指定された上下高さで行い、支持地盤である所定深さまで、杭穴掘削したならば、杭穴底31から高さ2m程度の間で、セメントミルクを注入しながら掘削ヘッド18を回転し昇降して、根固め層30を形成」したうえで、「既製杭1を下降して、先端金具13及び既製杭1の下端を根固め層30内に位置させて、先端金具13付きの既製杭1を杭穴28内に保持」する構成は、本件発明1において、「杭孔の内壁と前記既製杭との間に根固め液及び杭周固定液が充填され」る構成に相当する。
甲1発明において、「ソイルセメント層及び根固め層30が固化後に、ソイルセメント層及び根固め層30と既製杭1とが定着して一体に形成された基礎杭構造33」は、本件発明1における「基礎杭」に相当する。
甲1発明において、「掘削ヘッド18の作動態様は、杭穴28の掘削時(杭穴軸部掘削時、固化混合層を形成する掘削・撹拌時、根固め部掘削・撹拌時)及び既製杭1の中空部2を通過する時の2通りのステップ方式に簡素化」しているから、「杭穴28」は軸部、混合固化層及び値固め部のいずれの箇所でも、「掘削腕21を揺動させて、既製杭1の外径の1.5倍(1200mm)程度の外径」という同じ径で「掘削・攪拌」されており、「杭穴28」が「掘削・攪拌」される範囲がいずれの箇所でも同じ径である構成は、本件発明1において、「前記杭孔は、根固め部に拡径部を有さず、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径を有するストレートな杭孔」である構成に相当する。
甲1発明において、「根固め層30内に位置」する「先端金具13及び既製杭1の下端」の径について、「既製杭1」の「杭外径D_(01)」が「800mm」、「先端金具13」の「鋼管本体6の上端部の大径部7」及び「下端部外側面」の「円盤状(ドーナツ状)の環状突起10」の「外径D_(13)」が「D_(01)」と「略同一」、「先端金具13」の「鋼管本体6の外径D_(11)」が「610mm」である構成は、「先端金具13付きの既製杭1」のうち、「値固め層30内に位置」するいずれの箇所の径も「610mm」から「800mm」の範囲内となることを踏まえると、本件発明1において、「周囲を前記根固め液で充たされた前記既製杭の先端部における杭径D_(1)は300?1200mm」である構成に相当する。
甲1発明において、「杭孔28」の「外径」が「既製杭1の外径の1.5倍(1200mm)程度」であり、「先端金具13付きの既製杭1」のうち「値固め層30内に位置」する箇所の径である「610mm」から「800mm」に対する比が、1200/800?1200/610で約1.50?1.97である構成は、本件発明1において、「前記杭径D_(1)と前記杭孔径D_(2)との比D_(2)/D_(1)が1.3?2.5」である構成に相当する。

整理すると、本件発明1と甲1発明とは、
「掘削機により削孔された杭孔に既製杭が挿入され、前記杭孔の内壁と前記既製杭との間に根固め液及び杭周固定液が充填されてなる基礎杭であって、前記杭孔は、根固め部に拡径部を有さず、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径を有するストレートな杭孔であり、周囲を前記根固め液で充たされた前記既製杭の先端部における杭径D_(1)は300?1200mmであり、かつ前記杭径D_(1)と前記杭孔径D_(2)との比D_(2)/D_(1)が1.3?2.5である、
基礎杭。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「施工区画に設けられた複数の基礎杭によって構成される大型上部構造物の基礎」であり、「基礎杭」は本件発明1に係る「大型上部構造物の基礎」を構成する「複数の基礎杭」の一要素であるのに対し、
甲1発明は、「施工区画に設けられた複数の基礎杭によって構成される大型上部構造物の基礎」ではない点。

<相違点2>
本件発明1においては、「前記複数の基礎杭のうち、前記基礎における設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、同一の杭径D_(1)を有する既製杭が用いられ、個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力に応じて、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径とした前記ストレートな杭孔の杭孔径D_(2)が、D_(2)/D_(1)=1.3?2.5となる範囲で基礎杭ごとに設定されている」のに対し、
甲1発明では、「複数の基礎杭のうち、前記基礎における設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、同一の杭径D_(1)を有する既製杭が用いられ、個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力に応じて、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径とした前記ストレートな杭孔の杭孔径D_(2)が、D_(2)/D_(1)=1.3?2.5となる範囲で基礎杭ごとに設定されて」いない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点2について、まず判断する。

(ア)甲2には、上記第4の2(2)に摘記した事項が記載されているが、甲2においては、掘削する位置により異なる荷重に同一のコンクリート杭を用いて対応するために、径寸法を適宜可変しているのは、掘削孔31のうち球根部33の径寸法である。そのため、甲2に記載された事項が有する構成は、上記相違点2に係る本件発明1の構成である、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径とした杭孔全体の径を、個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力に応じて、周囲を根固め液で充たされた既製杭の先端部における杭径に対する比率が、1.3?2.5となる範囲で基礎杭ごとに設定する、という構成に相当するものではない。
また、甲1発明は、杭穴を掘削しつつ既製杭を埋設する中堀工法を前提として、掘削ロッドに排土機構を設けなくとも既製杭を沈設することができるよう、地盤をほぐし緩めながら掘削する掘削径を従来より大径(例えば、既製杭の外径の1.4培以上)とし、杭外径D_(01)=800mmのときに掘削ヘッド18による掘削・攪拌の範囲を既製杭1の外径の1.5培程度とするものであり、中堀工法における掘削ヘッド18の作動態様を2通りのステップ方式に簡素化するために、杭穴28の外径を杭穴軸部、固化混合層を形成する部分及び根固め部の全てで同じとしているものであるから、球根部33を有する掘削孔31について、切削する位置により異なる荷重に対応するために掘削孔31のうち球根部33の径寸法を異ならせる甲2記載の事項とは、地盤をほぐし緩めながら掘削する掘削径を設定する点で、思想としての方向性が異なる。そして、甲1発明においては、既製杭1の支持力を高めるために、先端金具13に形成する環状突起10の数を増やすという選択肢を有するものであるから、甲1発明において、杭孔の球根部の径を変更する甲2記載の事項を適用する動機付けがあると言うこともできない。
なお、甲1発明は、土質に応じて既製杭1を速く沈設するために、既製杭との杭径比で2倍以上の大径掘削・攪拌も可能となる掘削ヘッドを用いるという選択肢も有しているが、より大径掘削が可能な掘削ヘッドを用いる当該選択肢は、中堀工法における既製杭1の沈設速度を制御することを意図するものであって、基礎における設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、既製杭1の杭径を同一としつつ、ストレートな杭孔の杭孔径を個々の基礎杭が必要とする先端支持力に応じて異ならせることを意図するものということはできず、また甲1発明において、切削する位置により異なる荷重に対応するために掘削孔の球根部の径寸法を異ならせる甲2に記載の事項を、掘削孔に球根部を設けない形態に変更したうえで適用することを示唆するものでもない。
したがって、甲1発明において、甲2に記載された事項を考慮しても、当業者にとって、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることが、容易であったものではない。

(イ)甲3には、上記第4の2(3)に摘記した事項が記載されているが、甲3の記載は、杭径を一つのサイズに固定したパターンにおいて、各杭位置によって上載荷重が異なることには杭長を様々とすることで対応し、また杭径を別の値に変えて固定したパターンについて、同様に杭長を様々とし、各パターンの中で総費用が最も経済的な基礎構造を選定する、というものであるから、甲3において、異なる上載荷重に応じて変更しているのは、杭長であって、杭径ではない。また、甲3においては、杭径についても、既製杭の径と杭孔の径とを区別して、両者の比に着目したものではない。
したがって、甲1発明において、甲3に記載された事項を考慮しても、当業者にとって、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることが、容易であったものではない。

(ウ)甲4には、上記第4の2(4)に摘記した事項が記載されているが、既製杭の先端以深の支持層内に形成されたソイルセメント柱について、その径と長さを調節するものであり、上記(ア)で甲2に関して述べたと同様に、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることを示唆するものではない。
したがって、甲1発明において、甲4に記載された事項を考慮しても、当業者にとって、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることが、容易であったものではない。

(エ)甲5には、上記第4の2(5)に摘記した事項が記載されているが、既製杭10、杭孔3及び根固め部14となる箇所に拡大掘削部5を有する杭基礎1について、既製杭10の外径設計値Dsに対する拡大掘削部5の内径Deの拡大比ωが例えば1.0?2.0の範囲内で設定されること、及び、既製杭10がストレート杭の場合があることが示されているにとどまり、上記(ア)及び(ウ)で甲2及び甲4について述べたと同様に、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることを示唆するものではない。
したがって、甲1発明において、甲5に記載された事項を考慮しても、当業者にとって、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることが、容易であったものではない。

(オ)甲6ないし甲9には、上記第4の2(6)に指摘したとおり、拡頭部及び/又は拡底部を有する杭に関する記載若しくは図示がされているが、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることを示唆するものではない。
したがって、甲1発明において、甲6ないし甲9に記載された事項を考慮しても、当業者にとって、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることが、容易であったものではない。

上記(ア)ないし(オ)に示したとおり、甲1発明において、甲2ないし甲9に記載された事項を考慮しても、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到できたものではない。
そして、上記相違点2に係る本件発明1の構成が、容易に想到できたものではないから、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲9に記載された事項に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)本件発明2及び本件発明3について
本件発明2及び本件発明3は、本件発明1の構成を全て含み、さらに構成を追加したものである。
そして、上記(1)のとおり、相違点2に係る構成を含む本件発明1は、甲1発明、及び甲2ないし甲9に記載される事項に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではないから、相違点2に係る構成を含む本件発明2及び3も、甲1発明、及び甲2ないし甲9に記載される事項に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人の申立書における主張
申立人は申立書において、上記相違点2に係る本件発明1の構成に関して、次の旨を主張している。

・甲1には、上記相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「H 杭先端支持力に応じて、杭孔径D_(2)が、D_(2)/D_(1)=1.4?2.5となる範囲で設定されている」という点について、一致する構成が記載されている(申立書第24頁6-7行)。

・上記相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「G 前記複数の基礎杭のうち、前記基礎における設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、同一の杭径D_(1)を有する既製杭が用いられる」ことについては、甲2及び甲3に記載される周知技術であるから、当業者が適宜なし得ることである(申立書第24頁12行-15行及び第25頁1行-7行)。

・上記相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「H 個々の基礎杭が必要とする」杭先端支持力に応じて杭孔径D_(2)が「基礎杭ごと」に設定されることについては、甲2に「個々の基礎杭が必要とする」杭先端支持力に応じて「基礎杭ごと」に「球根部(根固め部)の径」を調整することが記載されていて周知技術であること、ソイルセメント柱の径を調整して先端支持力を設定することのみであれば甲4に記載されており周知技術であること、甲1発明において杭外径と杭孔径との比を調整することにより得られる効果と、甲2において球根部(根固め部)の径を調整することにより得られる効果は、先端支持力を調整できるという点において共通していることから、甲1発明の基礎構造を複数用いて大型上部構造物の基礎を構成するに際し、甲2等に記載の周知技術を参考にして、「H 個々の基礎杭が必要とする」杭先端支持力に応じて、「基礎杭ごと」に杭外径と杭穴径の比を調整して先端支持力を調整することは、当業者にとって容易である(申立書第24頁16行-18行及び第25頁8行-20行)。

・上記相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「F 前記杭径D_(1)と前記杭孔径D_(2)との比D_(2)/D_(1)が1.3?1.4であること」について、根固め部の拡大比を1.0?2.0に設定することは甲5に記載されているように周知技術であり、根固め部の拡大比と同様に、甲1発明において杭径と杭穴径との比を1.3?1.4に設定することは、当業者にとって容易である(申立書第24頁19行-21行及び第25頁21行-25行)。

・そして、本件発明1の作用効果と甲1発明に周知技術を採用して得られる作用効果との間に顕著な差はない(申立書第25頁最終行-第26頁1行)。

イ 申立人の主張に対する検討
上記申立人の主張について、検討する。

(ア)上記相違点2に係る本件発明1の構成に関して、本件明細書の段落【0032】ないし【0035】には、次の記載がある。
「【0032】
本発明の基礎は、ビルディング、商業施設、倉庫などの大型構造物の下方の地盤に設けられる基礎であり、杭基礎の施工区画に基礎杭を複数設けてなるものである。
【0033】
また、設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について同一の杭径D_(1)を有する既製杭を用い、個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力に応じて、杭孔径D_(2)を、D_(2)/D_(1)=1.3?2.5となる範囲で基礎杭ごとに設定する。例えば杭径D_(1)を基礎杭ごとに替えることなく、全て同一径の既製杭を用いて、あるいは2種類、場合によって3種類程度の径の既製杭を用いて、杭孔径D_(2)を替える、すなわち、D_(2)/D_(1)の比を替えることで得られる杭先端支持力を変える。このようにすることにより、i)用いる杭の種類を減らせる、ii)施工ミスが少なくなる、iii)既製杭の製造コスト減につなげられる、iv)杭の製造から杭基礎施工までの杭や基礎杭の管理が容易となるといった効果が得られる。
【0034】
杭孔径D_(2)は、従来の拡径部を有する杭孔における拡径部の杭孔径に匹敵するものであり、杭孔径D_(2)は、例えば、400?3000mmの範囲で必要な杭先端支持力に応じて変えればよい。
【0035】
本願発明の基礎では、必要な杭先端支持力を得るのに、削孔する杭孔径を替えるだけでよく、しかも、杭孔はストレート形状のものなので、良好な杭先端支持力を維持しつつ基礎の施工性や施工管理性の向上が図れる。」
上記段落【0032】ないし【0035】の記載に示されるように、本件発明1は、大型構造物の下方の地盤に設けられる、基礎杭を複数設けてなる基礎において、上記相違点2に係る構成を採用することにより、設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、必要な杭先端支持力を得るのに、削孔する杭孔径を替えるだけでよく、しかも、杭孔はストレート形状のものなので、良好な杭先端支持力を維持しつつ基礎の施工性や施工管理性の向上が図れる、という効果を得るものである。

(イ)上記(ア)に示したとおり、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、相互に連関し合うことによって、本件明細書の段落【0032】ないし【0035】に記載される効果を奏するものであるから、上記相違点2に係る構成に含まれる複数の小構成に分断したうえで、個別に周知技術との対比により、各小構成ごとに容易想到性が判断されるべきものではない。
また、甲1発明は、上記(1)イ(ア)でも指摘したとおり、杭穴を掘削しつつ既製杭を埋設する中堀工法を前提として、掘削ロッドに排土機構を設けなくとも既製杭を沈設することができるよう、地盤をほぐし緩めながら掘削する掘削径を従来より大径(例えば、既製杭の外径の1.4培以上)とするものであり、中堀工法における掘削ヘッド18の作動態様を2通りのステップ方式に簡素化するために、杭穴28の外径を杭穴軸部、固化混合層を形成する部分及び根固め部の全てで同じとするものであるから、場所により異なる荷重に対応するため掘削孔31の球根部33の径又は既製杭の先端以深のソイルセメント柱の径を調節する甲2又は甲4、最も経済的な基礎構造を選定するうえで異なる上載荷重に対して各杭位置の杭長を様々とする甲3、既製杭10の外径設計値Dsに対する拡大掘削部5の内径Deの拡大比ωを例示する甲5等とは、地盤をほぐし緩めながら掘削する掘削径を設定する点で、いずれも思想としての方向性が異なるものである。
そのため、甲1発明において、甲2ないし甲5に記載される構成から、それぞれ一部の構成を切り出して適用する動機付けがあったと言うこともできない。

(ウ)したがって、申立人の上記主張について検討しても、上記相違点2に係る本件発明1の構成について、上記(1)イの判断を変更すべき事情を見いだすことはできない。
よって、申立人の主張を検討しても、本件発明1ないし3の進歩性については、上記(1)及び(2)に判断したとおりである。

2 拡大先願について
(1)本件発明1について
ア 甲10発明との対比
本件発明1と甲10発明とを対比する。
甲10発明における「地盤6に予め掘削された杭孔11」は、切削が機械によって行われることが明らかであることを踏まえると、本件発明1における「掘削機により削孔された杭孔」に相当する。
甲10発明における「節杭2a,2b及びストレート杭4」が「直列に連結」された「1本の継ぎ杭10」は、本件発明1における「既製杭」に相当する。
甲10発明において、「継ぎ杭10は、地盤6に予め掘削された杭孔11の内部に沈設」される構成は、本件発明1において、「掘削機により削孔された杭孔に既製杭が挿入され」る構成に相当する。
甲10発明において、「杭孔11の底部には、根固め液が注入され、根固め液が硬化することによって、継ぎ杭10の下端部を囲む根固め部12が形成され、杭孔11の底部よりも上方には、杭周液が注入され、杭周液が硬化することによって、継ぎ杭10を囲む杭周部14が形成され」る構成は、本件発明1において、「前記杭孔の内壁と前記既製杭との間に根固め液及び杭周固定液が充填され」る構成に相当する。
甲10発明における「基礎杭15」は、本件発明1における「基礎杭」に相当する。
甲10発明における「根固め部12」及び「杭周部14」は、それぞれ本件発明1における「根固め部」及び「杭周部」に相当する。
甲10発明において、「杭孔11は根固め部12及び杭周部14が同一径である」構成は、本件発明1において、「前記杭孔は、根固め部に拡径部を有さず、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径を有するストレートな杭孔」である構成に相当する。
甲10発明において、「継ぎ杭10」のうち、「根固め部12内に位置」する「節杭2bの下方の本体部及び節部」は、本件発明1における、「周囲を前記根固め液で充たされた前記既製杭の先端部」に相当する。

以上を整理すると、本件発明1と甲10発明とは、
「掘削機により削孔された杭孔に既製杭が挿入され、前記杭孔の内壁と前記既製杭との間に根固め液及び杭周固定液が充填されてなる基礎杭であって、前記杭孔は、根固め部に拡径部を有さず、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径を有するストレートな杭孔であり、周囲を前記根固め液で充たされた前記既製杭の先端部を有する、基礎杭。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点A>
本件発明1は、「施工区画に設けられた複数の基礎杭によって構成される大型上部構造物の基礎」であり、「基礎杭」は本件発明1に係る「大型上部構造物の基礎」を構成する「複数の基礎杭」の一要素であるのに対し、
甲10発明は、「施工区画に設けられた複数の基礎杭によって構成される大型上部構造物の基礎」ではない点。

<相違点B>
本件発明1においては、「周囲を前記根固め液で充たされた前記既製杭の先端部における杭径D_(1)は300?1200mmであり、かつ前記杭径D_(1)と前記杭孔径D_(2)との比D_(2)/D_(1)が1.3?2.5であり、前記複数の基礎杭のうち、前記基礎における設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、同一の杭径D_(1)を有する既製杭が用いられ、個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力に応じて、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径とした前記ストレートな杭孔の杭孔径D_(2)が、D_(2)/D_(1)=1.3?2.5となる範囲で基礎杭ごとに設定されている」のに対し、
甲10発明では、「根固め部12内に位置」する「節杭2bの下方の本体部及び節部」の径(以下、「根固め部12内の杭径」という。)が「300?1200mm」と特定されておらず、根固め部12内の杭径と「杭孔11の掘削径」である「De」の比が「1.3?2.5」と特定されておらず、また「複数の基礎杭のうち、前記基礎における設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、同一の杭径D_(1)を有する既製杭が用いられ、個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力に応じて、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径とした前記ストレートな杭孔の杭孔径D_(2)が、D_(2)/D_(1)=1.3?2.5となる範囲で基礎杭ごとに設定されて」いない点。

イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点Bのうち、「複数の基礎杭のうち、前記基礎における設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、同一の杭径D_(1)を有する既製杭が用いられ、個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力に応じて、根固め部からその上方の杭周部に亘って同一の杭孔径とした前記ストレートな杭孔の杭孔径D_(2)が、D_(2)/D_(1)=1.3?2.5となる範囲で基礎杭ごとに設定」される、という構成(以下、「相違点B-1」という。)について、判断する。

(イ)上記相違点B-1に係る本件発明1の構成は、上記1(1)アで示した、甲1発明との相違点2に係る本件発明1の構成と同様であり、当該構成に関して、本件明細書の段落【0032】ないし【0035】には、上記1(3)イ(ア)に摘記した記載がある。
当該段落【0032】ないし【0035】の記載に示されるように、本件発明1は、大型構造物の下方の地盤に設けられる、基礎杭を複数設けてなる基礎において、上記相違点B-1に係る構成を採用することにより、設置位置の違いにより必要とする杭先端支持力が異なる複数の基礎杭について、必要な杭先端支持力を得るのに、削孔する杭孔径を替えるだけでよく、しかも、杭孔はストレート形状のものなので、良好な杭先端支持力を維持しつつ基礎の施工性や施工管理性の向上が図れる、という効果を得るものである。

(ウ)これに対して、甲10発明は、「節部18」を有する「継ぎ杭10」を含む「基礎杭15」を対象として、「想定される短期杭周面摩擦支持力R1の最大値(短期最大杭周面摩擦支持力Rmax)が作用したときでも、節部18に作用するせん断力よりも節部のせん断耐力F1が大きく」なるようにするものであるから、「基礎杭15」を構成する「継ぎ杭10」の「節部18」に十分な強度を持たせることを目的としており、相違点B-1に係る構成を有する本件発明1とは、目的が異なる。

(エ)ここで、甲10発明において、「節部のせん断耐力F1」を大きくするうえで比較対象とする「杭周面摩擦支持力(短期杭周面摩擦支持力)R1」を示す式(1)中には、「β」という係数が含まれているところ、「β」は「ω=De/Ds」に比例し、かつ「Ds=Dn+0.05」であることから、当該R1を示す式中の「β」あるいは「ω」という係数のみに着目すれば、甲10発明において、杭の支持力の一部であるR1が「杭孔11の掘削径」である「De」と「節部18の外径」である「Dn」との比に応じて変わる関係が利用されているようにも見受けられる。
しかしながら、甲10発明における同式(1)は、「杭周面摩擦支持力」であるR1を示すものであって、杭の先端支持力を示すものではない。また、甲10発明における式(1)においては、「ω」を含む係数「β」とともに、「φ」の係数も乗算されており、「φ」は式(2)に示されるとおり「Dn」に比例するから、「β」と「φ」とがともに乗算される式(1)の全体としては、「杭周面摩擦力支持力」であるR1について、「杭孔11の掘削径」である「De」と「節部18の外径」である「Dn」との比に比例して変わるという関係を示すものでもない。そして、甲10発明における式(1)は、「継ぎ杭10」の「節部18」に十分な強度を持たせるために比較対象とする杭の周面摩擦支持力R1を示すものであるから、結局のところ「個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力」に応じて「周囲を前記根固め液で充たされた前記既製杭の先端部における杭径」と「杭孔径」とをどのように設定すべきかを示す構成ではなく、かような設定について何らかの示唆をするものと言うこともできない。

(オ)このように、甲10発明は、相違点B-1に係る本件発明1の構成に相当する構成を有しておらず、甲10発明において相違点B-1に係る構成をとるべきことも示唆されていないところ、本件発明1は、相違点B-1に係る構成を有することにより、本件明細書の段落【0032】ないし【0035】の記載に示されるとおり、甲10発明にはない効果を奏するものであるから、相違点B-1に係る本件発明1の構成は、甲10発明との実質的な相違点である。

(カ)したがって、相違点B-1に係る構成を含む、相違点Bに係る本件発明1の構成は、甲10発明との実質的な相違点であり、その余の相違点Aについて検討するまでもなく、本件発明1は甲10発明と同一ではない。

(2)本件発明2及び本件発明3について
本件発明2及び本件発明3は、本件発明1の構成を全て含み、さらに構成を追加したものである。
そして、上記(1)のとおり、相違点Bに係る構成を含む本件発明1が、甲10発明と同一でないから、相違点Bに係る構成を含む本件発明2及び3も、甲10発明と同一ではない。

(3)申立人の主張について
上記相違点B-1に関して、申立人は申立書において、甲10において「短期杭周面摩擦支持力R1」を示す式(1)中の「β」に含まれる「ω」が「De/Ds」であり、かつ「Ds=Dn+0.05」であること、及び同「ω」について甲10の段落【0035】に「1.0?2.0である。」とも記載されていることから、甲10に記載された発明は、上記相違点B-1に係る本件発明1の構成のうち、「H 杭孔径D_(2)が、D_(2)/D_(1)=1.3?2.0となる範囲で設定されている。」という点で一致するものであり、上記相違点B-1に係る本件発明1の構成のうちその余の点についても、明示がないのみで周知技術であるから、甲10に記載されているに等しい事項である旨を主張している(申立書第21頁1行-第23頁4行及び第27頁3行-第29頁6行、特には第27頁下から2行-最終行、第28頁5行-11行及び同頁17行-第29頁4行)。
しかしながら、甲10において「短期杭周面摩擦支持力R1」を示す式(1)は、上記(1)イに指摘したとおり、「基礎杭15」を構成する「継ぎ杭10」の「節部18」に十分な強度を持たせるための比較対象として、杭の「周面摩擦支持力」に言及するものであり、杭の「先端支持力」を示す式ではなく、また「個々の基礎杭が必要とする杭先端支持力」に応じて「周囲を前記根固め液で充たされた前記既製杭の先端部における杭径」と「杭孔径」とをどのように設定すべきかを示すものでもないから、甲10中の同式(1)を含めて検討しても、相違点B-1に係る構成を有する本件発明1と甲10発明とは、上記(1)イに示したとおり、目的、構成及び効果が相違しているものである。そして、甲10中の式(1)を根拠として、相違点B-1に係る本件発明1の構成のうち一部の構成は甲10発明との一致点であり、その余の構成も周知技術であるから甲10に記載されているに等しい旨をいう、上記申立人の主張は、採用することができない。
したがって、申立人の主張を検討しても、本件発明1ないし3に関する拡大先願の判断について、上記(1)及び(2)と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-20 
出願番号 特願2018-75884(P2018-75884)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E02D)
P 1 651・ 161- Y (E02D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 亀谷 英樹  
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 有家 秀郎
西田 秀彦
登録日 2020-07-28 
登録番号 特許第6740276号(P6740276)
権利者 株式会社トーヨーアサノ
発明の名称 基礎杭、該基礎杭を用いた基礎の構築方法  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 享  
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