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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1374940
異議申立番号 異議2021-700181  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-18 
確定日 2021-06-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6746025号発明「表面改質粒子材料及びスラリー組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6746025号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6746025号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、令和2年3月31日に特許出願され、同年8月6日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1?7に係る特許に対して、令和3年2月18日に特許異議申立人末成幹生(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
本件特許の請求項1?7の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」などという。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
無機材料から構成される粒子材料と、
アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物からなり、疎水化度が30以上になる量で前記粒子材料を表面処理する表面処理剤と、
を有する表面改質粒子材料。
【請求項2】
1種以上の芳香族化合物を主成分とする分散媒中に分散させて用いられる請求項1に記載の表面改質粒子材料。
【請求項3】
体積平均粒径が0.1μm以上5μm以下である請求項1又は2に記載の表面改質粒子材料。
【請求項4】
前記無機材料はシリカを主成分とする請求項1?3うちの何れか1項に記載の表面改質粒子材料。
【請求項5】
請求項1?4うちの何れか1項に記載の表面改質粒子材料と、前記表面改質粒子材料を分散する1種以上の芳香族化合物を主成分とする分散媒とを有するスラリー組成物。
【請求項6】
全体の質量を基準として70%で前記表面改質粒子材料を分散した前記スラリー組成物について以下の方法で測定したハンドシェイク数が100未満である請求項5に記載のスラリー組成物。
(ハンドシェイク数の測定方法)
直径40mm、高さ120mmの円筒容器中に、100mLの被検液を前記円筒容器の円筒軸が鉛直方向になるように40℃で14日間静置した。
その後、前記円筒軸方向に1回あたり100mmのストロークで1分間当たり0.5回?2回の範囲で往復移動させた。
前記円筒容器を反転させたときに底に存在している沈降層が無くなるまでに要した往復回数をハンドシェイク数とする。
【請求項7】
前記表面改質粒子材料は全体の質量を基準として70%以上含有しており、
粘度が600Pa・s以下である請求項5又は6に記載のスラリー組成物。」

3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証?甲第5号証を提出し、本件発明1?7に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。

(1)申立理由1
甲第1号証を主たる証拠とすると、本件発明1?6は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件発明1?7は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第5号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、同法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)申立理由2
甲第2号証を主たる証拠とすると、本件発明1?7は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件発明1?7は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された技術的事項及び周知技術(甲第5号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、同法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(3)申立理由3
甲第3号証を主たる証拠とすると、本件発明1、2、4?6は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件発明1?7は、甲第3号証に記載された発明、甲第1号証、甲第2号証に記載された技術的事項及び周知技術(甲第5号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、同法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(4)申立理由4
甲第4号証を主たる証拠とすると、本件発明1、2、4?6は、甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件発明1?7は、甲第4号証に記載された発明、甲第1号証、甲第2号証に記載された技術的事項及び周知技術(甲第5号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、同法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(5)申立理由5
本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記9(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(6)申立理由6
本件特許は、明細書の記載が後記10(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証 特開2008-137854号公報
甲第2号証 特開2008-7381号公報
甲第3号証 特開2011-202016号公報
甲第4号証 特開2012-31306号公報
甲第5号証 特開2011-207695号公報

4 甲号証の記載事項について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「【0016】
本発明のシリカ粒子とは、平均粒子径が0.01μm?4.5μmの範囲であって、粒子径の変動係数が50%以下であり、シランカップリング剤により表面処理されているところに特徴を有している。」

イ 「【0018】
本発明における表面処理とは、シリカ粒子表面がシランカップリング剤により処理されていることを意味する。表面処理されることにより、シリカ粒子の種々の溶媒や化合物に対する親和性が変化することが好ましい。本発明においては、シリカ粒子が、表面処理される前のシリカ粒子よりも、樹脂に対する親和性が高くなっていることがさらに好ましい。」

ウ 「【0096】
[実施例1]
・・・
【0099】
焼成シリカ粒子(比表面積12m^(2)/g)5kgを、加熱ジャケットを備えた容量20Lのヘンシェルミキサ(三井鉱山株式会社製FM20J型)に仕込んだ。ヘンシェルミキサには、被混合物を入れる容器と、撹拌羽根が付いた回転軸が容器底部に備わっているとともに、壁面付着物の掻き落とし装置として、壁面に沿うように設置された板状の羽根が付いた回転軸が容器上面に設置されている。焼成シリカ粒子を撹拌しているところに、シランカップリング剤であるγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM403、最小被覆面積330m^(2)/g)45gを、メチルアルコール90gに溶解させた溶液を滴下して混合した。なお、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン45gは、シランカップリング剤理論添加量の0.25倍に相当する。その後、焼成シリカ粒子とシランカップリング剤の混合物を150℃まで約1時間かけて昇温し、150℃で12時間保持して加熱処理を行った。なお、150℃の温度数値は、焼成シリカとシランカップリング剤の混合物中の温度を計測した値である。加熱処理は、焼成シリカ粒子とシランカップリング剤の混合物を混合撹拌しながら行った。加熱処理では、掻き落とし装置を撹拌羽根とは逆方向に常時回転させながら、壁面付着物の掻き落としを行った。また、適宜、へらを用いて壁面付着物を掻き落とすことも行った。加熱後、冷却し、ジェット粉砕分級機(日本ニューマ製IDS-2型)を用いて解砕および分級を行い、シリカ粒子を得た。」

エ 「【0106】
[実施例3]
実施例2で得られた焼成シリカ粒子(比表面積3.5m^(2)/g)5kgを用い、シランカップリング剤として3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM5103、最小被覆面積333m^(2)/g)を50g、シランカップリング剤の溶媒としてメチルアルコールを100g用いた以外は、実施例1と同様の操作で焼成シリカ粒子からシリカ粒子を作製した。なお、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン50gは、シランカップリング剤理論添加量の0.95倍に相当する。樹脂組成物を作製する操作も実施例1と同様に行った。
【0107】
得られたシリカ粒子の平均粒子径は0.91μm、粒子径の変動係数は13%、20μmふるい上残留物割合は0.002質量%、吸湿率は0.04質量%であった。また、不純物含有量は鉄が1ppmであったのを除き、いずれも1ppm未満であった。」

(2)甲第2号証の記載事項
ア 「【0001】
本発明は、表面処理された球状複合酸化物粒子、詳しくは、歯牙修復材料用充填材粒子として好適に使用される、シリカとX線不透過性の金属酸化物との複合酸化物からなる、表面処理された球状複合酸化物粒子に関する。」

イ 「【0011】
こうした問題の改善策として、上記複合酸化物粒子の表面をシランカップリング剤により表面処理することが有効である。すなわち、無機充填材のシランカップリング剤による表面処理は、重合性単量体と該無機充填材との親和性を向上させ、両者の界面での破壊防止などを目的に行われる処理であるが、(例えば、非特許文献1、2)、該シランカップリング剤が、無機充填材の表面に存在するシラノール基と縮合反応することにより結合するため、該処理は、粒子表面に存在するシラノール基の低減策としても有効に機能する。」

ウ 「【0030】
本発明の球状複合酸化物粒子は、シランカップリング剤により表面処理されている。該シランカップリング剤による表面処理により、上記充填材粒子は、歯科修復材料中において、重合性単量体が重合して形成される硬化体との界面強度等に優れたものになる。また、後述するように、本発明の球状複合酸化物粒子は、通常、シリカと、X線不透過性の金属酸化物との複合酸化物により形成されているが、シランカップリング剤は該シリカが有するシラノール基と縮合反応することにより、該シラノール基に起因した酸点を低減させる効果も発揮している。」

エ 「【0106】・・・
1.シランカップリング剤
【0107】
【化3】



オ 「【0134】
・・・
実施例1
0.06%の硫酸水溶液5mlとテトラエトキシシラン180gをイソブタノール500mlに溶かし、この溶液を40℃で約8時間撹拌しながら加水分解した。その後この溶液に68gテトラブチルジルコネートを添加し、溶液(A)とした。
【0135】
一方、テトラエトキシシラン50gとメタノール300mlの混合物を溶液(B)とした。
【0136】
次に撹拌機能付きの内容量3lのガラス製容器にメタノール800ml、イソブタノール200ml、28%アンモニア水300mlを入れ、この容器を40℃に保ち、撹拌しながら上記溶液(A)を6時間かけて滴下し、終了後溶液(B)を約2時間かけて滴下した。滴下終了後、析出した白色の生成物をろ過によって分取し更に乾燥して粉末を得た。
【0137】
得られた粉末を1000℃で3時間焼成し、シリカ83モル%とZrO_(2)17モル%の複合酸化物粒子がシリカにより被覆されてなる白色粉末を得た。得られた白色粉末をPF1とした。このPF1の粒径、変動係数、均斉度、シリカ被覆層の厚み、及び比表面積を表1に示した。
【0138】
次に、得られたPF1のΔa^(*)_(n)及びΔa^(*)_(m)を測定した後、その20gを、イオン交換水40ml中に超音波を使って分散させた。一方、シランカップリング剤A-174を、下記式
シランカップリング剤使用量:y(g)=20(g)X/Y
X:複合酸化粒子の批評面積(m^(2)/g)
Y:シランカップリング剤の被覆面積(m^(2)/g)
より計算された量に該当する1.15gを図り取り、pH4.0に調整した酢酸100ml中で、2時間かけて加水分解させた。このシランカップリング剤A-174の加水分解物を、上記PF1の分散液に混合し、1時間撹拌した。撹拌後、ロータリーエバポレーターにより水を除去し、得られた白色固体を、真空下80℃で15時間乾燥し、表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-1を得た。このSPF1-1についてΔa^(*)_(m)を測定し、先に測定したシランカップリング剤による表面処理前のPF1のΔa^(*)_(n)及びΔa^(*)_(m)の値と共に、表2に示した。
【0139】
・・・
実施例2
実施例1において、使用するシランカップリング剤としてA-174に代えてTESOXを用いる以外は、実施例1と同様に実施して、表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-2を得た。結果を表2に示した。」

カ 「【0157】
【表1】



(3)甲第3号証の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子粉末とカップリング剤とを混合攪拌して無機粒子粉末の粒子表面にカップリング剤を被覆させた後、高級脂肪酸を添加し、混合攪拌して上記カップリング剤被覆の表面に高級脂肪酸を付着させる機能性無機粒子粉末の製造法において、全処理工程を乾式で行うと共に、あらかじめ、上記無機粒子粉末の水分量を添加するカップリング剤の加水分解に必要な水分量の1?10倍の範囲に調整しておくと共に、カップリング剤及び高級脂肪酸付着後の無機粒子粉末を120?210℃の温度範囲で加熱処理することを特徴とする機能性無機粒子粉末の製造法。
【請求項2】
無機粒子粉末の粒子表面がカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆されている平均粒子径0.01?0.3μmの機能性無機粒子粉末であって、該機能性無機粒子粉末の処理前と処理後のBET比表面積値の変化率が60%以下であることを特徴とする請求項1記載の方法によって得られる機能性無機粒子粉末。
・・・
【請求項4】
メタノールウェッタビリティによる疎水化度が60%以上であることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の機能性無機粒子粉末。」

イ 「【0025】
本発明におけるカップリング剤としては、無機粒子粉末の粒子表面を疎水化できると共に、無機粒子粉末の粒子表面に高級脂肪酸の被覆層を付着・形成することができるものであれば何を用いてもよく、好ましくはシラン系、チタネート系、アルミネート系及びジルコネート系等の各種カップリング剤の一種又は二種以上を好適に用いることができる。より好ましくはシラン系カップリング剤であり、高級脂肪酸とのカップリング性を考慮すれば、更に好ましくはアミノ系シランカップリング剤である。」

ウ 「【0030】
カップリング剤の被覆量は、無機粒子粉末のBET比表面積値とカップリング剤の最小被覆面積(m^(2)/g)から求めた、無機粒子粉末の粒子表面をカップリング剤が一層被覆するために必要な量の5?100%であることが好ましく、より好ましくは7?100%である。カップリング剤の被覆量を前記範囲とすることで、効果的に無機粒子粉末の粒子表面に高級脂肪酸の被覆層を付着・形成することができる。」

(4)甲第4号証の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子粉末の粒子表面がスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆されている平均粒子径0.01?0.3μmのシリカ粒子粉末からなることを特徴とする疎水性シリカ粒子粉末。
・・・
【請求項4】
メタノールウェッタビリティによる疎水化度が60%以上である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の疎水性シリカ粒子粉末。」

イ 「【0042】
スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤による被覆量は、シリカ粒子粉末のBET比表面積値とスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の最小被覆面積(m^(2)/g)から求めた、シリカ粒子粉末の粒子表面をスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤が一層被覆するために必要な量の5?100%であることが好ましく、より好ましくは7?100%である。スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤による被覆量を前記範囲とすることで、効果的にシリカ粒子粉末の粒子表面に高級脂肪酸の被覆層を付着・形成することができる。」

(5)甲第5号証の記載事項
ア 「【0019】
破砕シリカ粒子の噴霧は何らかのキャリヤガスに混合して行うことができる。キャリヤガスとしては特に限定しないが、空気、酸素、前述の火炎に用いられる燃料、それらの混合物が例示できる。
・その他の工程
必要に応じてその他の工程を備えることができる。その他の工程としては表面処理工程が挙げられる。表面処理工程は破砕工程後、球状化工程前に行う工程である。破砕シリカに対して、オルガノシラザン類、シランカップリング剤、脂肪酸、及び脂肪アミンからなる群から選択される1又は2以上の表面処理剤にて表面を処理する工程である。
【0020】
破砕シリカ粒子に対して表面処理することにより破砕シリカ粒子の間における相互作用が低下して搬送性が向上する。また、相互作用が低下することにより破砕シリカ粒子における凝集が抑制される。」

イ 「【0023】
更に、製造した球状シリカ粒子に対して、樹脂組成物に混合するなどの場合において、樹脂との密着性を向上させる目的で、表面処理を施すことができる。例えば、シランカップリング剤、オルガノシラザン類、そして、カチオン・アニオン・両性・中性の各種界面活性剤を表面に付着乃至反応させることができる。」

5 申立理由1に対する判断
(1)甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証には、上記4(1)アによれば、シランカップリング剤により表面処理されているシリカ粒子が記載されているといえ、その実施例3には、上記4(1)エによれば、焼成シリカ粒子(比表面積3.5m^(2)/g)5kgを用い、シランカップリング剤として3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM5103、最小被覆面積333m^(2)/g)を50g、シランカップリング剤の溶媒としてメチルアルコールを100g用いた以外は、実施例1と同様の操作で焼成シリカ粒子からシリカ粒子を作製することが記載され、さらに、実施例1には、上記4(1)ウによれば、ヘンシェルミキサ内で焼成シリカ粒子5kgを攪拌しているところに、シランカップリング剤であるγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM403、最小被覆面積330m^(2)/g)45gを、メチルアルコール90gに溶解させた溶液を滴下して混合し、焼成シリカ粒子とシランカップリング剤の混合物を混合攪拌しながら、150℃で12時間の加熱処理を行い、冷却後に、ジェット粉砕分級機を用いて解砕及び分級を行ない、シリカ粒子を得たことが記載されている。
そこで、これら記載事項を、実施例3の「シランカップリング剤により表面処理されているシリカ粒子」に注目して整理すると、甲第1号証には、
「焼成シリカ粒子(比表面積3.5m^(2)/g)5kgが、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM5103、最小被覆面積333m^(2)/g)であるシランカップリング剤50gで表面処理されているシリカ粒子。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「焼成シリカ粒子」、「シランカップリング剤」、「表面処理されているシリカ粒子」は、それぞれ、本件発明1の「無機材料から構成される粒子材料」、「表面処理剤」、「表面改質粒子材料」に相当する。
また、甲1発明の「3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM5103、最小被覆面積333m^(2)/g)」は、メトキシ基が結合しているシリコンから7つ離れたC原子を有し、且つ、炭素-炭素二重結合を有する「3-アクリロキシプロピル基」を有していることから、本件発明1の「アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「無機材料から構成される粒子材料と、
アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物からなり、前記粒子材料を表面処理する表面処理剤と、
を有する表面改質粒子材料。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1では、表面処理剤が「疎水化度が30以上になる量」で有しているのに対して、甲1発明では、焼成シリカ粒子(比表面積3.5m^(2)/g)5kgが、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM5103、最小被覆面積333m^(2)/g)であるシランカップリング剤50gで表面処理されているものの、当該シランカップリング剤の被覆量が「疎水化度が30以上になる量」であるかは明らかでない点。

イ 相違点1の検討
シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子の疎水化度は、シランカップリング剤の種類や、シラン粒子の比表面積に対するシランカップリング剤の被覆量(被覆面積)によって決まることは技術常識といえるところ、当該技術常識を考慮しても、甲1発明において、「表面処理されたシリカ粒子」の疎水化度が30以上になっていることを示す証拠はなく、甲1発明の「シランカップリング剤」の被覆量が「疎水化度が30以上になる量」であるとはいえないから、上記相違点1は実質的なものである。
次に、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲第1号証には、上記4(1)イによれば、シランカップリング剤による表面処理により、シリカ粒子の溶媒や化合物に対する親和性を変化することが記載されている。また、甲第5号証には、上記4(5)ア及びイによれば、シランカップリング剤による表面処理により、シリカ粒子の凝集性が抑制されることや樹脂との密着性が向上することが記載されている。
しかしながら、これら記載からは、甲1発明の「シランカップリング剤」の被覆量を調整することを想起できたとしても、その被覆量を「疎水化度が30以上になる量」とする動機付けまでを見いだすことはできないから、甲第1号証及び甲第5号証の記載に基づいて、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項に当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、甲1発明の「焼成シリカ粒子」を基準とした「シランカップリング剤」の添加量が1%(=50g/5000g×100)であり、本件特許明細書の段落【0025】に記載された、本件発明1の疎水化度を達成するための表面処理剤の好ましい添加量の範囲(粒子材料の質量を基準として、0.1?2.0%の範囲)内であるから、甲1発明の上記添加量は、「疎水化度が30以上になる量」である蓋然性が高い旨を主張している。
しかしながら、上記技術常識を踏まえると、「疎水化度が30以上となる量」は、粒子材料の質量を基準とした添加量のみで決まるものではなく、シランカップリング剤の種類や粒子材料の比表面積によっても影響されるものであるため、甲1発明の「シランカップリング剤」の添加量が、本件特許明細書の段落【0025】に記載された数値範囲を満たしているからといって、「疎水化度が30以上になる量」となっているとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記(2)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由1に理由はない。

6 申立理由2に対する判断
(1)甲第2号証に記載された発明(甲2発明1、甲2発明2)
甲第2号証には、上記4(2)アによれば、表面処理された球状複合酸化物粒子が記載されているといえ、その実施例1には、上記4(2)エ?カによれば、シリカ83モル%とZrO_(2)17モル%の複合酸化物粒子がシリカにより被覆されてなる白色粉末PF1(比表面積18m^(2)/g)を作製し、この白色粉末PF1の20gをイオン交換水40ml中に分散させた分散液と、シランカップリング剤A-174

(被覆面積314m^(2)/g)の1.15gをpH4.0に調整した酢酸100ml中で加水分解させた加水分解物を混合撹拌し、水を除去した後に乾燥して、表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-1を作製することが記載されている。また、実施例2には、実施例1のシランカップリング剤A-174に代えて、TESOX

(被覆面積244m^(2)/g)を使用して、表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-2を作製することが記載されている。
そこで、これら記載事項を、実施例1の「表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-1」に注目して整理すると、甲第2号証には、
「シリカ83モル%とZrO_(2)17モル%の複合酸化物粒子がシリカにより被覆されてなる白色粉末PF1(比表面積18m^(2)/g)20gが、シランカップリング剤A-174

(被覆面積314m^(2)/g)1.15gで表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-1。」
の発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されていると認められる。
また、これら記載事項を、実施例2の「表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-2」に注目して整理すると、甲第2号証には、
「シリカ83モル%とZrO_(2)17モル%の複合酸化物粒子がシリカにより被覆されてなる白色粉末PF1(比表面積18m^(2)/g)20gが、シランカップリング剤TESOX

(被覆面積244m^(2)/g)1.15gで表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-1。」
の発明(以下、「甲2発明2」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1について
ア 甲2発明1との対比・判断
(ア)本件発明1と甲2発明1との対比
甲2発明1の「シリカ83モル%とZrO_(2)17モル%の複合酸化物粒子がシリカにより被覆されてなる白色粉末PF1」、「表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-1」は、それぞれ、本件発明1の「無機材料から構成される粒子材料」、「表面改質粒子材料」に相当する。
また、甲2発明1の「シランカップリング剤A-174

(被覆面積314m^(2)/g)」は、本件発明1の「アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物からな」る「表面処理剤」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明1とは、
「無機材料から構成される粒子材料と、
アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物からなり、前記粒子材料を表面処理する表面処理剤と、
を有する表面改質粒子材料。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2a>
本件発明1では、表面処理剤が「疎水化度が30以上になる量」で有しているのに対して、甲2発明1では、白色粉末PF1(比表面積18m^(2)/g)20gが、シランカップリング剤A-174(被覆面積314m^(2)/g)1.15gで表面処理されているものの、当該シランカップリング剤の被覆量が「疎水化度が30以上になる量」であるかは明らかでない点。

(イ)相違点2aの検討
上記5(2)イで示した技術常識を考慮しても、甲2発明1において、「表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-1」の疎水化度が30以上になっていることを示す証拠はなく、甲2発明1の「シランカップリング剤A-174」の被覆量が「疎水化度が30以上になる量」であるとはいえないから、上記相違点2aは実質的なものである。
次に、上記相違点2aに係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲第2号証には、上記4(2)イ及びウによれば、無機充填材のシランカップリング剤による表面処理により、重合性単量体との親和性や界面強度を向上させることが記載されている。また、甲第3号証には、上記4(3)アによれば、無機粒子粉末の粒子表面をカップリング剤によって被覆された後に、該被覆表面を高級脂肪酸によって被覆されることで、疎水化度が60%以上の機能性無機粒子粉末を得ることが記載されている。さらに、甲第5号証には、上記5(2)イで検討したとおり、シランカップリング剤による表面処理により、シリカ粒子の凝集性が抑制されることや樹脂との密着性が向上することが記載されている。
しかしながら、これら記載からは、甲2発明1の「シランカップリング剤A-174」の被覆量を調整することや、疎水化度が60%以上になるように、「シランカップリング剤A-174」の被覆表面に高級脂肪酸を更に被覆することを想起できたとしても、「シランカップリング剤A-174」の被覆量を「疎水化度が30以上になる量」とする動機付けまでを見いだすことはできないから、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証の記載に基づいて、上記相違点2aに係る本件発明1の特定事項に当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明(甲2発明1)であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明(甲2発明1)、並びに、甲第3号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 甲2発明2との対比・判断
(ア)本件発明1と甲2発明2との対比
甲2発明2の「シリカ83モル%とZrO_(2)17モル%の複合酸化物粒子がシリカにより被覆されてなる白色粉末PF1」、「表面処理された球状複合酸化物粒子SPF1-2」は、それぞれ、本件発明1の「無機材料から構成される粒子材料」、「表面改質粒子材料」に相当する。
また、甲2発明2の「シランカップリング剤TESOX

(被覆面積244m^(2)/g)」は、本件発明1の「アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物からな」る「表面処理剤」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明2とは、
「無機材料から構成される粒子材料と、
アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物からなり、前記粒子材料を表面処理する表面処理剤と、
を有する表面改質粒子材料。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2b>
本件発明1では、表面処理剤が「疎水化度が30以上になる量」で有しているのに対して、甲2発明2では、白色粉末PF1(比表面積18m^(2)/g)20gが、シランカップリング剤TESOX(被覆面積244m^(2)/g)1.15gで表面処理されているものの、当該シランカップリング剤の被覆量が「疎水化度が30以上になる量」であるかは明らかでない点。

(イ)相違点2bの検討
相違点2bについても、上記ア(イ)の相違点2aに対して検討したことと同じことがいえるから、相違点2bは実質的なものであるといえるし、また、相違点2bに係る本件発明1の特定事項は、容易想到な事項といえない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明(甲2発明2)であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明(甲2発明2)、並びに、甲第3号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、甲2発明1の「シランカップリング剤A-174」又は甲2発明2の「シランカップリング剤TESOX」の添加量は、「球状複合酸化物粒子SPF1-1」を基準とすると、それぞれ5.75%(=1.15g/20g×100)であり、本件特許明細書の段落【0025】に記載された、本件発明1の疎水化度を達成するための表面処理剤の好ましい添加量の範囲(粒子材料の質量を基準として、0.1?2.0%の範囲)よりも多いから、甲2発明1及び甲2発明2の上記添加量は、「疎水化度が30以上になる量」である蓋然性が高い旨を主張している。
しかしながら、上記5(2)ウで検討したのと同様の理由により、甲2発明1の「シランカップリング剤A-174」又は甲2発明2の「シランカップリング剤TESOX」の添加量が、本件特許明細書の段落【0025】に記載された数値範囲より多いからといって、「疎水化度が30以上になる量」となっているとはいえないから、申立人の上記主張は採用できない。

(3)本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記(2)に示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明、並びに、甲第3号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由2に理由はない。

7 申立理由3に対する判断
(1)甲第3号証に記載された発明(甲3発明)
甲第3号証には、上記4(3)アによれば、無機粒子粉末の粒子表面がカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆されている機能性無機粒子粉末であって、メタノールウェッタビリティによる疎水化度が60%以上である機能性無機粒子粉末が記載され、上記4(3)イによれば、好ましいカップリング剤として、アミノ系シランカップリング剤を使用することが記載され、さらに、上記4(3)ウによれば、カップリング剤の被覆量は、無機粒子粉末の粒子表面をカップリング剤が一層被覆するために必要な量の5?100%であることも記載されている。
そこで、これら記載事項を、「機能性無機粒子粉末」に注目して整理すると、甲第3号証には、
「無機粒子粉末の粒子表面がアミノ系シランカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆され、メタノールウェッタビリティによる疎水化度が60%以上である機能性無機粒子粉末であって、アミノ系カップリング剤の被覆量は、無機粒子粉末の粒子表面をアミノ系カップリング剤が一層被覆するために必要な量の5?100%である、機能性無機粒子粉末。」
の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明との対比
甲3発明の「無機粒子粉末」、「機能性無機粒子粉末」は、それぞれ、本件発明1の「無機材料から構成される粒子材料」、「表面改質粒子材料」に相当する。
また、甲3発明の「アミノ系シランカップリング剤」は、「無機粒子粉末の粒子表面」を「被覆」していることから、本件発明1の「シラン化合物からなり」、「前記粒子材料を表面処理する表面処理剤」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、
「無機材料から構成される粒子材料と、
シラン化合物からなり、前記粒子材料を表面処理する表面処理剤と、
を有する表面改質粒子材料。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3a>
本件発明1のシラン化合物は、「アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物」からなるのに対して、甲3発明では、「アミノ系シランカップリング剤」であって、その具体的な化学構造は明らかでない点。
<相違点3b>
本件発明1では、シラン化合物からなる表面処理剤が「疎水化度が30以上になる量」で有しているのに対して、甲3発明では、アミノ系カップリング剤の被覆量は、無機粒子粉末の粒子表面をアミノ系カップリング剤が一層被覆するために必要な量の5?100%であるものの、当該被覆量が「疎水化度が30以上になる量」であるかは明らかでない点。

イ 相違点3a及び3bの検討
事案に鑑み、相違点3bについて検討すると、甲3発明における「疎水化度」は、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸によって被覆された後の機能性無機粒子粉末の疎水化度を示すものであり、アミノ系カップリング剤の被覆量を示すものではないし、また、上記5(2)イで示した技術常識を考慮すると、甲3発明のアミノ系カップリング剤の被覆量が「疎水化度が30以上になる量」であるともいえないから、上記相違点3bは実質的なものである。
次に、上記相違点3bに係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲第3号証には、アミノ系カップリング剤の被覆量を「疎水化度が30以上になる量」とすることの動機付けとなる記載はないし、また、上記5(2)イ及び上記6(2)ア(イ)で検討したのと同様に、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証の記載からも、甲3発明の「アミノ系シランカップリング剤」の被覆量を「疎水化度が30以上になる量」とする動機付けを見いだすことはできないから、甲第3号証、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証の記載に基づいて、上記相違点3bに係る本件発明1の特定事項に当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、相違点3aについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第3号証に記載された発明、並びに、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記(2)に示した理由と同様の理由により、甲第3号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第3号証に記載された発明、並びに、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由3に理由はない。

8 申立理由4に対する判断
(1)甲第4号証に記載された発明(甲4発明)
甲第4号証には、上記4(4)アによれば、シリカ粒子粉末の粒子表面がスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆されている疎水性シリカ粒子粉末であって、メタノールウェッタビリティによる疎水化度が60%以上である、疎水性シリカ粒子粉末が記載され、さらに、上記4(4)イによれば、スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤による被覆量は、シリカ粒子粉末の粒子表面をスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤が一層被覆するために必要な量の5?100%であることも記載されている。
そこで、これら記載を「疎水性シリカ粒子粉末」に注目して整理すると、甲第4号証には、
「シリカ粒子粉末の粒子表面がスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆され、メタノールウェッタビリティによる疎水化度が60%以上である疎水性シリカ粒子粉末であって、スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤による被覆量は、シリカ粒子粉末の粒子表面をスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤が一層被覆するために必要な量の5?100%である、疎水性シリカ粒子粉末。」
の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲4発明との対比
甲4発明の「シリカ粒子粉末」、「疎水性シリカ粒子粉末」は、それぞれ、本件発明1の「無機材料から構成される粒子材料」、「表面改質粒子材料」に相当する。
また、甲4発明の「スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤」は、「シリカ粒子粉末の粒子表面」を「被覆」していることから、本件発明1の「シラン化合物からなり」、「前記粒子材料を表面処理する表面処理剤」に相当する。
したがって、本件発明1と甲4発明とは、
「無機材料から構成される粒子材料と、
シラン化合物からなり、前記粒子材料を表面処理する表面処理剤と、
を有する表面改質粒子材料。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点4a>
本件発明1のシラン化合物は、「アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物」からなるのに対して、甲4発明では、「スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤」であって、その具体的な化学構造は明らかでない点。
<相違点4b>
本件発明1では、シラン化合物からなる表面処理剤が「疎水化度が30以上になる量」で有しているのに対して、甲4発明では、スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の被覆量は、シリカ粒子粉末の粒子表面をスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤が一層被覆するために必要な量の5?100%であるものの、当該被覆量が「疎水化度が30以上になる量」であるかは明らかでない点。

イ 相違点4a及び4bの検討
事案に鑑み、相違点4bについて検討すると、甲4発明における「疎水化度」は、スルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸によって被覆された後の疎水性シリカ粒子粉末の疎水化度を示すものであり、スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の被覆量を示すものではないし、また、上記5(2)イで示した技術常識を考慮すると、甲4発明のスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の被覆量が「疎水化度が30以上になる量」であるともいえないから、上記相違点4bは実質的なものである。
次に、上記相違点4bに係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲第4号証には、スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の被覆量を「疎水化度が30以上になる量」とすることの動機付けとなる記載はないし、また、上記5(2)イ及び上記6(2)ア(イ)で検討したのと同様に、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証の記載からも、甲4発明の「スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤」の被覆量を「疎水化度が30以上になる量」とする動機付けを見いだすことはできないから、甲第4号証、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証の記載に基づいて、上記相違点4bに係る本件発明1の特定事項に当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、相違点4aについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明、並びに、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記(2)に示した理由と同様の理由により、甲第4号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明、並びに、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由4に理由はない。

9 申立理由5に対する判断
(1)申立人の具体的な指摘事項
請求項1において、シラン化合物に結合する第1官能基のC、N又はO原子の位置はSiから5つ以上離れていることが規定されているのみであり、その上限は規定されていない。一方、発明の詳細な説明に記載され、かつその効果が実証されているシラン化合物は、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(Siから最も離れたC、N又はOの数は12)、トリメトキシ(2-フェニルエチル)シラン(同6)、及び、7-オクテニルトリメトキシシラン(同10)のみである。一般に、化合物の構造によって分散媒に対する分散状態が異なることは当業者の技術常識であるから、C、N及びOの位置の上限値が規定されていないあらゆるシラン化合物によって表面処理された表面改質粒子材料が、「トルエンなどの疎水性の高い分散媒への分散性が高い粒子材料」とするという課題を解決できるか否かは明らかでない。よって、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1?7の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(2)申立人の指摘事項の検討
本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は、上記2のとおりであり、本件発明1は、「アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物からなり、疎水化度が30以上になる量で前記粒子材料を表面処理する表面処理剤」を有することを特定する「表面改質粒子材料」の発明である。
これに対して、発明の詳細な説明の実施例の試験例1?3には、本件発明1に対応する、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシランを疎水化度35%となる量で表面処理した粒子材料(試験例1)、トリメトキシ(2-フェニルエチル)シランを疎水化度43%となる量で表面処理した粒子材料(試験例2)、及び、7-オクテニルトリメトキシシランを疎水化度53%となる量で表面処理した粒子材料(試験例3)によって、発明の詳細な説明の「トルエンなどの疎水性の高い分散媒への分散性が高い粒子材料及びその粒子材料を用いたスラリー組成物を提供する」(段落【0007】)という課題(以下、「本件課題」という。)を解決できることが具体的に記載されている。
そして、上記実施例には、第1官能基のSiから最も離れたC、N又はO原子の数のみが異なるシラン化合物の表面処理剤を用いた試験例も記載されており、同原子数が6であるトリメトキシ(2-フェニルエチル)シランで表面処理した粒子材料(試験例2)が、同原子数が4であるフェニルトリメトキシシラン(KBM-103)で表面処理した粒子材料(試験例9)と比べて、あるいは、同原子数が10(当審注:8の誤記と認める。)である7-オクテニルトリメトキシシランで表面処理した粒子材料(試験例3)が、同原子数が2であるビニルトリメトキシシラン(KBM-1003)で表面処理した粒子材料(試験例10)と比べて、トルエン中での分散性が優れていることが具体的に記載されており、第1官能基のSiから最も離れたC、N又はO原子の数が大きいシラン化合物で表面処理することで、疎水性分散媒中の分散性が向上することも示唆されている。
さらに、上記実施例には、本件発明1のシラン化合物に相当する表面処理剤を異なる量で使用した試験例が記載されており、疎水化度が35%(試験例1)、43%(試験例2)及び53%(試験例3)となる量でそれぞれ表面処理した粒子材料が、13%(試験例7)及び24%(試験例8)となる量でそれぞれ表面処理した粒子材料と比べて、トルエン中での分散性が優れていることも具体的に記載されており、このことは、疎水性が高い粒子材料ほど疎水性分散媒に分散し易くなるとの技術常識にも合致するものである。
加えて、申立人の主張するように、表面処理剤の官能基の構造によって分散媒に対する分散状態が異なることは当業者の技術常識であるといえるものの、疎水性を示す官能基を有する表面処理剤において、当該官能基の分子鎖が長くなりすぎることで、当該官能基に基づく疎水性能が低下するとの技術常識を示す証拠は見当たらない。
したがって、上記発明の詳細な説明の記載や技術常識を併せ考えると、表面改質粒子材料が、第1官能基のSiから最も離れたC、N又はO原子の数の上限値を特定しない「アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物」からなる表面処理剤を「疎水化度が30以上になる量」で有していれば、実施例の試験例1?3と同様に、本件課題を解決できることを当業者が認識できる。
そうしてみると、本件発明1?7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲内のものであるということができるから、申立人が指摘するようなサポート要件に係る記載不備は見当たらない。

(4)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由5に理由はない。

10 申立理由6に対する判断
(1)申立人の具体的な指摘事項
請求項1において、シラン化合物に結合する第1官能基のC、N又はO原子の位置はSiから5つ以上離れていることが規定されているのみであり、その上限は限定されていない。一般に、化合物の構造によって分散媒に対する分散状態が異なることは当業者の技術常識であるから、実施例で用いられているシラン化合物以外のどのようなシラン化合物を用いれば、「トルエンなどの疎水性の高い分散媒への分散性が高い粒子材料」を得られるのか、当業者であっても過度の試行錯誤を要することになる。加えて、請求項1において、「疎水化度が30以上になる量で前記粒子材料を表面処理する表面処理剤」と規定されているが、発明の詳細な説明の段落【0025】に「疎水化度は、表面処理剤の種類により到達できる上限値が決定され」と記載されているように、表面処理剤の種類によって達成できる疎水化度は異なるため、実施例で用いたシラン化合物以外の全ての「アルコキシドが結合しているSiから5つ以上離れた、C、N、及びOのうちの何れかの原子を有し、且つ、3級炭素、フェニル基、炭素-炭素二重結合、及びシクロアルキル基のうちの少なくとも1つを化学構造の一部乃至全部に有する第1官能基をもつシラン化合物」についても、疎水化度30以上を達成できるか、及び、どのように疎水化度を30以上に調整すればよいのかを理解することができない。よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

(2)申立人の指摘事項の検討
発明の詳細な説明の実施例には、本件発明1のシラン化合物に包含される、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(試験例1)、トリメトキシ(2-フェニルエチル)シラン(試験例2)、7-オクテニルトリメトキシシラン(試験例3)、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(試験例7)、及び、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(試験例8)の表面処理剤を用いた具体例が記載されており、そこでは、粒子材料に対する表面処理剤添加量(%)及び疎水化度(%)についても具体的に記載されている。
そして、発明の詳細な説明には、上記9(2)で検討したとおり、シラン化合物の第1官能基のSiから最も離れたC、N又はO原子の数に関して、当該原子数が大きいシラン化合物を用いることや、表面処理剤を疎水化度が大きくなる量で被覆することで、疎水性分散媒中の分散性が向上することも示唆されているし、また、段落【0025】には、粒子材料に対する表面処理剤添加量に関して、表面処理剤の種類に応じて、0.1%?2.0%程度の範囲で添加することができることも記載されている。
そうしてみると、発明の詳細な説明の上記記載に接した当業者であれば、過度な試行錯誤を要することなく、本件発明1?7を実施することができるといえるから、申立人が指摘するような実施可能要件に係る記載不備は見当たらない。

(4)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由6に理由はない。

11 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-25 
出願番号 特願2020-65273(P2020-65273)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01B)
P 1 651・ 113- Y (C01B)
P 1 651・ 536- Y (C01B)
P 1 651・ 537- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
伊藤 真明
登録日 2020-08-06 
登録番号 特許第6746025号(P6746025)
権利者 株式会社アドマテックス
発明の名称 表面改質粒子材料及びスラリー組成物  
代理人 特許業務法人 共立  
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