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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06F
管理番号 1374955
異議申立番号 異議2021-700197  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-22 
確定日 2021-06-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6762593号発明「データ管理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6762593号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6762593号の請求項1?9に係る発明についての出願は、令和2年3月3日に特許出願され、令和2年9月11日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年2月22日に特許異議申立人 平賀博(以下、「申立人」という。)は特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6762593号の請求項1?9に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
装置を駆動させた処理記録を管理するデータ管理システムであって、
前記処理記録が、前記装置を駆動させた設定情報と、前記装置が駆動された記録情報とからなり、
少なくとも一つの処理手段と、サーバ用コンピュータと、前記処理手段と前記サーバ用コンピュータとの情報接続手段と、前記装置の駆動規制手段とを含み、
前記駆動規制手段が、前記処理手段が機能しない場合だけでなく、前記サーバ用コンピュータと前記情報接続手段とのいずれかが機能しない場合にも、前記記録情報を生成させないように前記装置の駆動を規制させ、
前記装置の駆動に伴う処理記録を、前記駆動された時刻とともに前記サーバ用コンピュータだけに記憶させている、
ことを特徴とするデータ管理システム。
【請求項2】
前記駆動規制手段が、
前記装置を駆動させる処理アプリケーションの記憶を前記処理手段に分担させ、前記処理アプリケーションを実行させる前記設定情報をなす設定ファイルの記憶を前記サーバ用コンピュータに分担させ、前記処理手段が、前記装置を駆動させる毎に前記設定ファイルを読みだして装置を駆動させることとされ、
前記サーバ用コンピュータ又は前記情報接続手段のいずれかが機能しない場合においては、前記処理手段により前記処理アプリケーションを実行できない、
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ管理システム。
【請求項3】
前記駆動規制手段が、
前記サーバ用コンピュータが、前記装置を駆動させる処理アプリケーションと、前記処理アプリケーションを実行させる前記設定情報をなす設定ファイルとを共に記憶させていると共に、記憶された前記設定ファイルを読出して前記処理アプリケーションを実行させて前記処理手段を駆動させることとされ、
前記サーバ用コンピュータ又は前記情報接続手段のいずれかが機能しない場合においては、前記処理手段が駆動されない、
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ管理システム。
【請求項4】
前記複数の処理手段が、複数群に分割され、群毎にサーバ用コンピュータに接続されている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のデータ管理システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載のいずれかのデータ管理システムが、更に、処理記録抽出手段と、監査証跡レポート作成手段を備え、
前記処理記録抽出手段が、前記サーバ用コンピュータに記録された前記処理記録から所望の条件に適合される処理記録を抽出させ、
前記監査証跡レポート作成手段が、抽出させた処理記録を時系列順に並べた監査証跡レポートを作成させる、
ことを特徴とするデータ管理システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4に記載のいずれかのデータ管理システムが、更に、処理記録抽出手段と、重要事項レポート作成手段を備え、
前記処理記録抽出手段が、前記サーバ用コンピュータに記録された前記処理記録から所望の条件に適合される処理記録を抽出させ、
前記重要事項レポート作成手段が、抽出させた処理記録を時系列順に並べた重要事項レポートを作成させる、
ことを特徴とするデータ管理システム。
【請求項7】
前記データ管理システムが、第2記憶手段を備え、
第2記憶手段が、前記サーバ用コンピュータの記憶手段に同期して複製され、前記記憶手段と共に前記処理記録を記憶させ、
前記記憶手段が機能しなくなると同時に、第2記憶手段が前記記憶手段に切り替わり前記処理記録を記憶させ、サーバ用コンピュータの前記処理記録の一貫性を保持させる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のデータ管理システム。
【請求項8】
第2記憶手段が第2サーバ用コンピュータに備えられ、
第2サーバ用コンピュータが、前記サーバ用コンピュータが設置されている地域において予想される地震の被害が及ばない別の地域に設置されている、
ことを特徴とする請求項7に記載のデータ管理システム。
【請求項9】
前記記憶手段又は第2記憶手段の少なくともいずれかが、クラウドコンピューティングにデータを保存している、
ことを特徴とする請求項7に記載のデータ管理システム。」

3 申立理由の概要
申立人は、概略以下のとおり主張している。
(1)特許法第36条第6項第1号について
ア 請求項1は、「時刻取得手段」を有しない場合を含む記載となっており、発明の詳細な説明に記載した発明を記載したものでない。請求項2?9も同様である。
イ 請求項1は、「終了情報が生じる場合に、装置を停止させることも駆動を続けることもできない」場合を含む記載となっており、発明の詳細な説明に記載した発明を記載したものでない。請求項2?9も同様である。
(2)特許法第36条第6項第2号について
ア 請求項1は、「時刻取得手段」を有しない場合を含む記載となっており、発明が明確でない。請求項2?9も同様である。
イ 請求項2および請求項3は、「前記駆動規制手段が、」がいずれの述語に係るものかが不明瞭である。
ウ 請求項2は、「できない」という否定的な表現が不明瞭である。
エ 請求項6は、「重要事項レポート」における重要か否かの境界が不明瞭である。
オ 請求項8は、「地震の被害が及ばない地域」が存在するのか、そして、どのような地域を意味するのか不明瞭である。
(3)特許法第36条第4項第1号について
請求項1の「終了情報が生じる場合に、装置を停止させることも駆動を続けることもできない」場合について、発明の詳細な説明に当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。請求項2?9も同様である。

4 判断
(1)特許法第36条第6項第1号について
ア 請求項1は、「時刻取得手段」を有しない場合を含む記載となっており、発明の詳細な説明に記載した発明を記載したものでないと主張している点について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(以下、下線部は、当審において付与した。)
「【0013】
本発明が解決しようとする課題は、処理記録をなす情報等を事象が発生した時点で一箇所だけのデータベースに記録させることにより、監査ログの一要件である同時性を充たさせるデータ管理システムを提供することである。更に、前記記録がされた時点の原材料、温度、湿度、圧力等の重要事項ログも併せて、同時にそのデータベースに記録させるデータ管理システムを提供することである。」

「【0025】
本発明の第5の発明は、第1の発明から第4の発明のいずれかのデータ管理システムが、更に、処理記録抽出手段と、監査証跡レポート作成手段を備え、前記処理記録抽出手段が、前記サーバ用コンピュータに記録された前記処理記録から所望の条件に適合される処理記録を抽出させ、前記監査証跡レポート作成手段が、抽出させた処理記録を時系列順に並べた監査証跡レポートを作成させることを特徴としている。
【0026】
第5の発明によれば、記録されている処理記録が真正な記録であると共に、記録された時刻が記録されているため、時系列順に信頼性の高い監査証跡レポートが作成されるという効果を奏する。監査証跡レポートの記録対象となる所望の条件に適合されるとは、処理手段にログインしている操作者ID、抽出対象とする時間範囲、装置ID、ログイン・ログアウト等の記録をいう。」

「【0049】
情報接続手段30の通信規格は限定されず、例えば、社内ネットワーク、インターネット回線、近距離無線通信、携帯式の移動通信システム等であればよく、これらの通信規格の内から複数が併用されてもよい。時刻取得手段40は、いずれかの標準時を取得できればよく、その取得方法は限定されない。
【0050】
装置200を駆動させる処理アプリケーションの記憶を処理手段10に分担させ、処理アプリケーションを実行させる設定情報をなす設定ファイルの記憶をサーバ用コンピュータ20に分担させ、処理アプリケーションと設定ファイルとを別々の媒体に記憶させている。実施例1では、処理アプリケーションと設定ファイルとが別々の媒体に記憶されていることが駆動規制手段とされる。
【0051】
例えば、サーバ用コンピュータ20が停止している状態、又は、情報接続手段30が不良の状態においては、処理手段10が実行可能であっても設定ファイルが読み出されず、装置200が駆動処理されることが規制される。換言すれば、前記の状態においては、駆動規制手段により装置の駆動が規制されているため、記録すべき事象が発生せず、処理記録が記録されない。そのため、時刻と共にサーバ用コンピュータ20に記録されている処理記録は、処理手段10が実行された全ての欠落のない唯一の記録とされ、同時性の要件を満たす真正な処理記録とされる。」


「【0065】
図6を参照して、レポート作成手段を内蔵させた場合を説明する。この場合には、サーバ用コンピュータ60は、制御手段61と、記憶手段62と、表示手段63と、入力手段64とから構成されている。制御手段61は、記憶手段62から所望の条件に適合される処理記録を抽出させる処理記録抽出手段611、各種レポートを作成させるレポート作成手段612、ログイン操作によりレポート作成者の個人認証をする個人認証手段613、電子署名を付与させる電子署名付与手段614として機能される。レポート作成手段612は、監査証跡レポート作成手段及び重要事項レポート作成手段として機能される。
【0066】
監査証跡レポートとは、装置名称、処理記録内容、記録時刻、設定変更内容、設定変更者等を時系列順に整列させると共に、少なくともレポート作成者の電子署名と作成日を、所定の様式の書面又は書き換えできないPDF形式の電子データで出力したレポートをいう。重量事項レポートとは、装置の周辺の温度、圧力などの環境情報、材料成分値、電流・電圧値、装置の始動・終了情報・点検記録等の装置に固有の重要事項を、所定の様式の書面又は書き換えできないPDF形式の電子データで出力したレポートをいう。」


「【0085】
(その他)
・本実施例においては、データ管理システムをPTPシートの生産ラインに適用した場合を例に説明したが、適用対象は製造装置に限定されない。例えば、分析機器、倉庫の温度管理装置、調温空間を有する運送車両の温度管理装置に適用されてもよい。
・実施例1において説明した生産ラインは一例であり、製品規格に応じて装置を追加・削減させてもよいことは勿論のことである。
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。」

これらの記載によると、【0013】の記載から、請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、「処理記録をなす情報等を事象が発生した時点で一箇所だけのデータベースに記録させることにより、監査ログの一要件である同時性を充たさせるデータ管理システムを提供する」ものである。そして、【0049】?【0051】に記載される「駆動規制手段」を設けることで、【0025】?【0026】、【0065】?【0066】のように時系列順に整列されたレポートが得られ、前記課題が解決できることが具体的に記載されている。
また、【0049】、【0085】に、時刻取得手段については、いずれかの標準時を取得できれば限定されるものではないことが記載されている。すると、例えば、本願の出願時に、当業者にとって技術常識であるような、装置に搭載された時計、GPS装置などの手段を用いても、【0026】に記載される効果を奏することは明らかである。
なお、上記のとおり、発明の詳細な説明には、時刻を取得することを前提とした事項が記載されていることから、申立人の主張にみられるように、「時刻取得手段が機能しない場合」という仮想的な点まで考慮するには及ばない。
よって、請求項1に係る発明と、発明の詳細な説明の記載とを対比すると、請求項1には、「前記駆動規制手段」が、「前記処理手段が機能しない場合だけでなく、前記サーバ用コンピュータと前記情報接続手段とのいずれかが機能しない場合にも、前記記録情報を生成させないように前記装置の駆動を規制させ」、「前記装置の駆動に伴う処理記録を、前記駆動された時刻とともに前記サーバ用コンピュータだけに記憶させている」ことが特定されていることから、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものではなく、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。請求項2?9についても同様である。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

イ 請求項1は、「終了情報が生じる場合に、装置を停止させることも駆動を続けることもできない」場合を含む記載となっており、発明の詳細な説明に記載した発明を記載したものでないと主張している点について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0043】
また記録情報には、前記設定情報が変更された記録も含まれる。具体的には、いつ、どのような理由で、どんな内容の変更が、どの権限を有する誰に実行されたのかが記録される。ほかにも、装置の周辺の温度、圧力などの環境情報、材料成分値、電流・電圧値、装置の始動・終了情報・点検記録等の装置に固有の重要事項の記録も含まれる。」

「【0045】
制御手段12(図2参照)は、処理アプリケーションを実行させ、装置200に駆動処理命令を出している。記憶手段13には、装置200を駆動させる処理アプリケーションの記憶を分担させている。入力手段14は、作業員が装置200を操作する際に使用される。例えば、装置の電源投入、装置の駆動終了操作、装置の設定情報の変更操作等である。表示手段15は、装置200の状態・操作内容が確認できればよい。」

「【0052】
ここでデータ管理システム1の制御を、図3に示すフロー図を参照して説明する。まず、装置の処理手段が起動される(S10)。設定ファイルの読出処理に進み、サーバ用コンピュータからネットワークを通して各装置の設定情報をなす設定ファイルが読み出されたか判定される(S20)。設定ファイルが読み出されたら、読み出された設定ファイルに基づいて、処理手段に記憶されている処理アプリケーションが実行され、装置が駆動処理される(S30)。そして、処理記録がサーバ用コンピュータに記憶される(S40)。
【0053】
設定ファイルの読出処理(S20)において、設定ファイルの読出がされなかったら、設定ファイルの読出処理に戻る。終了処理ステップ(S50)に進むと、作業員の操作により終了処理がされたかが判定される。終了処理がされるまでは、処理手段が所定の処理を実行させる毎に、設定ファイルが読み出されるように、設定ファイルの読み出しステップ(S20)に戻り、処理アプリケーションの実行ステップと処理記録の記憶ステップ(S40)が繰り返される。終了処理(S50)がされると、制御終了ステップに進み(S60)、制御が終了される。」

これらの記載によると、「終了情報」とは、【0043】【0045】に記載されているように「装置の駆動終了操作」にともない記録されるものであり、申立人が主張する「情報接続手段が機能しなくなった場合に、処理手段が装置を停止させると出力される」ものではない。
さらに、装置の駆動終了操作にともなう管理システムの制御についても、【0053】に「終了処理がされるまでは、処理手段が所定の処理を実行させる毎に、設定ファイルが読み出されるように、設定ファイルの読み出しステップ(S20)に戻り、処理アプリケーションの実行ステップと処理記録の記憶ステップ(S40)が繰り返される」、「終了処理(S50)がされると、制御終了ステップに進み(S60)、制御が終了される」と記載されている。
よって、請求項1に記載されている事項は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、請求項1は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。請求項2?9についても同様である。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
ア 請求項1は、「時刻取得手段」を有しない場合を含む記載となっており明確でないと主張している点について、上記(1)アにおいて述べたとおり、請求項1には、「前記駆動規制手段」が、「前記処理手段が機能しない場合だけでなく、前記サーバ用コンピュータと前記情報接続手段とのいずれかが機能しない場合にも、前記記録情報を生成させないように前記装置の駆動を規制させ」、「前記装置の駆動に伴う処理記録を、前記駆動された時刻とともに前記サーバ用コンピュータだけに記憶させている」ことが特定されている。
すると、請求項1は、発明の詳細な説明の記載と一義的に対応することから明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。請求項2?9についても同様である。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

イ 請求項2および請求項3は、「前記駆動規制手段が、」がいずれの述語に係るものかが不明瞭であり、明確でないと主張している。
そこで、「駆動規制手段」の意味するところについて、発明の詳細な説明を参酌すると、以下の記載がある。
「【0050】
装置200を駆動させる処理アプリケーションの記憶を処理手段10に分担させ、処理アプリケーションを実行させる設定情報をなす設定ファイルの記憶をサーバ用コンピュータ20に分担させ、処理アプリケーションと設定ファイルとを別々の媒体に記憶させている。実施例1では、処理アプリケーションと設定ファイルとが別々の媒体に記憶されていることが駆動規制手段とされる。
【0051】
例えば、サーバ用コンピュータ20が停止している状態、又は、情報接続手段30が不良の状態においては、処理手段10が実行可能であっても設定ファイルが読み出されず、装置200が駆動処理されることが規制される。換言すれば、前記の状態においては、駆動規制手段により装置の駆動が規制されているため、記録すべき事象が発生せず、処理記録が記録されない。そのため、時刻と共にサーバ用コンピュータ20に記録されている処理記録は、処理手段10が実行された全ての欠落のない唯一の記録とされ、同時性の要件を満たす真正な処理記録とされる。
【0052】
ここでデータ管理システム1の制御を、図3に示すフロー図を参照して説明する。まず、装置の処理手段が起動される(S10)。設定ファイルの読出処理に進み、サーバ用コンピュータからネットワークを通して各装置の設定情報をなす設定ファイルが読み出されたか判定される(S20)。設定ファイルが読み出されたら、読み出された設定ファイルに基づいて、処理手段に記憶されている処理アプリケーションが実行され、装置が駆動処理される(S30)。そして、処理記録がサーバ用コンピュータに記憶される(S40)。
【0053】
設定ファイルの読出処理(S20)において、設定ファイルの読出がされなかったら、設定ファイルの読出処理に戻る。終了処理ステップ(S50)に進むと、作業員の操作により終了処理がされたかが判定される。終了処理がされるまでは、処理手段が所定の処理を実行させる毎に、設定ファイルが読み出されるように、設定ファイルの読み出しステップ(S20)に戻り、処理アプリケーションの実行ステップと処理記録の記憶ステップ(S40)が繰り返される。終了処理(S50)がされると、制御終了ステップに進み(S60)、制御が終了される。」

「【0055】
データ管理システム2は、処理記録と設定ファイルと共に、処理アプリケーションをサーバ用コンピュータ25の記憶手段26が記憶し、処理アプリケーションが実行される毎に、処理手段16に処理アプリケーションを読み出させ実行し、実行毎に処理記録を記憶させている点において、実施例1と異なっている(図4参照)。実施例2においては、設定ファイルと処理アプリケーションとをサーバ用コンピュータ25に記憶させていることが駆動規制手段とされ、処理手段単独では実行できないようにしている。
【0056】
読み出された処理アプリケーションは、記憶手段17に一時的に記憶され、処理アプリケーションが実行され、各装置200が駆動処理される。そして、処理手段16が停止されると、記憶手段17から処理アプリケーションが消失され、これが実行毎に繰り返される。記憶手段17が揮発性メモリとされていると、電源が供給されている間は記憶が保持され、電源の供給がない状態で記憶が自動的に消失され、実行後に処理アプリケーションを削除する必要がなく好適である。」

これらの記載によると、請求項2における「駆動規制手段」の意味するところについて、【0050】?【0053】の記載から、駆動規制手段は、「装置200を駆動させる処理アプリケーションの記憶を処理手段10に分担させ、処理アプリケーションを実行させる設定情報をなす設定ファイルの記憶をサーバ用コンピュータ20に分担させ、処理アプリケーションと設定ファイルとを別々の媒体に記憶させている」ものであり、「処理手段が所定の処理を実行させる毎に、設定ファイルが読み出されるように、設定ファイルの読み出しステップ(S20)に戻り、処理アプリケーションの実行ステップと処理記録の記憶ステップ(S40)が繰り返される」ものである。
すると、請求項2における「前記駆動規制手段が、」の述語は、「前記装置を駆動させる処理アプリケーションの記憶を前記処理手段に分担させ、前記処理アプリケーションを実行させる前記設定情報をなす設定ファイルの記憶を前記サーバ用コンピュータに分担させ、前記処理手段が、前記装置を駆動させる毎に前記設定ファイルを読みだして装置を駆動させることとされ、」という記載に係るものと認められる。
また、請求項3における「駆動規制手段」の意味するところについて、【0055】?【0056】の記載から、駆動規制手段は、「処理記録と設定ファイルと共に、処理アプリケーションをサーバ用コンピュータ25の記憶手段26が記憶し、処理アプリケーションが実行される毎に、処理手段16に処理アプリケーションを読み出させ実行し、実行毎に処理記録を記憶させている」ものである。
すると、請求項3における「前記駆動規制手段が、」の述語は、「前記サーバ用コンピュータが、前記装置を駆動させる処理アプリケーションと、前記処理アプリケーションを実行させる前記設定情報をなす設定ファイルとを共に記憶させていると共に、記憶された前記設定ファイルを読出して前記処理アプリケーションを実行させて前記処理手段を駆動させることとされ、」という記載に係るものと認められる。
よって、請求項2および請求項3は明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

ウ 請求項2は、「できない」という否定的な表現を含み不明瞭であり、明確でないと主張している。
そこで、「できない」の意味するところについて、発明の詳細な説明を参酌すると、以下の記載がある。
「【0050】
装置200を駆動させる処理アプリケーションの記憶を処理手段10に分担させ、処理アプリケーションを実行させる設定情報をなす設定ファイルの記憶をサーバ用コンピュータ20に分担させ、処理アプリケーションと設定ファイルとを別々の媒体に記憶させている。実施例1では、処理アプリケーションと設定ファイルとが別々の媒体に記憶されていることが駆動規制手段とされる。
【0051】
例えば、サーバ用コンピュータ20が停止している状態、又は、情報接続手段30が不良の状態においては、処理手段10が実行可能であっても設定ファイルが読み出されず、装置200が駆動処理されることが規制される。換言すれば、前記の状態においては、駆動規制手段により装置の駆動が規制されているため、記録すべき事象が発生せず、処理記録が記録されない。そのため、時刻と共にサーバ用コンピュータ20に記録されている処理記録は、処理手段10が実行された全ての欠落のない唯一の記録とされ、同時性の要件を満たす真正な処理記録とされる。」

これらの記載によると、請求項2における「できない」の意味するところについて、【0050】?【0051】の記載から、「アプリケーションを」「実行できない」ことにより、「アプリケーション」が「駆動されない」ことと一義的に特定できる。
よって、請求項2は明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

エ 請求項6は、「重要事項レポート」における重要か否かの境界が不明瞭であり、明確でないと主張している。
しかし、「重要事項」とは、装置の処理に応じて、当業者が適宜決定するものと認められる。例えば、本件発明においては、発明の詳細な説明の【0072】?【0075】、図7に記載されているものが含まれ、装置がなす処理に応じて、当業者が適宜決定するものと認められる。
よって、請求項6は明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

オ 請求項8は、「地震の被害が及ばない地域」が存在するのか、そして、どのような地域を意味するのか不明瞭であり、明確でないと主張している。
そこで、「地震の被害が及ばない地域」の意味するところについて、発明の詳細な説明を参酌すると、以下の記載がある。
「【0081】
図8(C)図は、第2記憶手段72がサーバ用コンピュータのシステム全体を複製させると共に、インターネット により接続されて遠隔地に配置された第2サーバ用コンピュータ74に備えられているデータ管理システム7を示している。図8(B)図と同一の構成については、図8(B)図と同一の符号を付して説明を省略している。第2サーバ用コンピュータがインターネット31により接続されて遠隔地に配置されている点のみが図8(B)図と異なっている。ここで遠隔地とは、地震が発生した際に、第2サーバ用コンピュータ74が、サーバ用コンピュータ70が設置されている地域において予想される地震の被害が及ばない別の地域に設置されていることをいう。第2サーバ用コンピュータ74は、クラウドコンピューディングが利用されてもよい。」

【0081】の記載によると、請求項8における「地震の被害が及ばない地域」の意味するところについて、地震の被害を物理的に受けない地域を特定していると認められる。そして、地震の被害を物理的に受けない地域が存在することは明らかである。
よって、請求項8は明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

(3)特許法第36条第4項第1号について
請求項1?9の「終了情報が生じる場合に、装置を停止させることも駆動を続けることもできない」場合について、発明の詳細な説明に当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないと主張している点について、発明の詳細な説明には、上記(1)イにおいて述べたとおりの記載がある。
上記(1)イの記載によると、「終了情報」とは、【0043】【0045】に記載されているように「装置の駆動終了操作」にともない記録されるものであり、申立人が主張する「情報接続手段が機能しなくなった場合に、処理手段が装置を停止させると出力される」ものではない。
さらに、装置の駆動終了操作にともなう管理システムの制御についても、【0053】に「終了処理がされるまでは、処理手段が所定の処理を実行させる毎に、設定ファイルが読み出されるように、設定ファイルの読み出しステップ(S20)に戻り、処理アプリケーションの実行ステップと処理記録の記憶ステップ(S40)が繰り返される」、「終了処理(S50)がされると、制御終了ステップに進み(S60)、制御が終了される」と記載されている。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できるよう記載されており、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。請求項2?9に係る発明についても同様である。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-03 
出願番号 特願2020-35509(P2020-35509)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G06F)
P 1 651・ 536- Y (G06F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大野 朋也  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 上田 智志
相崎 裕恒
登録日 2020-09-11 
登録番号 特許第6762593号(P6762593)
権利者 久米機電工業株式会社
発明の名称 データ管理システム  
代理人 高木 将晴  
代理人 青山 秀夫  

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