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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01M
管理番号 1374966
異議申立番号 異議2021-700292  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-19 
確定日 2021-06-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6758800号発明「蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6758800号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6758800号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年2月24日に出願され、令和2年9月4日にその特許権の設定登録がされ、同年9月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?8に係る特許に対し、令和3年3月19日に特許異議申立人浮田朋寛(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。


2 本件発明
特許第6758800号の請求項1?8の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、全体の発明を「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備えた蚊類防除用エアゾールであって、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1?0.4mLとなり、且つ噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3?10.0g・fとなるように調整され、
前記エアゾール原液は、前記噴射口から、処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子、及び処理空間に浮遊する浮遊性粒子として噴射され、
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率は、0.05?5%である蚊類防除用エアゾール。
【請求項2】
前記耐圧容器に封入される前記エアゾール原液(a)と前記噴射剤(b)との容量比率(a/b)は、10/90?50/50である請求項1に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項3】
前記有機溶剤は、高級脂肪酸エステル、及びアルコール類からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項4】
前記害虫防除成分は、30℃における蒸気圧が2×10^(-4)?1×10^(-2)mmHgである請求項1?3の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項5】
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果持続時間は、33m^(3)以下の空間に対して20時間以上である請求項1?4の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項6】
前記噴射口は、0.2?1.0mmの噴口径を有する請求項1?5の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項7】
請求項1?6の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾールを用いて前記エアゾール原液を処理空間に噴射して蚊類をノックダウン又は死滅させる蚊類防除方法。
【請求項8】
前記エアゾール原液の処理空間への噴射を24時間毎に1回実行する請求項7に記載の蚊類防除方法。」


3 申立理由の概要
申立人は、下記の甲第1号証?甲第7号証を提出し、本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載の発明であるか、甲第1号証に記載の発明(及び周知技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項1?4、6、7の特許に係る発明は、甲第2号証に記載の発明であるか、甲第2号証に記載の発明(及び周知技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は特許法第29条第1項第3号に該当するか、または第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、請求項1?8に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1?8に係る特許は取り消されるべきものである旨、主張する。

〔証拠〕
甲第1号証:特開2014-19674号公報
甲第2号証:特開2010-280633号公報
甲第3号証:特開2002-220301号公報
甲第4号証:特開2005-68134号公報
甲第5号証:特表2009-528272号公報
甲第6号証:特表2013-529971号公報
甲第7号証:特開2019-103820号公報
(以下、「甲第1号証」等を、それぞれ「甲1」等という。)


4 甲各号証の記載
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔害虫防除方法に関し、更に詳しくは、室内に一定量噴霧された殺虫薬剤粒子を、室内に飛翔もしくは係留する飛翔害虫に効率よく接触させて高い防除効果を奏しうる飛翔害虫防除方法に関するものである。」

(イ)「【実施例1】
【0026】
メトフルトリン4.0w/v%をエタノールに溶解してエアゾール原液を調製した。このエアゾール原液22.5mLと液化石油ガス52.5mL[エアゾール原液/液化ガス比率:30/70(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、本発明で用いる飛翔害虫防除用エアゾール剤を得た。
このエアゾール剤を一定量(0.4mL)噴霧した時、噴射距離20cmにおける噴射力は6.5gfで、平均噴霧粒子径は24μmであった。また、噴霧粒子数は6×10^(7)個であった。
【0027】
ほぼ密閉した6畳の部屋にショウジョバエ類が侵入してきたため、やや斜め上方に向けて前記エアゾール剤を噴霧した。このエアゾール剤は、殺虫薬剤粒子の飛翔害虫に対する接触効率が改善され、3時間以上にわたりショウジョバエ類はもちろん蚊類に対しても優れた防除効果を示し、非常に実用性の高いものであった。」

イ 甲1に記載の発明
上記アからみて、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「室内に一定量噴霧された殺虫薬剤粒子を、室内に飛翔もしくは係留する飛翔害虫に効率よく接触させて高い防除効果を奏しうる飛翔害虫防除方法であって、
メトフルトリン4.0w/v%をエタノールに溶解してエアゾール原液を調製し、このエアゾール原液22.5mLと液化石油ガス52.5mL[エアゾール原液/液化ガス比率:30/70(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、飛翔害虫防除用エアゾール剤を得、このエアゾール剤を一定量(0.4mL)噴霧した時、噴射距離20cmにおける噴射力は6.5gfで、平均噴霧粒子径は24μmであり、噴霧粒子数は6×10^(7)個であって、殺虫薬剤粒子の飛翔害虫に対する接触効率が改善され、3時間以上にわたりショウジョバエ類はもちろん蚊類に対しても優れた防除効果を示した、飛翔害虫防除方法。」

(2)甲2
ア 甲2の記載
甲2には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除方法に関するものである。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)害虫防除成分として30℃における蒸気圧が2×10^(-4)?1×10^(-2)mmHgであるピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上、並びに溶剤として炭素数が2?3の低級アルコールを含むエアゾール原液と噴射剤とからなり、エアゾール原液/噴射剤比率が20?50/50?80(容量比)で、しかも噴射距離20cmにおける噴射力が3.0g・f以上である定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫防除用エアゾールを屋内で一定量噴霧処理し、その処理空間を5?12時間にわたり飛翔害虫並びに匍匐害虫のいずれも防除可能な雰囲気とする害虫防除方法。・・・」

(ウ)「【実施例1】
【0021】
メトフルトリン4.0w/v%をエタノールに溶解してエアゾール原液を調製した。このエアゾール原液12mLと液化石油ガス18mL[エアゾール原液/噴射剤比率:40/60(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、本発明で用いる害虫防除用エアゾールを得た。
このエアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力は6.5g・fで、10?50μmの噴霧粒子が全体の80%を占めた。
【0022】
ほぼ密閉した6畳の部屋で、やや斜め上方に向けて前記エアゾールを0.6mL噴霧した。このエアゾールは、全体の噴霧粒子のうちの30%が噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着し、7時間以上にわたり蚊等の飛翔害虫を防除することはもちろん、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫も寄せ付けず、非常に実用性の高いものであった。」

イ 甲2に記載の発明
上記アからみて、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「メトフルトリン4.0w/v%をエタノールに溶解してエアゾール原液を調製し、このエアゾール原液12mLと液化石油ガス18mL[エアゾール原液/噴射剤比率:40/60(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、害虫防除用エアゾールを得、このエアゾールを0.6mL噴霧した時、エアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力は6.5g・fで、10?50μmの噴霧粒子が全体の80%を占めたものであって、全体の噴霧粒子のうちの30%が噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着し、7時間以上にわたり蚊等の飛翔害虫を防除することはもちろん、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫も寄せ付けなかった、飛翔害虫並びに匍匐害虫のいずれも防除可能な雰囲気とする害虫防除方法。」


5 当審の判断
(1)新規性(29条1項3号)及び進歩性(同条2項)について
ア 甲1を主引用例として検討
(ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、両発明は、
「害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備えた蚊類防除用エアゾールであって、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.4mLとなり、且つ噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において6.5g・fとなるように調整され、
前記エアゾール原液は、前記噴射口から、処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子、及び処理空間に浮遊する浮遊性粒子として噴射される蚊類防除用エアゾール。」で一致するものの、
本件発明1は、「前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率は、0.05?5%である」のに対し、甲1発明は、そのような特定がない点(以下「相違点1」という。)で相違している。

この相違点1について検討すると、相違点1に係る構成は、申立人が提出する甲3?甲7には記載されておらず、当該構成が、本件特許の出願前に公知または周知の技術であるとも認められない。
よって、本件発明1は、甲1発明と同一ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)申立人は、「害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率」について、これを調製するための要素として、請求項1に記載のもののほかに、本件明細書中で(i)体積積算分布での90%粒子径(以下、単に「90%粒子径」という。)、(ii)エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が開示されているところ、まず(i)について、甲1発明の実施例1では平均噴霧粒子径が24μmであって、これは体積積算分布での50%粒子径を示すものと解され(甲3、甲4)、当該分野において、一般に90%粒子径は平均粒子径の3倍を超え得ないことを考えると(甲5?甲7)、甲1発明の90%粒子径は本件発明1の実施例1?10に記載の範囲(14?73μm)に含まれる蓋然性が高く、次に(ii)について、甲1発明の実施例1では原液/ガス比率は30/70であることは、本件発明1の実施例1?10の範囲(10/90?40/60)に含まれるから、甲1発明は、本件発明1の「前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率は、0.05?5%である」との範囲に含まれる蓋然性が高い旨、主張する(特許異議申立書17頁下から6行?18頁18行)。
この申立人の主張について検討する。
本件明細書をみると、本件発明の課題を解決するための要素として、請求項1にも記載された噴射容量及び噴射力に加えて、害虫防除成分、有機溶剤及び噴射剤の成分、含有量や、上記害虫防除成分の気中残存率の数値範囲が記載され、また、本件明細書の表1中の実施例として、粒子の90%粒子径の数値が記載されているものの、上記噴射容量や噴射力、害虫防除成分、有機溶剤及び噴射剤の成分や含有量は相互に関連し合って上記害虫防除成分の気中残存率に影響を及ぼすと理解するのが自然であるから、上記の明細書等に記載された各要素で示される範囲内において、適宜選択することで達せられると認められる。
よって、単に、甲1発明のある特定の数値が、本件明細書に記載の各要素の数値範囲内にあるからといって、甲1発明の上記の気中残存率が、本件発明1の上記範囲を満たす蓋然性が高いとまではいえない。
特に、甲1発明の平均噴霧粒子径が24μmであることをもって、甲1発明の90%粒子径が、本件発明1の実施例1?10に記載の範囲(14?73μm)に含まれる蓋然性が高いとまではいえないし、また、明細書の記載をみても、上記範囲であることが、上記の気中残存率を調製する要素であるとの記載もない。
したがって、上記(i)及び(ii)の条件により、甲1発明の「前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率」が、本件発明1のように「0.05?5%」の範囲であるとは認められない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(ウ)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(ア)で検討した理由と同じ理由により、甲1発明と同一ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲2を主引用例として検討
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲2発明を対比すると、両発明は、
「害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備えた蚊類防除用エアゾールであって、
前記噴射ボタンを1回押下したときに所定の噴射容量となり、且つ噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において6.5g・fとなるように調整され、
前記エアゾール原液は、前記噴射口から、処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子、及び処理空間に浮遊する浮遊性粒子として噴射される蚊類防除用エアゾール。」で一致するものの、
「前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量」が、本件発明1は、「0.1?0.4mL」であるのに対し、甲2発明は、0.6mLである点(以下「相違点A」という。)、及び、
本件発明1は、「前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率は、0.05?5%である」のに対し、甲2発明は、そのような特定がない点(以下「相違点B」という。)で相違している。
そこで、事案に鑑み、まずは相違点Bについて検討すると、相違点Bに係る構成は、申立人が提出する甲3ないし甲7には記載されておらず、また、当該構成が、本件特許の出願前に公知または周知の技術であるとも認められない。
よって、本件発明1は、甲2発明と同一ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)申立人は、上記相違点Bの構成に関して、「害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率」について、これを調製するための要素として、請求項1に記載のもののほかに、本件明細書中で(i)90%粒子径、(ii)エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が開示されているところ、まず(i)について、甲2には「噴霧粒子の粒子径分布において、10?50μmの噴霧粒子が全体の60%以上」であることが記載され、また、前置報告書で指摘されたように甲2発明の実施例2の90%粒子径は62.9μmであるから、本件発明1の実施例1?10に記載の範囲に含まれる蓋然性が高く、次に(ii)について、甲2発明の実施例1ではエアゾール原液/噴射剤比率が40/60(容積比)であることが記載され、本件発明1の実施例1?10の範囲内にあるから、甲2発明は、「前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率は、0.05?5%である」との範囲に含まれる蓋然性が高い旨、主張する(特許異議申立書22頁10行?23頁1行)。
この申立人の主張について検討する。
本件明細書をみると、本件発明の課題を解決するための要素として、請求項1にも記載された噴射容量及び噴射力に加えて、害虫防除成分、有機溶剤及び噴射剤の成分、含有量や、上記害虫防除成分の気中残存率の数値範囲が記載され、また、本件明細書の表1中の実施例として、粒子の90%粒子径の数値が記載されているものの、上記噴射容量や噴射力、害虫防除成分、有機溶剤及び噴射剤の成分や含有量は相互に関連し合って上記害虫防除成分の気中残存率に影響を及ぼすと理解するのが自然であるから、上記の明細書等に記載された各要素で示される範囲内において、適宜選択することで達せられると認められる。
よって、単に、甲2発明のある特定の数値が、本件明細書に記載の各要素の数値範囲内にあるからといって、甲2発明の上記の気中残存率が、本件発明1の上記範囲を満たす蓋然性が高いとまではいえない。
特に、甲2発明の実施例2の90%粒子径が62.9μmとなるかどうか不明であって、仮にそうであったとしても、本件明細書には、上記範囲であることが、上記の気中残存率を調製する要素であるとの記載はないことから、甲2発明の実施例2の90%粒子径62.9μmが、本件発明1の実施例1?10に記載の範囲(14?73μm)に含まれるとしても、そのことをもって、甲2発明の上記の気中残存率が、本件発明1のように、「0.05?5%」の範囲であるとは認められない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(ウ)本件発明2?4、6、7について
本件発明2?4、6、7は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(ア)で検討した理由と同じ理由により、甲2発明と同一ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)サポート要件(36条6項1号)について
本件発明のサポート要件違反について、申立人は、仮に噴射容量及び噴射力その他の全ての本件発明の構成要件を満たし、かつ、害虫防除成分であるトランスフルトリンの量が比較例2と同じであるような例を想定すると、これが比較例2と同様に本件発明の効果を奏しない可能性が高く、少なくとも当該効果を奏するかどうかは本件明細書及び技術常識から明らかでないから、噴射容量、噴射力、気中残存率等の本件発明の各要件を満たしたからといって、本件発明の課題を解決できるということを当業者は理解できないので、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるため、本件特許は、サポート要件違反である旨、主張する(特許異議申立書25頁11?23行)。
そこで、上記主張について検討する。
上記仮の例において、そのような実験結果が示されていないことから、本件発明の効果を奏するかどうかは不明であるところ、本件明細書に記載される、噴射容量、噴射力、気中残存率等の本件発明の各要件を満たした実施例1?10は、本件発明の効果を奏するのであるから、本件明細書の記載及び技術常識により、当業者が本件発明の課題を解決できる範囲を超えるものではない。
よって、本件発明は、サポート要件違反とはいえない。

(3)明確性要件(36条6項2号)について
本件発明1ないし8の明確性要件違反について、申立人は、「付着性粒子」及び「浮遊性粒子」について、本件明細書には、付着性粒子の好ましい90%粒子径は20?80μmと記載されているが、付着性粒子の90%粒子径が仮に20μmの場合を想定すると、粒子径が正規分布に従う限り粒子径が20μm未満の浮遊性粒子として機能する粒子も含まれることとになり、両者を区別して特定することができないし、さらに、本件明細書(【0048】、【0050】)では、粒子が「付着性」であるか「浮遊性」であるかは、その粒子径によって決定されるところ、単一の粒子の直径を表した「粒子径」と、粒度分布の代表値に過ぎない「90%粒子径」とが混同して用いられており、「付着性粒子」及び「浮遊性粒子」の区別をさらに不明確にしているから、発明特定事項として記載されている「付着性粒子」と「浮遊性粒子」の意味するところが明確でない旨、主張する(特許異議申立書26頁6?23行)。
そこで、上記主張について検討する。
室内の空気中に放出される粒子は、直ぐ床や壁に付着するもの、一旦空気中に浮遊するものの時間とともに徐々に床や壁に付着するもの、長時間浮遊するものが存在することは、技術常識であって、特に徐々に付着する粒子については、粒子径の特定の数値の大小で浮遊性か付着性かを区別できるものではなく、ある程度の範囲の粒子径で存在するものと考えられ、さらに、特定の粒子径であっても、浮遊性と付着性との境界あたりの粒子は、存在する空気中の状況により、浮遊したり付着したりすると考えられる。
よって、付着性粒子及び浮遊性粒子は、ある特定の粒子径によって、明確に区別できるものではない。
そして、本件発明の解決しようとする課題は、「本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、飛翔害虫の中でも、特に蚊類に対して優れた防除効果を長時間に亘って発揮することができ、しかも、人体やペットへの影響を低減した蚊類防除用エアゾール、及び当該蚊類防除用エアゾールを用いた蚊類防除方法を提供することを目的とする。」(【0011】)ことであって、当該課題を解決するためには、「・・・エアゾール原液によって付着性粒子、及び浮遊性粒子がバランス良く形成され、夫々の粒子が最適な状態で存在し、夫々の役割を分担して害虫防除効果を発揮することができる。」(【0039】)ものであれば良く、本件発明は、付着性粒子と浮遊性粒子の数や割合の定義等が必須のものとも認められない。
よって、本件発明1ないし8は、「付着性粒子」及び「浮遊性粒子」について、不明確とはいえない。


6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-07 
出願番号 特願2015-33652(P2015-33652)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01M)
P 1 651・ 537- Y (A01M)
P 1 651・ 113- Y (A01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後藤 慎平  
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 田中 洋行
住田 秀弘
登録日 2020-09-04 
登録番号 特許第6758800号(P6758800)
権利者 大日本除蟲菊株式会社
発明の名称 蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法  
代理人 沖中 仁  
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