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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1374969
異議申立番号 異議2021-700313  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-29 
確定日 2021-06-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6763759号発明「磁気特性に優れた二相系のステンレス鋼線、及び篩用、ネットコンベア用又はフィルタ用の磁性金網製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6763759号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6763759号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,平成28年11月18日(優先権主張:平成27年11月20日)を出願日とする特許出願(特願2016-238006号)に係るものであって,令和2年9月14日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和2年9月30日である。)。
その後,令和3年3月29日に,本件特許の請求項1?7に係る特許に対して,特許異議申立人である笹井栄治(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
オーステナイト相及びフェライト相の結晶組織を持つ磁気特性に優れた金網製品用の二相系ステンレス鋼線であって,
前記二相系ステンレス鋼線は,質量%で,C:0.06%以下,Si:1.0%以下,Mn:5.5%以下,Ni:1.0%以上5.5%以下,Cr:21.22%以上28.0%以下,Mo:0.05%以上0.6%以下,及びN:0.06%以上0.35%以下を含み,残部がFe及び不可避不純物からなり,
前記二相系ステンレス鋼線は,700MPa以上950MPa以下の引張強さを具え,下記式(1)で定義する耐力比が60%以上75%未満であることを特徴とする磁気特性に優れた二相系ステンレス鋼線。
・式(1) 耐力比(%)=0.2%耐力(MPa)/引張強さ(MPa)×100
【請求項2】
前記二相系ステンレス鋼線は,任意の断面におけるフェライト相の面積率が30%以上60%以下であり,下記式(2)で定義するNi当量が2.8以上20.55以下,下記式(3)で定義するCr当量が21.55以上30.1以下であり,Ni+Moの質量%の合計を5.5%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の二相系ステンレス鋼線。
・式(2) Ni当量=Ni+30C+0.5Mn+30N
・式(3) Cr当量=Cr+Mo+1.5Si
【請求項3】
前記二相系ステンレス鋼線は,下記式(4)で定義する孔食指数(PREN)が20以上40以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の二相系ステンレス鋼線。
・式(4) 孔食指数=Cr+3.3Mo+16N
【請求項4】
前記二相系ステンレス鋼線は,更に,質量%で0.1%?0.3%のCu,質量%でCの4?6倍のTi,質量%でCの8?13倍のNbのいずれか1種類以上の第三元素を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の二相系ステンレス鋼線。
【請求項5】
前記二相系ステンレス鋼線は,Ni+Moの質量%の合計を4.5%以下とし,かつ,Si:0.8%以下,Mn:1.0%以上5.0%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の二相系ステンレス鋼線。
【請求項6】
磁気特性を利用する用途のための網体であって,請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のステンレス鋼線を経線又は緯線として,メッシュ網体に製網されてなる篩用,ネットコンベア用又はフィルタ用の磁性金網製品。
【請求項7】
磁気特性を利用する用途のための網体であって,請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のステンレス鋼線が,螺旋状又はクリンプ状に曲げられた成形体を連続的に繋ぎ合わせ,又は,嵌合されて形成されてなる篩用,ネットコンベア用又はフィルタ用の磁性金網製品。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1?7に係る特許は,下記1のとおり,特許法113条2号に該当する。証拠方法は,下記2の甲第1号証?甲第5号証(以下,単に「甲1」等という。)である。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1?7は,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,同法113条2号に該当する。
2 証拠方法
・甲1 米国特許出願公開第2010/0000636号明細書
・甲2 特開2002-69586号公報
・甲3 特開2004-332109号公報
・甲4 JIS G 3553(2002),「クリンプ金網」
・甲5 JIS G 3554(2002),「きっ甲金網」

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1には,二相ステンレス鋼について記載されているところ([0001]),当該二相ステンレス鋼は,少なくとも,それぞれ所定量のC,Si,Mn,Ni,Cr,Mo,Nを含み,オーステナイトと35?65体積%のフェライトからなる微細構造を有するものであることが記載されている(請求項1)。
また,甲1には,上記二相ステンレス鋼が,直径0.010mmから20mmのダイ引抜きワイヤとして,化学薬品,鉱石又は食品の濾過のための織られた又は編まれた金属織物の製造に用いられることが記載されている(請求項20,[0050]?[0057](特に[0054]))。
さらに,甲1には,上記二相ステンレス鋼の実施例として,所定の化学成分を有する「14441」,「8768」が記載されている([0110],[0111],表1)。
甲1の上記記載によれば,特に実施例である「14441」,「8768」にそれぞれ着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「オーステナイトと35?65体積%のフェライトからなる微細構造を有し,化学薬品,鉱石又は食品の濾過のための織られた又は編まれた金属織物の製造に用いられる,二相ステンレス鋼からなる直径0.010mmから20mmのダイ引抜きワイヤであって,
上記二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤは,
質量%で,C:0.016%,Si:0.430%,Mn:1.282%,Ni:2.539%,Cr:23.07%,Mo:0.249%,N:0.212%を含み,
さらに,Al:0.014%,Cu:0.301%,O:0.0049%,P:0.023%,S:0.0009%,V:0.121%,W:<0.010%,Ti:0.0048%,Zr:0.0048%,Co:<0.002%,Ca:<0.0005%,Nb:<0.002%,Se:<0.002%,As:<0.002%,Ce+La:<0.0002%,Mg:<0.0005%,B:<0.0005%を含み,
残部が鉄と製錬から生じる不純物からなる,
二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤ。」(以下,「甲1発明1」という。)

「オーステナイトと35?65体積%のフェライトからなる微細構造を有し,化学薬品,鉱石又は食品の濾過のための織られた又は編まれた金属織物の製造に用いられる,二相ステンレス鋼からなる直径0.010mmから20mmのダイ引抜きワイヤであって,
上記二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤは,
質量%で,C:0.020%,Si:0.44%,Mn:1.25%,Ni:2.50%,Cr:22.83%,Mo:0.35%,N:0.21%を含み,
さらに,Al:0.0042%,Cu:0.15%,O:0.0042%,P:0.024%,S:0.0005%,V:0.064%,W:0.019%,Ti:0.007%,Zr:0.0042%,Co:0.041%,Ca:0.0003%,Nb:0.0009%,Se:<0.002%,As:<0.002%,Ce+La:<0.0002%,Mg:0.0004%,B:0.0024%を含み,
残部が鉄と製錬から生じる不純物からなる,
二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤ。」(以下,「甲1発明2」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1及び甲1発明2とを対比する。
甲1発明1及び甲1発明2における「オーステナイトと35?65体積%のフェライトからなる微細構造」,「化学薬品,鉱石又は食品の濾過のための織られた又は編まれた金属織物の製造に用いられる,二相ステンレス鋼からなる直径0.010mmから20mmのダイ引抜きワイヤ」は,それぞれ,本件発明1における「オーステナイト相及びフェライト相の結晶組織」,「金網製品用の二相系ステンレス鋼線」に相当する。
甲1発明1及び甲1発明2における微細構造に含まれるフェライトは,磁気を帯びているため(甲1[0114]),甲1発明1及び甲1発明2の二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤは,一定程度は磁気特性に優れているものと認められるから,本件発明1における「磁気特性に優れた」二相系ステンレス鋼線に相当する。
本件発明1における二相系ステンレス鋼線の化学成分と,甲1発明1及び甲1発明2における二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤの化学成分とは,少なくとも,C,Si,Mn,Ni,Cr,Mo,Nを含む点で共通し,これらの各成分の含有量も重複一致する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明1及び甲1発明2とは,
「オーステナイト相及びフェライト相の結晶組織を持つ磁気特性に優れた金網製品用の二相系ステンレス鋼線であって,
前記二相系ステンレス鋼線は,質量%で,C:0.06%以下,Si:1.0%以下,Mn:5.5%以下,Ni:1.0%以上5.5%以下,Cr:21.22%以上28.0%以下,Mo:0.05%以上0.6%以下,及びN:0.06%以上0.35%以下を含む,磁気特性に優れた二相系ステンレス鋼線。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,二相系ステンレス鋼線が,「700MPa以上950MPa以下の引張強さを具え,下記式(1)」「耐力比(%)=0.2%耐力(MPa)/引張強さ(MPa)×100」「で定義する耐力比が60%以上75%未満である」のに対して,甲1発明1及び甲1発明2では,二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤが,「700MPa以上950MPa以下の引張強さを具え,下記式(1)」「耐力比(%)=0.2%耐力(MPa)/引張強さ(MPa)×100」「で定義する耐力比が60%以上75%未満である」かどうか不明である点。
・相違点2
本件発明1では,二相系ステンレス鋼線が,それぞれ所定量のC,Si,Mn,Ni,Cr,Mo,Nを含むほかは,「残部がFe及び不可避不純物からなり」,必要不可欠な合金成分としては「Cu」を含まないのに対して,甲1発明1及び甲1発明2では,二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤが,それぞれ所定量のC,Si,Mn,Ni,Cr,Mo,Nを含むほかに,さらに,それぞれ所定量の「Al,Cu,O,P,S,V,W,Ti,Zr,Co,Ca,Nb,Se,As,Ce+La,Mg,B」を含み,「残部が鉄と製錬から生じる不純物からな」り,それぞれ,「Cu:0.301%」,「Cu:0.15%」を含む点。

イ 相違点1の検討
(ア)甲1には,二相ステンレス鋼からなる直径0.010mmから20mmのダイ引抜きワイヤの「引張強さ」,「耐力比」については,明記されていない。
これに対して,甲1の表5には,甲1発明1に対応する「14441」から形成された鍛造棒のR_(m)(引張強さ),R_(e0.2)(0.2%耐力)が,それぞれ,716MPa,477MPaであること,また,甲1発明2に対応する「8768」から形成された熱延板のR_(m)(引張強さ),R_(e0.2)(0.2%耐力)が,それぞれ,743MPa,519MPaであることが記載されている([0123]?[0125],表5)。
これらの各数値から「耐力比」を計算すると,上記「14441」では,66.6%(=477MPa/716MPa×100)となり,上記「8768」では,69.9%(=519MPa/743MPa×100)となる。
以上によれば,上記「14441」,「8768」は,いずれも,本件発明1における「700MPa以上950MPa以下の引張強さ」,「耐力比が60%以上75%未満」を満たすといえる。
しかしながら,表5に記載されるR_(m)(引張強さ),R_(e0.2)(0.2%耐力)は,上記のとおり,鍛造棒や熱延板のものであり,上記ダイ引抜きワイヤのものではない。
また,「14441」や「8768」から上記ダイ引抜きワイヤを形成した場合に,そのR_(m)(引張強さ),R_(e0.2)(0.2%耐力)が,鍛造棒や熱延板のR_(m)(引張強さ),R_(e0.2)(0.2%耐力)と当然に同じになるとはいえず,また,同じになるように設定する動機付けがあるともいえない。
そうすると,甲1発明1及び甲1発明2において,甲1の記載に基づいて,上記ダイ引抜きワイヤの「引張強さ」を「700MPa以上950MPa以下」とするとともに,「耐力比」を「60%以上75%未満」とすることが動機付けられるとはいえない。

(イ)a 甲2には,耐食性と機械的特性とを向上でき,精密フィルターやプリント印刷用ハイメッシュ材などに好適に使用できる高強度ステンレス鋼極細線について記載されている(【0001】)。
また,甲2には,上記高強度ステンレス鋼極細線は,本質的に0.05?0.10wt%のC,1.0wt%以下のSi,2.0wt%以下のMn,10?14wt%のNi,16?18wt%のCr,2?3wt%のMo,0.15?0.3wt%のNを含むとともに,値A(=413-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-9.5Ni-18.5Mo)を-180?-300とし,伸線加工と焼きなまし処理によって線径5?100μmの軟質細線にしたものであり(請求項1),熱処理によってオーステナイト組織となる(【0019】,【0034】)ことが記載されている。
さらに,甲2には,ハイメッシュに製網加工する場合において,加工性を向上し,目ずれや変形などを軽減するために,高強度ステンレス鋼極細線の引張り強さ(σ)を900?1300MPaとするとともに,引張り強さ(σ)と0.2%耐力(τ)との比率である耐力比(σ/τ×100)を60%以上とすることが記載されており(請求項2,【0037】),本件発明1における「700MPa以上950MPa以下の引張強さ」,「耐力比が60%以上75%未満」に関連する技術的事項が記載されているといえる。
b ここで,甲1発明1及び甲1発明2における二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤは,化学薬品,鉱石又は食品の濾過のための織られた又は編まれた金属織物の製造に用いられるものであるのに対して,甲2に記載される上記高強度ステンレス鋼極細線は,精密フィルターやプリント印刷用ハイメッシュ材などに好適に使用できるものであるから,両者はいずれもステンレス鋼線に関するものである点で共通し,用途の点でも類似しているといえる。
しかしながら,甲1発明1及び甲1発明2における二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤでは,Ni,Cr,Moの含有量が,それぞれ,「Ni:2.539%,Cr:23.07%,Mo:0.249%」,「Ni:2.50%,Cr:22.83%,Mo:0.35%」であり,組織がいずれもオーステナイトとフェライトからなる二相組織であるのに対して,甲2に記載される上記高強度ステンレス鋼極細線では,Ni,Cr,Moの含有量が,「10?14wt%のNi,16?18wt%のCr,2?3wt%のMo」であり,組織がオーステナイト組織である点で,両者は異なるものである。
合金は,一般に,化学成分や組織が異なれば,その特性も異なることが通常であることを踏まえると,上記のとおり,化学成分の点でも組織の点でも異なる両者を組み合わせること,すなわち,甲1発明1及び甲1発明2における二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤにおいて,甲2に記載される上記高強度ステンレス鋼極細線に関する技術的事項を適用することが,動機付けられるとはいえない。
c また,甲2には,上記aのとおり,確かに,高強度ステンレス鋼極細線の引張り強さ(σ)を900?1300MPaとするとともに,耐力比(σ/τ×100)を60%以上とすることが記載されている。
しかしながら,甲2には,上記高強度ステンレス鋼極細線の実施例(表1,表2の実施例品1,実施例品2)としては,引張り強さ(σ)と耐力比(σ/τ×100)の組み合わせが,「1131MPa,95.1%」(940℃,0.030mm),「1143MPa,95.4%」(940℃,0.050mm),「964MPa,69.9%」(1100℃,0.030mm),「1014MPa,69.3%」(1100℃,0.050mm),「1131MPa,94.7%」(940℃,0.030mm),「1131MPa,95.1%」(940℃,0.050mm(「0.030mm」は誤記と考えられる。))であるものが記載されているにすぎず,いずれの実施例も,本件発明1における「700MPa以上950MPa以下の引張強さ」と「耐力比が60%以上75%未満」の両者を満たすものではない。
この点,甲2には,実施例品1,実施例品2は,940℃の熱処理において1100MPa以上の引張強さを備え,耐力比も95%と優れた機械的特性をもっていることが確認でき,メッシュ加工を良好に行うことができたことが記載されており(【0046】),より高い引張強さ,より高い耐力比が望ましいことが記載されているといえる。
以上によれば,甲2には,ハイメッシュに製網加工する場合において,加工性を向上し,目ずれや変形などを軽減するために,高強度ステンレス鋼極細線の引張り強さ(σ)を「700MPa以上950MPa以下」とするとともに,耐力比(σ/τ×100)を「60%以上75%未満」とすることが記載されているとはいえない。
そうすると,甲1発明1及び甲1発明2において,甲2の上記記載に基づいて,二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤの「引張強さ」を「700MPa以上950MPa以下」とするとともに,「耐力比」を「60%以上75%未満」とすることが動機付けられるとはいえない。
d もっとも,甲2には,引張り強さ(σ)と耐力比(σ/τ×100)の組み合わせが,「743MPa,60.0%」(940℃,0.030mm),「724MPa,60.6%」(940℃,0.050mm)であるものが記載されており(表2),いずれも,本件発明1における「700MPa以上950MPa以下の引張強さ」と「耐力比が60%以上75%未満」の両者を満たすものである。
しかしながら,これらの組み合わせは,比較例品2(Nの含有量(表1)が甲2の請求項1の条件から外れる。)に関するものであり,甲2においては,1000MPa以下の強度で耐力も不十分なものであったとされるものであるから(【0047】),このような比較例品2に着目して,甲1発明1及び甲1発明2において,二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤの「引張強さ」を「700MPa以上950MPa以下」とするとともに,「耐力比」を「60%以上75%未満」とすることが動機付けられるとはいえない。

(ウ)甲3?5には,甲1発明1及び甲1発明2において,二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤの「引張強さ」を「700MPa以上950MPa以下」とするとともに,「耐力比」を「60%以上75%未満」とすることを動機付ける記載は見当たらない。

(エ)以上によれば,甲1発明1又は甲1発明2において,二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤの「引張強さ」を「700MPa以上950MPa以下」とするとともに,「耐力比」を「60%以上75%未満」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 相違点2の検討
甲1発明1及び甲1発明2における二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤには,それぞれ,「Cu:0.301%」,「Cu:0.15%」が含まれている。
甲1には,二相ステンレス鋼について記載されているところ([0001]),当該二相ステンレス鋼は,質量%で「0.11%≦Cu≦0.50%」を含むものであることが記載されている(請求項1)。
また,甲1の記載([0007])によれば,甲1に記載された発明の目的は,高い耐食性を示すステンレス鋼を提供することを含むものと解されるが,銅(Cu)は,オーステナイト形成元素であり,質量%で0.11?0.50%,好ましくは,0.15?0.40%の量で存在し,耐食性を向上させる成分であることが記載されている([0068])。
甲1の上記記載によれば,Cuは,甲1に記載される二相ステンレス鋼において,不可避不純物ではなく,必要不可欠な合金成分であると認められる。
そして,そのことは,甲1発明1及び甲1発明2における二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤにおいても同様であるから,このような必要不可欠な合金成分であるCuを含まないものとすることが動機付けられるとはいえず,むしろ阻害されているといえる。
そうすると,甲1発明1又は甲1発明2において,二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤに必要不可欠な合金成分としてそれぞれ含まれる「Cu:0.301%」,「Cu:0.15%」を含まないものとすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。

エ 小括
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2及び3についても同様に,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明4について
本件発明4と甲1発明1及び甲1発明2とを対比すると,上記(2)アと同様,両者は,少なくとも,上記相違点1と同様の点で相違するが,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,甲1発明1又は甲1発明2において,二相ステンレス鋼からなるダイ引抜きワイヤの「引張強さ」を「700MPa以上950MPa以下」とするとともに,「耐力比」を「60%以上75%未満」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明4は,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明5?7について
本件発明5?7は,本件発明1又は4を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2),(4)で述べたとおり,本件発明1及び4が,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明5?7についても同様に,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)まとめ
以上のとおり,本件発明1?7は,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-07 
出願番号 特願2016-238006(P2016-238006)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀧澤 佳世  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 祢屋 健太郎
井上 猛
登録日 2020-09-14 
登録番号 特許第6763759号(P6763759)
権利者 関西金網株式会社 日本精線株式会社
発明の名称 磁気特性に優れた二相系のステンレス鋼線、及び篩用、ネットコンベア用又はフィルタ用の磁性金網製品  
代理人 浦 重剛  
代理人 石原 幸信  
代理人 石原 幸信  
代理人 住友 慎太郎  
代理人 浦 重剛  
代理人 苗村 潤  
代理人 苗村 潤  
代理人 住友 慎太郎  
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