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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1374972
異議申立番号 異議2021-700172  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-18 
確定日 2021-06-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6742617号発明「パワーモジュール基板の生産方法および生産装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6742617号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6742617号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成28年12月22日に出願され、令和2年7月31日に特許権の設定登録がされ、令和2年8月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和3年2月18日に特許異議申立人青木眞理により特許異議の申立てがなされたものである。


第2 本件特許発明
特許第6742617号の請求項1、2の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
セラミックス基板にロウ材を介して金属回路板が接合されてなるパワーモジュール基板の生産方法であって、
前記金属回路板に自己粘着型耐エッチングフィルムを貼付するマスキングステップと、
前記自己粘着型耐エッチングフィルムに対して、所望形状の回路パターンに対応するパターニング処理を施すことによって、前記自己粘着型耐エッチングフィルムにおける回路パターンに対応する領域以外を除去するパターニングステップと、
前記自己粘着型耐エッチングフィルムを粘着シートによって前記金属回路板から剥離する剥離ステップと、
を少なくとも含み、
エッチング処理の後であって前記剥離ステップの前に、前記自己粘着型耐エッチングフィルムを水酸化ナトリウム水溶液に接触させる剥離前ステップをさらに含むことを特徴とするパワーモジュール基板の生産方法。
【請求項2】
セラミックス基板にロウ材を介して金属回路板が接合されてなるパワーモジュール基板の生産装置であって、
前記金属回路板に自己粘着型耐エッチングフィルムが貼付されたパワーモジュール基板に対してエッチング液を接触させるエッチング手段と、
エッチング処理の後に、前記自己粘着型耐エッチングフィルムを水酸化ナトリウム水溶液に接触させる剥離前手段と、
前記自己粘着型耐エッチングフィルムを粘着シートによって前記金属回路板から剥離する剥離手段と、
を備えたことを特徴とするパワーモジュール基板の生産装置。」


第3 申立理由の概要
特許異議申立人青木眞理(以下、「特許異議申立人」という。)は、本件特許発明1は、マスキングフィルムが剥離された部分をエッチング液に接触させるエッチング処理が実行された後であって、自己粘着型耐エッチングフィルムを剥離する前に水酸化ナトリウム水溶液に接触させるものであるが、「エッチング処理の後」との記載が「マスキングステップ」の後であるのか、「パターニングステップ」の後であるのか、その他であるのか不明であり、その結果、本件特許発明1は明確でなく特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。したがって、同法第113条第4号により取り消されるべき旨の主張している。
また、特許異議申立人は、本件特許明細書段落【0025】、【0034】及び【0040】によれば、「剥離前ステップ」はマスキングフィルムが剥離された部分をエッチング液に接触させるエッチング処理が実行された後であって、自己粘着型エッチングフィルムを剥離する前に水酸化ナトリウム水溶液に接触させるものであるが、本件特許発明1の「エッチング処理の後」との記載は「パターニングステップ」の後である他、「マスキングステップ」の後や、その他の場合も含み得るため、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではなく特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって、同法第113条第4号により取り消されるべき旨の主張している。
さらに、特許異議申立人は、本件特許発明1及び2は、甲第2号証記載の発明を甲第1号証記載の発明に適用することによって、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、同法第113条第2号により取り消されるべき旨の主張している。

(証拠方法)
甲第1号証: 特開2013-182989号公報
甲第2号証: 特開平10-154866号公報


第4 甲号証の記載
1.甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には、「金属-セラミックス接合回路基板の製造方法」に関して、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、金属-セラミックス接合回路基板の製造方法に関し、特に、セラミックス基板に接合した金属回路板(電子部品搭載用金属板)の周縁部に段構造またはフィレットが形成された金属-セラミックス接合回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車、電車、工作機械などの大電力を制御するためにパワーモジュールが使用されており、このパワーモジュール用の絶縁基板として、セラミックス基板の表面に金属回路板を接合した金属-セラミックス接合回路基板が使用されている。」

イ.「【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、セラミックス基板と金属板とを接合した後に金属板上の所定の領域にレジストを形成してエッチングすることにより金属板を所定の形状の金属回路板に形成する金属-セラミックス接合回路基板の製造方法において、レジストの外周から所定の間隔だけ内側に離間した所でレジストの外周に沿って帯状に延びる部分に、レーザー光を照射することにより、その照射部分のレジストを除去した後、エッチングによって金属回路板を形成する際に、金属回路板の周縁部を薄くして金属回路板の外周に段部を形成することによって、段部やフィレットの幅や厚さを自由に変更することができ且つ繰り返しヒートサイクルに対してより高い信頼性の金属-セラミックス接合回路基板を精度よく且つ効率的に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明による金属-セラミックス接合回路基板の製造方法は、セラミックス基板と金属板とを接合した後に金属板上の所定の領域にレジストを形成してエッチングすることにより金属板を所定の形状の金属回路板に形成する金属-セラミックス接合回路基板の製造方法において、レジストの外周から所定の間隔だけ内側に離間した所でレジストの外周に沿って帯状に延びる部分に、レーザー光を照射することにより、その照射部分のレジストを除去した後、エッチングによって金属回路板を形成する際に、金属回路板の周縁部を薄くして金属回路板の外周に段部を形成することを特徴とする。」

ウ.「【0017】
以下、添付図面を参照して本発明による金属-セラミックス接合回路基板の製造方法の実施の形態を説明する。
【0018】
まず、図1Aおよび図1Bに示すように、セラミックス基板10上に直接または(図4において参照符号18で示す)活性金属含有ろう材を介して金属板12を配置して加熱接合する。この加熱接合した金属板12上の所定の領域(例えば回路形成領域)に紫外線硬化型レジストなどのレジスト14をスクリーン印刷などにより形成する。なお、レジスト14は、スクリーン印刷の他、ドライフィルム、ディップ、スピンコータ、ロールコータなどにより形成してもよい。
【0019】
次に、図2Aおよび図2Bに示すように、レジスト14の外周から内側に所定の間隔だけ離間した所でレジスト14の外周に沿って帯状に延びる部分に、レーザー光を照射することにより、その照射部分のレジスト14を除去して、所定の幅のレジスト除去部16を形成する。なお、レジスト除去部16は、レーザー光を連続的に照射して、レジスト14の外周に沿って連続的に帯状に延びるように形成しているが、このような帯状のレジスト除去部16に代えて、レーザー光を断続的に照射して、図5または図6に示すように、レジスト114または214の外周に沿って互いに離間して配置された多数のドット状の略円形のレジスト除去部116または略矩形のレジスト除去部216を形成してもよい。
【0020】
次に、エッチングにより金属板12(または金属板12および活性金属含有ろう材18)の不要部分を除去した後、レジスト14を除去すると、図3または図4に示すように、金属板12の外周部に所定の幅(段幅L)の所定の厚さ(段厚T)の段部(または段部およびフィレット)が形成される。その後、金属板12(または金属板12および活性金属含有ろう材18)上に無電解ニッケルメッキを施してもよい。
・・・(中略)・・・
【0025】
また、本発明による金属-セラミックス接合回路基板の特に効果が大きい用途は、電子回路用の金属-セラミックス接合基板であり、この接合基板を使用してパワーモジュールを作成すると、接合基板の信頼性の向上により、パワーモジュールの信頼性も向上し、高信頼性を有するパワーモジュールを提供することができる。」

(2)甲1発明
上記の記載事項ア.ないしウ.を総合すると、甲第1号証には、次の技術事項が記載されている。
・段落【0001】【0002】【0025】によれば、「金属-セラミックス接合回路基板の製造方法」が記載されており、当該「金属-セラミックス接合回路基板」はパワーモジュールに使用されるものであるから、甲1号証にはパワーモジュールに使用される金属-セラミックス接合回路基板の製造方法が記載されているということができる。
・段落【0017】【0018】によれば、「金属-セラミックス接合回路基板」は、セラミックス基板10上に活性金属含有ろう材を介して金属板12が配置され加熱結合されている。
・段落【0018】によれば、金属板12上の回路形成領域にレジスト14をドライフィルムにより形成する。
・段落【0019】によれば、レジスト14の外周から内側に所定の間隔だけ離間した所でレジスト14の外周に沿って帯状に延びる部分に、レーザー光を照射することにより、その照射部分のレジスト14を除去して、所定の幅のレジスト除去部16を形成している。
・段落【0020】によれば、エッチングにより金属板12および活性金属含有ろう材18の不要部分を除去した後、レジスト14を除去している。

したがって、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「パワーモジュールに使用される金属-セラミックス接合回路基板の製造方法あって、
前記金属-セラミックス接合回路基板は、セラミックス基板10上に活性金属含有ろう材18を介して金属板12が配置され加熱結合されており、
前記金属板12上の回路形成領域にレジスト14をドライフィルムにより形成し、
前記レジスト14の外周から内側に所定の間隔だけ離間した所で前記レジスト14の外周に沿って帯状に延びる部分に、レーザー光を照射することにより、その照射部分のレジスト14を除去して、所定の幅のレジスト除去部16を形成し、
エッチングにより前記金属板12および活性金属含有ろう材18の不要部分を除去した後、レジスト14を除去するセラミック回路基板の製造方法。」


2.甲第2号証
甲第2号証には「セラミックス回路基板の製造方法」に関して、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、大電力用の半導体デバイスであるパワー半導体モジュール(以下、パワーモジュールという)等に使用されるセラミックス回路基板の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、活性金属を含むロウ材を用いてセラミックス基板に金属板を接合した後、エッチングにより回路パターンを形成する回路基板の製造方法において、不要ロウ材の除去処理に特徴のある方法に関する。
・・・(中略)・・・
【0006】前述したエッチング法では、金属板が銅板または銅合金板である場合、金属板のエッチングには塩化第2鉄溶液や塩化第2銅溶液が一般に使用される。こうして不要部分 (非回路部) の金属板をエッチングにより除去すると、金属板をセラミックス基板にロウ付けした場合には、金属板が除去された非回路部の表面には、ロウ付けに用いたロウ材が露出する。ロウ材は金属質で導電性であり、非回路部にこれが残ると短絡の原因となるので、非回路部からは不要ロウ材を実質的に完全に除去する必要がある。また、エッチング後に残った回路部の金属板の上には、絶縁性物質であるレジストが付着しているので、このレジストも適当な処理(例、有機溶剤またはアルカリ水溶液を用いた剥離処理) により除去する。」

イ.「【0025】レジストの除去は、使用したレジストの硬化膜を溶解または膨潤により剥離することができれば、処理に用いる材料は特に制限されないが、通常はアルカリ水溶液 (例、水酸化ナトリウムもしくはカリウムの水溶液)が使用される。」

上記の記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の技術事項(以下、「甲2号証記載の技術」という。)が記載されていると認められる。

「 パワーモジュールに使用されるセラミックス回路基板の製造方法において、
レジストの除去には、使用したレジストの硬化膜を溶解または膨潤により剥離することができる水酸化ナトリウムの水溶液を使用する技術。」


第5 当審の判断
1.明確性について(特許法第36条第6項第2号)
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書において、請求項1の「エッチング処理の後」との記載が、「マスキングステップ」の後であるのか、「パターニングステップ(パターニング処理)」の後であるのか、その他であるのか不明であり、その結果、本件特許発明1は明確ではない旨主張をしている。(特許異議申立書7ないし8頁)

(2)当審の判断
金属回路の形成には、エッチングにより金属が溶出しないように、まずレジストにより金属板にマスキングを行い、さらに、回路として残す以外の部分を除去するパターニングを行い、その後、エッチング処理によってレジストの除去された領域の金属が溶出することにより金属回路が構成されることは技術常識である。
また、仮に技術常識とはいえないとしても、本願の発明の詳細な説明の記載を参照すれば、段落【0021】ないし【0025】に「【0021】・・・まず、図3(A)および図4(A)に示すように、上側回路銅板12および下側回路銅板18のそれぞれにマスキングフィルム20を貼付する。・・・【0024】マスキングフィルム20の貼付に続いて、図3(B)および図4(B)に示すパターニング処理が行われる。・・・【0025】その後、図3(C)および図4(C)に示すように、マスキングフィルム20が剥離された部分をエッチング液に接触させるエッチング処理が実行される。」と記載されていることから、本件特許発明1においてマスキング、パターニング処理、エッチング処理の順に各工程が実行されることは明らかである。
そうしてみると、請求項1の「エッチング処理の後」との記載は、「マスキングステップ」、「パターニングステップ(パターニング処理)」に続くステップであるエッチング処理の後を意味することは明らかであり、この点で本件特許発明1は明確であり、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(3)まとめ
請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。

2.サポート要件について(特許法第36条第6項第1号)
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書において、請求項1の「エッチング処理の後」との記載が、「パターニングステップ(パターニング処理)」の後である他、「マスキングステップ」の後や、その他の場合を含み得るため、その結果、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張をしている。(特許異議申立書8ないし9頁)

(2)当審の判断
上記「1.(2)」で述べたように、本件特許発明1においてマスキング、パターニング処理、エッチング処理の順に各工程が実行されることは明らかである。
そうしてみると、請求項1の「エッチング処理の後」との記載は、「マスキングステップ」の後に、「パターニングステップ(パターニング処理)」が行われ、その後に行われる「エッチング処理」の「後」を示していることは明らかであり、その他の場合は含み得ない。
したがって、特許異議申立人の請求項1の「エッチング処理の後」との記載が、「パターニングステップ(パターニング処理)」の後である他、「マスキングステップ」の後や、その他の場合を含み得るため、その結果、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではないとの主張を採用することはできない。

(3)まとめ
請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号により取り消すことはできない。

3.進歩性について(特許法第29条第2項)
(1)請求項1について
ア.対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

・甲1発明の「活性金属含有ろう材」が本件特許発明1の「ロウ材」に相当し、甲1発明の「パワーモジュールに使用される金属-セラミックス接合回路基板」、「回路形成領域」を有する「金属板12」が、それぞれ本件特許発明1の「パワーモジュール基板」、「金属回路板」に相当する。そして、甲1発明の「パワーモジュールに使用される金属-セラミックス接合回路基板の製造方法であって、前記金属-セラミックス接合回路基板は、セラミックス基板10上に活性金属含有ろう材18を介して金属板12が配置されて加熱結合され」る方法は、本件特許発明1の「セラミックス基板にロウ材を介して金属回路板が接合されてなるパワーモジュール基板の生産方法」に相当する。

・甲1発明の「前記金属板12上の回路形成領域にレジスト14をドライフィルムにより形成」する構成は、本件特許発明1の「マスキングステップ」に対応する。そして、甲1発明の「ドライフィルム」もエッチングのレジストとして使用されているから「耐エッチングフィルム」ということができ、本件特許発明1と甲1発明とは、金属回路板に耐エッチングフィルムを貼付するマスキングステップを含む点で共通している。
しかしながら、マスキングステップにおいて、本件特許発明1では「自己粘着型」耐エッチングフィルムを貼付しているのに対して、甲1発明ではその旨特定されていない点で相違する。

・甲1発明の「レジスト14の外周から内側に所定の間隔だけ離間した所でレジスト14の外周に沿って帯状に延びる部分に、レーザー光を照射することにより、その照射部分のレジスト14を除去して、所定の幅のレジスト除去部16を形成」する構成は、「回路形成領域」に形成された「レジスト14」に対して行われるものであるから、回路パターンに対応する領域以外を除去するものではない。
したがって、本件特許発明1は「前記自己粘着型耐エッチングフィルムに対して、所望形状の回路パターンに対応するパターニング処理を施すことによって、前記自己粘着型耐エッチングフィルムにおける回路パターンに対応する領域以外を除去するパターニングステップ」を有するのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

・甲1発明はエッチングの後「レジスト14を除去」しており、これは金属板12からのレジスト14であるドライフィルムの除去であることは明らかである。したがって、甲1発明と本件特許発明1とは、耐エッチングフィルムを金属回路板から剥離する剥離ステップを含む点では共通する。しかしながら、本件特許発明1は「自己粘着型耐エッチングフィルムを粘着シートによって」剥離しているのに対して、甲1発明ではその旨特定されていない点で相違している。

・本件特許発明1は「エッチング処理の後であって前記剥離ステップの前に、前記自己粘着型耐エッチングフィルムを水酸化ナトリウム水溶液に接触させる剥離前ステップをさらに含」んでいるのに対して、甲1発明は剥離前ステップを含まない点で相違している。

したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、次の一致点、相違点を有する。

(一致点)
「 セラミックス基板にロウ材を介して金属回路板が接合されてなるパワーモジュール基板の生産方法であって、
前記金属回路板に耐エッチングフィルムを貼付するマスキングステップと、
前記耐エッチングフィルムを前記金属回路板から剥離する剥離ステップと、
を少なくとも含むことを特徴とするパワーモジュール基板の生産方法。」

(相違点1)マスキングステップにおいて、本件特許発明1では「自己粘着型」耐エッチングフィルムを貼付しているのに対して、甲1発明ではその旨特定されていない点。

(相違点2)本件特許発明1は「前記自己粘着型耐エッチングフィルムに対して、所望形状の回路パターンに対応するパターニング処理を施すことによって、前記自己粘着型耐エッチングフィルムにおける回路パターンに対応する領域以外を除去するパターニングステップ」を有するのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点。

(相違点3)本件特許発明1は「自己粘着型耐エッチングフィルムを粘着シートによって」剥離しているのに対して、甲1発明ではその旨特定されていない点。

(相違点4)本件特許発明1は「エッチング処理の後であって前記剥離ステップの前に、前記自己粘着型耐エッチングフィルムを水酸化ナトリウム水溶液に接触させる剥離前ステップをさらに含」んでいるのに対して、甲1発明は当該剥離前ステップを含まない点。

イ.判断
事案に鑑み相違点4について検討する。
甲1発明は、本件特許発明1の「エッチング処理の後であって前記剥離ステップの前に、前記自己粘着型耐エッチングフィルムを水酸化ナトリウム水溶液に接触させる剥離前ステップ」に相当する構成を有していない。
これに関して、上記「第4」の「2.」で認定したとおり、甲第2号証には「パワーモジュールに使用されるセラミックス回路基板の製造方法において、レジストの除去には、使用したレジストの硬化膜を溶解または膨潤により剥離することができる水酸化ナトリウムの水溶液を使用する技術」(甲2号証記載の技術)が記載されている。しかしながら、当該技術は水酸化ナトリウムの水溶液によってレジストを除去する技術であって、レジストの剥離前に行う工程に関するものではない。よって、当該技術を甲1発明に適用しても「エッチング処理の後であって前記剥離ステップの前に、前記自己粘着型耐エッチングフィルムを水酸化ナトリウム水溶液に接触させる剥離前ステップ」とはならない。
したがって、甲1発明に甲2号証記載の技術を適用しても相違点4に係る構成を想到し得たということはできない。
また、仮に、甲第2号証を主引用例とし甲第1号証を副引用例としても、上記相違点4とした構成は甲第1号証にも甲第2号証にも記載も示唆もされていないから、本件特許発明1は甲第1号証及び甲第2号証から容易に想到できたものとはいえない。

したがって、相違点1ないし3について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明及び甲2号証記載の技術から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.まとめ
請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号により取り消すことはできない。


(2)請求項2に係る発明について
ア.対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比する。

・甲1発明の「活性金属含有ろう材」が本件特許発明2の「ロウ材」に相当し、甲1発明の「パワーモジュールに使用される金属-セラミックス接合回路基板」、「回路形成領域」を有する「金属板12」が、それぞれ本件特許発明2の「パワーモジュール基板」、「金属回路板」に相当する。そして、甲1発明の「パワーモジュールに使用される金属-セラミックス接合回路基板の製造方法であって、前記金属-セラミックス接合回路基板は、セラミックス基板10上に活性金属含有ろう材18を介して金属板12が配置されて加熱結合され」る方法は、製造する方法が特定されることにより実質的に生産装置が特定されているということができるから、本件特許発明2の「セラミックス基板にロウ材を介して金属回路板が接合されてなるパワーモジュール基板の生産装置」に相当する。

・甲1発明では「前記金属板12上の回路形成領域にレジスト14をドライフィルムにより形成し」て「エッチング」しているのに対して、本件特許発明2では「前記金属回路板に自己粘着型耐エッチングフィルムが貼付されたパワーモジュール基板に対してエッチング液を接触させ」て「エッチング」しているから、甲1発明の「ドライフィルム」と本件特許発明2の「自己粘着型耐エッチングフィルム」とは、レジストに用いる「耐エッチングフィルム」であるといえる点では共通する。
また、甲1発明では前記金属板12上にドライフィルムを形成してどのようにエッチングされるのかについては特定されていないが、エッチング液に接触させることによってエッチングすることは技術常識であり、そのための手段を有していることは明らかである。
そうしてみると、甲1発明と本件特許発明2とは「前記金属回路板に耐エッチングフィルムが貼付されたパワーモジュール基板に対してエッチング液を接触させるエッチング手段」を有しているといえる点では共通している。しかしながら、本件特許発明2では金属回路板には「自己粘着型」耐エッチングフィルムが貼付されるのに対して、甲1発明においてはその旨特定されていない点で相違する。

・本件特許発明2は「エッチング処理の後に、前記自己粘着型耐エッチングフィルムを水酸化ナトリウム水溶液に接触させる剥離前手段」を有しているのに対して、甲1発明は剥離前手段を有していない点で相違している。

・甲1発明は「レジスト14を除去」しており、これは金属板12からのレジスト14であるドライフィルムの除去である。したがって、甲1発明と本件特許発明2とは、耐エッチングフィルムを金属回路板から剥離する剥離手段を有しているといえる点では共通する。しかしながら、本件特許発明2では「自己粘着型耐エッチングフィルムを粘着シートによって」剥離しているのに対して、甲1発明ではその旨特定されていない点で相違している。

したがって、本件特許発明2と甲1発明とは、次の一致点、相違点を有する。

(一致点)
「 【請求項2】
セラミックス基板にロウ材を介して金属回路板が接合されてなるパワーモジュール基板の生産装置であって、
前記金属回路板に耐エッチングフィルムが貼付されたパワーモジュール基板に対してエッチング液を接触させるエッチング手段と、
前記耐エッチングフィルムを前記金属回路板から剥離する剥離手段と、
を備えたことを特徴とするパワーモジュール基板の生産装置。」

(相違点5)本件特許発明2では金属回路板には「自己粘着型」耐エッチングフィルムが貼付されるのに対して、甲1発明においてはその旨特定されていない点。

(相違点6)本件特許発明2は「エッチング処理の後に、前記自己粘着型耐エッチングフィルムを水酸化ナトリウム水溶液に接触させる剥離前手段」を有しているのに対して、甲1発明は剥離前手段を有していない点。

(相違点7)本件特許発明2では「自己粘着型耐エッチングフィルムを粘着シートによって」剥離しているのに対して、甲1発明ではその旨特定されていない点。

イ.判断
上記相違点について検討する。
上記相違点6については、上記「3.」「(1)」「イ.」において相違点4について判断したのと同様の理由により当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。

したがって、相違点5及び7について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲1発明及び甲2号証記載の技術から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.まとめ
請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号により取り消すことはできない。


第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2に係る発明を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る発明を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-31 
出願番号 特願2016-248686(P2016-248686)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 庄司 一隆  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 須原 宏光
山本 章裕
登録日 2020-07-31 
登録番号 特許第6742617号(P6742617)
権利者 株式会社NSC
発明の名称 パワーモジュール基板の生産方法および生産装置  
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