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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1375304 |
審判番号 | 不服2020-14173 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-10-08 |
確定日 | 2021-06-14 |
事件の表示 | 特願2016- 95329「粘着剤層付き偏光フィルム、及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月 6日出願公開、特開2017-120363〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特願2016-95329号(以下「本件出願」という。)は、平成28年5月11日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年12月25日)の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和2年 4月30日付け:拒絶理由通知書 令和2年 7月 1日提出:意見書 令和2年 7月 1日提出:手続補正書 令和2年 7月 9日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和2年10月 8日提出:審判請求書 令和2年10月 8日提出:手続補正書 令和2年12月24日提出:上申書 第2 令和2年10月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [結論] 令和2年10月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の令和2年7月1日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「 画像表示装置において画像表示部より視認側に用いられる粘着剤層付き偏光フィルムであって、 前記粘着剤層付き偏光フィルムは、偏光フィルムと当該偏光フィルムの両面に粘着剤層を有し、 前記偏光フィルムは、偏光子と当該偏光子の両面に透明保護フィルムを有し、 前記偏光子の視認側の透明保護フィルムの波長380nmにおける透過率が6%未満であり、かつ 前記偏光フィルムの視認側の粘着剤層が紫外線吸収機能を有し、かつ厚さが50μm以上であることを特徴とする粘着剤層付き偏光フィルム。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は当合議体が付与したものであり、補正箇所を示す。 「 画像表示装置において画像表示部より視認側に用いられる粘着剤層付き偏光フィルムであって、 前記粘着剤層付き偏光フィルムは、偏光フィルムと当該偏光フィルムの両面に粘着剤層を有し、 前記偏光フィルムは、偏光子と当該偏光子の両面に透明保護フィルムを有し、 前記偏光子の視認側の透明保護フィルムの波長380nmにおける透過率が6%未満であり、 前記偏光子の視認側の透明保護フィルムの厚さが40μm以下であり、かつ 前記偏光フィルムの視認側の粘着剤層が紫外線吸収機能を有し、かつ厚さが50μm以上であることを特徴とする粘着剤層付き偏光フィルム。」 2 補正の適否について 本件補正のうち請求項1についてした補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「偏光子の視認側の透明保護フィルム」について、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0131】等の記載に基づき、「偏光子の視認側の透明保護フィルムの厚さが40μm以下であり」と限定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野(【0001】)及び解決しようとする課題(【0007】?【0010】)が同一である。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしているとともに、同条第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正後発明 本件補正後発明は、上記「1」「(2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものである。 (2)引用文献及び引用発明 ア 引用文献3の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2014-115468号公報(以下、同じく「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 前面透明板またはタッチパネルと画像表示セルとの間に配置して用いられる粘着剤付き光学フィルムであって、 偏光板を含む光学フィルム;前記光学フィルムの画像表示セルと貼り合せられる側の面に設けられた第一粘着剤層;および前記光学フィルムの透明板またはタッチパネルと貼り合せられる側の面に設けられた第二粘着剤層、を備え、 さらに前記第一粘着剤層および前記第二の粘着剤層のそれぞれには、保護シートが剥離可能に貼着されており、 前記第二粘着剤層の厚みが30μm以上である、両面粘着剤付き光学フィルム。」 (イ)「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、画像表示パネルの前面に透明板またはタッチパネルを備える画像表示装置の形成に用いられる粘着剤付き光学フィルムに関する。さらに、本発明は当該粘着剤付き光学フィルムを用いた画像表示装置の製造方法に関する。 ・・・省略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 層間充填剤として、液状の光硬化性樹脂を用いる方法では、液状樹脂のはみ出しに伴う汚染が生じる等の問題がある。一方、粘着シートを用いる方法では、貼り合せの前に粘着シートを画像表示装置のサイズと合致するようにカットする必要があることに加えて、所望位置に精度よく貼り合せることが容易でなく、作業性が良好とはいえない。 【0010】 前面透明板の画像表示パネル側の面の周縁部には、装飾や光遮蔽を目的とした印刷が施されることが多い。周縁部に印刷が施されると、印刷部分の境界に、10μm?数十μm程度の段差が生じるが、層間充填剤としてシート状粘着剤を用いた際は、この印刷段差部に気泡が生じ易いとの問題も生じ得る。 【課題を解決するための手段】 【0011】 層間充填構造を採用する画像表示装置において、画像表示パネルと前面部材との貼り合せに関わる上記の諸問題は、偏光板の両面に粘着剤層が設けられた両面粘着剤付きの偏光板を用いることによって解決される。 【0012】 すなわち、本発明は、前面透明板またはタッチパネルと画像表示セルとの間に配置して用いられる両面粘着剤付き光学フィルムに関する。本発明の両面粘着剤付き光学フィルムは、偏光板を含む光学フィルムの画像表示セルと貼り合せられる側の面に設けられた第一粘着剤層を備え、当該光学フィルムの透明板またはタッチパネルと貼り合せられる側の面に第二粘着剤層を備える。第一粘着剤層および第二の粘着剤層のそれぞれには、保護シートが剥離可能に貼着されている。第一粘着剤層の厚みは3?30μmであることが好ましく、第二粘着剤層の厚みは30μm以上であることが好ましい。 ・・・省略・・・ 【発明の効果】 【0018】 本発明の両面粘着剤付き光学フィルムは、画像表示セルとの貼り合せのための第一粘着剤層に加えて、前面透明板やタッチパネル等の前面透明部材と貼り合せるための第二の粘着剤層を備える。このような構成によれば、画像表示パネルと前面透明部材とを貼り合せて層間充填構造とする際に、別途の液状接着剤や粘着シートを設ける必要がない。そのため、液状樹脂や粘着シートのはみ出しによる汚染が防止されることに加えて、製造プロセスが簡略化される。 【0019】 また、第二粘着剤層の貯蔵弾性率に所定の温度依存性を持たせることで、前面透明部材の貼り合せの際の80℃付近での貯蔵弾性率を小さくして、粘着剤に段差追従性を持たせ、気泡の発生を抑制することができる。また、画像表示装置の使用環境温度における貯蔵弾性率を大きくして、実使用時の部材の位置ズレや粘着剤のはみ出し等の不具合を抑制することができる。 【0020】 さらに、第二粘着剤層として光硬化性粘着剤を用い、前面透明部材との貼り合せ後に光硬化を行うことで貯蔵弾性率を大きくすれば、画像表示装置が高温環境に晒された場合も粘着剤の流動が抑制される。そのため、段差付近での気泡の発生や剥離を抑制することが可能となる。」 (ウ)「【発明を実施するための形態】 【0022】 本発明の両面粘着剤付き光学フィルムは、偏光板を含む光学フィルムの一方の面に第一粘着剤層を備え、他方の面に第二粘着剤層を備える。第一粘着剤層は、画像表示セルと光学フィルムとの貼り合せに用いられる粘着剤層であり、第二粘着剤層は、前面透明部材(前面透明板またはタッチパネル)と光学フィルムとの貼り合せに用いられる粘着剤層である。 【0023】 以下では、適宜図面を参照しながら、本発明の詳細を説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる両面粘着剤付き光学フィルム50を模式的に表す断面図であり、図3は、本発明の一実施形態にかかる画像表示装置100を模式的に表す断面図である。 【0024】 図1に示す両面粘着剤付き光学フィルム50は、光学フィルム10として偏光板11を備える。両面粘着剤付き光学フィルム50は、光学フィルム10の一方の面に第一粘着剤層21を備え、他方の面に第二粘着剤層22を備える。第一粘着剤層21上には、第一保護シート31が剥離可能に貼着されており、第二粘着剤層22上には、第二保護シート32が剥離可能に貼着されている。 【0025】 図3に示す画像表示装置100では、光学フィルム10の一方の面が、第一粘着剤層21を介して画像表示セル60と貼り合せられており、光学フィルム10の他方の面が第二粘着剤層22を介して前面透明部材70と貼り合せられている。 【0026】 [光学フィルム] 光学フィルム10を構成する偏光板11としては、偏光子の片面または両面に、必要に応じて適宜の透明保護フィルムが貼り合せられたものが一般に用いられる。偏光子は、特に限定されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。 【0027】 偏光子の保護フィルムとしての透明保護フィルムには、セルロース系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、フェニルマレイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性および光学等方性に優れるものが好ましく用いられる。なお、偏光子の両面に透明保護フィルムが設けられる場合、その表裏で同じポリマー材料からなる保護フィルムが用いられてもよく、異なるポリマー材料等からなる保護フィルムが用いられてもよい。また、液晶セルの光学補償や視野角拡大等を目的として、位相差板(延伸フィルム)等の光学異方性フィルムを偏光子の保護フィルムとして用いることもできる。 ・・・省略・・・ 【0033】 [第一粘着剤層] 光学フィルム10の一方の面には、画像表示セル60との貼り合せに用いるための第一粘着剤層21が設けられる。第一粘着剤層21の厚さは、使用目的や接着力等に応じて適宜に決定できるが、本発明においては、3μm?30μmが好ましく、5μm?27μmがより好ましく、10μm?25μmがさらに好ましい。第一粘着剤層の厚みが前記範囲であれば、耐久性に優れると共に、気泡の混入等の不具合を抑制することができる。 【0034】 第一粘着剤層を構成する粘着剤としては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系等のポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性および接着性等の粘着特性を示し、耐候性や耐熱性等にも優れるという点からは、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。 ・・・省略・・・ 【0039】 [第二粘着剤層] 光学フィルム10の他方の面には、前面透明部材70との貼り合せに用いるための第二粘着剤層22が設けられる。このように、画像表示セルとの貼り合せに用いられる第一粘着剤層21の反対面に、前面透明部材との貼り合せのための第二粘着剤層22が設けられた両面粘着剤付き光学フィルムを用いれば、層間充填構造とする際に、光学フィルム10上に、液状接着剤や別途のシート状粘着剤層を付設する工程を設ける必要がない。そのため、画像表示装置の製造工程を簡略化できると共に、接着剤(粘着剤)のはみ出しによる汚染が防止される。 【0040】 <厚み> 第二粘着剤層22の厚さは、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。第二粘着剤層の厚みが前記範囲より小さいと、光学フィルムと前面透明部材との貼り合せの際に、気泡が混入し易くなる傾向がある。 【0041】 特に、図3に模式的に示すように、前面透明部材70の画像表示パネル60側の面の周縁部に印刷部70aが設けられている場合は、第二粘着剤層の厚みが小さいと、粘着剤層が印刷段差に追従できず、印刷部70a付近に気泡が混入し易くなる傾向がある。そのため、光学フィルム10と貼り合せられる面に印刷部70aのような非平坦部を有する前面透明部材70が用いられる場合、第二粘着剤層の厚みは、非平坦部(印刷部)70aの厚みd_(a)の1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2.0倍以上がさらに好ましい。 【0042】 第二粘着剤層22の厚さの上限は特に限定されないが、画像表示装置の軽量化・薄型化の観点や、粘着剤層形成の容易性、ハンドリング性等を勘案すると、300μm以下が好ましく、250μm以下がさらに好ましい。 ・・・省略・・・ 【0053】 <組成> 第二粘着剤層22を構成する粘着剤の組成は特に限定されず、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系等のポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性および接着性に優れ、かつ貯蔵弾性率を上記範囲に調整する観点から、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤が好ましく用いられる。 ・・・省略・・・ 【0081】 上記例示の各成分の他、粘着剤層中には、可塑剤、軟化剤、劣化防止剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、帯電防止剤等の添加剤を、本発明の特性を損なわない範囲で用いることができる。」 (エ)「【実施例】 【0108】 以下に実施例および比較例を挙げてさらに説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。 【0109】 [実施例1] <偏光板> ヨウ素が含浸された厚み25μmの延伸ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両面に透明保護フィルムが貼り合せられた偏光板(偏光度99.995%)を用いた。偏光子の一方の面(画像表示セル側)の透明保護フィルムは、厚さ40μmのトリアセチルセルロースフィルムからなる位相差フィルムであり、他方の面(視認側)の透明保護フィルムは、厚さ60μmのトリアセチルセルロースフィルムであった。 【0110】 <セル側粘着剤層(第一粘着剤層)の形成> (ベースポリマーの調製) 温度計、攪拌機、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えたセパラブルフラスコに、ブチルアクリレート97部、アクリル酸3部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.2部および酢酸エチル233部投入した後、窒素ガスを流し、攪拌しながら約1時間窒素置換を行った。その後、60℃にフラスコを加熱し、7時間反応させて、重量平均分子量(Mw)が110万のアクリル系ポリマーを得た。 【0111】 (粘着剤組成物の調製) 上記アクリル系ポリマー溶液(固形分を100重量部とする)に、イソシアネート系架橋剤としてトリメチロールプロパントリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製「コロネートL」)0.8重量部、シランカップリング剤(信越化学(株)製「KBM-403」)0.1部を加えて粘着剤組成物(溶液)を調製した。 【0112】 (粘着剤層の形成および架橋) セパレータ(表面が離型処理された厚み38μmのポリエチレンテレフタレート系フィルム)上に、上記の粘着剤組成物溶液を、乾燥後の厚みが20μmとなるように塗布し、100℃で3分間乾燥させて溶媒を除去して、粘着剤層を得た。その後、50℃で48時間加熱して、架橋処理を行った。(以下、この粘着剤層を「粘着剤層A」と称する) 【0113】 <視認側粘着剤層(第二粘着剤層)の形成> (ベースポリマーの調製) ベースポリマーとして、ブチルアクリレート(BA)とメチルメタクリレート(MMA)のブロック共重合体(BA/MMA=2/1、重量平均分子量10万)が用いられた。(以下、このベースポリマーを「ポリマー1」と称する) 【0114】 (粘着剤組成物の調製) 上記のポリマー1を80重量部、および可塑剤を20重量部、120重量部のトルエンに溶解して、粘着剤組成物(溶液)を調製した。可塑剤としては、重量分子量約3000のアクリルオリゴマー(東亜合成(株)製「ARUFON UP-1000」)が用いられた。 【0115】(粘着剤層の形成) セパレータ上に、上記の粘着剤組成物溶液を、乾燥後の厚みが150μmとなるように塗布し、100℃で3分間乾燥させて溶媒を除去して、粘着剤層を得た。(以下、この粘着剤層を「粘着剤層B1」と称する) 【0116】 <両面粘着剤付き光学フィルムの作製> 上記偏光板の一方の面にセル側粘着剤層として上記の粘着剤層Aを貼り合せた。その後、偏光板の他方の面に視認側粘着剤層として上記の粘着剤層B1を貼り合せた後、セパレータを剥離し、その上に粘着剤層B1を貼り合せて、粘着剤層B1が2層(合計厚み300μm)の粘着剤層とした。 【0117】 このようにして、偏光板(光学フィルム)の一方の面に、厚み20μmの粘着剤層、他方の面に、厚み300μmの粘着剤層が貼り合せられ、各粘着剤層上にセパレータが剥離可能に貼着された両面粘着剤付き光学フィルムを得た。」 (オ)図1 (カ)図3 イ 上記アの記載に基づけば、引用文献3には、両面粘着剤付き光学フィルムの実施例1として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、「光学フィルム」を「偏光板」と用語を統一して用いた。また、「一方の面」及び「他方の面」をそれぞれ「一方の面(画像表示セル側)」及び「他方の面(視認側)」と用語を統一して用いた。 。 「 ヨウ素が含浸された厚み25μmの延伸ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両面に透明保護フィルムが貼り合せられた偏光板を用い、偏光子の一方の面(画像表示セル側)の透明保護フィルムは、厚さ40μmのトリアセチルセルロースフィルムからなる位相差フィルムであり、他方の面(視認側)の透明保護フィルムは、厚さ60μmのトリアセチルセルロースフィルムであり、 偏光板の一方の面(画像表示セル側)に、厚み20μmの粘着剤層、他方の面(視認側)に、厚み300μmの粘着剤層が貼り合せられ、各粘着剤層上にセパレータが剥離可能に貼着された両面粘着剤付き偏光板。」 (3)対比 本件補正後発明と引用発明とを対比する。 ア 粘着剤層付き偏光フィルム 引用発明の「両面粘着剤付き偏光板」は、「厚み25μmの延伸ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両面に透明保護フィルムが貼り合せられた偏光板を用い、偏光子の一方の面(画像表示セル側)の透明保護フィルムは、厚さ40μmのトリアセチルセルロースフィルムからなる位相差フィルムであり、他方の面(視認側)の透明保護フィルムは、厚さ60μmのトリアセチルセルロースフィルムであり」、「偏光板の一方の面(画像表示セル側)に、厚み20μmの粘着剤層、他方の面(視認側)に、厚み300μmの粘着剤層が貼り合せられ、各粘着剤層上にセパレータが剥離可能に貼着された」ものである。 上記「偏光子」、各「透明保護フィルム」及び各「粘着剤層」の厚みからみて、引用発明の「偏光板」及び「粘着剤層付き偏光板」は、ともにフィルム状のものである。また、引用発明の「偏光板」の「一方の面」は「画像表示セル側」であり、「他方の面」は「視認側」である。そして、引用発明の「偏光子」及び「透明保護フィルム」は、その文言が意味するとおりのものである。 そうしてみると、引用発明の「偏光子」、「透明保護フィルム」、「偏光板」及び「粘着剤層付き偏光板」は、それぞれ、本件補正後発明の「偏光子」、「透明保護フィルム」、「偏光フィルム」及び「粘着剤層付き偏光フィルム」に相当する。また、引用発明の「粘着剤層付き偏光板」は、本件補正後発明の「粘着剤層付き偏光フィルム」の「画像表示装置において画像表示部より視認側に用いられる」との要件を満たす。さらに、引用発明の「偏光板」は、本件補正後発明の「偏光フィルム」の「偏光子と当該偏光子の両面に透明保護フィルムを有し」との要件を満たす。 イ 粘着剤層 引用発明の「両面粘着剤付き偏光板」は、「偏光板の一方の面(画像表示セル側)に、厚み20μmの粘着剤層、他方の面(視認側)に、厚み300μmの粘着剤層が貼り合せられ、各粘着剤層上にセパレータが剥離可能に貼着された」ものである。 上記構成からみて、引用発明の「粘着剤層」は、その文言どおり、本件補正後発明の「粘着剤層」に相当する。また、引用発明の「両面粘着剤付き偏光板」は、本件補正後発明の「粘着剤層付き偏光フィルム」の「偏光フィルムと当該偏光フィルムの両面に粘着剤層を有し」との要件を満たす。 ウ 視認側の粘着剤層 引用発明の「偏光板」は、「一方の面(画像表示セル側)に、厚み20μmの粘着剤層、他方の面(視認側)に、厚み300μmの粘着剤層が貼り合せられ」たものである。 ここで、引用発明の「偏光板」の「他方の面(視認側)」の側は、その「視認側」という文言から理解されるとおり、本件補正後発明の「偏光フィルムの視認側」のことである。 そうしてみると、引用発明の「偏光板」の「他方の面(視認側)に」、「貼り合せられ」た「粘着剤層」(以下「視認側粘着剤層」という。)は、本件補正後発明の「前記偏光フィルムの視認側の粘着剤層」に相当する。さらに、引用発明の「視認側粘着剤層」は、本件補正後発明の「視認側の粘着剤層」の「厚さが50μm以上である」との要件を満たす。 (4)一致点及び相違点 ア 一致点 以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一致する。 「 画像表示装置において画像表示部より視認側に用いられる粘着剤層付き偏光フィルムであって、 前記粘着剤層付き偏光フィルムは、偏光フィルムと当該偏光フィルムの両面に粘着剤層を有し、 前記偏光フィルムは、偏光子と当該偏光子の両面に透明保護フィルムを有し、 前記偏光フィルムの視認側の粘着剤層が、厚さが50μm以上である粘着剤層付き偏光フィルム。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点1) 「前記偏光子の視認側の透明保護フィルム」が、本件補正後発明は、「波長380nmにおける透過率が6%未満であり」、「厚さが40μm以下であ」るのに対して、引用発明は、「厚さ60μmのトリアセチルセルロースフィルムであり」、波長380nmにおける透過率については明らかでない点。 (相違点2) 「前記偏光子の視認側の粘着剤層」が、本件補正後発明は、「紫外線吸収機能を有」するのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。 (5)判断 上記相違点について検討する。 ア 相違点1について (ア)まず、引用文献3において、特許請求の範囲の【請求項1】には、「前面透明板またはタッチパネルと画像表示セルとの間に配置して用いられる粘着剤付き光学フィルムであって、偏光板を含む光学フィルム;前記光学フィルムの画像表示セルと貼り合せられる側の面に設けられた第一粘着剤層;および前記光学フィルムの透明板またはタッチパネルと貼り合せられる側の面に設けられた第二粘着剤層、を備え」、「前記第二粘着剤層の厚みが30μm以上である」と記載されている。また、【0040】には、「第二粘着剤層22の厚さは、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。第二粘着剤層の厚みが前記範囲より小さいと、光学フィルムと前面透明部材との貼り合せの際に、気泡が混入し易くなる傾向がある。」と記載されている。これらの記載から、引用文献3において、偏光板の視認側の粘着剤層の厚みは、気泡の混入防止の観点から、大きいほうが好ましいことが読み取れる。他方、引用文献3の【0042】には、「第二粘着剤層22の厚さの上限は特に限定されないが、画像表示装置の軽量化・薄型化の観点や、粘着剤層形成の容易性、ハンドリング性等を勘案すると、300μm以下が好ましく、250μm以下がさらに好ましい。」と記載されている。 ここで、引用発明の「視認側粘着剤層」の厚みは300μmであるから、好ましい偏光板の視認側の上限であることが理解できる。 (イ)ところで、引用文献3の【0042】の記載からも確認できるとおり、画像表示装置は、軽量化や薄型化が求められるものであるから、引用発明の「両面粘着剤付き偏光板」においては、「視認側粘着剤層」の厚みが300μmと厚い分だけ、透明保護フィルムや偏光子の厚みを小さくすることが求められるといえる。 (ウ)また、画像表示装置において、紫外線による部材の劣化を防ぐことという課題は自明であるところ、例えば、特開2008-40277号公報の【0077】?【0078】、特開2011-203400号公報の【0042】及び【0055】?【0056】、特開2012-2981号公報の【0010】、【0053】?【0055】及び【0236】?【0239】に記載されているように、偏光フィルムの透明保護フィルムの380nmにおける透過率を6%未満とするとともに、厚さを40μm以下とすることは、周知技術である。 そうしてみると、紫外線による劣化を防ぐとともに、軽量化や薄型化のために、上記周知技術を適用して引用発明の「偏光板」の「他方の面(視認側)の透明保護フィルム」の380nmの透過率を6%未満とするとともに、厚さを40μm以下とすることは、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。 (エ)さらに進んで検討する。 引用文献3の【0027】には、「偏光子の保護フィルムとしての透明保護フィルムには、セルロース系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、フェニルマレイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性および光学等方性に優れるものが好ましく用いられる。」と記載されていて、透明保護フィルムに用いられる樹脂の材料が例示されている。そして、紫外線の吸収を防ぐために、偏光子の透明保護フィルムに紫外線吸収剤を添加することは、特開2005-181615号公報の【0040】、特開2008-40277号公報の【0075】?【0078】、特開2011-203400号公報の【0048】、【0055】及び【0056】、特開2011-232493号公報の【0094】、特開2012-3269号公報の【0097】にそれぞれ記載されているように、周知技術である。 そうしてみると、上記周知技術を心得た当業者であれば、透明保護フィルムに用いられる樹脂の材料や紫外線吸収剤の添加量を調整するなどして、引用発明の「偏光板」の「他方の面(視認側)の透明保護フィルム」を、380nmの透過率を6%未満であるとともに、厚さを40μm以下の条件を満たすように作製することは、当業者が容易になし得ることである。 したがって、引用発明の「偏光板」の「他方の面(視認側)の透明保護フィルム」に周知技術を適用して、上記相違点1に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 イ 相違点2について 引用文献3の【0081】に、「上記例示の各成分の他、粘着剤層中には、可塑剤、軟化剤、劣化防止剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、帯電防止剤等の添加剤を、本発明の特性を損なわない範囲で用いることができる。」と記載されている。上記記載に接した当業者であれば、引用発明の「偏光板」の「視認側粘着剤層」に紫外線吸収剤を添加して紫外線吸収機能を有するようにすることは、当然想起するものである。 そうしてみると、引用発明の「偏光板」の「視認側粘着剤層」を上記相違点2に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (6)効果について 本件補正後発明に関して、本件明細書の【0021】には、「本発明の粘着剤層付き偏光フィルムは、紫外線吸収機能を有する粘着剤層が偏光フィルムの視認側に予め積層されている構成であるため、工程削除、歩留まり低下の課題を解決することができ、かつ、偏光フィルムが薄型の場合であっても、より高い紫外線カット機能を付与することができ、カール発生を抑制することができる。また、本発明の画像表示装置は、前記粘着剤層付き偏光フィルムを用いているため、画像表示装置に用いられる液晶パネル、有機EL素子等をはじめとする各種光学部材の紫外線による劣化を抑制することができる。」と記載されている。 しかしながら、このような効果は、引用発明及び周知技術から予測できる範囲内のものである。 (7)審判請求人の主張について 審判請求人は、令和2年7月1日提出の意見書において、「引用発明3は、あくまでも前面透明部材と画像表示パネル表面との間の層間充填剤として画面粘着剤付き光学フィルムを用いる際の作業性改善を目的としたものであって、そもそも引用発明3は薄型の偏光フィルムであっても高度な紫外線吸収性を付与するとの課題は一切認識されていません。」、令和2年10月8日提出の審判請求書において、「トリアセチルセルロースフィルムを用いる引用発明に紫外線吸収剤を適用した場合の課題は従来公知であり、それゆえ引用発明のトリアセチルセルロースフィルムに紫外線吸収剤を適用して相違点1に係る構成を得ようとするには阻害要因があります。」、「引用発明の視認側透明保護フィルムに紫外線吸収能を付与するのであれば、フィルムの透過率と厚さとは反比例するとの技術常識からしますと、視認側透明保護フィルムの薄型化はその紫外線吸収能の低下を惹起することになりますので、紫外線吸収能を要する当業者はそのようなフィルムの薄型化は行おうとはしません。」、令和2年12月24日提出の上申書において、「他の条件が一定であれば、フィルムの厚さが薄いほど、その強度が低下することは技術常識ですので、引用発明の透明保護フィルムには一定程度の厚さが必要であるといえます。そうしますと、引用発明においては、少なくともフィルムの厚さを増大させることはあっても、積極的に薄くする動機付けはないものと思料いたします。」、「偏光子の両面にそれぞれ透明保護フィルムのみに特に着目してその厚さ及び波長380nmにおける透過率をそれぞれ所定範囲とすることが文献を挙げるまでもなく周知であるとされているのか、理由を示さない審査官殿の認定は本願発明に接したことによる後知恵というほかありません。」、「審査官殿の認定は、本願発明及び作用効果について誤りがあるものといえ、不当であると思料いたします。」と主張している。 しかしながら、上記(5)及び(6)で示したとおりであるから、審判請求人の上記主張はいずれも採用することができない。 (8)小括 本件補正後発明は、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3 補正却下の決定のむすび 本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記「第2 令和2年10月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定」[結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、概略、本願発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 引用文献1:特開2012-3269号公報 引用文献2:特開2011-232493号公報 引用文献3:特開2014-115468号公報 引用文献4:特開2008-40277号公報 (当合議体注:引用文献3は主引例を示し、引用文献1、2、4は周知技術を示す文献である。) 3 引用文献及び引用発明 引用文献3の記載及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正後発明から、上記第2[理由]1の補正事項に係る限定を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定した本件補正後発明も、上記第2[理由]2に記載したとおり、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-04-15 |
結審通知日 | 2021-04-16 |
審決日 | 2021-04-30 |
出願番号 | 特願2016-95329(P2016-95329) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉川 陽吾 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 井口 猶二 |
発明の名称 | 粘着剤層付き偏光フィルム、及び画像表示装置 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |