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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61H
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61H
審判 全部無効 2項進歩性  A61H
管理番号 1375697
審判番号 無効2019-800058  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-08-08 
確定日 2021-07-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第6121026号発明「美容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6121026号(以下「本件特許」という。)の出願は、平成26年3月27日に出願した特願2014-65029号(以下「原出願」という。)の一部を平成28年4月26日に新たな特許出願(特願2016-88002号)としたものであり、その後の手続の経緯は、概略以下のとおりである。
平成29年 3月28日 特許査定(発送日)
平成29年 4月 7日 特許権の設定登録(請求項の数4)
平成30年10月26日 無効2018-800035号審決(発送日、 請求不成立、平成30年11月5日知財高裁出 訴(平成30年(行ケ)第10160号)、令 和1年7月30日判決、令和1年8月15日確 定)
令和 1年 6月 5日 無効2018-800115号審決(発送日、 請求不成立、令和1年6月17日知財高裁出訴 (令和元年(行ケ)第10090号)、令和2 年1月27日判決、令和2年2月13日確定)
令和 1年 8月 8日 本件審判の請求、証拠説明書(1)の提出
令和 1年11月 5日 答弁書の提出
令和 1年12月 2日 審理事項通知
令和 1年12月20日 口頭審理陳述要領書、証拠説明書(2)の提出 (請求人)
令和 1年12月20日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
令和 1年12月25日 審理事項通知
令和 2年 1月20日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
令和 2年 1月20日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
令和 2年 1月30日 第1回口頭審理

第2 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1?4」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
棒状のハンドル本体と、該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部と、上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバーとからなるハンドルと、
上記ハンドル本体の長手方向の一端に一体的に形成された一対の分枝部と、
該一対の分枝部のそれぞれに形成されているとともに、上記凹部に連通する軸孔と、
該軸孔に挿通された一対のローラシャフトと、
該一対のローラシャフトに取り付けられた一対のローラと、
を備え、
上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が、上記ハンドルの表面を構成している、美容器。
【請求項2】
上記凹部には、上記軸孔に挿通された上記ローラシャフトを支持するシャフト支持台が設けられている、請求項1に記載の美容器。
【請求項3】
上記凹部には電源部が収納されており、該電源部は上記ローラシャフトを介して、上記ローラに電気的に接続されており、該ローラと肌との間に微弱電流が流れるように構成され、上記凹部の底には上記ハンドル本体を貫通して上記電源部としての太陽電池パネルに外光を到達させる窓部が形成されている、請求項1又は2に記載の美容器。
【請求項4】
上記一対のローラの並び方向から見たときに、上記一対のローラシャフトは上記ハンドル本体に対して傾斜しており、上記凹部は上記一対のローラシャフトが傾斜する側に開口するように形成されている、請求項1?3のいずれか一項に記載の美容器。」

第3 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第6121026号発明の特許請求の範囲の請求項1、請求項2、請求項3及び請求項4に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、以下1の無効理由を主張し、以下2の証拠方法を提出した。なお、請求人は、審判請求書記載の無効理由2を撤回した(被請求人は、当該無効理由2の撤回に同意。第1回口頭審理調書参照。)。

1 無効理由
(1)無効理由1[特許法第36条第6項第1号]
本件発明は、以下の点により発明の詳細な説明に記載したものではないので、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
ア.発明の詳細な説明に記載されている「直線状のハンドル本体に対して、ハンドルの中央部に形成された凹部及びそれに対応するハンドルカバーを用いる」ということが特定されていない、「棒状のハンドル本体に対して、凹部及びそれに対応するハンドルカバーを用いる」という本件発明の範囲にまで、物理的・技術的根拠に基づいて発明の課題が解決されているのか、発明の詳細な説明には記載されていないので、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない点。

(2)無効理由3[特許法第36条第6項第2項]
本件発明は、以下の点について明確でないので、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
ア.本件発明の「棒状」とは、直線状だけを指すのか、それとも、湾曲した形状までを指すのか、その形状の範囲が不明確である。
イ.本件発明の「凹部」及び「ハンドルカバー」が設けられる位置や大きさ、形状については、何ら特定されていない。したがって、発明の課題を解決するための「凹部」及び「ハンドルカバー」は、どのような位置や大きさ、形状のものであるのか、その範囲が不明確である。

(3)無効理由4[分割要件違反に由来する特許法第29条第1項第3号又は第2項]
本件発明は、本件特許の出願が、以下の点により分割要件を満たしていない出願であるため、原出願の時にしたものとみなすことができず、本件発明は、甲第3号証に記載の発明と同一であるか、若しくは、甲第3号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、若しくは同条第2項に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
ア.本件発明における「ハンドル」は、原出願に記載された「細い棒状」に限定されておらず、細い棒状のハンドル以外のハンドルであるところの円弧状に湾曲したハンドルをも含むものとなっている。したがって、分割出願によって、「細い棒状のハンドル10」が有していた課題が、「細い棒状」以外のハンドルが有する課題にまで拡張され、さらに、ハンドルの形状についても、細い棒状のハンドル以外の「円弧状に湾曲したハンドル」が、概念として分割出願で新たに導入されている点。
イ.「直線状のハンドル本体に対して、ハンドルの中央部に形成された凹部及びそれに対応するハンドルカバーを用いる」ということが特定されていない、「棒状のハンドル本体に対して、凹部及びそれに対応するハンドルカバーを用いる」という本件発明にまで拡張ないし一般化できる事項は、原出願の明細書、特許請求の範囲及び図面には、一切記載も示唆もされていない点。

2 証拠方法
審判請求書に添付して甲第1号証?甲第4号証、令和1年12月20日付け口頭審理陳述要領書に添付して甲第5号証の1及び甲第5号証の2が提出された。
以下、甲第1号証?甲第5号証の2などを、「甲1」?「甲5の2」などという。
甲1:平成29年(ワ)第32839号 特許権侵害差止等請求事件における訴状(平成29年9月27日付)の写し(以下「写し」は、その記載を省略。)
甲2:特願2014-65029号(本件特許の原出願)に係る平成26年3月27日付け願書、明細書、特許請求の範囲及び図面
甲3:特開2015-186540号公報
甲4:本件特許の出願(特願2016-88002号)に係る平成28年4月26日に提出された願書、明細書、特許請求の範囲及び図面
甲5の1:東莞市十五美科技有限公司が作成した2019年9月10日付報告書
甲5の2:甲5の1の訳文
なお、甲1?甲5の2の成立について、当事者間に争いはない。

第4 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人が主張する無効理由は理由がないものであると主張する。
(1)無効理由1について
ア.本件特許の明細書段落【0028】、段落【0030】、段落【0042】、段落【0045】、段落【0056】及び本件特許の図面の図2ないし4から、本件発明の詳細な説明には、本件発明の「棒状のハンドル本体」、「凹部」、「ハンドルカバー」が記載されている。(答弁書4頁18行?6頁15行)
イ.本件発明が解決しようとする課題は、本件特許の明細書段落【0004】、段落【0005】に記載された以下のとおりである。
「例えばハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割して、ハンドルの内部に各部材を収納する構成とした場合には、ハンドルの成形精度や強度が低下したり、各部材がハンドルの内部を密閉する作業に手間がかかって美容器の組み立て作業性が低下したりするおそれがある。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、組み立て作業性の向上が図られる美容器を提供しようとするものである。」(答弁書7頁3行?8頁13行)
ウ.従来技術であるハンドルを中心線に沿って上下または左右に分割(便宜上「2分割」ともいう)した場合には、ハンドルが中心線に沿って2分割されるため、その分割線の距離が長くなる。
本件発明の「ハンドル本体」とはその名称のとおりハンドルの主となる部分である。また、ハンドルの表面は、ハンドル本体の表面及びハンドルカバーの表面により構成される。
このため、ハンドル本体と(凹部に対応する)ハンドルカバーとの関係でいえば、ハンドル本体が相対的に大きくハンドルカバーが小さい。
このように、ハンドルの主となるハンドル本体に凹部を形成して、凹部をハンドルカバーで覆う構成(以下「本件発明の構成」ともいう)とすれば、ハンドルを組み付ける分割線を構成するのはハンドルの主となるハンドル本体において凹部(ハンドルカバー)の外周縁となるため、ハンドルを2分割する場合に比して分割線の距離は短くなり、ハンドル本体とハンドルカバーの成形精度を確保しやすくなる。
また、ハンドルを2分割した場合、各パーツの組み合わせ部分(パーツの外周縁)はいわば縁がむき出しとなり、強度的に弱くなる。
これに対して、上記した本件発明の構成とすれば、ハンドルを2分割する場合に比して縁部分が短くなるため、強度も高まることが明らかである。
さらに、ハンドルを2分割した場合には、2分割したパーツ同士を組み合わせて密閉する必要がある。
一方、上記した本件発明の構成とすれば、棒状のハンドル本体に凹部を設け、これをハンドルカバーで覆うという関係によりハンドルを2分割した場合に比して凹部及びハンドルカバーが相対的に小さくなるため、密閉する際の外縁部分が短くなって密閉が容易になるとともに、また密閉する部品(ハンドルカバー)が小型化するため、組付け作業が容易になることも明らかである。
以上のことから、当業者は、本件発明の「棒状のハンドル本体」、「凹部」、「ハンドルカバー」に係る構成を採用した本件発明により、発明の課題を解決することができると認識できることは明らかである。(答弁書8頁18行?10頁2行)
エ.本件発明の課題は、ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割する構成に起因するものであって、湾曲したハンドルそれ自体の形状を問題としていない。
本件発明の課題は棒状のハンドルを対象とするものであることからもハンドルにおける直線状、湾曲状の相違が解決課題と関係しないことは明らかであり、直線状、湾曲状の双方を含むことも明らかである。(答弁書10頁11行?15行)
オ.「棒状」の「棒」とは、広辞苑第六版によれば「手に持てるほどの細長い木、竹、金属などの称。」とされている。また、「状」とは、同じく「すがた、ありさま。」とされている。
すなわち、「棒状」とは、手に持てるほどの細長い木、竹、金属などのすがたをしたもの、という意味である。
このため、「棒状」の字義的に、これを「直線状」に限定して解釈する理由はない。
したがって、「棒状」の字義に基づく一般的解釈において、「直線状」のものに限定されないことは明らかである。(令和1年12月20日付口頭審理陳述要領書2頁22行?3頁10行)
カ.本件発明において、「ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」に関し、凹部の位置を限定する発明特定事項はない。
また、「ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」とは、文字どおり「ハンドル本体の表面」から「内方に窪んだ凹部」であり、「ハンドル本体の表面」との特定はあるが、これをハンドル本体の中央部に限定して解釈する理由にはならない。
したがって、「ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」の一般的解釈として、「凹部」を「ハンドルの中央部に形成された」ものと解釈する理由はない。(令和1年12月20日付口頭審理陳述要領書6頁21行?7頁2行)
キ.以上のとおり、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に違反するものではない。(答弁書11頁3行?4行)

(2)無効理由3について
ア.「棒状」とは、通常の意味として、細長い円柱等の柱形の部材を意味し、直線状のもののほか湾曲している部材でも、当然に棒状である。
さらに、本件特許の明細書の段落【0026】には「上記ハンドルは、上記第1端部から上記第2端部にかけて直線状に形成されていることが好ましい。」との記載があり、この「直線状に形成されていることが好ましい」との記載からも、ハンドル形状が直線状に限らないことは明らかである。(答弁書14頁1行?11行)
イ.請求項1の「棒状のハンドル本体と、該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」との記載から、「凹部」は、ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹み部分である。
本件発明は、ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割する構成に起因する問題を解決課題として「凹部」を採用したのであり、この「凹部」は、ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割して得られる形状ではないことが明らかである。
このため、「凹部」は、ハンドルの主をなすハンドル本体において、ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割するよりも短い外周縁を有して、分枝部の軸孔と連通して形成されていればよいと理解できる。その位置や大きさ、形状も、その範囲であれば制限されないと理解できることも明らかである。
また、「ハンドルカバー」についても、請求項1の「上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバー」との記載から、「ハンドルカバー」は「凹部」を覆うものであり、凹部にあわせて設けられるものであるから、凹部と同様に何ら不明確なものではない。(答弁書15頁5行?16頁12行)
ウ.以上のとおり、本件発明は明確であり、特許法第36条第6項第2号に違反するものではない。(答弁書17頁2行?3行)

(3)無効理由4について
ア.原出願明細書(甲2)の段落【0049】で問題としているのは、ハンドルの成形精度や強度が低下したり、組み立て作業性が低下したりするおそれがあることであり、その問題は、棒状のハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割する場合、つまりハンドルを分割する場合の分割の仕方を問題としているのである。このため、同課題は、ハンドルの太さ(細さ)とは関係がない。
このため、当業者によって、課題に関して原出願のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項とは「棒状のハンドル」に関する課題である。なお、円弧状に湾曲したハンドルも棒状のハンドルに該当することは「棒状」の解釈として説明したとおりである。
そして、本件では、かかる「棒状のハンドル」に関する課題を解決課題として分割したのである(甲4段落【0004】、段落【0005】)から、分割出願にあたって新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。(答弁書17頁24行?18頁26行)
イ.したがって、本件特許は、原出願に記載された事項の範囲内で分割されたものであり、分割要件違反には該当せず、本件は原出願のときに出願したものとみなされる。
そのため、甲3は本件に対する公知文献には該当せず、本件請求項1ないし4に係る発明は、公知文献に記載された発明あるいは同発明から容易に発明することができた発明には該当せず、特許法第29条第1項第3号又は同第2項により特許を受けることができない発明には該当しない。(答弁書18頁27行?19頁4行)

第5 当審の判断
1 無効理由1について
(1)本件発明について
ア.本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、美容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肌をローラによって押圧等してマッサージ効果を奏する美容器が種々提案されている。このような美容器の例として、特許文献1には、二股に分かれた先端部を有するハンドルの当該先端部に一対のローラが軸回転可能に取り付けられたものが開示されている。かかる美容器は、一対のローラを肌に接触させた状態で往復動作させることにより、肌の押圧とともに肌の摘み上げがなされてマッサージ効果を奏する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割して、ハンドルの内部に各部材を収納する構成とした場合には、ハンドルの成形精度や強度が低下したり、各部材がハンドルの内部を密閉する作業に手間がかかって美容器の組み立て作業性が低下したりするおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、組み立て作業性の向上が図られる美容器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様は、棒状のハンドル本体と、該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部と、上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバーとからなるハンドルと、
上記ハンドル本体の長手方向の一端に一体的に形成された一対の分枝部と、 該一対の分枝部のそれぞれに形成されているとともに、上記凹部に連通する軸孔と、
該軸孔に挿通された一対のローラシャフトと、
該一対のローラシャフトに取り付けられた一対のローラと、
を備え、
上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が、上記ハンドルの表面を構成している、美容器にある。
【発明の効果】
【0007】
上記美容器において、ハンドル本体は棒状であって、長手方向の一端に一対の分枝部が一体的に形成されている。そして、ハンドル本体には凹部が形成され、該凹部は分枝部に形成された軸孔が連通するとともに、ハンドルカバーによって覆われている。上記美容器は、このような構成を有することにより、ハンドルを上下又は左右に分割した場合に比べて、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、ハンドルカバーによって凹部の内部を容易に密閉できることから美容器の組み立て作業性が向上する。
【0008】
以上のごとく、本発明によれば、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、組み立て作業性の向上が図られる美容器を提供することができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0010】
上記凹部には、上記軸孔に挿通された上記ローラシャフトを支持するシャフト支持台が設けられていることが好ましい。この場合には、ローラシャフトが凹部内で支持され、ローラシャフトの抜け止めされることとなる。
【0011】
上記凹部には電源部が収納されており、該電源部は上記ローラシャフトを介して、上記ローラに電気的に接続されており、該ローラと肌との間に微弱電流が流れるように構成されている。この場合には、肌への刺激が増して、マッサージ効果が一層高まる。」
「【0026】
上記ハンドルは、上記第1端部から上記第2端部にかけて直線状に形成されていることが好ましい。これにより、目元や口元などの顔に使用する際に、肌面に対してローラが当接する角度の調整がしやすいため、操作性が向上する。また、ハンドルの握りやすさを維持しつつ、美容器全体をコンパクトに形成することができため、旅行などで持ち運ぶのに適している。」
「【実施例】
【0028】
(実施例1)
本例の実施例に係る美容器につき、図1?図7を用いて説明する。
本例の美容器1は、図1に示すように、ハンドル本体13と、一対のローラシャフト22と、一対のローラ20と、ハンドルカバー14とを備える。
ハンドル本体13は、棒状であって、凹部15が形成されている。
ハンドル本体13の長手方向Yの一端である第1の端部11には、一対の分枝部11a、11bが一体的に形成されている。
一対の分枝部11a、11bには、図4、図5に示すように、凹部15に連通する軸孔11cが形成されている。
一対のローラシャフト22は、軸孔11cに挿通されている。
一対のローラ20は、一対のローラシャフト22に取り付けられている。 ハンドルカバー14は、凹部15を覆っている。
【0029】
そして、本例では、一対のローラ20は、図6に示すように、ハンドル10の第1端部11に互いに離隔してそれぞれの軸線L1、L2を中心に回転可能に支持されている。そして軸線L1、L2はハンドル10の中心線L0に対して第1端部11と反対側の第2端部12から第1端部11に向かう方向(図1に示すY1方向)に傾斜するように配設されている。
そして、一対のローラ20の直径dは15?20mmであるとともに、一対のローラ20の外周面21a、21b間の最短距離Wは7mm以上8mm未満である。
なお、本例では、複数のローラとして一対のローラ20のみが備えられており、直径dは18mmであり、最短距離Wは7mmである。
【0030】
以下、本例の美容器1について、詳述する。
図1、図3に示すように、ハンドル10は棒状を成している。ハンドル10は、ハンドル本体13及びハンドルカバー14を備えている。ハンドル本体13はABS樹脂製であって、クロムメッキが施されている。ハンドル本体13の長手方向の一端側の第1端部11には、二股に分かれた分枝部11a、11bが形成されている。ハンドル本体13は他端側の第2端部12に向かうにつれて縮径している。そして、ハンドル本体13は、第1端部11(分枝部11a、11bのつけ根部)から第2端部12にかけて直線状に形成されている。ハンドル10の最も太い部分の直径Sは14?18mmとすることができ、本例では16mmである。」
「【0039】
また、軸線L1、L2は、図2に示すように、ハンドル10の中心線Lに対して第1端部11と反対側の第2端部12から第1端部11に向かう方向Y1側に傾斜している。そして、図2に示すように、一対のローラの軸線が互いに重なる方向から見たときの中心線L0と軸線L2(L1)とのなす角(側方投影角度)αは90?155°とすることができ、本例では、120°である。」
「【0042】
そして、凹部15は、ハンドルカバー14により覆われている。ハンドルカバー14は係合爪14aを備えており、係合爪14aが凹部15内の係合溝(図示せず)に係合することにより、ハンドルカバー14はハンドル本体13に固定されている。なお、レンズ30とハンドル本体13との間にはОリング35aがそれぞれ介在しており、ハンドルカバー14とハンドル本体13との間にはОリング35bが介在している。
【0043】
太陽電池パネル31は端子32を介して、導電性のクロムメッキが施されたハンドル本体13に電気的に接続されている。さらに、太陽電池パネル31は導電性材料からなるシャフトホルダー36、ローラシャフト22及びベアリングホルダー26を介して、導電性のプラチナメッキが施された一対のローラ20(20a、20b)に電気的に接続されている。これにより、美容器1の使用時にローラ20の外周面21aが肌に接触することにより、ローラ20とハンドル10とが人体を介して電気的に接続されることとなる。そして、太陽電池パネル31が窓部14のレンズ30を介して受光して発電することにより、ローラ20の外周面21aと肌との間に微弱電流が流れる。その結果、肌への刺激が増し、マッサージ効果が一層高まる。」
「【0045】
次に、本例の美容器1の作用効果を説明する。
本例の美容器1によれば、ハンドル10のハンドル本体13は棒状であって、長手方向Yの一端に一対の分枝部11a、11bが一体的に形成されている。そして、ハンドル本体13には凹部15が形成され、凹部15は分枝部11a、11bに形成された軸孔11cが連通するとともに、ハンドルカバー14によって覆われている。美容器1は、このような構成を有することにより、ハンドル10を上下又は左右に分割した場合に比べて、ハンドル10の成形精度や強度を高く維持することができるとともに、ハンドルカバー14によって凹部15の内部を容易に密閉できることから美容器1の組み立て作業性が向上する。
【0046】
また、本例の美容器1では、凹部15には、軸孔11cに挿通されたローラシャフト22を支持するシャフト支持台33bが設けられている。これにより、ローラシャフト22が凹部15内で支持され、ローラシャフト22の抜け止めされている。
【0047】
また、本例の美容器1では、凹部15には電源部としての太陽光パネル31が収納されており、電源部としての太陽光パネル31はローラシャフト22を介して、ローラ20a、20bに電気的に接続されており、ローラ20a、20bと肌との間に微弱電流が流れるように構成されている。これにより、肌への刺激が増して、マッサージ効果が一層高まる。」
「【0055】
また、軸線L1、L2は、図2に示すように、ハンドル10の中心線L0に対して第1端部11と反対側の第2端部12から第1端部11に向かう方向Y1側に傾斜しているとともに、側方投影角度αは90?155°に設定されており、本例では120°である。これにより、目元や口元などの顔に使用する際に、ハンドル10を把持した状態において、肌面に対して一対のローラ20a、20bの軸線L1、L2が適度に傾斜することとなるため、一対のローラ20a、20bが滑らかに回転して摘み上げ効果が効果的に奏される。その結果、マッサージ効果が向上される。また、肘を過度に上げたり、手首を過度に曲げたりすることなく美容器1の往復動作を行うことができるため、操作性に優れる。また、使用する際に肌面に対する一対のローラ20a、20bの軸線L1、L2の傾きを変更させたときに、一対のローラ20a、20bが設けられるハンドルの第1端部11が肌面に触れることが防止されるため、肌に負担をかけるおそれを低減できる。
【0056】
また、本例では、ハンドル10は細い棒状に形成されていることから、例えばハンドル10を中心線L0に沿って上下又は左右に分割して、ハンドル10の内部に各部材を収納する構成とした場合には、ハンドル10の成形精度や強度が低下したり、各部材がハンドル10の内部を密閉する作業に手間がかかって美容器1の組み立て作業性が低下したりするおそれがある。しかし、本例では、図4に示すように、ハンドル10は、その一部(中央部)を凹状にくり抜いて形成された凹部15内に各部材を配設するとともに、ハンドルカバー14によって当該凹部15を覆うことにより各部材を収納する構成を採用している。これにより、ハンドル10の中心線L0に沿って上下又は左右に分割した場合に比べて、ハンドル10の成形精度や強度を高く維持することができるとともに、ハンドルカバー14によって凹部15の内部を容易に密閉できることから美容器1の組み立て作業性が向上する。」
「【図2】

【図3】

【図4】


イ.上記ア.によると、本件発明の課題と本件発明の特徴は、次のとおりのものであると認められる。
(本件発明の課題)
従来、肌をローラによって押圧等してマッサージ効果を奏する美容器が種々提案されており、このような美容器の例として、二股に分かれた先端部を有するハンドルの当該先端部に一対のローラが軸回転可能に取り付けられたものが開示されているところ、このような美容器は、一対のローラを肌に接触させた状態で往復動作させることにより、肌の押圧とともに肌の摘み上げがなされてマッサージ効果を奏するものである(段落【0002】)。例えば、ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割して、ハンドルの内部に各部材を収納する構成(以下「従来技術」という。)とした場合には、ハンドルの成形精度や強度が低下したり、各部材がハンドルの内部を密閉する作業に手間がかかって美容器の組立て作業性が低下したりするおそれがあるため、本件発明は、このような背景に鑑みてされたもので、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、組立て作業性の向上が図られる美容器を提供しようとするものである(段落【0004】、段落【0005】)。
(本件発明の特徴)
本件発明は、美容器に関し(段落【0001】)、ハンドル本体は棒状であって、長手方向の一端に一対の分枝部が形成されており、ハンドル本体には凹部が形成され、該凹部は分枝部に形成された軸孔が連通するとともに、ハンドルカバーによって覆われているので、ハンドルを上下又は左右に分割した場合に比べて、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、ハンドルカバーによって凹部の内部を容易に密閉できることから美容器の組立て作業性が向上する(段落【0007】)。

(2)無効理由1について
ア.サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について
(ア)本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に該当するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が原出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(イ)本件発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるかについて
本件発明1の発明特定事項は、段落【0006】に特許請求の範囲の記載と同様の記載がされているほか、具体的な実施例として、段落【0028】や段落【0030】には「棒状のハンドル本体」という点が、段落【0056】には「ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」が、段落【0042】や段落【0056】には「ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバー」が、段落【0028】や段落【0045】には「ハンドル本体の長手方向の一端に一体的に形成された一対の分枝部」が、段落【0028】や段落【0045】には「一対の分枝部のそれぞれに形成されているとともに、凹部に連通する軸孔」が、段落【0028】や段落【0046】には「軸孔に挿通された一対のローラシャフト」が、段落【0028】や段落【0047】には「一対のローラシャフトに取り付けられた一対のローラ」が、【図3】を参酌する段落【0030】には「ハンドル本体の表面及びハンドルカバーの表面が、ハンドルの表面を構成している」点が、それぞれ記載されている。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
また、段落【0010】や段落【0046】には「凹部には、軸孔に挿通されたローラシャフトを支持するシャフト支持台が設けられている」点が、段落【0011】や段落【0043】、段落【0047】には「凹部には電源部が収納されており、該電源部はローラシャフトを介して、ローラに電気的に接続されており、該ローラと肌との間に微弱電流が流れるように構成され、上記凹部の底にはハンドル本体を貫通して上記電源部としての太陽電池パネルに外光を到達させる窓部が形成されている」点が、【図2】を参酌する段落【0039】や段落【0055】には「一対のローラの並び方向から見たときに、上記一対のローラシャフトはハンドル本体に対して傾斜しており、凹部は上記一対のローラシャフトが傾斜する側に開口するように形成されている」点が、それぞれ記載されている。
よって、本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
(ウ)本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかについて
本件発明が解決しようとする課題は、段落【0004】?段落【0005】に記載の従来技術に比して、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、組み立て作業性の向上が図られる美容器を提供しようとするものである。
本件発明は、「棒状のハンドル本体と、該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部と、上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバーとからなるハンドル」及び「上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が、上記ハンドルの表面を構成している」という発明特定事項を有している。
上記「棒状のハンドル本体」は、その「表面から内方に窪んだ凹部」を備えるものであり、上記「ハンドルカバー」は、「上記凹部を覆うように」取り付けられたものであり、さらに、「上記ハンドル本体の表面及びハンドルカバーの表面」が「ハンドルの表面を構成している」のであるから、これらの構成から、「ハンドル」の構造としては、ハンドルカバーがハンドル本体に比べて相対的に小さい部材であると理解することができる。
このため、本件発明のハンドル本体とハンドルカバーとの接合線は、上記従来技術(ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割したもの)の接合線よりも短いものとなるといえる。
このように、本件発明のハンドルの構造は、特許請求の範囲の記載から、上記従来技術を含まないものということができるものであるが、もとより、本件発明の技術内容を理解するためには発明の詳細な説明や図面を参酌することができるのであって、そのようにして理解した技術内容をもとに、本件発明の要旨を認定することができることを踏まえれば、上記(1)に示した本件特許の明細書の記載によっても、本件発明は、上記従来技術を含むものでないと理解することができる。
そして一般に、複数の部材を組合せてなる物品について、部材と部材との接合部分が多かったり、接合部分が線状のものにおいて接合線が長かったりするものについては、構造的に強度が弱くなることは、原出願時の技術常識であることを踏まえると、上記従来技術に比して接合線を短くなるように構成した本件発明は、上記従来技術に比してハンドルの強度を高く維持することができると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
また、分割された部材を組み合わせる際に、組み合わせ部分にずれが生じないようにするために、各部材における組み合わせ部分、すなわち接合線全体にわたって成形精度を確保する必要があるところ、上記従来技術に比して接合線を短くした本件発明は、成形精度が求められる部分の長さが短くなって成形精度を確保しやすいものであることは、当業者が容易に理解できることから、従来技術に比して成形精度の向上が図られると認識できる範囲のものである。
さらに、本件発明のハンドルカバーは、上記従来技術に比してハンドル本体への接合線を短くなるように構成しているのであるから、ハンドル本体の凹部への位置合わせなど、組み付け作業時の取扱いが楽になり、組付け作業が容易になることも当業者であれば十分理解できることから、本件発明は、当業者が、従来技術に比して組み立て作業性の向上が図られると認識できる範囲のものであるといえる。
(エ)以上によれば、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、その発明の詳細な説明の記載及び原出願時の技術常識に照らし当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
イ.請求人の主張について
(ア)「直線状のハンドル本体」について
上記ア.(ウ)のとおり、本件発明は「棒状のハンドル本体と、該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部と、上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバーとからなるハンドル」及び「上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が、上記ハンドルの表面を構成している」という構成により、当業者が本件発明が課題を解決できると認識できるものとなっているのであるから、「ハンドル本体」については「棒状」との特定で足りるのであって、さらに「直線状」であることまでは問われない。
ハンドル本体が直線状であることに関しては、段落【0026】に、「ハンドルは、上記第1端部から上記第2端部にかけて直線状に形成されていることが好ましい。」と記載があるが、これはあくまでも「好ましい」という記載にとどめられており、発明の詳細な説明に記載されたハンドル本体が直線状に特定されないことは自明である。また、段落【0026】記載のとおり、ハンドルを直線状にすることの作用効果は、操作性の向上、握りやすさ、持ち運びの容易性であり、本件発明の課題とは別の目的に対応させたものと理解できるのであって、ハンドル本体が直線状であることは、本件発明の課題解決に要するものではない。
(イ)「ハンドルの中央部に形成された凹部」について
上記ア.(ウ)のとおり、本件発明は「棒状のハンドル本体と、該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部と、上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバーとからなるハンドル」及び「上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が、上記ハンドルの表面を構成している」という構成により、当業者が本件発明が解決しようとする課題が解決できると認識できるものとなっているのであるから、「凹部」の位置について、さらに「ハンドルの中央部に形成された」ものとすることまでは問われない。
凹部がハンドルの中央部に形成されることに関しては、段落【0056】に「図4に示すように、ハンドル10は、その一部(中央部)を凹状にくり抜いて形成された凹部15内に各部材を配設するとともに、ハンドルカバー14によって当該凹部15を覆うことにより各部材を収納する構成を採用している。」と記載されたように、「中央部」は括弧書きされていることから、凹部を設ける位置の一例を単に示したものと理解できるのであって、凹部がハンドルの中央部に形成されるという特定は、本件発明の課題解決に要するものではない。
(ウ)甲5の1及び2について
請求人は、甲5の1及び2記載の解析結果を示して、本件発明が従来技術に比して強度を高く維持することができるものではないと主張する。
しかしながら、当該解析結果は、本件発明のハンドル本体と従来技術に相当する「上下分割構造」の上側半分、下側半分とをそれぞれ比較して解析したものであり、本件発明のハンドルと従来技術のハンドルとを比較したものとはいえない。
さらに、甲5の1及び2の3.に記載された図A?図Dを参照すると、ハンドルを固定する基点を表す青い矢印状の記号が、本件発明の構造を示す図A及び図Bと従来技術に相当する「上下分割構造」を示す図C及び図Dとでは、位置や個数が異なっており、同じ解析条件で解析が行われたものとはいえない。
そうすると、甲5の1及び2記載の解析結果は、本件発明が従来技術に比較して強度を高く維持することができるものではないということを何ら根拠づけるものとはなっていないことから、請求人の主張は失当であり、採用することができない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、その発明の詳細な説明の記載及び原出願時の技術常識に照らし当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであり、サポート要件に適合するものといえるから、本件発明が「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない」とすることはできない。
したがって、本件特許は、本件発明に係る請求項の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、同法第123条第1項第4号に該当しない。
よって、請求人が主張する無効理由1によっては、本件特許を無効とすることはできない。

4 無効理由3について
ア.明確性要件について
請求項に係る発明が明確に把握されるためには、請求項に係る発明が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが必要である。そして、発明特定事項の意味内容や技術的意味の解釈に当たっては、請求項の記載のみでなく、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮することができる。
イ.「棒状」という語について
本件発明において、ハンドル本体の形状は「棒状」とのみ特定されている。
ここで、一般的に「棒」とは、広辞苑第六版によると「手に持てるほどの細長い木・竹・金属などの称。」のことを意味し、また「状」とは、同じく「すがた。ありさま。」を意味するところ、「棒状」とは、「手に持てるほどの細長い木・竹・金属などのすがたをしたもの」という意味として明確に理解できる。
そして、本件特許の明細書及び図面に記載された「棒状」のハンドル本体について、手で握ることができるような細長い形状をなしているものとなっていることは、本件発明の「棒状」という語を、上記のとおりの意味として理解できることと整合している。
したがって、「棒状」という語は、「直線状だけを指すのか、それとも湾曲した形状までを指すのか」という限定的な解釈をする余地のないものであるから、請求人の主張は失当であって、採用することができない。
ウ.凹部及びハンドルカバーについて
本件発明の「凹部」及び「ハンドルカバー」については、「ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」及び「上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバー」と記載されており、それぞれ、その記載のとおりに形状ないし構造を明確に把握することができる。
請求人は、「発明の課題を解決するための「凹部」及び「ハンドルカバー」は、どのような位置や大きさ、形状のものであるのか、その範囲が不明確である。」と主張する。しかし、請求人の当該主張は、本件発明がサポート要件(特許法第36条第6項第1号)を充足しないことを主張するものであるならともかく(なお、本件発明がサポート要件に適合するものであることは、上記3のとおりである。)、明確性要件の判断を左右するものではない。
エ.まとめ
以上のとおり、本件発明は明確であり、本件発明に係る請求項の記載は、明確性要件に適合するものといえる。
したがって、本件特許は、本件発明に係る請求項の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、同法第123条第1項第4号に該当しない。
よって、請求人が主張する無効理由3によっては、本件特許を無効とすることはできない。

5 無効理由4について
ア.特許出願の分割要件について
特許出願の分割の実体的要件は、以下のとおりである。
(要件1)原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと。
(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること。
(要件3)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること。
ただし、原出願の明細書等について補正をすることができる時期に特許出願の分割がなされた場合は、(要件2)が満たされれば、(要件3)も満たされることとする。
そして、補正の時期的要件は、以下のとおりである。
(要件i) 出願から特許査定の謄本送達前まで(ただし、拒絶理由通知を最初に受けた後を除く。)(特許法第17条の2第1項)
(要件ii)最初の拒絶理由通知の指定期間内(同第17条の2第1項第1号)
(要件iii)拒絶理由通知を受けた後の第48条の7の規定による通知の指定期間内(同第17条の2第1項第2号)
(要件iv)最後の拒絶理由通知の指定期間内(同第17条の2第1項第3号)
(要件v)拒絶査定不服審判の請求と同時(第17条の2第1項第4号)
イ.本件特許出願の分割の時期とこれに関する原出願の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成26年 3月27日 原出願の出願
平成28年 4月26日 本件特許の出願
平成29年12月19日 原出願の最初の拒絶理由通知発送
したがって、特許出願の分割がなされた時期は、原出願の補正の時期的要件(要件i)に該当し、原出願の明細書等について補正をすることができる時期に該当する。
よって、本件特許の分割の実体的要件は、(要件1)と(要件2)について検討すれば足りる。
ここで、本件特許の特許請求の範囲は、原出願の分割直前の明細書等から把握されるあらゆる発明を記載したものではないから(要件1)は満たされている。
ウ.以下(要件2)について検討する。
(要件2)の検討にあたっては、分割出願の明細書等が「原出願の出願当初の明細書等」に対する補正後の明細書等であると仮定した場合に、その補正が「原出願の出願当初の明細書等」との関係において、新たな技術的事項を追加する補正であるか否かの観点から検討する。
そして、当業者によって、原出願の明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、補正が新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内においてするものということができる。
エ.原出願の出願当初明細書等(甲2)の記載事項
原出願の出願当初明細書等(甲2)には、以下の記載がある。
「【0023】
上記ハンドルは、上記第1端部から上記第2端部にかけて直線状に形成されていることが好ましい。」
「【0049】
また、本例では、ハンドル10は細い棒状に形成されていることから、例えばハンドル10を中心線L0に沿って上下又は左右に分割して、ハンドル10の内部に各部材を収納する構成とした場合には、ハンドル10の成形精度や強度が低下したり、各部材がハンドル10の内部を密閉する作業に手間がかかって美容器1の組み立て作業性が低下したりするおそれがある。しかし、本例では、図4に示すように、ハンドル10は、その一部(中央部)を凹状にくり抜いて形成された凹部15内に各部材を配設するとともに、ハンドルカバー14によって当該凹部15を覆うことにより各部材を収納する構成を採用している。これにより、ハンドル10の中心線L0に沿って上下又は左右に分割した場合に比べて、ハンドル10の成形精度や強度を高く維持することができるとともに、ハンドルカバー14によって凹部15の内部を容易に密閉できることから美容器1の組み立て作業性が向上する。」
オ.本件発明が「細い棒状のハンドル」に限定されていない点について
原出願の出願当初明細書等には、段落【0049】に「ハンドル10は細い棒状に形成されている」と記載されているが、本件特許の明細書には、段落【0007】に「美容器において、ハンドル本体は棒状であって」と記載され、「細い」という語が削除された記載となった。
しかしながら、上記4で述べたとおり、「棒」という語の意味にはそもそも「細い」という概念があり、原出願の出願当初明細書等である甲2の全体を見ても原出願のハンドルが特別に細いものとは認められず、手で握る程度の細さのものと理解できることから、原出願の出願当初明細書等の上記「細い」という語に格別な技術的意味があるとは認められず、原出願の「細い棒状」と本件特許の明細書の「棒状」とは、実質的に同じものとして理解することができる。
そして、「例えばハンドル10を中心線L0に沿って上下又は左右に分割して、ハンドル10の内部に各部材を収納する構成とした場合には、ハンドル10の成形精度や強度が低下したり、各部材がハンドル10の内部を密閉する作業に手間がかかって美容器1の組み立て作業性が低下したりするおそれがある。」という技術的課題を解決するという本件特許の技術上の意義は、原出願時と変わりなく、新たな技術上の意義が追加されないことも明らかである。
したがって、本件発明について、「細い」という特定のない棒状のハンドルとすることによっては、新たな技術的事項が導入されたとはいえない。
請求人は、「細い棒状のハンドル以外の「円弧状に湾曲したハンドル」が、概念として、分割出願で新たに導入されている。」と主張するが、上記のとおり原出願の「細い棒状」と本件特許の出願の「棒状」とが、実質的に同じものとして理解できるところ、分割出願によって「細い棒状のハンドル」以外のものが新たに導入されていないことは明らかであるし、上記の主張が、「棒状」の具体的形状として「円弧状に湾曲した」形状が含まれることになったという主張だとしても、上記「細い棒状」ないし「棒状」の具体的形状について、直線状のもののほか、どのような形状を含むのかは、原出願の明細書及び本件特許の出願のいずれにも何ら特定はないのであるから、分割出願によってはじめて「円弧状に湾曲した」形状が含まれることになったということにはならない。
よって、請求人の上記主張は失当であり、採用することができない。
カ.本件発明が「直線状のハンドル本体に対して、ハンドルの中央部に形成された凹部」との特定がされていない点について
まず、ハンドル本体が「直線状」であることに関して、原出願の出願当初明細書等には、段落【0023】に「ハンドルは、上記第1端部から上記第2端部にかけて直線状に形成されていることが好ましい。」との記載があるが、これはあくまでも「好ましい」という記載にとどめられており、ハンドル本体が直線状に特定されないものであることは自明である。そして、段落【0049】の記載をみても、ハンドルは細い棒状であること以外に何ら言及はされていない。
よって、本件発明においてハンドル本体の形状が「直線状」に特定されていないからといって、そのことによって、新たな技術的事項が導入されたということにはならない。
次に、凹部がハンドルの中央部に形成されることに関して、原出願の出願当初明細書等には、段落【0049】に「ハンドル10は、その一部(中央部)を凹状にくり抜いて形成された凹部15」と記載されていたものが、本件特許の明細書では、段落【0007】に「ハンドル本体には凹部が形成され」と記載され、当該段落においては、凹部の形成する位置として「中央部」という特定のない記載となった。
しかしながら、上記段落【0049】のとおり「中央部」は括弧書きとして記載されていることからみても、凹部を設ける位置の一例を単に示したものと認められる。
そして、凹部が中央部に特定されていなくても、段落【0049】において凹部に関して記載された内容が妥当であることは、当業者であれば十分に理解できるものとなっている。
よって、原出願の出願当初明細書等に記載された凹部は、ハンドルの中央部に設けられたものに限定されているものではないから、本件発明において凹部を設ける位置が「中央部」に特定されていないからといって、そのことによって、新たな技術的事項が導入されたということにはならない。
キ.したがって、本件特許の出願は、(要件2)を満たしているといえる。
ク.まとめ
以上のとおり、本件特許は分割要件を満たした出願であって、本件特許は原出願の時にしたものとみなされるものであるから、甲3は原出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となったものとはならず、甲3に記載の発明は、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
したがって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また同条第2項により特許を受けることができないものとすることはできないから、同法第123条第1項第2号に該当しない。
よって、請求人が主張する無効理由4によっては、本件特許を無効とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1、3及び4はいずれも理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては本件発明1?4に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-09 
結審通知日 2020-03-11 
審決日 2020-03-31 
出願番号 特願2016-88002(P2016-88002)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (A61H)
P 1 113・ 121- Y (A61H)
P 1 113・ 537- Y (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 芦原 康裕
倉橋 紀夫
登録日 2017-04-07 
登録番号 特許第6121026号(P6121026)
発明の名称 美容器  
代理人 冨宅 恵  
代理人 ▲高▼山 嘉成  
代理人 小林 徳夫  
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