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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B06B
管理番号 1375767
審判番号 不服2020-8881  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-25 
確定日 2021-07-02 
事件の表示 特願2019-130245「リニア振動モータ」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月 6日出願公開、特開2020- 19007〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和元年7月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年(平成30年)8月3日 中国)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 元年 9月10日付け 拒絶理由通知書
令和 元年12月13日 意見書、手続補正書の提出
令和 2年 2月25日付け 拒絶査定
令和 2年 6月25日 審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和2年6月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年6月25日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は補正箇所である。)
「収容空間を有するベースと、前記収容空間に収納される振動系と、前記振動系を前記収容空間に固定して懸架する弾性部材と、前記ベースに固定される、前記振動系が水平方向に垂直な方向に沿って振動するように駆動するための駆動系と、を備え、前記駆動系は前記ベースに固定されたコイルを備え、前記コイルの巻線平面は前記振動系の振動方向に垂直するリニア振動モータであって、
前記振動系は前記弾性部材に固定され且つ前記駆動系を囲むように設置される永久磁石ユニットを備え、
前記永久磁石ユニットの着磁方向と前記永久磁石ユニットの振動方向とのなす角度は0度より大きく且つ90度より小さく、
前記第1コイルと前記第2コイルは、同一の巻線で巻回された二つのコイル構造であり、
前記第1コイルと前記第2コイルは、絶縁的に当接して設置されることを特徴とするリニア振動モータ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和元年12月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「収容空間を有するベースと、前記収容空間に収納される振動系と、前記振動系を前記収容空間に固定して懸架する弾性部材と、前記ベースに固定される、前記振動系が水平方向に垂直な方向に沿って振動するように駆動するための駆動系と、を備え、前記駆動系は前記ベースに固定されたコイルを備え、前記コイルの巻線平面は前記振動系の振動方向に垂直するリニア振動モータであって、
前記振動系は前記弾性部材に固定され且つ前記駆動系を囲むように設置される永久磁石ユニットを備え、
前記永久磁石ユニットの着磁方向と前記永久磁石ユニットの振動方向とのなす角度は0度より大きく且つ90度より小さく、
前記第1コイルと前記第2コイルは、同一の巻線で巻回された二つのコイル構造であることを特徴とするリニア振動モータ。」

2.補正の適否
(1)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1コイルと第2コイル」について、「第1コイルと第2コイルは、絶縁的に当接して設置される」という限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載された発明とは、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(3)引用文献の記載事項
ア.引用文献1
(ア)原査定(令和2年2月25日付けの拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の出願前(優先日前)に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である韓国登録特許第10-1525654号公報(2015年6月3日発行。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(日本語は当審訳。下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。)。



(【0036】図1及び図2を参照すると、本発明の一実施例による線形振動子(100)は前記線形振動子(100)の外見を形成するハウジング(110)と、質量体(131)、弾性部材(135)及び磁界部(136)を含む振動部(130)と、シャフト(153)、ヨーク(152)及びコイル(151)(154)を含む電磁石(150)と、前記電磁石(150)-詳細するように、前記コイル(151)(154)-に電源を供給するための基板(140)を含むことができる。)
【0037】ここで、前記磁界部(136)はヨーク役目を実行する上部及び下部プレート(132)(134)とその間に介在されるマグネット(133)を含むことができる。また、前記電磁石(150)は前記ハウジング(110)の内部空間に上下方向に具備されるシャフト(153)と、前記シャフト(153)に具備されるヨーク(152)及び前記ヨーク(152)を基準で上下で前記シャフト(153)に具備されるコイル(151)(154)を含むことができる。ここで、前記シャフト(153)及び前記ヨーク(152)は磁性体材質に具備されうる。)
【0038】ハウジング(110)は片側が開放されて所定の内部空間を提供するケース(112)と前記ケース(112)の開放された片側に結合して前記ケース(112)によって形成される前記内部空間を密閉することができるブラケット(114)を含むことができる。)
【0039】ここで、前記内部空間は電磁石(150)及び振動部(130)などを収容することができ、前記ケース(112)及び前記ブラケット(114)は一体でも形成されうる。)


(【0042】電磁石(150)は前記ハウジング(110)の内部空間に具備されるように前記ハウジング(110)に固定装着されうる。前記電磁石(150)は前記ハウジング(110)-ケース(112)またはブラケット(114)に装着可能-にボンディング、圧入及び溶接の中で少なくとも一つの方法に結合されうる。すなわち、前記電磁石(150)は前記ケース(112)または前記ブラケット(114)に上端または下段が固定結合されるシャフト(153)と前記シャフト(153)に固定結合されるヨーク(152)及びコイル(151)(154)を含むことができる。)


(【0044】ここで、前記電磁石(150)はハウジング(110)に固定されるシャフト(153)と、前記シャフト(153)に結合されるヨーク(152)及び前記ヨーク(152)を基準で前記シャフト(153)に上下に配置されるコイル(151)(154)を含むことができる。前記コイル(151)(154)は図2で見るように、前記ヨーク(152)に隣接する部分がお互いに等しい極性を有するように配置されうる。たとえば、図2を参照すると、上部に配置されるコイル(151)が上下で順次にN極、S極を有するように配置されて、下部に配置されるコイル(154)が上下で順次にS極、N極を有するように配置されうる。)


(【0048】前記コイル(151)(154)と振動部(130)のマグネット(133)の相互作用で電磁力を発生させる過程で磁束の流れをなだらかに形成するようにするために前記シャフト(153)及び前記ヨーク(152)が具備されうる。)



(【0054】すなわち、前記振動部(130)は前記弾性部材(135)を媒介で上下で震動することができる部材であることができる。)
【0055】ここで、前記上部及び下部プレート(132)(134)とマグネット(133)は前記電磁石(150)-さらに詳細するように、前記コイル(151)(154)及びヨーク(152)-の外径より大きい内径を具備することができる。)
【0056】具体的に、前記磁界部(136)は前記電磁石(150)と対向するように配置されることができるし、前記電磁石(150)の少なくとも一部が前記磁界部(136)によって形成される空間内に挿入されることができる。)


(【0069】弾性部材(135)は前記言及したところのように質量体(131)とハウジング(110)-ケース(112)またはブラケット(114)-に結合して弾性力を提供する部材として、前記弾性部材(135)の弾性係数によって振動部(130)の固有周波数に影響を及ぼすようになる。)



(イ)図面からは次の事項が看取される。
a 図1から、振動部(130)は、質量体(131)、プレート(132)、マグネット(133)及びプレート(134)から構成される振動体を備えていることが看取される。
b 図2からは、マグネット(133)の着磁方向とマグネットの震動方向とのなす角度は概ね平行であることが看取される。
c 図1及び図2を合わせ見ると、弾性部材(135)はハウジング(110)の直径方向に掛け渡すようにして振動体を支えていること、中空筒状をしたコイル(151)(154)の軸方向端面は振動体の震動方向にほぼ垂直であることが看取される。

図1 図2



(ウ)段落[0039]の記載と上記(イ)aから、振動体は内部空間に収容されているといえる。

(エ)引用発明
上記(ア)?(ウ)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「内部空間を有するハウジング(110)と、前記内部空間に収容される振動体と、前記振動体を構成している質量体(131)と前記ハウジング(110)とに結合し、前記ハウジング(110)の直径方向に掛け渡すようにして前記振動体を支える弾性部材(135)と、前記ハウジングに固定装着される、前記振動体が上下で震動するようにマグネット(133)と相互作用する電磁石(150)と、を備え、前記電磁石(150)は前記ハウジング(110)に固定されるシャフト(153)に上下に配置されるコイル(151)(154)を備え、中空筒状をした前記コイル(151)(154)の軸方向端面は前記振動体の震動方向にほぼ垂直である線形振動子(100)であって、
前記振動体を構成している前記質量体(131)は前記弾性部材(135)に結合し且つ前記振動体を構成している前記マグネット(133)は前記電磁石(150)の外径より大きな内径を具備し前記電磁石(150)の少なくとも一部がその空間内に挿入されており、
前記マグネット(133)の着磁方向と前記マグネット(133)の震動方向とのなす角度は概ね平行であり、
前記コイル(151)(154)は、コイル(151)とコイル(154)が配置されたものであり、
前記コイル(151)と前記コイル(154)は、ヨーク(152)の上下に配置される線形振動子(100)。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の出願前(優先日前)に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2007-251128号公報(平成19年9月27日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。)
「【0003】
[0003] 基板および/またはパターニングデバイスを配置および位置決めするためには、リソグラフィ装置は、通常、複数のアクチュエータおよび/またはリニアモータを含む。一般に、そのようなモータまたはアクチュエータは、磁石アセンブリおよびコイルアセンブリを含み、それによって、両者間の相互作用が磁石アセンブリかコイルアセンブリに連結された物体に作用する力が与えられる。そのようなモータまたはアクチュエータの効率を向上させるために、磁石アセンブリに対する別の選択肢が技術分野において開示されている。」
「【0006】
[0006] 本発明の好ましい実施形態によれば、第1方向に延在する強磁性部材、第1方向に相互に隣接して配置されかつ強磁性部材上に取り付けられた交互極性の磁極アレイ、強磁性部材に向けて発散する磁場を作り出すように配置された複数の永久磁石を有する前記磁極アレイの磁極、を備える磁石アセンブリが提供され、磁極の各永久磁石は、第1方向にあるノンゼロ成分と、第1方向に対して実質垂直な第2方向にあるノンゼロ成分とを有する磁気分極を備えている。」
「【0025】
[0034] 1. ステップモードにおいては、マスクテーブルMTおよび基板テーブルWTを基本的に静止状態に保ちつつ、放射ビームに付けられたパターン全体を一度にターゲット部分C上に投影する(すなわち、単一静止露光)。つぎに基板テーブルWTをXおよび/またはY方向に移動し、それによって別のターゲット部分Cを露光することが可能になる。ステッパモードにおいては、露光フィールドの最大サイズよって、単一静止露光時に結像されるターゲット部分Cのサイズが限定される。」
「【0031】
[0040] 本発明の第1実施形態(図4)による磁石アセンブリにおいては、磁石アセンブリ80は、磁石アレイの一方の側に配置された強磁性ヨーク70と、4つの永久磁石72、74、76、および78のアレイとを含む。4つの永久磁石72、74、76、および78のそれぞれは、第1方向の成分と、第1方向に対して実質垂直な第2方向の成分とを有する磁気分極方向を備え、それによって、交互極性、すなわちS極(磁石72および74により形成される)およびN極(磁石76および78により形成される)からなる対になった磁極を形成している。永久磁石の磁気分極を、慣例どおり、矢印が永久磁石のN極を指す矢印によって永久磁石内に示す。磁石によって作り出される磁束が強磁性ヨークに向かって発散する極を形成し、かつそれによって磁石アレイの開放端、すなわち、強磁性ヨークの反対側に向かって収斂するような態様で磁石を配置する。シミュレーションによれば、永久磁石をこのように配置することによって、ハルバッハ構成を使った配置に比べて同等の向上を磁場にもたらすことができる一方、図3aおよび3bに示された配置より少ない磁石しか必要としないことが明らかになった。この配置の利点の1つは、同じ空間内により小さくかつより薄い磁石を用いて交互磁極を作り出すことができることである。磁石の数を減らすことによって、切断およびコーティングの面で磁石の費用も下げることができる。磁石は、砕けやすいので、より大きい磁石を使うのが好ましい場合もある。磁石の寸法公差およびコーティング厚さが使用可能ないくつかの空間をふさぐ可能性があるので、磁石の数を減らしても、磁石材料の実際量がまた増える場合もある。例示の磁石アセンブリは、コイル82を含むコイルアセンブリと、磁石アセンブリ80と類似の第2磁石アセンブリ84とをさらに含み、両磁石アセンブリがコイルアセンブリを実質取り囲むリニアアクチュエータに適用されている。
【0032】
[0041] なお、図2に示された配置と図4とを比較すると、図2の隣接する磁石20および22が第2方向に対して実質平行な分極を有するのに対して、磁石74および76の分極には、磁石の分極と第2方向との間にノンゼロ角(non-zero angle)が存在することである。この角度を導入することによって、磁束の短絡(図2の磁石20から磁石22へ、または図4の磁石74から磁石76へ)を減らすことができる。その結果、コイルによって付与される磁束を増やすことができ、アクチュエータの効率を向上させることになる。短絡を減らすことによって、コイルアセンブリが磁石アセンブリ80と84との中間に正確に置かれていないとき起こるZ方向から離れる方向(de Z-direction)に発生する力も減らすことができる。これらの寄生的な力は、対象物を正確に移動させる能力を減らす恐れがあるので、短絡を減らすことは、利点となる。
【0033】
[0042] なお、本発明の実施形態による磁石アセンブリはまた、(複数の)コイルの両側に磁石アセンブリを備えるのではなくその片側にだけ磁石アセンブリを備えるリニアアクチュエータにも応用することができる。そのような片面アクチュエータの例を図5aに示す。図5aは、コイル82をともなった図4の磁石アセンブリ80を概略的に示す。このような配置もまた、たとえば、対象テーブルまたは光学部材を移動させるために、リソグラフィ装置内に利用することができるリニアアクチュエータになる。図5aにおいては、最も内側の磁石74および76の分極と、第2方向との間のノンゼロ角をαによって表わし、βを最も外側の磁石72および78の分極と、第2方向との間のノンゼロ角を表わすのに使っている。この角度を導入することによって、コイルの動作領域内の磁束密度を増やすことができる。」
また、図4?図5bからは、永久磁石の分極と、Y方向(第1方向、移動方向)及びZ方向(第2方向)との間にノンゼロ角が存在していることが看取される。

(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「コイルの動作領域内の磁束密度を増やすことでリニアモータの効率を向上させるために、永久磁石の分極と、第1方向(リニアモータの移動方向)及び第2方向(第1方向と垂直である方向)との間にノンゼロ角を存在させたリニアモータ。」

(4)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「内部空間」は本件補正発明の「収容空間」に相当し、以下同様に、
「ハウジング(110)」は「ベース」に、
「収容」は「収納」に、
「振動体」は「振動系」に、それぞれ相当する。
(イ)一般に「懸架」とは、掛け渡して支えること(デジタル大辞泉)、通りなどをまたいで構造物をかけ渡すこと(精選版 日本国語大辞典)であり、引用発明において振動体は内部空間に収容されていることから、引用発明の「前記振動体を構成している質量体と前記ハウジングとに結合し、ハウジングの直径方向に掛け渡すようにして振動体を支える」という事項は、本願補正発明の「前記振動系を前記収容空間に固定して懸架する」という事項に相当する。
(ウ)引用発明の「固定装着」は本件補正発明の「固定」に相当し、以下同様に、
「上下で震動する」という事項は「水平方向に垂直な方向に沿って振動する」という事項に、
「相互作用する」という事項は「駆動するための」という事項に、
「電磁石(150)」は「駆動系」に、
「ハウジング(110)に固定されるシャフト(153)に上下に配置されるコイル(151)(154)」は「前記ベースに固定されたコイル」に、
「中空筒状をした前記コイル(151)(154)の軸方向端面は前記振動体の震動方向にほぼ垂直である」という事項は「前記コイルの巻線平面は前記振動系の振動方向に垂直する」という事項に、
「線形振動子(100)」は「リニア振動モータ」に、
「前記振動体を構成している前記質量体(131)は前記弾性部材(135)に結合し」という事項は「振動系は前記弾性部材に固定され」という事項に、
「前記振動体を構成している前記マグネット(133)は前記電磁石(150)の外径より大きな内径を具備し前記電磁石(150)の少なくとも一部がその空間内に挿入されており」という事項は「振動系は」「前記駆動系を囲むように設置される永久磁石ユニットを備え」という事項に、それぞれ相当する。
(エ)引用発明の「前記マグネット(133)の着磁方向と前記マグネットの震動方向とのなす角度は概ね平行であり」という事項と本件補正発明の「前記永久磁石ユニットの着磁方向と前記永久磁石ユニットの振動方向とのなす角度は0度より大きく且つ90度より小さく」という事項とは、「前記永久磁石ユニットの着磁方向と前記永久磁石ユニットの振動方向とのなす角度は所定の角度であり」という点で共通する。
(オ)コイルは一般に巻線で巻回されたものであるから、引用発明の「前記コイル(151)(154)は、コイル(151)と(154)が配置されたもの」という事項と本件補正発明の「第1コイルと第2コイルは、同一の巻線で巻回された二つのコイル構造」という事項とは、「第1コイルと第2コイルは、巻線で巻回された二つのコイル構造」という点で共通する。
(カ)引用発明の「前記コイル(151)と前記コイル(154)は、ヨーク(152)の上下に配置される」という事項と本件補正発明の「前記第1コイルと前記第2コイルは、絶縁的に当接して設置される」という事項とは、「前記第1コイルと前記第2コイルは、近隣に設置される」という点で共通する。

イ.一致点及び相違点
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「収容空間を有するベースと、前記収容空間に収納される振動系と、前記振動系を前記収容空間に固定して懸架する弾性部材と、前記ベースに固定される、前記振動系が水平方向に垂直な方向に沿って振動するように駆動するための駆動系と、を備え、前記駆動系は前記ベースに固定されたコイルを備え、前記コイルの巻線平面は前記振動系の振動方向に垂直するリニア振動モータであって、
前記振動系は前記弾性部材に固定され且つ前記駆動系を囲むように設置される永久磁石ユニットを備え、
前記永久磁石ユニットの着磁方向と前記永久磁石ユニットの振動方向とのなす角度は所定の角度であり、
第1コイルと第2コイルは、巻線で巻回された二つのコイル構造であり、
前記第1コイルと前記第2コイルは、近隣に設置されるリニア振動モータ。」

<相違点1>
永久磁石ユニットの着磁方向と前記永久磁石ユニットの振動方向とのなす所定の角度に関し、本件補正発明では「0度より大きく且つ90度より小さ」い角度であるのに対し、引用発明では「概ね平行であ」る点。
<相違点2>
第1コイルと第2コイルの巻線に関し、本件補正発明では「同一の」巻線で巻回されているのに対し、引用発明では同一の巻線で巻回されているか否か不明である点。
<相違点3>
第1コイルと第2コイルの設置に関し、本件補正発明では「絶縁的に当接して」設置されるのに対し、引用発明では「ヨーク(152)の上下に」設置されている点。

(5)判断
以下、相違点について検討する。
ア.相違点1について
引用文献2には上記(3)イ(イ)のとおり、コイルの動作領域内の磁束密度を増やして効率を向上させるために、永久磁石の分極と、第1方向(リニアモータの移動方向)及び第2方向(第1方向と垂直である方向)との間にノンゼロ角を存在させることが記載されており、これは、本願補正発明における、永久磁石ユニットの着磁方向と振動方向とのなす角度を0度より大きく且つ90度より小さくすることに相当する。
そして、磁束密度を増やしてリニアモータの効率を向上させることは、リニアモータの技術分野において有する課題であることは当業者にとって明らかであり、引用発明においても内在する課題であるといえるから、引用発明におけるマグネットの着磁方向に、引用文献2に記載されている技術事項を適用して、本件補正発明の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

イ.相違点2について
リニアモータにおいて、二つのコイルを同一の巻線で巻回された構造とすることは、例えば、中国特許出願公開第106357080号明細書(特に、段落[0039]、図2、図5参照)、特開2009-232558号公報(特に、段落[0018]、[0020]、[0028]-[0038]、図1-2参照)等にも開示されているとおり、周知の技術的事項(以下、「周知技術1」という。)である。
本件補正発明において、第1コイルと第2コイルが同一の巻線で巻回されたコイル構造としたことによる作用・効果は明らかではないが、部品点数や製造工程の削減といった一般的な課題の下で、引用発明における二つのコイル構造として周知技術1を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ.相違点3について
リニアモータにおいてコイルを当接して設置することは、例えば、特開平11-225468号公報(特に、段落[0072]、図2参照)、特開2010-259258号公報(特に、段落[0015]、図2-3参照)等にも開示されているとおり、周知の技術的事項(以下、「周知技術2」という。)である。
また、コイルを形成する導線は絶縁被覆されていることから(例えば、特開平11-225468号公報 段落[0072]における「エナメル被覆の導線からなるコイル素線」との記載等参照)、コイルを当接して設置した際に、コイル同士が絶縁的に当接することは明らかである。
本件補正発明において、省スペース化や製造工程の削減といった一般的な課題の下で、引用発明に周知技術2を適用し、第1コイルと第2コイルを絶縁的に当接して設置することは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ.そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載されている技術事項及び周知技術1-2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載されている技術事項及び周知技術1-2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1.本願発明
令和2年6月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年12月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、日本国内又は外国において、その出願(優先日)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献2又は引用文献3に記載されている技術事項及び周知技術1(周知技術1を示す文献として引用文献4、引用文献5)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:韓国登録特許第10-1525654号公報
引用文献2:特開2002-238241号公報
引用文献3:特開2007-251128号公報
引用文献4:中国特許出願公開第106357080号明細書
引用文献5:特開2009-232558号公報

3.引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び3並びにその記載事項は、前記第2の[理由]2(3)に記載したとおりである。なお、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3は、前記第2の[理由]2(3)イに記載した引用文献2に相当する。

4.対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「第1コイルと第2コイルの設置」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明との相違点は、前記第2の[理由]2(4)イにおける相違点1及び2のみとなる。
本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(4)(5)に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載されている技術事項及び周知技術1-2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、相違点3に相当する発明特定事項が削除された本願発明は、引用発明、引用文献2に記載されている技術事項及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.請求人の主張
請求人は審判請求書において、「なお、2つのコイルが非絶縁的に当接する時に、発生した電流又はローレンツフォースが互いに干渉しますので、通常は、中間に遮断物を設置する必要があり、システムの構造が複雑になります。これに対して、請求項1に係る発明は、『第1コイルと第2コイルが絶縁的に当接して設置されることで、システムの構造を簡単にでき、かつ絶縁的に設置されることで、2つのコイルの間の干渉を回避できる』という優れた技術効果を奏します。したがって、請求項1に係る発明は、引用文献1-5に対して進歩性を有するものと思慮します。」 と主張している。
しかし、一般に導線を巻回した構造のコイルは、前記2(5)ウで検討したとおりコイルを形成する導線そのものが絶縁被覆されているから、請求人が主張している「2つのコイルが非絶縁的に当接する時、発生した電流又はローレンツフォースが互いに干渉します」とは、いかなることか技術常識に照らしても判然としないし、発明の詳細な説明等にも記載されていない。そして、本件補正発明における「絶縁的に当接して設置される」との発明特定事項が、引用発明が有している2つのコイル間のヨークを、設けないようにすることを意味しているとしても、前記2(5)ウで検討したとおり、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-02-03 
結審通知日 2021-02-04 
審決日 2021-02-17 
出願番号 特願2019-130245(P2019-130245)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安池 一貴  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 小川 恭司
岡澤 洋
発明の名称 リニア振動モータ  
代理人 大行 尚哉  

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