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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F |
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管理番号 | 1375770 |
審判番号 | 不服2020-13310 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-24 |
確定日 | 2021-07-02 |
事件の表示 | 特願2019-503526号「位置決めシステム、位置決めするための方法、リソグラフィ装置及びデバイス製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年2月8日国際公開、WO2018/024416号、令和元年9月5日国内公表、特表2019-525239号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2017年(平成29年)6月29日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2016年(平成28年)8月4日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成31年 3月18日 :翻訳文、補正書、上申書提出 令和元年12月27日付け:拒絶理由通知書 令和2年 4月 8日 :意見書、手続補正書の提出 令和2年 5月14日付け:拒絶査定(謄本送達 同年同月26日) 令和2年 9月24日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和2年9月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年9月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「【請求項1】 第1のボディと、 第2のボディと、 前記第1のボディを前記第2のボディに対して位置決めするために前記第1のボディと前記第2のボディとの間に配置されたアクチュエータと、 前記アクチュエータを駆動するための制御システムと、 を備える位置決めシステムにおいて、 前記アクチュエータは、直列に配置された第1のピエゾアクチュエータと第2のピエゾアクチュエータとを備え、 前記第1のピエゾアクチュエータは第1のヒステリシスを有し、 前記第2のピエゾアクチュエータは前記第1のヒステリシスよりも小さい第2のヒステリシスを有し、 前記第2のピエゾアクチュエータは少なくとも前記第1のヒステリシスに等しい位置決め範囲を有し、 前記第1のピエゾアクチュエータは第1の圧電材料を備え、前記第2のピエゾアクチュエータは前記第1の圧電材料とは異なる第2の圧電材料を備え、 前記第2のピエゾアクチュエータの長さは前記第1のピエゾアクチュエータの長さよりも大きく、 前記制御システムは、前記第1のボディを位置決めするべく前記第1のピエゾアクチュエータを駆動するように、及び前記第1のピエゾアクチュエータの前記第1のヒステリシスを補償するために前記第2のピエゾアクチュエータを駆動するように構成されている、 位置決めシステム。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和2年4月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 第1のボディと、 第2のボディと、 前記第1のボディを前記第2のボディに対して位置決めするために前記第1のボディと前記第2のボディとの間に配置されたアクチュエータと、を備える位置決めシステムにおいて、 前記アクチュエータは、直列に配置された第1のピエゾアクチュエータと第2のピエゾアクチュエータとを備え、 前記第1のピエゾアクチュエータは第1のヒステリシスを有し、 前記第2のピエゾアクチュエータは前記第1のヒステリシスよりも小さい第2のヒステリシスを有し、 前記第2のピエゾアクチュエータは少なくとも前記第1のヒステリシスに等しい位置決め範囲を有し、 前記第1のピエゾアクチュエータは第1の圧電材料を備え、前記第2のピエゾアクチュエータは前記第1の圧電材料とは異なる第2の圧電材料を備え、 前記第2のピエゾアクチュエータの長さは前記第1のピエゾアクチュエータの長さよりも大きい、 位置決めシステム。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明である「位置決めシステム」を駆動するために必要な構成である「前記アクチュエータを駆動するための制御システム」を備えた上で、「前記制御システムは、前記第1のボディを位置決めするべく前記第1のピエゾアクチュエータを駆動するように、及び前記第1のピエゾアクチュエータの前記第1のヒステリシスを補償するために前記第2のピエゾアクチュエータを駆動するように構成されている」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記「1」「(1)」に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 引用文献1 ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平7-86652号公報(平成7年3月31日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。 (ア)「【請求項1】 表裏面に電極が形成されたジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材と、同じく表裏面に電極が形成されたマグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材を一つの素子として合わせて積層したことを特徴とする積層型電気・歪変換素子。」 (イ)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、印加電圧に応じて伸縮する積層型電気・歪変換素子に関するものである。 【0002】 【従来の技術】近年、光または磁気ディスクヘッド、各種光学装置、精密工作機械等の精密位置決め装置においては、例えば特開昭63-136581号公報「積層型圧電体」、特公昭63-17354号公報「電歪効果素子」等に開示されているように、圧電素子を多数積層して形成し、印加する電圧に応じて圧電素子を伸縮させることによりアクチュエータとして用いることが行われている。」 (ウ)「【0004】物質が圧電性を有するか否かは物質のもつ結晶の対称性で決まり、点対称性をもたない結晶構造のものが圧電性をもち得る。圧電材料の最も代表的なものとしては、ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料、例えばPb(Ti_(0.48)Zr_(0.523)Zr_(0.52))O_(3)が知られている。このような圧電材料においては、印加した電界に比例して歪が発生し、20%程度のヒステリシスが有るものの0.7?1×10^(-3)の大きな歪が得られる。一方、対称中心をもつ結晶は電歪効果(印加した電界の2乗に比例して歪が発生する)はあるが、圧電性を示さない。このような電歪材料としては、マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料、例えばPb(Mg_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)が知られており、組成を選べば、歪量は圧電材料に比べて減少するものの、ヒステリシスを1%程度に抑えることができる。積層型電気・歪変換素子の従来までの応用に関しては、圧電材料と電歪材料のうちどちらか一方の素材を選択して素子とすれば十分であった。なお、図2において7は絶縁体である。」 (エ)「【0010】ここで、比較のため、圧電材料素子部10Aへの印加電圧を変化させ、この基準伸び量から1μm増加した36μmと基準伸び量35μmの間で繰り返し伸縮させたが、約20%のヒステリシスが存在し、ある電圧を印加した時に得られる微細伸び量に再現性がなかった。そこで、本発明に示すように、圧電材料素子部10Aへの印加電圧を450Vで一定とし、電歪材料素子部12Aへ0?170Vの範囲の電圧を印加して全体素子長で35μmから36μmの範囲で伸縮させた。この結果、測定可能な範囲(0.01μm)ではヒステリシスが確認されず、電歪材料素子部12Aへの印加電圧を決定すると一義的に素子長が決定されることが分かった。 【0011】圧電素子材料としてジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料素材を用いた理由は、ヒステリシスが22%であるものの、歪量が0.9×10^(-3)の大きな歪量が得られることによる。また、電歪素子材料としてマグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料素材を用いた理由は、歪量が0.3×10^(-3)でヒステリシスを1%程度に抑えることができることによる。」 (オ)「【0012】 【発明の効果】以上説明したように本発明に係る積層型電気・歪変換素子は、ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材とマグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材とを一つの素子として合わせて積層したので、数十μmの基本伸び量に加えて1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールすることのできる積層型セラミックアクチュエータが得られる。また、基本伸び量を与える部分に圧電材料ではなく、ヒステリシスと歪量の大きい電歪材料を用いても本発明と同様の効果が得られる。」 (カ)図1は次のとおりである。 【図1】 イ 上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 (ア)「印加電圧に応じて伸縮する積層型電気・歪変換素子に関するものであ」って(【0001】)、「圧電素子を多数積層して形成し、印加する電圧に応じて圧電素子を伸縮させることによりアクチュエータとして用いる」「精密位置決め装置」(【0002】)に関するものであるから、当該「積層型電気・歪変換素子」を「精密位置決め」のための「アクチュエータ」として用いた「精密位置決め装置」であること。 また、「精密位置決め」とは、2つの部材の一方を他方に対して精密に位置決めすることであるから、「精密位置決め」のための「アクチュエータ」である「積層型電気・歪変換素子」が「精密位置決め」される2つの部材の間に配置され、かつ、「積層型電気・歪変換素子」が「精密位置決め」する2つの部材の一方を他方に対して位置決めすること。 (イ)「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料」は「20%程度のヒステリシスが有」り、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料」は「ヒステリシスを1%程度に抑えることができる」ものである(【0004】)から、積層型電気・歪変換素子の「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材」の部分のヒステリシスは、積層型電気・歪変換素子の「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材」の部分のヒステリシスより小さいこと。 (ウ)「積層型電気・歪変換素子は、ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材とマグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材とを一つの素子として合わせて積層したので、数十μmの基本伸び量に加えて1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールすることのできる積層型セラミックアクチュエータ」(【0004】)であるから、「積層型電気・歪変換素子」は、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材」の部分と、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材」の部分とが、上記(ア)における2つの部材の間に、前記2つの部材のいずれか一方の部材、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材」の部分、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材」の部分、そして、前記2つの部材の他方の部材、の順に直列に配置されていること。 ウ 上記ア、イから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「表裏面に電極が形成されたジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材と、同じく表裏面に電極が形成されたマグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材を一つの素子として合わせて積層した積層型電気・歪変換素子(【請求項1】)をアクチュエータとして用いた精密位置決め装置であって(上記「イ」「(ア)」)、 前記積層型電気・歪変換素子が精密位置決めされる2つの部材の間に配置され、前記積層型電気・歪変換素子が精密位置決めする2つの部材の一方を他方に対して位置決めし(上記「イ」「(ア)」)、 前記積層型電気・歪変換素子のマグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分のヒステリシスは、積層型電気・歪変換素子のジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分のヒステリシスより小さく(上記「イ」「(イ)」)、 前記2つの部材の間に、前記2つの部材のいずれか一方の部材、前記ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分、前記マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分、そして、前記2つの部材の他方の部材、の順に直列に配置されている(上記「イ」「(ウ)」)、 数十μmの基本伸び量に加えて1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールすることができ(【0012】)、測定可能な範囲(0.01μm)ではヒステリシスが確認されない(【0010】)、 精密位置決め装置(上記「イ」「(ア)」)。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「積層型電気・歪変換素子」は、「積層型電気・歪変換素子をアクチュエータとして用いた精密位置決め装置であって、前記積層型電気・歪変換素子が精密位置決めされる2つの部材の間に配置され、前記積層型電気・歪変換素子が精密位置決めする2つの部材の一方を他方に対して位置決め」するものであるから、2つの部材と、2つの部材の一方を他方に対して位置決めするために2つの部材の間に配置されたアクチュエータであるといえる。 また、引用発明の「積層型電気・歪変換素子」は、「2つの部材の間に、前記2つの部材のいずれか一方の部材、前記ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分、前記マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分、そして、前記2つの部材の他方の部材、の順に直列に配置されている」から、「積層型電気・歪変換素子」は、直列に配置された「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」と「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」とを備えるといえる。 したがって、引用発明の「積層型電気・歪変換素子をアクチュエータとして用いた精密位置決め装置であって、前記積層型電気・歪変換素子が精密位置決めされる2つの部材の間に配置され、前記積層型電気・歪変換素子が精密位置決めする2つの部材の一方を他方に対して位置決め」し、「前記2つの部材の間に、前記2つの部材のいずれか一方の部材、前記ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分、前記マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分、そして、前記2つの部材の他方の部材、の順に直列に配置されている」「積層型電気・歪変換素子」は、本件補正発明の「第1のボディと、第2のボディと、前記第1のボディを前記第2のボディに対して位置決めするために前記第1のボディと前記第2のボディとの間に配置されたアクチュエータ」であって、「前記アクチュエータは、直列に配置された第1のピエゾアクチュエータと第2のピエゾアクチュエータとを備え」ることに相当する。 (イ)引用発明の「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」及び「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」は、本件補正発明の「第1のピエゾアクチュエータ」及び「第2のピエゾアクチュエータ」にそれぞれ相当する。 また、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料」と「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料」は異なる圧電材料である。 さらに、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分のヒステリシスは、積層型電気・歪変換素子のジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分のヒステリシスより小さ」いから、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料」と「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料」は異なるヒステリシスを有するといえる。 したがって、引用発明の「前記積層型電気・歪変換素子のマグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分のヒステリシスは、積層型電気・歪変換素子のジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分のヒステリシスより小さく、ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分と、マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分とが、2つの部材の間で直列に配置されている」ことは、本件補正発明の「前記第1のピエゾアクチュエータは第1のヒステリシスを有し、前記第2のピエゾアクチュエータは前記第1のヒステリシスよりも小さい第2のヒステリシスを有し」、「前記第1のピエゾアクチュエータは第1の圧電材料を備え、前記第2のピエゾアクチュエータは前記第1の圧電材料とは異なる第2の圧電材料を備え」ることに相当する。 (ウ)引用発明の「精密位置決め装置」は、本件補正発明の「位置決めシステム」に相当する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「第1のボディと、 第2のボディと、 前記第1のボディを前記第2のボディに対して位置決めするために前記第1のボディと前記第2のボディとの間に配置されたアクチュエータと、 を備える位置決めシステムにおいて、 前記アクチュエータは、直列に配置された第1のピエゾアクチュエータと第2のピエゾアクチュエータとを備え、 前記第1のピエゾアクチュエータは第1のヒステリシスを有し、 前記第2のピエゾアクチュエータは前記第1のヒステリシスよりも小さい第2のヒステリシスを有し、 前記第1のピエゾアクチュエータは第1の圧電材料を備え、前記第2のピエゾアクチュエータは前記第1の圧電材料とは異なる第2の圧電材料を備える、 位置決めシステム。」 【相違点】 (相違点1) 本件補正発明は「アクチュエータを駆動するための制御システム」を備え、「前記制御システムは、前記第1のボディを位置決めするべく前記第1のピエゾアクチュエータを駆動するように、及び前記第1のピエゾアクチュエータの前記第1のヒステリシスを補償するために前記第2のピエゾアクチュエータを駆動するように構成されている」と特定されるのに対して、引用発明はアクチュエータを駆動するための制御システムが明らかではない点。 (相違点2) 本件補正発明の「第2のピエゾアクチュエータ」は「少なくとも前記第1のヒステリシスに等しい位置決め範囲を有」するのに対して、引用発明の「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」は位置決め範囲が特定されない点。 (相違点3) 本件補正発明の「第2のピエゾアクチュエータの長さ」は「第1のピエゾアクチュエータの長さよりも大き」いのに対して、引用発明の「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」の長さは特定されない点。 (4)判断 以下、各相違点について検討する。 ア 相違点1について 引用発明は、アクチュエータである積層型電気・歪変換素子を、「数十μmの基本伸び量に加えて1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールすることができ」る「精密位置決め装置」であるから、アクチュエータである積層型電気・歪変換素子の駆動をコントロールする何らかの制御システムを備えることは明らかである。 また、当該制御システムは、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」の駆動を制御して「数十μmの基本伸び量」を得た後、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」の駆動を制御して「1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールする」ことで結果として、「測定可能な範囲(0.01μm)ではヒステリシスが確認されない」ように制御するものであるから、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」を駆動することにより生じるヒステリシスを「ヒステリシスが確認されない」ように補償するために、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」を駆動するように構成されていると認められる。 したがって、引用発明において、「数十μmの基本伸び量に加えて1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールすることができ、測定可能な範囲(0.01μm)ではヒステリシスが確認されない」ことは、アクチュエータである積層型電気・歪変換素子を駆動するための制御システムを備え、一方の部材を位置決めするべく「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」を駆動するとともに、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」のヒステリシスを補償するために「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」を駆動するように構成されている」ことであると認められるから、本件補正発明における「アクチュエータを駆動するための制御システム」を備え、「前記制御システムは、前記第1のボディを位置決めするべく前記第1のピエゾアクチュエータを駆動するように、及び前記第1のピエゾアクチュエータの前記第1のヒステリシスを補償するために前記第2のピエゾアクチュエータを駆動するように構成されている」ことに相当する。 よって、引用発明は、上記相違点1に係る本件補正発明の構成を備えるから、上記相違点1は実質的な相違点ではなく、また、仮に実質的な相違点であったとしても、当業者であれば容易に想到し得たものである。 イ 相違点2について 引用発明において、「数十μmの基本伸び量に加えて1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールすることができ、測定可能な範囲(0.01μm)ではヒステリシスが確認されない」ことは、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」により生じるヒステリシスを「ヒステリシスが確認されない」ように補償できるだけの「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」の十分な微細伸び量を有することを意味するものと解される。 そして、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」が、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」により生じるヒステリシスを「ヒステリシスが確認されない」ように補償できるだけの十分な微細伸び量を有することは、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」が「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」により生じるヒステリシスに等しい位置決め範囲を有することであると認められる。 したがって、引用発明が、「数十μmの基本伸び量に加えて1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールすることができ、測定可能な範囲(0.01μm)ではヒステリシスが確認されない」ことは、本件補正発明の「第2のピエゾアクチュエータ」は「少なくとも前記第1のヒステリシスに等しい位置決め範囲を有」することに相当する。 よって、引用発明は、上記相違点2に係る本件補正発明の構成を備えるから、上記相違点1は実質的な相違点ではなく、また、仮に実質的な相違点であったとしても、当業者であれば容易に想到し得たものである。 (ウ)相違点3について 引用発明における、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」の長さは「数十μmの基本伸び量」を得るために必要な歪量が生じる長さ以上の範囲で適宜選択される設計的事項であるといえる。 また、引用発明における「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」の長さは、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」の長さに基づいて、「1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールすることができ、測定可能な範囲(0.01μm)ではヒステリシスが確認されない」ような効果を得るために必要な歪量が生じる長さ以上の範囲で適宜選択される設計的事項であるといえる。 したがって、ここで、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料素材」は「ヒステリシスが22%であ」って、「歪量が0.9×10^(-3)」(【0011】)るのに対して、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料素材」は「歪量が0.3×10^(-3)」(【0011】)であるとされる。 そうすると、「歪量が0.9×10^(-3)」である「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料素材」において「数十μmの基本伸び量」によって生じる「22%」の「ヒステリシス」を、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料素材」の歪量の1/3である「歪量が0.3×10^(-3)」である「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料素材」で「ヒステリシスが確認されない」ように十分に補償するためには、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料素材」の長さは、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料素材」の長さとほぼ同じ以上であればよいことは当業者が容易に予測し得ることである。 よって、引用発明において、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料からなるセラミック素材の部分」の長さは、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料からなるセラミック素材の部分」の長さに基づいて、「1/100μm程度の再現性で微細伸び量をコントロールすることができ、測定可能な範囲(0.01μm)ではヒステリシスが確認されない」ような効果を得るために必要な歪量が生じる長さとして、「マグネシウム酸ニオブ酸鉛系電歪材料素材」の長さを、「ジルコニウム酸チタン酸鉛系圧電材料素材」の長さより長いものとなして、上記相違点3に係る本件補正発明の構成となすことは当業者が容易になし得ることである。 ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 エ したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和2年9月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年4月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2」[理由]「1」「(2)」に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?2、4、7に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開平7-86652号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記「第2」の[理由]「2」「(2)」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記「第2」の[理由]「2」で検討した本件補正発明から、「前記アクチュエータを駆動するための制御システム」、及び、「前記制御システムは、前記第1のボディを位置決めするべく前記第1のピエゾアクチュエータを駆動するように、及び前記第1のピエゾアクチュエータの前記第1のヒステリシスを補償するために前記第2のピエゾアクチュエータを駆動するように構成されている」ことに係る限定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2」の[理由]「2」「(3)」及び「(4)」に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2021-02-04 |
結審通知日 | 2021-02-05 |
審決日 | 2021-02-19 |
出願番号 | 特願2019-503526(P2019-503526) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G03F)
P 1 8・ 121- Z (G03F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長谷 潮 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 松川 直樹 |
発明の名称 | 位置決めシステム、位置決めするための方法、リソグラフィ装置及びデバイス製造方法 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 内藤 和彦 |