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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61C
管理番号 1375830
審判番号 不服2020-9215  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-02 
確定日 2021-07-07 
事件の表示 特願2017-501669号「追加的な慣性共振システムを備える動力歯ブラシ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月21日国際公開,WO2016/009368,平成29年 8月 3日国内公表、特表2017-521166号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2015年(平成27年)7月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年7月17日,(US)米国)を国際出願日とする特許出願であって,平成29年1月18日に手続補正書が提出され,令和1年6月18日付けで拒絶理由を通知し,同年8月27日に意見書,手続補正書が提出され,同年12月12日付けで拒絶理由を通知し,令和2年2月12日に意見書が提出されたが,同年3月26日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ,これに対して,同年7月2日に本件拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は,令和1年8月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「使用者荷重の下に置かれるときに駆動シャフトの低電力で大振幅の運動を達成する動力歯ブラシのための追加的な慣性共振システムであって,
回転の中心を定める主軸を有する駆動シャフトと,
前記主軸について前記駆動シャフトに往復運動を付与するように構成される駆動システムと,
前記駆動シャフトに連結される少なくとも1つの慣性おもり部材とを含み,
該少なくとも1つの慣性おもり部材は,中心のz軸に対するx-y平面内に延び且つx方向及びy方向において固定される,単一の平面的な材料を含み,
前記少なくとも1つの慣性おもり部材は,前記x-y平面内で第1の方向において径方向に第1の距離で延びる第1の部分と,前記x-y平面内で第2の方向において径方向に第2の距離で延びる第2の部分とを含み,前記第1の距離は,前記第2の距離と異なる,
追加的な慣性共振システム。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は,以下のとおりである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-3,5,8-12,14
・引用文献等1,2

・請求項4,13
・引用文献等1-3

・請求項7
・引用文献等1,2,4

<引用文献等一覧>
1.特開2009-219756号公報
2.特開2003-80168号公報
3.特開2000-237683号公報
4.特開2010-51907号公報
以下それぞれ「引用文献1」?「引用文献4」という。

第4 引用文献,引用発明等
1.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面と共に以下の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。
・「【請求項1】
駆動源と,
ブラシを有する振動部材と,
前記駆動源の出力を前記振動部材の振動に変換する運動伝達機構と,
前記駆動源の出力を制御する制御手段と,を備え,
前記制御手段は,前記振動部材の駆動振動数を複数の異なる振動数の間で高速に繰り返す制御を行うことで,駆動振動数切替時における過渡状態を利用した刷掃を可能とする
電動歯ブラシ。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,電動歯ブラシに関する。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術は動作モードを切り替える制御を行っているが,動作モードの切り替え周期が長いため,それぞれの動作モードを交互に行うのと同等の歯垢除去力が得られるだけである。
【0007】
本発明の目的は,電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図るための技術を提供することである。
【0008】
また本発明のさらなる目的は,構成の複雑化,コスト増,消費電力の増大を招くことなく,電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図るための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は,以下の構成を採用する。
【0010】
本発明に係る電動歯ブラシは,駆動源と,ブラシを有する振動部材と,前記駆動源の出力を前記振動部材の振動に変換する運動伝達機構と,前記駆動源の出力を制御する制御手段と,を備え,前記制御手段は,前記振動部材の駆動振動数を高速に繰り返す(切り替える)制御を行うことで,駆動振動数切替時における過渡状態を利用した刷掃を可能としている。 」
・「【0012】
また,本発明では上記のような不規則なブラシ動作を駆動源の出力制御だけで実現しているので,駆動系や伝達系に特殊な機構や部品が必要ない。よって,電動歯ブラシの構成の複雑化やコスト増を招くことがない。」
・「【0016】
上記第1,第2の動作モードのように共振を利用する動作モード(以下,「共振動作モード」という。)では,共振を利用しない動作モード(以下,「通常動作モード」という。)よりも,ブラシの振幅が大きくなる。安定状態におけるブラシの振幅が大きいので,過渡状態におけるブラシの振幅も大きくなる。したがって,切り替え前後における動作モードの少なくともいずれかに共振動作モードが含まれていれば,安定状態および過渡状態の両方で(すなわち,全施療期間にわたって)ブラシの振幅を大きくすることができ,より高い歯垢除去効果および施療感が得られる。また,共振現象を利用しているので,通常動作モードと同等の消費電力で振幅の増大(歯垢除去力の向上)を図ることができ,効率的である。」
・「【0018】
前記第1の方向は,ブラシ面に対して平行な方向であり,前記第2の方向は,前記ブラシ面に対して垂直な方向であることが好ましい。ここで「ブラシ面」とは,ブラシの繊維と直交し,かつ,繊維の先端部分に位置する仮想的な面をいう。第1の方向の共振では,ブラシの毛先が施療部に対し平行な方向に小刻みに動くので,歯周ポケットの刷掃に高い効果が得られ,第2の方向の共振では,ブラシの毛先が施療部に対し垂直な方向に小刻みに動くので,歯間部や歯周ポケットや歯面の刷掃に高い効果が得られると期待できる。そして,過渡状態においては,これら第1および第2の方向が組み合わされた不規則な動きをするので,両動作モードの効果を両立して得ることが可能となる。」
・「【0022】
前記駆動源がモータであり,前記運動伝達機構が前記モータの回転軸に連結された偏心軸であり,前記振動部材が,前記偏心軸の軸受を有するステムを備えることが好ましい。このような駆動原理の電動歯ブラシでは,振動部材(ブラシ)が回転軸に垂直な面内を2次元的に振動する。そして,その振動面内の略直交する2方向においてそれぞれ共振が現れる。この2方向を上記第1,第2の方向として利用できる。」
・「【発明の効果】
【0026】
本発明は,電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図ることができる。また,本発明は,構成の複雑化,コスト増,消費電力の増大を招かない。」
・「【0028】
(第1実施形態)
<電動歯ブラシの構成>
図1,図2,図3を参照して,電動歯ブラシの構成を説明する。図1は電動歯ブラシの外観を示す斜視図であり,図2は電動歯ブラシの内部構成を示す断面図であり,図3はブロック図である。
【0029】
電動歯ブラシは,駆動源であるモータ10を内蔵する電動歯ブラシ本体1(以下,単に「本体1」という。)と,ブラシ210を有する振動部材2とを備えている。本体1は,概ね円筒形状を呈しており,歯を磨く際に使用者が手で握るためのハンドル部を兼ねている。
【0030】
本体1には,電源のオン/オフおよび動作モードの切り替えを行うためのスイッチSが設けられている。また本体1の内部には,駆動源であるモータ10,モータ10の回転数を制御するための駆動回路12,2.4V電源である充電池13,充電用のコイル14などが設けられている。充電池13を充電する際には,充電器(不図示)に本体1を載置するだけで,電磁誘導により非接触で充電可能である。駆動回路12は,図3に示すように,CPU(中央演算処理装置)120,プログラムや各種設定値を記憶するメモリ121,タイマ122などを有している。
【0031】
振動部材2は,本体1側に固定されているステム部20と,このステム部20に装着されるブラシ部品21とを備える。ブラシ部品21の先端にはブラシ210が植毛されている。ブラシ部品21は消耗部品ゆえ,新品に交換できるよう,ステム部20に対して着脱自在な構成となっている。
【0032】
ステム部20は,樹脂材からなるステム200およびホルダ201と,エラストマからなる弾性部材202とから構成される。この弾性部材202は,インサート成形によりステム200およびホルダ201に一体成形されることが好ましい。弾性部材202は,ステム200とホルダ201の間に介在しており,ホルダ201に設けられた複数の貫通孔からそれぞれ突出する複数(たとえば3個)の突起部202Aを備えている。ステム部20は,本体1の外ケースに対して,弾性部材202の3個の突起部202Aによる3点接触により位置決めされる。このように,本実施形態の振動部材2は,弾性部材202を介して本体1に取り付けられている。
【0033】
ステム200は,先端(ブラシ側の端部)が閉じた筒状の部材であり,筒の内部の先端に軸受203を有している。モータ10の回転軸11に連結された偏心軸30の先端が,ステム200の軸受203に挿入される。この偏心軸30は,軸受203の近傍に重り300を有しており,偏心軸30の重心はその回転中心からずれている。なお,偏心軸30の先端と軸受203の間には微小なクリアランスが設けられている。
【0034】
<電動歯ブラシの基本動作> 電動歯ブラシの基本動作について説明する。
【0035】
電源オンの状態になると,CPU120がパルス幅変調信号(PWM信号)をモータ10に供給し,モータ10の回転軸11を回転させる。回転軸11の回転に伴って偏心軸30も回転するが,偏心軸30は重心がずれているために回転中心の回りに旋回するような運動を行う。よって,偏心軸30の先端が軸受203の内壁に対して衝突を繰り返し,ステム200とそれに装着されたブラシ部品21とを高速に振動させることとなる。つまり,偏心軸30は,モータ10の出力(回転)を振動部材2の振動に変換する運動伝達機構(運動変換機構)の役割を担っている。本体1を手で持ち,高速に振動するブラシ210を歯に当てることで,歯垢を除去することができる。なお,CPU120はタイマ122を用いて継続動作時間を監視しており,所定時間(たとえば2分間)が経過したら自動的にブラシの振動を停止させる。
【0036】
本実施形態の電動歯ブラシでは,運動伝達機構である偏心軸30が振動部材2に内包され,特に重り300がブラシ210の近傍に配置されている。よって,ブラシ210の部分を効率的に振動させることができる。その一方で,振動部材2(ステム部20)が弾性部材202を介して本体1に取り付けられているので,振動部材2の振動が本体1に伝わり難くなっている。よって,歯を磨く際の本体1および手の振動を低減でき,使用感の向上を図ることができる。
【0037】
<振動特性の説明>
本実施形態の電動歯ブラシでは,上述のように,偏心軸30の旋回運動を利用してブラシ210の振動を発生させている。このような駆動原理の場合,ブラシ210はモータの回転軸に垂直な面内を2次元的に振動し得る。図4は,ブラシの振動の軌道を模式的に示している(X軸:モータ回転軸,Y軸:回転軸に対して垂直で且つブラシ面に対して平行な方向,Z軸:ブラシ面に対して垂直な方向)。図示の例ではブラシ210がYZ平面を楕円状の軌道40で振動している。ブラシ面とは,ブラシの繊維と直交し,かつ,繊維の先端部分に位置する仮想的な面のことをいう。
【0038】
本実施形態の電動歯ブラシは図5に示すような振動特性を有する。なお,図5は,ブラシに対してZ軸方向に100gの負荷を与えた状態における,振動数と振幅の関係を示している。横軸は振動数[Hz]であり,縦軸は振幅[mm]であり,実線のグラフはY軸方向(横方向)の振幅を表し,破線のグラフはZ軸方向(縦方向)の振幅を表している。
【0039】
図5のグラフから分かるように,本実施形態の電動歯ブラシは少なくとも2つの共振点(共振振動数)を有しており,各共振点における共振方向は異なっている。具体的には,振動数が低い側の共振点(第1共振点:約100Hz)ではブラシ面に平行な共振方向であるY軸方向の共振が発生し,振動数が高い側の共振点(第2共振点:約200Hz)ではブラシ面に垂直な共振方向であるZ軸方向の共振が発生する。
【0040】
方向の異なる複数の共振が出現する理由は,電動歯ブラシの構造やその駆動原理に依るところが大きいと考えられる。本発明者らは,偏心軸やブラシの構成を変更しながら実験を繰り返すことで,第1共振点が主に運動伝達機構に依存する特性であり,第2共振点が主にブラシに依存する特性であるとの知見を得ている。言い換えれば,運動伝達機構の構造や形状(簡単には偏心軸の重りの位置,大きさ,重量など)を変更することで第1共振点の振動数や振幅を調整でき,また,ブラシの構造や形状を変更することで第2共振点の振動数や振幅を調整できることが分かった。
【0041】
第1共振点を利用する動作モード(以下,「第1共振動作モード」という。)では,図5から分かるようにZ軸方向の振動がほぼ発生していないため,ブラシの軌跡はY軸方向に往復する直線となる。第2共振点を利用する動作モード(以下,「第2共振動作モード」という。)では,Z軸方向の共振が発生するとともにY軸方向にも振幅があるため,ブラシの軌跡はZ軸方向を長軸とする楕円となる。
【0042】
本発明者らは,第1共振動作モードと第2共振動作モードとを切り替える際に生じる過渡状態におけるブラシの振動によって,歯周ポケットに対して高い刷掃効果が得られることを見出した。」
・「【0048】
(1)第1共振動作モード
第1共振動作モードは,第1共振点を利用する動作モードである。駆動振動数は第1共振点(約100Hz)またはその近傍に設定される。第1共振動作モードでは,デューティ比約50%のPWM信号を用いる。第1共振動作モードでは,通常動作モードよりもブラシ210のY軸方向(横方向)の振幅が増大し,歯垢除去力および施療感を高めることができる。特に,第1共振動作モードでは,ブラシ210の毛先が施療部に対し平行な方向に小刻みに動くので,歯周ポケットの刷掃に高い効果が得られるものと思われる。
【0049】
(2)第2共振動作モード
第2共振動作モードは,第2共振点を利用する動作モードである。駆動振動数は第2共振点(約200Hz)またはその近傍に設定される。第2共振動作モードでは,デューティ比約90%のPWM信号を用いる。第2共振動作モードでは,通常動作モードよりもブラシ210のZ軸方向(縦方向)の振幅が増大し,歯垢除去力および施療感を高めることができる。特に,第2共振動作モードでは,ブラシ210の毛先が施療部に対し垂直な方向に小刻みに動くので,歯間部や歯周ポケットや歯面の刷掃に高い効果が得られるものと思われる。
【0050】
(3)通常動作モード
通常動作モードは,共振を利用しない動作モードである。駆動振動数は第1共振点と第2共振点の間(たとえば150Hz)に設定される。なお,120Hz,140Hz,160Hz,180Hzのように多段階の通常動作モードを設け,スイッチSで切り替えられるようにしてもよい。また,第1共振点よりも低い振動数や第2共振点よりも高い振動数の通常動作モードを設けることも好ましい。
【0051】
(4)共振切替動作モード
共振切替動作モードは,第1共振動作モードと第2共振動作モードとを短い時間間隔で交互に繰り返す動作モードである。共振切替動作モードでは,第1共振動作モードと第2共振動作モードを繰り返すので,PWM信号のデューティ比はメモリ121に格納された各共振動作モードの設定値から算出する。共振切替動作モードにおける,メモリ121に格納される設定値は,各共振動作モードの動作時間である。」
・「【0060】
以上述べたように本実施形態によれば,共振方向の異なる複数の共振動作モードを切り替える際の過渡状態を利用し,不規則なブラシ振動を実現して,歯垢除去力および施療感の向上を図ることができる。共振を利用しているので,過渡状態におけるブラシの振動振幅も大きくなる。また,歯垢除去効果を得るために高い振動数で動作させる時間を削減できるため,歯肉への刺激も緩和することができる。また,複数の共振動作モードをモータの回転数制御だけで実現しているので,駆動系や伝達系に特殊な機構や部品が必要ない。よって,電動歯ブラシの構成の複雑化やコスト増を招くことがない。さらに,共振現象を利用しているので,通常動作モードと同等の消費電力で振幅の増大(歯垢除去力の向上)を図ることができ,効率的である。」
・図1,図2,図4,図6には,以下の内容が示されている。


これらの事項からみて,引用文献1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「駆動源と,
ブラシ210を有する振動部材2と,
前記駆動源の出力を前記振動部材2の振動に変換する運動伝達機構と,
前記駆動源の出力を制御する制御手段と,を備え,
前記制御手段は,前記振動部材2の駆動振動数を複数の異なる振動数の間で高速に繰り返す制御を行うことで,駆動振動数切替時における過渡状態を利用した刷掃を可能とする電動歯ブラシであって,
前記駆動源がモータ10であり,前記運動伝達機構が前記モータ10の回転軸11に連結された偏心軸30であり,前記振動部材2が,前記偏心軸30の軸受203を有するステム200を備え,前記制御手段は駆動回路12であり,
偏心軸30の先端が,ステム200の軸受203に挿入され,偏心軸30は,軸受203の近傍に重り300を有しており,偏心軸の重り300の位置,大きさ,重量などを変更することで第1共振点の振動数や振幅を調整でき,偏心軸30の重心はその回転中心からずれており,偏心軸30の先端と軸受203の間には微小なクリアランスが設けられており,偏心軸30の旋回運動を利用してブラシ210の振動を発生させ,
第1共振点を利用する動作モードでは,通常動作モードよりもブラシ210の横方向の振幅が増大し,歯垢除去力および施療感を高めることができ,
第2共振点を利用する動作モードでは,通常動作モードよりもブラシ210の縦方向の振幅が増大し,歯垢除去力および施療感を高めることができ,
本体1を手で持ち,高速に振動するブラシ210を歯に当てることで,歯垢を除去することができ,切り替え前後における動作モードの少なくともいずれかに共振動作モードが含まれていれば,安定状態および過渡状態の両方でブラシの振幅を大きくすることができ,共振現象を利用しているので,通常動作モードと同等の消費電力で振幅の増大を図ることができる,
電動歯ブラシ。」

2.引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,例えば各種携帯端末などに搭載されてケース全体に振動を発生させることができる振動発生装置及び前記装置を搭載した電子機器に関する。」
・「【0007】本発明は,上記従来の課題を解決するものであり,低消費電力で且つケースを小型にしても搭載でき,しかも多彩な振動を発生させることができる振動発生装置及び前記装置を搭載した電子機器を提供することを目的とする。」
・「【0014】
【発明の実施の形態】図1は本発明の振動発生装置の一例を示す斜視図である。この振動発生装置は,ゲーム機器のコントローラや携帯電話などの端末に搭載してケース全体を振動させることができるものである。
【0015】この振動発生装置10では,ケース1にステッピングモータ2が設けられている。図1では,ケース1を簡略化した形状で示しているが,前記ケース1が携帯電話等の携帯端末の外観を成すケース全体であってもよい。
【0016】前記ステッピングモータ2は,パルス駆動が可能であり,ひとつの駆動パルスに対して一定の角度だけ回転するモータである。またステッピングモータ2は,ゴム製の素材で形成された緩衝部材3を介してケース1の上面1aに回転軸6が上方に突出した状態で固定されている。前記緩衝部材3を設けることで,ステッピングモータ2が駆動したときの高周波なノイズを除去することができる。
【0017】前記ケース1には金属製の板ばねで形成された弾性部材4が設けられ,前記弾性部材4で前記ステッピングモータ2の回転軸6が付勢されている。すなわち,ケース1の上面1aから前記ステッピングモータ2の設置位置から外れた位置に,軸方向に平行に延びる支持板1bが形成され,前記支持板1bの側面に前記弾性部材4が固定され,前記弾性部材4の先端で前記回転軸6に対して軸方向に直交する側から付勢力が与えられている。なお,前記支持板1bの側面には,位置決め突起1cと取り付け穴が形成され,前記弾性部材4には位置決め穴4aとねじ穴が形成されており,前記位置決め穴4aが前記位置決め突起1cと勘合させられ,ねじ部材がねじ穴に挿通され,取り付け穴に螺着されて前記弾性部材4がケース1に固定されている。
【0018】前記振動発生装置10では,前記弾性部材4が前記回転軸6を側方から常に付勢した状態にある。前記ステッピングモータ2を駆動させて回転軸6をステップ駆動させることで各ステップ毎に生じる衝撃または衝撃に基づく減衰振動により,前記回転軸6が振動させられる。そして,前記衝撃や振動が前記弾性部材4を伝わってケース1を振動させる。
【0019】前記振動発生装置10では,モータにステッピングモータを使用しているので,駆動パルス(駆動周波数)を変えるだけで回転動作を容易に変化させることができる。このように,駆動パルスを制御することでモータ駆動時に発生する振動の周波数を変化させることができる。また振動の周波数だけでなく,振動の振幅を変化させる制御を行ってもよく,ステップ毎の振幅を大きくすることで,同じ動作量に対する振動の規模を拡大できる。またステッピングモータを使用すると,始動や停止に対する応答性に優れるので,振動にめりはりを与えることができる。
【0020】なお,前記振動発生装置10では,ステッピングモータ2として,例えば2相励磁方式のステッピングモータを使用することができる。図3はステッピングモータの一例を示す断面図である。
【0021】図3に示すステッピングモータ2は,金属材料で形成された円柱状の筒体100に前記回転軸6が軸受け102,102を介して回転自在に支持されている。前記筒体100内に位置する回転軸6には,外周面がN極とS極に交互に着磁されたロータマグネット101が設けられている。また前記筒体100内には,前記ロータマグネット101の周囲に環状に形成されたステータコイル103が設けられている。ステータコイル103は,上下2段に重ねて設けられたヨーク104,105にコイル106,107が巻回された構造である。
【0022】この方式のステッピングモータは,2つの相を一度に励磁するものであり,このような2相励磁方式のモータを組み込むことで,1相励磁のステッピングモータよりも大きな駆動トルクを得ることが可能になる。
【0023】図2は,図1に示す振動発生装置の変形例を示す斜視図である。この振動発生装置20は,図1に示す振動発生装置10とほぼ同様の構成であり,同一の符号を付した部分は同一の構成としてその説明を省略する。
【0024】前記振動発生装置20は,ステッピングモータ2から突出した回転軸6の先端に錘7が偏心した状態で固定されている。前記錘7を設けると回転軸6の回転中心に対して質量が偏って分布するので,前記回転軸6を回転させたときに錘7のない状態よりも大きな遠心力を得ることができ,それによってより大きな振動を得ることができる。
【0025】前記振動発生装置20では,ステッピングモータ2を駆動させてステップ駆動させたときの衝撃または前記衝撃に基づく振動をより大きな規模で得ることが可能となり,前記衝撃または振動が回転軸6から弾性部材4に伝達されてケース1を前記振動発生装置10で発生する振動よりも大きく振動させることができる。」
・「【0030】図5は,本発明の振動発生装置を搭載した電子機器の一例を示すブロック図である。この電子機器15としては,携帯電話,PHS(personal handyphone system),ページャー,PDA(personal digital assistant),ノートPCなどの携帯端末を挙げることができる。また据え置き型のテレビゲームのコントローラや携帯型のゲーム機器であってもよい。」
・図1,図2には,以下の内容が示されている。


・段落【0024】の記載事項と図2からみて,錘7は,回転軸6の回転中心のz軸に対するx-y平面内に延び且つx方向及びy方向おいて固定される,単一の平面的な板部材からなり,前記x-y平面内で第1の方向において径方向に第1の距離で延びる第1の部分と前記x-y平面内で第2の方向において径方向に第2の距離で延びる第2の部分とを含み,前記第1の距離は,前記第2の距離と異なる,振動発生装置20が理解できる。

これらの事項からみて,引用文献2には,以下の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「低消費電力で且つケースを小型にしても搭載でき,しかも多彩な振動を発生させることができる振動発生装置及び前記装置を搭載した電子機器を提供することを目的として,
ケース1にステッピングモータ2が設けられ,ステッピングモータ2は,ゴム製の素材で形成された緩衝部材3を介してケース1の上面1aに回転軸6が上方に突出した状態で固定され,前記ケース1には金属製の板ばねで形成された弾性部材4が設けられ,前記弾性部材4で前記ステッピングモータ2の回転軸6が付勢され,前記ケース1の上面1aから前記ステッピングモータ2の設置位置から外れた位置に,軸方向に平行に延びる支持板1bが形成され,前記支持板1bの側面に前記弾性部材4が固定され,前記弾性部材4の先端で前記回転軸6に対して軸方向に直交する側から付勢力が与えられている振動発生部材20であって,
振動発生装置20は,ステッピングモータ2から突出した回転軸6の先端に錘7が偏心した状態で固定され,前記錘7を設けると回転軸6の回転中心に対して質量が偏って分布するので,前記回転軸6を回転させたときに錘7のない状態よりも大きな遠心力を得ることができ,それによってより大きな振動を得ることができ,
錘7は,回転軸6の回転中心のz軸に対するx-y平面内に延び且つx方向及びy方向おいて固定される,単一の平面的な板部材からなり,前記x-y平面内で第1の方向において径方向に第1の距離で延びる第1の部分と前記x-y平面内で第2の方向において径方向に第2の距離で延びる第2の部分とを含み,前記第1の距離は,前記第2の距離と異なる,振動発生装置20。」

第5 対比・判断
1.本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「偏心軸30」は前者の「駆動シャフト」に相当し,以下同様に,「振幅の増大」は「大振幅」に,「電動歯ブラシ」は「動力歯ブラシ」に,「重り300」は「慣性おもり部材」に,「旋回運動」は本願の図1における往復運動28の矢印を考慮すると「往復運動」に,「回転中心」は「回転の中心を定める主軸」に,「モータ10」は「駆動システム」に,それぞれ相当する。
2.後者の「本体1を手で持ち,高速に振動するブラシ210を歯に当てること」は前者の「使用者荷重の下に置かれるとき」に相当する。
3.後者の「偏心軸30」は「重り300を有しており,偏心軸の重り300の位置,大きさ,重量などを変更することで第1共振点の振動数や振幅を調整でき」るものであって,後者の「制御手段」または「駆動回路12」の制御による「偏心軸30の旋回運動」によって「電動歯ブラシ」は「切り替え前後における動作モードの少なくともいずれかに共振動作モードが含まれていれば,安定状態および過渡状態の両方でブラシの振幅を大きくすることができ,共振現象を利用しているので,通常動作モードと同等の消費電力で振幅の増大を図ることができる」から,後者の「電動歯ブラシ」におけるこのようなシステムと,前者の「駆動シャフトの低電力で大振幅の運動を達成する動力歯ブラシのための追加的な慣性共振システム」とは,「駆動シャフトの低電力で大振幅の運動を達成する動力歯ブラシのための慣性共振システム」において共通する。
4.上記1.?3.を踏まえると,後者の「電動歯ブラシ」におけるシステムと,前者の「使用者荷重の下に置かれるときに駆動シャフトの低電力で大振幅の運動を達成する動力歯ブラシのための追加的な慣性共振システム」とは,「使用者荷重の下に置かれるときに駆動シャフトの低電力で大振幅の運動を達成する動力歯ブラシのための慣性共振システム」において共通する。
5.「偏心軸30の重心はその回転中心からずれて」いるから後者の「偏心軸30」は,前者の「回転の中心を定める主軸を有する駆動シャフト」に相当する。
6.後者は,「運動伝達機構が前記モータ10の回転軸11に連結された偏心軸30であり」「偏心軸30の重心はその回転中心からずれており」モータ10の回転軸11を回転させることにより「偏心軸30の旋回運動を利用してブラシ210の振動を発生させ」るものであるから,後者の「モータ10」は,上記1.の相当関係を踏まえると,前者の「前記主軸について前記駆動シャフトに往復運動を付与するように構成される駆動システム」に相当する。
7.後者は「偏心軸30は,軸受203の近傍に重り300を有して」いるから,後者の「電動歯ブラシ」のシステムは,前者の「前記駆動シャフトに連結される少なくとも1つの慣性おもり部材とを含」むことに相当する。
8.そうすると,両者は,
「使用者荷重の下に置かれるときに駆動シャフトの低電力で大振幅の運動を達成する動力歯ブラシのための慣性共振システムであって,
回転の中心を定める主軸を有する駆動シャフトと,
前記主軸について前記駆動シャフトに往復運動を付与するように構成される駆動システムと,
前記駆動シャフトに連結される少なくとも1つの慣性おもり部材とを含む,
慣性共振システム。」
の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。
<相違点1>
慣性共振システムが,本件発明では,「追加的な」慣性共振システムであるのに対して,引用発明では,「偏心軸30」は「重り300を有しており,偏心軸の重り300の位置,大きさ,重量などを変更することで第1共振点の振動数や振幅を調整でき」るものである点。
<相違点2>
少なくとも1つの慣性おもり部材が,本願発明では,「中心のz軸に対するx-y平面内に延び且つx方向及びy方向において固定される,単一の平面的な材料を含み,」「前記x-y平面内で第1の方向において径方向に第1の距離で延びる第1の部分と,前記x-y平面内で第2の方向において径方向に第2の距離で延びる第2の部分とを含み,前記第1の距離は,前記第2の距離と異なる」のに対して,引用発明では,「重り300」は「軸受203の近傍に」あり,「偏心軸の重り300の位置,大きさ,重量などを変更することで第1共振点の振動数や振幅を調整でき」るものである点。
9.相違点の検討
<相違点1について>
引用発明の「偏心軸30」は「重り300を有しており,偏心軸の重り300の位置,大きさ,重量などを変更することで第1共振点の振動数や振幅を調整でき」るものであって,一度設定した偏心軸の重り300の位置,大きさ,重量などを後で変更することができるから,「追加的な」慣性共振システムとして,相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは,引用発明に基いて,当業者が適宜なし得る事項である。
<相違点2について>
(1)本願発明と引用文献2に記載された事項とを対比すると,後者の「回転軸6」は前者の「駆動シャフト」に相当し,以下同様に,「低消費電力」は「低電力」に,「大きな振動」は「大振幅の運動」に,「錘7」は「少なくとも1つの慣性おもり部材」に,「ステッピングモータ22」は「駆動システム」に,それぞれ相当する。
(2)後者の「振動発生装置20」は,「低消費電力で且つケースを小型にしても搭載でき,しかも多彩な振動を発生させることができる振動発生装置」であって,「振動発生装置20は,」「大きな振動を得ることができ」るから,上記(1)を歩踏まえると,後者の「振動発生装置」と,前者の「使用者荷重の下に置かれるときに駆動シャフトの低電力で大振幅の運動を達成する動力歯ブラシ」とは,「低電力で大振幅の運動を達成する振動発生装置」において共通する。
(3)後者の「回転軸6」は「回転中心」を有するので,前者の「回転の中心を定める主軸を有する駆動シャフト」に相当する。
(4)後者の「ステッピングモータ2」は回転軸6を回転中心を中心として回転させるので,前者の「前記主軸について前記駆動シャフトに往復運動を付与するように構成される駆動システム」とは,「前記主軸について前記駆動シャフトに運動を付与するように構成される駆動システム」において共通する。
(5)後者の「ステッピングモータ2から突出した回転軸6の先端に錘7が偏心した状態で固定され」ている「錘7」は,(1)の相当関係を踏まえると,前者の「前記駆動シャフトに連結される少なくとも1つの慣性おもり部材」に相当する。
(6)後者の「錘7は,回転軸6の回転中心のz軸に対するx-y平面内に延び且つx方向及びy方向おいて固定される,単一の平面的な板部材からなり,前記x-y平面内で第1の方向において径方向に第1の距離で延びる第1の部分と前記x-y平面内で第2の方向において径方向に第2の距離で延びる第2の部分とを含み,前記第1の距離は,前記第2の距離と異なる」ことは,単一的な平面的な板部材は,何らかの適切な材料を含んで構成されるのは明らかであるから,前者の「該少なくとも1つの慣性おもり部材は,中心のz軸に対するx-y平面内に延び且つx方向及びy方向において固定される,単一の平面的な材料を含み,前記少なくとも1つの慣性おもり部材は,前記x-y平面内で第1の方向において径方向に第1の距離で延びる第1の部分と,前記x-y平面内で第2の方向において径方向に第2の距離で延びる第2の部分とを含み,前記第1の距離は,前記第2の距離と異なる」ことに相当する。
(7)後者の「振動発生装置」は「錘7」を有するから,前者の「慣性共振システム」とは,「慣性振動システム」において共通する。
引用文献2に記載された事項を本願発明に倣って整理すると以下のようになる(以下,「引用文献2記載事項」という。)。
「低電力で大振幅の運動を達成する振動発生装置のための慣性振動システムであって,
回転の中心を定める主軸を有する駆動シャフトと,
前記主軸について前記駆動シャフトに運動を付与するように構成される駆動システムと,
前記駆動シャフトに連結される少なくとも1つの慣性おもり部材とを含み,
該少なくとも1つの慣性おもり部材は,中心のz軸に対するx-y平面内に延び且つx方向及びy方向において固定される,単一の平面的な材料を含み,
前記少なくとも1つの慣性おもり部材は,前記x-y平面内で第1の方向において径方向に第1の距離で延びる第1の部分と,前記x-y平面内で第2の方向において径方向に第2の距離で延びる第2の部分とを含み,前記第1の距離は,前記第2の距離と異なる,
慣性振動システム。」
そして,引用発明と引用文献2記載事項とは,小型の電子機器に適用される「低電力で大振幅の運動を達成する振動発生装置のための慣性振動システム」という機能・作用において共通するとともに,引用発明には,「偏心軸の重り300の位置,大きさ,重量などを変更すること」の示唆があるから,引用発明の偏心軸の重り300に,引用文献2記載事項の「該少なくとも1つの慣性おもり部材は,中心のz軸に対するx-y平面内に延び且つx方向及びy方向において固定される,単一の平面的な材料を含み,前記少なくとも1つの慣性おもり部材は,前記x-y平面内で第1の方向において径方向に第1の距離で延びる第1の部分と,前記x-y平面内で第2の方向において径方向に第2の距離で延びる第2の部分とを含み,前記第1の距離は,前記第2の距離と異なる」ことを適用して,相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
さらに,本願発明の効果について検討しても,引用発明,引用文献2記載事項に基いて予期される以上の格別のものがあるとはいえない。
したがって,本願発明は,引用発明,引用文献2記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 請求人の主張について
請求人は,審判請求書の「4.本願発明が特許されるべき理由」において,以下のように主張する。
「(3)しかしながら,前回の拒絶理由通知書に対する意見書において主張したように,引用文献1において,「おもり300」は,図2から明らかなように,請求項1の「中心のz軸」に対応する「X軸」に対する,請求項1の「x-y平面」に対応する「Y-Z平面」内に延びるではなく,請求項1の「x-z平面」又は「y-z平面」に対応する「X-Y平面」内に延びています。従って,引用文献1の「おもり300」は,請求項1におけるように「中心のz軸に対するx-y平面」内に延びていません(相違点1)。
(4)更に,引用文献1において,「おもり300」は,回転軸11/偏心軸30から偏心しています。従って,前回の拒絶理由通知書に対する意見書において 主張したように,引用文献1において,おもり300は,請求項1の「x方向及びy方向」に対応する「Y方向及びZ方向」において「固定」されていません(相違点2)。
(5)上記相違点1及び2に関連して,引用文献2は,「x-y平面内に延び」る「単一の平面的な材料」である「錘7」を開示していますが,引用文献2の「錘7」は,引用文献1とは異なり,請求項1の「中心のz軸」に対応する「モータの回転軸6」に対する,請求項1の「x-y平面」に対応する平面内に延びています。従って,前回の拒絶理由通知書に対する意見書において主張した通り,引用文献2の「錘7」を引用文献1の「おもり300」と置換することは構造上阻害されています。
(6)それ故,前回の拒絶理由通知書に対する意見書では,請求項1の「中心のz軸」に対応する「X軸」に対する請求項1の「x-z平面」又は「y-z平面」に対応する「X-Y平面」内に延びる引用文献1の「重り300」を,請求項1の「中心のz軸」に対応する「モータの回転軸6」に対する請求項1の「x-y」平面に対応する平面内に延びる引用文献2の「錘7」を置換することが構造上阻害されていることは,当業者に明らかであると主張しました。」
「(8)しかしながら,引用文献1の段落0040中の「運動伝達機構の構造や形状(簡単には偏心軸の重りの位置,大きさ,重量など)を変更することで第1共振点の振動数や振幅を調整でき」るという記述は,第1共振点の振動数や振幅を調整するために偏心軸30の重り300の位置,大きさ,重量を変更することに言及しているに過ぎず,偏心軸30の重り300は,請求項1の「中心のz軸」に対応する「X軸」に対する,請求項1の「x-y平面」に対応する「Y-Z平面」内に延びることが意図されておらず,依然として請求項1の「x-z平面」又は「y-z平面」に対応する「X-Y平面」内に延びることが意図されています。
(9)従って,請求項1の「中心のz軸」に対応する「モータの回転軸6」に対する,請求項1の「x-y平面」に対応する平面内に延びる引用文献2の「錘7」を,引用文献1の「おもり300」と置換することは,構造上阻害されています。」
しかしながら,引用文献1の請求項1の記載と,それに対応する課題を解決するための手段の記載 (特に段落【0010】)を参照すると,引用発明の「偏心軸30の先端と軸受203の間には微小なクリアランスが設けられて」いること(偏心軸30の先端が固定されていないこと。)及び,偏心軸30の重りの構造ないし配置(請求人の主張する,重り300が,本願発明の「x-z平面」又は「y-z平面」に対応する平面内に延びること。)は,引用文献1における課題を解決するための必要不可欠な構成ではない上に,上述したように引用発明には,「偏心軸の重り300の位置,大きさ,重量などを変更すること」の示唆があるから,偏心軸30の重り300に代えて,引用文献2記載事項を適用することには,構造上の阻害要因があるとはいえない。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1は,引用発明及び引用文献2記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-01-28 
結審通知日 2021-02-02 
審決日 2021-02-18 
出願番号 特願2017-501669(P2017-501669)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高田 基史  
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 藤井 昇
出口 昌哉
発明の名称 追加的な慣性共振システムを備える動力歯ブラシ  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 宮崎 修  

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