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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  D03D
審判 全部申し立て 2項進歩性  D03D
管理番号 1375845
異議申立番号 異議2019-700947  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-22 
確定日 2021-03-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6521092号発明「保温性に優れた織物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6521092号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。 特許第6521092号の請求項1、3?13に係る特許を維持する。 特許第6521092号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6521092号の請求項1?13に係る特許についての出願は、2017年(平成29年) 9月27(優先権主張 2016年(平成28年) 9月30日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和元年 5月10日にその特許権の設定登録がされ、令和元年 5月29日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和元年11月22日 : 特許異議申立人浅野幸義による請求項1?13に係る特許に対する特許異議の申立て
令和元年11月26日 : 特許異議申立人岩崎勇による請求項1?13に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年3月4日付け : 取消理由通知書
令和2年4月30日 : 特許権者による意見書の提出
令和2年8月28日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
令和2年10月30日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年1月4日 : 特許異議申立人岩崎勇による意見書の提出
なお、特許異議申立人浅野幸義からは、なんらの応答がなかった。

第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
令和2年10月30日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6521092号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?13について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「単繊維繊度が0.5?1.7dtexであるアクリル繊維の含有率が28?70質量%、綿の含有率が19?60質量%、目付が115?200g/m^(2)の織物であって」を「単繊維繊度が0.5?1.7dtexであるアクリル繊維の含有率が28?70質量%、綿の含有率が19?60質量%、目付が115?200g/m^(2)、厚さが0.2?0.5mmの織物であって」に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「請求項1または2に記載の織物。」を「請求項1に記載の織物。」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項4?13も同様に訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「請求項1?3のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1または3に記載の織物。」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項5?13も同様に訂正する。

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1、3?4のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項6?13も同様に訂正する。

カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6の「請求項1?5のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1、3?5のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。
請求項6の記載を引用する請求項7?13も同様に訂正する。

キ.訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1?6のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1、3?6のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。
請求項7の記載を引用する請求項8?13も同様に訂正する。

ク.訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1?7のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1、3?7のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。
請求項8の記載を引用する請求項9?13も同様に訂正する。

ケ.訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9の「請求項1?8のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1、3?8のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。
請求項9の記載を引用する請求項10?13も同様に訂正する。

コ.訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10の「請求項1?9のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1、3?9のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。
請求項10の記載を引用する請求項11?13も同様に訂正する。

サ.訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11の「請求項1?10のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1、3?10のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。
請求項11の記載を引用する請求項12?13も同様に訂正する。

シ.訂正事項12
特許請求の範囲の請求項12の「請求項1?11のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1、3?11のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。
請求項12の記載を引用する請求項13も同様に訂正する。

ス.訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13の「請求項1?12のいずれか一項に記載の織物。」を「請求項1、3?12のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。

ウ.一群の請求項
訂正前の請求項1?13は、請求項2?13が、本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1?13〕に対して請求するものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「織物」を、「厚さが0.2?0.5mm」であるものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0018】の「本発明の織物は、厚さが0.2?0.5mmであることが好ましい。」又は段落【0019】の「前記厚さが0.2mm以上であれば、アクリル繊維による保温率向上の効果が得られ、厚さが0.5mm以下であれば、織物が重くなく、風合いが硬くなり過ぎないので好ましい。」等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、上記のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項の削除は、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

ウ.訂正事項3?13について
訂正事項3?13は、訂正事項2による請求項2を削除することにともない、引用する請求項から請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件特許発明
本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1、3?13に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
単繊維繊度が0.5?1.7dtexであるアクリル繊維の含有率が28?70質量%、綿の含有率が19?60質量%、目付が115?200g/m^(2)、厚さが0.2?0.5mmの織物であって、
経糸が綿100%からなる糸であり、緯糸がアクリル繊維を含有する糸からなるか、または、
経糸及び緯糸のそれぞれにおけるアクリル繊維の含有率が10?75質量%である織物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
セルロース系化学繊維の含有率が5?25質量%である請求項1に記載の織物。
【請求項4】
経糸及び緯糸の太さが、それぞれ綿番手で15?50番手である請求項1または3のいずれか一項に記載の織物。
【請求項5】
緯糸の織密度が50?90本/インチである請求項1、3?4のいずれか一項に記載の織物。
【請求項6】
片面または両面が起毛されている請求項1、3?5のいずれか一項に記載の織物。
【請求項7】
密度が0.3?0.5g/cm^(3)である請求項1、3?6のいずれか一項に記載の織物。
【請求項8】
織組織が、綾織、朱子織のいずれかである請求項1、3?7のいずれか一項に記載の織物。
【請求項9】
保温率が18?26%である請求項1、3?8のいずれか一項に記載の織物。
【請求項10】
単位目付当たりの保温率が0.155?0.200である請求項1、3?9のいずれか一項に記載の織物。
【請求項11】
単位密度当たりの保温率が40?75である請求項1、3?10のいずれか一項に記載の織物。
【請求項12】
CLO値が0.10?0.25である請求項1、3?11のいずれか一項に記載の織物。
【請求項13】
抗ピル性が3級以上である請求項1、3?12のいずれか一項に記載の織物。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の要旨
訂正前の請求項1?13に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
ア 本件特許発明1?13は、引用発明1又は引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 本件特許発明1、4?6、8、13は、検甲1生地発明であるから、本件特許発明1、4?6、8、13に係る特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものである。
ウ したがって、上記ア及びイに記載した理由により、本件特許発明1?13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として、取り消されるべきものである。
なお、特許異議申立人岩崎勇による異議申立ては、本件特許発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたとするものであるが、異議申立の具体的な理由に照らすと、その根拠は特許法第29条第1項第2号の誤記と認められる。したがって、取消理油通知により、すべての申立理由を通知した。

2.引用文献、引用発明
(1)引用文献1の記載事項、引用発明1
特許異議申立人浅野幸義によって提出された甲第1号証である特開昭54-59441号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。以下、下線は当審が理解の便宜の為に付した。
ア 「(1)0.6?1.0デニール、強度3?5.5g/d、ヤング率600?800kg/mm^(2)なるアクリル繊維と綿とからなる繊維製品。
(2)綿として0.85?0.95デニールのものを用いたことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の繊維製品。
(3)綿とアクリル繊維との併用割合が20/80?90/10 なる割合であることを特徴とする特許請求の範囲第1項又は第2項記載の繊維製品。
(4)繊維製品を構成する糸の番手が100?150番手のものであることを特徴とする特許請求の範囲第1項、第2項又は第3項記載の繊維製品。」(1ページ左欄5?18行)
イ 「本発明は綿に0.6?1.0デニールで強度3?5.5g/d、ヤング率600?800kg/mm^(2)のアクリル合成繊維を混紡又は交編織することによつて得られる商品価値の高い繊維製品に関するものである。
ここで言う繊維製品とは紡績糸から編織物までを含むものであり、具体的には肌着、Tシヤツ、タオル、ワイシヤツ、セーター、靴下等を差すが勿論これ等に限定されるものではない。」(1ページ右欄2?10行)
ウ 「しかしながら通常市販されている綿製品又は綿アクリル混繊維製品に於ても洗濯による風合変化、特に粗硬感の増加は重大な欠点となつており、著しく商品価値を低下させている。本発明者等はこの点に関して鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達したものである。本発明者等は綿と混紡するアクリル繊維の繊度とくり返し洗濯後の風合変化、直射日光下の変退色等について実験を試みた所0.6?1.0デニールの強度3?5.5y/d、ヤング率600?800kg/mm^(2)のアクリル繊維を混紡、交編織したものが飛躍的に粗硬感を減じ且つ優雅な光沢を有することを発見したものである。この効果は該アクリル繊維のもののみに見出されるもので他のポリエステル、ナイロン等の合成繊維では得ることが出来ないものである。更に該アクリル繊維を混紡、交編織したものは以下述べる独特な効果が認められ、これが先の効果に相剰的に作用し、商品価値を著しく高めるのに有効である。該アクリル繊維はポリエステル、ナイロン等の他の合成繊維の中では水に対する鋭角の接触角を持つており、親水性が優れ水との馴染がよい。・・・本発明で用いるアクリル繊維はその構造が特定の細繊度の集合体となつているため、その表面積は著しく大きくなり、その親水性とが相俟つて繊維間の毛細管効果が活発となり、これによつて水分の吸収速度を著しく増大することができるのである。一方アクリル繊維は平衡吸湿量そのものは低いのて繊維自体からの脱着はきわめて速かに行われる。即ち本発明で用いるアクリル系繊維は吸水し易く乾きが速いと言うことで発汗した皮膚よりの水分を速かに吸収拡散させ肌着表層にし容易に水分を放出することとなり、木綿製品の着用時の不快感の原因である発汗水分の吸収拡散放出性が著しく改良され、理想的肌着の機能を有するものであり、きわめて価値の高い繊維製品を得ることが出来る。更に本発明で用いるアクリル繊維はSea Island Egyptian Giza 45 等の高級綿と似た独得な光沢を有しこれを混紡、交編織した繊維製品の美的価値を高めると言う効果を持つている。これは繊維のデニールを小とするため繊維の曲率半径が小さくなり、光の反射角の変化により生起される現象と考えられる。
上記した特定構造のアクリル繊維を使用して本発明の繊維製品を得るためには、混紡、交織、交編いずれの方法によつても目的とする効果を得ることが可能である。このアクリル繊維を綿と混合する割合は、紡績条件、糸番手、撚数、編成条件等によつて異るので一概には決めるのことは出来ないが、混合率が約10%を越えると風合変化、特に粗硬感を減ずる効果が認められる。混合割合を増加させた場合には綿の持つ特徴を減ずることになるが、これ等の割合は製品の用途、目的に応じて加減するが通常80%までとするのが望ましい。尚繊維製品中20%以下の割合で羊毛、獣毛、絹、ナイロン、ポリエステル、モダアクリル等の他の天然又は合成繊維を混紡、交編,織することは、何等本発明の目的とする特徴を損うものではない。」(2ページ左上欄19行?3ページ左上欄1行)
エ 「本発明の繊維製品はその外観、風合、耐光性、水発散性等の特性から言つて審美性、機能性両面より肌着兼外衣として、特に暑熱地方での利用価値を高めるものである。
以下具体例により更に説明を加える。
実施例-1
・・・
得られた紡績糸を丸編機28Gにより編地を作り供試用とした。各編地より男子用肌着5着、女子用肌着5着を縫製し、夏期の暑熱時を(6月中旬?8月中旬)を選び着用テストを実施した。
・・・
実施例-2
綿を混紡する、アクリル繊維の繊度と繊維製品の風合変化を調査する目的で、第4表に示すアクリル繊維を綿に40%混紡し通常のスフ紡績により30番手の双子を得、ラツセル編機によりタオルケツトを編み、供試サンプルとした。」(3ページ左下欄17行?5ページ左上欄6行)
オ 上記イの「綿に0.6?1.0デニールで強度3?5.5g/d、ヤング率600?800kg/mm^(2)のアクリル合成繊維を混紡又は交編織することによつて得られる商品価値の高い繊維製品」という記載、上記ウの「上記した特定構造のアクリル繊維を使用して本発明の繊維製品を得るためには、混紡、交織、交編いずれの方法によつても目的とする効果を得ることが可能である。」という記載、そして、「交織」とは「綿糸と絹糸、絹糸と毛糸または人造繊維などのように、異種の糸を交ぜて織ること。まぜおり。」(株式会社岩波書店広辞苑第六版)という意味であり、「交織織物」とは「2種または2種以上の異なる糸を織り交ぜた織物を総称する。異種の糸を経糸、緯糸に区分して織る場合が多いが、経または緯に異なる糸を交ぜて織ることもある。」(文化出版局 服飾辞典)という意味であることを勘案すると、「アクリル繊維」と「綿」を「混紡、交織又は交編」「することによつて得られる」「紡績糸から編織物までを含む」「繊維製品」は、「アクリル繊維と綿を混紡」した糸を織った「織物」及び「アクリル繊維」と「綿」とを「交織」したもの、すなわち、経糸が綿糸であり、緯糸がアクリル繊維を含有する糸からなる「織物」を含む。
したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「0.6?1.0デニール、強度3?5.5g/d、ヤング率600?800kg/mm^(2)のアクリル繊維と、綿との併用割合が20/80?90/10なる割合である織物であつて、アクリル繊維と綿を混紡した糸を織つたか、経糸が綿糸であり、緯糸がアクリル繊維を含有する糸を織った織物であり、繊維製品中20%以下の割合で他の天然又は合成繊維を混紡、交編,織する繊維製品。」

(2)引用文献2の記載事項、引用発明2
特許異議申立人浅野幸義によって提出された甲第2号証である特開昭59-116447号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
ア 「単糸繊度が0.5?2.5デニール、沸水収縮率が4%以下であり、非拘束状態で約80℃の温水中に浸漬した場合に繊維に付与された捲縮が実質的に消失するアクリル系短繊維を20?80重量%と木綿80?20重量%の混紡糸からなる綿-アクリル系繊維混紡編織物。」(1ページ左欄5?10行)
イ 「すなわち、本発明の目的とするところは、木綿製品の大きな欠点である洗濯による風合変化がなく、発色性,染色堅牢度などの染色性が改良された木綿-アクリル系繊維混紡製品を提供するにある。・・・
本発明に用いられるアクリル系繊維は木綿との混紡,紡績を可能とする機械捲縮を有するが、この機械捲縮は約80℃の温水中に浸漬した場合に、該アクリル系繊維非拘束部のみが選択的にその捲縮を失ない、ストレート化すると云う捲縮特性を有する点に特徴がある。」(2ページ左上欄12行?右上欄10行)
ウ 「ここで、アクリル系短繊維の繊維長、繊度、捲縮数および捲縮度としては混紡される木綿の種類により異なるが、通常は32?51mm,好ましくは32?44mm、0.5?2.5d、好ましくは0.5?1.8d、・・・」(2ページ右下欄1?5行)
エ 「前述したアクリル系短繊維と木綿との混紡割合いは、混紡製品の用途,目的によつて適宜選択されるが、肌着,シーツ,タオルケツトなど木綿の吸水・吸湿特性をより有効に反映させたい用途においては、アクリル系繊維の混紡率は20?50重量%が用いられる。
また、ジヤージ,毛布などアクリル系繊維の特徴をより強く反映させる場合はアクリル系繊維を50?80重量%の範囲内で混紡することが一般的に利用される。上記範囲外になると、アクリル系繊維と木綿の双方の特性が十分に反映されない。」(2ページ右下欄11行?3ページ左上欄2行)
オ 「このような本発明のアクリル糸短繊維の捲縮特性は、このフアイバーから作成した編織物などの繊維製品において、その表面上に突出している毛羽,ループなどの非拘束状態にある繊維末端や糸条は温,熱水処理によつて選択的にその捲縮を消失し、編織物内部の撚り、編織物組織構造によつて互いに拘束されている部分は、その捲縮形態を実質的に保有することを意味する。したがつて、このような捲縮特性を有する本発明のアクリル系短繊維およびその紡績糸から得られる繊維製品は、該短繊維の捲縮に起因する嵩高性,柔軟性,風合をそのまま保持し、かつその表面に突出する毛羽,ループ等が捲縮を有しないために、独特の風合と外観を与え、しかも後述する繊維物性との相乗的効果によつて抗ピル性が付与されるのである。
ここで本発明のアクリル系短繊維の捲縮特性は、下式で定義される捲縮ストレート化率によつて示すことができ、この捲縮ストレート化率が少くとも約75%、好ましくは85%以上であることが望ましい。
・・・
本発明のアクリル系短繊維は抗ピル性の点から結節強度が約1.0?2.0g/d好ましくは1.5?1.85g/dで、沸水収縮率が4%以下、好ましくは3%以下の範囲の物性を満足することが望ましい。すなわち、本発明の目的の1つである抗ピル性付与のためには、前記の捲縮特性と結節強度が同時に満足されることがより好ましい。たとえば、結節強度が2.0g/dを越えると実用上の抗ピル性が十分でなくなるし、他方1.0g/dよりも小さくなると紡績性の低下が著しく、品質,性能の安定した製品を得ることが難しくなる。」(3ページ右上欄4行から右下欄13行)
カ 「本発明の混紡編織物はメンズシヤツ,セータ,婦人用スラツクス、スカート,タイツ,ソツクス,体育衣料などに有用であり、抗ピル性のみならず、すぐれた光沢,発色性,風合い,吸水性などを具備したきわめて商品価値の高い製品が得られる。」(5ページ右上欄末行?左下欄5行)
キ 「実施例1
アクリロニトリル95.3モル%、アクリル酸メチル4.3モル%、メタリルスルホン酸ソーダ0.4モル%をジメチルスルホキシド中で溶液重合した紡糸原液を作成した。
この原液を30℃の70%ジメチルホキシド水溶液中で凝固させた後、熱水中で5倍に延伸した。得られた糸条を十分水洗した後165℃で乾燥し引き続き連続蒸熱処理機により、125℃で緊張熱処理を行なつた。
この糸条にケン縮を付与した後で、60℃で乾燥してアクリル系繊維トウを得、38mmにカツトしてステープルとした。
得られた繊維の単糸繊度は1.5デニール,強度4.2g/d、結節強度1.75g/d,ケン縮数12山/インチ,ケン縮度14%,沸水収縮率30%の物性を有していた。また、繊維の断面形状は実質的に円形であり、単繊維表面は凹凸が小さく、きわめて平滑であつた。この糸条を非拘束状態で80℃の熱水中に浸漬したところ、ケン縮が消失し、ほとんどストレートになつた。ケン縮のストレート化率は89%であり、該原綿は非拘束状態においてケン縮がストレート化する特性を有することが確認できた。
この原綿50%とアブランド綿50%を常法により紡績して、1/52の紡績糸を作成した。紡績時のフライや糸切れの発生はほとんどなく、紡績性はきわめて良好であつた。
該紡績糸を用いて常法により編成した後、染色した。得られた編地についてICIピリング試験を行つた結果、4?5級と良好な抗ピル性を示した。また編地表面に突出しているアクリル繊維のケン縮は消失してストレート化しておリ、濃色で、光沢,発色性とも極めて良好であつた。」(5ページ左下欄8行?6ページ左上欄2行)
したがって、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「単糸繊度が0.5?1.8デニール、沸水収縮率が4%以下であり、非拘束状態で約80℃の温水中に浸漬した場合に繊維に付与された捲縮が実質的に消失するアクリル系短繊維を20?80重量%と木綿80?20重量%の混紡糸からなる綿-アクリル系繊維混紡編織物であり、捲縮ストレート化率が85%以上、結節強度が1.5?1.85g/dである綿-アクリル系繊維混紡編織物。」

(3)検甲第1号証の発明
1)特許異議申立人岩崎勇によって提出された検甲第1号証の記載
検甲第1号証(生地の現物)は、生地(以下「検甲1生地」という。)であり、「SX3059」という記載が付されている。
2)特許異議申立人岩崎勇によって提出された甲第1?11号証の記載
ア.甲第1号証(「生地の写真」)から以下が看取できる。



また、甲第1号証には、「宣誓書」(島田製織株式会社 伊澤保、令和元年11月7日付け)が添付されており、以下の記載がある。
「私は、2013年から現在まで・・・島田製織株式会社に勤務しており、・・・特許第6521092号に対して岩崎勇が提出する特許異議申立書において証拠として提出される「縞割表」、「生地発注書」、「染色加工指示書」、「5月20日出荷加工指図書」および「No.SX3059の生地(実物)」の内容が正しいこと、そして特許異議申立書におけるその証拠の説明が正しいことを宣誓します。」
イ.甲第2号証(「MEN‘S 2015-2016 FALL/WINTER NEW COLLECTION」)から以下の記載が看取できる。


」(第7ページ)
ウ.甲第3号証(「MEN‘S 2015-2016 FALL/WINTER NEW COLLECTION」)から以下の記載が看取できる。


」(表紙)


」(第7ページ)
エ.甲第4号証(「縞割表」)から「SX3059」という記載等が看取できる。
オ.甲第5号証(「生地発注書(訂正)」)から「SG3028」という記載等が看取できる。
カ.甲第6号証(「染色加工指図書」)から「見本SX3059通り」という記載等が看取できる。
キ.甲第7号証(「5月20日出荷加工指図書」)から「SX3059通り」という記載等が看取できる。
ク.甲第8号証(「品質検査報告書」)から「SG3028」という記載等が看取できる。
ケ.甲第9号証(「品質検査報告書」)から「品番P301-15F」、「P735TAS」という記載等が看取できる。
コ.甲第10号証(「マンシングウエア 試験結果報告書」)から「SG3028」との記載等が看取できる。
サ.甲第11号証(「DESIGN, SEWING SPECIFICATIONS」)から「SG3028」という記載等の記載が看取できる。
シ.甲第12号証(一般財団法人ボーケン品質評価機構大阪試験センター、「品質検査報告書」、2019年(令和元年)11月14日発行)には、次の記載がある。



ス.甲第13号証(「生地の写真」)に甲第13号証には、「宣誓書」(日本エクスラン工業株式会社 安川真一、令和元年11月18日付け)が添付されており、以下の記載がある。
「私は、2005年から現在まで・・・日本エクスラン工業株式会社に勤務しており、・・・特許第6521092号に対して岩崎勇が提出する特許異議申立書において証拠として提出される「生地採取状況の写真」の内容が正しいこと、そして特許異議申立書におけるその証拠の説明が正しいことを宣誓します。」
また、甲第13号証について、異議申立人は、「甲第13号証は、甲第12号証の品質検査の際に、検甲第1号証の生地からサンプルを切り取った際の状況をボーケン品質評価機構にて撮影した写真である。」と主張する。
セ.甲第14号証(特開2015-40361号公報)には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、単繊維繊度が0.8?3.3dtexの範囲にある合成繊維と天然繊維とからなる混紡糸、さらに機能性を付与した前記混紡糸およびそれらの混紡糸を含む編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から肌着用素材として、綿繊維のみを使用した紡績糸、アクリル繊維等の合成繊維と綿繊維を混紡した紡績糸、再生セルロース繊維とアクリル繊維等の合成繊維を混紡した紡績糸などがある。合成繊維と綿繊維との混紡品は綿繊維の比率が高くなると、編地を握ったときの感触が硬くなり易く、洗濯後の編地は、より感触も硬くなり、また形態が崩れやすい傾向がある。主な用途としては紳士用肌着が中心である。再生セルロース繊維と合成繊維の混紡品は洗濯後の形態安定性に欠けるが、吸湿発熱性に優れ、光沢があり、編地を握ったときの感触が柔らかい事から、婦人用肌着に好んで使用される傾向にある。」

3)検甲第1号証の発明
ア.上記1)から検甲1生地として、グレー、ネイビー、ピンクの3色の生地があることが分かる。

イ.検甲第1号証の実物生地の検査結果であるとされる甲第12号証における検査結果の上記2)シの記載から、「1.ピンク」の生地に着目すると、検甲1生地は、次の発明(以下「検甲1生地発明」という。)であると認められる。

「混用率〈全体の場合〉が、見かけ繊度が濃ピンク0.57デニール、淡ピンク0.55デニール、グレー0.58デニールのアクリル50.4%、綿49.6%であって、単位面積当たりの質量が160.5g/m^(2)、厚さ0.66mmの織物であって、混用率〈分離の場合〉がたて綿100%、よこアクリル100%、番手がたてクレー21.0、ピンク20.5、赤20.0、よこグレー38.4/2、ピンク36.9/2、赤39.9/2、密度よこ56.0本/25.4mm、N起毛、アクリル混ツイル、ピリング3.5級の織物。」

3.当審の判断
(1)特許法第29条第2項について
1)本件特許発明1について
ア 引用発明1を主発明とした場合
ア)対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「アクリル繊維」は、本件特許発明1の「アクリル繊維」に他ならず、引用発明1の「0.6?1.0デニール」である「アクリル繊維」は、1デニールが1.111dtexであるから、本件特許発明1の「単繊維繊度が0.5?1.7dtexであるアクリル繊維」に相当する。
引用発明1の「アクリル繊維と綿を混紡した糸を織った」「織物」は、「経糸及び緯糸のそれぞれがアクリル繊維の含有する」「織物」である限りにおいて、本件特許発明1の「経糸及び緯糸のそれぞれにおけるアクリル繊維の含有率が10?75質量%である」「織物」に一致し、引用発明1の「経糸が綿100%からなる糸であり、緯糸がアクリル繊維を含有する糸からな」る「織物」は、本件特許発明1の「経糸が綿100%からなる糸であり、緯糸がアクリル繊維を含有する糸からなる」「織物」に相当する。
したがって、本件特許発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「単繊維繊度が0.5?1.7dtexであるアクリル繊維との綿を含有する織物であって、経糸が綿100%からなる糸であり、緯糸がアクリル繊維を含有する糸からなるか、または、経糸及び緯糸のそれぞれがアクリル繊維の含有する織物。」
[相違点1-1]
「織物」における「アクリル繊維」と「綿」の含有率について、本件特許発明1は、それぞれ「28?70質量%」及び「19?60質量%」であるのに対し、引用発明1の「アクリル繊維」と「綿」との「併用割合」が、「20/80?90/10」である点。
[相違点1-2]
本件特許発明1の「織物」は「目付が115?200g/m^(2)、厚さが0.2?0.5mm」であるのに対し、引用発明1の「織物」が目付と厚さが不明である点。
[相違点1-3]
「経糸及び緯糸のそれぞれがアクリル繊維の含有する」「織物」について、本件特許発明1は、「アクリル繊維の含有率が10?75質量%」であるのに対し、引用発明1は、「アクリル繊維と、綿との併用割合が20/80?90/10なる割合」であり、その他に「20%以下の割合で他の天然又は合成繊維」を含有する点。

イ)判断
事案に鑑み、相違点1-2について先に検討する。
上記相違点1-2に係る引用発明1のとおり、引用発明1の「繊維製品」の「目付」及び「厚さ」については、引用文献1には記載がなく、不明である。
また、引用文献1には、「繊維製品」の適用に関して「ここで言う繊維製品とは紡績糸から編織物までを含むものであり、具体的には肌着、Tシヤツ、タオル、ワイシヤツ、セーター、靴下等を差すが勿論これ等に限定されるものではない。」(上記2(1)イを参照。)と記載されており、比較的薄手の織物(ワイシャツ等)への適用について一般的な教示があるものの、引用発明1には、「0.6?1.0デニールの強度3?5.5y/d1ヤング率600?800kg/mm^(2)のアクリル繊維を混紡したもの」という「その構造が特定の細繊度」(上記2(1)ウを参照。)であることで、「その外観、風合、耐光性、水発散性等の特性から言つて審美性、機能性両面より肌着兼外衣として、特に暑熱地方での利用価値を高める」こと(上記2(1)エを参照。)が目的として記載され、また、かかる目的に合致する具体例として、肌着(実施例-1 編地)とタオルケット(実施例-2 編地)(上記2(1)エを参照。)が記載されるに止まる。
このように、「目付」及び「厚さ」についての記載はなく、かつ、その目的が「目付」や「厚さ」との関連性が低く、さらに、具体的な解決手段が「織物」ではない引用文献1に接した当業者が、その構造が特定の細繊度のアクリル繊維の含有する編織物を、薄手(軽量)でかつ保温性がある織物に適用することについて、具体的な示唆や動機を把握することはできない。
してみると、引用発明1において、不明である「繊維製品」の「目付」及び「厚さ」について、相違点1-2に係る本件特許発明1のようになすことは、当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、少なくとも上記相違点1-2で引用発明1と相違し、当業者が引用発明1に基いて相違点1-2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することができたものであるとはいえないから、その余の相違点1-1、1-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

イ 引用発明2を主発明とした場合
ア)対比
本件特許発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「アクリル系短繊維」及び「木綿」は、それぞれ、本件特許発明1の「アクリル繊維」及び「綿」に相当し、引用発明2の「綿-アクリル系繊維混紡編織物」は、本件特許発明1の「織物」に相当するから、引用発明2の「単糸繊度が0.5?1.8デニール、沸水収縮率が4%以下であり、非拘束状態で約80℃の温水中に浸漬した場合に繊維に付与された捲縮が実質的に消失するアクリル系短繊維を20?80重量%と木綿80?20重量%の混紡糸からなる綿-アクリル系繊維混紡編織物」は、「経糸及び緯糸のそれぞれにおいてアクリル繊維を含有した織物」である限りで、本件特許発明1の「経糸及び緯糸のそれぞれにおけるアクリル繊維の含有率が10?75質量%である織物」に一致する。
したがって、本件特許発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「経糸及び緯糸のそれぞれにおいてアクリル繊維を含有した織物。」
[相違点2-1]
「アクリル繊維」の「単繊維繊度」について、本件特許発明1は、「0.5?1.7dtex」であるのに対し、引用発明2は、「0.5?1.8デニール」すなわち約0.6?2.0dtexである点。
[相違点2-2]
「織物」における「アクリル繊維」と「綿」の含有率について、本件特許発明1は、それぞれ「28?70質量%」及び「19?60質量%」であるのに対し、引用発明2は、それぞれ「20?80重量%」及び「80?20重量%」である点。
[相違点2-3]
本件特許発明1の「織物」は「目付が115?200g/m^(2)、厚さが0.2?0.5mm」であるのに対し、引用発明2の「織物」が目付と厚さが不明である点。
[相違点2-4]
「経糸及び緯糸のそれぞれがアクリル繊維の含有する」「織物」の「アクリル繊維の含有率」について、本件特許発明1は、「10?75質量%」であるのに対し、引用発明2は、その割合が「20?80重量%」である点。

イ)判断
事案に鑑み、相違点2-3について先に検討する。
上記相違点2-3に係る引用発明1のとおり、引用発明2の「アクリル系短繊維」の「目付」及び「厚さ」については、引用文献2には記載がなく、不明である。
また、引用文献2では、「アクリル系短繊維」の適用に関して「混紡製品の用途,目的・・・、肌着,シーツ,タオルケツトなど木綿の吸水・吸湿特性をより有効に反映させたい用途・・・また、ジヤージ,毛布などアクリル系繊維の特徴をより強く反映させる場合」(上記2(2)ウを参照。)や「本発明の混紡編織物はメンズシヤツ,セータ,婦人用スラツクス、スカート,タイツ,ソツクス,体育衣料などに有用」と記載されて、様々な編織物への適用について一般的な教示があるものの、引用発明2には、「非拘束状態で約80℃の温水中に浸漬した場合に繊維に付与された捲縮が実質的に消失するアクリル系短繊維」を「木綿」との「混紡糸からなる綿-アクリル系繊維混紡編織物」とすることで、「木綿製品の大きな欠点である洗濯による風合変化がなく、発色性、染色堅牢度などの染色性」を改良すること(上記2(2)イを参照。)が目的として記載され、また、かかる目的を達成した具体例としては、「常法により編成した後、染色し」て「得られた編地」(実施例1、2)が記載されるに止まる。
このように、「目付」及び「厚さ」についての記載はなく、かつ、その目的が「目付」や「厚さ」との関連性が低く、さらに、具体的な解決手段が「織物」ではないな引用文献2に接した当業者が、その特定の捲縮特性を有する綿-アクリル系繊維混紡編織物を、薄手(軽量)でかつ保温性がある織物に適用することについて、具体的な示唆や動機を把握することはできない。
してみると、引用発明2において、不明である「綿-アクリル系繊維混紡編織物」の「目付」及び「厚さ」について、相違点2-3に係る本件特許発明1構成とすることは、当業者が容易に想到することができるとはいえない。
したがって、本件特許発明1と引用発明2とは、少なくとも上記相違点2-3で引用発明2と相違し、当業者が引用発明2に基いて相違点2-3に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することができるとはいえないから、その余の相違点2-1、2-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2)本件特許発明3?13について
本件特許発明3?13は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものであって、少なくとも上記相違点1-2で引用発明1と相違し、又は、少なくとも上記相違点2-3で引用発明2と相違するから、本件特許発明3?13は、本件特許発明1と同様に、引用発明1又は引用発明2に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人岩崎勇は、「目付が小さく軽量で、厚さが薄いにもかかわらず、保温性に優れた織物を提供すること」は、季節に応じて織物に一般的に求められる性能にすぎず、引用文献1及び引用文献2の発明においても内在する目的で、動機付けは十分に存在する。」と主張する。
しかしながら、かかる点は、上記相違点1-2及び相違点2-3について検討したとおり、引用文献1又は引用文献2には、「目付」及び「厚さ」について具体的な記載はなく、また、引用発明1又は引用発明2を、織物への適用した上で「目付」及び「厚さ」を調整して、軽量で、厚さが薄いにもかかわらず、保温性に優れたものとすることについて具体的な示唆も動機を把握することはできない。また、そのような動機が引用発明1又は引用発明2において内在することを示す証拠も示されていない。よって、上記主張は採用できない。
また、特許異議申立人岩崎勇は、訂正の請求により追加された「特徴」「織物の厚さが0.2?0.5mm」は「当業者の適宜設計事項にすぎず、この程度の特徴を本件特許の請求項1に組み入れたとしても、本件発明は特許性を有さないことは明らかである。」、「秋冬物の衣料は、一般的に「薄くて軽いにもかかわらず暖かい」ことが要求される傾向にあるが、本件特許発明の厚さが薄いとは、秋冬物の衣料において通常考慮されることにすぎない。」、「厚いと連動して目付が大きくなるので、織物が重く、風合いが硬くなり、一方、薄いと、保温性に寄与する有効成分であるアクリル繊維の量が少なくなり、保温性が十分でないという、この程度のことは、わざわざ証拠文献を示して証明するまでもなく、当業者には当然の技術常識にすぎない。」と主張する。
しかしながら、「一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化」が、相違点が設計変更等であるとして進歩性が否定される方向に働く要素の一つであることは指摘のとおりであるが、上記のとおり引用発明1又は引用発明2を、「織物」に適用した上で、軽さと厚さを調整するという課題を当業者が認識できないのであるから、引用発明1又は引用発明2において、「目付」及び「厚さ」を具体的に特定することが、「一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化」に該当するとはいえない。また、アクリル繊維を含む織物において、軽量で、厚さが薄いことと保温性を両立させる観点で軽さと厚さの数値範囲を調整することが当業者にとっての技術常識であることを示す証拠の提示もなされてない。よって、上記主張は採用できない。

4)小括
以上のとおり、本件特許発明1、3?13は、引用発明1又は引用発明2に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定によって、本件特許発明1、3?13に係る特許を取り消すことはできない。

(2)特許法第29条第1項第2号について
1)本件特許発明1について
まず、本件特許発明1が検甲1生地発明であるかについて検討する。
ア.本件対比・判断
本件特許発明1と検甲1生地発明とを対比する。
検甲1生地発明の「見かけ繊度」及び「アクリル」は、本件特許発明1の「短繊維繊度」及び「アクリル繊維」に相当し、1デニールが1.111dtexであるので、検甲1生地発明の「見かけ繊度が濃ピンク0.57デニール、淡ピンク0.55デニール、グレー0.58デニール」の「アクリル」は、本件特許発明1の「単繊維繊度が0.5?1.7dtexであるアクリル繊維」に相当する。
そして、検甲1生地発明の「混用率〈全体の場合〉」は、本件特許発明1の「アクリル繊維の含有率」及び「綿の含有率」に相当し、検甲1生地発明の「単位面積当たりの質量」は、本件特許発明1の「目付」に相当するから、検甲1生地発明の「混用率〈全体の場合〉が、見かけ繊度が濃ピンク0.57デニール、淡ピンク0.55デニール、グレー0.58デニールのアクリル50.4%、綿49.6%であって、単位面積当たりの質量が160.5g/m^(2)の織物」は、本件特許発明1の「単繊維繊度が0.5?1.7dtexであるアクリル繊維の含有率が28?70質量%、綿の含有率が19?60質量%、目付が115?200g/m^(2)の織物」に相当する。
検甲1生地発明の「混用率〈分離の場合〉がたて綿100%、よこアクリル100%」なる「織物」は、本件特許発明1の「経糸が綿100%からなる糸であり、緯糸がアクリル繊維を含有する糸からなる」「織物」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と検甲1生地発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「単繊維繊度が0.5?1.7dtexであるアクリル繊維の含有率が28?70質量%、綿の含有率が19?60質量%、目付が115?200g/m^(2)、厚さが0.2?0.5mmの織物であって、
経糸が綿100%からなる糸であり、緯糸がアクリル繊維を含有する糸からなる織物。」

[相違点3-1]
本件特許発明1の「織物」は厚さが0.2?0.5mmであるのに対し、検甲1生地発明の「織物」は厚さが0.66mmである点。

したがって、本件特許発明1は、相違点3-1で検甲1生地発明と相違しているから、検甲1生地発明であるとはいえない。

2)本件特許発明4?6、8、13について
本件特許発明4?6、8、13は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものであって、少なくとも上記相違点3-1で検甲1生地発明と相違するから、本件特許発明4?6、8、13は、検甲1生地発明であるとはいえない。

3)小括
以上のとおり、本件特許発明1、4?6、8、13は、検甲1生地発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第2号の発明ではないからから、検甲1生地発明が、本件特許発明4?6、8、13に係る特許出願の優先権主張日前に日本国内又は外国において公然実施されたものであるか否かを論ずるまでもなく、本件特許発明1、4?6、8、13に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1、3?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1、3?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求に係る訂正により、請求項2に係る特許は削除されたため、請求項2に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.5?1.7dtexであるアクリル繊維の含有率が28?70質量%、綿の含有率が19?60質量%、目付が115?200g/m^(2)、厚さが0.2?0.5mmの織物であって、
経糸が綿100%からなる糸であり、緯糸がアクリル繊維を含有する糸からなるか、または、
経糸及び緯糸のそれぞれにおけるアクリル繊維の含有率が10?75質量%である織物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
セルロース系化学繊維の含有率が5?25質量%である請求項1に記載の織物。
【請求項4】
経糸及び緯糸の太さが、それぞれ綿番手で15?50番手である請求項1または3に記載の織物。
【請求項5】
緯糸の織密度が50?90本/インチである請求項1、3?4のいずれか一項に記載の織物。
【請求項6】
片面または両面が起毛されている請求項1、3?5のいずれか一項に記載の織物。
【請求項7】
密度が0.3?0.5g/cm^(3)である請求項1、3?6のいずれか一項に記載の織物。
【請求項8】
織組織が、綾織、朱子織のいずれかである請求項1、3?7のいずれか一項に記載の織物。
【請求項9】
保温率が18?26%である請求項1、3?8のいずれか一項に記載の織物。
【請求項10】
単位目付当たりの保温率が0.155?0.200である請求項1、3?9のいずれか一項に記載の織物。
【請求項11】
単位密度当たりの保温率が40?75である請求項1、3?10のいずれか一項に記載の織物。
【請求項12】
CLO値が0.10?0.25である請求項1、3?11のいずれか一項に記載の織物。
【請求項13】
抗ピル性が3級以上である請求項1、3?12のいずれか一項に記載の織物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-16 
出願番号 特願2017-551354(P2017-551354)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D03D)
P 1 651・ 112- YAA (D03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 相田 元  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 森藤 淳志
石井 孝明
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6521092号(P6521092)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 保温性に優れた織物  
代理人 小林 均  
代理人 林 司  
代理人 林 司  
代理人 小林 均  
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