• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1375851
異議申立番号 異議2020-700606  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-17 
確定日 2021-04-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6649255号発明「トリアデノウイルスワクチン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6649255号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔19-25〕について訂正することを認める。 特許第6649255号の請求項1ないし25に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6649255号の請求項1ないし25に係る特許についての出願は、平成26年8月19日に出願されたものであって、令和2年1月20日に特許権の設定登録がされ、令和2年2月19日にその特許公報が発行され、その後、令和2年8月17日に、特許異議申立人 山田 宏基(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年10月23日付け:取消理由通知
令和3年 1月25日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)

なお、申立人は、令和3年2月1日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。

第2 訂正の適否
以下、令和3年1月25日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

1 本件訂正の内容
本件訂正請求による訂正事項は、以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項19における、
「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質またはその免疫原性断片を含む」
との記載を
「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質を含む」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項20における、
「前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質または前記固定されたその免疫原性断片に対する抗体」
との記載を
「前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質に対する抗体」
に訂正する。

なお、訂正前の請求項19?25について、請求項20?25は請求項19を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項19及び20に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項19?25に対応する訂正後の請求項19?25は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
a 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項19において「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質またはその免疫原性断片を含む」との記載を、「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質を含む」に訂正するものであり、これは、選択肢を削除することで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
請求項19の上記訂正に連動する請求項20?25の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の4第9項で準用する第126条第6項に適合する。
さらに、請求項19の上記訂正に連動する請求項20?25の訂正も、同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
a 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項20において「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質またはその免疫原性断片に対する抗体」との記載を、「固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質に対する抗体」に訂正するものであり、これは、選択肢を削除することで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
請求項20の上記訂正に連動する請求項21?25の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の4第9項で準用する第126条第6項に適合する。
さらに、請求項20の上記訂正に連動する請求項21?25の訂正も、同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の請求項〔19-25〕について訂正することを認める。

第3 本件発明について
本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1?25に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明25」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
鳥類における肝炎心膜水腫症候群(HHS)の予防において使用するための、トリアデノウイルスC(FAdV-C)のファイバー2タンパク質を含むワクチンであって、
サブユニットワクチンである、前記ワクチン。
【請求項2】
前記鳥類は、家禽である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
前記鳥類は、ブロイラーである、請求項1又は2に記載のワクチン。
【請求項4】
補助剤を更に含む、請求項1?3のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項5】
前記補助剤は、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、水酸化アルミニウム、百日咳菌、サポニン、ムラミルジペプチド、エチレンビニルアセテート共重合体、油、植物油または鉱油、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項4に記載のワクチン。
【請求項6】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

に記載のタンパク質配列から選択される、請求項1?5のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項7】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、前記タンパク質配列のFIBER-2_KR5である、請求項6に記載のワクチン。
【請求項8】
医薬的に許容される希釈剤および/または担体を更に含む、請求項1?7のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項9】
前記医薬的に許容される希釈剤および/または担体は、注射用水、生理食塩水、組織培養培地、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、および注入可能な有機エステルからなる群より選択される、請求項8に記載のワクチン。
【請求項10】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、組換えにより生成される、請求項1?9のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項11】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、組換えにより、バキュロウイルス発現系、大腸菌発現系、またはピキア・パストリス(Pichia pastoris)発現系で生成される、請求項10に記載のワクチン。
【請求項12】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、0.1μg/ml?10mg/mlの量で含有される、請求項1?11のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項13】
FAdV-Cのファイバー2タンパク質;および、
医薬的に許容される担体および/または希釈剤および/または補助剤、から成る、
請求項1?12のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項14】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、0.1μg?10mgの量で含まれる、請求項13に記載のワクチン。
【請求項15】
鳥類におけるHHSを予防するための方法であって、
前記方法は、家禽に、トリアデノウイルス血清型C(FAdV-C)のファイバー2タンパク質を含むワクチンを投与することを含み、
ここで、前記ワクチンはサブユニットワクチンである、前記方法。
【請求項16】
前記鳥類は、家禽である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記鳥類は、ブロイラーである、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記ワクチンは、親の群れに投与される、請求項15?17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
固体表面に固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質を含む、抗ファイバー2抗体を検出するためのキット。
【請求項20】
前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質に対する抗体の結合を検出するための手段を更に含む、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記検出するための手段は、鳥類の抗体に特異的な抗体である、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記検出するための手段は、抗ニワトリIgG抗体または抗七面鳥IgG抗体である、請求項20又は21に記載のキット。
【請求項23】
前記抗ニワトリIgG抗体または抗七面鳥IgG抗体は、標識された抗体である、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記標識された抗体は、色素、蛍光、発光、または放射性標識で標識された抗体である、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
FAdV-Cのファイバー2タンパク質を含む、請求項19?24のいずれか1項に記載のキット。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項19?24に係る特許に対して令和2年10月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

(1)取消理由1(実施可能要件)
訂正前の請求項19?24に係る特許は、発明の詳細な説明にその発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、訂正前の請求項19?24に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(サポート要件)
訂正前の請求項19?24に係る特許は、特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、訂正前の請求項19?24に係る特許は、同法第36条第6項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(明確性)
訂正前の請求項19?24に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号適合するものではない。
よって、訂正前の請求項19?24に係る特許は、同法第36条第6項第2号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 当審の判断
(1)取消理由1(実施可能要件)について
ア 取消理由1の概要
取消理由1の概要は、以下のとおりである。
本件発明19は「固体表面に固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質またはその免疫原性断片を含む、抗ファイバー2抗体を検出するためのキット。」に係る発明である。
本件発明19に係るキットは、FAdV-Cのファイバー2タンパク質の免疫原性断片が固体表面に固定されたものを含むものであるが、本件明細書において、実際に、固体表面に固定して、抗ファイバー2抗体を検出できることを確認したタンパク質は、「組換えアフィニティ精製Fib-2タンパク質」(【0062】)、すなわち、全長のFAdv-Cのファイバー2タンパク質のみであり、その免疫原性断片を固定した実施例は何ら記載がなされていない。
本件明細書の【0021】?【0022】には、FAdV-Cのファイバー2タンパク質の免疫原性断片として、多くの断片が挙げられているが、抗ファイバー2抗体と結合することができる免疫原性断片をファイバー2タンパク質のアミノ酸配列のみから予測することは困難であり、実験的に検証する必要があることは本願出願当時の技術常識であることを踏まえると、この中から、抗ファイバー2抗体を検出することができるものを選択するには、当業者に過度な試行錯誤を要するものである。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項19に記載された発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

イ 取消理由1についての当審の判断
本件訂正により、訂正前の請求項19における「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質またはその免疫原性断片を含む」という記載は、「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質を含む」と訂正され、訂正前の請求項20における「前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質または前記固定されたその免疫原性断片に対する抗体」という記載は、「前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質に対する抗体」と訂正された。
本件訂正により、取消理由1で実施可能要件違反であるとされた「その免疫原性断片」という記載自体は請求項19及び20からなくなったので、取消理由1は理由がないものとなった。
よって、本件発明19?24に係る特許は、取消理由1によって取り消すべきものではない。

(2)取消理由2(サポート要件)について
ア 取消理由2の概要
取消理由2の概要は以下のとおりである。
本件発明19?24の解決しようとする課題は、請求項19の記載自体からみて、「抗ファイバー2抗体を検出するためのキット」を提供することであるところ、実施可能要件違反の項で説示したように、本願の発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明19?24を実施することができる程度に記載があるということはできないのであるから、本件発明19?24が、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであると認めることはできないし、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるとも認められない。
したがって、本件発明19?24は、発明の詳細な説明の記載されたものとはいえない。

イ 取消理由2についての当審の判断
本件訂正により、訂正前の請求項19における「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質またはその免疫原性断片を含む」という記載は、「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質を含む」と訂正され、訂正前の請求項20における「前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質または前記固定されたその免疫原性断片に対する抗体」という記載は、「前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質に対する抗体」と訂正された。
本件訂正により、取消理由2でサポート要件違反であるとされた「その免疫原性断片」という記載自体は請求項19及び20からなくなったので、取消理由2は理由がないものとなった。
よって、本件発明19?24に係る特許は、取消理由2によって取り消すべきものではない。

(3)取消理由3(明確性)について
ア 取消理由3の概要
取消理由3の概要は以下のとおりである。
本件発明19の「その免疫原性断片」には、どのようなものが含まれるのか明確でないから、本願の請求項19の記載を直接又は間接的に引用して特定される請求項20?24に係る発明は、請求項19に係る発明と同じ理由により明確でない。

イ 取消理由3についての当審の判断
本件訂正により、訂正前の請求項19における「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質またはその免疫原性断片を含む」という記載は、「固体表面に固定されたFAdV-Cファイバー2タンパク質を含む」と訂正され、訂正前の請求項20における「前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質または前記固定されたその免疫原性断片に対する抗体」という記載は、「前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質に対する抗体」と訂正された。
本件訂正により、取消理由3で明確性要件違反であるとされた「その免疫原性断片」という記載自体は請求項19及び20からなくなったので、取消理由3は理由がないものとなった。
よって、本件発明19?24に係る特許は、取消理由3によって取り消すべきものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
(1)申立人が主張する申立理由及び提出した証拠
申立人は、以下の甲第1号証?甲第15号証を提出し、訂正前の本件特許に対し、以下の申立理由1を主張している。

甲第1号証: 名古屋学芸大学健康・栄養研究所年報、第4号、2010年、47?64頁
甲第2号証:The Veterinary Record,1989, Vol.124,p.655-658
甲第3号証:Journal of VIROLOGY,2000,Vol.74,No.7,p.3217-3226
甲第4号証:Vaccine,2003,Vol.21,p.2761- 2766
甲第5号証:化血研所報 黎明、2010、19、51?60頁
甲第6号証:Virology, 1997,Vol.238,p.145-156
甲第7号証:Arch. Virol.,1994,Vol.138,p.117-134
甲第8号証:Virology,1995,Vol.213,p.503-516
甲第9号証:J.gen.Virol.,1983,Vol.64,p.2577-2583
甲第10号証:Virology, 1995,Vol.214,p.110-117
甲第11号証:米国特許出願公開第 2011/ 0165224号明細書
甲第12号証:Veterinary Microbiology, 2012,Vol.156,p.411-417
甲第13号証:Korean J. Poult.Sci.,2010,Vol.37,No. 3,p.255-263
甲第14号証:Avian Diseases, 2010,Vol.54,p.905-910
甲第15号証:Trop Anim Health Prod,2011,Vol.43,p.331-338
なお、以下、「甲第1号証」?「甲第15号証」を、それぞれ「甲1」?「甲15」という。

ア 申立理由1(進歩性)
(申立理由1-ア)
訂正前の請求項1?18に係る発明は、甲11に記載された発明及び甲1?9、12?15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。

(申立理由1-イ)
訂正前の請求項19?25に係る発明は、甲12に記載された発明及び甲1?10、13?15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2)甲号証の記載
ア 甲11
甲11には、次の事項が記載されている(下線は当審による。以下、同様。)。
(11-1)(請求項1、21、24)
「請求項1
単離された生きた及び/又は死滅したトリアデノウイルス(FAdV)を含む組成物またはワクチン組成物であって、上記FAdVは、FAdV-2、FAdV-7、FAdv-8a、FAdV-8b、FAdV-8a/8bおよび/またはFAdV-11血清型株から選択される株である、組成物またはワクチン組成物。
・・・
請求項21
対象において免疫応答を誘発する、対象および/もしくはその子孫において抗体を産生する、または、対象および/もしくはその子孫においてFAdV関連疾患または症候群に対する防御免疫を誘導する方法であって、請求項1に記載の組成物または前記組成物を含むワクチンを対象に有効量投与する工程を含む、方法。
・・・
請求項24
FAdV関連疾患または症候群が、肺炎および気管炎、腺胃炎、封入体肝炎(IBH)、ウズラ気管支炎、心膜水腫症候群、砂嚢びらんならびに膵臓壊死のうち1のつ以上である、請求項22に記載の方法。」

(11-2)([0003])
「[0003]
本開示は、トリアデノウイルス(FAdV)感染に対する免疫応答を誘導する方法および組成物に関する。本開示は特に、FAdV感染に対する家禽の防御免疫を誘導し、封入体肝炎(IBH)を予防する方法および組成物に関する。」

(11-3)([0012]、[0013]、[0071]、[0082])
「[0012]
本開示の一態様は、単離された生ウイルスまたは不活性化ウイルスであるトリアデノウイルス(FAdV)および/またはそのタンパク質サブユニットを含む組成物であって、FAdV が、FAdV-2、FAdV-7、FAdV-8a、FAdV-8b、FAdV-8a/8bまたはFAdV-11である血清型株から選択される株である、組成物を提供する。」

「[0013]
一実施形態において、上記サブユニットはヘキソンおよび/またはファイバータンパク質である。」

「[0071]
本明細書で使用される用語「対象」は、FAdV感染しやすい任意の動物を指す。当該動物には、ニワトリ(ブロイラー、ブロイラー種鶏、原種ブロイラー、原原種ブロイラー)およびハト等の種が含まれる。

「[0082]
・・・
一実施形態において、上記組成物は好適な担体を含む。」

(11-4)([0086]の表1)





(11-5)([0120]、[126]、[0129])
「[0120]
好適な担体および/または医薬的に許容される担体には、例えば、滅菌蒸留水等の水、生理食塩水、エタノール、エチレングリコール、グリセロール、w/o エマルジョン、o/w エマルジョン、サポニン、ミョウバン系担体等が含まれる。担体には補助剤が添加されていてもよい。・・・」

「[0126]
一実施形態において、上記組成物またはワクチンはアジュバントを含む・・・。」

「[0129]
従来の不活化ワクチンは一般的に、免疫刺激効果を増強するために、アルミニウム塩(水酸化アルミニウムまたはミョウバン、およびヒドロキシリン酸アルミニウム)、エマルジョンまたは懸濁液などのアジュバントを用いて製剤化される。・・・」

(11-6)([0214]、[0216]、[0218]、[0219]、[0221])
「[0214]
・・・
実施例2 死菌ワクチン
材料及び方法
・・・
[0216] この実験の目的は、不活性化アデノウイルスワクチンで親をワクチン接種することによる、IBHに対するブロイラーの防御を実証することにあった。
・・・
各群5匹の雌及び1匹の雄を含む9群のブロイラー種鶏を、12及び15週目に、アジュバントとしてのエマルシゲンまたはCpG-ODN含有オリゴヌクレオチドを配合した、不活性化した1×10^(5)pfu(低用量)または1×10^(8)pfu(高用量)のFAdV-8a/8bあるいはFAdV-7でワクチン接種した(表2)(CpG-ODN TCGTCGTTGTCGTTTTGTCGTT (SEQ IDNO:22) エマルシゲン^(R))(ラルストン、ネブラスカ)。これらのブロイラー種鶏の子孫は、14日目にチャレンジされた。簡潔にいえば、60羽のブロイラーを含む群らに、筋肉注射で1×10^(7)pfuのFAdV-8a/8bを接種した。チャレンジ後、10日間、臨床的症状を記録した。
表2

結果:
・・・
[0218] CpG-ODNをアジュバントとした、高用量のFAdV-8a/8bの不活性化抗原をブロイラー種鶏の親にワクチン接種することで、IBHに対するブロイラーの有意な防御が得られた(p<0.05)[同種チャレンジに対する防御](図7)。
[0219] さらに、CpG-ODNをアジュバントとした、高用量のFAdV-7の不活性化抗原をブロイラ種鶏の親にワクチン接種することで、IBHに対するブロイラーの有意な防御が得られる(p<0.05)[異種チャレンジに対する防御](図8)。
・・・
[0221]
FAdV・8a/8bまたはFAdV・7を複数のブロイラー種鶏にワクチン接種することによって、ブロイラーでの封入体肝炎(IBH)の発生を有意に予防できることが示された。」

イ 甲12
甲12には、次の事項が記載されている。
(12-1)(411頁の要旨)
「トリアデノウイルスCの両方の血清型を代表する2つの参照株及び1つの野外分離株の全ゲノムあるいは2つのファイバー遺伝子を含むゲノム領域の配列決定を行った。3つの分離株すべてのゲノムにおいて2つのファイバー遺伝子の存在が明らかになった。いくつかのトリアデノウイルスC分離株のファイバー1遺伝子及びファイバー2遺伝子についても配列決定を行った。血清型4及び10の両方とも2つのファイバー遺伝子を有する。トリアデノウイルスBの参照株においても、ファイバー遺伝子を含むゲノム領域の配列決定を行った。本株においては、1つのファイバー遺伝子の存在のみ明らかになった。予測されるアミノ酸配列を、既に公開されている異なるアデノウイルス分離株のファイバー配列と比較した。非病原性分離株と比較して、封入体肝炎を罹患しているニワトリから分離されたトリアデノウイルスC分離株のすべてにおいて、ファイバー2タンパク質において1つのアミノ酸置換が検出された。系統学的分析によって、トリアデノウイルスにおけるファイバー遺伝子の進化及びそれらの遺伝的関係についての知見が得られた。」

(12-2)(441頁左欄「イントロダクション」の項、1?14行)
「トリアデノウイルス(FAdV)は、アビアデノウイルス属に属する。FAdVは、封入体肝炎(IBH)、肝炎心膜水腫症候群(HHS)、気道感染症の自然発生による大流行の主な要因である。FAdV-1のいくつかの株において、ニワトリの筋びらんとの関係について報告されている(・・・)。分子構造に基づいて、FAdVは5つの異なる種(FAdV-A?FAdV-E)に分類される。これらの種は、交差中和試験に基づいて、12の血清型(FAdV 1-8a及び8b-11)にさらに分離される(・・・)。近年、5つの種の少なくとも12の遺伝子型が、ヘキソンループ1(L1)遺伝子領域の配列解析によって明らかになった(・・・)。」

(12-3)(413頁右欄「KR5株のゲノム」の項、1?7行)
「KR5株のde novoアセンブリ及び従来のSangerシークエンシングによる連続するGap closureによって、45,810bpのKR5ゲノム配列が得られた。KR5ゲノムのG+C含量は、54.6%であった。この含量は他のFAdV株の含量ととても類似していた。入手可能なアビアデノウイルスの全ゲノムの配列同一性の割合を表1に示す。」

ウ 甲1
甲1には、次の事項が記載されている。
(1-1)(55頁右欄1行?6行)
「現在実施されている季節性インフルエンザ予防接種のウイルス株の変遷を示した。基本株はAソ連型(H1N1)、A香港型(H3N2)およびB型の混合ワクチンであり、ウイルスのHAタンパク質を抗原とするスプリットワクチンである。」

エ 甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
(2-1)(655頁左欄要約)
「牛痘ウイルスのフュージョン(F)タンパク質遺伝子を保持する組換えワクシニアウイルスに対するウシ及びブタの免疫応答を調べた。ウシの半数と全てのブタは、1回の投与で抗体を惹起した。また、全てのウシは、初回投与から28日後の二回目の投与で既応反応を示した。1回あるいは2回のワクチン投与を受けたウシは、致死量のSaudi 1/81株による攻撃に対して全く臨床症状を示さなかった。TK(-)の組換えワクシニアウイルスを予め投与した場合は、牛痘ウイルス組換えFタンパク質に対する免疫応答は抑制されたが、完全に阻害されることはなかった。ブタにおいては、ワクチン投与部位における接種反応を伴わずに抗体応答が認められた。」

オ 甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
(3-1)(3217頁要約)
「ニューカッスル病ウイルスのFタンパク質(NDV-F)をSV40ウイルスの後期プロモーターで発現する組換えマレック病ウイルス[rMDV1-US10L(F)]は、NDVによる攻撃からSPFトリを防御するが、MDV1及びNDVに対する移行抗体を保有する市販トリは防御しないことを以前に報告している(・・・)。今回は、移行抗体を保有する市販トリにおいてもMDVとNDVに有効なMDV1を元いいた改良した有効な多価ワクチンを構築した。今回の成果の概要は、以下のようである。(i)我々はMDV1のgBプロモーターであるNDV-Fタンパク質の発現を制御する組換えMDV1[rMDV1-US10P(F)]を構築した。(ii)感染細胞におけるNDV-Fタンパク質の発現量はrMDV1-US10L(F)よりもはるかに少ない。(iii)rMDV1-US10P(F)免疫市販トリにおけるMDV1及びNDV-Fタンパク質に対する抗体応答は、rMDV1-US10L(F)投与トリのそれと比較して強くかつ早かった。また、NDV-Fタンパク質に対する抗体価は高い状態で80週以上にわたって持続した。(iv)rMDV1-US10P(F)は投与トリから確実に再分離され、分離されたウイルスはNDV-Fタンパク質を発現した。(v)rMDV1-US10P(F)を投与された移行抗体保有市販トリは、NDVの攻撃から完全に防御された。(vi)rMDV1-US10P(F)は、親株であるMDV1及び市販ワクチンと同様に、超強毒MDV1に対する防御効果を示した。以上の結果は、rMDV1-US10P(F)が移行抗体存在下においても、マレック病及びニューカッスル病に対して有効かつ安定な多価ワクチンであることを示す。」

カ 甲4
甲4には、次の事項が記載されている。
(4-1)(2761頁要約)
「本研究において、ウイルスを中和する際の、トリアデノウイルス産卵低下症候群(EDS)のヘキソン、ファイバーまたはファイバー断片に対する抗体の有効性を試験した。ファイバータンパク質は、ウイルスを標的細胞に結合させる役割を果たす。ファイバー断片ノブ-S(knob-s)は、アデノウイルスファイバータンパク質のカルボキシ末端のノブドメインと、すぐ隣のシャフトドメインの34個のアミノ酸を含む。ヘキソン、ファイバーキャプシドタンパク質およびknob-sを大腸菌で産生させ、ニワトリに注射した。ファイバータンパク質全体に対して産生された抗体は、赤血球凝集抑制(HI)活性を示した。knob-sタンパク質に対して産生された抗体は、陽性対照である全粒子ウイルスワクチンと同様のHI活性および血清中和(SN)活性を示した。ファイバーの一部のみの産生によって、大腸菌で産生されたタンパク質が正しい折りたたみ構造をとることができると考えられる。ヘキソンタンパク質に対して産生された抗体は、SN活性を示さなかった。要約すると、knob-sは、EDSウイルスに対するSNおよびHI抗体を全粒子ウイルスと同様の割合で誘導し、完全長のファイバーよりも著しく効率的だった。組換えknob-sタンパク質は、病原性アデノウイルス感染に対するワクチンとして使用し得る。」

キ 甲5
(5-1)(51頁左欄1行?同右欄8行)
「はじめに
鶏の産卵低下症候群(EDS) は産卵低下及び異常卵の産出を主徴とする鶏の疾病である1)2)。病因であるEDSウイルス(EDSV)は、グループIIIトリアデノウイルスに分類され、赤血球凝集活性を有し、鶏の卵管で増殖することを特徴とする2)。EDSの臨床症状は皆無あるいは軽い下痢がみられる程度であるが、産卵最盛期の30?40週齢に多く発生し、感染した鶏群では3?8週間にわたる卵殻異常卵の産出や産卵低下を引き起こす2)ことから、経済的被害は非常に大きい。予防にはワクチンが有効である1)3) ため、不活化ワクチンが採卵用鶏のワクチネーションプログラムに広く組み込まれており、日本における発生は散発的である。」

(5-2)(52頁の図1)




(5-3)(57頁の「2.免疫試験」の欄)
「2.免疫試験
免疫試験1では、PBS(-)に懸濁した封入体画分を用いてオイルワクチンを調製し、試験に供した。また、S18とS34は可溶性画分についても同様にワクチンを調製し、供試した。
免疫5週後のHI抗体価は、S18及びS34の可溶性画分、並びにS100及びS134の封入体画分でOEDSと同レベルにまで上昇した(表3)。一方、S18、S34、SHA及びFIBの封入体画分では低いレベルであった。中和抗体価は、HI抗体価の高い群で同様に高いレベルにあったが、いずれにおいてもOEDSよりは低値であった。
S18及びS34の成績より、封入体をそのまま乳化したワクチンでは抗体上昇が悪かったことから、免疫試験2では封入体画分を尿素で可溶化した抗原を用いてワクチンを調製し供試した。その結果、いずれのコンストラクトにおいても封入体画分をそのまま乳化したワクチンと比較して、抗体価は大きく上昇した(表4)。中でもS100及びS134群において抗体応答は良好であり、免疫後5週目においてはOEDSよりも5倍ほど高くHI抗体が誘導された。中和抗体価についてはOEDSには及ばないものの、Sl34で高い値を示した。以上の結果を受け、次の攻撃試験においてはSl34 (ノプ+シャフトのC末端134アミノ酸)をワクチン抗原として評価した。
なお、いずれのコンストラクトにおいても中和抗体価/HI抗体価の比はOEDSよりも低値であった。これは、ウイルス粒子中にはファイバー以外にもヘキソンあるいはペントンベースといった中和エピトープを有する抗原が存在することに起因しているものと推察された。」

(5-4)(57頁の表3および表4)




(5-5)(58頁の右欄5行?59頁の左欄4行)
「まとめ
EDSVのファイバー蛋白質発現について検討を行った結果、Sl34 (ノブ+シャフトのC末端134アミノ酸)で最も高くHI抗体及び中和抗体が誘導され、かつ現行ワクチンと同等以上の発症防御効果と免疫持続が確認された。以上の成績より、ファイバー蛋白質の一部であるS134は、現在アヒル卵で製造されているウイルス抗原の代替となり得ることが示された。」

ク 甲6
甲6には、次の事項が記載されている。
(6-1)(145頁要約の9?10行)
「我々の結果は、トリEDSウイルスは哺乳類アデノウイルスとトリアデノウイルスの中間に位置することを示している。」

ケ 甲7
甲7には、次の事項が記載されている。
(7-1)(117頁要約)
「腎病原性の伝染性気管支炎ウイルスN1/62株からモノクローナル抗体を用いて精製したS1タンパク質、Nタンパク質、及びMタンパク質でトリを免疫した。いずれのタンパク質も、抗体を惹起するためには複数回の投与が必要であった。S1糖タンパク質で免役されたトリの防御は、強毒株による攻撃後、気管及び腎臓においてウイルスが全く検出されないことを確認した。S1糖タンパク質で4回免疫されたトリの気管及び腎臓における防御率は、それぞれ71%と86%であった。S1糖タンパク質で3回免疫されたトリの腎臓及び気管における防御率は、それぞれ70%と10%であった。Nタンパク質及びMタンパク質は、強毒腎病原性の伝染性気管支炎ウイルスN1/62株による攻撃に対して、4回免疫後も防御しなかった。ウイルス中和、HI及びELISA抗体がS1糖タンパク質及び不活化N1/62免疫トリにおいて惹起されたが、いずれの抗体を防御とは相関しなかった。」

コ 甲8
甲8には、次の事項が記載されている。
(8-1)(503頁要約)
「TGEウイルススパイク遺伝子の1135、1587あるいは3329塩基及び全長を発現する10種の組換えアデノウイルスを構築した。これらの組換えウイルスは、分子量68、86、135及び200kDaのSポリペプチドを発現した。組換えタンパク質の発現は、Ad5のプロモーターではなく、外来性のSV40プロモーターを挿入することによって行われた。ほとんどの組換え抗原は、感染細胞の細胞質内に留まっていた。135kDa及びスパイクタンパク質の全長に想到する200kDaの組換え抗原は、TGEVの主要な中和エピトープであることが既に判明しているサイトD及びAを保持している。興味深いことに、サイトC及びBのみを発現する組換えSタンパク質もTGEVに対する中和抗体を惹起することも紹介する。Ad5-TGEV組換え体は、ハムスターにおいて乳汁免疫を誘導するが、そこにはTGEVに対する中和抗体も含まれている。全長あるいはサイトC及びBを含むスパイクタンパク質N端の26%を発現する組換えAd5によりブタで産生された抗血清を、致死量のウイルスと混合して感受性のある子ブタに投与したところ、前者は発症を完全に防御し、後者では発症の遅延が認められた。」

サ 甲9
甲9には、次の事項が記載されている。
(9-1)(2577頁要約1行?3行)
「トリ伝染性気管支炎ウイルス(IBV)のスパイクタンパク質は、S1(mol.wt.90×10^(3))及びS2(mol.wt.84×10^(3))という2つの糖ポリペプチドを等モルで含む。」

シ 甲10
甲10には、次の事項が記載されている。
(10-1)(110頁要約)
「アデノウイルス2型(Ad2)の三量体ファイバーはウイルスが細胞に付着する第1段階を仲介し、ファイバーの遠位頭部領域は受容体結合ドメインとして関与している。ウイルスと細胞の相互作用に関与している可能性のあるファイバーの一次ポリペプチド配列上の領域を特定するために、ペプチドベースのエピトープマッピングが、(1)大腸菌で発現したネイティブAd2ファイバーとAd2頭部タンパク質の両方に対して調製されたポリクローナル抗体、および(2)バキュロウイルスで発現した三量体Ad2頭部タンパク質に対して調製された18モノクローナル抗体を使用して行われた。ポリクローナル抗体を使用したアプローチにより、1つ以上の連続したエピトープを含む頭部の一次配列上の8つのドメインが明らかになった。これらの領域の少なくとも2つは、単量体ファイバーと三量体ファイバーの両方の頭部タンパク質に対して反応するモノクローナル抗体によって認識された。ELISAでAd2頭部特異的ペプチドを認識しなかったモノクローナル抗体の大部分は、ウェスタンブロットにおいて単量体型のタンパク質に対しても非反応性であった。この結果から、三量体の認識は、まだ確立されていない不連続エピトープの存在またはモノマー構成の変化によると示唆される。鎖状エピトープを含む抗原決定基の多くは構造の外側のループまたは最上位のβシートにマッピングされ、本結果は最近公開になったAd5ファイバー頭部のX線結晶モデルとよく一致する(D. Xia, L.J. Henry, R.D. Gerard, and J. Deisenhofer, Structure 2, 1259-1270, 1994)。5つの中和モノクローナル抗体のうち4つは三量体のみを認識し、鎖状ペプチドを認識するものはなかった。これは、 三量体型のファイバーが受容体との接触に必要であり、頭部ドメイン上の不連続エピトープがファイバーと細胞との相互作用に関与している可能性があることを示唆し得る。」

ス 甲13
甲13には、次の事項が記載されている。
(13-1)(要約4行?11行)
「韓国でのIBH-HPSの大流行を予防するために、韓国分離株(ADL070244)を用いてFAdV-4不活化ワクチンを開発し、当該ワクチンの有効性を評価した。有効性試験においては、1または2用量の不活化ワクチンを筋肉内接種した2週齢の特定病原体フリー(SPF)ニワトリを用いた。ワクチン接種後2週間目に、当該ニワトリにFAdV-4を筋肉内投与又は経口投与によって攻撃した。不活化ワクチンによって良好な抗体の陽転が誘導されたことを寒天ゲル内沈降(AGP)テストによって確認した。さらに、不活化ワクチンによって、非ワクチン接種群と比較して、FAdV-4検出率が減少し、リンパ球浸潤及び肝臓の壊死等の組織病変の重症度を下げることができた。今回の結果から、本研究で開発したFAdV-4不活化ワクチンは、ウイルス検出率及び組織病変の重症度の減少の点で有効であった。」

セ 甲14
甲14には、次の事項が記載されている。
(14-1)(表題)
「生ワクチンであるFAdV-4ワクチンを接種した特定病原体フリー(SPF)ニワトリは、中和抗体非存在でも過酷なチャレンジに対して完全に防御される。」

(14-2)(909頁46行?49行)
「この観点において、今回の発見は、強毒FAdVからのトリの防御において、生ワクチンの特徴である細胞性免疫の重要性を明示している。」

ソ 甲15
甲15には、次の事項が記載されている。
(15-1)(337頁8行?11行)
「チャレンジ防御の観察から、弱毒生ウイルスが接種されたトリは、市販の肝臓ウイルスワクチンを投与されたトリと比較して、チャレンジに対して強い耐性を有していたことが明確に示唆された。」

(3)当審の判断
ア 甲11に記載された発明を引用発明とする申立理由1-ア(進歩性)
(ア)甲11に記載された発明
甲11の上記記載事項(11-6)によれば、甲11には、次の発明が記載されていると認められる。

「ブロイラーにおける封入体肝炎(IBH)の予防において使用されるための、FAdV8a/8b又はFAdV-7の不活性化ワクチン」(以下、「甲11発明」という。)

申立人は、甲11には、「鳥類におけるFAdV関連疾患の予防において使用するための、トリアデノウイルスC(FAdV-C)の不活性化ウイルスを含むワクチンであって、サブユニットワクチンである、前記ワクチン。」なる発明が記載されている旨主張する。
しかし、ワクチンに係る発明が刊行物に記載されているというためには、当該ワクチンの有効成分となる物質が、目的とする用途に実際に使用できることが明らかであるように当該刊行物に記載されていなければならないところ、上記(2)アによれば、甲11において明らかにされたのは、「FAdV8a/8b又はFAdV-7の不活性化」ウイルスを「ブロイラーにおける封入体肝炎(IBH)の予防」のために使用することのみであり、実際に「トリアデノウイルスC(FAdV-C)の不活性化ウイルスを含む」「サブユニットワクチン」を「鳥類におけるFAdV関連疾患」全般の予防のために使用できることを確認した試験例等は記載されていない。
また、封入体肝炎(IBH)の予防に対する効果が確認されれば、広くFAdV関連疾患全般に対しても当然に効果があるという技術常識があったことを示す証拠も見当たらない。そうすると、甲11には、「鳥類におけるFAdV関連疾患の予防において使用するための、トリアデノウイルスC(FAdV-C)の不活性化ウイルスを含むワクチンであって、サブユニットワクチンである、前記ワクチン。」の発明が記載されているとはいえない。

(イ)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲11発明とを対比する。
甲11発明の「ブロイラー」は、本件発明1の「鳥類」に含まれるものである。
甲11発明における「ブロイラーにおける封入体肝炎(IBH)」は、本件発明1の「鳥類における肝炎心膜水腫症候群(HHS)」と、「鳥類における疾患」である限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と甲11発明は、「鳥類の疾患の予防において使用するためのワクチン」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
鳥類における疾患が、本件発明1では、「肝炎心膜水腫症候群(HHS)」であるのに対し、甲11発明では、「封入体肝炎(IBH)」である点

相違点2
本件発明1は、「FAdV-Cのファイバー2タンパク質を含むワクチンであって、サブユニットワクチン」であるのに対し、甲11発明は、「FAdV8a/8b又はFAdV-7」であって、「不活性化ワクチン」である点

b 判断
(a)相違点1について
HHSがFAdV関連疾患であることが技術常識であったとしても(甲12)、甲11発明は、封入体肝炎(IBH)の予防のためのワクチンであり、これを、異なる疾患である肝炎心膜水腫症候群(HHS)の予防のために使用することを当業者は動機付けられるものではない。

(b)相違点2について
甲11の実施例2の記載(記載事項(11-6))から甲11発明を認定したときに、FAdV-8a/8b又はFAdV-7ウイルスを不活性化したワクチンに代えて、サブユニットワクチンとし、さらに、A?Eの5つある種のうち、FAdV-Cを選択し、その上、そのファイバー2タンパク質を選択する動機付ける記載は、甲11には見当たらない。

甲4、5には、トリアデノウイルス産卵低下症候群EDSウイルス(アデノウイルス科アデノウイルス属)において、ファイバータンパク質の断片をワクチンとして使用することが記載されているが、EDSウイルスは、肝炎心膜水腫症候群(HHS)を引き起こすウイルスとウイルスとは属が異なるものである。
また、甲1?3、7?9は、トリアデノウイルスに関する文献ではないし、甲6は、アヒルアデノウイルスが、ヒトアデノウイルスと比較して、トリアデノウイルスに近縁であることを示すための文献であり、これらの文献は相違点2を埋めるものではない。

(c)効果について
本件明細書には、FAdV-Cのファイバー2を筋肉内投与したニワトリが、FAdV-Cのファイバー1やヘキソンループ-1を筋肉内投与したニワトリに比して、病原性FAdV-Cウイルスチャレンジ後の生存率が顕著に高い旨示されており(実施例1及び【図1】)、この効果は、甲1?9、11?15の記載から、当業者が予測し得る範囲を超えたものであるというべきである。

c まとめ
よって、本件発明1は、甲11に記載された発明及び甲1?9、12?15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件発明2?14について
本件発明2?14は、本件発明1をさらに限定する発明であるから、本件発明2?14も、上記(イ)で説示した本件発明1についての判断と同様の理由により、甲11に記載された発明及び甲1?9、12?15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件発明15?18について
本件発明15は、本件発明1を鳥類におけるHHSを予防するための方法に係る発明として特定したものであるので、本件発明15と甲11発明は、少なくとも上記(イ)で検討した相違点1及び2で相違するものである。そうすると、本件発明15は、本件発明1において検討したのと同じ理由により、甲11に記載された発明及び甲1?9、13?15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明16?18は、本件発明15をさらに限定する発明であるから、本件発明16?18も本件発明15についての判断と同様の理由により、甲11に記載された発明及び甲1?9、13?15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?18に係る特許は、申立理由1-アによって取り消すべきものではない。

イ 甲12に記載された発明を引用発明とする申立理由1-イ(進歩性)
(ア)甲12に記載された発明
甲12の上記記載事項(12-1)によれば、甲12には、次の発明が記載されていると認められる。

「FAdV-Cのファイバー2タンパク質。」(以下、「甲12発明」という。)

(イ)本件発明19について
a 対比 本件発明19と甲12発明とを対比すると、両者は、FAdV-Cのファイバー2タンパク質に関連する発明という点で一致し、次の点で相違する。

相違点19-1
本件発明19は、FAdV-Cのファイバー2タンパク質が固体表面に固定されており、抗ファイバー2抗体を検出するためのキットであるのに対し、甲12発明では、そのような特定がない点

b 判断
(a)相違点19-1について
甲12には、FAdV-Cのファイバー2タンパク質が存在することは記載されているものの、それに対する抗体についての記載はなされていないし、さらに、その抗体を検出することを動機付ける記載は見当たらない。
そして、甲1?9、13?15については、上記アで述べたとおりの内容が記載されているものであって、「抗ファイバー2抗体を検出する」ことを動機付けるものではないし、甲10は、ヒトアデノウイルスにおいて、中和抗体を惹起する抗原エピトープがすべての領域に存在するわけではないことを示すための文献であって、やはり、「抗ファイバー2抗体を検出する」ことを動機付けるものではない。

(b)効果について
本件発明19は、ワクチン接種した親において特異的な抗ファイバー2抗体を検出することによりワクチン接種の成功度を検出することができるという効果を奏するものであり(【0034】)、この効果は、甲1?10、12?15に記載された事項から当業者が予想し得ないものである。

c まとめ
よって、本件発明19は、甲12発明及び甲1?10、13?15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(ウ)本件発明20?25
本件発明20?25は、本件発明19をさらに限定する発明であるから、本件発明20?25も、上記(イ)で説示した本件発明19についての判断と同様の理由により、甲12に記載された発明及び甲1?10、13?15に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明19?25に係る特許は、申立理由1-イによって取り消すべきものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項1?25に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1?25に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類における肝炎心膜水腫症候群(HHS)の予防において使用するための、トリアデノウイルスC(FAdV-C)のファイバー2タンパク質を含むワクチンであって、
サブユニットワクチンである、前記ワクチン。
【請求項2】
前記鳥類は、家禽である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
前記鳥類は、ブロイラーである、請求項1又は2に記載のワクチン。
【請求項4】
補助剤を更に含む、請求項1?3のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項5】
前記補助剤は、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、水酸化アルミニウム、百日咳菌、サポニン、ムラミルジペプチド、エチレンビニルアセテート共重合体、油、植物油または鉱油、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項4に記載のワクチン。
【請求項6】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

に記載のタンパク質配列から選択される、請求項1?5のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項7】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、前記タンパク質配列のFIBER-2_KR5である、請求項6に記載のワクチン。
【請求項8】
医薬的に許容される希釈剤および/または担体を更に含む、請求項1?7のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項9】
前記医薬的に許容される希釈剤および/または担体は、注射用水、生理食塩水、組織培養培地、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、および注入可能な有機エステルからなる群より選択される、請求項8に記載のワクチン。
【請求項10】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、組換えにより生成される、請求項1?9のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項11】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、組換えにより、バキュロウイルス発現系、大腸菌発現系、またはピキア・パストリス(Pichia pastoris)発現系で生成される、請求項10に記載のワクチン。
【請求項12】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、0.1μg/ml?10mg/mlの量で含有される、請求項1?11のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項13】
FAdV-Cのファイバー2タンパク質;および、
医薬的に許容される担体および/または希釈剤および/または補助剤、から成る、
請求項1?12のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項14】
前記FAdV-Cのファイバー2タンパク質は、0.1μg?10mgの量で含まれる、請求項13に記載のワクチン。
【請求項15】
鳥類におけるHHSを予防するための方法であって、
前記方法は、家禽に、トリアデノウイルス血清型C(FAdV-C)のファイバー2タンパク質を含むワクチンを投与することを含み、
ここで、前記ワクチンはサブユニットワクチンである、前記方法。
【請求項16】
前記鳥類は、家禽である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記鳥類は、ブロイラーである、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記ワクチンは、親の群れに投与される、請求項15?17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
固体表面に固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質を含む、抗ファイバー2抗体を検出するためのキット。
【請求項20】
前記固定されたFAdV-Cのファイバー2タンパク質に対する抗体の結合を検出するための手段を更に含む、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記検出するための手段は、鳥類の抗体に特異的な抗体である、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記検出するための手段は、抗ニワトリIgG抗体または抗七面鳥IgG抗体である、請求項20又は21に記載のキット。
【請求項23】
前記抗ニワトリIgG抗体または抗七面鳥IgG抗体は、標識された抗体である、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記標識された抗体は、色素、蛍光、発光、または放射性標識で標識された抗体である、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
FAdV-Cのファイバー2タンパク質を含む、請求項19?24のいずれか1項に記載のキット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-04-05 
出願番号 特願2016-535460(P2016-535460)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 冨永 みどり
齋藤 恵
登録日 2020-01-20 
登録番号 特許第6649255号(P6649255)
権利者 フェテリネールメディツィニシュ ウニベルジテート ウィーン
発明の名称 トリアデノウイルスワクチン  
代理人 中島 勝  
代理人 上原 路子  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  
代理人 上原 路子  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中島 勝  
代理人 三橋 真二  
代理人 武居 良太郎  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ