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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1375853
異議申立番号 異議2020-700242  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-07 
確定日 2021-04-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6588387号発明「加飾パネル及びこれを備えた車両用内装品並びに加飾パネルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6588387号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6588387号の請求項4、5、7及び8に係る特許を維持する。 特許第6588387号の請求項1-3及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6588387号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年5月17日にした出願であって、令和元年9月20日にその特許権の設定登録がされ、令和元年10月9日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年4月7日 :特許異議申立人渡辺寛(以下、「申立人」という。)による請求項1?8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年8月20日付け :取消理由通知
令和2年10月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正を「本件訂正」という。)の提出
令和3年1月15日 :申立人による意見書の提出

第2訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6588387号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の明細書及び訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであり、訂正箇所の下線を付すと、本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「請求項3に記載の加飾パネルにおいて、上記第1装飾部(23)及び第2装飾部(25)の境界は、上記凹条部(19)の第1装飾部(23)側の側壁における凹条部(19)開放方向中央よりも反開放側に位置していることを特徴とする加飾パネル。」を、「樹脂製の基材(13)と、上記基材(13)の表面に被着されたフィルム(15)とを備え、上記基材(13)には、開口部(11)が形成され、当該基材(13)の表面には、溝部(17)が形成され、上記フィルム(15)の上記溝部(17)対応箇所には、当該溝部(17)表面に沿うように裏面側に凹む凹条部(19)が形成され、上記フィルム(15)は印刷層(l5b)を有し、当該印刷層(15b)における上記基材(l3)の開口部(11)の周縁部に対応する領域は、金属調の光輝性顔料で着色された環状の第1装飾部(23)を構成している一方、上記印刷層(15b)における第1装飾部(23)に隣接する領域は、上記第1装飾部(23)とは異なる顔料で着色された第2装飾部(25)を構成し、上記第1装飾部(23)及び第2装飾部(25)の境界は、上記凹条部(19)の第1装飾部(23)側の側壁における凹条部(19)開放方向中央よりも反開放側に位置していることを特徴とする加飾パネル。」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4のいずれか1項に記載の加飾パネルを備えた車両用内装品であって、上記基材(13)は、透明な樹脂材で構成され、上記フィルム(15)には、透明又は透光性を有する表示領域(22)が変速機の変速段の切替位置を表示する文字の形状をなすように形成され、上記車両用内装品(5)は、上記フィルム(15)の表示領域(22)に裏面側から基材(13)を介して光を照射する光源(33)をさらに備えていることを特徴とする車両用内装品。」を、「請求項4に記載の加飾パネルを備えた車両用内装品であって、上記基材(13)は、透明な樹脂材で構成され、上記フィルム(15)には、透明又は透光性を有する表示領域(22)が変速機の変速段の切替位置を表示する文字の形状をなすように形成され、上記車両用内装品(5)は、上記フィルム(15)の表示領域(22)に裏面側から基材(13)を介して光を照射する光源(33)をさらに備えていることを特徴とする車両用内装品。」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7の「請求項6に記載の加飾パネルの製造方法において、上記射出成形工程の実行前に、裏面側に凹む凹条部(19)を上記フィルム(15)の第1装飾部(23)及び第2装飾部(25)の境界に真空成形又はプレス成形により形成することを特徴とする加飾パネルの製造方法。」と記載されているのを、「請求項4に記載の加飾パネルの製造方法であって、上記フィルム(15)の印刷層(15b)を印刷により形成する印刷工程と、上記フィルム(15)の裏面側に樹脂(R)を射出充填することにより、上記基材(13)を成形する射出成形工程とを有し、上記射出成形工程の実行前に、裏面側に凹む凹条部(19)を上記フィルム(15)の第1装飾部(23)及び第2装飾部(25)の境界に真空成形又はプレス成形により形成することを特徴とする加飾パネルの製造方法。」と訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落0007の「具体的には、第1の発明は、樹脂製の基材と、上記基材の表面に被着されたフィルムとを備え、上記フィルムは印刷層を有し、当該印刷層における一部の領域は、金属調の光輝性顔料で着色された環状の第1装飾部を構成している一方、上記印刷層における第1装飾部に隣接する領域は、上記第1装飾部とは異なる顔料で着色された第2装飾部を構成していることを特徴とする。」を、「具体的には、第1の発明は、樹脂製の基材と、上記基材の表面に被着されたフィルムとを備え、上記基材には、開口部が形成され、当該基材の表面には、溝部が形成され、上記フィルムの上記溝部対応箇所には、当該溝部表面に沿うように裏面側に凹む凹条部が形成され、上記フィルムは印刷層を有し、当該印刷層における上記基材の開口部の周縁部に対応する領域は、金属調の光輝性顔料で着色された環状の第1装飾部を構成している一方、上記印刷層における第1装飾部に隣接する領域は、上記第1装飾部とは異なる顔料で着色された第2装飾部を構成し、上記第1装飾部及び第2装飾部の境界は、上記凹状部の第1装飾部側の側壁における凹条開放方向中央よりも反開放側に位置していることを特徴とする。」と訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の段落0008?0010を削除する。
(10)訂正事項10
明細書の段落0011の「第5の発明は、第1?4のいずれか1つの発明に係る加飾パネルを備えた車両用内装品であって、」を、「第2の発明は、第1の発明に係る加飾パネルを備えた車両用内装品であって、」と訂正する。
(11)訂正事項11
明細書の段落0012の「第6の発明は、第1?4のいずれか1つの発明に係る加飾パネルの製造方法であって、上記フィルムの印刷層を印刷により形成する印刷工程と、上記フィルムの裏面側に樹脂を射出充填することにより、上記基材を成形する射出成形工程とを有することを特徴とする。」を、「第3の発明は、第1の発明に係る加飾パネルの製造方法であって、上記フィルムの印刷層を印刷により形成する印刷工程と、上記フィルムの裏面側に樹脂を射出充填することにより、上記基材を成形する射出成形工程とを有し、上記射出成形工程の実行前に、裏面側に凹む凹条部を上記フィルムの第1装飾部及び第2装飾部の境界に真空成形又はプレス成形により形成することを特徴とする。」と訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落0013を削除する。
(13)訂正事項13
明細書の段落0014の「第8の発明は、第7の発明に係る加飾パネルの製造方法において、」を、「第4の発明は、第3の発明に係る加飾パネルの製造方法において、」と訂正する。
(14)訂正事項14
明細書の段落0016の「第2の発明によれば、」を、「また、」に訂正する。
(15)訂正事項15
明細書の段落0017の「第3の発明によれば、」を、「また、」に訂正する。
(16)訂正事項16
明細書の段落0019の「第4の発明によれば、」を、「また、」に訂正する。
(17)訂正事項17
明細書の段落0021の「第5の発明によれば、」を、「第2の発明によれば、」に訂正する。
(18)訂正事項18
明細書の段落0022において、「第6の発明によれば、」を「第3の発明によれば、」に訂正するとともに、「第1?4のいずれか1つの発明の加飾パネル」を「第1の発明の加飾パネル」に訂正する。
(19)訂正事項19
明細書の段落0023の「第7の発明によれば、第3の発明と同様に」を、「また、第1の発明と同様に、」に訂正する。
(20)訂正事項20
明細書の段落0025の「第8の発明によれば、」を、「第4の発明によれば、」に訂正する。

2.一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであるところ、訂正事項1?7は、訂正前に引用関係を有する請求項1?8に対して請求されたものである。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求されている。
また、訂正事項8?20による明細書の訂正に係る請求項は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に規定する一群の請求項の全てについて行われたものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1?3及び訂正事項6
訂正事項1?3及び訂正事項6は、訂正前の請求項1?3及び請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の限縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項1又は請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3をさらに引用する請求項4を、実質的に請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3をさらに引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項1?4のそれぞれを直接的又は間接的に引用する請求項5を、請求項4のみを引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項1?4のそれぞれを直接的又は間接的に引用する請求項6を更に引用する請求項7を、請求項6との引用関係を解消しつつ、請求項4のみを引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の限縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項8?20
訂正事項8?20は、訂正事項1?7に係る訂正に伴う特許請求の範囲の記載と明細書の記載との不整合を解消するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正後の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
樹脂製の基材(13)と、上記基材(13)の表面に被着されたフィルム(15)とを備え、
上記基材(13)には、開口部(11)が形成され、当該基材(13)の表面には、溝部(17)が形成され、
上記フィルム(15)の上記溝部(17)対応箇所には、当該溝部(17)表面に沿うように裏面側に凹む凹条部(19)が形成され、
上記フィルム(15)は印刷層(l5b)を有し、当該印刷層(15b)における上記基材(l3)の開口部(11)の周縁部に対応する領域は、金属調の光輝性顔料で着色された環状の第1装飾部(23)を構成している一方、上記印刷層(15b)における第1装飾部(23)に隣接する領域は、上記第1装飾部(23)とは異なる顔料で着色された第2装飾部(25)を構成し、
上記第1装飾部(23)及び第2装飾部(25)の境界は、上記凹条部(19)の第1装飾部(23)側の側壁における凹条部(19)開放方向中央よりも反開放側に位置していることを特徴とする加飾パネル。
【請求項5】
請求項4に記載の加飾パネルを備えた車両用内装品であって、
上記基材(13)は、透明な樹脂材で構成され、
上記フィルム(15)には、透明又は透光性を有する表示領域(22)が変速機の変速段の切替位置を表示する文字の形状をなすように形成され、
上記車両用内装品(5)は、上記フィルム(15)の表示領域(22)に裏面側から基材(13)を介して光を照射する光源(33)をさらに備えていることを特徴とする車両用内装品。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
請求項4に記載の加飾パネルの製造方法において、
上記フィルム(15)の印刷層(15b)を印刷により形成する印刷工程と、
上記フィルム(15)の裏面側に樹脂(R)を射出充填することにより、上記基材(13)を成形する射出成形工程とを有し、
上記射出成形工程の実行前に、裏面側に凹む凹条部(19)を上記フィルム(15)の第1装飾部(23)及び第2装飾部(25)の境界に真空成形又はプレス成形により形成することを特徴とする加飾パネルの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の加飾パネルの製造方法において、
上記フィルム(15)の凹条部(19)形成時における凹条部(19)の展開率は、250%以下であることを特徴とする加飾パネルの製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許及び請求項6に係る特許に対して、当審が令和2年8月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1及び請求項6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許及び請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献1:特開2007-216979号公報(甲第1号証)

2.引用文献の記載事項、引用発明
以下、下線は、強調のため、当審が付した。
(1)引用文献1
引用文献1には、次の記載がある。
「【請求項1】
容器の表面に、インサート成形したラベルを備える合成樹脂製のラベル容器であって、
前記ラベルは、透明又は半透明の膜からなりラベルの最外層を形成する表面層と、この表面層の裏面に設けられ当該表面層を透して立体感のある装飾として現れる装飾層との少なくとも二層を有し、前記表面層が容器の外表面を形成する立体装飾ラベルであることを特徴とする合成樹脂製のラベル容器。
【請求項2】
前記立体装飾ラベルは、前記表面層の裏面に設けられ当該表面層を透して前記装飾の背景として現れる光輝度加飾層を有することを特徴とする請求項1に記載のラベル容器。
【請求項3】
前記光輝度加飾層は、印刷又は蒸着によりなることを特徴とする請求項2に記載のラベル容器。」
「【0016】
更に、光輝度加飾層は複数の金属粉末粒子を含み、当該金属粉末粒子それぞれを表面層に対して向きを同じく配列すれば、金属粉末粒子が光輝度加飾層内で乱反射することなく、立体装飾ラベルで均等に輝いてよりよい美観を奏する。特に、この場合、金属粉末粒子として主に用いられるアルミニウム粉末の粒子径が5?20μmであることから、光輝度加飾層の厚みをアルミニウム粉末の最大粒子径20μmよりも小さい2μm以上、10μm以下にすれば、個々の金属粉末粒子が表面層に対して向きを同じく配列されるため、均等な輝きによるよりよい美観を奏するラベル容器の量産が容易になる。」
「【0020】
図1は、本発明の一形態であるコンパクト容器1を示す斜視図であり、図2は、図1の線分A-Aにおける縦断面図である。
【0021】
コンパクト容器1は、図1に示す如く、蓋体2と容器本体3とをヒンジ4を介して開閉可能に連結したものである。蓋体2は、図2に示す如く、AS(アクリロニトリルスチレン共重合樹脂)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)樹脂等からなり、上蓋2の外形を構成する基部2aの外表面に、
接着層Adを介して立体装飾ラベル10を備え、この立体装飾ラベル10を上蓋2の最外層とするものである。
【0022】
図2において、符号11は、透明又は半透明のPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の薄膜からなり立体装飾ラベル10の最外層を形成するフィルム層(表面層)である。このフィルム層11は、上蓋2の外表面を形成する平坦な外表面11aを有する。
【0023】
符号12は、透明又は着色したインキ又はフィルムからなり、フィルム層11の裏面11bに接合して文字、図形や記号等の装飾Dを構成する装飾層である。装飾Dは、上蓋2をフィルム層11から眺めたときに、フィルム層11を透して立体感のある装飾として現れる。なお、本形態における装飾Dは、図1に示す如く、小さな丸模様の周りに5つの大きな丸模様を同心円状に配した形状として例示してあり、本形態に係る着色インキ又はフィルムには、金属色を含むものとする。
【0024】
符号13は、粒子径5?20μmのアルミニウム粉末Pを90%以上含み、このアルミニウム粉末Pと、アセチルブチルセルロース(CAB)等の結合剤とを重量比50:10?10:30の割合で混合し、このアルミニウム粉末Pと結合剤との合計重量に対して5?15倍のイソホロン等を稀釈溶剤とした光輝度インキを用い、フィルム層11の裏面11bにスクリーン印刷等で印刷した光輝度加飾層である。光輝度加飾層13も、上蓋2をフィルム層11から眺めたときに、このフィルム層11を透して金属光沢のある、装飾Dの背景として現れる。なお、光輝度加飾層13の金属光沢を印刷以外で発揮させる場合は、フィルム層11の裏面11bに、アルミニウム粉末粒子Pを蒸着させてもよい。」
「【0038】
上述したところは、本発明の好適な形態の一例を示したに過ぎず、特許請求の範囲内において、様々な変更を加えることができる。例えば、装飾層12を、光輝度加飾層13と同様の光輝度インクを用いて印刷する等、装飾層12と光輝度加飾層13とを同一の構成とし、装飾層12が光輝度加飾層13と同様の金属光沢を放つようにしてもよい。また、立体装飾ラベル10は、上蓋2の一部に設けているが、上蓋2の全面に設けてもよい。更に、上蓋2のみならず、容器本体3を立体装飾ラベル10でインサート成形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、コンパクト容器に限らず、ボトルや広口壜などの容器にも適用できる。」
「【0040】
【図1】本発明の一形態である立体感のある装飾が施されたコンパクト容器を示す斜視図である。
【図2】図1の線分A-Aにおける縦断面図である。
【図3】同形態における光輝度加飾層内に含まれたアルミニウム粉末粒子の配列を説明する要部断面図である。
【図4】(a),(b)はそれぞれ、同形態の上蓋をインサート成形する方法を例示する模式断面図である。」






図1及び図2には、「光輝度加飾層13」が「装飾層12」に隣接していることが図示されている。
以上の記載及び図示内容からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「AS(アクリロニトリルスチレン共重合樹脂)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)樹脂等からなり、上蓋2の外形を構成する基部2aの外表面に、接着層Adを介して立体装飾ラベル10を備え、立体装飾ラベル10は、透明又は半透明のPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の薄膜からなり立体装飾ラベル10の最外層を形成するフィルム層(表面層)と、透明又は着色したインキ又はフィルムからなる装飾層12と、粒子径5?20μmのアルミニウム粉末Pを90%以上含み、このアルミニウム粉末Pと、アセチルブチルセルロース(CAB)等の結合剤とを重量比50:10?10:30の割合で混合し、このアルミニウム粉末Pと結合剤との合計重量に対して5?15倍のイソホロン等を稀釈溶剤とした光輝度インキを用い、フィルム層11の裏面11bにスクリーン印刷等で印刷し、金属光沢のある光輝度加飾層13を有し、装飾層12は、光輝度加飾層13に隣接する、立体装飾ラベル10を備えた上蓋2。」

3.当審の判断
本件発明4と引用発明とを対比する。
引用発明の「立体装飾ラベル10を備えた上蓋2」は、その形状からみて、本件発明4の「加飾パネル」に相当するから、引用発明の「AS(アクリロニトリルスチレン共重合樹脂)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)樹脂等からなり、上蓋2の外形を構成する基部2a」は、本件発明4の「加飾パネル」が備える「樹脂製の基材(13)」に相当し、引用発明の「立体装飾ラベル10」は、「透明又は半透明のPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の薄膜からなり立体装飾ラベル10の最外層を形成するフィルム層(表面層)」を有しているものであるから、その構成からみて、本件発明4の「フィルム」に相当する。
また、引用発明の「粒子径5?20μmのアルミニウム粉末Pを90%以上含み、このアルミニウム粉末Pと、アセチルブチルセルロース(CAB)等の結合剤とを重量比50:10?10:30の割合で混合し、このアルミニウム粉末Pと結合剤との合計重量に対して5?15倍のイソホロン等を稀釈溶剤とした光輝度インキを用い、フィルム層11の裏面11bにスクリーン印刷等で印刷し、金属光沢のある光輝度加飾層13」は、「印刷層における一部の領域」「を構成している」「金属調の光輝性顔料で着色された第1装飾部」の限りで、本件発明4の「印刷層における上記基材(l3)の開口部(11)の周縁部に対応する領域」「を構成している」「金属調の光輝性顔料で着色された環状の第1装飾部」に一致し、引用発明の「光輝度加飾層13に隣接する」「透明又は着色したインキ又はフィルムからなる装飾層12」は、「第1装飾部に隣接する領域」「を構成している」「第1装飾部とは異なる顔料で着色された第2装飾部」の限りで、「印刷層における第1装飾部に隣接する領域」「を構成している」「第1装飾部とは異なる顔料で着色された第2装飾部」に一致する。

したがって、本件発明4と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
[一致点]
「樹脂製の基材と、上記基材の表面に被着されたフィルムとを備え、
上記フィルムは印刷層を有し、当該印刷層における一部の領域は、金属調の光輝性顔料で着色された第1装飾部を構成している一方、第1装飾部に隣接する領域は、上記第1装飾部とは異なる顔料で着色された第2装飾部を構成していることを特徴とする加飾パネル。」
[相違点1]
本件発明4は「上記基材(13)には、開口部(11)が形成され、当該基材(13)の表面には、溝部(17)が形成され、上記フィルム(15)の上記溝部(17)対応箇所には、当該溝部(17)表面に沿うように裏面側に凹む凹条部(19)が形成され」ているのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。
[相違点2]
「金属調の光輝性顔料で着色された第1装飾部を構成している」「印刷層における一部の領域」について、本件発明4は「上記基材(l3)の開口部(11)の周縁部に対応する領域」であるのに対し、引用発明はそのような領域ではない点。
[相違点3]
「第1装飾部」について、本件発明4は「環状」であるのに対し、引用発明はその点不明である点。
[相違点4]
「第2装飾部」について、本件発明4は「印刷層における」「領域」であるのに対し、引用発明の「装飾層12」は「インキ」「からなる」ものではあるものの、印刷によるものであるのか否かが不明である点。
[相違点5]
本件発明4は「上記第1装飾部(23)及び第2装飾部(25)の境界は、上記凹条部(19)の第1装飾部(23)側の側壁における凹条部(19)開放方向中央よりも反開放側に位置し」ているのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

相違点1について検討する。
引用発明の「上蓋2」は、引用文献1に記載されたとおり「容器本体3と」「ヒンジ4を介して開閉可能に連結したもの」(【0021】)であり、「上蓋2」は「容器本体3」を密閉する機能を奏するものであるところ、「上蓋2」に開口を設けると、前記機能を奏することができなくなるから、引用発明の「上蓋2」に開口を設けることには、阻害要因がある。
なお、引用文献1には「・・・また、立体装飾ラベル10は、上蓋2の一部に設けているが、上蓋2の全面に設けてもよい。更に、上蓋2のみならず、容器本体3を立体装飾ラベル10でインサート成形してもよい。」(【0038】)及び「本発明は、コンパクト容器に限らず、ボトルや広口壜などの容器にも適用できる。」(【0039】)」と記載されているが、「立体装飾ラベル10」を、「上蓋2」に換えて、「容器本体3」や「ボトルや広口壜などの容器」に設けたとしても、上記阻害要因が解消するわけでもない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明4は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明5及び本件発明7?8は、本件発明4を更に限定するものであるから、本件発明5及び本件発明7?8は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.申立人の意見について
申立人は「イ 第2の相違点は、本件特許発明の「G 上記基材(13)には、開口部(11)が形成され、」です。 しかし、第2の相違点は、周知技術であり、例えば甲3発明には、「g’ 透孔24(段落0027?0030、図1)が記載されています。さらに、甲4発明には、「g'' レバー用開口部7(段落0003、図2及び図3)」が記載されています。」(意見書4ページ7?12行)と主張する。
しかし、「開口部」が周知技術であったとしても、上記3.のとおり、本件発明4と引用発明との間の上記相違点1に係る構成を想到するには、上記阻害要因があるから、申立人の上記主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項4?5に係る特許及び請求項7?8に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項4?5に係る特許及び請求項7?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項1?3に係る特許及び本件請求項6に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1?3及び請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
加飾パネル及びこれを備えた車両用内装品並びに加飾パネルの製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属調の装飾が施された加飾パネル及びこれを備えた車両用内装品並びに加飾パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された加飾パネルは、同文献の図3等に示すように、本体部品にメッキリングを装着することで、加飾パネルに使用者の視線を誘導するとともに加飾パネルの高級感を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-49824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1では、本体部品に別部品のメッキ部品を装着するので、装着に手間がかかるとともに、別部品のメッキ部品が必要な分だけ部品点数が多くなり、製造コストの高騰を招く。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、メッキ部品の装着作業をなくすとともに、部品点数を減らして製造コストを削減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、本体部品に別部品のメッキ部品を装着したような意匠を印刷により実現したことを特徴とする。
【0007】
具体的には、第1の発明は、樹脂製の基材と、上記基材の表面に被着されたフィルムとを備え、上記基材には、開口部が形成され、当該基材の表面には、溝部が形成され、上記フィルムの上記溝部対応箇所には、当該溝部表面に沿うように裏面側に凹む凹条部が形成され、上記フィルムは印刷層を有し、当該印刷層における上記基材の開口部の周縁部に対応する領域は、金属調の光輝性顔料で着色された環状の第1装飾部を構成している一方、上記印刷層における第1装飾部に隣接する領域は、上記第1装飾部とは異なる顔料で着色された第2装飾部を構成し、上記第1装飾部及び第2装飾部の境界は、上記凹条部の第1装飾部側の側壁における凹条部開放方向中央よりも反開放側に位置していることを特徴とする。
【0008】
(削除)
【0009】
(削除)
【0010】
(削除)
【0011】
第2の発明は、第1の発明に係る加飾パネルを備えた車両用内装品であって、上記基材は、透明な樹脂材で構成され、上記フィルムには、透明又は透光性を有する表示領域が変速機の変速段の切替位置を表示する文字の形状をなすように形成され、上記車両用内装品は、上記フィルムの表示領域に裏面側から基材を介して光を照射する光源をさらに備えていることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1の発明に係る加飾パネルの製造方法であって、上記フィルムの印刷層を印刷により形成する印刷工程と、上記フィルムの裏面側に樹脂を射出充填することにより、上記基材を成形する射出成形工程とを有し、上記射出成形工程の実行前に、裏面側に凹む凹条部を上記フィルムの第1装飾部及び第2装飾部の境界に真空成形又はプレス成形により形成することを特徴とする。
【0013】
(削除)
【0014】
第4の発明は、第3の発明に係る加飾パネルの製造方法において、上記フィルムの凹条部形成時における凹条部の展開率は、250%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、フィルムの第1装飾部の光輝性発現により、本体部品に別部品のメッキ部品を装着したような意匠を加飾パネルだけで実現できるので、メッキ部品の装着作業が必要ない。また、別部品のメッキ部品が不要な分、部品点数を減らすことができ、これにより、製造コストを削減できる。
【0016】
また、本体部品の開口部に別部品のメッキリングを装着したような意匠を加飾パネルだけで実現できる。
【0017】
また、第1装飾部と第2装飾部との境界が凹条部に位置し、加飾パネルの第1装飾部形成領域と第2装飾部形成領域とが別部材で構成されているという印象が強められるので、本体部品に別部品のメッキ部品を装着しているとより認識されやすい意匠を実現できる。
【0018】
また、フィルムの裏面側に樹脂を射出充填することにより基材を成形する場合、射出成形型の成形面に形成された凹条部成形用の凸条部にフィルムの凹条部を嵌合させるだけで、フィルムを射出成形型に対して位置決めできるので、位置決め作業が容易である。また、フィルムが射出成形型に対して位置決めされるので、樹脂の射出圧によるフィルムの位置ずれが防止される。
【0019】
また、凹条部の底面に第1装飾部が形成されていないので、凹条部の底面で第1装飾部が光を反射して目立つことによる意匠性の低下を防止できる。
【0020】
また、第1装飾部及び第2装飾部の境界が凹条部の開放方向中央よりも反開放側に配置され、開放側に配置された場合に比べて視認しにくいので、外観見栄えを向上できる。
【0021】
第2の発明によれば、フィルムの裏面側に樹脂を射出充填することにより基材を成形する場合、射出成形型の成形面に形成された凹条部成形用の凸条部にフィルムの凹条部が嵌合することでフィルムが射出成形型に対して位置決めされるので、フィルムの表示領域の位置ずれが防止される。したがって、フィルムの表示領域の位置ずれにより光源の光が表示領域に十分照射されなくなることが防止される。
【0022】
第3の発明によれば、フィルムの印刷層を印刷により形成し、該フィルムの裏面側に樹脂を射出充填するだけで、メッキ部品の装着作業を行うことなく、第1の発明の加飾パネルを容易に得ることができる。
【0023】
また、第1の発明と同様に、本体部品に別部品のメッキ部品を装着しているとより認識されやすい意匠を実現できる。
【0024】
また、基材の成形時に射出成形型の成形面に形成された凹条部成形用の凸条部にフィルムの凹条部を嵌合させるだけで、フィルムを射出成形型に対して位置決めできるので、位置決め作業が容易である。また、フィルムが射出成形型に対して位置決めされるので、樹脂の射出圧によるフィルムの位置ずれが防止される。
【0025】
第4の発明によれば、凹条部の展開率が250%以下であるので、250%を上回る場合に比べ、フィルムのインク割れが生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係るインジケータパネルを備えたコンソールを車体左側斜め後方から見た斜視図である。
【図2】インジケータパネルユニットの斜視図である。
【図3】インジケータパネルユニットの分解斜視図である。
【図4】図2のIV-IV線における断面図である。
【図5】図4のV部拡大図である。
【図6】図2のVI-VI線における断面図である。
【図7】図6のVII部拡大図である。
【図8】フィルムを成形する工程を示す製造工程図である。
【図9】図8のIX部拡大図である。
【図10】フィルムの裏面側に樹脂を射出充填した状態における図9相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は、自動車の車室内における運転席と助手席との間に車体前後方向に延びるように設置されたコンソール1を示す。このコンソール1は、その主体をなすコンソール本体3を備え、該コンソール本体3の前端部近傍には、図2及び図3にも示す車両用内装品としてのインジケータパネルユニット5が取り付けられている。
【0029】
インジケータパネルユニット5は、板面を略上下方向に向けた本発明の実施形態に係る加飾パネルとしての平面視矩形状のインジケータパネル7と、該インジケータパネル7に上方から覆われてインジケータパネルユニット5の主体をなすユニット本体9とを備えている。
【0030】
インジケータパネル7は、図4?図7にも示すように、車両前後方向に長い長方形状のパネル側開口部11を有する基材13と、当該基材13の表面に被着されたフィルム15とを備えている。上記基材13は、透明な樹脂材で構成され、基材13のパネル側開口部11の周縁部には、基材13表面に対して略垂直な垂下面部14aが全周に亘って形成されている。該垂下面部14aの下端近傍には、下側が上側よりもパネル側開口部11内周側に突出するように段部14a’が形成されている。上記垂下面部14aの上方には、上方に向かって外周側に傾斜する傾斜面部14bが全周に亘って形成されている。基材13表面の傾斜面部14bよりもさらに若干外周側には、互いに対向して延びる1対の側面部17aとこれら側面部17aを互いに連結する底面部17bとを有する環状の溝部17が形成されている。溝部17の両側面部17aと底面部17bとの境界には、全長に亘ってアール部17cが形成されている。溝部17の内周側の側面部17aは、外周側の側面部17aよりも高く形成されている。
【0031】
上記フィルム15は、上記基材13の垂下面部14aの表面における段部14a’の上側に全体に亘って被着される垂下部16aと、上記基材13の傾斜面部14bの表面に全体に亘って被着される傾斜部16bとを備えている。上記フィルム15の溝部17対応箇所には、溝部17に沿うように裏面側に凹む環状の凹条部19が形成されている。フィルム15表面における凹条部19と該凹条部19非形成箇所との境界には、アール部20が形成されている。また、フィルム15の上記基材13のアール部17c対応箇所には、当該アール部17cに沿って湾曲する湾曲部21が形成されている。フィルム15の凹条部19の右外側近傍には、透光性を有する白色の表示領域22が、複数の矩形、及び変速機の変速段の切替位置等を表示する複数の文字(P、R、N、D、M、+、-)の形状をなすように形成されている。
【0032】
上記フィルム15は、表面側から、ベース層としての保護層15a、印刷層15b、白色層15c、接着層15d、及びバッカー層15eで構成されている。保護層15a、接着層15d、及びバッカー層15eは、無色透明に構成されている。印刷層15bにおける基材13のパネル側開口部11の周縁部に対応する(重なる)領域は、金属調の光輝性顔料で着色されたインクからなる環状の第1装飾部23を構成している。印刷層15bの第1装飾部23非構成領域のうち上記表示領域22非対応領域は、漆黒性顔料で着色されたインクからなる第2装飾部25を全体に亘って構成している。つまり、印刷層15bにおける第1装飾部23に外周側から隣接する領域が第2装飾部25を構成している。図2?図10中、フィルム15の第1装飾部23形成領域にR1の符号、第2装飾部25形成領域にR2の符号を付している。また、図2及び図3では、便宜上、第1装飾部23形成領域R1に点々を付してフィルム15を表している。図6に示すように、第1装飾部23及び第2装飾部25の境界は、上記凹条部19の第1装飾部23側の側壁における凹条部19開放方向中央よりも反開放側に位置している。また、印刷層15bの上記表示領域22対応箇所は、白色部27を構成している。溝部17の内周側の側面部17aが、外周側の側面部17aよりも高く形成されているので、凹条部19の内周側の側壁は、凹条部19の外周側の側壁よりも高く形成されている。具体的には、凹条部19の内周側の側壁の高さH1は、2.0mmに設定され、凹条部19の外周側の側壁の高さH2は、1.0mmに設定されている。なお、凹条部19の内周側の側壁の高さH1が2.0mmに設定され、かつ凹条部19の幅(凹条部19の対向する側壁間の距離)Wが1.2mmに設定された場合、凹条部19の外周側の側壁の高さH2を0.5?1.0mmに設定することで、フィルム15のインク割れを抑制することができる。
【0033】
また、凹条部19非形成領域におけるフィルム15の厚さT1は、凹条部19形成領域におけるフィルム15の厚さT2の200%以下に設定されている。
【0034】
ユニット本体9は、上記インジケータパネル7に裏面側から重なる平面視矩形状の主面部29aと、該主面部29aの車幅方向両端縁から突出する側面部29bとを有するケース部材29を備え、該ケース部材29は、上記インジケータパネル7に爪嵌合、両面テープ、接着剤等により取り付けられている。主面部29aには、本体側第1開口部29cが上記インジケータパネル7のパネル側開口部11に対応するように形成されている。ケース部材29の主面部29aの本体側第1開口部29cの右外側方には、本体側第2開口部29dが形成されている。本体側第2開口部29dの周縁部には、立壁部29eが表裏両側に全周に亘って一体に突設され、立壁部29eで囲まれた空間の略上半部は、仕切壁部29fによって複数の空間に仕切られている。立壁部29eで囲まれた空間の仕切壁部29fの下側には、プリント基板31がその部品面(後述するLED33の設置面)を上方(インジケータパネル7側)に向けて配設されている。プリント基板31の部品面における上記フィルム15の表示領域22に対応する箇所には、複数の光源としてのLED33がそれぞれ上記仕切壁部29fで仕切られた各空間に対応するように配設されている。また、プリント基板31には、上記LED33を点灯させる図示しない回路が配設されている。上記LED33の光は、基材13を介してフィルム15の表示領域22に裏面側から照射される。下側の立壁部29eの内側の面には、樹脂からなるボトムカバー35が、プリント基板31を下方から覆うように固定されている。
【0035】
図8?図10は、上述のように構成されたインジケータパネル7の製造方法を示す。
【0036】
製造に際し、図8及び図9に示す真空成形型101を準備するとともに、真空成形型101の上方に設置される図示しないヒーター、及び図10に示す射出成形型201を準備する。真空成形型101は、上方に開放する直方体形状の真空ボックス103を備えている。該真空ボックス103の底壁には、接続口103aが形成されている。該接続口103aには、接続管105が内嵌めされ、該接続管105は、図示しない真空ポンプに接続されている。真空ボックス103の開放側(上側)端面には、平面視略矩形板状の第1型107がその成形面を真空ボックス103の開放側に向けた状態で取り付けられている。第1型107の成形面の略中央部には、平面視略矩形状の第1凹所107aが形成されている。第1型107の第1凹所107aには、平面視略矩形板状の第2型109がその成形面を第1凹所107a開放側に向けた状態で内嵌めされている。第2型109の成形面には、平面視略矩形状の第2凹所109aが形成されている。第2型109の第2凹所109aには、平面視略矩形板状の第3型111がその成形面を第2凹所109a開放側に向けた状態で内嵌めされている。第3型111の成形面には、平面視略矩形状の第3凹所111aが形成されている。第3型111の第3凹所111aには、平面視矩形板状の第4型113がその成形面を第3凹所111a開放側に向けた状態で内嵌めされている。第4型113の成形面の外周部を除く領域には、平面視略矩形状の第4凹所113aが形成されている。第4凹所113aの内周面の開放方向中途部には、上記フィルム15の垂下部16aを成形する垂直成形面113bが形成されている。第4凹所113aの内周面の開放側端部には、上記フィルム15の傾斜部16bを成形する傾斜成形面113cが形成されている。第4型113の成形面の外周端部には、切欠段部113dが全周に亘って形成され、該切欠段部113dの底面113e及び側面113fと、第3型111の第3凹所111aの内周面とで、上記フィルム15の凹条部19を成形する凹条部成形面115を構成している。また、切欠段部113dの底面113eの内周端部及び外周端部には、上記湾曲部21を成形する湾曲面113gが形成されている。また、第4型113の第4凹所113aには、平面視略矩形板状の第5型117が内嵌めされている。第1型107の第1凹所107aの底面、第2型109の第2凹所109aの底面、第3型111の第3凹所111aの底面、及び第4型113の第4凹所113aの底面には、それぞれ複数の連通孔が貫通形成されている。図8中、一部の連通孔を119の符号を付して示している。また、第2型109の第2凹所109aの内周面と第3型111の外周面との間、第3型111の第3凹所111aの内周面と第4型113の外周面との間、及び第4型113の第4凹所113aの内周面と第5型117の外周面との間(図8中、矢印Xで示す箇所)には、微小な隙間が形成されている。これら隙間は、上記連通孔を介して真空ボックス103の内部空間に連通している。
【0037】
また、射出成形型201は、インジケータパネル7の表面を成形する成形面203aを有する固定型203と、インジケータパネル7の裏面を成形する成形面205aを有する可動型205とを備えている。固定型203の成形面203aには、環状の凸条部203bがフィルム15の凹条部19に対応するように突設されている。
【0038】
そして、インジケータパネル7を製造するには、まず、平坦な保護層15aに、金属調の光輝性顔料で着色されたインクで環状の第1装飾部23を平坦に印刷するとともに、第1装飾部23より外周側の領域のうち上記表示領域22非対応領域に、漆黒性顔料で着色されたインクで第2装飾部25を全体に亘って平坦に印刷する。次いで、白色顔料で着色されたインクを、第1装飾部23、第2装飾部25及び上記表示領域22対応領域の保護層15aに転移させる印刷を行うことで、印刷層15bの白色部27と白色層15cとを形成する。その後、白色層15cの表面に接着層15dを印刷し、該接着層15dの表面にバッカー層15eを印刷する。これにより、保護層15a、印刷層15b、白色層15c、接着層15d、及びバッカー層15eからなる平坦なフィルム15を得る。このときのフィルム15の厚さは490μm、保護層15aの厚さは125μm、印刷層15b、白色層15c、及び接着層15dの厚さの合計は65μm、バッカー層15eの厚さは300μmに設定されている。
【0039】
次いで、図8に仮想線で示すように、上記平坦なフィルム15をそのバッカー層15e側が真空成形型101側に位置し、かつ第1装飾部23及び第2装飾部25の境界が真空成形型101の凹条部成形面115に対応するように真空成形型101側に載置する。そして、真空成形型101を上昇させて、図示しないヒーターにフィルム15をその保護層15a側から密着させることで、フィルム15を加熱して軟化させる。その後、図示しない真空ポンプを駆動させて真空ボックス103の内部空間を負圧にし、フィルム15を上記隙間から吸引する。これにより、フィルム15のバッカー層15e側の面が、その外周部を除く全体に亘って第1型107、第2型109、第3型111、第4型113、及び第5型117の成形面に接触する。これにより、フィルム15の凹条部成形面115との接触箇所、すなわち第1装飾部23及び第2装飾部25の境界には凹条部19が成形され、フィルム15の垂直成形面113bとの接触箇所には垂下部16aが成形され、フィルム15の傾斜成形面113cには傾斜部16bが成形される。ここで、展開率を(原反の膜厚/残肉厚)×100で定義すると、かかる真空成形時における凹条部19の展開率は、250%以下に設定される。したがって、凹条部19の展開率が250%を上回る場合に比べ、フィルム15のインク割れが生じ難い。
【0040】
上述のようにフィルム15が成形されると、フィルム15を真空成形型101から脱型し、不要部分、すなわち第3型111の外周縁に対応する箇所(図8中矢印Yで示す箇所)の外周側、及び第5型117の外周縁に対応する箇所(図8中矢印Zで示す箇所)の内側を切除する。
【0041】
次いで、図10に示すように、上記フィルム15の凹条部19を上記固定型203の凸条部203bに嵌合させて上記フィルム15を固定型203の成形面203aにセットする。このように、射出成形型201の凸条部203bにフィルム15の凹条部19を嵌合させるだけで、フィルム15を射出成形型201に対して位置決めできるので、位置決め作業が容易である。そして、固定型203と可動型205とを型締めすることにより、フィルム15の裏面側にキャビティCを形成する。その後、キャビティCに透明な樹脂Rを射出充填することにより基材13をフィルム15の裏面側に一体に成形し、基材13とフィルム15とを備えたインジケータパネル7を得る。このとき、射出成形型201の凸条部203bとフィルム15の凹条部19との嵌合によりフィルム15が射出成形型201に対して位置決めされているので、樹脂Rの射出圧によるフィルム15の位置ずれが防止される。したがって、フィルム15の表示領域22の位置ずれも防止され、表示領域22の位置ずれによりLED33の光が表示領域22に十分照射されなくなることが防止される。その後、固定型203と可動型205とを型開きし、上記インジケータパネル7を脱型する。
【0042】
したがって、本実施形態によると、フィルム15の第1装飾部23の光輝性発現により、本体部品の開口部に別部品のメッキリングを装着したような意匠をインジケータパネル7だけで実現できるので、メッキリングの装着作業が必要ない。また、別部品のメッキリングが不要な分、部品点数を減らすことができ、これにより、製造コストを削減できる。
【0043】
また、第1装飾部23及び第2装飾部25の境界が凹条部19に位置し、インジケータパネル7の第1装飾部23形成領域と第2装飾部25形成領域とが別部材で構成されているという印象が強められるので、本体部品に別部品のメッキリングを装着しているとより認識されやすい意匠を実現できる。
【0044】
また、第1装飾部23及び第2装飾部25の境界が凹条部19の第1装飾部23側の側壁における凹条部19開放方向中央よりも反開放側に位置し、凹条部19の底面に第1装飾部23が形成されていないので、凹条部19の底面で第1装飾部23が目立つことによる意匠性の低下を防止できる。
【0045】
また、第1装飾部23及び第2装飾部25の境界が凹条部19の開放方向中央よりも反開放側に配置され、開放側に配置された場合に比べて視認しにくいので、外観見栄えを向上できる。
【0046】
また、凹条部19非形成領域におけるフィルム15の厚さT1を、凹条部19形成領域におけるフィルム15の厚さT2の200%以下に設定したので、200%を超える値に設定した場合に比べ、平坦なフィルム15を成形して凹条部19を形成する場合に、フィルム15の凹条部19形成領域におけるインク割れを防止しやすい。
【0047】
なお、本実施形態では、溝部17を両側面部17aと底面部17bとで構成したが、溝部17を断面V字状等、他の形状にし、フィルム15の凹条部19を当該溝部17に沿う形状としてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、印刷層15bにおける基材13のパネル側開口部11の周縁部に対応する領域で第1装飾部23を構成したが、印刷層15bの一部の領域であれば、他の領域で第1装飾部23を構成してもよい。また、本実施形態では、第1装飾部23を矩形環状に形成したが、本実施形態の第1装飾部23を周方向に複数に分断した形状としてもよい。また、第1装飾部23を環状ではなく線状に形成してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、第2装飾部25を漆黒性顔料で着色されたインクで構成したが、第1装飾部23と異なる顔料であれば、他の顔料で着色されたインクで構成してもよく、例えば、グレー系の顔料、又は第1装飾部23を着色する高輝度系顔料よりも輝度を抑えた高輝度系顔料で着色されたインクで構成してもよい。また、高輝度系顔料で着色されたインクの上にグレー系の顔料で着色されたインクを重ね塗りしたもので第2装飾部25を構成してもよい。
【0050】
また、本実施形態では、フィルム15の凹条部19を真空成形により形成したが、プレス成形により形成してもよい。
【0051】
また、本実施形態では、フィルム15の印刷層15b及び白色層15cの表示領域22対応箇所を、白色顔料で着色されたインクで構成したが、透明なインクで構成してもよい。これにより、フィルム15の表示領域22を透明にすることができる。
【0052】
また、本実施形態では、本発明をインジケータパネルユニット5に設けられるインジケータパネル7に適用したが、本発明は、ルーバー装置やインストルメントパネル等、他の車両用内装品に設けられる加飾パネルにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、本発明は、金属調の装飾が施された加飾パネル及びこれを備えた車両用内装品並びに加飾パネルの製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0054】
5 インジケータパネルユニット(車両用内装品)
7 インジケータパネル(加飾パネル)
11 パネル側開口部(開口部)
13 基材
15 フィルム
15b 印刷層
17 溝部
19 凹条部
22 表示領域
23 第1装飾部
25 第2装飾部
33 光源(LED)
R 樹脂
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
樹脂製の基材(13)と、上記基材(13)の表面に被着されたフィルム(15)とを備え、
上記基材(13)には、開口部(11)が形成され、当該基材(13)の表面には、溝部(17)が形成され、
上記フィルム(15)の上記溝部(17)対応箇所には、当該溝部(17)表面に沿うように裏面側に凹む凹条部(19)が形成され、
上記フィルム(15)は印刷層(15b)を有し、当該印刷層(15b)における上記基材(13)の開口部(11)の周縁部に対応する領域は、金属調の光輝性顔料で着色された環状の第1装飾部(23)を構成している一方、上記印刷層(15b)における第1装飾部(23)に隣接する領域は、上記第1装飾部(23)とは異なる顔料で着色された第2装飾部(25)を構成し、
上記第1装飾部(23)及び第2装飾部(25)の境界は、上記凹条部(19)の第1装飾部(23)側の側壁における凹条部(19)開放方向中央よりも反開放側に位置していることを特徴とする加飾パネル。
【請求項5】
請求項4に記載の加飾パネルを備えた車両用内装品であって、
上記基材(13)は、透明な樹脂材で構成され、
上記フィルム(15)には、透明又は透光性を有する表示領域(22)が変速機の変速段の切替位置を表示する文字の形状をなすように形成され、
上記車両用内装品(5)は、上記フィルム(15)の表示領域(22)に裏面側から基材(13)を介して光を照射する光源(33)をさらに備えていることを特徴とする車両用内装品。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
請求項4に記載の加飾パネルの製造方法であって、
上記フィルム(15)の印刷層(15b)を印刷により形成する印刷工程と、
上記フィルム(15)の裏面側に樹脂(R)を射出充填することにより、上記基材(13)を成形する射出成形工程とを有し、
上記射出成形工程の実行前に、裏面側に凹む凹条部(19)を上記フィルム(15)の第1装飾部(23)及び第2装飾部(25)の境界に真空成形又はプレス成形により形成することを特徴とする加飾パネルの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の加飾パネルの製造方法において、
上記フィルム(15)の凹条部(19)形成時における凹条部(19)の展開率は、250%以下であることを特徴とする加飾パネルの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-04-09 
出願番号 特願2016-99078(P2016-99078)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 春日 淳一  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 石井 孝明
村山 達也
登録日 2019-09-20 
登録番号 特許第6588387号(P6588387)
権利者 ダイキョーニシカワ株式会社
発明の名称 加飾パネル及びこれを備えた車両用内装品並びに加飾パネルの製造方法  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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