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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1375856 |
異議申立番号 | 異議2020-700147 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-04 |
確定日 | 2021-04-27 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6569548号発明「リチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6569548号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6569548号の請求項1?8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6569548号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願(以下「本願」という。)は,平成28年1月29日に出願され,令和1年8月16日にその特許権の設定登録がされ,同年9月4日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後,令和2年3月4日に,本件特許の請求項1?8(全請求項)に係る特許に対し,特許異議申立人である佐藤綾子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたところ,手続きの経緯は以下のとおりである。 令和 2年 3月 4日 :特許異議申立書 同年 6月 1日付け:取消理由通知書 同年 7月20日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以 下「本件訂正請求書」という。) 同年 9月 8日 :申立人による意見書 同年12月21日付け:審尋 令和 3年 2月 8日受付:申立人による回答書(書留番号710/2 16) 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであって,その内容は以下のとおりである。なお,下線は訂正箇所を表す。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させる電池用カーボンブラック分散液の製造方法。」とあるのを,「せん断型分散機を用いて分散させ,分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す電池用カーボンブラック分散液を製造する,製造方法。」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?8も同様に訂正する。 (2)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1?8について,請求項2?8は,それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから,訂正前の請求項1?8は,一群の請求項である。 したがって,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。 2 訂正の適否に関する当審の判断 (1)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項の有無 ア 訂正事項1について (ア)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1による訂正は,本件訂正前の請求項1において「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」との特定事項が,せん断型分散機を用いて分散させた分散液の物性値を表すものであることを明確化するための訂正である。 よって,訂正事項1による訂正は,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものには該当しない。 (イ)新規事項の有無 本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)における【0093】,【0106】及び【0108】の【表6】において,実施例1?21のせん断型分散機を用いて分散させた分散液が,いずれもせん断速度1/s以上100/s未満に極小値を有していることから,本件特許の請求項1?8に係る発明に係る電池用カーボンブラック分散液の製造方法が,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」分散液を製造するものであることは明らかである。 よって,訂正事項1は,本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (2)独立特許要件について 本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるから,特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項は適用されない。 3 訂正の適否についての結論 以上のとおり,本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正は,上記第2で検討したとおり適法なものであるから,本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」といい,総称して「本件発明」ともいうことがある。)は,本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりの次のものである。 「【請求項1】 カーボンブラック,N-メチル-2-ピロリドン,ポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび分散剤を含んでなる電池用カーボンブラック分散液の製造方法であって,カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10?30質量部,分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1?6質量部,ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが,カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下,かつ,x=a/Mw(ただし,aは,11×10^(5)≦a≦22×10^(6)の範囲内である数,Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)であって,せん断型分散機を用いて分散させ,分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す電池用カーボンブラック分散液を製造する,製造方法。 【請求項2】 33×10^(5)≦a≦11×10^(6)である請求項1に記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。 【請求項3】 分散剤が酸性官能基を有する有機色素誘導体,酸性官能基を有するトリアジン誘導体,塩基性官能基を有する有機色素誘導体,塩基性官能基を有するトリアジン誘導体,ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール,ポリビニルピロリドン,変性ポリビニルアルコール,変性ポリビニルブチラールおよび変性ポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくともひとつである請求項1または2に記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。 【請求項4】 動的光散乱法により測定した分散液のD50値が300?800nmである請求項1?3いずれかに記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。 【請求項5】 カーボンブラックの比表面積が5?300m^(2)/gである請求項1?4いずれかに記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。 【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載の方法により製造されたカーボンブラック分散液に,正極または負極活物質と,さらにポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび/またはN-メチル-2-ピロリドンと,を加えて混合する電池用スラリーの製造方法。 【請求項7】 請求項6に記載の方法により製造された電池用スラリーを用いた電極の製造方法。 【請求項8】 請求項7に記載の方法により製造された電極を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法。」 第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要 1 特許異議の申立ての理由の概要 申立人は,証拠方法として下記(6)の甲第1号証?甲第7号証を提出し,下記(1)?(5)を概要とする申立理由1?5を主張し,本件特許の請求項1?8に係る特許は取り消されるべき旨を申立てた。 (1)申立理由1(新規性)(特許異議申立書41頁1行?51頁最下行:取消理由として不採用) ア 申立理由1-1 本件訂正前の請求項1?5に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であるから,同発明に係る特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。 イ 申立理由1-2 本件訂正前の請求項1?5に係る発明は,甲第2号証に記載された発明であるから,同発明に係る特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(進歩性)(特許異議申立書52頁1行?63頁最下行: 取消理由として不採用) ア 申立理由2-1 本件訂正前の請求項1?8に係る発明は,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証?甲第6号証に記載された事項及び周知事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,同発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。 イ 申立理由2-2 本件訂正前の請求項1?8に係る発明は,甲第2号証に記載された発明と甲第1号証,甲第3号証?甲第6号証に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件)(特許異議申立書64頁1行?最下行: 取消理由として不採用) 本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実施例1?21に記載されている製造方法以外の条件を用いた場合には,カーボンブラックの種類,平均一次粒子径,比表面積及び濃度,分散剤の種類及び添加量,PVDFの種類及び添加量,分散機の種類及び運転条件といった各種の要件(以下「製造要件」という。)のそれぞれについて検討し,その都度「レオメーターHAAKE社製「RS6000」),直径35mm,角度2°のコーンプレートを用いて,シェアレート(せん断速度)0.01?1000/sにおける粘度を測定」して確認する必要があり,これは,本件訂正前の請求項1?8に係る発明を実施する際,当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。 よって,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件訂正前の請求項1?8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから,同発明に係る特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。 (4)申立理由4(サポート要件)(特許異議申立書65頁1行?67頁最 下行:取消理由として不採用) 下記ア及びイの申立理由4-1及び4-2により,本件訂正前の請求項1?8に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから,同発明に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。 ア 申立理由4-1 本件明細書の実施例に開示されていないカーボンブラック分散体の製造方法は,出願時の技術常識に照らし「量産性,貯蔵安定性を有しながら出力に優れるリチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液を提供すること」である発明の課題を,具体例がなくても解決できる範囲のものではない。 イ 申立理由4-2 「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」ようにするためには,上記(3)の製造要件の調整・設定・変更が必要であり,その調整等が技術常識であるとはいえず,当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるから,本件の特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものではなく,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものでもない。 (5)申立理由5(明確性要件)(特許異議申立書68頁1行?70頁最下 行:取消理由として一部採用) 下記ア?エの申立理由5-1?5-4により,本件訂正前の請求項1?8に係る発明が明確であるとはいえないから,同発明に係る特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。 ア 申立理由5-1(取消理由として不採用) カーボンブラック,N-メチル-2-ピロリドン,ポリフッ化ビニリデン系ポリマー及びポリビニルアルコール等の分散剤を含んでなる電池用カーボンブラック分散液においては,保管により経時的に粘度が変化することは周知事項であるが,本件訂正前の請求項1?8に係る発明においては,どの時点で粘度測定を行った結果として,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」のか,何ら定義等がなされていない。 イ 申立理由5-2(取消理由として採用) 本件訂正前の請求項1?8に係る発明における「極小値」の定義が明確でない。 ウ 申立理由5-3(取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1?8に係る発明における「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させる」について,達成すべき要件が示されているだけで,具体的にどのような条件で分散させるのか,何ら明確ではなく,また,せん断速度と粘度とが,上記の達成すべき要件を満たすために,具体的にどのような手段を採用すればよいのかについて,技術常識を踏まえても不明であり,技術的に十分に特定したものではない。 エ 申立理由5-4(取消理由として実施可能要件により採用) 本件訂正前の請求項1?8に係る発明において,せん断速度の測定及び極小値の確認をどのように行ったものであるのか不明であり,「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させる」ことの技術的意義が不明確である。 (6)証拠方法 甲第1号証:特開2013-89346号公報 甲第2号証:特開2015-41462号公報 甲第3号証:特開2011-192620号公報 甲第4号証:特開2014-135198号公報 甲第5号証:特開2014-193986号公報 甲第6号証:特開2010-86955号公報 甲第7号証:新村出編,「広辞苑 第6版」,株式会社岩波書店,200 8年,p.744 以下,「甲第1号証」?「甲第7号証」を,それぞれ「甲1」?「甲7」という。 2 当審から通知した取消理由 当審は,上記1の特許異議の申立ての理由を検討した結果,上記1(5)申立理由5(明確性要件)の一部である申立理由5-2を採用し,同1(5)申立理由5(明確性要件)の一部である申立理由5-4を実施可能要件として採用するとともに,職権により明確性要件及び実施可能要件を追加して,令和2年6月1日付けで取消理由を通知した。 第5 当審の判断 当審は,特許権者が提出した令和2年7月20日付けの意見書及び訂正請求書,申立人が提出した令和2年9月8日付け意見書並びに特許権者が提出した令和3年2月8日受付の回答書を踏まえて検討した結果,以下のとおり,取消理由は解消するとともに,特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由及びその他の理由によっても,本件特許の請求項1?8に係る特許を取り消すことはできないと判断した。 1 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由1(明確性要件)について ア 取消理由の概要 (ア)取消理由1-1(申立理由5-2) 本件訂正前の請求項1に記載の「極小値」の意味について,広辞苑第6版によれば,「極小値」は,「[数]関数がその極小においてとる値。」とされ,「極小」は,「〈1〉きわめて小さいこと。〈2〉[数](minimal)ある関数の値が,変数の或る値の近傍で最小となること。グラフで表せばそこで谷になる。すなわちp_(0)の近傍内の任意の変数値p (p≠p_(0))に対し,関数の値がf ( p )> f (p_(0))であるとき,関数fはp_(0)で極小であるという。」とされている。 してみると,「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」との発明特定事項において,「極小」を上記〈1〉又は〈2〉のいずれの意味であるのか,また,〈2〉である場合において,「変数の或る値の近傍」を,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲」すべてとするのか,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲」内の任意の範囲とするのか,あるいはそれ以外の範囲とするのか不明である。 (イ)取消理由1-2(職権により追加) 本件訂正前の請求項1に記載の「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値」とは,分散液の物性値を表すものなのか,「分散させる」工程において,せん断型分散機を停止させて分散を終了させる終了条件を表すものなのか,あるいはそれ以外を表すものなのか不明である。 イ 特許権者の主張を踏まえた当審の判断 (ア)取消理由1-1について 特許権者は,令和2年7月20日付け意見書(以下「特許権者意見書」という。)の2頁下から8行?3頁1行において,本件発明における「「極小値」が,関数の極小値を意味するものであることは自明であり,〈2〉の「グラフで表せばそこで谷になる。」値であることに何ら疑問はない。すなわち,本件発明1の製造方法で製造される分散液は,横軸をせん断速度,縦軸を粘度とするグラフで表すと,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内」においてグラフの谷,つまり極小値が存在し,その極小値は「0.1?3Pa・s」であるというものである。」と主張するとともに,令和3年2月8日受付の回答書(以下「回答書」という。)の2?4頁において,以下の「横軸をせん断速度,縦軸を粘度とするグラフ」を示し,「実施例において極小値は一つ示されておりました」と主張することにより,極小値の意味するところは明らかとなった。 「 」 さらに,特許権者は回答書の2頁1?9行において,「「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値」は,少なくとも1つ存在すれば足り,複数存在したとしても問題ありません。」と主張することにより,極小値は,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲」内の任意の範囲で有していれば良いことも明らかとなった。 (イ)取消理由1-2について 特許権者は,特許権者意見書の3頁下から3?2行において,「本件発明の製造方法により得られる分散液は,表6の実施例にも示されるとおり,この粘度特性値を有するものである。」と主張しており,本件訂正による訂正後の請求項1は「せん断型分散機を用いて分散させ,分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す電池用カーボンブラック分散液を製造する,製造方法。」であることから,「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値」とは,分散液の物性値を表すものであることが明らかとなった。 ウ 取消理由1(明確性要件)についての小括 したがって,本件発明は明確であるといえるから,取消理由通知書に記載した取消理由1は解消した。 (2)取消理由2(実施可能要件)について ア 取消理由の概要 (ア)取消理由2-1(申立理由5-4) 本件明細書における【0093】の記載よれば,レオロジー(粘度)測定を行うレオメーターと,せん断型分散機であるハイシェアミキサーとは別の装置であると認められ,レオメーターによるレオロジー測定の際は,カーボンブラック分散液をせん断型分散機のミキサーから取り出して行う必要があるところ,「目視による粗大粒子がなくなったところで分散を続けながらレオロジー測定を行い」とは,分散を途中で止めつつ,その都度分散液を取り出してレオロジー測定を行うことなのか,それ以外のことなのか不明であって,どのようにして分散を続けながらレオロジー測定を行うことができるのか理解することができない。 (イ)取消理由2-2(職権による追加) 本件明細書の【0093】の記載における「分散を続けながらレオロジー測定を行い,せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内において粘度の極小値を示し,極小の粘度が0.1?3Pa・sの範囲内となったところで分散を終了」とは,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内」において,一度でも「極小の粘度が0.1?3Pa・sの範囲内」となれば分散を終了するのか,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内」で分散を続けた上で,「極小の粘度が0.1?3Pa・sの範囲内」であることを確認するのか,あるいはそれ以外のことなのか不明であって,どのようにして分散を終了できるのか理解することができない。 イ 特許権者の主張を踏まえた当審の判断 (ア)取消理由2-1について 特許権者は回答書の4頁下から8行?6頁2行において,レオロジー測定について以下のとおり主張している。 「本件明細書段落0093における 「目視による粗大粒子がなくなったところで分散を続けながらレオロジー測定を行い,」との記載は,分散を完全に終えてからレオロジー測定を行うのではなく,分散の途中でレオロジー測定を行って分散の程度を評価したことを意味する記載です。すなわち,本件発明では,分散の途中で適宜レオロジー測定を行い,所定のせん断速度範囲内で,極小の粘度が0.1?3Pa・sの範囲内となったことを確認して分散を終了しています。 このレオロジー測定には,本件明細書段落0089に「レオメーターHAAKE社製「RS6000」),直径35mm,角度2°のコーンプレートを用いて,シェアレート(せん断速度)0.01?1000/sにおける粘度を測定した。」と記載のとおり,コーンプレート型のレオメーター(粘度計)を使用します。コーンプレート型レオメーターでは,下記イメージ図のように,円錐状のコーンと平板状のプレートの聞に測定試料(図の水色部分(当審注:コーンとプレートとの間の空間であって,直角三角形状の箇所))を挟み,コーンを,速度を逐次変化させながら回転させて,上記グラフで示したようなせん断速度と粘度との関係を測定します。 一般に,コーンプレート型レオメーターでは,少量のサンプルで,粘度の測定が可能であり,上記「直径35mm,角度2°のコーンプレート」の場合,コーンとプレートとの間の空間に過不足なく満たされるための測定液の分量(上記図の水色部分の容積に相当)は0.4mlです。 一方,段落0093に記載のとおり,実施例では200gの分散液を調製していますので,分散の途中でレオロジー測定のために抜き取るサンプル液量は,全体液量からみれば無視できる程度の少量であることがわかります。 測定サンプルの抜き取りは,分散機の液投入口,又は配管中に設けられた弁を通じて行うことができ,容器内の液面からシリンジ等を用いて抜き取ることもできます。このように,測定サンプルの抜き取りは,分散を続けながらであっても行うことができます。 また,レオロジー測定のために分散を途中で止める場合でも,その時間は数分程度であり,分散の進行度合いを変化させるものではありません。仮に,数十分程度の停止時聞があっても,分散の程度に対する実質的な影響はありません。 イ 以上のように,せん断分散機による分散は,レオロジー測定後に新たな分散液を用意して行うものではなく,レオロジー測定を行った分散液に対し継続して行われます。その際に,いったん分散を止めることは,それまでの分散状態,及び,せん断速度と粘度との関係に影響を与えることはありません。」 以上の主張により,通常用いられているコーンプレート型のレオメーターの原理を考えれば,本件発明の実施において,分散を途中で止めることなく,分散を続けながらレオロジー測定を行えることを理解することができる。 (イ)取消理由2-2について 特許権者は,特許権者意見書の4頁下から2行?5頁10行において,以下のとおり主張している。 「本件明細書段落0093には「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内において粘度の極小値を示し,極小の粘度が0.1?3Pa・sの範囲内となったところで分散を終了し,カーボンブラック分散液をそれぞれ得た。」と記載されている。当業者であれば,例えばこの本件明細書の記載のとおり,分散の途中で適宜レオロジー測定を行い,所定のせん断速度範囲内で,極小の粘度が0.1?3Pa・sの範囲内となったことを確認して分散を終了することにより,本件発明1を実施することができる。なお,この場合において,所定の極小値が得られる分散条件を確定できれば,次回以降は同様の分散操作を行うことで,目的とする極小値を有する分散液を製造することができるのであり,製造のたびに常にレオロジー測定が必要になるわけではない。 当業者であれば,何ら過度の試行錯誤を要求されることなく,本件発明1の製造方法を実施することができる。」 以上の主張により,分散を続けながらレオロジー測定を行い,せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内において粘度の極小値を示し,極小の粘度が0.1?3Pa・sの範囲内となったところで分散を終了とは,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内」において,一度でも「極小の粘度が0.1?3Pa・sの範囲内」となれば分散を終了できるものであることが理解できる。 ウ 取消理由2(実施可能要件)についての小括 したがって,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明1?8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるから,取消理由通知書に記載した取消理由2は解消した。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由につい て (1)申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について ア 申立理由1-1及び申立理由2-1について (ア)甲1の記載事項と引用発明 a 甲1の記載事項 上記甲1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当審が付与し,「・・・」は記載の省略を表すものであって,以下同様である。 「【請求項7】 少なくとも正極活物質及び導電材を含む正極合材層が正極集電体上に形成された正極と,少なくとも負極活物質を含む負極合材層が負極集電体上に形成された負極と,を備える非水電解質二次電池の製造方法であって, 前記導電材と,分散剤と,結着材とを所定の溶媒に分散させてなる導電材分散液を用意すること, 前記用意した導電材分散液と,前記正極活物質としてJIS K6217-4に基づくDBP吸収量[mL/100g]が30mL/100g以上の正極活物質と,を混合してなるペースト状の正極合材層形成用組成物を用意すること, 前記用意した正極合材層形成用組成物を前記正極集電体の表面に塗布して乾燥させることによって正極合材層を形成すること,を包含し, ここで,前記正極活物質のDBP吸収量[mL/100g]をAとし,前記正極合材層形成用組成物中の全固形分に占める該正極活物質の質量割合をx[質量%]とし,且つ, 前記導電材のDBP吸収量[mL/100g]をBとし,前記正極合材層形成用組成物中の全固形分に占める該導電材の質量割合をy[質量%]としたときの以下の式(1)により求められる計算値a: a=yB/x (1); が0.28?0.47となるように,前記DBP吸収量Aと前記質量割合xと前記DBP吸収量Bと前記質量割合yとを決定することを特徴とする,非水電解質二次電池の製造方法。 【請求項8】 前記導電材として,前記DBP吸収量B[mL/100g]が130mL/100g?180mL/100gのカーボンブラックを用いる,請求項7に記載の製造方法。 【請求項9】 前記導電材として,アセチレンブラックを用いる,請求項8に記載の製造方法。 【請求項10】 前記導電材分散液に含まれる前記導電材を100質量%としたときに,該導電材分散液に含まれる前記分散剤の質量割合が1質量%以上5質量%以下となるように該分散剤の量を調整する,請求項7から9のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項11】 前記分散剤として,疎水性基と親水性基とを有する高分子化合物,又は極性官能基を有するアニオン性化合物或いはカチオン性化合物から選択される少なくとも一種を用いる,請求項7から10のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項12】 前記高分子化合物として,ポリビニルブチラール及び/又はポリビニルピロリドンを用いる,請求項11に記載の製造方法。」 「【0019】 ここで開示される非水電解質二次電池の好適な実施形態の一つとして,リチウムイオン二次電池を例にして詳細に説明するが,本発明の適用対象をかかる種類の非水電解質二次電池に限定することを意図したものではない。例えば,他の金属イオン(例えばマグネシウムイオン)を電荷担体とする非水電解質二次電池にも適用することができる。 【0020】 ここで開示されるリチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)の製造方法は,図3に示すように,導電材分散液準備(用意)工程(S10)と,正極合材層形成用組成物準備(用意)工程(S20)と,正極合材層形成工程(S30)とを包含する。 まず,導電材分散液準備(用意)工程(S10)について説明する。導電材分散液準備(用意)工程には,導電材と,分散剤と,結着材とを所定の溶媒に分散させてなる導電材分散液を用意することが含まれている。 【0021】 上記導電材としては,一般的なリチウムイオン二次電池の正極に使用される導電材と同様のものを適宜採用することができる。例えば,種々のカーボンブラック(例えば,アセチレンブラック,ファーネスブラック,ケッチェンブラック等),グラファイト粉末等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。好ましくは,導電性に優れるアセチレンブラックが用いられる。 上記導電材の質量割合(使用量)は,後述する式(1)の計算値aが所定の範囲に収まる限り特に限定されない。例えば,正極合材層中に含まれる正極活物質を100質量%としたときに1質量%?20質量%(好ましくは5質量%?15質量%,より好ましくは7質量%?12質量%)とすることができる。 また,上記導電材のJIS K6217-4「ゴム用カーボンブラック‐基本特性‐第4部:DBP吸収量の求め方」に基づくDBP吸収量B[mL/100g]は,凡そ130mL/100g?180mL/100g(例えば,凡そ135mL/100g?175mL/100g)であることが好ましい。 【0022】 上記分散剤としては,例えば,疎水性基(鎖)と親水性基(鎖)とを有する高分子化合物(例えばポリビニルブチラール,ポリビニルピロリドン等)を好ましく用いることができる。また,分散剤の他の例として,所定の極性官能基(例えばスルホン基,カルボキシル基,アミノ基等)を有するアニオン性化合物(例えば該化合物の硫酸塩,スルホン酸塩,燐酸塩等),カチオン性化合物(例えば脂肪族アミン等)などが挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。例えば,ポリビニルピロリドンや,ポリビニルブチラールを好ましく用いることができる。上記分散剤は組成物の混練時に凝集しやすい上記導電材に吸着することにより,該導電材の凝集を防止して導電材の分散状態を高めることができると共に組成物の粘度を低下させることができる。 また,導電材分散液(及び後述する正極合材層)に含まれる分散剤の質量割合(使用量)は,該導電材分散液(及び後述する正極合材層)に含まれる上記導電材を100質量%としたときに1質量%以上5質量%以下(好ましくは2質量%以上3質量%以下)とすることができる。分散剤の使用量が1質量%よりも少なすぎる場合には,導電材を良好に分散させることができない虞がある。一方,分散剤の使用量が5質量%よりも多すぎる場合には,導電材自体は良好に分散させ得るものの,分散剤自体が過剰に含まれるため内部抵抗が上昇してしまう虞がある。 【0023】 上記結着材(バインダ)としては,一般的なリチウムイオン二次電池の正極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。例えば,溶剤系の溶媒(有機溶媒)を用いて正極合材層形成用組成物を調製する場合には,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の有機溶媒(非水溶媒)に溶解するポリマー材料を用いることができる。有機溶媒としては,例えばN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)等が挙げられる。 【0024】 上記導電材,分散剤及び結着材を溶媒中で混ぜ合せる(混練)操作は,例えば,適当な混練機(プラネタリーミキサー,ホモディスパー,クレアミックス,フィルミックス等)を用いて行うことができる。上記導電材分散液を調製(用意)するにあたっては,先ず,導電材と分散剤とを溶媒中で混練し,分散剤を導電材に吸着させた後で結着材を添加して混練してもよい。」 「【0045】 このときの正極合材層形成用組成物の固形分濃度:固形分濃度[質量%]=(組成物中の全固形分の質量)/(組成物中の全固形分及び溶媒の合計質量);は,凡そ50質量%?70質量%(例えば55質量%?60質量%)となる。本実施形態にかかる組成物は,従来の組成物(例えば固形分濃度45質量%程度)と比べて固形分濃度が高くなるため,該組成物を乾燥させて正極合材層を形成する際に必要な総熱量が少なくて済み乾燥に要する時間が短縮される。この結果,従来よりも小規模な乾燥設備(例えば乾燥炉)を用いることができコストの削減が実現され得る。」 「【0064】[リチウムイオン二次電池の作製]<例1> 正極活物質としての上記サンプルS1の活物質粒子(DBP吸収量A:43mL/100g)と,導電材としてのアセチレンブラック(DBP吸収量B:140mL/100g)と,結着材としてのPVDFと,分散剤としてのポリビニルブチラールとの質量比が90:8:2:0.2となるように秤量し,正極活物質を除く上記材料(即ち導電材,結着材及び分散剤)を溶媒NMPに分散させて導電材分散液を調製した。該導電材分散液と上記秤量した正極活物質とを混合して混練することによりペースト状の正極合材層形成用組成物を調製した。該組成物を厚さ15μmの正極集電体(アルミニウム箔)上に塗布量10mg/cm^(2)で塗布してNMPを揮発させることにより,該正極集電体上に正極合材層が形成されてなる正極シートを作製した。このときの上記式(1)の計算値aは0.29であった。 一方,負極活物質としての天然黒鉛と,結着材としてのSBRと,増粘材であるCMCとの質量比が98:1:1となるように秤量し,これら材料をイオン交換水に分散させてペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。該組成物を厚さ10μmの負極集電体(銅箔)上に塗布してイオン交換水を揮発させることにより,該負極集電体上に負極合材層が形成されてなる負極シートを作製した。 そして,上記作製した正極シート及び負極シートをセパレータシート(ポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質膜)を挟んで対向配置させ(積層させ),これを電解液と共にラミネート型のケース(ラミネートフィルム)に収容することにより例1に係るリチウムイオン二次電池(定格容量150mAh)を作製した。電解液としては,エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比3:7の混合溶媒に1mol/LのLiPF_(6)を溶解させたものを使用した。 【0065】・・・ <例5> 上記サンプルS3(DBP吸収量A:38mL/100g)と,アセチレンブラック(DBP吸収量B:175mL/100g)と,PVDFと,ポリビニルブチラールとの質量比が88:10:2:0.2となるように秤量し,正極活物質を除く上記材料を溶媒NMPに分散させて例5に係る導電材分散液を調製した。例5に係る導電材分散液と上記秤量した正極活物質とを混合して混練することにより例5に係る正極合材層形成用組成物を調製した。例5に係る正極合材層形成用組成物を用いた他は例1と同様にして,例5に係るリチウムイオン二次電池を作製した。このときの上記式(1)の計算値aは0.52であった。 【0066】<例6> 上記サンプルS3(DBP吸収量A:38mL/100g)と,アセチレンブラック(DBP吸収量B:175mL/100g)と,PVDFと,ポリビニルブチラールとの質量比が85:13:2:0.2となるように秤量し,正極活物質を除く上記材料を溶媒NMPに分散させて例6に係る導電材分散液を調製した。例6に係る導電材分散液と上記秤量した正極活物質とを混合して混練することにより例6に係る正極合材層形成用組成物を調製した。例6に係る正極合材層形成用組成物を用いた他は例1と同様にして,例6に係るリチウムイオン二次電池を作製した。このときの上記式(1)の計算値aは0.7であった。・・・ 【0067】<例10> 上記サンプルS6(DBP吸収量A:34mL/100g)と,アセチレンブラック(DBP吸収量B:140mL/100g)と,PVDFと,ポリビニルブチラールとの質量比が88:10:2:0.2となるように秤量し,正極活物質を除く上記材料を溶媒NMPに分散させて例10に係る導電材分散液を調製した。例10に係る導電材分散液と上記秤量した正極活物質とを混合して混練することにより例10に係る正極合材層形成用組成物を調製した。例10に係る正極合材層形成用組成物を用いた他は例1と同様にして,例10に係るリチウムイオン二次電池を作製した。このときの上記式(1)の計算値aは0.47であった。」 b 甲1に記載された発明 上記aに摘示した事項のうち,【0065】?【0067】の例5,6及び10に着目し,【0024】を参照すると,甲1には,以下の発明(以下「甲1A発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲1A発明> アセチレンブラックと,PVDF(ポリフッ化ビニリデン)と,ポリビニルブチラール(分散剤)との質量比が10:2:0.2又は13:2:0.2となるように秤量し,混練機(プラネタリーミキサー,ホモディスパー,クレアミックス,フィルミックス等)を用いて溶媒NMP(N‐メチル‐2‐ピロリドン)に分散させる導電材分散液の調製方法。 さらに,甲1の請求項7及び【0020】を参照すれば,甲1には,以下の発明(以下「甲1B発明」?「甲1D発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲1B発明> 甲1A発明により調整した導電材分散液と,正極活物質とを混合してなるペースト状の正極合材層形成用組成物を用意する方法。 <甲1C発明> 甲1B発明により用意した正極合材層形成用組成物を正極集電体の表面に塗布して乾燥させることによって正極合材層を形成する方法。 <甲1D発明> 甲1A発明,甲1B発明及び甲1C発明を包含するリチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)の製造方法。 (イ)本件発明1の新規性及び進歩性について a 対比 本件発明1と甲1A発明とを対比すると,甲1A発明の「アセチレンブラック」は,上記甲1の【0021】に記載のとおり,本件発明1の「カーボンブラック」に含まれるものである。 また,甲1A発明の「アセチレンブラック」と「ポリビニルブチラール(分散剤)」との質量比が「10」:「0.2」又は「13」:「0.2」であることは,ポリビニルブチラール(分散剤)の含有量がアセチレンブラック100質量部に対して2質量部又は約1.5質量部であることと同じであるから,本件発明1の「分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1?6質量部」を満たすものである。 さらに,甲1A発明の「アセチレンブラック」と「PVDF(ポリフッ化ビニリデン)」との質量比が「10」:「2」又は「13」:「2」であることは,PVDF(ポリフッ化ビニリデン)の含有量が,アセチレンブラック100質量部に対して20質量部又は約15.4質量部であることと同じであるから,本件発明1の「ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが,カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下」を満たすものである。 また,甲1A発明の「混練機(プラネタリーミキサー,ホモディスパー,クレアミックス,フィルミックス等)」は,せん断力により混錬するものであるから,本件発明1の「せん断型分散機」に相当する。 そして,甲1A発明の「導電材分散液」は,正極合材層形成用組成物に用いられるものであって,導電材がアセチレンブラックであることから,本件発明1の「電池用カーボンブラック分散液」に相当する。 してみると,本件発明1と甲1A発明とは,以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。 <一致点> 「カーボンブラック,N-メチル-2-ピロリドン,ポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび分散剤を含んでなる電池用カーボンブラック分散液の製造方法であって,分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1?6質量部,ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが,カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下であって,せん断型分散機を用いて分散させ,電池用カーボンブラック分散液を製造する,製造方法。」である点。 <相違点1> 本件発明1は,「カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10?30質量部」であるのに対し,甲1A発明は,分散液100質量部に対するアセチレンブラックの含有量が不明な点。 <相違点2> 本件発明1は,「ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量x」が,「x=a/Mw(ただし,aは,11×10^(5)≦a≦22×10^(6)の範囲内である数,Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)」と特定されているのに対し,甲1A発明は,この特定を満たすか否か不明な点。 <相違点3> 本件発明1は,「せん断型分散機を用いて分散させ,分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す電池用カーボンブラック分散液を製造する」ものであるのに対し,甲1A発明は,このような極小値を示すようにして分散液を製造するのか不明な点。 b 判断 事案に鑑み,相違点3について検討する。 (a)実質的な相違点か否かについて i 甲1には,混練機を用いた分散において,せん断速度と粘度との関係を考慮することについて何ら記載されていないし,「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」ように分散することが,本件発明が属する技術分野における周知の技術的事項であるともいえないから,相違点1は実質的な相違点である。 ii この点について申立人は,特許異議申立書の43頁下から5行?44頁7行において,本件明細書の【0093】には,せん断分散機を用い「目視による粗大粒子がなくなったところで分散を続け」て,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内において粘度の極小値を示し,極小の粘度が0.1?3Pa・sの範囲内」とすることが記載されているところ,甲1A発明の導電材分散液の組成は,本件発明1のカーボンブラック分散液の組成と差異がなく,用いる分散機もせん断型分散機で差異がなく,さらに,カーボンブラック分散液を調製する際に,少なくとも目視による粗大粒子が完全になくなった後も念のためさらに分散処理を行うことは周知事項であることを踏まえると,相違点3は実質的な相違点ではない旨主張している。 iii しかしながら,たとえ目視による粗大粒子が完全になくなった後も念のためさらに分散処理を行ったとしても,それにより「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」ことになるとはいえないから,申立人の上記主張を採用することはできない。 (b)容易想到性について i 申立人は,特許異議申立書の53頁6?13行において,上記(a)iiと同様の理由に基づき,相違点3に係る事項は当業者が適宜なし得る旨主張するが,上記(a)iiiのとおり,目視による粗大粒子が完全になくなった後も念のためさらに分散処理を行うことで「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」ことになるとはいえないし,せん断速度範囲と分散液の粘度の極小値との関係を調整することが,本件発明が属する技術分野における周知の技術的事項であるとも認められないから,申立人の主張を採用することはできない。 ii さらに申立人は,上記甲2に基づく主張をしているところ,甲2には以下の記載がある。 「【請求項1】 電極活物質と,重量平均分子量が1000000以上のポリフッ化ビニリデンと,有機溶媒とを含む電極合材ペーストを作製する工程αと, 前記電極合材ペーストを集電体上に塗工する工程βと, 前記集電体上に塗工された前記電極合材ペーストを乾燥する工程γと,を備え, 前記工程αは,前記ポリフッ化ビニリデンに対し,ポリビニルアセタールおよびその誘導体のうち少なくとも1種を,5質量%以上50質量%以下含有させる工程を含む,非水電解質二次電池の製造方法。」 「【0011】 上記のように,電極合材ペーストにおけるPVdFの分子量と,ポリビニルアセタールおよびその誘導体の含有量を特定することにより,電極合材ペーストに次のような特性が付与される。すなわち,本発明に係わる電極合材ペーストは,極低速せん断領域において,従来の電極合材ペーストに比し,顕著に高いせん断粘度を有する。ここで,「極低速せん断領域」とは,せん断速度が0.1s^(-1)?1s^(-1)程度である領域を示す。そして,この領域におけるせん断粘度は,電極合材ペーストが静置された状態での流体挙動を表わすものである。したがって,上記のような電極合材ペーストを用いることにより,ペーストが集電体上に塗工され,静置状態で乾燥される際,非常に流動し難く,結着材が表層へと移動することを抑制することができる。そしてこれにより,従来に比し,乾燥速度の高速化が可能となる。また同時に,仕上がり電極において結着材の偏在が抑制され,以って電極合材層と集電体との接着強度が高まり,電池性能を向上させることができる。 【0012】 さらに,上記の電極合材ペーストは,次のような特性を兼ね備える。すなわち,本発明に係わる電極合材ペーストは,通常せん断領域および高速せん断領域において,従来の電極合材ペーストと同程度のせん断粘度を有する。ここで,「通常せん断領域」とは,せん断速度が1s^(-1)以上である領域を示し,「高速せん断領域」とは,せん断速度が100s^(-1)以上10000s^(-1)以下である領域を示す。このように,上記の電極合材ペーストは,特定のせん断領域においてのみ,高いせん断粘度を有するという特異的な流体挙動を示すものである。」 「【0014】 なお,PVdFの重量平均分子量は,好ましくは1500000以下(1.5×10^(6)以下)である。」 「【0025】 ここで,電極合材ペーストが上記の成分を含むことを除いて,電極合材ペーストを作製する方法は,特に限定されず,従来公知の方法を採用することができる。たとえば,遊星運動する撹拌翼を備えたプラネタリーミキサーに,電極合材ペーストを構成する各成分を投入し,混練することにより,電極合材ペーストを作製することができる。」 「【0028】 (他の成分) 他の成分としては,たとえば,アセチレンブラック(AB:Acetylene Black),カーボンブラック(CB:Carbon Black),カーボンナノファイバー(CNF:Carbon nanofiber)等の導電助材や,界面活性剤,顔料分散剤等の分散剤等を挙げることができる。」 「【0034】 本実施形態の電極合材ペーストは,このようにポリビニルアセタール類を特定の範囲で含有することにより,重量平均分子量が1000000以上であるPVdFと,ポリビニルアセタール類とが,電極合材ペーストの流動特性(レオロジー特性)に相乗的に作用し,極低速せん断領域における高粘度と,通常?高速せん断領域における好適な粘度とを両立することができる。ここで,本実施形態の電極合材ペーストは,好ましくは,せん断速度が0.1s^(-1)以上0.4s^(-1)以下の領域において,10Pa・s以上のせん断粘度を有し,かつせん断速度が100s^(-1)以上10000s^(-1)以下の領域において,4Pa・s以下のせん断粘度を有する。電極合材ペーストがこのようなレオロジー特性を備えることは,従来公知の粘弾性測定装置を用いて計測することができる。」 「【0068】 <工程α> (実施例) まず,正極活物質としてLiと3種の遷移金属元素(Co,NiおよびMn)を含むリチウム含有遷移金属複合酸化物からなる粉末と,導電助材としてABと,結着材として重量平均分子量が1000000であるPVdFと,添加剤としてPVBと,を準備した。ここで準備されたPVBの重量平均分子量は約20000,アセタール化度(ブチラール化度)は約61mol%,水酸基量は約37mol%,アセチル基量は3mol%以下である。なお,PVdFおよびその他各成分は,一般に入手可能なものである。 【0069】 次いで,混練機を用いて,上記各成分を分散剤とともにNMP中に分散させることにより,実施例に係る電極合材ペーストを作製した。この電極合材ペーストに含まれる各成分(固形分)の配合比は,正極活物質:90.3質量%,導電助材:8.0質量%,PVdF:1.5質量%,PVB:0.15質量%,分散剤:0.05質量%である。なお,この電極合材ペーストの固形分濃度は,60.0質量%である。 【0070】 (比較例1?4) 表1に示すように,PVdFの分子量,PVBの配合比,および分散剤の配合比を変更する以外は,実施例と同様にして,比較例1?4に係る電極合材ペーストを作製した。なお,比較例1?4は,従来の電極合材ペーストの組成を想定したものである。 【0071】【表1】 」 「【0073】 図1は,各電極合材ペーストのレオロジー特性を示すグラフである。図1中,横軸は,せん断速度を示す対数軸であり,縦軸は,せん断粘度を示す対数軸である。図1に示すように,実施例の電極合材ペーストは,せん断速度が0.1s^(-1)以上1s^(-1)以下の領域(極低速せん断領域)において,比較例1に比し,高いせん断粘度を有することが確認された。特にせん断速度が0.1s^(-1)以上0.4s^(-1)以下の領域では,10Pa・s(10000mPa・s)以上の高いせん断粘度を有していた。そして,せん断速度が高くなると,徐々に実施例と比較例の電極合材ペーストのせん断粘度の差異は小さくなり,100s^(-1)以上10000s^(-1)以下である領域(高速せん断領域)では,その差異はほとんど消失していた。また,このとき,せん断速度が100s^(-1)以上では,各電極合材ペーストのせん断粘度は,4Pa・s以下(4000mPa・s以下)であった。このようなレオロジー特性が発現する理由の詳細は明らかではないが,重量平均分子量が1000000以上であるPVdFと,PVBとが,電極合材ペーストのレオロジー特性に相乗的に作用した結果であると推測される。 【0074】 <工程β> 次に,各電極合材ペーストを,集電体であるAl箔上に塗工した。 【0075】 <工程γ> 続いて,Al箔上に塗工された各電極合材ペーストを180℃で高速乾燥することにより,電極合材層を形成した。これにより,実施例および比較例1?4に係る電極を得た。」 「【図1】 」 iii そして,申立人は特許異議申立書の53頁14行?54頁2行において,概略以下の主張をしている。 ・甲2の【0071】の【表1】の比較例4には,導電助材としてAB(アセチレンブラック),結着材としてPVdF(ポリフッ化ビニリデン)及び分散剤を含み,NMP(N-メチル-2-ピロリドン)中に分散させた電極合材ペーストが記載され,図1から,比較例4の電極合材ペーストは,せん断速度1/s以上100/s未満の範囲で約1Pa・sの粘度の極小値を示すことが見て取れる。 ・また,甲2の【0011】?【0012】には,電極合材ペーストにおけるポリビニルアセタールの含有量等を特定することにより,せん断速度が0.1s^(-1)?1s^(-1)程度の極低速せん断領域,せん断速度が1s^(-1)以上である通常せん断領域及びせん断速度が100s^(-1)以上10000s^(-1)以下である高速せん断領域におけるせん断粘度を調整することが記載されている。 ・そして,ポリビニルアセタールの一種であるポリビニルブチラールを分散剤として用いることが本件明細書の【0021】に記載されているから,甲1A発明において,分散剤の含有量を調整することで,各せん断速度領域における粘度特性を制御し,結果的に「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」ようにすることは,当業者が適宜なし得る。 iv しかしながら,本件発明1は,本件明細書の【0057】に記載のように,「本発明の分散液を電池電極に用いる場合は,さらに,正極活物質または負極活物質を含有させることができる。」ものであり,さらに本件発明6及び【0064】に記載のように,カーボンブラック分散液に正極活物質又は負極活物質を加えて電池用スラリーを作製するものであるから,本件発明1の方法によって製造されるカーボンブラック分散液は,正極活物質又は負極活物質を含まないものであるといえるところ,甲1A発明も,本件発明1と同様に,正極活物質又は負極活物質を含まないものである。 そして,甲2に記載の電極合材ペーストは正極活物質を含むものであり,正極活物質を含有させる前の導電材分散液である甲1A発明とは異なるものであるから,甲1A発明に甲2に記載された事項を適用する動機付けを見いだすことができない。 v さらに,甲3?6においても,相違点3に係る事項について記載も示唆もされていない。 vi そして,本件発明1は,相違点3に係る事項を有することにより,本件明細書の【0108】の【表6】及び【0131】の【表9】に示されるように,「ろ過性」及び「貯蔵安定性」が良好で,「初期効率」及び「レート特性」が高いという顕著な効果を奏するものである。 c 本件発明1についての小括 したがって,相違点3は実質的な相違点であるから,相違点1及び2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1A発明と実質的に相違するから,本件発明1は,甲1に記載された発明とはいえない。 また,相違点3に係る事項は甲2?7に記載された事項及び周知事項から当業者が容易に想到し得ることとはいえないから,相違点1及び2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明と甲2?7に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件発明2?5の新規性及び進歩性について 本件発明2?5は,本件発明1を直接又は間接的に引用し,本件発明1の発明特定事項のすべてを備えるものであって,本件発明1の新規性については上記(イ)のとおりであるから,本件発明2?5も,甲1に記載された発明とはいえない。 また,本件発明2?5は,本件発明1を直接又は間接的に引用し,本件発明1の発明特定事項のすべてを備えるものであって,本件発明1の進歩性については上記(イ)のとおりであるから,本件発明2?5も,甲1に記載された発明と甲2?7に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (エ)本件発明6の進歩性について 本件発明6と甲1B発明とを対比すると,本件発明6は本件発明1の特定事項をすべて含むことから,両者は,少なくとも上記相違点3と同様の相違点を有するものであって,当該相違点についての判断は,(イ)b(b)のとおりである。 したがって,本件発明6は,甲1に記載された発明と甲2?7に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (オ)本件発明7の進歩性について 本件発明7と甲1C発明とを対比すると,本件発明7は本件発明1の特定事項をすべて含むことから,両者は,少なくとも上記相違点3と同様の相違点を有するものであって,当該相違点についての判断は,(イ)b(b)のとおりである。 したがって,本件発明7は,甲1に記載された発明と甲2?7に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (カ)本件発明8の進歩性について 本件発明8と甲1D発明とを対比すると,本件発明8は本件発明1の特定事項をすべて含むことから,両者は,少なくとも上記相違点3と同様の相違点を有するものであって,当該相違点についての判断は,(イ)b(b)のとおりである。 したがって,本件発明8は,甲1に記載された発明と甲2?7に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 申立理由1-2及び申立理由2-2について (ア)甲2に記載された発明 上記甲2には,上記ア(イ)b(b)iiの事項が記載されているところ,【0071】の【表1】の実施例,比較例3及び比較例4に着目すると,甲2には,以下の発明(以下「甲2A発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲2A発明> 混練機を用いて,正極活物質,導電助材としてAB(アセチレンブラック),結着材として重量平均分子量が100万,50万又は28万のPVdF(ポリフッ化ビニリデン),添加剤としてPVB(ポリビニルブチラール)及び分散剤を,電極合材ペーストに含まれる各成分(固形分)の配合比が,正極活物質:90.3質量%,AB:8.0質量%,PVdF:1.5質量%,PVB:0.15質量%,分散剤:0.05質量%であり,電極合材ペーストの固形分濃度が60.0質量%となるように,NMP中に分散させる電極合材ペーストの製造方法。 さらに,甲2の【0074】,【0075】及び請求項1を参照すれば,甲2には,以下の発明(以下「甲2B発明」及び「甲2C発明」という。)が記載されているものとも認められる。 <甲2B発明> 甲2A発明により製造した電極合材ペーストを集電体上に塗工して電極合材層を形成して電極を得る方法。 <甲2C発明> 甲2A発明及び甲2B発明を含む,非水電解質二次電池の製造方法。 (イ)本件発明1の新規性及び進歩性について a 対比 本件発明1と甲2A発明とを対比すると,甲2A発明の「AB(アセチレンブラック)」は,上記甲1の【0021】に記載のとおり,本件発明1の「カーボンブラック」に含まれるものである。 また,甲2A発明における「PVB(ポリビニルブチラール)」は,「添加剤」とされているものであるが,甲1の【0022】に記載のように,分散剤としても用いられるものであるから,甲2A発明における分散剤は,「PVB:0.15質量%」と「分散剤:0.05質量%」の合計である0.20質量%といえ,このことと,「AB:8.0質量%」であることとは,分散剤の含有量がAB100質量部に対して2.5質量部であることと同じであるから,本件発明1の「分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1?6質量部」を満たすものである。 さらに,甲2A発明において「AB:8.0質量%」及び「PVdF:1.5質量%」であることは,PVdFの含有量が,AB100質量部に対して約19質量部であることと同じであるから,本件発明1の「ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが,カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下」を満たすものである。 また,甲2A発明の「混練機」は,本件発明1の「せん断型分散機」に相当する。 そして,NMP中に分散させるものである甲2A発明の「電極合材ペースト」と本件発明1の「電池用カーボンブラック分散液」とは,電池用の分散液である点で共通する。 してみると,本件発明1と甲2A発明とは,以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。 <一致点> 「カーボンブラック,N-メチル-2-ピロリドン,ポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび分散剤を含んでなる電池用の分散液の製造方法であって,分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1?6質量部,ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが,カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下であって,せん断型分散機を用いて分散させ,電池用の分散液を製造する,製造方法。」である点。 <相違点4> 本件発明1は,「カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10?30質量部」であるのに対し,甲2A発明は,分散液100質量部に対するABの含有量が不明な点。 <相違点5> 本件発明1は,「ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量x」が,「x=a/Mw(ただし,aは,11×10^(5)≦a≦22×10^(6)の範囲内である数,Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)」と特定されているのに対し,甲2A発明は,この特定を満たすか否か不明な点。 <相違点6> 本件発明1は,「せん断型分散機を用いて分散させ,分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」分散液を製造するものであるのに対し,甲2A発明は,このような極小値を示すようにして分散液を製造するのか不明な点。 <相違点7> 本件発明1は,「電池用カーボンブラック分散液」を製造するものであるのに対し,甲2A発明は,「正極活物質」を含む「電極合材ペースト」を製造するものである点。 b 判断 事案に鑑み,相違点6について検討する。 (a)実質的な相違点か否かについて 甲2A発明に関して,甲2の【図1】には,せん断速度とせん断粘度との関係が示されてはいるが,甲2A発明は,正極活物質を含む電極合材ペーストに係るものであるのに対し,本件発明1は,正極活物質を含有させる前の電池用カーボンブラック分散液に係るものであって,特定せん断速度範囲におけるせん断粘度の極小値が示される対象が異なるものであるし,甲2に示された電極合材ペーストにおける特定せん断速度範囲におけるせん断粘度の極小値から,電池用カーボンブラック分散液における特定せん断速度範囲におけるせん断粘度の極小値を導けるものでもないから,相違点6は実質的な相違点である。 (b)容易想到性について 本件発明1は,正極活物質を含ませる前の「電池用カーボンブラック分散液」を製造する方法において,正極活物質を含んでいない状態での分散のさせ方を,せん断速度範囲と粘度の極小値との関係で特定するものであるところ,甲2の【図1】において,分散液のせん断速度とせん断粘度との関係が示されているにしても,既に正極活物質を含んでいる分散液である電極合材ペーストの製造方法である甲2A発明から,正極活物質を除いた上で,せん断速度範囲と粘度の極小値との関係で特定する動機付けは認められない。 さらに,甲1及び甲3?6においても,相違点6に係る事項についての記載も示唆も認められない。 c 本件発明1についての小括 したがって,相違点6は実質的な相違点であるから,相違点4,5及び7について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2A発明と実質的に相違するから,本件発明1は,甲2に記載された発明であるとはいえない。 また,相違点6に係る事項は甲1,3?6に記載された事項及び周知事項から当業者が容易に想到し得ることであるとはいえないから,相違点4,5及び7について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2に記載された発明と甲1,3?6に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件発明2?5の新規性及び進歩性について 本件発明2?5は,本件発明1を直接又は間接的に引用し,本件発明1の発明特定事項のすべてを備えるものであって,本件発明1の新規性については上記(イ)のとおりであるから,本件発明2?5も,甲2に記載された発明であるとはいえない。 また,本件発明2?5は,本件発明1を直接又は間接的に引用し,本件発明1の発明特定事項のすべてを備えるものであって,本件発明1の進歩性については上記(イ)のとおりであるから,本件発明2?5も,甲2に記載された発明と甲1,3?6に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (エ)本件発明6の進歩性について 本件発明6と甲2A発明とを対比すると,本件発明6は本件発明1の特定事項をすべて含むことから,両者は,少なくとも上記相違点6と同様の相違点を有するものであって,当該相違点についての判断は,(イ)b(b)のとおりである。 したがって,本件発明6は,甲2に記載された発明と甲1,3?6に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (オ)本件発明7の進歩性について 本件発明7と甲2B発明とを対比すると,本件発明7は本件発明1の特定事項をすべて含むことから,両者は,少なくとも上記相違点6と同様の相違点を有するものであって,当該相違点についての判断は,(イ)b(b)のとおりである。 したがって,本件発明7は,甲2に記載された発明と甲1,3?6に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (カ)本件発明8の進歩性について 本件発明8と甲2C発明とを対比すると,本件発明8は本件発明1の特定事項をすべて含むことから,両者は,少なくとも上記相違点3と同様の相違点を有するものであって,当該相違点についての判断は,(イ)b(b)のとおりである。 したがって,本件発明8は,甲2に記載された発明と甲1,3?6に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)についての小括 よって,本件発明1?5は,甲第1号証に記載された発明であるとも,甲第2号証に記載された発明であるともいえない。 また,本件発明1?8は,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証?甲第6号証に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとも,甲第2号証に記載された発明と甲第1号証,甲第3号証?甲第6号証に記載された事項及び周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)申立理由3(実施可能要件)について ア 申立人が主張する上記第4の1(3)の申立理由3(実施可能要件)は,本件明細書の実施例1?21に記載されている製造方法以外の条件を用いた場合には,本件発明を実施するのに過度の試行錯誤を要することを理由とするものである。 イ しかしながら,本件明細書に記載されている実施例において実施ができている以上,本件特許の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (3)申立理由4(サポート要件)について ア 本件明細書の【0017】の記載から,本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は,「量産性,貯蔵安定性を有しながら出力に優れるリチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液を提供すること」であると認められる。 イ ここで,本件課題を解決する手段(以下「本件解決手段」という。)として,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているのは,電池用カーボンブラック分散液の製造方法において,分散液の流動性,作業性を考慮して「カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10?30質量部」とし(【0054】),貯蔵安定性及び電池の出力低下を考慮して「分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1?6質量部」とし(【0050】),ろ過詰まりを発生させないように「ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが,カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下,かつ,x=a/Mw(ただし,aは,11×10^(5)≦a≦22×10^(6)の範囲内である数,Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)」とし(【0018】),抵抗が最も低くなるように「せん断型分散機を用いて分散させ,分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」ものとする(【0056】)ことであるから,本件解決手段が,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲のものであると理解できる。 ウ さらに,本件明細書の【0108】の表6及び【0131】の【表9】において,本件解決手段を用いた実施例により,「貯蔵安定性」及び初期効率とレート特定により表される「出力に優れる」という本件課題の解決ができることが具体的に実証されてもいる。 エ そして,本件発明と本件解決手段とを対比すると,本件発明は,本件解決手段である,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものではない。 オ 申立人は,特許異議申立書において,実施例に開示されていないカーボンブラック分散体の製造方法は,本件課題を解決できるものでないことや,本件発明の特定事項である「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」ようにするには過度の試行錯誤が必要であることを理由として,サポート要件違反を主張するが,本件発明がサポート要件を満たすことは,上記ア?エのとおりである。 カ したがって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 (4)申立理由5(明確性要件)について ア 申立理由5-1について 申立人は,上記第4の1(5)ウの申立理由5-1として,どの時点で粘度測定を行った結果として,「せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す」のか,何ら定義等がなされていない旨主張する。 しかしながら,本件特許の請求項1における「せん断型分散機を用いて分散させ,分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す電池用カーボンブラック分散液を製造する」との記載は,電池用カーボンブラック分散液を製造する際の粘度の極小値であることが明らかである。 イ 申立理由5-3について 申立人は,上記第4の1(5)ウの申立理由5-3として,「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させる」について,達成すべき要件が示されているだけで,具体的にどのような条件で分散させるのか,また,せん断速度と粘度とが,上記の達成すべき要件を満たすために,具体的にどのような手段を採用すればよいのかについて不明である旨主張している。 しかしながら,分散液の「粘度の極小値」及び「せん断速度」の測定手段が不明とはいえないのであれば,「分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させる」ことが不明確であるということはできない。 ウ 申立理由5(明確性要件)についての小括 したがって,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるといえる。 第6 むすび 以上のとおり,本件訂正は適法であるから,これを認める。 そして,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?8に係る特許を取り消すことはできないし,他に本件特許の請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 カーボンブラック、N-メチル-2-ピロリドン、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび分散剤を含んでなる電池用カーボンブラック分散液の製造方法であって、カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10?30質量部、分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1?6質量部、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが、カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下、かつ、x=a/Mw(ただし、aは、11×10^(5)≦a≦22×10^(6)の範囲内である数、Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)であって、せん断型分散機を用いて分散させ、分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1?3Pa・sの粘度の極小値を示す電池用カーボンブラック分散液を製造する、製造方法。 【請求項2】 33×10^(5)≦a≦11×10^(6)である請求項1に記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。 【請求項3】 分散剤が酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、変性ポリビニルアルコール、変性ポリビニルブチラールおよび変性ポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくともひとつである請求項1または2に記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。 【請求項4】 動的光散乱法により測定した分散液のD50値が300?800nmである請求項1?3いずれかに記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。 【請求項5】 カーボンブラックの比表面積が5?300m^(2)/gである請求項1?4いずれかに記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。 【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載の方法により製造されたカーボンブラック分散液に、正極または負極活物質と、さらにポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび/またはN-メチル-2-ピロリドンと、を加えて混合する電池用スラリーの製造方法。 【請求項7】 請求項6に記載の方法により製造された電池用スラリーを用いた電極の製造方法。 【請求項8】 請求項7に記載の方法により製造された電極を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-04-12 |
出願番号 | 特願2016-15879(P2016-15879) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M) P 1 651・ 113- YAA (H01M) P 1 651・ 536- YAA (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 結城 佐織 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
粟野 正明 亀ヶ谷 明久 |
登録日 | 2019-08-16 |
登録番号 | 特許第6569548号(P6569548) |
権利者 | トーヨーカラー株式会社 東洋インキSCホールディングス株式会社 |
発明の名称 | リチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液の製造方法 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 三好 秀和 |