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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1375881
異議申立番号 異議2021-700293  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-19 
確定日 2021-07-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6759840号発明「成形品の成形方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6759840号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6759840号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年8月12日の出願であって、令和2年9月7日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、特許掲載公報が同年同月23日に発行され、その後、その特許に対し、令和3年3月19日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件特許発明1」のようにいう。

【請求項1】
基材に樹脂を含浸させてなる成形材を用いて成形品を連続的に成形する方法であって、
前記成形材を3次元架橋が始まる第1温度よりも低い第2温度まで加温しつつ前記成形品の形状に対応した予備金型によって予備成形した後、前記成形材を前記第1温度以上でガラス転移温度以下まで加温しつつ前記成形品の形状に対応した金型によって本成形する工程を有し、
前記工程は、前記金型によって一の前記成形材を成形する時間帯と、前記予備金型によって他の前記成形材を予備成形する時間帯と、を少なくとも一部重複させる、成形品の成形方法。
【請求項2】
前記工程は、前記金型によって一の前記成形材を成形する時間帯と、前記予備金型によって他の前記成形材を予備成形する時間帯と、を一致させる、請求項1に記載の成形品の成形方法。
【請求項3】
前記工程は、温調した前記予備金型および前記金型によって前記成形材を加温する、請求項1または2に記載の成形品の成形方法。

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由は、おおむね次のとおりである。

1 申立理由(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。
(1)甲第1号証:特開2016-017111号公報
(2)甲第2号証:特開2003-128764号公報
(3)甲第3号証:国際公開第2016/046138号
(4)甲第4号証:特開昭63-152447号公報
以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、申立理由には理由はないと判断する。

1 証拠の記載事項等
(1)甲1の記載事項
甲1には、「プリフォームの製造方法、繊維強化熱硬化性樹脂成形品の製造方法、及びプリフォーム」に関し、以下の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同様。)。

・「【請求項2】
互いに平行に配列した多数本の強化繊維糸条と補助繊維糸からなる一方向性補強繊維織物と熱硬化性のマトリックス樹脂組成物からなるプリプレグ又は該プリプレグを含むプリプレグ積層体を所定形状に賦形してプリフォームとし、
該プリフォームを加熱加圧して前記マトリックス樹脂組成物を硬化することによって所望の立体形状を有する繊維強化熱硬化性樹脂成形品を得る、繊維強化熱硬化性樹脂成形品の製造方法。」

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、立体形状、特に、可展面ではない曲面(複数の平面の組み合わせを含む)、すなわち三次元曲面形状を有する繊維強化樹脂成形品を得るべく、その成形に先立って、強化繊維とマトリックス樹脂組成物からなるプリプレグを所定形状に賦形して得られるプリフォームとその製造方法、また、そのプリフォームを用いた繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
・・・
【0008】
本発明は、強化繊維が一方向に揃った1枚のプリプレグからであっても、あるいは強化繊維が一方向に揃ったプリプレグを複数枚重ねた積層体からであっても、立体形状、特に三次元曲面形状を有するプリフォームを容易に製造する方法の提供を目的とする。」

・「【発明を実施するための形態】
【0012】
(プリプレグ)
本発明のプリフォームの製造方法に用いることができるプリプレグは、強化繊維と熱硬化性のマトリックス樹脂組成物からなるプリプレグであり、互いに平行に配列した多数本の強化繊維糸条と補助繊維糸からなる一方向性補強繊維織物、特に、たて糸方向の強化繊維糸条と、当該強化繊維糸条と補助繊維糸が交錯する一方向性補強繊維織物が強化繊維基材であるプリプレグであることが好ましい。
また、予めマトリックス樹脂組成物を含浸させた強化繊維糸条(以下「トウプレグ」)がたて糸方向に多数本平行に配列され、補助繊維糸が交錯して織物の形態をなしているプリプレグであっても構わない。
・・・
【0021】
(賦形)
一枚のプリプレグ、または、プリプレグの積層体(以下、総称して単に「積層体」と表現することがある。)を賦形してプリフォームを得るための手段としては、例えば、人手による型への貼り込みにより積層体を賦形しても構わないし、型上に積層体を配置して、その上部からゴム膜などを配置した後に、内部を真空引きしてゴム膜を圧着させることで積層体を賦形しても構わないし、簡易な成形機に雄雌型を設置し、開いた雄雌型の間に積層体を配置して、雄雌型を狭圧することで賦形しても構わないし、いくつかの方法を組み合わせることで賦形しても構わないが、短時間で賦形できることから、雄雌型を狭圧することにより積層体を賦形することが好ましい。ここで雄雌型とは、一方の型の凸部または凹部に、他方の凹部または凸部が対応する一対の型のことを意味する。
【0022】
さらに、当該積層体を予備加熱した後に賦形することが好ましく、さらには積層体の温度が40℃?70℃になるよう加熱することが好ましい。40℃未満ではプリプレグのマトリックス樹脂組成物の粘度が高すぎて、所望の形状に賦形することが困難である。また、70℃を超えると、マトリックス樹脂組成物の粘度が著しく低下することによって、賦形時に強化繊維の乱れが発生したりすることで、最終的に得られる繊維強化樹脂組成物の機械特性が低下する。
予備加熱は、例えば、積層体に温風を当てても構わないし、積層体に赤外線を当てても構わないし、積層体を加熱したプレート上に載置して伝熱により加熱しても構わないが、積層体を短時間で加熱できることや、予備加熱後の積層体の取り扱いが容易であることから、赤外線による加熱が好ましい。
【0023】
(成形工程)
前記の方法にて賦形して得たプリフォームを成形体厚みと同じクリアランスが設定されている金型に設置し、プレス機を用いて所望の温度、圧力に加熱加圧することでプリフォームを硬化させて、成形品を得る。
その際、金型は所定の硬化温度に調温しておき、圧縮成形した後、その温度のまま成形品を取り出すことが好ましい。このように行うことで、成形型の昇降温をする必要が無くなり、成形サイクルを高めることができるので、生産性を高くすることができる。」

(2)甲1に記載された発明
甲1には、請求項2及び【発明を実施するための形態】欄の記載から、以下の発明が記載されていると認める(以下、「甲1発明」という。)。

<甲1発明>
「互いに平行に配列した多数本の強化繊維糸条と補助繊維糸からなる一方向性補強繊維織物に予め熱硬化性のマトリックス樹脂組成物を含浸させたプリプレグ又は該プリプレグを含むプリプレグ積層体を、その温度が40℃?70℃になるよう予備加熱した後に、雄雌型を狭圧することにより所定形状に賦形してプリフォームとし、
該プリフォームを、所定の硬化温度に調温している金型に設置し、加熱加圧して前記マトリックス樹脂組成物を硬化した後、その温度のまま成形品を取り出すことによって所望の立体形状を有する繊維強化熱硬化性樹脂成形品を得る、繊維強化熱硬化性樹脂成形品の製造方法。」

(3)甲2の記載事項
甲2には、「マトリックス樹脂組成物」に関し、以下の事項が記載されている。

・「【請求項34】(a)1分子当たり平均2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と潜伏性アミン系硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を作成する工程
(b) 2,4-ジ(N,N-ジメチルウレイド)トルエンをエポキシ樹脂100重量部に対して0.5重量部以上混合する工程、および
(c)120℃以上で加熱する工程
からなり、熱硬化性エポキシ樹脂配合物を95%以上硬化させる方法。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、概して、一液型エポキシ樹脂組成物に関する。より詳細には、本発明は、プリプレグ、複合材料及び接着性フィルムに好適な速硬性および低温硬化性のエポキシ樹脂配合物に関する。」

・「【0002】
【従来の技術】
・・・
【0004】製造業者は、通常これらプリプレグの多層ラミネートを既存の成形型上に施すことにより、強化用構成材をプリプレグから作る。ロッドやシャフトを作るには、マンドレルの周りにプリプレグを巻き付ければよい。十分な数の積層を形成したら、オーブンやオートクレーブを使用して熱硬化性樹脂中の潜伏性硬化剤を活性化するために必要な硬化温度まで成形型を加熱する。通常温度が高いほど硬化時間が短く、温度が低いほど硬化時間が長い。
【0005】・・・製造業者が現行品の半分の硬化時間を有するプリプレグを得ることができれば、成形型を増やすことなく生産量を2倍にすることができる。それゆえに硬化時間を大きく短縮した高性能エポキシ樹脂系を提供して、製造業者が成形型を増やすことなく増産できるようにすることが望ましい。」

・「【0012】さらに、プリプレグの硬化時間が、硬化プリプレグの成形型からの取り出し時間を決定する制限因子に常になるとは限らないことに注目する必要がある。例えば、通常使用されるプリプレグは、エポキシ当量176を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量400?1500を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂熱可塑性添加剤(粉末状PVF)、DICY硬化剤、及び触媒(3,4-ジクロロフェニル-N,N-ジメチルウレア、製品名DYHARD UR200^(TM)、SKW Trostberg製)を含むエポキシ樹脂配合物から製造される。上記諸成分の特定割合に応じて、ガラス転移温度(T_(g))が最適硬化温度より大幅に低い(20℃)プリプレグを製造することができる。例えば、複合材料製シャフトの製造業者は、硬化時間を短縮するために300°F?310°F(147℃?153℃)の成形温度を採用することが多い。しかしながら、通常この付近の温度は樹脂材のT_(g)より高く、また樹脂材は十分に硬化しても柔らかすぎて成形型から取り出すことができない。このような場合、製造業者は成形型をT_(g)以下に冷却してから硬化樹脂材を成形型から取り出さなければならない。この冷却工程は余分な望ましくない工程であり、樹脂材の製造時間を延長させ、作業サイクル中に成形型によって製造可能な樹脂材の数を減少させるため、困ったことに製造費用が増大する。それゆえに、硬化時間の短いプリプレグ製造に好適で、かつ硬化プリプレグのT_(g)程度(10℃以内)以下の硬化温度を有するエポキシ樹脂配合物を提供することが望ましい。高温で硬化する樹脂系が知られており、それらは硬化樹脂のT_(g)未満の硬化温度を有しているが、長い硬化時間(2時間超過)を必要とする。」

・「【0029】本発明のさらに他の態様はプリプレグであって、95%硬化した当該プリプレグが適切なガラス転移温度を有していて硬化プリプレグを成形型から取り出す前に冷却が不要であるようなプリプレグである。当該プリプレグは、1分子当たり平均2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、潜伏性アミン系硬化剤、及び潜伏性アミン系硬化剤の作用により硬化する時間を短縮させる触媒、及び強化繊維を含む。当該触媒は、2,4-ジ(N,N-ジメチルウレイド)トルエンからなることが好ましい。
【0030】本発明の他の態様は、熱硬化性エポキシ樹脂配合物の95%硬化時間を短縮する方法である。当該方法の諸工程は、1分子当たり平均2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂組成物、及び潜伏性アミン系硬化剤を供給する工程を含む。当該方法には、エポキシ樹脂組成物に少なくとも0.5phrの触媒を添加することが必要であり、触媒によって95%硬化時間が短縮される。当該触媒は、2,4-ジ(N,N-ジメチルウレイド)トルエンからなる。生成混合物は、次に硬化温度に加熱されるが、触媒により95%硬化時間が短縮される。加熱工程では、硬化温度で95%硬化したエポキシ樹脂組成物がのガラス転移温度が適当な温度になって95%硬化エポキシ樹脂組成物を成形型から取り出す前に冷却することを不要にするような硬化温度を選択することが好ましい。ガラス転移温度が硬化温度より高いか、又は硬化温度の上方10℃以内であることがさらに好ましい。通常エポキシ樹脂組成物は、強化繊維も含む。」

(4)甲3の記載事項
甲3には、「速硬化性組成物」に関し、以下の事項が記載されている。
なお、原文の摘記は省略し、対応する日本語訳のみを記す。ここで日本語訳は、甲3のパテントファミリである特表2017-528576号公報による。

・「本発明は、速硬化性エポキシ樹脂組成物、及びプリプレグにおけるマトリックスとしてのこのような速硬化性樹脂の使用に関する。加えて、本発明は、このような樹脂及びプリプレグの成形(moulding)、ならびに特に大容積の材料の連続成形、及び特に各成形作業が短いサイクル時間を有する成形連続工程(moulding sequences)に関する。本樹脂及びプリプレグは、5分未満、多くの場合、2分未満の成形サイクルが必要とされる圧縮成形またはプレス加工(stamping)によって、プリプレグから大容積の材料を生産する際に特に有用である。」(第1ページ第3行ないし第10行)

・「加えて、一旦硬化されると、エポキシ系構造はガラス転移温度(Tg)を有し、この温度より上では、成形品は、型から取り外すことができるほどには自己支持が十分でない。この場合、したがって、成形品をTgより下に冷却させることが必要であり、その後、型から成形品を取り外すことができる。したがって、所望のレベル、典型的には95%まで硬化した直後、または硬化したときに、硬化材料を型から取り外すことができるよう十分に硬くなるように、硬化樹脂が高いガラス転移温度(Tg)を有する、プリプレグからの層状構造体の生産が所望される。したがって、Tgが最高温度であるか、またはその付近であることが好ましい。Tgの増加はより反応性の樹脂を使用することにより達成され得る。しかしながら、樹脂の反応性が高いほど、硬化性物質(hardener)及び促進剤の存在下での樹脂の硬化中に放出される熱が大きくなり、それにより型から取り外す前の滞留時間及び遅延の必要性が増すことになり得る。」(第3ページ第4行ないし第15行)

・「脱型には主に2つの要件があり、第1に、硬化成形品は型に付着しないこと、そして第2に、成形品は脱型されるのに十分に強いことであり、これには、成形品が自立するのに短い冷却時間しか必要としないように、Tgが成形温度よりも大きいか、またはそれに近いことが必要である。」(第4ページ第1行ないし第5行)

(5)甲4の記載事項
甲4には、「木質繊維系基材の連続成形方法及び装置」に関し、以下の事項が記載されている。

・「2.特許請求の範囲
1、パレット上に積載された木質繊維系のマットを1枚ずつピックアップするマット取出し工程と、ピックアップしたマットをプリフォーム型へ移送し中間形状にプリフォームする工程と、プリフォームされた中間成形体をプリフォーム型からピックアップして加熱型へ移送する工程と、この中間成形体を最終形状まで熱圧成形する工程と、成形された完成品を取出す工程とからなる木質繊維系基材の連続成形方法。
2、木質繊維系のマットが積載されたパレットを支持するリフタの側方に上下一対のプリフォーム型を備えたプリフォームプレスを設置し、このリフタの上方とプリフォームプレスとの間には下面に出没自在な爪を備えたマット取出ヘッドを移動自在に設けるとともに、プリフォームプレスの側方には上下一対の加熱型を備えた熱圧プレスを設置し、プリフォームプレスと熱圧プレスとの間には下面にプリフォーム支持用の針を備えたプリフォーム移送ヘッドを移動自在に設けるとともに、熱圧プレスの更に側方には熱圧成形された完成品を側方に取出すアンローダーを設けたことを特徴とする木質繊維系基材の連続成形装置。」

・「(産業上の利用分野)
本発明は自動車用ドアトリム等の自動車内装材に用いられる木質繊維系のマットからなる基材を自動的に熱圧成形するための木質繊維系基材の連続成形方法及び装置に関するものである。」(第1ページ右下欄第8ないし12行)

・「なお第1図にも示したとおり、アンローダ-(26)とプリフォーム移送ヘッド(19)とは同時に熱圧プレス(16)内に進入してくるので、中間成形体(51)の供給と完成品(52)の取出しとは並列して同時に行うことができ、熱圧プレス(16)の稼働率は著しく向上することとなる。」(第3ページ左下欄第11ないし16行)

・「



2 対比・検討
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
本件特許発明1における樹脂は、ガラス転移温度以下における加温によって「3次元架橋」する樹脂、すなわち「熱硬化性樹脂」といえるから、甲1発明の「一方向性補強繊維織物に予め熱硬化性のマトリックス樹脂組成物を含浸させたプリプレグ又は該プリプレグを含むプリプレグ積層体」及び「繊維強化熱硬化性樹脂成形品」は、本件特許発明1の「基材に樹脂を含浸させてなる成形材」及び「成形品」に相当する。
また、甲1発明における、プリプレグ又は該プリプレグを含むプリプレグ積層体を「雄雌型を狭圧することにより所定形状に賦形してプリフォーム」とし、該プリフォームを「金型に設置し、加熱加圧して前記マトリックス樹脂組成物を硬化した後」に「成形品を取り出すことによって所望の立体形状を有する繊維強化熱硬化性樹脂成形品を得る」工程は、本件特許発明1における、成形材を「成形品の形状に対応した予備金型によって予備成形」した後、「成形品の形状に対応した金型によって本成形する工程」に相当し、甲1発明は、プリフォームの賦形に続いて成形品への成形を行うことから、本件特許発明1と同様に「成形品を連続的に成形」するものといえる。
そして、予備成形における成形温度に関し、甲1発明は「40℃?70℃」であるところ、この温度は甲1の「40℃未満ではプリプレグのマトリックス樹脂組成物の粘度が高すぎて、所望の形状に賦形することが困難である。また、70℃を超えると、マトリックス樹脂組成物の粘度が著しく低下する」(段落【0022】)との記載から、マトリックス樹脂組成物の硬化に伴う粘度低下が進行する温度より低い温度と解され、このマトリックス樹脂組成物の硬化は「3次元架橋」を伴うものであることから、甲1発明における「40℃?70℃」の賦形温度は、本件特許発明1における「3次元架橋が始まる第1温度よりも低い第2温度」に相当し、甲1発明における本成形を行う「所定の硬化温度」は「3次元架橋が始まる第1温度以上」に相当する。
また、本成形における加温方法に関し、甲1発明において、「プリフォームを所定の硬化温度に調温している金型に設置し、加熱加圧して前記マトリックス樹脂組成物を硬化」する際、本成形前のプリフォームは、硬化温度より低いことは明らかであるから、本成形における「加熱加圧」は、当然、本件特許発明1同様、「加温しつつ前記成形品の形状に対応した金型によって本成形する」ものであるといえる。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。
<一致点>
基材に樹脂を含浸させてなる成形材を用いて成形品を連続的に成形する方法であって、
前記成形材を3次元架橋が始まる第1温度よりも低い第2温度で、前記成形品の形状に対応した予備金型によって予備成形した後、前記成形材を前記第1温度以上で加温しつつ前記成形品の形状に対応した金型によって本成形する工程を有する、
成形品の成形方法。

<相違点1>
予備成形における加温方法に関し、
本件特許発明1は、「第2温度まで加温しつつ」予備金型によって予備成形を行うのに対し、甲1発明は、「40℃?70℃になるよう予備加熱した後」に雄雌型にてプリフォームに賦形すると特定される点。

<相違点2>
本成形における成形温度に関し、
本件特許発明1は、3次元架橋が始まる「第1温度以上でガラス転移温度以下」において本成形を行うのに対し、甲1発明は、「所定の硬化温度」にてプリフォームから成形品を得るとされ、ガラス転移温度との関係が特定されない点。

<相違点3>
成形材から成形品への一連の成形に関し、
本件特許発明1は、「前記金型によって一の前記成形材を成形する時間帯と、前記予備金型によって他の前記成形材を予備成形する時間帯と、を少なくとも一部重複させる」ことが特定されるのに対し、甲1発明は、そのようには特定されない点。

イ 相違点についての検討
上記の各相違点について検討する。

(ア)相違点1について
甲1には、プリフォームへの賦形中に加温を行うこと、すなわち「加温しつつ」予備成形を行うことについて、記載も示唆もされていないし、このような構成についていずれの証拠にも開示がない。また、甲1発明において、相違点1に係る構成を採用する動機もない。

(イ)相違点2について
甲2の【0012】には、T_(g)より高い成形温度を採用した際、成形された樹脂材は十分に硬化しても柔らかすぎて成形型から取り出すことができないという課題が記載され、【0030】には、「95%硬化エポキシ樹脂組成物を成形型から取り出す前に冷却することを不要にするような硬化温度を選択することが好ましい。ガラス転移温度が硬化温度より高いか、又は硬化温度の上方10℃以内であることがさらに好ましい。」という技術手段が記載され、
また、甲3には、「一旦硬化されると、エポキシ系構造はガラス転移温度(Tg)を有し、この温度より上では、成形品は、型から取り外すことができるほどには自己支持が十分でない。」という課題が記載され、「脱型には・・・成形品は脱型されるのに十分に強いことであり、これには、成形品が自立するのに短い冷却時間しか必要としないように、Tgが成形温度よりも大きいか、またはそれに近いことが必要である。」(上記1(4))という技術手段が記載されている。
そうすると、甲1発明は、「加熱加圧して前記マトリックス樹脂組成物を硬化した後、その温度のまま成形品を取り出す」ものであるところ、硬化温度がガラス転移温度より高い場合には、成形品が柔らかく、金型から取り出す際に、所望の立体形状を得ることが困難となることは、自明であるから、上記甲2や甲3に接した当業者が、甲1発明において、ガラス転移温度が硬化温度より高いか、硬化温度の上方10℃以内、あるいは近い温度で本成形し、該温度で金型から取り出すという技術手段を採用することは、当業者にとって容易に想到し得たことといえる。
しかしながら、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を採用した際、本件特許明細書に記載される、「樹脂は、ガラス転移温度Tg[℃]を超えた領域Cと、ガラス転移温度Tg[℃]以下の領域Dで、冷却収縮の温度勾配が大きく異なる。すなわち、樹脂は、ガラス転移温度Tg[℃]を超えた領域Cまで加温すると、ガラス転移温度Tg[℃]まで冷却する際に大きく収縮してしまう」(【0012】)ことに起因する表面粗さの発生を小さくし、外観品質を保つことができる(【0019】)という顕著な効果が奏せられることは、当業者が予測し得ないことである。

(ウ)相違点3について
特許異議申立人が提出した甲4には、金型への「中間成形体51の供給と完成品52の取出しとは並列して同時に行うこと」及び図面にプリフォーム型と加熱型は記載されるが、予備成形と本成形の時間帯を重複させることは記載も示唆もなされていない。
また、特許異議申立人が提出したいずれの証拠にも、相違点3に係る技術的事項について記載されていない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書第16ページにおいて、以下の主張をしている。
甲第1号証の【0023】に「金型は所定の硬化温度に調温しておき、圧縮成形した後、その温度のまま成形品を取り出すことが好ましい。」との記載があるところ、甲第2号証の【0012】には、・・・また、甲第3号証の日本語訳である参考資料1の【0017】には、・・・との記載がある。
したがって、圧縮成形した後、金型を所定の硬化温度にしたまま成形品を取り出すために、本成形の温度をガラス転移温度以下とすることは、公知の事項である。
よって、相違点2の構成は当業者が容易になし得たものである。」

しかしながら、上記イ(イ)で検討したように、甲1発明において、ガラス転移温度以下で加工する構成を採用することは想到容易であったとしても、外観品質を保つという効果は、甲1発明及び特許異議申立人が提出した各証拠から予測し得ないものである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

エ 本件特許発明1についての小括
よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件特許発明2及び3について
本件特許発明1が、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2及び3についても同様に甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

5 当審の判断のまとめ
したがって、特許異議申立書において主張する申立理由には理由がない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-25 
出願番号 特願2016-158981(P2016-158981)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 清水 研吾松田 成正森井 隆信  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大畑 通隆
相田 元
登録日 2020-09-07 
登録番号 特許第6759840号(P6759840)
権利者 日産自動車株式会社
発明の名称 成形品の成形方法  
代理人 八田国際特許業務法人  

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