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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1375884
異議申立番号 異議2021-700196  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-22 
確定日 2021-07-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6747897号発明「複合基板および電子装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6747897号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6747897号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成28年7月15日に出願され、令和2年8月11日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年2月22日に特許異議申立人 茂木早苗は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6747897号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
上面および下面を有する絶縁基板と、
該絶縁基板の上面に接合された下面を有する第1金属板と、
前記絶縁基板の下面に接合された上面を有し、前記第1金属板よりも厚い第2金属板と、前記絶縁基板と前記第2金属板とを接合している接合部とを備えており、
該接合部は、
ろう材および該ろう材に添加された活性金属を含有する活性ろう材からなり、前記絶縁基板の下面と前記第2金属板の上面との間に介在している第1接合部と、
前記活性ろう材と、前記ろう材よりも熱膨張率が小さい材料からなる粒状材とを含有しており、前記第1接合部の外周から前記第2金属板の側面および前記絶縁基板の下面にかけて形成されたフィレット状の第2接合部とを含んでおり、
前記ろう材が、互いに熱膨張率が異なる複数の金属材料または半金属材料を含有しており、前記第1接合部および前記第2接合部において前記複数の金属材料または半金属材料のうち熱膨張率が小さい方の金属材料または半金属材料の初晶が存在しており、前記第1接合部における前記初晶の割合よりも前記第2接合部における前記初晶の割合の方が大きい複合基板。
【請求項2】
前記ろう材が銀ろうであり、前記粒状材を形成している材料が、モリブデンおよびタングステンから選択される少なくとも1種の金属材料である請求項1に記載の複合基板。
【請求項3】
前記ろう材が、銀-銅共晶組成よりも銅の含有率が大きい銀ろうであり、前記粒状材を形成している材料がモリブデンである請求項2に記載の複合基板。
【請求項4】
前記第2接合部は、縦断面視において、前記絶縁基板の下面に沿った方向における寸法よりも、前記第2金属板の側面に沿った方向における寸法の方が大きい請求項1?請求項3のいずれかに記載の複合基板。
【請求項5】
請求項1?請求項4のいずれかに記載の複合基板と、
前記第1金属板上に配置された電子部品とを備える電子装置。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人茂木早苗(以下、「異議申立人」という。)の主張する申立理由の概要は、以下のとおりである。
1 実施可能要件違反
請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである。

2 明確性違反
証拠として甲第4号証(鈴木淑夫、岩石学辞典、2005年3月20日、初版、株式会社 朝倉書店発行、第22頁)を提出し、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである。

3 進歩性違反
主たる証拠として甲第1号証(国際公開第2008/004552号)(以下「引用文献1」という。)及び従たる証拠として甲第2号証(特開2014-209539号公報)(以下「引用文献2」という。)、甲第3号証(特開2015-216349号公報)(以下「引用文献3」という。)を提出し、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により、請求項1に係る特許を取り消すべきものである。

第4 申立理由についての判断
1 実施可能要件違反について
(1)異議申立人の主張(異議申立書第4頁第9行-第6頁第13行)
ア 請求項1には「前記第1接合部における前記初晶の割合よりも前記第2接合部における前記初晶の割合の方が大きい」と記載されているが、本件特許明細書等には、どのようにして、第1接合部における初晶の割合よりも第2接合部における初晶の割合を大きくするのか、何ら記載されていない。
また、第1接合部における初晶の割合よりも、第2接合部における初晶の割合を大きくすることは、本件特許の出願当時の技術常識でもない。
よって、当業者は、本件特許発明1をどのように実施するか理解できない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

イ 請求項1には「前記活性ろう材と、前記ろう材よりも熱膨張率が小さい材料からなる粒状材とを含有しており、前記第1接合部の外周から前記第2金属板の側面および前記絶縁基板の下面にかけて形成されたフィレット状の第2接合部とを含んでおり」と記載されている。
しかし、発明の詳細な説明には、第2接合部4bとなるペーストまたは、プレフォームに粒状材4mを添加しつつ、どのようにして「前記第1接合部の外周から前記第2金属板の側面および前記絶縁基板の下面にかけて形成されたフィレット状の第2接合部」を形成するか、何ら記載されていない。
また、粒状材を添加しつつ、当該フィレット状の第2接合部を形成することは、本件特許の出願時における技術常識でもない。
よって当業者は、本件特許発明1をどのように実施するか理解できない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

ウ 上記ア、イと同様の理由で、本件特許発明1引用する本件特許発明2ないし5についても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明2ないし5を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

(2)当審の判断
ア 「(1)ア」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次のとおり記載されている。なお、下線は当審で付与した。(以下、同様)
「【0034】
次に、第1金属板2および第2金属板3を絶縁基板1に接合する。この接合は、例えば、まず、それぞれ前述した第1接合部4a、第2接合部4bおよび上部接合部5となる活性ろう材のペーストまたはプレフォーム等を介して第1金属板2および第2金属板3をそれぞれ絶縁基板1に位置合わせする。その後、これらをジグ等で仮固定しながら炉中で加熱する方法で、上記のろう付けを行なうことができる。このときに、第2接合部4bとなるペーストまたはプレフォームに粒状材4mを添加しておいてもよい。」

「【0050】
なお、接合部4を形成することができる上記の金属材料または半金属材料、つまり銀、銅、金、アルミニウム、ケイ素および黄銅(亜鉛)等を含む組成であって、初晶を生じ得る成分としては、銅およびケイ素等が挙げられる。」

「【0054】
ろう材が銀ろうであり、熱膨張率が小さい材料が、モリブデンおよびタングステンから選択される少なくとも1種の金属材料である構成において、ろう材が、銀-銅共晶組成よりも銅の含有率が大きい銀ろうであり、熱膨張率が小さい材料がモリブデンであってもよい。この場合には、接合部4となる活性ろう材(ろう材)における初晶4pの晶出が容易であり、初晶4pを含む接合部4の実現が容易である。」

上記段落【0050】、【0054】の記載より、ろう材として、共晶組成(例えば、銀-銅共晶組成)よりも初晶を生じ得る成分(例えば、銅)の含有率を大きくした組成のものを用いれば、初晶がより容易に晶出しやすくなり、晶出する初晶の割合が増えることは当業者にとって自明のことである。
したがって、上記段落【0034】の記載より、「前記第1接合部における前記初晶の割合」よりも「前記第2接合部における前記初晶の割合の方」を「大き」くするには、「第2接合部」に、「第1接合部」よりも初晶を生じ得る成分の含有率を大きくした組成のろう材のペーストまたはプレフォーム等を用いればよいことは当業者にとって明らかである。

よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。

イ 「(1)イ」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次のとおり記載されている。
「【0028】 粒状材4mを形成している、融点が比較的高い材料としては、ろう材が上記のような銀ろうである場合には、銅よりも融点が高い金属材料を用いることができる。このような金属材料としては、例えば、モリブデン、タングステン、ニッケル等の金属材料が挙げられる。」

「【0036】
なお、このろう付け時に、第1接合部4aと第2接合部4bとを同時に行なうようにしたときには(つまり同じ温度条件であれば)、第2接合部4bとなる、粒状材4mを含有する活性ろう材の流動性が、第1接合部4aとなる活性ろう材よりも小さい。そのため、第2接合部4bの外側への流れ出しが抑制される。これによって、フィレット部分を含む接合部4全体としても、第2金属板3と絶縁基板1との接合強度に有効な領域から外側に流れ出ることが抑制される。したがって、比較的厚い第2金属板3と絶縁基板1との接合の強度も効果的に高めることができる。」

「【0053】
上記の変形例において、ろう材が銀ろうであり、熱膨張率が小さい材料が、モリブデンおよびタングステンから選択される少なくとも1種の金属材料であるときには、無酸素銅等からなる第1金属板2および第2金属板3に対する、ろう材を含む活性ろう材の濡れ性等の向上が容易である。そのため、接合部4および上部接合部5を介した第1金属板2および第2金属板3の絶縁基板1に対する接合強度を効果的に向上させることができる。」

「【0057】
上記のようにL1<L2であるときに、第2接合部4bのうち絶縁基板1の下面に対する接触角θ1よりも、第2金属板3の側面に対する接触角θ2の方が小さい。θ1は、例えば約30?70度であり、θ2は、例えば約10?50度である。」

ここで、第2金属板3や絶縁基板1に対するろう材の濡れ性が大きければ、段落【0057】で定義された、第2接合部4bのうち絶縁基板1の下面に対する接触角θ1、及び、第2金属板3の側面に対する接触角θ2が共に小さくなって「フィレット」が形成され易くなることは技術常識である。
よって、ろう材が粒状材4mを含有するものであって、段落【0036】に記載のとおり「粒状材4mを含有する活性ろう材の流動性が、第1接合部4aとなる活性ろう材よりも小さい」としても、ろう材及び粒状材として、段落【0028】、【0053】に記載されているとおり「第1金属板2および第2金属板3に対する」「濡れ性」が「向上」する材料(例えば、ろう材として「銀ろう」、粒状材として「モリブデン、タングステン」の金属材料)を用いれば、「前記第1接合部の外周から前記第2金属板の側面および前記絶縁基板の下面にかけて」「フィレット状の第2接合部」が形成できることは当業者にとって明らかである。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。

ウ 「(1)ウ」について
上記ア、イに述べたのと同様の理由で、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし5についても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明2ないし5を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

エ まとめ
以上のとおり、本件特許明細書における発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1ないし5に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。
したがって、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満足しない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定に該当せず、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。

2 明確性違反について
(1)特許異議申立人の主張(異議申立書第6頁第14行-第7頁第12行)
ア 請求項1には、「第1接合部および前記第2接合部において・・・初晶が存在しており」と記載されている。
甲第4号証(鈴木淑夫、岩石学辞典、2005年3月20日、初版、株式会社 朝倉書店発行、第22頁)によれば、初晶とは「与えられた組成の液体と,平衡状態でのみ存在することのできる結晶相をいい,これは多成分の溶融体が冷却する際に最初に晶出する相で,また溶融する際に最後に消滅する相である[片山ほか:1970].」から、冷却されて凝固した接合部については、初晶以外の結晶相も多量に含まれる。
しかし、請求項1または本件特許明細書の発明の詳細な説明には、接合部に含まれる結晶相について、初晶とそうでない結晶相との判別方法が何ら記載されていない。
また、接合部における結晶相について、初晶とそうでない相とを判別する方法は、本件特許の出願時の技術常識でもない。
このため、本件特許発明1は、明確でない。

イ 請求項1には「前記第1接合部における前記初晶の割合よりも前記第2接合部における前記初晶の割合の方が大きい」と、初晶の割合が記載されている。
しかし、割合については、質量割合、体積割合、原子数割合など、種々のものが存在するので、本件特許発明1に記載された割合は、何の割合であるか、不明である。
また、発明の詳細な説明にも、割合については何ら記載されていない。
このため、本件特許発明1は明確でない。

ウ 同様の理由で、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし5も、明確でない。

(2)当審の判断
ア 「(1)ア」について
本件特許明細書には、次のとおり記載されている。
「【0040】
初晶4pの晶出の有無、晶出温度および晶出し得るろう材の組成等は、接合部4のろう材を構成する金属材料または半金属材料の状態図で確認することができ。例えば共晶型状態図に相当する組成のものを用いることができる。」

「【0054】
ろう材が銀ろうであり、熱膨張率が小さい材料が、モリブデンおよびタングステンから選択される少なくとも1種の金属材料である構成において、ろう材が、銀-銅共晶組成よりも銅の含有率が大きい銀ろうであり、熱膨張率が小さい材料がモリブデンであってもよい。この場合には、接合部4となる活性ろう材(ろう材)における初晶4pの晶出が容易であり、初晶4pを含む接合部4の実現が容易である。」

また、甲第4号証(第22頁右欄)には、「初晶」について、次のとおり記載されている。
「しょしょう 初晶 primary phase
共晶(eutectic reaction)反応前に晶出した結晶.共晶に対する語で,結晶の始まる温度を初晶点という[清水,長崎:1977].」

これらの記載によれば、例えば上記段落【0054】のように「ろう材が、銀-銅共晶組成よりも銅の含有率が大きい銀ろう」である場合、甲第4号証のとおり、「銀-銅」の「共晶(eutectic reaction)反応前」に「銅」が初晶として晶出し、その後、以下に示す過共晶Al-Si合金の金属組織(特開平9-87768号公報、段落【0016】「図6に示すように角棒状の粗大な初晶が多く見られる。」、図6)の例と同様に、「銀-銅」の共晶組織が「銅」の初晶を取り囲んで析出することは、当業者が容易に理解できることである。


したがって、接合部における組織を観察すること等により、当業者は、「銅」の初晶とそれを取り囲んで析出している「銀-銅」の共晶組織とを区別し得るものである。
さらに他の組成のろう材についても、上記図6のとおり、当業者は、接合部における組織を観察すること等により、初晶とその後に初晶を取り囲んで析出する共晶組織とを区別し得ることは明らかである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

イ 「(2)イ」について
本件特許の請求項1で特定されているのは、「前第1接合部および前記第2接合部」における「初晶」の存在割合の「大小」関係である。
そして、「前記第1接合部および前記第2接合部」における「初晶」の割合の「大小」関係のみを特定するのであれば、いかなる物理量に基づく割合であるかを特定する必要はないから、請求項1に「初晶」の割合が「質量割合、体積割合、原子数割合」等の何れであるかが特定されていないからといって、請求項1に係る発明が不明確となるものではない。
したがって、異議申立人の主張は、採用できない。

ウ 「(2)ウ」について
上記のとおり、本件特許の請求項1に係る発明は明確である。
よって、同様の理由により、本件特許の請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明も明確である。

エ まとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満足しない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定に該当せず、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。

3 進歩性違反について
(1)引用文献の記載
ア 引用文献1について
(ア)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「[0004] 具体的には、上述したような銅板で回路を構成したセラミックス-金属接合体(セラミックス回路基板)11は、例えば図1?図3に示すようにセラミックス基板12の一方の表面に金属回路板13としての銅板を接合する一方、他方の表面に裏金属板14としての銅板を接合して形成される。上記セラミックス基板12表面に各種金属板を一体に形成する手法としては、下記のような直接接合法,高融点金属メタライズ法,活性金属法などが使用されている。
[0005] すなわち、直接接合法は、例えばセラミックス基板12上に銅板を、Cu-Cu_(2)O等の共晶液相を利用して直接接合する、いわゆる銅直接接合法(DBC法:Direct Bonding Copper法)であり、高融点金属メタライズ法はMoやWなどの高融点金属をセラミックス基板表面に焼き付けて形成する方法である。また、活性金属法は、4A族元素や5A族元素のような活性金属を含むろう材層15を介してセラミックス基板12上に金属板を一体に接合する方法である。一般的には、高強度・高封着性等が得られる観点から、CuとAgとの共晶組成(72重量%Ag-28重量%Cu)を有する共晶ろう材にTi等の活性金属を添加したろう材ペーストをセラミックス基板と金属部材との間に介在させ、適当な温度で熱処理して接合する活性金属法が広く使用されている。」

「[0018] 上記金属回路板等の厚さは、通電容量等を勘案して決定されるが、セラミックス基板の厚さを0.25?1.2mmの範囲とする一方、金属回路板等の厚さを0.1?0.5mmの範囲に設定して両者を組み合せると熱膨張差による変形などの影響を受けにくくなる。

[0019] 本発明に係るセラミックス?金属接合体において、活性金属法によって金属回路板等を接合する際に形成される活性金属ろう材層は、Ti,Zr,Hf,AlおよびNbから選択される少なくとも1種の活性金属を含有し適切な組成比を有するAg-Cu系ろう材等で構成される。」

「[0028] 上記セラミックス?金属接合体およびその製造方法において、前記8族遷移金属がコバルト(Co)またはパラジウム(Pd)であることが好ましい。8族遷移金属としてコバルト(Co)またはパラジウム(Pd)を含有させることにより、ろう材層の金属板側に偏析する効果がより高く金属板との濡れ性(接合性)を阻害する反応生成物の生成がより効果的に抑制される。」

(イ)引用文献1に記載された技術事項
よって、引用文献1には、次の技術事項が記載されている。
a 段落[0004]より、「セラミックス-金属接合体(セラミックス回路基板)11は」、「セラミックス基板12の一方の表面に金属回路板13としての銅板を接合する一方、他方の表面に裏金属板14としての銅板を接合して形成され」ることを読み取ることができる。

b 図2より、セラミックス基板12の一方の表面と金属回路板13とは、ろう材層15を介して接合されていること、及び、表面の金属回路板13の厚さは0.3mm、他方の表面の裏金属板14の厚さは0.25mmであることを読み取ることができる。

c 段落[0004]、[0005]より、「CuとAgとの共晶組成(72重量%Ag-28重量%Cu)を有する共晶ろう材にTi等の活性金属を添加したろう材ペーストをセラミックス基板と金属部材との間に介在させ」、「熱処理して接合する」ことを読み取ることができる。

(ウ)引用文献1に記載された発明
本件特許明細書の段落【0066】に「前述したように、複合基板10が実際に用いられるときの上下は上記実施形態およびその変形例(図1?図6に示す例等)に限定されるものではなく、図5の例のように第2金属板3が上向きになるようにして用いてもよ」い、と記載されている点を踏まえると 引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「セラミックス-金属接合体(セラミックス回路基板)11は、セラミックス基板12の一方の表面に金属回路板13としての銅板を接合する一方、他方の表面に裏金属板14としての銅板を接合して形成され、セラミックス基板12の一方の表面と金属回路板13とは、ろう材層15を介して接合され、表面の金属回路板13の厚さは0.3mm、他方の表面の裏金属板14の厚さは0.25mmであり、
CuとAgとの共晶組成(72重量%Ag-28重量%Cu)を有する共晶ろう材にTi等の活性金属を添加したろう材ペーストを上記セラミックス基板12と各金属部材との間に介在させ、熱処理して接合する、
セラミックス-金属接合体(セラミックス回路基板)11。」

イ 引用文献2について
(ア)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、及びパワーモジュールに関する。」

「【0024】
パワーモジュール用基板10は、絶縁基板11と、この絶縁基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、絶縁基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。」

「【0026】
回路層12は、図1に示すように、絶縁基板11の一方の面(図1において上面)に配設された第1アルミニウム層12Aと、この第1アルミニウム層12Aの一方側に接合された第1銅層12Bと、を有している。
・・・(以下、省略)・・・
【0027】
金属層13は、図1に示すように、絶縁基板11の他方の面(図1において下面)に配設された第2アルミニウム層13Aと、この第2アルミニウム層13Aの他方側(図1において下側)に接合された第2銅層13Bと、を有している。
・・・(以下、省略)・・・」

「【0032】
ここで、図1に示すように、回路層12の厚さt_(1)と、金属層13の第2アルミニウム層13Aの厚さt_(2)との関係が、t_(1)<t_(2)とされている。
本実施形態では、回路層12の厚さt_(1)が0.10mm≦t_(1)≦3.6mmの範囲内に設定され、金属層13の第2アルミニウム層13Aの厚さt_(2)が、0.15mm≦t_(2)≦5.4mmの範囲内に設定されており、回路層12の厚さt_(1)と、金属層13の第2アルミニウム層13Aの厚さt_(2)との関係がt_(2)/t_(1)≧1.5とされている。」


(イ)引用文献2に記載された技術事項
よって、引用文献2には、次の技術事項が記載されている。
a 段落【0024】より「パワーモジュール用基板10は、絶縁基板11と、この絶縁基板11の」「上面」「に配設された回路層12と、絶縁基板11の」「下面」「に配設された金属層13とを備えている」ことを読み取ることができる。

b 段落【0026】、【0027】より「回路層12は、」「絶縁基板11の」「上面」「に配設された第1アルミニウム層12Aと、この第1アルミニウム層12Aの一方側に接合された第1銅層12Bと、を有し」、「金属層13は、」「絶縁基板11の」「下面」「に配設された第2アルミニウム層13Aと、この第2アルミニウム層13Aの」「下側」「に接合された第2銅層13Bと、を有している」ことを読み取ることができる。

c 段落【0032】には「回路層12の厚さt_(1)と、金属層13の第2アルミニウム層13Aの厚さt_(2)との関係が、t_(1)<t_(2)とされている」と記載されている。

(ウ)引用文献2に記載された技術
以上より、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「パワーモジュール用基板10は、絶縁基板11と、この絶縁基板11の上面に配設された回路層12と、絶縁基板11の下面に配設された金属層13とを備え、
回路層12は、絶縁基板11の上面に配設された第1アルミニウム層12Aと、この第1アルミニウム層12Aの一方側に接合された第1銅層12Bと、を有し、金属層13は、絶縁基板11の下面に配設された第2アルミニウム層13Aと、この第2アルミニウム層13Aの下側に接合された第2銅層13Bと、を有し、
回路層12の厚さt_(1)と、金属層13の第2アルミニウム層13Aの厚さt_(2)との関係が、t_(1)<t_(2)とされ」る技術。

ウ 引用文献3について
引用文献3には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0054】
実施の形態8.
本発明の実施の形態8に係る半導体装置の製造方法を説明する。まず、絶縁基板を形成する。図19は、絶縁基板400の断面図である。基板402の上面に金属パターン404を形成し、基板402の下面に金属パターン404よりも厚い金属膜406を形成する。図19には、金属膜406の厚さT2が、金属パターン404の厚さT1より大きいことが示されている。金属パターン404と金属膜406は、高温で形成され、常温に戻ると縮む。金属膜406は、金属パターン404よりも厚いので、金属パターン404よりも大きな圧縮応力を基板402に及ぼす。その結果、絶縁基板400は、図20に示すように上に凸に反る。図20に示す絶縁基板400を形成する工程を準備工程と称する。」


よって、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3に記載された技術)という。)が記載されているものと認められる。
「絶縁基板400は、基板402の上面に金属パターン404を形成し、基板402の下面に金属パターン404よりも厚い金属膜406を形成し、金属膜406の厚さT2が、金属パターン404の厚さT1より大きい」技術。

(2)対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1における「セラミックス基板12」が、本件特許発明1における「絶縁基板」に相当する。

イ 引用発明1における「セラミックス基板12の一方の表面」が、本件特許発明1における「前記絶縁基板の下面」に相当する。

ウ 引用発明1における「セラミックス基板12」の「他方の表面」が、本件特許発明1における「該絶縁基板の上面」に相当する。

エ 引用発明1における「セラミックス基板12」の「他方の表面」に「接合」された「裏金属板14としての銅板」が、本件特許発明1における「該絶縁基板の上面に接合された下面を有する第1金属板」に相当する。

オ 引用発明1における「セラミックス基板12の一方の表面」に「接合」された「金属回路板13としての銅板」は、「厚さ」「0.3mm」であって、「他方の表面の裏金属板14の厚さ」「0.25mm」より厚いから、本件特許発明1における「前記絶縁基板の下面に接合された上面を有し、前記第1金属板よりも厚い第2金属板」に相当する。

カ 引用発明1における「セラミックス基板12の一方の表面と金属回路板13とは、ろう材層15を介して接合され」、「活性金属を添加したろう材ペーストをセラミックス基板と金属部材との間に介在させ、熱処理して接合」されたものである。
よって、引用発明1における「セラミックス基板12の一方の表面と金属回路板13」との「接合」部が、本件特許発明1における「前記絶縁基板と前記第2金属板とを接合している接合部」であって、「ろう材および該ろう材に添加された活性金属を含有する活性ろう材からなり、前記絶縁基板の下面と前記第2金属板の上面との間に介在している第1接合部」に相当する。

キ CuとAgとは熱膨張率が異なるから、引用発明1における「ろう材」が「CuとAgとの共晶組成(72重量%Ag-28重量%Cu)を有する共晶ろう材」であることが、本件特許発明1における「前記ろう材が、互いに熱膨張率が異なる複数の金属材料または半金属材料を含有して」いることに相当する。

ク 本件特許発明1では、接合部は、「前記活性ろう材と、前記ろう材よりも熱膨張率が小さい材料からなる粒状材とを含有しており、前記第1接合部の外周から前記第2金属板の側面および前記絶縁基板の下面にかけて形成されたフィレット状の第2接合部とを含んでおり」、「前記第1接合部および前記第2接合部において前記複数の金属材料または半金属材料のうち熱膨張率が小さい方の金属材料または半金属材料の初晶が存在しており、前記第1接合部における前記初晶の割合よりも前記第2接合部における前記初晶の割合の方が大きい」のに対し、引用発明1では、第2結合部のような構成を有しておらず、また、「接合」部の「ろう材層15」に「初晶が存在」することも示されていない点で相違する。

ケ 引用発明1における「セラミックス-金属接合体(セラミックス回路基板)11」が、本件特許発明1における「複合基板」に相当する。

上記アないしケより、本件特許発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
上面および下面を有する絶縁基板と、
該絶縁基板の上面に接合された下面を有する第1金属板と、
前記絶縁基板の下面に接合された上面を有し、前記第1金属板よりも厚い第2金属板と、前記絶縁基板と前記第2金属板とを接合している接合部とを備えており、
該接合部は、
ろう材および該ろう材に添加された活性金属を含有する活性ろう材からなり、前記絶縁基板の下面と前記第2金属板の上面との間に介在している第1接合部を含んでおり、
前記ろう材が、互いに熱膨張率が異なる複数の金属材料または半金属材料を含有している、
複合基板。

(相違点)
接合部について、本件特許発明1では、「前記活性ろう材と、前記ろう材よりも熱膨張率が小さい材料からなる粒状材とを含有しており、前記第1接合部の外周から前記第2金属板の側面および前記絶縁基板の下面にかけて形成されたフィレット状の第2接合部とを含んでおり」、「前記第1接合部および前記第2接合部において前記複数の金属材料または半金属材料のうち熱膨張率が小さい方の金属材料または半金属材料の初晶が存在しており、前記第1接合部における前記初晶の割合よりも前記第2接合部における前記初晶の割合の方が大きい」のに対し、引用発明1では、第2接合部のような構成を有しておらず、また、「接合」部の「ろう材層15」に「初晶が存在」することも示されていない点。

(3)判断
そこで上記相違点について検討すると、引用文献2に記載された技術にも、引用文献3に記載された技術にも、上記相違点に係る、「前記活性ろう材と、前記ろう材よりも熱膨張率が小さい材料からなる粒状材とを含有しており、前記第1接合部の外周から前記第2金属板の側面および前記絶縁基板の下面にかけて形成されたフィレット状の第2接合部とを含んで」いることは、記載も示唆もされておらず、また、周知技術であるとも認められない。

よって、本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)異議申立人の主張について(異議申立書第7頁第13行-第13頁第6行)
ア 異議申立人の主張は、以下のとおりである。
引用文献1は次の点で本件特許発明1と相違する。
「相違点1:ろう材層(15)は、活性ろう材と、ろう材よりも熱膨張率が小さい材料からなる粒状材とを含有しており、第1接合部の外周から第2金属板の側面および絶縁基板の下面にかけて形成されたフィレット状の第2接合部とを含んでいない点。
相違点2:ろう材層(15)において、複数の金属材料または半金属材料のうち熱膨張率が小さい方の金属材料または半金属材料の初晶が存在しているか明らかでない点。
相違点3:第1接合部における初晶の割合よりも第2接合部における初晶の割合の方が大きい点。」
しかし、これらの相違点1ないし3は、本件特許の出願時における技術常識であるので、本件特許発明1は、甲1発明及び技術常識に基づき、当業者が容易になし得たものである。

イ 当審の判断
異議申立人は、上記相違点1ないし3が本件特許の出願時における技術常識であると主張しているだけで、具体的根拠は示していない。
また、上記相違点1ないし3が本件特許の出願時における技術常識であると認めるに足る証拠もない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号の規定に該当しないから、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-22 
出願番号 特願2016-140445(P2016-140445)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 洋介  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 清水 稔
永井 啓司
登録日 2020-08-11 
登録番号 特許第6747897号(P6747897)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 複合基板および電子装置  
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