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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
管理番号 1375888
異議申立番号 異議2021-700244  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-05 
確定日 2021-07-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6753603号発明「末端変性されたオリゴイミドおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6753603号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6753603号に係る出願(特願2016-171861号、以下、「本願」ということがある。)は、平成28年9月2日(優先日:平成27年9月4日 日本国)に出願人ユニチカ株式会社(以下、「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、令和2年8月24日に特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、特許掲載公報が令和2年9月9日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和3年3月5日に特許異議申立人:松岡規子(以下「申立人」という。)により、「特許第6753603号の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された各発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許第6753603号の請求項1?2の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1?2に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」、「本件発明2」といい、それらを総称して、「本件発明」という。)

「【請求項1】
以下の特徴を有する末端変性されたオリゴイミド。
1) オリゴイミドが芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンとの縮合物からなり、脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比が、0.5以上、0.9以下の範囲である;
2) 末端基の一部または全部がマレイミド変性されており、^(1)H-NMRにおいて、マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値(A)および末端のマレイミドのビニルプロトンに対応するピークの積分値(B)を用いて量的対比を行った場合に、B/Aが0.82以上である。
【請求項2】
アミド系溶媒を含む溶媒中で、芳香族テトラカルボン酸二無水物および無水マレイン酸と、脂肪族ジアミンとを反応させて、末端マレアミック酸のオリゴアミック酸を生成させた後、酸触媒として、脂肪族カルボン酸を用いてイミド化することを特徴とする請求項1記載のオリゴイミドの製造方法。」

第3 申立人が申し立てた特許異議申立理由
申立人が申し立てた特許異議申立の理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
1.特許異議申立の理由の概要
(1)申立理由1-1(甲第1号証を主引例とした新規性進歩性の欠如)
本件発明1、2は、甲第1号証に記載の発明と同一であるか、もしくは、甲第1号証に記載の発明及び甲第3?5号証に記載の周知技術から当業者であれば容易に想到し得るものであるから、本件発明1、2は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由1-2(甲第2号証を主引例とした新規性進歩性の欠如)
本件発明1、2は、甲第2号証に記載の発明と同一であるか、もしくは、甲第2号証に記載の発明及び甲第1、3?5号証に記載の周知技術から当業者であれば容易に想到し得るものであるから、本件発明1、2は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由2(明確性要件違反)
請求項1には、「脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比が、0.5以上、0.9以下の範囲である」と記載されているが、上記モル比が、得られたオリゴイミドの構成比に基づいたものであるのか、それとも原料としての配合比に基づいたものであるのかが不明であり、不明確な記載といえるから、請求項1及び同項を引用する請求項2は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。
したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立理由3(サポート要件違反)
本件発明1、2では、B/Aが0.82以上であって、B/Aの値に上限値はないが、例えば、脂肪族ジアミン2.5モルに対して芳香族ジアミンを0.5モル含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸2モルとを用いて、片方の末端が芳香族ジアミン由来であり、両末端がマレイミド化されたオリゴイミドとした場合、片方のマレイミドが副反応を起こしてビニルプロトンが2個失われても、B/Aの値は1となり、0.82以上の数値を充足する。
そうすると、いかなるB/Aの値であっても本件発明の課題が解決できると当業者が理解できるとはいえないので、本件発明1、2の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。
したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2.証拠方法
甲第1号証:特開2013-83958号公報
甲第2号証:国際公開第2014/065294号
甲第3号証:特開2011-38024号公報
甲第4号証:特表平10-505599号公報
甲第5号証:特表2006-526014号公報
甲第6号証:(社)日本分光学会編「分光測定入門シリーズ第8巻 核磁気
共鳴分光法」、株式会社講談社、2009年7月10日、第1
刷発行、表紙、第16?17頁、奥付
甲第7号証:大谷肇編著「エキスパート応用化学テキストシリーズ 機器分
析」、株式会社講談社、2015年9月24日 第1刷発行、
表紙、第84?93頁、奥付
(以下、「甲第1号証」?「甲第7号証」を、「甲1」?「甲7」という。)

第4 当審の判断
当審は、申立人が主張する上記の取消理由1-1、1-2、2、3については、いずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件発明1、2についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、と判断する。
事案に鑑み、申立理由2(明確性要件違反)、申立理由3(サポート要件違反)より判断を行う。

1.申立理由2(明確性要件違反)、申立理由3(サポート要件違反)
(1)本件明細書の記載事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。

ア.【背景技術】
「【0002】 末端変性されたオリゴイミドの中で、末端基の一部または全部がマレイミド化されたオリゴイミドが知られている。(特許文献1?3および非特許文献1)…
【0003】 前記末端マレイミド化オリゴイミドの中で、オリゴイミドを構成するテトラカルボン酸として芳香族テトラカルボン酸、ジアミンとして脂肪族ジアミンを用いたオリゴイミド(以下、「MOI」と略記することがある)は、シリコン基板のパシベーション膜、ダイボンディング用接着剤、高周波用基板等用として好適に使用できることが開示されている。(特許文献4?6)…」

イ.「【発明が解決しようとする課題】
【0006】 …MOIを製造するに際し、先ず、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族ジアミンから得られるアミック酸をイミド化して末端ジアミンのオリゴイミドを得た後、これに無水マレイン酸を反応させて、末端マレアミック酸オリゴイミドを生成させ、これをマレイミド化する際に、前記したような、強酸を含む脱水触媒を用い、100℃以上の温度で、長時間加熱して、マレイミド化するような反応方法では、反応の際、生成するマレイミドが、過剰反応して、ビニル重合やマイケル付加等の副反応を起こしやすく、結果として、生成物の中に、多量の高分子量の副生成物が混在することがあった。特に、MOIのビニル基が、ビニル重合して生成するMOIの2量体や3量体(以下、「MOIオリゴマ」と略記することがある)は、MOIと分離精製することが困難であり、これらの副生成物含有量が低減されたMOIを得ることは難しかった。MOIオリゴマがMOI中に多量に混在すると、この溶液からフィルム等を成形した際に、レベリング性が低下するために、フィルムの厚みムラが起こりやすいという問題があった。また、MOIオリゴマが多量に混在したMOIでは、これを他のビニルモノマと共重合した際に、均一なランダム共重合体や交互共重合体が得られにくいという問題があった。さらに…脱水触媒として無水酢酸と塩基性化合物の混合物を用い、長時間をかけて低温でイミド化させたとしても、前記した副反応が進行し、MOIオリゴマ等の副生成物含有量が低減されたMOIを得ることは難しかった。
そこで本発明は、上記課題を解決するものであって、副生成物含有量が低減されたMOIおよびその製造方法の提供を目的とする。」

ウ.「【課題を解決するための手段】
【0007】 MOIの^(1)H-NMRにおいて、特定のピークの量的対比を行った場合、その比率を特定の範囲としたMOIは、MOIオリゴマやその他の副生成物が低減され、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。…
【発明の効果】
【0009】 本発明のMOIは、レベリング性に優れているので、厚みムラが小さいフィルムを得ることができる。また、本発明のMOIは、MOIオリゴマが低減化されているので、ビニルエーテル類等他の共重合可能なビニル化合物と共重合して、均一性に優れたランダム共重合や交互共重合体を得ることができる。さらに、本発明のMOI製造方法においては、末端がマレアミック酸変性されたオリゴアミック酸から一挙にMOIを生成させるようにしたので、イミド化時間を短縮することができる。」

エ.「【発明を実施するための形態】
【0011】 本発明のMOIは、オリゴイミドの末端基の一部または全部がマレイミド変性されたものである。MOIの骨格を成すオリゴイミドは、イミド結合を有するオリゴマであり、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族ジアミンとを脱水縮合することにより得られるものである。
【0012】 芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、芳香環を有するテトラカルボン酸二無水物であれば制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)…1,2,7,8-フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、PMDAが好ましく用いられる。
【0013】 脂肪族ジアミンとしては、主鎖にアルキレン基を有するジアミンであれば制限はないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン…ダイマジアミン等の脂肪族ジアミンが挙げられ、ダイマジアミンが好ましく用いられる。…
【0014】 本発明のMOIを構成するオリゴイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族ジアミンとの縮合物からなり、脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比が、0.5以上、0.9以下の範囲であり、0.55以上、0.85以下とすることが好ましい。このようなモル比とすることにより、良好な成形性と高い耐熱性を同時に確保できる。
【0015】 本発明のMOIは、末端基の一部または全部がマレイミド変性されており、^(1)H-NMRにおいて、ピーク1の積分値(A)およびピーク2の積分値(B)を用いて量的対比を行った場合に、B/Aが0.82以上である。B/Aは0.85以上であることが好ましく、0.87以上であることがより好ましい。このようにすることにより、前記したMOI中のMOIオリゴマの低減化されるので、フィルム等を成形した際のレベリング性を確保でき、フィルムの厚みムラを解消することができる。また、ビニルエーテル類等他の共重合可能なビニル化合物と共重合して、均一性に優れたランダム共重合や交互共重合体を得ることができる。…
【0017】 本発明のMOIは、例えば、以下のようなプロセスで製造することができる。すなわち、先ず、溶媒中で、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を反応させて、末端ジアミンのオリゴアミック酸(オリゴイミド前駆体)を生成させ、しかる後、無水マレイン酸を反応させて、末端がマレアミック酸変性されたオリゴアミック酸を生成させる。しかる後、酸触媒を用いて、マレアミック酸およびオリゴアミック酸のアミック酸部分を、一括してイミド化することにより、MOI溶液とすることができる。ここで、テトラカルボン酸二無水物は、ジアミン1モルに対し、0.5モル以上、0.9モル以下用いることが好ましい。…イミド化の際の反応温度としては、150℃以下とすることが好ましく、130℃以下とすることがより好ましい。また、イミド化の際の反応時間としては、2時間以上、10時間以下とすることが好ましく、4時間以上、8時間以下とすることがより好ましい。反応時間が10時間を超えると、ビニル重合体の生成等副反応が起こりやすくなることがある。また、2時間未満では、イミド化が充分に進まないことがある。…
【0018】 前記MOI製造プロセスにおいて、イミド化の際、酸触媒として、弱酸性(pKaが1以上)である脂肪族カルボン酸を用いることが好ましい。脂肪族カルボン酸の使用量は、原料であるジアミン1モルに対し、0.1モル以上、3.0モル以下とすることが好ましく、0.2モル以上、2.5モル以下とすることがより好ましい。ここで、脂肪族カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸等が用いられ、マレイン酸が好ましく用いられる。このように、脱水触媒として、弱酸である有機カルボン酸を特定量使用することにより、本発明のMOIを、容易に製造することができる。なお、酸触媒としては、前記した遊離したカルボン酸以外に、加水分解して遊離カルボン酸を生成する無水酢酸や無水マレイン酸などを用いても良い。」

オ.「【実施例】
【0021】 以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【0022】 <実施例1>
水分離器付き還流冷却器、攪拌機、温度計を備えたガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、ダイマジアミン(クローダジャパン株式会社製「プリアミン1075」、分子量:549):1.0モル、トルエンとDMAcとからなる混合溶媒(質量比:トルエン/DMAc=80/20)を投入して攪拌した。得られた溶液に、室温(20℃)で、PMDA:0.66モル、続いて無水マレイン酸:0.68モルを加え、室温で1時間撹拌し、80℃で3時間加熱した後、冷却して、末端がマレアミック酸変性されたオリゴアミック酸溶液(固形分濃度:30質量%)を得た。次に、この溶液に、マレイン酸(pKa=1.9、6.1)2.00モルを加え、得られた溶液を、攪拌しながら昇温して内容物を加熱還流させた。反応により生成する水を共沸分離しながら約115℃で6時間還流を続けたのち、冷却して、橙黄色溶液を得た。その後、得られた溶液を、水系溶媒で洗浄することにより、MOI溶液を得た。続いて、この溶液を、メタノール溶液に中に投入して、MOIを再沈殿させ、これを濾過、洗浄、乾燥することにより、MOI粉体(MOI-1)を得た。MOI-1の^(1)H-NMRを前記した条件で測定した結果を図1に示す。図1に示すように、MOI-1の主成分は、末端がマレイミド化されたオリゴイミドであることが確認された。この^(1)H-NMRチャートで認められたピーク1(δ:3.5 PPM 多重線)の積分値(A)とピーク2(δ:6.7 PPM 単線)との積分値(B)とを用いて、量的対比を行った結果、B/Aは0.83であった。…
【0023】 <実施例2>
DMAcをNMPとしたこと以外は、実施例1と同様に行い、MOI粉体(MOI-2)を得た。MOI-2の^(1)H-NMRを測定し、ピーク1とピーク2の積分値を用いて、量的対比を行った結果、B/Aは0.85であった。
【0024】 <実施例3>
PMDA、無水マレイン酸、マレイン酸の使用量を、それぞれ、0.80モル、0.42モル、1.80モルとしたこと以外は、実施例1と同様に行い、MOI粉体(MOI-3)を得た。MOI-3の^(1)H-NMRを測定し、ピーク1とピーク2の積分値を用いて、量的対比を行った結果、B/Aは0.91であった。
【0025】 <比較例1>
国際公開2015/048575号の実施例1記載の方法に準拠して、MOI粉体(MOI-4)を得た。この方法の前記した本願実施例との主な相違点は、以下の通りである。
1)イミド化のための脱水触媒として、強酸性を示すメタンスルフォン酸(pKa=-1.9)を用いる。
2)マレアミック酸部分のイミド化時間が18時間である。MOI-5の^(1)H-NMRを測定し、ピーク1とピーク2の積分値を用いて、量的対比を行った結果、B/Aは0.81であった。…
【0026】 <比較例2>
米国公開特許第2013/0228901号の実施例1および米国特許第7208566号の実施例5記載の方法に準拠して、MOI粉体(MOI-5)を得た。この方法の前記した本願実施例との主な相違点は以下の通りである。
1)イミド化のための脱水触媒として、強酸性を示すメタンスルフォン酸(pKa=-1.9)と弱塩基であるトリエチルアミンとの混合物を用い、メタンスルフォン酸をトリエチルアミンの2倍モル以上用いる。
2)溶媒としてトルエンのみを用いる。
3)マレアミック酸部分のイミド化時間が12時間である。MOI-4の^(1)H-NMRを測定し、ピーク1とピーク2の積分値を用いて、量的対比を行った結果、B/Aは0.75であった。
【0027】 <比較例3>
米国特許第6034195号の実施例1記載の方法に準拠して、MOI粉体(MOI-6)を得た。この方法の前記した本願実施例との主な相違点は、以下の通りである。
1)イミド化のための脱水触媒として、無水酢酸と塩基性化合物(1-ヒドロキシベンズトリアゾール)の混合物を用いる。
2)イミド化温度が室温である。
3)イミド化時間が24時間である。MOI-6の^(1)H-NMRを測定し、ピーク1とピーク2の積分値を用いて、量的対比を行った結果、B/Aは0.67であった。…
【0028】 <比較例4>
実施例1で得られたMOI-1をソルベントナフサ中に再溶解し、この溶液を155℃で5時間加熱した後、メタノール中で再沈殿、乾燥することにより、MOI粉体(MOI-7)を得た。MOI-7の^(1)H-NMRを測定し、ピーク1とピーク2の積分値を用いて、量的対比を行った結果、B/Aは0.72であった。…
【0029】 <実施例5>
MOI1?7のそれぞれ100質量部をトルエン100質量部に溶解し、熱重合開始剤であるジクミルパーオキサイド0.7質量部を加え、精密濾過後、固形分濃度が50質量%の塗膜形成用MOIワニス1?7を得た。これらのワニスをそれぞれ、基材である平滑な銅箔上にフィルムアプリケーターを用いて塗布し、その塗膜を、窒素ガス雰囲気下、80℃で20分間、200℃で60分間、加熱処理して、厚みが約30μmのMOIフィルム(MOIフィルム1?7)からなる被膜を形成した。これらの被膜(銅箔を含む)を10cm平方に切り出した後、任意の9か所(約3cm間隔)のフィルム厚みを測定した。その結果、実施例1?3のMOI粉体から得られたMOIフィルム1?3は、その厚みの変動幅が平均値に対し±5%以下であったのに対し、比較例1?4のMOI粉体から得られたMOIフィルム4?7は前記変動幅が±5%を超えていた。
【0030】 前記評価結果から、本発明のMOIから得られるフィルムは、厚みムラが小さく、本発明のMOIは、レベリング性が優れていることが明らかである。また、本発明のMOIは、MOIオリゴマが低減化されているので、ビニルエーテル類等他の共重合可能なビニル化合物と共重合して、均一性に優れたランダム共重合や交互共重合体を得ることができる。さらに、本発明のMOI製造方法においては、末端がマレアミック酸変性されたオリゴアミック酸から一挙にMOIを生成させるようにしたので、イミド化時間が短縮され、副生成物の生成を抑制することができる。」


(2)申立理由2(明確性要件違反)の判断
ア.明確性要件の考え方
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである(平成28年(行ケ)第10236号事件判決、平成29年(行ケ)第10081号事件判決、令和元年(行ケ)第10173号事件判決等)。

イ.申立人が指摘する明確性要件違反
申立人の主張は、概略、以下のとおりのものである。
本件の特許請求の範囲請求項1及び本件明細書の【0014】の記載によると、本件発明1は、作製された物の発明であるから、本件発明1のモル比は、得られた(作成された)オリゴイミドの構成比に基づくものと理解できるが、【0017】の製造方法の記載からは、本件発明1のモル比は、原料としての配合比に基づいたモル比を意味しているともいえ、また、本件明細書の実施例には、原料としての配合比は記載されている一方で、得られたオリゴイミドの構成比は記載されていない。原料としての配合比が、そのまま得られたオリゴイミドの構成比となるとは、必ずしもいえないことは技術常識であるから、本件発明1のモル比が、得られたオリゴイミドの構成比に基づいたものであるのか、それとも原料としての配合比に基づいたものであるのかが不明である。

ウ.本件発明1、2の明確性要件の検討
請求項1には、「オリゴイミドが芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンとの縮合物からなり、脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比が、0.5以上、0.9以下の範囲」であることが記載されている。
請求項1の「芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンとの縮合物」は、「芳香族テトラカルボン酸」と「脂肪族ジアミン」を原料とする縮合物という意味以外に、「芳香族テトラカルボン酸」と「脂肪族ジアミン」を部分構造に持つ縮合物という意味にも解釈できるから、請求項1の記載からでは、上記のモル比が、原料の配合比であるのか、得られたオリゴイミドの構成比であるのか、必ずしも明確であるとはいえない。
そこで、本件明細書の記載をみると、【0014】には、「本発明のMOIを構成するオリゴイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族ジアミンとの縮合物からなり、脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比が、0.5以上、0.9以下の範囲」との請求項1と同様の記載があるが、【0017】には、「本発明のMOIは…溶媒中で、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を反応させて、末端ジアミンのオリゴアミック酸(オリゴイミド前駆体)を生成させ、しかる後、無水マレイン酸を反応させて、末端がマレアミック酸変性されたオリゴアミック酸を生成させる。…テトラカルボン酸二無水物は、ジアミン1モルに対し、0.5モル以上、0.9モル以下用いることが好ましい。」との記載、【0022】には、「 <実施例1>…ダイマジアミン(クローダジャパン株式会社製「プリアミン1075」、分子量:549):1.0モル…PMDA(当審注:ピロメリット酸二無水物):0.66モル…」との記載、【0024】には、「<実施例3> PMDA、無水マレイン酸、マレイン酸の使用量を、それぞれ、0.80モル、0.42モル、1.80モルとしたこと以外は、実施例1と同様に行い…」との記載がそれぞれあり、本件明細書においては、一貫して、本件発明1の「脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比」が、原料の配合比であるとして説明されている。
加えて、本件発明1の上記のモル比が、得られたオリゴイミドの構成比、すなわち、オリゴイミドに含まれる、「脂肪族ジアミン」の残基に対する「芳香族テトラカルボン酸」残基のモル比であることを窺わせる記載は、本件明細書に一切存在しないうえ、このモル比が、専ら、得られたオリゴイミドの構成比であることを示す記載であるとの技術常識が、本件特許の出願日当時に存していたとも認められない。
そうすると、請求項1の「オリゴイミドが芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンとの縮合物からなり、脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比が、0.5以上、0.9以下の範囲」の記載は、本件明細書の記載を考慮すると、原料の配合比であることを理解でき、かかる記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。
したがって、請求項1の「オリゴイミド」は、上記のモル比で、芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンを配合して、反応させた、末端基の一部または全部がマレイミド変性された縮合物であることは明確であるから、請求項1の記載が不明確であるとは認められない。
また、同項を引用する請求項2の記載についても、請求項1と同様に、不明確であるとは認められない。

エ.申立理由2(明確性要件違反)の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1,2は明確性要件を満たすから、申立人が主張する申立理由2は理由がない。

(3)申立理由3(サポート要件違反)の判断
ア.サポート要件の考え方
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号大合議判決)。

イ.申立人が指摘するサポート要件違反
申立人の主張は、概略、以下のとおりのものである。
本件発明の末端変性されたオリゴイミドは、芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミン以外の重合成分の配合を排除するものではなく、ジアミンとして、脂肪族ジアミン以外に芳香族ジアミンを配合できるが、例えば、脂肪族ジアミン2.5モルに対して芳香族ジアミン0.5モルを含むジアミン成分を用い、片方の末端が芳香族ジアミン由来で、両末端をマレイミド化したオリゴイミドにした場合には、片方のマレイミドが副反応を起こし、ビニルプロトンが2個失われても、B/Aの値が1となるため、B/Aが0.82以上でも、本件発明の課題である「副生成物含有量が低減されたMOIおよびその製造方法の提供」が達成できているとはいえない。

ウ.本件発明1、2のサポート要件の検討
まず、申立人の主張は、「本件発明の末端変性されたオリゴイミドは、芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミン以外の重合成分の配合を排除するものではなく、ジアミンとして、脂肪族ジアミン以外に芳香族ジアミンを配合できる」ことを前提としたものである。
しかし、本件の請求項1には、「1) オリゴイミドが芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンとの縮合物からなり」、「2) 末端基の一部または全部がマレイミド変性されており」と記載されており、芳香族ジアミンを配合できる旨の記載はないし、本件明細書を参酌しても、脂肪族ジアミン以外のアミンに関する記載は一切存在しない。
そうすると、申立人の主張は、その前提において誤りがあるから、採用できない。

次に、本件発明1、2のサポート要件の適否を、以下で検討する。
本件明細書の【0006】の記載によると、本件発明1、2は、オリゴイミドをマレイミド化する際、生成するマレイミドが、過剰反応し、ビニル重合やマイケル付加等の副反応を起こしやすく、生成物の中に、多量の高分子量の副生成物が混在することがあり、フィルム等を成形した際のフィルムの厚みムラが起こりやすいこと、及び、他のビニルモノマと共重合した際に、均一なランダム共重合体や交互共重合体が得られにくいという課題を解決しようとするものである。
本件明細書の【0015】には、「B/Aが0.82以上である。…このようにすることにより、前記したMOI中のMOIオリゴマの低減化されるので、フィルム等を成形した際のレベリング性を確保でき、フィルムの厚みムラを解消することができ…均一性に優れたランダム共重合や交互共重合体を得ることができる。」と記載され、その【0029】?【0030】には、「<実施例5> …実施例1?3のMOI粉体から得られたMOIフィルム1?3は、その厚みの変動幅が平均値に対し±5%以下であったのに対し、比較例1?4のMOI粉体から得られたMOIフィルム4?7は前記変動幅が±5%を超えていた…前記評価結果から、本発明のMOIから得られるフィルムは、厚みムラが小さく、本発明のMOIは、レベリング性が優れていることが明らかである。」、「本発明のMOIは、MOIオリゴマが低減化されているので、ビニルエーテル類等他の共重合可能なビニル化合物と共重合して、均一性に優れたランダム共重合や交互共重合体を得ることができる。」との記載がある。
以上の記載から、本件明細書には、B/Aが0.82以上を示す実施例1?3のMOI(【0022】?【0024】)が、上記の課題を解決できるものの、B/Aが0.81以下である比較例1?4のMOI(【0025】?【0028】)については、上記の課題を解決できないことが、実験データにより裏付けられているといえる。
したがって、請求項1、2記載された発明(本件発明1、2)は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

エ.申立理由3(サポート要件)の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、サポート要件を満たすものであるから、申立人が主張する申立理由3は理由がない。

(4)申立理由1-1(甲1を主引例とした新規性進歩性の欠如)
ア.甲1(特開2013-83958号公報)の記載事項及び甲1に記載さ れた発明
(ア)甲1の記載事項
甲1-1
「【請求項3】 前記(I)ビスマレイミド化合物が、下記一般式(1):

【化1】


[式(1)中、R^(1)は、ダイマー酸に由来する2価の炭化水素基(a)を示し、R^(2)は、ダイマー酸に由来する2価の炭化水素基(a)以外の2価の有機基(b)を示し、R^(3)は、ダイマー酸に由来する2価の炭化水素基(a)、及びダイマー酸に由来する2価の炭化水素基(a)以外の2価の有機基(b)からなる群から選択されるいずれか1種を示し、R^(4)及びR^(5)は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ4価の有機基を示し、mは1?30の整数であり、nは0?30の整数であり、mが2以上の場合には複数あるR^(1)及びR^(4)はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、nが2以上の場合には複数あるR^(2)及びR^(5)はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]で表わされるビスマレイミド化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。」

甲1-2
「【0036】 前記ダイマー酸由来ジアミン(A)と、前記テトラカルボン酸二無水物と、前記マレイン酸無水物とを反応させる方法、又は、前記ダイマー酸由来ジアミン(A)と、前記有機ジアミン(B)と、前記テトラカルボン酸二無水物と、前記マレイン酸無水物とを反応させる方法としては、特に制限されず、適宜公知の方法を採用することができ、例えば、先ず、前記ダイマー酸由来ジアミン(A)と、前記テトラカルボン酸二無水物と、必要に応じて前記有機ジアミン(B)とを、トルエン、キシレン、テトラリン、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒又はこれらの混合溶媒等の溶媒中で室温(23℃程度)において30?60分間攪拌することでポリアミド酸を合成し、次いで、得られたポリアミド酸にマレイン酸を加えて室温(23℃程度)において30?60分間攪拌することで両末端にマレイン酸が付加したポリアミド酸を合成する。このポリアミド酸にトルエン等の水と共沸する溶媒をさらに加え、イミド化に伴って生成する水を除去しながら温度100?160℃において3?6時間還流することで目的とするビスマレイミド化合物を得ることができる。また、このような方法においては、ピリジン等の触媒をさらに添加してもよい。
【0037】 前記反応における原料の混合比としては、(ダイマー酸由来ジアミン(A)に含まれる全ジアミン及び有機ジアミン(B)の合計モル数):(テトラカルボン酸二無水物の合計モル数+マレイン酸無水物のモル数の1/2)が1:1となるようにすることが好ましい。また、前記有機ジアミン(B)を用いる場合には、ダイマー酸に由来する柔軟性が発現し、より低弾性率の硬化物が得られる傾向にあるという観点から、(有機ジアミン(B)のモル数)/(ダイマー酸由来ジアミン(A)に含まれる全ジアミンのモル数)が1以下となることが好ましく、0.4以下となることがより好ましい。なお、前記有機ジアミン(B)を用いる場合には、ダイマー酸由来ジアミン(A)及びテトラカルボン酸二無水物からなるアミド酸単位と、有機ジアミン(B)及びテトラカルボン酸二無水物からなるアミド酸単位との重合形態はランダム重合であってもブロック重合であってもよい。」

甲1-3
「【0047】 本発明に係る(I)ビスマレイミド化合物としては、市販の化合物を適宜用いてもよく、例えば、「BMI-3000」(DESIGNER MOLECURES Inc.製);ダイマージアミン、ピロメリット酸二無水物及びマレイン酸無水物より合成されたもの;m+nは4?7)を好適に用いることができる。また、本発明に係る(I)ビスマレイミド化合物としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。」
「【0095】 (実施例1)
先ず、(I)成分としてビスマレイミド化合物1(DESIGNER MOLECURES Inc.製、「BMI-3000」、固形分100%)100質量部、(II)成分として光重合開始剤1(BASFジャパン製、「IRGACURE OXE-01」)1質量部、及び(III)成分としてケイ素化合物1(信越化学工業株式会社製、「X-40-2655A」)0.25質量部を、固形分濃度が50質量%となるように溶剤(キシレン)に添加し、攪拌機により十分に攪拌して固形分を溶解せしめた。次いで、この溶解液を1μmのメンブランフィルターを用いてろ過し、不溶物を除去して感光性樹脂組成物を得た。」

(イ)甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の【0047】、【0095】の記載から、当業者が入手又は製造でき、使用可能と解される「ビスマレイミド化合物1(DESIGNER MOLECURES Inc.製、「BMI-3000」、固形分100%)」に着目すると、甲1には、「ダイマージアミン、ピロメリット酸二無水物及びマレイン酸無水物より合成され、m+nが4?7である、「BMI-3000」と称されるビスマレイミド化合物」(甲1物発明)が記載されていると認められる。

一方、甲1の【0036】には、「ダイマー酸由来ジアミン(A)」と、「テトラカルボン酸二無水物」「とを、トルエン、キシレン、テトラリン、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒又はこれらの混合溶媒等の溶媒中で室温(23℃程度)において30?60分間攪拌することでポリアミド酸を合成し、次いで、得られたポリアミド酸にマレイン酸を加えて室温(23℃程度)において30?60分間攪拌することで両末端にマレイン酸が付加したポリアミド酸を合成」し、「このポリアミド酸にトルエン等の水と共沸する溶媒をさらに加え、イミド化に伴って生成する水を除去しながら温度100?160℃において3?6時間還流することで目的とするビスマレイミド化合物を得ることができる」こと、「このような方法においては、ピリジン等の触媒をさらに添加してもよい」ことが記載されるので、
甲1には、
「ダイマー酸由来ジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを、トルエン、キシレン、テトラリン、N ,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒又はこれらの混合溶媒等の溶媒中で攪拌することでポリアミド酸を合成し、次いで、得られたポリアミド酸にマレイン酸を加えて攪拌することで両末端にマレイン酸が付加したポリアミド酸を合成し、このポリアミド酸にトルエン等の水と共沸する溶媒、ピリジン等の触媒をさらに添加して、イミド化に伴って生成する水を除去しながら還流するビスマレイミド化合物の製造方法」(甲1方法発明)が記載されていると認められる。

イ.甲3?甲7の記載事項
甲3(特開2011-38024号公報)
「【請求項1】 有機溶媒にポリアミド酸を溶解させたポリアミド酸溶液(A)と、ポリアミド酸溶液の良溶媒と貧溶媒が混合する臨界温度以上で前記有機溶媒と相溶し、該臨界温度以下では相溶しない前記ポリアミド酸の貧溶媒(B)とを、マイクロミキサーを用いて、臨界温度以下で混合してエマルション化し、直ちに、該エマルションをマイクロ流路中で前記臨界温度以上に加熱することで再沈澱させて、ポリアミド酸微粒子を製造することを特徴とするポリアミド酸微粒子の製造方法。」

「【0036】 本発明では、脱水環化試薬(イミド化剤)として、例えば、ピリジン、無水酢酸、あるいはこれらの混合溶液を使用し、撹拌下、化学イミド化して、ポリイミド微粒子分散液を作製する。このイミド化工程は、熱イミド化を行うことも可能であり、化学イミド化を施した後、熱イミド化を行うことも可能である。この場合、好適には、例えば、ピリジン/無水酢酸のモル比が約1/1の混合溶液約0.1ml程度を、撹拌下に加えて、数時間保持して、化学イミド化を行い、また、約250℃程で数時間保持して、熱イミド化を行うことができる。」

甲4(特表平10-505599号公報)
「46.次の:
ジアミンを無水マレイン酸の溶液に加え、ジアミンの添加が終わったら該溶液に無水酢酸を加え、次いで得られた混合物を少なくとも12時間撹拌し、その後に得られた反応混合物を適当な異性化剤で処理することから成る、ジアミンからビスマレイミドを製造する方法。」

甲5(特表2006-526014号公報)
「【請求項1】
以下の構造式を有するイミド延長されたビスマレインイミド:

【化1】

式中、RおよびQは、各々独立して、置換または非置換の、脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族、またはシロキサン部位であり;また、nは1から約10である」

「【0039】 反応の第2の工程は、残っているアミン残基と若干過剰の無水マレイン酸との縮合によりマレインイミド部位を形成することを含んでいる。この第2の工程は、当該技術分野の当業者に公知の技術を使用して行うことができる。もっとも直線的なマレインイミド調製方法は、第一アミンと無水マレイン酸との反応によるマレインアミド酸の形成と、引き続く無水酢酸によるマレインアミド酸の脱水閉環を含む。主な複雑性は、閉環のうちのいくらかあるいはすべてがマレインイミドになるわけではなく、イソマレインイミドになるということである。本質的に、イソマレインイミドは支配的、排他的な速度論的生成物である。しかし、所望のマレインイミドは熱力学的生成物である。マレインイミドへのイソマレインイミドの転化は有効に遅い工程である。特に脂肪族のアミンの場合には、収率を低下させる場合のある条件を要求することがある。もちろん、様々な他のアプローチも使用することができる。」

甲6((社)日本分光学会編「分光測定入門シリーズ第8巻 核磁気共鳴分
光法」、株式会社講談社、2009年7月10日、第1刷発行、
表紙、第16?17頁、奥付)
「 1.5.5 シグナルの積分による定量
(通常の一次元の)NMRスペクトルにおいて、シグナルの強度は、通常、そのシグナルを与える原子核の個数に比例する。たとえば、エタノール(CH_(2)-CH_(2)-OH) のプロトンスペクトルにおいて、メチル基、メチレン基、水酸基のシグナル強度比は3:2:1になる。t -ブタノール((CH_(3))_(3)-C-OH) ではメチル基と水酸基のシグナル強度比は9:1となる、こうしだ情報は、スペクトルの帰属や化学構造の決定に役立つので、測定後のスペクトルについてはそれぞれのシグナル強度の積分を行う。」(16頁13?19行)

甲7(大谷肇編著「エキスパート応用化学テキストシリーズ 機器分析」、
株式会社講談社、2015年9月24日 第1刷発行、表紙、第84 ?93頁、奥付)
「7.3.3 信号強度
NMRの信号強度はピークの面積、すなわち積分値で表される。^(1)H NMRにおいては、信号強度は^(1)Hの数に比例する。すなわち信号強度が2倍であれば、その信号に相当する^(1)Hの数が2倍ということになる。例えば、エチル基(-CH_(2)-CH_(3))の3つのメチルプロトンは化学的に等価(化学シフトが同じ)なので、1種類のピークを示す。同様に2つのメチレンプロトンも1種類のピークを示す。このとき、それぞれの信号強度の比は3:2となる。」(91頁下から6行?92頁1行)

ウ.本件発明1と甲1物発明の対比、判断
(ア)本件発明1と甲1物発明の対比
本件発明1(前者)と甲1物発明(後者。(4)ア(イ))を対比する。
後者の「ダイマージアミン」、「ピロメリット酸二無水物」は、前者の「脂肪族ジアミン」、「芳香族テトラカルボン酸」に相当する。
後者の「ビスマレイミド化合物」は、甲1の請求項3に記載された一般式(1)を参酌すると、「ダイマージアミン」と「ピロメリット酸二無水物」がイミド結合を介して結合し、マレイン酸無水物により末端が封鎖された化学構造を有するものになるから、前者の「末端基の一部または全部がマレイミド変性され」ている「オリゴイミド」に相当する。
そうすると、両者は、
「芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンとの縮合物からなり、末端基の一部または全部がマレイミド変性されているオリゴイミド」で一致し、
前者では、「脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比が、0.5以上、0.9以下の範囲である」と規定されているのに対して、後者では、当該モル比の規定がされていない点(相違点1)
前者では、「^(1)H-NMRにおいて、マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値(A)および末端のマレイミドのビニルプロトンに対応するピークの積分値(B)を用いて量的対比を行った場合に、B/Aが0.82以上である」と規定されているのに対して、後者では、当該B/Aの規定がされていない点(相違点2)
で相違している。

(イ)相違点の検討
事案に鑑み、相違点2の判断を優先する。
甲1には、実施例1で使用されている「ビスマレイミド化合物1(DESIGNER MOLECURES Inc.製、「BMI-3000」、固形分100%)」の^(1)H-NMRチャートに関する記載はなく、上記の「ビスマレイミド化合物1」が、^(1)H-NMRにおいて、如何なる「マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値(A)」、「末端のマレイミドのビニルプロトンに対応するピークの積分値(B)」を示すのかも明らかにされていない。
そして、本件明細書の【0006】に、「強酸を含む脱水触媒を用い、100℃以上の温度で、長時間加熱して、マレイミド化するような反応方法では、反応の際、生成するマレイミドが、過剰反応して、ビニル重合やマイケル付加等の副反応を起こしやすく、結果として、生成物の中に、多量の高分子量の副生成物が混在することがあった」こと、「特に、MOIのビニル基が、ビニル重合して生成するMOIの2量体や3量体(以下、「MOIオリゴマ」と略記することがある)は、MOIと分離精製することが困難であ」ること、「脱水触媒として無水酢酸と塩基性化合物の混合物を用い、長時間をかけて低温でイミド化させたとしても、前記した副反応が進行し、MOIオリゴマ等の副生成物含有量が低減されたMOIを得ることは難しかった」ことが記載され、【0025】?【0027】に記載された比較例1(国際公開2015/048575号の実施例1記載の方法に準拠)、比較例2(米国公開特許第2013/0228901号の実施例1および米国特許第7208566号の実施例5記載の方法に準拠)、比較例3(米国特許第6034195号の実施例1記載の方法に準拠)においても、B/Aが0.81以下という、ビニルプロトンの数が減少し、副生物を含む、オリゴイミドが得られていることからすると(1(1)ア、オ)、本願の優先日前の製造方法によって製造されたと認められる、甲1に記載された上記の「ビスマレイミド化合物1」が、B/Aについて、0.82以上を示すことは当業者が推認できないといえる。
そうすると、相違点2は、本件発明1と甲1物発明を区別する実質的な相違点であると認められるので、本件発明1が甲1に記載されているとは認められない。
また、甲3?7には、「マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値(A)」、「末端のマレイミドのビニルプロトンに対応するピークの積分値(B)」に関する記載はなく、本件明細書の【0006】に記載された、マレイミドの製造において、MOIの2量体や3量体等の多量の高分子量の副生成物が生成すること等の本件発明1が解決しようとする課題に関する記載もないので((4)イ)、甲3?7の記載を参酌しても、相違点2として挙げた発明特定事項を、当業者が容易に想到することはできない。

なお、申立人は、「本件発明1における特定の位置にあるプロトンに対応したピークの積分値は、化学構造中のかかるプロトンの数に比例することは、例えば甲第6号証及び甲第7号証に記載のとおりであって、技術常識である。…してみると、上記B/Aが0.82以上とは、末端のマレイミドのビニルプロトンの数が、マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンの数の0.82倍以上であることを意味するといえる。…甲1物発明を表す式(I)においては、マレイミドの窒素原子に直結するR^(1)及びR^(3)がメチレン基の場合を意味包含し、その場合には、前記メチレン基のプロトンの合計数は4となり、また、末端の二つのマレイミドのビニルプロトンの合計数は4であるから、上記B/Aの値は1となり、0.82以上を満足している。してみれば、上記相違点2は実質的な相違点とはいえない。」と主張する。
しかし、本件明細書の【0006】、【0025】?【0027】によると、本願の優先日前の製造方法では、MOIの2量体や3量体等の多量の高分子量の副生成物が生成物に混在し、これらの副生物は分離精製することが困難であり、B/Aが0.81以下という、ビニルプロトンの数が減少したオリゴイミドが必然得られていたことからすると(1(1)ア、オ)、甲1に、マレイミドのビニルプロトンの合計数が4である式(I)の化合物が、化学式として記載されてあったとしても、当業者が、MOIの2量体や3量体等の副生成物を含まないビスマレイミド化合物を製造又は入手し、使用できることを理解し得る程度の記載が甲1に存在したとは認められないから、式(I)の化学式のみを根拠に、本件発明1の新規性を否定できない。
したがって、いずれにしても、甲1からはB/Aの値が0.82以上である、上記の「ビスマレイミド化合物1」を導き出せないから、申立人の主張は採用できない。

(ウ)小括
以上からすると、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載されたものとはいえず、甲1物発明と甲3?甲7に記載された技術的事項に基づいても、本件発明1を当業者が容易に想到し得たということはできない。

エ.本件発明2と甲1方法発明の対比、判断
(ア)本件発明2と甲1方法発明の対比
本件発明1(前者)と甲1方法発明((4)ア(イ))(後者)を対比する。
後者の「トルエン、キシレン、テトラリン、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒又はこれらの混合溶媒」、「テトラカルボン酸二無水物」、「ダイマー酸由来ジアミン」、「両末端にマレイン酸が付加したポリアミド酸」、「ビスマレイミド化合物」は、前者の「アミド系溶媒を含む溶媒」、「芳香族テトラカルボン酸」、「脂肪族ジアミン」、「末端マレアミック酸のオリゴアミック酸」、「オリゴイミド」にそれぞれ相当する。
そして、後者の「トルエン等の水と共沸する溶媒」を「さらに添加して、イミド化に伴って生成する水を除去しながら還流する」工程は、本件明細書の【0022】<実施例1>において採用されているものであるから、前者を具体化するに当たり採用可能となる工程である。
そうすると、両者は、
「アミド系溶媒を含む溶媒中で、芳香族テトラカルボン酸二無水物および脂肪族ジアミンを反応させて、末端マレアミック酸のオリゴアミック酸を生成させた後、触媒を用いてイミド化するオリゴイミドの製造方法」で一致し、
前者では、請求項1記載のオリゴイミド、すなわち、(i)脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比が、0.5以上、0.9以下の範囲、(ii)^(1)H-NMRにおいて、マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値(A)および末端のマレイミドのビニルプロトンに対応するピークの積分値(B)を用いて量的対比を行った場合に、B/Aが0.82以上、という2つの要件を満たすオリゴイミドの製造方法であるのに対して、後者では、モル比及びB/Aが規定されていないオリゴイミドの製造方法である点(相違点3)、
前者では、酸触媒として、脂肪族カルボン酸を用いているのに対して、後者では、ピリジン等の触媒を用いている点(相違点4)、
前者では、無水マレイン酸を用いているのに対して、後者では、マレイン酸を用いている点(相違点5)で相違している。

(イ)相違点の検討
本件発明2が備える相違点3の発明特定事項は、相違点1、2の発明特定事項を組み合わせたものである。
そして、相違点2の発明特定事項が、甲1に記載されているとはいえず、甲3?7に記載される技術的事項を参酌しても、相違点2の発明特定事項を導き出せないことからすると((4)ウ(イ))、相違点3は、本件発明2と甲1方法発明を区別する実質的な相違点であり、また、甲3?7の技術的事項を参酌しても((4)イ)、相違点3として挙げた発明特定事項を当業者が容易に想到することはできないものといえる。

(ウ)小括
以上からすると、相違点4、5について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載されたものとはいえず、甲1方法発明と甲3?甲7に記載された技術的事項に基づいて、本件発明2を当業者が容易に想到し得たということはできない。

オ.申立理由1-1(甲1を主引例とした新規性進歩性の欠如)の検討の
まとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲1に記載された発明とはいえず、甲1物発明又は甲1方法発明と甲3?7に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得えたものとはいえないから、申立人が主張する申立理由1-1は理由がない。

(5)申立理由1-2(甲2を主引例とした新規性進歩性の欠如)
ア.甲2(国際公開第2014/065294号)の記載事項及び甲2に記
載された発明
(ア)甲2の記載事項
甲2-1
「[0092] 好ましいマレイミド樹脂としては、例えば、式(VIII)で示す重合体を含む樹脂が挙げられる。…
[0095] 式(VIII)で示す重合体の中でも、下記の式(IX)又は式(X)で示される構造を有する重合体が好ましい。式(IX)及び式(X)において、nは、各々独立に、1以上10以下の整数を示す。
[0096]



[0097]



[0098] さらに、マレイミド樹脂としては、米国特許出願公開第2008/0075961号公報に記載の化合物を挙げることができる。
これらのマレイミド樹脂は、例えば、エア・ブラウン社より入手することができる。」

甲2-2
「[0293] [実施例3]
ビスマレイミド樹脂(エア・ブラウン社製「BMI1500」の紫外線硬化物;ガラス転移温度90℃)100部と、光重合開始剤(BASFジャパン社製「Irg907」)1部と、トルエン202部と、酢酸エチル202部とを混合して、樹脂溶液を得た。」

(イ)甲2に記載された発明(甲2発明)
甲2の[0293]には、「ビスマレイミド樹脂(エア・ブラウン社製「BMI1500」の紫外線硬化物;ガラス転移温度90℃)」が記載されるものの、甲2には、かかるビスマレイミド樹脂が、具体的に如何なる化学構造を有するものか説明されていないので、[0095]?[0097]に示された式(IX)又は式(X)で示される構造を有する重合体のうち、いずれの式の構造樹脂をビスマレイミド樹脂が含むのか特定できない。
よって、甲2の[0293]に示され、当業者が入手又は製造でき、使用可能と解される「ビスマレイミド樹脂(エア・ブラウン社製「BMI1500」の紫外線硬化物;ガラス転移温度90℃)」が、式(IX)又は式(X)で示されるいずれかの構造の樹脂を含み得るものと解して、甲2発明を認定すると、甲2には、「式(IX)又は式(X)(化学式は略す。)で示される構造の樹脂を含む、「BMI1500」と称される、ビスマレイミド樹脂の発明」(甲2物発明)が記載されていると認められる。

なお、申立人は、「甲2物発明のマレイミド樹脂(オリゴイミド)は、芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンとの縮合物であり、しかも末端がマレイミド化されていることから、かかる樹脂を作製するに際して、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族ジアミンとの縮合反応により、末端マレアミック酸の樹脂を得た後に、触媒を用いた無水マレイン酸による末端をイミド化することは、例えば上述した甲1に記載されており、当業界における技術常識であるといえ、さらに、上記反応を溶媒中で行うことも技術常識である。」として、甲2には、「溶媒中で、芳香族テトラカルボン酸二無水物および無水マレイン酸と、脂肪族ジアミンとを反応させて、末端マレアミック酸の樹脂を生成させた後、触媒を用いて末端をイミド化することを特徴とするマレイミド樹脂の製造方法」の発明(甲2方法発明)が記載されていると主張する。
しかし、甲2には、「ビスマレイミド樹脂(エア・ブラウン社製「BMI1500」の紫外線硬化物;ガラス転移温度90℃)」([0293])、式(IX)又は式(X)で示される構造を有する重合体([0095]?[0097])の他に、ビスマレイミド樹脂の製造方法に関する記載は一切ないので、甲1で示される技術的事項を組み合わせて、甲2に、申立人が主張するとおりのビスマレイミド樹脂の製造方法の発明(甲2方法発明)が記載されていることは認定できない。

イ.本件発明1と甲2物発明の対比、判断
(ア)本件発明1と甲2物発明の対比
本件発明1(前者)と甲2物発明(後者。(5)ア(イ))を対比する。
後者の式(IX)又は式(X)をみると、後者の「ビスマレイミド樹脂」は、両方の末端にマレイミド基を有し、その間を、「3,3′,4,4′-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸」と「36の炭素を持つジアミン(ダイマジアミンと考えられる。)」(式(IX))、「ピロメリット酸」と「ダイマジアミン」(式(X))が、それぞれイミド結合を介して結合した化学構造を持つものである。
よって、後者の「ビスマレイミド樹脂」は、前者の「芳香族テトラカルボン酸」と「脂肪族ジアミン」との「縮合物からなり」、「末端基の一部または全部がマレイミド変性され」た「オリゴイミド」に相当する。
そうすると、両者は、
「芳香族テトラカルボン酸と脂肪族ジアミンとの縮合物からなり、末端基の一部または全部がマレイミド変性されているオリゴイミド」で一致し、
前者では、「脂肪族ジアミンに対する芳香族テトラカルボン酸のモル比が、0.5以上、0.9以下の範囲である」と規定されているのに対して、後者では、当該モル比の規定がされていない点(相違点6)
前者では、「^(1)H-NMRにおいて、マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値(A)および末端のマレイミドのビニルプロトンに対応するピークの積分値(B)を用いて量的対比を行った場合に、B/Aが0.82以上である」と規定されているのに対して、後者では、当該B/Aの規定がされていない点(相違点7)
で相違している。

(イ)相違点の検討
事案に鑑み、相違点7の判断を優先する。
甲2には、[0293]で使用されている、「ビスマレイミド樹脂(エア・ブラウン社製「BMI1500」の紫外線硬化物;ガラス転移温度90℃)」の^(1)H-NMRチャートに関する記載はなく、上記の「ビスマレイミド樹脂」が、^(1)H-NMRにおいて、如何なる「マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値(A)」、「末端のマレイミドのビニルプロトンに対応するピークの積分値(B)」を示すのかも明らかにされていない。
また、本件明細書の【0006】、【0025】?【0027】の記載によると、本願の優先日前の製造方法では、MOIの2量体や3量体等の多量の高分子量の副生成物が生成物に混在し、これらの副生物は分離精製することが困難であり、B/Aが0.81以下という、ビニルプロトンの数が減少したオリゴイミドが必然得られていたことからすると(1(1)ア、オ)、甲2に、ビスマレイミド樹脂のビニルプロトンの合計数が4である式(IX)又は式(X)で示される構造を有する重合体が、化学式として記載されてあったとしても、当業者は、MOIの2量体や3量体等の副生成物を含まないビスマレイミド樹脂を製造し、使用できることを理解し得たとはいえない。
そうすると、甲2の[0293]に記載され、当業者が入手又は製造でき、使用可能と解される上記の「ビスマレイミド樹脂」が、B/Aについて、0.82以上を示すことは当業者が推認できないものといえる。

なお、申立人は、「甲1物発明(「甲2物発明」の誤記と認められる。)を表す式 (IX) においては、マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンの数は合計で4となり、そして、末端のマレイミドのビニルプロトンの数は4であるから、上記B/Aの値は1となり、0.82 以上を満足している。してみれば…実質的な相違点とはいえない。」と主張する。
しかし、式 (IX) の化学式から、B/Aの値が1となる状態を理解できても、当業者が、MOIの2量体や3量体等の副生成物を含まないビスマレイミド樹脂を製造し、使用できることを理解し得る程度の記載は甲2に存在しないから、いずれにしても、式 (IX) の化学式のみを根拠に、本件発明1の新規性を否定できない。
したがって、申立人の主張は、採用できない。

加えて、甲1、甲3?7には、「マレイミドの窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値(A)」、「末端のマレイミドのビニルプロトンに対応するピークの積分値(B)」に関する記載はなく、本件明細書の【0006】に記載された、MOIの2量体や3量体等の多量の高分子量の副生成物が生成すること等の本件発明1が解決しようとする課題に関する記載もないので((4)イ)、甲1、3?7の記載を参酌しても、相違点7として挙げた発明特定事項を、当業者が容易に想到することはできない。

(ウ)小括
以上からすると、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載されたものとはいえず、甲2物発明と甲1、3?甲7に記載された技術的事項に基づいて、本件発明1を当業者が容易に想到し得たということはできない。
また、甲2からは申立人が主張する甲2方法発明を認定できないから、甲2方法発明を主引例とする新規性進歩性欠如の申立理由は検討を要しない。もっとも、本件発明2と申立人が主張する甲2方法発明は、少なくとも、本件発明1と甲2物発明との対比で挙げた、相違点7で相違し、この相違点7は、甲1、3?7の記載を参酌しても、当業者が容易に想到することはできないものであることは上記のとおりである((5)イ(イ))。

ウ.申立理由1-2(甲2主引例とした新規性進歩性の欠如)の検討の
まとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲2に記載された発明とはいえず、甲2物発明及び甲1、3?7に記載の技術的事項から、当業者が容易に想到し得えたとはいえないから、申立人が主張する申立理由1-2は理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立てにおいて申立人が主張する取消理由はいずれも理由がないから、本件発明1?2についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件発明1?2についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-24 
出願番号 特願2016-171861(P2016-171861)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08G)
P 1 651・ 537- Y (C08G)
P 1 651・ 113- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中川 裕文  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 橋本 栄和
福井 悟
登録日 2020-08-24 
登録番号 特許第6753603号(P6753603)
権利者 ユニチカ株式会社
発明の名称 末端変性されたオリゴイミドおよびその製造方法  
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