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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1375890
異議申立番号 異議2021-700166  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-16 
確定日 2021-07-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6742116号発明「辛味刺激が低減されたアミド誘導体含有酸性炭酸飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6742116号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6742116号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成28年3月4日に出願され、令和2年7月30日にその特許権の設定登録がされ、同年8月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項に対し、令和3年2月16日付けで特許異議申立人 日本香料工業会(以下、「申立人」という。)より2件の特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?11に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
以下、本件特許の請求項1?11に係る発明を、請求項順にそれぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などといい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。

「【請求項1】
スピラントールを含有する酸性炭酸飲料において、乳化成分を含有させたことを特徴とするスピラントール含有酸性炭酸飲料(ただし、感覚刺激物質と乳化剤とを含有し、乳化粒子の平均粒子径が500nm以下である乳化組成物を添加したことを特徴とする炭酸飲料を除く)。
【請求項2】
乳化成分が、乳化剤である請求項1に記載のスピラントール含有酸性炭酸飲料。
【請求項3】
乳化成分が、ショ糖脂肪酸エステル、及び、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上の物質である請求項1又は2に記載のスピラントール含有酸性炭酸飲料。
【請求項4】
ショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、イソ酪酸及び酢酸からなる群から選択される1種又は、2種以上の物質の組合せであり、及び/又は、グリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸がラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸からなる群から選択される1種又は、2種以上の物質の組合せである請求項3に記載のスピラントール含有酸性炭酸飲料。
【請求項5】
ショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸の50重量%以上が、パルミチン酸、ステアリン酸、イソ酪酸及び酢酸からなる群から選択される1種又は、2種以上の物質の組合せであり、及び/又は、グリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の50重量%以上が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸から選択される1種又は、2種以上の物質の組合せである請求項3又は4に記載のスピラントール含有酸性炭酸飲料。
【請求項6】
酸性炭酸飲料に含まれる乳化成分の合計濃度が、0.1?1000ppmである請求項1?5のいずれかに記載のスピラントール含有酸性炭酸飲料。
【請求項7】
炭酸ガス非含有時のpHが、7以下である請求項1?6のいずれかに記載のスピラントール含有酸性炭酸飲料。
【請求項8】
酸性炭酸飲料に含まれるスピラントールの濃度が、5ppb?100ppmである請求項1?7のいずれかに記載のスピラントール含有酸性炭酸飲料。
【請求項9】
ガス圧が、0.1MPa以上である請求項1?8のいずれかに記載のスピラントール含有酸性炭酸飲料。
【請求項10】
スピラントールを含有する酸性炭酸飲料の製造において、前記酸性炭酸飲料に乳化成分を含有させることを特徴とするスピラントール含有酸性炭酸飲料(ただし、感覚刺激物質と乳化剤とを含有し、乳化粒子の平均粒子径が500nm以下である乳化組成物を添加したことを特徴とする炭酸飲料を除く)の製造方法。
【請求項11】
スピラントールを含有する酸性炭酸飲料の製造において、前記酸性炭酸飲料に乳化成分を含有させることを特徴とする、スピラントール含有酸性炭酸飲料(ただし、感覚刺激物質と乳化剤とを含有し、乳化粒子の平均粒子径が500nm以下である乳化組成物を添加したことを特徴とする炭酸飲料を除く)の辛味刺激の低減方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、同日付けで2件の特許異議の申立てをしているので、以下では、それらを異議A及び異議Bという。
そして、証拠方法として、異議Aでは、以下の甲第1号証?甲第11号証(以下、「甲1A」、「甲2A」などという。)を提出し、異議Bでは、以下の甲第1号証?甲第7号証(以下、「甲1B」、「甲2B」などという。)を提出し、それぞれ、以下の申立理由を主張している。

1 異議Aの申立理由及び証拠方法
(1)申立理由1A(新規性)
本件特許発明1?2、7?8、10は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許発明1?2、7?8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(2)申立理由2A(進歩性)
本件特許発明1?11は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(3)申立理由3A(実施可能要件)
本件特許発明1?11に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(4)証拠方法
甲1A:特開2006-166870号公報
甲2A:社団法人 全国清涼飲料工業会、財団法人 日本炭酸飲料検査協
会監修、「最新・ソフトドリンクス」、株式会社光琳、平成15
年9月30日、p.175-176
甲3A:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 第四事業部 エマルション研
究室 三内 剛、笹田 誠治、「乳化色素(カロテノイド)製剤
について」、FFIジャーナル、Vol.217、No.1、2
012年2月1日、p.113-119
甲4A:野口 忠編著、「栄養・生化学辞典」、株式会社朝倉書店、20
02年11月20日、p.144
甲5A:国際公開第2015/156244号
甲6A:五十嵐 脩、小林 彰夫、田村真八郎編集代表、「丸善食品総合
辞典」、丸善株式会社、平成10年3月25日、p.805
甲7A:特開昭61-293365号公報
甲8A:特開昭61-260860号公報
甲9A:佐藤 節子、水枝谷幸恵、日野 陽一、於保 孝彦、「市販飲料
のう蝕誘発性リスク」、口腔衛生学会雑誌、第57巻、第2号、
2007年、p.117-125
甲10A:「炭酸飲料の日本農林規格」、平成18年8月2日農水告第1
052号
甲11A:特願2016-42768号(本件特許)の審査過程で、特許
権者が令和2年4月21日に提出した意見書

2 異議Bの申立理由及び証拠方法
(1)申立理由1B(進歩性)
本件特許発明1?11は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(2)証拠方法
甲1B:特開2002-65177公報
甲2B:太陽化学株式会社 FI事業部 加藤友治、「入門講座 食品分
野における界面活性剤」、オレオサイエンス、第1巻、第10号
、2001年、p.1013-1019
甲3B:五十嵐 脩、小林 彰夫、田村真八郎編集代表、「丸善食品総合
辞典」、丸善株式会社、平成10年3月25日、p.603
甲4B:佐藤 節子、水枝谷幸恵、日野 陽一、於保 孝彦、「市販飲料
のう蝕誘発性リスク」、口腔衛生学会雑誌、第57巻、第2号、
2007年、p.117-125
甲5B:特開2014-217282号公報
甲6B:特開2006-166870号公報
甲7B:「炭酸飲料の日本農林規格」、平成18年8月2日農水告第1
052号
なお、甲4Bは甲9Aと、甲6Bは甲1Aと、甲7Bは甲10Aと、それぞれ同じものである。

第4 甲号証に記載された事項
1 甲1A及び甲6Bの記載事項
(甲1Aa)「【請求項1】
スピラントール又はスピラントールを含有する植物抽出物若しくは植物精油からなる炭酸飲料用添加剤。
・・・
【請求項4】
請求項1又は2記載の炭酸飲料用添加剤を添加したことを特徴とする炭酸飲料。
・・・
【請求項6】
スピラントールを1?300ppb含有することを特徴とする請求項4又は5記載の炭酸飲料。
・・・
【請求項8】
請求項1又は2記載の炭酸飲料用添加剤を、炭酸飲料中のスピラントール含量が1?300ppbとなるように添加することを特徴とする炭酸飲料の炭酸感を増強又は維持する方法。」

(甲1Ab)「【0018】
[製造例2](粗スピラントール2)
製造例1のオランダセンニチ粗抽出物(スピラントール含量12.4%)100gに脂肪酸トリグリセライド50gを混合し、減圧薄膜蒸留装置を使用し、真空度:4?5Pa、蒸発面温度:120℃で蒸留し、留出液12.3gを得た。収率12.3%。スピラントール含量:67.3質量%。この留出液0.1gを50質量%のエタノール水溶液1346gで希釈し、5℃まで冷却後、珪藻土を加えろ過を行いスピラントール濃度50ppm(w/w)の粗スピラントール溶液2を調整した。
・・・
【0051】
[実施例7](レモン果汁入り微炭酸飲料)
蒸留水361.678gにレモン透明5倍濃縮果汁2.1g、果糖ブドウ糖液糖95g、砂糖25g、クエン酸1g、クエン酸ナトリウム0.8g、ビタミンC2.86g、ビタミンB6 0.003g、パントテン酸カルシウム0.007g、ベニバナ色素0.05g、カロチン色素0.002g、レモン香料1.0g(小川香料株式会社製)及び製造例2の粗スピラントール溶液0.5gを添加し均一に溶解させた。この溶液を氷水で5℃まで冷却し、250ml容量の缶に122.5g量りとった。この溶液に炭酸水137.5gを加えシールすることにより本発明のレモン果汁入り微炭酸飲料を調製した。」

2 甲2Aの記載事項
(甲2Aa)「油溶性色素であるカロテノイド系色素は,飲料などに添加される場合,乳化剤を用いた水中油滴型(O/W型)乳化製剤として使用される。」(175ページ27?28行)

3 甲3Aの記載事項
(甲3Aa)「1.はじめに
・・・三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の乳化技術は、油溶性香料の水溶化技術に端を発し、β-カロテン、パプリカ色素(トウガラシ色素)を始めとする油溶性色素の製剤化技術、脂溶性ビタミン等脂溶性の機能性素材の製剤化技術と発展してまいりました。
本報では、これらの乳化技術を利用したカロテノイドを中心とした乳化色素製剤の特徴について説明します。
2.乳化とは
・・・乳化製剤はO/W型の乳化物であり、分散質である油の中に香料、色素等の素材を溶解し、水中に乳化分散させたものであります。乳化物を調製する場合には、水と油成分以外に、生成した乳化粒子を安定化するための物質として乳化剤が用いられています。
日本では、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等を始めとした23種類が食品添加物として許可されており、乳化製剤等に使用されています。・・・
・・・
4.カロテノイドの着色料としての利用
・・・
カロテノイドの多くは油溶性の物質であることから、食品に利用するにあたって、水に溶解するように加工したものが広く利用されています。」(113ページ左欄1行?114ページ左欄22行)

4 甲4Aの記載事項
(甲4Aa)「カロチン carotene
→カロテン
・・・
カロテノイド carotenoid
黄色ないしは赤色の色素でテトラテルペン化合物.β-カロテンはその一つ.
・・・
カロテン carotene
カロチンともいう.カロテノイドの一種.」(144ページ右欄6?16行)

5 甲5Aの記載事項
(甲5Aa)「[請求項1]
感覚刺激物質と乳化剤と水と必要に応じて油性物質を含有し、乳化粒子の平均粒子径が500nm以下であることを特徴とする乳化組成物。
・・・
[請求項3]
感覚刺激物質が、(a)ジンジャー抽出物、(b)ジンジャー精油、(c)スピラントール、(d)スピラントールを含有する植物抽出物及び(e)スピラントールを含有する植物精油からなる群より選択された少なくとも1種以上である請求項1又は2記載の乳化組成物。
・・・
[請求項8]
請求項1?6のいずれかに記載の乳化組成物を添加したことを特徴とする炭酸飲料。」

(甲5Ab)「[0024]
(2)乳化剤
本発明に使用する乳化剤は特に制限なく、合成乳化剤、天然乳化剤のいずれも使用することができる。
合成乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド、オクテニルコハク酸エステル化デンプン等の加工デンプン等を挙げることができる。」

(甲5Ac)「実施例1
[0068]
(炭酸水)
炭酸水199.92gにスピラントール乳化物DGMM1を0.08g添加し均一に溶解させた。この溶液を氷水で5℃まで冷却し、本発明の簡易炭酸飲料を調製した。スピラントール乳化物DGMM2、DGMM3、DGMM4を添加した簡易炭酸飲料についても同様に調製した。
・・・
[0070]
〔試験例1〕
実施例1の簡易炭酸飲料と比較例1の簡易炭酸飲料について、熟練したパネル20名により炭酸による口腔内への刺激及びのどへの刺激について官能評価を行った。・・・
評価結果は表2のとおりである。
[0071]
(採点基準:口腔内への刺激)
非常に強く感じる(非常に望ましい):7点
強く感じる(望ましい) :6点
若干強く感じる(やや望ましい) :5点
変化なし(対照) :4点
若干弱く感じる(若干悪い) :2点
弱く感じる(悪い) :2点
非常に弱く感じる(非常に悪い) :1点
・・・
[0073]
[表2]

・・・
[0089]
[表6]



6 甲6Aの記載事項
(甲6Aa)「乳化剤 ・・・グリセロール,プロピレングリコール,ソルビタンおよびショ糖の各脂肪酸エステルとレシチンの5種が食品衛生法で許可されている.」(805ページ右欄26?32行)

7 甲7Aの記載事項
(甲7Aa)「実施例1
オレンジオイル35重量部、SAIB(シヨ糖酢酸イソ酪酸エステル)65重量部を50℃に加温混合し、カゼインナトリウム25重量部を分散させ油相部を調製した。
・・・
実施例4
レモンオイル50重量部、SAIB50重量部を50℃で加温混合し、カゼインナトリウム35重量部を分散させ油相部を調製した。dl-酒石酸30重量部を水835重量部に溶解して調製した水相部に上記油相部を加え攪拌後コロイドミルクリアランス0.1μmで乳化均質化した。
この乳化組成物のpHは2.7であり、安定性が優れており1ケ月経過後も油分の分離は認められずまた風味の変化もなかつた。
次に透明炭酸入り飲料(pH2.6)1000重量部に上記乳化組成物1重量部を添加し攪拌したところ、この乳化組成物は容易に分散し、良好な乳濁性を示すレモン風味のある炭酸飲料が得られた。
このレモン風味を有する炭酸飲料は1ケ月経過後も全く安定であり分離物は認められず安定な乳濁状態を保持しておりまた風味の変化もなかつた。」(4ページ左下欄16行?6ページ左下欄下から2行)

8 甲8Aの記載事項
(甲8Aa)「(1)油性着香料、油溶性色素類、動植物油脂類、中鎖飽和脂肪酸トリグリセライド類、油溶性ビタミン類及び植物性天然樹脂よりなる群から選ばれた少くとも1種の可食性油性材料
(2)シユークロース・ジアセテート・ヘキサイソブチレート(SAIB)
(3)HLB8以上のポリグリセリン脂肪酸エステル類
(4)含水率50重量%以下の多価アルコール類からなる組成物を酸性飲料に配合することを特徴とする酸性飲料の着香、着色又は着濁方法。」(1ページ左欄5?15行)

(甲8Ab)「酸性飲料に好ましいフレーバー、混濁及び色調を付与する目的で、精油類、油溶性色素類、動植物油脂類などの油性材料を添加しようとする飲料の糖濃度に合せて比重調整した後、植物性天然ガム質、或いはシヨ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの食品用界面剤を用いて乳化物を形成した後飲料に配合することは公知である。」(1ページ右欄14?最下行)

(甲8Ac)「β-カロチン、パプリカ色素、アナトー色素及びクロロフイルなどの油溶性天然色素類」(2ページ右下欄10?11行)

(甲8Ad)「参考例1
β-カロチン8g、ロジン10g、リモネン10g、SAIB56.7g、天然ビタミンE0.5g及び精製ヤシ油14.8gの混合物を窒素気流中で約160℃に加温して、均一な油性材料混合物(d^(20)_(20)1.048)を得た。この混合物を70%ソルビトール890gにデカグリセリンモノステアレート10gを溶解した溶液に加えて予備攪拌して分散させた後、TK-ホモミキサーにて5000rpmにて10分間乳化し、油脂の粒子約1ミクロンの均一な酸性飲料用の着色剤乳化組成物を得た(本発明品No.1)。」(3ページ左下欄7?18行)

9 甲9A及び甲4Bの記載事項
(甲9Aa)「炭酸飲料,スポーツドリンク,果・野菜汁および乳飲料のpHは,エナメル質脱灰の臨界値5.5より低かった.」(117ページ概要の5行)

10 甲10A及び甲7Bの記載事項
(甲10Aa)「

・・・

」(1ページ第3条?2ページ別表)

11 甲11Aの記載事項
(甲11Aa)「なお、補正後請求項1、10及び11において、「(ただし、感覚刺激物質と乳化剤とを含有し、乳化粒子の平均粒子径が500nm以下である乳化組成物を添加したことを特徴とする炭酸飲料を除く)」との記載を追加することにより、本願発明と、引用文献1に記載の発明との重なりを取り除いておりますことに関連して、念のために付言しますと、本願実施例における乳化成分を含む飲料において、仮にスピラントールを含む乳化粒子が形成されているとしても、その平均粒子径は500nmを超えております。」(8ページ15?21行)

12 甲1Bの記載事項
(甲1Ba)「【請求項1】 ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有することを特徴とするマスキング剤。
【請求項2】 請求項1記載のマスキング剤を含有する食品。」

(甲1Bb)「【0011】本発明において、マスキングとは、苦味、辛味、渋味、えぐ味、収れん味(しびれる感覚)等の不快な味を低減又は調整することや、後味の改善をいう。
・・・
【0015】本発明のマスキング剤は、辛味を有する食品(辛味成分を本来的に含有している辛味を有する食品や辛味成分を添加することで辛味が付与された食品)に配合することにより、その辛味を抑制できる。辛味成分としては、唐辛子(赤、黒、黄)、胡椒、山椒、わさび、玉ねぎ、大根、ねぎ、にんにく、生姜等から抽出されるものを挙げることができる。具体的には、唐辛子由来のカプサイシン、胡椒由来のピペリン、シャビシン、山椒由来のα-、β-サンショオール、スピラントール、大根、黒辛子、山椒由来のアリールカラシ油、シロカラシ由来のシナルビンカラシ油、アブラナ由来のクロトニルカラシ油、ニオイアラセイトウ由来のヘイロリン、オランダガラシ、モクセイソウ由来のフェニルエチルカラシ油、コショウソウ由来のベンジルカラシ油、エゾスズシロ由来のエリソリン、ねぎ、にんにく由来のジアリルジスルフィド、玉ねぎ、にんにく由来のプロピルアリルジスルフィド、玉ねぎ由来のジアリルスルフィド、玉ねぎ由来のジプロピルジスルフィド、にんにく由来のジアリルトリスルフィド、生姜由来のジンゲロウ、ショウガオール、アフリカ産生姜由来のジンゲロール、パラドール、ヤナギタデ由来のタデオナール等を挙げることができる。更に上記成分を化学合成した辛味成分を挙げることができる。
・・・
【0017】また上記のような辛味成分を添加することにより、辛味が付与された食品の例としては、スナック菓子、焼き菓子、麺類(インスタント麺類も含む)、粉末スープを含むスープ類、味噌汁、カレーのルー、焼き肉のタレ、焼き肉、明太子、キムチ等の漬物類、塩辛類、飴、チューインガム、チョコレート、キャンディ類、野菜ジュース、コーヒー、ココア、紅茶、緑茶、醗酵茶、半醗酵茶、清涼飲料、機能性飲料、ドレッシング、マヨネーズ等の乳化食品、豆乳、豆腐等の大豆食品、魚肉、すり身、焼き魚等の水産加工品、ソース、味噌、醤油、ケチャップ等の調味料、米飯、食用油、パン、ケーキ類、スパゲッティー等のパスタ類、ピーナッツ等のナッツ類、おでん等の煮物類、醗酵食品、健康食品等を挙げることができる。」

13 甲2Bの記載事項
(甲2Ba)「1 食品用乳化剤の種類と特徴
・・・グリセリン脂肪酸エステルの中にはモノグリセリドの他に,乳酸,クエン酸などの有機酸をエステル化したグリセリン有機酸脂肪酸エステル(有機酸モノグリセリド)や親水基がグリセリン重合物からできているポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンエステル),ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(ポリグリセリンポリリシノレート)も含まれ,これらはその特徴から近年需要が伸びている。」(1013ページ左欄12行?右欄6行)

14 甲3Bの記載事項
(甲3Ba)「清涼飲料水 食品衛生法^(*)によれば「清涼飲料水とは,乳酸菌飲料^(*),乳^(*)および乳製品^(*)を除く酒精分1容量パーセント未満を含有する飲料をいうものであること.」と定義されている.したがって,サイダー,コーラなどの炭酸飲料,果汁入りの飲料,コーヒー飲料,ウーロン茶飲料,紅茶飲料などの茶系飲料,ミネラルウォーター,フルーツシラップなどアルコール飲料を除くほとんどの飲料が清涼飲料水に該当する.」(603ページ左欄下から9?2行)

15 甲5Bの記載事項
(甲5Ba)「【請求項1】
下記A成分、B成分及びC成分を有効成分とすることを特徴とする炭酸ガス含有非アルコール飲料用起泡剤。
A成分:HLB10以上の乳化剤;
B成分:アルギン酸プロピレングリコールエステル、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選択される1種又は2種以上の増粘安定剤;
C成分:タンパク質分解物。」

第5 当審の判断
1 異議Aの申立理由1A(新規性)及び申立理由2A(進歩性)について
(1)甲1Aに記載された発明
ア 甲1Aは、スピラントールからなる炭酸飲料用添加剤を添加した炭酸飲料に関する技術を開示するものである(上記(甲1Aa)請求項1及び4)。
そして、その具体例を示した実施例7からみて(上記(甲1Ab))、甲1Aには、次の2つの発明が記載されていると認める。

甲1A発明-1:
「蒸留水にレモン透明5倍濃縮果汁、果糖ブドウ糖液糖、砂糖、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ビタミンC、ビタミンB6、パントテン酸カルシウム、ベニバナ色素、カロチン色素、レモン香料及びスピラントール濃度50ppm(w/w)の粗スピラントール溶液を添加し均一に溶解させた溶液に炭酸水を加えシールすることによる得られる、レモン果汁入り微炭酸飲料。」

甲1A発明-2:
「蒸留水にレモン透明5倍濃縮果汁、果糖ブドウ糖液糖、砂糖、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ビタミンC、ビタミンB6、パントテン酸カルシウム、ベニバナ色素、カロチン色素、レモン香料及びスピラントール濃度50ppm(w/w)の粗スピラントール溶液を添加し均一に溶解させた溶液に炭酸水を加えシールすることによる、レモン果汁入り微炭酸飲料の製造方法。」

イ 甲1Aは、スピラントールからなる炭酸飲料用添加剤を添加することで炭酸飲料の炭酸感を増強又は維持する方法に関する技術も開示することから(上記(甲1Aa)請求項1及び8)、甲1Aには、次の発明も記載されていると認める。

甲1A発明-3:
「スピラントールからなる炭酸飲料用添加剤を、炭酸飲料中のスピラントール含量が1?300ppbとなるように添加する炭酸飲料の炭酸感を増強又は維持する方法。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1A発明-1とを対比する。
甲1A発明-1の「レモン果汁入り微炭酸飲料」は、本件特許発明1の「酸性炭酸飲料」と、「炭酸飲料」である限りにおいて共通する。
また、甲1A発明-1の「スピラントール濃度50ppm(w/w)の粗スピラントール溶液」は、本件特許発明1の「スピラントール」に相当するといえる。
そして、甲1A発明-1の「レモン果汁入り微炭酸飲料」が、「レモン透明5倍濃縮果汁、果糖ブドウ糖液糖、砂糖、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ビタミンC、ビタミンB6、パントテン酸カルシウム、ベニバナ色素、カロチン色素、レモン香料」を含むことは、本件特許明細書【0047】に「本発明の酸性炭酸飲料は・・・酸性炭酸飲料の香味を損なわない範囲で、酸味成分、甘味成分、pH調整剤、着色成分、香料等の任意成分を含有させてもよい。」と記載されていることから、本件特許発明1に包含され、相違点とはならない。
よって、両発明は、次の一致点及び相違点1?3を有する。

一致点:
「スピラントール含有炭酸飲料。」である点。

相違点1:
炭酸飲料が、本件特許発明1は「酸性炭酸飲料」であるのに対し、甲1A発明-1は「レモン果汁入り微炭酸飲料」である点。

相違点2:
スピラントール含有炭酸飲料が、本件特許発明1は「乳化成分を含有させた」ものであるのに対し、甲1A発明-1は「レモン透明5倍濃縮果汁、果糖ブドウ糖液糖、砂糖、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ビタミンC、ビタミンB6、パントテン酸カルシウム、ベニバナ色素、カロチン色素、レモン香料」を含むものである点。

相違点3:
本件特許発明1は「感覚刺激物質と乳化剤とを含有し、乳化粒子の平均粒子径が500nm以下である乳化組成物を添加したことを特徴とする炭酸飲料を除く」と特定しているのに対し、甲1A発明-1は、除かれる炭酸飲料であるか明らかでない点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み相違点2について検討する。
本件特許発明1の「乳化成分」は、本件特許明細書【0036】?【0043】の記載から、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン系乳化剤や、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、両性乳化剤及び天然乳化剤などの公知の乳化剤であることが理解できる。
そうすると、甲1A発明-1に含まれる「レモン透明5倍濃縮果汁、果糖ブドウ糖液糖、砂糖、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ビタミンC、ビタミンB6、パントテン酸カルシウム、ベニバナ色素、カロチン色素、レモン香料」は、いずれも本件特許発明1の「乳化成分」ではないことは明らかであるから、相違点2は実質的な相違点である。
また、甲1Aのその他の記載及び甲2A?甲10Aの記載を考慮しても、甲1A発明-1の「レモン果汁入り微炭酸飲料」に「乳化成分」を含有させることが動機付けられるところはないから、相違点2に係る構成を採用することは当業者が容易になし得たことでもない。
そして、本件特許発明1は、スピラントールを含有する酸性炭酸飲料に、乳化成分を含有させたことで、スピラントールによる炭酸感の向上効果を保持しつつ、スピラントールの辛味刺激を低減したという、甲1A発明-1からは予測できない効果を奏するものである。

(イ)申立人の主張について
申立人は、甲2A?甲4Aの記載(上記(甲2Aa)、(甲3Aa)及び(甲4Aa))から、カロチン色素は油溶性色素であるため、飲料に添加される場合に乳化剤による乳化製剤として使用されるものであるから、甲1A発明-1の「レモン果汁入り微炭酸飲料」には「カロチン色素」に由来する乳化剤が含まれていると主張する。
しかしながら、甲1A発明-1の「レモン果汁入り微炭酸飲料」に含有されている「カロチン色素」は、甲1Aの記載全体をみても乳化製剤か不明であるうえ、乳化製剤であるとしても、それは油溶性色素であるカロチン色素が乳化剤によって乳化されているというだけであり、カロチン色素が「乳化成分」であることにはならない。
そして、甲5A(上記(甲5Aa)?(甲5Ab))に、スピラントールとショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの乳化剤を含有する乳化組成物を炭酸飲料に添加することが記載され、甲7A及び甲8A(上記(甲7Aa)及び(甲8Aa)?(甲8Ad))に、炭酸飲料や酸性飲料に油溶性香料や色素を、乳化剤を用いて乳化組成物として添加することが記載され、甲6A(上記(甲6Aa))に、食品に使用し得る乳化剤は5種類が食品衛生法で許可されていることが記載されているが、これらの記載を考慮しても、甲1A発明-1の「レモン果汁入り微炭酸飲料」に含まれる「カロチン色素」が本件特許発明1の「乳化成分」に該当するということにはならないし、「乳化成分」を添加することが動機付けられるともいえない。
また、甲9A(上記(甲9Aa))には、果・野菜汁飲料は酸性飲料であることが記載され、甲10A(上記(甲10Aa))には、炭酸飲料のガス内圧力が0.07MPa以上であることが記載されているだけで、上記判断に影響はない。
よって、申立人の主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、相違点1及び相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1Aに記載された発明ではなく、甲1A発明-1及び甲2A?甲10Aの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件特許発明2?9について
本件特許発明2、7?8は、それぞれ、本件特許発明1を直接引用して、さらに「乳化成分」、「炭酸ガス非含有時のpH」及び「酸性炭酸飲料に含まれるスピラントールの濃度」を特定するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1A発明-1に記載された発明ではなく、甲1A発明-1及び甲2A?甲10Aの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件特許発明3?6、9は、それぞれ、本件特許発明1を直接又は間接的に引用して、さらに「乳化成分」とその「合計濃度」及び「ガス圧」を特定するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1A発明-1及び甲2A?甲10Aの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件特許発明10について
製造方法の発明である本件特許発明10は、物の発明である本件特許発明1とは、発明のカテゴリーが異なるものの、両発明から把握される技術的事項に変わりはないといえるので、製造方法の発明である甲1A発明-2とは、「スピラントール含有炭酸飲料の製造方法。」である点で一致し、上記(2)アで検討したのと同様の相違点1?3を有する。
したがって、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明10は、甲1Aに記載された発明ではなく、甲1A発明-2及び甲2A?甲10Aの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)本件特許発明11について
ア 対比
本件特許発明11と甲1A発明-3とを対比する。
甲1A発明-3の「炭酸飲料」は、本件特許発明11の「酸性炭酸飲料」と、「炭酸飲料」である限りにおいて共通する。
甲1A発明-3の「スピラントール炭酸飲料用添加剤」は、本件特許発明11の「スピラントール」に相当する。
甲1A発明-3の「炭酸飲料中のスピラントール含量が1?300ppbとなるように添加する炭酸飲料の炭酸感を増強又は維持する方法」と、本件特許発明11の「スピラントールを含有する炭酸飲料の製造において」、「スピラントール含有酸性炭酸飲料」の「辛味刺激の低減方法」とは、いずれもスピラントールが含有する炭酸飲料の製造において、炭酸飲料を改善する方法といえるので、「炭酸飲料の改善方法」である限りにおいて共通する。
よって、両発明は次の一致点及び相違点4?6を有する。

一致点:
「スピラントールを含有する炭酸飲料の製造において、スピラントール含有炭酸飲料の改善方法。」である点。

相違点4:
炭酸飲料が、本件特許発明11は「酸性炭酸飲料」であるのに対し、甲1A発明-3は「炭酸飲料」である点。

相違点5:
炭酸飲料の改善方法が、本件特許発明11は、「スピラントールを含有する炭酸飲料の製造において、前記酸性炭酸飲料に乳化成分を含有させる」「スピラントール含有酸性炭酸飲料」の「辛味刺激の低減方法」であるのに対し、甲1A発明-3は「炭酸飲料中のスピラントール含量が1?300ppbとなるように添加する炭酸飲料の炭酸感を増強又は維持する方法」である点。

相違点6:
本件特許発明11は「感覚刺激物質と乳化剤とを含有し、乳化粒子の平均粒子径が500nm以下である乳化組成物を添加したことを特徴とする炭酸飲料を除く」と特定しているのに対し、甲1A発明-3は、除かれる炭酸飲料であるか明らかでない点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み相違点5について検討する。
本件特許発明11の「乳化成分を含有させる」「辛味刺激の低減方法」は、本件特許明細書の記載から理解されるとおり、乳化成分を含有させることによって、スピラントールの辛味刺激を低減する方法である。
それに対し、甲1A発明-3は、炭酸飲料にスピラントールを添加することによって、炭酸飲料の炭酸感を増強又は維持する方法であるから、乳化成分を含有させるものでもなく、スピラントールの辛味刺激を低減する方法でもない。
また、甲1Aのその他の記載及び甲2A?甲10Aの記載を考慮しても、甲1A発明-3の「炭酸飲料」に「乳化成分」を含有させることが動機付けられるところはないし、そのことによって、スピラントールの辛味刺激を低減することが理解できるところもないから、相違点5に係る構成を採用することは当業者が容易になし得たことでもない。
そして、本件特許発明11は、スピラントールを含有する酸性炭酸飲料に、乳化成分を含有させたことで、スピラントールによる炭酸感の向上効果を保持しつつ、スピラントールの辛味刺激を低減したという、甲1A発明-3からは予測できない効果を奏するものである。

(イ)申立人の主張について
申立人は、甲5A(上記(甲5Ac))の記載から、スピラントール乳化物を添加することで口腔内の刺激が弱まることは公知であり、乳化粒子径が大きくなるにつれ、口腔内の刺激が弱くなることも理解できるから、上記相違点6に係る500nm以下を超える平均粒子径の乳化組成物として添加することも容易に想到し得る旨主張する。
しかしながら、甲5A(上記(甲5Ac))の記載からは、口腔内の刺激とは、炭酸による刺激であり、強く感じることが望ましいとされていることが理解できるだけで、スピラントールの辛味刺激について着目したところはない。
よって、申立人の主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、相違点4及び相違点6について検討するまでもなく、本件特許発明11は、甲1A発明-3及び甲2A?甲10Aの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 異議Aの申立理由3A(実施可能要件)について
(1)申立人の主張する申立理由3Aの概要
特許権者は、本件特許出願の審査過程で提出した意見書において、「本願実施例における乳化成分を含む飲料において、仮にスピラントールを含む乳化粒子が形成されているとしても、その平均粒子径は500nmを超えております。」(上記(甲11Aa))としているが、意見書及び本件特許明細書には粒子径を示す実施例はなく、本件特許明細書の実施例の記載を参酌しても、500nmを超える乳化粒子が形成されるかは非常に疑問であり、当業者といえども本件特許発明を実施することができない。

(2)判断
本件特許発明1は、「スピラントールを含有する酸性炭酸飲料において、乳化成分を含有させたことを特徴とするスピラントール含有酸性炭酸飲料」という技術的事項に関するものであって、スピラントールを含む平均粒子径が500nmを超える乳化粒子を含有させるという技術的事項に関するものではない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2?9についても同様である。
また、スピラントール含有酸性炭酸飲料の製造方法に関する本件特許発明10及びスピラントール含有酸性炭酸飲料の辛味刺激の低減方法に関する本件特許発明11についても、スピラントールを含む平均粒子径が500nmを超える乳化粒子を含有させるという技術的事項に関するものではない。
そして、本件特許明細書には、スピラントールと乳化成分を含有させた酸性炭酸飲料を製造する方法や、そのことにより辛味刺激が低減できることが、具体的な実施例を伴い記載されている。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから、本件特許発明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

3 異議Bの申立理由1B(進歩性)について
(1)甲1Bに記載された発明
甲1Bは、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有するマスキング剤を含有する食品に関する技術を開示するものである(上記(甲1Ba))。
そして、マスキングとは、苦味、辛味、渋味、えぐ味、収れん味(しびれる感覚)等の不快な味を低減又は調整することや、後味の改善をいうこと、マスキング剤は食品に配合することが記載されているから(上記(甲1Bb))、甲1Bには、次の3つの発明が記載されていると認める。

甲1B発明-1:
「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する、食品の苦味、辛味、渋味、えぐ味、収れん味(しびれる感覚)等の不快な味を低減又は調整することや、後味を改善するマスキング剤を含有する、食品。」

甲1B発明-2:
「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する、食品の苦味、辛味、渋味、えぐ味、収れん味(しびれる感覚)等の不快な味を低減又は調整することや、後味を改善するマスキング剤を配合する、食品の製造方法。」

甲1B発明-3:
「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有するマスキング剤を含有させる、食品の苦味、辛味、渋味、えぐ味、収れん味(しびれる感覚)等の不快な味を低減又は調整することや、後味を改善する食品のマスキング方法。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1B発明-1とを対比する。
甲1B発明-1の「食品」は、本件特許発明1の「酸性炭酸飲料」と、「食品」である限りにおいて共通する。
甲1B発明-1の「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル」は、本件特許発明1の「乳化成分」に相当するといえる。
よって、両発明は、次の一致点及び相違点7?8を有する。

一致点:
「乳化成分を含有させた食品。」である点。

相違点7:
食品が、本件特許発明1は「スピラントール含有酸性炭酸飲料」であるのに対し、甲1B発明-1は「食品」である点。

相違点8:
本件特許発明1は「感覚刺激物質と乳化剤とを含有し、乳化粒子の平均粒子径が500nm以下である乳化組成物を添加したことを特徴とする炭酸飲料を除く」と特定しているのに対し、甲1B発明-1の食品は、除かれる炭酸飲料に該当するか明らかでない点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み相違点7について検討する。
甲1Bには、マスキング剤は、辛味成分を添加することで辛味が付与された食品に配合することによりその辛味を抑制できることや、辛味成分としてスピラントールがあげられること、辛味が付与された食品として、野菜ジュース、コーヒー、ココア、紅茶、緑茶、醗酵茶、半醗酵茶、清涼飲料、機能性飲料などがあげられることが記載されている(上記(甲1Bb))。
しかしながら、甲1Bのその他の記載及び甲2B?甲7Bの記載を考慮しても、甲1B発明-1の「食品」について、甲1Bに多数例示されたマスキングの対象となる成分中から、辛味成分であるスピラントールを選択して辛味が付与された食品であるとするとともに、具体的な例示もない酸性炭酸飲料であるとすることが動機付けられるところはない。
そして、本件特許発明1は、スピラントールを含有する酸性炭酸飲料に、乳化成分を含有させたことで、スピラントールによる炭酸感の向上効果を保持しつつ、スピラントールの辛味刺激を低減したという、甲1B発明-1からは予測できない効果を奏するものである。

(イ)申立人の主張について
申立人は、甲3Bの記載(上記(甲3Ba))から、甲1B発明-1の「食品」の例としてあげられている「清涼飲料」は、果汁入り炭酸飲料も含み、甲4Bの記載(上記(甲9Aa))から、果汁入りの飲料のpHは7以下の酸性である旨主張する。
しかしながら、甲3Bには、アルコール飲料を除くほとんどの飲料が清涼飲料水に該当することが示されているだけで、格別、果汁入り炭酸飲料に着目したものではない。
そして、甲2B(上記(甲2Ba))に、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが食品分野における界面活性剤であることが記載され、甲5B(上記(甲5Ba))に、HLB10以上の乳化剤を有効成分とする炭酸ガス含有非アルコール飲料用起泡剤が記載され、甲6B(上記(甲1Aa))に、スピラントールを1?300ppb含有する炭酸飲料が記載されているが、これらの記載を考慮しても、甲1B発明-1の「食品」をスピラントール含有酸性炭酸飲料とすることが動機付けられるともいえない。
また、甲7B(上記(甲10Aa))には、炭酸飲料のガス内圧力が0.07MPa以上であることが記載されているだけで、上記判断に影響はない。
よって、申立人の主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、相違点8について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1B発明-1及び甲2B?甲7Bの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件特許発明2?9について
本件特許発明2?9は、それぞれ、本件特許発明1を直接又は間接的に引用して、さらに「乳化成分」とその「合計濃度」、「炭酸ガス非含有時のpH」、「酸性炭酸飲料に含まれるスピラントールの濃度」及び「ガス圧」を特定するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1B発明-1及び甲2B?甲7Bの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明10及び11について
ア 製造方法の発明である本件特許発明10及び辛味の低減方法である本件特許発明11は、物の発明である本件特許発明1とは、発明のカテゴリーが異なるものの、いずれもスピラントール含有酸性炭酸飲料を発明特定事項とするものであるから、製造方法の発明である甲1B発明-2及びマスキング方法の発明である甲1B発明-3とは、「乳化成分を含有させた食品の製造方法。」であるか、「乳化成分を含有させた食品の改善方法。」である点で一致し、上記(2)アで検討したのと同様の相違点7?8を有する。
したがって、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明10及び11は、甲1B発明-2又は甲1B発明-3及び甲2B?甲7Bの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 申立人の主張について検討するに、申立人は、本件特許発明10?11と、甲1Bに記載された発明とは、いずれも清涼飲料分野における辛味刺激の低減という点で分野と課題が共通する旨主張する。
しかしながら、甲1Bは、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有するマスキング剤の技術的事項に関するものであって、そのマスキングの対象となる成分は辛味成分に特定されず、食品も飲料に特定されるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明10?11は、甲1B発明-2又は甲1B発明-3及び甲2B?甲7Bの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第6 むすび
したがって、いずれの特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?11に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?11に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-25 
出願番号 特願2016-42768(P2016-42768)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西村 亜希子山村 周平  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
冨永 みどり
登録日 2020-07-30 
登録番号 特許第6742116号(P6742116)
権利者 キリンホールディングス株式会社 キリンビバレッジ株式会社
発明の名称 辛味刺激が低減されたアミド誘導体含有酸性炭酸飲料  
代理人 小澤 誠次  
代理人 松田 一弘  
代理人 小澤 誠次  
代理人 堀内 真  
代理人 山村 昭裕  
代理人 東海 裕作  
代理人 東海 裕作  
代理人 堀内 真  
代理人 園元 修一  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 山内 正子  
代理人 山内 正子  
代理人 園元 修一  
代理人 廣田 雅紀  
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