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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1375901 |
異議申立番号 | 異議2021-700340 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-04-13 |
確定日 | 2021-07-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6768362号発明「電池外装用積層体、電池外装用積層体の製造方法、電池外装体及び電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6768362号の請求項1?8に係る特許を維持する。 |
理由 |
理 由 第1 手続の経緯 特許第6768362号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年6月10日(優先権主張 平成27年9月17日)の出願(特願2016-116604号。以下、「本願」という。)であって、令和2年9月25日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月14日にその特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許について、令和3年4月13日付けで、特許異議申立人成田隆臣(以下、「申立人」という。)により、請求項1?8(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、本願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された、次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、 前記第1基材層がポリプロピレン又はポリエチレンを含む層であり、 前記第1接着剤層が、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなり、 前記ステンレス鋼箔の厚さが40μm以下であることを特徴とする電池外装用積層体。 【請求項2】 前記第1腐食防止層が、水溶性樹脂を含む層である請求項1に記載の電池外装用積層体。 【請求項3】 前記第2基材層が、ポリエチレンテレフタレートからなる厚さ3?11μmの層であって、 当該第2基材層と、前記ステンレス鋼箔との間に、第2接着剤層を有する、請求項1又は2に記載の電池外装用積層体。 【請求項4】 前記第1接着剤層が、酸変性された融点50?100℃のポリオレフィン樹脂と、フェノールノボラック型エポキシ樹脂とを含有する接着剤からなる層である、請求項1?3のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。 【請求項5】 前記第1腐食防止層が、水溶性樹脂と、ハロゲン化金属化合物と、キレート剤とを含有する、請求項2?4のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。 【請求項6】 請求項1?5のいずれか一項に記載の電池外装用積層体を製造する、電池外装用積層体の製造方法であって、 ステンレス鋼箔の片面の側に形成された第1接着剤層と、第1基材層とが接するように配して、当該積層体を70?150℃でドライラミネートする工程、を有することを特徴とする電池外装用積層体の製造方法。 【請求項7】 請求項1?5のいずれか一項に記載の電池外装用積層体を備える電池外装体であって、 電池を収納する内部空間を有し、電池外装用積層体の第1基材層の側が当該内部空間の側となることを特徴とする電池外装体。 【請求項8】 請求項7に記載の電池外装体を備えることを特徴とする電池。」 第3 申立理由の概要 1 申立人の主張 申立人は、証拠方法として、甲第7、8号証以外は、いずれも本願優先日前に日本国内または外国において頒布された、下記2に示す甲第1号証?甲第8号証(以下、「甲1」?「甲8」という。)を提出し、以下の申立理由1、2により、請求項1?8に係る本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。 (1)申立理由1(進歩性) ア 申立理由1-1(甲1に記載された発明を主引例とした申立理由1) 本件特許の下記(ア)?(ウ)の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記(ア)?(ウ)の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1?8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (ア)請求項1 刊行物:甲1及び甲2、甲3 (イ)請求項2、3 刊行物:甲1及び甲2?甲4 (ウ)請求項4?8 刊行物:甲1及び甲2?甲4、甲8 イ 申立理由1-2(甲2に記載された発明を主引例とした申立理由1) 本件特許の下記(ア)?(エ)の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記(ア)?(エ)の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1?8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (ア)請求項1 刊行物:甲2及び甲1、甲3 (イ)請求項2、3 刊行物:甲2及び甲1、甲3、甲5 (ウ)請求項4 刊行物:甲2及び甲1、甲3、甲5、甲8 (エ)請求項5?8 刊行物:甲2及び甲1、甲3?甲5、甲8 ウ 申立理由1-3(甲6に記載された発明を主引例とした申立理由1) 本件特許の下記(ア)?(エ)の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記(ア)?(エ)の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1?8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (ア)請求項1、2 刊行物:甲6及び甲2、甲3 (イ)請求項3 刊行物:甲6及び甲1?甲3 (ウ)請求項4 刊行物:甲6及び甲1?甲3、甲8 (エ)請求項5?8 刊行物:甲6、甲1?甲4、甲8 (2)申立理由2(サポート要件) 請求項1?8に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1?8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 2 証拠方法 甲1:特開2015-88415号公報 甲2:特開2012-164565号公報 甲3:特開2010-194759号公報 甲4:特開2011-157585号公報 甲5:エポクロス製品カタログ、株式会社日本触媒、2015年6月30日、p.1-14 甲6:中国特許出願公開第104916791号明細書 甲7:特開2015-174321号公報 甲8:再公表第2014/050686号 (当審注:甲8の発行日(平成28年8月22日)は、本件特許の優先日(平成27年9月17日)の後であるが、甲8に係る国際出願の国際公開第2014/050686号の国際公開日(平成26年4月3日)は、本件特許の優先日前である。以下では、国際公開第2014/050686号を「甲8の国際公開」という。) 第4 当審の判断 以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1(進歩性) (1)甲号証の記載及び甲号証に記載された発明 ア 甲1の記載及び甲1に記載された発明 (ア)甲1の記載 甲1には、「二次電池用外装材、二次電池、及び二次電池用外装材の製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。なお、下線は当審が付し、「・・・」は省略を表す(以下同様)。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材層の一方の面に、少なくとも金属箔層、腐食防止処理層、接着剤層、及び熱融着樹脂層が順に積層された二次電池用外装材であって、 前記基材層が、ポリエステル又はポリアミドを含み、 前記接着剤層は2種類以上のポリオレフィンを含み、 2種類以上の前記ポリオレフィンのうち最も融解温度が高い第一のポリオレフィンの融解温度が耐熱性付与温度以上基材層熱劣化限界温度以下であり、 2種類以上の前記ポリオレフィンのうち最も融解温度が低い第二のポリオレフィンの融解温度が耐熱性限界温度以上ラミネート温度以下であることを特徴とする二次電池用外装材。」 「【0002】 近年、パソコン、携帯電話などの携帯端末装置、ビデオカメラ、衛星、車両などに用いられる蓄電デバイスとして、超薄型化、小型化の可能なリチウムイオン電池などの二次電池が盛んに開発されている。このような電池に使用される二次電池用外装材として、多層フィルムからなるラミネート外装材(例えば、基材層/第1接着層/アルミニウム箔層/第2接着層/熱融着樹脂層のような構成)が注目を集めている。多層フィルムからなるラミネート外装材は、従来の容器として用いられている金属製の缶とは異なり、軽量で、放熱性が高く、形状を自由に選択できる点で、金属製の缶よりも優れている。 【0003】 このようなラミネート外装材は、アルミニウム箔層と熱融着樹脂層との間の第2接着層の作製方法によって大きく2種類に分類される。つまり、ラミネート外装材は、第2接着層をドライラミネート法で作製するドライラミネート構成と、第2接着層を押出ラミネート法で作製する熱ラミネート構成に大きく分類される。 ドライラミネート構成の二次電池用外装材は、一般的に包装材などで使用されるドライラミネート法で簡易的に製造できることから、使用期間は短く、低価格が求められるポータブル機器などの民生用途に使用される。 一方、熱ラミネート構成の外装材は、押出ラミネート法などより複雑な工程を経るため、使用期間が長く、高信頼性が求められる電気自動車、電動バイク、電動自転車などの産業用途に使用されている。」 「【0006】 近年、ラミネート外装材は、封止性や耐薬品性、深絞り成型性、水蒸気バリア性、耐熱性、絶縁性等のさまざまな特性が要求されている。特に、現状のドライラミネート構成の外装材には、熱ラミネート構成のラミネート外装材に比べ、耐薬品性、耐熱性及び水蒸気バリア性など、長期信頼性に関連する特性を高めることが求められている。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 しかしながら、特許文献1では耐薬品性や、成型性に関する規定はあるが、耐熱性に関わる規定はなされていない。例えば、ドライラミネート構成の第2接着層では熱ラミネート構成のものと比較し融解温度の低い成分を用いるが、電池を使用した際にこの融点以上まで電池の温度が上昇すると、第2接着層の融解が起こり強度低下の問題となる。 【0010】 そこで、本発明は上記問題を鑑み、耐薬品性、ラミネート強度の耐熱性、深絞り成型性、成型時の耐クラック性、及びヒートシール端部の水蒸気バリア性に優れる二次電池用外装材、当該二次電池用外装材を用いた二次電池、及び二次電池用外装材の製造方法を提供することを目的とする。」 「【0020】 (外装材) 本実施形態の外装材は、蓄電池に適用されるドライラミネート外装材である。 図1に示すように、本実施形態の外装材1は、基材層11の一方の面11aに、基材接着剤層12、金属箔層13、腐食防止処理層14、接着剤層15、及び熱融着樹脂層16が、一方の面11a側から基材接着剤層12、金属箔層13、腐食防止処理層14、接着剤層15、及び熱融着樹脂層16の順で積層されてなる積層構造を有する。 なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の厚さや寸法の比率は適宜異ならせてある。 【0021】 (基材層11) 基材層11は、電池を製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、加工や流通の際に起こりうるピンホールの発生を抑制する役割を果たす。また、エンボス成型時の金属箔層13の破断防止や、金属箔層13と他の金属との接触を防止する絶縁性などの役割を果たす。 基材層11としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等の延伸又は未延伸フィルム等が上げられる。これらのなかでも成型性、耐熱性、耐突き指し性、絶縁性を向上させる点から、2軸延伸ポリアミドや2軸延伸ポリエステルが好ましい。」 「【0025】 基材層11の厚さは、耐突き刺し性、絶縁性や、エンボス加工性などの点から、6μm(マイクロメートル)以上50μm以下が好ましく、10μm以上40μm以下であることがより好ましい。基材層11の厚さが6μm以上であれば、耐ピンホール性、絶縁性が向上し、基材層11の厚さが50μm以下であれば、成型性が向上する。 基材層11の表面に、耐殺傷性や、滑り性改善などのために、凹凸形状を形成することができる。」 「【0029】 (金属箔層13) 金属箔層13は、基材接着剤層12と接着剤層15との間、すなわち基材接着剤層12の基材層11とは反対側に形成される。金属箔層13は、水分が電池内に浸入を防止する水蒸気バリア性を有する。また、金属箔層13は、深絞り成型をするために延展性を有する。 金属箔層13としては、アルミニウム、ステンレス鋼等の各種金属箔を使用することができ、重量(比重)、防湿性、加工性、コストの面から、アルミニウム箔が好ましい。 【0030】 ・・・ 金属箔層13の厚さは、バリア性、耐ピンホール性、加工性の点から、10μm以上100μm以下が好ましく、15μm以上80μm以下がより好ましい。」 「【0034】 (腐食防止処理層14) 腐食防止処理層14は、金属箔層13の熱融着樹脂層16側、すなわち金属箔層13の基材接着剤層12とは反対側に形成される。腐食防止処理層14は、電解質と水分の反応により発生するフッ酸による金属箔層13の表面の腐食を防止する。 また、腐食防止処理層14は、腐食防止機能に加えて、接着剤層15や基材接着剤層12とのアンカー層として機能も有する。 【0035】 ・・・また、腐食防止処理層14は、単層であることに限定されず、腐食防止機能をもつ塗膜上にオーバーコート剤として樹脂をコーティングするなど2層以上で耐食性を有する構成を採用してもよい。 【0036】 ・・・非クロム系処理の具体例としては、酸化セリウムにポリアクリル酸をオーバーコートした処理が挙げられる。 【0037】 (接着剤層15) 接着剤層15は、熱融着樹脂層16と腐食防止処理層14との間、すなわち腐食防止処理層14の金属箔層13とは反対側に形成される。接着剤層15には、接着剤が用いられ、具体的には、接着剤層15に適用される接着剤としては、酸変性ポリオレフィンを挙げることができる。・・・ 【0038】 接着剤層15は、2種類以上のポリオレフィンを含む塗液を塗工することで形成されている。・・・なお、融解温度は、JIS K7121に準拠して測定した値である。 【0039】 ここで耐熱性付与温度とは、二次電池用外装材及び二次電池を作製、使用する際に必要な耐熱性が得られるポリオレフィンの最低の融解温度である。二次電池は充放電する際に発熱する可能性があり、また、二次電池を使用する環境によっても高温化での使用では耐熱性が必要となる。 接着剤層15の融点(融解温度)が低い場合、高温下で密着性を保持できず開放してしまう。接着剤層15に耐熱性を付与するためには、融解温度が高い第一のポリオレフィンが接着剤層15に含まれている必要がある。 作製した外装材1を100mm×15mmサイズでカットし80℃の雰囲気に5分間放置した後に、アルミニウム箔で形成された金属箔層13と接着剤層15との間の強度を80℃雰囲気下で引張速度100mm/分、JIS K6854-3で規定されるはく離接着強さ試験方法のT型はく離でラミネート強度を測定し、3N/15mm以上となる第一のポリオレフィンの融解温度を耐熱性付与温度とする。十分な耐熱性を得るには、第一のポリオレフィンの融解温度の下限値である耐熱性付与温度は、90℃以上であることが好ましい。 【0040】 また、基材層熱劣化限界温度とは、ドライラミネート時や熱処理時において基材層11に熱が加わった際に基材層11に劣化が生じ、成型性の低下が起こる限界温度である。外装材1を作製する際に、接着剤層15を融解させ密着させるために熱処理を行うが、接着剤層15の融点が高い場合、より高温での加熱が必要となり、基材層11の劣化が生じる。 作製した外装材1を200mm×100mmサイズでカットし、100×50mmサイズの冷間成型用装置にセットした後、ヘッドスピードが10mm/sec、絞り深さが6mmの条件でエンボス加工を行い、成型延伸部に破断、ピンホールが発生しない温度を基材層熱劣化限界温度とする。基材層11の種類により成型性が低下する温度は変化するが、基材層熱劣化限界温度は概ね200℃程度である。但し、ドライラミネート時における接着剤層15の溶剤への溶解性などを考慮すると、第一のポリオレフィンの融解温度は、160℃以下であることが好ましい。 【0041】 また、耐熱性限界温度とは、二次電池用外装材及び二次電池を作製、使用する際に必要な耐熱性が確保されるのに最低限必要な第二のポリオレフィンの融解温度である。接着剤層15に極度に融解温度が低いポリオレフィンが含まれていると、高温下で密着性を保持できず開放してしまう。 作製した外装材1を100mm×15mmサイズでカットし80℃の雰囲気に5分間放置した後に、アルミニウム箔で形成された金属箔層13と接着剤層15との間の強度を80℃雰囲気下で引張速度100mm/分、T型はく離でラミネート強度を測定し、3N/15mm以上となる第二のポリオレフィンの融解温度を耐熱性限界温度とする。最低限の耐熱性を得るには、第二のポリオレフィンの融解温度の下限値である耐熱性限界温度は、60℃以上であることが好ましい。 【0042】 また、ラミネート温度とは、接着剤層15を介して金属箔層13と熱融着樹脂層16をドライラミネート法により接着させる際に加える温度である。ドライラミネート時には第二のポリオレフィンが融解している必要があり、第二のポリオレフィンの融解温度がラミネート温度よりも高い場合、第二のポリオレフィンが融解せず、金属箔層13と熱融着樹脂層16とを密着させることができない。 ラミネート温度が高い場合、基材層11に熱が加わった際の劣化や、熱融着樹脂層16を構成するポリオレフィンが結晶化し、深絞り成形時にクラックが発生しやすくなる原因となる。上記の理由より、第二のポリオレフィンの融解温度の上限値であるラミネート温度は90℃以下であることが好ましい。」 「【0049】 接着剤層15には、耐薬品性やラミネート強度、耐熱性に問題が生じない範囲で第一のポリオレフィン及び第二のポリオレフィン以外の、融解温度が第二のポリオレフィン以上、第一のポリオレフィンの融解温度以下の樹脂が含まれていてもよい。第一のポリオレフィン及び第二のポリオレフィン以外の樹脂としては、例えば、低密度、中密度、高密度のポリエチレン;エチレン-α-オレフィン共重合体、ホモ、ブロックやランダムポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン、ブテン-α-オレフィン共重合体、またはこれらの酸変性物などが挙げられる。」 「【0058】 (熱融着樹脂層16) 熱融着樹脂層16は、腐食防止処理層14上に接着剤層15を介して、すなわち接着剤層15の腐食防止処理層14とは反対側に形成される。接着剤層15上に熱融着樹脂層16が積層されることで、2枚の外装材1の熱融着樹脂層16同士を向かい合わせにし、熱融着樹脂層16の融解温度以上でヒートシールすることにより、密閉することができる。 また、熱融着樹脂層16の結晶性を制御することで、ヒートシール端部から電池内部に侵入してくる水分を調整することができる。また、熱融着樹脂層16の溶融粘度を調整することで、ヒートシール時に押出された樹脂の流動性を調整することができる。 【0059】 熱融着樹脂層16としては、ポリオレフィンが挙げられる。ポリオレフィンとしては、低密度、中密度、高密度のポリエチレン、ホモ、ブロック又はランダムポリプロピレンなどが挙げられる。」 「【0084】 (実施例) 以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。 【0085】 [使用材料] 本実施例に使用した材料を以下に示す。 【0086】 (基材層11) 基材A-1:2軸延伸ナイロンフィルム。 【0087】 (基材接着剤層12) 基材接着剤B-1:2液硬化型ポリエステルウレタン接着剤。 【0088】 (金属箔層13) 金属箔C-1:焼鈍処理した軟質アルミニウム箔8079材。 【0089】 (腐食防止処理層14) 処理剤D-1:酸化セリウムからなる処理剤。(多層腐食防止層) 【0090】 (接着剤層15) 接着剤E-1:イミド架橋アクリル変性無水マレイン酸変性ポリオレフィン。(ブテン-エチレン共重合体(融解温度110℃)50重量%とプロピレン-エチレン共重合体(融解温度70℃)50重量%) 接着剤E-2:イミド架橋アクリル変性無水マレイン酸変性ポリオレフィン。(ブテン-エチレン共重合体(融解温度110℃)80重量%とプロピレン-エチレン共重合体(融解温度70℃)20重量%) 接着剤E-3:イミド架橋アクリル変性無水マレイン酸変性ポリオレフィン。(ブテン-エチレン共重合体(融解温度110℃)20重量%とプロピレン-エチレン共重合体(融解温度70℃)80重量%) ・・・ 【0091】 (熱融着樹脂層16) 熱融着樹脂F-1:未変性ポリプロピレンフィルム。(融解温度150℃) 【0092】 実施例及び比較例の外装材の製造方法について説明する。 【0093】 (実施例1) 金属箔C-1(厚さ40μm)上に処理剤D-1をバーコーターにより塗布し、乾燥ユニットにおいて焼付け処理を施し、乾燥厚さ100nmの腐食防止処理層を形成した。 続いて、腐食防止処理層を形成した金属箔C-1の反対面に、基材接着剤B-1を乾燥厚さ4μmになるように塗工し、基材A-1(厚さ25μm)を40℃でドライラミネートを行った。その後、40℃で7日間エージング処理をすることで基材接着剤B-1を架橋させ、積層体を作製した。 次に、積層体の腐食防止処理層上に、接着剤E-1を乾燥厚さ3μmになるように塗工し、熱融着樹脂F-1(厚さ40μm)を100℃でドライラミネートを行った。その後、40℃で7日間エージング処理をすることで架橋させ、外装材を作製した。 【0094】 (実施例2) 実施例1と同様に積層体を作製した後に、積層体の腐食防止処理層上に、接着剤E-2を乾燥厚さ3μmになるように塗工し、熱融着樹脂F-1(厚さ40μm)を100℃でドライラミネートを行った。その後、40℃で7日間エージング処理をすることで架橋させ、外装材を作製した。 【0095】 (実施例3) 実施例1と同様に積層体を作製した後に、積層体の腐食防止処理層上に、接着剤E-3を乾燥厚さ3μmになるように塗工し、熱融着樹脂F-1(厚さ40μm)を100℃でドライラミネートを行った。その後、40℃で7日間エージング処理をすることで架橋させ、外装材を作製した。 【0096】 (実施例4) 実施例1と同様に外装材を作製した後にオーブンで140℃に加熱させた直後に、冷却ロールで20℃に冷却し、加熱・冷却工程の熱処理を行った外装材を作製した。」 「【0102】 [耐薬品性の評価方法] エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を重量比で1対1対1に混合し、1mol/lの6フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6))を加えた。その後、6フッ化リン酸リチウムに対し1000ppmの水分を添加した。作製した電解液に100mm×15mmサイズでカットした外装材を浸漬し、85℃の環境下に4週間保管したあと常温に戻した。アルミニウム箔で形成された金属箔層と接着剤層との間の強度を引張速度100mm/分、T型はく離でラミネート強度を測定した。 評価は以下の基準にて行った。 「○」:ラミネート強度が、3N/15mm以上。 「×」:ラミネート強度が、3N/15mm未満。 【0103】 [ラミネート強度の耐熱性の評価方法] 100mm×15mmサイズでカットした外装材を80℃の雰囲気に5分間放置した後に、アルミニウム箔で形成された金属箔層と接着剤層との間の強度を80℃雰囲気下で引張速度100mm/分、T型はく離でラミネート強度を測定した。 評価は以下の基準にて行った。 「○」:高温ラミネート強度が、3N/15mm以上。 「×」:高温ラミネート強度が、3N/15mm未満。 【0104】 [深絞り成型性の評価方法] 作製した外装材を200mm×100mmサイズでカットした。100×50mmサイズの冷間成型用装置にセットし、ヘッドスピードが10mm/sec、絞り深さが6mmの条件でエンボス加工を行い、成型延伸部に破断、ピンホールが発生するかどうかを目視及び、光学顕微鏡で確認した。 評価は以下の基準にて行った。 「○」:成形延伸部に破断、ピンホールなし。 「×」:成形延伸部に破断、ピンホールあり。 【0105】 [成型時の耐クラック性の評価方法] 作製した外装材を40℃で6日間エージング処理した後、200mm×100mmサイズでカットした。100×50mmサイズの冷間成型用装置にセットした後、ヘッドスピードが10mm/sec、絞り深さが5mmの条件でエンボス加工を行い、成型延伸部にクラックによる白化が発生するかどうかを目視及び、光学顕微鏡で確認した。 評価は以下の基準にて行った。 「○」:成形延伸部に白化なし。 「×」:成形延伸部に白化あり。 【0106】 [水蒸気バリア性の評価方法] 作製した外装材を240mm×70mmサイズでカットし、短辺の中間部を折り返し、長辺の2辺を幅3mmでヒートシールした。その後、残った短辺から含有水分量を20ppm以下に抑えたエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を重量比で1対1対1に混合した電解液を3mg注入した後、同様に残った1辺を幅3mmでヒートシールし、水分透過測定用の120mm×70mmサンプルを作製した。 作製したサンプルを60℃で湿度90%の環境下に4週間保管させた後の電解液中の水分量をカールフィッシャー試験機で測定し、水分含有量を、実施例1を基準(100%)としたときの値を相対評価した。 判定基準 「○」:実施例1の水分量に比較して120%未満。 「×」:実施例1の水分量に比較して120%以上。 なお、実施例1自体は、「実施例1の水分量に比較して100%」となり、評価は「○」になる。 【0107】 実施例1から4、及び比較例1から5における耐薬品性、ラミネート強度の耐熱性、深絞り成型性、成型時の耐クラック性、及び水蒸気バリア性の結果を表1に示す。 【0108】 【表1】 」 「【図1】 」 (イ)甲1に記載された発明 上記(ア)で摘示した事項(特に、請求項1及び【0084】?【0093】参照。)から、請求項1に係る発明を踏まえ、実施例1の二次電池用外装材に着目すると、以下の甲1発明が記載されていると認められる。 <甲1発明> 「基材層の一方の面に、少なくとも焼鈍処理した軟質アルミニウム箔8079材である金属箔層、腐食防止処理層、接着剤層、及び熱融着樹脂層が順に積層された二次電池用外装材であって、 前記熱融着樹脂層が、未変性ポリプロピレンフィルムを含み、 前記接着剤層は2種類以上のポリオレフィンであるイミド架橋アクリル変性無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含み、 2種類以上の前記ポリオレフィンのうち最も融解温度が高いブテン-エチレン共重合体の融解温度が耐熱性付与温度以上基材層熱劣化限界温度以下の110℃であり、 2種類以上の前記ポリオレフィンのうち最も融解温度が低いプロピレン-エチレン共重合体の融解温度が耐熱性限界温度以上ラミネート温度以下の70℃であり、 前記金属箔層は厚さが40μmである二次電池用外装材。」 イ 甲2の記載及び甲2に記載された発明 (ア)甲2の記載 甲2には、「電池外装用積層体および二次電池」(発明の名称)について、以下の記載がある。 「【請求項1】 第1の面および第2の面を有するステンレス鋼板と、 前記ステンレス鋼板の第1の面に形成された、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理層と、 前記有機無機複合処理層の表面に形成された、厚みが10?100μmの熱融着性ポリオレフィン系樹脂層と、 を有する、電池外装用積層体。」 「【請求項6】 前記有機無機複合処理層と前記熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間に、厚みが10?100μmの酸変性ポリオレフィン系樹脂層をさらに有する、請求項1に記載の電池外装用積層体。 【請求項7】 前記ステンレス鋼板の板厚は、20?400μmの範囲内である、請求項1に記載の電池外装用積層体。 【請求項8】 前記ステンレス鋼板の第2の面に形成された樹脂層をさらに有する、請求項1に記載の電池外装用積層体。」 「【0002】 ・・・特に、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度および出力特性に優れているため、小型化および軽量性が求められる携帯電話やモバイル機器などに多用されている。従来、これらの小型電池の包装部材には、軽量性、成形性およびコストの観点から、アルミニウム合金が用いられてきた。 【0003】 また、近年、二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車、太陽電池用蓄電池などの大型機器においても採用されている。これら大型機器用の電池では、出力容量を向上させるために電解液の量を増やす必要があり、電池サイズも大型になる。このような大型電池の包装部材には、小型電池の包装部材以上の安全性(堅牢性や耐久性など)が求められる。 【0004】 従来、電池の包装部材として用いられてきたアルミニウム合金は剛性が低いため、電池内部の圧力増加に対する耐圧性を高めるためには板厚を増加させる必要があった。また、アルミニウム合金は耐座屈性に劣るため、電池セル同士を結束および固定する場合にケース周辺のフランジ部を使用するときは、補助的な結束部材が必要であった。したがって、アルミニウム合金を電池の包装部材として使用する場合、電池の省スペース化および低コスト化には限界があった。さらに、アルミニウム合金は熱膨張係数が大きいため、放充電時の発熱により、包装部材に大きな熱衝撃が加わるという問題もあった。 【0005】 上記問題点を解決する手段として、ステンレス鋼板を電池の包装部材に使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、オーステナイト系ステンレス鋼板を成形加工して得られたケース部材の内部に電池部材(正極や負極、セパレータ、電解液など)を収容し、ケース部材同士をシーム溶接により接合することで、電池を製造することが記載されている。 【0006】 特許文献1に記載のステンレス鋼板からなる電池外装用材は、高強度かつ熱膨張係数が小さいため、上記問題点を解決することができる。しかしながら、特許文献1に記載の電池外装用材を使用して電池を製造する場合、電池部材をケース内に収容した状態で溶接することから、溶接熱により電池部材(特に樹脂製のセパレータ)が劣化してしまうおそれがある。また、特許文献1の電池に限らず、ステンレス鋼板などの金属からなるケースを使用した電池では、使用時に容器の内圧が過剰に上昇して容器が破裂するおそれがある。容器内圧の過剰な上昇を防ぐためには、安全弁を設ければよいが、安全弁は複雑な構造をとるため、製造コストが高くなってしまう。」 「【0018】 ステンレス鋼板の板厚は、電池外装材としての要求重量や要求強度、要求加工深さなどに応じて適宜設定することができる。電池外装材の重量を軽量化する観点からは、板厚は薄いほど好ましいが、板厚を薄くするほど、強度および加工性が低下し、かつ製造コストが上昇してしまう。電池外装材としての強度を確保する観点からは、板厚は20μm以上であることが好ましい。また、50mm程度の深絞り加工を行う場合であっても、板厚は400μmもあれば十分である。一般的に求められる電池外装材の強度および加工深さを考慮すると、ステンレス鋼板の板厚は、40?150μmの範囲内が好ましい。 【0019】 (2)有機無機複合処理層 有機無機複合処理層は、ステンレス鋼板の第1の面に形成されている。有機無機複合処理層は、ステンレス鋼板と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層(または酸変性ポリオレフィン系樹脂層)とを強固に密着させて、電解質の劣化または加水分解により発生するフッ酸によるステンレス鋼板の劣化を防ぐ機能を担う。」 「【0056】 熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を構成する熱融着性ポリオレフィン系樹脂の種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。熱融着性ポリオレフィン系樹脂の例には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などが含まれる。これらの中では、ポリプロピレンが特に好ましい。」 「【0058】 有機無機複合処理層の上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができる。たとえば、有機無機複合処理層の上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルムを積層してもよいし(積層法)、有機無機複合処理層の上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂組成物を塗布してもよい(塗布法)。積層法の例には、熱ラミネーション法、サンドラミネーション法などが含まれる。 【0059】 (4)酸変性ポリオレフィン系樹脂層 本発明の積層体は、ステンレス鋼板の第1の面に形成された有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間に、酸変性ポリオレフィン系樹脂層を有していてもよい。酸変性ポリオレフィン系樹脂層は、有機無機複合処理層とポリオレフィン系樹脂層との密着性をより向上させる。 【0060】 酸変性ポリオレフィン系樹脂層を構成するポリオレフィン系樹脂の種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。酸変性ポリオレフィン系樹脂の例には、不飽和カルボン酸でグラフト変性したオレフィン樹脂、エチレンもしくはプロピレンとアクリル酸もしくはメタクリル酸との共重合体、金属架橋オレフィン樹脂などが含まれる。これらの中では、耐熱性の観点から、不飽和カルボン酸でグラフト変性したオレフィン樹脂が特に好ましい。 ・・・ 【0062】 酸変性ポリオレフィン系樹脂層を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができる。たとえば、有機無機複合処理層と熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間に酸変性ポリオレフィン系樹脂フィルムを積層してもよいし(積層法)、熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を形成する前に、有機無機複合処理層の上に酸変性ポリオレフィン系樹脂組成物を塗布してもよい(塗布法)。・・・ 【0063】 (5)外層樹脂層 本発明の積層体は、ステンレス鋼板の第2の面側に樹脂層(以下「外層樹脂層」ともいう)を有していてもよい。外層樹脂層は、電池外装用材に求められる加工性、意匠性、耐突き刺し性、絶縁性などを向上させうる。 【0064】 外層樹脂層を構成する樹脂の種類は、特に限定されず、要求される特性(加工性、意匠性、耐突き刺し性、絶縁性など)に応じて公知のものから適宜選択することができる。また、外層樹脂層の厚みも特に限定されず、要求される特性に応じて適宜設定することができる。さらに、外層樹脂層は、単層であってもよいし、2層以上の複層であってもよい。」 「【実施例】 【0070】 供試ステンレス鋼板として、板厚0.1mmのSUS304(BA材)を準備した。各ステンレス鋼板をアルカリ脱脂(pH12、液温60℃、浸漬時間1分間)した後、各ステンレス鋼板の表面に処理液(有機無機複合処理液、有機処理液または無機処理液)をバーコータを用いて塗布し、160℃のオーブンで45秒間乾燥させて、各ステンレス鋼板の表面に処理層(有機無機複合処理層、有機処理層または無機処理層)を形成した。」 「【0077】 また、実施例2、4?11および比較例1?3では、処理層(有機無機複合処理液、有機処理液または無機処理液)を形成したステンレス鋼板の表面に、酸変性ポリプロピレンフィルムと上述の無延伸ポリプロピレンフィルムとを2枚重ねて上述の熱ラミネーション法で積層し、積層体を作製した(表2参照)。酸変性ポリプロピレンフィルムは、酸変性ポリプロピレン(モディック、P553A;三菱化学株式会社)をTダイ押し出し機を用いて30μmの厚さで押し出して調製した。 ・・・ 【0078】 得られた各積層体(実施例1?11、比較例1?3)から試験片(15mm×100mm)を切り出し、JIS K6854-3に準拠して引張り速度300mm/分で密着性試験を行った。無延伸ポリプロピレンフィルム(実施例1、3)または酸変性ポリプロピレンフィルム(実施例2、4?11および比較例1?3)の有機無機複合処理層に対する接着強度が15N/15mm以上の場合を「◎」、10N/15mm以上15N/15mm未満の場合を「○」、10N/15mm未満の場合を「×」と評価した。 【0079】 また、得られた各積層体(実施例1?11、比較例1?3)から新たに試験片(35mm×35mm)を切り出し、耐電解液試験を行った。まず、密閉可能なテフロン(登録商標)製容器内において、各試験片を85℃の電解液に7日、14日、21日または28日間浸漬した後、各試験片をエタノールで洗浄し、乾燥させた。電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合液(1:1)に6フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6))を1モル/リットルとなるように添加して調製した。次いで、セロハンテープを各試験片のフィルムに貼り付けた後、セロハンテープを剥がして、フィルム密着状態を評価した。セロハンテープ剥離試験後もフィルムが剥離しなかったものを「◎」、セロハンテープ剥離試験前はフィルムが剥離していないが試験後に剥離したものを「○」、電解液への浸漬のみでフィルムが剥離したものを「×」と評価した。 【0080】 密着性試験および耐電解液試験の結果を表3に示す。「-」は、試験継続を断念したことを示す。 【表3】 」 (イ)甲2に記載された発明 上記(ア)で摘示した事項から、請求項1に係る発明を踏まえ、請求項6?8、【0018】、【0056】、【0077】の記載に着目すると、以下の甲2発明が記載されていると認められる。 <甲2発明> 「第1の面および第2の面を有するステンレス鋼板と、 前記ステンレス鋼板の第1の面に形成された、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂および塩基性リン酸化合物を含有する樹脂組成物の硬化物からなる有機無機複合処理層と、 前記有機無機複合処理層の表面に形成された、厚みが10?100μmの熱融着性ポリオレフィン系樹脂層と、 前記有機無機複合処理層と前記熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間の、厚みが10?100μmの酸変性ポリオレフィン系樹脂層と、 前記ステンレス鋼板の第2の面に形成された樹脂層をさらに有し、 前記熱融着性ポリオレフィン樹脂層を構成する熱融着性ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンを含み、 前記ステンレス鋼板の板厚は、20?400μmの範囲内である、電池外装用積層体。」 ウ 甲3の記載 甲3には、「蓄電デバイス容器用樹脂被覆ステンレス鋼箔」(発明の名称)について、以下の記載がある。 「【0001】 本発明は、高温サイクル耐性、クリーン性、意匠性に優れ、製品不良が少ない蓄電デバイス容器用樹脂被覆ステンレス鋼箔に関する。」 「【0003】 近年、電子・電気部品の小型化に伴い2次電池やキャパシタを始めとする蓄電デバイスにも小型化・軽量化が要望されるようになった。これらの動向の中で、容器の薄肉化は、限定された容積により多くの電解液やイオンを搭載し、電気容量を増大できるツールとして注目されている。しかし、薄肉化により容器の強度が低下すると、外力や突き刺しが加えられた際に変形、破壊して内容物電解液の液漏れが発生する危険性がある。電解液の液漏れは、蓄電デバイスが内蔵された装置に甚大な障害を与える可能性が高い。そのため、容器の部材がプラスチックやアルミニウムである場合、肉厚が200μm以下では強度が不十分であり、さらなる薄肉化には強度の高い材料が必要である。また、量産を考慮すると汎用材料であることが好ましい。 【0004】 これらの要求特性を満たす材料としてステンレス鋼箔がある。ステンレス鋼箔は、ステンレス鋼を200μm厚み以下にまで薄肉化した箔であり、ステンレス鋼の引張強さ、ビッカース硬さは、一般にプラスチックやアルミニウムの2?10倍で高強度であるため、蓄電デバイス容器の薄肉材料として有望である。今後の蓄電デバイス開発において、電気容量増大のための薄肉化と、安全性向上のための強度向上を両立するためには、ステンレス鋼箔は必須であるともいえる。」 「【0011】 さらに、ステンレス鋼箔はアルミニウム箔よりも硬く、熱膨張、収縮が小さいため、よりこの傾向が顕著となる。アルミニウム箔のヤング率及び剛性率は、ステンレス鋼箔と比較して1/4?1/3程度であり、かつ線膨張係数も30?100%程度大きくなって、樹脂の熱膨張、収縮が緩和され易い。そのため、温度サイクル試験を課した際に発生する応力歪は、アルミニウム箔の場合よりもステンレス鋼箔の方がはるかに大きく、厳しくなるため、被覆している樹脂の剥離が非常に発生し易い。 【0012】 特に、蓄電デバイス容器用途においては、容器内面側にはヒートシールで容器成形する目的でポリエチレンやポリプロピレンが被覆されており、これらの熱膨張、収縮はステンレス鋼箔のそれよりも大きいため、温度サイクル試験を課した際、容器外面側に被覆した樹脂にとっては、ステンレス鋼箔単体の場合よりも、剥離を誘発する反り等の応力歪が、より大きくなり悪化する。このように、従来技術の熱ラミネートでは蓄電デバイス用途にステンレス鋼箔を使用する場合に特有の、温度サイクル耐性について課題があった。 【0013】 また、熱ラミネートで樹脂を被覆する場合は、樹脂が溶融するまで高温に加熱するため、加熱時と実使用時の温度差が大きくなり、樹脂と基材の金属箔の熱収縮差が大きく、本質的に剥離を発生させ易い。特に、樹脂が結晶性の場合は、結晶化に伴う体積収縮が加わるため、より悪化する場合がある。また、樹脂はフィルムに成形されて被覆されることが多いが、一度溶融すると、加工性等の特性を考慮して制御した延伸倍率や結晶化度が大きく狂うため、好ましくない。 【0014】 そこで、本発明は、上述の問題を解決し、ステンレス鋼箔を基材に用いた熱ラミネートによる樹脂被覆材料を蓄電デバイス容器に適用できる、温度サイクル耐性に優れた樹脂被覆ステンレス鋼箔を提供することを目的とする。」 「【0048】 本発明に係るステンレス鋼箔は、オーステナイト系(SUS301、304、316等)、フェライト系(SUS430等)、マルテンサイト系(SUS410等)のいずれでもよく、熱処理、圧延も自由に行なうことができ、容器としての加工性と強度の観点から、厚さが200μm以下10μm以上であることが好ましい。」 「【0055】 本実施例及び比較例に使用するステンレス鋼箔は全て、厚みが50μmのSUS304BAを使用した。」 「【0063】 実施例22では、容器の内面側にクロメート処理を施し、その上に厚さ50μの変性ポリプロピレンフィルム(東セロ株式会社製アドマーQE060C#50)を175℃、1MPaの圧力でステンレス鋼箔に熱圧着した。」 エ 甲4の記載 甲4には、「金属表面処理剤及び金属表面処理方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。 「【0001】 本発明は、ステンレス鋼からなる基材表面とラミネートフィルム又は樹脂塗膜との密着性を向上させることができる表面処理皮膜を形成するための、ラミネート下地用の金属表面処理剤、及びその金属表面処理剤を用いた金属表面処理方法に関する。」 「【0004】 特に最近では、携帯電話、電子手帳、ノート型パソコン又はビデオカメラ等に用いられるモバイル用リチウムイオン2次電池の外装材として、軽量でバリアー性の高いアルミニウム箔又はステンレス箔等の金属箔が好ましく用いられており、こうした金属箔の表面にラミネート加工が適用されている。また、電気自動車又はハイブリッド自動車の駆動エネルギーとしてリチウムイオン2次電池が検討されているが、その外装材としても、ラミネート加工した金属箔が検討されている。」 「【0006】 ラミネートフィルムを金属材料の表面(以下、単に「金属表面」ともいう。)にラミネート加工する際、ラミネートフィルムと金属表面との密着性及び金属表面の耐食性を向上させるために、金属表面を脱脂洗浄した後、通常、リン酸クロメート等の化成処理等が施される。しかしながら、こうした化成処理は、処理後に余剰の処理液を除去するための洗浄工程が必要であり、その洗浄工程から排出される洗浄水の廃水処理にコストがかかる。特にリン酸クロメート等の化成処理等は六価クロムを含む処理液が用いられるので、近年の環境的配慮から敬遠される傾向にある。」 「【0013】 本発明の目的は、ステンレス鋼からなる基材表面に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成し、その後に深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しないような高い密着性を付与し、さらに溶剤や酸に曝されても長期間にわたって安定した密着性を維持し得る表面処理皮膜を形成するための、ラミネート下地用の金属表面処理剤を提供することにある。また、本発明の他の目的は、その金属表面処理剤を用いた金属表面処理方法、その金属表面処理方法で形成された金属表面処理皮膜、及び、その金属表面処理方法で形成した表面処理皮膜を有する金属材料を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0014】 上記課題を解決するための本発明に係る金属表面処理剤は、ステンレス鋼からなる基材表面にラミネート下地用金属表面処理皮膜を形成するための金属表面処理剤であって、Cr(III)化合物(A)と、造膜性を有する有機化合物及び無機化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)とを含有し、前記Cr(III)化合物(A)の金属Cr換算質量をMとし、前記化合物(B)の質量をNとしたとき、N/Mが0.005?1であることを特徴とする。」 「【0016】 本発明に係る金属表面処理剤において、前記化合物(B)が、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂及び天然高分子から選ばれる1種又は2種以上の樹脂化合物(b1)と、珪酸化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物及びリン酸塩化合物から選ばれる1種又は2種以上の無機化合物(b2)と、水酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基、りん酸基、アミノ基及びアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を一分子内に2個以上有する有機キレート化合物(b3)と、から選ばれる少なくとも1種である。」 「【0057】 これらの樹脂化合物(b1)としては、水溶性樹脂、自己乳化若しくは乳化剤によって強制乳化した水系エマルジョン、水系ディスパージョン等の水系の架橋性樹脂、又は、水系の高分子樹脂としたものを挙げることができる。中でも、数平均分子量1000未満のモノマー乃至オリゴマーが皮膜形成時の熱、紫外線若しくは電子線等によって自己架橋して高分子化する架橋性樹脂、又は、他の架橋剤と反応して高分子化する架橋性樹脂、を好ましく適用できる。また、数平均分子量が1000?200000で、熱等によって造膜する高分子樹脂を適用することもできる。また、これら高分子樹脂は、本発明の効果を阻害しなければ、架橋反応性の官能基を有するものであってもよい。」 「【0060】 ジルコニウム化合物としては、Zrの炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化物、フルオロ酸(塩)、有機酸塩、有機錯化合物等を用いることができる。・・・ 【0061】 チタン化合物としては、Tiの炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化物、フルオロ酸(塩)、有機酸塩、有機錯化合物等を用いることができる。」 「【0063】 次に、有機キレート化合物(b3)の例を以下に示す。 【0064】 有機キレート化合物(b3)は、3価クロムとキレートして皮膜を形成しうる水酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基、りん酸基、アミノ基、アミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を、一分子内に2個以上有する化合物である。 【0065】 有機キレート化合物としては、多価有機酸、有機ホスホン酸、多価アミン化合物、アミド化合物等を用いることができる。具体的には、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、エチレンジアミン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。」 「【0095】 【表1】 」 オ 甲5の記載 甲5には、「オキサゾリン系反応性ポリマー」の「エポクロス」について、以下の記載がある。 「 」(第4頁「製品の種類、性状および特長」) カ 甲6の記載及び甲6に記載された発明 (ア)甲6の記載(甲7の記載) 甲6には、「 」(包装材、電池用外装ケース及び電池)(発明の名称)について、以下の記載がある。なお、括弧内の日本語訳は、甲6に係る出願のパリ条約に基づく優先権主張の基礎となった出願の公開公報である甲7に基づいて当審が付した。以下同じ。また、以下の日本語訳には、甲6と対応する記載がある甲7の段落番号も記載する。) 「 」(請求項2) (【請求項2】 外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としての熱可塑性樹脂層と、これら両層間に配設された金属箔層と、を含む包装材において、 前記熱可塑性樹脂層は、低融点で高流動のポリオレフィン樹脂からなる第1樹脂と、高融点で低流動のポリオレフィン樹脂からなる第2樹脂と、を含有した樹脂組成物で形成された混合樹脂層を少なくとも含むことを特徴とする包装材。) 「 」(請求項9) (【請求項9】 請求項1?7のいずれか1項に記載の包装材2枚と、 電池本体部と、を備え、 前記2枚の包装材の間に前記電池本体部が配置され、前記2枚の包装材の内側層の周縁部同士がヒートシールによりシール接合されることによって電池ケースが形成され、該電池ケース内部に前記電池本体部が封入されていることを特徴とする電池。) 「 」(請求項11) (【請求項11】 前記金属箔層と前記熱可塑性樹脂層とが第2接着剤層を介して積層一体化され、前記第2接着剤層は、ドライラミネート法により形成された融点が60℃?100℃の接着剤層である請求項9または10に記載の電池。) 「 」 (【0001】 本発明は、リチウムイオン2次電池等の電池用の外装材として好適に用いられる包装材に関する。) 「 」 (【0042】 本発明に係る包装材1の一実施形態を図1に示す。この包装材1は、電池用外装材として用いられるものである。前記包装材1は、金属箔層4の上面に第1接着剤層5を介して耐熱性樹脂層(外側層)2が積層一体化されると共に、前記金属箔層4の下面に第2接着剤層6を介して熱可塑性樹脂層(内側層)3が積層一体化された構成からなる。 【0043】 前記熱可塑性樹脂層(内側層)3は、リチウムイオン二次電池等で用いられる腐食性の強い電解液などに対しても優れた耐薬品性を具備させると共に、包装材1にヒートシール性を付与する役割を担うものである。) 「 」 (【0055】 前記熱可塑性樹脂層3(混合樹脂層31及び単一樹脂層32など)を構成するポリオレフィン樹脂(の種類)としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、オレフィン系共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂の酸変性物、ポリプロピレン樹脂の酸変性物、オレフィン系共重合体樹脂の酸変性物などが挙げられる。) 「 」 (【0061】 前記耐熱性樹脂層(外側層)2は、外装材として良好な成形性を確保する役割を主に担う部材である、即ち成形時の金属箔のネッキングによる破断を防止する役割を担うものである。) 「 」 (【0066】 前記金属箔層4は、包装材1に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリア性を付与する役割を担うものである。前記金属箔4としては、厚さ20μm?120μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。また、前記金属箔4としては、鉄を0.5質量%?2.0質量%含み、シリコンを0.03質量%?0.5質量%含むアルミニウム箔であって焼鈍処理されたものを用いるのが好ましい。 【0067】 包装材1の外側層2および内側層3は樹脂からなる層であり、これらの樹脂層には極微量ではあるが、ケースの外部からは光、酸素、液体が入り込むおそれがあり、内部からは内容物(電池の電解液、食品、医薬品等)がしみ込むおそれがある。これらの侵入物が金属箔層4に到達すると金属箔層の腐食原因となる。本発明では、前記金属箔における少なくとも前記熱可塑性樹脂層3側の面に化成皮膜が形成されているのが好ましい。中でも、前記金属箔の両面に化成皮膜を形成した構成を採用するのが特に好ましく、この場合には、金属箔層4の耐食性を十分に向上させることができる。なお、前記金属箔のいずれか一方の面のみに上記化成皮膜を形成した構成を採用してもよい。) 「 」 (【0071】 前記第2接着剤層6としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等により形成された接着剤層が挙げられる。) 「 」 (【0080】 前記第2接着剤層6は、ドライラミネート法により形成された融点が60℃?100℃の接着剤層であるのが好ましい。この場合には、前記剥離隙間22を介してガスを外部に逃がした後は、第2接着剤層6における離間した接着剤同士が熱によりさらに一層速やかに溶着(接着)して剥離隙間を塞ぐことができるので、電池の内容液が外部に流出することを十分に防止できる。) 「 ・・・ ・・・ 」 (【実施例】 【0086】 次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。 [原材料(内側層用樹脂)] 「PP1」…エチレン-プロピレンランダム共重合樹脂(融点:160℃、MFR:7.5g/10分) 「PP2」…エチレン-プロピレンランダム共重合樹脂(融点:140℃、MFR:7.5g/10分) ・・・ 「PE1」…中密度ポリエチレン樹脂(融点:140℃、MFR:4g/10分) 「PE2」…低密度ポリエチレン樹脂(融点:110℃、MFR:25g/10分)。 ・・・ 【0088】 なお、上記「MFR」は、JIS K7210-1999に準拠して、東洋精機株式会社製のMFR(メルトフローレート)測定器(商品名:メルトインデクサー)を用いて、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されたMFR(メルトフローレート)を意味する。 【0089】 また、上記「融点」は、JIS K7121-1987の「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠して、株式会社島津製作所製のDSC(示差走査熱量計)(型式DSC-60A)を用いて昇温速度10℃/分で測定して得られたDSC曲線より求められた融解ピーク温度(融点)である。 【0090】 <実施例1> 上記「PP3」50質量部、上記「PP2」50質量部、シリカ0.1質量部、エルカ酸アマイド0.1質量部をタンブラーに投入してタンブラーでドライブレンドした後、これを押出機で溶融混合することによって、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をTダイ成形機にて230℃の樹脂温度で押出すことによって、厚さ40μmの内側層用フィルムを得た。 【0091】 一方、厚さ40μmのアルミニウム箔(A8079-Oアルミニウム箔)4の両面に、ポリアクリル酸(アクリル系樹脂)、クロム(III)塩化合物、リン酸、水、アルコールからなる化成処理液を塗布し、150℃で乾燥を行うことによって、両面に化成皮膜を形成したアルミニウム箔を準備した。この化成皮膜によるクロム付着量は、片面で5mg/m^(2)であった。 【0092】 次に、前記両面に化成皮膜を形成したアルミニウム箔4の一方の面に、二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂接着剤を塗布して乾燥させて第1接着剤層5を形成し、該第1接着剤層5の表面に厚さ25μmの二軸延伸6-ナイロンフィルム(外側層)2を貼り合わせると共に、アルミニウム箔4の他方の面に二液硬化型接着剤(酸変性ポリプロピレンを主剤とし、ヘキサメチレンジイソシアネートを硬化剤とする二液硬化型接着剤)を塗布して乾燥させて第2接着剤層6とし、該第2接着剤層6の表面に、上記厚さ40μmの内側層用フィルム(熱可塑性樹脂層)3を貼り合わせた。この積層体を40℃環境下で4日間放置する(エージングを行う)ことにより、図1に示す構成の包装材1を得た。) 「 」 (【0099】 <実施例8> 樹脂組成物(内側層用フィルム用)として、上記「PE2」70質量部、上記「PE1」30質量部、シリカ0.1質量部、エルカ酸アマイド0.1質量部をタンブラーに投入してドライブレンドした後、これを押出機で溶融混合することによって得た樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、図1に示す構成の包装材1を得た。) 「 」 (【0103】 【表1】 ) 「 」(図1) (イ)甲6に記載された発明 上記(ア)で摘示した事項から、請求項2に係る発明を踏まえ、請求項9、11、[0084]、[0095]-[0096]、実施例8の記載に着目すると、以下の甲6発明が記載されていると認められる。 <甲6発明> 「外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としての熱可塑性樹脂層と、これら両層間に配設された両面に化成被膜を形成したアルミニウム箔である金属層と、を含む電池用の包装材において、 前記熱可塑性樹脂層は、融点110℃で高流動の低密度ポリエチレン樹脂からなる第1樹脂と、融点140℃で低流動の中密度ポリエチレン樹脂からなる第2樹脂と、を含有した樹脂組成物で形成された混合樹脂層を少なくとも含み、 前記アルミニウム箔と前記熱可塑性樹脂層とが第2接着剤層を介して積層一体化され、前記第2接着剤層は、二液硬化型接着剤(酸変性ポリプロピレンを主剤とし、ヘキサメチレンジイソシアネートを硬化剤とする二液硬化型接着剤)を用いてドライラミネート法により形成された融点が60℃?100℃の接着剤層であり、 前記アルミニウム箔が厚さ40μmである、電池用の包装材。」 キ 甲8の国際公開の記載 甲8の国際公開には、「ラミネート用接着剤、これを用いた積層体及び二次電池」(発明の名称)について、以下の記載がある。 「[0001] 本発明は、ラミネート用接着剤、これを用いた積層体及び二次電池に関するものである。」 「[0005] 従って、本発明の目的は、上記の問題点を解決するため、金属層とプラスチック層との接着性に優れ、防湿性、耐熱性、絶縁性、耐久性等を満足し、更に、耐電解質性を兼ね備え、経時で層間剥離を生じることがないラミネート用接着剤組成物、それを使用した積層体、および二次電池を得ることにある。」 「[0008] 本発明のラミネート用接着剤組成物は、ポリオレフィン樹脂(A)、リン酸変性化合物(B)を含有する。」 「[0020] 本発明に用いられるリン酸変性化合物(B)としては、下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)からなる群から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。 [0021] [化1] [0022] (式中のR_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)、R_(6)は、それぞれ独立に、数平均分子量350?3000のエポキシ樹脂の残基及び/又は変性エポキシ樹脂の残基であり、R_(7)、R_(10)及びR_(11)は、それぞれ独立に炭素数が8以下のアルキレン基、R_(8)、R_(9)及びR_(12)は、それぞれ独立にエポキシ基、イソプロペニル基、又はビニル基を表す。) [0023] 前記一般式(1)、(2)及び(3)で表わされる化合物は、燐原子に結合した水酸基を有する化合物をエポキシ樹脂で変性したリン酸変性エポキシ樹脂(B-Ep)である。 [0024] 前記リン酸変性エポキシ樹脂(B-Ep)は、エポキシ樹脂(B1)と燐原子に結合した水酸基を有する化合物(B2)、必要に応じて炭素数が3?5であるモノカルボン酸(B3)とを反応させることにより得られる。 [0025] エポキシ樹脂(B1)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトール、スピログリコールもしくは水添ビスフェノールA等の脂肪族ポリオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。 [0026] 更に、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAD等のジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂やフェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂のグリシジルエールであるノボラック型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂;芳香族系ポリヒドロキシ化合物のエチレンオキシドもしくはプロピレンオキシド付加体等のポリオール類のジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。」 「[0055] 前記金属箔の一方に本発明のラミネート用接着剤組成物を塗工後、プラスチック層を重ねてドライラミネーション(乾式積層法)により貼り合わせることで、本発明の積層体が得られる。ラミネートロールの温度は室温?60℃程度、圧力は、10?300kg/cm^(2)程度が好ましい。 また、本発明の積層体は、作成後エージングを行うことが好ましい。エージング条件は、室温?100℃で、12?240時間の間であり、この間に接着強度が生じる。」 (2)申立理由1-1について ア 本件発明1について (ア)甲1発明との対比 a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「熱融着樹脂層」、「接着剤層」、「腐食防止処理層」及び「基材層」は、それぞれ本件発明1の「第1基材層」、「第1接着剤層」、「第1腐食防止層」及び「第2基材層」に相当する。 b また、甲1発明の「少なくとも焼鈍処理した軟質アルミニウム箔8079材である金属箔層」は、本件発明の「ステンレス鋼箔」に対し、「金属箔」である点で一致する。 c そうすると、甲1発明の「基材層の一方の面に、少なくとも焼鈍処理した軟質アルミニウム箔8079材である金属箔層、腐食防止処理層、接着剤層、及び熱融着樹脂層が順に積層された二次電池用外装材」は、本件発明1の「少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体」に対し、「少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、金属箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体」の点で一致する。 d また、甲1発明の「前記熱融着樹脂層が、未変性ポリプロピレンフィルムを含み」は、本件発明1の「前記第1基材層がポリプロピレン」「を含む層であり」に相当する。 e さらに、甲1発明の「前記接着剤層は2種類以上のポリオレフィンであるイミド架橋アクリル変性無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含み」、「2種類以上の前記ポリオレフィンのうち最も融解温度が低いプロピレン-エチレン共重合体の融解温度が耐熱性限界温度以上ラミネート温度以下の70℃であり」は、本件発明1の「前記第1接着剤層が、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなり」に相当する。 f また、甲1発明の「前記金属箔層は厚さが40μmである」は、本件発明1の「前記ステンレス鋼箔の厚さが40μm以下である」に対し、「金属箔の厚さが40μm以下である」点で一致する。 g そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。 <一致点1> 少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、金属箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、 前記第1基材層がポリプロピレンを含む層であり、 前記第1接着剤層が、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなり、 前記金属箔の厚さが40μm以下である電池外装用積層体。 <相違点1> 本件発明1では、「ステンレス鋼箔」を備えるのに対し、甲1発明では、「少なくとも焼鈍処理した軟質アルミニウム箔8079材」を備える点。 (イ)相違点1についての検討 a 甲1の【0029】には、「金属箔層」として「ステンレス鋼」の「金属箔」を使用することができると記載されているものの、同段落には、「金属箔層」は、水蒸気バリア性、延展性を有するものであり、「重量(比重)、防湿性、加工性、コスト」の面から「アルミニウム箔が好ましい」とも記載され、甲1の他の記載を参照しても、甲1発明において、好ましいとされる「アルミニウム箔」に替えて「ステンレス鋼」の「金属箔」を使用する動機付けとなるような記載はない。また、甲1には「ステンレス鋼」を使用した実施例は記載されていない。 b ここで、申立人は、特許異議申立書(第56頁第20行?第57頁第9行)において、甲2の【0004】、【0005】、甲3の【0003】、【0004】に記載されているように、電池用外装材の薄膜化は当該分野における共通の課題であり、その課題を解決するための手段としてアルミニウムに代えてステンレス鋼を採用する技術も広く知られていたから、外装材の薄膜化という当該分野における共通の課題に対応すべく、甲1発明においてアルミニウム箔をステンレス鋼箔で置き換えてみる程度のことは、当業者が容易になし得たことである、と主張するので当該主張について検討する。 c 甲2の【0018】には、「ステンレス鋼板」の板厚は「20μm以上」であることが好ましく、「一般的に求められる電池外装材の強度及び加工深さを考慮すると、ステンレス鋼板の板圧は、40?150μmの範囲内が好ましい」と記載されている。また、甲2の【0070】を参照すると、実施例としては、「板厚0.1mm」(板厚100μm)のステンレス鋼板を使用していることが記載されている。 d また、甲3の【0048】には、「ステンレス鋼箔」は、「容器としての加工性と強度の観点から、厚さが200μm以下10μm以上であることが好ましい」と記載されている。また、甲3の【0055】には、「本実施例及び比較例に使用するステンレス鋼箔は全て、厚みが50μmのSUS304BAを使用した」と記載されている。 e 一方、甲1には、「金属箔層」の薄膜化によって「二次電池用外装材」を薄膜化を実現することに関する記載はなく、また、甲1発明の金属箔層は、厚さが40μmであり、甲1の【0029】には、「金属箔層13の厚さは、バリア性、耐ピンホール性、加工性の点から、10μm以上100μm以下が好まし」いと記載されている。 f そうすると、申立人が主張するように、外装材の薄膜化が当該分野における共通の課題であったとしても、甲1発明の「二次電池用外装材」の薄膜化を「金属箔層」の薄膜化によって実現しようとする動機付けはないし、また、甲1発明の「金属箔層」は厚さが40μmであって、さらに、甲1には好ましい厚みとして10μmの下限値が記載されていることから、実施例として100μm、50μmのステンレス鋼を採用している甲2、甲3の記載に基いて、「二次電池用外装材」を薄膜化するために金属箔層としてステンレス鋼箔を採用することには理由がない。 g また、甲2の【0004】、【0005】、甲3の【0003】、【0004】には、耐圧性や突き刺し等に対する強度のためにアルミニウムに替えてステンレス鋼を使用することも記載されているが、甲1には、「金属箔層」の材料を機械的強度の観点から選択することは記載されていないので、甲2、甲3の上記記載についても甲1発明において「金属箔層」をステンレス鋼箔とする動機付けとはならない。 h なお、甲1には、「金属箔層」として「ステンレス鋼」の「金属箔」を使用することができることは記載されているので、仮に、甲1発明において、当該記載に基いて「金属箔層」としてステンレス鋼箔を採用し得たとしても、本件の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の【表1】及び【0109】に記載された、本件発明1によって奏される「折れシワ」が発生しない効果(【0085】)、及び「水浸漬後」のデラミ(層間の剥がれ)を抑える効果(【0088】。【0006】には、本発明が優れた特性を有することを目的とすることが記載され、【0005】には、「電池外装用積層体」に求められる該優れた特性として「耐水性」が記載されているので、以下、この効果を「耐水性」の効果という。)は、「折れシワ」及び「耐水性」の効果について記載がない甲1?甲3からは、当業者であっても予測することができない顕著なものである。なお、本件明細書の【表1】では、「アルミ箔」を用いた比較例2、比較例3、比較例6は、全て「折れシワ」は「×」であり「水浸漬後」(耐水性)は「C」となっている。 i また、申立人は、特許異議申立書(第57頁第11行?第58頁第8行)において、本件発明1の奏する効果について、甲1発明は、本件明細書の【0007】に記載された「ドライラミネートが可能な層構造」を充足するものであり、甲1の実施例では、甲1発明が電池外装材として優れた耐薬品性、耐熱性、深絞り成型時の耐クラック性、水蒸気バリア性を有することが確認されているから、「ドライラミネートが可能な層構造」の優れた特性が、金属箔層としてステンレス鋼箔を含む積層体においても発揮されることを確認したことが予想外の結果であったとはいえない、と主張しているが、本件発明1によって奏される「折れシワ」が発生しない効果、及び「耐水性」の効果については、具体的な主張をしていない。 j よって、申立人の主張は採用できない。 k また、甲4?甲6、甲8の国際公開を参照しても、甲1発明において、「アルミニウム箔」に替えて「ステンレス鋼箔」を使用する動機付けとなるような記載や、本件発明1によって奏される「折れシワ」が発生しない効果、及び「耐水性」の効果について当業者が予測できると判断できるような記載はない。 (ウ)小括 したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2?甲6、甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明2?8について (ア)甲1発明との対比・検討 本件発明2?8と甲1発明とを対比すると、本件発明2?8は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点1で相違し、相違点1についての判断は上記ア(イ)で示したとおりである。 (イ)小括 そうすると、本件発明2?8は、相違点1に係る構成を備えている点で、仮に他の相違点があったとしても他の相違点について検討するまでもなく、甲1に記載された発明と甲2?甲6、甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)申立理由1-2について ア 本件発明1について (ア)甲2発明との対比 a 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2の【0019】によれば、「有機無機複合処理層」は、電解質の劣化または加水分解により発生するフッ酸によるステンレス鋼板の劣化を防ぐものであるから、甲2発明の「有機無機複合処理層」は、本件発明1の「第1腐食防止層」に相当する。 b また、甲2発明の「熱融着性ポリオレフィン樹脂層」、「酸変性ポリオレフィン系樹脂層」、「ステンレス鋼班」及び「樹脂層」は、それぞれ本件発明1の「第1基材層」、「第1接着剤層」、「ステンレス鋼箔」及び「第2基材層」に相当する。 c そうすると、甲2発明の「第1の面および第2の面を有するステンレス鋼板」と、「前記ステンレス鋼板の第1の面に形成された」「有機無機複合処理層」と、「前記有機無機複合処理層の表面に形成された」「熱融着性ポリオレフィン系樹脂層」と、「前記有機無機複合処理層と前記熱融着性ポリオレフィン系樹脂層との間の」「酸変性ポリオレフィン系樹脂層」と、「前記ステンレス鋼板の第2の面に形成された樹脂層」を有する「電池外装用積層体」は、本件発明1の「少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体」に相当する。 d また、甲2発明の「前記熱融着性ポリオレフィン樹脂層を構成する熱融着性ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンを含み」は、本件発明1の「前記第1基材層がポリプロピレンを含む層であり」に相当する。 e そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点、相違点を有する。 <一致点2> 少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、 前記第1基材層がポリプロピレンを含む層である電池外装用積層体。 <相違点2> 本件発明1では、「前記第1接着剤層が、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からな」るのに対し、甲2発明では、「酸変性ポリオレフィン系樹脂層」に含まれるポリオレフィンの融点は不明である点。 <相違点3> 本件発明1では、「前記ステンレス鋼箔の厚さが40μm以下である」のに対し、甲2発明では、「前記ステンレス鋼板の板厚は、20?400μmの範囲内である」点。 (イ)相違点2についての検討 a 甲2の【0060】には、「酸変性ポリオレフィン系樹脂層を構成するポリオレフィン系樹脂の種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる」と記載されているが、「ポリオレフィン系樹脂」の融点に関する記載はない。また、甲2の【0077】には、実施例2、4?11、比較例1?3では、「酸変性ポリプロピレン」として、「モディック、P553A;三菱化学株式会社」を使用したことが記載されているが、融点は記載されておらず(なお、特開2012-216509号公報の【0055】には、「三菱化学株式会社グラフト変性ポリプロピレン“モディック”P553A、融点143℃」と記載されている。)、甲2発明において、「酸変性ポリオレフィン系樹脂層」に含まれる「酸変性ポリオレフィン系樹脂」として「融点50?100℃のポリオレフィン」を採用する理由がない。 b ここで、申立人は、特許異議申立書(第64頁第26行?第65頁第14行)において、甲2には、酸変成ポリオレフィン系樹脂を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができること、甲1には、そのような公知の方法として熱ラミネート法や、より簡易的なドライラミネート法が記載されており、ドライラミネート法は、使用期間が短く、低価格が求められるポータブル機器などの民生用途に使用されることも記載されており(【0003】)、さらに、甲1には、そのようなドライラミネート構成の積層体に用いる酸変成ポリオレフィン系樹脂接着剤(【0037】)として、融解温度が比較的低い(【0009】)、より具体的には、融解温度が60℃以上90℃以下のもの(【0041】、【0042】)を用いることが記載されているから、甲2発明において、製造される積層体の使用目的(例えば、低価格が求められる民生用途)に応じて、それに適した酸変成ポリオレフィン系樹脂として、甲第1号証に記載される融解温度が60℃以上90℃以下の酸変成ポリオレフィン系樹脂を含むものとする程度のことは、当業者が容易になし得たことである、と主張するので当該主張について検討する。 c 甲2の【0003】、【0004】には、「電気自動車やハイブリッド自動車、太陽電池用蓄電池などの大型機器」で採用される「大型電池の包装部材」では、「小型電池の包装部材以上の安全性(堅牢性や耐久性)」が求められていることから、「アルミニウム合金」に替えて「ステンレス鋼板」を使用することが記載されており、甲1の【0003】には、「ドライラミネート構成の二次電池用外装材」は、「使用期間は短く、低価格が求められるポータブル機器などの民生用途に使用される」こと、「熱ラミネート構成の外装材」は、「使用期間が長く、高信頼性が求められる電気自動車、電動バイク、電動自転車などの産業用途に使用されている」ことが記載されている。 d また、甲2の【0077】には、「実施例2、4?11および比較例1?3では、処理層(有機無機複合処理液、有機処理液または無機処理液)を形成したステンレス鋼板の表面に、酸変性ポリプロピレンフィルムと上述の無延伸ポリプロピレンフィルムとを2枚重ねて上述の熱ラミネーション法で積層し、積層体を作製した」と記載されているように、酸変性ポリプロピレンフィルムの積層方法として、実施例・比較例においては熱ラミネーション法を採用している。 e そうすると、ステンレス鋼板を採用し、「酸変性ポリオレフィン系樹脂層」を熱ラミネーション法で積層している甲2発明は、使用期間が長く、高信頼性が求められる電気自動車等の産業用途で使用することが想定されていると考えられるところ、そのような甲2発明を、使用期間が短く、低価格が求められるポータブル機器などの民生用途に適用するとともに、「酸変成ポリオレフィン系樹脂」の溶融温度を上記民生用途で採用されるドライラミネート法に適した60℃以上90℃以下とする動機付けはない。 f よって、申立人の主張は採用できない。 g また、甲4?甲6、甲8の国際公開を参照しても、甲2発明において、「酸変性ポリオレフィン系樹脂層」を「融点50?100℃のポリオレフィンを含む」ようにする動機付けとなるような記載はない。 (ウ)小括 したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明と甲1、甲3?甲6、甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明2?8について (ア)甲2発明との対比・検討 本件発明2?8と甲2発明とを対比すると、本件発明2?8は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点2、3で相違し、相違点2についての判断は上記ア(イ)で示したとおりである。 (イ)小括 そうすると、本件発明2?8は、相違点2に係る構成を備えている点で、仮に他の相違点があったとしても他の相違点について検討するまでもなく、甲2に記載された発明と甲1、甲3?甲6、甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)申立理由1-3について ア 本件発明1について (ア)甲6発明との対比 a 本件発明1と甲6発明とを対比すると、甲6の[0096](甲7の【0067】)によれば、「化成皮膜」は、侵入物による金属箔層の腐食を防ぐものであるから、甲6発明の「両層間に配設された化成皮膜」のうち「熱可塑性樹脂層」側の「化成皮膜」は、本件発明1の「第1腐食防止層」に相当する。 b また、甲6発明の「熱可塑性樹脂層」、「第2接着剤層」及び「耐熱性樹脂層」は、それぞれ本件発明1の「第1基材層」、「第1接着剤層」及び「第2基材層」に相当する。 c さらに、甲6発明の「アルミニウム箔である金属層」は、本件発明1の「ステンレス鋼箔」に対し、「金属箔」である点で一致する。 d そうすると、甲6発明の「外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としての熱可塑性樹脂層と、これら両層間に配設された両面に化成被膜を形成したアルミニウム箔である金属層とを含む、電池用の包装材」において、「前記アルミニウム箔と前記熱可塑性樹脂層とが第2接着剤層を介して積層一体化され」た「電池用の包装材」は、本件発明1の「少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体」に対し、「少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、金属箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体」の点で一致する。 e また、甲6発明の「前記熱可塑性樹脂層は、融点110℃で高流動の低密度ポリエチレン樹脂からなる第1樹脂と、融点140℃で低流動の中密度ポリエチレン樹脂からなる第2樹脂と、を含有した樹脂組成物で形成された混合樹脂層」は、本件発明1の「前記第1基材層がポリエチレンを含む層であり」に相当する。 f さらに、甲6発明の「二液硬化型接着剤(酸変性ポリプロピレンを主剤とし、ヘキサメチレンジイソシアネートを硬化剤とする二液硬化型接着剤)」における「酸変成ポリプロピレン」は、本件発明1の「第1接着剤層」が含む「ポリオレフィン」に相当する。 g そして、甲6発明における「融点が60℃?100℃の接着剤層」は、当該「接着剤層」を形成する「二液硬化型接着剤」の融点が60℃?100℃であるといえるから、甲6発明の「前記第2接着剤層は、二液硬化型接着剤(酸変性ポリプロピレンを主剤とし、ヘキサメチレンジイソシアネートを硬化剤とする二液硬化型接着剤)を用いてドライラミネート法により形成された融点が60℃?100℃の接着剤層であり」は、本件発明1の「前記第1接着剤層が、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなり」に相当する。 h また、甲6発明の「前記アルミニウム箔が厚さ40μmである」は、本件発明1の「前記ステンレス鋼箔の厚さが40μm以下である」に対し、「金属箔の厚さが40μm以下である」点で一致する。 i そうすると、本件発明1と甲6発明とは、以下の一致点、相違点を有する。 <一致点3> 少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、金属箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、 前記第1基材層がポリプロピレン又はポリエチレンを含む層であり、 前記第1接着剤層が、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなり、 前記ステンレス鋼箔の厚さが40μm以下であることを特徴とする電池外装用積層体。 <相違点4> 本件発明1では、「ステンレス鋼箔」を備えるのに対し、甲6発明では、「アルミニウム箔である金属層」を備える点。 (イ)相違点4についての検討 a 甲6には、[0095](甲7の【0066】)に、「金属箔層」について、包装材に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリア性を付与する役割を担うものであり、「アルミニウム箔」が好適に用いられることは記載されているが、ステンレス鋼箔を用いることは記載されておらず、甲6の他の記載を参照しても、「アルミニウム箔」に替えてステンレス鋼箔を使用する動機付けとなるような記載はない。 b ここで、申立人は、特許異議申立書(第73頁第17?24行)において、上記(2)ア(イ)bと同様の主張をしているが、上記(2)ア(イ)bの主張についての、同c?iの判断と同様に、甲6にも、「金属箔層」の薄膜化によって「電池用の包装材」を薄膜化を実現することに関する記載はなく、甲6発明の「電池用の包装材」の薄膜化を「金属箔層」の薄膜化によって実現しようとする動機付けはないし、また、甲6発明の金属箔層は、厚さが40μmであり、甲6の[0095](甲7の【0066】)には、「前記金属箔4としては、厚さ20μm?120μmのアルミニウム箔が好適に用いられる」と記載されているから、実施例として100μm、50μmのステンレス鋼を採用している甲2、甲3の記載に基いて、「電池用の包装材」を薄膜化するために金属箔層としてステンレス鋼箔を採用することには理由がない。 c また、甲2の【0004】、【0005】、甲3の【0003】、【0004】には、耐圧性や突き刺し等に対する強度のためにアルミニウムに替えてステンレス鋼を使用することも記載されているが、甲6には、「金属箔層」の材料を機械的強度の観点から選択することは記載されていないので、甲2、甲3の上記記載についても甲1発明において「金属箔層」をステンレス鋼箔とする動機付けとはならない。 d なお、仮に、甲6発明において、「金属箔層」としてステンレス鋼箔を採用し得たとしても、本件発明1によって奏される「折れシワ」が発生しない効果、及び「水浸漬後」のデラミ(層間の剥がれ)を抑える「耐水性」の効果は、「折れシワ」及び「耐水性」について記載がない甲2、甲3、甲6の記載からは、当業者であっても予測することができない顕著なものである。 e よって、申立人の主張は採用できない。 f また、甲1、甲4、甲5、甲8の国際公開を参照しても、甲6発明において、「アルミニウム箔」に替えて「ステンレス鋼箔」を使用する動機付けとなるような記載や、本件発明1によって奏される「折れシワ」が発生しない効果、及び「耐水性」の効果について当業者が予測できると判断できるような記載はない。 (ウ)小括 したがって、本件発明1は、甲6に記載された発明と甲1?甲5、甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明2?8について (ア)甲6発明との対比・検討 本件発明2?8と甲6発明とを対比すると、本件発明2?8は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点4で相違し、相違点4についての判断は上記ア(イ)で示したとおりである。 (イ)小括 そうすると、本件発明2?8は、相違点4に係る構成を備えている点で、仮に他の相違点があったとしても他の相違点について検討するまでもなく、甲6に記載された発明と甲1?甲5、甲8の国際公開に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)申立理由1(進歩性)についてのまとめ よって、本件発明1?8は、甲1?甲6、及び甲8の国際公開に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、したがって、本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1)特許請求の範囲の記載について 本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0005】 二次電池等の電池の応用分野が広がるなか、小型で大容量を有する電池の開発が進められている。同様に電池外装用積層体にも、機械的強度、耐水性、耐薬品性(耐電解液性)等の優れた特性を維持しつつ、積層体自体を薄膜化することが求められている。一般的に、電池外装用積層体の機械的強度、耐水性、耐薬品性(耐電解液性)及び遮光性は、主に、電池外装用積層体中の金属箔等の無機物層によって確保されている。金属箔としては、加工性に優れるアルミ箔が広く用いられている(特許文献1参照)。 しかしながら、アルミ箔は他の金属箔に比して加工性に優れることから、高い歩留りで積層体を製造することを可能とする一方、他の金属箔に比して突き刺し強度等の機械的強度が劣る。そのため、機械的強度を得るためにはアルミ箔の厚さを一定以下とすることができず、アルミ箔が用いられている現状では電池外装用積層体の薄膜化も困難であった。 【0006】 本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであって、優れた特性を有し、且つ、高い歩留り及び生産性で製造が可能な電池外装用積層体であって、薄膜化を達成し得る新たな電池外装用積層体を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは上記目的を達成すべく検討を重ねた結果、アルミ箔に代えてステンレス鋼箔を用いることで、突き刺し強度等の機械的強度を担保しつつ薄膜化が可能な構成を採用した。しかしながら、特に薄膜のステンレス鋼箔を用いて電池外装の製造を行うと、従来見られない形状での折れシワができることが分かり、この課題に対し鋭意検討を行い、本発明を完成させた。 具体的には、ドライラミネートが可能な層構成として、ポリプロピレン又はポリエチレンを含む基材層と、比較的低融点のポリオレフィン接着剤層とを用いた構成を見出し、且つ、この構成によれば折れシワのない電池外装用積層体を高い生産性で製造可能であることを見出し、本発明を完成させた。 【0008】 すなわち、本発明は以下の構成を採用した。 本発明の第一の態様は、少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、前記第1基材層がポリプロピレン又はポリエチレンを含む層であり、前記第1接着剤層が、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなり、前記ステンレス鋼箔の厚さが40μm以下であることを特徴とする電池外装用積層体である。」 「【0014】 第1基材層11は、ポリプロピレン又はポリエチレンを含む層であって、第1接着剤層12との接着性が良好になることから、プロピレン又はエチレンを有するホモポリマー又はブロックコポリマーが好ましく;ポリプロピレンフィルム及び/又はポリエチレンフィルムであることがより好ましく;少なくともポリプロピレンフィルムを含むことが特に好ましい。これらの材料を用いることにより、第1基材層11と、第1腐食防止層13を表面に有するステンレス鋼箔14とを、第1接着剤層12を介して良好に接着することが可能となる。」 「【0016】 第1接着剤層12は、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなる層である。 従来、金属箔と基材樹脂層との積層は、主に熱ラミネートによって行われていた。熱ラミネートによって基材樹脂層表面を高温で溶融させて金属箔と融着させる場合、金属箔と基材樹脂層との間に接着剤層を設ける必要がなく、ひいては接着剤層のエージング時間も不要となるためである。 しかしながら、熱伝導率が低く熱膨張し難いステンレス鋼箔は、アルミ箔等の他の金属箔よりも熱が伝播し難い。そのため、ステンレス鋼箔に高熱を付加した場合、ステンレス鋼箔の幅方向に歪み(カール)が発生しやすくなる。このようなステンレス鋼箔を用いて熱ラミネートを行う場合、面内で十分に熱が伝播せず、幅方向で熱圧着ローラーに接触していない部分が生じたり、ロールに接触していないことや、歪み自体によって熱圧着時に折れやシワが生じたりすることがある。また、ステンレス鋼箔に歪みが発生しない程度の高温まで加熱を行う場合、加工速度の低下や必要な熱量の増大によって生産性が低下し得る。 そこで本発明では、融点が50?100℃と比較的低融点のポリオレフィンを含む接着剤からなる層を設けることにより、ステンレス鋼箔に歪みが発生しない程度の比較的低温で、すなわち100℃付近又はそれ以下の温度で、第1接着剤層を介して第1腐食防止層を有するステンレス鋼箔と第1基材層とを接着することが可能となる。100℃以下での接着法としては、例えばドライラミネートが挙げられる。そしてドライラミネート等の比較的低温の方法で接着が可能となることにより、ステンレス鋼箔の折れやシワによる歩留りが向上するのみならず、熱ラミネートにかかる時間を短縮することも可能となり、作業効率も向上する。また、接着剤層を設けることにより、熱ラミネートで基材樹脂を溶融させる場合と比べて、第1基材層と(第1腐食防止層を有する)ステンレス鋼箔との接着性も向上するため、積層体全体の強度が高まり、電解液等の薬品や水等に積層体が晒された場合にも積層体が損傷されることがない。」 「【0039】 本態様において第1腐食防止層13は、ステンレス鋼箔14の表面改質のために形成される層であって、ステンレス鋼箔14の錆等による腐食を防ぐための層である。」 「【0056】 ステンレス鋼箔14は、アルミニウム箔などの他の金属箔に比べて、突き刺し強度、引張強度などの機械的強度が高いため、40μm以下の薄さで用いた場合にも電池外装用積層体10に十分な機械的強度を付与することができる。この結果、ステンレス鋼箔14及び積層体10全体を薄くすることが可能となる。 また、機械的強度が高いことにより、絞り成形によって凹部を形成する際に、ピンホールの発生を低減することができ、結果として積層体で密閉された内容物の漏れ(例えば電池の液漏れ)を低減することが可能となる。加えて、ステンレス鋼箔14は、他の金属箔に比べて耐腐食性に優れるため、腐食による劣化を良好に防ぐことが可能となる。 【0057】 ステンレス鋼箔14の厚さは、40μm以下であって、5?40μmが好ましく、5?30μmがより好ましく、10?20μmが特に好ましい。上記下限値以上とすることによって、電池外装用積層体10に十分な機械的強度を与え、二次電池等の電池に使用した際に、電池の耐久性を高めることができる。また、ステンレス鋼箔14の厚さを、40μm以下とすることによって、電池外装用積層体10を十分に薄いものとすることができ、且つ、十分な絞り加工性を与えることができる。」 「【0060】 第2基材層15は、十分な機械的強度を有していれば特に制限されず、・・・なかでも、PETフィルムが好ましい。」 「【実施例】 【0082】 以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。 【0083】 [実施例1?14、比較例1?7] (実施例1) まず、厚さ20μmのステンレス鋼箔を用意した。このステンレス鋼箔の両面に、水溶性塗料(塗布量12g/m^(2))を塗布し、200℃のオーブンにて加熱乾燥し、厚さ約0.2μmの第1腐食防止層、第2腐食防止層をそれぞれ形成した。 水溶性塗料は、水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーの0.2質量%と、FeCl_(2)・4H_(2)Oの0.8質量%と、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(商品名:キレストPH-320、キレスト(株)製))の0.7質量%を水に溶解してなる水溶液である。 【0084】 その後、形成された第1腐食防止層上に、第1の接着剤を塗布し、厚さ3μmの第1接着剤層を形成した。 第1の接着剤は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点50℃)の15質量%と、ビスフェノールA構造を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、商品名:jER157S70、粘度=80、エポキシ当量=210)の7質量%とを、固形分量15%となるように、室温で10分間トルエンに溶融混練することにより得られたものである。 【0085】 このステンレス鋼箔を含む積層体製造時における第1接着剤層と、厚さ6μmのポリプロピレン樹脂フィルムからなる第1基材層とを、表1中に示すラミネート温度でドライラミネートにより積層した。ドライラミネート後のステンレス銅箔表面を目視により観察し、以下の評価条件で評価を行った。結果を「折れシワ」として表1に示す。 ○:ステンレス鋼箔にシワや折れが発生しなかった。 ×:ステンレス鋼箔にシワ及び/又は折れが発生した。 【0086】 また、厚さ6?8μmの、黒色を有する延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムからなる第2基材層上に、ウレタン系接着剤(主剤:TM-K55(商品名、東洋モートン社製)、硬化剤:CAT-10L(商品名、東洋モートン社製))からなる第2接着剤層(厚さ3μm)を塗布により成形した。 この第2接着剤層と、上記で得られた積層体における第2腐食防止層とを対向させ、80℃のドライラミネートにより積層し、電池外装用積層体を得た。 【0087】 この電池外装用積層体から試験片を採取し、この試験片を、精製水を1000ppm含む電解液(LiPF_(6)を1mol/リットル添加したエチレンカーボネート(DC)/ジエチルカーボネート(DEC)1:1vol%の電解液)に浸漬し、80℃の温度で3日間保持した。 3日間の電解液浸漬の後、電解液をふき取ることなく、引張試験を行った。引張試験は、JIS C6471「フレキシブルプリント配線板用銅張積層板試験方法」に規定された、引き剥がし測定方法A(90°方向引き剥がし)に準拠し、引張試験機(日本電産シンポ(株)社製、商品名:FGS-50E-Hを用いて行った。以下の評価基準で評価を行った結果を、「耐電解液性」として表1に示す。 A:4N/15mm以上 B:4N/15mm未満、0.1N/15mm以上 C:完全に剥離してしまっているため、測定不可 【0088】 また、3日間の電解液浸漬の後、水に1時間浸漬した後、目視により観察を行い、以下の評価基準で評価を行った。結果を「水浸漬後」として表1に示す。 A:デラミ(層間の剥がれ)が全く認められない B:一部デラミが認められるが許容範囲である C:完全に剥離してしまっている 【0089】 (実施例2) 第1接着剤層を形成する第1の接着剤において、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点50℃)に代えて、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点60℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0090】 (実施例3) 第1接着剤層を形成する第1の接着剤において、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点50℃)に代えて、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0091】 (実施例4) 第1接着剤層を形成する第1の接着剤において、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点50℃)に代えて、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点100℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0092】 (実施例5) 第1接着剤層を形成する第1の接着剤において、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)のみを有し、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を有さない接着剤を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0093】 (実施例6) 第1及び第2腐食防止層を形成する水溶性塗料として、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(商品名:キレストPH-320、キレスト(株)製)の0.7質量%のみを水に溶解してなる水溶液を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0094】 (実施例7) 第1及び第2腐食防止層を形成する水溶性塗料として、水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーの0.2質量%のみを水に溶解してなる水溶液を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0095】 (実施例8) 第1及び第2腐食防止層を形成する水溶性塗料として、CrF_(3)・3H_(2)Oの0.8質量%のみを水に溶解してなる水溶液を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0096】 (実施例9) 第1及び第2腐食防止層を形成する水溶性塗料として、FeCl_(3)・6H_(2)Oの0.8質量%のみを水に溶解してなる水溶液を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0097】 (実施例10?12) ステンレス鋼箔を含む積層体における第1接着剤層と、第1基材層とのドライラミネート温度を、表1中に示す温度に変更した以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0098】 (実施例13) 第1及び第2腐食防止層を形成する水溶性塗料として、水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーの0.2質量%と、CrF_(3)・3H_(2)Oの0.8質量%と、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(商品名:キレストPH-320、キレスト(株)製)の0.7質量%を水に溶解してなる水溶液を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0099】 (実施例14) 第1及び第2腐食防止層を形成する水溶性塗料として、水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーの0.2質量%と、ZrF_(4)の0.8質量%と、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(商品名:キレストPH-320、キレスト(株)製)の0.7質量%を水に溶解してなる水溶液を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0100】 (比較例1) 第1接着剤層を形成する第1の接着剤において、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点50℃)に代えて、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点140℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。【0101】 (比較例2) 金属箔として、ステンレス鋼箔に代えて、厚さ40μmのアルミニウム箔を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0102】 (比較例3) 金属箔として、ステンレス鋼箔に代えて、厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0103】 (比較例4) ステンレス鋼箔を含む積層体における第1接着剤層と、第1基材層とのドライラミネートを、表1中に示す温度の熱ラミネートに変更した以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0104】 (比較例5) ステンレス鋼箔を含む積層体における第1接着剤層と、第1基材層とのドライラミネートを、表1中に示す温度の熱ラミネートに変更した以外は比較例1と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0105】 (比較例6) ステンレス鋼箔を含む積層体における第1接着剤層と、第1基材層とのドライラミネートを、表1中に示す温度の熱ラミネートに変更し、且つ、金属箔として、ステンレス鋼箔に代えて、厚さ40μmのアルミニウム箔を用いた以外は比較例1と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0106】 (比較例7) 第1腐食防止層及び第2腐食防止層を設けなかった以外は実施例3と同様にして電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0107】 【表1】 【0108】 表1中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。 (Ad-PP1):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点50℃) (Ad-PP2):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点60℃) (Ad-PP3):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃) (Ad-PP4):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点100℃) (Ad-PP5):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点140℃) (Ad-EP1):「jER157S70」(商品名、三菱化学社製)(ビスフェノールA構造を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂;粘度=80;エポキシ当量=210) (M1):水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーの0.2質量%、FeCl_(2)・4H_(2)Oの0.8質量%、及びニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(商品名:キレストPH-320、キレスト(株)製)の0.7質量%を有する水溶液 (M2):ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(商品名:キレストPH-320、キレスト(株)製)の0.7質量%水溶液 (M3):水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーの0.2質量%水溶液 (M4):CrF_(3)・3H_(2)Oの0.8質量%水溶液 (M5):FeCl_(3)・6H_(2)Oの0.8質量%水溶液 (M6):水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーの0.2質量%、CrF3・3H2Oの0.8質量%、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(商品名:キレストPH-320、キレスト(株)製)の0.7質量%を有する水溶液 (M7):水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーの0.2質量%、ZrF_(4)の0.8質量%、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(商品名:キレストPH-320、キレスト(株)製)の0.7質量%を有する水溶液 (SUS1):厚さ20μmのステンレス鋼箔 (AL1):厚さ40μmのアルミ箔 (AL2):厚さ20μmのアルミ箔 【0109】 表1に示す結果から明らかなように、実施例1?14の電池外装用積層体は、ステンレス鋼箔のシワや折れが発生せず、電解液や水に接触した際にも剥離が低減されて良好な機械的強度を有するものであって、比較例1?7の電池外装用積層体に比して優れた特性(加工性、機械的強度、薬液・水耐性)を有していた。」 (3)サポート要件の検討 ア サポート要件を検討する観点について 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 そこで、以下、上記の観点に立って、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。 イ 本件特許における発明が解決しようとする課題について 上記(2)で摘記した【0006】から、本件発明1?8が解決しようとする課題は、「優れた特性を有し、且つ、高い歩留り及び生産性で製造が可能な電池外装用積層体であって、薄膜化を達成し得る新たな電池外装用積層体を提供すること」であると認められる。 なお、上記「優れた特性」の「特性」とは、上記(2)で摘記した【0005】、【0109】から、加工性、機械的強度、耐水性、耐薬品性(耐電解液性)であると認められる。 ウ 発明の詳細な説明に記載された発明について (ア)上記(2)で摘記した【0008】には、本発明の態様として「第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、前記第1基材層がポリプロピレン又はポリエチレンを含む層であり、前記第1接着剤層が、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなり、前記ステンレス鋼箔の厚さが40μm以下であることを特徴とする電池外装用積層体」が記載されている。 (イ)上記(2)で摘記した【0007】、【0016】から、「ドライラミネートが可能な層構成として、ポリプロピレン又はポリエチレンを含む基材層と、比較的低融点のポリオレフィン接着剤層とを用いた構成」であって、「第1接着剤層」を「融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなる層」とすることで、ステンレス鋼箔の折れやシワによる歩留りが向上し、ステンレス鋼箔を用いた熱ラミネートを行う際にステンレス鋼箔に歪みが発生しない程度の高温まで加熱を行う必要がないので、加工速度の低下や必要な熱量の増大によって生産性が低下することがなくなること、すなわち、高い歩留り及び生産性で製造が可能となることが理解できる。 (ウ)上記(2)で摘記した【0014】から、「第1基材層」として、「ポリプロピレン又はポリエチレンを含む層」とすることで、第1基材層11と、第1腐食防止層13を表面に有するステンレス鋼箔14とを、第1接着剤層12を介して良好に接着することが可能となることが理解できる。 (エ)上記(2)で摘記した【0056】から、「ステンレス鋼箔」を用いることで、十分な機械的強度を付与することができ、腐食による劣化を防ぐことが可能となることが理解できる。 (オ)上記(2)で摘記した【0057】から、「ステンレス鋼箔」の厚さを「40μm以下」とすることで、電池外装用積層体を十分に薄いものとすることができ、且つ、十分な絞り加工性を与えることができることが理解できる。 (カ)上記(2)で摘記した【0060】から、「第2基材層」を有することで、機械的強度を有することができることが理解できる。 (キ)上記(2)で摘記した【0082】?【0109】に示された実施例と比較例において、特に、実施例3、6?9、13、14、比較例7から、「腐食防止層」を有することで「耐電解液性」、「耐水浸漬後」(耐水性)が良好となることが理解できる。 (ク)また、上記(2)で摘記した【0082】?【0109】に示された実施例と比較例の結果から、上記(ア)に記載された「電池外装用積層体」であれば、「折れシワ」の発生はなく、「耐電解液性」、「耐水浸漬後」(耐水性)が「A」または「B」の良好なものとなることが理解できる。 (ケ)そうすると、発明の詳細な説明に記載された発明は、上記(ア)に記載された「電池外装用積層体」、すなわち、「第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、前記第1基材層がポリプロピレン又はポリエチレンを含む層であり、前記第1接着剤層が、融点50?100℃のポリオレフィンを含む接着剤からなり、前記ステンレス鋼箔の厚さが40μm以下であることを特徴とする電池外装用積層体」であって、当業者であれば、当該「電池外装用積層体」であれば、上記イの課題を解決できると認識できるといえる。 エ 本件発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比 「電池外装用積層体」の発明である本件発明1?5、「電池外装用積層体の製造方法」の発明である本件発明6、「電池外装体」の発明である本件発明7、及び「電池」の発明である本件発明8は、上記ウ(ア)で示した「電池外装用積層体」の構成を全て含むから、本件発明1?8は、上記ウ(ケ)で示した発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲に含まれると認められる。 したがって、本件発明1?8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものではない。 オ 申立人の主張について (ア)申立人は、特許異議申立書(第79頁第6行?第80頁第16行)にて、本件明細書には、水溶性樹脂、ハロゲン化金属化合物、及びキレート剤について、その「機能を発揮することを確認した実施例は、水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーと、CrF_(3)・3H_(2)OまたはZrF_(4)と、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)を水に溶解してなる水溶液を水溶性塗料として用いて腐食防止層を形成したものしか記載されていない(表1の腐食防止層M6、M7)。」と主張するとともに、本件特許件者による別の特許出願である特願2014-263084号の拒絶理由通知書を引用し、「ハロゲン化金属化合物やキレート剤による水溶性樹脂の架橋作用や表面被覆層の特性は、水溶性樹脂やハロゲン化金属化合物、キレート剤の種類より異なることが予想される。また、当該技術分野の技術常識からみて、フッ化クロムまたはジルコニウムと他の金属のハロゲン化物とがステンレス鋼板の表面の不動態化作用において同等の効果があるとは到底認められない」から、本件発明5は発明の詳細な説明に記載されたものでない旨主張する。 (イ)しかし、上記(2)で摘記した【0082】?【0109】に示された実施例と比較例において、特に、【表1】に示された実施例3、6?9、13、14、比較例7の結果から、「腐食防止層」はM6、M7以外のM1?M5であっても、「折れシワ」の発生はなく、「耐電解液性」、「水浸漬後」(耐水性)が「A」または「B」であることが示され、「腐食防止層」を有しない比較例7のみが「耐電解液性」、「水浸漬後」(耐水性)が「C」となっていることから、当業者であれば、「第1の腐食防止層」は、水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーと、CrF_(3)・3H_(2)OまたはZrF_(4)と、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)を水に溶解してなる水溶液を水溶性塗料として用いて形成したものでなくても、「第1の腐食防止層」を有していれば、上記イの課題を解決できることを理解し得ると認められる。 (ウ)また、本件明細書の記載からは、上記イの課題を解決するためには、「第1の腐食防止層」について、ハロゲン化金属化合物やキレート剤による水溶性樹脂の架橋作用や表面被覆層の特性が、M6、M7と同等の効果を奏することが必要であることは理解できず、申立人は、「第1の腐食防止層」について、当該同等の効果を奏さなければ、上記イの課題を解決できないとする具体的な理由(理論的根拠や具体的な実験結果)については示していない。 カ よって、申立人の主張は採用できない。 (5)申立理由2(サポート要件)についてのまとめ よって、本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由1、2によっては、取り消すことができない。 また、他に本件特許の請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-07-07 |
出願番号 | 特願2016-116604(P2016-116604) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 結城 佐織、松本 陶子 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
増山 慎也 市川 篤 |
登録日 | 2020-09-25 |
登録番号 | 特許第6768362号(P6768362) |
権利者 | 藤森工業株式会社 |
発明の名称 | 電池外装用積層体、電池外装用積層体の製造方法、電池外装体及び電池 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |
代理人 | 大浪 一徳 |
代理人 | 貞廣 知行 |
代理人 | 志賀 正武 |