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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 一部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
管理番号 1375908
異議申立番号 異議2021-700114  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-02 
確定日 2021-07-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6734239号発明「六方晶窒化ホウ素粉末及び化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6734239号の請求項1?3、6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6734239号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成29年8月31日に出願され、令和2年7月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月5日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1?6に係る特許のうちの請求項1?3、6に係る特許について、令和3年2月2日付けで特許異議申立人 星正美(以下、「申立人1」という。)による特許異議の申立てがされ、また、令和3年2月4日付けで特許異議申立人 安藤宏(以下、「申立人2」という。)による特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1?3、6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」、「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
平均粒子径が3μm以上8.9μm以下である六方晶窒化ホウ素粉末において、パウダーレオメーターで測定された加圧力2.0kPa以上3.0kPa以下の範囲におけるせん断応力Sと、加圧力Pの比の値r([数1])が0.70以下であり、黒鉛化指数([数2])が1.7以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
[数1] r=S/P
[数2] 黒鉛化指数=(S1+S2)/S3
S1:X線回折スペクトルにおける(100)面のピーク面積
S2:X線回折スペクトルにおける(101)面のピーク面積
S3:X線回折スペクトルにおける(102)面のピーク面積
【請求項2】
パウダーレオメーターで測定された加圧力2.0kPaにおけるせん断応力が1.4kPa以下であることを特徴とする請求項1記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
パウダーレオメーターで測定された加圧力3.0kPaにおけるせん断応力が2.1kPa以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項6】
請求項1?3のいずれか一項記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人1、2が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりであ る。
1 申立人1による特許異議申立理由及び証拠方法
(1)申立理由1-1(新規性進歩性欠如)
ア 本件発明1?3、6は、甲1-1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、または、甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 証拠方法
甲1-1:特開2012-176910号公報

(2)申立理由1-2(サポート要件違反)
本件発明1?3、6は、下記の指摘事項により、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、その発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

特許権者は、審査過程で黒鉛化指数が1.7以下である場合に窒化ホウ素粉末の滑り性が顕著に優れるという効果が奏されるという主張をしているが、r値が大きく滑り性に劣るとされる比較例であっても黒鉛化指数が1.7以下の場合があり、当該主張は誤りである。また、実施例6は、r値は0.67であって本件発明1の範囲内であるが、黒鉛化指数が1.9であるから、満足な滑り性が得られるとはいえないところ、本件発明は、r値が0.67の場合を含むので、サポート要件に適合しない。

2 申立人2による特許異議申立理由及び証拠方法
(1)申立理由2(進歩性欠如)
ア 本件発明1?3、6は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2?2-5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 証拠方法
甲2-1:特開2012-176910号公報
甲2-2:特開平10-102083号公報
甲2-3:特開2010-37123号公報
甲2-4:特開2015-212217号公報
甲2-5:特開平9-12307号公報

第4 当審の判断
1 申立理由1-1及び申立理由2について
申立人1による申立理由1-1(新規性進歩性欠如)の証拠である甲1-1及び申立人2による申立理由2(進歩性欠如)の主たる証拠である甲2-1は共通するものであるから、これを甲1として、これにより認定される発明について以下でまとめて検討する。

(1) 甲1に記載された発明(甲1発明)
ア 甲1には、以下の記載がある。

a「【請求項1】
平均長径が2?20μm で厚みが0.05?0.5μm の扁平形状をなす一次粒子が積層した板状の凝集体からなり、比表面積が1?10m^(2)/gで、かつ目開き45μm篩下の凝集体の含有率が50質量%以上で、さらに可溶性ホウ素量が100ppm以下であることを特徴とする化粧料用の窒化ホウ素粉末。」

b「【0001】
本発明は、化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末およびその製造方法に関し、特に該粉体の潤滑性と透明性の向上を図り、もって化粧料使用時における塗擦動作においてスムーズな伸びの実現を図ろうとするものである。 また、本発明は、上記した六方晶窒化ホウ素粉末を用いた化粧料に関し、特に肌への展延性および付着性を向上させて、仕上がりのツヤ感と透明感の両者を達成しようとするものである。」

c「【発明の効果】
【0021】
本発明の窒化ホウ素粉末は、潤滑性に優れ、軽度の力で滑るように広がる作用があるため、化粧品の使用時における塗擦動作においてスムーズな伸びを達成することができる。 また、本発明の化粧料によれば、肌への展延性および付着性を向上させて、仕上がりのツヤ感および透明感(素肌感)の両者を格段に向上させることができる。」

d「【0044】
なお、窒化ホウ素粉末の透過度(透明度)、ヘーズ値(濁度)および摩擦係数はそれぞれ、次のようにして測定した。・・・・・(3) 摩擦係数 カトーテック(株)の「摩擦感テスター」を用いて測定した。 すなわち、スライドグラスに両面テープを貼ったものに粉体試料を乗せて余分な粉体を振動を与えてふるい落とした後、試料台に固定する。ついで、試料上を1cm角のピアノワイヤーセンサーを0.5mm/sの速さで滑らせて測定した。 この摩擦係数の値が0.15以下であれば、潤滑性に優れていると言える。」

e 段落【0046】の表1には、No.3として平均粒径8μm、摩擦係数0.14の窒化ホウ素粉末及びNo.6として平均粒径8μm、摩擦係数0.12の窒化ホウ素粉末の具体例が記載されている。

イ 記載事項eの具体例に着目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「平均粒径が8μm及び摩擦係数が0.14、又は平均粒径が8μm及び摩擦係数が0.12である六方晶窒化ホウ素粉末」

(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明に係る六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径が8μmである点は、本件発明1に係る六方晶窒化ホウ素粉末の「平均粒子径が3μm以上8.9μm以下」に相当するから、両者は、「平均粒子径が3μm以上8.9μm以下である六方晶窒化ホウ素粉末」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本件発明1は、「パウダーレオメーターで測定された加圧力2.0kPa以上3.0kPa以下の範囲におけるせん断応力Sと、加圧力Pの比の値r([数1])0.70以下、[数1] r=S/P」であることが特定されているのに対して、甲1発明は、「摩擦係数が0.14又は0.12」である点。

相違点2:本件発明1は、「黒鉛化指数([数2])が1.7以下、
[数2] 黒鉛化指数=(S1+S2)/S3
S1:X線回折スペクトルにおける(100)面のピーク面積
S2:X線回折スペクトルにおける(101)面のピーク面積
S3:X線回折スペクトルにおける(102)面のピーク面積」であることが特定されているのに対して、甲1発明は、当該黒鉛化指数は明らかでない点。

イ 相違点についての検討
上記相違点1について検討する。
本件発明1において、所定の加圧力の範囲で「せん断応力Sと、加圧力Pの比の値r」を0.70以下とした理由は、「加圧力とせん断応力の比rが小さい程、幅広い加圧力範囲で滑り易く、化粧料として好適であると言える。逆にrが0.70を超えると滑り性が不十分であり、化粧料として好適ではない。」(本件明細書段落【0016】)というものである。また、「せん断応力及び加圧力とせん断応力の比」の測定は、具体的には「実施例1で作製した六方晶窒化ホウ素粉末のせん断応力を「パウダーレオメーター(マルバーン製、FT-4型」を用いて測定した。測定は「壁面摩擦試験」に基づき行い、円形ディスクに人工皮革(出光テクノファイン製、サプラーレ)を貼り付け、加圧1.5kPa(P1)、2.0kPa(P2)、3.0kPa(P3)の各加圧力においてせん断応力(S1?S3)を測定、各加圧力における加圧力とせん断応力との比率(r1?r3)を求めた。」(本件明細書段落【0042】)とされ、本件明細書段落【0017】にも同様の記載がある。
他方、甲1発明は、記載事項b、cなどによれば、本件発明1と同様な化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末であり、摩擦係数が小さければ、潤滑性に優れ、軽度の力で滑るというものであるから、甲1発明は「摩擦係数」により滑り性が規定されているといえる。
しかし、甲1発明の「摩擦係数」の測定は、記載事項dで説明されているとおり、ピアノワイヤーセンサーを用いるものであるのに対して、本件発明1の「せん断応力Sと、加圧力Pの比の値r」は、円形ディスクに人工皮革を貼り付けたものを用いて測定を行うものである。
そうすると、本件発明1の「せん断応力Sと、加圧力Pの比の値r」と甲1発明の「摩擦係数」とは、六方晶窒化ホウ素粉末の滑り性を示す指標であるとはいえ、上述のとおり両者の測定方法は異なっているから、上記特定の摩擦係数を有する甲1発明は、本件発明1と同じ「せん断応力Sと、加圧力Pの比の値r」を有するとはいえず、また、甲1をみても、当該甲1発明は、本件発明1で特定する「せん断応力Sと、加圧力Pの比の値rが0.70以下」の範囲内に調製可能なものであるというに足りる根拠(調製手法などを含む)を見いだすこともできない。
この点について、申立人1は、実験を行って、3種類の既製品の窒化ホウ素粉末から、甲1発明の「摩擦係数」と本件発明1の「r値」とを測定し、高い相関性を示すことが確認できたとし、これらの「摩擦係数」と「r値」との近似直線を作成し、この近似直線による換算式に基いて甲1に具体的に記載された窒化ホウ素粉末の摩擦係数から計算した「r値」は、本件発明1の「r値」の範囲内であるから、上記相違点1は、実質的な相違点ではない旨主張している(特許異議申立書10?12頁)。
しかし、製造会社が異なる3種類の窒化ホウ素粉末を使用し、各粉末の摩擦係数とr値の平均値(2kPa、3kPa)の3点のみのデータに基いて正確な近似式が得られるかどうか、また、これに甲1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末をあてはめることでr値を推測できるかどうかは必ずしも明らかではなく、その上、特許異議申立書に記載された実験概要の記載のみでは、当該実験の信ぴょう性も疑わしいことを踏まえると、上記申立人1の主張は採用できない。
次に申立人2は、特許異議申立書において、本件発明1の「せん断応力Sと、加圧力Pの比の値r」と甲1発明の「摩擦係数」は、同じ技術上の概念であり、甲1発明に係る六方晶窒化ホウ素粉末が、本件発明1の当該r値を充足する蓋然性が高く、また、そうでなくとも、r値を本件発明1の範囲とすることは当業者であれば容易であると主張している。
しかし、上述のとおり、測定方法の異なる両者の値を直接比較することはできず、また、甲1発明に係る窒化ホウ素粉末を本件発明1のr値の範囲とする具体的調製手法なども不明であるから、申立人2の主張も採用できない。
そして、甲2-2?甲2-4は、黒鉛化指数に関する証拠であり、甲2-5は、化粧品原料として用いる窒化ホウ素粉末の結晶性と物性との関係に関する証拠として提出されたものであるから、これらを参照しても上記相違点1に関する判断に影響しない。

よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明とはいえず、また、甲1発明又は甲1発明及び甲2-2?甲2-5に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2) 本件発明2、3、6について
本件発明2、3は、本件発明1に係る六方晶窒化ホウ素粉末をさらに限定したものであり、本件発明6は、本件発明1?3に係る六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料を特定するものであるから、これらの発明はいずれも、実質的に本件発明1の発明特定事項を有するものと解することができる。
したがって、本件発明2、3、6は、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1発明、さらには甲2-2?甲2-5に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) まとめ
以上のとおりであるから、新規性及び進歩性欠如に関する申立理由1-1及び進歩性欠如に関する申立理由2には、いずれも理由がない。

2 申立理由1-2について
申立理由1-2における申立人1の主張は、要するに、r値が0.7を超え滑り性に劣る比較例であっても黒鉛化指数が1.7以下の場合があり、また、黒鉛化指数が1.7より大きい「実施例6」は、r値が本件発明の範囲内であるから、黒鉛化指数が1.7以下であることを特定する本件発明は、本件発明の効果が達成されない範囲を含むというものである。
しかし、本件発明は、平均粒子径、せん断応力Sと加圧力Pの比の値r及び黒鉛化指数を特定事項としたものであって、これらの特定事項を全て充足する場合に、化粧料として必要な加圧力範囲において優れた滑り性を示す六方晶窒化ホウ素を提供する(本件明細書段落【0012】)という効果を奏するというものである。
そうである以上、着目すべきは、当該特定事項の全てを充足する態様であって、そもそも本件発明の特定事項の全てを充足するものではない比較例や審査過程で本件発明の範囲外となった「実施例6」に着目し、これらを根拠として、本件発明が本件明細書記載の効果を奏しないとする、申立人1の上記主張は採用できない。
したがって、本件特許請求の範囲の記載に申立人1が主張するような記載不備は認められないから、サポート要件違反に関する申立理由1-2には、理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立理由によっては、本件請求項1?3、6に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1?3、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-29 
出願番号 特願2017-166473(P2017-166473)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C01B)
P 1 652・ 537- Y (C01B)
P 1 652・ 113- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 壷内 信吾  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 後藤 政博
正 知晃
登録日 2020-07-13 
登録番号 特許第6734239号(P6734239)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 六方晶窒化ホウ素粉末及び化粧料  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 中塚 岳  
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