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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1375913
異議申立番号 異議2021-700169  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-17 
確定日 2021-07-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6741554号発明「車両内装部品用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6741554号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6741554号に係る出願(特願2016-210492号、以下「本願」ということがある。)は、平成28年10月27日に出願人三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社(以下、「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、令和2年7月29日に特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、特許掲載公報が令和2年8月19日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和3年2月17日に特許異議申立人岩崎勇(以下「申立人」という。)により、「特許第6741554号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許に対するものであるから、審理の対象外となる請求項はない。)

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1及び2が記載されている。
「【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)5?100質量部及びガラス繊維(C)10?100質量部を含有し、
アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)は、270℃で10分間熱処理して発生するガスをガスクロマトグラフで分析した際のスチレン系単量体の量が500ppm以下であることを特徴とする車両内装部品用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、120℃で30分間熱処理して発生するガスをガスクロマトグラフで分析した際に検出されるスチレン系単量体の量が30ppm以下である請求項1に記載の車両内装部品用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」
(以下、上記請求項1及び2に記載された事項で特定される発明を項番に従い、「本件発明1」及び「本件発明2」といい、併せて「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第7号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件の請求項1及び2に記載された事項で特定される各発明は、いずれも甲第7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2:本件の請求項1及び2に記載された事項で特定される各発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に基づき甲第2号証ないし甲第6号証に記載された事項を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特許第3098308号公報
甲第2号証:特開2014-210850号公報
甲第3号証:特開2015-189786号公報
甲第4号証:特開2006-182840号公報
甲第5号証:特開2013-23553号公報
甲第6号証:特開平10-139965号公報
甲第7号証:特開2010-189584号公報
(以下、「甲1」ないし「甲7」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、
と判断する。
以下、取消理由1及び2につき併せて検討・詳述する。

1.各甲号証に記載された事項並びに甲1及び甲7に記載された発明
取消理由1及び2は、いずれも特許法第29条に係るものであるから、上記各甲号証に係る記載事項を確認し、甲1及び甲7に記載された発明を認定する。
(なお、各記載事項の摘示における下線は、当審が付したものである。)

(1)甲7
事案に鑑み、まず、甲7の記載内容を確認し、甲7に記載された発明を認定する。

ア.甲7に記載された事項
上記甲7には、以下の事項が記載されている。

(a1)
「【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ポリグリセリンの全ての水酸基に脂肪酸がエステル結合してなるポリグリセリン脂肪酸エステル0.05?5.0重量部を含有するポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
・・(中略)・・
【請求項4】
さらに、(C)非晶性樹脂1?100重量部を含有する請求項1?3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
【請求項5】
(C)非晶性樹脂が、スチレン系樹脂および/またはポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
・・(後略)」

(a2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、良離型性、低ガス性、低金型汚染性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関するものである。
・・(中略)・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、高い離型性を示すと共に成形時の発生ガス成分低減に伴う金型汚染性に優れた特性を示す、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を提供することを課題とする。
・・(中略)・・
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高い離型性を示すと共に、成形時の発生ガス成分が少なく、金型を汚染しにくいポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を得ることができる。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に幅広く利用することができる。」

(a3)
「【0024】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、好ましくは、さらに、(C)非晶性樹脂を1.0?100重量部を含有する。100重量部を越えると耐薬品性が低下したり、樹脂組成物の射出成形時の離型性、流動性が悪く成形ハイサイクル性が劣る傾向にある。
【0025】
本発明で使用する(C)非晶性樹脂としては、スチレン系樹脂(ポリスチレンGPPS、ゴム強化スチレン系樹脂(中衝撃ポリスチレンMIPS,高衝撃ポリスチレンHIPS)、アクリロニトリル-スチレン系樹脂AS、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂ABSなど)、アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチルPMMAなど)、ポリエステル系樹脂(ポリアリレート系樹脂などの芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂など)、ポリカーボネート系樹脂PC等を挙げることができ、なかでも、寸法安定性、離型性の観点から、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が好ましい。
【0026】
本発明で使用するスチレン系樹脂とは、スチレン構造単位、すなわち芳香族ビニル単位を含有する重合体であれば任意である。
【0027】
例えば、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体などの共役ジエン系ゴムにスチレン、α-メチルスチレン、ジメチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニルおよびアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル、必要に応じてメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートおよびブチルメタクリレートなどの他の重合性単量体をグラフト重合して得られるABS樹脂、芳香族ビニルとシアン化ビニルの共重合によるAS樹脂、共役ジエン系ゴムと芳香族ビニルの共重合によるHI(ハイインパクト)-ポリスチレン樹脂、芳香族ビニルからなるポリスチレン樹脂、芳香族ビニルとジエンとのブロック共重合体である。」

(a4)
「【0045】
本発明の樹脂組成物には、前記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤、例えば、加水分解抑制剤、充填材、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、衝撃改良剤、滑剤、結晶化促進剤等を配合してもよく、それらは公知のものを制限なく使用できる。
・・(中略)・・
【0051】
充填材としては、各種、各形状のものが用いられ、例えばガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、金属繊維、アスベスト、ホイスカー等の繊維状充填材、ガラスビーズ、ガラスフレーク、タルク、雲母、クレー、金属粉等の球状板状又は無定形の粉粒状の天然もしくは合成の充填材が挙げられる。」

(a5)
「【0066】 本発明の樹脂組成物は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に幅広く利用することができる。具体的な用途としては、ドアロックプロテクタ、エアフローメーター、エアポンプ、サーモスタットハウジング、エンジンマウント、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブースター部品、各種ケース、各種チューブ、各種タンク、各種ホース、各種クリップ、各種バルブ、各種パイプなどの自動車用アンダーフード部品、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジングなどの自動車用内装部品、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプベゼル、ドアハンドルなどの自動車用外装部品、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクターなど各種自動車用コネクター、電気用コネクター、リレーケース、コイルボビン、光ピックアップシャーシ、モーターケース、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジング、および内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、記録媒体(CD、DVD、PD、FDDなど)ドライブのハウジングおよび内部部品、・・(中略)・・などとして有用である。」

(a6)
「【実施例】
【0067】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。実施例および比較例に使用した配合組成物および特性の評価方法を以下に示す。
【0068】
ポリブチレンテレフタレート樹脂成分
(A-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂:固有粘度0.85(東レ(株)製“トレコン”1100M)。
【0069】
離型剤成分
(B-1) ジグリセリン脂肪酸テトラエステル:(理研ビタミン(株)製“リケマール”S-74)
・・(中略)・・
【0070】
非晶性樹脂成分
(C-1)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体:窒素置換した反応器に、純水120部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部およびポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.3μm、ゲル含有率85%)60部(固形分換算)を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、モノマ(スチレン30部、アクリロニトリル10部)およびt-ドデシルメルカプタン0.3部からなる混合物を5時間かけて連続滴下した。同時に並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25部、オレイン酸カリウム2.5部および純水25部からなる水溶液を7時間かけて連続滴下し、反応を完結させた。得られたスチレン系共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ-ダで中和後、洗浄、濾過、乾燥してグラフト共重合体(C1)を得た。このグラフト共重合体(C1)のグラフト率は35%、樹脂成分のηsp/cは0.35dl/gであった。
【0071】
次に、スチレン70重量%、アクリロニトリル30重量%なる単量体混合物を塊状重合して、ペレット状のスチレン系共重合体を得た。得られたスチレン系共重合体(C2)のηsp/cは0.53dl/gであった。
【0072】
グラフト共重合体(C1)55重量%とスチレン系共重合体(C2)45重量%を混合したものを、ゴム強化スチレン系樹脂として使用した。
(C-2)アクリロニトリル/スチレン共重合体:(東レ(株)製“トヨラック”AS-3G)
(C-3)ポリカーボネート樹脂:(出光興産(株)製“タフロン”A-1900)。
・・(中略)・・
【0076】
充填材成分
(G-1)ガラス繊維:(日本電気硝子(株)製 T-120)
(G-2)ガラスフレーク:(日本板硝子(株)製 REFG-101)。
【0077】 [実施例1?16][比較例1?18]
表1?4に示したように樹脂組成物の組成を変更し、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)成分、並びにその他添加剤全てを2軸押出機の元込め部から供給し、(G)成分を主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から供給してシリンダー温度260℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機で溶融混練を行った。
【0078】
ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。得られた各ペレットを、130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、離型性、加熱減量、金型汚染性の評価を行った。なお、実施例、比較例中の物性測定および試験は、次の方法で行った。
・・(中略)・・
【0080】
(2)加熱減量
樹脂組成物のペレット10gをアルミカップに入れ、130℃の雰囲気で3時間予備乾燥した樹脂組成物のペレット10gをアルミカップに入れる。その後、260℃の雰囲気下で1時間処理後、再度ペレット重量を測定する。この時の重量減量を処理前のペレットの重量で徐してパーセント表示したのが加熱減量である。この加熱減量が少ない樹脂組成物ほど、低ガス性に優れる。
【0081】
(3)金型汚れ
試験片を100ショット射出成形した後、金型表面を肉眼観察し、その汚れの少ないものから◎、○、△、Xの順に判定した。
【0082】
これらの結果を表1?4に示した。
・・(中略)・・
【0084】
【表2】



イ.甲7に記載された発明
甲7には、上記ア.で摘示した甲7の記載からみて、「(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ポリグリセリンの全ての水酸基に脂肪酸がエステル結合してなるポリグリセリン脂肪酸エステル0.05?5.0重量部を含有し、さらに、(C)スチレン系樹脂および/またはポリカーボネート樹脂である非晶性樹脂1?100重量部を含有するポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。」が記載され(摘示(a1))、前記成分以外に、発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤、例えば、充填材等を配合してもよく、それらは公知のものを制限なく使用できること及び当該充填材としては、各種、各形状のものが用いられ、例えばガラス繊維等の充填材が挙げられることも記載されており(摘示(a4))、また、当該ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物につき、自動車用内装部品を含む広範な用途に使用することができることも記載されている(摘示(a5))。
さらに、甲7には、請求項に記載された事項を具備する実施例16として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)100重量部、ジグリセリン脂肪酸テトラエステル(B-1)0.5重量部、グラフト共重合体(C1)55重量%とスチレン系共重合体(C2)45重量%との混合物であるゴム強化スチレン系樹脂(C-1)20重量部、アクリロニトリル/スチレン共重合体(C-2)20重量部及びガラス繊維60重量部を含有する樹脂組成物が記載されている(摘示(a6))。
してみると、甲7には、
「(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ポリグリセリンの全ての水酸基に脂肪酸がエステル結合してなるポリグリセリン脂肪酸エステル0.05?5.0重量部を含有し、さらに、(C)アクリロニトリル/スチレン共重合体などのスチレン系樹脂である非晶性樹脂1?100重量部並びにガラス繊維である充填材を含有する自動車内装部品用のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲7発明」という。)が記載されている。

(2)甲1
ア.甲1に記載された事項
上記甲1には、以下の事項が記載されている。

(b1)
「【請求項1】 (A_(1))ポリブチレンテレフタレート樹脂40?80重量%、(A_(2))ブタジエン含量15?30重量%で且つブタジエンの分散粒子径が1μm以下であるABS樹脂20?60重量%から成る(A)ブレンド物40?94重量部に対し、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂1?10重量部及び(C)充填材5?50重量部からなる熱可塑性樹脂組成物。」

(b2)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関し、更に詳しくは、表面外観性、低ソリ性に優れ、しかも剛性や耐熱性に優れている熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリブチレンテレフタレート樹脂は、一般に耐酸化性、耐溶剤性をはじめ種々の優れた特性を有する熱可塑性樹脂材料であり、射出成形により良好な物理的、機械的性質を有する成形品を得るのに適している。
【0003】しかしながら、ポリブチレンテレフタレート樹脂は結晶性が大きいため、成形品にソリが発生し易く、寸法安定性に劣るという欠点を有している。
【0004】一方、ABS樹脂は、優れた物性パランス及び寸法安定性を有しており、広範な分野に利用されているが、自動車分野では耐ガソリン、耐ブレーキオイル等の耐薬品性が不充分のため、これらの性質の改良を求められている。
【0005】ポリブチレンテレフタレート樹脂の寸法安定性の改良、ABS樹脂の耐薬品性の改良を目的として、ポリブチレンテレフタレート樹脂とABS樹脂とのブレンドが適するものと推察される。
【0006】ところが剛性、耐熱性を付与する意図で、充填材を配合した場合、成形品は表面外観性に劣るという欠点を有し、表面外観性が要求されるOA機器ハウジングといった用途には適用が困難であった。
【0007】そこで、樹脂組成物として、表面外観性、低ソリ性に優れ、しかも剛性、耐熱性にも優れた樹脂組成物を得るべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0008】
【発明の目的】本発明は、表面外観性、低ソリ性、剛性かつ耐熱性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。」

(b3)
「【0012】また、本発明に用いられる(A_(2))成分のABS樹脂とは、ブタジエン、スチレン?ブタジエンなどを重合して得られるジエン系重合体ゴムの存在下で、スチレンとアクリロニトリルを主成分とするビニルモノマーをグラフト共重合したものをいう。これらのグラフト共重合体の重合方法はラジカル重合に属し、乳化重合、塊状重合、懸濁重合のいずれかの方法で重合したもので、しかもABS樹脂中のブタジエンの分散粒子径が1μm以下のものである。
【0013】なお、グラフト共重合体は上記エチレンの一部をα-メチルスチレン、o-クロロスチレンなどスチレンの誘導体に置きかえたものなどであっても良い。これらABS樹脂のブタジエン含量は15?35重量%の範囲から選ばれる。この理由は、ブタジエン含量が15重量%未満の場合には得られる樹脂組成物の衝撃強度が不十分であり、これに対し35重量%より多い場合では剛性とりわけ曲げ弾性率が低下し、バランスのとれた成形品を得ることができない。ポリブチレンテレフタレート樹脂とABS樹脂の配合割合は、ポリブチレンテレフタレート樹脂40?80重量%及びABS樹脂20?60重量%の条件となる様に配合しなれればならない。」

(b4)
「【0022】本発明に用いられる(C)成分充填材には、ガラス繊維、アスベスト、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウム繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、ボロンウイスカー繊維等の如き繊維状物、マイカ、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレークス、クレー、ウオラストナイト等の如き粉状、粉状或は板状の無機フイラーが例示される。
【0023】これらの充填材は、通常補強材、熱的特性等の改質を目的として配合されるが、これら充填材のうち特にガラス繊維が好ましい。
【0024】このガラス繊維は、一般に樹脂の強化用に用い得るものならば特に限定はない。例えば長繊維タイプ(ガラスロービング)、短繊維状のチョップドストランド又はミルドファイバーなどから選択して用いることができる。またガラス繊維は集束剤(例えばポリ酢酸ビニル、ポリエステル集束前等)、カップリング剤(例えばシラン化合物、ボラン化合物等)、その他の表面処理剤で処理されてもよい。
【0025】通常、長繊維タイプのガラス繊維は樹脂とのブレンド前又はブレンド後に所望の長さに切断されて用いられるが、この使用態様も本発明においては有用である。
【0026】全組成に占める充填材の配合割合は、5?50重量部であり、好ましくは10?40重量部である。充填材が5重量部未満の場合は、充填材配合による補強効果が乏しく、また50重量部を超えると、組成物の溶融流動性が著しく劣ってるため、外観の良好な成形品を得ることができない。」

(b5)
「【0028】・・(中略)・・以下実施例を挙げて本発明をさらに詳述する。
【0029】なお、実施例中「%」はすべて重量基準であり、実施例中記載のポリブチレンテレフタレート及びポリブチレンナフタレンジカルボキシレートの極限粘度数はオルソクロロフェノール100mlに重合体を1.2gr溶解し、35℃で測定した値である。
【0030】また曲げ強度、曲げ弾性率はASTM-790、熱変形温度はASTM-648、衝撃強度はASTM-256、成形品の表面外観性はJIS K7105で60度鏡面光沢により測定した。
【0031】またソリ性は縦200mm、横130mm、高さ50mmの箱型で厚み3mmの成形品を用い、箱ソリを測定することにより効果を確認した。
【0032】
【実施例1?3及び比較例1?3】ポリブチレンテレフタレート(PBT:極限粘度0.71)、ポリエチレンテレフタレート(PET:極限粘度0.71)、ポリブタジエン25%存在下にアクリロニトリル30%とを塊状重合したブタジエンの分散粒子径0.5?0.8μmを有するABS樹脂、及び長さ3mmのガラスチョップドストランドを表1に示した割合でV型ブレンダーで均一に混合して、種々の樹脂組成物を準備した。得られた組成物を44mm径の二軸押出機でバレル温度260℃にて溶融混練し、ダイスから吐出されるスレッドを冷却切断して成形用ペレットを得た。
【0033】次いでこれらのペレットを120℃で5時間熱風乾燥した後、8.3オンスの射出成形機に試験片モールドを取付けて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃射出圧力700kg/cm^(2)、冷却時間20秒及び全サイクル35秒の成形条件で試験片を成形した。
【0034】これらの試験片について、特性を評価して、結果を表1に組成と共に示す。なお、ブタジエンの分散粒子径は、ミクロトームにてスライスした薄片試料を、2%オスミウム酸水溶液蒸気にてブタジエン成分を染色して、日本電子製JEM2010型透過型電子顕微鏡を用いて、5000倍の倍率で写真撮影し、撮影された写真から、ブタジエン成分の粒子50個について長径を定規で測定し、平均値を算出して分散粒子径とした。
【0035】
【表1】

【0036】表1から、本発明に示した通り、PETを配合しない場合、光沢度に示される表面外観性が劣り、ABS樹脂を配合しない場合ソリ量が大きくなり、またPBTを配合しない場合は熱変形温度が劣る。これらの組み合わせによりバランスのとれた樹脂組成物が得られることが伴った。
【0037】
【実施例4?7及び比較例4?6】実施例1と同様の方法で、各成分の配合効果について評価した結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】表2に示す如く、ABS樹脂中の配合量が少なく、かつPBTの配合量が多い場合ソリ量が大きく、またABS樹脂の配合量が多くかつPBTの配合量が少ない場合は光沢が低下し、熱変形温度も低い。一方PETの添加量が多過ぎても熱変形温度が低下し好ましくない。従って、光沢度及び熱変形温度が高く、且つソリの少ない組成物を得るためには特定の割合の配合が必要であることが判った。
【0040】
【実施例8及び比較例7?8】ABS樹脂中のブタジエン成分の分散粒子径を変える以外は実施例1と同様の方法で実施し評価した。表3に示す如く、ABS樹脂中のブタジエン成分の分散粒子径を1μm以下とすると、極めて光沢の良好な成形品を得ることが判った。
【0041】
【表3】

(注釈は省略) 」

イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記ア.で摘示した記載からみて、「(A_(1))ポリブチレンテレフタレート樹脂40?80重量%、(A_(2))ブタジエン含量15?30重量%で且つブタジエンの分散粒子径が1μm以下であるABS樹脂20?60重量%から成る(A)ブレンド物40?94重量部に対し、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂1?10重量部及び(C)充填材5?50重量部からなる熱可塑性樹脂組成物」が記載され(摘示(b1))、当該充填材につき「通常補強材、熱的特性等の改質を目的として配合される」ものであり、ガラス繊維等の如き繊維状物、マイカ、シリカ等の如き粉状、粉状或は板状の無機フイラーが例示され、これら充填材のうち特にガラス繊維が好ましいことも記載されている(摘示(b4))。
また、甲1には、請求項に記載された事項を具備する実施例1ないし7として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)37.5?49.2重量%、ABS樹脂(ABS)26?40重量%、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)3?10重量%及びガラス繊維15?30重量%(各例とも合計100重量%)である樹脂組成物が記載されている(摘示(b5))。
してみると、甲1には、
「(A_(1))ポリブチレンテレフタレート樹脂40?80重量%、(A_(2))ブタジエン含量15?30重量%で且つブタジエンの分散粒子径が1μm以下であるABS樹脂20?60重量%から成る(A)ブレンド物40?94重量部に対し、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂1?10重量部及び(C)ガラス繊維である充填材5?50重量部からなる熱可塑性樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(3)他の甲号証に記載された事項

ア.甲2
甲2には、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂70?99重量部と(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂1?30重量部の合計100重量部に対し、(C)繊維状無機充填材30?50重量部、(D)アルカリ土類金属の炭酸塩30?50重量部並びに(E)スチレン系樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂20?40重量部を配合してなることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び当該樹脂組成物を成形してなる大型成形品が記載され(【請求項1】及び【請求項3】)、当該繊維状無機充填材として特にガラス繊維が好適であること(【0019】)、スチレン系樹脂としてスチレン由来の構造単位を有する(共)重合体であれば任意であり、スチレン系化合物を、またはスチレン系化合物とスチレン系化合物と共重合可能な他の化合物とを、ゴム質重合体存在下または非存在下に重合して得られる(共)重合体であって、当該スチレン系樹脂が非晶性樹脂であり、成形収縮率が低いため、(成形品の)反りを低減させる効果があること並びに当該スチレン系樹脂の具体例としてスチレン/アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)が例示されている(【0025】?【0030】)。

イ.甲3
甲3には、(A)ポリブチレンテレフタレート50?95重量部及び(B)ポリエチレンテレフタレート5?50重量部の合計100重量部に対して、(C)金属炭酸塩6?20重量部と、(D)含窒素化合物0.05?1.2重量部を配合してなり、さらに、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレート及び(C)金属炭酸塩の合計100重量部に対して、(E)強化繊維30?250重量部並びに(A)ポリブチレンテレフタレート及び(B)ポリエチレンテレフタレートの合計100重量部に対して、(F)アクリロニトリル-スチレン(共重合体)及び/又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(共重合体)である非晶性樹脂25?120重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を成形してなる成形品が記載され(【請求項1】ないし【請求項3】及び【請求項9】)、当該強化繊維として、ガラス繊維が好適であることも記載されている(【0049】)。

ウ.甲4
甲4には、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)から選択される一種若しくは二種以上であるスチレン系樹脂(A)100重量部及び疎水性ゼオライト(B)0.1?10重量部からなるスチレン系樹脂組成物並びに当該樹脂組成物を成形してなる成形品が記載され(【特許請求の範囲】)、当該樹脂組成物が、成形性や物理、機械特性を大きく損ねることなく、成形品から発生する揮発性有機ガス(VOC)の量を極めて低くすることが記載されている(【0007】)。

エ.甲5
甲5には、ポリブチレンテレフタレート樹脂又は当該樹脂を含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体の製造方法であって、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂又は当該樹脂を含む樹脂組成物を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程後のポリブチレンテレフタレート樹脂又は当該樹脂を含む樹脂組成物を成形して成形体を製造する成形工程と、を備え、前記乾燥工程は、ポリブチレンテレフタレート樹脂又は当該樹脂を含む樹脂組成物を、乾燥温度を80℃以上180℃以下、乾燥時間を3時間以上36時間以下の条件で真空雰囲気下で乾燥させ、前記成形工程は、シリンダー温度が270℃未満、冷却時間40秒未満の条件で成形を行い、ドイツ自動車工業会VDA277に規定のVOC測定法によるVOCの排出量が60μgC/g以下である樹脂成形体の製造方法が記載され(【請求項1】)、当該方法により製造された樹脂成形体が、成形体から排出されるVOCの量を抑えられることも記載されている(【0008】)。

オ.甲6
甲6には、80?60重量%のスチレン系単量体と20?40重量%のアクリロニトリル単量体とからなる共重合体であって、残留モノマーが300ppm以下であるスチレン-アクリロニトリル系樹脂100重量部に対して、ステアリルステアレ-トを0.01?5重量部添加したことを特徴とするスチレン-アクリロニトリル系樹脂組成物が記載され(【請求項1】)、課題として、スチレン-アクリロニトリル樹脂の本来の特徴である無色透明性、強度、耐油性等をまったく損なわず、しかも色調及び熱安定性の良い、従来に無い透明性、耐熱性(樹脂加熱成形による変色、樹脂中の低沸点成分による金型及び環境への汚染の無いこと)、離型性のバランスに優れたスチレン-アクリロニトリル樹脂組成物を提供するものであることも記載されている(【0007】)。

2.検討

(1)甲7発明に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲7発明とを対比すると、甲7発明における「(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂」、「(C)アクリロニトリル/スチレン共重合体などのスチレン系樹脂」、「ガラス繊維である充填材」及び「自動車内装部品用のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物」は、それぞれ、本件発明1における「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)」、「アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)」、「ガラス繊維(C)」及び「車両内装部品用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」に相当する。
また、甲7発明における「(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、・・(C)アクリロニトリル/スチレン共重合体などのスチレン系樹脂である非晶性樹脂1?100重量部・・を含有する」は、本件発明1における「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)5?100質量部・・を含有」とその数値範囲が重複する。
してみると、本件発明1と甲7発明とは、
「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)5?100質量部及びガラス繊維(C)を含有する車両内装部品用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」
で一致し、以下の2点で相違する。

相違点1:「アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)」につき、本件発明1では「270℃で10分間熱処理して発生するガスをガスクロマトグラフで分析した際のスチレン系単量体の量が500ppm以下である」のに対して、甲7発明では「(C)アクリロニトリル/スチレン共重合体などのスチレン系樹脂」の加熱時に発生するスチレン系単量体の量につき特定されていない点
相違点2:「ガラス繊維(C)」につき、本件発明1では「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、・・ガラス繊維(C)10?100質量部」であるのに対して、甲7発明では「ガラス繊維」の量につき特定されていない点

(イ)検討
上記相違点1につき検討すると、甲7には、甲7発明において「(C)アクリロニトリル/スチレン共重合体などのスチレン系樹脂」に係る加熱時のスチレン系単量体の発生量につき、調節すべきことを認識できる記載又は示唆がない。
また、他の甲号証の記載を検討しても、甲7発明における「(C)アクリロニトリル/スチレン共重合体などのスチレン系樹脂」に係る加熱時のスチレン系単量体の発生量を推認できるような記載又は開示が存在するものとも認められない。
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点であるものといえる。
したがって、上記相違点2につき検討するまでもなく、本件発明1が、甲7発明、すなわち甲7に記載された発明であるということはできない。

なお、念のため、甲7発明に基づき、本件発明1が当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かにつき検討する。
上記相違点1につき、甲7には、甲7発明の樹脂組成物に係る解決課題として、成形時の発生ガス成分低減に伴う金型汚染性に優れる点が挙げられ(摘示(a2))、その指標として樹脂組成物を260℃の雰囲気で1時間処理した際の加熱減量につき測定されており、実施例16では0.37(重量)%、すなわち3700ppmであることは記載されている(摘示(a6))。
しかしながら、甲7に記載された上記加熱減量は、樹脂組成物の加熱時の揮発分全体に係る事項であり、スチレン系単量体の量に係るものでないとともに、甲7発明における「(C)アクリロニトリル/スチレン共重合体などのスチレン系樹脂」の加熱時に発生するスチレン系単量体の量でもないから、甲7には、甲7発明における「(C)アクリロニトリル/スチレン共重合体などのスチレン系樹脂」に係る加熱時に発生するスチレン系単量体の量を500ppm以下とすることを動機付ける事項が存するものではない。
また、他の甲号証(特に甲4及び甲5を参照。)の記載を検討しても、種々の目的をもって、樹脂組成物の加熱時の揮発分全体に係る量、すなわち加熱時の未反応単量体などのVOC量を一定量以下に低減化することは一応記載されているものの、甲7発明における「(C)アクリロニトリル/スチレン共重合体などのスチレン系樹脂」の、特に加熱時の発生スチレン系単量体量を一定量(例えば500ppm)以下とすべきことを動機付けできる事項が存するものとは認められない。
さらに、本件明細書の実施例(比較例)に係る記載を参酌すると、実施例8及び9と比較例1及び2との対比において、樹脂組成物のVOC全体(TVOC)量が同程度であったとしても、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)又は樹脂組成物全体の加熱時の発生スチレン単量体量が少ない実施例の場合にモールドデポジット量が改善されるという効果を奏することを看取することができる(【表2】)。
してみると、上記相違点1は、甲7発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たことということはできない。
したがって、上記相違点2につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲7発明、すなわち甲7に記載された発明であるということはできないものであるとともに、甲7に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

イ.本件発明2について
本件発明1を引用する本件発明2につき検討する。
本件発明2と甲7発明とは、少なくとも上記ア.(ア)で示した相違点1及び2において相違するところ、上記ア.(イ)で説示したとおりの理由により、相違点1が実質的な相違点であり、当該相違点1につき、甲7発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たことということはできないのである。
したがって、相違点2につき検討するまでもなく、本件発明2についても、甲7発明、すなわち甲7に記載された発明であるということはできないものであるとともに、甲7に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

ウ.甲7発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲7に記載された発明ではなく、甲7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、申立人が主張する上記取消理由1は理由がなく、仮に甲7に記載された発明に基づき進歩性欠如を主張した場合であっても、理由がない。

(2)甲1発明に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「(A_(1))ポリブチレンテレフタレート樹脂」及び「(C)ガラス繊維である充填材」は、それぞれ、本件発明1における「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)」及び「ガラス繊維(C)」に相当する。
また、甲1発明における「(A_(2))ブタジエン含量15?30重量%で且つブタジエンの分散粒子径が1μm以下であるABS樹脂」は、アクリロニトリル及びスチレンをいずれも共重合単位とする共重合体樹脂である限りにおいて、本件発明1における「アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)」と一致する。
さらに、甲1発明における「(A_(1))ポリブチレンテレフタレート樹脂40?80重量%、(A_(2))・・ABS樹脂20?60重量%から成る(A)ブレンド物40?94重量部に対し、・・(C)ガラス繊維である充填材5?50重量部からなる」との各成分の組成比は、まず「(A)ブレンド物」の各成分につき重量部の比で換算すると、(A_(1))ポリブチレンテレフタレート樹脂16?75.2重量部及び(A_(2))ABS樹脂8?56重量部から成る(A)ブレンド物40?94重量部となり、それに基づき、甲1発明の組成物を構成する(A_(1))、(A_(2))及び(C)の各成分の重量部組成比を(A_(1))ポリブチレンテレフタレート樹脂を基準の100重量部であるとして換算すると、(A_(1))ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(A_(2))ABS樹脂25?150重量部及び(C)ガラス繊維である充填材6.6?312.5重量部となるものといえるから、本件発明1における「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)5?100質量部及びガラス繊維(C)10?100質量部を含有」とその数値範囲が一部又は全範囲において重複する。
そして、甲1発明における「熱可塑性樹脂組成物」は、本件発明1における「ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、アクリロニトリルとスチレンを共重合単位とする共重合体樹脂(B)25?100質量部及びガラス繊維(C)10?100を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」
で一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点3:本件発明1は「アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)」を含有するものであり、さらに当該共重合体につき「270℃で10分間熱処理して発生するガスをガスクロマトグラフで分析した際のスチレン系単量体の量が500ppm以下である」のに対して、甲1発明では「(A_(2))ブタジエン含量15?30重量%で且つブタジエンの分散粒子径が1μm以下であるABS樹脂」であり、当該「ABS樹脂」の加熱時に発生するスチレン系単量体の量につき特定されていない点
相違点4:本件発明1は「車両内装部品用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明では「熱可塑性樹脂組成物」であり、その用途につき特定されていない点

(イ)検討
上記相違点3につき検討すると、甲1には、その記載からみて、甲1発明において、アクリロニトリル及びスチレンをいずれも共重合単位とする「ABS樹脂」の加熱時に発生するスチレン系単量体の量につき、調節すべきことを認識できる記載又は示唆がないし、そもそも、本件明細書の記載(【0026】?【0036】)からみて、本件発明1における「アクリロニトリル-スチレン系共重合体(B)」として、ブタジエンを共重合単位とする「ABS樹脂」を含む態様が含まれるものとも認められない。
また、他の甲号証の記載を検討しても、甲1発明における「ABS樹脂」につき、加熱時のスチレン系単量体の発生量を推認できるような記載又は開示が存在するものとも認められないし、種々の目的をもって、樹脂組成物の加熱時の揮発分全体に係る量、すなわち加熱時のVOC量を一定量以下に低減化することは一応記載されているものの、甲1発明における「ABS樹脂」の加熱時に発生するスチレン系単量体の量を一定量(例えば500ppm)以下とすべきことを動機付けできる事項が存するものとは認められない。
さらに、本件明細書の実施例(比較例)に係る記載を参酌すると、実施例8及び9と比較例1及び2との対比において、樹脂組成物のVOC全体(TVOC)量が同程度であったとしても、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)又は樹脂組成物全体の加熱時の発生スチレン単量体量が少ない実施例の場合にモールドデポジット量が改善されるという効果を奏することを看取することができる(【表2】)。
してみると、上記相違点3は、甲1発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たことということはできない。
したがって、上記相違点4につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

イ.本件発明2について
本件発明1を引用する本件発明2につき検討する。
本件発明2と甲1発明とは、少なくとも上記ア.(ア)で示した相違点3及び4において相違するところ、上記ア.(イ)で説示したとおりの理由により、相違点3につき、甲1発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たことということはできない。
したがって、相違点4につき検討するまでもなく、本件発明2についても、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

ウ.甲1発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人が主張する上記取消理由2は、理由がない。

(3)他の甲号証に記載された発明に基づく取消理由1又は2について
甲2ないし甲6に記載された各発明を主たる引用発明として取消理由1又は2が成立するか否かにつき一応検討すると、結局のところ、いずれの場合においても、上記(2)ア.(ア)で指摘した相違点3に係る各事項につき当業者が容易に想到することはできないものと認められるから、上記取消理由1又は2が成立することはない。

(4)検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けられないものではない。

3.取消理由1及び2に係るまとめ
よって、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものではなく、上記取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-30 
出願番号 特願2016-210492(P2016-210492)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 尾立 信広  
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 橋本 栄和
福井 悟
登録日 2020-07-29 
登録番号 特許第6741554号(P6741554)
権利者 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
発明の名称 車両内装部品用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  
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