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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
令和1行ケ10067 審決取消請求事件 判例 特許
異議2019700557 審決 特許
異議2018701011 審決 特許
異議2017700311 審決 特許
異議2019700058 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C12P
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12P
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12P
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C12P
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  C12P
管理番号 1376100
審判番号 無効2018-800122  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-10-12 
確定日 2021-05-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第6275313号発明「エクオール含有抽出物及びその製造方法、エクオール抽出方法、並びにエクオールを含む食品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6275313号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6275313号に係る出願は、平成20年6月13日(国内優先権主張 平成19年6月13日の特許出願3件)を国際出願日とする特願2009-519326号(PCT/JP2008/060913)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づき分割した特願2013-108439号の一部を、同規定に基づき分割した特願2016-156372号の一部を、さらに同規定に基づき分割して新たな出願としたものであり、特許権の設定登録以降の手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成30年 1月19日 特許権の設定登録
平成30年10月12日 特許無効審判請求
平成31年 1月24日 答弁書、訂正請求
平成31年 4月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成31年 4月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成31年 4月15日 上申書(請求人)
平成31年 4月22日 口頭審理
令和元年 5月 7日 上申書(被請求人)
令和元年 5月31日 上申書(請求人)


第2 訂正請求の適否
1.訂正の内容
平成31年1月24日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は次の(1)?(4)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも1種のダイゼイン類、並びに、アルギニンを含む発酵原料を」と記載されているのを、「少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること、及び、前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料を」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法」と記載されているのを、「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、オルニチン及びエクオールの生成量の具体的な数値をさらに特定する「・・・であって、前記発酵処理により、前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し、」の記載を追加する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1において、生成物である発酵物の用途が食品素材であることをさらに特定する「及び、前記発酵物が食品素材として用いられるものである」の記載を追加する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1によって、訂正後の請求項1に係る発明では、発酵物の製造方法がダイゼイン類にアルギニンを添加する工程を含むことが特定されており、この特定により訂正前の請求項1の発酵物の製造方法が減縮される。
したがって、訂正事項1は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0036】、【0050】、【0222】、【0226】等には、ダイゼイン類にアルギニンを添加して発酵を行うことが記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2によって、訂正後の請求項1に係る発明では、発酵物が粉末状に特定されおり、この特定により訂正前の請求項1の発酵物の製造方法が減縮される。
したがって、訂正事項2は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0144】、【0222】、【0225】、【0229】等には、発酵物を粉末状にすることが記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項2は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3によって、訂正後の請求項1に係る発明では、発酵処理により発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成することが特定されており、この特定により訂正前の請求項1の発酵物の製造方法が減縮される。
したがって、訂正事項3は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0050】には、アルギニンを含む大豆胚軸を発酵原料とした発酵物について、「発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上」に該当する量のオルニチンを生成することが記載され、段落【0042】には、「発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上」に該当する量のエクオールを生成することが記載されており、エクオールやオルニチンの生成量は、アルギニンを含むダイゼイン類を発酵原料用いた場合についても同様であると認められる。また、本件特許明細書の段落【0042】、【0226】には、オルニチン及びエクオールが発酵処理により生成したものであることが記載されている。
したがって、訂正事項3は新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項3は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4によって、訂正後の請求項1に係る発明では、製造方法で製造される発酵物の用途が食品素材に特定されており、この特定により訂正前の請求項1の発酵物の製造方法が減縮される。
したがって、訂正事項4は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0144】等には、発酵物の用途が食品素材であることが記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項4は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。


第3 本件特許発明
本件特許第6275313号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること、及び、
前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む、オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって、
前記発酵処理により、前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し、及び、
前記発酵物が食品素材として用いられるものである、
前記製造方法。」


第4 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は、特許第6275313号特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下のように主張する。
無効理由1として、
本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同条2項の規定により特許を受けることができない。
無効理由2として、
本件の請求項1に係る発明は、いわゆるサポート要件及び実施可能要件を満たさないものであるから、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号の要件を満足しない。
無効理由3として
本件の請求項1に係る発明は、甲第6号証に記載された発明であるか、甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同条2項の規定により特許を受けることができない。
との理由から、本件の請求項1に係る発明の特許は特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当し、無効とすべきである。
そして、請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

(審判請求書に添付されたもの)
甲第1号証:国際公開第2007/066655号
甲第2号証の1:優先権証明書(特願2007-156822号)
甲第2号証の2:優先権証明書(特願2007-156825号)
甲第2号証の3:優先権証明書(特願2007-156833号)
甲第3号証:国際公開第2008/153158号再公表公報(平成22年8月26日発行)
甲第4号証:特許第5946489号公報
甲第5号証の1:特願2014-83507号に係る平成27年6月18日付け手続補正書
甲第5号証の2:特願2014-83507号に係る平成27年10月21日付け拒絶理由書
甲第5号証の3:特願2014-83507号に係る平成27年12月16日付け手続補正書
甲第6号証: JOURNAL OF BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING, Vo.102,No.3,
p.247-250, 2006,
甲第7号証:JOURNAL OF BACTERIOLOGY , Vol.127, No.2, p.780-784,1976
甲第8号証:「日本生化学会編 生化学実験講座11 アミノ酸代謝と生体アミン(中)」株式会社 東京化学同人発行,532?535頁,1976年11月28日
甲第9号証:R.Y.スタニエほか原著、高橋甫ほか訳「微生物学(上)」株式会社 培風館発行,380?383頁,昭和56年9月10日
甲第10号証:「日本微生物学会編 微生物学辞典」技報堂出版株式会社発行,40?41頁,1989年8月23日
甲第11号証:株式会社ダイセル社員 山本浩明が2018年6月12日に作成した実験報告書

(口頭審理陳述要領書に添付されたもの)
甲第12号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 5」共立出版株式会社発行,924?925頁,1997年9月20日
甲第13号証の1:特願2005-511140号に係る平成18年4月3日付け意見書
甲第13号証の2:特願2006-173789号に係る平成19年9月25付け意見書
甲第14号証:ウエブサイト「大塚製薬の公式通販オオツカ・プラスワン」「エクエル誕生秘話I」から「エクエル誕生秘話III」まで
甲第15号証の1:日本醸造協会雑誌,第62巻,第4号,366?373頁,1967年
甲第15号証の2:「食糧研究所研究報告 第19号」120?127頁,昭和40年3月
甲第15号証の3:Bull.Eur.Ass.Fish Pathol., Vol.21, No.4, P.136-144, 2001
甲第16号証の1:亀和田光男ほか編著「乾燥食品の基礎と応用」株式会社 幸書房発行,1?5頁,1997年9月1日
甲第16号証の2:日本食品科学工学会誌,第51巻,第9号,441?448頁,2004年9月
甲第17号証:株式会社ダイセル社員 山本浩明が2019年3月8日に作成した実験報告書
甲第18号証:国際公開第99/07392号
甲第19号証:国際公開第2005/000042号

2.被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては、本件特許発明を無効にすることはできないと主張する。
そして、被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。

(答弁書に添付されたもの)
乙第1号証:細野明義編「発酵乳の科学 乳酸菌の機能と保健効果」アイ・ケイコーポレイション発行,120?135頁,2002年11月10日
乙第2号証の1:特許第6391956号公報
乙第2号証の2:特許第4743114号公報
乙第2号証の3:特許第4490361号公報
乙第3号証:発酵工学,第55巻,第2号,68?74頁,1977年
乙第4号証:土と微生物,No.38,45?60頁,1991年
乙第5号証:特願2012-202388号に係る平成28年4月22日付け意見書

(口頭審理陳述要領書に添付されたもの)
乙第6号証の1:福井三郎監修「スクリーニング技術-微生物の潜在機能をさぐる」株式会社 講談社発行,1?3頁,1985年4月20日
乙第6号証の2:化学と生物,Vol.5, No.5, p.294-303
乙第7号証:特開2006-242602号公報
乙第8号証:腸内細菌学雑誌,第21巻,第3号,217?220頁,2007年
乙第9号証:特開2008-61584号公報
乙第10号証:日本食品科学工学会誌,第62巻,第7号,356?363頁,2015年7月
乙第11号証:国際公開第99/07392号
乙第12号証:特開2006-204296号公報
乙第13号証:特表2006-504409号公報
乙第14号証:特開2008-61584号公報
乙第15号証:大塚製薬株式会社社員 内山 成人が平成31年4月5日に作成した実験報告書


第5 甲号証、乙号証の記載事項
1.甲第1号証
甲第1号証(以下、「甲1」と略記する。他の証拠についても同様とする。)には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[0021] また、大豆胚軸の発酵において、発酵原料となる大豆胚軸には、必要に応じて、発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として、酵母エキス、ポリペプトン、肉エキス等の窒素源;グルコース、シュクロース等の炭素源;リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に、エクオール産生菌として、アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(以下、「オルニチン・エクオール産生菌」と表記する)を使用する場合には、大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって、得られる発酵物中にオル-チンを含有させることができる。この場合、アルギニンの添加量については、例えば、大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、アルギニンが0.5?3重量部程度が例示される。なお、アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するエクオール産生菌としては、具体的には、ラクトコッカス・ガルビエから選択することができ、具体的には、ラクトコッカス20- 92(FERM BP-10036号)が挙げられる。」

(1-2)「[0050] 実施例4
粉末状大豆胚軸10重量%及び L-アルギニン 0.1重量%を含む大豆胚軸溶液 5mlに、ラクトコッカス 20-92株(FERM BP-10036号)を植菌し、嫌気条件下で、37℃で96時間静置培養することにより発酵処理を行った。培養後、得られた発酵液 (培養液)を100℃、1分間の条件で加熱殺菌した後、80℃の条件での乾燥処理し、更にホモゲナイダーにより粉末化処理することにより、粉末状の大豆胚軸発酵物を得た。
[0051] 原料として使用した粉末状大豆胚軸(表2及び3中、発酵前と表記する)及び得られた粉末状大豆胚軸発酵物(表2及び3中、発酵後と表記する)の含有成分の分析を行った。大豆イソフラボン類の分析結果を表2に、栄養成分の分析結果を表3に示す。この結果からも、ラクトコッカス 20-92株によって大豆胚軸を発酵させることにより、高含量のエクオールを含む大豆胚軸発酵物が製造されることが確認された。また、ラフィノースやスタキオース等のオリゴ糖は、発酵前後でその含量が同程度であり、発酵による影響を殆ど受けないことが明らかとなった。一方、アルギニンについては、発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。従って、大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス 20-92株で発酵処理することにより、エクオールのみならず、オルニチンをも生成させ得ることが明らかとなった。」

2.甲第6号証
甲6には、以下の事項が記載されている。なお、甲6は英文であるから、提出された甲6の抄訳を記載する。
(2-1)「エクオール産生菌を単離後、37℃で28時間、前培養した、1% L-アルギニンを含むGAMブロスを、定量測定のため、蒸留水1リットルあたりGAMブロス59g及びダイゼイン(最終濃度:200μM)を含むエクオールアッセイ培地へ添加した。その後、培地を37℃、嫌気下でインキュベートして、抽出し、以下のとおりHPLCで分析した。」(248頁左欄23?29行)

(2-2)「エクオール産生能力を有する嫌気性グラム陽性ロッド状株をラット盲腸内容物から単離した。この株をグラム陽性菌do03 (AB266102)という。」(248頁右欄8?11行)

(2-3)「株do03は、37℃、嫌気下、4日間で200 μMダイゼインをエクオールに変換した。」(248頁右欄25?26行)

(2-4)「アルギニンを含む培地において、エクオール比率は、OD_(600)および培地ブロスpHの増加と共に、0.67±0.01まで増加した。」(248頁右欄38?40行)

(2-5)「さらに、E.lentumのようなある菌の成長のために、アルギニンは必要である。なぜなら、それらの菌は、成長のために、アルギニンジヒドロラーゼ経路を用いて、エネルギーを得るからである(19)。アルギニンの菌代謝により、NH_(3) が産生され、それらによって、培地ブロスpHが増加した。アルギニン追加により、OD_(600)が増加し、それによって、株do03が成長のためにアルギニンを用いている。」(248頁右欄45?51行)

3.乙第10号証
乙10の表1(第358頁)




第6 当審の判断
1.無効理由1について
(1)本件出願の優先権について
ア 本件分割出願の原出願である特願2009-519326号は、特願2007-156822号(出願日:2007年6月13日)、特願2007-156825号(出願日:2007年6月13日)、及び特願2007-156833号(出願日:2007年6月13日)に基づく国内優先権を主張する国際出願PCT/JP2008/060913の国内移行特許出願である。

イ 本件特許発明には「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」にアルギニンを添加した「前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む」ものを「発酵原料」とすることが特定されている。

ウ これに対して、本件分割出願の親出願の優先基礎出願(特願2007-156822号)に係る優先権書類(甲2の1)には、「発酵原料」について以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。
「【0012】
エクオール含有大豆胚軸発酵物
本発明の食品素材に用いられるエクオール含有大豆胚軸発酵物とは、エクオール産生微生物で大豆胚軸を発酵させて得られる大豆胚軸発酵物である。
【0013】
当該エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造は、エクオール産生微生物としては、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物が使用される。ここで、ダイゼイン配糖体としては、具体的には、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン等が挙げられる。
【0014】
上記エクオール産生微生物としては、食品衛生上許容され、上記能力を有する限り特に制限されない。例えば、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)等のラクトコッカス属に属する微生物;ストレプトコッカス・インターメディアス(Streptococcus intermedius)、ストレプトコッカス・コンステラータス(Streptococcus constellatus)等のストレプトコッカス属に属する微生物;バクテロイデス・オバタス(Bacteroides ovatus)等のバクテロイデス属に属する微生物の中に上記能力を有する微生物が存在していることが分かっている。エクオール産生微生物の中で、好ましくは、ラクトコッカス属、及びストレプトコッカス属等の乳酸菌であり、更に好ましくはラクトコッカス属に属する乳酸菌であり、特に好ましくはラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。エクオール産生微生物は、例えば、ヒト糞便中からエクオールの産生能の有無を指標として単離することができる。上記エクオール産生微生物については、本発明者等により、ヒト糞便から単離同定された菌、即ち、ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)、及びバクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)が寄託されており、本発明ではこれらの寄託菌を使用できる。これらの寄託菌の中でも、ラクトコッカス20-92が好適に使用される。
【0015】
当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は、発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される。大豆胚軸とは、大豆の発芽時に幼芽、幼根となる部分であり、ダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類が多く含まれていることが知られている。本発明に使用される大豆胚軸は、含有されているダイゼイン類が著しく損失されていないことを限度として、大豆の産地や加工の有無については制限されない。例えば、生の状態のもの;加熱処理、乾燥処理、蒸煮処理等に供された大豆から分離したもの;未加工の大豆から分離した胚軸を加熱処理、乾燥処理又は蒸煮処理等に供したもの等のいずれであってもよい。また、使用される大豆胚軸は、脱脂処理や脱タンパク処理に供したものであってもよい。また、使用される大豆胚軸の形状については、特に制限されるものではなく、粉末状であっても、粉砕又は破砕された粒状又は塊状であってもよい。より効率的にエクオールを生成させるという観点からは、粉末状の大豆胚軸を使用することが望ましい。
【0016】
大豆胚軸の発酵処理は、適量の水を大豆胚軸に加えて水分含量を調整し、これに上記エクオール産生微生物を接種することにより行われる。
【0017】
大豆胚軸に添加される水の量は、使用するエクオール産生微生物の種類や発酵槽の種類等によって応じて適宜設定される。通常、発酵開始時に、大豆胚軸と水が以下の割合で共存していればよい:大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、水が400?4000重量部、好ましくは500?2000重量部、更に好ましくは600?1000重量部。
【0018】
また、大豆胚軸の発酵において、発酵原料となる大豆胚軸には、必要に応じて、発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として、酵母エキス、ポリペプトン、肉エキス等の窒素源;グルコース、シュクロース等の炭素源;リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に、エクオール産生微生物として、アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(以下、「オルニチン・エクオール産生微生物」と表記する)を使用する場合には、大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって、得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合、アルギニンの添加量については、例えば、大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、アルギニンが0.5?3重量部程度が例示される。なお、アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するエクオール産生微生物としては、具体的には、ラクトコッカス・ガルビエから選択することができ、具体的には、ラクトコッカス20-92(FERM BP-100
36号)が挙げられる。
【0019】
更に、使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)のpHについては、エクオール産生微生物が生育可能である限り特に制限されないが、エクオール産生微生物を良好に増殖させるという観点からは、発酵原料のpHを6?7程度、好ましくは6.3?6.8程度に調整しておくことが望ましい。
【0020】
また、使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)には、更に、前記ダイゼイン類を含むイソフラボンを添加しておいてもよい。このようにイソフラボンを発酵原料に別途添加しておくことにより、得られる大豆胚軸発酵物中のエクオール含量をより高めることが可能になり、その有用性を一層向上させることができる。」
また、同じく本件分割出願の親出願の優先権書類である特願2007-156825号(甲2の2)の段落【0014】?【0022】、特願2007-156833号(甲2の3)の段落【0012】?【0021】にも、同様の事項が記載されている。

エ 上記ウのとおり、本件分割出願の原出願の優先権書類に「発酵原料」として明示的に記載されているのは「大豆胚軸」であるが、優先権書類には「発酵原料となる大豆胚軸には、必要に応じて、発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として、酵母エキス、ポリペプトン、肉エキス等の窒素源;グルコース、シュクロース等の炭素源;リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。」、「使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)には、更に、前記ダイゼイン類を含むイソフラボンを添加しておいてもよい。このようにイソフラボンを発酵原料に別途添加しておくことにより、得られる大豆胚軸発酵物中のエクオール含量をより高めることが可能になり、その有用性を一層向上させることができる。」と記載されており、発酵原料に大豆胚軸以外の成分を添加することが示されており、また、「大豆胚軸とは、大豆の発芽時に幼芽、幼根となる部分であり、ダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類が多く含まれていることが知られている。」と記載されており、大豆胚軸はダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類を多く含む材料として使用されることが記載されていると認められる。
さらに、優先権書類には「エクオール産生微生物としては、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物が使用される」と記載されており、発酵原料を発酵させる微生物は発酵原料に含まれている「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」を資化することでエクオールを産生することが記載されていると認められる。
そうすると、「発酵原料」として微生物が資化する「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」を含むものを用いることは、本件出願の原出願の優先権書類の記載から自明であるといえる。

オ したがって、本件特許発明に特定される「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」を含むものを「発酵原料」とすることは、本件出願の原出願の優先権書類に記載されていたに等しい事項であると認められる。
よって、本件特許発明の新規性進歩性の判断基準日は、優先権を主張する優先日である2007年6月13日となる。

(2)甲1を主引用例とする新規性進歩性違反
甲1は本件特許出願の優先日より後に頒布された刊行物であるから、甲1を証拠として本件特許発明の新規性進歩性欠如をいうことはできない。
したがって、無効理由1は理由がない。

2.無効理由2について
(1)本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許発明の解決しようとする課題は、請求項1の記載からみて、「ダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することによって、オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物を製造できる方法」の提供であると認められる。

(2)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。
ア「【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について説明する
1.エクオール含有抽出物の製造方法
本発明は、のの製造方法(原文のまま)は、エクオール含有大豆胚軸発酵物を原料として用いて、エクオール含有抽出物を製造する方法を提供する。具体的には、本発明のエクオール含有抽出物の製造方法は、後述する第I法及び第II法の2つの手法に大別される。以下、本発明の製造方法において原料として使用されるエクオール含有大豆胚軸発酵物、並びに第I法及び第II法の具体的内容についてについて詳述する。
エクオール含有大豆胚軸発酵物
本発明のエクオール含有抽出物の製造方法は、エクオール含有大豆胚軸発酵物を原料として使用する。以下、エクオール含有大豆胚軸発酵物について説明する。
【0030】
エクオール含有大豆胚軸発酵物とは、エクオール産生微生物で大豆胚軸を発酵させて得られる大豆胚軸発酵物である。
【0031】
当該エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造に使用されるエクオール産生微生物としては、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物が使用される。ここで、ダイゼイン配糖体としては、具体的には、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン等が挙げられる。
【0032】
上記エクオール産生微生物としては、食品衛生上許容され、上記能力を有する限り特に制限されず、従来公知のもの、或いは通常の方法でスクリーニングしたものを使用できる。例えば、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)等のラクトコッカス属に属する微生物;ストレプトコッカス・インターメディアス(Streptococcus intermedius)、ストレプトコッカス・コンステラータス(Streptococcus constellatus)等のストレプトコッカス属に属する微生物;バクテロイデス・オバタス(Bacteroides ovatus)等のバクテロイデス属に属する微生物の中にエクオール産生能を有する微生物が存在していることが分かっている。エクオール産生微生物の中で、好ましくは、ラクトコッカス属、及びストレプトコッカス属等の乳酸菌であり、更に好ましくはラクトコッカス属に属する乳酸菌であり、特に好ましくはラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。エクオール産生微生物は、例えば、ヒト糞便中からエクオールの産生能の有無を指標として単離することができる。上記エクオール産生微生物については、本発明者等により、ヒト糞便から単離同定された菌、即ち、ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)、及びバクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)が寄託されており、本発明ではこれらの寄託菌を使用できる。これらの寄託菌の中でも、ラクトコッカス20-92が好適に使用される。
【0033】
当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は、発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される。大豆胚軸とは、大豆の発芽時に幼芽、幼根となる部分であり、ダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類が多く含まれていることが知られている。本発明に使用される大豆胚軸は、含有されているダイゼイン類が著しく損失されていないことを限度として、大豆の産地や加工の有無については制限されない。例えば、生の状態のもの;加熱処理、乾燥処理、蒸煮処理等に供された大豆から分離したもの;未加工の大豆から分離した胚軸を加熱処理、乾燥処理又は蒸煮処理等に供したもの等のいずれであってもよい。また、使用される大豆胚軸は、脱脂処理や脱タンパク処理に供したものであってもよい。また、使用される大豆胚軸の形状については、特に制限されるものではなく、粉末状であっても、粉砕又は破砕された粒状又は塊状であってもよい。より効率的にエクオールを生成させるという観点からは、粉末状の大豆胚軸を使用することが望ましい。
【0034】
大豆胚軸の発酵処理は、適量の水を大豆胚軸に加えて水分含量を調整し、これに上記エクオール産生微生物を接種することにより行われる。
【0035】
大豆胚軸に添加される水の量は、使用するエクオール産生微生物の種類や発酵槽の種類等によって応じて適宜設定される。通常、発酵開始時に、大豆胚軸と水が以下の割合で共存していればよい:大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、水が400?4000重量部、好ましくは500?2000重量部、更に好ましくは600?1000重量部。
【0036】
また、大豆胚軸の発酵において、発酵原料となる大豆胚軸には、必要に応じて、発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として、酵母エキス、ポリペプトン、肉エキス等の窒素源;グルコース、シュクロース等の炭素源;リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に、エクオール産生微生物として、アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(以下、「オルニチン・エクオール産生微生物」と表記する)を使用する場合には、大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって、得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合、アルギニンの添加量については、例えば、大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、アルギニンが0.5?3重量部程度が例示される。なお、オルニチン・エクオール産生微生物としては、エクオール産生能とアルギニンからオルニチンへの変換能を指標として公知のスクリーニング方法により得ることができる。オルニチン・エクオール産生微生物は、例えばラクトコッカス・ガルビエから選択することができ、その具体例としてラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)が挙げられる。」

イ「【0090】
以下、エクオールを含有する発酵物について説明する。
【0091】
エクオールを含む発酵物は、エクオール産生微生物を用いて公知の方法に従って発酵することにより製造される。具体的には、エクオール産生微生物を、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を、該ダイゼイン類を含む発酵原料(発酵に供される原料)に接種し、該微生物の生育環境下で発酵(培養)させることにより、エクオールを含む発酵物を得ることができる。
【0092】
上記エクオール産生微生物としては、前記「1.エクオール含有抽出物の製造方法」の「エクオール含有大豆胚軸発酵物」の欄に記載するエクオール産生微生物が使用される。
【0093】
また、ダイゼイン類を含む発酵原料としては、ダイゼイン類を含む限り、特に制限されるものではないが、安全性の観点から、食品素材としても利用可能なものが好適である。ダイゼイン類を含む発酵原料としては、具体的には、大豆、大豆胚軸、大豆胚軸の抽出物、豆腐、油揚げ、豆乳、納豆、醤油、味噌、テンペ、レッドクローブ又はその抽出物、アルファルファ又はその抽出物等が挙げられる。これらの中でも、大豆胚軸は、ダイゼイン類を豊富に含んでいるので、ダイゼイン類を含む発酵原料として好ましい。」

ウ「【実施例】
【0221】
以下に、参考例、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0222】
参考例1-1?1-3 エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造
表1に示す組成となるように、粉末状大豆胚軸、アルギニン、及び水を混合して、大豆胚軸溶液(原料)を調製した。この大豆胚軸溶液5mlに、ラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)を植菌し、嫌気条件下で、37℃で96時間静置培養を行った。培養後、得られた発酵液(培養液)を100℃、1分間の条件で加熱殺菌した後、80℃の条件での乾燥処理し、更にホモゲナイダーにより粉末化処理することにより、粉末状の大豆胚軸発酵物を得た。」

(3)判断
本件特許発明は、「ダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料」を「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」で発酵処理することによって、「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物」を製造することを特定するものである。
そして、発酵原料に含まれる「ダイゼイン類」とは「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種」であり、「ダイゼイン配糖体」は「ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン等」であることが本件特許明細書に記載されており、これらの物質やアルギニンは当業者が入手可能なものであると認められる。
また、発酵に用いられる「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」について、本件特許明細書の実施例にはラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)が記載されており、このラクトコッカス20-92株を用いれば、ダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料からオルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物が得られるといえる。
一方、ラクトコッカス20-92株以外の「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」については、段落【0036】に「オルニチン・エクオール産生微生物としては、エクオール産生能とアルギニンからオルニチンへの変換能を指標として公知のスクリーニング方法により得ることができる。オルニチン・エクオール産生微生物は、例えばラクトコッカス・ガルビエから選択することができ、その具体例としてラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)が挙げられる。」と記載されているが、「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」として、ラクトコッカス20-92株以外の微生物や、実際にスクリーニングを行って得た具体的な微生物は記載されていない。
しかし、段落【0032】には「例えば、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)等のラクトコッカス属に属する微生物;ストレプトコッカス・インターメディアス(Streptococcus intermedius)、ストレプトコッカス・コンステラータス(Streptococcus constellatus)等のストレプトコッカス属に属する微生物;バクテロイデス・オバタス(Bacteroides ovatus)等のバクテロイデス属に属する微生物の中にエクオール産生能を有する微生物が存在していることが分かっている。エクオール産生微生物の中で、好ましくは、ラクトコッカス属、及びストレプトコッカス属等の乳酸菌であり、更に好ましくはラクトコッカス属に属する乳酸菌であり、特に好ましくはラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。」、「上記エクオール産生微生物については、本発明者等により、ヒト糞便から単離同定された菌、即ち、ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)、及びバクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)が寄託されており、本発明ではこれらの寄託菌を使用できる。」と、エクオール産生微生物が存在することが記載されているから、ここに記載されるような、本願の原出願日当時にエクオール産生微生物として知られていたものを対象とし、アルギニンからオルニチンへの変換能を指標として、オルニチンを産生するものを得ることができると認められる。
そして、アルギニンからオルニチンへの変換能を指標としてオルニチンを産生する微生物を得る方法は当該技術分野における周知技術であり、また、乙10の表1の記載からみて、本願の原出願日の国際出願日である2008年6月13日当時にいくつかのエクオール産生微生物が知られていたと認められるから、これらのような微生物を対象とし、アルギニンからオルニチンへの変換能を指標として「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」を得ることができるといえる。このことは、本件特許明細書の段落【0032】にエクオール産生微生物として示された「ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)」及び「バクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)」が、オルニチン産生能を有することを実験的に確認した乙15実験報告書の記載に裏付けられる。
さらに、本件特許明細書の段落【0144】、【0222】、【0225】、【0229】等には、発酵物を乾燥処理及び粉末化処理により粉末状とすることが記載されている。
そうすると、本件特許明細書の記載から、当業者はダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料を準備し、これをオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理して発酵物とし、発酵物を乾燥処理及び粉末化処理することによって、オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物を製造できること、すなわち、上記本件特許発明の課題が解決できることを理解するといえる。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものといえ、いわゆるサポート要件を満たすものである。
また、本件特許明細書の記載及び技術常識から、当業者は本件特許発明を実施できるといえるから、本件特許明細書は実施可能要件を満たすものである。

(4)請求人の主張
請求人は平成31年4月15日付け上申書及び令和元年5月31日付け上申書において、概ね以下の点を主張している。
ア ラクトコッカス20-92株以外の、食品用に利用できる、安全性の高い微生物の発見には困難性がある。
イ ラクトコッカス20-92株以外の微生物を用いた場合に、本件特許発明に特定されるような一定量以上のエクオール及びオルニチンの産生量が得られるとはいえない。また、生成量が下限値のみで特定され、上限値が特定されていない。
ウ スクリーニングすべき対象の範囲やスクリーニング方法が特定されていないから、サポート要件や実施可能要件を満たさない。

アについて
乙8の記載によれば、ラクトコッカス20-92株は食品に利用可能な安全な微生物であると認められ、ここで食品に利用可能な安全な微生物とは、生きた微生物を含む発酵物をそのまま食品として摂取できるような微生物であると認められる。
一方、本件特許発明の「発酵物が食品素材として用いられるものである」との特定は、発酵によって得られた生産物を食品素材とすることを特定するものであって、この特定は発酵物を食品素材とする際に何らかの処理が行われることも含んでいると認められ、この特定が生きた微生物を含む発酵物をそのまま食品として摂取することのみを意味するとは認められない。
そして、上記(3)で述べたとおり、本願の原出願日当時にエクオール産生微生物として知られていたものを対象とし、アルギニンからオルニチンへの変換能を指標として「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」を得ることができると認められるところ、乙10の表1に示されるようなヒトや動物の腸内から分離された微生物は、ヒトや動物にとって安全である可能性が高いと考えられ、仮に、安全性が十分でないような場合には、発酵物中の微生物を殺菌したり、発酵方法の工夫によって発酵物中に微生物が残らないようにすることによって、安全性を高めることが可能である。また、微生物が何らかの有害な副産物を産生するような場合には、当該副産物を含有しないように処理することなども可能である。さらに、病原性などがあることが予め確認されている微生物は、そもそもオルニチン産生のスクリーニングの対象とはならないといえる。
したがって、当業者であれば、ラクトコッカス20-92株以外のその発酵物を食品素材として用いることができる微生物を発見できるといえるから、請求人の主張は採用できない。

イについて
ラクトコッカス20-92株については、本件特許明細書の記載から、本件特許発明に特定されるような一定量以上のエクオール及びオルニチンの産生量が得られることを理解できる。表1には発酵原料中の大豆胚軸のようなダイゼイン類を多くすると生成するエクオールが多くなること、表2、表3には発酵原料中のダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジンのようなダイゼイン配糖体からエクオールが生成し、アルギニンからオルニチンが生成することが示されていると認められ、これの記載から、発酵原料中のダイゼイン配糖体とアルギニンの量を調整することでエクオールとオルニチンの生成量を調整できることも理解される。
また、ラクトコッカス20-92株の以外の微生物を用いる場合にも、同様に、発酵原料中の各成分の割合等を調整することでエクオールとオルニチンの生成量を調整できると考えられる。
なお、請求人は生成量の上限値が特定されていないことも主張している。しかし、エクオールやオルニチンは微生物の代謝産物として生成されるものであって、通常、微生物は代謝産物を必要な程度の量生産するという技術常識に照らせば、本件特許発明に上限値が特定されていないからといって、生成量の特定が下限値をはるかに超えるような生成量である場合まで含むものとは解されない。
したがって、本件特許発明はサポート要件を満足しないとはいえず、本件特許明細書は、実施可能要件を満足しないとはいえない。

ウについて
上記(3)のとおり、スクリーニングすべき対象として、本願の原出願日当時にエクオール産生微生物として知られていたものがあり、また、アルギニンからオルニチンへの変換能を指標としてスクリーニングしてオルニチンを産生する微生物を得るという周知技術の方法(例えば乙6の1、乙6の2)が採用できると認められる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

3.無効理由3について
(1)甲6に記載された発明
甲6には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「エクオール産生能力を有する微生物であるグラム陽性菌do03を、アルギニン及びダイゼインを含む培地で培養し、ダイゼインをエクオールに変換する方法。」

(2)対比
本件特許発明と甲6発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
本願発明では微生物が「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」であり、微生物により発酵原料の発酵処理によって「発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」が生成して、発酵物が「オルニチン及びエクオールを含有する」ものであるのに対して、甲6発明では微生物が「エクオール産生能力を有する微生物」であり、発酵物が「エクオールを含有する」ものである点。
すなわち、甲6には、グラム陽性菌do03がオルニチン産生能力を有することや、培養によって発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンを生成させ、これを有用な生成物として得ることについて記載されていない。

(3)判断
甲6には培地を発酵させてエクオールを得ることが記載されているが、発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチンを得ることについて何ら記載されていない。
そうすると、本件特許発明と甲6発明とは、上記の点で相違するから、本件特許発明は甲6に記載された発明であるとはいえない。
また、甲6発明の培地はアルギニンを含んでいるが、甲6にはアルギニンの添加について「成長のために、アルギニンジヒドロラーゼ経路を用いて、エネルギーを得るからである」と記載されており、アルギニンからオルニチンを生成させ、オルニチンを「発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上」のような高い割合の有用な生成物として得ることについてまで、甲6に示唆されているともいえない。
したがって、甲6発明に基づいて当業者が容易に本件特許発明を発明することができたとはいえない。
さらに、審判請求書人が示した他の証拠を参酌しても、本件特許発明を当業者が容易に発明することができたとはいえない。

(4)請求人の主張
請求人は平成31年4月8日付け口頭審理陳述要領書において、概ね以下の点を主張している。
甲6に記載された方法では「アルギニンジヒドロラーゼ経路」によってアルギニンからオルニチンが生成する。甲6の再現実験(甲11及び甲17)でオルニチンの産生が確認された。オルニチンは優れた生理活性成分として周知であるから、当業者は甲6の追試を試みたはずである。

上記主張について検討すると、上記(3)のとおり、甲6は培地を発酵させてアルギニンからアルギニンジヒドロラーゼ経路を用いてエネルギーを得るものであり、有用な生成物としてオルニチンを得るものではないから、オルニチンの優れた生理活性が周知であったとしても、甲6に記載された培養方法でオルニチンを得ることを当業者が容易に想到するとはいえないし、仮に甲6の追試を行ったとしても、オルニチンの産生やその量を確認しようとする動機がない。
したがって、請求人の主張は採用できない。


第7 むすび
請求人の主張する無効理由についての当審の判断は、以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること、及び、
前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む、オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって、
前記発酵処理により、前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し、及び
前記発酵物が食品素材として用いられるものである、
前記製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-06-28 
結審通知日 2019-07-02 
審決日 2019-07-19 
出願番号 特願2017-125880(P2017-125880)
審決分類 P 1 113・ 832- YAA (C12P)
P 1 113・ 113- YAA (C12P)
P 1 113・ 537- YAA (C12P)
P 1 113・ 121- YAA (C12P)
P 1 113・ 536- YAA (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 裕美子  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 中島 庸子
小暮 道明
登録日 2018-01-19 
登録番号 特許第6275313号(P6275313)
発明の名称 エクオール含有抽出物及びその製造方法、エクオール抽出方法、並びにエクオールを含む食品  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 城山 康文  
代理人 小野 誠  
代理人 紺野 昭男  
代理人 川田 篤  
代理人 山内 真之  
代理人 大出 萌  
代理人 重森 一輝  
代理人 城山 康文  
代理人 重森 一輝  
代理人 大出 萌  
代理人 小野 誠  
代理人 山内 真之  
代理人 井波 実  
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