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審決分類 審判 一部無効 判示事項別分類コード:857  C01B
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  C01B
審判 一部無効 2項進歩性  C01B
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1376102
審判番号 無効2019-800090  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-10-23 
確定日 2021-05-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5720686号発明「ダイヤモンド多結晶体およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5720686号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、8〕、〔2、3、14?22〕、〔4、23?31〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5720686号(以下「本件特許」という。)は、2011年(平成23年) 8月10日(優先権主張 平成22年 8月19日)を国際出願日とする出願である特願2012-529575号の請求項1?13に係る発明について、平成27年 4月 3日に設定登録され、同年 5月20日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、請求人株式会社ミズホコーポレーション(以下、「請求人」という。)から、その請求項1、8に係る特許に対して無効審判が請求されたものである。本件審判請求以後の手続の経緯は次のとおりである。

令和 1年10月23日付け:請求人による請求項1、8に記載された発明についての特許に対する無効審判の請求
同年12月27日付け:被請求人による訂正請求書案の提出(応対記録添付のとおり、訂正の目的の解釈について確認を求めたもの。)
令和 2年 1月14日付け:被請求人による審判事件答弁書及び訂正請求書の提出
同年 2月28日付け:請求人による審判事件弁駁書の提出
同年 3月19日付け:請求人に対する審尋
同年 4月 2日付け:請求人による審尋事項に対する回答書の提出
同年 5月26日付け:補正許否の決定
同年 7月 7日付け:被請求人による審判事件答弁書の提出
同年 8月20日付け:請求人による上申書の提出
同年10月20日付け:審理事項の通知
同年11月 2日付け:請求人による上申書の提出
同年11月 2日付け:被請求人による上申書の提出
同年12月 3日 :第1回口頭審尋(Skype for Businessによる)
同年12月17日付け:被請求人による上申書の提出
令和 3年 1月 8日付け:請求人による上申書の提出
同年 3月 9日付け:審理終結通知

第2 訂正請求について

1 訂正の内容
被請求人が令和 2年 1月14日付けで請求(以下、「本件訂正請求」という。)した訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、同日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、下記(1)?(30)に示す訂正事項1?30からなるものである(以下、下線は訂正箇所である。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である」と記載されているのを、
「前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上であり、
室温での硬度が128GPa以上である、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項8も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「800℃以上1200℃以下の温度域における抗折力が、室温での抗折力の90%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のダイヤモンド多結晶体」と記載されているのを、
「立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上であり、
800℃以上1200℃以下の温度域における抗折力が、室温での抗折力の90%以上であることを特徴とする、ダイヤモンド多結晶体」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する)。
なお、下記訂正事項13?21で訂正後の各請求項14?22が訂正後の請求項2を引用したものとなっている。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、「800℃における硬度が、室温での硬度の80%以上であることを特徴とする、請求項1記載のダイヤモンド多結晶体」と記載されているのを、
「立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上であり、
800℃における硬度が、室温での硬度の80%以上であることを特徴とする、ダイヤモンド多結晶体」に訂正する。
なお、下記訂正事項22?30で訂正後の各請求項23?31が訂正後の請求項4を引用したものとなっている。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1?4のいずれかに記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツール。」と記載されているのを、
「ダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツールであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、スクライブツール。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1?4のいずれかに記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイール。」と記載されているのを、
「ダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイールであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、スクライブホイール。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1?4のいずれかに記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサー。」と記載されているのを、
「ダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサーであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、ドレッサー。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1?4のいずれかに記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズル。」と記載されているのを、
「ダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズルであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、ノズル。」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1?4のいずれかに記載のダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具。」と記載されているのを、
「ダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具であって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、研削工具。」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11に、「請求項1?4のいずれかに記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具。」と記載されているのを、
「ダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具であって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、切削工具。」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12に、「請求項1?4のいずれかに記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具。」と記載されているのを、
「ダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具であって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、回転切削工具。」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13に、「請求項1?4のいずれかに記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイド。」と記載されているのを、
「ダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイドであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、ワイヤーガイド。」に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1?4のいずれかに記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。」と記載されているのを、
「請求項1に記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。」に訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項14として、「請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツール。」を新たに追加する訂正を行う。

(14)訂正事項14
特許請求項の範囲の請求項15として、「請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイール。」を新たに追加する訂正を行う。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項16として、「請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサー。」を新たに追加する訂正を行う。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項17として、「請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。」を新たに追加する訂正を行う。

(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項18として、「請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズル。」を新たに追加する訂正を行う。

(18)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項19として、「請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具。」を新たに追加する訂正を行う。

(19)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項20として、「請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具。」を新たに追加する訂正を行う。

(20)訂正事項20
特許請求の範囲の請求項21として、「請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具。」を新たに追加する訂正を行う。

(21)訂正事項21
特許請求の範囲の請求項22として、「請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイド。」を新たに追加する訂正を行う。

(22)訂正事項22
特許請求の範囲の請求項23として、「請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツール。」を新たに追加する訂正を行う。

(23)訂正事項23
特許請求項の範囲の請求項24として、「請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイール。」を新たに追加する訂正を行う。

(24)訂正事項24
特許請求の範囲の請求項25として、「請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサー。」を新たに追加する訂正を行う。

(25)訂正事項25
特許請求の範囲の請求項26として、「請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。」を新たに追加する訂正を行う。

(26)訂正事項26
特許請求の範囲の請求項27として、「請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズル。」を新たに追加する訂正を行う。

(27)訂正事項27
特許請求の範囲の請求項28として、「請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具。」を新たに追加する訂正を行う。

(28)訂正事項28
特許請求の範囲の請求項29として、「請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具。」を新たに追加する訂正を行う。

(29)訂正事項29
特許請求の範囲の請求項30として、「請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具。」を新たに追加する訂正を行う。

(30)訂正事項30
特許請求の範囲の請求項31として、「請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイド。」を新たに追加する訂正を行う。

(31)一群の請求項、別の訂正単位とする求めについて
訂正前の請求項1の記載を訂正前の請求項2?13が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?13は一群の請求項である。したがって、訂正前の請求項1?13に対応する訂正後の請求項1?31は、特許法134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

ここで、被請求人は、下記の請求項について別の訂正単位とすることを求めている。
訂正後の請求項1と、訂正後の請求項1の記載を引用する請求項8については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項2と、訂正後の請求項2の記載を引用する請求項3、14?22とについては、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項4と、訂正後の請求項4の記載を引用する請求項23?31とについては、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項5については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項7については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項9については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項10については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項11については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項12については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
訂正後の請求項13については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されたダイヤモンド多結晶体の発明について、「室温での硬度が128GPa以上である」ことをさらに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件明細書には、下記のとおり記載されている(当審注:「…」は当審による省略を表す。以下同様。)。

「【0034】
得られた複数のダイヤモンド多結晶体について、それぞれ、硬度、抗折強度および耐摩耗性を評価した。硬度は、ヌープ硬度計を用いて、4.9Nの荷重を10秒間負荷する条件で測定したヌープ硬度である。…結果を表1にまとめた。
【0035】
【表1】


【0037】
また、実施例1,3,6の試料と比較例1,2の試料の高温における抗折力と硬度を評価した。いずれの測定もアルゴン気流中で行った。結果を表2にまとめた。
【0038】
【表2】

【0039】
この結果から、h/c比率が0.01%以上のダイヤモンド多結晶体(実施例1、3、6)は、高温下でも抗折力、硬度は高く、それぞれの温度上昇に伴う低下率は、h/c比率が0.01%未満のダイヤモンド多結晶体(比較例1、2)に比べて小さい。前者(実施例1,3,6)の、800℃以上1200℃以下の温度域における抗折力は、室温(25℃)の値より10%以上低下せず、また、800℃における硬度は、室温(25℃)の値と比べて20%以上低下しない。また、実施例1,3,6の1200℃における抗折力は、室温(25℃)における抗折力より高くなっている。」

上記した段落【0034】の記載から、「硬度」はヌープ硬度を意味するといえる。また、段落【0035】の表1には、ヌープ硬度が128GPa以上である実施例が記載されている。ヌープ硬度の測定温度に関し、段落【0039】の「室温(25℃)の値」との記載、及び、表2において「25℃」の列に記載のヌープ硬度の値は、表1に記載のヌープ硬度の値を転記したものであることからみて、表1に記載のヌープ硬度も室温でのヌープ硬度であることが理解される。してみれば、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてしたものであって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、ダイヤモンド多結晶体の物性を特定し、更に限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件について
本件審判請求においては、訂正前の請求項1及び請求項8について無効審判の請求の対象とされているので、訂正前の請求項1に係るものである訂正事項1に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2?3について
ア 訂正の目的について
訂正事項2?3は、それぞれ、訂正前の請求項2及び4の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めて請求項2及び4とするための訂正である。
以上のとおりであるから、訂正事項2?3は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2?3は、上記アから明らかなとおり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ 独立特許要件について
訂正事項2?3は、上記アのとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることのみを目的としているので、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項4?11、13?15、17?24、26?30について
ア 訂正の目的について
訂正事項4、13、22は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の1?4の記載を引用する記載であったのを、それぞれ、訂正前の請求項1のみを引用したものとして独立請求項である請求項5とする、訂正事項2において独立形式請求項に改められた請求項2、又は、独立形式請求項に改められた請求項2に従属する請求項3の記載を引用し、請求項1、4の記載を引用しないものとして請求項14とする、及び、訂正事項3において独立形式請求項に改められた請求項4の記載を引用し、請求項1?3の記載を引用しないものとして請求項23とする訂正である。
そして、訂正前の請求項5と、訂正後の請求項5、14及び23とを対比すると、両者は実質上変化が無いから、訂正事項4、13、22は、全体としてみて、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
訂正事項5、14、23、訂正事項6、15、24、訂正事項7、17、26、訂正事項8、18、27、訂正事項9、19、28、訂正事項10、20、29、訂正事項11、21、30についても同様に、各訂正事項の群を全体としてみて、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無について
訂正事項4?11、13?15、17?24、26?30は、上記アから明らかなとおり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
また、訂正事項4、13、22は、上記アから、これらを全体としてみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。よって、訂正事項4、13、22は、全体としてみて、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
訂正事項5、14、23、訂正事項6、15、24、訂正事項7、17、26、訂正事項8、18、27、訂正事項9、19、28、訂正事項10、20、29、訂正事項11、21、30についても同様に、各訂正事項の群を全体としてみて、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件について
訂正事項4?11、13?15、17?20、22?24、26?30は、上記アのとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることのみを目的としているので、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(4)訂正事項12、16、25について
ア 訂正の目的について
訂正事項12、16、25は、訂正前の請求項8の記載が訂正前の請求項1?4の記載を引用する記載であったのを、それぞれ、上記(1)アのとおり訂正事項1において減縮された訂正後の請求項1のみを引用するものとして独立請求項である請求項8とする、訂正事項2において独立形式請求項に改められた請求項2、又は、独立形式請求項に改められた請求項2に従属する請求項3の記載を引用し、請求項1、4の記載を引用しないものとして請求項17とする、及び、訂正事項3において独立形式請求項に改められた請求項4の記載を引用し、請求項1?3の記載を引用しないものとして請求項26とする訂正である。
そして、訂正事項12、16、25は、訂正前の請求項8が訂正前に請求項1?4の記載を引用する記載であったのを、それぞれ、訂正後の請求項1のみ、訂正後の請求項2又は3のみ、及び、訂正後の請求項4のみの記載を引用するようにするものであるとともに、訂正事項1において訂正前の請求項1が減縮されて訂正後の請求項1となったことから、全体としてみて訂正前の請求項8を減縮するものである。そうすると、訂正事項12、16、25は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項12、16、25は、上記アから明らかなとおり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ 独立特許要件について
本件審判請求においては、訂正前の請求項1及び請求項8について無効審判の請求の対象とされているので、訂正前の請求項8に係るものである訂正事項12、16、25に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 請求人の主張について
請求人は、令和 2年 4月 2日付けの審尋事項に対する回答書において、令和 2年2月28日付け審判事件弁駁書における主張は、本件訂正が認められることを前提としてサポート要件違反、実施可能要件違反、新規性の欠如を主張するものである旨述べていることから、本件訂正を認めることについて請求人は争っていない。

4 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1、8〕、〔2、3、14?22〕、〔4、23?31〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?31に係る発明(それぞれ、「本件発明1」?「本件発明31」といい、まとめて「本件発明」という。)は、令和 2年 1月14日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?31に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。
ここで、無効審判の請求の対象となる請求項は、訂正前の請求項1、8に対応するものとして、訂正後の以下の請求項1、8、17、26である。

「 【請求項1】
立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上であり、
室温での硬度が128GPa以上である、ダイヤモンド多結晶体。
【請求項2】
立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上であり、
800℃以上1200℃以下の温度域における抗折力が、室温での抗折力の90%以上であることを特徴とする、ダイヤモンド多結晶体。
【請求項3】
1000℃以上1200℃以下の温度域における抗折力が、室温での抗折力より高いことを特徴とする請求項2記載のダイヤモンド多結晶体。
【請求項4】
立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上であり、
800℃における硬度が、室温での硬度の80%以上であることを特徴とする、ダイヤモンド多結晶体。
【請求項5】
ダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツールであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、スクライブツール。
【請求項6】
ダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイールであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、スクライブホイール。
【請求項7】
ダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサーであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、ドレッサー。
【請求項8】
請求項1に記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。
【請求項9】
ダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズルであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、ノズル。
【請求項10】
ダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具であって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、研削工具。
【請求項11】
ダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具であって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、切削工具。
【請求項12】
ダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具であって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、回転切削工具。
【請求項13】
ダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイドであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、ワイヤーガイド。
【請求項14】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツール。
【請求項15】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイール。
【請求項16】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサー。
【請求項17】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。
【請求項18】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズル。
【請求項19】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具。
【請求項20】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具。
【請求項21】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具。
【請求項22】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイド。
【請求項23】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツール。
【請求項24】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイール。
【請求項25】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサー。
【請求項26】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。
【請求項27】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズル。
【請求項28】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具。
【請求項29】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具。
【請求項30】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具。
【請求項31】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイド。」

第4 請求人の主張の概要及び提出された証拠
請求人は、令和 1年10月23日付け審判請求書、令和 2年 2月28日付け審判事件弁駁書、同年 8月20日付け上申書、同年11月 2日付け上申書、及び、令和 3年 1月 8日付け上申書からみて、証拠方法として下記3に示す甲第1?28号証を提出し、以下1(1)及び2(1)?(2)にそれぞれ示す無効理由1?3を主張するものと認められる。

1 請求人が当初から主張する無効理由の概要
(1)無効理由1について
審判請求書の記載によれば、請求人は、甲第1?22号証を証拠方法として、甲第2号証に基づく、次の新規性及び進歩性欠如の無効理由1を主張するものと認められる。

「本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
また、ダイヤモンド多結晶体を線引ダイスに適用することは周知慣用の技術であるから、本件訂正前の請求項8に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知慣用の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正前の請求項1、8に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。」(無効理由1)

なお、本件訂正前の請求項8に対応する訂正後の本件発明17,26に対して、請求人は、令和 2年 2月28日付け審判事件弁駁書、同年11月 2日付け上申書、及び、令和 3年 1月 8日付け上申書において、無効理由1についての主張をしていない。すると、本件発明17,26について、無効理由1は実質的に主張されていない。

2 請求人が令和 2年 2月28日付け審判事件弁駁書において新たに主張する無効理由の概要
令和 2年 2月28日付け審判事件弁駁書によれば、請求人は、本件訂正を受けて、甲第23?25号証を証拠方法として、本件発明について新たに以下の(1)?(2)にそれぞれ示す無効理由2?3を主張するとともに、無効理由3の主張・立証のため、令和 2年11月 2日付け上申書とともに甲第27号証を提出し、令和 3年 1月 8日付け上申書とともに以下の甲第28号証を追加で提出したものと認められる。

(1)無効理由2(サポート要件)
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0035】の表1には、ヌープ硬度が「室温での」ヌープ硬度であることは記載されておらず、本件明細書の他の記載を参照しても、表1のヌープ硬度が「室温での」ヌープ硬度であるか不明であるため、「室温でのヌープ硬度が128GPa以上」であることを発明特定事項とする本件発明1、8は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、本件発明1、8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由3(実施可能要件)
本件特許の出願時において、被請求人以外の当業者はヌープ硬度「128GPa以上」の高硬度を測定する手段を有しないから、「室温でのヌープ硬度が128GPa以上」であることを発明特定事項とする本件発明1、8を、当業者が実施することはできない。
よって、本件発明1、8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

なお、令和 2年 2月28日付け弁駁書(第7頁第5?22行)において、請求人は、甲第26号証をさらに提出したうえで、甲第1号証及び甲第26号証に基づいて特許法第29条第1項第3号に関する無効理由を主張した。これに対し、当該無効理由を追加する請求の理由の補正については、令和 2年 5月26日付け補正許否の決定において、甲第1号証及び甲第26号証を無効理由の根拠とすることは、直接証拠の差し替えにあたるものであって請求の理由の要旨変更であること、及び、甲第1号証及び甲第26号証を根拠とする無効理由は訂正前の請求項1に対して主張することが可能であったはずのものであり、審判請求時の請求書に記載しなかったことに合理的な理由があるとはいえず、また、前記要旨変更は、審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかであるとはいえないことから、許可しないと決定した。

3 提出された証拠
甲第1?28号証(以下、「甲1」?「甲28」という。)は、以下のとおりである。
また、甲第1?28号証の成立について、当事者間に争いはない。

甲1:H. Sumiya et al.、‘Microstructure and Mechanical Properties of High-Hardness Nano-Polycrystalline Diamonds’(SEI TECHNICAL REVIEW、第66巻、第85?92頁、2008年4月)(及び抄訳)
甲2:H. Sumiya et al.、‘Conditions and mechanism of formation of nano-polycrystalline diamonds on direct transformation from graphite and non-graphitic carbon at high pressure and temperature’(High Pressure Research 第26巻第2号、第63?69頁、2006年6月)(及び抄訳)
甲3:米国特許第3401019号明細書
甲4:英国特許出願公告第1115648号明細書
甲5:論文開示事項分析報告書(ユニバーサル特許法律事務所 弁護士・弁理士 浜田治雄作成、2019年10月4日)
甲6:欧州特許第2607307号明細書(出願番号11818115)審査経過
甲7:欧州特許第2607307号明細書 出願時クレーム(2012年6月26日 Claims)
甲8:欧州特許第2607307号明細書 予備的欧州調査報告書(2014年5月16日 Supplementary European Search Report)
甲9:欧州特許第2607307号明細書 第1回拒絶理由通知(2014年5月16日 European Search Opinion)
甲10:欧州特許第2607307号明細書 第1回補正クレーム(2014年10月24日 Amended Claims filed after receipt of (European) search report)
甲11:欧州特許第2607307号明細書 第2回拒絶理由通知(2015年10月30日 Annex to the communication)
甲12:欧州特許第2607307号明細書 第2回補正クレーム(2016年1月29日 Claims)
甲13:欧州特許第2607307号明細書 第3回拒絶理由通知(2016年4月14日 Annex to the communication)
甲14:欧州特許第2607307号明細書 第3回補正クレーム(2016年8月10日 Claims)
甲15:欧州特許第2607307号明細書 第4回補正クレーム(2017年2月27日 Claims)
甲16:欧州特許第2607307号明細書 第5回補正クレーム(2017年10月6日 Claims)
甲17:米国特許第8784767号明細書(出願番号13/517,921)出願書類一覧
甲18:米国特許第8784767号明細書 拒絶理由通知(2013年7月17日)
甲19:米国特許第8784767号明細書 補正クレーム(2013年10月17日)
甲20:中国特許第102712478号明細書
甲21:角谷均 他、‘各種炭素材料からの直接変換による高純度多結晶ダイヤモンドの合成とその特性’(高圧力の科学と技術、第16巻第3号、第207?215頁、2006年)
甲22:米国特許第4016736号明細書(及び抄訳)
甲23:角谷均、‘合成ダイヤモンドの新展開「高硬度ナノ多結晶ダイヤモンド’(SEIテクニカルレビュー、第180号、第12?19頁、2012年1月)
甲24:香西孝司 他、‘ナノ多結晶ダイヤモンド圧子による超硬質材料のナノインデンテーションの試み’(第23回精密工学会学生会員卒業研究発表講演会 論文集、第107?108頁、2016年)
甲25:‘IIa型単結晶ダイヤモンド製品 製造中止のお知らせ’、被請求人ウェブサイト、2013年1月7日、URL:https://www.sumitool.com/news/press/prs-20130107.html
甲26:角谷均 他、‘高硬度ナノ多結晶ダイヤモンドの微細構造と機械特性’(SEIテクニカルレビュー、第172号、第82?88頁、2008年1月)
甲27:国際公開第2018/066319号
甲28:株式会社ミズホコーポレーション 代表取締役 大竹 延幸,陳述書,令和2年12月22日

第5 被請求人の主張の概要及び提出された証拠
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、令和 2年 1月14日付け審判事件答弁書、同年 7月 7日付け審判事件答弁書、同年11月 2日付け上申書、及び、同年12月17日付け上申書からみて、証拠方法として下記2に示す乙第1号証ないし乙第9号証を提出し、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、下記(1)?(3)の通り、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨を主張していると認められる。

(1)無効理由1について
本件発明1は、「室温での硬度が128GPa以上である」ところ、甲第2号証には「ダイヤモンド多結晶体の室温での硬度が128GPa以上である」ことについて開示されていない。また、多結晶ダイヤモンドの硬度は110GPa未満であり、128GPa以上で無いことは明らかである。従って、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明でないため、特許法第29条第1項第3号の発明に該当しない。また、甲第2号証には本件発明1が開示されていないから、甲第2号証に記載の発明から本件発明8に想到することは当業者といえども容易ではない。従って、本件発明8は特許法第29条第2項の発明に該当しない。(令和 2年 1月14日付け審判事件答弁書 第2頁第19行?第4頁第27行)。

(2)無効理由2について
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0035】の表1に記載のヌープ硬度は「室温での」ヌープ硬度であり、本件発明1、8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
よって、本件発明1、8に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきではない。(令和 2年 7月 7日付け審判事件答弁書 第2頁第27行?第4頁第26行)

(3)無効理由3について
「128GPa以上」のヌープ硬度の測定は、本件特許の出願時に当業者が実施をすることができたものである。よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1、8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。
よって、本件発明1、8に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきではない。(令和 2年 7月 7日付け審判事件答弁書 第4頁第27行?第7頁第27行、同年11月 2日付け上申書 第3頁第4行?第4頁11行、同年12月17日付け上申書 第2頁第5行?第9頁第25行)

2 提出された証拠
被請求人は、令和 2年 7月 7日付けの審判事件答弁書と共に以下の乙第1?7号証(以下、「乙1」などという。)を提出し、上記第4の2(1)及び(2)に示した無効理由2及び3に理由がないことを主張し、同年12月17日付け上申書と共に以下の乙第8?9号証を提出し、上記無効理由3に理由がないことを主張するものと認められる。
また、乙第1?9号証の成立について、当事者間に争いはない。

乙1 JIS Z 2251:2009 ヌープ硬さ試験?試験方法(編集兼発行人 島弘志、発行所 財団法人日本規格協会、平成21年1月20日)
乙2 特開平11-14524号公報
乙3 H. Sumiya et al.、‘Mechanical properties of synthetic type IIa diamond crystal'(Diamond and Related Materials、vol. 6、p.1841-1846、発行 ELSEVIER、1997年)
乙4 Y Doi et al.、‘Hardness of synthesized diamond crystals'(Inst. Phys. Conf. Ser. No.75: Chapter 3、p.233-237、発行:Adam Hilger Ltd、1986年)
乙5 Kazuhisa Miyoshi、‘Structures and Mechanical Properties of Natural and Synthetic Diamonds'(NASA/TM-1998-107249、Chapter 8、1998年6月、p.16,19)
乙6 合成高純度ダイヤモンド単結晶 スミクリスタル^(TM)・タイプII カタログ、1999年、住友電気工業株式会社
乙7 合成ダイヤモンド単結晶 スミクリスタル カタログ、2012年、住友電気工業株式会社
乙8 Hitoshi Sumiya、‘Super-hard diamond indenter prepared from high-purity synthetic diamond crystal'(REVIEW OF SCIENTIIC INSTRUMENTS、p.026112-1?026112-3、2005年)
乙9 ダイヤモンドツール、第1版第1刷、1987年9月30日、目次xx頁、第682-689頁、広告頁、発行所 日経技術図書株式会社

第6 甲各号証及び乙各号証の記載事項(主要なもののみ抜粋)
甲第1、2、5、21?28号証、乙第1?9号証には、下記(1)?(20)のように記載されている。
なお、甲第3、4、6?20号証は、欧州特許庁、米国特許商標庁並びに中国国家知識産権局における本件特許に対応するファミリー(以下、「本件ファミリー」という。)の審査経過、上記各機関により引用された文献、上記各機関に本件特許権者である被請求人が提出した本件ファミリーに係る書類、及び上記各機関が作成した本件ファミリーに係る書類であり、請求人は無効理由の根拠として用いておらず、審判請求書において単に参考として提示しているにすぎない(第5第2行?第6頁第21行)ものである。以上の事情から、甲第3、4、6?20号証については、記載事項の抜粋を省略する。

(1)甲第1号証
甲第1号証は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記のとおり記載されている。
ア 「Table 1 shows the measured Knoop hardness of the polycrystalline diamond obtained from each of the different starting materials.」(第88頁右欄第11?13行)
(当審仮訳:表1に、それぞれ異なる出発物質から得られた多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度の測定結果を示す。)

イ 「

」(第88頁右欄)

(2)甲第2号証
甲第2号証は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記のとおり記載されている。
ア 「Figure 2 shows the results of the direct conversion test of graphite to diamond under various HPHT conditions, Near the dashed line, graphite begins to convert to cubic diamond(c-Dia) and hexagonal 2H diamond(h-Dia). For example, at 15GPa, the onset temperature for diamond formation is ?1500℃.Intheregionabovethesolidlineinfigure2(≧2100-2200℃at15GPa),thegraphiteconvertstoc-Diacompletely,andhigh-puritypolycrystallinediamondcouldbeobtained.Figure3showsX-raydiffractionpatternsof some products obtained from graphite at various temperatures under P of 15GPa.」(第65頁第6行?第12行)
(当審仮訳:図2は、種々のHPHT条件下でのグラファイトのダイヤモンドへの直接変換試験の結果を示すものである。破線付近で、グラファイトは、立方晶ダイヤモンド(c-Dia)及び六方晶2Hダイヤモンド(h-Dia)に変換し始める。例えば、圧力15GPaでは、ダイヤモンドの変換の開始温度は、1500℃からである。図の実線より上の領域(15GPaで2100-2200℃以上)では、グラファイトは完全にc-Diaに変換し、高純度の多結晶ダイヤモンドを得ることができた。図3に、圧力15GPaで様々な温度でグラファイトから得られたいくつかの生成物のX線回折パターンを示す。)

イ 「

」(第65頁)
(当審仮訳)図2 グラファイトからダイヤモンドへ直接変換するHPHT試験の結果

ウ 「

」(第66頁)
(当審仮訳)図3 HPHT処理後のグラファイトから得られた試験片のX線回折パターン

(3)甲第5号証
甲第5号証は、ユニバーサル特許法律事務所 弁護士・弁理士 浜田治雄氏を作成者とし、「論文開示事項分析報告書」と題するものであり、下記の事項が記載されている。

ア 「1.目的」には、次の事項が記載されている。
「…発明者住谷氏の2006年6月発行の論文"SUMIYA etal" Conditions and mechanism of formation of nano-polycrystalline diamonds on dire transformation from graphite and non-graphitic carbon at high pressure and temperature, HIGH PRESSURE RESEARCH, vol. 26, no. 2, June 2006, pages63-69(当審注:甲第2号証)において、そのFig3で、立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する六方晶ダイヤモンドの(100)面に関する回折ピーク強度の比率が0.01%以上であるX線回折図形が開示されていると認定している。
そこで、実際に開示されているかにつき論文の開示するグラフにおける『立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する六方晶ダイヤモンドの(100)面に関するX線回折ピーク強度の比率』を検討する。」(第1頁)

イ 「2.分析の概要および結論」には、次の事項が記載されている。
「…Fig.3のうち、下から2つ目の15GPa、1800℃,1minのグラフを使用して検討する。…
そこで、このFig3について、各ピーク値の積分値を算出するために各ピークについて、ローレンツ型関数でフィッティグした。フィッティングは、データを直接FIg3から2θに対するピークの値として読みだした。
ローレンツ関数と読み出しデータとのフィッティングには、MICROSOFT EXCELの2016モデルのソルバー機能を用いて計算した。
フィッティングの結果(100)のピークが41.65°、(111)のピークが43.85°であり、その強度の比率は、ピークの立ち上がり、立下り点をピーク面積の境界点とした場合は、20.1%であり、相手方特許5720686号の権利範囲に十分含まれるデータが、本件特許の出願前に前記論文に開示されていると判断した。」(第1?3頁)

ウ 「3.詳細」には、次のとおり分析の詳細が記載されている。
「(1)Fig3のグラフにおいて(100)ピーク及び(111)ピークについて、…仮想的なピークグラフをFig3に重ねて描いた。それらの仮想グラフをそれぞれ仮想(100)ピークと仮想(111)ピークとした。
(2)次に仮想(100)ピークと仮想(111)ピークのピークの前後5度から10度程度のグラフ値を0.45度間隔で計測して、角度当たりの強度を仮想(100)ピークと仮想(111)ピークについて数値を得た。…
(3)続いて、ローレンツ型関数
…にあてはめた。…前記仮想ピーク毎に角度と角度当たりの強度をマイクロソフトエクセルの分析ツールであるソルバーに入力し、最適なh、u、w、bと、フィッティング後の算出強度を最小二乗法により求めた。…
(4)フィッティング算出後の値を合算したものと、実データの間でさらにローレンツ型関数を用いてさらにフィッティングを行った。
(5)次に、フィッティング後の値を用いて…各角度ごとの算出強度とから台形に近似してピーク下の面積を算出した。
(6)ピーク下面積を算出するにあたり、ピークの立ち上がり、立下がり点をピーク面積の境界点とする…
従って、強度比は以下のとおりとなる。
I{(100)/(111)}=20.1%」(第3頁?第11頁)

(4)甲第21号証
甲第21号証は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記のとおり記載されている。
「…強固に焼結したダイヤモンド焼結体(PCD)が得られる[4]。このダイヤモンド焼結体は,単結晶のようなへき開性や硬度の異方性がなく,強靭で衝撃に強い。このため,非鉄金属の切削用工具や石油掘削用ビット,線引きダイスなどに幅広く利用されている。」(第207頁左欄末行?同頁右欄第5行)

(5)甲第22号証
甲第22号証は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記のとおり記載されている。
「Wire drawing dies having improved life, relatively lower drawing force requirements and producing smooth surface on wires drawn therethrough comprise compacts of polycrystalline diamond, polycrystalline cubic boron nitride and mixtures thereof, which include a centrally-located double tapered hole having micro-rough walls, the micro-rough walls being densely packed with a lubricant for wire drawing.」(ABSTRACT)
(当審仮訳:伸線ダイスは改善された寿命を有し、比較的低い引き抜き力を必要とし、それにより引かれた線上に滑らかな表面を生成し、当該伸線ダイスは多結晶ダイヤモンド、多結晶立方晶窒化ホウ素およびそれらの混合物からなる成形体を含み、微細な粗さの壁を有し中央に位置する二重テーパ穴を含み、当該微細な壁は、伸線ドローイング用の潤滑剤が密に充填されている。)

(6)甲第23号証
甲第23号証は、本件特許の出願後である2012年に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記のとおり記載されている。
ア 「NPDは非常に硬いため、通常の天然単結晶ダイヤモンド圧子ではすぐに破壊してしまい、正しい評価が困難である。そこでわれわれは、NPDのより正確な硬度評価のため、高硬度方位を持つ合成IIa型単結晶ダイヤモンド製の高硬度ヌープ圧子を用いた…。この圧子の軸方向(001)<110>の硬度は150GPa以上である…。」(第15頁左欄第26?31行)

イ 「NPDの硬度はおよそ130GPa(±10GPa)で、天然Ia型や合成Ib型などの、ダイヤモンドの中で最も普遍的なI型…の単結晶の硬度(70-120GPa)より高い。」(第15頁右欄第2?5行)

(7)甲第24号証
甲第24号証は、本件特許の出願後である2016年に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記のとおり記載されている。
「ナノインデンテーションの圧子材料として、主に単結晶ダイヤモンド(Single crystalline diamond: SCD)が用いられるが、SCDと同等な硬さを示す超硬質材料に対する正常な測定は、圧子の変形等の理由で困難である。…そこで本研究では、SCDに代わる新たな圧子材料として最近開発されたナノ多結晶ダイヤモンド(Nano-polycrystalline diamond: NPD)を提案する。…NPDのヌープ硬さは120?145GPa程度であり、圧子として一般的なIa型天然SCDのヌープ硬さ70?100GPaと比べて高硬度である。このため、NPDをナノインデンテーションの圧子として用いることで、超硬質材料に対する正常な測定を行える可能性がある。」(第107頁左欄第7?23行)

(8)甲第25号証
甲第25号証は、本件特許の出願後である2013年に掲載された「IIa型単結晶ダイヤモンド製品 製造中止のお知らせ」と題したウェブページであり、下記のとおり記載されている。
「1.製造中止対象製品
合成単結晶ダイヤモンドタイプIIa型(スミクリスタル・タイプII)を用いた基板、アンビル、窓材等全ての製品
2.中止時期
[受注]:新規品の受注は、既に辞退させていただいております。
[製造]:2013年3月末納入を持ちまして、生産を終了いたします。
3.理由
同製品は弊社で製造する同種製品の中でも要求される品質が極めて高く、製造難易度も高いものであります。
近年、製品を取り巻く環境の変化、とりわけ高純度原料の安定調達が困難になり、同製品の継続的生産ができない状況となりました。」(第1頁)

(9)甲第26号証
甲第26号証は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記のとおり記載されている。

ア 「表1に、それぞれの出発物質から得られた多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度の測定結果を示す。」(第85頁右欄第5?6行)

イ 「

」(第85頁右欄)

(10)甲第27号証
甲第27号証は、本件特許の出願後の2018年に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって被請求人住友電気工業株式会社による国際特許出願に係る国際公開公報の再公表特許であり、下記のように記載されている。
「不純物の含有量の合計が2000ppmaを超えるダイヤモンド多結晶体は、不純物に基づく空隙が多結晶体内に生じることにより、その強度が低下する。」(段落【0053】)

(11)甲第28号証
甲第28号証は、請求人株式会社ミズホコーポレーション代表取締役 大竹 伸幸氏を作成者とする特許庁審判長宛の陳述書であり、下記のように記載されている。
「1.当社は、主にダイヤモンド素材を応用した耐磨治工具関連製品の販売等を業としております。
2.住友電気工業株式会社(以下「被請求人」といいます)は、当業者は「東京ダイヤモンド工具製作所の市版のダイヤモンドヌープ圧子」を入手可能であったと主張していますが、そもそも「市販のダイヤモンドヌープ圧子」はダイヤモンドのように硬さの頂点にあるような素材を測定するためのものでなく、主に一般的な産業用素材を対象としております。その中でも非常に硬いと言われているセラミックでも25GPa以下程度の硬度であり、市販のダイヤモンド圧子は、ダイヤモンドより硬度のはるかに低い素材を測定対象としています。
本件に関連して今まで東京都立産業技術センターをはじめとする公的機関に当社製品のダイヤモンドダイスのチップ(ダイヤモンド部分)の硬度の測定を依頼したことがありますが、素材がダイヤモンドであることを告げると圧子が壊れるので受けられないと断られたことが何度もあります。
3.また被請求人は、東京ダイヤモンド工具製作所が「依頼者から提供されたダイヤモンド素材のヌープ圧子への加工受託も行っている」という主張をしていますが、そのような事実は開いたことがありません。素材提供を受けての圧子への加工受託は加工賃だけの売上となり利幅が少ないので、通常、ダイヤモンド工具メーカーはそのようなことは受託しません。」(第1頁)

(12)乙第1号証
乙第1号証は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、「日本工業規格 JIS Z 2251:2009 ヌープ硬さ試験-試験方法 Knoop hardness test-Test method」と題し、下記のように記載されている。
ア 「2 引用規格
次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。これらの引用規格は、その最新版(追補を含む。)を適用する。
JIS B 7734 ヌープ硬さ試験一試験機の検証
注記 この規格の改正時点では、JIS B 7734は、ISO 4546:1993に対応したものであるが,IS0 4546は改正され、ISO 4545-2として2005年版が発行されている。
ISO 4545-3,Metallic materials-Knoop hardness test-Part3: Calibration of reference blocks
3 原理
対りょう(稜)角(α及びβ)が172.5°及び130°で底面がひし形のダイヤモンド圧子を,試料(試験片)の表面に押し込み,その試験力Fを解除した後,表面に残ったくぼみの長い方の対角線長さdを測定する(図1及び図2参照)。」(第1頁第15?25行)

イ 「

」(第2頁 図1)

ウ 「

」(第2頁 図2)

エ 「ヌープ硬さは,試験力を,底面がひし形の圧子と同じと仮定したくぼみの投影面積で除した値に比例する。
4 記号及び内容
記号及びその内容は,表1,図1及び図2による。」(第2頁第1?4行)

オ 「

」(第3頁)

カ 「5 装置

5.2 圧子 圧子は、JIS B 7734に規定する形状がひし形の四角すい(錐)ダイヤモンドとする。」(第3頁第1?4行)

キ 「7 試験
試験は、次による。
a) 試験温度は,通常、23℃±5℃の範囲内とする。この範囲外で行う場合には,試験報告書に記載しなければならない。」(第4頁第7?10行)

(13)乙第2号証
乙第2号証は、被請求人住友電気工業株式会社による特許出願に係る公開特許公報であって、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記の事項が記載されている。
ア 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】このように、天然ダイヤモンドは結晶欠陥や不純物が多く、これらは圧縮による破壊の起点となる。そのため、従来の天然ダイヤモンド製圧子は、品質が安定せず、寿命が大きくバラつくという問題があり、特にダイヤモンド焼結体や、cBN焼結体などの超硬質材料の硬度測定時にこれが大きな問題となった。」

イ 「【0005】
【発明の実施の形態】天然ダイヤモンドは、多くの窒素不純物を含み、地球内部の複雑な成長履歴を反映して、全ての天然ダイヤモンドは結晶内に多くの歪や結晶欠陥をもち、結晶によるバラツキも大きい。天然ダイヤモンドからは、不純物や結晶欠陥を含まない高い品質の結晶を安定入手することはほとんど不可能である。」

ウ 「【0006】上記の窒素不純物を3ppm以下に制御した高純度合成ダイヤモンド結晶(IIa型)は、例えば、次のような方法により得ることができる。すなわち、炭素源として高純度黒鉛、溶媒金属としてFe-Co等を用い、窒素ゲッターとしてTiを1.0?2.0重量%の割合で溶媒に添加する。得られた原料系は、種結晶と共に超高圧発生装置内に配置し、圧力約5.5GPa、温度約1350℃に数時間?数十時間、炭素源と種結晶部間の温度差20?50℃として種結晶上にダイヤモンドを生長させる。」

エ 「【0007】このようにして得られたIIa型ダイヤモンド結晶からヌープ圧子及びヴィッカース圧子は次のようにして作製する。ヌープ圧子の場合はヌープ圧子の押し込み方向(Z軸方向)を、ダイヤモンドの<001>方向、かつ、ヌープ圧子の長軸方向(圧子先端の長い方の陵の方向)をダイヤモンドの<110>方向となるように研磨してヌープ圧子の形状に仕上げる〔図3(a)参照〕。ヴィッカース圧子の場合はヴィッカース圧子の押し込み方向(Z軸方向)を、ダイヤモンドの<001>方向、かつ、ヴィッカース圧子の対角方向(圧子先端の陵の方向)をダイヤモンドの<110>方向となるように、ダイヤモンドを研磨し、ヴィッカース圧子の形状に仕上げる〔図3(b)参照〕。」

オ 「【0008】
本発明者等は、この高純度合成ダイヤモンドの機械的特性を詳細に調べたところ、天然ダイヤモンドや従来の合成ダイヤモンドに見られない特徴を有することを見いだした。表1に、窒素量の異なる合成ダイヤモンド結晶の(100)面の<100>方向及び<110>方向のヌープ硬度を測定した結果を示す。(100)面<100>方向のヌープ硬度は、図1に示すように、窒素量の減少とともに向上する。窒素量1ppm以下のものは、硬度10000kg/mm^(2 )以上と高硬度である。また、窒素が3ppm以下の合成ダイヤモンド結晶においては、(100)面<110>方向は正常なヌープ圧痕が形成されず、非常に硬いことを示す。図2に、窒素量0.1ppmの合成IIa型ダイヤモンド結晶と、60?240ppmの窒素を含むIb型ダイヤモンド結晶、及び天然のIa型ダイヤモンド結晶(凝集型窒素不純物を約1000ppm含む)の(100)面上の各方位のヌープ硬度の測定結果を示す。」

カ 「【0013】
【表1】
表1 合成ダイヤモンドのヌープ硬度測定結果

*圧痕が形成されないため測定不可


キ 「【0014】

【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明による合成ダイヤモンド結晶の(100)<100>のヌープ硬度と窒素不純物量との関係を示すグラフである。
【図2】図2は本発明による合成ダイヤモンド結晶を含む各種ダイヤモンド結晶の(100)面上のヌープ硬度の異方性を示すグラフである。
【図3】図3(a)及び(b)は本発明に係るダイヤモンド圧子の先端部の形状示す概念図である〔(a)はヌープ圧子、(b)はヴィッカース圧子で、それぞれ上の図が横面図、下の図が正面図である〕。」

ク 「

」(図1)

ケ 「

」(図2)

コ 「

」(図3)

(14)乙第3号証
乙3号証は、Sumitomo Electric Industries, Ltd.(被請求人住友電気工業株式会社)所属のH. Sumiya(本件特許発明者 角谷 均)氏を著者として、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記の事項が記載されている。
ア 「Synthetic type IIa diamond specimens (synthetic IIa) with impurities less than 0.1 ppm were prepared by a temperature gradient method under high-pressure and high-temperature using a Fe-Co system solvent metal with the addition of 1.5 wt% Ti as nitrogen getter at growth rates of 2-3 mg h^(-1).」(第1841頁右欄第24行?第1842頁左欄第4行)
(当審仮訳:窒素ゲッターとしてTiを1.5重量%添加したFe-Co系溶媒金属を用いて、高圧及び高温下の温度差法により、2-3mg h^(-1)の成長速度で、不純物が0.1ppm未満の合成IIa型ダイヤモンド試料(合成IIa)を準備した。)

イ 「The indentation hardness measurements were carried out using a natural diamond Knoop indenter with a microhardness tester.」(第1842頁左欄第22?24行)
(当審仮訳:天然ダイヤモンドヌープ圧子を用いて、微小硬さ試験機で押し込み硬さ測定を行った。)

ウ 「
----------------------------------
Specimen no. Nitrogen concentration, ppm Knoop hardness (kg mm^(-2))
------------
(100)<100> (100)<110>
----------------------------------
IIa-01 0 11779 *
IIa-02 0 12898 *
IIa-03 0.04 10554 *
IIa-04 0.04 11396 *
IIa-05 0.04 11950 *
IIa-06 0.05 9867 *
IIa-07 0.36 10027 *
IIa-08 0.5 10401 *
IIa-09 1.7 8474 *
IIa-10 2.6 9428 *
Ib-01 60 8607 *
Ib-02 88 9669 *
Ib-03 235 9479 *
----------------------------------
」(Table 1)
(当審仮訳:
----------------------------------
試料No. 窒素濃度,ppm ヌープ硬度(kg mm^(-2))
------------
(100)<100> (100)<110>
----------------------------------
IIa-01 0 11779 *
IIa-02 0 12898 *
IIa-03 0.04 10554 *
IIa-04 0.04 11396 *
IIa-05 0.04 11950 *
IIa-06 0.05 9867 *
IIa-07 0.36 10027 *
IIa-08 0.5 10401 *
IIa-09 1.7 8474 *
IIa-10 2.6 9428 *
Ib-01 60 8607 *
Ib-02 88 9669 *
Ib-03 235 9479 *
----------------------------------
*圧痕が形成されないため測定不可)

(15)乙第4号証
乙第4号証は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記の事項が記載されている。
ア 「INTRODUCTION
There are several published results on the hardness of natural diamonds using various kinds of indenters, such as the square-based Vickers pyramidal indenter, the triangular-based Berkovich indenter and the rhombohedral-based Knoop indenter. In these results, the knoop indentation measurements are shown to be repeatable and consistent.」(第233頁第10?15行)
(当審仮訳:序論
底面が正方形の四角のビッカース圧子、底面が三角形のバーコビッチ圧子及び底面が菱形のヌープ圧子などの様々な種類の圧子を用いて、天然ダイヤモンドの硬度を測定した発表結果がいくつか存在している。これらの結果の中で、ヌープ硬さ測定は繰り返し可能性及び整合性を示す。)

イ 「EXPERIMENTAL RESULTS
The nitrogen content of the specimens used is given in Table 1. This was determined for natural diamond crystals by utilizing infra-red absorption bands at 7.3, 7.8, and 8.5 micrometers (Davies, 1980). In the case of synthesized crystals, nitrogen corresponds to the 8.85 micrometer absorption (Chrenko, Strong and Wentorf, 1971). The specimens were between 0.1 to 0.2 carat.

TABLE 1
----------------------------------
Specimen Nitrogen Content (ppm)
----------------------------------
SD-01 30
SD-02 51
SD-03 35
SD-04 57
ND-01 >1000
ND-02 410
----------------------------------
Note. SD: Synthesized Diamond, Type Ib
ND: Natural Diamond, Type Ia

The Knoop indenter was used on finely polished (001), (110) and (111) surfaces using a normal load of 4.9N applied for 15 seconds. The resultant indentation was measured at a magnification of x1000 using a TV monitor.
Note that the included angles between the facets of the Knoop indenter are 172°30' and 130° degrees and that this shape, under conditions of ideal plasticity with negligible elastic recovery, would produce an indentation whose long diagonal was approximately seven times the length of the short diagonal.

Our measurements are shown in Figs. 1 and 2. Fig. 1 also includes the data for natural diamond crystals (Brookes, 1979) and illustrates the marked anisotropy in their Knoop hardness. The measurements of the ND-01 specimen on the (110) plane differ from the same plane of other specimens in that the [110] direction is harder than the [001]. This is the opposite of the nature of anisotropy reported previously for natural diamonds and we are currently investigating the reason for this apparent anomaly. On the other hand, and except for the (111) plane, the Knoop hardness is virtually isotropic for the synthesized crystals (Fig. 2).」(第234頁)
(当審仮訳:試験結果
表1に示される窒素含有量の試料を用いた。これは、天然ダイヤモンドでは7.3,7.8及び8.5マイクロメートルの赤外吸収バンドを用いて決定した(Davies, 1980)。合成結晶の場合は、窒素は8.85マイクロメートル吸収に対応する(Chrenko, Strong and Wentorf, 1971)。

表1
---------------------------------
試料 窒素合有量(ppm)
---------------------------------
SD-01 30
SD-02 51
SD-03 35
SD-04 57
ND-01 >1000
ND-02 410
---------------------------------
備考 SD: 合成ダイヤモンド,Ib型
ND: 天然ダイヤモンド,1a型

ヌープ圧子は、微細に研磨された(001)、(110)及び(111)表面に、垂直荷重4.9Nで15秒間を用いて使用された。得られたくぼみはテレビモニターを用いてx1000の倍率で測定された。ヌープ圧子の小面間の挟角は172°30’及び130°であり、この形状は、軽微な弾性回復を伴う理想塑性の条件下で、長い対角線が短い対角線の約7倍の長さであることに留意する。

測定結果を図1(Fig. 1)及び図2(Fig. 2)に示す。図1(Fig. 1)は、更に天然ダイヤモンド結晶(Brookes, 1979)のデータを含み、ヌープ硬さの異方性を説明する。ND-01試料の(110)面の測定は、他の試料の同一面と、[110]方向が[001]方向よりも硬いという点で異なる。これは、以前に天然ダイヤモンドで報告された異方性の特性と逆であり、我々は現在この明白な例外について研究中である。一方、(111)面を除いて、合成結晶ではヌープ硬度は事実上等方性である。(Fig.2))

ウ 「

」(第235頁 Fig 1, Fig 2)
(当審仮訳:天然ダイヤモン
ド(図1)及び合成ダイヤモンド(図2)のヌープ硬度の異方性(*Brookes, 1979))

ここで、上記イ?ウから、図1には、異なる面方位及び方向におけるヌープ硬度について、窒素濃度1000ppm超の天然ダイヤモンドND-01及び窒素濃度410ppmの天然ダイヤモンドND-02の測定結果が記載されており、前者の方が後者よりも同じ面方位及び方向におけるヌープ硬度が高いことが看取できる。

(16)乙第5号証
乙第5号証は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、NASAによる刊行物であり、下記の事項が記載されている。
ア 「Effect of impurities on indentation hardness-Impurities, particularly nitrogen, considerably alter the indentation hardness. Polished (100) surfaces of single crystal synthetic diamond (type Ib) containing 1 ppm to nearly 100 ppm of nitrogen and natural diamond (type Ia) containing up to 2000 ppm of nitrogen were indented with a Knoop diamond indenter. As shown in Fig.8.12 type Ia natural diamond invariably contained more nitrogen impurities (e.g., nitrogen platelets) and thus had greater ranges of hardness values.」(第16頁最終段落)
(当審仮訳:不純物が押し込み硬さに与える影響-不純物、特に窒素、は押し込み硬さを相当に変える。1ppmから約100ppmの窒素を含有する単結晶合成ダイヤモンド(Ib型) 及び2000ppmまでの窒素を含有する天然ダイヤモンド(Ia型)の研磨{100}面が、ダイヤモンド製ヌープ圧子で押し込まれた。図8.12に示されるように、Ia型天然ダイヤモンドはより多くの窒素不純物(例えば、窒素プレートレット)を常に含み、よって硬度の値の幅が広かった。)

イ 「

」(第19頁 Figure 8.12)
(当審仮訳:図8.12-合成及び天然ダイヤモンドの窒素含有量と関係するヌープ硬度)

ここで、上記イに摘示した図8.12には、種々の窒素濃度を有する合成及び天然ダイヤモンドのヌープ硬度が記載されており、上記アから、このうち窒素含有量2000ppmまでの天然ダイヤモンド(タイプIa)のヌープ硬度については、ダイヤモンド製ヌープ圧子により測定したものであることが記載されており、2000ppmを超えたところの測定データは、ヌープ圧子による測定の結果ではないと推認される。
また、図8.12から、窒素濃度1000ppm以上の天然ダイヤモンドは、窒素濃度が高いほどヌープ硬度が高い傾向にあることが看取できる。そして、例えば右から3番目のデータ(●)として2000ppmの窒素含有量を有する天然ダイヤモンド(タイプIa)のヌープ硬度の測定結果が記載されており、図中の縦方向のバーの下端及び上端の位置を縦軸に記載の目盛りに対応させることで、当該ヌープ硬度はおよそ130?164GPaの範囲内であることを看取できる。

(17)乙第6号証
乙6号証は、被請求人住友電気工業株式会社による、本件特許の出願前である1999年5月付けの「合成高純度ダイヤモンド単結晶 スミクリスタル・タイプII」のカタログと認められるものであり、下記のように記載されている。

ア 「

」(2頁目)

ここで、アに摘示される表には、TypeI(Ia、Ib、-)、TypeII(IIa、IIb)に分類された各ダイヤモンドの、天然の産出、合成、含有不純物(窒素及びボロン)、外観色、導電性、熱伝導性について記載されており、合成ダイヤモンドのスミクリスタルタイプIIはTypeII(IIa)に分類されていることが看取できる。

イ 「スミクリスタル・タイプII 光学製品(例)
住友電工ではスミクリスタル・タイプIIの能力を最大限に発揮する光学製品や、その他各種応用製品の製作を承っております。」(3頁目)

ウ 「

」(4頁目)

ここで、ウに摘示される表には、スミクリスタル・タイプIIとして、2種のFT-IR用アクセサリ製品、すなわち、顕微型FT-IR用加圧セル及び顕微型FT-IR用試料板が記載されている

(18)乙第7号証
乙第7号証は、被請求人住友電気工業株式会社による、本件特許の出願後である2012年4月付けの「合成高純度ダイヤモンド単結晶 スミクリスタル」のカタログと認められるものであり、下記の事項が記載されている。
ア 「硬度 Hardness
ダイヤモンドは既知の物質の中でも硬いことで知られていますが、結晶中の不純物室素によって、また結晶方位によって硬度が異なります。右図に示しましたように、スミクリスタルは結晶中の窒素分散型不純物濃度が少ない場合は硬度が高くなる傾向があります。これは合成ダイヤモンド内に含まれる分散型室素不純物が塑性変形を誘発する原因となっているので、含有する窒素が少ない結晶程、硬度を低下させる要因が少なくなるためです。また、ダイヤモンドの結晶は結晶面および方向によっても硬度が異なります。(100)面、(110)面および(111)面上でそれぞれ2方向の硬度を右図に示します。(111)面における硬度の異方性は天然ダイヤ、合成ダイヤ(スミクリスタル)ともほぼ同じ傾向を示していることがわかります。一方、(100)面や(110)面においては合成IIaは合成Ib、天然Iaと比較して異なる傾向があります。これは、合成IIaは塑性変形や微小クラックの起点となる不純物や結晶欠陥が極めて少ないため、面方位によっては変形抵抗が異常に高くなるからです。」(2頁目左下欄)

イ 「

」(2頁目右下欄の図)

ここで、上記イに摘示した図には、異なる面方位、方向ごとに、天然Ia、天然IIa、合成Ibそれぞれのダイヤモンドのヌープ硬度が記載されており、上記アに記載されるとおり、(111)面における硬度の異方性は天然ダイヤモンド、合成ダイヤモンドともほぼ同じ傾向を示す一方、(100)面や(110)面においては合成IIaは合成Ib、天然Iaと比較して異なる傾向があることを看取することができる。

(19)乙第8号証
乙第8号証は、Sumitomo Electric Industries, Ltd.(被請求人住友電気工業株式会社)所属のHitoshi Sumiya(本件特許発明者 角谷 均)氏を著者として、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、下記の事項が記載されている。
ア 「The indentation tests were performed using a microhardness tester (Akashi, MVK-E) with a normal load of 4.9 N applied for 15 s. The size of the indentations was 20-30 μm in the longitudinal direction. For comparing commercially available natural diamond (type Ia) Knoop indenters [Tokyo Diamond Tools Mfg. (Tokyo, Japan), hereinafter referred to as ND indenter] were also used for the evaluation. Although rough, the longitudinal direction of the ND indenters were nearly parallel to (001)<100> of the crystal.
Figure 3 shows the life durations (the number of indentation times to breakage) of the SD and ND indenters on the indentation tests. The SD indenters were unbroken despite more than 150 indentation tests while the ND indenters were easily broken at 1-23 indentation tests.」(第026112-3頁左欄)
(当審仮訳:押し込み試験は、微小硬さ試験機(アカシ、MVK-E)を用い、垂直荷重4.9Nを15秒間加えて行った。くぼみの大きさは、長手方向に20?30μmであった。比較のために、市販の天然ダイヤモンド(Ia型)ヌープ圧子[東京ダイヤモンド工具製作所(東京、日本)、以下ND圧子と呼ぶ]も評価に用いた。粗いが、ND圧子の長手方向は結晶の(001)<100>にほぼ平行であった。
図3は、押し込み試験におけるSD圧子およびND圧子の寿命(破壊までの圧入回数)を示す。SD圧子は、150回を超える押し込み試験にもかかわらず破壊されなかったが、ND圧子は、1?23回の押し込み試験で容易に破壊された。)

イ 「

」(第26112-2頁 左欄)
(当審仮訳:図3 天然ヌープ圧子(黒、No.1?24)及び合成タイプIIaダイヤモンドヌープ圧子(ハッチ、No.25及び26)の寿命)

ここで、イに摘示した図3には、計24の天然ダイヤモンド(Ia型)ヌープ圧子及び2つの合成ダイヤモンド(IIa型)を用いて押し込み試験を行った際の寿命すなわち破壊までの圧入回数の結果が圧子番号ごとに記載されており、天然ダイヤモンド圧子の寿命が1?23回であったことが示されると共に、少なくとも例えば圧子番号4及び6の圧子は、棒グラフの長さを読み取ることにより、20回以上の寿命を有していることを看取できる。

(20)乙第9号証
乙第9号証は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、「ダイヤモンドツール」と題し、下記の事項が記載されている。

ア 「10. 漆間 弘………………………………………………(株)東京ダイヤモンド工具製作所 仙台工場」(目次第xx頁)

イ 「(4)ヌープ圧子,微小ヌープ圧子
ビッカース硬さ試験機,または微小硬さ試験機でメプ使さの測定に用いられる圧子で,ダイヤモンド先端の形状は菱形の四角すいで,対稜角が172°30’と,許容範囲は172°30’±5’とされているJIS B734)(図10-7),そして,先端に稜が形成された場合その長さは0.001mm以下でなければならない。
ヌープ,微小ヌープとも,軸の形状寸法はピッカース,微小ビッカースとそれぞれ同様で,いずれも試験機に合わせた設計となっている。
ヌープ圧子は,ビッカース圧子と比べより薄い試料の測定が可能であり,軽荷重でも圧痕(写真10-8)が大きいため,より精度の高い測定ができる利点がある(微小の場合も同様)。
ただし,製作にあたっては,正四角すいとは異なり左右対称とはいえ細長い菱形状であるため,研磨の条件がむずかしく,とくに高度の技術を必要とする。」(第687頁左欄第1?17行)

ウ 「

」(広告頁)

エ 「

」(広告頁)

上記ウ及びエから、エには東京ダイヤモンド工具製作所の広告が記載されており、ダイヤモンド圧子が営業品目の一つであることを看取できる。

第7 無効理由についての当審の判断
1 無効理由1(新規性進歩性)について
無効理由1は、訂正前の請求項1及び8に係る特許に対して主張されたものであるところ、本件訂正により、訂正前の請求項1に係る発明は本件発明1となり、訂正前の請求項8に係る発明は本件発明8、17及び26となったから、ここでは、本件発明1、8、17、26に係る特許について無効理由1を判断する。

(1)甲第2号証に記載の発明について
上記第6(2)ア及びウから、甲第2号証のFigure3には、圧力15GPaで様々な温度でグラファイトから得られたいくつかのダイヤモンドのX線回折パターンが記載されている。Figure3の上から3番目には、15GPa、1800℃、1分でグラファイトを処理して得られたダイヤモンドのX線回折パターンが示されており、そこには六方晶ダイヤモンド(h-Dia)の(100)面及び立方晶ダイヤモンド(c-Dia)の(111)面のピークが存在する。
また、Figure3の上から3番目に記載されているダイヤモンドは、立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドを含んでいることから、多結晶体である。
してみると、甲第2号証には、「立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドとを含むダイヤモンド多結晶体」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)対比
ア 本件発明1について
本件発明1と、引用発明とを対比すると、引用発明の立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドとを含むダイヤモンド多結晶体は、本件発明1における「立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含」む「ダイヤモンド多結晶体」に相当する。
すると、本件発明1と引用発明とは、「立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含むダイヤモンド多結晶体。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「室温での硬度が128GPa以上」であるのに対し、引用発明の室温での硬度は不明である点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記立方晶ダイヤモンド(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面に関するX線回折ピーク強度のピーク比率が0.01%以上」であるのに対し、引用発明の立方晶ダイヤモンド(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する六方晶ダイヤモンドの(100)面に関するX線回折ピーク強度のピーク比率は不明である点。

イ 本件発明8について
本件発明1の発明特定事項をすべて備えるダイヤモンド多結晶体を用いた「線引ダイス」の発明である本件発明8を、引用発明と対比すると、上記アに示した相違点1及び2と同じ相違点に加え、両者は以下の点でさらに相違する。
<相違点3>
本件発明8は「線引ダイス」であるのに対し、引用発明はダイヤモンド多結晶体であって線引ダイスではない点。

ウ 本件発明17について
本件発明17は、引用発明と、上記イに示した相違点2及び3と同じ相違点に加えて、少なくとも下記の点でさらに相違する。
<相違点4>
本件発明17は、ダイヤモンド多結晶体が「800℃以上1200℃以下の温度域における抗折力が、室温での抗折力の90%以上である」のに対し、引用発明のダイヤモンド多結晶体はこの点が不明である点。

エ 本件発明26について
本件発明26は、引用発明と、上記イに示した相違点2及び3と同じ相違点に加えて、下記の点でさらに相違する。
<相違点5>
本件発明26は、ダイヤモンド多結晶体が「800℃における硬度が、室温での硬度の80%以上である」のに対し、引用発明のダイヤモンド多結晶体はこの点が不明である点。

(3)判断
ア 本件発明1について
まず、相違点2について、甲第2号証についての分析結果が記載されている甲第5号証の論文開示事項分析報告書においては、立方晶ダイヤモンド(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する六方晶ダイヤモンドの(100)面に関するX線回折ピーク強度のピーク比率を求めており、その方法は、上記第6(3)において摘示したとおり、第3頁?第11頁の「3.詳細」に記載されているものである。そして、甲5に記載されている、ローレンツ型関数を用いた各ピーク強度の求め方、及びピーク比率の求め方は、技術常識を考慮して妥当なものと認められるから、甲2のFigure3の上から3番目に記載されているダイヤモンドにおける立方晶ダイヤモンド(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する六方晶ダイヤモンドの(100)面に関するX線回折ピーク強度のピーク比率は、甲第5号証に記載された20.1%であると認められる。よって、相違点2は実質的な相違点ではない。

次に、相違点1について、甲第2号証には、引用発明の基となるFigure3の上から3番目に記載されているダイヤモンドの硬度について何ら記載されていないし、技術常識を考慮しても、当該ダイヤモンドの硬度を予測することができるとはいえない。そうすると、相違点1は実質的なものである。よって、本件発明1は、引用発明ではない。
また、技術常識及び全証拠を考慮しても、当業者が「前記立方晶ダイヤモンド(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面に関するX線回折ピーク強度のピーク比率が0.01%以上である」という本件発明1の発明特定事項を満たしつつ相違点1を解消するという変更を加える動機付けを得ることを示す根拠は見あたらない。そうすると、本件発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明8について
本件発明8について、引用発明との相違点1と同じ相違点について上記アと同様に判断すると、相違点3について検討するまでもなく、引用発明ではなく、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件発明17について
相違点4について、甲第2号証には、引用発明の基となるFigure3の上から3番目に記載されているダイヤモンドの800℃以上1200℃以下の温度域における抗折力の室温での抗折力に対する割合について何ら記載されていないし、技術常識を考慮しても、当該ダイヤモンドの800℃以上1200℃以下の温度域における抗折力の室温での抗折力に対する割合を予測することができるとはいえない。そうすると、相違点4は実質的なものである。よって、本件発明17は、引用発明ではない。
また、技術常識及び全証拠を考慮しても、当業者が「前記立方晶ダイヤモンド(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面に関するX線回折ピーク強度のピーク比率が0.01%以上である」という本件発明17の発明特定事項を満たしつつ相違点4を解消するという変更を加える動機付けを得ることを示す根拠は見あたらない。そうすると、本件発明17は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明26について
相違点5について、甲第2号証には、引用発明の基となるFigure3の上から3番目に記載されているダイヤモンドの800℃における硬度の室温での硬度に対する割合について何ら記載されていないし、技術常識を考慮しても、当該ダイヤモンドの800℃における硬度の室温での硬度に対する割合を予測することができるとはいえない。そうすると、相違点5は実質的なものである。よって、本件発明26は、引用発明ではない。
また、技術常識及び全証拠を考慮しても、当業者が「前記立方晶ダイヤモンド(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面に関するX線回折ピーク強度のピーク比率が0.01%以上である」という本件発明26の発明特定事項を満たしつつ相違点5を解消するという変更を加える動機付けを得ることを示す根拠は見あたらない。そうすると、本件発明26は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は、令和 2年11月 2日付け上申書において、「本件発明1についての相違点1が実質的なものではない、または相違点を解消することが容易であるという主張はしていません。」(第2頁)と述べるのみで、本件訂正後、令和 2年 2月28日付け審判事件弁駁書、同年11月 2日付け上申書、及び、令和 3年 1月 8日付け上申書において、本件発明1、8、17及び26について無効理由1に関する追加の主張はしていない。

(5)小括
以上のとおりであるから、無効理由1は理由がない。

2 無効理由2(サポート要件)について
無効理由2は本件発明1及び8について主張されたから、ここでは、本件発明1及び8について無効理由2を判断する。

(1)当審の判断
上記第2の2(1)イに記載したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】?【0035】、【0039】から、本件明細書の発明の詳細な説明にはダイヤモンド多結晶体の発明について「室温での硬度が128GPa以上である」ことが記載されているといえるから、本件発明1及び8は、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。
よって、無効理由2は理由がない。

(2)請求人の主張について
請求人は、令和 2年 2月28日付け審判事件弁駁書において、「第一に、『室温での硬度が128GPa以上』の根拠となっている本件明細書段落【0035】表1の記載からは、表1のヌープ硬度が『室温での』ヌープ硬度であることは記載されておらず、本件明細書の他の記載を参照しても、表1のヌープ硬度が『室温での』ヌープ硬度であるか否かは明確でない」(第5頁)と主張する。
この点について、確かに、本件明細書段落【0035】表1には表1のヌープ硬度が「室温での」ヌープ硬度であることは明示的に記載されていないものの、上記第2の2(1)イに記載したとおり、段落【0039】の「室温(25℃)の値」との記載、及び、表2において「25℃」の列に記載のヌープ硬度の値は、表1に記載のヌープ硬度の値を転記したものであることからみて、表1に記載のヌープ硬度も室温(25℃)でのヌープ硬度であることが自明なものであると理解されるから、請求人の主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおりであるから、無効理由2は理由がない。

3 無効理由3(実施可能要件)について
無効理由3は本件発明1及び8について主張されたから、ここでは、本件発明1及び8について無効理由3を判断する。

(1)当審の判断
ア 本件発明1及び8は物の発明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が本件発明1及び8について実施可能要件を満たすというためには、本件特許の出願時に、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が本件発明1に係るダイヤモンド多結晶体及び本件発明8に係る線引ダイスを製造し、それを使用することができたことを要し、かつ、それで足りるといえる。

イ そこで検討するに、本件明細書の発明の詳細な説明には、下記a?hの記載がある。
a 「【0014】
本発明は、立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドとを含み、立方晶ダイヤモンドに対する六方晶ダイヤモンドの比率が所定の範囲内にあるダイヤモンド多結晶体が、上記の立方晶ダイヤモンドに対する六方晶ダイヤモンドの比率が所定の範囲外にあるダイヤモンド多結晶体に比べて、より高い硬度およびより高い強度を有することを見出すことにより、完成された。
【0015】
すなわち、本発明は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率(h/c比率)が0.01%以上であるダイヤモンド多結晶体である。」

b 「【0020】
h/c比率が0.01%以上である本実施形態のダイヤモンド多結晶体は、h-ダイヤモンドが含まれない(すなわちh/c比率が0%の)ダイヤモンド多結晶体またはh/c比率が0.01%より低いダイヤモンド多結晶体に比べて、硬度および強度がより高く、具体的には、強度、坑折力、耐摩耗などがより高くなる。」

c 「【発明の効果】
【0018】
上記のように、本発明によれば、切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットとして好適に用いられる高い硬度および高い強度を有するダイヤモンド多結晶体およびその製造方法が提供される。」

d 「【0022】
(実施形態2)
本発明の他の実施形態であるダイヤモンド多結晶体の製造方法は、グラファイト化度が0.58以下の非ダイヤモンド状炭素材料を準備する工程と、この非ダイヤモンド状炭素材料を、ダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力および温度の条件下で、焼結助剤および結合剤のいずれも添加することなく、直接的に立方晶ダイヤモンドおよび六方晶ダイヤモンドに変換させるとともに焼結させる工程と、を備える。
【0023】
本実施形態のダイヤモンド多結晶体の製造方法によれば、c-ダイヤモンド(立方晶ダイヤモンド)とh-ダイヤモンド(六方晶ダイヤモンド)とを含み、h/c比率(c-ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対するh-ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率)が0.01%以上である、硬度および強度(具体的には、強度、抗折強度、耐摩耗性など)が高いダイヤモンド多結晶体が得られる。」

e 「【0030】
ダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力および温度の条件とは、カーボン系材料において、ダイヤモンド相が熱力学的に安定な相である圧力および温度の条件をいい、焼結助剤および結合剤のいずれも添加せずに焼結可能な条件としては、具体的には、圧力が12GPa以上、温度が2000℃?2600℃の条件であり、好ましくは、圧力が16GPa以上、温度が2200℃?2300℃の条件である。」

f 「【実施例】
【0032】
(実施例1?6、比較例1?2)
非ダイヤモンド状炭素材料として、表1に示すように、グラファイト化度および粒径が異なる複数のグラファイト粉末を準備した。
【0033】
次に、複数の上記非ダイヤモンド状炭素材料のそれぞれを、高圧高温発生装置を用いて、焼結助剤および結合剤のいずれも添加することなく、圧力が16GPaおよび温度が2200℃(これは、ダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力および温度)の条件下で高圧高温処理した。
【0034】
得られた複数のダイヤモンド多結晶体について、それぞれ、硬度、抗折強度および耐摩耗性を評価した。硬度は、ヌープ硬度計を用いて、4.9Nの荷重を10秒間負荷する条件で測定したヌープ硬度である。抗折強度は、三点曲げ強度試験機により測定した。耐磨耗性は、ダイヤモンド研磨機を用いて荷重が3kg/mm^(2)の条件で測定して、実施例1の値を1.0としたときの相対値で示した。ここで相対値が高いほど、耐磨耗性が高いことを示す。結果を表1にまとめた。
【0035】
【表1】

【0036】
表1を参照して、h/c比率が0.01%以上のダイヤモンド多結晶体(実施例1?6)は、h/c比率が0.01%未満のダイヤモンド多結晶体(比較例1?2)に比べて、硬度、抗折強度および耐磨耗性のいずれもが高くなり、強度特性および耐磨耗性に優れることがわかった。」

g 「【0042】
(実施例9)
上記実施例1?6および比較例1?2で得られたそれぞれのダイヤモンド多結晶体を丸型金属製枠に埋め込み、孔径がφ20μmのダイスを作製した。作製されたそれぞれのダイスを用いて、線速500m/分でCu線の線引を行なった。このとき、ダイス径がφ20.2μmまで摩耗するまでの線引時間は、比較例1?2のダイヤモンド多結晶体製のダイスに比べて、実施例1?6のダイヤモンド多結晶体製のダイスは、いずれも1.12倍以上に長くなった。」

h 「【0049】
上記実施例7?15を参照して、本発明にかかるダイヤモンド多結晶体(実施例1?6)は、従来のダイヤモンド多結晶体(比較例1?2)に比べて、はるかに優れた硬度、強度および耐摩耗性を有しているため、スクライブツール、ドレッサー、ダイス、オリフィス、切削工具、ドリル・エンドミルなどの回転切削工具、研削工具、電極ガイド、スクライブホイールなどの材料として非常に有用であることがわかった。」

ウ 上記イから、本件明細書の発明の詳細な説明には、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率(h/c比率)が0.01%以上であるダイヤモンド多結晶体は、h-ダイヤモンドが含まれない(すなわちh/c比率が0%の)ダイヤモンド多結晶体またはh/c比率が0.01%より低いダイヤモンド多結晶体に比べて、硬度がより高いものであること(上記イa及びb)、そのようなダイヤモンド多結晶体は、グラファイト化度が0.58以下の非ダイヤモンド状炭素材料を準備する工程と、この非ダイヤモンド状炭素材料を、ダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力および温度の条件下で、焼結助剤および結合剤のいずれも添加することなく、直接的に立方晶ダイヤモンドおよび六方晶ダイヤモンドに変換させるとともに焼結させる工程と、を備える製造方法により製造できること(上記イd)、ダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力および温度の条件とは、カーボン系材料において、ダイヤモンド相が熱力学的に安定な相である圧力および温度の条件をいい、焼結助剤および結合剤のいずれも添加せずに焼結可能な条件としては、具体的には、圧力が12GPa以上、温度が2000℃?2600℃の条件であること(上記イe)、及び、当該製造方法に従い作製した、「h/c比率」が0.01%以上である実施例1?6のダイヤモンド多結晶体のヌープ硬度を測定すると、128?140GPaであったこと(上記イf)が記載されているといえる。
また、上記ヌープ硬度の値は、上記第2の2(1)イに記載したとおり、室温(25℃)での値であると認められる。

エ 上記ウからすると、グラファイト化度が0.58以下の非ダイヤモンド状炭素材料を準備する工程と、この非ダイヤモンド状炭素材料を、ダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力が12GPa以上、温度が2000℃?2600℃の条件下で、焼結助剤および結合剤のいずれも添加することなく、直接的に立方晶ダイヤモンドおよび六方晶ダイヤモンドに変換させるとともに焼結させる工程と、を備える方法により、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、「h/c比率」が0.01%以上であるダイヤモンド多結晶体を作製し、その室温でのヌープ硬度が128GPa以上であることを測定により確認するという製造方法(以下、「製造方法A」という)を実施できるのであれば、本件発明1に係るダイヤモンド多結晶体を製造できることになる。

オ ここで、上記エに記載の製造方法Aうち、ダイヤモンド多結晶体の室温でのヌープ硬度が128GPa以上であることを測定により確認するという点について、高い硬度のダイヤモンド多結晶体のヌープ硬度の測定の困難性に鑑みて以下検討する。
まず、乙第1号証には、上記第6(12)に摘示したように、日本工業規格に定めるヌープ硬度試験として、通常23℃±5℃の範囲内で、対りょう(稜)角(α及びB)が172.5°及び130°で底面がひし形のダイヤモンド圧子を,試料(試験片)の表面に押し込み,その試験力Fを解除した後,表面に残ったくぼみの長い方の対角線長さdを測定し、試験力F、対角線長さd及び定数cからヌープ硬さを求めることが記載されており、このことは当業者に周知であると認められる。また、乙第2号証には、上記第6(13)エに摘示したとおり、乙第2号証の明細書段落【0007】にはダイヤモンドからヌープ圧子を研磨により作製する方法が記載されており、このこともまた当業者に周知であると認められる。そうすると、一般的にダイヤモンドを用いてヌープ圧子を作製しヌープ硬度測定を行うことは、当業者に可能であったと認められる。
そして、128GPa以上のヌープ硬度の測定について、上記第6(16)に示したとおり、乙第5号証には、窒素含有量2000ppmまでの天然ダイヤモンド(タイプIa)のヌープ硬度については、ダイヤモンド製ヌープ圧子により測定したことが記載されており、2000ppmを超えたところの測定データは、ヌープ圧子による測定の結果ではないと推認されるものの、上記第6(16)に示したように、図8.12には、例えば右から3番目のデータ(●)として2000ppmの窒素含有量を有する天然ダイヤモンド(タイプIa)のヌープ硬度が記載されており、図中の縦方向のバーの下端及び上端の位置を縦軸に記載の目盛りに対応させることで、当該ヌープ硬度はおよそ130?164GPaの範囲内であることを看取できる。そうすると、本件特許の出願時において、既に、およそ130?164GPaの範囲内のヌープ硬度の天然ダイヤモンド(タイプIa)をダイヤモンド製ヌープ圧子により測定することができる状況にあったということが乙第5号証に示されているといえる。
また、乙第2号証には、上記第6(13)ウに摘示した【0006】に、高純度合成ダイヤモンド結晶(IIa型)を得ることが記載されており、そのヌープ硬度について、上記第6(13)ケに摘示した図2には、当該高純度合成ダイヤモンド結晶(IIa型)の(100)面上<100>方位から<110>方位へ30°傾いた方向において最大約13100kg/mm^(2)(当審注:換算すると約129GPa)のヌープ硬度を示したことを読み取ることができ、上記第6(13)オに摘示した【0008】には、(100)面上<110>方位はヌープ圧子による正常なヌープ圧痕が形成されず、非常に硬いことが記載されている。そうすると、本件特許の出願時において、128GPa以上のヌープ硬度を測定可能と推認されるダイヤモンドが入手可能又は製造可能な状況にあったこと、圧子として品質が必ずしも安定しないことはあっても少なくともヌープ硬度128GPaの合成ダイヤモンドが製造されたことを確認できる程度の状況にはあったということは認められる。

カ また、乙第8号証には、上記第6(19)アに摘示したように、天然ダイヤモンド(Ia型)ヌープ圧子を用いて押し込み試験を行い、それらの寿命が1?23回であったことが示されると共に、上記第6(19)イに摘示したFig.3からは、計24の天然ダイヤモンドヌープ圧子のうち、少なくとも例えば圧子番号4及び6の圧子は20回以上の寿命を有していることを看取することができるから、必要であれば耐久性が比較的高い圧子を選定するなどして、天然ダイヤモンド圧子によってヌープ硬度を測定することが可能であるといえる。

キ ヌープ硬度の測定には測定対象より硬い圧子が必要であることが技術常識であるから、上記オからすると、当業者であれば、乙第2号証を参照して約129GPaまたはそれ以上のヌープ硬度を有する高純度合成ダイヤモンド結晶(IIa型)を製造するか住友電気工業株式会社から譲り受けてヌープ圧子を作製する、乙第5号証の開示内容を参照して2000ppm程度の窒素含有量を有する天然ダイヤモンド(タイプIa)を自ら入手するかNASAから譲り受けてヌープ圧子を作製する、あるいは、住友電気工業株式会社又はNASAに測定を委託する等の手段により、室温でのヌープ硬度が128GPa以上であることを測定により確認することが可能な状況にあったと認めるのが相当である。

ク してみれば、本件特許の出願時において、当業者は上記エに記載の製造方法Aを実施することができ、それにより本件発明1に係るダイヤモンド多結晶体を製造することができたといえる。

ケ そして、本件発明1に係るダイヤモンド多結晶体の使用について、上記イc及びhから、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率(h/c比率)が0.01%以上であり、室温でのヌープ硬度128以上であるダイヤモンド多結晶体は、線引ダイスなどの各種工具などに使用できることが記載されている。また、上記イgから、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0042】には、ダイヤモンド多結晶体を丸型金属製枠に埋め込むことで線引ダイスを作製し、使用したことが記載されている。また、上記第6(5)に摘示した甲第22号証に、伸線ダイス(すなわち線引ダイス)が多結晶ダイヤモンドから形成されることが記載されているとおりダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイスを作製し使用することは、本件出願時において、もとより周知技術であると認められる。よって、本件発明1に係るダイヤモンド多結晶体が製造できれば、当業者であれば、上記発明の詳細な説明の記載又は周知技術にしたがって、本件発明1に係るダイヤモンド多結晶体を用いて線引ダイスを製造し工具として用いるなどして、本件発明1に係るダイヤモンド多結晶体を使用することができたといえる。

コ 以上のとおり、本願出願当時、当業者は本件発明1に係るダイヤモンド多結晶体を製造し、使用することができたといえる。

サ 本件発明1の発明特定事項をすべて備えるダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイスである本件発明8については、上記ケに示したように、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載又は周知技術にしたがって、本件発明1に係るダイヤモンド多結晶体を用いて本件発明8に係る線引ダイスも製造し、使用することができたといえる。

シ よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1及び8を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえず、無効理由3は、理由がない。

(2)請求人の主張
請求人は、概略下記ア?イのように主張する。
ア 乙第5号証の記載について(主張A)
a 「Fig 8.12のヌープ硬度は幅をもって記載されており、…問題がある。」(令和 2年 8月20日付け上申書 第3頁第5?6行)

b 「乙5号証に「最大150GPa以上のヌープ硬度を有する天然ダイヤモンド(●のプロットで示される)開示されている」というだけで、当業者が、窒素1000ppm超の天然ダイヤモンド(1a型)を圧子として用いることに当業者が想到し、入手できたことを証明したことにならないし、また窒素含有量1000ppm超の天然ダイヤモンド(1a型)を当業者が入手できたことを証明したことにならない。乙第5号証はNASAの研究論文という特殊なものでありダイヤモンドの技術分野における当業者の一般的な知見を示すものであるかは不明である。また、天然ダイヤモンドはまず宝飾関係の用途に確保され残ったものが工業用に回されるところ、工業用ダイヤモンドは上位メーカーから順に良質なものを取っていくのが流通の形態であるので、トップメーカーである被請求人には入手可能であるとしても、請求人を含む他の当業者にも同じように入手可能であるわけではない。」(令和 2年 8月20日付け上申書 第3頁第25行?第4頁第8行)

c 「乙2では、窒素不純物を低く(3ppm以下に)抑えることにより圧子に適した合成ダイヤモンドを得るという技術的思想が開示されています(段落【0005】)が、乙5では、逆に、窒素不純物の多い(少なくとも1000ppm超)天然ダイヤモンドが高硬度を示すという測定データが開示されており(図8.12)、そうであれば、窒素不純物の濃度は、天然ダイヤモンドの硬度に影響を与える様々なパラメータの一つに過ぎないと考えられます。」(令和 2年 8月20日付け上申書 第3頁第5?10行)、「さらに、被請求人の出願に係る乙2によれば、窒素不純物の含有量が大きくなるほどヌープ硬度は低下する傾向がある(図1)のですから、乙5の図8.12の右から1番目?3番目のデータは技術常識に反していると言えます。なお本特許の出願後の文献ではありますが、被請求人の出願に係るWO2018/066319(甲第27号証)において、『不純物の含有量の合計が2000ppmaを超えるダイヤモンド多結晶体は、不純物に基づく空隙が多結晶体内に生じることにより、その強度が低下する。』と記載されています(段落【0053】)。」(令和 2年 8月20日付け上申書 第4頁第6?13行)」

d 「乙5には『2000ppmまでの窒素を含有する天然ダイヤモンド(Ia型)の研磨{100}面が、ダイヤモンド製ヌープ圧子で押し込まれた。』という記載がありますが、これは、『2000ppmまでの窒素を含有する天然ダイヤモンド(Ia型)』についてはヌープ硬度の測定が可能であったという意味に解されます。逆に言えば、2000ppm超の窒素を含有する天然ダイヤモンド(Ia型)については、いかなる方法でヌープ硬度を測定したのか(そもそも測定できたのか)記載がなく、したがって、少なくとも図8.12の右から1番目と2番目のデータは信用できません。」(令和 2年11月 2日付け上申書 第3頁第30行?第4頁第5行)

イ 乙第2号証について(主張B)
a 「5頁図2を根拠に被請求人が主張する(被請求人上申書6頁8?11行)「129GPa以上」の硬度であるとしても、訂正後の本件発明の「128GPa以上」の硬度のうち128GPaから129GPaまでを測定できるというにすぎず、実施可能要件を満たす根拠にならない。」(令和 3年 1月 8日付け上申書 第6頁第1?4行)
b 「被請求人は自ら、乙第2号証…において、天然ダイヤモンドを圧子として用いることは不純物(窒素を含む)の問題から結晶構造、歪みに影響し、安定した品質を得られず『ほとんど不可能』と主張している。」(令和 2年 8月20日付け上申書 第3頁第9?12行)

(3)請求人の主張についての当審の判断
ア 主張Aについて
上記(2)アaの点について、乙第5号証のFig 8.12のヌープ硬度は、確かに幅を持って記載されており、その幅の意味は乙第5号証に明記されていない。しかしながら、測定結果についてグラフ上に幅をもって記載されていることは一般的であり、その幅は、技術常識から誤差範囲もしくは測定結果のばらつきの範囲と解されるから、Fig 8.12の測定結果に幅があることだけでは、直ちに乙第5号証の記載に問題があることにはならない。そして、例えば、窒素含有量2000ppmの天然ダイヤモンドについては、およそ130?164GPa幅をもって記載されているところ、この幅が誤差範囲又は測定結果のばらつきの範囲のいずれの意味であるとしても、およそ130?164GPaの範囲内の測定結果が得られ、少なくとも128GPa以上の物を測定できていたことは看取できるのであるから、このことに基づくものである上記(1)の判断は左右されない。

上記(2)アbの点について、本件特許の出願時において、天然ダイヤモンドを自ら入手することが仮に困難であるとしても、上記(1)カに記載したとおり、NASAから天然ダイヤモンドを譲り受けたりNASAに天然ダイヤモンドを用いた測定を委託する等の手段により測定を行うことができる状況にあったと認められる。
そうすると、請求人の指摘により乙第5号証の記載事項の妥当性に問題が生じるとはいえないし、乙第5号証の記載事項に基づくものである上記(1)の判断にも影響は生じない。
よって、請求人の上記(2)アbの主張を参酌しても上記(1)の判断は左右されない。

上記(2)アcの点について、請求人の指摘する乙第2号証に記載の「窒素不純物を低く(3ppm以下に)抑えることにより圧子に適した合成ダイヤモンドを得るという技術的思想」は合成ダイヤモンド結晶に関するものであって(上記第6(13)ウ、オ、カ参照)、乙第5号証に記載の、合成ダイヤモンド結晶よりはるかに長い時間をかけて生成されるものである天然ダイヤモンドとは生成過程が異なることから、物性が異なりうる材料に関するものである。また、甲第27号証の【0053】の記載(上記第6(10)参照)はダイヤモンド多結晶に関するものであり単結晶であることが技術常識である天然ダイヤモンドとはやはり結晶形態の点で異なる材料に関するものである。そうすると、請求人の指摘は、直ちに乙第5号証に記載の天然ダイヤモンドに適用できるものではない。かえって、乙第4号証のFig.1(第235頁)及びTABLE1(第234頁)には、窒素濃度1000ppm超の天然ダイヤモンドND-01のほうが、窒素濃度410ppmの天然ダイヤモンドND-02よりも同じ面方位及び方向におけるヌープ硬度が高いことが示されており、このことは、同じく天然ダイヤモンドに関するものである乙第5号証の図8.12において、窒素濃度が1000ppm以上の天然ダイヤモンドの窒素濃度が高いほどヌープ硬度が高くなっていることと整合する。そうすると、請求人の指摘により乙第5号証の記載事項の妥当性に問題が生じるとはいえないし、乙第5号証の記載事項に基づくものである上記(1)の判断にも影響は生じない。
上記(2)アdの点について、窒素濃度2000ppm超の天然ダイヤモンドについて請求人の指摘する疑問があったとしても、窒素濃度2000ppmの天然ダイヤモンドについては当該疑問はあたらず、上記(1)オに示したとおり、乙第5号証の図8.12から2000ppmの窒素含有量を有する天然ダイヤモンド(タイプIa)のヌープ硬度の測定結果はおよそ130?164GPaの範囲内であることを読み取ることができるから、請求人の主張により上記(1)の判断は左右されない。

以上のとおりであるから、主張Aは採用しない。

イ 主張Bについて
上記(2)イaの点について、上記(1)オに記載のとおり、乙第2号証の記載から、本件特許の出願時において、129GPaまたはそれ以上のヌープ硬度を有する高純度合成ダイヤモンド結晶(IIa型)を得ることは公知の技術であったといえる。ここで、被請求人が言及する「129GPa」の高純度合成ダイヤモンド結晶(IIa型)について、当該高純度ダイヤモンド結晶(IIa型)を用いてヌープ圧子を作製すれば、当該ヌープ圧子による測定によって129GPaまでの測定はできるのであるから、当該圧子は、ダイヤモンド多結晶体の室温でのヌープ硬度が128GPa以上であることを測定により確認するために用いるには十分な硬度を有しているといえる。
上記(2)イbの点について、乙第2号証の【0003】には、上記第6(13)アに摘示したように、確かに「天然ダイヤモンドは結晶欠陥や不純物が多く、これらは圧縮による破壊の起点となる。そのため、従来の天然ダイヤモンド製圧子は、品質が安定せず、寿命が大きくバラつくという問題があり、特にダイヤモンド焼結体や、cBN焼結体などの超硬質材料の硬度測定時にこれが大きな問題となった。」と記載されており、天然ダイヤモンド圧子の問題点が指摘されているものの、請求人が主張するように天然ダイヤモンドを圧子として用いることが「ほとんど不可能」とまでは記載も示唆もされていない。

以上のとおりであるから、主張Bは採用しない。

(4)小括
以上のとおりであるから、無効理由3は理由がない。

第8 むすび
以上のとおり、令和 2年 1月14日付け訂正請求によって求められる訂正は、これを認めるべきものであり、当該訂正によって訂正された本件特許請求の範囲の請求項1、8、17及び26に記載された発明に係る特許を無効とすべき理由はない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上であり、
室温での硬度が128GPa以上である、ダイヤモンド多結晶体。
【請求項2】
立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上であり、
800℃以上1200℃以下の温度域における抗折力が、室温での抗折力の90%以上であることを特徴とする、ダイヤモンド多結晶体。
【請求項3】
1000℃以上1200℃以下の温度域における抗折力が、室温での抗折力より高いことを特徴とする請求項2記載のダイヤモンド多結晶体。
【請求項4】
立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上であり、
800℃における硬度が、室温での硬度の80%以上であることを特徴とする、ダイヤモンド多結晶体。
【請求項5】
ダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツールであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、スクライブツール。
【請求項6】
ダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイールであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、スクライブホイール。
【請求項7】
ダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサーであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、ドレッサー。
【請求項8】
請求項1に記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。
【請求項9】
ダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズルであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、ノズル。
【請求項10】
ダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具であって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、研削工具。
【請求項11】
ダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具であって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、切削工具。
【請求項12】
ダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具であって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、回転切削工具。
【請求項13】
ダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイドであって、
前記ダイヤモンド多結晶体は、立方晶ダイヤモンドと、六方晶ダイヤモンドとを、含み、
前記立方晶ダイヤモンドの(111)面に関するX線回折ピーク強度に対する前記六方晶ダイヤモンドの(100)面のX線回折ピーク強度の比率が0.01%以上である、ワイヤーガイド。
【請求項14】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツール。
【請求項15】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイール。
【請求項16】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサー。
【請求項17】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。
【請求項18】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズル。
【請求項19】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具。
【請求項20】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具。
【請求項21】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具。
【請求項22】
請求項2または請求項3に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイド。
【請求項23】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備え、前記先端部が3あるいは4ポイントで構成されるスクライブツール。
【請求項24】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるホイールを備えた、スクライブホイール。
【請求項25】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される先端部を備えたドレッサー。
【請求項26】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体を備えた線引ダイス。
【請求項27】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるオリフィスを備えたノズル。
【請求項28】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される刃先を備えた研削工具。
【請求項29】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた切削工具。
【請求項30】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成される切刃を備えた回転切削工具。
【請求項31】
請求項4に記載のダイヤモンド多結晶体で構成されるワイヤーガイド。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-03-09 
結審通知日 2021-03-11 
審決日 2021-03-30 
出願番号 特願2012-529575(P2012-529575)
審決分類 P 1 123・ 851- YAA (C01B)
P 1 123・ 537- YAA (C01B)
P 1 123・ 857- YAA (C01B)
P 1 123・ 121- YAA (C01B)
P 1 123・ 113- YAA (C01B)
P 1 123・ 536- YAA (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 岡田 隆介
金 公彦
登録日 2015-04-03 
登録番号 特許第5720686号(P5720686)
発明の名称 ダイヤモンド多結晶体およびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 木村 耕太郎  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
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