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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1376184
審判番号 不服2020-15422  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-06 
確定日 2021-08-03 
事件の表示 特願2016- 51805「目標距離模擬装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-166940、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月16日にされた特許出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
令和2年 3月 4日付け:拒絶理由通知書
令和2年 4月20日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 8月21日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 9月 1日 :原査定の謄本の送達
令和2年11月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

本願の請求項1?2に係る発明は、下記の引用文献1?2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項3に係る発明は、下記の引用文献1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開2011-242199号公報
引用文献2:特開2015-83931号公報
引用文献3:米国特許第4661818号明細書


第3 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本願発明1」等という。)は、令和2年11月6日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
周波数変調サーボスロープ方式を用いて目標物と自装置との間の目標距離を測定する周波数変調レーダ装置に対して、前記目標距離を模擬する目標距離模擬装置であって、
前記周波数変調レーダ装置における送信波を入力される送信波入力部と、
前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、複数の種類の遅延のうち一つの種類の遅延を施すことにより、前記目標距離の概略を模擬する遅延処理部と、
前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、周波数シフトを施すことにより、前記目標距離の詳細を模擬するにあたり、前記周波数変調レーダ装置におけるサーボ制御の時定数内で周波数シフトを施すことにより、前記周波数変調レーダ装置から見て、前記目標距離の連続性を模擬する周波数シフト部と、
前記目標距離の概略及び詳細が模擬された前記周波数変調レーダ装置における送信波を、前記周波数変調レーダ装置における受信波として出力する受信波出力部と、
を備えることを特徴とする目標距離模擬装置。
【請求項2】
前記遅延処理部及び前記周波数シフト部は、互いに連携して、前記目標距離の連続性を模擬することを特徴とする、請求項1に記載の目標距離模擬装置。
【請求項3】
前記遅延処理部は、前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、複数の種類の減衰のうち一つの種類の減衰を施すことにより、前記目標距離に対応する減衰を模擬することを特徴とする、請求項1又は2に記載の目標距離模擬装置。」


第4 引用文献に記載された発明等
1 引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の記載がある。下線は当審が付した。

「【0001】
本発明は、飛しょう体や航空機等のプラットフォームに搭載され、かつFMCW方式が適用された測距装置の機能試験、あるいはその測距装置を含む系のシステム試験等に供される測距環境模擬装置に関する。」

「【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第一および第二の実施形態を示す図である。
【0020】
図において、送信カプラ11は、試験対象であってFMCW方式が適用された電波高度計20の送信出力に接続され、かつダウンコンバータ12の第一の入力に接続される。ダウンコンバータ12の出力は、アップコンバータ13を介して遅延回路14の入力に接続され、その遅延回路14の第一の出力は受信カプラ15を介して電波高度計20の受信入力に接続される。発振器16の第一の出力はダウンコンバータ12の第二の入力に接続され、その発振器16の第二および第三の出力は、それぞれダウンコンバータ12およびアップコンバータ13の第一の局発入力に接続される。発振器16には分周器16FDが備えられ、その分周器16FDの出力はドップラ発生部17の第一の入力に接続される。ドップラ発生部17の第一および第二の出力は、それぞれダウンコンバータ12およびアップコンバータ13の第二の局発入力に接続される。ドップラ発生部17の第二の入力には制御部18の第一の出力が接続され、その制御部18の第二および第三の出力はそれぞれ遅延回路14および発振器16の制御端子に接続される。遅延回路14の第二の出力は点検判定部19を介して制御部18の入力に接続され、その制御部18は、電波高度計20が取り付けられたプラットフォーム30との連係に必要なパラメータやステータスの引き渡しに供されるポートを有する。プラットフォーム30には加速度センサ41が取り付けられ、その加速度センサ41の出力は電波高度計20の対応する入力に接続される。」

「【0022】
〔第一の実施形態〕
発振器16は、制御部18の配下で周波数がf0である基準信号Sと、周波数がf1である局発信号L1を生成する。
【0023】
本実施形態では、始動時には、制御部18の配下で各部が下記の通りに連係することにより、本実施形態に係る測距環境模擬装置の動作および機能の正否の確認(以下、「点検判定」という。)を行う。
【0024】
[点検判定における各部の動作]
制御部18には、「点検判定」に適用されるべきパラメータとして、以下の各値が予め与えられる。
【0025】
(1) 電波高度計20の仮想的な複数nの対地高度H1、H2、…、Hn
(2) 電波高度計20の送信波の周波数がFMCW方式に基づいて実際に偏移する帯域の幅(以下、「周波数偏移幅」という。)ΔF
【0026】
(3) 電波高度計20と地表との間における送信波および受信波の伝搬速度c
(4) 送信波の周波数が上記周波数偏移幅ΔFに亘って実際に直線的に偏移するために要する時間(以下、「変調周期」という。)T
【0027】
さらに、制御部18は、上記対地高度H1、H2、…、Hnのそれぞれに応じて、下記の処理を行い、その処理の手順に基づいて各部を以下の通りに連係させる。なお、以下では、対地高度H1、H2、…、Hnの何れにも当てはまる事項については、これらの対地高度H1、H2、…、Hnの添え番号「1」?「n」の何れにも該当し得ることを示す添え文字「i」(=1?n)を用いて説明する。
【0028】
電波高度計20の送信波とその送信波に応じて地表から到来するべき受信波との間に対地高度Hiにおいて生じる周波数の差(以下、「ビート周波数」という。)fbiと、上記周波数偏移ΔFと、伝搬速度cと、変調周期Tとに対して下式で与えられるドップラ周波数fdiを適宜算出し、ドップラ発生部17に通知する。
fdi=(2Hi/c)・(ΔF/T)-fbi ・・・(a)
【0029】
ドップラ発生部17は、発振器16に備えられた分周器16FDが既述の局発信号L1を分周することによって生成した分周信号LD1に同期して、周波数が既定の値f2である局発信号L2と、かつその周波数f2と上記ドップラ周波数fdiとの和(=f2+fdi)に等しい周波数の局発信号Ldiとを生成する。
【0030】
ダウンコンバータ12は、電波高度計20によって与えられる送信波(周波数=F)を既述の局発信号L1、L2とに基づいてダウンコンバートすることにより、周波数が(F-(f1+f2))である中間周波信号Iiを生成する。
【0031】
アップコンバータ13は、既述の局発信号L1、Ldiに基づいて上記中間周波信号Iiをアップコンバートすることにより、周波数が((F+fdi)=(F-(f1+f2)+(f1+f2+fdi))) であるドップラ付帯波Rdiを生成する。
【0032】
また、制御部18は、既述のシナリオに基づいて定まり、かつ上式(a) の右辺にある(2Hi/c)にほぼ等しい遅延量Diを求める。
【0033】
遅延回路14は、その遅延量Diに亘る遅延を上記ドップラ付帯波Rdiに与え、点検判定部19に受信波riとして与える。
【0034】
点検判定部19は、制御部18の配下でこのような受信波riの正否を判定し、その判定の結果を制御部18に引き渡す。
【0035】
制御部18は、このような判定が複数nの対地高度H1、H2、…、Hnのそれぞれについて完了すると、これらの判定の結果の何れかが不正常である場合には、音声情報と、表示情報との双方または何れか一方としてその旨をユーザに通知する(図3ステップS1)。なお、これらの音声情報および表示情報は、何れも、例えば、所定の伝送路や通信路を介して他の機器へ引き渡されてもよい。
【0036】
反対に、これらの判定の結果の全てが正常であった場合には、「点検判定」を終了して「通常動作」を開始する(図3ステップS2)。
なお、このような「点検判定」は、以下に示すように簡便に行われてもよい。
(1) 発振器16は、既述の局発信号L1に代えて「擬似的な送信波」を生成する。
(2) 点検判定部19は、複数nの対地高度H1、H2、…、Hnのそれぞれについて、遅延回路14の出力に得られる「擬似的な送信波」の遅延量(ダウンコンバータ12、アップコンバータ13および遅延回路14の総合的な遅延量)の偏差が許容される程度か否かを判定する。
【0037】
[通常動作における各部の連係]
制御部18は、予め決められたシナリオに基づいてプラットフォーム30および電波高度計20の位置や姿勢の設定および変更を適宜行う(図3ステップS3)。
なお、上記シナリオでは、例えば、図2に太い実線の斜線で示すように、対地高度Hが2500メートルからほぼ一定の勾配で減少すると仮定する。
【0038】
各部は、このようにして時系列の順に設定され、あるいは変更される電波高度計20の位置や姿勢の離散値に応じて、後述するように連係する。
【0039】
制御部18は、電波高度計20の対地高度Hと、このような対地高度Hにおいて電波高度計20の送信波とその送信波に応じて地表から到来すべき受信波との間における周波数の差(以下、「ビート周波数」という。)fbとを識別し(図3ステップS4)、これらの対地高度Hおよびビート周波数fbに併せて、既述の周波数偏移幅ΔF、伝搬速度cおよび変調周期Tとに対して下式で与えられるドップラ周波数fdを適宜算出し、ドップラ発生部17に通知する(図3ステップS5)。
fd=(2H/c)・(ΔF/T)-fb ・・・(b)
【0040】
ここに、ドップラ周波数fdは、電波高度計20に到来する受信波の周波数に、その電波高度計20の地表方向における速度に応じて生じるドップラシフトであって、図2に複数の破線の曲線で示すように、対地高度Hの減少に応じて、既定の下限値と上限値とで挟まれた範囲において適宜跳躍する値として与えられる。
【0041】
ドップラ発生部17は、既述の分周信号LD1に同期して、周波数が既定の値f2である局発信号L2と、その周波数f2と上記ドップラ周波数fdとの和(=f2+fd)に等しい周波数の局発信号Ldとを並行して生成する。
【0042】
ダウンコンバータ12は、電波高度計20によって与えられる送信波(周波数=F)を既述の局発信号L1、L2とに基づいてダウンコンバートすることにより、周波数が(F-(f1+f2))である中間周波信号Iを生成する。
【0043】
アップコンバータ13は、既述の局発信号L1、Ldに基づいて上記中間周波信号Iをアップコンバートすることにより、周波数が((F+fd)=(F-(f1+f2)+(f1+f2+fd))) であるドップラ付帯波Rdを生成する。
【0044】
また、制御部18は、既述のシナリオに基づいて定まり、かつ上式(a) の右辺にある(2H/c)にほぼ等しい遅延量Dを求める(図3ステップS6)。
【0045】
遅延回路14は、その遅延量Dに亘る遅延を上記ドップラ付帯波Rdに与え、電波高度計20に受信波として与える。
【0046】
電波高度計20は、加速度センサ41によって与えられる加速度の内、地表方向における成分を積分することにより対地速度を求め、その速度に応じて受信波に付帯するドップラシフトを相殺する。さらに、電波高度計20は、このようにしてドップラシフトが相殺された受信波と上述した送信波との周波数の差に基づいて対地高度hを求め、制御部18に通知する。
【0047】
制御部18は、上記シナリオに基づいて定まる対地高度Hに対するこの対地高度hの偏差が規定の狭い値域内にあるか否かの判定として、そのシナリオで定まる姿勢や位置における電波高度計20の性能および機能の正否を判別する(図3ステップS7)。
【0048】
すなわち、送信波は、既述のドップラシフトを模擬し、かつコヒーレンシーが損なわれない周波数変換が施された後、受信波として電波高度計20に引き渡される。
【0049】
したがって、本実施形態によれば、電波高度計20は、稼働すべき姿勢や位置と、これらの姿勢および位置の変化に応じて受信波に生じるドップラシフトが多様なシナリオに基づいて柔軟に模擬されるため、所望の環境における機能や性能の評価および試験が精度よく効率的に実現される。
【0050】
なお、本実施形態では、局発信号L1、L2の周波数f1、f2は、ドップラ周波数fdi(fd)がダウンコンバータ12およびアップコンバータ13によって十分な精度でドップラ付帯波Rdi(Rd)に反映されるならば、如何なる値であってもよい。
【0051】
また、本実施形態では、ダウンコンバータ12およびアップコンバータ13は、このようなドップラ周波数fdi(fd)が十分な精度でドップラ付帯波Rdi(Rd)に反映されるならば、1つの周波数変換器、あるいは3つ以上の周波数変換器で代替されてもよい。
さらに、本実施形態では、ドップラ周波数fdi、fdは、既述の式(a)、(b)で示される算術演算によって求められなくてもよく、演算所要時間の増加が許容される限度において所望の精度で求められるならば、例えば、地表方向における電波高度計20の速度に基づいて求められ、あるいはその他の如何なる処理の下で求められてもよい。
また、本実施形態では、遅延回路14の遅延量Dは、必ずしも地表方向の往復の伝搬所要時間に等しくなくてもよく、例えば、図2にD1、D2、D3、…と示すように、対地高度Hが増減する過程におけるドップラ周波数fdi、fdの値域にシナリオが成立するならば、増減してもよい。」

「【0069】
なお、上述した各実施形態では、電波高度計20(20A)は、サーボスロープ式FMCWレーダと、サーボスロープ式ではないFMCWレーダとの何れであってもよい。」

「【図1】



「【図2】



(2)引用発明の認定
引用文献1の前記(1)の記載事項をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「FMCW方式が適用された測距装置の機能試験に供される測距環境模擬装置であって(【0001】)、
送信カプラ11、ダウンコンバータ12、アップコンバータ13、遅延回路14及び受信カプラ15を備え(【0020】、【図1】)、
送信カプラ11は、試験対象であってFMCW方式が適用された電波高度計20の送信出力に接続され、かつダウンコンバータ12の入力に接続され、ダウンコンバータ12の出力は、アップコンバータ13を介して遅延回路14の入力に接続され、遅延回路14の出力は受信カプラ15を介して電波高度計20の受信入力に接続され(【0020】、【図1】)、
ダウンコンバータ12は、電波高度計20によって与えられる送信波(周波数=F)をダウンコンバートすることにより、周波数が(F-(f1+f2))である中間周波信号Iを生成し(【0042】)、
アップコンバータ13は、中間周波信号Iをアップコンバートすることにより、周波数が((F+fd)=(F-(f1+f2)+(f1+f2+fd))) であるドップラ付帯波Rdを生成し(【0043】)、
遅延回路14は、遅延量Dに亘る遅延をドップラ付帯波Rdに与え、電波高度計20に受信波として与えるものであり(【0045】)、
遅延量Dは、電波高度計20の対地高度をH、電波高度計20と地表の間における送信波及び受信波の伝搬速度をcとして、(2H/c)にほぼ等しく(【0026】、【0039】、【0044】)、
ドップラ周波数fdは、電波高度計20に到来する受信波の周波数に、その電波高度計20の地表方向における速度に応じて生じるドップラシフトであって(【0040】)、
電波高度計20はサーボスロープ式FMCWレーダである(【0069】)、
測距環境模擬装置。」

2 引用文献2
引用文献2には、以下の記載がある。下線は当審が付した。

「【0001】
本発明は、周波数変調された送信波と、目標から反射された反射波と、の間のビート周波数に基づいて、目標及び自装置の間の距離を測定する周波数変調レーダ装置に関する。」

「【0033】
本発明の妨害波の悪影響の除去方法を図4に示す。図4の説明では、FM/CWサーボスロープ方式を適用するが、通常のFM/CW方式を適用しない。
【0034】
図4では、期間T1及び期間T2のいずれに関わらず、妨害周波数f_(P1?3)を有する妨害波WPが存在している。妨害周波数f_(P1?3)は、互いに近接している。送信波WTと妨害波WPの間のビート周波数の存在帯域の帯域幅をW_(P)、送信波WTと反射波WRの間のビート周波数の測定帯域の帯域幅をW_(M)、送信波WTの周波数の変調速度をV_(M)=(f_(H)-f_(L))/T1とする。送信波WTと妨害波WPの間のビート周波数が、送信波WTと反射波WRの間のビート周波数の測定帯域の範囲内に滞留する時間は、(W_(P)+W_(M))/V_(M)である。
【0035】
(W_(P)+W_(M))/V_(M)が、送信波WTの周波数の変調速度V_(M)に対するフィードバック制御のループ時定数T_(L)より長いときには、妨害波WTの悪影響が、目標T及び自装置Rの間の距離の測定に現われる。妨害波WTの悪影響が、目標T及び自装置Rの間の距離の測定に現われないようにするためには、(W_(P)+W_(M))/V_(M)が、送信波WTの周波数の変調速度V_(M)に対するフィードバック制御のループ時定数T_(L)より長くならないようにすればよい。」

「【図4】



以上の記載をまとめると、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる。

<引用文献2に記載の技術事項>
「周波数変調された送信波と、目標から反射された反射波と、の間のビート周波数に基づいて、目標及び自装置の間の距離を測定する周波数変調レーダ装置であって(【0001】)、
FM/CWサーボスロープ方式を適用するものであり(【0033】)、
送信波WTと妨害波WPの間のビート周波数の存在帯域の帯域幅をW_(P)、送信波WTと反射波WRの間のビート周波数の測定帯域の帯域幅をW_(M)、送信波WTの周波数の変調速度をV_(M)として(【0034】)、
(W_(P)+W_(M))/V_(M)が、送信波WTの周波数の変調速度V_(M)に対するフィードバック制御のループ時定数T_(L)より長くならないようにすること(【0035】)。」

3 引用文献3
引用文献3には、以下の記載がある。下線は当審が付した。翻訳文は当審によるものである。

(1欄18?27行)
「The invention is used for testing distance-measuring apparatus and, more particularly, for testing radio altimeters. By way of a preferred example, interest will be concentrated, in the remainder of this text, on distances which may vary from 0 to 16 km (0 to 50,000 feet), or more, and which radio altimeters, of the type known as FM-CW radio altimeters, are intended to measure, these altimeters operating in a frequency band covering several hundreds of MHz and centred on several GHz, for example the band between 4.2 and 4.4 GHz.」
「本発明は、距離測定装置の試験、特に電波高度計の試験のために使用される。好ましい例として、本明細書の残りの部分では、0から16km(0から50000フィート)又はそれ以上の範囲で変化する距離であって、FM-CW電波高度計として知られているタイプの電波高度計で測定されることになる距離に注目するものであり、これらの高度計は、例えば4.2?4.4GHzのように、数GHzを中心とする数百MHzの周波数帯で動作する。」

(2欄33?41行)
「In the radio altimeter under consideration, both the modulation-frequency excursion ΔF and the beat frequency f_(b), between the emitted waves and the received waves, are kept constant, and equal to predetermined values, as a result of which only the duration, T, of the modulation sawtooth varies, this duration representing the distance D which is to be measured (and therefore, in an inversely proportional manner, the sawtooth slope, p).」
「ここで検討する電波高度計において、変調周波数可変域ΔFと送信波と受信波の間のビート周波数f_(b)は一定であり、あらかじめ定められた値に等しく、その結果として、変調鋸歯の持続時間Tのみが変化し、この持続時間は測定すべき距離Dを表す(したがって、鋸歯の傾きpに反比例する。)。」

(13欄54?60行)
「It will be noted that the programmable attenuator 27 can be controlled by an analog-type arrangement. Control can also be effected by means of a computer. The items marked 19 and 34, in FIGS. 4 and 7 and 5 and 9 respectively, may, in effect, represent a computer. On the other hand, the attenuator 27 may be an adjustable attenuator, reduced to a simple potentiometer.」
「プログラム可能な減衰器27は、アナログタイプの配置によって制御できることに留意されたい。制御はまた、コンピュータによっても効果的に行うことができる。図4及び7並びに5及び9における項目19並びに項目34は、実質的にはコンピュータを表していると考えられる。一方、減衰器27は、調整可能な減衰器であり、単純なポテンショメータであってもよい。」

(FIG.5)




以上の記載をまとめると、引用文献3には、次の技術事項が記載されていると認められる。

<引用文献3に記載の技術事項>
「FM-CW電波高度計の試験のために使用される装置において(1欄18?27行)、
前記FM-CW電波高度計の、変調周波数可変域ΔFと送信波と受信波の間のビート周波数fbは一定であり(2欄33?41行)、
前記装置はプログラム可能な減衰器27を備えること(13欄54?60行)。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「FMCW方式が適用された電波高度計20」は、「電波高度計20」と「地表」の間の距離である「対地高度」を測定するものであるから、本願発明1の「目標物と自装置との間の目標距離を測定する周波数変調レーダ装置」に相当する。

イ 引用発明において「電波高度計20」が「サーボスロープ式FMCWレーダである」ことは、本願発明1において「周波数変調レーダ装置」が「周波数変調サーボスロープ方式を用い」たものであることに相当する。

ウ 引用発明の「測距環境模擬装置」は、「測距装置の機能試験に供される」ものであって、「電波高度計20によって与えられる送信波」に対して、「電波高度計20の対地高度をH、電波高度計20と地表の間における送信波及び受信波の伝搬速度をcとして、(2H/c)にほぼ等し」い「遅延量D」を与え、「電波高度計20に受信波として与える」ものである。
ここで、「2H/c」は「電波高度計20と地表の間」の距離を電波が往復する時間にほかならないから、引用発明の「測距環境模擬装置」は、本願発明1の「周波数変調レーダ装置に対して、前記目標距離を模擬する目標距離模擬装置」に相当する。

エ 前記ア?ウを総合すると、引用発明と本願発明1は、「周波数変調サーボスロープ方式を用いて目標物と自装置との間の目標距離を測定する周波数変調レーダ装置に対して、前記目標距離を模擬する目標距離模擬装置」である点で一致する。

オ 引用発明の「送信カプラ11」は、「電波高度計20の送信出力に接続され」るものであるから、本願発明1の「前記周波数変調レーダ装置における送信波を入力される送信波入力部」に相当する。

カ 引用発明の「ダウンコンバータ12」及び「アップコンバータ13」は、「電波高度計20によって与えられる送信波」を「ダウンコンバート」及び「アップコンバートすること」により、周波数が「F+fd」である「ドップラ付帯波Rdを生成」するものであるところ、引用発明の「電波高度計20によって与えられる送信波」は、本願発明1の「周波数変調レーダ装置における送信波」に相当し、引用発明において「ダウンコンバート」及び「アップコンバートすること」は、本願発明1において「周波数シフトを施すこと」に相当する。
よって、本願発明1の「周波数シフト部」と引用発明の「ダウンコンバータ12」及び「アップコンバータ13」は、「前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、周波数シフトを施す周波数シフト部」である点で共通する。

キ 引用発明の「遅延回路14」は、「電波高度計20によって与えられる送信波」から生成された「ドップラ付帯波Rd」に対して「遅延量Dに亘る遅延」を与えるものであるところ、引用発明の「電波高度計20によって与えられる送信波」は、本願発明1の「周波数変調レーダ装置における送信波」に相当し、引用発明において「遅延量Dに亘る遅延」を与えることは、本願発明1において「遅延を施すこと」に相当する。
よって、本願発明1の「遅延処理部」と引用発明の「遅延回路14」は、「前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して」、「遅延を施す遅延処理部」である点で共通する。

ク 引用発明の「受信カプラ15」は、「遅延回路14の出力」を「電波高度計20の受信入力に接続」するものである。また、「遅延回路14の出力」は、「電波高度計20によって与えられる送信波」から生成された「ドップラ付帯波Rd」に対して「遅延量Dに亘る遅延」が与えられ、「受信波」とされたものである。
よって、本願発明1の「受信波出力部」と引用発明の「受信カプラ15」は、「前記周波数変調レーダ装置における送信波を、前記周波数変調レーダ装置における受信波として出力する受信波出力部」である点で共通する。

(2)一致点及び相違点
前記(1)の対比の結果をまとめると、本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点
「周波数変調サーボスロープ方式を用いて目標物と自装置との間の目標距離を測定する周波数変調レーダ装置に対して、前記目標距離を模擬する目標距離模擬装置であって、
前記周波数変調レーダ装置における送信波を入力される送信波入力部と、
前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、遅延を施す遅延処理部と、
前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、周波数シフトを施す周波数シフト部と、
前記周波数変調レーダ装置における送信波を、前記周波数変調レーダ装置における受信波として出力する受信波出力部と、
を備える目標距離模擬装置。」

イ 相違点
(ア)相違点1
「遅延処理部」が、本願発明1では「複数の種類の遅延のうち一つの種類の遅延を施すことにより、前記目標距離の概略を模擬する」ものであるのに対して、引用発明では「電波高度計20と地表の間」を電波が往復する時間にほぼ等しい「遅延量D」を与えるものである点。

(イ)相違点2
「周波数シフト部」が、本願発明1では「前記目標距離の詳細を模擬するにあたり、前記周波数変調レーダ装置におけるサーボ制御の時定数内で周波数シフトを施すことにより、前記周波数変調レーダ装置から見て、前記目標距離の連続性を模擬する」ものであるのに対して、引用発明では「ドップラシフト」を与えるものである点。

(ウ)相違点3
「受信波出力部」が、本願発明1では「目標距離の概略及び詳細が模擬された」「送信波」を「受信波」として出力するものであるのに対して、引用発明では「電波高度計20」に与えられる「受信波」が「目標距離の概略及び詳細が模擬された」ものではない点。

(3)判断
前記相違点1?3は互いに関連するため、まとめて検討する。
周波数変調レーダ装置の試験に用いられる目標距離模擬装置において、本願発明1のように、「遅延処理部」で「目標距離の概略を模擬」し、「周波数シフト部」で「目標距離の詳細を模擬」することは、引用文献2及び引用文献3のいずれにも記載も示唆もされておらず、当業者が容易に想到し得たことではない。
さらに、引用文献2に記載の技術事項(前記第4の2を参照。)は、周波数変調レーダ装置における「(W_(P)+W_(M))/V_(M)」と「T_(L)」の大小関係を規定するものであって、周波数変調レーダ装置におけるサーボ制御の時定数と目標距離模擬装置における周波数シフトの時定数との大小関係を規定するものではないから、前記相違点2に係る本願発明1の「前記目標距離の詳細を模擬するにあたり、前記周波数変調レーダ装置におけるサーボ制御の時定数内で周波数シフトを施すこと」という構成も、当業者が容易に想到し得たことではない。
以上のとおり、引用発明が前記相違点1?3に係る本願発明1の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではないから、本願発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?3について
本願発明2?3も、前記相違点1?3に係る本願発明1の構成と同じものを含むから、本願発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 小括
前記1?2で検討したとおりであるから、本願発明1?3は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?2は、引用文献1?2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。そして、本願発明3は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-07-15 
出願番号 特願2016-51805(P2016-51805)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼場 正光  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱本 禎広
岸 智史
発明の名称 目標距離模擬装置  
代理人 今下 勝博  
代理人 岡田 賢治  
代理人 畑 雅明  
代理人 田中 真理  

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