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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1376271
審判番号 不服2019-17776  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-27 
確定日 2021-08-10 
事件の表示 特願2017-549243「半導体デバイスの転写方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月29日国際公開、WO2016/154061、平成30年 5月24日国内公表、特表2018-513554、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2016年(平成28年)3月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年4月13日:米国,2015年11月12日:米国,2015年3月20日:米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年3月12日 :手続補正書の提出
平成31年4月22日付け :拒絶理由通知書
令和元年8月2日 :意見書,手続補正書の提出
令和元年8月23日付け :拒絶査定
令和元年12月27日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和2年5月7日 :上申書の提出
令和2年8月31日付け :拒絶理由通知書
令和2年11月30日 :意見書,手続補正書の提出
令和3年1月27日付け :拒絶理由通知書(最後)
令和3年4月28日 :意見書,手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和元年8月23日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1?9に係る発明は,本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:特開2005-327923号公報
引用文献2:特開2012-156473号公報


第3 当審拒絶理由の概要
1.令和2年8月31日付け拒絶理由通知書の概要
当審で通知した令和2年8月31日付け拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知1」という。)の概要は,本願の請求項1?9に係る発明は,以下の引用例1(上記引用文献2)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1:特開2012-156473号公報(引用文献2)

2.令和3年1月27日付け拒絶理由の概要
当審で通知した令和3年1月27日付け拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知2」という。)の概要は,令和2年11月30日提出の手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1の「前記マップデータは,前記第2の基材上の識別データに基づいて提供され」との記載は,同請求項の「第1の基材から第2の基材への複数の半導体ダイの直接転写を実行するシステム」との記載との関係からみて,その意味が不明確であるから,請求項1及び請求項1を引用する請求項2?9の記載は,特許法36条6項2号の規定に適合しない,というものである。


第4 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」という。)は,令和3年4月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
第1の基材から第2の基材への複数の半導体ダイの直接転写を実行するシステムであって,前記システムは,
前記第1の基材を搬送する第1の搬送機構と,
前記第2の基材を搬送する第2の搬送機構と,
前記第1の搬送機構に隣接して配置されて,前記直接転写を実施する転写機構と,
前記第1の搬送機構,前記第2の搬送機構,及び前記転写機構と通信可能に接続された1以上のプロセッサを含むコントローラであって,前記コントローラは,実行されたときに前記1以上のプロセッサに,
少なくとも部分的にマップデータに基づいて前記複数の半導体ダイの位置を決定することとであって,前記マップデータは,前記第1の基材上の識別情報に基づいて提供され,半導体ウェハの前記複数の半導体ダイの前記位置を記述し,さらに,前記複数の半導体ダイのうち特定の品質を有する半導体ダイの相対的な位置及び前記複数の半導体ダイそれぞれに関する品質を記述する,ことと,
前記第1の基材,前記第2の基材,及び前記転写機構が,直接転写位置内にあるように,前記第1の基材又は前記第2の基材の少なくとも1つを搬送することと,
前記転写機構を作動させて,前記複数の半導体ダイの前記直接転写を実行することと,
を含む処理を実行させる実行可能な命令を有する,コントローラと,
を備える,システム。」

本願発明2?9は,本願発明1を減縮した発明である。


第5 引用例の記載と引用発明
(1)引用例1の記載
当審拒絶理由通知1で引用した引用例1(特開2012-156473号公報)には,図面とともに次の記載がある。(下線は当審による。)
「【0026】
(部品移載装置)
部品移載装置1は,ダイシングテープ6(第1の保持体)の保持面に保持されたICチップなどの複数の部品7を,ガラス基板8(第2の保持体)に各部品7ごとに対応して予め定められた所定の移載位置に移載する。」

「【0030】
図1に示すように,部品移載装置1は,ダイシングテープ6およびガラス基板8を対向した状態で支持する支持手段2と,支持手段2に支持されたダイシングテープ6およびガラス基板8を同図中の矢印Zの方向にほぼ直交する水平面内のXY方向に移動するXYテーブル3と,ダイシングテープ6の保持面に保持された部品7およびガラス基板8それぞれに設けられたアライメントマーク(図示省略)を認識することにより,部品7に設けられたバンプ7aおよびガラス基板8の部品実装面8aに設けられた電極(移載位置)の位置を認識する認識手段4と,ダイシングテープ6の保持面に保持された部品7を,ダイシングテープ6の裏面側から上方のガラス基板8に押圧するヘッド5とを備えている。
【0031】
支持手段2は,ガラス基板8を支持するアライメントテーブル23(本発明の「位置合わせ手段」に相当)を有する第1支持部21と,ダイシングテープ6を支持する第2支持部22とを備えている。第1支持部21および第2支持部22は回動軸24によりヒンジ状に連結されており,図1中の一点鎖線矢印で示すように第1支持部21は,ダイシングテープ6およびガラス基板8が対向する第1の位置(以下,第1の位置においてダイシングテープ6およびガラス基板8が対向する状態を「閉塞状態」と称する)と,ダイシングテープ6(第2支持部22)の上方が開放された同図中の点線で示す第2の位置(以下,第2の位置においてダイシングテープ6の上方が開放された状態を「開放状態」と称する)との間を回動する。
【0032】
また,第2支持部22には,閉塞状態における第1,第2支持部21,22を所定の間隔に固定するための支柱25が設けられており,閉塞状態において,第1支持部21はボルトやねじなどにより支柱25に固定される。また,第1支持部21およびアライメントテーブル23にはそれぞれ透明な石英ガラスなどにより形成される透過窓21a,23aが設けられ,第2支持部22には開口22aが形成されており,透過窓21a,23aおよび開口22aは上下方向(図1中の矢印Zの方向)において重なるように配置されている。
【0033】
また,アライメントテーブル23および第2支持部22は,それぞれ真空吸着機構(図示省略)を備えており,アライメントテーブル23は,ガラス基板8に各部品7の移載位置として形成された複数の電極が透過窓23aに配置されるようにガラス基板8の周縁部分を吸着支持し,第2支持部22はダイシングテープ6の保持面に保持された複数の部品7が開口22aに配置されるようにダイシングテープ6(ダイシングフレーム6a)の周縁部分を吸着支持する。
【0034】
また,第2支持部22の上面には,開口22aの端縁に沿って凸部22bが形成されており,ダイシングテープ6(ダイシングフレーム6a)が第2支持部22の上面に支持された際に,ダイシングテープ6の保持面の各部品7が保持された部分の周縁部分が凸部22bにより下方から上方に僅かに突き上げられた状態となる。したがって,ダイシングテープ6は,第2支持部22の上面に支持された状態で全方向に僅かに伸長された状態となるため,ウエハがダイシングされることによりダイシングテープ6の保持面に密着配置されている各部品7間に微小な隙間が生じるので,容易に各部品7を個別にガラス基板8の部品実装面8aに移載することができる。
【0035】
アライメントテーブル23は,図1中の矢印Z方向にほぼ直交するXY方向に移動可能に形成されると共に,矢印Z方向を回転中心とするθ方向に回転可能に形成されており,アライメントテーブル23が駆動されることで,アライメントテーブル23に支持されたガラス基板8のダイシングテープ6に対する相対的な位置が調整される。これにより,アライメントテーブル23は,閉塞状態において支持手段2によりダイシングテープ6およびガラス基板8が対向して支持された状態で,ダイシングテープ6に保持された部品7のバンプ7aと,各部品7それぞれに対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた電極(移載位置)とを位置合わせする。なお,アライメントテーブル23は,サーボモータを有するボールナット機構やリニアモータなどのアクチュエータにより駆動される。
【0036】
XYテーブル3は,X軸31aを有するXテーブル31と,Y軸32aを有するYテーブル32とを備え,Yテーブル32は,Xテーブル31のX軸31a上に配設されている。したがって,Xテーブル31が駆動されることによりYテーブル32はX軸31a上をX方向に移動する。また,支持手段2の第2支持部22は,Yテーブル32のY軸32a上に配設されており,Yテーブル32が駆動されることにより支持手段2はY軸32a上をY方向に移動する。したがって,XYテーブル3が駆動されることにより,支持手段2に支持されたダイシングテープ6およびガラス基板8のXY方向における位置が調整される。
【0037】
なお,XYテーブル3は,サーボモータを有するボールナット機構やリニアモータなどのアクチュエータにより駆動される。また,Xテーブル31およびYテーブル32には開口31b,32bが形成されており,開口31b,32bは,透過窓21a,23aおよび開口22aと上下方向において重なるように配置されている。
【0038】
認識手段4は,支持手段2の下方に配置される第1のカメラ41と,支持手段2の上方に配置される第2のカメラ42とを備えており,第1,第2のカメラ41,42は,それぞれCCDカメラなどの撮像手段により形成される。また,第1,第2のカメラ41,42には,それぞれLEDなどにより形成される照明部41a,42aが設けられており,第1,第2のカメラ41,42は,部品7およびガラス基板8にそれぞれ設けられたアライメントマークを認識する際に,照明部41a,42aによる照明を行ってそれぞれのアライメントマークを認識する。
【0039】
また,第1のカメラ41は,支持手段2の下方から,ダイシングテープ6の保持面に保持された複数の部品7のうち,移載対象である部品7を認識するものであり,第1のカメラ41の認識結果に基づいてXYテーブル3が駆動されることにより,移載対象である部品7がヘッド5の上方に配置される。
【0040】
また,第2のカメラ42は,ダイシングテープ6およびガラス基板8が対向して支持された状態で,支持手段2の上方から,移載対象である部品7に設けられたアライメントマークと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに予め定められた移載位置(電極)に対応して設けられたアライメントマークとを同時に認識するものであり,これにより,当該部品7に設けられたバンプ7aと当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた電極との相対的な位置(ずれ)が認識される。この第2のカメラ42の認識結果に基づいてアライメントテーブル23が駆動されることにより,ダイシングテープ6に保持された移載対象の部品7のバンプ7aと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた電極(移載位置)とが位置合わせされる。
【0041】
ヘッド5(本発明の「押圧手段」,「押圧体」に相当)は,支持手段2の下方に設けられており,エアシリンダやリニアモータなどのアクチュエータにより上下方向(矢印Z方向)に移動可能に形成されている。そして,ヘッド5は,アライメントテーブル23により移載対象の部品7のバンプ7aと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた電極との位置合わせが完了した状態で,ガラス基板8が配置された上方に駆動されて,先端に設けられた押圧面5aにより当該部品7をダイシングテープ6の裏面側から上方のガラス基板8の部品実装面8aに押圧して接合することで,当該部品7をダイシングテープ6からガラス基板8の部品実装面8aに予め定められた移載位置に移載する。」

「【0047】
(部品移載処理)
次に,部品移載装置1において実行される,部品7をガラス基板8の所定の移載位置に移載する部品移載処理の一例について説明する。
【0048】
まず,支持手段2が開放状態とされ,ウエハ載置工程において,バンプ7aを有する複数の部品7を保持面に保持するダイシングテープ6が第2支持部22に供給されて吸着支持される(ステップS1,図3,4)。次に,基板載置工程において,各部品7ごとに対応して予め定められた移載位置に複数の電極が設けられたガラス基板8がアライメントテーブル23に供給されて吸着保持され(ステップS2,図5),第1支持部21が,回動軸24を回動の中心として図6中の一点鎖線矢印の方向に第2の位置から第1の位置へ回動されることにより支持手段2が閉塞状態とされ,ダイシングテープ6とガラス基板8とが対向配置される(ステップS3,図6)。
【0049】
続いて,移載部品認識工程において,第1のカメラ41の照明部41aにより各部品7が照明されて,第1のカメラ41により移載対象の部品7(以下,「当該部品7」と称する)が認識される(ステップS4,図7)。そして,移載部品吸着工程において,移載部品認識工程における認識結果に基づいてXYテーブル3が駆動されて支持手段2の位置調整が行われることにより,当該部品7がヘッド5の押圧面5aの上方に配置され,ヘッド5が上方に駆動されると共に,吸引孔51bから吸引が行われることにより,当該部品7がダイシングテープ6の裏面側から押圧面5aに吸着される(ステップS5,図8)。
【0050】
次に,近接工程において,図9中の点線内の拡大図に示すように,ヘッド5がさらに上方に駆動されて,当該部品7のバンプ7aが形成された面と,ガラス基板8の部品実装面8aとの間隔Dが第2のカメラ42の焦点深度以内,例えば,50μm以下となるように,当該部品7およびガラス基板8が近接配置される(ステップS6)。続いて,位置合わせ工程において,第2のカメラ42の照明部42aにより当該部品7およびガラス基板8が照明されて,当該部品7に設けられたアライメントマークと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに形成された電極に対応するアライメントマークとが,第2のカメラ42により同時に認識され,第2のカメラ42の認識結果に基づいてアライメントテーブル23が駆動されることにより,当該部品7のバンプ7aと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに形成された電極との位置合わせが行われる(ステップS7,図10)。
【0051】
そして,移載工程において,図11中の点線内の拡大図に示すように,ヘッド5がさらに上方に駆動されることにより,当該部品7がガラス基板8の部品実装面8aの所定の移載位置に押圧面5aにより押圧されて,光路変換手段53に投光された紫外光Lが,ダイシングテープ6の保持面を形成する粘着層の当該部品7を保持する部分に照射される。したがって,ヘッド5の押圧面5aにより押圧される当該部品7が,ガラス基板8の部品実装面8aの所定の移載位置に接合されると共に,ダイシングテープ6の粘着層による当該部品7の貼着状態が解除される(ステップS8)。
【0052】
そして,図12中の点線内の拡大図に示すように,押圧面5aによダイシングテープ6の吸着状態を維持しつつヘッド5を下方に駆動することで,押圧面5aに吸着されたダイシングテープ6が下方に移動しガラス基板8の部品実装面に8aに接合された当該部品7がダイシングテープ6の保持面から剥離される。当該部品7とダイシングテープ6の保持面との剥離が完了すれば,押圧面5aによるダイシングテープ6の吸着状態を解除して,ヘッド5を支持手段2の下方に設定された待機位置に復帰移動することで処理が終了する。」

「【0084】
また,上記した実施形態では,第1のカメラ41で移載対象の部品7を認識したが,第1のカメラ41を設けずに,第2のカメラ42により移載対象の部品7を認識してもよい。また,第1のカメラ41を設けずに,第1の保持体(ダイシングテープ6)に保持された部品7の,不良品の位置情報も含むマップデータを予め取得しておき,当該マップデータに基づいて移載対象の部品7がヘッド5の上方に配置されるように制御してもよい。」

引用例1の図1として,以下の図面が示されている。

(2)摘記の整理
上記によれば,引用例1には以下の事項が記載されていると理解できる。

ア ダイシングテープ6の保持面に保持されたICチップなどの複数の部品7を,ガラス基板8に各部品7ごとに対応して予め定められた所定の移載位置に移載する部品移載装置1。(段落0026)
イ 部品移載装置1は,ダイシングテープ6およびガラス基板8を対向した状態で支持する支持手段2と,支持手段2に支持されたダイシングテープ6およびガラス基板8をXY方向に移動するXYテーブル3と,ダイシングテープ6の保持面に保持された部品7およびガラス基板8それぞれに設けられたアライメントマークを認識することにより,部品7に設けられたバンプ7aおよびガラス基板8の部品実装面8aに設けられた電極(移載位置)の位置を認識する認識手段4と,ダイシングテープ6の保持面に保持された部品7を,ダイシングテープ6の裏面側から上方のガラス基板8に押圧するヘッド5とを備えていること。(段落0030)
ウ 支持手段が,ガラス基板8を支持するアライメントテーブル23を有する第1支持部21と,ダイシングテープ6を支持する第2支持部22とを備えていること。(段落0031)
エ アライメントテーブル23が駆動されることで,アライメントテーブル23に支持されたガラス基板8のダイシングテープ6に対する相対的な位置が調整されること。(段落0035)
オ XYテーブル3が,Xテーブル31と,Xテーブル31のX軸32a上に配設されたYテーブル32とを備え,Yテーブル32上に第2支持部22が配設されていること。(段落0036)
カ 第1のカメラ41の認識結果に基づいてXYテーブル3が駆動されることにより,移載対象である部品7がヘッド5の上方に配置されること。(段落0039)
キ 第2のカメラ42の認識結果に基づいてアライメントテーブル23が駆動されることにより,ダイシングテープ6に保持された移載対象の部品7のバンプ7aと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた電極(移載位置)とが位置合わせされること。(段落0040)
ク ヘッド5は,支持手段2(第1支持部及び第2支持部)の下方に設けられていること。また,ヘッド5は,移載対象の部品7のバンプ7aと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた電極(移載位置)との位置合わせが完了した状態で,当該部品7をダイシングテープ6の裏面側から上方のガラス基板8の部品実装面8aに押圧して接合することで,当該部品7をダイシングテープ6からガラス基板8の部品実装面8aに予め定められた移載位置に移載すること。(段落0041)
ケ 第1のカメラ41を設けずに,ダイシングテープ6に保持された部品7の,不良品の位置情報も含むマップデータを予め取得しておき,当該マップデータに基づいて移載対象の部品7がヘッド5の上方に配置されるように制御してもよいこと。(段落0084)

(3)引用発明1
一般に,部品を処理する装置が当該処理を実行するための制御手段を備えることは技術常識であり,部品7をガラス基板8に移載する処理を実行する装置である引用例1の「部品移載装置1」も,当該処理を実行するための制御手段を有することは技術常識から明らかである。
そうすると,上記(2)ア?ケから,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「ダイシングテープ6の保持面に保持されたICチップなどの複数の部品7を,ガラス基板8に各部品7ごとに対応して予め定められた所定の移載位置に移載する部品移載装置1であって,
前記部品移載装置1は,
ガラス基板8を支持するアライメントテーブル23を有する第1支持部21と,
ダイシングテープ6を支持する第2支持部22と
Xテーブル31と,Xテーブル31のX軸32a上に配設されたYテーブル32とを備え,Yテーブル32上に第2支持部22が配設されているXYテーブル3と,
前記第1支持部21及び第2支持部22の下方に設けられ,部品7をダイシングテープ6からガラス基板8の部品実装面8aに予め定められた移載位置に移載するヘッド5と,
制御手段であって,
ダイシングテープ6に保持された部品7の,不良品の位置情報も含むマップデータを予め取得しておき,当該マップデータに基づいてXYテーブル3が駆動されることにより,移載対象である部品7がヘッド5の上方に配置されることと,
第2のカメラ42の認識結果に基づいてアライメントテーブル23が駆動されることにより,ダイシングテープ6に保持された移載対象の部品7のバンプ7aと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた移載位置とが位置合わせされることと,
移載対象の部品7のバンプ7aと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた移載位置との位置合わせが完了した状態で,当該部品7をダイシングテープ6の裏面側から上方のガラス基板8の部品実装面8aに押圧して接合することで,当該部品7をダイシングテープ6からガラス基板8の部品実装面8aに予め定められた移載位置に移載すること,
を含む処理を制御する,制御手段と,
を備える,部品移載装置1。」


第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1を比較する。

ア 引用発明1における「ダイシングテープ6」,「ガラス基板8」及び「部品7」が,本願発明1における「第1の基材」,「第2の基材」及び「半導体ダイ」に相当する。
イ 引用発明1における「ダイシングテープ6の保持面に保持されたICチップなどの複数の部品7を,ガラス基板8に各部品7ごとに対応して予め定められた所定の移載位置に移載する部品移載装置1」は,本願発明1における「第1の基材から第2の基材への複数の半導体ダイの直接転写を実行するシステム」に相当する。
ウ 引用発明1の「第2支持部22」は「ダイシングテープ6」を支持し,「XYテーブル3」は,その「Yテーブル32」上に「第2支持部22」が配設され,「XYテーブル3」が駆動されることにより,「ダイシングテープ6」に固定された移載対象である「部品7」がヘッドの上方に配置されるものである。そうすると,引用発明1における「第2支持部22」及び「XYテーブル3」が,本願発明1における「第1の基材を搬送する第1の搬送機構」に相当する。
エ 引用発明1における「ガラス基板8を支持するアライメントテーブル23を有する第1支持部21」は,アライメントテーブル23が駆動されることにより,ダイシングテープ6に固定された「部品7」と,「ガラス基板8」とが位置合わせされるものであるから,本願発明1の「第2の基材を搬送する第2の搬送機構」に相当する。
オ 引用発明1における「部品7をダイシングテープ6からガラス基板8の部品実装面8aに予め定められた移載位置に移載するヘッド5」は,本願発明1における「直接転写を実施する転写機構」に相当する。また,引用発明1の上記「ヘッド5」は「第1支持部21及び第2支持部22の下方に設けられ」ているから,本願発明1の上記「転写機構」と引用発明1の上記「ヘッド5」は,ともに「第1の搬送機構に隣接して配置されて」いる点で一致する。
カ 引用発明1における「制御手段」は,本願発明1における「前記第1の搬送機構,前記第2の搬送機構,及び前記転写機構と通信可能に接続された1以上のプロセッサを含むコントローラ」に相当する。
キ 引用発明1における「マップデータに基づいてXYテーブル3が駆動されることにより,移載対象である部品7がヘッド5の上方に配置されること」は,本願発明1における「少なくとも部分的にマップデータに基づいて前記複数の半導体ダイの位置を決定すること」に相当する。
ク 引用発明1における「第2のカメラ42の認識結果に基づいてアライメントテーブル23が駆動されることにより,ダイシングテープ6に保持された移載対象の部品7のバンプ7aと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた移載位置とが位置合わせされること」は,本願発明1における「前記第1の基材,前記第2の基材,及び前記転写機構が,直接転写位置内にあるように,前記第1の基材又は前記第2の基材の少なくとも1つを搬送すること」に相当する。
ケ 引用発明1における「移載対象の部品7のバンプ7aと,当該部品7に対応してガラス基板8の部品実装面8aに設けられた移載位置との位置合わせが完了した状態で,当該部品7をダイシングテープ6の裏面側から上方のガラス基板8の部品実装面8aに押圧して接合することで,当該部品7をダイシングテープ6からガラス基板8の部品実装面8aに予め定められた移載位置に移載すること」は,本願発明1における「前記転写機構を作動させて,前記複数の半導体ダイの前記直接転写を実行すること」に相当する。
コ 本願発明1における「マップデータ」と引用発明1における「マップデータ」を比較する。
引用発明1における「マップデータ」は,それに基づいて「XYテーブル3が駆動されることにより,移載対象である部品7がヘッド5の上方に配置される」ものであるから,本願発明1の「マップデータ」と「半導体ウエハの前記複数の半導体ダイの前記位置を記述する」点で一致する。
また,引用発明1における「ダイシングテープ6に保持された部品7の,不良品の位置情報」は,本願発明1における「前記複数の半導体ダイのうち特定の品質を有する半導体ダイの位置及び前記複数の半導体ダイそれぞれに関する品質」に対応する。
そうすると,本願発明1における「マップデータ」と引用発明1における「マップデータ」は,「半導体ウェハの前記複数の半導体ダイの前記位置を記述し,さらに,前記複数の半導体ダイのうち特定の品質を有する半導体ダイの位置及び前記複数の半導体ダイそれぞれに関する品質を記述する」ものである点で共通する。

上記ア?コによれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「第1の基材から第2の基材への複数の半導体ダイの直接転写を実行するシステムであって,前記システムは,
前記第1の基材を搬送する第1の搬送機構と,
前記第2の基材を搬送する第2の搬送機構と,
前記第1の搬送機構に隣接して配置されて,前記直接転写を実施する転写機構と,
前記第1の搬送機構,前記第2の搬送機構,及び前記転写機構と通信可能に接続された1以上のプロセッサを含むコントローラであって,前記コントローラは,実行されたときに前記1以上のプロセッサに,
少なくとも部分的にマップデータに基づいて前記複数の半導体ダイの位置を決定することとであって,前記マップデータは,半導体ウェハの前記複数の半導体ダイの前記位置を記述し,さらに,前記複数の半導体ダイのうち特定の品質を有する半導体ダイの位置及び前記複数の半導体ダイそれぞれに関する品質を記述する,ことと,
前記第1の基材,前記第2の基材,及び前記転写機構が,直接転写位置内にあるように,前記第1の基材又は前記第2の基材の少なくとも1つを搬送することと,
前記転写機構を作動させて,前記複数の半導体ダイの前記直接転写を実行することと,
を含む処理を実行させる実行可能な命令を有する,コントローラと,
を備える,システム。」
<相違点1>
本願発明1では,「マップデータ」が「前記第1の基材上の識別情報に基づいて提供され」るのに対し,引用発明1では,「マップデータ」が「ダイシングテープ6」上の「識別情報」に基づいて提供されることは特定されていない点。
<相違点2>
本願発明1の「マップデータ」は「特定の品質を有する半導体ダイの相対的な位置」を記述するのに対し,引用発明1の「マップデータ」は「相対的な位置」であることが特定されていない点。

(2)相違点に対する判断
はじめに相違点1について検討すると,引用例1には,「ダイシングテープ6」上の識別情報に基づいてマップデータを提供するとの技術的事項について記載も示唆もされておらず,相違点1に係る技術的事項が周知の事項であるともいえないから,引用発明1において上記相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって,相違点2について検討するまでもなく,本願発明1は引用発明1及び引用例1の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本願発明2?9について
本願発明2?9は本願発明1を減縮した発明であるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明1及び引用例1の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.小括
以上のとおり,本願発明1?9は,引用発明1及び引用例1の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって,当審拒絶理由通知1の理由によっては,本願を拒絶することはできない。


第7 原査定について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2005-327923号公報)には,次の記載がある。
「【0023】
また,本発明の導電接合膜貼着装置の特徴は,セパレータに積層されている導電接合膜の貼着に供する貼着部位を電子部品の被着部に貼着するための導電接合膜貼着装置であって,前記貼着部位を前記被着部に転写するための転写機構を有しており,前記転写機構には,前記セパレータ側から前記導電接合膜を介して前記被着部に接離可能とされた転写ヘッドが設けられており,この転写ヘッドには,前記被着部と同一平面形状に形成されている加圧振動面を具備する振動子が設けられている点にある。」
「【0029】
図1に示すように,本実施形態の導電接合膜貼着装置1は,テープ送り機構2,転写機構3および搬送機構4を有している。」
「【0033】
前記転写機構3は,異方性導電膜Fの貼着部位Faを電子部品Pの被着部Pcに転写,すなわち,貼着部位Faの被着部Pcへの貼り付けを行うためのものであり,この転写機構3は,異方性導電テープTがテープ移動経路に沿って送られる途中に設けられている。」

上記の記載事項から,引用文献1には次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。
「導電接合膜貼着装置1は,テープ送り機構2,転写機構3および搬送機構4を有する導電接合膜貼着装置1であって,
前記転写機構3は,異方性導電膜Fの貼着部位Faを電子部品Pの被着部Pcに転写するためのものであり,
前記転写機構3には,前記セパレータ側から前記導電接合膜を介して前記被着部に接離可能とされた転写ヘッドが設けられており,前記転写ヘッドには,前記被着部と同一平面形状に形成されている加圧振動面を具備する振動子が設けられている
導電接合膜貼着装置1。」

上記のとおり,引用発明Aは「異方性導電膜Fの貼着部位Fa」を「電子部品P」に転写する装置であり,本願発明1のような「半導体ダイ」を転写する装置ではないから,本願発明1は引用発明Aに基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。本願発明2?9についても同様である。
したがって,原査定を維持することはできない。


第8 当審拒絶理由通知2について
上記第3の2.のとおり,当審では,請求項1の「前記第2の基材の識別情報に基づいて提供され」との記載は不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,令和3年4月28日提出の手続補正書により「前記第1の基材の識別情報に基づいて提供され」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。


第9 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-07-21 
出願番号 特願2017-549243(P2017-549243)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西村 治郎平野 崇堀江 義隆  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 小田 浩
小川 将之
発明の名称 半導体デバイスの転写方法  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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