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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C
管理番号 1376350
審判番号 不服2019-15570  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-20 
確定日 2021-07-21 
事件の表示 特願2017-516080「回転式圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月30日国際公開、WO2017/049545、平成29年10月26日国内公表、特表2017-531755〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年) 9月24日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年 2月26日付け 拒絶理由通知書
平成30年 6月 4日 意見書の提出
平成30年11月28日付け 拒絶理由通知書
平成31年 2月28日 意見書の提出
令和 元年 7月11日付け 拒絶査定
令和 元年11月20日 審判請求書の提出
令和 2年 9月18日付け 拒絶理由通知書
令和 2年12月17日 意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)


第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりである。

「軸方向の両端にそれぞれ第1端壁及び第2端壁を有するハウジングと、
該ハウジング内に設けられ、固定子鉄心と回転子鉄心とを有し、前記ハウジングの前記軸方向において、前記固定子鉄心の前記第1端壁に近い側の端面と前記第1端壁との間の最大距離をDstとするモータと、
前記ハウジング内に設けられ、且つ前記モータの前記第1端壁から離れた側に位置し、シリンダアセンブリ及び主軸受を有し、該主軸受が前記シリンダアセンブリの前記モータに近い側の端面に接続され、前記ハウジングの前記軸方向において、前記回転子鉄心の前記第1端壁に近い側の前記端面と、前記主軸受のフランジ部の前記第1端壁に近い側の端面との間の最小距離をDrtとする圧縮機構とを備え、
前記Dst及び前記Drtが、0.335≦Dst/Drt≦0.838の関係を満たす回転式圧縮機。」


第3 拒絶の理由
令和2年9月18日の当審が通知した拒絶理由のうちの理由1、3?5は、次のとおりのものである。
理由1(サポート要件)について
本願の請求項1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本願発明は詳細な説明に記載したものとはいえず、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由3(実施可能要件、委任省令要件)について
本願の発明の詳細な説明は、本願発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由4(新規性)、理由5(進歩性)について
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2013/065706号


第4 サポート要件に関する当審の判断
本願発明が解決しようとする課題は、高圧冷媒ガスが圧縮ポンプからハウジング内の中部のキャビティに排出された際に、中部のキャビティ及び上部のキャビティにおいて発生する主に1000Hzから1250Hzまでの周波数帯域の騒音を小さくし、構造が簡単且つ合理的な回転式圧縮機を提供することである(本願明細書[0002][0003])。
当該課題を解決するために、本願発明では、「Dst及びDrtが、0.335≦Dst/Drt≦0.838の関係を満たす」ことを構成要件としている。

ここで、「Dst/Drt」という「比」の値が所定の数値範囲に入るとは、Drtの値が固定されており、それを基準として当該比が所定の数値範囲に入るようにDstを調整することのみならず、Dstを固定してDrtを調整する場合、DrtとDstの両者とも変化する場合が含まれているが、「Dst/Drt」という「比」の値を所定範囲に入れることにどのような技術上の意味があるのか不明である。
また、騒音に深く関わる固有振動数は騒音の波長と関係するため、騒音発生源の寸法(直径や体積)に依存することは技術常識であるところ、「Dst/Drt」は騒音発生源の寸法そのものは反映しない無次元の値であるし、騒音に関連する無次元数として機械技術分野において周知の無次元数でもない。
発明の詳細な説明の[0028]及び図5には、Dst/Drtの値と、回転式圧縮機の作動時の騒音OA値αとの関係について具体例が1つ記載されている。しかし、騒音OA値αの定義が記載されておらず、騒音OA値αの単位も騒音の周波数帯も不明である。これ以外に、発明の詳細な説明には「Dst/Drt」と騒音との技術的な関係について記載されていないため、当該比と、1000Hzから1250Hzまでの周波数帯域の騒音との関係を当業者が理解することができない。

仮に「Dst/Drt」と騒音との間に技術的な関係があるとしても、騒音の大きさや周波数は、騒音発生源の構造、流体流路の特性、流体の特性、流体が流れる時の運転条件等の複数の要因から影響を受けることは本願出願時の技術常識である。しかし、発明の詳細な説明には、これら複数の要因(下に具体的な要素を例示する)に関わらず、「Dst/Drt」の値のみが特定範囲に入れば1000Hzから1250Hzまでの周波数帯域の騒音を小さくできる根拠が示されていないから、上記具体例の結果は信頼性に乏しいといわざるを得ない。
(例)
・高圧冷媒ガスが、圧縮機構からハウジング内に吐出されてからハウジング外へ至るまでの流路の特性(圧縮機構からハウジング内への吐出口、回転子鉄心を貫通する通気孔、回転子と固定子との隙間、上部キャビティからハウジング外への吐出口などの形状、断面積、代表長さ、構造等)
・ハウジング内の各キャビティの形状や容積等
・圧縮冷媒の吐出圧力、流速、流量、密度、粘性係数等
・圧縮機構の回転速度等

加えて、空気調和システムにおいて冷媒ガスの圧縮に用いられる回転圧縮機では、各パラメータに関して常識的な範囲があるとしても、本願発明では、圧縮流体が冷媒ガスであること、回転式圧縮機は空気調和システムに用いられるものであることのいずれの特定もなされていない。
そして、発明の詳細な説明の[0028]及び図5の結果が、特定の条件の下で行われた結果であるとしても、あくまでも特定の条件の下での結果でしかなく、Dst/Drt以外の要素が変更され得る、あらゆる前提条件の場合においても本願発明が上記課題を解決できることを、当業者が認識できる程度に具体例が記載されているともいえないから、本願発明は、当業者が出願時の技術常識に照らしても、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第5 実施可能要件、委任省令要件に関する当審の判断
発明の詳細な説明の[0025]?[0029]には、Dst及びDrtが、0.335≦Dst/Drt≦0.838の関係を満たすことにより、回転式圧縮機100の作動騒音を効果的に低減させることができる旨が記載されている。
その根拠として、[0028]及び図5に、具体例が1つ示されている。しかし、上記「第4 サポート要件に関する当審の判断」で検討したとおり、当業者が明細書及び出願時の技術常識に基づいて、本願発明の課題と、「Dst/Drt」という「比」の値が所定の数値範囲に入ることとの実質的な関係を理解することができず、「Dst/Drt」の値を特定することの技術上の意義が不明である。
また、上記「第4 サポート要件に関する当審の判断」で検討したとおり、騒音の大きさや周波数帯域は、多数の要素から影響を受けることが本願出願時の技術常識であるところ、発明の詳細な説明では、Dst/Drt以外のパラメータが任意の値であっても作動騒音を効果的に低減できる技術的な説明はなされておらず、上記具体例においても、Dst/Drt以外のパラメータを変化させた場合について記載されていないため、どのような条件の下であれば(Dst/Drt以外のパラメータをどのように設定すれば)、図5のような結果を得られて、作動騒音を効果的に低減させることができるのか当業者が理解できない。

したがって、発明の詳細な説明は、本願発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 新規性進歩性に関する当審の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付加した。)。
「[0011] 以下、本実施形態を図面にもとづいて説明する。
図1は、冷凍サイクル装置Rに用いられる密閉型回転式圧縮機1およびアキュームレータ5の縦断面図および冷凍サイクル構成図である。」
「[0013] つぎに、上記圧縮機1について説明する。
上記圧縮機1は密閉ケース10を備えている。この密閉ケース10内部の上部側に電動機部11が収容され、下部側に圧縮機構部12が収容される。これら電動機部11と圧縮機構部12は、回転軸13を介して一体に連結される。」
「[0015] 上記電動機部11は、回転軸13に嵌着固定される回転子(ロータ)15と、固定子(ステータ)16とから構成される。固定子16は、回転子15の外周壁と狭小の間隙を存して内周壁が対向され、外周壁が密閉ケース10内周壁に嵌着固定される。
[0016] 上記圧縮機構部12は、ここでは2シリンダタイプのものである。
第1のシリンダ17Aは、中心軸に沿って内径部を有する。第1のシリンダ17Aは、外周壁が密閉ケース10の内周壁に挿嵌され、たとえば部分溶接などの手段で取付け固定される。第1のシリンダ17Aの上面部に主軸受18が載る。主軸受18は、第1のシリンダ17Aの内径部上面側を閉塞する。」
「[0043] 密閉ケース10内に充満する高温高圧のガス冷媒は、電動機部11の軸方向に沿って設けられるガス案内路を介して密閉ケース10内上部に導かれ、さらに冷媒管Pへ吐出される。ガス冷媒は凝縮器2に導かれて外気もしくは水等と熱交換し、凝縮液化して液冷媒に変る。液冷媒は膨張弁3で断熱膨張し、蒸発器4で周辺の空気と熱交換して蒸発する。」
「[0045] 図2は、1シリンダタイプの密閉型回転式圧縮機1Aの縦断面図と、冷凍サイクル装置Rの冷凍サイクル構成図である。図1に示す2シリンダタイプの密閉型回転式圧縮機1と冷凍サイクル装置Rの同一構成部品ついては、同番号を付して新たな説明を省略する。
[0046] 2シリンダタイプの密閉型回転式圧縮機1との相違点は、シリンダ17が単一であり、この内径部を上面から主軸受18が閉塞し、下面から副軸受21が閉塞して、シリンダ室Dが形成される点である。このシリンダ室Dの上面部と下面部の同位置に、吐出用切欠きが設けられる。」
「[0059] さらに、図1および図2に示すように、2シリンダタイプと1シリンダタイプのいずれの圧縮機1,1Aにおいても、電動機部11における固定子16の固定子鉄心16aの軸方向長さHに対して、固定子鉄心16aの一端面である上端面から密閉ケース10の一端面までの寸法をA、固定子鉄心16aの他端面である下端面から圧縮機構部12を密閉ケース10に固着する部材、すなわち2シリンダタイプで第1のシリンダ17A、1シリンダタイプでシリンダ17の、端面までの距離をBとしたとき、つぎの(1)式を満足するように設定する。
0.5 < B/A < 1 …… (1)」

また、図2からは、軸方向の両端にそれぞれ上端面及び下端面を有する密閉ケース10が看取される。

イ 引用発明
上記アから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「軸方向の両端にそれぞれ上端面及び下端面を有する密閉ケース10と、
前記密閉ケース10内部の上部側に収容され、固定子鉄心16aと回転子15とを有する電動機部11と、
前記密閉ケース10の下部側に収容され、シリンダ17及び主軸受18を有し、前記主軸受18が前記シリンダ17を上面から閉塞する、圧縮機構部12とを備えた、
密閉型回転式圧縮機1A。」

2 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「上端面」は本願発明の「第1端壁」に相当し、以下同様に、
「下端面」は「第2端壁」に、
「密閉ケース10」は「ハウジング」に、
「密閉ケース10内部の上部側に収容され」は「ハウジング内に設けられ」に相当する。

イ 引用発明の回転子15が鉄心を有することは明らかであるから、引用発明の「固定子鉄心16aと回転子15とを有する電動機部11」は本願発明の「固定子鉄心と回転子鉄心とを有」する「モータ」に相当する。

ウ 引用発明の「前記密閉ケース10の下部側に収容され」るという事項は本願発明の「前記ハウジング内に設けられ、且つ前記モータの前記第1端壁から離れた側に位置し」ている事項に相当し、以下同様に、
「シリンダ17」は「シリンダアセンブリ」に、
「主軸受18」は「主軸受」に、
「前記主軸受18が前記シリンダ17を上面から閉塞する」という事項は「前記シリンダアセンブリの前記モータに近い側の端面に接続され」るという事項に、
「圧縮機構部12」は「圧縮機構」に、
「密閉型回転式圧縮機1A」は「回転式圧縮機」に、相当する。

(2) 一致点及び相違点
以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「軸方向の両端にそれぞれ第1端壁及び第2端壁を有するハウジングと、
該ハウジング内に設けられ、固定子鉄心と回転子鉄心とを有するモータと、
前記ハウジング内に設けられ、且つ前記モータの前記第1端壁から離れた側に位置し、シリンダアセンブリ及び主軸受を有し、該主軸受が前記シリンダアセンブリの前記モータに近い側の端面に接続される圧縮機構とを備える、
回転式圧縮機。」

<相違点>
本願発明では、「前記ハウジングの前記軸方向において、前記固定子鉄心の前記第1端壁に近い側の端面と前記第1端壁との間の最大距離をDstと」し、「前記ハウジングの前記軸方向において、前記回転子鉄心の前記第1端壁に近い側の前記端面と、前記主軸受のフランジ部の前記第1端壁に近い側の端面との間の最小距離をDrtとする」ときに、「前記Dst及び前記Drtが、0.335≦Dst/Drt≦0.838の関係を満たす」ものであるのに対し、引用発明では、上記関係が明らかではない点。

3 判断
以下、相違点について検討する。
本願の発明の詳細な説明を参酌しても、Dst及びDrtがどのような技術的意義を有する寸法であるのか不明である。
そこで、出願時の技術常識に基づいて考察すると、Dstは圧縮機の密閉容器内における電動機部より上部の空間部の高さを、Drtは圧縮機構上部と電動機部の間にある中間の空間部の高さと電動機部の高さとを合わせた高さを、それぞれ意味していると解することができる。
電動機部より上部の空間部の高さを、圧縮機構上部と電動機部の間にある中間の空間部の高さと電動機部の高さとを合わせた高さより大きく確保しなければならない技術的な理由はない。また、圧縮機の小型化といった一般的な課題を考慮すれば、電動機部への配線スペースや、密閉容器外部への吐出機構のスペースを確保したり、電動機部の巻線や回転要素等と密閉容器とのクリアランスを確保できたりする範囲で、電動機部より上部の空間部の高さを小さくすることが合理的であるから、DstはDrtより小さい一定の範囲内の値とすることが一般的であるといえる。
また、一般に特許文献の図面から正確な寸法を読み取ることは困難であるとしても、引用例1の図2からは、Aの長さがB及びHの長さよりもやや短いことが理解でき、Dst/Drtの値が少なくとも本願発明の範囲内にあることが看取される。
以上のことから、相違点は実質的な相違点ではない。そうすると、本願発明と引用発明とは相違するところはないから、本願発明は引用発明である。
また、仮に相違するところがあるとしても、引用発明の電動機部11等の大きさを適宜設定する際に、上記一般的な課題の下で、結果としてDst/Drtの値が本願発明の範囲内になることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は,引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第7 請求人の主張について
請求人は、令和2年12月17日提出の意見書において、「騒音値は励起源(使用環境または運転条件)及び励起源に由来する周波数帯域に応答する構造で決定されますが、励起源に由来する周波数帯域が広いため、騒音値は、主としてその騒音の周波数帯域に対応する構造自体に基づいて決定されます。本願は、特定の周波数帯域(1000?1250Hz)の騒音を低減するための発明であり、即ち、同一使用環境または運転条件で、本願のような圧縮機の構成による特定の周波数帯域(1000?1250Hz)での騒音が最も小さくなります。具体的には、本願の図5及び図6には、Dst/DrtまたはDのみを変更すると、騒音が変化することが示されています。
したがって、当業者が本願の明細書を参照する場合、実際の環境(例えば、室外を7度、室内20度)において、本願技術を使用することにより、騒音が低減すると推定することができます。」と主張している。
しかし、本願の請求項1では、発明の詳細な説明に記載されている使用環境や構造について(圧縮流体が冷媒ガスであること、回転式圧縮機は空気調和システムに用いられるものであることでさえ)特定されていない。また、一般的な空気調和システムに限定解釈しても、小さな部屋用であったりビル用のものであったり、その構成や大きさ、運転条件等には幅があるから、請求人が主張する「同一の使用環境または運転条件で、本願のような圧縮機の構成による」とは、どのような使用環境または運転条件と構成であるのか特定できない。
そして、騒音値や騒音の周波数帯域がこれらの要素に依存することは上記「第4 サポート要件に関する当審の判断」及び「第5 実施可能要件、委任省令要件に関する当審の判断」で検討したとおりであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。

また、請求人は上記意見書において「引用文献1には、本願の請求項1に規定されている「Drt」と「Dst」の定義や両者の比が開示されていません。このため、たとえ技術常識を考慮しても、「Drt」と「Dst」の比が騒音の大きさに関連付けられることは明らかではありません。このため、当業者が引用文献1を参照しても、「Drt」及び「Dst」に対応する寸法に限定する動機付けがありません。
また、引用文献1では、騒音を低減するための様々な手段、例えば、連通路の総断面積をS1、第1のマフラに設けられる密閉ケース内吐出部の総面積をS2としたとき、S1よりS2を大(S1<S2)とすることや、固定子の鉄心の上端面から密閉ケースの一端面までの寸法をA、固定子の鉄心の下端面から圧縮機構部を密閉ケースに固着する部材の端面までの距離をBとしたとき、0.5<B/A<1との式を満足する、等(請求項1)が既に提示されております。よって、当業者が引用文献1の効果に影響しないように、さらに引用文献1の構成を変更しようとする動機付けもありません。」との主張もしている。
しかし、引用文献1に記載されている「S1<S2」や「0.5<B/A<1」等の各条件の下であっても、上記「第6 新規性進歩性に関する当審の判断」で検討したとおり、本願発明は引用発明と実質的に相違するところがない。
また、仮に相違するところがあるとしても、0.335≦Dst/Drt≦0.838との範囲は、圧縮機の小型化や部材間に必要なクリアランスの確保といった一般的な課題を考慮して設計することで満たし得る一般的な数値範囲であって、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。したがって、請求人の上記主張も採用することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
また、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
さらに、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-02-10 
結審通知日 2021-02-16 
審決日 2021-03-03 
出願番号 特願2017-516080(P2017-516080)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (F04C)
P 1 8・ 537- WZ (F04C)
P 1 8・ 113- WZ (F04C)
P 1 8・ 121- WZ (F04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 所村 陽一  
特許庁審判長 窪田 治彦
特許庁審判官 山本 健晴
小川 恭司
発明の名称 回転式圧縮機  
代理人 上田 邦生  

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