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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1376431
審判番号 不服2020-12648  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-09 
確定日 2021-08-17 
事件の表示 特願2016- 91882「認証システム,認証方法,皮膜の製造方法,および皮膜」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 2日出願公開,特開2017-199312,請求項の数(13)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年4月28日の出願であって,令和1年11月27日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年2月3日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され,令和2年6月2日付けで拒絶査定(原査定)がされた。これに対し,令和2年9月9日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和2年10月29日に前置報告がされ,令和3年3月16日付けで当審より拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,令和3年5月24日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和2年6月2日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1-2に係る発明は,以下の引用文献Aに基づいて,本願の請求項3-14に係る発明は,以下の引用文献A-Bに基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
A.特開2003-251971号公報
B.特開2015-120113号公報


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願の請求項1-3,5に係る発明は,以下の引用文献1に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特表2003-521717号公報


第4 本願発明
本願請求項1ないし13に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明13」という。)は,令和3年5月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
被認証物が備える皮膜が有する人工物メトリクス要素を読み取る読取装置と、
前記人工物メトリクス要素を読み取った結果に基づいて、前記被認証物の認証の可否を判定する判定装置と、を備え、
前記読取装置は、前記人工物メトリクス要素を撮像可能な光学的な撮像装置であり、
前記皮膜は、樹脂組成物の硬化物であり、
前記樹脂組成物は、
光重合開始剤(A)と、
融点を有し、30℃において固形の有機化合物(B)と、
一分子中に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(C)と、を含み、
前記人工物メトリクス要素は、前記皮膜内の複数の空洞で構成され、かつ前記複数の空洞からなる点模様状のパターンであり、
前記複数の空洞は、ランダムに配置されている、
認証システム。
【請求項2】
前記被認証物は、プリント配線板であり、
前記皮膜は、ソルダーレジスト層である、
請求項1に記載の認証システム。
【請求項3】
前記皮膜は、前記人工物メトリクス要素を有する第一の領域と、前記人工物メトリクス要素を有さない第二の領域と、を有する、
請求項1又は2に記載の認証システム。
【請求項4】
被認証物が備える皮膜が有する人工物メトリクス要素を読み取る読取工程と、
前記人工物メトリクス要素を読み取った結果に基づいて、前記被認証物の認証の可否を判定する判定工程と、を含み、
前記読取工程では、前記人工物メトリクス要素を撮像可能な光学的な撮像装置である読取装置で読み取り、
前記皮膜は、樹脂組成物の硬化物であり、
前記樹脂組成物は、
光重合開始剤(A)と、
融点を有し、30℃において固形の有機化合物(B)と、
一分子中に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(C)と、を含み、
前記人工物メトリクス要素は、前記皮膜内の複数の空洞で構成され、かつ前記複数の空洞からなる点模様状のパターンであり、
前記複数の空洞は、ランダムに配置されている、
認証方法。
【請求項5】
光重合開始剤(A)と、融点を有し、30℃において固形の有機化合物(B)と、一分子中に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(C)と、を含む樹脂組成物の塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を露光する露光工程と、
露光した前記塗膜を加熱することで、内部に複数の空洞を含み、前記複数の空洞が人工物メトリクス要素を構成している皮膜を形成する加熱工程と、
を含み、
前記人工物メトリクス要素は、撮像可能な光学的な撮像装置で撮像され、読み取られるものであり、
前記複数の空洞が、点模様状のパターンであり、かつランダムに配置される、
認証用の皮膜の製造方法。
【請求項6】
前記塗膜形成工程において、前記有機化合物(B)を、固体粒子の状態で、前記塗膜内に分散させる、
請求項5に記載の認証用の皮膜の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程において、前記塗膜を、前記有機化合物(B)の融点よりも30℃低い温度以上で加熱する、
請求項5又は6に記載の認証用の皮膜の製造方法。
【請求項8】
前記有機化合物(B)の融点は、100?350℃の範囲内である、
請求項5から7のいずれか一項に記載の認証用の皮膜の製造方法。
【請求項9】
前記有機化合物(B)は、熱硬化性成分、光硬化性成分、光重合開始剤からなる群から選択される一種以上を含む、
請求項5から8のいずれか一項に記載の認証用の皮膜の製造方法。
【請求項10】
前記有機化合物(B)は、エポキシ化合物を含む、
請求項9に記載の認証用の皮膜の製造方法。
【請求項11】
前記有機化合物(B)は、多塩基酸を含む、
請求項9又は10に記載の認証用の皮膜の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂組成物の固形分量に対する前記有機化合物(B)の割合は、5質量%?80質量%の範囲内である
請求項5から11のいずれか一項に記載の認証用の皮膜の製造方法。
【請求項13】
光重合開始剤(A)と、融点を有し、30℃において固形の有機化合物(B)と、一分子中に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(C)と、を含む樹脂組成物の硬化物であり、
内部に複数の空洞を含み、前記複数の空洞が人工物メトリクス要素を構成しており、
前記複数の空洞が、点模様状のパターンであり、かつランダムに配置されており、
前記人工物メトリクス要素は、撮像可能な光学的な撮像装置で撮像され、読み取りできるよう構成されている、
認証用の皮膜。」


第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
ア 前置報告で引用され,令和3年3月16日付けの当審拒絶理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。)

a 「【0001】
発明の用途
本発明の用途は、物体、生物、取引を識別し認証することと、再現不可能な識別手段の読取りを最適化するように適合させることである。」

b 【0016】
好ましい実施方法の説明
図1、図2a、図2bに示されているように、全体として100で示されている固有の再現不可能な識別手段は、硬化された透明の混合物110と、一群の気泡120を含む。図3aおよび図3bに示されているように、識別手段はその固有性および真正さを保証する第3の次元を有している。」

c 「【0017】
本発明によれば、読取り方法は、識別手段の内部異種構造を二次元でまず認識し、次に第3の次元を検証することからなる。図1に示されている第1の実施方法によれば、この方法は、識別手段100に対する光300の入射角から、材料110および120によって生成される陰影121を分析することにより、識別手段に含まれている材料120の三次元配列のレイアウトを検証することを特徴とする。この方法は、三次元構造の特に簡単な検証を提案する点で注目に値する。したがって、気泡を含む識別手段に基づく用途の枠内で、気泡の下方、または、気泡が光源と形成する軸に陰影が存在するだけで、気泡が三次元に配置されていることが保証される。この情報は、識別手段の二次元での認識と組み合わせることにより、偽造が不可能で、かつ、特に高速な読取り方法を可能にする。
【0018】
出願人はさらに、識別手段を連続的にかつじかに拡散照明にさらし、気泡の外形の二次元投影を得て、その読み取りと符号化を可能にし、次に直接照明にさらして、異種材料を透明な生成物から分離する界面上で反射を生成し、したがって、識別手段の三次元の外観、すなわち、その真性さを確かめることによって、識別手段に含まれている気泡の三次元レイアウトを読み取って検証することからなるという、この方法の他の有利な特徴を特定の好ましい気泡を選択して考え出した。この2つの連続的な照明は、最初に二次元投影が得られた直後に二次元陰影写真を提示するような、読取り器をぎもうすることを目的としたいかなる操作を不可能にするため、識別手段を一定の位置に配置することによって自動的に非常に短時間に行われる。この態様は図3aおよび図3bに示されており、識別手段100は図3aにおいて拡散照明にさらされ、次に図3bにおいて直接照明にさらされ、ここではデジタル写真装置で示されている特定されないデータ収集装置200による、読取りまたは記録のためのデータ収集の対象となる。
【0019】
このように異なる照明に連続的にさらされた結果が図2aおよび図2bに示されており、これらの図で気泡が異なる照明に対し異なる反射をすることにより、気泡120を含む識別手段の三次元構造が強調されているのが容易にわかる。すなわち、気泡は、その半透明の構造のため、拡散照明と直接的な軸方向の照明のいずれかが可能であり、それによって読取り方法およびその実施が簡略化される。このデータ収集方法では、同じ気泡120が実際に異なる反射を生成したことを検証するために、2つの画像を部分的に比較しさえすればよい。したがって、本発明の特に有利な他の態様のため、この方法は、照明に基づいて、識別手段に含まれている気泡120によって反射された形態を分析することによって、識別手段の三次元の外観を強調することを特徴としている。本発明の読取り方法を、気泡を含む識別手段に適用すると、光源が変化せず、むしろ光の性質が変化し、新しい光署名ではなく異なる情報が伝達されるので、従来の方法とは異なる新規性がある。これは、識別手段の三次元性を証明する新しい光署名を得るために、光量を変化させ、これにより識別手段を認識し、2つの連続するデータ収集の間に時間の概念がないので、偽造を行うことが非常に容易である従来技術とは異なる。

・・・中略・・・

【0023】
図3aおよび図3bには、この方法を実施する、300の番号が付けられている特に有利な装置が示されている。この装置300は、ここでは310の番号が付けられている電球を含む傾斜された照明表面を含み、すべての電球が識別手段100に対して拡散照明を生成するために照射され、単一の電球が識別手段100に対して直接照明を生成するために照射されることを特徴とする。この実施方法の利点は、異なる照明方法が実現され、しかも、非常に簡単で、かつ、装置300をベースとして使用して容易に実施できることである。」

d 「【図2a】



e 「【図2b】



f 「【図3a】



g 「【図3b】



h 上記bの段落【0016】,及び上記cの段落【0017】には,“気泡120を含む識別手段100の内部異種構造を二次元でまず認識し,次に第3の次元を検証することからなる読取り方法”が,また,上記aの段落【0001】には,“再現不可能な識別手段の読取りは,物体を識別し認証することに適合される”ものであることが,さらに,上記cの段落【0023】,【図3a】(上記f), 【図3b】(上記g)には,“この方法を実施する装置300”が記載されている。
してみれば,引用文献1には,“気泡120を含む識別手段100の内部異種構造を二次元でまず認識し,次に第3の次元を検証することからなり,物体を識別し認証することに適合される再現不可能な識別手段100の読取り方法のための装置300”が記載されているといえる。

i 上記cの段落の段落【0023】には,“装置300は,すべての電球310が識別手段100に対して拡散照明を生成するために照射され,単一の電球310が識別手段100に対して直接照明を生成するために照射される,電球310を含む”ことが,さらに,段落【0018】,【図3a】(上記f), 【図3b】(上記g)によれば,“装置300は,拡散照明,直接照明にさらされた識別手段100から,読取りまたは記録のためのデータ収集を行うデジタル写真装置200を含む”ことが記載されている。
してみれば,引用文献1には,“装置300は,すべての電球310が識別手段100に対して拡散照明を生成するために照射され,単一の電球310が識別手段100に対して直接照明を生成するために照射される,電球310と,拡散照明,直接照明にさらされた識別手段100から,読取りまたは記録のためのデータ収集を行うデジタル写真装置200を含”むことが記載されているといえる。

j 上記cの段落【0016】には,“固有の再現不可能な識別手段100は,硬化された透明の混合物110と,一群の気泡120を含み,その固有性及び真正さを保証する第3の次元を有”するものであることが記載されている。

k 上記cの段落【0018】には,“識別手段100を拡散照明,直接照明にさらすことによって,気泡120の三次元レイアウトをデジタル写真装置200で読み取って検証する”ことが記載されている。

m 【図2a】(上記d),【図2b】(上記e)によれば“気泡120が点模様状であってランダムに生成されている”ことが看取できる。

イ 上記aないしmの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「気泡120を含む識別手段100の内部異種構造を二次元でまず認識し,次に第3の次元を検証することからなり,物体を識別し認証することに適合される再現不可能な識別手段100の読取り方法のための装置300であって,
すべての電球310が識別手段100に対して拡散照明を生成するために照射され,単一の電球310が識別手段100に対して直接照明を生成するために照射される,電球310と,
拡散照明,直接照明にさらされた識別手段から,読取りまたは記録のためのデータ収集を行うデジタル写真装置200と,
を含むものであって,
固有の再現不可能な識別手段100は,硬化された透明の混合物110と,一群の気泡120を含み,その固有性及び真正さを保証する第3の次元を有しており,
識別手段100を拡散照明,直接照明にさらすことによって,気泡120の三次元レイアウトをデジタル写真装置200で読み取って検証するものであり,
気泡120が点模様状であってランダムに生成されている,
気泡120を含む識別手段100の読取り方法のための装置300。」

2 引用文献Aについて
ア 令和1年11月27日付けの拒絶の理由に引用された引用文献A(特開2003-251971号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

a 「【0006】この時、音波なので、磁気カード等の磁気記録部に影響は及ばない、また、マグネットビュアー等でもパターンを見ることは不可能である。面倒なバーコード等の印刷工程がいらず、外観上、普通のカードにしか見えない。空洞部をブロックで構成すると、バーコードと同じようにパターンが得られる。本発明では、図4、図7に示す出力波形ように、基材の違いによりスライスレベルB-Bをそれぞれ設定する。
【0007】即ち、本発明は、基材中に空洞部を設けた情報カードであって、音波にて前記空洞部が読み取られる情報カードである。
【0008】また、本発明は、前記基材は、紙、ボール紙、PET、塩化ビニール、プラスチック、蒸着紙、アルミホイルなどの少なくとも1つとする情報カードである。
【0009】また、本発明は、前記基材中のいずれかの面に磁気記録層が形成された情報カードである。
【0010】また、本発明は、基材中に空洞部を設けた情報カードの、空洞部の読み取り方法において、前記空洞部を、音波にて空洞部を読み取る情報カードの読み取り方法である。
【0011】また、本発明は、前記基材は、紙、ボール紙、PET、塩化ビニール、プラスチック、蒸着紙、アルミホイルなどのすくなくとも1つとする情報カードの読み取り方法である。
【0012】
【実施例】本発明の実施例による情報カードおよび情報カードの読み取り方法について、以下に説明する。
【0013】(実施例1)図1は、本発明の実施例による情報カードの読み取り方法の説明図である。また、図2は、本発明の実施例による情報カードの平面図と、対応する出力波形の説明図である。また、図3は、図2の情報カードのAA断面図である。
【0014】実施例1では、150μmの塩化ビニールシートを貼り合わせて使用する。図2に示すように、基材5どうしを部分的に接着、または圧着する。接着または圧着されない部分には空気の層ができる。
【0015】この場合、接着または圧着部に空気が入らないように注意しなければいけない。接着または圧着されたシートをカード状に打ち抜く。このカードを音波センサーを組み込んだカードリーダーで読み取れば、図2に示すような出力波形が得られ、真偽を判定することができる。
【0016】(実施例2)図4は、本発明の実施例2による情報カードの平面図と、対応する出力波形の説明図である。また、図5は、図4の情報カードのAA断面図である。
【0017】この実施例では、100μmのペットを貼り合わせて使用する。図4に示すように、一方のPETには磁気記録層を塗布、または印刷により設け、その上に、保護層を塗布、または印刷する。接着、または圧着されたシートをカード状に打ち抜けば、外観上、普通のプリペイドカードを得ることができる。
【0018】このカードを音波センサーの付いたカードリーダーで読み取れば、図4のような出力波形が得られ、真偽を判定することができる。本発明の実施例では、音波センサー及び音波検出器は、株式会社コスモテック製ウルトラエースを使用した。本発明で使用した音波センサーでは、空気の層を2層、3層にしても感知できないので注意しなければならない。」

b 「【図1】



「【図2】




3 引用文献Bについて
ア 令和1年11月27日付けの拒絶の理由に引用された引用文献B(特開2015-120113号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

a 「【背景技術】
【0002】
種々の基材上に被膜を形成し、更にその上に文字、記号等のマーキングを施すことは、種々の分野でおこなわれている。例えば配線板等の配線板上には、配線の保護、部品実装時の短絡防止等のために、ソルダーレジスト等の被膜が形成され、この被膜上に、製品情報等を表示する文字、記号等が、マーキングされることがある(特許文献1参照)。また、基板等の製品におけるバーコードの表示、封止材に対する文字・記号等の表示などのためにも、被膜に文字、記号等が、マーキングされることがある。また、看板、ラベル、各種シート製品、各種フィルム製品、各種塗装製品等に、マーキングが施された被膜が設けられることがある。
【0003】
従来、被膜にマーキングを施す場合には、被膜の形成後に、マーキングだけのための工程を追加する必要がある。すなわち、例えば配線板上に被膜を形成してから、被膜上に、この被膜とは異なる色を有するマーキングペーストをスクリーン印刷等で塗布し、更にこのマーキングペーストを加熱する必要がある。このことは、配線板の製造効率の低下を招いてしまう。
【0004】
被膜形成とマーキングとを別個に行う必要があるのは、従来の被膜が単一色であるからである。」

b 「【発明の効果】
【00024】
本発明に係る被膜の製造方法によれば、露光後の塗膜を加熱すると、第一の部分内には、気泡が形成される。一方、露光時の露光量が第一の部分よりも低い第二の部分内には、加熱されても気泡は形成されず、或いは、気泡は形成されるが、この気泡の割合が第一の部分よりも低くなる。このため、被膜における第一の部分の硬化物の光透過性が、第二の部分の硬化物よりも低くなる。これにより、露光時の露光量を部分的に異ならせるだけで、被膜に互いに色の異なる領域を形成することができる。」

c 「【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施形態における被膜形成用組成物について説明する。
【0027】
被膜形成用組成物は、光重合性化合物、光重合開始剤、及び融点を有し且つ光重合性を有しない有機化合物(以下、特定有機化合物という)を含有する。
【0028】
本実施形態では、被膜を製造するにあたり、被膜形成用組成物からなる塗膜を形成し、続いてこの塗膜を露光し、続いて露光後の塗膜を加熱することで被膜を形成する。
【0029】
更に、本実施形態では、塗膜を形成した時点から、塗膜の露光が完了する時点までの間、塗膜の温度を、特定有機化合物の融点よりも低い温度に維持する。
【0030】
更に、本実施形態では、塗膜を露光するにあたり、塗膜における第一の部分に光を照射し、塗膜における第一の部分とは異なる第二の部分には光を照射せず或いは第一の部分よりも露光量が低くなるように光を照射する。
【0031】
尚、第一の部分における露光量は均一であってもよく、第一の部分内に互いに露光量の異なる複数の部分が存在してもよい。また、第二の部分に光を照射する場合、第二の部分における露光量は均一であってもよく、第二の部分内に互いに露光量の異なる複数の部分が存在してもよい。
【0032】
更に、本実施形態では、塗膜を加熱するにあたり、塗膜の加熱温度が、T_(h)≧T_(m)-30(但し、T_(h)(℃)は前記塗膜の前記加熱温度、T_(m)は、特定有機化合物の融点である)の関係を満たす。すなわち、塗膜を加熱する際の加熱温度が、特定有機化合物の融点から30℃を減じた温度以上である。換言すれば、特定有機化合物の融点が、塗膜を加熱する際の加熱温度に30℃を加えた温度以下である。
【0033】
このため、本実施形態では、露光後の塗膜を加熱すると、第一の部分内には、気泡が形成される。一方、第二の部分内には、加熱されても気泡は形成されず、或いは、気泡は形成されるが、この気泡の割合が第一の部分よりも低くなる。このため、被膜における第一の部分の硬化物(第一の領域)の光透過性が、第二の部分の硬化物(第二の領域)よりも低くなる。また、第一の領域では、第二の領域よりも光の散乱が生じやすくなる。このため、例えば被膜形成用組成物が着色剤を含有する場合には、第一の領域の外観色は主として着色剤の色となるのに対し、第二の領域の外観色は、着色剤の色と下地の色とが混合した色となる。また、被膜形成用組成物が着色剤を含有せず或いは着色剤を含有するがその割合が小さい場合には、第一の領域の外観色は、気泡による光散乱のせいで白色に見え、第二の領域は透明であって第二の領域を通して下地の色が透けて見える。従って、露光時の露光量を部分的に異ならせるだけで、被膜に互いに色の異なる領域を形成することができる。

・・・中略・・・

【0041】
特定有機化合物の融点が、100?230℃の範囲内であることが好ましい。この場合、被膜形成用組成物が充分に露光されてから加熱されると、被膜形成用組成物の硬化物中に、気泡が特に生成しやすくなり、且つ被膜形成用組成物の硬化物全体に対する気泡の割合が高くなりやすい。」


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「識別手段100の読取り方法」は,「物体を識別し認証することに適合される」ものであり,通常であれば,「識別手段100」は「物体」が備え,「物体」の「認証する」ために用いられるものと認められる。
また,引用発明の「識別手段100は,硬化された透明の混合物110と,一群の気泡120を含」むものであって,また,引用発明は,「識別手段100を拡散照明,直接照明にさらすことによって,」「識別手段100」の「気泡120の三次元レイアウトをデジタル写真装置200で読み取って検証するものであ」る。
してみると,引用発明は,「物体」が備える「識別手段100」の「気泡120の三次元レイアウト」を「デジタル写真装置200で読み取って」,その読み取った結果に基づいて,「物体」の「認証」の判断を行っているものと認められ,ここで,引用発明の「気泡120」は,「硬化された透明な混合物110」中に生じたものであり,人工的なメトリクス要素といえ,また,この「認証」の判断を行うために引用発明においては何らかの判定手段を備えているものと認められる。

イ したがって,引用発明の「物体」は,本願発明1の「被認証物」に相当し,また,引用発明の「識別手段100」と,本願発明1の「被認証物が備える皮膜」とは,後記の点で相違するものの,「被認証物が備える識別部」の点では共通する。
また,引用発明の「識別手段100は,硬化された透明の混合物110」「を含」むことと,本願発明1の「前記皮膜は、樹脂組成物の硬化物であ」ることは,後記の点で相違するものの,“前記識別部は、硬化物であ”ることの点では共通する。
そして,引用発明の「気泡120」は,上記アで検討したように人工的なメトリクス要素であり,「識別手段100」が「含」むものであって,また,空洞であることは明らかであり,さらに,「点模様状であってランダムに生成されている」ものであるから,引用発明の「気泡120」と,本願発明1の「被膜が有する人工物メトリクス要素」,及び「前記人工物メトリクス要素は、前記被膜部内の複数の空洞で構成され、かつ前記複数の空洞からなる点模様状のパターンであり、前記複数の空洞は、ランダムに配置されている」とは,後記の点で相違するもの,“識別部が有する人工物メトリクス要素”,及び“人工物メトリクス要素は,前記識別部内の複数の空洞で構成され,かつ前記複数の空洞からなる点模様状のパターンであり,前記複数の空洞は、ランダムに配置されている”点では共通する。
そして,引用発明の「デジタル写真装置200」と,本願発明1の「被認証物が備える被膜が有する人工物メトリクス要素を読み取る読取装置」とは,後記の点で相違するものの,“被認証物が備える識別部が有する人工物メトリクス要素を読み取る読取装置”の点では共通する。
さらに,引用発明の上記判定手段は,本願発明1の「前記人工物メトリクス要素を読み取った結果に基づいて、前記被認証物の認証の可否を判定する判定装置」に相当する。

ウ 引用発明の「デジタル写真装置200」は,「拡散照明,直接照明にさらされた識別手段100」の「気泡120」を「読取りまたは記録のための」ものであって,そのために光学的な撮影が行われていることは明らかであるから,本願発明1の「前記読取装置は、前記人工物メトリクス要素を撮像可能な光学的な撮像装置」に相当する。

エ 引用発明の「識別手段の読取り方法のための装置」は,「デジタル写真装置200」,上記判定手段を含み,「物体」を「認証」するものであるか,本願発明1の「認証システム」に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。

〈一致点〉
「被認証物が備える識別部が有する人工物メトリクス要素を読み取る読取装置と,
前記人工物メトリクス要素を読み取った結果に基づいて,前記被認証物の認証の可否を判定する判定装置と,を備え,
前記読取装置は,前記人工物メトリクス要素を撮像可能な光学的な撮像装置であり,
前記識別部は,硬化物であり,
前記人工物メトリクス要素は,前記識別部内の複数の空洞で構成され,かつ前記複数の空洞からなる点模様状のパターンであり,
前記複数の空洞は,ランダムに配置されている,
認証システム。」

〈相違点〉
「識別部」が,本願発明1では「皮膜」であって,「前記皮膜は、樹脂組成物の硬化物であり、前記樹脂組成物は、光重合開始剤(A)と、融点を有し、30℃において固形の有機化合物(B)と、一分子中に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(C)と、を含」むものであって,さらに,「前記被膜内」に「複数の空洞で構成され」るのに対し,引用発明では,識別手段であって,皮膜とは特定されておらず,硬化されているが,そのような組成の樹脂とは特定されていない点。

(2)相違点についての判断
気泡を含む透明な硬化物を樹脂組成物で形成することは周知の技術と認められる。
しかしながら,認証システムにおける樹脂組成物を,光重合開始剤(A)と,融点を有し,30℃において固形の有機化合物(B)と,一分子中に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(C)と,を含むものとすることまでが,周知の技術であったとは認められない。
したがって,本願発明1は,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし3について
本願発明2ないし3は,本願発明1を更に限定したものであるので,同様に,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明4について
本願発明4は,本願発明1の「認証システム」を「認証方法」の観点から記載したものに過ぎないことから,同様に,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本願発明5ないし12について
本願発明5ないし12は,本願発明1の上記相違点の発明特定事項と対応する「光重合開始剤(A)と、融点を有し、30℃において固形の有機化合物(B)と、一分子中に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(C)と、を含む樹脂組成物の塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を露光する露光工程と、露光した前記塗膜を加熱することで、内部に複数の空洞を含み、前記複数の空洞が人工物メトリクス要素を構成している皮膜を形成する加熱工程」という発明特定事項を備える「認証用の皮膜の製造方法」であるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて,容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 本願発明13について
本願発明13は,本願発明5の「認証用の被膜の製造方法」を「認証用の被膜」の観点から記載したものに過ぎないことから,同様に,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第7 原査定について
令和3年5月24日付けの補正により,補正後の請求項1は,「前記樹脂組成物は、光重合開始剤(A)と、融点を有し、30℃において固形の有機化合物(B)と、一分子中に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(C)と、を含」むという技術的事項を有するものとなった。認証用の被膜の樹脂組成物を,「前記樹脂組成物は、光重合開始剤(A)と、融点を有し、30℃において固形の有機化合物(B)と、一分子中に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(C)と、を含」ものとすることは,原査定における引用文献A,Bには記載されておらず,本願優先日前における周知技術でもないので,本願発明1-13は,当業者であっても,原査定における引用文献A,Bに基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-07-30 
出願番号 特願2016-91882(P2016-91882)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山澤 宏
篠原 功一
発明の名称 認証システム、認証方法、皮膜の製造方法、および皮膜  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  

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